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【事件名】広告写真の著作物性事件(2)
【年月日】平成28年6月23日
 知財高裁 平成28年(ネ)第10025号 売掛金請求控訴事件
 (原審・千葉地裁松戸支部平成27年(ワ)第209号)
 (口頭弁論終結の日 平成28年5月17日)

判決
控訴人 X
被控訴人 株式会社ヤカ
同訴訟代理人弁護士 小坂重吉


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、2303万6400円及びこれに対する平成27年3月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
第2 事案の概要等(略称は原判決のそれに従う。)
1 本件は、原判決別紙写真目録記載(4)、(5)、(7)ないし(14)、(17)ないし(25)、(27)、(30)、(32)、(34)及び(36)ないし(38)の各写真データである本件写真データにつき控訴人が著作権を有するにもかかわらず、被控訴人が本件写真データを使用して作成したチラシをメガネサロントミナガのホームページである本件ホームページに掲載した行為は控訴人の著作権(複製権)を侵害する旨主張して、控訴人が、被控訴人に対し、著作権侵害の不法行為による損害賠償及びこれに対する不法行為の日より後の日である平成27年3月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 原判決は、本件写真データは思想又は感情を創作的に表現したものとは認められず、著作物性があるとはいえない旨判示して、控訴人の請求を棄却した。控訴人はこれを不服として控訴した。
3 前提事実、本件における争点及び争点に対する当事者の主張は、原判決5頁11行目の「処理によって」を「処理に」と訂正し、後記4のとおり当審における当事者の主張を補充するほかは原判決「事実及び理由」第2の2ないし4に記載のとおりであるから、これを引用する。
4 当審における補充主張
(控訴人の主張)
 本件写真データの著作物性につき、以下の点で原判決は誤りである。
(1) 原判決は著作物性に関する裁判例に準ずる判断を行わなかったものであり、憲法14条1項、21条及び裁判所法4条に違反する。
(2) 控訴人は、被写体及びその組合せ並びに撮影時における眼鏡のつるの開き具合、配置、撮影方向及び背景色につき、自らの意思に基づき判断し選択したものであり、その判断には創作性がある。
 また、撮影時における眼鏡の配置、撮影方向、背景色に関する各選択や、つるを閉じた眼鏡を白い紙様の物で作られた筒の上に載せて撮影したこと、本件写真データの一部で眼鏡の左側のつるの外側に配置された黒ケント紙の上に白色の紙を配置して撮影したことにつき、原判決は、控訴人の工夫等による創作性を認め、本件写真データの著作物性を肯定したにもかかわらず、結論において著作物性を否定したものであり、その判断は矛盾した恣意的なものである。
(被控訴人の主張)
 控訴人の主張は争う。原判決の判断は正当であり、控訴人の前記主張はいずれも理由がない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、原判決9頁4行目の「本件眼鏡全部写真データ」を「本件眼鏡全体写真データ」と訂正し、後記2のとおり当審における当事者の主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第3のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における主張に対する判断
(1) 控訴人は、被写体及びその組合せ並びに撮影時における眼鏡のつるの開き具合、配置、撮影方向及び背景色につき、自らの意思に基づき判断し選択したものであり、その判断には創作性がある旨主張し、より具体的には、眼鏡のつるを開く角度、カメラと眼鏡との位置関係、つるを開いた眼鏡の撮影に当たりレンズを手前に、つるを奥に配置したことについて被控訴人やオフィス・ジノからの具体的指示はなかったなどと指摘する。
 しかし、控訴人は新聞折り込みチラシに使用する切り抜き用に本件写真データを作成したにとどまり、チラシそのものの作成ないしそのレイアウトの決定に関与する立場になかったことからすれば、上記の配置等について創作性を発揮する余地はほとんどなかったものと認められることや、実際にも、こうした配置等につき、本件写真データを使用して作成されたチラシに掲載されている、控訴人以外の者の撮影によるものと見られる眼鏡の写真と本件写真データとで格別相違がないことなどにかんがみれば、控訴人の指摘にかかる配置等は、注文者から特に具体的指示等がなくとも一般に採用されるものにすぎないことがうかがわれる。そうすると、控訴人の指摘に係る点を考慮しても、本件写真データにつき控訴人の思想又は感情を創作的に表現したものと見る余地はやはりないというべきである。
(2) また、控訴人は、原判決につきその説示する理由中に矛盾があり恣意的な判断である旨も主張する。
 しかし、原判決は、その判文全体に照らしてみれば、つるを閉じた眼鏡を白い紙様の物で作られた筒の上に載せて撮影したことや本件写真データの一部につき眼鏡の左側のつるの外側に配置された黒ケント紙の上に白色の紙を配置して撮影したことをも含め、控訴人が本件眼鏡を撮影するに当たり独自の工夫を凝らしたとは認め難く、本件写真データに創作性が存在するということはできない旨判断したものであることが明らかである。すなわち、原判決の判断には控訴人の主張するような矛盾はなく、その他恣意的と評するべき部分も見当たらない。
 以上より、これらの点に関する控訴人の主張はいずれも採用し得ない。
(3) 本件と控訴人指摘に係る裁判例とは事案を異にすることなどにかんがみると、原判決が憲法14条1項、21条及び裁判所法4条に違反するとする余地もない。
(4) 控訴人は、本件写真データの一部が著作権登録されたことの証拠として甲94ないし96を提出するが、著作権登録がされたとしても、それによって、その対象となったものに著作物性があることが確定されるわけではないのであるから、上記事実は、以上の認定判断を左右するものではない。
3 よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 鶴岡稔彦
 裁判官 杉浦正樹
 裁判官 寺田利彦
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