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【事件名】「いわで議会だより」寄稿原稿の改変事件(2)
【年月日】平成28年5月20日
 大阪高裁 平成28年(ネ)第25号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・和歌山地裁平成26年(ワ)第569号)
 (口頭弁論終結日 平成28年3月25日)

判決
控訴人 A
被控訴人 岩出市
同訴訟代理人弁護士 月山桂
同 月山純典
同 岸本行正
同 河合佑香
同 北野栄作
同 森田拓哉
同 米沢龍史
同 村田興平


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、10万円を支払え。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 原審における本件は、岩出市議会議員である控訴人が、被控訴人に対し、岩出市議会は、控訴人が市議会広報誌「いわで議会だより」用に提出した原稿を、控訴人に無断で編集して上記広報誌に掲載し、控訴人の著作権を侵害したと主張して、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求として、10万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成26年9月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原審は、控訴人の請求を棄却したところ、同人が、10万円の支払請求を棄却した部分を不服として控訴を申し立てた。
 なお、略称は、原判決の例による。
2 前提事実等
 前提事実、争点及び争点についての当事者の主張は、次のとおり改め、当審における控訴人の補充主張を後記3に付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の第2の2ないし4(原判決2頁7行目から7頁20行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決3頁7行目の「編集は、」の次に「おおよそ」を加える。
(2) 原判決3頁15行目の「同時期に行う」を削る。
(3) 原判決4頁13行目の「適正に飼育管理できるよう努める。」を削る。
3 当審における控訴人の補充主張
(1) 改変に対する控訴人の同意の有無について
 控訴人は、本件原稿の提出に当たり、控訴人の了解なしに編集が加えられることに同意していない。
ア 控訴人は、申し合わせ事項によって、広報委員会が原稿提出者の同意なしに原稿の校正及び変更を行うことを承認していない。
イ 議会だよりには「質問者本人が質問及び答弁の要点をまとめ、提出のあったものを各議員の責任のもとに掲載しました」、「内容等については、質問者にお問い合わせください」との記載があるから、控訴人が提出した原稿に基づく記事については、控訴人が市民からの問い合わせに対する説明責任を負っている。広報委員会が控訴人の同意なく原稿を改変又は削除すると、控訴人は上記責任を負えなくなる。したがって、提出された原稿に、規定の文字数の超過があった場合等に、原稿提出者の意思を確認しないで修正することは許されない。
ウ 従来からの扱いでも、原稿を修正する場合には、原稿提出者の同意を得ており、そのように運用することに何らの不都合もない。和歌山県内の他の自治体でもほぼ同様の運用がなされている。
(2) 本件各編集について
 本件各編集は、本件原稿を違法に改変するものである。
ア 本件編集(1)について
 タイトル部分(大見出し)は、読者に対して最もアピールしたい事項であるのに、これを改変・削除し、控訴人が記載していない「特例給付金の支給に関して」を勝手に追記した。
イ 本件編集(2)について
 本文1段目中の小見出しにおいては、消費税率アップが施行される「4月からの」が最も重要である。これを削除したことは控訴人の意思を無視するものである。
ウ 本件編集(3)について
 本文2段目中の生活福祉部長の答弁(2)からの「同時期に行う事が合理的であると考えており」の削除は、児童手当と臨時特例給付金とを分離し、市民に誤解を与える。また、生活福祉部長の答弁を正確に伝えることにならない。
エ 本件編集(5)について
 本文3段目中の小見出しでは、一般的に知られている「 B 」と表示したのに、改変された「 C 」では、市民はどこにあるのか理解できない。
オ 本件編集(6)について
 本文3段目中の教育部長の答弁から「プロに任せていますので理解してください。」を削除することは、事実と異なる。
カ 本件編集(7)について
 本文3段目中の監査委員の答弁からの「私どもの立場として時効に言及することは控えさせていただきたい。」の削除により、公平中立な立場の監査委員としての責任の所在が不明になる。
キ 本件編集(8)について
 本文4段目中の小見出しからの「作成しているのか」の削除により、質問でないことになる。
ク 本件編集(9)について
 本文4段目中の質問からの「幹部会等々市民には非常に重要な問題です」の削除により、幹部会の役割や位置付けがあいまいになる。
ケ 本件編集(10)について
 本文4段目中の総務部長の答弁からの「が市のHP等では公開していない。この会議は毎月2回程度開催しており」の削除により、質問の内容と異なる答弁になった。
コ 本件編集(11)について
 本文4段目中の総務部長の答弁の「今年度」を「昨年度」としたことにより、総務部長が発言していない内容の掲載となる。
サ 本件編集(12)について
 本文4段目中の総務部長の答弁からの「決定内容については、参加者から系統的に部下に周知を行っています」の削除により、質問と答弁に齟齬が生じた。
シ 本件編集(13)について
 本文5段目中の質問から「和歌山県内の10所帯に内1所帯が犬などペットを飼っており」の削除により、ペットを飼っている所帯数が分からなくなった。
ス 本件編集(14)について
 本文5段目中の生活福祉部長の答弁から3か所の文言を削除したことにより、控訴人の質問及び指摘に対する答弁が不明になった。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断する。
 その理由は、当審における控訴人の補充主張に対する判断を後記2に付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の第3の1ないし3(原判決7頁22行目から12頁8行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1) 改変に対する控訴人の同意の有無について
 控訴人は、本件原稿の提出に当たり、控訴人の了解なしに編集が加えられることに同意していない旨主張する。
 そこで検討するに、前記1で引用した原判決「事実及び理由」中の第3の1(3)のとおり、広報委員会の控訴人に対する本件通知文(甲8)においては、文字数等を具体的に指定した上で、「文字数の超過や写真・タイトル等のスペースが確保されていない場合は、委員会で校正をします。(句読点、段落等の構成も含む。)ので、あらかじめご了承ください。」との記載がある。申し合わせ事項の内容が控訴人に対して拘束力を有するかの点はさておいても、控訴人は、上記の記載のある本件通知文を受け取り、それに対して、何らの留保も付することなく広報委員会に原稿を提出したのであるから、本件通知文において指定された文字数等の範囲に収めるのに必要で、かつ、原稿の記載の趣旨を変更しない範囲においては、広報委員会が提出原稿の校正を行うことにあらかじめ同意したと認めるのが相当である。そうでないとすれば、文字数等の指定を知りながらこれを超過した原稿を提出した控訴人が校正に同意しないときに、文字数等が超過したまま掲載しなければならないことになり、文字数等の指定が無意味となって不合理である。
 控訴人は、議会だよりには「質問者本人が質問及び答弁の要点をまとめ、提出のあったものを各議員の責任のもとに掲載しました」、「内容等については、質問者にお問い合わせください」との記載があるから、控訴人が提出した原稿に基づく記事については、控訴人が市民からの問い合わせに対する説明責任を負っていると指摘する。しかし、原稿の記載の趣旨を変更しない範囲であれば、記事の内容についての市民に対する説明責任が原稿の提出者である議員にあることとの関係でも不都合は生じないといえるから、上記認定は左右されない。控訴人が指摘するその余の点も上記認定を左右するものではない。
(2) 本件各編集について
 控訴人は、本件各編集は、本件原稿を違法に改変するものである旨主張する。
 しかし、本件各編集は、前記1で引用した原判決「事実及び理由」中の第3の3(2)において説示したとおり、いずれも控訴人の同意の範囲内の編集であると認めるのが相当である。
 本件編集(1)において、タイトル部分(大見出し)に、控訴人が記載していなかった「特例給付金の支給に関して」を付加した点については、本文1段目の小見出しには特例給付金の支給についての記載があることからすれば、原稿の記載の趣旨を変更したものであるとはいえない。
 本件編集(2)で削除された、消費税率アップが施行される「4月からの」は周知の事実であり、本件編集(10)で削除された部分のうち、幹部会議の会議録は「市のHP等では公開していない」ことは容易に分かる事実であり、本件編集(12)で削除された、幹部会での「決定内容については、参加者から系統的に部下に周知を行っています」との点は組織として当然のことであり、これらを削除しても原稿の記載の趣旨を変更したものとはいえない。
 本件編集(3)、(8)及び(14)は要約として相当なものであるということができ、これらの削除によって原稿の記載の趣旨は変わらない。本件編集(5)及び(11)は、前記1で引用した原判決「事実及び理由」中の第3の3(2)イ及びウに説示したとおり、いずれも誤記の訂正であると認められる。本件編集(6)及び(7)によって削除された部分並びに本件編集(10)によって削除された、幹部会議は「毎月2回程度開催しており」との部分は、いずれも、削除してもその前後の記載によって原稿の記載の趣旨は変わらないといえるものである。本件編集(9)及び(13)で削除された部分は質問の前置き部分にすぎないから、削除しても原稿の記載の趣旨は変わらない。
 したがって、本件各編集は本件原稿を違法に改変するものである旨の控訴人の主張は採用できない。
3 結論
 以上の次第で、当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第8民事部
 裁判長裁判官 山田知司
 裁判官 寺本佳子
 裁判官 中尾彰
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