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【事件名】“柴田是真画集”印刷データの帰属事件 【年月日】平成29年1月12日 大阪地裁 平成27年(ワ)第718号 損害賠償等請求事件 (口頭弁論終結日 平成28年10月18日) 判決 原告 東方出版株式会社 同訴訟代理人弁護士 釜田佳孝 被告 ニューカラー写真印刷株式会社 被告 光村推古書院株式会社 被告ら訴訟代理人弁護士 佐賀千惠美 主文 1 原告の主位的請求をいずれも棄却する。 2 被告ニューカラー写真印刷株式会社は、原告に対し、3万円及びこれに対する平成27年2月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告光村推古書院株式会社は、原告に対し、3万円及びこれに対する平成27年2月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告のその余の予備的請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は、これを100分し、その99を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。 6 この判決は、第2項及び第3項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告ニューカラー写真印刷株式会社は、原告に対し、300万円及びこれに対する平成27年2月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告光村推古書院株式会社は、原告に対し、300万円及びこれに対する平成27年2月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 請求の要旨 原告は、被告らが、原告が「柴田是真 下絵・写生集」との題名の書籍(以下「原告書籍」という。)を出版した際に製作された印刷用のデータ(以下「本件印刷用データ」という。ただし、その具体的な内容は、当事者間に争いがある。)を使用して、「柴田是真の植物図」との題名の書籍(以下「被告書籍」という。)を印刷・製本し、出版したと主張して、被告らに対し、以下の請求をした。 (1) 被告ニューカラー写真印刷株式会社(以下「被告ニューカラー写真印刷」という。)に対する請求 ア 主位的請求 原告は、本件印刷用データの無断使用が、同データに係る所有権の侵害に当たると主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害金300万円及びこれに対する不法行為後であり、訴状送達の日の翌日である平成27年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。 イ 予備的請求1 原告は、原告書籍の出版の際、被告ニューカラー写真印刷との間で、本件印刷用データを原告以外の出版社の出版物の印刷・製本に使用する場合は、原告の許諾を得た上で当該出版社が原告に使用料を支払うこととする旨の合意(以下「本件合意」という。)をしたところ、同データの無断使用が本件合意に違反すると主張して、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、損害金300万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成27年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。 ウ 予備的請求2 原告は、被告ニューカラー写真印刷が、被告書籍のために本件印刷用データを再利用する場合に原告の許諾を得た上で使用料を支払う旨の不文律に違反して、同データの無断使用をしたことが不法行為を構成すると主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害金300万円及びこれに対する不法行為後であり、訴状送達の日の翌日である平成27年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。 (2) 被告光村推古書院株式会社(以下「被告光村推古書院」という。)に対する請求 ア 主位的請求 原告は、前記(1)アと同様に、本件印刷用データの無断使用が、同データに係る所有権の侵害に当たると主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害金300万円及びこれに対する不法行為後であり、訴状送達の日の翌日である平成27年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。 イ 予備的請求1 原告は、被告光村推古書院が、本件合意を知りながら被告ニューカラー写真印刷に本件印刷用データを使用させた行為が不法行為を構成すると主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害金300万円及びこれに対する不法行為後であり、訴状送達の日の翌日である平成27年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。 ウ 予備的請求2 原告は、被告光村推古書院が、被告書籍のために本件印刷用データを再利用する場合に原告の許諾を得た上で使用料を支払う旨の慣習法上の義務を負うと主張して、同義務の履行請求権に基づき、同データの使用料300万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成27年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。 エ 予備的請求3 原告は、被告光村推古書院が、被告書籍のために本件印刷用データを再利用する場合に原告の許諾を得た上で使用料を支払う旨の条理上の義務を負うと主張して、同義務の履行請求権に基づき、同データの使用料300万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成27年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。 オ 予備的請求4 原告は、前記(1)ウと同様に、被告光村推古書院が、被告書籍のために本件印刷用データを再利用する場合に原告の許諾を得た上で使用料を支払う旨の不文律に違反して、同データの無断使用をしたことが不法行為を構成すると主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害金300万円及びこれに対する不法行為後であり、訴状送達の日の翌日である平成27年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。 (3) 被告らの反論の概要 これに対し、被告らは、本件印刷用データのうち、後記の写真データの使用は認め、後記の絵画部分のデータの使用は否認した上で、本件印刷用データに係る原告の所有権、本件合意の存在、慣習法上・条理上の義務又は不文律の存在について争うとともに、抗弁として、後記の写真データの使用について、原告が許諾した旨及び著作権法32条1項が類推適用される旨を主張した。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲証拠により容易に認められる。) (1) 当事者 原告は、出版業及び出版物販売業等を業とする株式会社である。 被告ニューカラー写真印刷は、原色版の製版、印刷及び販売等を業とする株式会社である。 被告光村推古書院は、美術図書の出版事業等を業とする株式会社である。 (2) 原告書籍の出版 ア 原告は、下記のとおり、原告書籍を出版した(甲1及び3)。 記 タイトル 「柴田是真 下絵・写生集」 発行日 平成17年4月11日初版第1刷発行 編著者 P1・P2 発行者 P3 発行所 原告 撮影 P4 編集 P5(P6) デザイン P7 制作進行 P8 制作 被告ニューカラー写真印刷 仕様 体裁 上製本(貼ケース入) 寸法 縦320×横240ミリ(B4判) 予価 1万5000円+消費税 イ 原告書籍は、東京藝術大学大学美術館(以下「東京芸大美術館」という。)が所蔵する柴田是真の天井図下絵や写生帖から成る絵画を内容とし、絵画部分、写真部分、言語部分から成る。柴田是真(1807年生、1891年死去)は、円山四条派直系の絵師であり、江戸蒔絵を継承する蒔絵師である。 ウ 被告ニューカラー写真印刷は、原告書籍の出版の際に作成した本件印刷用データを保存した記録媒体を所持している。 (3) 被告書籍の出版 ア 被告光村推古書院は、下記のとおり、被告書籍を出版した(甲2、32及び乙4)。 記 タイトル 「柴田是真の植物図」 発行日 平成25年9月20日初版1刷発行 編著 P1・P2 発行 P9 発行所 被告光村推古書院 印刷 被告ニューカラー写真印刷 寸法 縦163ミリ×横121ミリ(四六判変型) 予価 2000円+税 イ 原告書籍及び被告書籍では、別紙「二次的利用対比一覧表」において○印のある絵画が、共通して掲載されている。 また、原告書籍及び被告書籍では、宮内庁所蔵に係る明治宮殿「千種の間」の室内写真2葉(以下「本件写真」という。)が、共通して掲載されている。被告ニューカラー写真印刷は、被告書籍の出版の際、本件写真につき、宮内庁の許可を得た後、原告書籍の出版の際に製作された印刷用のデータ(以下、本件印刷用データのうち本件写真に係るデータを「本件写真データ」といい、絵画部分に係るデータを「本件絵画データ」という。)を使用して印刷、転載し、本件写真が掲載されたページ(甲6)の下部には、「2点とも『柴田是真 下絵・写生集』(東方出版 平成十七年)より転載」と記載されている。 3 争点 (1) 被告ニューカラー写真印刷が本件絵画データを使用したか(争点1−各請求に共通する請求原因) (2) 原告が本件印刷用データを所有しているか(争点2−被告らに対する主位的請求に共通する請求原因) (3) 原告と被告ニューカラー写真印刷が、原告書籍の出版の際、本件合意をしたか(争点3−被告らに対する予備的請求1に共通する請求原因) (4) 被告光村推古書院は、本件合意を知りながら被告ニューカラー写真印刷に本件印刷用データを使用させたとして、不法行為責任を負うか(争点4−被告光村推古書院に対する予備的請求1の請求原因) (5) 被告ニューカラー写真印刷又は被告光村推古書院は、被告書籍のために本件印刷用データを再利用する場合に原告の許諾を得た上で使用料を支払う旨の慣習法上・条理上の義務又は不文律違反の不法行為責任を負うか(争点5−被告ニューカラー写真印刷に対する予備的請求2及び被告光村推古書院に対する予備的請求2ないし4に共通する請求原因) (6) 原告は、本件写真データの使用を許諾したか(争点6−各請求のうち本件写真データの使用に係る部分についての共通の抗弁) (7) 本件写真データの使用について、著作権法32条1項が類推適用されるか(争点7−各請求のうち本件写真データの使用に係る部分についての共通の抗弁) (8) 損害額又は本件印刷用データの使用料(争点8−各請求に共通する請求原因) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(被告ニューカラー写真印刷が本件絵画データを使用したか)について 【原告の主張】 被告らは、被告書籍において掲載される柴田是真の絵画部分について、本件絵画データを使用して印刷した。 (1) 本件印刷用データの内容 原告は、原告書籍の出版の際、東京芸大美術館や宮内庁の了解を得て、原告の費用を投資し、東京芸大美術館に保存されていた柴田是真の下絵や写生帖から成る絵画及び宮内庁所蔵の明治宮殿の写真(本件写真を含む。)等を写真撮影し、解説等の言語部分の他に、上記の絵画部分と写真部分とから成る本件印刷用データを被告ニューカラー写真印刷に製作させた。 本件絵画データとは、原告書籍の出版の際に、原告が東京芸大美術館の許可を得て撮影・製作させた柴田是真の絵画のリバーサルフィルム(反転フィルム。現像の過程において露光・第一現像後、反転現像によってポジ画像(陽画)を得る構造を持つ写真フィルム)に基づき、被告ニューカラー写真印刷が製作当初から印刷に至る最終過程までの間に製作したすべての印刷用データである。また、原告書籍は写真撮影された写生帖のうちの一部を掲載していないが、絵画の範囲は原告が写真撮影した柴田是真の天井図下絵の全図及び写生帖であり、原告書籍に掲載された絵画部分に限られない。また、本件印刷用データの写真部分とは、原告が宮内庁の許可を得て撮影させた明治宮殿の写真(本件写真を含む。)を指す。 (2) 原告書籍と被告書籍の比較 別紙「二次的利用対比一覧表」記載のとおり、原告書籍と被告書籍には共通点がある。両者には、被告らの指摘する相違点もあるが、本件印刷用データは、原告書籍の印刷のための最終データのみでなく、光の3原色から成るRGBデータや、色の4原色から成るCMYKデータに変換する初期の工程のデータや、中間工程で行われるトリミングや色修正や色補正等の編集加工されたデータも含むすべてのデータであるから、この相違点は、色修正や色補正等をする前のデータを利用したことによって生じたと考えられる。 ア 掲載物 原告書籍に掲載された写生帖の絵画は、本件印刷用データの一部を印刷したものにすぎず、原告書籍には掲載されずに、被告書籍に掲載されていると被告らが指摘する絵画は、いずれも本件印刷用データに含まれている。 イ 裏写り 原告書籍において裏写り部分が比較的少ないのは、修正後の本件印刷用データを使用して印刷・製本したためである。他方で、被告らが原告書籍と比較して裏写り部分があると指摘するものは、校正前あるいは途中の本件印刷用データを使用したためである。 ウ トリミング 下絵は正方形の和紙に描かれ、描かれた草花を取り囲むように円が描かれている。原告書籍ではこの円の外周に沿ってトリミングにより円形の画像にし、薄黄色の背景の上にその画像を貼り付けるという加工を行い、本件印刷用データでは薄黄色の背景に略円形の下絵が結合されて描写されているという状態になっている。 この点、被告書籍の背景は白地であるにもかかわらず、原告書籍で背景に使われた薄黄色の背景色が写り込んでいるものがあり、この薄黄色部分は、原告書籍において原画の背景色として用いた色に酷似している。 被告書籍において、薄黄色部分が写り込んでいる部分と写り込んでいない部分があるのは、原画を中心に据えて背景に薄黄色を用いたデータを、背景色である白色に変更するために行うトリミング作業において、薄黄色部分を取り込んでトリミングを行ったものと取り込まないで行ったものがあるからにすぎない。 また、原告書籍も被告書籍も、天井画下絵の中の草花のうちの一部について拡大画を掲載するという点において、共通している。どの拡大画を掲載するかについて、編集の差異により、共通するものと相違するものが存するにすぎず、拡大する部分のとり方について円形にトリミングされない部分が含まれる場合と含まれない場合が存するにすぎない。本件印刷用データの中には、円形にトリミングする前のデータも含まれ、原告書籍や被告書籍の拡大画はこのデータを使ったものであり、被告書籍の拡大画の中にも、原告書籍の拡大図と同様に、円形にトリミングされていない部分を含まないものが掲載されている。 エ 紙質、紙色 試し刷り等の調整により、紙質、紙色が異なる書籍の印刷用データを利用して印刷することができる。また、印刷用データの劣化の問題は保存状態によるもので、色修正や色補正等をしたデータは劣化するものではない。 (3) 東京芸大美術館に保存されている画像データからは、被告書籍の印刷ができないこと 原告は、東京芸大美術館における写真撮影によりリバーサルフィルムを製作し、被告ニューカラー写真印刷にそれらを本件印刷用データに加工して製本してもらうまでに約840万円を支出しており、東京芸大美術館に保存されている柴田是真の絵画の画像データは、原告が原告書籍の出版時に約41万5748円の撮影費用を投資してP4に撮影させて製作したリバーサルフィルムをスキャナーで読み込んだものである。 これに対し、被告らが東京芸大美術館に支払った対価は、東京芸大美術館が保管している美術品の使用料、すなわち、被告書籍への掲載料であって、被告書籍のような美術書の印刷・製本ができる程度の品質を保証するものではない。 東京芸大美術館に保存されている画像データは汎用的なスキャナーで読み込んだRGBデータであって、CMYKデータや特色(あらかじめ調合されたインクのこと)ではなく、CMYKデータや特色から印刷用に作成した分版でも、刷版でもないため、そのデータのままでは印刷できない。また、同画像データは、精度が低いため、CMYKデータに変換して、被告書籍のような美術書としてのカラー印刷のための印刷用データに加工することも困難である。仮に、CMYKデータに変換し得たとしても、その過程に時間と費用が発生する上、色補正等をし、それ以降の工程である分版、刷版の作成も行わなければならないので、さらに時間と費用が発生する。被告書籍においては、絵画が2倍あるいは数倍に拡大されているものがあり、かかる部分における解像度には高度なものが要求されるはずである。 むしろ、本件印刷用データを使用すれば、少なくとも、RGBデータをCMYKデータに変換する工程や、トリミングの工程、最終稿に仕上げるまでの色校正の工程が不要となるか、大幅に削減でき、それらの作業工程分のコストは低減でき、工期も短縮できるはずである。 【被告らの主張】 被告らは、本件印刷用データを、被告書籍中の柴田是真の下絵・写生帖の印刷のためには使用していない。 (1) 本件印刷用データの内容 書籍を印刷するための写真データにつき、印刷会社において色修正や色補正等をする時はデータに上書きするのが通常であり、被告ニューカラー写真印刷は、毎年多数の書籍の印刷をしており、東京芸大美術館所蔵の柴田是真の写生帖を原告書籍に印刷するためのデータについても、CMYKデータに変換した後に最終工程に移行する前の段階において、修正・補正等の校正をした最終の印刷用データしか保存していない。 (2) 被告書籍の印刷の経緯 東京芸大美術館は、被告書籍への掲載を使用目的として、被告光村推古書院への画像データの送付を許可し、同被告は、東京芸大美術館から光学ディスク(CDやDVD等)に保存した柴田是真の下絵、写生帖、植物図の画像データを送付され、62万6850円の対価を支払った。 同画像データはすべて被告書籍の印刷に適するものであり、被告ニューカラー写真印刷は同画像データをCMYKデータに変換した後に、最終工程に移行する前の段階において色修正や色補正やトリミングの処理等をして、被告書籍を印刷した。 原告が東京芸大美術館から入手した画像データ(甲13の1、13の2)の下部にある「P4」との文字が「P4」を指すとしても、そのことから東京芸大美術館に保存されている柴田是真の絵画の画像データのすべてが、原告が原告書籍のための撮影時にP4に撮影させたリバーサルフィルムをスキャナーで読み込んだものとはいえない。P4は原告書籍の出版より前にも柴田是真の絵画を撮影しており、昭和51年に発行された株式会社京都書院の書籍にも、上記の画像データと同一のP4撮影による夏梅の写真が載っている。また、柴田是真の絵画の絵柄は膨大な数があり、そのすべてにつき原告が費用を支出してP4にリバーサルフィルムを作成させたとは考えられない。 上記の画像データ(甲13の1、13の2)は、RGBデータであるが、被告書籍の印刷に適し、変換ソフトにより、CMYKデータへの変換は容易である。また、CMYKデータへの変換後に行った色校正には、さほどの手間もコストもかかってはいない。このデータの画像の容量は26.9MBであり、書籍鑑賞に堪え得る画面の解像度の設定である350dpiにしても、241.74×193.40mmまで印刷できるところ、被告書籍はそれより小さい163×121mmであるので、十分に印刷ができる。 (3) 原告書籍と被告書籍の比較 ア 掲載物 原告書籍と被告書籍では、掲載している柴田是真の写生帖が異なり、被告書籍には、原告書籍にはない絵柄が43点ある。この点、原告書籍にあるデータから不要なものを選んで外したり、原告書籍にはないデータを東京芸大美術館から送られた画像データから選択して追加したりするには、手間がかかる。むしろ、被告らは、東京芸大美術館に代金を支払って、被告書籍の作成に過不足のない柴田是真の下絵や写生帖の画像データを入手した。 イ 裏写り 被告書籍には、被告ニューカラー写真印刷が保管している原告書籍の最終の本件印刷用データにはない裏写り部分があり、同じ絵柄でも被告書籍の方が裏写り部分が多い。 ウ トリミング 原告書籍では、周りの円の下側の黒線が切れており印刷されていないのに対し、被告書籍では、円の下側の黒線が切れずに印刷されているものがあり、トリミングをした絵柄につき、被告書籍の方が原告書籍より絵柄部分が広く残っているものが多々ある。また、原告書籍ではトリミングにより円形の画像になっている絵柄につき、被告書籍ではトリミングしない写生帖の元の紙面がそのまま残っている絵柄もある。 被告書籍の円形の欠如部分を補うための差し色部分は、元の写生帖の円形の内部の色に近い薄黄色である。これに対し、原告書籍の背景は円形の内部の色に近い薄黄土色である。また、原告書籍では円形の欠如部分に背景色がある絵柄につき、被告書籍では円形の欠如部分を補うための差し色をしていないページもある。さらに、柴田是真の下絵の外円は真円ではなく、下などが少し切れているものもあるが、被告書籍の中には、下などが少し切れている部分が目立たないように差し色を加えたものと加えなかったものがある。 エ 紙質、紙色 被告ニューカラー写真印刷は、柴田是真の下絵や写生帖の画像データをCMYKデータに変換した後、被告書籍に使用する紙質や紙色に応じて色修正や色補正等を行った。原告書籍用の紙(三菱製紙のニューVマット)のための色修正や色補正等をした後の本件印刷用データから、被告書籍用の紙(日本製紙のb7トラネクスト)に合わせた色修正や色補正等に改めるのは、極めて困難である。また、いったん原告書籍用の紙のための色修正や色補正等をした後の本件印刷用データは劣化しており、その劣化したデータをさらに被告書籍用の紙に合わせた色修正や色補正等に改めれば、データはより一層劣化して良い仕上がりにはならない。 2 争点2(原告が本件印刷用データを所有しているか)について 【原告の主張】 本件印刷用データは、原告と被告ニューカラー写真印刷との間で取り交わされた印刷・製本委託契約に基づいて製作された中間生成物である。中間生成物の作成は出版に必要不可欠であり、同データの製作費用は、原告が同被告に支払った印刷代金の中に含まれている。他方で、印刷業者である同被告にとって、中間生成物には独立した経済的価値はない。したがって、原告は、同データの所有権を有する。 加えて、本件印刷用データは、柴田是真の絵画や明治宮殿の写真のリバーサルフィルムを加工して製作されており、原告がリバーサルフィルムの製作費用を拠出したため、原告が、リバーサルフィルムの所有者であり、同データの所有者である(民法246条1項本文)。また、本件印刷用データがリバーサルフィルムの価格を著しく超えるとしても、被告ニューカラー写真印刷は、原告の依頼に基づいて、原告の手足(補助者)として柴田是真の絵画を印刷し、加工したものであるから、原告が加工者であり、やはり原告が同データの所有者である(同項ただし書)。 【被告らの主張】 対象物を撮影したポジフィルム(リバーサルフィルム)や、東京芸大美術館から光学ディスク(CDやDVD等)に保存して送られた画像データ等は、そのまま書籍の印刷に使用するのではなく、書籍を制作する過程において、それらに基づき印刷会社において書籍を印刷するための「当該書籍用データ」を作成してインクを使って紙への印刷を行う。一般に、請負契約の中間生成物であるこの「当該書籍用データ」の所有権は、印刷会社に帰属する。 この点、原告の刊行企画書には、明治宮殿千種之間天井画下絵についてしか記載がない。また、東京芸大美術館との申し合わせ書にも柴田是真の草花図の撮影を許可する旨が記載されているのみで、写生帖の撮影や生物図の撮影は記載されていない。 このように、原告が東京芸大美術館からどの範囲の資料について、どのような許可を得て、その対価がいくらだったのかは明らかでない。また、その利用料の支払等を証明する振込証や領収証等は残っていない。原告が、東京芸大美術館からの許可の範囲を超える行為をしていたり、利用料の支払や書籍の出版に関する支払をしていなかったりするのであれば、そもそも原告に権利性がある旨の主張は、前提を欠く。 3 争点3(原告と被告ニューカラー写真印刷が、原告書籍の出版の際、本件合意をしたか)について 【原告の主張】 (1) 印刷用のデータの再利用 言語部分、絵画・写真部分のいずれの印刷用のデータも、それらを掲載する書籍を出版する上で必要不可欠なものであり、その製作には相当な費用と時間を要する。このため、最初に当該印刷用のデータが掲載された書籍を出版した最初の出版社が、同様の内容を掲載する後続の書籍を出版する場合(例えば、増刷する場合や単行本を文庫版に変更して出版する場合等)、最初に出版された書籍の印刷用のデータを利用することで、安価でかつ迅速な出版をすることが可能となる。また、最初の出版社以外の後続の出版社が同様の内容を掲載した書籍を出版する場合(例えば、同内容を掲載した同種の書籍を単行本や文庫版で出版する場合等)には、最初の出版社と同様に印刷用のデータの製作を一から行うとなると多額の費用と時間を要するため、先行の出版の際に製作された印刷用のデータを利用して出版をすることがある。殊に絵画・写真部分の印刷用のデータの製作には、言語部分の製作に比較して多額の費用と時間を要するから、上記のメリットは大きい。最初の出版社と同様の内容を掲載した書籍を出版する場合、後続の出版社は、最初の出版社の許諾を得ることが必要であり、また、一定の使用料を支払うことで最初の出版社の印刷用のデータを利用して製本・出版することが印刷業界や出版業界では当然のこととされており、被告ニューカラー写真印刷もそのことを知っていた。 一般社団法人日本書籍出版協会(以下「日本書籍出版協会」という。)、同協会の会員及び一般社団法人日本印刷産業連合会(以下「日本印刷産業連合会」という。)に対する照会の回答によれば、印刷会社が、最初の出版社の委託を受けて書籍の印刷・製本をする際に製作した印刷データを、後続の出版社の書籍の印刷に再利用する場合、印刷用データの再利用は最初の出版社の許諾を得て行われるものであること、許諾を取り交わす場合には当事者間の全部又は一部で合意書等が取り交わされ、一定の対価が支払われることが一般的である。 (2) 本件合意及びその違反 ア 以上によれば、原告と被告ニューカラー写真印刷は、平成17年3月頃、原告書籍の出版についての印刷・製本に関する契約を締結したが、同契約には、原告が同被告に対し原告書籍の印刷・製本を委託することのほか、下記の合意(本件合意)がその内容となっていたと認められる。 記 被告ニューカラー写真印刷が原告書籍の印刷・製本に当たって製作した本件印刷用データは、原告の許諾なしに原告以外の出版社の出版物の印刷・製本に使用することはできないこと。使用する場合は、同被告か原告以外の出版社において原告の許諾を得た上、原告以外の出版社が一定の使用料を支払うことで、本件印刷用データを使用できるものであること。 イ 被告ニューカラー写真印刷は、同被告あるいは被告光村推古書院において原告の許諾を得ず、被告光村推古書院からの使用料の支払もないまま、本件印刷用データを使用して被告書籍を印刷・製本した。 したがって、被告ニューカラー写真印刷の行為は、本件合意に反し、同被告は原告に対し債務不履行による損害賠償義務を負う。 【被告らの主張】 否認ないし争う。 原告の照会の内容は、著作権や著作権者が存在するなど、本件とは異なる事実関係を前提としている。また、原告は、照会の補足説明等に、被告らが原告書籍の印刷データをほぼそのまま使って、原告書籍と同一又はほぼ同じ内容の書籍を出版していると理解される内容を記載し、出版社の危惧をあおり、回答内容を誘導している。加えて、平成28年における日本書籍出版協会の会員出版社は423社であるところ、回答したのはその一部の78社(約18%)にすぎず、回答の中には、本件とは異なる事実を前提とするものがある。 4 争点4(被告光村推古書院は、本件合意を知りながら被告ニューカラー写真印刷に本件印刷用データを使用させたとして、不法行為責任を負うか)について 【原告の主張】 被告光村推古書院は、被告書籍の出版の際、既に原告書籍が出版されていたこと、原告書籍には柴田是真の下絵や写生帖の写真が掲載されていたこと、原告書籍の印刷・製本は被告ニューカラー写真印刷が行ったものであることを知っていた。 また、後続の出版社が最初の出版社と同様の内容を掲載した書籍を出版する場合、後続の出版社は、最初の出版社の許諾を得ることが必要であり、一定の使用料を支払うことが印刷業界や出版業界では当然のこととされており、被告光村推古書院もそのことを知っていた。 さらに、被告光村推古書院は、原告と被告ニューカラー写真印刷との間で、原告書籍の印刷・製本に関する契約において、本件合意が取り交わされていることを知っていた。 しかるに、被告光村推古書院は、被告ニューカラー写真印刷あるいは被告光村推古書院において原告の許諾を得ず、原告に使用料も支払わないまま、被告ニューカラー写真印刷が本件印刷用データを使用して被告書籍を印刷・製本するものであることを認識し、同データを無断使用すれば、原告に使用料相当額の損害が発生することを認識した上で、あえて同被告をして同データを無断使用させて被告書籍を印刷・製本させた。 したがって、被告光村推古書院の行為は不法行為を構成し、同被告は原告に対し不法行為に基づく損害賠償義務を負う。 【被告光村推古書院の主張】 被告光村推古書院が、被告書籍の出版の際に、既に原告書籍が出版されていた事実、原告書籍には柴田是真の下絵や写生帖の写真が掲載されていた事実、原告書籍の印刷・製本は被告ニューカラー写真印刷が行ったものである事実を知っていたことは認め、その余は否認ないし争う。 5 争点5(被告ニューカラー写真印刷又は被告光村推古書院は、被告書籍のために本件印刷用データを再利用する場合に原告の許諾を得た上で使用料を支払う旨の慣習法上・条理上の義務又は不文律違反の不法行為責任を負うか)について 【原告の主張】 最初の出版社が書籍を出版する際に印刷業者に製作させた印刷用データについて、後続の出版社が再利用(二次使用)する場合は、印刷業者及び後続の出版社が最初の出版社の許諾を得た上で、相当な二次使用料を支払うことが不文律として存在し、かかる不文律は慣習法上の義務にまで高められている。そうすると、原告は、被告光村推古書院に対し、上記の慣習法上の義務の履行を請求し得る。 仮に、慣習法とまではいえないとしても、出版業界に上記の不文律が存在することからすれば後続の出版社による印刷用データの無断使用、無償使用は条理上許容されるべきではなく、条理上の義務が認められる。そうすると、原告は、被告光村推古書院に対し、上記の条理上の義務の履行を請求し得る。 慣習法や条理上の義務が認められないとしても、出版業界に上記の不文律が存在することは印刷業者においても周知のことである。また、印刷用データは書籍の出版のために必要不可欠なものであり、本件印刷用データはその製作に多額の費用と時間を要するものであるから、被告らによる同データの無断使用は、上記の不文律に違反し、不法行為を構成する。 【被告らの主張】 否認ないし争う。 6 争点6(原告は、本件写真データの使用を許諾したか)について 【被告らの主張】 本件写真は、宮内庁が所蔵し、権利を有している。被告ニューカラー写真印刷は、宮内庁の許可に基づいて、自らが所持していた本件写真データを使って被告書籍中の本件写真掲載のページを印刷した。 被告光村推古書院の代表取締役であるP9は、被告書籍の出版に先立ち、原告の当時の取締役であり現在の代表取締役であるP10に対し、被告書籍を出版することを電話で告げ、宮内庁所蔵の本件写真の掲載について宮内庁から許可を得て、被告ニューカラー写真印刷にある本件写真データを使用することを説明し、これに対し、P10はこの申出を了解した旨回答した。その後、被告光村推古書院は、原告に対し、本件写真の転載部分や被告書籍の注文書用紙をファックス送信し、被告書籍の出版後に被告書籍を送付した。 したがって、原告は、被告らに対して、本件写真データの使用を許諾した。 【原告の主張】 原告のP10は、平成25年8月の盆休み前に、被告光村推古書院のP9から電話を受け、柴田是真の書籍を出版するとの話を伝えられ、どの写真かを特定せずに、原告書籍に掲載した写真を転載したいとの申入れを受けたが、どのような書籍を出版するのか、具体的な内容は伝えられず、転載する写真が本件写真であることや、本件写真データを利用するといった話も聞かなかった。その電話の中で、P10は、P9に対し、文書で申入れをしてもらいたい旨を伝えた。 その後、同月19日、P9より原告に転載分のページ、カバー見本、チラシの3枚がファックス送信された。また、同月21日付けの文書とともに同月22日に被告光村推古書院より被告書籍の完成本が送られてきたが、同文書の記載は、被告書籍の出版の前に原告から本件写真の転載について許諾を得ている文面となっていない。さらに、原告の質問に対する被告光村推古書院の同年9月3日付けの文書の記載によれば、同被告は単に転載する旨連絡しただけで、許諾を得たことにはなっていない。 したがって、原告は、被告らに対して、本件写真データの使用を許諾していない。 7 争点7(本件写真データの使用について、著作権法32条1項が類推適用されるか)について 【被告らの主張】 原告書籍からの転載が宮内庁による許可の条件とされていたため、被告らは、被告書籍に原告書籍からの転載である旨を明示した。 著作権が存在する場合ですら、著作権法32条1項により引用が許されるところ、仮に原告に何らかの権利性がある場合でも、同項が類推適用され、引用が許される。 【原告の主張】 引用とは、利用者が著作権者の許諾なしに著作物を自由利用できるとして、著作権を制限するものであって、本件印刷用データの所有権及び二次使用権について自由利用を認めるものではない。 また、本件印刷用データの対象が著作物でなく、あるいは著作権が消滅したとしても、多額の費用と労力をかけた本件印刷用データは最初の出版社である原告の許諾を得なければ利用できない。 8 争点8(損害額又は本件印刷用データの使用料)について 【原告の主張】 各被告との関係でみると、原告が支払を請求し得る本件印刷用データの使用料は300万円であり、また、原告は、上記の使用料に相当する300万円の損害を被った。 したがって、原告は、各被告に対し、それぞれ、300万円及びその遅延損害金の支払を請求し得る。 【被告らの主張】 否認ないし争う。 原告書籍は、被告書籍を発行した時よりもかなり前から品切れになっていたから、被告書籍が原告書籍の売上げを減少させたとはいえない。 第4 当裁判所の判断 当裁判所は、被告ニューカラー写真印刷は、原告に無断で本件写真データを使用したことにつき、原告に対して債務不履行による損害賠償責任を負い(予備的請求1)、また、被告光村推古書院は、上記の債務不履行に加担したことにつき、原告に対して不法行為による損害賠償責任を負い(予備的請求1)、原告に生じた損害の合計額は6万円であると認められると判断する。 以下、その理由を説明する。 1 被告ニューカラー写真印刷関係について (1) 争点1(被告ニューカラー写真印刷が本件絵画データを使用したか)について ア 認定事実 前提事実に加え、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (ア) 原告書籍の出版 原告と東京芸大美術館は、平成16年8月9日付けの「柴田是真『花の丸集成』(仮称)刊行に関する申し合わせ」(甲4)により、刊行要項、編集内容、仕様などを刊行企画書(甲3)のとおりとし、柴田是真の草花図の撮影を許可し、撮影したフィルムを寄贈することなどを定め、原告は、撮影したリバーサルフィルムを寄贈した。なお、刊行企画書には、作品撮影料が50万円であると記載されているが、作品撮影料を50万円とする旨が合意されて50万円が東京芸大美術館に支払われたことはない。(甲65、乙37の1、37の2) 被告ニューカラー写真印刷は、上記リバーサルフィルムから印刷用データを作成して原告書籍を制作し、原告は、同被告に対し、原告書籍の印刷製本代として840万円(消費税込み)を支払った(甲5)。平成17年2月に作成された見積書(甲14)は、合計額が962万1200円の場合の見積りであるが、この中には、カラー製版代320万円、カラー印刷代120万円、撮影代50万円が含まれている。 (イ) 被告書籍の出版 被告光村推古書院は、平成25年7月19日付けで、東京芸大美術館長より、同年8月20日発行予定の被告書籍に掲載する目的で、柴田是真「千種之間天井綴織下図」112点及び柴田是真「写生帖・縮図帖」より87点の「原版使用」の許可を受け、その料金は62万6850円とされた(乙3)。 東京芸大美術館が同年4月1日に更新した「写真撮影・写真原板使用等申請要項」(乙5)には、写真原板ではなく画像データを送付することとし、申請書類の受領後、許可が下りた場合には、許可書及び画像データ(CD)を郵送する旨が定められていた。 被告光村推古書院は、東京芸大美術館に対し、同年8月12日、62万6850円を支払った(乙9)。 被告光村推古書院は、被告ニューカラー写真印刷に対し、被告書籍の制作費用252万円(税込み)を支払った(乙22、28ないし30)。 (ウ) 原告書籍と被告書籍の比較 a 掲載物 原告書籍及び被告書籍では、別紙「二次的利用対比一覧表」において○印のある絵画が、共通して掲載されている。 他方、被告書籍(甲2、32)に掲載された絵画のうち43点(231頁ないし235頁、238頁ないし241頁、244頁ないし247頁、249頁ないし264頁、268頁ないし271頁、274頁、275頁、284頁ないし286頁、291頁左下、292頁、293頁、299頁上、305頁右上)は、原告書籍(甲1)には掲載されていない。この43点のうちの一部は、原告が原告書籍の印刷、製本の際に東京芸大美術館で柴田是真の絵画を撮影した写真(甲41の1ないし41の47)に含まれている(なお、43点のすべての写真が原告において保管されていると認めるに足りる証拠はない。)。 b 裏写り 同じ絵柄である原告書籍の228頁と被告書籍の277頁や、原告書籍の230頁と被告書籍の287頁を比較すると、被告書籍のみ裏写りが見られる(乙10の1、10の2、11の1、11の2)。 c トリミング 原告書籍(甲1)では、トリミングにより下絵を略円形の画像にし、薄黄色の背景に略円形の下絵が貼り付けられた状態となっている。 これに対し、被告書籍(甲2、32)に掲載された下絵のうち、原告書籍掲載の下絵の一部(甲15ないし31)と同じ下絵(甲32のうちの、10、22、43、62、90、101、108、111、144、158、163、165、166、173、174、178及び181頁)については、円形の欠如部分を補うために薄黄色の差し色がなされている。なお、原告書籍の背景の色と被告書籍の差し色が同一の薄黄色であると認めるに足りる証拠はない。 また、被告書籍(甲2、32)の94、172、190及び192頁に掲載された絵柄については、円形の欠如部分を補うための差し色がなされていない。 さらに、原告書籍と被告書籍のいずれにおいても、トリミングが施されていない絵柄の拡大図が掲載されているが、拡大して掲載する対象とされた絵柄は、共通するものと異なるものとがある。 (エ) 印刷用データの作成手順 a デジタルカメラ等で撮影された画像やパソコンのディスプレイ上に表現される色は、ライトの発光を利用して色を表現(加法混合)するRGB形式であり、RGBは、「光の3原色」を意味し、赤(Red)、緑(Green)、青(Blue)から成る。これに対し、印刷物ではインク(色素)による光の吸収を利用して色が表現され(減法混合)、オフセットカラー印刷では、シアン(Cyan)、マゼンタ(Magenta)、イエロー(Yellow)、ブラック(Key Plate)から成る「色の4原色」を意味するCMYK(プロセスカラー)が刷り重ねて印刷され、必要に応じてあらかじめ特別に調合されたインクである特色が使用される。このように、画面と紙とでは発色の原理が異なるため、RGB形式の画像を印刷する場合、RGB形式からCMYK形式への変換作業が必要となり、その場合、RGB値をCMYK値に変換した上で、それぞれの色空間をカラーマネージメントシステムで補正する必要がある。(甲9の1、9の2、甲10ないし12、37) この点、画像補正の手順の1つとして、適正なプロファイルを使用してCMYK画像へカラーモードを変換するCMYK変換が挙げられている(乙32の別紙3)。また、原告が主張するところでは、公益社団法人日本印刷技術協会の説明によれば、変換後に色修正や画像修正を要するものの、RGBデータからCMYKデータに変換するのはソフトがあるので一瞬でできるとされている。 b 原告が本件の提訴後に東京芸大美術館から送付を受けた画像データ(甲13の1、13の2)は、柴田是真「千種之間天井綴織下図」のうち「夏梅」のRGBデータである。実際に、同画像データは、RGBデータからCMYKデータに変換し、画像を丸く切り抜き、色の修正、補正をし、図版の位置、文字の表現、掲載ページ数を付し、丸に不足している部分に差し色をして補い、被告書籍の掲載形態のとおりにすることができる(乙18)。 イ 以上を前提に検討する。 (ア) 上記認定事実によれば、@被告光村推古書院は、被告書籍を発行するに当たり、東京芸大美術館から、原板使用許可を受け、62万6850円を支払っていること、A東京芸大美術館は、原板使用許可の際には画像データを送付しており、被告光村推古書院に対しても、写真原板ではなく画像データを送付したものと考えられ、本件の提訴後に原告が東京芸大美術館から送付を受けた画像データはRGBデータであったことからすると、被告光村推古書院が送付を受けた画像データはRGBデータであったと推認されるところ、RGBデータをCMYKデータに変換して被告書籍の掲載形態とすることは可能であること、B原告書籍と被告書籍の間には、掲載した絵画や掲載形態に相違があることが認められ、これらからすると、被告ニューカラー写真印刷は、東京芸大美術館から送付を受けた画像データを用いて被告書籍を制作した可能性が十分にあるというべきである。 (イ) これに対し、原告は、上記Bの点について、被告ニューカラー写真印刷は、原告書籍の印刷のための最終データのみでなく、途中過程で作成されたRGBデータや、CMYKデータに変換する初期の工程のデータや、中間工程で行われるトリミングや色修正や色補正等の編集加工されたデータも所持している(原告が本件で主張する本件印刷用データには、これらの途中段階のものも含まれる。)から、原告書籍と被告書籍との間に上記の相違点があるとしても、被告ニューカラー写真印刷が、色修正や色補正等をする前のデータを利用すれば、被告書籍の印刷用データを作成することは可能であると主張する。 しかし、被告ニューカラー写真印刷は、原告書籍の制作過程で作成されたデータのうち、最終データ以外のものは所持していないと主張しており、同被告が最終データ以外のデータを所持していると認めるに足りる証拠はない。なお、被告光村推古書院の取締役の陳述書(乙32)では、印刷したすべての図録や画集について、最終データだけでなく、途中の複数のバージョンのデータを保存しようとすると、サーバーやパソコンに多大な負荷がかかる旨が指摘され、また、補正の過程で画像ファイルを上書きし、補正し直す場合にはポジフィルムから再度スキャンして調整し直し、複数のバージョンの画像データを保存する意味がなく、かえって、複数のバージョンの画像データを保存すると、印刷する画像の選択を誤るミスが起こりやすくなる旨が指摘されており、その指摘も不合理とはいえない。 そして、原告書籍と被告書籍との相違点は、被告ニューカラー写真印刷が原告書籍の最終データを使用することによっては生じ得ないものであるから、原告の上記主張は採用できない。 (ウ) 原告は、上記Aの点について、本件の提訴後に東京芸大美術館から送付を受けたRGBデータは、精度が低いため、美術書としての印刷用カラーデータを作成することはできないと主張する。 しかし、画像解像度を表す単位には、ppi(pixel per inch)及びdpi(dot per inch)があって、両者は同義で用いられることもあり、カラー印刷で写真画像がきれいに見えるとされる解像度は350ppiであるといわれている(甲37)。そして、東京芸大美術館が送付した画像データについてみると、解像度を350dpiに設定した場合、241.74×193.40ミリの大きさまで図版印刷が可能であり、被告書籍のサイズ(163×121ミリ)の印刷も可能である(乙18)。 したがって、東京芸大美術館に保存された画像データに基づいて、被告書籍の印刷用のデータを製作することは可能であると認められ、原告の上記主張は採用できない。 (エ) 原告は、乙第18号証の写真4の背景色の形状は、真円ではなく、下方は水平に切り取られており、原告書籍のレイアウトに似ている旨主張し、また、乙第18号証のような製作過程を経るのであれば、いずれの絵画においても、円形に不足している部分に背景色の薄黄色の印刷がされるはずであるが、被告書籍の中にはそのような印刷がされていないものがあり、背景色がないものもある旨主張する。 しかし、乙第18号証は、原告が東京芸大美術館から送付を受けた画像データに基づいて印刷用のデータを製作することができる一例を示したものにすぎず、この内容に基づいて原告書籍と被告書籍を比較するのは相当ではなく、原告の上記主張は、採用することができない。 なお、この東京芸大美術館から送付を受けた「夏梅」の画像データ(甲13の1、13の2)の下部に「P4」の文字が見られるところ、P4は原告書籍の出版より前にも柴田是真の絵画を撮影しており、昭和51年に株式会社京都書院が発行した書籍にも、P4撮影による「夏梅」の写真が掲載されている(乙25)。このことから、東京芸大美術館に保存されている画像データには、原告書籍の出版の際に原告から寄贈されたリバーサルフィルム以外の画像が含まれており、そのために原告書籍と被告書籍の掲載物に違いが生じた可能性も否定できない。 (オ) 原告は、仮に東京芸大美術館から送付を受けたRGBデータを印刷用のCMYKデータに変換し得たとしても、変換後に色修正等を行わなければならず、時間と費用がかかり、本件印刷用データを用いた方が効率的である旨主張する。 しかし、そのことから直ちに、被告ニューカラー写真印刷が原告書籍の本件印刷用データを使用したと推認し得るものではない。 また、被告光村推古書院は、平成25年7月19日付けで東京芸大美術館長から原板使用を許可され、同年9月20日に初版第1刷を発行しているが、このような日程で東京芸大美術館から送付を受けた画像データを用いて被告書籍を制作することが不可能であるとは認めるに足りず、被告光村推古書院の取締役の作成した陳述書(乙19)のとおりの制作日程であったとすればなおさらである。 また、被告ニューカラー写真印刷に支払われた制作費用は、被告書籍の方が原告書籍よりも低額となっているが、原告書籍と被告書籍とでは、製本形式、表紙、外装、サイズに違いがある上、ポジフィルムをスキャニングする工程の有無の違いもあるから、制作費用に差が生じるとしても不合理ではない。 したがって、原告の上記主張は採用できない。 ウ まとめ 以上からすれば、被告ニューカラー写真印刷が、被告書籍の出版に当たり、本件絵画データを使用したと認めることはできない。したがって、本件の被告ニューカラー写真印刷に対する各請求のうち、本件絵画データの使用を前提とするものは、その余について判断するまでもなく、理由がない。 これに対し、被告ニューカラー写真印刷が被告書籍の出版の際に本件写真データを使用したことは当事者間に争いがないため、以下では、本件写真データの使用との関係で、原告の被告ニューカラー写真印刷に対する各請求を検討することとする。 (2) 争点2(原告が本件印刷用データを所有しているか)について ア 前提事実のとおり、被告ニューカラー写真印刷は、本件印刷用データが保存された記録媒体を所持している。 ここで、民法上の所有権の客体である「物」は「有体物」に限定されており(民法85条)、本件印刷用データそれ自体は、デジタル化された情報であり、無体物であるため、所有権の客体たり得ず、原告が同データを所有する旨の原告の主張は、採用することができない。 イ なお、原告の主張が、所有権そのものではなく、所有権に類似する本件印刷用データの使用・収益・処分権を問題とする趣旨であったとしても、次のとおり、採用することができない。 すなわち、本件印刷用データに関する権利の帰属を検討するに、後記(3)のとおり、原告と被告ニューカラー写真印刷は、原告書籍の出版の際、原告書籍に関する印刷・製本契約を締結したと認められるが、同契約は、所定の部数の原告書籍を印刷・製本し、注文者である原告に引き渡すことを目的とし、原告書籍を印刷・製本する過程は、請負契約において仕事を行う過程とみることができるから、請負契約と同様の規律に服すると解するのが相当である。そして、請負契約においては、請負の目的物以外については特段の規律は存せず、請負人が請け負った仕事をする過程で自己の材料を使用して作成した中間生成物については、それ自体として請負の目的物ではないから、契約当事者間でその所有権について合意をするなど特段の事情がない限り、その所有権は請負人に帰属するものと解すべきである。したがって、中間生成物が版下や製版フィルム等の有体物である場合には、特段の事情のない限り、それらの所有権は請負人に帰属することとなる。他方、印刷用データは有体物ではないが、請負契約の当事者において、中間生成物が有体物か否かで異なる取扱いをする合理的意思を有しているとは認められないから、仮に印刷用データに所有権類似の使用・収益・処分権が認められるとしても、特段の事情のない限り、なお請負人に属すると認めるのが相当であり、このことは、日本印刷産業連合会が平成12年3月に発行した調査研究報告書(甲44の2)において、「原則として、印刷データの所有権も印刷原版と同様に印刷事業者に帰属すると考えるのが一般的であろう」との認識が示されていることにも沿うものである。 これを本件についてみるに、本件印刷用データは、原告書籍の印刷・製本のために作成された中間生成物であり、原告と被告ニューカラー写真印刷との間に特段の合意はなされておらず、その使用・収益・処分権は、被告ニューカラー写真印刷に帰属すると認められる。 なお、原告は、本件印刷用データにつき、原告が所有する柴田是真の絵画や明治宮殿の写真のリバーサルフィルムが加工されたとして、民法246条が適用される旨主張するが、上記に照らして採用できない。 ウ したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告ニューカラー写真印刷に対する主位的請求は理由がない。 そこで、以下、本件写真データの使用に係る予備的請求1について検討する。 (3) 争点3(原告と被告ニューカラー写真印刷が、原告書籍の出版の際、本件合意をしたか)について 前記(1)アのとおり、原告書籍の出版の際に、原告は被告ニューカラー写真印刷に対して原告書籍の印刷・製本の対価を支払っているから、その前提として、原告と被告ニューカラー写真印刷は、契約書は作成していないものの、原告書籍に関する印刷・製本契約を締結したと認められる。 そこで、原告と被告ニューカラー写真印刷が、上記契約の締結に伴い、原告の主張するところの本件合意をしたかを検討する。 ア 認定事実 後掲証拠によれば、以下の事実が認められる。 (ア) 原告訴訟代理人は、大阪弁護士会に対し、平成27年11月、弁護士法23条の2第1項に基づき、日本書籍出版協会及び日本印刷産業連合会を照会先として、照会の申出をし、大阪弁護士会は、弁護士法23条の2第2項に基づく照会をした。原告訴訟代理人は、その際、「申出の理由」として、出版社である原告が印刷会社に原告の書籍の印刷・製本を委託して出版したところ、同印刷会社がその後に原告の了解を得ないまま、原告の書籍の印刷時に制作した印刷データを再使用して、別の出版社の書籍を印刷した旨、原告が同印刷会社及び同出版社を被告として提起した損害賠償請求訴訟において、出版社が費用を投じて印刷会社に制作させた印刷データを別の出版社の書籍の印刷に再使用する場合に、当該出版社の了解を得る必要があるかが争点となっている旨を記載した。また、原告訴訟代理人は、出版社と印刷会社の取引の実態について照会することとし、「印刷会社が、出版社Aの委託を受けて書籍の印刷・製本をするにおいて作成した印刷データを、出版社Bの書籍の印刷に再使用する場合について」、下記の「照会事項」を記載した。(甲43の1、44の1) 記 1 一般に、印刷会社は、出版社Bの書籍を印刷するにおいて、印刷データを再使用することにつき、印刷データに関する著作権者の了解さえ取り付けていれば、出版社Aの了解を取り付けることなく自由に再使用していますか(以下「照会事項1」という。)。 2 1の場合において、出版社Aの了解が取り付けられているのであれば、出版社A、出版社B、印刷会社の3者間の誰と誰との間で、どのような了解が取り付けられていますか(以下「照会事項2」という。)。 3 また、了解が取り付けられる際に、印刷用データの再使用について何らかの対価が支払われていますか。支払われているのであれば、一般的にその算定はどのように行われていますか(以下「照会事項3」という。)。 (イ) これに対し、日本書籍出版協会は、照会事項1につき、当該出版物を印刷するための印刷データの所有権の所在については個別のケースで判断すべきであるが、仮に印刷会社が印刷データの所有権を有していたとしても、本来の発注者である出版社の了解を得ずにそれを自由に再利用することは取引慣行上考えられない旨を、照会事項2につき、出版社A、出版社B、印刷所の3者間で相互に了解を取り付けて、同一の印刷データによって新たな出版物を印刷することは極めて稀であり、具体例について答える知見を有していない旨を、照会事項3につき、そのような例は稀であり、どれくらいの対価が支払われているかについての具体例の知見を有していない旨を、それぞれ回答した(甲43の2)。 (ウ) また、日本印刷産業連合会は、照会事項について正式な検討をしておらず、見解を公表していないため、回答ができないが、従来より印刷用版及び印刷用デジタルデータの権利問題という観点で検討してきた経緯があるとした上で、同会の委託を受けて財団法人産業研究所が平成2年6月に作成した「印刷産業における知的財産権に関する調査研究」において、印刷用版及び印刷用データ(著作権、所有権)に言及している部分があり、「印刷業者は、注文印刷物のために製作された印刷版を、注文者のためのみに使用することを要する。」との記載がある旨、同会が平成12年3月に発行した「印刷産業におけるデジタルコンテンツビジネスに関する調査研究報告書」には、「3.3 印刷用デジタルデータの権利帰属に関わる問題」において、「また、印刷事業者が印刷データの所有権を有している場合であっても、使用収益権については、著作権、肖像・パブリシティーの権利、商慣習、信義誠実の原則等により権利行使が事実上制限されている場合が多い。」との記述がある旨を紹介した。 (エ) 原告訴訟代理人は、平成27年12月、日本書籍出版協会の会員である420社に対し、上記(ア)の照会事項1ないし3と同じ事項について照会を行い、その際、同月10日付け「照会へのご協力のお願い」と題する文書(甲45)において、本件訴訟の提起に至る経緯及び訴訟での争点につき、上記の「申出の理由」と同趣旨の記載に、原告の出版した書籍がある絵師の絵画の書籍であることを付加して記載した。 これに対し、照会先から照会の趣旨がよく分からないとの問い合わせを受けたため、原告訴訟代理人は、同月11日付け「『照会へのご協力のお願い』の補足説明」と題する文書(甲52)を送付した。同文書には、原告が絵師の絵画の豪華本を出版した際に、多額の費用をかけて絵画の印刷用データを印刷会社に製作させ、同データが印刷会社に残されているところ、後行の出版社が同じ絵師の絵画を掲載した文庫サイズの書籍を出版し、同書籍に掲載されている絵画が原告の書籍に掲載されている絵画とほとんど同じであり、同書籍には原告の書籍に掲載した建物内部の写真が転載されている旨、原告が印刷会社及び後行の出版社に対して損害賠償を求める訴訟を提起したところ、印刷会社及び後行の出版社が同データの使用を争うとともに、印刷用データについては印刷会社に所有権があることを根拠に、同データの再使用について原告の許諾を得る必要はなく、対価を支払う必要もないとして、争っている旨、原告の主張は、先行の出版社が印刷会社に委託して製作させた印刷用データを二次使用して後行の書籍の印刷に利用する場合は、著作権者の了解を得るだけでなく、先行の出版社の許諾を得ることが出版業界や印刷業界では暗黙の合意になっており、そのような業界慣行が確立されており、一定の対価が支払われるというものであるところ、裁判所から、そのような暗黙の合意、業界慣行の確立、対価の支払という事実について明らかにするよう指示を受けた旨、原告としては、裁判所によって暗黙の合意や業界慣行の確立はないとの判決がされると、印刷用データの二次使用が先行の出版社の許諾なしに自由に行われるようになるのではないかと大変危惧しており、できるだけ多数の会員からのご回答を頂きたいと考えている旨が記載されていた。 (オ) これに対し、合計78社が回答書を返送した(甲46の1ないし46の78)。 照会事項1につき、「そもそも印刷データの所有権は当初の出版社にあり、このため、当然に使用許諾が必要となる」との回答が12社(全回答者中約15%)、「印刷データを再使用するにつき、当初の出版社に許諾・確認をとる必要がある」との回答が51社(全回答者中約65%)あったのに対し、「印刷データの再使用は、当初の出版社の了解を得ることなく自由に行うことができる」との回答はなく、「前例がないため分からない」との回答あるいは「回答なし」が15社(全回答者中約19%)あった(甲47の1)。 照会事項2につき、「出版社Aと出版社Bとの間で、合意書や覚書等を取り交わす(書面なしの場合あり)」との回答が25社(全回答者中約32%)、「三者間で、合意書や覚書等を取り交わす(書面なしの場合あり)」との回答が9社(全回答者中約12%)、「出版社Aと印刷会社との間で、合意書や覚書等を取り交わす(書面なしの場合あり)」、「その他(著作権者の了解が前提など)」との回答が10社(全回答者中約13%)あったのに対し、「前例がないため分からない」との回答あるいは「回答なし」が34社(全回答者中約44%)あった(甲47の2)。 照会事項3につき、「対価は支払われている、支払われるべきその算定基準は撮影にかけたコスト等で勘案する」との回答が14社(全回答者中約18%)、「対価は支払われている、支払われるべきその算定基準は販売機会損失を発行部数によって勘案、または、文庫本価格の数パーセント等の金額とする」との回答が3社(全回答者中約4%)、「対価は支払われている、支払われるべきその算定基準は不明(話し合い)」との回答が8社(全回答者中約10%)、「ケースバイケースで対価が支払われることもある」、「対価以外の方法で反映させるべき」との回答が14社(全回答者中約18%)あったのに対し、「前例がないため分からない」との回答あるいは「回答なし」が39社(全回答者中50%)あった(甲47の3)。 このうち、株式会社有斐閣の回答書(甲46の40)には、東京都印刷工業組合の「組合ガイド」が添付されており、同ガイドの「デジタル化に伴う『印刷用データ』の権利問題」との項目では、上記(ウ)の平成12年3月発行の調査研究報告書の「印刷用デジタルデータの権利帰属に関わる問題」の記載が引用されている。 イ 原告書籍の印刷・製本契約における本件合意の有無について (ア) 上記のとおり、日本書籍出版協会は、本来の発注者である出版社の了解を得ずに印刷データを自由に再利用することは取引慣行上考えられない旨回答している。 また、日本書籍出版協会会員の回答をみると、照会事項1について、回答者中63社(全回答者中約81%)が出版者Aの許諾が必要としており、許諾なしに自由に再利用できるとの回答はない。 さらに、日本印刷産業連合会は、照会事項について正式な検討をしておらず、見解を公表していないとしつつ、平成12年3月に同会が発行した調査研究報告書における、「印刷事業者が印刷データの所有権を有している場合であっても、使用収益権については、著作権、肖像・パブリシティーの権利、商慣習、信義誠実の原則等により権利行使が事実上制限されている場合が多い」との指摘を紹介しており、東京都印刷工業組合の「組合ガイド」においても同報告書の記載が引用されている。 このように、出版社側の立場にある日本書籍出版協会の会員の回答の約8割が、印刷会社は、印刷用のデータの再利用につき、当初の出版社の許諾を要するとの見解を示しており、会員を代表する立場にある同協会も、当初の出版社の許諾を要する旨の見解を示している。加えて、印刷業者を代表する立場にある日本印刷産業連合会も、印刷業者による印刷用のデータの使用が商慣習や信義則等により制限される場合が多い旨の指摘を紹介している。他方、印刷業者は、印刷用のデータの再利用につき、当初の出版社の許諾を要しないとの見解は、全く示されていない。 (イ) このようなアンケート調査の結果からすると、一般に、印刷・製本契約を締結した出版社と印刷業者との間では、印刷業者は、出版社の許諾を得ない限り、印刷用データの再利用をすることができないとの商慣行が存在していると認めるのが相当である。そして、本件においても、前記(1)アのとおり、原告書籍の印刷・製本の費用には本件印刷用データの製作費用が含まれると認められ、原告は、東京芸大美術館に対して作品撮影料50万円を支払っていなかったとしても、被告ニューカラー写真印刷に対し、本件印刷用データの作成に要する高額の費用を対価として支払っており、上記の商慣行が妥当しない事情は見いだせない。 以上を踏まえると、原告と被告ニューカラー写真印刷との間の原告書籍に関する印刷・製本契約では、上記の商慣行にのっとり、被告ニューカラー印刷は、原告の許諾を得ない限り、本件印刷用データの再利用をすることができないとの黙示の合意がされたと認めるのが相当であり、そうでないとしても、被告ニューカラー印刷は、印刷・製本契約に付随して、原告の許諾を得ない限り、本件印刷用データの再利用をすることができないとの義務を信義則上負うと解するのが相当である。 (ウ) これに対し、被告らは、照会事項の内容は、著作権や著作権者が存在するなど、本件とは異なる事実関係を前提とし、原告は、照会の補足説明等に、被告らが原告書籍の印刷データをほぼそのまま使って、原告書籍と同一又はほぼ同じ内容の書籍を出版していると理解される内容を記載し、出版社の危惧をあおり、回答内容を誘導したと主張する。 確かに、原告訴訟代理人の照会の際に作成した文書には、本件訴訟、争点及び各当事者の主張の概要が付加されて記載されている。 しかし、原告の照会事項は、出版社と印刷業者の間での印刷データの取扱いに関する取引慣行を問うものであり、著作権や著作権者の有無が回答内容に直接に影響を及ぼすとは考え難い。そして、被告書籍の内容が原告書籍と同じであることや、原告が抱く危惧など、原告訴訟代理人が作成した文書に記載された内容は、原告の見解を述べるものにとどまり、照会事項それ自体は、照会事項1の冒頭に「一般に」として、本件の事案とは離れた抽象的な事例を想定して、出版社と印刷業者の間の取引慣行に関する一般的な考え方を問うものであると読み取ることができ、回答者が回答の要否、内容を自らの意思で判断することができずに回答内容を誘導されたと認めることはできない。 また、被告らは、平成28年における日本書籍出版協会の会員出版社は423社であるところ、回答したのはその一部の78社(約18%)にすぎず、回答の中には、本件とは異なる事実を前提とするものがあると主張する。 確かに、上記のアンケートには同協会の会員の一部しか回答していないものの、照会事項への回答が訴訟の帰趨に関わることを考慮すれば、78社という回答数は少ないとまではいえない上、会員を代表する立場にある同協会からの回答が得られている。また、原告は、印刷業者に対する照会を行っていないが、印刷業者を代表する立場にある日本印刷産業連合会に対して照会を行い、回答が得られている。そして、回答内容は、本件と異なる事実関係を前提としていたとしても、それぞれ、照会事項に対応するものであると認められる。 したがって、被告らの上記各主張は、採用することができない。 ウ まとめ 以上によれば、被告ニューカラー写真印刷は、原告書籍に関する印刷・製本契約の締結に伴い、原告との間の黙示の合意又は信義則に基づき、原告の許諾を得ない限り、本件印刷用データの再利用をすることができないとの義務を負っていたと認められる。 (4) 争点6(原告は、本件写真データの使用を許諾したか)について 事案に鑑み、先に争点6ないし8を検討する。 ア 認定事実 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (ア) 原告は、原告書籍を出版するに当たり、宮内庁の許可を得て、その所蔵する本件写真を株式会社エスエス東京に撮影させ、同社に対して撮影料として6万9300円を支払い、これを基に被告ニューカラー印刷において本件写真データを作成し、原告書籍に使用された(甲6ないし8)。 (イ) 被告光村推古書院は、宮内庁長官官房用度課に対し、平成25年7月12日、本件写真の複写転載を願い出て、同課は、同月29日、被告書籍において、原告書籍から複写転載するという方法により本件写真を使用することを承認した(甲36)。 (ウ) 被告光村推古書院の代表取締役であるP9は、被告書籍を出版するに際し、同年8月8日、原告の当時の取締役であり現在の代表取締役であるP10に対し、電話をかけ、柴田是真に関する書籍を出版する予定である旨、原告書籍に掲載した写真を転載したい旨を伝えた(甲59、60)。 P9は、P10に対し、同月19日、ファックスにより、本件写真を転載したページ、カバー見本及び書店用注文書用紙のチラシ(乙4)を送信し(甲57の1ないし57の3)、被告光村推古書院は、原告に対し、同月21日、被告書籍1冊を送付し、その際に同封された文書(甲58)には、「2005年の御社が出版された『柴田是真 下絵・写生集』より、写真2点転載させていただいております(317ページ)。掲載はもちろん編著者からの要望があったもので、宮内庁の了解もいただいております。転載につきまして連絡が遅れましたこと、お詫び申し上げます。」と記載されていた。 (エ) 原告は、被告光村推古書院に対し、同年9月2日付けの文書(乙7)を送付し、その中で、「拝復 御社刊『柴田是真の植物図』拝見致しました。同業でこのような本を無断出版されることに、驚きと怒りを禁じえません。」とした上で、「企画から出版に至る経緯と当社の『柴田是真下絵・写生集』(2005年刊)との位置付けを教えて下さい。」、「印刷所が当社本と同じですが、NC(ニューカラー写真印刷)のデータを使用しなかったという証明をして下さい。」、「明治宮殿千種の間の写真2点のみ無断転載のことを述べられるのは何故ですか?この2点の撮影経緯をご存じですか?」などと質問を記載した。 被告光村推古書院は、原告からの質問を受け、原告に対し、同月3日付けの文書(甲59)を送付し、同文書には、「千種の間の写真転載については、・・・8月8日、書面ではなく、電話ではありますが、貴社に転載の旨をお伝えいたしました。」と記載されている。 これに対して、原告が被告光村推古書院に送付した同年9月6日付けの文書(甲60)には、「千種の間の写真無断転載は明らかに版面権の侵害です。・・・出版直前になって、許可願でもなく転載した旨の電話とコピーと手紙をもらっただけです。もちろん弊社は転載許可をしておりません。」と記載されている。 これを受けて、被告光村推古書院が原告に送付した同月11日付けの文書(甲61)には、同年8月8日にP10に出版、転載、転載写真の詳細の件を電話にて伝え、その際、P10から出版に際し好意的な言葉をいただき、しばらく転載不許可などの連絡がないので許諾と受け取った旨が記載されている。 イ 原告の許諾の有無について 被告らは、P9は、P10に電話をかけた際、本件写真の掲載について、被告ニューカラー写真印刷が保管している本件写真データを使用することを説明した旨主張し、P9の陳述書(乙31)には、同人がP10に対し、平成25年8月8日に電話をかけた際、被告書籍を出版する旨、原告書籍から本件写真を転載する旨を伝えた旨が記載されている。 確かに、P9がP10に対して同日に電話をかけた際、柴田是真に関する書籍を出版する予定である旨、原告書籍に掲載した写真を転載したい旨を伝えたことが認められる。 しかし、これに対する原告側の応答は、前記の被告光村推古書院が原告に送付した同年9月11日付けの文書によっても、出版に際し好意的な言葉を述べ、しばらく転載不許可などの連絡がなかったというにとどまり、被告光村推古書院側が転載の具体的な態様を告げたとも認められないから、この対応をもって原告が本件写真データの使用を許諾したと認めることはできない。 また、原告は、被告光村推古書院が同年8月21日に原告に対して被告書籍1冊を送るとともに、同封された文書において、本件写真を転載した旨を記載したのに対し、原告は、同年9月2日付けで被告光村推古書院に対して送付した文書において、被告書籍の印刷所が被告ニューカラー写真印刷であることにつき、本件写真データを含む本件印刷用データの使用の有無を問い合わせ、同月6日付けの文書において本件写真を無断転載されたとの見解を示しているのであるから、原告は、合理的な期間内に転載について異議を述べたということができ、このことからしても、原告が本件写真データの利用を許諾したと認めることはできない。 したがって、原告が本件写真データの使用を許諾したと認めることはできない。 (5) 争点7(本件写真データの使用について、著作権法32条1項が類推適用されるか)について 被告らは、著作権法32条1項の類推適用により、原告の許諾がなくとも本件写真データを使用できる旨主張する。 この点、同項は、公正な慣行に合致し、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われる限りで、著作権者の許諾を得ることなく、公表された著作物を自己の作品に採録して利用することができるとしているが、その趣旨は、新たな表現行為を行う上で、その内容上、既存の著作物を利用する必要があることを考慮した点にある。 これに対し、本件写真データの使用につき原告の許諾を要するか否かは、被告書籍を出版する際に、原告書籍に掲載された本件写真を転載する方法に関わる事項であるにすぎず、本件写真を転載するに当たり、原告書籍のために作成された本件写真データを利用する内容上の必要性があるというわけではないから、同項の類推適用の基礎を欠くというべきである。 したがって、本件において同項を類推適用することはできず、被告らの上記主張は、採用することができない。 (6) 争点8(損害額又は本件印刷用データの使用料)について ア 前記(3)のとおり、被告ニューカラー写真印刷は、原告に対し、原告の許諾を得ない限り、本件印刷用データの再利用をすることができないとの義務を負うところ、原告に無断で被告書籍に本件写真データを使用したと認められるから、債務不履行による損害賠償責任を負う。 なお、本件写真データを構成する写真は2枚にとどまるものの、被告ニューカラー写真印刷が、原告書籍とは書籍のサイズ等の形態を変えながらも、柴田是真に関わる絵画、写真を題材にしたという点で内容が競合する被告書籍において、同データを無断で使用したことに鑑みると、使用した写真データが2枚にとどまるからといって、上記の債務不履行としての違法性を有しないとは認められない。 イ そこで、損害額を検討するに、前記(4)アのとおり、原告は、原告書籍の出版の際、本件写真の撮影を株式会社エスエス東京に依頼し、同社に6万9300円を支払った。また、原告は、他社から原告が出版した書籍に掲載された写真3枚を紹介映像に使用したい旨の依頼を受けた際、1枚当たり3万円(税別)の使用料の支払を条件として、使用を許可している(甲54の1、54の2、62)。 これらからすると、原告は、被告ニューカラー写真印刷に本件写真データの再利用を許諾する際には、相当額の使用料を徴収していたと考えられるから、その使用料相当額が上記の債務不履行に係る損害額となると解するべきである。そして、上記の諸点を考慮すると、本件写真データの使用料は、写真1枚につき3万円と認めるのが相当であり、原告は、2枚の写真から成る本件写真データの使用料相当額の損害を被っているから、予備的請求1に係る損害額は、6万円となる。 ウ これに対し、被告らは、被告書籍の出版が原告書籍の売上げを減少させたとはいえない旨主張する。 しかし、原告は、原告書籍の売上げの減少による損害の賠償を求めているのではなく、被告書籍の出版の当時に原告書籍が品切れであったとしても、本件写真データの使用につき許諾を求められた場合には使用料の支払を請求し得たというべきであるから、被告ニューカラー写真印刷の債務不履行による損害の発生は否定できず、同被告は、債務不履行責任を免れることができない。 (7) 争点5(被告ニューカラー写真印刷又は被告光村推古書院は、被告書籍のために本件印刷用データを再利用する場合に原告の許諾を得た上で使用料を支払う旨の慣習法上・条理上の義務又は不文律違反の不法行為責任を負うか)について 本争点は予備的請求2に係るものであるが、以上で検討したところからすると、仮に本争点について被告ニューカラー写真印刷の責任が認められるとしても、それによる損害額が上記(6)で認定した額を超えるとは認められないから、本争点について検討するまでもなく、予備的請求1に係る後記認容額を超える部分に係る予備的請求2は理由がない。 2 被告光村推古書院関係について (1) 先に争点1について述べたとおり、被告書籍を出版するに当たり、本件絵画データが使用されたとは認められないから、本件での被告光村推古書院に対する各請求のうち、本件絵画データの使用に係るものについては、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。 また、本件写真データの使用に係る請求のうち、主位的請求(所有権侵害に基づく請求)は、先に争点2について述べたとおり、本件印刷用データに対する原告の所有権は認められないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告光村推古書院に対する主位的請求は理由がない。 そこで、被告光村推古書院に対する予備的請求1のうち本件写真データに係るものについて検討する。 (2) 争点4(被告光村推古書院は、本件合意を知りながら被告ニューカラー写真印刷に本件印刷用データを使用させたとして、不法行為責任を負うか)について ア 原告は、被告ニューカラー写真印刷をして本件写真データを無断使用させて被告書籍を印刷・製本させた被告光村推古書院の行為が不法行為を構成する旨主張する。この主張は、被告光村推古書院が、被告ニューカラー写真印刷による債務不履行に加担したことが、原告が被告ニューカラー写真印刷に対して有する債権侵害としての不法行為を構成するとの趣旨であると解される。 イ そこで検討するに、前記1(4)アのとおり、被告光村推古書院は、自ら宮内庁長官官房用度課から本件写真の複写転載の許可を受け、原告に対し、平成25年8月8日に原告書籍に掲載した写真を転載したい旨を伝え、同月19日に本件写真を転載したページ等をファックス送信し、同月21日に被告書籍1冊とともに本件写真の転載の連絡文書を送付している。また、原告からの問い合わせを受け、被告光村推古書院は、同年9月11日付けの文書において、同年8月8日の電話後の原告の対応から、本件写真の転載につき、原告の許諾が得られたものと理解した旨の見解を示している。これらからすると、被告光村推古書院は、被告ニューカラー写真印刷が所持している本件写真データが、原告との間での原告書籍に関する印刷・製本契約に基づいて作成されたものであることを認識していたといえる。また、被告光村推古書院も出版社である以上、前記認定に係る商慣行を認識していたはずであるから、被告ニューカラー写真印刷が、原告に対し、原告の許諾を得ない限り、本件印刷用データの再利用をすることができないとの義務を負っていることも認識していたといえる。 しかるに、被告光村推古書院は、出版社として被告書籍の企画・構成を決定し、自ら、宮内庁官房長官用度課から本件写真の複写転載の許可を受けて、原告からの許諾を得ないまま、被告ニューカラー写真印刷と共同して本件写真データを被告書籍に使用したのであるから、被告光村推古書院は、被告ニューカラー写真印刷の債務不履行に積極的に加担したといえる。 ウ したがって、被告ニューカラー写真印刷に本件写真データを使用して被告書籍の印刷・製本をさせた被告光村推古書院の行為は、原告が被告ニューカラー写真印刷に対して有する債権侵害としての不法行為を構成すると認められ、被告光村推古書院は、原告に生じた損害について、不法行為による損害賠償責任を負う。 エ そして、予備的請求1に係る損害額(争点8)については、先に検討したとおり、本件写真データの使用料相当額として6万円と認めるのが相当である。 (3) 被告光村推古書院に対する予備的請求2ないし4に係る争点5については、前記と同様、仮に本争点について被告光村推古書院の義務又は責任が認められるとしても、それによる使用料又は損害額が前記で認定した額を超えるとは認められないから、本争点について検討するまでもなく、予備的請求1に係る後記認容額を超える部分に係る予備的請求2ないし4は理由がない。 3 各被告に対する請求認容額について 以上の検討からすると、被告ニューカラー写真印刷の債務不履行によって原告に生じた損害と、被告光村推古書院の不法行為によって原告に生じた損害は、本件写真データの使用料相当額という同一の損害であり、いずれかの被告から賠償を受ければ損害の全部が填補されることになるから、被告らの損害賠償債務は、不真正連帯債務の関係にあると認められる。 他方、本件において、原告は、各被告に対して300万円の損害賠償及びその遅延損害金の支払を求め、合計して600万円の損害賠償及びその遅延損害金の支払を求めているから、原告の請求は、原告が被ったと主張する合計600万円の損害について、被告ごとに損害額を分割して、一方の被告に対してその一部である300万円及びその遅延損害金の支払を求め、他方の被告に対してその残部である300万円及びその遅延損害金の支払を求める趣旨であると解される。そうすると、本件では、原告の損害額が6万円であると認められるから、各被告について、3万円の損害賠償及びその遅延損害金の限度で認容することとするのが、上記の請求の趣旨に合致するものというべきである。 4 結論 以上のとおり、被告ニューカラー写真印刷との関係では、原告の主位的請求は理由がなく、予備的請求1に基づき、債務不履行による損害賠償として3万円及びこれに対する平成27年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、それを上回る部分の請求に係る予備的請求2は理由がない。 また、被告光村推古書院との関係では、原告の主位的請求は理由がなく、予備的請求1に基づき、不法行為による損害賠償として3万円及びこれに対する平成27年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、それを上回る部分の請求に係る予備的請求2ないし4はいずれも理由がない。 よって、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 松宏之 裁判官 田原美奈子 裁判官 林啓治郎 (別紙)二次的利用対比一覧表
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