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【事件名】オークションカタログ事件B(2) 【年月日】平成28年6月22日 知財高裁 平成26年(ネ)第10019号 損害賠償請求控訴事件、平成26年(ネ)第10023号 損害賠償請求附帯控訴事件 (原審・東京地裁平成24年(ワ)第268号) (口頭弁論終結日 平成28年2月29日) 判決 控訴人兼被控訴人 X1 同 X2 同 X3 同 X4 同 X5 上記5名代表者 X1 (以下「原告X1」という。) 附帯控訴人兼被控訴人 グラフィックアート及び造形芸術作家協会 (以下「原告協会」という。) 2名訴訟代理人弁護士 市村直也 被控訴人兼附帯被控訴人兼控訴人 株式会社毎日オークション (以下「被告」という。) 訴訟代理人弁護士 井奈波朋子 主文 1 原告X1の控訴及び原告協会の附帯控訴並びに当審における原告らによる訴えの追加的変更に基づき、原判決を次のとおり変更する。 (1) 被告は、原告協会に対し、7862万4614円及びこれに対する平成22年12月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告は、原告X1に対し、893万8485円及びこれに対する平成22年6月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 2 被告の控訴を棄却する。 3 訴訟費用は、1、2審を通じてこれを5分し、その3を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、1項(1)及び(2)に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨等 1 原告X1の控訴の趣旨及び当審における追加請求(850万円及びこれに関する附帯請求の支払請求を超える分は、当審において追加的変更のあった請求部分である。) 原判決を次のとおり変更する。 (1) (主位的請求) 被告は、原告X1に対し、2209万0832円及びこれに対する平成22年6月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (予備的請求) 被告は、原告X1に対し、982万4499円及びこれに対する平成22年6月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は1、2審とも被告の負担とする。 (3) 仮執行宣言 2 原告協会の附帯控訴の趣旨及び当審における追加請求(8650万円及びこれに関する附帯請求の支払請求を超える分は、当審において追加的変更のあった請求部分である。) 原判決を次のとおり変更する。 (1) (主位的請求) 被告は、原告協会に対し、1億8125万4733円及びこれに対する平成22年12月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (予備的請求) 被告は、原告協会に対し、8156万0616円及びこれに対する平成22年12月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は1、2審とも被告の負担とする。 (3) 仮執行宣言 3 被告の控訴の趣旨 (1) 原判決中被告の敗訴部分を取り消す。 (2) 原告らの請求をいずれも棄却する。 (3) 訴訟費用は1、2審とも原告らの負担とする。 第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は、@フランス共和国法人である原告協会が、その会員(美術作品の著作者又は著作権承継者)から美術作品(以下「会員作品」という。)の著作権の移転を受け、著作権者として著作権を管理し、A原告X1が、亡パブロ・ピカソ(以下「ピカソ」という。)の美術作品(以下「ピカソ作品」という。)の著作権について、フランス民法1873条の6に基づく不分割共同財産の管理者であって、訴訟当事者として裁判上において、同財産を代表する権限を有すると主張した上で、原告らが、被告に対し、被告は、被告主催の「毎日オークション」という名称のオークション(以下「本件オークション」という。)のために作成したカタログ(以下「本件カタログ」という。)に、原告らの利用許諾を得ることなく、会員作品及びピカソ作品の写真を掲載しているから、原告らの著作権(複製権)を侵害しているなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求ないし悪意の場合の不当利返還請求として、(ア)原告協会につき1億5564万1860円の一部請求として8650万円及びこれに対する最終不法行為の日の後である平成22年12月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、(イ)原告X1につき1696万1560円の一部請求として850万円及びこれに対する最終不法行為の日の後である同年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求めた事案である(請求額は原審段階のものである。)。 原審は、平成25年12月20日、原告らの請求のうち、原告協会については、4094万4350円の支払請求及びこれに対する附帯請求部分を、原告X1については、441万7000円の支払請求及びこれに対する附帯請求部分を認容する旨の判決を言い渡したところ、原告X1及び被告は、敗訴部分につき全部控訴し、原告協会は、敗訴部分につき全部附帯控訴した。 その後、当審において、原告らは請求を拡張し、最終的な被告に対する請求内容は、原告協会については、1億8125万4733円及びこれに対する平成22年12月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金であり、原告X1については、2209万0832円及びこれに対する同年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金である。 被告は、全ての請求について棄却を求めるとともに、原告X1の原告適格を争い、原告X1の訴えについては本案前の答弁として却下を求める。 2 前提事実 (1) 原告ら ア 原告協会 原告協会は、フランス共和国において、1986年11月7日、「1985年7月3日付けフランス共和国著作権並びに実演家、レコード製作者及び放送事業者の権利に関する法律」38条の規定(当該規定は「知的所有権法典に関する1992年7月1日の法律」321の1条1項に引き継がれている。)に基づき、グラフィックアート及び造形芸術の作家の著作権使用料に関する使用料徴収分配を目的として設立された法人である。 原告協会は、その定款に賛同して加入した会員(美術作品の著作者又は著作権承継者)から会員作品の著作権管理の委託を受け、その著作権管理(利用許諾、使用料徴収、訴訟提起等)を行っている。 (甲1の1、1の2、2、4) イ 原告X1 原告X1は、1973年4月8日に死亡したピカソの相続人の1人である。 原告X1は、パリ大審裁判所の1989年3月24日付け急速審理命令(以下「本件急速審理命令」という。)により、不分割共同財産であるピカソの著作権の管理者(代表者)に指名された。 (甲5、6、弁論の全趣旨) ウ 原告らの日本国内における著作権管理 原告協会は、日本国内における著作権管理に関し、著作権等管理事業法に基づく著作権等管理事業者として登録された一般社団法人美術著作権協会(以下「SPDA」という。)に対し、著作権管理(利用許諾及び使用料徴収)を委託していた。また、原告X1も、SPDAに対し、ピカソ作品の著作権管理を委託していた。 その後、日本国内における美術の著作物の著作権管理を一本化する目的で、一般社団法人日本美術著作権協会(以下「JASPAR」という。)が平成24年1月に設立された。JASPARは、同年2月1日、著作権等管理事業法に基づく著作権等管理事業者として登録され、同年3月23日、その使用料規程を文化庁長官に届け出、同年4月23日より著作権管理業務を開始した。現在、原告協会は、JASPARに対し、著作権管理を委託している。 (甲301〜304、弁論の全趣旨) (2) 被告 被告は、平成13年10月1日、株式会社毎日コミュニケーションズからの会社分割により設立されたオークション、展覧会の企画、立案、実施等を目的とする株式会社である。 (甲8の1) (3) 本件オークション 本件オークションでは、@絵画・版画・彫刻、A西洋装飾美術、Bジュエリー&ウォッチ、C日本陶芸・茶道具・古美術の4つのジャンルが設定され、そのジャンルごとに公開入札方式でオークションが開催された(オークション開催日の2〜3日前に下見会が開催された。)。被告は、平成14年1月から平成22年12月までの9年間に、少なくとも95回(105冊のオークションカタログを発行)の絵画・版画・彫刻ジャンルのオークションを開催した(別紙1毎日オークションカタログ一覧表参照)。 (甲8の2、弁論の全趣旨) (4) 本件カタログ 本件カタログ(A4版型)は、オークションの開催期日ごとに作成され、被告の会員に配布された(本件カタログにはオークションの回数が号番号として付される。)。被告は、本件カタログの作成に際し、掲載する作品の写真撮影、掲載する内容、掲載方法等を決定し、本件カタログには、作品の写真、題号、作者、内容の説明、予想落札価格等が掲載された。 (甲8の2、弁論の全趣旨) (5) 原告協会と被告との和解 原告協会と被告とは、平成22年9月21日、東京地方裁判所平成21年(ワ)第232号事件において、@被告は、原告協会に対し、マリー・ローランサン、マルク・シャガール及びジャン・ピエール・カシニョールの美術作品を平成21年12月31日までの間本件カタログに無断複製した著作権侵害につき、SPDAの使用料規程に基づき算定した使用料相当損害金として3306万4000円を支払う、A原告協会と被告は、上記@以外の会員作品を本件カタログに無断複製した著作権侵害につき、SPDAの使用料規程に基づき算定した使用料相当損害金を基礎として清算処理の協議を行うことを合意する、B被告は、原告協会に対し、上記Aの清算処理が完了するまでは、会員作品を50平方センチメートルを超える表示の大きさで本件カタログに複製しないことを確約する、などを内容とする和解を成立させた(以下「前件和解」という。)。しかし、原告協会と被告との間で、清算処理の協議は完了していない。 (甲10、弁論の全趣旨) なお、本件における原告協会の請求は、前件和解契約の債務不履行責任を追及するものではない。 (6) SPDAの使用料規程 SPDAの使用料規程のうち、本件に関連するものは、以下のとおりである。 「3、出版等 印刷、写真・複写、その他の方法により著作物を可視的に複製する場合の使用料は、一著作物に対し下記料率を適用する。但し委託者の同意がある場合は、利用許諾契約において、下記使用料を下廻る金額を定めることができる。 (1) 書籍(モノグラフィーを除く)(源泉税10%を含む) イ、単行本(教科書を含む)/(単位:円)
(甲9) (7) JASPARの使用料規程 JASPARの使用料規程のうち、本件に関連するものは、以下のとおりである。 「第1 総則 1 一般社団法人日本美術著作権協会(以下「本協会」という。)が実施する著作権等管理事業において適用する著作物使用料は、下記の区分に応じて、第2の(1) ないし(4)に定める額とする。
「第2 著作物使用料 1 書籍 (1) 単行本{(2)に含まれるものを除く} ア 基準料金
イ 事前に利用許諾手続きを完了する場合の優遇料金(以下「優遇料金」という。)
(2) 文庫版、新書版又はそれに準じる版型のもの。 基準料金・優遇料金ともに、上記(1)の料金の80%とする。」 (甲304) 第3 争点及びこれに関する当事者の主張 1 争点 (1) 原告X1の当事者適格の有無(争点1) (2) 著作権移転の有無(争点2) (3) 被告の複製権侵害の態様と原告らの損害額(争点3) (4) 利用許諾の有無(争点4) (5) 本件カタログが展示に伴う小冊子(著作権法47条)に当たるか(争点5) (6) 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権法32条1項)に当たるか(争点6) (7) 原告らの請求が権利濫用に当たるか(争点7) 2 争点に関する当事者の主張 (1) 原告X1の当事者適格の有無(争点1) (原告X1の主張) ア パブロ・ピカソは1881年にスペインのマラガで生まれたスペイン人であるが、1904年にパリに移住した後、1973年にムージャンで死亡するまでの間、フランスに居住して創作活動を行っていた。したがって、ピカソ作品に係る著作権の相続には、被相続人たるパブロ・ピカソの死亡当時の住所地法であるフランス法が適用される。そして、ピカソの著作権は、フランス民法の規定に基づき、原告X1、X2、X3、X4及びX5の5名に承継され、これらの相続人によって不分割財産に留め置かれた。 原告X1は、パリ大審裁判所の本件急速審理命令により、フランス民法上の不分割共同財産であるピカソの著作権につき同法1873条の5から1873条の9までに規定された諸権能を有する不分割財産の代表者に指名された。同法1873条の6第1項は、「管理者は、あるいは民事生活上の行為について、あるいは原告又は被告として裁判上で、その権限の範囲内で不分割権利者を代表する」と規定しており、原告X1は、この権限に基づき、本訴を提起した。したがって、本訴において、原告X1につき、第三者の訴訟担当のうち法定訴訟担当(担当者のための法定訴訟担当)としての当事者適格が問題となる。 イ 渉外的要素を含む法定訴訟担当の当事者適格に関し、理論的な説明方法の違いはともかく、「訴訟担当権限が被担当者と担当者間の実体的な法律関係から派生するものとは認められない場合には、その訴訟担当は純粋の訴訟上の制度であるから『手続は法廷地法による』の原則の適用がある(法廷地法が準拠法となる)」が「訴訟担当権限が被担当者と担当者の実体的な法律関係から派生する場合には、被担当者と担当者の実体的法律関係に適用される準拠法により訴訟担当権限の有無が判断される」という結論には、学説上、ほぼ異論がない。 上記アのとおり、本訴における原告X1の訴訟担当権限は、「被担当者と担当者の実体的な法律関係から派生する場合」に当たるから、本訴における当事者適格は、被担当者と担当者の実体的法律関係に適用される準拠法、すなわちフランス民法の定めにより判断されることになる。 ウ 本訴における被担当者と担当者の実体的法律関係は、フランス民法の規定に基づく不分割共同財産制度に関するものであり、その不分割共同財産に係る共同権利者及び代表者は、原告X1らフランス人である。原告X1は、フランスの裁判所の命令により、フランス民法に基づく不分割共同財産の代表者に指名され、フランス民法が定める不分割共同財産に関して、訴訟上及び訴訟外の実体的な代表権が認められている。そして、同命令により、他の共同権利者らにおいてはピカソの著作権に関する何らかの管理行為や措置をとることが禁止された。このような事情の下で、訴訟担当者である原告X1と被担当者である他の共同権利者との間の実体的法律関係に適用される準拠法が、フランス法になるのは、当然のことである。 これを、法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)の規定に即して検討すると、不分割共同財産制度がそもそも当事者間の合意を基礎とする制度である点に着目し、法律行為の成立及び効力の問題とみて、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法(通則法8条1項)たるフランス法が準拠法であると解することもできるし、また、原告X1と他の共同権利者らがいずれも親族である点に着目して、親族関係及びこれによって生ずる権利義務(通則法33条)の問題であるとみて、当事者の本国法たるフランス法が準拠法になると解することもできる。さらに、通則法には不分割共同財産制度に関する直接の定めがないから、抵触規定の欠缺とみて、条理により最密接関連地法たるフランス法になると解することも可能である。いずれにしても、本訴において、被担当者と担当者の実体的法律関係を定める準拠法がフランス法(フランス民法)となることは、疑いがない。 エ なお、外国裁判の承認に関する民事訴訟法(以下「民訴法」という。)118条に関し、非訟事件の裁判の承認については、同条が定める要件の全てを満たす必要はなく、間接管轄(1号)及び公序(3号)の2要件を満たせば足りると解されている。本件急速審理命令は、非訟事件の裁判に当たるから、間接管轄がパリ大審裁判所に認められ、その内容及び手続が我が国における公の秩序又は善良の風俗に反するものでない以上、同命令は我が国において有効である。仮に、非訟事件の裁判においても相互保証(4号)の要件を満たす必要があるという見解に立ったとしても、形式審査主義を採用している現行法においては、相互保証ありと解すべきである。 (被告の主張) ア 当事者適格の準拠法については、概ね、手続法の問題として法廷地法によるとの考え方と、実体準拠法の問題であるとする考え方に分かれる。これらいずれの考えによるべきかを判断する基準として、訴訟担当権限が、被担当者と担当者間の実体的な法律関係から派生するものとは認められない場合には、手続は法廷地法によるとの原則に従い、逆に、訴訟担当権限が、被担当者間の実体的な法律関係から派生する場合には、被担当者と担当者の実体的法律関係に適用される準拠法により訴訟担当権限の有無が判断されるとの考え方が提唱されている。 イ 当事者適格を手続法の問題として捉え、法廷地法を準拠法にするのであれば、日本法が適用され、我が国の民訴法及び著作権法いずれにも、共同著作権者のうちの1人に訴訟上、損害賠償請求権を行使させる訴訟担当制度はなく、原告X1が、他の共同著作権者の持分に相当する損害賠償請求権を行使するにつき、当事者適格は認められない。 実体準拠法の問題であるとすると、我が国の著作権法が適用されることになり、著作権法117条により、原告X1には、他の共同著作権者の持分に相当する損害賠償請求権を行使するにつき、当事者適格は認められない。 ウ 本訴においては、共有著作物に対する損害賠償請求権を行使する者の資格を定める準拠法が問題となるが、これは、著作権の直接的利用から派生する権利を誰が行使できるかという著作権の効力に関する問題であり、通則法13条が物権の得喪について所在地法の適用を定めていることと同様の理由により、保護国法が適用される。 したがって、原告X1は、我が国の著作権法により、自己の持分に関する損害賠償請求権を超える他の共有者の損害賠償請求権を行使する資格はない。 エ ピカソの移住、死亡地、居住地については知らないし、ピカソの相続人らが不分割財産合意をした証拠はないが、その点をおくとしても、我が国の著作権法及び民法には、フランス民法が定める不分割財産という制度も存在せず、保護国法である我が国の著作権法及び民法によれば、著作権は相続人の間で共有され、相続によって著作権を承継した者は、持分の範囲内でしか権利行使はできない。 オ 急速審理命令は、本案受理判事ではない判事が即時に必要な処分を命ずる権限を法律が与えている場合に、当事者の一方的な要求で、他方当事者の出席又は呼出の下に行われる仮の裁判であり、暫定的な処分にすぎない。原告X1が本件急速審理命令によって管理人に有効に任命されたとしても、我が国の裁判所にその効力は及ばない。不分割財産の管理人の指名は争訟性のある非訟事件であるから、民訴法118条の要件を全て充足する必要がある。本件急速審理命令は、相手方であるAが出頭せず、弁護士も選任されぬまま、下されたものであり、我が国の公序に反する。 (2) 著作権移転の有無(争点2) (原告協会の主張) ア 原告協会は、その定款に賛同して加入をした美術の著作物の著作権者(著作者又はその著作権承継者)である会員から会員作品の著作権の移転を受け、著作権者としてフランス国内及び外国においてその著作権の管理を行っており、法律上、管理する著作権の擁護のために裁判所に出廷する資格を有するものとされている(「知的所有権法典に関する1992年7月1日の法律」321の1条2項)。 イ(ア) 著作権の移転について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては、移転の原因関係である契約等の債権行為と、目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し、それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきである(東京高判平成13年5月30日判時1797号111頁)。 著作権移転の原因行為である移転契約の成立及び効力について適用されるべき準拠法に関し、通則法7条は、「法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法律による。」として第一次的には当事者自治の原則が適用されることを明らかにした上で、同法8条1項において「前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。」と規定し、契約中に準拠法に関する合意がない場合は最密接関連地法を適用するものとしている。本件において、委託者から原告に対する著作権の移転の合意に係る原告の一般規約及び個々の入会申込書には、いずれも準拠法の定めは存在しないから、通則法8条1項により最密接関連地法が準拠法となる。 本件の著作権移転に係る契約は、フランス法人である原告協会と、フランス人を中心とする美術の著作物の著作者又はその著作権承継者との間で、フランスのパリにおいて、フランスを含む全世界の著作権を原告に移転する旨が合意されたものである。そして、著作権移転の反対給付である使用料の支払地もフランスであるから、著作権移転の原因関係である債権契約の最密接関連地法はフランス法と解される。 そして、フランス民法は、@義務を負う当事者の同意、Aその者の契約を締結する能力、B約務の内容を形成する確定した目的、C債務における適法な原因により、当事者の合意は有効である旨を規定した上(1108条)、適法に形成された合意はそれを行った者に対しては法律に代わる(1134条)と規定している。本件においては、行為能力を有する原告及び委託者らが、著作権の管理という確定した目的のために、原告の一般規則等に同意した上で全世界における著作権を原告に移転する旨が明記された入会申込書に署名するという方法で著作権の原告への移転を合意しているのであるから、著作権移転の原因行為である債権行為が有効に成立していることは明らかである。 なお、通則法7条及び8条の解釈において、当事者に明示の合意がない場合に、まず当事者の黙示の意思を探求すべきであるという立場をとったとしても、上記の各事情に照らすならば、本件の著作権移転における当事者の黙示の意思は、フランス法を準拠法とするものと解すべきである。 (イ) 次に、著作権の物権類似の支配関係の準拠法につき検討すると、一般に、物権の内容、効力、得喪の要件等は、目的物の所在地の法令を準拠法とすべきものとされている。そして、通則法13条1項は、「動産又は不動産に関する物権及びその他の登記すべき権利は、その目的物の所有地法による。」と規定した上で、同条2項において「前項の規定にかかわらず、同項に規定する権利の得喪は、その原因となる事実が完成した当時におけるその目的物の所在地法による。」と規定する。 著作権は、その権利の内容及び効力がこれを保護する国の法令によって定められ、また、著作物の利用について第三者に対する排他的効力を有するから、物権の得喪について所在地法が適用されるのと同様の理由により、著作権という物権類似の支配関係の変動については保護国の法令が準拠法となるものと解するのが相当である。 したがって、本件における著作権の物権類似の支配関係の変動については、保護国である我が国の法令が準拠法となる。しかるところ、著作権の移転の効力が原因となる移転契約の成立により直ちに生ずるとされている我が国の著作権法においては、本件の著作権移転に関する合意が有効に成立したことにより、著作権は各委託者から原告協会に移転したものというべきである。 (ウ) 原告協会の一般規約は、原告協会の著作権管理に関する基本的事項を定めた約款である。原告協会に著作権管理を委託しようとする者は、原告協会の定款及び一般規約に同意した上で原告協会の会員となる。 しかるところ、原告協会の一般規約14条は、「作品は、その著作者、その作品の権利承継者、相続人、受遺者又は譲受人が当協会に加入した事実のみをもって、当協会の管理著作物として承認される。当協会への加入により、この一般規約第1条に規定された作品及び当該著作者の他のすべての作品(それがいかなる性質のものであるかを問わない)の諸権利は当協会に移転(apport)する。ただし、外国地域に限り、当協会を外国で代表する使用料徴収協会の規約の定めに従うものとする。」と規定する。そして、この規定に対応して、原告協会への入会申込書には、「私が入会することを条件として、定款及び一般規約に同意し、独占的に、そして私が入会するという事実それ自体により、以下に定義する諸権利をADAGP協会に移転(apport)します。」、「この移転は全ての国を対象とし、貴協会の存続する全期間にわたるものであり、定款にあらかじめ規定された条件に基づいて撤回される場合を除き、期間延長の可能性も含まれます。」と記載されている。会員が有する著作権(補償金請求権等を含む。)は、これらの規定に基づき、原告協会への入会の事実により当然に原告協会に移転し、原告協会は著作権者となるのである。 (エ) 以上のとおり、会員の著作権は、入会の事実によってその管理のために原告協会に移転する。そして、原告協会は、会員個々の権利及び会員一般の権利の擁護を目的として、著作権者の立場で、自らの判断及び責任において訴訟を提起することができる。 (オ) 被告は、原告協会の一般規約その他では「譲渡」とは記載されず、「apport」の語が用いられているなどと主張する。 「apport」の語は、古くは「action apporter」(持っていく行為)一般を意味する動詞派生名詞(deverbal)であったが、現在では「出資」や「著作権の管理」など一定の目的をもって財産権を移転する行為を意味する法律用語として主に用いられている。1851年に創立されたフランスの音楽著作権に係る使用料徴収分配協会であり、著作権管理団体の国際組織CISACの主要な理事団体でもあるSACEM(Societe des Auteurs, Compositeurs et Editeurs de musique)の定款においても、会員からその管理のために著作権の移転を受ける行為につき「apport」の語が用いられている。 原告協会を初めとするフランス知的財産法典の規定に基づく使用料徴収分配協会への入会は、その資本への出資と、管理委託する知的財産権の譲渡という二元性を有する行為であり、このような行為を指して、定款や入会届は「apport」の語を用いている。 (カ) 被告の後記イ(イ)の主張は、原審における弁論準備手続の終結が予定された期日にされたものであり、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきものである。 念のため反論すると、フランス破毀院第1民事部2013年5月16日の判決(乙40、以下「フランス破毀院判決」という。)は、実演家の権利団体であるSPEDIDAMという特定の団体のフランス国内における権利行使に関するものにすぎないから、美術の著作物の著作権の管理団体である原告協会の、しかも、我が国における権利行使に同判決の射程が及ぶのかどうかは全く明らかでない。仮に何らかの射程が及ぶとしても、美術家本人が死亡した後、権利承継者が入会していない美術家の作品に係る請求に限られる(これに該当するのは、42番のコワニャールに限定される。)。 少なくとも、我が国における著作権侵害訴訟においては、原告が著作権を有していること及び被告がその著作権の範囲に属する行為を行っていることにより著作権侵害は肯定され、損害賠償請求が認容されるものとされているから、原告協会が会員から著作権を移転(apport)された著作権者である以上、本件損害賠償請求が否定される理由は全くない。 ウ 被告は、@原告協会会員になっている者以外にも作家の法定相続人として権利承継者となり得る立場の者がいるにもかかわらず、それらの者が原告協会の会員になっていないから、原告協会が全請求権を行使しうる地位にあるのか疑義がある、A作家が既に死亡しているにもかかわらず、その権利承継者の入会届が提出されていない、B作家の法定相続人でない、ないし、法定相続人でないかもしれない者が権利承継者として原告協会の会員になっていると主張する。 上記@については、原告協会は、著作権管理を引き受ける作品(作家)の全ての権利者が会員となることを原則としており、権利承継者が入会を希望するときは、その者が単独の権利承継者か、それとも他の者と共同の権利承継者なのか等を公知証書等により確認し、共同承継者である場合には、他の共同承継者の入会も促すこととしているから、157番のモーリス・ユトリロのような特殊な例外を除き、原則として原告協会は管理著作物に関する100%の権利者である(本件において、原告協会が著作権の共有持分に基づき損害賠償を請求しているのは、ユトリロ作品の利用以外にはない。)。しかしながら、この点をひとまずおいて、本件で原告協会が損害賠償の請求対象としている作品につき、原告協会のほかにも権利者が存在すると仮定して考えてみた場合でも、被告の主張には理由がない。原告協会が本件において使用料相当損害金の算定根拠としているSPDAの使用料規程は、SPDAに管理委託されている権利を許諾する対価を定めたものであり、当該作品に権利を有する著作権者全員に対して利用者が支払う使用料の合計額を定めるようなものではないからである。 上記Aについては、原告協会は、会員から著作権の移転を受け、自らが著作権者として著作権の管理を行っている。そして、会員が死亡したからといって著作権が突然消滅してしまうわけではない。原告協会としては、著作権の承継者(正確には委託者たる地位の承継者)から管理委託を終了する旨の申し出がなされるなどの特段の事情がない限り、会員の死亡後も、移転を受けた著作権を行使して、権利承継者のためにその管理を継続する。相続人等から改めて入会申込書を徴求するという取扱いは、法的にみれば、権利承継者を確定し、その者に対して使用料の分配を開始するための手続ということになる。 上記Bについては、原告協会は相続人や受遺者から入会の申込みを受けるときは、公知証書等によりその者が正当な権利承継者であることを確認した上で、その者の入会を認めることとしている。 エ 42番のジェームズ・コワニャールについて、現在、原告協会に複製権がないことに関する事情は、次のとおりである。 ジェームズ・コワニャールは、1992年10月1日原告協会に入会し、コワニャール作品の複製権を原告協会に移転してその管理を原告協会に委託した。コワニャールは2008年3月7日に死亡したが、原告協会はその後も権利承継者のためにコワニャール作品の著作権管理を継続していたところ、コワニャールの遺族は、2009年12月15日、「レザミ・ド・ジェームズ・コワニャール」(Les Amis de James Coignard)という新団体を設立し、コワニャール作品の複製権等を同団体が直接に管理することとした。これに伴い、同日以後、原告協会は、コワニャール作品につき、複写補償金請求権、貸与補償金請求権、私的複製補償金請求権等の「droits collectifs」(団体権:文化担当大臣の認可を受けた団体によってのみ行使し得る権利)及び追及権だけの管理委託を受けることになり、複製権は管理委託の範囲から除外された。2011年11月13日付けADAGP会員リストに記載されているコワニャール作品の管理委託範囲が「RG」(複写補償金)、「RL」(貸与補償金)、「BT」(私的複製補償金)及び「RR」(追及権)となっているのは、このためである。 オ その他、被告が、相続人と思われる人物からの入会届の提出がない等として、原告協会に対する権利移転を問題にする著作者に関する事情は、例えば、次のとおりである。このように、原告協会への入会手続は、いずれも適正になされた。 (ア) アルマン(9番) アルマンの2番目の妻との結婚から生まれた子であるBとCが原告協会に入会していないのは、その母親であるDがアルマンの著作権を承継し、B及びCは著作権を承継しなかったからである。原告協会へ入会届を提出したEは、アルマンとFの間の子であるGが死亡したことにより、同人が承継していた著作権を更に相続したアルマンの孫である。 (イ) バルチュス(11番) バルチュスの前妻との間の息子から入会届が提出されていないのは、バルチュスは、遺言公正証書により、全ての権利をその娘であるHに遺贈したので、前妻との間の息子はバルチュスの著作権を承継していないからである。 (ウ) ボンボワ(22番) ボンボワの著作権(複製権及び展示権)は、同人の死亡により、当初、その姉妹であるIが相続したが、その後、同人がJに上記権利を贈与したため、Jは著作権者として原告協会に入会した。 (エ) コクトー(41番) コクトーの著作権は、当初、コクトーの養子であるKに相続された。Kに相続されたコクトーの著作権は、1995年5月15日、同人の死亡により、妻L、子であるM及びNの3名に相続された。1997年10月9日、Lは死去し、その持分はM及びNに相続された。そして、2001年10月2日にはMも死亡し、その持分がNに相続されたため、現在はNがコクトー著作権に関する唯一の著作権者である。 (オ) クティ(47番) クティの息子のOから入会届が提出されていないのは、クティの著作権を含む全財産は同人の妻であるPが承継し、息子のOはクティの著作権承継者ではないからである。 (カ) ドラン(51番) ドランの著作権の承継の経緯は、次のとおりである。 ドランの著作権は、当初、妻のQとドランの養子であるRに相続された。そして、Qが死去したことにより、Rはドランの全ての権利を相続した。 Rは、1991年8月14日に死去し、同人が有していたドランの著作権は、同人の実母であるS及び同人の従姉妹であるT(Qの姉妹の娘)に均等に承継された。 Sは2001年1月29日に死亡し、同人の有する著作権持分は同人の遺言に基づきTに承継された。これによりTはドランの著作権に関する唯一の著作権者となった。 なお、Tは2013年2月24日に死去したため、原告協会は、現在、Tからドランの著作権を相続した彼女の2人の子供、U及びVのためにドランの著作権を管理している。 (キ) ジャン・デュフィ(58番) ジャン・デュフィの著作権は、W、Y及びZの3名に承継されたものであり、他の兄弟はジャン・デュフィの著作権の承継者ではない。 (ク) エルンスト(60番) エルンストの著作権の承継の経緯は、次のとおりである。 エルンストが1976年4月1日に死亡したことにより、同人の複製権は妻AA及び息子ABに50%ずつ相続された。 ABは1984年2月6日に死亡し、同人が有していたエルンストの複製権の持分は、同人の妻AC並びに2人の子供AD及びAEに相続された。また、ACは2011年6月2日に死亡し、同人の複製権持分もAD及びAEが相続した。 AAは、2012年1月31日死亡し、同人が有していた複製権持分は、同人の姪であり、相続遺言執行者であるAFに承継された。 (ケ) イレール・カミーユ(83番) イレールの子のうち、AGの入会届が提出されていないのは、AGは2006年4月25日に死亡し、その著作権持分は他の4人の兄弟姉妹に相続されたためである。 (コ) イカール(86番) イカールの著作権の承継の経緯は、次のとおりである。 イカールは1950年12月30日に死亡し、妻のAH及び娘AIが相続人となったが、その後AHも1970年に死亡したことにより、AIが唯一の著作権承継者となった。その後、AIが死亡したことにより、イカール著作権は、AIの包括受遺者であるAJに承継された。 AJは、2009年11月9日に死亡し、イカール著作権は、AJの夫AK及び母親のALに相続された。 ALは、2010年2月12日に死亡し、同人が有していたイカール著作権の持分は、息子であるAMに承継された。 AKは2011年4月17日に死亡し、AKが有していたイカール著作権の持分は、同人の娘であるANに相続された。 (サ) イノサン(87番) イノサンの著作権の承継の経緯は、次のとおりである。 イノサンは1983年4月13日に死亡し、同人の著作権は同人の未亡人並びに2人の子供AO及びAPが相続した。 APは1988年に死亡し、その著作権持分は同人の未亡人AQ及び3人の子供(AR、AS及びAT)が相続した。 イノサンの未亡人は1990年に死亡し、その著作権持分は、娘AO並びに孫であるAR、AS及びATの3人に相続された。 AOは2004年に死亡し、同人の著作権持分は、その包括受遺者であるAUに承継された。 なお、AVは、イノサンの遺言によりイノサン作品の著作者人格権を行使する権利の遺贈を受けた者であり(フランス知的所有権法典121条5項)、イノサン著作権の承継者ではない。 (シ) キスリング(95番) 入会届を提出したAW及びAYは、いずれも2007年6月26日に死亡したAZの息子(キスリングの孫)であり、AZからキスリング著作権の持分を相続した著作権者である。 (ス) マッソン(120番) マッソンの息子であるBAの入会届がないのは、BAの妻であり、彼の唯一の相続人であるBBが提出したことによる。 (セ) マッタ(121番) マッタの息子のうち、BCとBDの入会届は提出されていないのは、BCは1978年に、BDは1976年に死亡し、いずれもマッタが2002年11月23日に死亡する前であるため、マッタの相続人にはならないからである。 なお、BEはマッタの妻であり、BFはマッタとBEの間の子である。また、BG、BH及びBIは先妻との間に生まれたマッタの子供たちである。 (ソ) ミロ(123番) ミロの娘のBJの入会届がないのは、ミロの娘であるBJが2004年12月に死亡し、BJが有していたミロ著作権は、その息子であるBK及びBLに相続されたためである。その後、BKは、2012年8月29日に死亡し、その有していたミロ著作権の持分は、娘であるBMに相続された。したがって、現在の著作権者は、BL及びBMの2名である。 (被告の主張) ア 原告協会は、物権の変動については保護国法が準拠法であると考えつつ、原因行為である債権行為により著作権は当然に原告協会に移転しているとし、著作権移転の原因関係である債権契約については最密接関連地法であるフランス法が適用されると主張する。 債権的側面については最密接関連地法による場合があるとしても(通則法8条)、本件では、原告協会と美術家ないし承継人との間における契約の成立や契約の効力が問題ではなく、著作権の得喪ないし変動が問題となっているのであるから、原告協会の著作権の取得については、保護国法である我が国の法が適用される。 イ(ア) 原告協会による、一般規約14条の説明によれば、「当協会への加入により、・・・諸権利は当協会に移転する」(L'adhesion a la Societe entraine l'apport des droits attaches …)とある。しかしながら、「l'apport」との用語は、一般に、団体とその会員との間における「出資」を意味するものである。したがって、正確にいえば、「移転」ではなく「出資」であり、「出資」の内容は「管理の委託」であるとも理解できる。著作権の譲渡という場合、一般には、「ceder」や「faire cession」(譲渡する)、「cession」(譲渡)の後が用いられるが、原告協会の一般規約その他では、全て団体とその会員間の関係を示す場合に、「cession」ではなく「apport」の語が用いられている。しかしながら、何が「出資」の対象であるのかは明らかでなく、管理権が出資の対象であると理解される。加えて、各美術家が提出しているのは、入会届であって、譲渡証書ではない。 したがって、原告協会と会員との間における出資として、著作権の譲渡がされているか否かは、明確ではない。 (イ) フランス破毀院判決(乙40)は、フランスの著作権集中管理団体であるSPEDIDAMが、死亡した実演家の権利が侵害されたことに対し、実演家がその権利を加盟時に出資したことにより訴訟追行権があると主張し、実演を複製した者に対し、訴えを提起した事案についてのものであるが、死亡した実演家に関する損害賠償請求について、SPEDIDAMの訴えを不受理とした。上記判決は、SPEDIDAMに関するものであるが、この理は、原告協会にも該当する。すなわち、美術家が集中管理団体に対する出資(apport)によって原告協会に加盟し著作権の管理を委託したとしても、その死後において、原告協会は当然に死亡した著作権者の相続財産となった損害賠償請求権を行使できるものではない。美術家が死亡した場合、フランス法が適用され(通則法36条)、損害賠償請求権は包括承継人が行使すべき相続財産となる。したがって、集中管理団体がその損害賠償請求権を行使するには、包括承継人による委任が必要である。すなわち、フランスにおいて、集中管理団体は、加盟している著作者が死亡して相続が発生した場合、包括承継人による明確な委任がない限り、包括承継人によってしか、損害賠償請求権は行使できない。仮に日本法が適用されるとしても、入会後に著作者が死亡した場合は、不法行為に基づく損害賠償請求の成否の前提として、共有著作権全部の損害賠償請求権を行使できることを、主張・立証しなければならない。 ウ(ア) 別紙2−3被告主張一覧表記載のとおり、原告協会が美術家の権利を全部行使できることについて、主張・立証が不十分な美術家が存在する。特に、美術家の権利移転について疑義がある理由は、下記(イ)以下のとおりである。 なお、著作権の移転については、原告協会が主張・立証責任を負う。美術家が相続した場合には、相続の事実と相続人の特定、相続人全員からの持分権移転を主張、立証する必要がある。原告協会の代表者の宣誓供述書(甲305)は、一般的な手続しか記載されておらず、権利の公示に代えられるような客観的なものとはいえない。また、本件訴訟における原告協会の訴訟追行態度、すなわち、入会届に関する証拠が五月雨式にしか出ないこと、原告協会の管理下にない人物の作品や保護期間経過後、著作権管理契約終了後の作品について原告協会が損害賠償請求を提起していたこと、2分の1しか請求できないはずのモーリス・ユトリロ分について全額損害賠償請求していること等からすると、権利承継手続が適正になされたか、疑問を生じさせる。また、相続が発生し、複数の相続人が著作権を相続した場合は、他の著作者の同意がなければ、自己の持分に応じた損害賠償請求しかできない。 (イ) ARMAN (Armand FERNANDEZ, dit)(9番) ARMAN(アルマン)は、最初の結婚でFと結婚し、BNとBOという2人の娘と、Gという1人の息子をもうけ、その後、Dと結婚し、BとCをもうけ、さらに、BPとの間に6人目の子供で最後の息子であるBQをもうけた。 原告協会に対する入会届は、最初の結婚から生まれた2人の娘(BOとBN)、2番目の妻(D)及び息子(BRと称する者のいずれか)と考えられる人物から提出された。 しかしながら、2番目の妻との結婚から生まれた子であるBとC、もう1人のBRについては、入会届が提出されていない。また、Eが、いかなる関係にある人物か、不明である。 なお、2005年12月13日付け公知証書(資料1)に、アルマンの相続人として、@BO、ABN、BBQ、CE、DDが記載されていることは、認める。また、@、Aはアルマンの子であること、Bはアルマンの6番目の子であること、C はアルマンの孫娘であり唯一の子としてGを代襲相続したこと、Dはアルマンの2番目の妻であり生存配偶者と記載されていることは、認める。資料1には、D夫人が「上記配偶者(アルマン)との間で定めた贈与に関する規定及びその他の規定の受益者であり、フランス法の規定の名において法律上適法な受益者である」との記載があることを認める。BとCが相続人として扱われないことに関しては、資料1には何ら記載がない。 (ウ) BALTHUS (Balthus KLOSSOWSKI DE ROLA, dit)(11番) 入会届を提出しているのは、後妻との結婚で生まれた子と考えられるが、 BALTHUS(バルテュス)は前妻との間に息子が存在する。息子も相続人となるはずであるが、息子から原告協会への入会届は提出されていない。 (エ) BELLONI Serge(18番) BELLONI(ベローニ)は、2005年10月28日に死亡しているが、相続人又は権利承継者からの入会届は提出されていない。原告協会は、相続が発生した美術家について、相続人から入会届を提出させている。したがって、原告協会は、当然に、死亡した美術家の権利を承継する者とはいえず、原告協会の原告適格は消滅している。 (オ) BOMBOIS Camille(22番) Jは、BOMBOIS(ボンボア)の相続人とされている。しかしながらがら、同人の入会届に、BOMBOIS Camille との記載はなく、どの美術家の著作権に関するものかも不明である。なお、Jは、ボンボアをはじめ、各種作家を取り扱うギャラリー共同経営者にすぎず、真実、ボンボアの著作権を承継しているか疑義がある。 (カ) BRAQUE Georges(27番) BSは、BTの相続人とされているが、入会届に BRAQUE(ブラック)の相続人であるとの記載はない。したがって、当該美術家に対する入会届であるかどうか、不明である。ブラックの権利承継者に争いがあると記載された乙41文献は、追及権に関するものではあるが、BU未亡人への財産権移転が争われたとすれば、追及権以外の著作権がBSに包括遺贈されたことを、原告協会は立証しなければならない。 (キ) COCTEAU Jean(41番) BVは、コクトー作品の共同相続人と記載されているので、他の共同相続人が存在するはずであるが、BV1名の入会届しか提出されていない。 なお、ジャン・コクトーの死亡後に作成された1964年1月16日付け公知証書(資料2の1)には、「ジャン・コクトー氏が、メッツ(モーゼル県)において作成した1962年9月22日付け自筆証書遺言でその包括受遺者を指定したことは明白である」との記載があり、その包括受遺者としてBWの氏名が記載されていることは認める。BWの死亡後に作成された1995年7月18日付け公知証書(資料2の2)に、同人の死亡により、同人の財産が、妻であるL夫人、M、Nの3名に承継されたとの記載があることは認める。MとNがBWとL夫人の子であることも認める。Lの死亡後に作成された1998年1月23日付け公知証書(資料2の3)に、L夫人の死後、その財産がMとNに承継されたとの記載があることについては認める。Mの死亡後に作成された2001年10月8日付け公知証書(資料2の4)に、Mの死亡により、その兄弟であるNに承継されたとの記載があることは認めるが、「最終的にN氏が唯一の権利承継者となった旨が記載されている」という記載は存在しない。 (ク) COIGNARD James(42番) COIGNARD(コワニャール)は、2008年に死亡しているが、相続人からの入会届は提出されていない。 (ケ) COTTAVOZ Andre(44番) COTTAVOZ(コタボ)は、2012年に死亡しているが、相続人からの入会届は提出されていない。 (コ) COUTY Jean(47番) COUTY(クティ)の相続人としては、妻のPの他、息子のOが存在するはずであるが、同人から入会届は提出されていない。 なお、1991年10月28日付け公知証書(資料3)に、クティの遺産に関し、配偶者へ全て贈与される旨が記載され、妻であるP夫人がその遺贈を受けたことは認めるが、息子のOが著作権承継者ではないことについては不知。 (サ) DERAIN Andre(51番) 入会届を提出しているTは、DERAIN(ドラン)とは、姪の関係にあるものである。しかしながら、ドランに妻子など他の相続人が存在しないのか不明である。また、ドランの鑑定委員会に所属する者が相続人ないし受遺者でないのかも不明である。 なお、ドランの死亡後に作成された1969年6月6日付け公知証書(資料4の1)については、公証人が発した書簡であり公知証書との記載がない。資料4の1に、ドランは、その生存配偶者であるQ及びRを遺産の受領者として死亡したとの記載があることは認める。Q夫人の死亡後に作成された1978年10月3日付け財産目録(資料4の2)に、Q夫人の死亡により、唯一の相続人のRが権利を承継したとの記載があることは認める。Rの死亡後に作成された1992年1月21日付け公知証書(資料4の3)に、同人が死亡し、S夫人とTが、相続人であるとの記載があることは認める。S夫人とT夫人との間の契約書(資料4の4)に、S夫人の有する著作権持分2分の1は、T夫人に譲渡され、S夫人の死亡により、権利はT夫人又はその相続人若しくは権利承継人に帰属するとの記載があること、S夫人が2001年1月29日に死亡したことは、認める。 (シ) DUFY Jean(番号58)と DUFY Raoul(番号59) DUFY Jean(ジャン・デュフィ)と DUFY Raoul(ラウル・デュフィ)は、兄弟である。ジャン・デュフィについては、姪、兄弟のBYの相続人により入会届が提出されている。しかしながら、ジャン・デュフィは11人兄弟であり、他の兄弟ないしその相続人も権利者ではないかという疑義がある。 (ス) ERNST Max(60番) ERNST(エルンスト)は、4人の女性(BZ、CA、CB、AA)と結婚した経歴があり、最初の妻であるBZとの間にABと称する息子をもうけている。少なくとも息子であるABは、マックス・エルンストの相続人となると考えられるが、入会届を提出している者とのつながりは不明である。 (セ) HILAIRE Camille(83番) HILAIRE(カミーユ)には、CC、AG、CD、CE、CFの5人の子が存在する。しかしながら、入会届は、CC、CE、CD、CFの4名分しか提出されておらず、AGの入会届が提出されていない。 (ソ) ICART Louis(86番) ICART(イカール)はAHと結婚し、その間にはCGという女の子供がいる。本来、これら妻子が相続人になると考えられるが、入会届を提出しているAM及びANとの関係性は不明である。 (タ) INNOCENT Franck(87番) INNOCENT(イノセント)については、相続人ないし受遺者からの入会届が提出されている。他方、イノセントの公式ホームページには、弟子であるAVが権利を防御している旨の記載がある。しかしながら、同人と相続人ないし受遺者との関係性は明らかでない。 (チ) JENKINS Paul(90番) JENKINS(ジェンキンス)は、2012年6月に死亡しているが、相続人からの入会届は提出されていない。 (ツ) KISLING(95番) KISLING(キスリング)には、CHとAZの2人の息子が存在するが、入会届は、CH、AW、AYから提出されており、後二者とキスリングとの関係は明らかでない。 なお、キスリングの死亡後に作成された1954年6月21日付け公知証書(資料5の1)は、公証人が発した書簡であり公知証書であることの記載がない。資料5の1に、キスリングの遺産がCHとAZに相続されたとの記載があることは認めるが、CI夫人については、相続財産の用益権の受贈者と記載されている。キスリングの配偶者であるCI夫人の死亡後に作成された1961年5月30日付け公知証書(資料5の2)に、上記CI夫人の死亡により、遺産が子であるCH及びAZに承継されたとの記載があることは認める。AZの死亡後に作成された2007年10月8日付け公知証書(資料5の3)に、AZ死亡により、その遺産が、AYとAWに承継されたとの記載があることは認める。 (テ) MASSON Andre(120番) MASSON(マッソン)には、少なくとも、CJ、BAという息子と娘のCKが存在する。しかしながら、入会届が提出されているのは、CJ、CK及びBBであり、BAの入会届は提出されていない。 なお、マッソンの死亡後に作成された1987年12月18日付け公知証書(資料6の1)に、マッソンの相続人として、同人の最初の妻との子であるCL夫人、2番目の妻との間の子であるCJとBAの3名が均等の割合で相続したとの記載があることは認める。BAの死亡後に作成された2006年1月31日付け公知証書(資料6の2)に、BAの死亡により、配偶者であるCN夫人が相続財産の用益権を選択した旨の記載があることは認める。CKがCLの通名であることは知らない。 (ト) MATTA(121番) MATTA(マッタ)には、BC、BD、BHの息子が存在するが、BCとBDの入会届は提出されていない。 なお、マッタの死亡後に作成された2007年4月26日付け公知証書(資料7)に、マッタの相続人として、CM夫人、BI、CO、CP、CQが記載されているが、「BDは1976年7月14日に、BCは1978年8月27日に、それぞれマッタの死亡前に死亡していること」の記載はない。 (ナ) MIRO Joan(123番) MIRO(ミロ)には、BJという娘がいるが、入会届は提出されていない。また、入会届が提出されている者らが当該美術家とどのような関係に立つのか、明らかではない。 (ニ) FRIEDLAENDER Johnny(70番) 入会届に記載されたCRは、著作者人格者の受遺者であり、複製権はない。 (3) 被告の複製権侵害の態様と原告らの損害額(争点3) (原告らの主張) ア 被告の複製権侵害 (ア) 被告は、平成14年1月から平成23年12月までの10年間に、絵画・版画・彫刻ジャンルのオークションについて、105冊の本件カタログを発行した。これらのうち、原告らが入手した99冊のカタログ(別紙1毎日オークションカタログ一覧表の「カタログ有無」欄に「有」の記載のあるもの)には、別紙2−1原告協会主張一覧表及び別紙3−1原告X1主張一覧表記載のサイズ、色、枚数の写真が掲載されていた。 被告は、原告らの利用許諾を得ていないので、上記の掲載は原告らの複製権を侵害する行為に該当する。 (イ) 被告は、単色刷りの版画はカラー(c)でなく、白黒(bw)と評価される旨主張する。これは、カタログに複製されている原作品が1種類の絵の具やインクを用いて刷り上げられた版画である場合には、それが何色の作品であって、カタログに何色をもって複製されていても、損害額の算定において「白黒」と評価されるべきという趣旨と解される。 しかしながら、上記の主張は、「白黒」か「カラー」かによって使用料額を定めることとしているSPDAの使用料規程(甲9)の定めに明白に反するものである上、SPDAの実務における使用料規程の適用の実際とも全く異なるものである。SPDAの使用料規程は、書籍に著作物が複製される場合の使用料につき、その複製サイズ、複製部数とともに「白黒」「カラー」の別をその算定要素としている。これは、絵画作品が白黒印刷等の方法で複製される場合には、同じ作品がカラー印刷の方法で複製される場合に比してその著作物利用の経済的効果が劣ると認められることから、その複製(印刷)が「白黒」で行われる場合には、カラー(白黒以外の色を用いる方法)で複製される場合よりも低額の使用料が適用されるようにしたものである。したがって、カラー「c」と白黒「bw」を区別する基準となるのは、その複製(印刷)が白色及び黒色だけで行われているのか、それとも白色又は黒色以外の色をも用いた複製(カラー印刷)がされているのかであって、複製対象である作品が単色刷りか否かによって区別されるわけではない。そして、被告が白黒「bw」に当たると主張しているのは、全て白色又は黒色以外の色を用いて複製されているものであって、白色及び黒色だけで複製(印刷)されているものは1つもない。これらは全て使用料規程の適用上、カラー「c」に分類される。 被告は、株式会社DNPアートコミュニケーションズ(以下「DNPアート」という。)がホームページ上に掲載している料金表(乙15)を根拠にして、SPDAの使用料規程における「白黒」は「モノクロ」(単色)を意味するものと解釈されるなどと主張する。 しかしながら、SPDAが著作権等管理事業法に基づき文化庁長官に届け出た使用料規程が甲9号証のとおりであることは、文化庁のホームページに公示されているから、乙15号証は単に記載を誤っているにすぎない。DNPアートは、その業務に付随して、画像の借受人に対して著作権手続の説明や、SPDAに対する利用許諾申請手続の代行をしており、その関係でSPDAの使用料規程をホームページに掲載していたが、その記載の一部に誤りがあったものである(SPDAが、DNPアートに対して修正を依頼したところ、DNPアートは既にホームページからこれを削除している。)。 (ウ) 被告は、写真の余白や額縁部分は除外して判断すべきであるから、作品自体のサイズは原告の認定とは異なる旨主張するが、現にSPDAの長年にわたる著作権管理業務において、通常の利用者に対して著作物の複製を利用許諾するときは、全て著作物が複製された写真の大きさ及びその掲載場所を基準に使用料額を算出して徴収している。著作権法114条3項は、著作権者が著作物の利用を許諾する場合に受ける通常の使用料額を著作権侵害の被害者が受ける最低限の損害賠償額としたものである。そうである以上、同項に基づく損害賠償額の算定においては、利用許諾を得て適法に著作物を利用する一般の利用者が著作権者に対して実際にどのような額の使用料を支払っているのかが基準になる。したがって、本件の損害賠償額の算定においてもこれと同様の取扱いがされるのは当然である。 (エ) 被告は、127荻須高徳の本件カタログ318号の絵画は、50平方センチメートル以下のものであり、著作権法47条の2により適法である旨主張する。 しかしながら、被告の主張に従って絵画部分のみの複製サイズをもって計算するとしても、上記作品の複製サイズは6.05cm×8.3cm=50.215平方センチメートルであり、著作権法施行規則の定める50平方センチメートルを超えるから、上記複製は違法なものである。 イ 原告らの損害額(JASPAR基準)(主位的主張) (ア) JASPARの使用料規程では、本件カタログへの写真掲載は第1の「1 書籍への複製及び譲渡」に含まれる。そして、第2の「1 書籍への複製及び譲渡」の規定は、「(1)単行本」及び「(2)文庫版、新書版又はそれに準じる版型のもの」に分かれており、それぞれ「ア 基準料金」及び「イ 事前に利用許諾手続を完了する場合の優遇料金」の2種類の使用料が定められている。本件カタログのような大型版書籍への管理著作物の複製に関し、事後的にJASPARに対して利用許諾申請があった場合には、「(1)単行本」の「ア 基準料金」に定められた使用料が適用される。 本件のように、過去に長期間にわたって反復継続的に行われた不法行為について、被害者が損害算定の資料の入手が困難な場合、被害者が把握した一部の侵害実態を基礎として損害の全体を推認するという方法が用いられるのは、一般的である。そして、損害の発生が認められる以上、仮に損害額の具体的な算定に関する証拠がなくても、著作権法114条の5を適用することで、損害額は算定することができる。 (イ) 平成14年1月から平成23年12月までの10年間に被告が発行した「絵画・版画・彫刻」のジャンルの本件カタログ105冊のうち、原告らが入手した99冊のカタログへの作品の複製に関し、JASPARの使用料規程を適用して使用料相当額を算定すると、1億5536万1200円となる(別紙2−1原告協会主張一覧表記載のとおりである。)。 したがって、被告が上記10年間に発行した105冊の本件カタログに無断複製された会員作品に係る使用料相当損害金の額は、少なくとも1億6477万7030円(≒1億5536万1200円×105冊/99冊)を下らない。 (ウ) 平成14年1月から平成23年12月までの10年間に被告が発行した「絵画・版画・彫刻」のジャンルの本件カタログ105冊のうち、原告らが入手した99冊のカタログへのピカソ作品の複製に関し、JASPARの使用料規程を適用して使用料相当額を算定すると、合計1893万5000円となる(別紙3−1原告X1主張一覧表記載のとおりである。)。 したがって、被告が上記10年間に発行した105冊の本件カタログに無断複製されたピカソ作品に係る使用料相当損害金の額は、少なくとも2008万2575円(≒1893万5000円×105冊/99冊)を下らない。 (エ) 原告らは、著作権侵害を理由とする本件訴訟の提起・追行を弁護士に依頼することを余儀なくされた。その弁護士費用は、少なくとも被告に対して請求する損害額の10%を下らないから、原告協会に関しては1億6477万7030円の10%である1647万7703円、原告X1に関しては2008万2575円の10%である200万8257円を下らない。 (オ) よって、原告らは、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得(悪意)に基づく利得金返還請求として、原告協会につき1億8125万4733円及びこれに対する最終の侵害行為の日の後である平成22年12月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金、原告X1につき2209万0832円及びこれに対する最終の侵害行為の日の後である同年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (カ) 被告は、侵害との間に因果関係のある損害とは、当然に、侵害時の基準により算定される逸失利益であるなどと主張する。これは、著作権侵害につき認められる使用料相当損害金とは、当該行為に対して利用許諾が行われた場合に適用されていた使用料規程に基づき算出される使用料額に限定されるという趣旨の主張と解される。 しかしながら、使用料規程は、著作権等管理事業者がその管理著作物の利用許諾に伴い請求する使用料の上限額を定めるものにすぎず(著作権等管理事業法13条4項)、著作権者が著作権侵害者に対して請求する損害金額の上限を画するようなものではない。そして、仮に、著作権侵害による使用料相当損害金が、当該行為に対して利用許諾が行われた場合に適用された使用料規程に基づく使用料額に限られるとするならば、著作権法114条3項は無意味な規定となる。 著作権法114条3項は、「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」を著作権侵害の被害者の最低限の賠償額として保障する規定である。そして、ここで問題になる「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」とは、将来の著作物利用につき許諾を求める誠実な利用者に対して請求する使用料額ではなく、現に行われた過去の著作権侵害行為に対して適用される「受けるべき金銭の額」である。 しかるところ、現在、我が国における原告協会の会員等の著作権管理はSPDAからJASPARに移転し、JASPARの使用料規程が我が国における美術の著作物の使用料額を定める事実上のスタンダードになっている。過去に無断で著作物の複製等を行った者であっても、現時点においてその利用行為を適法化するには、JASPARを経由して原告協会の事後的な利用許諾を得るほかない。そして、その場合に適用される使用料規程は、当然のことながら、JASPARの使用料規程となる。 本件で、SPDAの使用料規程に定める額の損害金しか認められないことになれば、被告が、本来支払わなければならないJASPARの使用料規程以下の金額だけしか支払わなくてもよくなり、侵害した者が利得するのを容認することになる。 ウ 原告らの損害額(SPDA基準)(予備的主張) (ア) 原告らは、いずれも日本国内における著作権の管理(利用許諾及び使用料徴収)をSPDAに委託していた。SPDAは、その使用料を使用料規程(甲9)に定め、文化庁長官に届け出ており、本件カタログへの複製利用に対しては、使用料規程の3(1)イに規定されている「単行本」の使用料が適用される。同規程には複製されたサイズ、発行部数、白黒・カラーの別に応じて、適用される使用料の額が一覧表にして定められている。 (イ) 平成14年1月から平成23年12月までの10年間に被告が発行した「絵画・版画・彫刻」のジャンルの本件オークションカタログ105冊のうち原告らが現物を入手することができた99冊のカタログへの原告ADAGP会員作品の複製に関し、SPDAの使用料規程を適用して使用料相当額を算定すると、別紙2−1原告協会主張一覧表の「使用料相当額SPDA」の合計欄に記載のとおり合計6990万9100円となる。 したがって、被告が上記10年間に発行した105冊のオークションカタログに無断複製した原告ADAGP会員の作品に係る使用料相当損害金の額は、少なくとも7414万6015円(≒6990万9100円×105冊/99冊)を下らない。 (ウ) 平成14年1月から平成23年12月までの10年間に被告が発行した「絵画・版画・彫刻」のジャンルの本件オークションカタログ105冊のうち原告らが現物を入手することができた99冊のカタログへのピカソ作品の複製に関し、SPDAの使用料規程を適用して使用料相当額を算定すると、別紙3−1原告X1主張一覧表の「使用料相当額SPDA」の合計欄に記載のとおり合計842万1000円となる。 したがって、被告が上記10年間に発行した105冊のオークションカタログに無断複製した原告ADAGP会員の作品に係る使用料相当損害金の額は、少なくとも893万1363円(≒842万1000円×105冊/99冊)を下らない。 (エ) 原告らは、著作権侵害を理由とする本件訴訟の提起・追行を弁護士に依頼することを余儀なくされた。その弁護士費用は、少なくとも被告に対して請求する損害額の10%を下らないから、原告協会に関しては7414万6015円の10%である741万4601円、原告X1に関しては893万1363円の10%である89万3136円を下らない。 (オ) よって、原告らは、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得(悪意)に基づく利得金返還請求として、原告協会につき8156万0616円及びこれに対する最終の侵害行為の日の後である平成22年12月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金、原告X1つき982万4499円及びこれに対する最終の侵害行為の日の後である同年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (カ) 被告は、原告協会との相互管理契約に基づくSPDAの管理手数料及び利益が加算されている使用料相当額という名目のもとに、原告らが被る損害を超える金額を請求することは、損害賠償請求の趣旨を逸脱するなどと主張する。 しかしながら、管理手数料は、原告らの委託に基づき管理著作物の著作権管理業務を行ったSPDAに対し、原告らが支払う著作権管理委託の対価であり、「著作権 …の行使につき受けるべき金銭の額」とは無関係のものである。したがって、被告に対する損害賠償請求額からこれを控除する理由はない。 エ モーリス・ユトリロ(157番) モーリス・ユトリロの著作権については、CSと50%ずつの共有であるが(本件において、著作権の共有持分に基づく請求は、ユトリロ作品以外には存在しない。)、著作権等管理事業法13条4項は、「著作権等管理事業者は、第1項の規定による届出をした使用料規程に定める額を超える額を、取り扱っている著作物の使用料として請求してはならない。」と規定し、使用料規程は、それを定めた著作権等管理事業者において自己が委託者から管理委託を受けた権利に基づき著作物の利用許諾をする際に利用者に請求できる使用料の上限額を定めるものであって、当該作品につき著作権を有する他の権利者が存在するか否かは無関係であるから、その損害額は使用料規程全額と算定されるべきである。 著作権等管理事業法は、かつての仲介業務法とは異なり、使用料規程の作成につき各著作権等管理事業者の裁量及び責任に委ねているから、使用料規程上に、自己の有する著作権が共有持分である場合には使用料を減じる旨の定めを自ら置いているような特別な場合には、それに従うことになるが、JASPARの使用料規程にも、SPDAの使用料規程にも、そのような特別な取扱いを窺わせる規定はどこにも存しないから、ユトリロ作品を利用許諾する場合に原告協会が請求すべき使用料が減じられる根拠はどこにもない。 (被告の主張) ア 被告の複製権侵害について (ア) 被告の認否及び反論は、別紙2−2原告協会主張に対する認否表のとおりである。 (イ) DNPアートが適用するSPDAの使用料規程は、「モノクロ」(単色)か「カラー」かによる峻別を行い、「白黒」かどうかを基準にしているわけではない。同規程に「モノクロ」とある以上、字義どおり、「白黒」でなく「モノクロ」(単色)かどうかにより区別すべきである。したがって、SPDAの使用料規程における「白黒」は、「モノクロ」(単色)を意味するものと解釈される。絵画の黄ばみがあるものについては、黄ばみは著作物の美的要素の再製ではないから、単色として扱われるべきである。また、インクの濃淡や青みがかったものについても、単色として扱われるべきである。 (ウ) SPDAの使用料規程によれば、サイズを算定要素としているが、著作物でなく「著作物を複製した写真の大きさ」を基準とするかは明確ではないし、SPDAの日常的な著作権管理業務において、一般的に「著作物を複製した写真の大きさ」を基準にしているかどうかも明確ではない。 使用料規程は、著作物の使用に対する料金であるから、著作物とは無関係な写真の余白部分や額縁を含めたサイズではなく、あくまで著作物(絵画・版面・オブジェ)を基準としたサイズとすべきである。 (エ) 127番の荻須高徳の本件カタログ318号の絵画は、額縁を含めて撮影された絵画であるが、額縁は著作物でないから、50平方センチメートル以下の複製か否かを判断するに当たって、額縁部分は除外して判断すべきである。著作権施行規則4条の2第1項1号は、「図画として法第47条の2に規定する複製を行う場合において、当該複製により作成される複製物に係る著作物の表示の大きさが50平方センチメートル以下であること」と定められ、「著作物」そのものの表示の大きさを基準としている。 上記絵画の複製サイズは、6cm×8.3cm=49.8平方センチメートルであり、50平方センチメートルの範囲に収まる。 (オ) 別紙3−1原告X1主張一覧表のうち、否認するものは、別紙3−2原告X1主張に対する認否表のとおりである。その理由は、概ね、白のセラミックが写っているもの、カタログにモノクロと記載されているもの、書籍等の撮影で美的要素の再製がないものに分類される。 (カ) 別紙2−1原告協会主張一覧表のうち、否認するものは、別紙2−2原告協会主張に対する認否表のとおりである。その理由は、概ね、カタログにモノクロと記載されているもの、書籍等の撮影で美的要素の再製がないもの、カラーコピーの色彩の加減で黄色がかって見えるにすぎないものに分類される。 イ 原告らの損害額について (ア) 原告らの損害立証について 著作権法114条は、損害額立証の困難性を救済するための規定であるが、それは損害の発生の主張・立証を前提として損害額立証の負担を軽減するものであって、損害の発生をも推定するものではない。 原告らは、一部の本件カタログを提出せず、被告がいかなる侵害行為を行い、その結果どのような損害が発生したかを具体的に主張・立証しない。しかしながら、原告らは、提出しない本件カタログについても、提出している本件カタログにおける作品掲載数から侵害ないし損害を推測する方法によって、損害が発生したことを推定し、損害額を算定している。このような主張は、著作権法114条及び同条が前提とする不法行為論にも反し、認められない。 (イ) JASPAR基準について 著作権法114条の法的性質について、通説は、民法709条の適用を前提として、損害額立証の困難を救済するための規定であると解釈する。著作権法114条が、民法709条の適用を前提としているのであれば、損害の発生と侵害との間において、因果関係の存在が必要となる。侵害との間に因果関係のある損害とは、当然に、侵害時の基準により算定される逸失利益である。侵害後に新たに設けられかつ高額化した基準により算定される逸失利益の主張は、侵害との間に因果関係が認められない金額を主張するものであるか、侵害時の逸失利益を逸脱する金額を主張するものである。したがって、このような基準により使用料相当額を算定することは、民法709条の枠組みを逸脱する。 原告らは、本件カタログ掲載時(直近で平成22年12月)には存在していないJASPAR(設立は平成24年1月)が設立後に一方的に定めた使用料規程に基づき、使用料相当額を請求する。しかしながら、このような請求は、明らかに侵害との間の因果関係ないし逸失利益を逸脱する金額を主張するものである。 (ウ) SPDA基準について SPDAの使用料規程は、著作権法114条3項の「著作権者が、著作権または著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額」ではなく、著作権者との相互管理契約に基づく著作権の管理者が、著作権の行使について受ける金銭の額である。 SPDAの使用料規程で計算した金額には、当然、原告協会との相互管理契約に基づくSPDAの管理手数料及び利益が加算されているのであって、著作権者であると主張する原告協会に支払われる額ではない。もとより、損害賠償請求は、損害を回復するために行われるものであるから、請求額は発生したとされる損害と同等の額を金銭に換算したものである必要があり、使用料相当額という名目のもとに、原告らが被る損害を超える金額を請求することは、損害賠償請求の趣旨を逸脱するといわざるを得ない。 (4) 利用許諾の有無(争点4) (被告の主張) 被告は、4番のポール・アイズピリの作品の著作権管理を行う株式会社ギャルリーためなが(以下「ギャルリーためなが」という。)から許諾を受け、アイズピリ作品を本件カタログに複製していた。 アイズピリは、ギャルリーためながとの間において委託契約を締結し、ギャルリーためながは、これに基づき、「真作と認められない作品図版の掲載や、作家の意図としない出版物への使用を管理」している。 ギャルリーためながは、15年程前から、本件オークションへの出品又は落札を通じて被告と取引関係にあり、被告の会員でもある。被告は、本件カタログを、毎回、ギャルリーためながに送付しており、アイズピリ作品に関する本件カタログへの複製について、ギャルリーためながから許諾されていた。 (原告らの主張) 被告が、ギャルリーためながに対し、アイズピリ作品の利用許諾申請をしたことは一度もないし、アイズピリが、ギャルリーためながを通じて、アイズピリ作品の複製を被告に許諾したことはない。 ギャルリーためながは、アイズピリから日本国内における著作権管理の委託を受けたことがある。しかしながら、それは平成22年1月以降のアイズピリ作品の利用についてである。したがって、ギャルリーためながは、本件訴訟において損害賠償の対象としている平成14年1月から平成21年12月までのアイズピリ作品の利用につき、そもそも利用許諾をする権限を有していない。 この点につき、ギャルリーためながの代表取締役は、原告ら代理人からの照会に対して、@ギャルリーためながは、アイズピリから著作権管理の委託を受けたのは平成22年1月からであり、それ以前の時期におけるアイズピリ作品の利用を許諾する立場にないこと、A平成21年12月以前の時期に日本におけるアイズピリ作品の著作権管理を行っていたのは、原告協会(及びその日本における代理人であるSPDA)であること、Bギャルリーためながは、被告からアイズピリ作品のオークションカタログへの複製につき利用許諾申請を受けたことはなく、本件カタログへの複製につき利用許諾をしたこともないことを回答している。 なお、アイズピリからギャルリーためながに対する著作権管理の委託は終了し、現在、アイズピリ作品の著作権管理は再び原告協会に戻っている。 (5) 本件カタログが展示に伴う小冊子(著作権法47条)に当たるか(争点5) (被告の主張) ア 鑑賞用の展示だけでなく、作品の所有者の同意を得て、購買を目的とした原作品の展示に伴い著作物を複製することも、著作権法47条の適用対象となる。 イ 東京地裁平成10年2月20日判決(バーンズコレクション事件)によれば、小冊子に該当するか否かは、展示された原作品と解説又は紹介との対応関係を明らかにする程度のものかどうか、鑑賞用の書籍として市場において取引される価値を有するものとみられるかどうかを基準として判断される。 本件カタログにおいては、取引対象となる絵画を示しているが、それとともに、絵画の情報として、@作者名、A題号、Bレゾネ番号、Cサイズ、Dサイン、Eエディションナンバー(版画の限定刷り部数)、F特記事項、画廊シール、鑑定書の有無など、その作品に関する特記事項、G作品の状態、H額の有無、I予想落札価格を示している。つまり、本件カタログ掲載の情報は、オークションの対象となる作品及び当該作品の落札価格に影響を与える情報のみであり、本件カタログは、オークションに出品された原作品と出品作品の基本的情報との対応関係を明らかにする商品目録にほかならない。 本件カタログは、市場において取引される価値はなく、被告の会員及びオークションへの来場者限定で頒布されるものであり、一般には流通しない。 オークションで取引される絵画の点数により、カタログ自体は書籍のような体裁をとらざるを得ないが、装丁は、鑑賞用図書のように表紙にカバーが掛けられていることも、ハードカバーを用いられることもなく、一般のパンフレットが厚くなった状態にすぎない。絵画自体も、出品作品との同一性と落札希望者が落札するかどうか、いくらで落札するかを決定するために必要な最低限のサイズである。また、絵画には、ロット番号が付され、これに従って掲載されているが、ロット番号は、オークションの出品順を示すものであり、鑑賞用の芸術書にみられるような絵画のジャンルや作家名による分類など、系統だった編集はされていない。さらに、紙面も、系統だった構成ではない。したがって、オークション終了後にカタログを保存する価値も市場で取引される価値もなく、実際に一般書籍として販売されることもない。 以上のとおり、本件カタログは、オークションにおける展示に伴い取引の対象となる作品と買主の判断材料となる最低限の情報を示した、商品目録としての「小冊子」にすぎない。 ウ 著作権法25条に規定する展示権を害することなく展示することができる場合の1つとして、同法45条1項の規定によって作品の所有者の同意を得た場合がある。オークションでは、作品の所有者がオークションのために原作品を公に展示することを同意している。 エ 以上により、被告は、オークションにおける公の展示において、観覧者のために著作物の紹介をすることを目的として、「小冊子」である本件カタログに著作物を掲載したのであり、著作権47条により、その複製は適法である。 オ 著作権法47条は、原作品による展示をする者に対し、展示だけではなく、展示作品の紹介や購入意欲の増進のためのカタログの複製を認め、複製の利益と所有者の展示の利益の調整を図った規定であるとされている。したがって、鑑賞目的か売買目的かで、掲載が認められる「小冊子」の範囲は、異なって然るべきである。著作権法47条は鑑賞目的の展示を想定したものであるが、立法趣旨からすれば、売買目的の場合においても同条の適用は可能である。 (原告らの主張) ア 著作権法47条は、「…観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小冊子にこれらの著作物を掲載することができる。」と規定してい。「観覧者のため」という要件は、「解説又は紹介をすることを目的とする小冊子」に掛かるものであって、「展示」に掛かるものでも、「複製」に掛かるものでもない。上記の要件は、同条により著作権の制限を受ける小冊子は、それが実際に作品を観覧する者のために作成されたものでなければならないことを明らかにするものであり、オークションやその下見会に参加して展示された著作物を観覧する者であるか否かにかかわらず、広く全会員に配布されている本件カタログのような複製物には、同条の権利制限が適用されないことを定めたものである。 イ 上記バーンズコレクション事件判決は、「(著作権法47条の小冊子は)掲載される作品の複製の質が複製自体の鑑賞を目的とするものではなく、展示された原作品と解説又は紹介との対応関係を明らかにする程度のものであることを前提としている」と判示する。同判決が「展示された原作品と解説又は紹介との対応関係を明らかにする程度のもの」であることを要求しているのは、「掲載される作品の複製の質」についてであって、そこに記載された作品の情報についてではない。 被告は、本件カタログに記載している情報が作者名、題号、レゾネ番号等にすぎないことなどを述べて、それが「小冊子」該当性を肯定する事情であるかのように主張するが、バーンズコレクション事件判決の誤読に基づく誤った主張である。 それどころか、バーンズコレクション事件判決は、観覧者のための「小冊子」に該当するには、作品をより深く鑑賞するために有用な詳しい解説や紹介がされていることを、当然の前提としている。ところが、本件カタログには、作者名、題号、レゾネ番号などの落札価格等に影響する情報が記載されているだけで、作品を鑑賞するための解説・紹介はどこにもない。被告が主張する事情は、本件カタログに著作権法47条が適用される余地のないことを、明らかにするものである。 ウ バーンズコレクション事件判決が判示するとおり、「小冊子」というためには、「紙質、判型、作品の複製態様等を総合して、複製された作品の鑑賞用の図書として販売されているものと同様の価値を有するもの」であってはならない。すなわち、「小冊子」(小型で薄い本〔大辞林〕)という以上、大型判や大部のものであってはならないし、その複製の態様はまさに解説・紹介との対応関係を視覚的に明らかにする程度のものでなければならない。つまり、写真の大きさ・鮮明さや、書籍としての態様が、市販の図録に準ずるようなものであってはならないのである。 ところが、本件カタログは、縦297mm、横210mm という大型版の書籍であり、全頁に上質紙が用いられている。総頁数は各号により異なるが、概ね100頁から300頁に及ぶ大部のものであり、その大部分の頁に美術作品の極めて鮮明かつ大きなカラー写真が掲載されている。 本件カタログは、「小冊子」の域をはるかに超えるものである。 (6) 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権法32条1項)に当たるか(争点6) (被告の主張) ア 著作権法32条1項は、「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内」での引用を認めている。したがって、正当な範囲内と認められる引用の目的は、報道、批評、研究に限られるものではない。 絵画の所有者は、売買によってその処分権を行使することができるが、そのために、オークションを利用することも1つの処分方法として認められる。オークションに出品するためには、取引の目的物である絵画を特定することが不可欠である。オークションカタログにおける絵画の掲載は、オークションにおいて取引の対象となる絵画を特定するためである。著作者名及び絵画の題号等の文字情報だけでは、取引の目的物の特定は困難であり、作品によっては、極めて類似した複数の作品も存在するから、売買を円滑に進める上で、作品そのものをできるだけ忠実に表示することが、必要不可欠である。 また、オークションでは、単に取引の目的物を特定するというだけでなく、取引者が取引の目的物となる絵画の真贋を見極め、落札価格としてふさわしい値段を付ける必要がある。売買を円滑に進めるためには、文字情報だけでは不十分であり、取引対象となる作品を表示することが必要である。 このように、オークションカタログへの掲載は、オークションによって贋作が取引されることを防止し、絵画を適正な値段によって取引し、ひいては、取引の対象となる絵画の著作物の価値を高めるのみならず、当該著作者の一連の作品の価値を高めることにもなり、著作者の地位の向上、美術品取引市場の活性化による美術文化の発展にも資する。 したがって、本件カタログにオークションの対象となる絵画を表示することは、著作権法の定める引用の目的として、正当と認められる。 イ 本件カタログは、月1回程度の頻度で行われる本件オークションの出品作品のみを掲載したカタログであり、A4判に絵画1枚から数枚が作者、題号等の取引に必要な情報とともに掲載されている。また、本件カタログは、オークションカタログであるから、被告の会員及び当日オークションに臨場する者に限定して配布され、オークションの参加者及び参加見込者以外に配布されることはなく、それ自体として流通させる価値も流通の予定もない。 したがって、本件カタログに絵画を表示することは、その方法ないし態様においても、社会通念上、合理的な範囲内にとどまる。 ウ 美術の著作物に関して、著作者は、美術作品の所有権を手放してしまえば、その後、有体物である絵画の取引からは何の利益も得られない。本件でも、著作者は、絵画の所有権を手放しており、有体物である絵画の取引から得られる利益はなく、売買に付随して、売買の目的物を特定するために絵画が複製されたからといって、著作権者が経済的利益を得る機会損失になることはない。 他方、オークションは、絵画所有者の所有権の処分として行われるもので、オークションカタログへの複製は所有権処分のために不可避である。美術品の所有者に所有権の自由な処分が認められているにもかかわらず、オークションカタログへの複製を著作者の許諾にかからしめることによって、著作権者がオークションを妨げることができるとすれば、絵画所有者は、絵画に投下した資本を回収することができず、著作者ないし著作権者の意向によって絵画取引を萎縮させることになり、文化の発展に寄与するどころか、後退させることになる。 したがって、オークションカタログへの複製は、著作権者の利益となることはあっても、経済的損失をもたらすものではなく、所有権の譲渡のための取引に求められる公正な慣行に合致したものということができ、かつ、その引用の目的上でも、正当な範囲内のものであるということができる。 エ 引用の要件の1つと主張される主従関係についていえば、オークションカタログにおける主たる部分は、取引対象となる絵画の著作者、題号、サイズなどの基本的な情報及び落札価格に影響を与えるサインや傷などの状態、予想落札価格等に関する情報である。これらの情報を視覚的に示して取引の目的物を特定し、絵画の価値を判断させるため、オークションカタログに絵画を掲載しているが、絵画は文字による情報を補充するにとどまり、文字による情報を実際に確認できるような文字に取って代わるサイズではない。また、絵画と被告の記載部分とは明瞭に区別することができる。 したがって、主従関係と明瞭区別性という要件に照らしても、本件カタログへの複製は引用として認められる。 (原告らの主張) ア 最高裁昭和55年3月28日第三小法廷判決(民集34巻3号244頁)は、「引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいうと解するのが相当であるから、右引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならない」と判示する。 本件カタログの作品紹介部分には、作品名、題号、レゾネ番号、サイズ、サイン、エディションナンバー、予想落札価格等が記載されているが、これらの記載は作品の資料的事項にすぎないから、著作物ではない。また、このような本件カタログの体裁からすれば、これらのカタログは、出品作品の絵柄がどのようなものであるかを画像で見る者に伝えるためのものであり、作品の画像のほかに記載されている文字的部分は作品の資料的な事項にすぎず、その表現も単に事実のみを順に記載したものであるといえ、主たる部分が作品の画像であることは明らかである。したがって、上記最高裁判決に照らし、本件カタログへの作品の複製が、適法引用に当たるものでないことは、明らかである。 イ 被告が主張するように、「公正な慣行に合致」、「引用の目的上正当な範囲内」といった著作権法32条1項の文言だけを基準にして検討してみても、本件カタログについての諸事情(@引用する側が単なる資料的文言にすぎず、著作物ではないこと、A客観的な体裁からして作品の複製部分が明らかに主であり、資料的文言は従たる存在にすぎないこと、B美術品の図録に比肩するような上質紙による大型版の書籍に、極めて鮮明な美術品の写真を掲載していること、C公開入札方式のオークションにおいて、このような詳細かつ鮮明な作品の写真が必須のものでないこと、D本件カタログが、オークションに参加するか否かにかかわらず大量に頒布されるものであること、E本件カタログへの美術品の複製が著作権者には何らの利益をもたらすものでないこと、F公開入札方式によるオークションを行う他のオークション業者においては、現に原告らの利用許諾を得て適法に管理著作物をカタログに利用していること等)に鑑みれば、本件カタログへの美術作品の複製が「公正な慣行に合致」するものでも、「引用の目的上正当な範囲内」のものでもないことは明らかである。 (7) 原告らの請求が権利濫用に当たるか(争点7) (被告の主張) 平成22年1月施行の改正著作権法により、著作権法47条の2が新設され、美術の著作物の所有者その他譲渡の権限を有する者が、原作品を譲渡する場合、その委託を受けた者は、著作物を複製できることとなった。 著作権法改正前、譲渡の申し出に伴う複製は、「複製権や公衆送信権の侵害に当たる可能性がある」と指摘されていただけで、明確に侵害であるとは捉えられていない。むしろ、侵害に該当するとはいえないからこそ、それを確認する趣旨で、著作権法47条の2が新設されたのである。同条が新設された後に適法であることが明確化された行為について、行為態様が同じでありながら、新設前は違法であるとは考え難い。つまり、取引対象となる商品情報の提供として行われる画像の複製は、著作権法47条の2新設前においても、実質的に違法な複製とはいえない。 また、絵画等の譲渡等が著作権侵害でないにもかかわらず、画像掲載に関する著作権の問題を理由に、事実上、譲渡等が困難となるのは適当ではない。したがって、著作権法47条の2新設前においても、画像掲載に対して著作権侵害であると主張して、事実上、絵画等の譲渡を困難ならしめることは、絵画の処分権を有する者に対する、適法な権利行使の名を借りた著作権の濫用である。 以上のとおり、本件における原告の著作権の行使は、著作権法改正前にオークションのために行われた複製について、法律が明確でなかったことを幸いとして、譲渡に伴う美術の著作物の複製が法律上合法であると確認された今に至って、損害賠償を請求するものであり、著作権法47条の2が新設された趣旨からすると、著作権の濫用に該当する。著作権法47条の2が適法と認めるための要件として定めた「一定の措置」について、立法前に被告が同措置を講じられるはずがなく、これが取られていないことは、規定前の時点における違法性の有無を判断するに当たって、絶対的な基準とはなり得ない。 (原告らの主張) 著作権法は、その支分権(著作権法21条〜28条)として定める行為に対して著作権者の権利が及ぶことを原則とした上で、様々な理由で著作権が制限される場合を著作権法30条以下に限定列挙する方法で規定している。したがって、列挙された権利制限規定に該当しない支分権該当行為に対する著作権の権利行使が権利の濫用になることは、原則としてない。また、行為時点において違法な著作権侵害により発生済みの損害賠償請求権の行使が、その後に立法された著作権制限規定によって消滅することもない。しかも、被告と同様の美術品オークションを行う他のオークション業者においては、従前から原告らの利用許諾を得て、適法に管理著作物をそのオークションカタログに複製しているのであり、原告等による権利行使は、全く正当なものであり、本件請求が権利の濫用に当たるような事情は見当たらない。 第4 当裁判所の判断 1 原告X1の当事者適格の有無(争点1) (1) 関連条文(後記各書証に若干の修正を加えた。) ア フランス民法 第3款 卑属に与えられる相続財産 及び 第7款 生存配偶者の権利(ピカソ死亡時である1973年4月8日当時のもの。以下同じ。甲311) @ 745条(卑属の相続権) 1項:子又はその卑属は、性別も、長子であることの区別もなく、また、それらの者が異なる婚姻から生れたのであっても、父母、祖父、祖母又はその他の尊属を相続する。 2項:それらの者は、全て第一順位において、かつ、本人として(相続に)招致されるときは、均分で、かつ、頭(分け)によって相続する。それらの者は、その全部又は一部が代襲によって(相続に)臨むときは、株(分け)によって相続する。 A 765条(所有権の相続) 死亡者が相続することができる親等の血族を遺さない場合、又は兄弟姉妹若しくはそれらの者の卑属以外の傍系(血族)のみを遺す場合には、その相続財産は、離婚していず、かつ、その者に対して既判力を生じている別居判決が存在しない生存配偶者に、完全な所有権として属する。 イ フランス民法 第3編 第1章 第7節 不分割の法律上の規律(甲347) @ 815条 いかなる者にも、不分割にとどまることを強制することができない。分割は、常に提起することができる。ただし、判決又は合意によって延期された場合には、その限りではない。 A 815条の1 不分割権利者は、第1873条の1ないし第1873条の18に従って、不分割権利の行使に関する合意を締結することができる。 B 815条の2 1項:不分割権利者は、全て、(それが緊急的な性質を有していなくても、)不分割財産の保存に必要な措置をとることができる。 C 815条の3 1項:不分割権利の少なくとも3分の2を有する1又は複数の不分割権利者は、この多数により(次の行為を行うことが)できる。 1.不分割財産の管理行為を行うこと 2.1若しくは複数の不分割権利者又は第三者に管理の一般的委任を与えること 3.不分割の債務及び負担を支払うために不分割財産を売却すること 3項:ただし、不分割財産の通常の利用に属さないあらゆる行為、及び第1項第3号が規定するもの以外の処分行為を行うためには、全不分割権利者の同意が必要である。 D 815条の6 1項:大審裁判所長は、共通の利益が要求する全ての緊急の措置を命じ、又は許可することができる。 E 815条の9 1項:それぞれの不分割権利者は、他の不分割権利者の権利、及び不分割の間に適式に行われる行為の効果と両立する範囲において、不分割財産をその用途に従って使用し、収益することができる。利害関係人の間に一致がない場合には、この権利の行使は、仮に、裁判所長によって定められる。 ウ フランス民法 第3編 第9章の2 不分割の権利の行使に関する合意 (甲6、347) @ 1873条の1:所有者、共有権者又は用益権者として不分割財産に対して行使する権利を有する者は、その権利の行使に関する合意を締結することができる。 A 1873条の2 1項:共同不分割権利者は、その全ての者が同意する場合には、不分割にとどまる旨を合意することができる。 2項:この合意は、不分割制度の指定及びそれぞれの不分割権利者に属する(不分割)持分の表示を伴う書面によって作成しなければならない。これに反する場合には、無効とする。不分割財産が債権を含む場合には、第1690条の方式が必要である。不分割財産が不動産を含む場合には、土地公示の方式が必要である。 B 1873条の3 1項:この合意は、特定の期間を予定して締結することができる。この期間は、5年を上回ることができない。合意は、当事者の明示の決定によって更新することができる。分割は、それについて正当な理由がある場合でなければ、合意された期限前に提起することができない。 C 1873条の5 1項:共同不分割権利者は、それらの者又はそれらの者以外から選ぶ1人又は数人の管理者を選任することができる。管理者の指名及び解任の態様は、不分割権利者の全員一致の決定によって定めることができる。 D 1873条の6 1項:管理者は、民事生活上の行為について、あるいは原告又は被告として裁判上で、その権限の範囲内で不分割権利者を代表する。管理者は、訴訟手続の最初の行為において、単純な挙示として、全ての不分割権利者の氏名を表示する義務を負う。 2項:管理者は、不分割財産を管理し、そのために(夫婦の各人に付与される)共通財産に関する権限を行使する。ただし、管理者は、不分割財産の通常の経営の必要のために行う場合、又は保存が困難な物若しくは損耗しやすい物に関する場合でなければ、有体財産を処分することができない。管理者の権限を拡張する条項は全て、書かれなかったものとみなされる。 E 1873条の8 1項:管理者の権限を越える決定は、(不分割権利者の)全員一致で行われる。ただし、管理者が自ら不分割権利者である場合には、第815条の4、第815条の5及び第815条の6に定める訴えを行うことを妨げない。 エ フランス民事訴訟法 第1巻 全ての裁判所に共通の規定 第15編判決の執行 第2章 国境を越えた承認(甲346) 第509条 外国の裁判所によってなされた判決及び外国の官吏によって承認された証書は、法律によって定められている方法で、かつ、法律によって定められている場合に、共和国の領土で執行することができる。 (2) 前提事実 甲5、6、312の2、327及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア 原告X1は、ピカソの相続人の1人である。 ピカソは、1881年にスペインのマラガで生まれたスペイン人であるが、1904年にフランスのパリに移住した後、1973年にニース近郊のムージャンで死亡するまでの間、フランスに居住して美術的な創作活動を行った。ピカソが1973年4月8日に死亡したことにより、その子である原告X1、X2、X3及びCTの4名が、ピカソ作品の著作権を相続した。そして、CTが1975年6月5日死亡したことにより、その子であるX4及びX5がCTの有していたピカソ作品の著作権持分を相続した。 イ 原告X1、X2、X3、X4及びX5は、ピカソ作品の著作権をフランス民法1873条の1以下に規定する不分割共同財産にとどめる旨を合意した。 ウ 原告X1は、パリ大審裁判所の1989年3月24日付け本件急速審理命令により、不分割共同財産であるピカソの著作権の管理者(代表者)に指名された。なお、当該事件の原告は、原告X1及びX4であり、被告は、X2、X3及びSPADEM協会であり、それ以外にX5が訴訟参加人となっており、上記ピカソの相続人全員が関与している。同事件は、X5が、ピカソの意向に反して、自らの持分権を行使しようとしたことから、不分割財産に重大な損害が生じるおそれがあるとして、申し立てられたものであり、原告X1を不分割財産の代表者として指名すると同時に、X5が不分割財産の分割以前に管理行為を行うことの禁止も命じられた。 この点、被告は、ピカソの相続人間における不分割合意の有無及び有効性並びに本件急速審理命令の有効性に疑義を述べるが、パリ大審裁判所において本件急速審理命令が出されていることからすると、ピカソの相続人間の不分割合意は、ピカソの死亡時の本国法であるフランス法に基づいて適正、適式になされた契約で、有効に成立したものと推認されるし、また、本件急速審理命令において、X5が訴訟参加人となっていることも併せ考えると、ピカソの相続人全員が関与して発せられた急速審理命令ということができ、訴訟法上有効になされたものと認められる。 (3) 検討 原告X1は、ピカソの相続人の訴訟担当者として、本件訴訟を提起するところ、原告X1は、我が国の国籍を有しない訴訟担当者であるから、渉外事案における当事者適格が問題となる。 当事者適格の有無は、訴訟手続において、誰に当事者としての訴訟追行権限を認め、法的紛争の解決を有効かつ適切に行わせるのが相当かという視点から判断されるべき事項であるから、手続法上の問題として、法廷地における訴訟法、すなわち、我が国の民訴法を準拠法とすべきである。そして、我が国の民訴法は、本来の権利者又は法律関係の当事者以外の者が、訴訟担当として訴訟において当事者適格を持つ場合を規定しているが(民訴法30条、民法423条参照)、他方、他人の権利や法律関係を訴訟で主張することを無制限に認めているわけではない(民訴法54条参照)。さらに、訴訟担当の中でも、訴訟法(民訴法に限らない。)自体が担当者の定めを規定している場合ではなく、担当者が実体法上の法律関係に基づいて、訴訟物の管理処分権等が認められる場合においては、法廷地法の視点から、当該者に管理処分権及び訴訟追行権限を認めてよいか否かという点を検討する上で、訴訟担当者と被担当者との関係を規律する当該実体法の内容を考慮すべきものであり、本件のように、訴訟担当者の訴訟追行権限が一定の実体法上の法律関係の存在を前提にしている場合には、当該法律関係の準拠実体法を参照することが求められるというべきである。 この点、原告X1の訴訟追行権限は、フランス民法1873条の1に基づく権利不分割の合意を前提にした上で、管理者の選任について、フランス民法1873条の5第1項に規定する共同不分割権利者の合意が成立しなかったため、パリ大審裁判所の本件急速審理命令により、原告X1がピカソの相続人中の管理者として選任されたことに基づくものである。そして、フランス民法1873条の1において権利不分割合意の対象とされている「権利の行使」には、著作権侵害に基づく不法行為責任の追及が含まれると解するのが合理的である。したがって、原告X1の本件訴訟の追行権限は、フランス民法1873条の1に基づく権利不分割合意という実体法上の契約を基本としたものといえるが、不分割財産の管理者としての地位自体は、共同不分割権利者による合意により定められたわけではない。もっとも、パリ大審裁判所による本件急速審理命令は、フランス民法1873条の5に定める共同不分割権利者の合意に代わるものであるから、原告X1の本件訴訟追行権限の法的根拠は、共同不分割権利者による合意に準じたもの、あるいは、フランス民法の規定に由来するものと解することもできる。 そこで、我が国の民訴法の枠組みから、上記のような管理者に対して当事者適格を付与することができるか否かを検討する(なお、外国裁判所の確定判決の効力という観点も、後記において検討する。)。我が国の民訴法は、前記のとおり、権利者等以外の者による訴訟担当を認めているが、無制限に認めているわけではなく、弁護士代理の原則等に反しないことはもちろんのこと、他人による訴訟担当を認めるに足る合理的な必要性が要求される(最高裁昭和45年11月11日大法廷判決・民集24巻12号1854頁参照)。したがって、上記の原告X1の実体法上の地位が、我が国において、訴訟担当を基礎付けるに足りるものか否かを検討するに、原告X1は、フランス民法に基づき、実体法上、権利不分割合意の対象となった不分割財産の管理権限を有し、それに伴って裁判上も共同不分割権利者を代表する権限を有するほか、全共同不分割権利者の同意を得て、通常の利用に属しないあらゆる処分行為を行うことができる。このような地位を我が国の制度に照らしてみると、まず、民訴法30条の規定する選定当事者制度は、共同利益を有する多数の者の中から全員のために訴訟当事者となるべき1人を選任することを容認しており、共同相続人はこれら多数の者に該当すると解されること(大審院昭和15年4月9日判決・民集19巻9号695号)、また、各共有者は、共有物について、保存行為は単独で行うことが可能であるが(民法252条)、基本的には持分に応じた使用が許されており(民法249条)、共有物に対する不法行為による損害賠償請求権もこれに該当すると解されること(最高裁昭和41年3月3日判決・裁民82号639頁、最高裁昭和51年9月7日判決・裁民118号423頁参照)、他方、各共有者による共有物についての不分割の合意が規定されていること(民法256条1項ただし書)、債権についても当事者の合意による不可分が認められていること(民法428条)、相続財産は相続人の共有とされていること(民法898条)、相続財産の保存に必要な処分について、裁判所による相続財産管理人の選任ができること(民法918条)などの条文及び法解釈があり、これらの条文及び法解釈は、フランス民法に基づく権利不分割合意とその不分割財産の管理者に関する規定と同様の趣旨と解される。 以上によれば、相続人間で不分割とすることを合意した財産のうち、準物権的な知的財産権について、裁判所により管理者に選任された相続人が、単独で訴訟を提起することは、我が国の法規とも合致するところであり、原告X1の訴訟追行権限を許容すべき合理的な必要性は、我が国における訴訟法の観点からも是認することができる。 なお、原告X1を管理人に選任したパリ大審裁判所の本件急速審理命令については、外国裁判所の確定判決に関する効力の有無(民訴法118条)という側面も有するから、民訴法118条の各要件について検討するところ、本件急速審理命令は、権利不分割合意の対象である不分割財産の管理人を暫定的に定めるものであって(乙365)、争訟性のある事件に関する判決には該当しないから、被告に対する送達(2号)及び相互保証(4号)の要件は求められないというべきである(仮に、上記各要件が必要であるとしても、ピカソの相続人は、全員が当事者又は訴訟参加人として権利不分割合意に関する手続に関与しているから、送達(2号)の要件を満たす。また、フランスでは、少なくとも、判例法上、外国裁判の承認に関し、外国裁判所の裁判管轄、訴訟手続の規則適合性、フランスの抵触規定に従った準拠法の適用、国際公序への合致及び法律詐欺の不存在等が必要とされているが、人の身分と能力に関する事項のみならず、金銭及び財産に関する事項についても、実質再審査主義が廃止された状況にあると認められる(甲349)から、我が国と重要な点において異なるところはなく(最高裁昭和58年6月7日第三小法廷判決・民集37巻5号611頁参照)、相互保証(4号)の要件を満たすといえる。)。そして、外国裁判所の裁判権が認められること(1号)及び日本の公序に反しないこと(3号)の各要件を充足することは明らかである。 そうすると、原告X1のフランス法上の不分割財産の管理者としての地位は、我が国の訴訟法において、単独で訴訟追行することが許される地位と解すべきものであり、本訴においては、当事者適格を認めるべきものといえる。 (4) 被告の主張に対する判断 被告は、当事者適格の問題は法廷地法である我が国の訴訟法の問題であるという前提をとりつつ、我が国の著作権法117条は不分割共同財産という概念を認めていないから、著作権についての合意部分は無効であり、原告適格は認められないと主張する。 当裁判所は、この点に関し、原判決と同様に、著作権侵害を理由とする損害賠償請求の法律関係の性質は不法行為であり、準拠法としては、通則法17条により、加害行為の結果が発生した地である我が国の法律を適用すべきであると解する。そして、著作権法117条は、原告の当事者適格の有無に影響を及ぼす規定と解することはできない。なぜなら、同条は、共同著作物の各著作権者等が、当該共同著作物に関して、差止請求又は損害賠償請求等を独立してできると規定し、当該著作権等の各共有者が行使できる権利やその行使に際しての条件を定めるものであるところ、その内容は、著作権法112条で定められた著作権又は著作者人格権等の物権類似の効力を前提として、民法で認められた共有関係や不法行為に関する条文及び解釈を反映したものであり、各共有者間において、実体的な権利関係や権利行使に関し、著作権法117条の内容とは異なる合意を一切許さないような効力を有する強行規定と解することはできないからである。 したがって、著作権法117条は、各共有者間において、法律の定めた権利内容や条件とは異なる内容の合意や、それに基づく新たな法律関係の形成を一律に排除するものではなく、共有者間で成立した権利不分割の合意を無効とする法的根拠とはなり得ないというべきである。しかも、本件において、原告X1以外の他の相続人が、原告X1による本件訴訟追行に異議を唱えていることをうかがわせるような事情はなく(X5が、自己の持分権のみを行使したいという意向を有していたことと、本件訴訟の提起は必ずしも矛盾するものではない。)、ピカソの他の相続人から原告X1に対する個別の授権を要すると解すべき理由もない。 以上によれば、被告の主張は、採用できない。 2 著作権移転の有無(争点2) (1) 準拠法について ア 原告協会は、フランスの法人であるところ、同協会に本訴で問題となる会員作品の著作権を移転した会員は、種々の国の人間からなるので、権利移転関係の準拠法を検討する必要がある。 イ 著作権の移転について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては、移転の原因関係である契約等の債権行為と、目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し、それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきである。 まず、著作権の移転の原因である債権行為に適用されるべき準拠法について判断するに、通則法7条により、第一次的には当事者の選択に従ってその準拠法が定められるべきである(同法施行(平成19年1月1日)前は法例7条1項により「当事者ノ意思」を準拠法とするが、実質的に変わりはない。)。そして、フランス法人である原告協会と会員(大部分がフランス人)との間の著作権移転に関する契約については、フランス法を選択する意思であったと解される。仮に、会員の中に、原告協会との契約において、フランス法を選択する明確な意思がなかった場合には、通則法8条により、最密接関連地法を適用することになるが、フランスの「1985年7月3日付けフランス共和国著作権並びに実演家、レコード製作者及び放送事業者の権利に関する法律」に基づいて設立されたフランス法人との契約であり、原告協会がフランス及び外国における著作権管理を行っていることからすると、最密接関連地もまたフランス法といえ、適用法に変わりはない(同法施行前は法例7条2項により「行為地」を準拠法とするが、本件ではフランスを行為地といえるので、実質的に変わりはない。)。 次に、著作権の物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法について検討するに、一般に、物権の内容、効力、得喪の要件等は、目的物の所在地の法令を準拠法とすべきものとされ、通則法13条は、その趣旨に基づくものである。著作権は、その権利の内容及び効力がこれを保護する国の法令によって定められ、また、著作物の利用について第三者に対する排他的効力を有するから、物権の得喪について所在地法が適用されるのと同様に、著作権という物権類似の支配関係の変動については、保護国の法令が準拠法となるものと解するのが相当である。 このように、著作権の物権類似の支配関係の変動については、保護国である我が国の法令が準拠法となるが、著作権の移転の効力が原因となる譲渡契約の締結により直ちに生ずるとされている我が国の法令の下においては、原告協会と会員との間の著作権移転に関する契約が締結されたことにより、著作権は会員から原告協会に移転することになる。 (2) 「apport」の解釈について そこで、原告協会と会員との著作権移転に関する契約について検討するに、原告協会の一般規約14条は、「作品は、その著作者、その作品の権利承継者、相続人、受遺者又は譲受人が当協会に加入した事実のみをもって、当協会の管理著作物として承認される。当協会への加入により、この一般規約第1条に規定された作品及び当該著作者の他の全ての作品(それがいかなる性質のものであるかを問わない)の諸権利は当協会に「apport」する。」と規定するから、「apport」の意義を検討する。 ア 関連条文(フランス法) @ 1985年7月3日の著作権並びに実演家、レコード製作者及び放送事業者の権利に関する法律(甲1の1) 38条 1項:著作権使用料並びに実演家、レコード製作者及びビデオグラム製作者の権利使用料の徴収分配協会を民法法人として設立する。 2項:この協会の会員は、著作者、実演家、レコード製作者若しくはビデオグラム製作者、出版者又はこれらの者の承継人でなければならない。正規に設立されたこれらの民法法人は、約款に従って責任を負う権利の擁護のために出廷する資格を有する。 A 知的所有権法典に関する1992年7月1日の法律(法律第92−597号)(甲1の2) 321の1条 1項:著作権使用料並びに実演家、レコード製作者及びビデオグラム製作者の権利使用料の徴収分配協会が、民事組合として設立される。 2項:これらの協会の会員は、著作者、実演家、レコード製作者、ビデオグラム製作者、出版者又はこれらの者の権利承継人でなければならない。正規に設立されたそれらの民事組合は、定款上責任を負う権利の擁護のために裁判所に出廷する資格を有する。 B 一般規約(甲3) 1条:当協会の会員となるためには、静的であるか動的であるか、又は二次元であるか三次元であるかを問わず、視覚的作品(視聴覚的制作物の一部である場合を含む)の全部又は一部の著作者であること、これらの著作者から作品の権利を相続した者であること、又はこれらの著作者若しくは相続人が作品について有する財産権の全部又は一部を譲り受けた者であることが必要である。 14条:作品は、その著作者、その作品の権利承継者、相続人、受遺者又は譲受人が当協会に加入した事実のみをもって、当協会の管理著作物として承認される。当協会への加入により、この一般規約第1条に規定された作品及び当該著作者の他の全ての作品(それがいかなる性質のものであるかを問わない)の諸権利は当協会に「apport」する。ただし、外国地域に限り、当協会を外国で代表する使用料徴収協会の規約の定めに従うものとする。 C 原告協会定款(甲350、356) 2条:この定款により入会が許可された全ての者は、作家の作品に関する財産権の全部又は一部の保持者である。 彼らは、その入会の事実によって、全ての国において、及び協会の存続期間中、第6条及び48条の規定の条件下で、下記の権利を協会に「apport」する。 a)とりわけ展示会の方法により、作品を展示し又は公衆に伝達することを許諾し又は禁止する権利 b)作品の複製を許諾し又は禁止する権利 c)映画フィルム、ビデオグラム、有線テレビ放送、衛星放送、マルチメディアのあらゆる媒体における利用(オフライン)及びネットワークによる放映(オンライン)等の手法(これらの方法に限定されない)により、上述の作品を表示又は公衆送信するために作品の複製が必要な場合に、その作品の複製を許諾し又は禁止する権利 d)入会前の販売分を含む追及権の管理e)私的複製補償金の管理 f)あらゆる複写補償金を受領する権利の管理 g)作品の貸与又は賃貸借に係る補償金を受領する権利の管理 h)義務的団体管理における全ての著作権及び法定許諾の枠内で支払われるべき全ての報酬の管理 j)広告に使用された注文作品の利用権の管理 これらの全ての権利「apport」は、協会の資本金を構成するものではない。資本金は15、24ユーロの現金移転による支払で構成される。 3条 前条の規定にもかかわらず、本定款に賛同し加入を認められた者は、協会の存立期間中、あらゆる国において、又はフランスについて及びいくつかの地域について、ただし後述の規定を留保条件として、第2条に定める権利の一部のみを協会に「apport」することができる。 ただし、提示が複製を伴うところの第2条a)及び第2条c)に定める場合には、複製権の「apport」は、提示権の「apport」と切り離すことができない。 4条 1項:第2条に定める移転の対象になっている諸権利は社員の加入期日前に製作されている作品に係るものである。 ただし、財産権が独占的に「apport」されている作品の利用法については、その譲渡期間中、これらの権利移転は適用されない。 上記の権利は、作家が協会に所属している間に製作する作品にも、その製作に伴って適用される。 2項:協会は、フランスや外国において、他の著作権料徴収分配協会、並びに当該協会の代理可能な他のあらゆる個人に、当該協会に移転された諸権利の行使と管理を委託することができる。 9条 協会は下記の事項を目的とする。 1)全ての国において、作品の利用に関し、とりわけ知的所有権法典によって著作者に付与される財産権を含む全ての権利の行使及び管理、同様に使用料又は上記権利の行使に由来する一切の補償金、及びより一般的に上記作品の第三者による合法又は違法な利用の事実によって生じる全ての種類の全ての使用料等の徴収及び分配 4)全ての第三者に対して会員の権利を擁護すること 6)そして、一般的な方法による、会員及びさらに一般的に国内外の著作者の物質的及び人格的利益の擁護 協会は会員個人の権利及び会員一般の利益及び権利の擁護を保障するために裁判所に出廷する資格を有する。 同様に協会は著作者及び権利承継者の保護及び擁護に特に関係する一般的利益に関するあらゆる法的手続を推進する資格を有する。 33条 協会の各会員は、定款に従って入会した事実をもって、各会員が協会に「apport」した権利の擁護を保障するために、協会が会員に代わって裁判所に出廷することを承認する。 54条 一般規約は定款を補完する。 D 入会届(甲306の1参照) 管理される権利 私は、ADAGPの定款及び一般規約に同意して、それに従うことを誓約し、定款第2条に従って、定款に規定された諸条件に基づく撤回がなされた場合を除き、全ての国において貴協会の存続期間中、生じ得る期間延長を含めて、定款第4条及び一般規約第14条の対象となる作品にかかる下記の諸権利の実施及び管理を確実に行うために、「apport」し、ADAGPに委託します。 団体権 1) 有線又は衛星による複製及び公の放送を許諾し又は禁止する権利の管理 2) 私的複製補償金の管理 3) 複写補償金の管理 4) 図書館における貸与補償金の管理 5) その他知的財産権法典によって基礎付けられた義務的団体管理又は法定許諾の一環としての報酬にかかる全ての著作権の管理 E フランス民法 第3編:所有権を得る様々な方法 第9章:会社 第1節:一般規定(乙367) 1843条の2第1項 資本金における各社員の権利は、会社設立の際又は会社存続中、それらの出資(apports)に比例する。 イ 検討 フランス法辞典(乙47)では、「apport」の用語について、出資という意味が掲載されており、フランス民法典(乙367)にも、会社関係で出資の意味で使用される例がある。一方、フランス知的財産法典(乙48の2)では、譲渡を意味する用語として、「apport」ではなく「cedent」が使われている。他方、フランス法辞典(乙47)には「apport」の意味として、組合・会社の出資のほかに、夫婦の持ち寄り財産の例が記載されているところ、これは、婚姻生活のためになされる夫婦の持ち寄り財産の場合は、夫婦間における内部的な問題と第三者との関係である対外的な問題という二場面が想定されていると考えることができる。以上のことを考慮すると、本件における「apport」については、団体への出資という形態をとっており、対外的には団体へ財産が移転するが、団体と加入者の間では内部的に条件や留保が付されている前提の文言として使用されていると解するのが相当である。 また、著作権管理団体SACEMでも同様に「apport」の用語が使用されているところ(甲299)、これに関し、フレデリック・ポロー・ジュリアン著の私法大全(甲315)には、「著作者、著作隣接権者及びその権利承継者は、定款の定める条件に従って使用料徴収分配協会に加入することにより協会の社員となる。この入会は、処分行為ではなく、管理行為とみなされる。それは次の2つの異なった行為の組合せであり、そのひとつは、資本の持ち分(又は入会の権利)を出資すること、もうひとつは管理委託する知的財産権を譲渡(cession)することである(委任(mandat)の場合は例外である)。まず、入会者は資本の持ち分を出資する。この資本は、協会ごとに固定額でも可変額でもよい(例えば、SACEM及びSACDは可変資本である。)。資本への出資は、その額をみれば、実際にはほとんど名目的なものである。他方、留意すべきは、それが入会者に割り当てられる資本の持ち分に影響を与えるものではないため民法典1843条の2が定める「出資」と同一視できないにもかかわらず、あいにく「移転(apport)」と名付けられた行為によって、彼らは、その知的財産権の管理を協会に委託することになる。」と記載される。この記載は、「apport」の解釈として、対外的には団体への権利移転を認める趣旨と解することができるところ、原告協会は、SACEMの定款1条と同様の定めを、定款2条に置き(甲324)、同様の形態で業務を行っているから、同様の意義と解するのが相当である。 以上のとおり、「apport」により、原告協会へ著作権が「移転」するというべきである。 ウ フランス破毀院判決について (ア) 被告は、フランス破毀院判決(乙40、368)を引用して、美術家が集中管理団体に対する出資(apport)によって原告協会に加盟し著作権の管理を委託したとしても、その死後において、原告協会は、当然に死亡した著作権者の相続財産となった損害賠償請求権を行使できるものではない旨主張する。 同判決は、実演家の権利管理団体が、原告として、フランス国内において、団体の加入者である実演家(歌手)の出演したテレビ番組等を無許可で抜粋して作成したビデオグラムに関し、そのビデオグラムの共同製作者とその承継人に対し、損害賠償を求めた事案において、同権利管理団体が、加入者である実演家死亡後に承継人に著作料を支払い続ける旨を定めた定款及び一般規約の定めを理由として、死亡した5名の実演家の権利に基づき、実演家名義でその承継人からの依頼なしに、当該実演家の実演を無許諾で利用した者に対して提起した損害賠償請求について、当該団体に訴訟追行権がないと判断したものである。この判断は、同権利管理団体が、実演家による権利管理団体との契約は、実演家死後も相続人である承継人らを拘束するから、実演家の死亡後も、当該団体に損害賠償請求に関する訴訟追行権があると主張したことに対して、説示されたものである。 したがって、この判断は、フランス国内における損害賠償請求に関する訴訟追行権限の有無という訴訟法上の資格を問題としたものと解され、美術家が死亡した場合における当該美術家の作品の著作権侵害に基づく損害賠償請求を行使する前提となる著作権の権利移転に関して、何らかの一般的な規範を提示したものとはいえない。 そうすると、原告協会は、1985年7月3日の著作権並びに実演家、レコード製作者及び放送事業者の権利に関する法律38条2項ないし知的所有権法典に関する1992年7月1日の法律321の1条に定めた出廷資格者として訴訟を提起しているわけではないから、少なくとも、上記破毀院判決とは事案を異にし、同判決を根拠に、著作者の死亡後に、著作権の管理団体である原告協会が、著作権者の相続財産である損害賠償請求権を行使することが妨げられるものではない。 (イ) なお、原告協会は、上記フランス破毀院判決を根拠とする美術家死亡の場合に権利承継を否定する被告の主張は、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきと主張するが、控訴審の続審という位置付け、及び、控訴審で原告らの当事者適格及び準拠法について何回も弁論準備手続期日で審理が行われ、その過程で原告協会自身が請求を拡張したというような事情に照らせば、控訴審の初期の段階で主張された被告による当該主張は、時機に後れたものとは認められない。 (3) 権利移転の立証について ア 代表者の宣誓供述書の信用性 原告協会が著作権を各美術家から譲り受けた事実は、原告協会の不法行為に基づく損害賠償請求を基礎付ける被侵害利益に関する事実であるから、原告協会が主張立証責任を負うべきものである。この点に関して、原告協会は、代表者の宣誓供述書(甲305)や法務責任者のCUの「取扱作家権利帰属証明書」(甲314)を証拠として提出するところ、当該証拠では、入会手続が適正になされていたことが供述されるが、具体的な裏付けが不十分で、直ちに信用性を肯定できるものではない。なお、フランス知的財産法典331条の2は、上記証明書に一定の法定証明力を認めているが(甲316、318)、我が国においては、他の書証と並ぶ書証の1つとして通常の証明力を有するものと解される。 そこで、被告が、相続関係等について具体的に疑義を主張する美術家のうち、原告協会が相続関係について具体的に反論する一部の美術家について、その主張及び証拠関係を検討すると、下記イのとおり、その相続関係及び入会手続に問題はないと認められ、原告協会に著作権(少なくとも複製権)が移転されるに足りる適正な手続が取られたといえる。そうすると、代表者の前記宣誓供述書等は、一定の具体的な裏付けを有するものとして信用性が認められ、原告協会が具体的な入会届や相続関係について証拠を提出していない美術家についても、同様のことが推認できる。したがって、原告協会が権利侵害を主張している会員作品については、同協会に権利移転が認められるものというべきである。 イ 個別の会員について (ア) 被告が、個別に権利移転について理由を挙げて反論する美術家について、検討する。 (イ) BRAQUE Georges(27番) 被告は、ジョルジュ・ブラックの著作権の原告協会への移転に疑義を生じさせる証拠として、追及権に関する争いがあったと記載された乙41号証を提出する。 当該書証は、ジョルジュ・ブラックの作品についての追及権(ベルヌ条約14条の3に規定する、美術の著作物の原作品等について著作者が転売ごとに売買の利益の配分を受けることができる権利)に関する文献であるところ、同文献の記載によれば、ブラックの作品に関して追及権に争いが起きたのは、追及権の帰属する主体に関して法改正があったことを理由とするものであり、相続人が他に存在することを理由とするものではないから、同書証の記載内容は、原告協会における具体的な入会手続に疑義を生じさせるものではない。 原告協会が会員の権利関係をまとめた甲12号証を見ても、元々、原告協会は追及権を譲り受けていないことを自認するところである。 (ウ) ARMAN (Armand FERNANDEZ, dit)(9番) 被告は、原告協会への入会手続に対する疑義として、アルマンの2番目の妻との結婚から生まれた子であるBとC、もう1人のBRについては、入会届が提出されておらず、入会届が提出されたEが、いかなる関係にある人物か、不明であると主張する。 これに対し、原告協会は、アルマンの2番目の妻との結婚から生まれた子であるBとC、BRについて入会届が提出されていないのは、母親のD(甲28の1)が承継したためであると説明する。そして、Eは、アルマンとFの子であるGの子であると説明する(甲313)。 そして、アルマンの入会手続の関係で、原告協会が保有する2005年12月13日付け公知証書(資料1)において、アルマンの相続人として、@BO、ABN、 BBQ、CE、DDが記載されていることは、当事者間に争いがない。また、@、 Aはアルマンの子であること、Bはアルマンの6番目の子であること、Cはアルマンの孫娘であり唯一の子としてGを代襲相続したこと、Dはアルマンの2番目の妻であり生存配偶者と記載されていることについても争いがない。さらに、D夫人が「上記配偶者(アルマン)との間で定めた贈与に関する規定及びその他の規定の受益者であり、フランス法の規定の名において法律上適法な受益者である」との記載があることについても、当事者間に争いがない。 したがって、アルマン作品の権利承継者は、D、E、BO、BN及びGの5名であるという原告協会の説明は合理的なものであり、一定の裏付けがあると認められる。 (エ) COCTEAU Jean(41番) 被告は、コクトーにつき、「BVは、コクトー作品の共同相続人と記載されているので、他の共同相続人が存在するはずである」と主張する。 これに対し、原告協会は、コクトーの著作権は、当初、コクトーの養子であるKに相続され、Kに相続されたコクトーの著作権は、1995年5月15日、同人の死亡により、妻L、子であるM及びNの3名に相続されたが、1997年10月9日、Lは死去し、その持分はM及びN(甲17の8)に相続され、2001年10月2日にはMも死亡し、その持分がNに相続されたため、現在はNがコクトー著作権に関する唯一の著作権者であると説明する(甲313)。 そして、コクトーの入会手続の関係で、原告協会が保有する公知証書に関し、@ ジャン・コクトーの死亡後に作成された1964年1月16日付け公知証書(資料2の1)に、「ジャン・コクトー氏が、メッツ(モーゼル県)において作成した1962年9月22日付け自筆証書遺言でその包括受遺者を指定したことは明白である」との記載があり、その包括受遺者としてBWの名が記載されていること、ABWの死亡後に作成された1995年7月18日付け公知証書(資料2の2)に、BWの死亡により、同人の財産は、妻であるL夫人、M、Nの3名に承継されたとの記載があること、また、MとNがBWとL夫人の子であること、BLの死亡後に作成された1998年1月23日付け公知証書(資料2の3)に、L夫人の死後、その財産がMとNに承継されたとの記載があること、CMの死亡後に作成された2001年10月8日付け公知証書(資料2の4)に、Mの死亡により、その兄弟であるNに承継されたとの記載があることは、当事者間に争いがない。 したがって、現在はNがコクトー著作権に関する唯一の著作権者であるという原告協会の説明は合理的なものであり、一定の裏付けがあると認められる。 (オ) COUTY Jean(47番) 被告は、クティにつき、「クティの相続人としては、妻のPの他、息子のOが存在するはずであるが、同人から入会届が提出されていない」と主張する。 これに対し、原告協会は、クティの著作権を含む全財産は同人の妻であるPが承継し、息子のOはクティの著作権承継者ではないと説明する(甲313)。 そして、クティの入会手続の関係で、原告協会が保有する1991年10月28日付け公知証書に、クティの遺産に関し、配偶者へ全て贈与される旨が記載され、妻であるP夫人がその遺贈を受けたことは、当事者間に争いがない。 したがって、原告協会の説明は合理的なものであり、一定の裏付けがあると認められる。 (カ) DERAIN Andre(51番) 被告は、ドランにつき、入会届を提出したT(甲17の2)はドランの姪であるが、ドランに妻子など他の相続人が存在しないのか不明であるし、ドランの鑑定委員会に所属する者が相続人ないし受遺者でないのかも不明であると主張する。 これに対し、原告協会は、@ドランの著作権は、当初、妻のQとドランの養子であるRに相続され、Qが死去したことにより、Rはドランの全ての権利を相続した、 ARは、1991年8月14日に死去し、同人が有していたドランの著作権は、同人の実母であるS及び同人の従姉妹であるT(Qの姉妹の娘)に均等に承継された、 BSは2001年1月29日に死亡し、同人の有する著作権持分は同人の遺言に基づきTに承継された。これによりTはドランの著作権に関する唯一の著作権者となった、CTは2013年2月24日に死去したため、原告協会は、現在、Tからドランの著作権を相続した彼女の2人の子供、U及びVのためにドランの著作権を管理していると説明する(甲313)。 そして、ドランの入会手続の関係で原告が保有する資料に関し、@ドランの死亡後に作成された1969年6月6日付け公知証書(資料4の1。公知証書との記載がないとしても公証人が発した書簡であることは争いなく、公知証書と認められる。)に、ドランは、その生存配偶者であるQ及びRを遺産の受領者として死亡したとの記載があること、AQ夫人の死亡後に作成された1978年10月3日付け財産目録(資料4の2)に、Q夫人の死亡により、唯一の相続人のRが権利を承継したとの記載があること、BRの死亡後に作成された1992年1月21日付け公知証書(資料4の3)に、Rが死亡し、S夫人とTが、相続人であるとの記載があること、 CS夫人とT夫人との間の契約書(資料4の4)に、S夫人の有する著作権持分2分の1は、T夫人に譲渡され、S夫人の死亡により、権利はT夫人又はその相続人若しくは権利承継人に帰属するとの記載があること、S夫人が2001年1月29日に死亡したことは、当事者間に争いがない。 したがって、原告協会の説明は合理的なものであり、一定の裏付けがあると認められる。 (キ) KISLING(95番) 被告は、キスリングには、CHとAZの2人の息子が存在するが、入会届は、CH、AW、AYの 3 名から提出されていると主張する。 これに対し、原告協会は、AW(甲18の8)及びAY(甲18の9)は、いずれも2007年6月26日に死亡したAZの息子(キスリングの孫)であり、AZからキスリング著作権の持分を相続した著作権者であると説明する(甲313)。 そして、キスリングの入会手続の関係で原告協会が保有する資料に関し、@キスリングの死亡後に作成された1954年6月21日付け公知証書(資料5の1。公知証書との記載がないとしても公証人が発した書簡であることは争いなく、公知証書と認められる。)に、キスリングの遺産がCHとAZに相続されたとの記載があること、A資料5の1で相続財産の用益権の受遺者として記載されているCI夫人の死亡後に作成された1961年5月30日付け公知証書(資料5の2)に、上記CI夫人の死亡により、遺産が子であるCH及びAZに承継されたとの記載があること、BAZの死亡後に作成された2007年10月8日付け公知証書(資料5の3)に、AZ死亡により、その遺産が、AYとAWに承継されたとの記載があることは、当事者間に争いがない。 したがって、原告協会の説明は合理的なものであり、一定の裏付けがあると認められる。 (ク) MASSON Andre(120番) 被告は、マッソンには、少なくとも、CJ、BAという息子と娘のCKが存在するが、入会届が提出されているのは、CJ、CK及びBBであり、BAの入会届は提出されていないと主張する。 これに対し、原告協会は、BBはBAの妻であり、彼の唯一の相続人であると説明する(甲313)。 そして、マッソンの入会手続の関係で原告協会が保有するマッソンの死亡後に作成された1987年12月18日付け公知証書(資料6の1)に、マッソンの相続人として、同人の最初の妻との子であるCL夫人、2番目の妻との間の子であるCJとBAの3名が均等の割合で相続したとの記載があること、BAの死亡後に作成された2006年1月31日付け公知証書(資料6の2)に、BAの死亡により、配偶者であるCM夫人が相続財産の用益権を選択した旨の記載があることは、当事者間に争いがない。また、CKがCLの通名であることについても、認めることができる。さらに、CM夫人(旧姓BBである。)の入会届が2005年12月12日に提出されたことからすると(甲18の7)、それ以前からCM夫人の被相続人(BA)の入会届が提出されていたと推認されるのであって、CJとCKに関する入会届しか提出されていない(甲17の4、17の5)ことにより、手続に疑義を生じさせるものではない。 したがって、原告協会の説明は合理的なものであり、一定の裏付けがあると認められる。 (ケ) MATTA(121番) 被告は、マッタには、BC、BD、BHという息子が存在するが、BCとBDの入会届は提出されていないと主張する。 これに対し、原告協会は、BCは1978年に、BDは1976年に、いずれもマッタが2002年11月23日に死亡する前に死亡しているため、マッタの相続人にはならないと説明する(甲313)。 そして、マッタの入会手続の関係で原告協会が保有するマッタの死亡後に作成された2007年4月26日付け公知証書(資料7)に、マッタの相続人として、CN夫人、BI、CO、CP、CQが記載されていることは、当事者間に争いがない。 したがって、原告協会の説明は合理的なものであり、一定の裏付けがあると認められる。 (コ) FRIEDLAENDER Johnny(70番) 被告は、入会届(甲68)に記載されたCRは、著作者人格者の受遺者であり、複製権はないと主張する。 しかしながら、CRは、その入会届の資格(Qualite)欄に記載されているとおり、 FRIEDLAENDER の遺産の包括受遺者(Legataire Universel)であり、FRIEDLAENDER 作品の複製権を承継している。氏名欄の追加的記載は「Legataire avec droit moral de Johnny FRIEDLAENDER」(Johnny FRIEDLAENDER の人格権の遺贈をも受けた受遺者)というものであって、同人が作家から財産権の包括遺贈を受けるだけでなく、人格権の遺贈(フランス知的所有権法典121条の1第5項)も受けた者である旨が記載されているにすぎない。 (サ) 小括 以上によれば、原告協会の入会手続において、被告が相続関係で具体的な根拠を示して疑義を主張した会員のうち7名については、裏付けをもってその入会手続が正当に行われていたことが明らかにされており、他の疑義を主張する会員に関する説明についても、合理的なものと推認することができる。また、これらの会員から原告協会に移転した権利内容についても、原告協会の説明は、合理的なものと認められる。 被告は、別紙2−3の被告主張一覧表のとおり、本件訴訟において、本件カタログの配布時期より後れた日付けの加入日の入会届しか提出されていない会員がいる等を指摘する。しかしながら、相続人、受遺者や権利承継者により入会届が提出されたことが、美術家本人が死亡又は権利移転する以前に原告協会に入会していたことを否定するものではない。本件カタログの配布時期以前から、多数の相続人が入会届を提出しており(例えば、上記一覧表17番のハンス・ベルメールに関しては、相続人であるCVの入会届が提出されている〔甲15の2〕)、120番のマッソンのように、相続人が死亡したために、更にその相続人から二段階で入会届が出ているものもある〔甲17の4、17の5、18の7〕。これらの事情から、原告協会は、相続が発生する都度、入会届の提出を求めていたことがうかがわれる。しかも、本件訴訟で書証として提出された入会届が、それぞれの会員に関する全ての書類であると原告協会が主張するわけではないから、他に原告協会に提出された書類が存在することも想定される。 ウ まとめ 以上のことからすると、原告代表者の宣誓供述書(甲305)や法務責任者のCUの「取扱作家権利帰属証明書」(甲314)は、裏付けを伴うものとして、一定の信用性があるものと認められる。そして、これらの書証によれば、原告協会が著作権の侵害を主張する会員について、適正に入会手続が行われたと認めることができる。 ただし、上記のとおり、原告協会における入会手続が適正に処理されているとしても、同一美術家から、権利移転や相続等の特別な事情もなく、入会届が二回提出されることは一般的ではないと考えられるから、美術家本人から入会届が提出される以前は、原告協会に権利移転は行われていないものと認められる。そうすると、原告協会に対し入会届が提出されている前に発行された本件カタログに関しては、損害賠償請求を認めるのは相当ではない。したがって、3番のアイズピリの入会届提出日である2003年6月19日(甲23)より前の、13番のギーの入会届提出日である2004年4月28日(甲31)より前の、84番のユルバンの入会届提出日である2005年12月21日(甲78)より前のカタログに係る請求、すなわち、3番のアイズピリの2002年発行の本件カタログ122号及び本件カタログ130号に係る請求部分、13番のギーの2003年発行の本件カタログ148号に係る請求部分、及び、84番のユルバンの2004年発行の本件カタログ158号に係る請求部分は理由がない。 (4) 移転した権利の内容について ア 157番のモーリス・ユトリロについては、原告協会は著作権の共有持分(50%)の移転を受けている(甲297、乙9)。 イ また、42番のジェームス・コワニャールについて、甲306号証の1ないし4によれば、2009年12月15日、原告協会が管理委託を受けていた著作権から複製権が除外されたため、2011年11月13日付けADAGP会員リスト(甲12)に記載されているコワニャール作品の管理委託範囲は、「RG」(複写補償金)、「RL」(貸与補償金)、「BT」(私的複製補償金)及び「RR」(追及権)のみとされている。したがって、2009年12月までの間の損害賠償請求について、原告協会に請求権が認められる(本件では、2005年までに発行された本件カタログについて、複製権侵害の損害賠償請求がされている。)。 3 被告の複製権侵害の態様と原告らの損害額(争点3) 本件は、著作権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求であるから、被侵害利益に関連した著作権の移転に関する準拠法とは別に、不法行為の成否について準拠法が問題となる。この点、不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、通則法17条により準拠法が定められるところ、「加害行為の結果が発生した地」は我が国であるから、我が国の法令(民法、著作権法)が適用されるというべきである(通則法施行(平成19年1月1日)前は法例11条1項により「其原因タル事実ノ発生シタル地」の法が準拠法とされるところ、その地が我が国であることに変わりはない。)。これを前提として、検討を進める。 (1) 被告の複製権侵害の態様 被告が、本件カタログにおいて、会員作品及びピカソ作品を複製して掲載した事実自体に、争いはない。また、美術作品のオークションを行う被告において、複製権侵害についての故意又は過失は明らかである。したがって、被告による本件カタログへの上記掲載は、不法行為と認められる。 被告が、複製の態様として、原告の主張する大きさや色との違いを主張する部分は、複製権侵害の程度、ひいては損害額に影響を与えるものであるが、違法性の有無自体には影響しない。 そして、著作権者が、著作権行使について受け取るべき使用料を算定にするに当たっては、著作権の利用状況、すなわち、利用の形態が複製であるか、複製した美術作品の大きさや色はどのようなものかによって、適正対価を決するのが、一般的な手法と解されるところ、本件において、前記不法行為発生時に通常の使用料の算定に用いられていたのはSPDAの使用料規程であり、同規程は合理的なものと認められるから、これを損害額算定の基準とするのが相当である。 この点、原告らは、平成24年1月に設立されたJASPARの使用料規程を基準とすべきであり、従前の低額なSPDAの使用料規程により損害を算定することは侵害得を認めるものであるから、相当ではないと主張する。 しかしながら、後記(6)アのとおり、JASPARの使用料規程に基づいて使用料相当損害金を算定することは不適当であり、原告らの主張は採用できない。そして、SPDAの使用料規程は、色やサイズによって異なる使用料を定めているから、損害額の算定の前提となる複製の態様についても、同規程に定められた基準に基づいて認定するのが相当である。 (2) 色 SPDAが平成15年1月6日に作成した使用料規程(甲9)では、使用態様が白黒かカラーかによって使用料が区別されているから、損害金算定の前提となる複製の色についても、白黒かカラーかによって区別すべきと解される。 この点、被告は、損害額算定の前提となる複製の色について、「モノクロ」(単色)かカラーかによって区別すべきであると主張し、その根拠として、DNPアートが適用するSPDAの使用料規程は、モノクロ(単色)かカラーかによって区別していること(乙15)を挙げる。しかしながら、モノクロの字義的な意味としては、「単色」と「白黒」の両方があるところ、DNPアートは、著作権使用料はSPDAと同じであるとしており、同社の基準はSPDAの基準を転載したものとされ、当初定めたSPDAの基準を変更したことをうかがわせる事情もないから、SPDAの使用料規程に示された「モノクロ」は、「白黒」の意味と解すべきである。よって、被告の主張は採用できない。 そうすると、単色であってもカラーで再製されている写真は、「カラー」と認定する。また、SPDAの使用料規程は、作品が白黒印刷の方法で複製される場合と、同じ作品がカラー印刷の方法で複製される場合とを区別して、前者の使用料を低額に定めているものと認められるから、本訴においても、原作品が白黒のみで構成されている(カンバス又は台紙に色が付されているものを含む。)としても、カラー写真として撮影されて再製されていることが明かものは、「カラー」と認定する。 なお、被告が別紙2−2原告協会主張に対する認否表及び別紙3−2原告X1主張に対する認否表において、bw(白黒)写真であるとの主張については、その趣旨が、カラーの単色写真であるが白黒写真として取り扱われるべきとするもの、及び、本来的に白黒写真であるとするものの両方を含むと解されるが、以下では、両者をまとめてbw(白黒)写真との主張として掲記して、検討する。 (3) サイズ 美術の著作物を書籍に複製する場合、通常は作品を撮影した写真を使用する。その場合、背景や額縁の大きさ等は、写真の撮影態様によって様々であるし、また、額縁の種類によっては、作品の周辺をわずかながら隠す態様となることも想定されるから、使用料算定の基準として著作物のサイズ自体の大きさを問題とすることになれば、その確認作業は非常に手間がかかるものとなる。したがって、SPDAの使用料規程では、容易に確認できる画一的な基準として、写真の大きさが基準とされていると解するのが相当である。すなわち、著作物自体のサイズではなく、写真の余白部分や撮影された背景、額縁を含めた写真のサイズとして判断するのが相当であり、本訴でも同様の基準でサイズを認定する。 この点、被告は、SPDAの使用料規程は、著作物ではなく「著作物を複製した写真の大きさ」を基準とするか否かは明確でないとし、使用料は著作物の使用に対する料金であるから、著作物とは無関係な写真の余白部分や額縁を含めたサイズではなく、あくまで著作物を基準としたサイズとすべきであると主張するが、上記判示に照らして採用できない。 なお、後記(4)ウのとおり、127番の荻須高徳の本件カタログ318号の作品についての著作権侵害の有無を判断するに当たっては、著作権法施行規則4条の2第1項1号の「著作物の表示の大きさ」の解釈として著作物自体の大きさを検討するのが相当であるが、この著作権侵害の有無の問題と、SPDAの使用料規程に基づく使用料相当損害金の算定の基礎となる写真のサイズの問題とは、法的観点を異にするから、各別の判断基準により判断されるべきものである。 (4) 会員作品について ア 被告が、モノクロである、あるいは、美的再製がない等と主張しているものについて、裁判所の認定は、以下のとおりである。
ウ 127番の荻須高徳(OGUISS Takanori)の本件カタログ318号の作品について 被告は、本件カタログ318号に係る複製について、著作権法47条の2の適用がある旨主張する。 そこで検討するに、被告は、本件オークションを主催する者であるから、著作権法47条の2の施行日である平成22年1月1日以降、同条所定の複製を行うことができたものと認められる。また、同法施行令7条の2第1項第1号及び同法施行規則4条の2第1項第1号により、著作権法47条の2が適用されるためには、当該複製により作成される複製物に係る著作物の表示の大きさが50平方センチメートル以下であることが必要である。 弁論の全趣旨によれば、本件カタログ318号は平成22年後半に発行されたものであると認められるから、同号に係る複製は著作権法47条の2の適用の対象となる。そして、証拠(甲216、乙19)によれば、同号に係る複製は、額縁部分を除く作品部分について、縦約6cm×横8.3cm の写真を印刷したものであることが認められるから、その表示の大きさは約49.8平方センチメートルである。 以上によれば、本件カタログ318号に係る複製は、著作権法47条の2の適用があると認められるから、複製権の侵害には当たらない。 (5) ピカソ作品について ア 被告が、モノクロである、あるいは、美的再製がない等と主張しているものについて、裁判所の認定は、以下のとおりである。
(6) 原告らの損害について ア 総論 原告らは、著作権法114条3項による使用料相当損害金は、主位的に、JASPARの使用料規程に基づいて算定すべきである旨主張する。しかしながら、JASPARの使用料規程は、本件の不法行為である各複製権侵害行為が行われた後の平成24年に定められたから、複製権侵害時において、原告らが同規程に基づく使用料を得ることは困難であり、同金額が複製権侵害という不法行為と相当因果関係のある損害の額とは認められない。原告らの主張は、理由がない。 そして、原告らは、著作権法114条3項に基づいて損害賠償を請求するものであり、被告の複製権侵害について受けるべき金銭の額としては、侵害行為発生時に原告らがSPDAに対して著作権管理(利用許諾及び使用料徴収)を委託していたことに照らすと、その算定においては、SPDAの使用料規程に従うのが相当である。また、弁論の全趣旨によれば、本件カタログは、SPDAの使用料規程3(1) イの単行本(5000部以下)に当たるものと認められるから、当該規程に基づいて、原告らの使用料相当損害額を算定するのが相当である。 他方、被告は、SPDAの使用料規程で計算した金額には、原告協会との相互管理契約に基づくSPDAの管理手数料及び利益が加算されているのであって、著作権者であると主張する原告協会に支払われる額ではないと主張する。 しかしながら、本件で問題とすべきは、著作権の適法な利用に係る通常の使用料ではなく、著作権侵害に係る使用料相当の損害賠償の額であるところ、原告協会とSPDAの内部関係における著作権の管理手数料の支払や原告協会の利益は、原告協会の収支全体から支払われるべき性質のものであることに照らすと、被告が支払うべき使用料相当の損害金として、上記管理手数料等を減額すべき合理的な理由はない。 したがって、被告の主張は理由がない。 イ 原告協会のカタログ存在部分についての損害 (ア) 原告協会の受けた損害は、同協会が有する著作権についての使用料相当額である。 (イ) これに対し、原告協会の著作権が共有となっているものについては、他の共有者の損害賠償請求と併せて使用料相当額となるのが相当である。すなわち、上記のとおり、157番のモーリス・ユトリロについては、原告協会は著作権の共有持分(50%)の移転しか受けていないから、損害額の算定は、全著作権について認められている使用料に、共有持分の割合を乗じた額とすべきである。 この点、原告協会は、著作権等管理事業法13条4項において、使用料規程は、他の権利者の有無にかかわらず、利用者に請求できる使用料の上限額であるとして、著作権の持分割合にかかわらず、減額される理由はないと主張する。しかしながら、本件は、著作権等管理事業法に基づいて利用者である被告に対して使用料を請求した事案ではなく、あくまでも不法行為に基づく損害賠償請求であり、当該著作権全体が侵害されたことによる損害の算定において、SPDAの使用料規程を基準として算定しているにすぎないから、同法の規定は直接影響しない。本件において、他の著作者とユトリロとの間で、著作権全体に対する侵害額につき、差異を設ける別段の事情はないし、著作権が全部の場合と共有持分しか有しない場合とで同額の損害額を算定するのは公平ではないから、損害額を算定するに当たって、持分割合を反映させるべきものである。原告協会の主張は、採用できない。 (ウ) なお、証拠(甲10)によれば、前件和解において、「被告が前項の確約に違反して、第3項又は第4項の清算処理の完了前に原告が著作権を管理する美術家の美術作品を50平方センチメートルを超える表示の大きさで本件カタログに複製したときは、被告は、原告に対し、当該複製利用につき、SPDAの使用料規程に定める使用料相当額に同額の違約金を加算した損害金を直ちに支払う。」(6項)と定められているから、前件和解が成立した平成22年9月21日以降、本件カタログに会員作品を50平方センチメートルを超える表示の大きさで複製したときは、被告は、原告協会に対し、SPDAの使用料規程に定める使用料相当額に同額の違約金を加算した損害金を支払う義務がある(加算の対象は、本件カタログ315号〔16アンドレ・ボーシャン、37ベルナール・シャロワ〕、318号〔51アンドレ・ドラン、142ジョルジュ・ルオー〕、321号〔123ジョアン・ミロ〕に係る複製である。)。本件は、原告協会が、上記和解契約の履行を求めるものではないが、前記和解における合意で定められた違約金相当額については、被告の不法行為によって原告が受け取ることができなかった使用料相当損害額に含まれると解されるから、被告の不法行為と相当因果関係の範囲にある損害と認めるべきものである。 (エ) また、上記2(3)イ(サ)のとおり、原告協会に対する入会届提出前に刊行されたカタログに係る損害賠償請求部分、すなわち、3番アイズピリの本件カタログ122号のLOT番号443、444に係る1万9000円、本件カタログ30号のLOT番号540、541、542に係る2万8500円、13番ギーの本件カタログ148号のLOT番号434に係る9500円、84番ユルバンの本件カタログ158号のLOT番号205に係る9500円は、いずれも損害として認められない。これらの合計は、6万6500円である。 (オ) 以上を前提に会員作品関係の損害額を算定すると、別紙2−1原告協会主張一覧表のうち、当事者間に争いのない部分については、同表のSPDA基準による使用料相当額欄のとおりである。そして、当事者間に争いがある部分についての損害額は、別紙4−1原告協会損害に関する裁判所の認定一覧表のとおりと認められ、原告協会の主張が一部否定されるところ、同協会の主張額との差額は、245万2250円となる。 (カ) したがって、原告協会において、カタログが存在する部分についての損害は、6990万9100円−245万2250円−6万6500円=6739万0350円となる。 ウ 原告X1のカタログ存在部分についての損害 ピカソ作品関係の損害を算定すると、別紙3−1原告X1主張一覧表のうち、当事者間に争いのない部分については、同表のSPDA基準による使用料相当額欄のとおりである。そして、当事者間に争いがある部分についての損害額は、別紙4−2原告X1損害に関する裁判所の認定一覧表のとおりと認められ、原告X1の主張が一部否定されるところ、同原告の主張額との差額は、75万7000円となる。したがって、原告X1において、カタログが存在する部分についての損害は、842万1000円−75万7000円=766万4000円である。 エ カタログが存在しない部分について 本件訴訟において、原告らは、本件カタログ全てに関して具体的な著作権侵害行為を特定して主張し、かつ、これらに係る証拠を全て提出しているわけではない。これに対し、被告は、約10年間にわたって開催されたオークションで配布された本件カタログ105冊のうち、本訴で提出された99冊の全て(全冊数の約94%に及ぶ。)において、会員作品やピカソ作品に関して複製権侵害の違法行為を繰り返していたと認められる一方、本来、本件カタログを発行し、所持していて不自然でないにもかかわらず、本訴で提出されていないカタログ6冊について現在の所持を否定し、何ら具体的な反証を行わない。したがって、本訴で提出されていないカタログ6冊についても、少なくとも、同様の違法行為が同程度繰り返されていたと推認するのが合理的であり、かつ、公平というべきである(これは、認定できる間接事実からの推認であり、著作権法114条に基づく推定ではない。)。 したがって、損害額もその割合に応じて増額されるべきであり、原告協会に関しては、6739万0350円×105/99=7147万4614円(以下、1円未満四捨五入)、原告X1に関しては、766万4000円×105/99=812万8485円となる。 オ 原告らの弁護士費用に関する相当因果関係の範囲と認められる損害額 原告協会に関して、被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用としての損害額は、上記損害額の約10%である715万円が相当である。 原告X1に関して、被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用としての損害額は、上記損害額の約10%である81万円が相当である。 カ まとめ したがって、原告協会に関する損害額は7147万4614円+715万円=7862万4614円、原告X1に関する損害額は、812万8485円+81万円=893万8485円となる。 4 利用許諾の有無(争点4) 被告は、アイズピリ作品の著作権管理を行うギャルリーためながから許諾を受け、アイズピリ作品を本件カタログに複製していた旨主張する。 そこで検討するに、証拠(甲17の7、289の1及び2、290の1及び2、291、乙13)及び弁論の全趣旨によれば、原告協会は、平成21年12月まで、アイズピリ作品の著作権管理を行っていたこと、ギャルリーためながは、平成22年1月、アイズピリから我が国における著作権管理の委託を受けたこと、被告は、ギャルリーためながに対し、本件カタログに係るアイズピリ作品の利用について許諾を求めたことはなく、ギャルリーためながは、被告に対し、本件カタログに係るアイズピリ作品の利用を許諾したことがないこと、現在、原告協会は、再びアイズピリ作品の著作権管理を行っていることが認められる。 この点、被告の管理部長であるCWは、アイズピリ作品の出品の際に真贋の判定をギャルリーためながに依頼し、カタログを送付したが苦情等がなかったことを理由に許諾があったと供述する(乙14)。しかしながら、同供述には、どの時点で許諾を受けたのか具体的な記述がなく、当該判定の依頼時にギャルリーためなががアイズピリ作品の著作権管理の委託を受けていたのか否かが不明である上、単にカタログを送付して苦情がなかったことを理由にギャルリーためながから許諾を受けていたとは到底認められない。 以上に照らすと、被告が本件カタログに係るアイズピリ作品の利用について許諾を受けたとは認められないし、その他これを認めるに足りる証拠はない。 したがって、被告の主張は理由がない。 5 本件カタログが展示に伴う小冊子(著作権法47条)に当たるか(争点5) 被告は、オークションにおける公の展示において、観覧者のために著作物の紹介をすることを目的として、小冊子である本件カタログに著作物を掲載したのであり、著作権47条により、その複製は適法である旨主張する。 しかしながら、著作権法47条は、「美術の著作物又は写真の著作物の原作品により、第二十五条に規定する権利を害することなく、これらの著作物を公に展示する者は、観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小冊子にこれらの著作物を掲載することができる。」と規定しており、同条における「小冊子」は、あくまでも「観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする」ものであることを前提としているから、オークションや下見会に参加して実際に作品を観覧する者以外に配布されるものや、著作物の解説又は紹介以外を主目的とするものは、「小冊子」に当たらないと解するのが相当である。 本件カタログは、本件オークションや下見会への参加の有無にかかわらず、被告の会員に配布されるものであるし(第2の2「前提事実」の(3)及び(4))、その主たる目的は、本件オークションにおける売買の対象作品を特定するとともに、作家名やロット番号以外からは直ちに認識できない作品の真贋、内容を通知し、配布を受けた者の入札への参加意思や入札額の決定に役立つようにする点にあり、観覧者のための著作物の解説又は紹介を主たる目的とするものでもないことが明らかであるから、著作権法47条にいう「小冊子」には当たるとは認められない。 したがって、被告の主張は理由がない。 6 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権法32条1項)に当たるか(争点6) 被告は、本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権法32条1項)に当たる旨主張するが、その趣旨は、本件カタログにおける美術作品の作者、題号等の取引に必要な情報の記載が引用表現であり、美術作品の写真(複製物)が被引用著作物であると主張するものと解される。 そこで検討するに、著作権法32条1項は、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と規定するから、他人の著作物を引用した利用が許されるためには、その方法や態様が、報道、批評、研究等の引用目的との関係で、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであり、かつ、引用して利用することが公正な慣行に合致することが必要である。 本件カタログにおいて美術作品を複製する目的が、本件オークションにおける売買の対象作品を特定するとともに、作家名やロット番号以外からは直ちに認識できない作品の真贋、内容を通知し、入札への参加意思や入札額の決定に役立つようにする点にあるのは、明らかである。本件カタログには、美術作品の写真に合わせて、ロット番号、作家名、作品名、予想落札価格、作品の情報等が掲載されるが(乙17)、実際の本件カタログをみる限り、各頁に記載された写真の大きさが上記情報等の記載の大きさを上回るものが多く、掲載された写真は、独立して鑑賞の対象となり得る程度の大きさといえ、上記の情報等の掲載に主眼が置かれているとは解し難い。しかも、本件オークションでは、本件カタログの配布とは別に、出品された美術作品を確認できる下見会が行われていることなどに照らすと、上記の情報等と合わせて、美術作品の写真を本件カタログに記載された程度の大きさで掲載する合理的な必然性は見出せない。 そうすると、本件カタログにおいて美術作品を複製するという利用の方法や態様が、本件オークションにおける売買という目的との関係で、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるとは認められない。また、公正な慣行に合致することを肯定できる事情も認められない。 したがって、被告の主張は理由がない。 7 原告らの請求が権利濫用に当たるか(争点7) (1) 著作権法の改正 著作権法は、平成21年法律第53号により改正され、47条の2が新設された(平成22年1月1日施行)。同条及び本件に関連する規定は以下のとおりである。 ア 著作権法47条の2 「美術の著作物又は写真の著作物の原作品又は複製物の所有者その他のこれらの譲渡又は貸与の権原を有する者が、第二十六条の二第一項又は第二十六条の三に規定する権利を害することなく、その原作品又は複製物を譲渡し、又は貸与しようとする場合には、当該権原を有する者又はその委託を受けた者は、その申出の用に供するため、これらの著作物について、複製又は公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)(当該複製により作成される複製物を用いて行うこれらの著作物の複製又は当該公衆送信を受信して行うこれらの著作物の複製を防止し、又は抑止するための措置その他の著作権者の利益を不当に害しないための措置として政令で定める措置を講じて行うものに限る。)を行うことができる。」 イ 著作権法施行令7条の2第1項1号 「法第四十七条の二の政令で定める措置は、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める措置とする。 一 法第四十七条の二に規定する複製 当該複製により作成される複製物に係る著作物の表示の大きさ又は精度が文部科学省令で定める基準に適合するものとなるようにすること。」 ウ 著作権法施行規則4条の2第1項1号 「令第七条の二第一項第一号の文部科学省令で定める基準は、次に掲げるもののいずれかとする。 一 図画として法第四十七条の二に規定する複製を行う場合において、当該複製により作成される複製物に係る著作物の表示の大きさが五十平方センチメートル以下であること。」 (2) 以上を前提に判断する。 被告は、本件訴訟における原告らの著作権の行使は、著作権法改正前にオークションのために行われた複製について、法律が明確でなかったことを幸いとして、譲渡に伴う美術の著作物の複製が法律上合法であると確認された今に至って損害賠償を請求するもので、47条の2が新設された趣旨からすると、著作権の濫用に該当するなどと主張する。 しかしながら、著作権法47条の2は、美術の著作物又は写真の著作物の原作品等の適法な取引行為と著作権とを調整する趣旨において、原作品等を譲渡又は貸与しようとする場合には、当該権原を有する者又はその委託を受けた者は、その申出の用に供するため、一定の措置を講じることを条件に、当該著作物の複製又は公衆送信を行うことを認めるものである。このように、著作権法47条の2は、一定の措置を講じることを条件に、複製権又は公衆送信権の行使を認めたものであるから、そのような措置が講じられなければ、著作権者の複製権又は公衆送信権の侵害であることに変わりはないし、同規定が遡及適用されるものでもない(平成21年法律第53号附則1条)。 そうすると、著作権法47条の2の新設により、同規定の施行前にオークションのために行われた複製について損害賠償請求等の権利行使をすることや、同規定の施行後において一定の措置が講じられた範囲外の複製について権利行使をすることが、権利濫用であるとはいい難いし、その他権利濫用であることを肯定できる事情は認められない。 したがって、被告の主張は理由がない。 8 不当利得返還請求について 原告らは、不法行為に基づく損害賠償請求と不当利得返還請求とを選択的に併合しているから、上記のとおり、不法行為に基づく損害賠償が認められなかった部分について、不当利得返還請求の可否が問題となる。 通則法14条によれば、不当利得返還請求権の成立及び効力は、「原因となる事実が発生した地の法による」とされているところ、本件では、被告の本件カタログにおける会員作品及びピカソ作品の写真掲載が、「原因となる事実」に該当するから、その発生地は我が国であり、我が国の法令が適用される(通則法施行前は法例11条1項により「其原因タル事実ノ発生シタル地」を準拠法とするが、その地が我が国であることに変わりはない。)。同法15条は、同法14条の規定にかかわらず、より密接な関係地がある場合には、当該地の法を準拠法とすることを許容しているが、本件ではそのような例外が適当といえるような事情は認められない(同法施行前には同旨の規定はない。)。そして、民法704条によれば、悪意の受益者は、法律上の原因なくして、他人の損失をもって利益を受けた場合、受益額を返還する必要があるところ、被告の本件カタログにおける会員作品及びピカソ作品の写真掲載が許される法的根拠は存在せず、被告は当時のSPDAの使用料規程に従った掲載料の利得を得る一方で、原告らは同額の損失を受け、それらに因果関係があり、また、被告がオークションの実施等をその営業目的とする以上、写真の掲載について悪意と認められるから、SPDAの使用料規程に基づいて算定された使用料相当額について、不当利得返還請求及びその附帯請求が認められることになる。 もっとも、この場合、上記で認められた使用料相当額は、不法行為に基づく損害賠償請求権の額を超えることはない(不当利得返還請求の認容額自体は、不法行為に基づく損害賠償の認容額と同額となる。また、不当利得返還請求の附帯請求については、原告らが法定利息を請求しておらず、遅延損害金は催告後から発生し、不法行為に基づく損害賠償の遅延損害金請求の始期(不法行為時)に遅れるから、この金額を超えることはない。)から、上記不法行為に基づく使用料相当損害金とは別に不当利得返還請求を認める余地はない。 9 結語 以上によれば、原審の判断には、本件カタログの不存在部分につき、損害を認定しなかった点において誤りがあるというべきであり、これを改めると、原告X1の請求は、893万8485円及びこれに対する平成22年6月11日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を、原告協会の請求は、7862万4614円及びこれに対する平成22年12月4日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で、それぞれ理由がある。 第5 結論 以上の次第であって、原告X1の控訴、原告協会の附帯控訴及び原告らによる当審において拡張された請求は、主文掲記の限度で理由があるから、これと結論を異にする原判決を変更することとし、他方、被告の控訴は理由がないから、被告の控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 清水節 裁判官 片岡早苗 裁判官 新谷貴昭は、転官のため、署名押印することができない。 裁判長裁判官 清水節 <以下の別紙はすべて省略> 別紙1 毎日オークションカタログ一覧表 別紙2−1 原告協会主張一覧表 別紙2−2 原告協会主張に対する認否表 別紙2−3 被告主張一覧表 別紙3−1 原告X1主張一覧表 別紙3−2 原告X1主張に対する認否表 別紙4−1 原告協会損害に関する裁判所の認定一覧表 別紙4−2 原告X1損害に関する裁判所の認定一覧表 |
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