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【事件名】類似“婦人服”の不正競争事件 【年月日】平成29年1月19日 大阪地裁 平成27年(ワ)第9648号 不正競争行為差止等請求事件(甲事件)、平成27年(ワ)第10930号 不正競争行為差止等請求事件(乙事件) (口頭弁論終結日 平成28年11月15日) 判決 原告 株式会社ジオン商事 同訴訟代理人弁護士 岩坪哲 同 速見禎 被告 玉一商店株式会社 同訴訟代理人弁護士 澁谷歩 主文 1 被告は、別紙被告商品目録記載1、同3の各商品を製造し、販売し、又は販売の申出をしてはならない。 2 被告は、別紙被告商品目録記載1、同3の各商品を廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、1084万1977円及び内金789万7488円に対する平成27年9月1日から、内金294万4489円に対する平成27年11月12日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用はこれを5分し、その2を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 6 この判決は、第3項に限り仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、別紙被告商品目録記載1ないし同3の各商品を製造し、販売し、又は販売の申出をしてはならない。 2 被告は、別紙被告商品目録記載1ないし同3の各商品を廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、1722万5759円及び内金1277万0759円に対する平成27年9月1日から、内金445万5000円に対する平成27年11月12日から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 本件のうち甲事件は、別紙原告商品目録記載1、同2の各商品(以下「原告商品1」、「原告商品2」という。)を製造、販売していた原告が、別紙被告商品目録記載1、同2の各商品(以下「被告商品1」、「被告商品2」という。)を製造販売する被告に対し、下記T、Uの請求をした事案であり、乙事件は、別紙原告商品目録記載3の商品(以下「原告商品3」という。)を製造、販売していた原告が、別紙被告商品目録記載3の商品(以下「被告商品3」という。)を製造販売する被告に対し、下記Vの請求をした事案である。 記 T 被告商品1の製造販売行為についての請求 被告商品1は原告商品1の形態を模倣した商品であり、その販売行為が不正競争防止法2条1項3号の不正競争に該当することを理由とする同法3条1項に基づく製造販売等の差止請求、同条2項に基づく廃棄請求のほか、同法4条に基づく790万6237円(弁護士費用損害71万8749円を含む。)の損害賠償請求及びこれに対する不法行為の後の日である平成27年9月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害請求 U 被告商品2の製造販売行為についての請求 @ 被告商品2は原告商品2の形態を模倣した商品であり、その販売行為が不正競争防止法2条1項3号の不正競争に該当することを理由とする同法3条1項に基づく製造販売等の差止請求、同条2項に基づく廃棄請求のほか、同法4条に基づく486万4522円(弁護士費用損害44万2229円を含む。)の損害賠償請求及びこれに対する不法行為の後の日である平成27年9月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求(主位的請求) A 被告商品2は著作物である原告商品2を複製又は翻案した商品であるとして、著作権(複製権又は翻案権)侵害を理由とする著作権法112条1項に基づく差止請求、同条2項に基づく廃棄請求のほか、著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として上記@と同額の損害賠償請求(第1次的予備的請求) B 被告商品2の製造販売行為が一般不法行為を構成することを理由とする、一般不法行為に基づく差止請求、廃棄請求のほか、損害賠償請求として上記@と同額の損害賠償請求(第2次的予備的請求) V 被告商品3の製造販売行為についての請求 @ 被告商品3は原告商品3の形態を模倣した商品であり、その販売行為が不正競争防止法2条1項3号の不正競争に該当することを理由とする同法3条1項に基づく製造販売等の差止請求、同条2項に基づく廃棄請求のほか、同法4条に基づく295万2937円(弁護士費用損害26万8448円を含む。)の損害賠償請求及びこれに対する不法行為の後の日である平成27年11月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求(主位的請求) A 被告商品3は著作物である原告商品3を複製又は翻案した商品であるとして、著作権(複製権又は翻案権)侵害を理由とする著作権法112条1項に基づく差止請求、同条2項に基づく廃棄請求のほか、著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として上記@と同額の損害賠償請求(第1次的予備的請求) B 被告商品3の製造販売行為が一般不法行為を構成することを理由とする、一般不法行為に基づく差止請求、廃棄請求のほか、損害賠償請求として上記@と同額の損害賠償請求(第2次的予備的請求) 1 判断の基礎となるべき事実(争いのない事実並びに各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実。なお、甲事件において提出された証拠を甲A、乙A、乙事件において提出された証拠を、甲B、乙Bと表記する。) (1) 当事者 ア 原告は、婦人用高級服飾品の製造及び販売を行う会社である。 イ 被告は、婦人服等の製造及び販売を行う会社である。 (2) 原告商品の販売 原告は、平成26年4月以降、原告商品1、同2を販売し、同年1月以降、同3を販売した。なお、原告商品1の小売価格は2万8000円又は3万円(いずれも税抜価格)、原告商品2のそれは1万9000円(税抜価格)、原告商品3のそれは2万4000円又は2万6000円(いずれも税抜価格)である。(甲A1、甲B1、甲B2) (3) 被告商品の販売 被告は、平成27年4月以降、被告商品1ないし同3を販売した。なお被告商品1、同2はアンサンブルとして販売され、その小売価格は1万円(税抜価格)である。また被告商品3は、ジャケットとのアンサンブルとして販売され、その小売価格は1万円(税抜価格)である。(甲A3、甲B2ないし甲B4) (4) 原告商品の外観 原告商品1の外観は別紙原告商品写真目録記載1のとおりであり、原告商品2の外観は別紙原告商品写真目録記載2のとおりであり、原告商品3の外観は別紙原告商品写真目録記載3のとおりである。 (5) 被告商品の外観 被告商品1の外観は別紙被告商品写真目録記載1のとおりであり、被告商品2の外観は別紙被告商品写真目録記載2のとおりであり、被告商品3の外観は別紙被告商品写真目録記載3のとおりである。 2 争点 (1) 被告商品1ないし同3は、原告商品1ないし同3をそれぞれ模倣した商品であるか。 (2) 被告商品2、同3による著作権侵害の成否 (3) 被告商品2、同3の販売行為が一般不法行為を構成するか。 (4) 損害の額 第3 当事者の主張 1 争点1(被告商品1ないし同3は、原告商品1ないし同3をそれぞれ模倣した商品であるか。)について (原告の主張) (1) 被告商品1ないし同3の各形態は、原告商品1ないし同3の各形態に依拠して作り出されたものであり、以下のとおり、各商品の形態は実質的に同一であるから、被告商品1ないし同3は、それぞれ原告商品1ないし同3の形態をそれぞれ模倣した商品であるといえる。 (2) 原告商品1と被告商品1の形態の実質的同一性について ア 原告商品1と被告商品1の形態の対比 (ア) 原告商品1の形態の構成は、別紙対比表1の原告商品1の形態欄記載のとおりであり、被告商品1の形態の構成は、別紙対比表1の被告商品1の形態欄記載のとおりである。 (イ) 被告商品1の形態a1ないしa4は、原告商品1の形態A1ないしA4と同一である。 (ウ) したがって、原告商品1と被告商品1の形態は実質的に同一であり、被告商品1は原告商品1の形態を模倣したものといえる。 イ 被告主張に対する反論 (ア) 原告商品1と被告商品1のボタンの色の違いについては、「ブラウスの生地とほぼ同色」という観点からすれば、むしろその特徴は同一といえるし、ボタンの柄や窪みの有無についても、ブラウス全体の形態の中でまさに微細な差異というしかなく、広告宣伝の場面でも各商品の特徴として全く挙げられていない微差にすぎない。 (イ) 原告商品1は黒色、オフホワイト、ピンク及びブルーの4色で展開しており、原告商品1にはベージュ色に近いオフホワイトのものも含まれる。被告商品1がベージュ色をしていることから、原告商品1と顕著な相違があるとはいえない。 (3) 原告商品2と被告商品2の形態の実質的同一性について ア 原告商品2と被告商品2の形態の対比 (ア) 原告商品2の形態の構成は、別紙対比表2の原告商品2の形態欄記載のとおりであり、被告商品2の形態の構成は、別紙対比表2の被告商品2の形態欄記載のとおりである。 (イ) 原告商品2と被告商品2の形態は、以下の点で共通している。 a 袖はノースリーブであり、裾部分は左右にスリットが入っている点。 b 全体が単色の生地で構成され、色がオフホワイトである点。 c 胸部分には、以下のとおり広範囲にわたって花柄の刺繍が施されている点。 (a) 花柄の刺繍は5輪の花及び花周辺に配置された13枚の葉からなる点。 (b) 5輪の花のうち2輪が比較的大きく、刺繍中央部に正面視、左右に1輪ずつ配されている点(正面視右側の花を「花@」、正面視左側の花を「花A」という)。 (c) 他の3輪は比較的小さく、花@の正面視右上方に1輪(以下、「花B」という。)、花Aの正面視左上方に1輪(以下、「花C」という。)、花@とAが接する点の正面視下方に1輪(以下、「花D」という。)が配されている点。 (d) 花の輪郭はチェーンステッチ風に刺繍されており、花@及び花Aの花びら部分は変形ステッチで刺繍されている点。 (e) 花Bないし花Dの花びら部分はメッシュ状のステッチで刺繍されている点。 (f) 葉は、花Bの周囲に5枚が、花@の正面視下方に2枚が、花@と花Aが接する点の正面視上方に1枚が、花Aの正面視下方に2枚が、花Aと花Cが接する点の正面視上方に1枚が、花Cの正面視左方に2枚が配されている点。葉はいずれもロング&ショートステッチで刺繍されている。刺繍糸の色は生地と同色である点。 (ウ) 原告商品2と被告商品2の形態は、以下の点で相違している。 a ネックラインが、原告商品2は丸みを帯びたスクエア型であるのに対し、被告商品2は丸首型である点。また、原告商品2は、両脇下にダーツが取られているのに対し、被告商品2はダーツが取られていない点。 b 原告商品2は、大部分が単色無地の生地で構成され、襟首の直下が同色のレース生地で切り替えがされているのに対し、被告商品2は切り替えがなく、全体が単色無地の同一生地で構成されている点。 (エ) 検討 原告商品2のシルエット自体は、女性用のランニングとして比較的一般的なものであって、ほぼ唯一の装飾である胸部分に大きく展開された花柄刺繍が重要な特徴点である。また、胸部分の刺繍は、オリジナルのデザインであり創作性が高い。 一方、両ランニングのシルエットに関する相違点を見ると、脇下にダーツがある形状も、ダーツがない形状もいずれもごく一般的なものであって、原告商品2のダーツがある形状を被告商品2のようにダーツがない形状とすることは着想が極めて容易であり、改変の程度は乏しい。また、ネックラインが原告商品2のように丸みを帯びたスクエア型である形状も、被告商品2のように丸首型である形状も、いずれもごく一般的な形状であって、改変の着想は極めて容易であり、改変の程度は乏しい。 さらに、両ランニングの生地に関する相違点を見ると、原告商品2のように、生地の一部を同色のレース生地に切り替える構成も、被告商品2のように切り替えがなく全体が同一の生地である構成も、いずれもごく一般的なものであって、原告商品2の生地を被告商品2のようにする着想は極めて容易であり、改変の程度は乏しい。 以上のとおり、原告商品2と被告商品2は、胸部分の花柄刺繍という創作性の高い原告商品2における特徴的形態において共通している一方、ダーツの有無、ネックラインの種類、生地の切り替えの有無という、いずれもありふれた形状において異なるにすぎず、さらに、ダーツがあるものをなくしたり、生地の切り替えがあるものをなくしたり、ネックラインをポピュラーな幾つかのパターンの中で置換するなどは、着想が極めて容易であり、改変の程度も乏しく、創作的な要素も皆無である。 また、被告商品2の改変は、単に原告商品2の形状を省略するだけのものであって新たなデザインを生み出したり、創作性を発揮したりするものではない。 したがって、原告商品2と被告商品2の形態は実質的に同一であり、被告商品2は原告商品2の形態を模倣したものといえる。 ウ 原告商品3と被告商品3について (ア) 原告商品3の形態の構成は、別紙対比表3の原告商品3の形態欄記載のとおりであり、被告商品3の形態の構成は、別紙対比表3の被告商品3の形態欄記載のとおりである。 (イ) 原告商品3と被告商品3の形態は、以下の点で共通している。 a チュニック丈のTシャツである点。 b 黒地の上に白色の横縞柄を配した以下の3段階のボーダー柄で構成される点。 (a) 身頃部分の肩部から胸部及び袖部の上部は、黒地上に、約30〜32mm程度の間隔で幅約9mm程度の白色の横縞柄が6本配されている点 (b) 身頃部分の胸部から腹部は、黒地上に、約9〜10mm程度の間隔で幅約5〜6mm程度の白色の横縞柄が10本配されている点 (c) 身頃部分の裾部は、黒地上に、約37〜38mm程度の間隔で幅約38〜40mm程度の白色の横縞柄が3本配されている点。 (d) 胸部分には、つる部分に2枚の葉をつる部分から僅かに離間させて左右に各1枚あしらった黒色のりんごのデザインが付されている点。りんごの大きさは、高さ(つるの先端からりんごの下端まで)が約150mm程度、幅が約106〜109mm程度である点。りんごの大部分には、チュールのテープによるコード刺繍で一見ばらの花弁のような柄が配置され、向かって右端部の一部分は花のような形でチュールが配置されていない欠けた部分がある点。欠けた部分の大きさは、高さが約55〜58mm程度、幅が約39〜40mm程度である点。りんご柄の周囲には、りんご柄に沿うように多数のラインストーンが、りんご柄から直近の2列分はりんご柄を取り囲むように2列分密に配置され、3列目以降はややばらついた印象となるように列数や間隔を変えて配置されている。ラインストーンが配置されている範囲は、高さが約180〜187mm程度、幅が約154〜158mm程度である点。 (ウ) 原告商品3と被告商品3の形態は、以下の点で相違している。 a 原告商品3は長袖であるのに対し、被告商品3は半袖である点。 b 被告商品3が半袖であることに伴い、袖部分には上記(イ)b(b)、(c)のボーダー柄がない点。なお、ボーダー柄の幅及び間隔に微細な違いはあるが、相違点として認めるほどの差異はない。 c りんごの大部分に重ねられたチュールのコード刺繍の粗密が被告商品3においては原告商品3と比較してやや粗い点。なお、りんご柄の大きさに微細な違いはあるが、相違点として認めるほどの差異はない。 d 原告商品3にはロゴがあるが、被告商品3にはない点。 (エ) 検討 原告商品3のデザインの特徴点は、3段階に区分されたボーダー柄と胸部分に大きく配置されたりんご柄のデザインである。りんご柄のデザインの下に配された「Chamois」というロゴは、3段階に区分されたボーダー柄と胸部分に大きく配置されたりんご柄のデザインと比較して、原告商品3の形態上の特徴点として需要者の目を惹く力は弱い。 そして原告商品3と被告商品3は、長袖と半袖の違いはあるものの、全体のシルエットが共通し、さらに、3段階に区分されたボーダー柄という生地の構成及びりんご柄のデザインという原告商品3の重要な特徴点がいずれも同一ないし酷似しているし、原告商品3のりんご柄はオリジナルのデザインであり、創作性が高いから、被告商品3は、原告商品3の重要な特徴点において共通している。 他方、原告商品3が長袖で被告商品3が半袖という相違があるが、この点は、袖丈の違いという機能上の差異にすぎず、改変の程度も乏しい。また、袖丈の違いに伴う袖部分のボーダー柄の表出の仕方の違いも、長袖と半袖という機能上の差異から生じる当然の相違点にすぎない。ボーダー柄の間隔や幅、りんご柄のサイズの微妙な違い等は、両商品の実質的同一形態を否定する材料として考慮に値しない。 そのほか原告商品3と被告商品3は、りんご柄に重ねられているチュールのコード刺繍の粗密にやや差があるが、形状や素材という具体的なデザイン形態は完全に模倣されたもので、両商品の差は単に材質をやや粗悪にしたことに伴うものにすぎず、具体的な形態の差異とはいえない。 原告商品3には「Chamois」というブランドロゴがあり、被告商品3にはブランドロゴがないが、原告商品のロゴは背景となるボーダー柄生地と一体的に溶け込んでいるため読みにくいものとなっており、原告商品3の形態上の特徴点として需要者の目を惹く力は弱いから、被告商品3に異なる形態上の特徴をもたらさない。また、Tシャツにおいて、ロゴをなくすというのは、改変と言えない程度の極めて安易な着想にすぎず、被告商品3に新たな形態上の特徴を与えることはない。 以上のとおり、原告商品3と被告商品3の共通点は、創作性の高い原告商品3の特徴的部分にあるのに対し、原告商品3と被告商品3の相違点は原告商品3の重要な特徴点とはいえない部分にあり、いずれも改変の着想が容易な、ありふれた改変にすぎないから、原告商品3と被告商品3の形態は酷似し、実質的に同一であり、被告商品3は原告商品3の形態を模倣したものといえる。 (被告の主張) (1) 被告商品1ないし同3の各形態は、原告商品1ないし同3の各形態に依拠して作り出されたものではなく、各商品の形態は以下のとおり実質的に同一ではないから、被告商品1ないし同3は、それぞれ原告商品1ないし同3の各形態を模倣した商品ではない。 (2) 原告商品1と被告商品1の形態の実質的同一性について 原告主張に係る原告商品1の形態の構成については素材及び生地の点を除き認め、被告商品1の形態の構成について認めるが、原告商品1と被告商品1とは、@色彩(黒色とベージュ色)、A生地の透け感、Bボタンのデザイン(原告商品1のボタンは黒、柄はなく、等間隔に窪みがあるのに対し、被告商品1のボタンは、ベージュ色に柄があり、窪み等はない)の点で異なり、実質的に同一の形態であるとはいえない。 (3) 原告商品2と被告商品2の形態の実質的同一性について ア 原告主張に係る原告商品2及び被告商品2の形態の構成については否認ないし争う。イ 原告商品2と被告商品2は、@色彩(黄色とベージュ色)、Aネックラインの形状(スクエア型と丸首型)、A両脇下のダーツの有無、B襟首下のレース生地の切り替え部分の有無という相違点がある。また、原告は、胸部の花柄刺繍を重要な特徴点と主張するが、婦人向けの衣類において花柄の刺繍はそれほど特徴的なものではないし、刺繍自体にも、花の輪郭部分の強調の有無という点に一見してわかる相違点がある。そうすると、これらの諸点を考慮すると、原告商品2と被告商品2の形態が実質的に同一であるとはいえない。 (4) 原告商品3と被告商品3について ア 原告主張に係る原告商品3及び被告商品3の形態の構成については否認ないし争う。イ 原告商品3と被告商品3は、@長袖と半袖の違い及びこれに伴う袖部分のボーダー柄の有無、Aボーダー柄の幅及び間隔、Bりんご柄の大きさ、Cりんご柄に重なる刺繍の粗密、Dりんご柄部分がボーダー柄になっているか否か、Eりんご柄下の「Chamois」というロゴの有無の点で相違する。また、原告は、ボーダー柄とりんご柄のデザインを重要な特徴点と主張するが、衣類、特にTシャツにおいてはモノトーンのボーダー柄も、りんごを模した絵柄についてもそれほど特徴的なものではなく、かつ、ボーダー柄には幅や間隔という点、りんご柄に関してはその大きさに加え、「Chamois」のロゴの有無といった一見してわかる相違点がある。そうすると、これらの諸点を考慮すると、原告商品3と被告商品3の形態は実質的に同一であるとはいえない。 2 争点2(被告商品2、同3による著作権侵害の成否)について (原告の主張) ア 原告商品2、同3の著作物性 原告商品2については、花柄刺繍のデザイン部分が単体で、又は、その部分も含めた原告商品2全体のデザインが著作物である。 原告商品3については、りんご柄デザイン部分が単体で、又は、その部分も含めた原告商品3全体のデザインが著作物である。 原告商品2、同3のデザインは、原告デザイナーがオリジナルで製作したものであり、作成者の個性が発揮されたものであるから、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)に該当し、著作物性を有する。 以上の原告商品2、同3のデザインは、衣服という実用品に用いるものであるから、いわゆる「応用美術」に該当するが、「応用美術」であることをもって、他の著作物と比較してより高度な著作物性(創作性)が要求されるわけではない。 イ 被告商品2、同3による著作権(複製権又は翻案権)侵害 被告は、原告商品2に依拠して被告商品2のデザインをし、原告商品3に依拠して被告商品3のデザインをしたものであり、各商品のデザイン(形態)が酷似していることは争点1で主張したとおりである。 したがって、被告商品2、同3は、それぞれ原告商品2、同3の著作権(複製権ないし翻案権)を侵害して制作された商品である。 (被告の主張) ア 原告商品2、同3の著作物性 原告商品2、同3のデザインは、応用美術に該当するものであるところ、これらを純粋美術と同視すべき事情はないことから、著作物とはいえない。 イ 被告商品2、同3による著作権(複製権又は翻案権)侵害 原告の主張は争う。 (3) 被告商品2、同3の販売行為が一般不法行為を構成するか。 (原告の主張) 原告は、商品のデザインを制作するためにデザイナーを雇用するなどし、商品化のために資金・労力を投下し、新たなデザインの制作に努めている。 被告が、原告商品2、同3のデザインを完全にコピーして酷似した被告商品2、同3を製造販売する行為は、取引における公正かつ自由な競争として許されている範囲を甚だしく逸脱し、法的保護に値する原告の営業の利益を侵害するものである。 とりわけ、被告は、原告販売に係る商品のデザインをターゲットとして繰り返し模倣行為を行っているのであるから、かかる行為は不正競争行為や著作権侵害行為に該当しないとしても一般不法行為を構成するというべきである。 (被告の主張) 原告の主張は争う。 (4) 損害の額 (原告の主張) ア 被告商品1の製造販売による損害について (ア) 原告商品1の1着当たりの売上金額は●(省略)●であるから、原告の受ける利益の額は5834円である。 (イ) 被告は、平成27年3月から同年8月頃までの間に、少なくとも被告商品1を1232着販売した。 (ウ) したがって、被告による被告商品1の販売によって原告に生じた損害の額は、不正競争防止法5条1項の適用により、少なくとも上記(ア)の原告の受ける利益の額5834円に上記(イ)の被告商品1の販売数量1232着を乗じた額である718万7488円である。 (エ) 被告の不正競争と因果関係のある弁護士費用相当の損害額は71万8749円を下らない。 イ 被告商品2の製造販売による損害について (ア) 原告商品2の1着当たりの売上金額は●(省略)●であるから、原告の受ける利益の額は3917円である。 (イ) 被告は、平成27年3月ないし同年8月頃までの間に、少なくとも被告商品2を1129着販売した。 (ウ) したがって、被告による被告商品2の製造販売によって原告に生じた損害の額は、少なくとも上記(ア)の原告の受ける利益の額3917円に上記(イ)の被告商品2の販売数量1129着を乗じた額である442万2293円である(被告の行為が不正競争を構成する場合は不正競争防止法5条1項の適用により、著作権侵害を構成する場合は著作権法114条1項の適用による。)。 (エ) 被告の行為(不正競争、著作権侵害又は一般不法行為)と因果関係のある弁護士費用相当の損害額は44万2229円を下らない。 ウ 被告商品3の製造販売による損害について (ア) 原告商品3の1着当たりの売上金額は●(省略)●であるから、原告の受ける利益の額は6901円である。 (イ) 被告は、平成27年5月14日から同年6月12日までの間に、少なくとも被告商品3を389枚販売した。 (ウ) したがって、被告による被告商品3の製造販売によって原告に生じた損害の額は、少なくとも上記(ア)の原告の受ける利益の額6901円に上記(イ)の被告商品3の販売数量389着を乗じた額である268万4489円である(被告の行為が不正競争を構成する場合は不正競争防止法5条1項の適用により、著作権侵害を構成する場合は著作権法114条1項の適用による。)。 (エ) 被告の行為(不正競争、著作権侵害又は一般不法行為)と因果関係のある弁護士費用相当の損害額は26万8448円を下らない。 エ 販売時期に関する被告の主張について 原告商品1ないし同3は、いずれも被告商品1ないし同3の販売が開始された後も販売されていたから、被告商品1ないし同3が原告商品1ないし同3の販売期間終了後のシーズンに販売されたものではない。また、原告は、被告商品1ないし同3の販売開始後に、原告商品1ないし同3を追加的に販売することができたから、被告商品の販売開始時期が原告商品のそれより1年遅れたからといって、被告商品の製造販売と原告の損害との間に因果関係がないことにならない。 (被告の主張) ア 被告が、被告商品1ないし同3を販売したことは認めるが、その余の原告の主張は否認ないし争う。 イ 被告商品1ないし同3は、原告商品1ないし同3の販売終了後に販売されたものであるから、被告商品の製造販売と原告の損害との間に因果関係はない。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(被告商品1ないし同3は、原告商品1ないし同3をそれぞれ模倣した商品であるか。)について (1) 被告商品1について ア 証拠(甲A7)及び弁論の全趣旨によれば、原告商品1及び被告商品1を正面視した、それぞれの形態は、別紙対比表1(認定)の各該当欄記載のとおりであり、原告商品1と被告商品1を正面視した形態の共通点、相違点は次のとおり認められる。 (ア) 原告商品1と被告商品1を正面視した形態の共通点 原告商品1と被告商品1は、@前ボタン式で丸首襟の形状をしており、全体に透け感のある素材で構成されている点、A前身頃のボタン部の左右部分に、縦方向に一定幅で区切られた範囲において、ハシゴ状柄のレース生地が用いられ、上下にわたって一定間隔で、水平方向の開口部を有している点、B前身頃の上記Aのデザイン部の外側(腕側)部分は、2種類の花柄の刺繍が施されており、裾部分は同質素材であるものの刺繍のないデザインに切り替えられ、縦向きにタックがとられている点、C袖口部分に上記Bの前身頃部分と同様のレース生地の花柄が使用されている点で共通である。 (イ) 原告商品1と被告商品1を正面視した形態の相違点 原告商品1と被告商品1は、@原告商品1の方が被告商品1より生地の透け感が高く、A原告商品1のボタンは黒色で柄はなく、等間隔に窪みがあるのに対し、被告商品1のボタンは、ベージュ色に柄があり、窪み等はない点、B原告商品1は黒色なのに対し、被告商品1はベージュ色である点で相違している。 イ 以上により検討するに、両商品は、@丸首襟の形状をしていること、A前身頃のボタン部の左右部分に、縦方向に一定幅で区切られた範囲においてハシゴ状柄のレース生地が用いられ上下にわたって一定間隔で水平方向の開口部がある部分が設けられていること、Bその外側部分及び袖口部分には二種類の花柄の刺繍が交互に施されているのに袖部分及び裾部分には刺繍が施されていないという組み合わせとなっているという、両商品の特徴をなす点で正面視した形態が共通している。そして、両商品を背面視した形態はほぼ同一であるから、両商品は商品全体の形態が酷似し、その形態が実質的に同一であるものと認められる。 もっとも、原告商品1と被告商品1には、前記のような相違点が認められるが、これらはいずれも商品全体を特徴付ける形態とかかわりがなく、また、相違点に係るデザインは、この種の部位のデザイン手法としては、いずれもごくありふれたものである。そのため、これら相違点は、わずかな改変に基づくもので商品の全体的形態に与える変化が乏しく、商品全体から見てささいな相違にとどまるものと認められるから、被告商品1の形態が原告商品1の形態と実質的に同一であるとの上記判断に影響を及ぼすものではないというべきである。 ウ そして、このように被告商品1と原告商品1の形態が実質的に同一であるといえることのほか、被告商品1の販売開始時期が原告商品1の販売開始時期にほぼ1年遅れることに加え、被告が被告商品1の形態を独自に作り出したとの主張立証をしているわけではないことからすると、被告商品1の形態は原告商品1に依拠して作り出されたものと認められる。 エ したがって、被告商品1は、原告商品1を模倣した商品というべきである。 (2) 被告商品2について ア 証拠(甲A7)及び弁論の全趣旨によれば、原告商品2及び被告商品2を正面視した形態は、別紙対比表2(認定)の各該当欄記載のとおりであり、原告商品2と被告商品2を正面視した形態の共通点、相違点は次のとおり認められる。 (ア) 原告商品2と被告商品2を正面視した形態の共通点 原告商品2及び被告商品2は、@袖がノースリーブであり、裾部分には左右にスリットが入っている点、A全体が単色の生地で構成され、胸部分には、広範囲にわたって本体と同色の花柄の刺繍(大きさの異なる5輪の花及び花周辺に配置された13枚の葉)が施されている点、Bその花柄の刺繍の5輪の花及び葉の大きさや位置関係並びに花弁部分及び葉に施されたステッチの種類がほぼ同一である。 (イ) 原告商品2と被告商品2を正面視した形態の相違点 原告商品2と被告商品2は、@ネックラインが、原告商品2は角部で丸みを帯びたスクエア型であるのに対し、被告商品2は通常の丸首型である点、A原告商品2は、両脇下にダーツが取られているのに対し、被告商品2にはダーツが取られていない点、B原告商品2は、前身頃と後身頃の生地が正面から見える前肩部分で目立つように縫い合わされているのに対し、被告商品2はそのような仕上げがされていない点、C原告商品2は、襟首の直下に、本体と同色のレース生地での切り替え部分が設けられているのに対し、被告商品2は同切り替え部分がない点、D原告商品2は黄色であるが、被告商品2はベージュ色である点で相違している。 イ 以上により検討するに、原告商品2と被告商品2の正面視した形態は、いずれもノースリーブであり、その胸部分に花柄の刺繍が施されている点で形態全体が似ており、とりわけ花柄の刺繍部分などは同一であって被告商品2の形態が原告商品2に依拠して作られたことを容易にうかがわせるものであるが、商品正面の目立つ場所に集中している、ネックラインの形状、前身頃と後身頃の縫い合わせの仕上げの仕方、さらには襟首直下のレース生地による切り替え部分の有無で相違している。 そして、これらの相違点は、ありふれた形態であるノースリーブのランニングシャツの全体的形態に変化を与えており、およそ両商品を対比してみたときに商品全体から見てささいな相違にとどまるものとは認められないから、両商品を背面視した形態が同一であることを考慮したとしても、被告商品2の形態は原告商品2の形態に酷似しているとはいえず、両商品の形態は実質的に同一であるということはできない。 (3) 原告商品3と被告商品3 ア 証拠(甲B8、甲B9)及び弁論の全趣旨によれば、原告商品3及び被告商品3を正面視した形態は、別紙対比表3(認定)の各該当欄記載のとおりであり、原告商品3と被告商品3を正面視した形態の共通点、相違点は次のとおり認められる。 (ア) 原告商品3と被告商品3を正面視した形態の共通点 原告商品3及び被告商品3は、いずれも@チュニック丈のTシャツであり、A黒色と白色を交互に繰り返す横縞を配したボーダー柄で構成されており、Bボーダー柄は、@身頃部分の肩部から胸部及び袖部の上部においては、幅約30ないし32mm程度の黒色の横縞と幅約9mm程度の白色の横縞の柄が繰り返され(以下「第1横縞部分」という。)、A身頃部分の胸部から腹部においては、幅約9ないし10mm程度の黒色の横縞と幅約5ないし6mm程度の白色の横縞が繰り返され(以下「第2横縞部分」という。)、B身頃部分の裾部には、幅約37ないし38mm程度の黒色の横縞と幅約38ないし40mm程度の白色の横縞が繰り返されている(以下「第3横縞部分」という。)点、C胸部分には、つる部分に2枚の葉をつる部分から僅かに離間させて左右に各1枚あしらった黒色のりんごの柄(りんごの大きさは、高さ(つるの先端からりんごの下端まで)が約150mm程度、幅が約106ないし109mm程度であり、りんごの大部分には、チュールのテープによるコード刺繍が配置され、向かって右端部の一部分は花のような形でチュールが配置されていない上下約55ないし58mm、幅約39ないし40mmの欠けた部分がある)が配されている点、Dそのりんご柄の周囲には、りんご柄に沿うように多数のラインストーンが、上下約180ないし187mm、幅約154ないし158mmの範囲において、りんご柄から直近の2列分はりんご柄を取り囲むように2列分密に配置され、3列目以降はややばらついた印象となるように列数や間隔を変えて配置されている)が施されている点で共通する。 (イ) 原告商品3と被告商品3を正面視した形態の相違点 原告商品3と被告商品3は、@原告商品3が長袖であるのに対し、被告商品3が半袖であり、これに伴い、被告商品3の袖部分には、身頃部分と同じ黒色と白色の横縞の繰り返しがない点、A原告商品3は、肩口が黒色だけであるのに対し、被告商品3は肩口に白色の横縞がある点、B原告商品3と被告商品3は肩口の処理が異なるため、それに伴って原告商品3の方が低い位置まで第1横縞部分が及び、そのため原告商品3では、りんご部分の下側の少しだけが第2横縞部分に及んでいるが、被告商品3では、より多くの部分が第2横縞部分に及んでいる点、Dりんごの大部分に重ねられたチュールのコード刺繍が、被告商品3の方が原告商品3より粗く、原告商品3においては、りんご部分と重なり合う白色の横縞部分がほとんど見えないのに対し、被告商品3においては、りんご部分と重なり合う白色の横縞部分は透けて見える点、E原告商品3にはりんご部分の下部に「Chamois」とのロゴがあるが、被告商品3にはない点で相違する。 イ 以上により検討するに、原告商品3と被告商品3は、@商品全体に黒色と白色の横縞が繰り返されているだけでなく、第1横縞部分、第2横縞部分、第3横縞部分という特徴的な繰り返しパターンがほぼ同様に施されている点、A前身頃に類似するデザインの大きなりんごの柄がほぼ同じ手法で施されている点、Bそのりんご部分を縁取りするようにラインストーンが同じパターンで配されている点で形態が共通しており、これらの特徴的部分で正面視した形態がほぼ同一である。そして、両商品を背面視した形態もほぼ同一であるから、両商品は商品全体の形態が酷似し、その形態が実質的に同一であるものと認められる。 なお、原告商品3と被告商品3は、前記ア(イ)のような相違点が多く認められるが、衣服において長袖を半袖にする改変は極めて容易な改変であるし、横縞の本数をごくわずかに変えたなどの相違も、商品全体に及ぶ横縞の繰り返しパターンをほぼそのままになされた改変であって、わずかな改変であるといえる。そして、その改変の結果もたらされるりんご部分との位置関係への影響などについても、商品の全体的形態に与える変化が乏しく、商品全体から見るとささいな相違にとどまるというべきである。 また、りんごと重なり合う白色の横縞部分が透けて見えるか否かの相違点や、りんご部分の下部のロゴの有無などの相違点も、個別に見れば明確な相違点として認識できるものではあるが、下地の白色の横縞部分が透けているのはりんご部分が粗く作られた結果にすぎないともいえるし、またロゴの付加などはありふれたデザイン手法であるから、これらを上記相違点と併せて考えても、黒色と白色の横縞を3段階の繰り返しパターンで用いその上胸部に大きなりんごの柄を施すという原告商品3と被告商品3の基本的特徴の共通性との比較においては、やはり商品の全体的形態に与える変化が乏しく、商品全体から見てささいな相違にとどまるものと認められるから、被告商品3の形態が原告商品3の形態と実質的に同一であるとの上記判断に影響を及ぼすものではないというべきである。 ウ そして、このように被告商品3と原告商品3の形態が実質的に同一であるといえることのほか、被告商品3の販売開始時期が原告商品3の販売開始時期にほぼ1年遅れることに加え、被告が被告商品3の形態を独自に作り出したとの主張立証をしているわけではないことからすると、被告商品3の形態は原告商品3に依拠して作り出されたものと認められる。 エ したがって、被告商品3は、原告商品3を模倣した商品というべきである。 2 争点2(被告商品2、同3による著作権侵害の成否)について (1) 原告は、被告商品2が原告商品2の形態を模倣した商品といえないとしても、原告商品2の花柄刺繍部分、及び、同部分を含む原告商品2全体のデザインは著作物であり、被告商品2は原告商品2を複製ないし翻案したものであるから、著作権(複製権ないし翻案権)侵害が認められるように主張する。 (2) 証拠(甲A8)によれば、原告商品2の花柄刺繍部分のデザインは、衣服に刺繍の装飾を付加するために制作された図案に由来するものと認められ、また同部分を含む原告商品2全体のデザインも、衣服向けに制作された図案に由来することは明らかであるから、これらは美的創作物として見た場合、いわゆる応用美術と位置付けられるものである。 ところで著作権法は、文化の発展に寄与することを目的とするものであり(1条)、その保護対象である著作物につき、同法2条1項1号は「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」旨を規定し、同条2項は「この法律にいう『美術の著作物』には、美術工芸品を含むものとする」旨規定している。その一方で、美術工芸品が含まれ得る実用に供され、産業上利用することのできる意匠については、別途、意匠法において、同法所定の要件の下で意匠権として保護を受けることができるとされている。そうすると、純粋美術ではない、いわゆる応用美術とされる、実用に供され、産業上利用される製品のデザイン等は、実用的な機能を離れて見た場合に、それが美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えている場合に初めて著作権法上の「美術の著作物」として著作物に含まれ得るものと解するのが相当である。 (3) 以上を踏まえて原告商品2についてみると、原告商品2の花柄刺繍部分の花柄のデザインは、それ自体、美的創作物といえるが、5輪の花及び花の周辺に配置された13枚の葉からなるそのデザインは婦人向けの衣服に頻用される花柄模様の一つのデザインという以上の印象を与えるものではなく、少なくとも衣服に付加されるデザインであることを離れ、独立して美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない。また、同部分を含む原告商品2全体のデザインについて見ても、その形状が創作活動の結果生み出されたことは肯定できるとしても、両脇にダーツがとられ、スクエア型のネックラインを有し、襟首直下にレース生地の刺繍を有するというランニングシャツの形状は、専ら衣服という実用的機能に即してなされたデザインそのものというべきであり、前記のような花柄刺繍部分を含め、原告商品2を全体としてみても、実用的機能を離れて独立した美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない。 したがって、原告商品2は、著作権法2条1項1号にいう「著作物」と認められないから、原告商品2が著作物であり著作権が認められることを前提として著作権侵害をいう原告の主張が採用できないことは明らかである。 3 争点3(被告商品2、同3の販売行為が一般不法行為を構成するか。)について 原告は、被告商品2が原告商品2の模倣品とは認められず、また著作権侵害が認められないとしても、被告が原告販売商品に係るデザインをターゲットとして繰り返し模倣行為を行っているから、かかる行為は一般不法行為を構成する旨主張する。 しかし、被告商品2の製造販売行為が不正競争防止法上も著作権法上も違法とされないことは既に説示してきたとおりであるから、同じ行為について民法上の一般不法行為責任が認められるというためには、著作権法や不正競争防止法が規律の対象とする著作物や商品の形態の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情が認められる必要がある。 そうしたところ、原告は、被告が、原告商品2のデザインをコピーして酷似した商品を製造販売したことを主張するが、不正競争防止法又は著作権の保護法益とは異なる法益侵害の事実を主張するものではないことから、上記説示したところに照らし、この主張が失当であることは明らかである。 また原告は、被告が原告販売に係る商品のデザインをターゲットとして繰り返し模倣行為を行っていることを指摘するところ、確かに本件で対象とした被告商品1ないし同3については、それぞれ原告商品1ないし同3のデザインに依拠してデザイン制作がされたことは認められ、しかもそれがほぼ同時期になされた事実が認められる。 しかし、証拠(甲A3、甲A10の1の1ないし6)によれば、原告及び被告とも、もっと多種多様の商品を毎年販売している様子がうかがえるから、これらに比較すると本件で問題とする商品の占める割合はごく僅かであって、これだけでは、個別の商品ごとの関係での模倣行為等を問題とすることができたとしても、これを超えて被告が原告販売に係る商品のデザインをターゲットとして繰り返し模倣行為を行っているとして被告の営業行為全般への違法評価まで及ぼすことはできないというべきである。 したがって、被告商品2の製造販売行為が一般不法行為を構成するとする原告の主張は、その余の判断に及ぶまでもなく理由がない。 4 小括 (1) 以上によれば、被告による被告商品1、同3の販売行為は、不正競争防止法2条1項3号の形態模倣行為と認められることから、製造、販売及び販売の申出行為の差止め及びこれらの商品の廃棄請求には理由があり、また被告が原告商品1、同3を模倣して被告商品1、同3を制作したものである以上、少なくとも過失があることは明らかであるから、被告は、後記5で認定する原告に生じた損害を賠償する責任を負うことになる(なお被告は、被告商品1、同3の返品を受け在庫として保有していた旨を認めながら、既に保有していないと主張するが、在庫品が処分された事実関係を具体的に明らかにしているわけではないから、廃棄請求はなお理由があるというべきである。)。 (2) 他方、被告商品2の販売等の行為は、不正競争防止法2条1項3号該当の不正競争行為、著作権侵害行為及び一般不法行為のいずれにも該当しないことから、同行為の差止請求、被告商品2の廃棄請求、及び損害賠償請求にはいずれも理由がないというべきである。 5 争点4(損害の額)について (1) 被告商品1の販売による損害について ア 証拠(甲A12)及び弁論の全趣旨によれば、原告商品1の1着当たりの売上金額は●(省略)●であるから、原告の受ける利益の額は5834円であると認められる。 イ 証拠(甲A11)によれば、被告は、平成27年3月から同年8月頃までの間に、少なくとも被告商品1を1232着販売した事実が認められる。 ウ 原告は、不正競争を理由とする損害賠償については、不正競争防止法5条1項の適用を前提とする損害額を主張しているところ、弁論の全趣旨によれば、原告が被告商品1の販売期間中、同商品と同数の原告商品1を製造販売することは原告の能力を超えないと認めることができるから、上記アで認定した原告商品1の販売による利益の額に、上記イで認定した被告商品1の販売数量を乗じた額である718万7488円が、原告が被告商品1の販売により受けた損害の額ということができる。また、被告の不正競争行為と相当因果関係ある弁護士費用相当額は、71万円と認めるのが相当であるから、損害額の合計は789万7488円の限度で認められる。 エ 被告は、被告商品1は、原告商品1の販売終了後に販売された商品であるから、被告商品1の販売と原告との損害との間に因果関係がないと主張するところ、その主張の趣旨は、不正競争防止法5条1項の規定に照らせば、原告商品1は被告商品1の販売(侵害行為)がなければ販売することができた物であることを否認する趣旨をいうものと解される。 確かに被告商品1は原告商品1が販売された翌年に販売開始をされた商品であり、通常、この種の衣服では、毎シーズンごとに少しずつデザインを変えて新商品として販売されることからすると、両商品は同じシーズン中に市場で直接的に競合する関係になかったことはいえる。しかし、証拠(甲A13)によれば、原告商品1は被告商品1の販売後も少数の在庫品が販売をされていた事実が認められ、その上、原告は、原告商品1についての注文があれば、これに応じて製造販売をしていたであろうことが容易に認められる。 したがって、原告商品1は被告商品1の販売(侵害行為)がなければ販売することができた物であり、被告商品1の販売と原告との損害との間に因果関係は認められるというべきである。また上記販売時期のずれは不正競争防止法5条1項ただし書の事情というに足りないし、そのほか同項ただし書の事情となる事実についての主張立証はないから、被告は原告に対し、上記ウ認定の損害額全額についての損害賠償責任を負うものというべきである。 (2) 被告商品3の販売による損害について ア 証拠(甲B11)及び弁論の全趣旨によれば、原告商品3の1着当たりの売上金額は●(省略)●であるから、原告の受ける利益の額は6901円であると認められる。 イ 証拠(甲B4、甲B5、甲B10)によれば、被告は、平成27年5月14日から同年6月12日までの間に、少なくとも被告商品3を389枚販売した事実が認められる。 ウ 原告は、不正競争を理由とする損害賠償については、原告商品1と同様、不正競争防止法5条1項の適用を前提とする損害額を主張しているところ、弁論の全趣旨によれば、原告は、被告商品3の販売期間中、同商品と同数の原告商品3を製造販売することは原告の能力を超えないと認めることができるから、上記アで認定した原告商品3の販売による利益の額に、上記イで認定した被告商品3の販売数量を乗じた額である268万4489円が、原告が被告商品3の販売により受けた損害の額ということができる。また、被告の不正競争行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、26万円と認めるのが相当であるから、損害の合計は294万4489円の限度で認められる。 エ 被告は、被告商品3は、原告商品3の販売終了後に販売された商品であるから、被告商品3の販売と原告の損害との間に因果関係がないと主張するところ、その主張の趣旨は、不正競争防止法5条1項の規定に照らせば、原告商品3は被告商品3の販売(侵害行為)がなければ販売することができた物であることを否認する趣旨をいうものと解される。 確かに被告商品3についても、対応商品である原告商品3との関係は、被告商品1と原告商品1についてみたのと同様であるが、やはり証拠(甲B13)によれば、原告商品3の被告商品3に対する関係についても、原告商品1と被告商品1についてみたのと同様の関係が認められるから、原告商品3は被告商品3の販売(侵害行為)がなければ販売することができた物であり、被告商品3の販売と原告の損害との間に因果関係は認められるというべきである。また上記販売時期のずれは不正競争防止法5条1項ただし書の事情というに足りないし、そのほか同項ただし書の事情となる事実についての主張立証はないから、被告は原告に対し、上記ウ認定の損害額全額についての損害賠償責任を負うものというべきである。 6 結語 以上よれば、原告の被告に対する請求は、被告商品1、同3の製造販売行為の差止め、これら商品の廃棄及び損害賠償として合計1084万1977円(被告商品1の製造販売につき789万7488円、被告商品3の製造販売につき294万4489円の合計額)及び内金789万7488円に対する不法行為の後の日である平成27年9月1日から、内金294万4489円に対する不法行為の後の日である平成27年11月12日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求にはいずれも理由がない。 よって、原告の請求は、上記理由のある限度で認容することとし、その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法61条、64条本文、仮執行宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官 森崎英二 裁判官 田原美奈子 裁判官 大川潤子 (別紙) 被告商品目録 (別紙) 原告商品目録 1 ブランド シャミー 商品名 丸首刺繍レース生地使用七部袖ブラウス 品番 CH−70440193,CL−30440193 2 ブランド シャミー 商品名 丸首オリジナル刺繍レース使いランニング 品番 CH−70440240 3 ブランド シャミー 商品名 胸部リンゴモチ−フ付きボーダー柄長袖チュニックTシャツ 品番 CH−70412280,CL−30412280 (別紙) 原告商品写真目録 (別紙) 被告商品写真目録 |
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