判例全文 line
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【事件名】自動接触角計プログラム侵害事件(2)
【年月日】平成28年4月27日
 知財高裁 平成26年(ネ)第10059号 損害賠償等、著作権侵害差止等、損害賠償(反訴)請求控訴事件、平成26年(ネ)第10088号 同附帯控訴事件
 (原審・東京地裁平成23年(ワ)第36945号(A事件)、平成24年(ワ)第25059号(B事件)、平成25年(ワ)第9300号(C事件))

 (口頭弁論終結日 平成28年2月29日)

判決
控訴人兼附帯被控訴人 株式会社ニック(以下「控訴人ニック」という。)
控訴人兼附帯被控訴人 株式会社あすみ技研(以下「控訴人あすみ技研」という。)
控訴人兼附帯被控訴人 X(以下「控訴人X」という。)
上記3名訴訟代理人弁護士 山本隆司
同 植田貴之
同 佐竹希
被控訴人兼附帯控訴人 協和界面科学株式会社(以下「被控訴人」という。)
同訴訟代理人弁護士 川井理砂子
同 松村譲


主文
1 控訴人らの本件控訴をいずれも棄却する。
2 被控訴人の本件附帯控訴に基づき、原判決中被控訴人と控訴人らに係る部分を次のとおり変更する。
(1) 控訴人ニック及び控訴人Xは、被控訴人に対し、連帯して304万9890円及びこれに対する平成23年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人Xは、被控訴人に対し、44万3131円及びこれに対する平成24年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人の控訴人ニック及び控訴人Xに対するその余の請求並びに被控訴人の控訴人あすみ技研に対する請求をいずれも棄却する。
(4) 控訴人ニック及び控訴人あすみ技研の被控訴人に対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、被控訴人と控訴人らとの間では、第1、2審を通じて(第2審は控訴及び附帯控訴とも)、被控訴人に生じた費用の60分の2及び控訴人ニックに生じた費用の10分の1を控訴人ニックの負担とし、被控訴人に生じた費用の60分の3及び控訴人Xに生じた費用の5分の1を控訴人Xの負担とし、被控訴人に生じた費用の60分の1及び控訴人あすみ技研に生じた費用の30分の1を控訴人あすみ技研の負担とし、被控訴人に生じた費用の10分の9、控訴人ニックに生じた費用の10分の9、控訴人Xに生じた費用の5分の4及び控訴人あすみ技研に生じた費用の30分の29を被控訴人の負担とする。
4 この判決は、第2項(1)及び(2)に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 控訴人らの控訴の趣旨
(1) 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
(3) 被控訴人は、控訴人ニックに対し、100万円を支払え(控訴人ニックは、原審における1000万円の損害賠償請求を、このように減縮した。)。
(4) 被控訴人は、控訴人あすみ技研に対し、50万円を支払え(控訴人あすみ技研は、原審における200万円の損害賠償請求を、このように減縮した。)。
2 被控訴人の附帯控訴の趣旨
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 原審A事件請求について
 控訴人ニック及び控訴人Xは、被控訴人に対し、連帯して397万4986円及びこれに対する平成23年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(被控訴人は、原審A事件における1084万2000円の損害賠償金及び平成23年12月15日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の請求を、このように減縮した。)。
(3) 原審B事件請求について
ア 控訴人ニックは、原判決別紙被告プログラム目録2及び3記載のプログラムを複製してはならない。
イ 控訴人ニックは、原判決別紙被告製品目録1ないし5記載の製品を販売し、販売のために展示し、又は控訴人あすみ技研をして販売させ、販売のために展示させてはならない。
ウ 控訴人あすみ技研は、原判決別紙被告製品目録1ないし5記載の製品を販売し、又は販売のために展示してはならない。
エ 控訴人ニック及び控訴人あすみ技研は、原判決別紙被告製品目録1ないし5記載の製品及び半製品(同目録1ないし5記載の構造を具備しているが、製品として完成するに至らないもの)、原判決別紙被告プログラム目録2及び3記載のプログラムを格納したCD−ROM、フラッシュメモリー、ハードディスク、その他の記憶媒体を廃棄せよ。
オ 控訴人ニック及び控訴人Xは、被控訴人に対し、連帯して1000万円及びこれに対する、控訴人ニックについて平成24年10月19日から、控訴人Xについて同月20日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(被控訴人は、原審B事件における4050万円の損害賠償金及び控訴人ニックについて平成24年10月19日から、控訴人Xについて同月20日から、各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の請求を、このように減縮した。)。
カ 控訴人Xは、被控訴人に対し、256万4090円及びこれに対する平成24年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要(略称は、特に断らない限り、原判決に従う。)
1 事案の要旨
(1) 原審の事案の概要
ア 原審A事件
 被控訴人は、@原判決別紙被告プログラム目録1記載のプログラム(被告旧バージョン)のうち「接触角計算(液滴法)プログラム」(被告旧接触角計算(液滴法)プログラム)は、控訴人ニックが控訴人Xの担当の下に原判決別紙原告プログラム目録記載のプログラム(原告プログラム)のうち「接触角計算(液滴法)プログラム」(原告接触角計算(液滴法)プログラム)を複製又は翻案したものであり、控訴人ニックが被告旧バージョンを搭載した製品(自動接触角計)を製造、販売することは、被控訴人の原告接触角計算(液滴法)プログラムに対する著作権を侵害する行為であり、A控訴人Xが、被控訴人の営業秘密である原告プログラムのソースコード(以下「原告ソースコード」という。)や原判決別紙アルゴリズム一覧記載のアルゴリズム(原告アルゴリズム)を控訴人ニックに不正に開示し、控訴人ニックがこれを不正に取得したことは、不正競争防止法2条1項7号及び8号に該当する行為であり、B控訴人X及び控訴人ニックが、原告ソースコードや原告アルゴリズムを盗用して、被告旧バージョンを作成し、これを搭載した製品を販売することは、被控訴人の法的利益を侵害する共同不法行為に該当する行為であり、C被控訴人の従業員であった控訴人Xが、業務上の機密を保持すべき義務に違反して、被控訴人の機密である原告ソースコードや原告アルゴリズムを、控訴人ニックに開示、漏洩したことは、控訴人Xと被控訴人との間の労働契約上の債務不履行に該当する行為であるなどと主張して、控訴人ニック及び控訴人Xに対し、連帯して、1084万2000円(控訴人ニックに対しては、上記@、A又はBに基づき、控訴人Xに対しては、上記@、A、B又はCに基づく。)及びこれに対する不法行為の後である平成23年12月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
イ 原審B事件
 被控訴人は、@原判決別紙被告プログラム目録2及び3記載のプログラム(被告新バージョン)のうち「接触角計算(液滴法)プログラム」(被告新接触角計算(液滴法)プログラム)は、控訴人ニックが、原告プログラムのうち原告接触角計算(液滴法)プログラムを翻案したものであり、被告新バージョンを搭載した原判決別紙被告製品目録1ないし5記載の各製品(被告製品1ないし5)を控訴人ニックが製造、販売し、控訴人あすみ技研が販売することは、被控訴人の原告接触角計算(液滴法)プログラムに対する著作権を侵害する行為であり、A控訴人Xが、被控訴人の営業秘密である原告ソースコードや原告アルゴリズムを不正に開示し、控訴人ニックがこれを不正に取得し、控訴人あすみ技研が、これを不正に取得、使用したことは、不正競争防止法2条1項7号ないし9号に該当する行為であり、B控訴人X及び控訴人ニックが、原告ソースコードや原告アルゴリズムを盗用して、被告新バージョンを作成し、これを搭載した被告製品1ないし5を販売することは、被控訴人の法的利益を侵害する共同不法行為に該当する行為であり、C被控訴人の従業員であった控訴人Xが、業務上の機密を保持すべき義務に違反して、被控訴人の機密である原告ソースコードや原告アルゴリズムを控訴人ニックに開示、漏洩したことは、控訴人Xと被控訴人との間の労働契約上の債務不履行に該当する行為であり、D控訴人Xには、退職金不支給となってもやむを得ない非違行為があるから、控訴人Xは、被控訴人に対し、被控訴人から受領した退職金相当額を不当利得として返還すべき義務を負うなどと主張して、(1)控訴人ニックに対し、著作権法112条1項又は不正競争防止法3条1項に基づき、被告新バージョンの複製及び被告新バージョンを搭載した被告製品1ないし5の販売等の差止めを求め、(2)控訴人あすみ技研に対し、著作権法113条1項2号、同法112条1項又は不正競争防止法3条1項に基づき、被告製品1ないし5の販売等の差止めを求め、(3)控訴人ニック及び控訴人あすみ技研に対し、著作権法112条2項又は不正競争防止法3条2項に基づき、被告製品1ないし5、その半製品及び被告新バージョンを格納した記憶媒体の廃棄を求め、(4)控訴人ニック及び控訴人Xに対し、連帯して、4050万円(控訴人ニックに対しては、上記@、A又はBに基づき、控訴人Xに対しては、上記@、A、B又はCに基づく。)及びこれに対する不法行為の後である控訴人ニックにつき平成24年10月19日(訴状送達の日の翌日)、控訴人Xにつき同月20日(訴状送達の日の翌日)から、各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、(5)控訴人Xに対し、民法703条に基づき、支払済みの退職金相当額である256万4090円及びこれに対する平成24年10月20日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
ウ 原審C事件
 控訴人ニック及び控訴人あすみ技研が、@被控訴人がした控訴人ニック及び控訴人あすみ技研に対するB事件の訴訟提起は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠き、不法行為に当たる、A被控訴人がしたホームページにおける告知行為(本件告知1及び2)及び控訴人ニックの取引先に対する告知文書(本件告知文書A及びB)の送付は、不正競争防止法2条1項15号(平成27年法律第54号による改正前は同項14号。以下同じ。)に該当するなどと主張して、被控訴人に対し、民法709条、不正競争防止法4条に基づき、控訴人ニックにおいて損害賠償金の内金1000万円、控訴人あすみ技研において損害賠償金の内金200万円の各支払を求めた。
(2) 原判決の内容
ア 原審A事件
 原判決は、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、プログラムの著作物である原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものと認められる旨を判示して、被控訴人のA事件請求を、控訴人ニック及び控訴人Xに対し、損害賠償として、連帯して190万1258円及びこれに対する平成23年12月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で一部認容し、その余はいずれも棄却した。
イ 原審B事件
 原判決は、@被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムを翻案したものであるとは認められない、A原告ソースコード及び原告アルゴリズムは、不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に該当せず、また、控訴人Xが、原告ソースコードを被控訴人から持ち出し、控訴人ニックに開示したとも認められない、B原告ソースコード及び原告アルゴリズムは、「秘密保持に関する誓約書」にいう秘密情報に該当するとは認められず、また、控訴人Xが、原告ソースコードを被控訴人から持ち出したとも認められない、C控訴人Xに非違行為があったとは認められない旨を判示して、被控訴人のB事件請求をいずれも棄却した。
ウ 原審C事件
 原判決は、@被控訴人のB事件の訴訟提起は、不法行為には当たらない、A被控訴人の本件告知1及び2の掲載、本件告知文書A及びBの送付は、不正競争防止法2条1項15号には該当しない旨を判示して、控訴人ニック及び控訴人あすみ技研のC事件請求をいずれも棄却した。
(3) 控訴及び附帯控訴の内容
 控訴人らは、原判決中の敗訴部分を不服として、その取消しを求めて本件控訴を提起し、請求の一部を減縮した。また、被控訴人は、附帯控訴して、原判決中の敗訴部分の取消しを求め、請求の一部を減縮した。
2 前提事実は、次のとおり原判決を訂正するほか、原判決「事実及び理由」の第2の1記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決5頁25行目の「その後」の後に「平成21年9月1日」を加える。
(2) 原判決6頁5行目の「着手し、」の後に「平成12年10月頃ソフトウエア「FAMAS」を搭載した接触角計の販売を開始し、その後バージョンアップを重ねて、」を加える。
(3) 原判決6頁6行目の末尾に改行の上、以下のとおり加える。
 「被控訴人は、原告プログラムの著作権を有する(著作権法15条2項、17条1項)。なお、原告プログラムのうち原告接触角計算(液滴法)プログラムが、全体として著作物性を有することについて、当事者間に争いがない。」
(4) 原判決9頁8行目の「被告製品1及び2」を「被告製品1及び3」と改める。
(5) 原判決9頁10行目の「被告製品3」を「被告製品2」と改める。
(6) 原判決9頁18行目の「平成22年10月1日から、」を削除し、これを同頁21行目の「完成させ、」の後に加える。
(7) 原判決11頁7行目の「退職金256万4090円の支払」の後に「(うち212万0959円は中小企業退職金共済事業本部からの支払)」を加える。
(8) 原判決11頁26行目の「当裁判所」を「東京地方裁判所」と改める。
3 争点
(1) 原審A事件請求
ア 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものであるか否か
イ 控訴人Xは、被控訴人の営業秘密を不正に開示し、控訴人ニックは、これを不正に取得したか否か
ウ 被告旧バージョンの作成及びこれを搭載した製品の販売が法的利益を侵害する不法行為に当たるか否か
エ 控訴人Xは、被控訴人に対し、労働契約上の債務不履行責任を負うか否か
オ 損害額
 なお、被控訴人は、損害賠償請求の請求原因として、主位的に上記アを、予備的に上記イ、ウ及びエを、その記載の順に主張するものである。
(2) 原審B事件請求
ア 被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムを翻案したものであるか否か
イ 控訴人Xは、被控訴人の営業秘密を不正に開示し、控訴人ニック及び控訴人あすみ技研は、これを不正に取得したか否か
ウ 被告新バージョンの作成及びこれを搭載した製品の販売が法的利益を侵害する不法行為に当たるか否か
エ 控訴人Xは、被控訴人に対し、労働契約上の債務不履行責任を負うか否か
オ 損害額
カ 控訴人Xは、被控訴人に対し、退職金返還義務を負うか否か
 なお、被控訴人は、損害賠償請求の請求原因として、主位的に上記アを、予備的に上記イ、ウ及びエを、その記載の順に主張し、差止め及び廃棄請求の請求原因として、主位的に上記アを、予備的に上記イを主張するものである。
(3) 原審C事件請求
ア 被控訴人の控訴人ニック及び控訴人あすみ技研に対する原審B事件に係る訴訟提起は、不法行為を構成するか否か
イ 被控訴人による本件告知1及び2、本件告知文書A及びBに係る告知は、虚偽事実の告知に係る不正競争行為に該当するか否か
第3 争点に関する当事者の主張
1 著作権侵害の成否(争点(1)ア及び争点(2)ア)について
〔被控訴人の主張〕
(1) 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムについて
ア 原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのプログラム構造の実質的同一性
(ア) 原判決別紙「FAMAS ver3.1.0接触角(液滴法)計算部分(i2winにない機能も含む)」(原告ツリー図)と原判決別紙「被告の旧バージョンにおける接触角計算メインのプログラム構成」(被告旧ツリー図)とを対比すると、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、いずれも、液滴を検出して接触角の計算を行う「(1) 接触角計算メイン」プログラムが、「(10) 閾値自動計算」、「(2) 液滴検出」、「(11) 端点検出」、「(12) 無効領域検出」、「(13) 頂点検出」、「(14) 接線法用表面検出」及び「(15) 接触角計算」の各プログラムを呼び出して機能する構成となっている点で共通する。
 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムにおいては、これらの他に「(27) X座標をイメージサイズの範囲内に設定」プログラムが呼び出されているが、枝葉が一つ増えているだけの微差であり、基本的構造の同一性を害するものではない。
(イ) 原告接触角計算(液滴法)プログラムにのみ存在し、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムには存在しないプログラムもあるが、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムがこれらを削除、省略しているからといって、原告接触角計算(液滴法)プログラムとの間において本質的な差異は生じない。
(ウ) 原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、各プログラムの機能においても、おおむね共通する。
 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムでは、「(10) 閾値自動計算」プログラムにおいて「(26) Y座標をイメージサイズの範囲内に設定」及び「(28) 明るさ計算」の各プログラムが、「(11) 端点検出」及び「(12) 無効領域検出」の各プログラムにおいて「(26) Y座標をイメージサイズの範囲内に設定」が、それぞれサブルーチン化されているが、微差にすぎない。
イ 原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードの実質的同一性
(ア) 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、「(1) 接触角計算メイン」から「(16) 接線法計算」までの16個のプログラムを含んでいるが、これらは、原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち、原告ツリー図の番号(1)ないし(16)の16個のプログラム(本件対象部分)と1対1で対応しているのみならず、機能を同じくするブロック(ソースコード対照表1において「F1」、「I1」などと表示されている部分)が番号ごとに対応し、さらに、ソースコードの1行ごとの対応関係も認められる。
(イ) 原告接触角計算(液滴法)プログラムとソースコードが完全に一致する部分(ソースコード対照表1における黄色部分)の割合は、行数比で44%を占める。
 また、変数、関数又は定数の名称の相違、引数の付加など引数の数の相違、変数が配列化されているか否か、配列の参照が関数化されているか否か、条件判断に用いられているのが「If」文か「Select Case」文かといった相違があるだけで、原告接触角計算(液滴法)プログラムとソースコードがほぼ一致する部分(ソースコード対照表1におけるオレンジ色部分)の割合は、行数比で42%を占める。
 さらに、各行の記載の順序も、両者は同一か類似する部分が非常に多い。
(ウ) 以上のとおり、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムと、省略されている部分を除けば、ほとんど一致している。両プログラムのソースコードは、非常に類似性が高く、上記黄色部分及びオレンジ色部分については、表現が実質的に同一であるということができる。
 なお、ソースコード対照表1のオレンジ色部分には、変数名、サブルーチン名、関数名等の変更を行っている箇所が多く検出されるが、控訴人ニックが開示した被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードには、ソースコードの可読性にとって不可欠の「コメント」がほとんど存しないことからすると、控訴人ニックが開示したソースコードは、原告接触角計算(液滴法)プログラムとの類似性を避けるために改ざんしたものである可能性が高い。
ウ 原告接触角計算(液滴法)プログラムの類似部分の創作性
(ア) 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードの大部分が、前記イのとおり、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードと類似していることからすれば、類似分を全体として見て、創作性の有無が判断されるべきである。 
(イ) 選択の幅
a 記述の分量
 原告接触角計算(液滴法)プログラムは、それ自体が独立して接触角計測・計算機能を支えるものであり、ソースコードの行数は2055行に及び、サブルーチン化、関数の組み方やパラメータ(引数)等のデータの渡し方に多様な選択肢があり得る。
b プログラムの構造
 原告接触角計算(液滴法)プログラムのブロック構造は、必然的なものではなく、また、入口設定の仕方や関数細分化の程度において、複数の選択肢がある。
 さらに、「一機能=一関数」をどこまで徹底するかについても選択の幅が認められ、例えば、プログラムに含まれる機能(一定の処理や計算)をどこまでも細かく区分けし、単一機能ごとに全て関数化、サブルーチン化し、これらを呼び出し組み合わせてプログラムを機能させる方法を採ることも、必要な機能を全てまとめて一関数の中に書き込んでしまう方法を採ることも可能である。どの程度サブルーチン化を進めるかは、作成者の裁量に委ねられ、複数の選択肢がある。
(ウ) 個々の表記
 ソースコード対照表1の【別添10−2】(「(3) 針先検出」プログラム)を例にとると、以下のとおり、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの類似部分には、ありふれているとはいえない特徴的表現、記述方法の分岐点や選択肢が多数含まれている。
a パラメータ(引数)及び変数の名称は、作成者が自由に決定し得るものであるところ、合計17個中13個が全く同一であり、2つの変数(原告接触角計算(液滴法)プログラムの「ca_para」及び「draw_count」と被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの「meas_para」及び「proc_count」)についても名称の一部が異なっているにすぎない。
b  パラメータ及び変数定義の順序は、作成者が自由に決定し得るものであるところ、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムにおいては、パラメータが1つ追加されて、2つが削除されているが、その他の6つのパラメータの並びは同じで非常に類似し、変数定義の順番も1つを除いて全て同じである。
c 原告接触角計算(液滴法)プログラムの画像座標用の変数(X, Y, edge_x,edge_y)と被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの変数(x, y, edge_x, edge_y)は、同じ意味で使われており、いずれもInteger 型(整数型)で足りるのに、ともに変数の型をDouble 型(小数点を有する実数を扱うデータ。4バイトのメモリーを必要とする。)で宣言している。
 また、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムでは、変数定義ブロック(F2、I2)において、ループカウンタ「i」のデータ型が、Integer 型で足りるのに、倍のメモリーを使用する(メモリー効率の悪い)Long 型で指定されている。
 控訴人Xが、過去に作成したFAMASにおいても、ループカウンター「i」にInteger 型が使用されている箇所が存在し、一般書籍を参照しても、ループカウンターでInteger 型を使用している例を容易に挙げることができるから、Long 型を使うことが、プログラマーとして当然の選択であるとはいえない。乙35には「(Long型が)32ビットCPU上での処理は非常に高速です。」との記載があるものの、高速化を最優先するといった特異なケースについては妥当するにすぎず、この記載から、コード最適化のためにLong 型の使用が当然であるといえるものではない。むしろ、メモリの節約の観点から、Integer 型を使用するのが通常であるところ、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの両者において、Integer 型で足りる箇所でLong 型が使用されている。
d 原告接触角計算(液滴法)プログラムの針先座標検出ブロック(F4)では、この部分でのみ使用する一時的な変数(process)を使って、Case0 ないし3 の場合分けがされているが、変数を使った場合分けは必須のものではなく、より直感的に理解しやすい「if」文を使った代替案を挙げることができる。
 さらに、「select」文における表面検出方向の場合分けと、各「case」文の中でパラメータとして検出方向を渡す際の検出方向のパラメータ値との間に、不一致が生じている。このような、いわば「定義のねじれ」とでもいうべき状況は、バグの発生などプログラムの品質低下につながることから、通常は回避されるものであるが、被告旧接触角計算(液滴法)プログラム(I4)でも同じ状況になっている。
e 原告接触角計算(液滴法)プログラムの針先座標検出ブロック(F4)では、ElseIf(「そうでない場合に、〜の場合には」との意味)が用いられているが、 ElseIfを使用する必然性はなく、「End If」や「If〜」との表現を用いた代替案を挙げることができる。なお、この点は、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムでも同様の記述になっている。
f プログラムの記述(ステートメント)の改行のために挿入する行連結文字「_」は、作成者が任意の位置に置くことができるものであるが、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの両者では、通常置かない位置を含め、全く同じ箇所に置かれている。
g 一般的に、プログラムは、複雑化して混乱を来さないように「入口一つ、出口一つ」、「飛ぶ処理は多用しない」といった「構造化」と呼ばれる考え方に基づき作成される。原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムはともに、プログラム中に、サブルーチンから脱出する命令である「ExitSub」、ループ処理である「For」文から脱出する命令である「Exit For」、ループ処理である「Do〜loop」文から脱出する命令である「Exit Do」が多用されて処理の流れが制御されており、かつ、その利用箇所は全く同じである。
(エ) 創作性
 原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち類似部分は、全体として見れば、前記(イ)のとおり、多様な選択肢が存する中で、作成者による数々の選択、工夫がされて作成されたものであり、そこには、作成者の個性が発揮されているということができる。
 また、類似部分に係る個々の表記にも、前記(ウ)のとおり、ありふれているとはいえない特徴的表現、記述方法の分岐点や選択肢が多数含まれており、作成者の個性が発揮されているということができる。
エ 依拠性
 原告プログラムは、控訴人Xが被控訴人に在職中にその作成を担当したものであること、控訴人Xが被控訴人を退職してから、わずか2か月ないし3か月後には、被告旧バージョンを搭載した被告製品の販売告知が行われていることに加え、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムとの間には、プログラマの単なる「癖」や「思考様式」の類似というだけでは説明することのできない、不自然な一致箇所が複数含まれていることからすれば、プログラム開発の時間や労力を節約するために、原告プログラムが流用された(デッドコピーに類する行為が行われた)ものとしか考えられない。
オ 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの著作権侵害
 以上のとおり、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムの創作性が認められる部分に依拠し、その内容及び形式を覚知することができるものを再製したか、同一性を維持しながら原告接触角計算(液滴法)プログラムの表現上の本質的特徴を直接感得することができる別の著作物を創作したものであるから、原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものに当たる。
(2) 被告新接触角計算(液滴法)プログラムについて
ア  表現上の本質的な特徴
 被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、以下のとおり、原告プログラムの表現上の本質的な特徴の同一性を維持している。
(ア) 原告接触角計算(液滴法)プログラムのプログラム構造は、原判決別紙「FAMAS ver3.1.0 接触角(液滴法)計算部分(i2win対応機能のみ抽出)」(原告ツリー図(抽出版))のとおりであり、被告新接触角計算(液滴法)プログラムのそれは、原判決別紙「i2win ver1.3.0接触角(液滴法)計算部分」(被告新ツリー図)のとおりである。
 両者を比較すると、@「f_measure_ca_sd」(接触角計算メイン)が「閾値自動計算」のプログラム、「液滴検出」、「(液滴)端点検出」、「(液滴)頂点検出」「接線法用表面検出」、「接触角計算」の各プログラムを呼び出し、機能する点(上記両別紙の各図中に@としてオレンジ色の線で囲った部分の枠組み)が共通し、A「針先検出」のためのプログラムが一つのまとまりを形成し、「接触角計算メイン」に呼び出されて機能している点(上記両別紙の各図中にAとして緑色の線で囲った部分の枠組み)が共通し、B被告新ツリー図のうち、ピンク色のブロックは原告接触角計算(液滴法)プログラムに存在する処理(記述)を外出し(括り出し)したものにすぎず、水色のブロックの記述が加えられてはいるものの、全体として見ると表現の基本的な筋に変更がない。
(イ) ソースコードの記述を比較対照した原判決別紙ソースコード対照表2を参照すれば明らかなとおり、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告新接触角計算(液滴法)プログラムにおいて、ソースコード対照表2の20個のプログラムは1対1に対応しており、機能を同じくするブロック(ソースコード対照表2において「F1」、「I1」などと表示されている部分)についても対応関係があり、内容が一致している。被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムの関数を流用している部分(ソースコード対照表2の(1)、(2-2)、(3)、(5)、(7)、(9)、(10-2)、(11)、(13)、(14)、(15)及び(16))や外出しした部分(同(30)、(31)及び(32))において、変数名、関数名等の変更を典型例とする表現の軽微な変更、一部処理(記述)の単純な削除、基本的な筋を変えることがない処理(記述)の付加、既存処理(記述)の並べ替え、既存処理(記述)の外出し又は処理(記述)の退歩のいずれかの修正を行い、原告接触角計算(液滴法)プログラムの筋、仕組みには変更を加えず、各表現のまとまりごとに書き換えを行って、表現を変更しているにすぎないものである。
イ 依拠性
 被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムを参考にした被告旧接触角計算(液滴法)プログラムに変更を加えたものであり、そのアルゴリズムは、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムと同様に、原告接触角計算(液滴法)プログラムのアルゴリズムをそのまま用いたものであるから、原告接触角計算(液滴法)プログラムに依拠して作成されたものである。
ウ 被告新接触角計算(液滴法)プログラムの著作権侵害
 以上によれば、被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムを翻案したものである。
(3) 小括
ア 原審A事件請求
 控訴人X及び控訴人ニックは、故意又は過失により、被控訴人が有する原告プログラムに係る著作権を侵害したものであるから、被控訴人に対し、被告旧バージョンの販売により被控訴人が被った損害を賠償すべき責任を負う。
イ 原審B事件請求
 被控訴人は、控訴人ニックに対し、被告新バージョンの複製及び被告製品1ないし5の販売等の差止めを、控訴人あすみ技研に対し、被告製品1ないし5の販売等の差止めを、控訴人ニック及び控訴人あすみ技研に対し、被告製品1ないし5及びその半製品並びに被告新バージョンを格納した記憶媒体の廃棄を求める。
 また、控訴人X及び控訴人ニックは、故意又は過失により、被控訴人が有する原告プログラムに係る著作権を侵害したものであるから、被控訴人に対し、被告新バージョンを搭載した製品の販売により被控訴人が被った損害を賠償すべき責任を負う。
〔控訴人らの主張〕
(1) 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムについて
ア 原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのプログラム構造の実質的同一性について
(ア) 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムと原告接触角計算(液滴法)プログラムには、いずれも「(2) 液滴検出」、「(10) 閾値自動計算」、「(11) 端点検出」、「(12) 無効領域検出」、「(13) 頂点検出」、「(14) 接線法用表面検出」、「(15) 接触角計算」といった手順を経るプログラムが存在する構造である点において類似するが、原告接触角計算(液滴法)プログラムには、サブピクセル検出用プログラム及びカーブフィッティング法による計測プログラムという、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムにはないプログラムが存在しているから、両者のプログラム構造に同一性があるということはできない。
(イ) 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムと原告接触角計算(液滴法)プログラムとでは、「(2) 液滴検出」、「(10) 閾値自動計算」、「(11) 端点検出」及び「(12) 無効領域検出」の各プログラムにおけるサブルーチン化の方法に違いがあるから、上記各プログラムに同一性があるということはできない。
(ウ) 原告プログラムも被告旧バージョンも、いずれも公知技術である接触角計算手順を、一般的な画像処理技術と一般的なプログラミング技術に従って、コンピュータプログラム化したものであり、計算方法も、最も一般的なθ/2法と接線法を利用したものであるから、プログラム構造が、原告プログラムと被告旧バージョンとで類似するのは当然である。
 また、各モジュールレベルにおけるプログラム構造についても、原告プログラムも被告旧バージョンも、いずれも当然の計測手順を一般的な画像処理技術と一般的なプログラミング技術に従って、コンピュータプログラム化したものであり、両者間における類似性は、不可避又はありふれた表現における類似性にすぎない。
イ 原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードの実質的同一性について
 ソースコード対照表1の黄色部分は、そのほとんどが平凡な単語レベルで同一性が認められるにすぎない。また、ソースコード対照表1のオレンジ色部分についても、機能レベルで同一性が認められるにすぎない。
 上記各部分における類似性は、同じプログラマが同じ機能を表現する上でのプログラマの癖に基づくものにすぎないから、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードは、著作物として保護されない部分について共通するにすぎない。
 また、ソースコードの行配列が、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムとでは異なっている。このことは、控訴人Xが、被告旧バージョンを作成するに当たって、原告プログラムをコピーアンドペーストしたものではないことを示している。
ウ 原告接触角計算(液滴法)プログラムのブロック構造の創作性について
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●。
 したがって、これらの手順を設けることに創作性はなく、そもそもこれはアイデアでしかない。
(イ) 原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムとが、各プログラムの機能において共通するのは、これら各プログラムの内容や構成方法が、接触角計算における当然の手順であるか、自明の設計事項であるにすぎないからである。
(ウ) 被控訴人は、入口設定の仕方や関数細分化の程度について裁量の幅がある旨主張するが、これは記述方法というアイデアについてのものにすぎないし、原告プログラムの構造は、接触角計算における当然の手順を追っているだけで、業務の流れ自体が不可避な構造である。
 また、関数細分化の程度についても、プログラムは、通常、機能ごとにサブルーチン化し、処理の手順に従って必要なサブルーチンを呼び出す手法によって全体が構成されるが、原告接触角計算(液滴法)プログラムにおいて、プログラムの構造は標準的なものである。
(エ) 以上のとおり、原告接触角計算(液滴法)プログラムは、接触角計算におけるありふれた手順を平凡に記載しているにすぎないから、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告接触角計算(液滴法)プログラムとが類似する部分には、これを全体として見ても、創作性はない。
 そもそも、プログラムにおける関数の機能やブロック構造は、いずれもアイデア又はアルゴリズムに当たるものであって、著作権による保護の対象とはならない。
エ 原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコード対照表1の各プログラム部分の創作性について
(ア) ソースコード対照表1のオレンジ色部分は、機能が同一なだけで表現は同一でなく、黄色部分は、単語レベルで同一又は類似するにすぎず、表現上の類似性がない。
 上記黄色部分及びオレンジ色部分は、プログラムの機能上不可避であるか、又は平凡な記述において、同一性又は類似性があるにすぎず、当該部分に創作性はない。
(イ) ソースコード対照表1の【別添10−2】(「(3) 針先検出」プログラム)について
a パラメータ(引数)及び変数定義について
 被控訴人は、引数や変数の名称、その定義の順序が同一又は類似している点を挙げる。
 しかし、引数や変数の類似性は、単語レベルにおける類似性にすぎない。引数や変数の類似性は、アイデアであるアルゴリズムの同一性に基づくものであり、用いる引数や変数における名称の類似性は、プログラマ固有の「癖」ないし「思考様式」における同一性にすぎない。
b 変数の型について
 被控訴人は、変数定義ブロック「F2」において、ループカウンタ「i」のデータ型がLong 型で指定されているが、メモリー効率を考慮するとInteger 型を利用するのがむしろ通常であるのに、被告旧バージョンでもLong 型となっている点を挙げる。
 しかし、原告各装置及び被告各装置が使用する32ビットCPU環境においては、Integer 型よりもLong 型が、高速動作に適している。Visual Basic6(VB)に付属のヘルプガイドも、32ビットCPUにおいては、コード最適化のためにはLong 型(長整数型)が一番適しており、Integer 型(整数型)はセカンドチョイスとなるべきことを指摘している。
 したがって、変数定義ブロック「F2」において、ループカウンタ「i」データ型としてLong 型を使用することは、プログラマとして当然の選択であって、ここに創作性があるとはいえない。
c 針先座標検出ブロック(F4、I4)について
(a) 被控訴人は、「Select Case」文を使ったプログラミングについて、当該プログラミング方法のほかに、「If」文を使ったプログラミングがあることを挙げる。
 しかし、条件分岐において、「If」文も「Select Case」文も極めて一般的な表現手法である。冗長性において、選択肢が4つまでであれば、「If」文を使っても、「Select Case」文を使っても大差はないから、選択肢が4つある針先座標検出において、「Select Case」文を使うことは、ありふれた表現方法である。
(b) 原告接触角計算(液滴法)プログラムでは、s_needle_tip_detect 関数について、process 変数の値と、s_get_rel_position の実行時に設定するmode 変数の値とが、ねじれて一致しない。
 しかし、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●ねじれでもなければ、原告接触角計算(液滴法)プログラムの特徴でもない。
なお、process 変数の値とmode 変数の値を他の数字に設定することは可能であるが、一般的な輪郭追跡の順序と異なる不自然な表現となる。また、値の変更可能性が、原告接触角計算(液滴法)プログラムにおけるprocess 関数の値とmode 関数の値の設定がありふれたものであることを覆すものでもない。
d 被控訴人は、針先座標検出ブロック(F4及びI4)において、「If」文、「Select Case」文、「For〜Next」文、「Do〜Loop」文などの内容や順序が同一又は酷似しているほか、「Do〜Loop」文内の「For〜Next」文や「If」文の内容や順序も同一又は酷似している点を挙げる。
 しかし、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
 また、「If」文と「Select Case」文の使い分けは、「If」文は場合分けが2つのときに使用され、場合分けが3つ以上あるときには、「Select Case」文が使用される。(a)針側面検出は、場合分けが、針側面の検出があるかないかの2つであるから、当然に「If」文の形式となる。(b)2×2=4パターンの回転方向テーブル(追跡回転方向)設定は、場合分けが4つであるから、当然に「Select Case」文の形式となる。さらに、(c)輪郭追跡方向の初期設定は、起点を中心とする前後左右斜め方向の合計8座標について最大8回同じ作業の繰り返しであるので、当然に「For〜Next」文の形式となる。(d)輪郭追跡は、針先が見つかるまで回数制限なく同じ作業の繰り返しであるので、当然に「Do〜Loop」文の形式となる。
 以上のとおり、針先座標検出ブロック(F4及びI4)における「If」文、「SelectCase」文、「For〜Next」文、「Do〜Loop」文の内容や順序の同一性は、標準的手法の当然の選択であって、当該部分に被控訴人の個性ないし創作性を認めることはできない。
(ウ) 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムには、原告接触角計算(液滴法)プログラムとソースコードの記述において外形的に類似する部分はあるが、デッドコピーではなく、保護されるべき表現上の類似性は存しない。
オ 依拠性について
 同一のプログラマが、同一の機能をプログラム表現すれば、ほぼ100%同じプログラム表現となるのは当然であるから、同一のプログラマが同一のアイデアをプログラム表現した事案においては、プログラマ固有の「癖」ないし「思考様式」を超えた個性的表現において同一性があるか、デッドコピーである場合にのみ、複製・翻案を認めるべきである。
 控訴人ニック及び控訴人Xは、控訴人Xの原告プログラムへのアクセスの事実を否定しないし、原告プログラムと被告旧バージョンに類似性があることを否定するものでもない。
 しかし、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムとが類似する部分は、いずれもプログラマ固有の「癖」ないし「思考様式」に基づく類似点にすぎない。
 また、ソースコードが完全に一致する部分が44%を占めるとしても、当該部分のソースコードは、完全に一致するわけではなく、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムがコピーアンドペーストにより作成されたものではないことは明らかである。
 したがって、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムに依拠して作成されたものということはできない。
 なお、被告旧バージョンの開発期間は、平成21年9月1日から同年12月24日までであり、販売を開始したのも同日である。
カ 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの著作権侵害について
 以上によれば、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムの複製にも翻案にも当たらない。
(2) 被告新接触角計算(液滴法)プログラムについて
ア 原告ツリー図(抽出版)と被告新ツリー図との両図において、オレンジ色の線で囲った枠組みが共通するとの点については、画像処理技術を利用して接線法による接触角計算を行う場合、上記枠組み内の手順をとることは当然であるから、そこには何らの創作性も存しない。
 上記両図において緑色の線で囲った枠組みが共通するとの点については、画像処理技術において液滴の検出をするに当たり、上記枠組み内の手順をとることは当然のことであって、そこには何らの創作性も存しない。
 被控訴人が、被告新ツリー図を全体としてみると、表現の基本的な筋に変更はないとする点については、被告新接触角計算(液滴法)プログラムと原告接触角メインとは、構成が異なるが機能においては同一であると主張しているにすぎないから、著作権侵害の要件たる同一性の主張としては意味がない。
イ ソースコードの記述について
(ア) ソースコード対照表2(15)のF6とI6は、接線法による接触角の計算ブロックであるが、接線法の採用に個性や創作性はあり得ず、このブロックは、接線法による計算手順を単純にプログラム化しただけであるから、創作性がない。
(イ) ソースコード対照表2(15)のF7とI7及び(16)のF3とI3は、曲率補正ブロックとアスペクト比等計算ブロックであるが、これらのブロックを入れるかどうかは機能の問題であり、これらのブロックは、かかる機能を単純にプログラム化しただけであるから、創作性がない。
ウ 以上のとおり、被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムを翻案したものではない。
2 不正競争行為の有無(争点(1)イ及び争点(2)イ)について
〔被控訴人の主張〕
(1) 営業秘密該当性
 原告ソースコード及び原告接触角計算(液滴法)プログラムのアルゴリズムである原告アルゴリズムは、以下のとおり、不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に該当する。
ア 秘密管理性
(ア) 原告ソースコードは、被控訴人の研究開発部のネットワーク共有フォルダである「RandD_HDD」サーバの「SOFT_Source」フォルダに保管されていたが、ここにアクセスすることができるのは、研究開発部従業員の中でもソフトウエア開発に携わる正社員のみに限定され、アクセス権限を有する者に対しては、個別にパスワードが交付された上、初期パスワードは必ず変更するよう指示がされていた。また、上記フォルダに対するアクセス権限は、書込み及び読込みを行う権限「RW」と、読込みの権限「RO」との2種類が設定され、書込みを行い得る者は更に限定されていた。そして、上記サーバには管理責任者が定められ、同人がアクセス権管理やウイルス対策等を含め、管理を実施していたし、上記フォルダに対するアクセスがなされた場合には、その履歴(ログ)が最新の数十件の範囲ではあるが記録され、不正アクセス、不正利用を予防し、事後的に検証可能な仕組みが構築されていた。
 実作業を行う研究開発部の各担当者のパソコンにも原告ソースコードが保存されていたが、その際にもパスワードが設定され、他者が勝手に使用することができないよう配慮がされており、控訴人Xその他の開発担当者が、共有フォルダに開発中のソースコードを保管していたという事実はない。
 また、製品に搭載するソフトウエアを企業が機密情報として管理することは、一般的に行われており、被控訴人では、就業規則において営業上の秘密の漏洩を禁止していたし、社外秘の「FAMASハンドブック」(本件ハンドブック)を見れば、原告プログラムの開発により改善された原告アルゴリズムがいかに画期的で被控訴人にとって重要なものであったかは容易に理解することができ、そして、この表紙には「CONFIDENTIAL」と記載され、全頁の上部には「【社外秘】」と記載されて秘密であることが明示されていた。
 さらに、被控訴人は、控訴人Xに、被控訴人を退職するに当たり、平成21年6月17日付け「秘密保持に関する誓約書」(以下「本件誓約書」という。)を差し入れさせた。
(イ) 本件において、秘密管理性判断の対象は、原告ソースコード及び原告ソースコードに記述された原告アルゴリズムであり、職業としてソフトウエア開発を担当していた控訴人Xは、これらがその性質上、企業にとって重要な技術情報であることを十分認識可能であった。
 加えて、被控訴人は、就業規則及び退職時に作成を求める誓約書において、一般的な秘密保持義務を定めていたほか、平成20年9月、業務上のメール指示に基づいて、ソースコードを特定のフォルダにて管理し、同フォルダへのアクセス制限を行い、かつ、ソースコードに記述されたアルゴリズムの一部を掲載した本件ハンドブックにも、「【社外秘】」「CONFIDENTIAL」のマークを施していた。よって、控訴人Xは、原告ソースコード及び原告アルゴリズムが秘密として管理されていることを十分認識可能であった。
(ウ) 以上によれば、原告ソースコード及びこれに記述されている原告アルゴリズムは、いずれも秘密として管理されていたということができる。
イ 非公知性
 原告ソースコード及び原告アルゴリズムは、一般には非公知の技術情報である。
ウ 有用性について
 原告ソースコードは、自動接触角計に関する多岐にわたる詳細なノウハウを、コンピュータへの指令の形式でトータルに記述、表現したもので、原告各製品に搭載されるソフトウエアとなるほか、原告各製品の設計、仕様書代わりにもなり得るものであり、原告アルゴリズムも、接触角計測機器の精度の向上を実現するため、被控訴人が長年の試行錯誤の上に確立したノウハウであって、原告各製品の製造、販売に不可欠な技術情報であるから、これらは、被控訴人の事業活動に有用な技術情報である。一般に、画像解析のためのプログラム制作に当たっては、画像の輪郭をどのような方法で検出するか、測定結果の正確性をどのように担保、検証するか、測定解析スピードを可能な限りアップさせるにはどうしたらよいかなど、複数の視点から、開発機器の特殊性を踏まえ、繰り返し実験を行うなど試行錯誤の末、適切なアルゴリズムを確立する必要がある。かかるアルゴリズム(例えば2値化のアルゴリズム)の善し悪しによって、製品の測定精度が大きく左右されるから、原告アルゴリズム自体が被控訴人にとって貴重な知的財産であるということができる。
(2) 控訴人Xの不正競争(同法2条1項7号)
ア 控訴人Xは、平成21年8月31日に被控訴人を退職するまでの間に、原告ソースコードの消去、返却を行わずに、これを持ち出し、控訴人ニックを利する等の図利加害目的で、控訴人ニックに提供したものである。
 このことは、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラム及び被告新接触角計算(液滴法)プログラム(併せて、被告接触角計算(液滴法)プログラム)とが、プログラムの構造及び具体的表現並びにアルゴリズムにおいて、実質的に同一であることに加え、以下の事実から明らかである。
(ア) 控訴人Xは、平成10年12月から平成12年10月までの間、FAMASの開発をほぼ単独で担当し、その後のバージョンアップ作業にも関与し、平成21年7月には、原告プログラムへのバージョンアップを完了した。
 そして、控訴人Xは、平成21年8月31日に被控訴人を退職すると、翌日には、控訴人ニックに入社したが、その2か月後の同年10月下旬頃には、控訴人ニックが、被告旧バージョンを搭載した製品の発売を告知した。
(イ) 控訴人Xは、平成20年7月頃、被控訴人に対し、プログラム開発に使用していた社用パソコンの紛失を届け出た。同パソコンには、プログラム開発に必要な環境が整えられており、FAMASのソースコードが保存されていた。その後、被控訴人は控訴人Xに対して新しいパソコンを貸与したが、控訴人Xは、同パソコンを使用して原告プログラムの開発を継続した上、被控訴人を退職する時に、同パソコンを買い取った。
(ウ) 仮に、一からソースコードを記述してソフトウエアを開発する場合、バグ発生のおそれがあることから、機器が正常に作動するか複数回の実験、検証を重ねる必要があり、2か月の開発期間で、プログラム及びこれを搭載した製品を完成させることは不可能である。
(エ) 控訴人ニックは、仮処分事件において、@被告旧バージョンを作成するにあたり参考としたのは、原告プログラムであることを明言しており、A和解協議においても、控訴人Xが持ち出したソースコードのデータ廃棄が検討され、控訴人ニック代理人弁護士が作成送付した和解条項案においても、控訴人ニックが原告プログラムの一部を使用して被告旧バージョンを製造、販売したことを認め、控訴人Xが本件誓約書に違反して、原告ソースコードの一部を控訴人ニックのために使用したことを認め、その所有する原告プログラムの削除に同意することなどが、盛り込まれていた。
イ 控訴人Xは、控訴人ニックを利する等の図利加害目的で、原告ソースコードを盗用することにより、@原告プログラムと一部が同一ないし類似する被告旧バージョンを作成して、控訴人ニックの製品に搭載させ、A被告旧プログラムを被告新プログラムに変更した際、原告ソースコードに記載されていた詳細なアルゴリズムについてはそのまま流用し、控訴人ニックの製品に搭載させた。
ウ 被告旧バージョンと原告プログラムは、本件対象部分において、全く同一の機能を実現するというのみならず、その詳細な手順、ステップ、表現(記述)の方法においてまで酷似し、重なり合うものとなっている。したがって、被告旧バージョンにおいて、原告ソースコード及びこれに記述された原告アルゴリズムが開示、使用されている。
 また、被告新バージョンは、ソースコードの記述においては、被告旧バージョンから変更されているが、基本的機能や画像解析のアルゴリズム、ソースコードに落とし込んだ場合の詳細な手順や、ステップは、ほぼ同一となっている。したがって、被告新バージョンにおいて、原告アルゴリズムが開示、使用されている。
エ 以上のとおり、控訴人Xの行為は、原告ソースコード及び原告アルゴリズムを、控訴人ニックに開示する行為にほかならず、不正競争防止法2条1項7号の不正競争に該当する。
(3) 控訴人ニックの不正競争(同法2条1項8号)
 控訴人ニックは、原告ソースコード及び原告アルゴリズムが営業秘密に当たり、控訴人Xがこれを不正に開示するものであることを知りながら、又は重大な過失により知らないで、控訴人Xから原告ソースコード、ひいては、原告アルゴリズムの開示を受け、これを被告旧バージョン及び被告新バージョンに流用した。
 このことは、@控訴人ニック代表者のYが被控訴人在籍時に、FAMASを搭載した自動接触角計(DM型)の営業を担当し、原告各製品を熟知していたこと、A平成21年4月15日に原告各製品のハードウエア整備、オプション開発に携わっていたPが被控訴人を退職し、同月17日に控訴人ニックが設立され、同年8月31日に控訴人Xが被控訴人を退職し、同年10月には被告各製品の販売が開始されたという事実経過、B被告接触角計算(液滴法)プログラムと原告接触角計算(液滴法)プログラムは、その構造及び具体的表現において実質的に同一であり、しかも控訴人ニックにおいてプログラム作成を行う者は控訴人X以外にはいないことからして、明らかである。
 控訴人ニックの行為は、不正競争防止法2条1項8号の不正競争に該当する。
(4) 控訴人あすみ技研の不正競争(同法2条1項8号、9号)
 控訴人あすみ技研は、悪意又は重過失により、控訴人ニックから原告プログラムを翻案した被告新バージョンを搭載し、原告アルゴリズムを盗用した被告各製品を反復継続して仕入、販売することで、被控訴人の営業秘密を転得し、使用している。
 控訴人あすみ技研のホームページの接触角計の販売ページに被告各製品が控訴人ニック製である旨の記載がないこと、よくある質問に関するページにはアルゴリズムにも深く関わる測定手法等を含む詳細な事項についてのQ&Aが設けられていること、控訴人あすみ技研は、被告各製品のみならず、被告新バージョンを単体でも販売しており、画像解析ソフトの概要についても解説を行っていることからすると、控訴人あすみ技研が原告ソースコードや原告アルゴリズムの詳細について控訴人ニックから開示を受けている可能性は極めて高い。
 控訴人あすみ技研の行為は、不正競争防止法2条1項8号、9号の不正競争に該当する。
(5) 小括
ア 原審A事件請求
 控訴人X及び控訴人ニックは、被控訴人に対し、不正競争防止法4条に基づき、被告旧バージョンの販売により被控訴人が被った損害を賠償すべき責任を負う。
イ 原審B事件請求
 被控訴人は、控訴人ニックに対し、被告新バージョンの複製及び被告製品1ないし5の販売等の差止めを、控訴人あすみ技研に対し、被告製品1ないし5の販売等の差止めを、控訴人ニック及び控訴人あすみ技研に対し、被告製品1ないし5及びその半製品並びに被告新バージョンを格納した記憶媒体の廃棄を求める。
 また、控訴人X及び控訴人ニックは、被控訴人に対し、不正競争防止法4条に基づき、被告新バージョンを搭載した製品の販売により被控訴人が被った損害を賠償すべき責任を負う。
〔控訴人らの主張〕
(1) 営業秘密該当性
 原告ソースコード及び原告アルゴリズムは、以下のとおり、いずれも不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に該当しない。
ア 秘密管理性
(ア) 原告ソースコードについて
a 控訴人Xは、入社してから退社するまで、FAMASのソースコードを、被控訴人のパソコンのハードディスク上に設けた「FAMAS」という名称のフォルダに保存していたところ、平成12年にFAMASの開発担当者としてZが加わるまでは、上記フォルダにアクセスできたのは控訴人Xのみであった。しかし、Zが参加した後は、控訴人Xは、Zとプログラムの作成状況や進捗状況を情報共有するため、Windowsのフォルダ共有機能を利用し、控訴人X及びZのFAMASフォルダを共有状態としていたことから、アカウントやパスワードの入力なしに被控訴人の全社員が控訴人X及びZのFAMASフォルダにアクセス可能であったし、被控訴人のショールームは、部外者が容易に入室できるので、ショールームに設置されたパソコンを利用すれば、アカウントやパスワードを要求されることなく、部外者であっても容易にFAMASフォルダへのアクセスが可能であった。
 また、被控訴人には、控訴人Xが退社するまで、ソースコードの保管について、共有フォルダ利用の可否を含め一切のマニュアルが存在しなかった。実際にも、控訴人Xは、ソースコードの保管に関し、被控訴人から指示を受けたこともなかった。
b 「RandD_HDD」サーバ上の「SOFT_Source」フォルダによる管理
 Pは、平成20年9月、「RandD_HDD」サーバ上に「SOFT_Source」フォルダを設け、当該フォルダに完成版のFAMASのソースコードを入れるよう、開発課員に指示をしたところ、当該フォルダは、アクセス権限を、プログラマ、開発課長、研究開発部長に限定し、他の社員や部外者によるアクセスを制限するものである。
 しかし、当該フォルダは、完成版ソースコードを秘密に管理するために設置されたものではなく、研究開発部内のプログラマの数が増え、完成版ソースコードを担当者間で保存共有する場所がないとの課員の指摘により、開発課が独自に設置をしたものである。しかも、開発中のソースコードについては、当該フォルダの利用が義務付けられたり、各自のFAMASフォルダでの保存が禁止されたりしていたわけではない。そのため、各課員は、誰でもアクセス可能なFAMASフォルダ上に開発中のソースコードや完成版のソースコードを保存し、完成版についてはそのコピーを「SOFT_Source」フォルダにも保存するという運用を行っていた。
 以上のとおり、平成20年に「SOFT_Source」フォルダが設置された後も、控訴人Xが退社するまでの間、FAMASフォルダにはソースコードが保存され、全従業員のみならず、部外者までもがアクセス可能であるという状況であった。
 なお、「RandD_HDD」サーバや「SOFT_Source」フォルダの運用に関して、被控訴人には、マニュアル等は一切存在しなかった。
(イ) 原告アルゴリズムについて
 控訴人Xは、FAMASのアルゴリズムを営業担当者を通じてユーザーである顧客にも理解してもらう目的で、本件ハンドブックを作成したのであり、営業担当者に対し、FAMASの画像解析アルゴリズムを顧客に見せても構わない旨発言していた。被控訴人に原告アルゴリズムを秘匿する意思がなかったことは明らかである。なお、本件ハンドブックの表紙やヘッダーに「CONFIDENTIAL」や「【社外秘】」との記載があるのは、本件ハンドブックには、ソフトウエアのライセンスキーの書込み方法や通常ユーザーが使わないモードに関する説明等、顧客に公開すべきでない情報が数多く含まれていたからである。そもそも、本件ハンドブックは、控訴人Xの独自の判断により作成されたものであり、その作成につき、被控訴人からの指示はなかった。
 以上のとおり、被控訴人は、原告アルゴリズムへのアクセス制限をしておらず、また、管理に関する指示も一切していなかった。
イ 非公知性について
 原告アルゴリズムは、従来の接触角計算手法に標準的な画像処理技術を当てはめただけのものであり、公知公用の技術にすぎない。
(2) 控訴人Xの不正競争
ア 控訴人Xは、原告ソースコードや原告アルゴリズムを不正使用したことも、不正開示したこともない。
 被控訴人は、平成20年7月に控訴人Xが社用ノートパソコンの紛失を申し出たことを控訴人Xによる不正競争行為を裏付ける事実として挙げるが、控訴人Xが、ノートパソコンを何者かに窃取され、紛失したことは、事実である。
 また、被控訴人は、控訴人Xが退職してから2か月後の平成21年10月下旬には控訴人ニックが被告旧バージョンを搭載した製品の発売を告知した点を挙げる。しかし、上記発売の告知は、デモンストレーションをするための最低限の機能を備えたデモソフトが完成した時点でされたものであり、被告旧バージョンの完成日とは全く異なる。控訴人ニックが被告旧バージョンを完成させたのは、同年12月24日のことであり、控訴人Xが退職してから約4か月経過した頃である。そして、4か月間というのは、被告旧バージョンの開発期間として短すぎるということはない。
イ また、被告旧バージョンにおけるアルゴリズムが、原告アルゴリズムと同じ手法を用いるものであっても、従業員が保有する技術を適用した結果である手法や、技術上の合理性の観点から当然に採用される部類に属する手法を使用することは、不正競争防止法の不正競争には該当しない。
(3) 控訴人ニックの不正競争
 控訴人Xには、前記(2)のとおり、不正開示行為が認められないから、控訴人ニックの行為は不正競争防止法2条1項8号の不正競争に該当しない。
(4) 控訴人あすみ技研の不正競争
 控訴人あすみ技研は、控訴人ニックから原告ソースコードや原告アルゴリズムの開示を受けていない。
 控訴人あすみ技研のホームページに控訴人ニックに関する記載がないのは、控訴人ニックよりも控訴人あすみ技研の名称の方がブランド力があるからにすぎず、「よくある質問」のページにおける記載は抽象的な質問に関するものばかりであり、画像解析ソフトの概要についての記載も簡単な操作やライセンスの方法について記載しているのみであるから、これらが、控訴人あすみ技研が、控訴人ニックから原告ソースコード及び原告アルゴリズムの開示を受けたことの根拠となることはない。
3 不法行為の成否(争点(1)ウ及び争点(2)ウ)について
〔被控訴人の主張〕
(1) 控訴人X及び控訴人ニックは、被控訴人の従業員の地位にあったことを利用し、原告ソースコード、原告アルゴリズムを盗用して、控訴人ニックから被告各製品を発売した。
 原告ソースコード及び原告アルゴリズムは、相応の経費と時間を投じて被控訴人が開発したものであり、被控訴人の主力商品である自動接触角計の性能を支えているものである。
 したがって、以下の控訴人X及び控訴人ニックの行為は、保護に値する被控訴人の法的利益を侵害するものであり、共同不法行為を構成する。
(2) 控訴人Xの行為
ア 控訴人Xは、Yが控訴人ニックの設立を計画していた平成20年6月頃から控訴人Xが被控訴人を退職する平成21年8月31日までの間に、Y、Pとの間で、被控訴人と競合する控訴人ニックを設立すること、控訴人ニックにおいて、原告ソースコード、原告アルゴリズムを流用した製品の販売を行うことを共謀した。
 控訴人Xは、平成20年7月8日から平成21年8月31日までの間に、原告ソースコードを控訴人ニックの製品への流用を目的として持ち出し、同年10月までの間に、原告ソースコード及び原告アルゴリズムに依拠して被告旧バージョンを作成し、これを控訴人ニックに提供した。
イ 控訴人Xは、原告アルゴリズムに依拠して、原告プログラムと類似する被告新バージョンを作成し、これを控訴人ニックに提供した。
(3) 控訴人ニックの行為
ア 控訴人ニックの代表取締役であるY、取締役であるPは、いずれも、被控訴人の元従業員であるところ、控訴人ニックは、控訴人Xが、提供した被告旧バージョンが、原告ソースコード及び原告アルゴリズムを盗用したものであることを知りながら、又は過失により知らないで、被告旧バージョンを搭載した製品を販売した。
イ また、控訴人ニックは、原告プログラムを参考にした被告旧バージョンに変更を加えたにすぎず、原告アルゴリズムをそのまま用いた被告新バージョンを搭載した製品を販売した。
(4) 小括
ア 原審A事件請求
 控訴人X及び控訴人ニックは、前記行為につき故意又は過失があるから、被控訴人に対し、不法行為に基づき、被告旧バージョンを搭載した製品の販売により被控訴人が被った損害を賠償すべき義務を負う。
イ 原審B事件請求
 控訴人X及び控訴人ニックは、前記行為につき故意又は過失があるから、被控訴人に対し、不法行為に基づき、被告新バージョンを搭載した製品の販売により被控訴人が被った損害を賠償すべき義務を負う。
〔控訴人ニック及び控訴人Xの主張〕
 否認ないし争う。
4 債務不履行の成否(争点(1)エ及び争点(2)エ)について
〔被控訴人の主張〕
(1) 秘密保持義務
 控訴人Xは、被控訴人に対し、労働契約に基づき、就業規則7条(6)、38条に規定された秘密保持義務を負っていた。また、控訴人Xは、被控訴人に対し、本件誓約書に基づき、退職後、被控訴人の製品開発に関する技術情報を第三者に開示、漏洩してはならない義務を負っていた。
 ここにいう「秘密」は、必ずしも不正競争防止法2条6項の「営業秘密」と同義に解釈する必要はなく、「社外秘」とされている本件ハンドブックに示されたアルゴリズムや、原告ソースコードに示されている詳細なアルゴリズムを当然に含んでいると解釈すべきである。
(2) 秘密保持義務違反
ア 控訴人Xは、秘密保持義務に違反して、平成21年8月31日に被控訴人を退職するまでの間に、原告ソースコードを消去せず、被控訴人を退職後、原告ソースコードを流用し、また、原告アルゴリズムを盗用して、被告旧バージョンを作成し、これを控訴人ニックに提供した。
イ 控訴人Xは、秘密保持義務に違反して、原告アルゴリズムを盗用して、原告プログラムと類似する被告新バージョンを作成し、これを控訴人ニックに提供した。
(3) 小括
ア 原審A事件請求
 控訴人Xは、被控訴人に対し、労働契約上の債務不履行に基づき、被告旧バージョンを搭載した製品の販売により被控訴人が被った損害を賠償すべき義務を負う。
イ 原審B事件請求
 控訴人Xは、被控訴人に対し、労働契約上の債務不履行に基づき、被告新バージョンを搭載した製品の販売により被控訴人が被った損害を賠償すべき義務を負う。
〔控訴人Xの主張〕
(1) 原告ソースコード及び原告アルゴリズムは、就業規則にいう「機密」や本件誓約書にいう「秘密情報」に該当しない。
(2) 控訴人Xには、原告ソースコードの流用の事実も、原告アルゴリズムの盗用の事実も存しない。
5 損害額(争点(1)オ及び争点(2)オ)について
〔被控訴人の主張〕
(1) 共同不法行為責任
 控訴人ニックと控訴人Xとは、主観的・客観的に共同して、著作権を侵害する行為、不正競争防止法違反に該当する行為、不法行為を行ったものであるから、両者は、共同不法行為に基づき、連帯して、被控訴人の損害を賠償する責任を負う。
 また、控訴人Xは、上記責任に加え、債務不履行に基づき、被控訴人の損害を賠償する責任を負う。
(2) 原審A事件請求
ア 著作権侵害に基づく損害額
(ア) 著作権法114条1項の損害額
a 譲渡数量
 控訴人ニックは、被告旧バージョンを搭載した被告製品1を●台、被告製品3を●台、被告製品6を●台販売した。
 被告製品1は原告製品1と、被告製品3及び6は原告製品2と同等である。
b 単位数量当たりの利益額
(a) 販売価格
 原告各製品の平均販売価格は、原告製品1が●●●●●●●●円、原告製品2が●●●●●●●●円であり、1台当たりの限界利益額は、原告製品1が●●●●●●●●円、原告製品2が●●●●●●●●円となる。
(b) ソフトウエアの寄与率
 ソフトウエアの寄与率は、原告製品1については、54.8%と算定すべきである。また、原告製品2については、納品書(甲66の15)を基に、37.5%と算定すべきである。
(c) 本件対象部分の寄与率
 ソフトウエア全体に占める本件対象部分の寄与率は、70%と認定すべきである。
(d) 本件対象部分に係る限界利益の額
 本件対象部分に係る限界利益の額は、原告製品1について、●●●●●●●円(●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●となる。また、原告製品2について、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●となる。
c 損害額
 原告製品1の●台分の●●●●●●●●と原告製品2の●台分の●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●との合計である、●●●●●●●●●円となる。
(イ) 調査費用
 被控訴人は、著作権侵害の事実を調査するため、Q医科大学を経由して被告製品1(168万円)を1台購入した。自動接触角計は、ハードウエアが伴わなければ機器としての使用はできず、生産者側にとっても、ソフトウエアのみをばら売りすることにはさほどメリットがないため、各メーカーとも原則としてソフト単体を販売商品とはしていない。ソフト単体での販売を行うのは、既存顧客に対してソフトウエアを最新化するケースであり、控訴人ニックが自らの販売実績として挙げているのも、何らかの事情を伴った特殊ケースであると考えられる。被控訴人が、ある製品のプログラムにつき著作権侵害の疑いを抱いたとしても、市場においてソフトウエアのみの販売を受けることは不可能であり、少なくとも、被控訴人が上記製品を購入した平成22年3月当時控訴人ニックが販売していた製品のうち下位機種である「LSE−B100」を購入しなければ製品を取得し、搭載プログラムを調査することはできなかった。
 そうすると、少なくとも、LSE−B100の定価(145万円税別)から割引額(定価の25%)を控除した金額である108万7500円が損害として認められるべきである(甲73)。
(ウ) 弁護士費用
 弁護士費用相当額として、36万円が認められるべきである。
(エ) 被控訴人は、控訴人ニック及び控訴人Xに対し、前記(ア)、(イ)及び(ウ)の合計額397万4986円の連帯支払を求める。
イ 不正競争防止法違反(不正競争防止法5条1項)、不法行為、債務不履行による損害額は、いずれも、前記アの損害額と同額である。
(3) 原審B事件請求
ア 著作権侵害に基づく損害額
(ア) 著作権法114条1項の損害額
 控訴人ニックが平成22年9月頃以降に被告新バージョンを搭載した被告各製品の販売を開始してから譲渡した物の数量に、被控訴人が控訴人ニックの著作権侵害行為がなければ販売することができた単位数量当たりの販売価格を乗じた金額は、7500万円を下らないから、これに被控訴人の原価率50%を乗じた3750万円が被控訴人の損害額となる。
(イ) 弁護士費用
 弁護士費用相当額の損害として、300万円が認められるべきである。
(ウ) 被控訴人は、控訴人ニック及び控訴人Xに対し、前記(ア)及び(イ)の合計額4050万円のうち1000万円の連帯支払を求める。
イ 不正競争防止法違反(不正競争防止法5条1項)、不法行為、債務不履行による損害額は、いずれも、前記アの損害額と同額である。
〔控訴人ニック及び控訴人Xの主張〕
(1) 被控訴人の主張は否認ないし争う。
(2) 原審A事件請求について
ア 著作権法114条1項の損害額
(ア) 譲渡数量
 被告製品3に相当する被控訴人の製品は、原告製品2ではなく、主に海外顧客に向けて機能を簡素化し低価格で販売していた「DM−CE1」であり、被控訴人は、低予算での購入を希望する国内の顧客に対しては、これを販売していた。
(イ) 単位数量当たりの利益額
a 販売価格
 原告製品1及び2は、それぞれ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●で販売されているから、原告製品1の販売価格は●●●万円、原告製品2の販売価格は●●●万円程度である。
b 控除すべき経費額
 原告製品1及び2の違いは、ソフトウエアにおいて利用制限の設定が異なる点のみであり、ハードウエアは共通であるから、両者の部材価格は、いずれも●●万円である。
 また、原告製品1及び2の価格から、納入立会説明費等のオプション価格を控除すべきであり、また、原告製品1の価格から、被告各製品に付属していない自動計測のためのシングルディスペンサシステムの価格●●●●●●●●●●を控除すべきである。
c ソフトウエアの寄与割合
 ハードウエアとソフトウエアの寄与割合は、それぞれの単体価格が存在しないため、1対1と推定せざるを得ない。
d 本件対象部分の寄与割合
(a) 原告プログラムの総行数は17万0672行であり、原告接触角計算(液滴法)プログラムの行数は2055行であるから、ソフトウエアである原告プログラム全体に対する原告接触角計算(液滴法)プログラムの寄与度は、1.2%である。
そして、被控訴人が、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムとで類似性のある記述であると指摘するソースコード対照表1の黄色部分は588行であるから、原告プログラム全体に対する黄色部分の寄与割合は、0.3%(=588行÷17万0672行)である。
(b) 接触角計にとって中枢をなすプログラムは、接触角計算(液滴法)プログラムに限られず、ほかにもある。むしろ、市場において差別化力や顧客吸引力を持つのは、「使い勝手の良さ」を実現するユーザーインターフェイスに係るプログラムであるということができる。また、接触角計算のアルゴリズムである「θ/2法」や「接線法」は、接触角計算の最も一般的なものであり、接触角計のメーカーのほとんどが採用しているものである。さらに、プログラムは、その行数に応じてプログラム構成に対して寄与していると考えるべきであるところ、原判決が原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムとが類似すると認定した行数(本件対象部分)は、2055行にすぎない。
 したがって、侵害部分が顧客吸引力に与える影響、機能性、侵害部分の占める量的割合等を考慮すれば、原告接触角計算(液滴法)プログラムの接触角計に対する寄与度を70%とするのは不当であり、前記?によらないとしても、せいぜい10%程度とされるべきである。
(ウ) 著作権法114条1項ただし書の事情
a 被控訴人、控訴人ニックのみならず、国内外のメーカー10社以上が製造する接触角計装置が国内で販売されているから、控訴人ニックが被告各製品を販売しなければ原告各製品を販売することができたという関係にはない。
b 原判決別紙被告製品(旧バージョン)販売実績(以下「販売実績表」という。)の番号2については、控訴人ニックが、被控訴人の製品を使用していた東京理科大学に対して販売したものであるが、同大学は、計測精度、測定時間等の機能面で被控訴人の製品に不満を抱き、被控訴人の製品を購入の対象から外していたから、被控訴人が、被告製品3の代わりに原告各製品を販売し得た可能性はない。
c 販売実績表の番号5については、Yと顧客との個人的なつながりがあったために、接触角計を購入する意思がなかった同顧客が被告製品3を購入したものであるから、被控訴人が、被告製品3の代わりに原告各製品を販売し得た可能性はない。
イ 調査費用
 著作権侵害の有無を調査する費用は、侵害行為がなくても被控訴人が必要とした費用であって、侵害行為そのものを原因として生ずる損害ではないから、侵害行為との間に相当因果関係はない。
 仮に、相当因果関係が認められるとしても、控訴人ニックは、ソフトウエア単体の販売を行っているから、その額は、ソフトウエア単体の販売価格である18万2700円(税込み)に限られる。
6 退職金返還義務の有無(争点(2)カ)について
〔被控訴人の主張〕
(1) 控訴人Xは、被控訴人を退職した平成21年8月31日までの間に、就業規則及び本件誓約書の規定に違反し、原告ソースコードを控訴人ニックに提供する目的で、パソコンからデータを抜き去り、又はパソコンの買取時にそのままデータを保持して、被控訴人の社外に持ち出して、自身の手元に残存させ、これを控訴人ニックに提供した。
(2) 製品搭載プログラムのソースコードは、メーカーにとって、最も重要な技術情報であり、控訴人Xの非違行為は重大である。控訴人Xの上記行為は、懲戒解雇事由(就業規則47条)に該当するものであり、仮に被控訴人がこれを認知していれば、被控訴人は、控訴人Xに対し、退職金の支給は行わなかった。
(3) したがって、控訴人Xは、被控訴人に対し、受領した退職金256万4090円を不当利得として返還する義務を負う。
〔控訴人Xの主張〕
(1) 原告各製品と被告各製品との間には、製品設計を模倣したと評されるような類似性はない。また、原告各製品のハード面やソフト面は、これらを販売することにより公知となっている情報であるから、そもそも秘密情報に該当しない。
 したがって、控訴人Xに非違行為は存しない。
(2) 仮に、被告旧バージョンの一部が原告プログラムの著作権を侵害するものであるとしても、本件は、控訴人Xが勤務中に修得した一般的知見を応用したものにすぎないといえるかどうかの限界事例であるから、控訴人Xには著作権侵害につき過失があるとはいえないし、ましてや、過去の勤務に対する賃金の後払いの性質を有する退職金を取り上げてしまうほどの違法性があるとはいえない。
(3) したがって、控訴人Xは、被控訴人に対し、退職金返還義務を負わない。
7 不当訴訟の成否(争点(3)ア)について
〔控訴人ニック及び控訴人あすみ技研の主張〕
(1) 次のとおり、原審B事件に係る訴えは、事実的、法律的根拠を欠くものである上、被控訴人はこれを知り、又は通常人であれば容易に知り得るものであったから、被控訴人による原審B事件の提起は、控訴人ニック及び控訴人あすみ技研に対する不法行為を構成する。
ア 著作権に基づく訴えについて
(ア) 事実的、法律的根拠を欠くこと
 原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告新接触角計算(液滴法)プログラムには、明らかに同一性がなく、著作権に基づく訴えは、事実的、法律的根拠を欠く。
(イ) 故意又は重過失
 控訴人ニックは、被控訴人に対し、仮処分事件及び原審A事件において、被控訴人が権利侵害の疑いのある部分として特定した部分について、被告新バージョンに係るソースコードを開示した。
 したがって、被控訴人は、これら被告新バージョンに係るソースコードと原告ソースコードを比較検討し、著作権に基づく訴えが事実的、法律的根拠を欠くものであることを知っていた。また、通常人であれば、これを容易に知り得た。
 実際にも、被控訴人は、仮処分事件において、控訴人ニックから被告新バージョンに係るソースコードの開示を受け、法律判断の専門家である弁護士を代理人として、原告プログラムと被告新バージョンとの間には同一性がないことを前提とする和解案を提示している。このことは、被控訴人において、被告新バージョンが著作権を侵害するものではないことを認識していたことを示すものである。
イ 不正競争防止法に基づく訴えについて
(ア) 事実的、法律的根拠を欠くこと
a 控訴人ニックに対する訴え
 原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告新接触角計算(液滴法)プログラムには、明らかに同一性がない。原告ソースコードと被告新バージョンのソースコードは、機能における類似性があるにすぎず、かかる機能は、接触角計測技術に画像処理技術を応用した場合に当然に採用されるものであるから、そもそも不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に該当しないし、控訴人ニックによる不正取得も不正使用もない。
 また、被告新バージョンのアルゴリズムには、原告アルゴリズムと類似する点があるが、原告アルゴリズムは、公知の接触角計測技術に公知の画像処理技術を応用した場合に当然に採用される手順にすぎないから、そもそも不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に該当しない。仮に原告アルゴリズムが「営業秘密」に該当するとしても、従業員が保有する技術を適用した結果である手法か、技術上の合理性の観点から当然に採用される部類に属する手法を使用するものであるから、控訴人ニックによる不正取得も不正使用もない。
b 控訴人あすみ技研に対する訴え
 控訴人ニックに原告ソースコードや原告アルゴリズムの不正取得や不正使用の事実がない以上、控訴人あすみ技研に、原告ソースコードや原告アルゴリズムの不正開示や不正使用の事実がないことは明らかである。
 控訴人あすみ技研が、控訴人ニックの社名を表示せずに製品を販売しているとしても、このことは、控訴人あすみ技研による原告ソースコードや原告アルゴリズムの取得事実や使用事実を何ら推認させるものではない。
(イ) 故意又は重過失
 被控訴人は、前記ア(イ)のとおり、被告新バージョンに係るソースコードの開示を受けていたから、不正競争防止法に基づく訴えが事実的、法律的根拠を欠くものであることを知っていた。また、通常人であれば、これを容易に知り得た。
(2) 損害額
ア 控訴人ニックは、原審B事件に応訴するため、控訴人ニック訴訟代理人弁護士にその訴訟遂行を委任し、その弁護士費用として567万円の支払義務を負担した。上記弁護士費用相当額の損害のうち、被控訴人の不法行為と相当因果関係のある額は、400万円である。
イ 控訴人あすみ技研は、原審B事件に応訴するため、控訴人あすみ技研訴訟代理人弁護士にその訴訟遂行を委任し、その弁護士費用として100万円の支払義務を負担した。
(3) 小括(原審C事件請求)
ア 控訴人ニックは、被控訴人に対し、不法行為に基づき、400万円のうち50万円の支払を求める。
イ 控訴人あすみ技研は、被控訴人に対し、不法行為に基づき、100万円のうち25万円の支払を求める。
〔被控訴人の主張〕
(1) 控訴人ニックに対する原審B事件の提起
ア 著作権に基づく訴え
(ア) 原告ソースコードと被告新バージョンのソースコードは、プログラムのブロック構造や、ステップ等において、表現の類似性が認められるから、著作権に基づく訴えが、事実的、法律的根拠を欠くものであるとはいえない。
 控訴人ニックは、仮処分事件の手続中、被告旧バージョンから被告新バージョンへと接触角計算メインプログラムを変更したものであるが、変更の時機を考えれば、控訴人ニックが、差止命令を免れるためにバージョン変更を行ったことは明らかである。しかも、上記バージョン変更は、仮処分事件の手続中のわずかな期間に、プログラム表現の本質はそのままに、既に存在する被告旧バージョンのソースコードに改変を加える方法で行われたものであるから、被告新バージョンのソースコードを、被告旧バージョンのソースコードとは別ものであると直ちに評価することはできない。
 控訴人ニックは、被告旧バージョンが原告プログラムを参考にして作成されたものであることを認めており、被告旧バージョンについては、著作権侵害のおそれがあることを自認しているといえることからすれば、被告旧バージョンに依拠して作成された被告新バージョンについて、著作権に基づく訴えを提起することが、事実的、法律的根拠を欠くものであるといえないことは明らかである。
(イ) 仮処分事件において、被告新バージョンのソースコードの一部の開示を受けたことは事実であるが、被控訴人において、これが原告プログラムの著作権を侵害するものではないと判断したり、言及したりした事実はない。仮処分事件において、和解の検討材料として開示された被告新バージョンのソースコードの一部を参照、検討したことがあるにすぎない。
 そして、前記(ア)の事情に照らせば、被控訴人が、著作権に基づく訴えの提起が事実的、法律的根拠を欠くものであることを知っていたとも、また、通常人であれば、これを容易に知り得たともいえない。
イ 不正競争防止法に基づく訴え
 接触角測定のための画像解析アルゴリズムには、無数のバリエーションがあり、確立した方法論が存在するわけではないが、そうした状況下において、控訴人ニックは、被控訴人と同一の原告アルゴリズムを使用している事実を認めている。
 そして、原告アルゴリズムは、技術上の合理性の観点から当然に採用される部類に属する手法などではない。
 したがって、不正競争防止法に基づく訴えは、事実的、法律的根拠を欠くものであるとはいえない。また、被控訴人において、事実的、法律的根拠を欠くものであることを知っていたとも、通常人であれば容易にそのことを知り得たともいえない。
ウ 以上のとおり、控訴人ニックに対する原審B事件の提起は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものであるとはいえないから、不法行為を構成しない。
(2) 控訴人あすみ技研に対する原審B事件の提起
ア 著作権に基づく訴え
 前記(1)アと同様に、著作権に基づく訴えは、事実的、法律的根拠を欠くものであるとはいえず、また、被控訴人において、事実的、法律的根拠を欠くものであることを知っていたとも、通常人であれば容易にそのことを知り得たともいえない。
イ 不正競争防止法に基づく訴え
 控訴人あすみ技研が作成している接触角計の販売ページには、被告各製品が控訴人ニックの製造する製品である旨の掲示が一切なく、あたかも自社製品であるかのように主体的に被告製品を展開していることから、一般的な販売代理店に比べ、主体的、積極的に被告各製品に関与している事実がうかがわれたこと、また販売ページのQ&Aには、ソフトウエアのアルゴリズムにも深く関わる事項が掲示されていたことから、控訴人あすみ技研は、控訴人ニックからアルゴリズムの開示を受けているものと考えられた。
 また、控訴人あすみ技研は、被告各製品を販売するだけでなく、被告新バージョンのプログラムを単体で販売しており、画像解析ソフトの概要についても解説を行っていることから、被告新バージョンのプログラムの詳細について開示を受けている蓋然性が高い。
 以上の事実から、被控訴人は、控訴人あすみ技研が控訴人ニックから単に製品の販売委託を受けているのではなく、技術情報の開示を受けた上で、自社製品として販売を行っているものと考え、原審B事件を提起したものであるから、これが、事実的、法律的根拠を欠くものであるとはいえない。また、被控訴人において、事実的、法律的根拠を欠くものであることを知っていたとも、通常人であれば容易にそのことを知り得たともいえない。
ウ 以上のとおり、控訴人あすみ技研に対する原審B事件の提起は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものであるとはいえないから、不法行為を構成しない。
8 虚偽事実の告知に係る不正競争行為の成否(争点(3)イ)について
〔控訴人ニック及び控訴人あすみ技研の主張〕
(1) 控訴人ニック及び控訴人あすみ技研と被控訴人との競争関係
 控訴人ニック及び被控訴人は、いずれも、ぬれ性評価装置(接触角計)を製造販売する会社であり、控訴人あすみ技研は、ぬれ性評価装置(接触角計)を販売する会社であるから、控訴人ニックと被控訴人との間及び控訴人あすみ技研と被控訴人との間には、競争関係がある。
(2) 虚偽事実の告知又は流布
ア 本件告知1及び本件告知文書A
 被控訴人は、本件告知1及び本件告知文書Aにおいて、提訴の対象が被告旧バージョンか被告新バージョンかを故意に区別していないため、本件告知1及び本件告知文書Aは、被告新バージョンについても提訴したことを公衆に告知するものである。
 しかし、被控訴人は、平成24年8月31日に原審B事件を提起するまでは、被告新バージョンに係る訴えを提起していなかった。
 したがって、本件告知1及び本件告知文書Aは、被告知人に対し、被告新バージョンについても著作権法違反及び不正競争防止法違反で提訴したと誤信させるものであり、本件告知1及び本件告知文書Aの送付は、不正競争防止法2条1項15号の虚偽事実の告知又は流布に該当する。
イ 本件告知2
 被控訴人が原審B事件を提起したことは事実であるが、提訴の事実の告知は、被告知者に対し、提訴したという情報を伝達するのみならず、控訴人ニック及び控訴人あすみ技研には相当程度の侵害の疑いがあるという情報をも伝達するものである。
 しかし、控訴人ニック及び控訴人あすみ技研に対する原審B事件の提起は、事実的、法律的根拠を欠くものであり、かつ、被控訴人において、これを認識し又は容易に認識し得たものである。
 したがって、本件告知2は、控訴人ニック及び控訴人あすみ技研には相当程度の侵害の疑いがあるとの事実が存しないにもかかわらず、これがあるかのような情報を伝達するものであるから、不正競争防止法2条1項15号の虚偽事実の告知又は流布に該当する。
ウ 本件告知文書B
 販売代理店が取り扱う控訴人ニックの製品は、当時、被告新バージョンに係る製品であったから、本件告知文書Bは、被告新バージョンが著作権法違反又は不正競争防止法違反に係るものであるか、そのおそれのあるものであることを告知して、取扱いの中止を求めるものである。
 しかし、被告新バージョンは、原告プログラムとの間に表現における同一性はないから、被告新バージョンに係る著作権法違反又は不正競争防止法違反に基づく訴えは、事実的、法律的根拠を欠く。
 したがって、本件告知文書Bは、被告知人に対し、被告新バージョンが著作権法違反及び不正競争防止法違反に係るものであると誤信させるものであり、本件告知文書Bの送付は、不正競争防止法2条1項15号の虚偽事実の告知又は流布に該当する。
(3) 故意又は過失
 被控訴人は、原審B事件の提起の前に、被告新バージョンに係るソースコードの開示を受けているから、控訴人ニック及び控訴人あすみ技研に対する著作権法違反及び不正競争防止法違反の主張が、事実的、法律的根拠を欠くものであることを認識し、又は容易に認識し得た。
 したがって、被控訴人には、虚偽事実の告知又は流布につき、故意又は過失がある。
(4) 損害額
ア 控訴人ニックの損害
(ア) 逸失利益
 控訴人ニックは、被控訴人による虚偽事実の告知又は流布による取引中止により、合計901万円余りを喪失した。
(イ) 信用毀損
 控訴人ニックは、信用毀損により1000万円の損害を被った。
(ウ) 弁護士費用
 控訴人ニックは、本件告知1及び2、本件告知文書A及びBによる告知の差止めを求める仮処分の提起を余儀なくされ、その遂行を弁護士に委任したところ、その弁護士費用として100万円を負担した。
イ 控訴人あすみ技研の損害
 控訴人あすみ技研は、信用毀損により500万円の損害を被った。
(5) 小括(原審C事件請求)
ア 控訴人ニックは、被控訴人に対し、不正競争防止法4条に基づき、2001万円のうち金50万円の支払を求める。
イ 控訴人あすみ技研は、被控訴人に対し、不正競争防止法4条に基づき、500万円のうち金25万円の支払を求める。
〔被控訴人の主張〕
(1) 違法性
 本件告知1及び2、本件告知文書Aは、その文言を社会通念に照らして解釈する限り、いずれも、被控訴人が控訴人ニックの販売する製品について、著作権法違反及び不正競争防止法違反を原因として訴訟を提起したと事実しか読み取ることはできない。
 また、本件告知文書Bは、上記と同様に、提訴の事実を伝達した上で、被控訴人が自身の取引先に対して、今後も従前どおりの良好な関係を継続して欲しい旨を記載したものにすぎない。
 したがって、本件告知1及び2、本件告知文書A及びBの内容には、何ら虚偽はなく、虚偽事実の告知又は流布の事実は存しない。
(2) 損害について
 損害主張は争う。控訴人ニックの主張する取引機会の喪失と、被控訴人の行為との間に相当因果関係も存しない。
第4 当裁判所の判断
1 著作権に基づく請求について
(1) 争点(1)ア(被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものであるか否か)について
ア 認定事実
 前記前提事実、証拠(甲7、27、38、乙13、乙18の1)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
(ア) 原告プログラムの構造等
a 原告プログラムは、接触角(静止液体の自由表面が固体壁に接する場所で、液面と固体面とのなす角。液の内部にある角をとる。)を自動で測定するための自動接触角計に搭載するプログラムである。
 被控訴人は、自動接触角計である原判決別紙原告製品目録記載の各製品(原告各製品)を製造、販売しているところ、原告各製品は、試料(固体)ステージ、レンズ、カメラ及び液滴を作るための注射器を備え、専用のソフトウエアである原告プログラムを搭載している。原告各製品は、接触角の測定の方法として液滴法を用いており、具体的な接触角の測定方法は、機器に備え付けられた注射器の針先に液滴を作成し、これに固体表面を近づけて着滴させ、着滴した液滴をCCDカメラで撮影し、その画像を解析して接触角を測定するというものである。
b 原告プログラムは、プログラム言語Visual Basic Version 6(VB)を用いて記述された多機種対応型のプログラムであり、接触角計測機能(液法・側面観察、拡張収縮法、滑落法、θ/2法、接線法及びカーブフィッティング)のほか、液体の表面張力測定機能、固体の表面自由エネルギー解析機能等を有する。
 原告接触角計算(液滴法)プログラムは、原告プログラムを構成するプログラムの1つであり、θ/2法、接線法により液滴の接触角を計測するため、固体試料上に作成した液滴を水平方向から撮影した画像を解析し、端点、頂点、円弧状の左右3点の座標を求めて接触角を自動計測する機能を有している。
c 原告接触角計算(液滴法)プログラムのプログラム構造は、おおむね原判決別紙「FAMAS ver3.1.0接触角(液滴法)計算部分(i2winにない機能も含む)」(原告ツリー図)のとおりである。
 原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち、θ/2法及び接線法による接触角計算のための主要なプログラムである番号(1)ないし(16)の16個のプログラム(本件対象部分)のソースコードの内容は、「(1) 接触角計算メイン」が原判決別紙【別添8−2】、「(2) 液滴検出」が原判決別紙【別添9−2】、「(3) 針先検出」が原判決別紙【別添10−2】、「(4) 針側面検出」が原判決別紙【別添11−2】、「(5) 側面検出」が原判決別紙【別添12−2】、「(6) Y座標有効チェック」が原判決別紙【別添13−2】、「(7) X座標有効チェック」が原判決別紙【別添14−2】、「(8) 回転方向決定」が原判決別紙【別添15−2】、「(9) 有効範囲チェック」が原判決別紙【別添16−2】、「(10) 閾値自動計算」が原判決別紙【別添17−2−2】、「(11) 端点検出」が原判決別紙【別添18−2】、「(12) 無効領域検出」が原判決別紙【別添19−2】、「(13) 頂点検出」が原判決別紙【別添20−2】、「(14) 接触法用表面検出」が原判決別紙【別添21−2】、「(15) 接触角計算」が原判決別紙【別添22−2】、「(16) 接触法計算」が原判決【別添23−2】(併せて、ソースコード対照表1)の、各「FAMASソース(元のソースコードそのま)」欄に記載のとおりである。
d 原告ソースコードは、実行ファイルサイズで10.4MB、ソースコードサイズで12.5MB、ソースコードファイル132個、行数17万0672行からなる。そのうち、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードは、2525行からなり、このうち、本件対象部分のソースコードは、2055行である。
(イ) 被告旧バージョンの構造等
a 被告旧バージョンは、接触角計測機能を有するプログラムである。
 控訴人ニックが製造販売する原判決別紙被告製品目録記載の各製品(被告各製品)は、液滴法により接触角を自動計測する自動接触角計であるところ、ハード面として、試料ステージ、レンズ、カメラ、液滴を作るための注射器を備えており、被告旧バージョンは、被告製品1ないし3及び6に搭載されていた。
b 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、被告旧バージョンを構成するプログラムの1つであり、原告接触角計算(液滴法)プログラムと同様の機能を有するほか、上面画像に対してX座標基準で液体輪郭検出レベルの計算を行うという、原告接触角計算(液滴法)プログラムにない機能も有する。
c 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのプログラム構造は、おおむね原判決別紙「被告の旧バージョンにおける接触角計算メインのプログラム構成」(被告旧ツリー図)のとおりであるが(原告ツリー図の番号と同一の番号のものは原告プログラムと同様の機能を有するプログラムである。)、他に上面画像に対してX座標基準で液体輪郭検出レベルの計算を行うという機能に関するプログラムである「s_calc_outline_detect_level_x」(番号(10-1)のプログラム)があり、「(1) 接触角計算メイン」から「(16) 接線法計算」までの16個に番号(10-1)のプログラムを加えた各プログラムのソースコードの内容は、ソースコード対照表1の各「i2winソース(改変前)」欄に記載のとおりである(ただし、改行位置に多少のずれがある。)。
d 被告旧バージョンのソースコードは、ソースコードファイル20個、行数1万8738行からなる。そのうち、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードは、1923行からなり、このうち本件対象部分のソースコードは、1320行である。
(ウ) 本件対象部分における共通点
a プログラム構造の対比
(a) 原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分のソースコードは、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●記載されている。
 一方、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分のソースコードも、原告接触角計算(液滴法)プログラムと同様に、「(1) 接触角計算メイン」プログラムが、「(10) 閾値自動計算」、「(2) 液滴検出」、「(11) 端点検出」、「(12) 無効領域検出」及び「(13) 頂点検出」の各プログラムを「Call」文で呼び出し、次いで、θ/2法による接触角計算を行う場合には「(15) 接触角計算」プログラムを「Call」文で呼び出してこれを行い、接線法による接触角計算を行う場合には「(14) 接線法用表面検出」プログラムを「Call」文で呼び出した後に「(15) 接触角計算」プログラムを「Call」文で呼び出してこれを行うものとして記載されており、以上の点において両者は共通である。
(b) 原告接触角計算(液滴法)プログラムに存する●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●                            
 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
b ソースコード全体における対比
(a) 本件対象部分について、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードを対比すると、それぞれの番号(1)ないし(16)のプログラムが、ほぼ同様の機能を有するものとして1対1に対応しており、各プログラム内のブロック(ソースコード対照表1における「F」、「I1」など)が機能的にも順番的にも、ほぼ1対1に対応している。
(b) 本件対象部分について、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードを対比すると、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードの約44%(ソースコード対照表1の黄色部分)は、原告接触角計算(液滴法)プログラムにおけるソースコードと変数・構文ともに一致する。また、その約42%(ソースコード対照表1のオレンジ色部分)は、変数、関数又は定数の名称の相違、引数が付加されているなど引数の数の相違、変数が配列化されているか否かの相違、配列の参照が関数化されているか否かの相違、条件判断に用いられているのが「If」文か「Select Case」文かといった相違があるものの、これらの相違を除くとおおむね一致している(甲27)。
 また、両者のソースコードの記載の順序も、同一又は類似する部分が多い。
c ソースコード対照表1の【別添10−2】における対比
 本件対象部分のうち、ソースコード対照表1の【別添10−2】(「(3) 針先検出」プログラム)について、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードを対比すると、以下の共通点がある(甲38)。
(a) パラメータ(引数)や変数の名称
 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは18個のパラメータ(引数)や変数を利用しているが、そのうち13個の名称が、原告接触角計算(液滴法)プログラムにおけるものと同一である。
 また、そのうち2個は、名称が異なっているものの(「meas_para」と「ca_para」、「proc_count」と「draw_count」)、変数の一部が異なっているだけで、類似する。
(b) パラメータ(引数)や変数の定義の順序
 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムにおいては、1個のパラメータ(引数)(「device_num」)が加わり、原告接触角計算(液滴法)プログラムにある2個のパラメータ(引数)(「draw_mark」及び「picture」)が削除されているが、他の6つのパラメータ(引数)の定義の順序は、原告接触角計算(液滴法)プログラムと一致している。
 また、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、変数定義の順序が、「i」の位置が異なり、「draw_req」が存在しない点を除けば、原告接触角計算(液滴法)プログラムと一致している。
(c) パラメータ(引数)や変数の型
 原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのいずれにおいても、変数定義ブロック(前者は「F2」、後者は「I2」)において、ループカウンタ「i」のデータ型が、「Integer」型ではなく、「Long」型で指定されている。
 また、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのいずれにおいても、引数定義ブロック(前者は「F1」、後者は「I1」)において、「edge_x」、「edge_y」のデータ型、変数定義ブロック(前者は「F2」、後者は「I2」)において、「x」、「y」のデータ型が、「Integer」型ではなく、「Double」型で指定されている。
(d) 構文
 原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムでは、針先座標検出ブロック(前者は「F4」、後者は「I4」)において、「If」文、「Select Case」文、「For 〜 Next」文、「Do 〜 Loop」文などの内容や順序が、おおむね一致している。また、「Do 〜 Loop」文内の「For 〜 Next」文や「If」文の内容や順序も、おおむね一致している。
 さらに、針側面検出ブロック(前者は「F3」、後者は「I3」)や針先座標検出ブロック(前者は「F4」、後者は「I4」)における「Exit」文(「Exit Sub」、「Exit For」、「Exit Do」等)を使用する箇所も共通している。
(e) 針先座標検出ブロックにおける定義のねじれ
 さらに、原告接触角計算(液滴法)プログラムの針先座標検出ブロック(「F4」)には、以下の記載がある。
 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
 ●●●●●
 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
 原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、「process」という変数を使った「Case 分け」をしている点が共通している。
 また、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、「select」文では表面検出方向の場合分けを●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●として扱っており、いわゆる「定義のねじれ」とでもいうべき状況が生じている点でも共通している。
(f) 行連結文字(「_」)の位置
 原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、針先座標検出ブロック(前者は「F4」、後者は「I4」)において、いずれも4箇所で行連結文字「_」を挿入して改行を行っているが、その挿入位置が共通している。
(エ) 他の表現の選択可能性(選択の幅)
a プログラム構造(甲7)
 原告接触角計算(液滴法)プログラムや被告旧接触角計算(液滴法)プログラムに見られる処理を行うためのソースコードの記載方法としては、例えば、@「(1)接触角計算メイン」プログラムが、θ/2法による接触角計算を行うプログラムや接線法による接触角計算を行うプログラムを呼び出し、次いで、これらがそれぞれ「(10) 閾値自動計算」、「(2) 液滴検出」、「(3) 針先検出」、「(11) 端点検出」等のプログラムを呼び出すように記載する方法、A接線法による接触角計算を行うプログラムを、θ/2法による接触角計算を行うプログラムのサブプログラムとして記載する方法、B「(1) 接触角計算メイン」を経由せず、θ/2法による接触角計算を行うプログラムや接線法による接触角計算を行うプログラムを外部から直接に呼び出すように記載する方法など、他の複数の記載方法を採用することが可能である。
 また、そもそも液滴法による接触角計算に必要な機能のうちどの機能をサブルーチン化して個別のプログラムとして構成するか、各プログラム中でどのようにブロックを構成するかについても、原告接触角計算(液滴法)プログラムの方法以外にも、他の複数の記載方法を採用することが可能である。
b 各プログラムにおけるアルゴリズム(甲27)
(a) 原告接触角計算(液滴法)プログラムの「(10) 閾値計算」のアルゴリズムは、背景における左右の代表2点における輝度を測定し、その平均値を基準に白黒判定の閾値を決定するというものである。
 閾値計算の方法としては、上記方法以外に、一般的手法として、モード法(画像の輝度ヒストグラムを作成し、2つのピーク位置の間にある最も深い谷の輝度を閾値と判定する方法)やPタイル法(画像の二値化したい領域が全画像の領域に占める割合をパーセントで指定して二値化する方法)等がある。また、原告接触角計算(液滴法)プログラムのアルゴリズムと同様の方法によるとしても、閾値計算のための代表点の選定方法としては、2点ではなくより多くの点を選定したり、背景における左右の点ではなく、上下や斜めの点を選定したりするなど、複数の組合せが考えられる。
(b) 原告接触角計算(液滴法)プログラムの「(3) 針先検出」のアルゴリズムは、二値化された画像を利用して、針側面をなぞり、針先の位置を検出するが、具体的には、@画面の左側から「+X」方向に走査動作を行い、画素が「白」から「黒」に変化した位置(針の輪郭に当たった位置)で、走査方向を「+Y」方向に変えて走査動作を行う(第1ステップ)、A第1ステップで検出した黒点を開始点として下方向に向かって、黒点(針の輪郭)をなぞりながら、第1ステップで検出した黒点のY座標と等しくなるまで、走査動作を行い、Y座標が最大になる黒点(針先)を探す、というものである。
 針先検出の方法としては、上記方法以外に、@画像の中央から針内を下側に向けて走査し、画素が「黒」から「白」になった位置(針先)を検出する方法、A左から右、あるいは右から左に向けて、画面全体を走査し、画素が「白」から「黒」になった位置(針先)を検出する方法など、複数の方法が考えられる。また、原告接触角計算(液滴法)プログラムのアルゴリズムと同様の方法によるとしても、第1ステップにおいて、画面の右側から「−X」方向に走査動作をスタートしたり、A第1ステップにおいて、Y軸における走査動作の開始位置を画面の最上端から中央の位置まで適宜選定したりするなど、複数の方法が考えられる。
(c) 原告接触角計算(液滴法)プログラムの「(11) 端点検出」のアルゴリズムは、針先から真下方向に画像を探索して液滴の存在を検出し、さらに液滴表面に沿って周回するように探索することで、液滴の両側の端点を検出するが、具体的には、@針先から「+Y」方向に走査動作を行い、画素が「白」から「黒」になった位置(液滴の輪郭に到達した位置)から、黒点(液滴の輪郭)に沿って右下回りに輪郭走査を開始する(第1ステップ)、A黒点(液滴の輪郭)に沿った走査動作を行い、X座標が反転した位置(凸部分)を検出する(第2ステップ)、B逆方向に戻るように逆なぞりし、同様にX座標が反転した位置を検出して、端点(凸部分)の座標をメモリに保存する(第3ステップ)、C黒点(液滴の輪郭)をさらに下側に継続して走査し、X座標が反転する部分(凹部分)を探索する(凹部分が見つからない場合、接触角が鋭角と判断する)(第4ステップ)、D凹部分が検出されたら、逆方向に戻るように逆なぞりし、同様にX座標が反転した位置を検出して、端点(凹部分)の座標をメモリに保存する(凹部分が見つかった場合、接触角が鈍角と判断する)(第5ステップ)、E凹部分が、測定表面における端点であるのか、画像エラーの「欠け」により生じた凹部であるのかを、凹部分が凸部分を通る仮想円の半径±2%以内に収まっているかにより、識別する(第6ステップ)、というものである。
 端点検出の方法としては、上記方法以外に、@上下方向に走査して、画素が「白」→「黒」→「白」と変動する状況を利用して第2ステップの液滴の凸部分端点を検出する方法、A第3ステップを経ない方法、B上下方向に走査して、画素が「白」→「黒」→「白」→「黒」→「白」と変動する状況を利用して第4ステップの液滴の凹部分端点を検出する方法、C第6ステップを経ない方法など、複数の方法が考えられる。
(d) 原告接触角計算(液滴法)プログラムの「(13) 頂点検出」のアルゴリズムは、左右端点(凸部分又は凹部分)を利用して、垂直二等分線を設定し、この垂直二等分線上の白黒判定によって液滴の頂点を検出するが、具体的には、垂直二等分線上の白黒判定は、既に検出した針先位置より下側に向かって垂直二等分線上を探索し、最初に生じる白黒変化点を採用するというものである。
 頂点検出の方法としては、上記方法以外に、@左右方向に走査して、「白」→「黒」→「白」の変動状況を利用して液滴の頂点を検出する方法、A上下方向にスキャンして、「白」→「黒」の変化タイミングを利用して液滴の頂点を検出する方法、B液滴の境界に沿って探索し、Y軸移動方向が「−」から「+」に反転したタイミングを利用して液滴の頂点を検出する方法など、複数の方法が考えられる。
(e) 原告接触角計算(液滴法)プログラムの「(14) 接線法用表面検出」のアルゴリズムは、接線法による左右独立した接触角を求めるため、左右端点(凸部分又は凹部分)を起点として、液滴の輪郭をなぞって測定に必要な座標を検出する、というものである。
 接線法用表面検出の方法としては、上記方法以外に、上下方向に走査して、端点近辺の液滴の表面を検出し、測定に必要な座標を検出するなど、複数の方法が考えられる。
c ソースコードの記述(甲38)
 原告接触角計算(液滴法)プログラムで用いられているVBでプログラミングを行う際、変数、引数、関数及び定数などの名称は作成者が自由に決めることができ、名称の如何によりコンパイル後のオブジェクトコードに差異は生じないから、異なる名称を付した場合であっても、電子計算機に対して同様の指令を行うことができる。また、パラメータ(引数)や変数定義の順序も、作成者において自由に決めることができる。さらに、同様の処理をサブルーチン化するかどうかを選択することができるほか、変数を配列化したり、変数の参照をパラメータ(引数)や関数としたりすることが可能であるし、繰り返し処理を行う場合のループ文の種類は「For〜 Next」、「Do 〜 Loop」等複数あり、条件判断を行う場合にも「If」文や「SelectCase」文により行うことができ、どのような関数を用いるかを選択することができるなど、同一内容の指令についてのソースコードの記載の仕方や順序には、一定の制約の下ではあるが、ある程度の多様性がある。
イ 複製又は翻案の成否
(ア) 複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい(著作権法2条1項15号)、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同項1号)、著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その創作的な表現部分の同一性を維持し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうと解される。また、著作物の翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁)。
 したがって、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、創作的な表現部分において同一性を有し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる場合には、複製又は翻案に該当する。他方、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製にも翻案にも当たらないというべきである。
(イ) 依拠性
 前記前提事実記載のとおり、原告接触角計算(液滴法)プログラムをその構成として含む原告プログラムは、被控訴人の従業員であった控訴人Xが、主に担当して作成されたものであるから、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムを作成した控訴人Xにおいて、原告接触角計算(液滴法)プログラムの存在及びその表現内容を認識していたことは明らかである。
 そして、控訴人Xが、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムをその構成として含む被告旧バージョンを作成するに際し、原告プログラムを参考にしたことを自認していることに加え、前記ア認定の原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの同一性に照らせば、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角(計算)液滴法プログラムに依拠して作成されたものであると認められる。
(ウ) 創作的な表現の同一性
a プログラムは、その性質上、表現する記号が制約され、言語体系が厳格であり、また、電子計算機を少しでも経済的、効率的に機能させようとすると、指令の組合せの選択が限定されるため、プログラムにおける具体的記述が相互に類似することが少なくない。著作権法は、プログラムの具体的表現を保護するものであって、機能やアイデアを保護するものではないところ、プログラムの具体的記述が、表現上制約があるために誰が作成してもほぼ同一になるもの、ごく短いもの又はありふれたものである場合においては、作成者の個性が発揮されていないものとして、創作性がないというべきである。他方、指令の表現、指令の組合せ、指令の順序からなるプログラム全体に、他の表現を選択することができる余地があり、作成者の何らかの個性が表現された場合においては、創作性が認められるべきである。
b 原告接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分と被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分は、@前記ア(ウ)aのとおり、そのプログラム構造の大部分が同一であること、A前記ア(ウ)b?のとおり、ほぼ同様の機能を有するものとして1対1に対応する番号(1)ないし(16)の各プログラム内のブロック構造において、機能的にも順番的にもほぼ1対1の対応関係が見られること、B前記ア(ウ)b(b)及びcのとおり、これらの構造に基づくソースコードは、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの約86%において一致又は酷似している上に、その記載順序及び組合せ等の点においても、同一又は類似しているということができる。なお、前記ア(ウ)a(b)のとおり、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムには、原告接触角計算(液滴法)プログラムにあるプログラムを備えていないものがあるが、これは、液滴の接触角計測に必須のプログラムではない。また、前記ア(ウ)a(b)のとおり、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムには、原告接触角計算(液滴法)プログラムにないプログラムが追加されているものがあるが、これは、既に存在するプログラム内に予め組み込まれているプログラムを、分離して、別プログラムとして記述したものにすぎない。
 そして、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムと同一性を有する原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分に係るソースコードの記載は、これを全体として見たとき、前記ア(エ)のとおり、指令の表現、指令の組合せ、指令の順序などの点において他の表現を選択することができる余地が十分にあり、かつ、それがありふれた表現であるということはできないから、作成者の個性が表れており、創作的な表現であるということができる。
c したがって、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分と創作的な表現部分において同一性を有し、これに接する者が本件対象部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるということができる。
ウ 控訴人ニック及び控訴人Xの主張について
(ア) 控訴人ニック及び控訴人Xは、ソースコード対照表1の黄色部分は単語レベルの類似性があるにすぎず、オレンジ色部分は機能が同一であるだけで表現上の類似性はない、針先検出のための回転方向は4通りしかなく場合分けが3つ以上のときは「Select Case」文が使用されるから、【別添10−2】の針先座標検出ブロック(F4)には創作性がないなどと主張する。
 しかし、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムと同一性を有する原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分に係るソースコードの記載は、これを全体として見たとき、単に単語レベルや機能レベルで一致しているだけでなく、プログラム構造、各プログラム内のブロック構造、これらの構造に基づくソースコードの記載内容、記載順序及び組合せ等の点において同一性を有し、かつ同一性を有する部分に創作性が認められることは、前記イ(ウ)のとおりである。
 控訴人ニック及び控訴人Xの上記主張は、本件対象部分を構成する個々のソースコードの記載表現における創作性を問題とするが、本件対象部分を全体として見た場合であっても、前記イ(ウ)bのとおり、原告接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分と被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分とに同一性が認められる本件においては、当を得ないといわざるを得ない。
(イ) 控訴人ニック及び控訴人Xは、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、控訴人Xのプログラマとしての「癖」や「思考様式」に基づいて作成されたものであるから、原告接触角計算(液滴法)プログラムへの依拠性がない旨主張する。
 しかし、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムと同一性を有する原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分に係るソースコードの記載は、これを全体として見たとき、単に単語レベルや機能レベルで一致しているだけでなく、プログラム構造、各プログラム内のブロック構造、これらの構造に基づくソースコードの記載内容、記載順序及び組合せ等の点において同一性を有し、かつ同一性を有する部分に創作性が認められることは、前記イ(ウ)のとおりである。
 上記のとおり、単に単語レベルや機能レベルで一致しているだけでなく、原告接触角計算(液滴法)プログラムと同一性を有する部分が、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの大部分(ソースコードの行数にして、1320行/1923行)に及んでいることに照らすと、両プログラムが主として控訴人Xにより作成されたものであるからといって、これを控訴人Xのプログラマとしての「癖」や「思考様式」によるものであると直ちにいうことはできない。かえって、@両プログラムの同一性が、前記ア(ウ)cのとおり、ソースコード表現の細部にわたって認められること、A控訴人Xが主に担当して作成された原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードには多くの「コメント」が付記されているにもかかわらず、本件に証拠として提出された被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードには、「コメント」の記載が一切なく不自然であり、このことからは、むしろ、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムが原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードを使用して作成されたものであることがうかがわれることに照らすと、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムが、控訴人Xのプログラマとしての「癖」や「思考様式」を反映したにすぎないものであるということはできない。
エ 小括
 以上によれば、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分を複製又は翻案したものであるということができる。
(2) 争点(2)ア(被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムを翻案したものであるか否か)について
ア 認定事実
 前記前提事実、証拠(乙14、20)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
(ア) 被告新バージョンの構造等
a 控訴人ニックは、控訴人Xを主要な担当者とし、被告新バージョンを完成させ、平成22年10月1日から、被告旧バージョンに代えて、被告新バージョンを搭載した自動接触角計(原判決別紙被告製品目録記載1ないし5の製品)を製造、販売している。
b 被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、被告新バージョンを構成するプログラムの1つであり、原告接触角計算(液滴法)プログラムと同様の機能を有する。
c 被告新接触角計算(液滴法)プログラムのプログラム構造は、おおむね別紙被告新接触角計算(液滴法)プログラムのツリー図(乙20)のとおりであり、被告新接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードには、原判決別紙「ソースコード対照表2」(ソースコード対照表2)の「i2winソース(改変後)」欄に記載のものが含まれる。
d 被告新バージョンのソースコードは、ソースコードファイル23個、行数2万1771行からなる。そのうち、被告新接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードは994行である。
(イ) 原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告新接触角計算(液滴法)プログラムとの対比
a プログラム構造
 原告接触角計算(液滴法)プログラムは、前記(1)ア(ウ)aのとおり記載されている。
 一方、被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
b ソースコードの記載
(a) 原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードと被告新接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードを対比すると、機能としては、ブロックごとにおおむね1対1の対応関係が見られる。
(b) 原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告新接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードの記載は、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●の3つのブロックは、変数や引数の名称が多少異なる程度で、関数の表現は同一又は類似する。
 しかし、上記3ブロックのほか、両者のソースコードの記載は、その表現、サブルーチン化の方法、記載順序等において共通しない。
(c) サブルーチン化の方法における相違
 原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告新接触角計算(液滴法)プログラムとのサブルーチン化には、例えば、以下のような相違がある。
@ 原告接触角計算(液滴法)プログラムの●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
A 原告接触角計算(液滴法)プログラムの●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
B 原告接触角計算(液滴法)プログラムの●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
イ 翻案の成否
 原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、@前記ア(イ)aのとおり、プログラムの構造において共通しないこと、A前記ア(イ)bのとおり、機能としては、ブロックごとにおおむね1対1の対応関係が見られるものの、そのソースコードの記載において同一又は類似する部分は、単純な計算を行う3ブロックにすぎず、しかも、各ブロックの行数は被告新接触角計算(液滴法)プログラムについていえば、11行ないし12行と短いものであって、これら3ブロックを除くと、ソースコードの表現、サブルーチン化の方法、記載順序等の点において、両者は共通しないことが認められる。
 したがって、被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しているものであるということはできない。
ウ 被控訴人の主張について
(ア) 被控訴人は、原告接触角計算(液滴法)プログラムのプログラム構造と被告新接触角計算(液滴法)プログラムのプログラム構造とを比較すると、全体として見ると表現の基本的な筋に変更がないことから、両者は、表現における同一性がある旨主張する。
 しかし、両プログラムのソースコードは、3ブロックが共通するにすぎず、これらを除くと、その表現において共通するということができないことは前記イのとおりである。プログラム(ソースコード)の表現において共通せず、単に、ツリー図上でのプログラム構造や処理の流れが類似するというだけでは、単にアイデアにおいて共通するにすぎず、表現における同一性があるということはできない。
(イ) 被控訴人は、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告新接触角計算(液滴法)プログラムとを比較すると、ソースコード対照表2の20個のプログラムが1対1に対応しており、機能を同じくするブロックについても対応関係があることから、両者は、表現における同一性がある旨主張する。
 しかし、前記(ア)と同様に、プログラム(ソースコード)の表現において共通せず、単に、プログラムが1対1に対応することや、機能を同じくするブロックに対応関係があるというだけでは、表現における同一性があるということはできない。
(ウ) 被控訴人は、被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムと対比すれば、表現の軽微な変更、一部処理(記述)の単純な削除、基本的な筋を変えることがない処理(記述)の付加、既存処理(記述)の並べ替え、既存処理(記述)の外出又は処理(記述)の退歩のいずれかの修正を行い、原告接触角計算(液滴法)プログラムの筋、仕組みには変更を加えず、各表現のまとまりごとに書き換えを行って、表現を変更しているにすぎないから、両者は、表現における同一性がある旨主張する。
 しかし、被控訴人の上記主張は、被告新接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードのうちどの部分が、上記のいずれに当たると主張するものか、具体的に両者のソースコードを対比して主張するものではないから、失当である。
エ 小括
 以上によれば、被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムを翻案したものであるということはできない。
(3) 小括
ア 原審A事件について
 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分を複製又は翻案したものであり、控訴人Xが被告旧接触角計算(液滴法)プログラムを作成した行為及び控訴人ニックが被告旧接触角計算(液滴法)プログラム又はこれを搭載した接触角計を製造販売する行為は、原告接触角計算(液滴法)プログラムに係る被控訴人の著作権(複製権及び譲渡権、又は翻案権及び著作権法28条の権利)を侵害する行為であると認められる。
 そして、控訴人ニック及び控訴人Xには、上記著作権侵害について故意又は過失があるから、被控訴人に対し、著作権侵害による損害賠償責任を負う。
イ 原審B事件について
 被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムを翻案したものであるということはできないから、原審B事件に係る著作権侵害に基づく差止め及び廃棄請求並びに損害賠償請求は、いずれも理由がない。
2 営業秘密に係る不正競争防止法に基づく請求について
(1) 原告ソースコードの営業秘密該当性について
ア 認定事実
 前提事実に後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠は存しない。
(ア) 被控訴人は、その就業規則において、社員の服務心得(7条(6))として、「業務上の機密事項および会社の不利益となる事項を他に漏らさないこと」を、退職後の責任(38条)として、「社員は退職後も、在職中に知り得た会社の機密を他に漏らしてはならない。」ことを、懲戒解雇事由として(47条(6))として、「職務上知り得た業務上の重要機密を外部に漏らし、または漏らそうとしたとき」を、それぞれ規定している。また、被控訴人は、退職する従業員に対しては、おおむね以下の事項の遵守を誓約する旨の「秘密保持に関する誓約書」の提出を求めており、実際に、控訴人Xからも本件誓約書の提出を受けた(甲8、9)。
第1条(秘密保持の確認)
 私は貴社を退職するにあたり、以下に示される貴社の技術上又は営業上の情報(以下「秘密情報」という。)に関する資料等一切について、原本はもちろん、そのコピー及び関係資料等を全て貴社に返還し、自ら一切保有していないことを確認いたします。
(1) 製品開発、製造及び販売における企画、技術資料、製造原価、価格決定等の情報
(2) 財務、人事等に関する情報
(3) 他社との業務提携に関する情報
(4) 所属長より秘密情報として指定された情報及び貴社が特に秘密保持対象として指定した情報
第3条(退職後の秘密保持の誓約)
 秘密情報については、貴社を退職した後においても、私自身のため、あるいは他の事業者その他の第三者のために開示、漏洩もしくは使用しないことを約束致します。
(イ) 被控訴人は、平成10年12月から、自動接触角計に搭載するプログラムの開発に着手し、液滴法による接触角測定機能を有する「FAMAS ver1.0.0.0」を完成させて、平成12年10月6日から同プログラムを自動接触角計(「CA−V」)に搭載して販売を開始した。
 被控訴人は、その後、機能の追加等プログラムのバージョンアップを重ね、平成21年7月9日、原告プログラム(「FAMAS ver3.1.0.0」)を完成させた(甲11、乙9)。
(ウ) 被控訴人においては、平成20年8月頃までは、プログラムのソースコードを研究開発部の共有フォルダ内に保管し、当該共有フォルダへのアクセス権限を制限するなどの措置を講じていなかったが、同年9月頃以降は、研究開発部のネットワーク共有フォルダである「RandD_HDD」サーバの「SOFT_Source」フォルダに完成したプログラムのソースコードを保管し、当該フォルダをパスワード管理した上で、当該フォルダへのアクセス権限を、研究開発部の中でもソフトウエア開発に携わる従業員(プログラマ、開発課長、研究開発部長)に制限するようになった。
 被控訴人は、上記変更を研究開発部の従業員に対し、電子メールで周知し、その際、不正利用した場合でも、どのパソコンからアクセスされたものか、フォルダへのアクセスの履歴(ログ)が残る旨注意喚起した。
 実際にも、共有フォルダへのアクセスの履歴(ログ)を、最新の二十件程度については確認することができるようになっていた(甲20〜25、40)。
 また、被控訴人においては、プログラマは、被控訴人から貸与されたパソコンを使用してソフトウエア開発を行っており、プログラマの使用する上記パソコンにもプログラムのソースコードが保存されていたものの、上記パソコンには、パスワードの設定がされていた(甲40)。
イ 営業秘密該当性
(ア) 秘密管理性
 前記ア認定のとおり、原告プログラムが完成した平成21年7月当時、開発を担当するプログラマの使用するパソコンにはパスワードの設定がされ、また、被控訴人は、完成したプログラムのソースコードを研究開発部のネットワーク共有フォルダ「RandD_HDD」サーバの「SOFT_Source」フォルダに保管し、当該フォルダをパスワード管理した上で、アクセス権者を限定するとともに、従業員に対し、上記管理体制を周知し、不正利用した場合にはフォルダへのアクセスの履歴(ログ)が残るので、どのパソコンからアクセスしたかを特定可能である旨注意喚起するなどしていたことに照らすと、原告ソースコードは、被控訴人において、秘密として管理されていたものというべきである。
(イ)  有用性、非公知性
 原告プログラムは、理化学機器の開発、製造及び販売等を業とする被控訴人にとって、その売上げの大きな部分を占める接触角計に用いる専用のソフトウエアであるから、そのソースコードは、被控訴人の事業活動に有用な技術上の情報であり、また、公然と知られてないものである(甲12、乙9)。
(ウ) 以上によれば、原告ソースコードは、不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に該当するものと認められる。
(2) 原告アルゴリズムの営業秘密該当性について
ア 認定事実
 前提事実に後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠は存しない。
(ア) 本件ハンドブックは、平成18年10月頃、被控訴人の研究開発部開発課が、営業担当者向けに作成したものであり、その冒頭(「はじめに」)には、「この資料は主にお客様と接することの多い営業担当向けに、測定解析統合システムソフトウェアFAMASの概念から機能概要までをまとめたものです。取扱説明書に記述されている内容もありますが、中には当社のノウハウ的な要素も含まれていますので、この資料は「社外秘」とさせていただきます。出張の際などにいつもお持ちいただくことで何かのお役に立てれば幸いです。〜研究開発部 開発課 X〜」と記載されており、表紙中央部には、「CONFIDENTIAL」と大きく印字されており、各ページの上部欄外には「【社外秘】」と小さく印字されている(甲12)。
(イ) 本件ハンドブックには、おおむね以下の記載がある(甲12)。
a 画像処理パラメータの公開
 旧ソフトウエアは外部のソフトウエア会社に設計してもらったこともあり、その画像処理は「汎用」と称して、内部的にはお客様からも当社からもまったくのブラックボックスでした。
 内部のアルゴリズムが公開されていないため、画像処理エラーとなった場合になぜエラーとなったかがわからず、どのようにすれば処理できる画像となるのかを手探りで探すしかありませんでした。
 FAMASでは、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●という考えの基に、以下の画像処理パラメータを公開することにより、試料に合わせた最適な画像処理をお客様側で見つけていただくという方法に変更することで、広範囲な試料に対して画像処理が可能になりました。(62頁)
b 画像処理エリア
 FAMASでは「画像処理エリア」の設定を設けたことで必要な範囲に絞って測定することができます。●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
 接触角測定のデフォルトはそれぞれ画像の端から30ドット…となっています。
 画像処理エリアは接触角・界面張力測定時だけでなく、針先認識や液量測定、着滴認識時にも共通で使用されます。(64頁)
c 二値化とスレッシホールドレベル
 個液界面解析システム・接触角計・界面張力計から入力される液滴の画像は、屈折の関係で黒っぽく映ります。液滴の端点を捉えるにはまず、この液滴の輪郭をしっかりと捉える必要があります。
 FAMASで使用している画像ボードは各ピクセルの明るさを8ビットで取得できますので、…256階調(0〜255レベル)で表現します。画像処理では、この多階調化された画像を「2値化」といってある明るさ以下を「黒」それより明るいものを白」に分け(2階調化)、その黒の輪郭を物体(ここでは液滴)の輪郭として処理していきます。この明るさのことを「スレッシホールドレベル(しきい値)」といいます。この2値化の善し悪しによって端点認識の善し悪しが決まるといっても過言ではありません。(64頁)
d 自動スレッシホールドレベル
 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
e 針先認識
 針先認識をするためには、まず、針側面を検出する必要があります。
 側面の検出は画像処理エリアの上端左右からそれぞれ中央に向かって最初に検出した「黒」の座標をそれぞれの針側面とします。
 針先端の検出は検出した針側面を起点として黒の輪郭を下方向になぞっていきサイド輪郭が起点と同じ高さになるまで繰り返し、高さの最低点の中で最初に検出した座標を針先端とします。
 したがって、針先端座標のX軸は左右それぞれ独立して持つことになります。
 側面検出で「黒」が検出できなかった場合は「針が無い」と判断し、画像処理エリア左右中央上端を針先位置と判断します。(71頁)
f 液滴表面検出(接触角測定のみ)
 着滴した液滴の表面検出方法は、…液滴法の場合は…針先認識後、左右それぞれの針先位置から、下方向に向かって最初に検出した「黒」の座標を液滴の表面とします。(75頁)
g 画像処理アルゴリズム(接触角測定のみ)
 液滴の接触角を求めるためには、着滴した液滴の左右端点が、しっかりと求められることが必要です。FAMASでは、全ての試料の組合せに対して適切な汎用画像処理はまず不可能と判断。旧ソフトウエアでは1種類しかなかった画像処理アルゴリズムを以下の6種類に増やし、試料の組合せによって使い分けることが可能になりました。(76頁)
【90°以下(突出端点検出)】
 このアルゴリズムは液滴の左右端点が突出している(接触角が90°以下に見える)ものとして液滴輪郭の突出部分を端点として検出します。液滴表面座標を起点として左右それぞれ外側に向かって表面をなぞりながら輪郭検出の若干のふらつきなども考慮した上で「なぞる方向が明らかに内側になった」と認識される座標を検出します。次に、同様のアルゴリズムを使用して輪郭座標の保存とその保存個数をカウントしながら今までと逆方向になぞっていき、方向が内側に変わったと認識される座標を検出します。
 ここで座標保存個数の半分のカウント時のy座標を取得し、保存した座標の中から同じy座標のものを探します。その中から最も外側の座標を端点とします。(76頁)
(原判決別紙アルゴリズム一覧の「4端点検出」の1番目の図と同様の図の記載)
【90°以上(凹曲端点検出)】
 このアルゴリズムは液滴の左右端点が凹曲している(接触角が90°以上に見える)ものとして液滴輪郭の凹曲部分を端点として検出します。まず、上記「90°以下」のアルゴリズムを利用して突出端点を求め、その点を起点として、左右それぞれ内側に向かって表面をなぞりながら「なぞる方向が明らかに外側になった」と認識される座標を検出します。次に、同様のアルゴリズムを使用して今までと逆方向になぞっていき、輪郭座標の保存と保存個数をカウントしながら方向が外側に変わったと認識される座標を検出します。
 ここで座標保存個数の半分のカウント時のy座標を取得し、その座標を端点とします。(76頁)
(原判決別紙アルゴリズム一覧の「4端点検出」の2番目の図と同様の図の記載)
【自動】
 このアルゴリズムは上記90°以下と90°以上を組み合わせて輪郭形状により突出点を端点とするか、凹曲点を端点とするか自動判別するものです。
 まず、上記「90°以下」のアルゴリズムを利用して突出端点を求めます。さらにその突出端点から左右10ドット外側から下に「黒」をスキャンして見つかった座標から下を「無効領域」として記憶します。
 次に上記「90°以下」のアルゴリズムを利用して凹曲端点を見つけに行きますが、「無効領域」までなぞっていっても見つからない場合は、突出点を端点として検出します。…
 さらに凹曲点が見つかった場合には、画像のノイズによる誤認識を避けるため、左右の突出点座標を直径とした「円の半径の±2%」の範囲にその凹曲点が入っている場合にのみその凹曲点を端点とします。凹曲点がその範囲内に入っていなかった場合には、その凹曲点はノイズによるものと判断し、突出点を端点とします。(77頁)
(原判決別紙アルゴリズム一覧の「4端点検出」の3番目の図と同様の図の記載)
【無反射】
 このアルゴリズムは個体試料上の反射が全くない場合に使用し、液滴と固体試料の輪郭をなぞりながらその変曲点を検出します。固体試料の影を確実に「黒」とさせるため、このアルゴリズムを使用する場合に限り、自動スレッシホールドレベルは使わず単純な2値化が自動的に選択されます。
 液滴表面座標を起点として左右それぞれ外側に向かって画像処理エリアをはずれるまで表面をなぞりながら、その座標を全て記憶します。
 その全ての座標に対し、10個前の座標からの方向(下図(判決注・原判決別紙アルゴリズム一覧「4 端点検出」の4番目の図と同様の図)緑の矢印)と10個先の座標への方向(下図赤の矢印)でなす角度を求め、その角度が一番大きくなった座標を変曲点と見なしその点を端点として検出します。(78頁)
h 解析方法
【θ/2法】
 固体上に着滴した液体は、自らの持つ表面張力で丸くなり、球の一部を形成します。このときの形状をCCDカメラで画像として取り込み、画像処理により液滴の左右端点と頂点を見つけ、液滴画像の半径(r)と高さ(h)を求めます。
 求めた値を下式へ代入して接触角θを求めます。(28頁)
 tanθ1=h/r → θ=2arctan h/r
(原判決別紙アルゴリズム一覧の「6 θ/2法計算」の図と同様の図)
【接線法】
 下図(判決注・原判決別紙アルゴリズム一覧の「7 接線法用3点検出」の図と同様の図)のように液滴端点近辺を球の一部とみなし、円弧上の点L1、L2、L3から円Oの中心Mを求め、点L1における円の接線を求めることができます。
 求めた円の接線と直線でなす角度が液滴左側の接触角となります。
 同様に円弧上のR1、R2、R3から液滴右側の接触角を求めることができます。
(29頁)
イ 営業秘密該当性
(ア) 秘密管理性
a 前記アに認定した事実によれば、原告アルゴリズムの内容は、以下のとおり、本件ハンドブックに記載されているか、あるいは、記載されている事項から容易に導き出すことができる事項であるということができる。
 すなわち、原判決別紙アルゴリズム一覧に記載された内容のうち、@「1 閾値自動計算」については、前記ア(イ)b、c及びd、A「2 針先検出」については、前記ア(イ)d及びe、B「3 液滴検出」については、前記ア(イ)f、C「4 端点検出」については、前記ア(イ)g、D「5 頂点検出」については、前記ア(イ)h、E「6 θ/2法計算」については、前記ア(イ)h、F「7 接線法用3点検出」については、前記ア(イ)h(なお、「規定値30ドット」について本件ハンドブックには記載がないものの、一定間隔ごとに3点の座標を取るに際し、この間隔に規定値を設定すること自体はありふれたことであり、その規定値を30ドットとすること自体にも、製品を構成する機器の性能に応じたものとした以上の格別の意義はないものということができる。)、G「8 接線法計算」については、前記ア(イ)hに、それぞれ記載されているか、あるいは、記載されている事項から容易に導き出すことができる事項であるということができる。
b そして、前記アに認定したとおり、本件ハンドブックは、被控訴人の研究開発部開発課が、営業担当者向けに、顧客へのソフトウエアの説明に役立てるため、携帯用として作成したものであること、接触角の解析方法として、θ/2法や接線は、公知の原理であるところ、被控訴人においては、画像処理パラメータを公開することにより、試料に合わせた最適な画像処理を顧客に見つけてもらうという方針を取っていたことが認められ、これらの事実に照らせば、プログラムのソースコードの記述を離れた原告アルゴリズム自体が、被控訴人において、秘密として管理されていたものということはできない。
(イ) 非公知性
a 静止液体の自由表面における接触角を、画像解析によって自動測定しようとする場合、針先から液(特定の液体)を平板(特定の固体)上に落下させ、着液した液滴の輪郭を追跡し、液滴と平板の接点における液滴表面と平板とのなす角度を算出することで行われ、原告接触角計算(液滴法)プログラムにおける具体的な手順●●●●●●は、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●というものである(乙39、弁論の全趣旨)。
(a) 閾値自動計算
 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
(b) 針先検出
 原告各製品においては、測定における測定対象の液滴は針先から液(特定の液体)を平板(特定の固体)上に落下させることで作成していることからみて、液滴は針先の下側(又は上側)にあると考えるのが普通であり、針と背景との輝度差が液滴と背景との輝度差より大きく、針先の方が液滴よりも容易かつ正確に検出可能であることも、一般的に知られた事項であるから、針先検出を行い、検出した針先位置を基準として液滴検出を行う方法も、特別なものであるとはいえない。
 そして、針先を検出するためには、@画像の左側から「+X」方向に走査動作を行い、画素が「白」から「黒」に変化した位置(針の輪郭に当たった位置)を検出し、検出した黒点の位置を開始点として下方向に向かって、黒点(針の輪郭)をなぞりながら、検出した黒点の位置のY座標と等しくなるまで、走査動作を行い、Y座標が最大となる黒点の位置(針先)を検出する方法、A画像の中央から針内を下側に向けて走査し、画素が「黒」から「白」になった位置(針先)を検出する方法、B左から右(又は右から左)に向けて、画像全体を走査し、画素が「白」から「黒」になった位置(針先)を検出する方法などが一般に考えられるのであって、原告アルゴリズムで採用されている針先の求め方自体は、特別なものではない。
(c) 液滴検出
 液滴検出は、画像解析による接触角の測定には必須な手順であるところ、針先検出を行い、検出された針先を基に液滴検出を行うこと自体は、一般的な方法である。
 そして、液滴は、検出された針先の画面下方(上方)に位置しているから、針先位置を基点に、画面下方へ走査し、「白」→「黒」と反転した位置を液滴の位置とすることも、特別なことではない。
(d)端点検出
 端点検出は、多くの接触角計算において必要とされる、ほぼ必須の手順であるということができるところ、端点には、着滴した液の粘性によって、凸部となる場合と凹部となる場合とがあり、それぞれの場合を想定した測定が必要であることは、一般的に知られている事項である。
 凸部の検出方法としては、@針先から真下方向に画像を探索して液滴の存在を検出し、さらに液滴表面に沿って周回するように探索しながら、X軸座標の変化が減少から増加(又は増加から減少)に転じる位置(凸部分)を検出し、端点座標とする方法、A画像の上下方向に走査し、最初(又は最後)に「白」→「黒」→「白」と反転した位置の座標を検出することを、順次X軸座標を変えながら繰り返し行い、最初(最後)に検出した座標を端点座標とする方法などが一般に考えられる。また、凹部の検出としては、@針先から真下方向に画像を探索して液滴の存在を検出し、さらに液滴表面に沿って周回するように探索しながら、X軸座標の変化が減少後に増加から減少(左側の場合)に転じる位置(凹部分)を検出し、端点座標とする方法、A画像の上下方向に走査し、最初(又は最後)に「白」→「黒」→「白」→「黒」→「白」と反転した位置の座標を検出することを、順次X軸座標を変えながら繰り返し行い、最初(最後)に検出した座標を端点座標とする方法などが一般に考えられる。したがって、原告アルゴリズムで採用されている液滴の頂点の求め方自体は、特別なものではない。
 また、測定の精度を高めるために、端点を検出した後に、逆方向になぞり返すことで検出した端点の検証を行うこと自体も、一般的な手法であるということができる。
 他方、原告アルゴリズムで採用されている、検出された凹部がノイズや光の反射によって生じた液滴画像の欠け画像でないことをチェックするために、凹部が左右凸部を通る仮想的な円半径の一定割合以内に収まっているかの検出を行うことは、一般的な手法であるとまでいうことはできない。
 なお、上記一定割合を何%とするかは、試行錯誤の上でさほどの困難性を有することなく設定可能なものであるとともに、この値が2%であることに格別な技術的意義もない。
(e) 頂点検出
 頂点検出は、接触角計算の方法として一般によく知られたθ/2法などに必要な手順である。液滴の頂点を検出する方法としては、@左右端点を利用して、垂直二等分線を設定し、この垂直二等分線上の白黒判定によって液滴の頂点を検出する方法、A左右方向に走査して、「白」→「黒」→「白」の変動を利用して液滴の頂点を検出する方法、B上下方向に走査して、「白」→「黒」の変動を利用して液滴の頂点を検出する方法、C液滴の境界に沿って探索し、Y軸移動方向の「−」から「+」への反転を利用して液滴の頂点を検出する方法などが一般に考えられる。したがって、原告アルゴリズムで採用されている液滴の頂点の求め方自体は、特別なものではない。
(f) θ/2法計算
 θ/2法計算を行う手順であり、一般によく知られた方法である。
(g) 接線法用3点検出
 表面検出は、接触角計算の方法として一般的によく知られた接線法計算などに必要な手順である。接線法計算に必要な表面検出は、「端点検出」で検出された両端点近傍の液滴表面であるから、両端点を起点として液滴の輪郭をなぞることで表面を検出することは、特別なことではない。
 そして、なぞった座標を3点抽出すること及びその3点を一定間隔の点とし、その間隔をどの程度の間隔とするかは、撮像や画像処理の能力及び必要とする精度などによって適宜決定されるものであり、その数値自体が格別の技術的意義を有するものではない。
(h) 接線法計算
 接線法計算を行う手順であり、一般によく知られた方法である。
b 前記aのとおり、原告アルゴリズムの内容の多くは、一般に知られた方法やそれに基づき容易に想起し得るもの、あるいは、格別の技術的な意義を有するとはいえない情報から構成されているといわざるを得ないことに加え、一部ノウハウといい得る情報が含まれているとしても、そもそも、前記(ア)bのとおり、被控訴人は画像処理パラメータを公開することにより、試料に合わせた最適な画像処理を顧客に見つけてもらうという方針を取っており、原告アルゴリズムを、営業担当者向けに、顧客へのソフトウエアの説明に役立てるため携帯用として作成した本件ハンドブックに記載していたのであるから、被控訴人の営業担当者がその顧客に説明したことによって、公知のものとなっていたと推認することができる。
c 以上によれば、原告アルゴリズムは公然と知られていないものであるということはできない。
(ウ) 以上によれば、原告アルゴリズムは、不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に該当しない。
(3) 不正競争行為
ア 認定事実
(ア) 前提事実に後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠は存しない。
a 控訴人ニックは、被控訴人の元従業員であったY(控訴人ニック代表者)及びPが、平成21年4月17日に設立した会社である。Yは、被控訴人に平成18年8月1日から平成20年8月15日まで在職し、営業部に所属して、ソフトウエア「FAMAS」を搭載した接触角計の販売に携わっていた者であり、Pは、被控訴人に平成8年8月19日から平成21年4月15日まで在職し、研究開発部に所属して、その開発課課長を務めた者である(甲3)。
b 控訴人Xは、平成7年4月3日に被控訴人に入社した後、研究開発部開発課に所属し、平成10年12月以降、平成21年7月9日に原告プログラムを完成させるまで、一貫して、液滴法による接触角測定機能を有するソフトウエア「FAMAS」の開発及びバージョンアップに開発担当者(プログラマ)として携わった(甲11、12、乙42)。
 被控訴人は、開発担当者である控訴人Xに対して、原告ソースコードにアクセスする権限を付与しており、特に複写を制限する措置も講じていなかった(甲21、22の1、乙9、42)。
c 控訴人Xは、平成21年7月9日に原告プログラムを完成させると、同年8月31日には被控訴人を退職した。控訴人Xは、被控訴人を退職する際、被控訴人から貸与を受けて原告プログラムの作成に使用していたパソコンを買い取った(甲42、乙8、弁論の全趣旨)。
d 控訴人Xは、被控訴人を退職した翌日である平成21年9月1日に控訴人ニックに入社し、液滴法による接触角測定機能を有するソフトウエア「i2win」の開発に着手して、同年10月20日頃までに、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムを含む被告旧バージョンをおおむね完成させた(甲5)。
e 被控訴人が控訴人ニックを相手方として申し立てた仮処分事件(東京地方裁判所平成22年(ヨ)第22046号。以下「本件仮処分事件」という。)の審理において、被告旧バージョンの開発経緯について、控訴人ニックが被告旧バージョンを作成するに当たり、被控訴人のプログラムに記述された関数(26関数)を参考にしたことを認めていた上に、本件仮処分事件の審理経過において、債務者である控訴人ニックは、控訴人Xを利害関係人として、「債務者は、原告プログラムの一部を使用して被告旧バージョンを製造し、販売したことを認める」旨の条項(1)、「控訴人Xは、被控訴人に差し入れた平成21年6月17日付け「秘密保持に関する誓約書」に違反して、原告プログラムの一部のソースコードを控訴人ニックのために使用したことを認める」旨の条項(2項)、「控訴人ニック及び控訴人Xは、被控訴人に対し、上記各行為を行ったことをそれぞれ謝罪する」旨の条項(3項)、「控訴人ニック及び控訴人Xは、控訴人ニック及び控訴人Xが保有する原告プログラムを消去するものとする」旨の条項(8項)等を含む和解条項案を被控訴人に提示した(甲83、乙18)。
(イ) 上記認定に反し、控訴人らは、被告旧バージョンの開発は平成21年12月24日まで行い、同日に販売を開始した旨主張する。
 しかし、上記主張は、控訴人ニックのホームページに平成21年10月20日に被告旧バージョンを搭載した被告製品1及び2の販売を開始した趣旨の記載がされていたこと(甲5)と矛盾することに加え、他に控訴人ら主張の上記事実を認めるに足りる証拠は存しない。
 かえって、上記ホームページの記載内容に照らせば、控訴人Xは、同年10月20日頃までに、被告旧バージョンをおおむね完成させていたものと推認することができる。
イ 被告旧バージョンに係る請求(原審A事件)
 原審A事件について、被控訴人は、損害賠償請求の請求原因として、著作権侵害を主位的に主張し、不正競争防止法違反は予備的に主張するものであるところ、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムが原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製したものであり、控訴人ニック及び控訴人Xが被控訴人に対し、著作権侵害に基づく損害賠償責任を負うことは前記1(1)のとおりであるが、事案に鑑み、以下、原審A事件に係る不正競争防止法に基づく請求(争点(1)イ)についても判断する。
(ア) 控訴人Xの不正競争
 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、前記1(1)のとおり、原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものであると認められることに加え、前記ア認定のとおり、被告旧バージョンの開発期間が2か月程度と極めて短期間であること、被控訴人においては、ソフトウエアの開発担当者に対し、ソースコードの複製を制限していなかったところ、控訴人Xは、被控訴人を退職するに当たって、原告プログラムの開発に使用していた貸与パソコンを買い受けたこと、本件仮処分事件の審理において、控訴人ニックは、被告旧バージョンを作成するに当たり、被控訴人のプログラムに記述された関数を参考にしたことを認めていた上に、控訴人ニック及び控訴人Xは、原告ソースコードを保有すること、原告ソースコードの一部を使用して被告旧バージョンを作成したことを前提とする和解条項案を被控訴人に対して提示していたこと等に照らせば、控訴人Xが、被控訴人を退職するに際し、原告ソースコードを廃棄せず、退職後も保有した上、これを使用して被告旧接触角計算(液滴法)プログラムを作成したものと推認することができる。
 そして、控訴人Xは、控訴人ニックにおいて、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムを含む被告旧バージョンを搭載した製品を製造販売すること、すなわち原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものである被告旧接触角計算(液滴法)プログラムを製造販売することにより、控訴人ニックに対し、不正な利益を得させる目的で上記行為を行ったものと認めることができるから、控訴人Xの上記行為は、不正競争防止法2条1項7号の不正競争に該当する。
(イ) 控訴人ニックの不正競争
 前記アに認定した事実によれば、控訴人ニックは、被控訴人の元従業員であったY及びPが、平成21年4月17日に設立した会社であり、控訴人Xが、被控訴人を退職するに際し、原告ソースコードを廃棄せず、退職後も保有した上、これを使用して被告旧接触角計算(液滴法)プログラムを作成したことを知りながら、原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案した被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードを取得したものと推認することができる。
 したがって、控訴人ニックは、原告ソースコードについて不正開示行為であることを知って、これを取得又は使用したものと認めることができるから、控訴人ニックの上記行為は、不正競争防止法2条1項8号の不正競争に該当する。
(ウ) 以上のとおり、控訴人Xの行為は、被控訴人の営業秘密に該当する原告ソースコードについて、不正競争防止法2条1項7号に該当し、控訴人ニックの行為は、同項8号に該当する。
ウ 被告新バージョンに係る請求(原審B事件)
 他方、被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、前記1(2)のとおり、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードを翻案したものに該当しないばかりか、前記1(2)ア認定のとおり、原告接触角計算(液滴法)プログラムとは、プログラムの構造において共通せず、ソースコードの記載も、単純な計算を行う3ブロックが同一又は類似するにすぎず、これら3ブロックを除くと、ソースコードの表現、サブルーチン化の方法、記載順序等の点において共通しないものであるから、もはや原告ソースコードを使用したものと評価することができないものである。
 そして、被告新接触角計算(液滴法)プログラムのアルゴリズムに、原告アルゴリズムと共通する部分があるとしても、原告アルゴリズムは、前記(2)イのとおり、不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に該当するということはできない。
 したがって、被告新バージョンについて、控訴人Xの行為や控訴人ニックの行為、ひいては、控訴人あすみ技研の行為は、不正競争によって被控訴人の営業上の利益を侵害する行為に該当するということはできない。
 以上によれば、被控訴人の被告新バージョンに係る差止め及び廃棄請求並びに損害賠償請求は、いずれも理由がない。
3 不法行為に基づく請求について
(1) 被告旧バージョンに係る請求(原審A事件)
 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムが原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものであり、控訴人ニック及び控訴人Xが被控訴人に対し、著作権侵害及び不正競争防止法に基づく損害賠償責任を負うことは前記1(1)及び2(3)のとおりである。そして、この行為は、民法709条にも該当する。
(2) 被告新バージョンに係る請求(原審B事件)
ア 著作権法は、著作物の利用について、一定の範囲の者に対し、一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに、その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で、著作権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、独占的な権利の及ぶ範囲、限界を明らかにしている。したがって、他人の著作物を翻案したものに該当しない著作物の利用行為は、同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である(最高裁平成21年(受)第602号、第603号同23年12月8日第一小法廷判決・民集65巻9号3275頁参照)。
 これを本件についてみるに、被告新接触角計算(液滴法)プログラムが、原告接触角計算(液滴法)プログラムを翻案したものに該当しないことは、前記1(2)のとおりである。
 そして、被控訴人は、被告新バージョンの販売により被控訴人が被った損害を賠償すべきであると主張するのみで、控訴人ニックによる被告新バージョンの利用行為が、原告プログラムの利用による利益とは異なる法的に保護された被控訴人の利益を侵害するものであることについて主張立証するものではないから、控訴人ニックによる被告新バージョンの利用行為が不法行為を構成するということはできない。
イ また、被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードを翻案したものに該当しないばかりか、前記1(2)ア認定のとおり、原告接触角計算(液滴法)プログラムとは、プログラムの構造において共通せず、ソースコードの記載も、単純な計算を行う3ブロックが同一又は類似するにすぎず、これら3ブロックを除くと、ソースコードの表現、サブルーチン化の方法、記載順序等の点において共通しないものであるから、もはや原告ソースコードを使用したものと評価することができないものである。
 そして、被告新接触角計算(液滴法)プログラムのアルゴリズムに、原告アルゴリズムと共通する部分があるとしても、原告アルゴリズムは、前記2(2)イのとおり、秘密管理性のみならず、非公知性があるということもできないものである。
 そうすると、上記観点からも、控訴人ニックによる被告新バージョンの利用行為が不法行為を構成するということはできない。
ウ したがって、被控訴人の被告新バージョンに係る不法行為に基づく損害賠償請求は、いずれも理由がない。
4 労働契約上の債務不履行に基づく請求について
(1) 債務不履行の成否
 前記2(1)アに認定したとおり、控訴人Xは、被控訴人との労働契約に基づき、その在職中に知り得た被控訴人の機密を他者に漏洩してはならない秘密保持義務を負い、被控訴人を退職するに当たっては、「製品開発」や「技術資料」の情報等秘密情報に関する資料の全てを被控訴人に返還しなければならない義務を負っていたものである。
 そして、控訴人Xが、被控訴人を退職するに際し、被控訴人の機密及び秘密情報に該当する原告ソースコードを廃棄せず、退職後も保有して、被控訴人に返還しなかったことは、前記2(3)のとおりである。
 そうすると、控訴人Xの上記行為は、労働契約上の秘密保持義務違反の債務不履行に該当する。
(2) 損害賠償請求の成否
ア 被告旧バージョンに係る請求(原審A事件)
 以上のとおり、控訴人Xには、被控訴人の機密及び秘密情報に該当する原告ソースコードについて、労働契約上の秘密保持義務違反の債務不履行が認められる。
 したがって、控訴人Xは、被告旧バージョンについて、債務不履行による損害賠償責任を負う。
イ 被告新バージョンに係る請求(原審B事件)
 他方、被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、前記1(2)のとおり、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードを翻案したものに該当しないばかりか、前記1(2)ア認定のとおり、原告接触角計算(液滴法)プログラムとは、プログラムの構造において共通せず、ソースコードの記載も、単純な計算を行う3ブロックが同一又は類似するにすぎず、これら3ブロックを除くと、ソースコードの表現、サブルーチン化の方法、記載順序等の点において共通しないものであるから、もはや原告ソースコードを使用したものと評価することができないものである。
 そして、被告新接触角計算(液滴法)プログラムのアルゴリズムに、原告アルゴリズムと共通する部分があるとしても、原告アルゴリズムは、前記2(2)イのとおり、秘密管理性のみならず、非公知性があるということもできないものであるから、これが、被控訴人の機密又は秘密情報に該当するということはできない。
 したがって、控訴人Xの前記債務不履行と控訴人ニックが被告新バージョンやこれを搭載した被告各製品を製造販売することによる損害には、相当因果関係があるということはできない。
 以上によれば、被控訴人の被告新バージョンに係る債務不履行による損害賠償請求は、理由がない。
5 損害額について
(1) 前記1ないし4によれば、原審A事件について、控訴人Xは、著作権侵害、不正競争防止法、不法行為、債務不履行に基づき、控訴人ニックは、著作権侵害、不正競争防止法、不法行為に基づき、控訴人ニックが被告旧バージョンを搭載した被告各製品を製造販売したことにより被控訴人が被った損害を連帯して賠償すべき責任を負う。
 他方、原審B事件について、被告新バージョンに係る、著作権侵害、不正競争防止法違反、不法行為及び債務不履行に基づく損害賠償請求は、いずれも理由がない。
 よって、以下、原審A事件に係る損害額について検討する。
(2) 争点(1)オ(損害額)について
ア 著作権法114条1項に基づく損害について
(ア) 譲渡数量
 控訴人ニックは、平成21年10月末頃から平成22年9月末頃までの間に、被告旧バージョンのソフトウエアを搭載した被告製品1を●台●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●、被告製品3を●台●●●●●●●●●、被告製品6を●台●●●●●●販売した。被告製品1に係る侵害行為がなければ販売することができたのは原告製品1、被告製品3及び6に対応するそれは原告製品2である。
(イ) 原告製品2の単位数量当たりの利益額
a 証拠(甲66〜68。枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、平成21年11月頃から平成22年7月頃までの間に、オプションを付さない原告製品2を、平均販売価格●●●●●●●円(税込み)で●●台販売したこと、原告製品2の1台当たりの原価は●●●●●●●円であることが認められる。そして、原告製品2の限界利益額を算出するにつき、上記原価のほか、平均販売価格から控除すべき経費額については、これを認めるに足りる証拠はないから、原告製品2の1台当たりの限界利益額は、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●である。
b 本件対象部分に相当する利益額
(a) 著作権侵害が認められるのは、原告製品2に搭載されている原告プログラムのうち本件対象部分であるから、著作権法114条1項の単位数量当たりの利益額も、原告製品2の限界利益額のうち本件対象部分が相当する部分に限られる。
(b) 証拠(甲66の15)及び弁論の全趣旨によれば、原告製品2の取引事例の1つである被控訴人が平成22年3月頃に顧客に販売した際の価格は、原告製品2の販売価格が●●●●●●●●円であり、そのうち●●●●●●●円が原告プログラムのソフトウエア単体の価格であると認められる。ここで、原告製品2の原価(部材原価)は、おおむねハードウエアに係るものであること(ソフトウエア自体の部材原価は、ディスク代の数百円程度にすぎない。弁論の全趣旨)を考慮すると、上記取引事例における、原告製品2に占める原告プログラムの限界利益額の割合は、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●となる。そして、販売先等によりこの割合に多少の増減があることを考慮すると、損害額の算定に当たり、原告製品2に占める原告プログラムの限界利益額の割合は、おおむね●●%と認めるのが相当である。
(c) また、前記前提事実、証拠(甲9、27、43)及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告プログラムは17万0672行からなるところ、うち2525行を占める原告接触角計算(液滴法)プログラム、とりわけ本件対象部分(2055行)は、原告プログラム全体に占める行数の割合は低いものの、接触角の計測や計算を自動的に実行するプログラムであって、原告プログラムの中枢をなす重要なプログラムであると認められるから、本件対象部分の原告プログラムに対する貢献度は、70%をもって相当と認める。
(d) 以上によれば、原告製品2において本件対象部分についての1台当たりの利益額は、●●●●●●●円(●●●●●●●●円●●●●●●●●●●円未満切捨て。)となる。
(e) 控訴人ニック及び控訴人Xは、被告製品3に対応する被控訴人の製品は「DM−CE1」であり、現にこれを独立行政法人産業技術総合研究所に対してこれを販売している旨主張する。
 しかし、証拠(乙29の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、上記製品を海外向けのみに販売して、日本国内では販売せず、上記独立行政法人に対しては公益目的の研究開発支援の趣旨で特別に上記製品を提供したものであると認められるから、控訴人ニックらの上記主張は、採用することができない。
(ウ) 原告製品1の単位数量当たりの利益額
 また、原告製品1の平均販売価格は●●●●●●●●円であるが(甲66(枝番を含む。)及び弁論の全趣旨)、原告製品1の販売価格に占める原告プログラム単体の価格や割合を直接に示す証拠は存しないところ、証拠(甲50、61)及び弁論の全趣旨によれば、原告製品1に搭載されている原告プログラムは、動的接触角の測定なども可能なものであって、原告製品2に搭載されているベーシック版にさまざまな機能を付加したソフトウエアであること、原告製品1は、ハードウエアの点でも、シングルディスペンサシステムが付属しているなど、原告製品2よりも上級のものであることが認められる。これらの事情及び原告接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分は、上記ベーシック版に含まれるものであることに照らすと、原告製品1において原告接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分に相当する1台当たりの利益額は、●●●●●●●●●●●●●●●●と推認するのが相当である。
(エ) 著作権法114条1項ただし書の事情について
 控訴人ニック及び控訴人Xは、競合他社が存在するため、譲渡数量に相当する数量を被控訴人において販売することができない旨主張する。
 しかし、著作権法114条1項ただし書の事情は、著作権を侵害した者において主張立証すべきであるところ、控訴人ニック及び控訴人Xは、競合他社の存在が控訴人ニックの譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を被控訴人が販売することができないとする事情に当たることについて、具体的な主張立証をしていない。かえって、証拠(甲42、43)によれば、日本国内で販売されている他の接触角計では接線法が採用されていないなど、機能等が異なることがうかがわれるから、著作権法114条1項ただし書の事情が存在するということはできない。
(オ) 損害額
 以上によれば、控訴人ニックが譲渡した物の数量(●台)に、被控訴人がその侵害の行為がなければ販売することができた物(原告製品1が●台、原告製品2が●台)の単位数量当たりの利益の額(1台当たり●●●●●●●円)を乗じて得た額は、●●●●●●●●円となり、これは、被控訴人の販売を行う能力に応じた額を超えないものと認められる。
イ 調査費用について
(ア) 証拠(甲7、62、63、65、73)及び弁論の全趣旨によれば、@被控訴人は、平成22年3月頃、被告旧バージョンが原告プログラムの著作権を侵害しているか否かを調査するために、Q医科大学を通じて、被告製品1を、「i2win 表面自由エネルギー計算ライセンス」、「校正用ターゲット」と併せ、値引き後価格168万円(税込み)で購入したこと、A被控訴人は、実際に、上記@の製品を用いて、被告旧バージョンのオブジェクトプログラムを逆アセンブルしてアセンブルコードを取得し、関数ごとに命令列の全文字数のうち一致する文字数の割合を調べる等の方法により、原告プログラムと被告旧バージョンの同一又は類似性を調査したこと、B被控訴人は、実際に、被告旧バージョンの基本動作を原告プログラムのそれと比較する等の方法により、原告プログラムと被告旧バージョンの同一又は類似性を調査したこと、C前記@の当時、控訴人ニックは、Q医科大学宛てに、被告製品3について、定価を145万円、値引率約25%とする見積書を発行したこと、D被告製品3によっても、同様の調査が可能であること、が認められる。
 そして、上記認定事実を総合すれば、控訴人ニック及び控訴人Xの著作権侵害と相当因果関係のある調査費用は、被控訴人が被告製品1を購入するために支出した168万円の5割に当たる84万円をもって相当と認める。
(イ) 控訴人らは、控訴人ニックは、被告旧バージョンのソフトウエアのみを18万2700円(税込み)で販売した実績があるから、控訴人ニック及び控訴人Xの著作権侵害と相当因果関係のある調査費用は、上記額にとどまる旨主張する。
 しかし、控訴人ニックが被告旧バージョンのソフトウエアのみを販売した実績として主張する取引例はわずか1件にとどまる。これに加え、被告旧バージョンが原告プログラムの著作権を侵害しているか否かを調査するに当たっては、単に被告旧バージョンのソフトウエアを解析するだけでなく、解析の参考として、併せて、被告旧バージョンの基本動作を解析することが有効であり、仮にソフトウエアのみで基本動作の解析を伴わないとすれば、上記調査は相当に困難を強いられることになるものと考えられるから、控訴人らの上記主張は採用することができない。
ウ 弁護士費用について
 被控訴人は、本件訴訟の提起・遂行を被控訴人訴訟代理人弁護士に委任し、その弁護士費用を支出しているものと認められる。
 そして、本件事案の内容、難易、損害認定額、訴訟の経緯等、本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、控訴人ニック及び控訴人Xの著作権侵害による不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は、30万円と認めるのが相当である。
エ 合計 304万9890円
(3) 小括
 被控訴人は、不正競争防止法、不法行為、債務不履行に基づく損害額について、著作権侵害による損害額と同額であると主張するのみで、格別の主張立証をしていないから、本件において、これらを原因とする損害額が、前記(2)の額を上回るとは認められない。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人の原審A事件請求は、控訴人ニック及び控訴人Xに対し、連帯して304万9890円及びこれに対する平成23年12月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、その余はいずれも理由がない。
6 不当利得(退職金)返還請求について
(1) 争点(2)カ(控訴人Xは、被控訴人に対し、退職金返還義務を負うか否か)について
ア 被控訴人の就業規則47条には、懲戒解雇事由として、「(6)職務上知り得た業務上の重要機密を外部に漏らし、または漏らそうとしたとき」が規定されており、懲戒解雇の場合、退職金の全部又は一部を支給しない旨が規定されていた(甲8)。
 ところで、退職金は賃金の後払いの性質を有するものであるから、上記退職金の不支給条項に基づき退職金の全部又は一部を支給しないこととするには、懲戒解雇事由があるだけでなく、当該事由が、労働者のそれまでの勤続の功を抹消又は減殺させるほどの著しい背信行為に該当する場合に限られるものと解すべきである。
イ 原告ソースコードは、被控訴人の「重要機密」に該当するものと認められるところ、控訴人Xが、被控訴人を退職するに際し、原告ソースコードを廃棄せず、退職後も保有した上、これを使用して競業他社である控訴人ニックのため被告旧接触角計算(液滴法)プログラムを作成したことは、前記2(3)のとおりである。
 控訴人Xは、その作成した被告旧接触角計算(液滴法)プログラムを控訴人ニックに提供することにより、被控訴人の重要機密である原告ソースコードを外部に漏らしたということができるから、控訴人Xの行為は、就業規則47条(6)の懲戒解雇事由に該当する。
 そして、原告プログラムは、被控訴人が長年にわたり改良を加えたプログラムであり、被控訴人の営業上重要な財産であることに照らせば、原告プログラムを廃棄せずに、持ち出し、これを使用して競業他社である控訴人ニックのため被告旧接触角計算(液滴法)プログラムを作成したことは、単に就業規則の規定する懲戒解雇事由に該当するというのみならず、控訴人Xのそれまでの勤続の功を抹消又は減殺させるほどの著しい背信行為に該当するものといわざるを得ない。
(2) 返還すべき額
 証拠(甲35の1・2、甲36)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人Xは、被控訴人を退職した際、平成21年9月に、被控訴人から退職金として44万3131円の支払を受け、中小企業退職金共済事業本部から212万0959円の支払を受けたことが認められる。
 上記のうち、被控訴人から退職金として支払を受けた44万3131円については、控訴人Xは法律上の原因なく利得を得、被控訴人に同額の損失が生じたものと認められる。
 他方、中小企業退職金共済事業から支払われた212万0959円については、被控訴人の損失において控訴人Xが利得したものということはできない。
 したがって、被控訴人は、控訴人Xに対し、不当利得返還請求権に基づき、被控訴人が支払った退職金に相当する額である44万3131円及び原審B事件の訴状の控訴人Xへの送達の日の翌日である平成24年10月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
(3) 小括
 以上によれば、被控訴人の原審B事件請求は、控訴人Xに対し、不当利得返還請求権に基づき44万3131円及び平成24年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、その余はいずれも理由がない。
7 不当訴訟による損害賠償請求について
(1) 認定事実
 証拠(甲83の1〜3、乙4〜8、乙18の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠は存しない。
ア 被控訴人は、本件仮処分事件の係属中である平成22年11月下旬頃までに、控訴人ニックから、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのうち原判決別紙「ソースコード行数」に記載されたプログラムのうち番号(26)ないし(28)を除いたもののソースコード及び被告新接触角計算(液滴法)プログラムのうちこれらに対応する部分のソースコードの開示を受けた。
イ 被控訴人は、平成23年1月13日、控訴人ニックが原告プログラムを複製又は翻案して被告旧バージョンを製造、販売したことや、控訴人Xが原告ソースコード等を返還せずに控訴人ニックのために使用したことを認めて控訴人ニックらが謝罪し、被告旧バージョンの製造、販売の中止や記録媒体の廃棄等をすること、控訴人ニックらが損害賠償として一定額を支払うこと、被控訴人は、被告旧バージョンを搭載した製品の製造、販売をしない限り、被告新バージョンを搭載した製品を製造、販売することを認めること、和解内容を秘密とするが、和解が成立した旨やその概要等を記載した書面を交付したりホームページに公開したりすることは可能とすることなどを骨子とする和解条項案を提示したが、和解の成立には至らず、被控訴人は、その後、本件仮処分事件の申立てを取り下げた。
ウ 被控訴人は、平成23年11月15日、被告旧バージョンに関する原審A事件に係る訴えを提起し、平成24年9月3日、被告新バージョンに関する原審B事件に係る訴えを提起した。
(2) 不法行為の成否
ア 訴えの提起は、提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、同人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限り、相手方に対する違法な行為となる(最高裁昭和60年(オ)第122号同63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁参照)。
イ 被告新接触角計算(液滴法)プログラムが原告接触角計算(液滴法)プログラムを翻案したものであると認めることができないことは、前記1(2)のとおりであり、前記(1)認定のとおり、被控訴人は、原審B事件を提起する前に、控訴人ニックから被告新接触角計算(液滴法)プログラムの一部についてソースコードの開示を受けていたことに照らせば、被控訴人は原審B事件の提起前に、被告新接触角計算(液滴法)プログラムが原告接触角計算(液滴法)プログラムを翻案したものであるかについて一定の解析を行うことが可能であったものということができる。
 しかし、被告新バージョンに改変する前に控訴人ニックが製品に搭載していた被告旧バージョンに係る被告旧接触角計算(液滴法)プログラムについては、前記1(1)のとおり、原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものであると認められること、被告新接触角計算(液滴法)プログラムの一部には、変数や引数の名称が多少異なるが関数の表現や内容等は同一である部分も存することに加え、翻案物に該当するか否かは著作権法に基づく法的評価であることも考慮すれば、原審B事件の提起の際、被控訴人が、被告新接触角計算(液滴法)プログラムが原告接触角計算(液滴法)プログラムの翻案物に該当しないことを知っていたとも、また、通常人であれば容易にそのことを知り得たともいい難い。
ウ また、被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードを使用して生じたものであるということはできず、また、原告アルゴリズムは、不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に該当しないため、被控訴人の控訴人ニック及び控訴人あすみ技研に対する不正競争防止法に基づく請求が理由のないものであることは、前記2(3)のとおりである。
 しかし、前記イのとおり、原審B事件の提起の際、被控訴人が、被告新接触角計算(液滴法)プログラムが原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードを使用して生じたものではないことを知っていたとも、また、通常人であれば容易にそのことを知り得たともいい難い。
 さらに、原告アルゴリズムについては、被告新接触角計算(液滴法)プログラムにおいてもこれとほぼ同様のアルゴリズムが採用されているところ、被控訴人においては、原告アルゴリズムを採用した原告ソースコードを秘密として管理していたことに加え、不正競争防止法に規定する「営業秘密」に該当するか否かは同法に基づく法的評価であることも考慮すれば、原審B事件の提起の際、被控訴人が、原告アルゴリズムが同法に規定する「営業秘密」に該当しないことを知っていたとも、また、通常人であれば容易にそのことを知り得たともいい難い。
エ 以上によれば、被控訴人による原審B事件の提起が、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものであったということはできない。
(3) 控訴人ニック及び控訴人あすみ技研の主張について
 控訴人ニック及び控訴人あすみ技研は、被控訴人が本件仮処分事件の審理中に被告新バージョンのソースコードの開示を受けて、被告新バージョンが被控訴人の原告プログラムの著作権を侵害しないことを前提とする和解案を提示したから、被控訴人は、原審B事件の提起の際、被告新バージョンが原告プログラムの著作権を侵害しないことを認識していたと主張する。
 しかし、被控訴人が本件仮処分事件の審理中に被告新バージョンのソースコードの一部の開示を受けた上で、和解案の提示をしたことは、前記(1)認定のとおりであるものの、被告新バージョンに関する和解案の内容は、条件付きで被告新バージョンを搭載した製品の製造、販売を認めるというものであって、被告新バージョンが原告プログラムの著作権を侵害するものではないことを当然の前提とするものであったとまではいい難い。
 したがって、上記和解案の提示の事実をもって、原審B事件の提起の際、被控訴人が、被告新接触角計算(液滴法)プログラムが原告接触角計算(液滴法)プログラムの翻案物に該当しないことを知っていたとまでいうことはできない。
(4) 小括
 以上によれば、控訴人ニック及び控訴人あすみ技研の不当訴訟に基づく損害賠償請求は、いずれも理由がない。
8 虚偽事実の告知に係る不正競争防止法に基づく請求について
(1) 本件告知1について
ア 被控訴人が、平成23年12月1日から平成24年6月13日までの間、そのホームページに、「当社は、平成23年11月15日、株式会社ニック(平成21年4月17日に当社元社員が設立した会社)が製造販売した接触角計(ぬれ性評価装置)に関し、東京地方裁判所に著作権法違反および不正競争防止法違反で提訴いたしました。」と記載した「株式会社ニックに対する訴訟の告知」と題する告知文(本件告知1)を掲載したことは、前記前提事実記載のとおりである。
イ 上記告知文における記述は、被控訴人が、控訴人ニックが製造販売した接触角計(ぬれ性評価装置)に関して、東京地方裁判所に著作権法違反及び不正競争防止法違反を理由として訴訟を提起したことを内容とするものであるところ、被控訴人は、実際に平成23年11月15日に原審A事件を提起しているから、告知内容は真実であって、虚偽の事実とはいえない。
ウ なお、控訴人ニックは、本件告知1は、提訴の対象を区別していないため、被告新バージョンについても提訴したことを告知するものである旨主張する。この点、本件告知1には「控訴人ニックが製造販売した接触角計(ぬれ性評価装置)に関し」との記述があるのみで、バージョンの別について言及するものではないが、一般の需要者の普通の注意と読み方を基準として見れば、本件告知1の記載を、控訴人ニックが製造販売した接触角計に対する提訴の事実を超えて、被告新バージョンについての提訴の事実を告知するものであると理解するということはできない。
(2)  件告知2について
ア 被控訴人が、そのホームページにおいて、平成23年11月15日に控訴人ニックを著作権法違反及び不正競争防止法で提訴した旨の記載に加え、平成24年9月20日からは、「平成24年9月4日、株式会社ニックが現在製造販売している接触角計(ぬれ性評価装置:搭載ソフトウエアi2win Ver.1.3.0以降)に関し、上記同様として追提訴いたしました。(上記には、株式会社ニックの他、同製品をHP上で販売(広告宣伝)している、株式会社あすみ技研に対する、販売差し止めを求める訴訟を含みます)同時に、既払いの退職金に関し、不当利得返還を求める訴訟を追提起いたしました。」と記載した「追訴訟「販売差止訴訟・損害賠償訴訟・不当利得返還訴訟」」と題する告知文(本件告知2)を掲載したことは、前記前提事実記載のとおりである。
イ 上記告知文における記述は、被控訴人が、控訴人ニックが現在製造販売している接触角計(ぬれ性評価装置:搭載ソフトウエアi2win Ver.1.3.0以降)に関して、東京地方裁判所に著作権法違反及び不正競争防止法違反を理由として訴訟を提起したこと、株式会社あすみ技研に対しても上記製品の販売差止めを求める訴訟を提起したことを内容とするものであるところ、被控訴人は、実際に平成24年9月3日に原審B事件を提起しているから、告知内容は真実であって、虚偽の事実とはいえない。なお、本件告知2には、提訴の日付けに誤りがあるが、この誤りが、控訴人ニック及び控訴人あすみ技研の営業上の信用を害するものであるということができないことは、明らかである。
ウ 控訴人ニック及び控訴人あすみ技研は、本件告知2は、控訴人ニックや控訴人あすみ技研に相当程度の侵害の疑いがあることを告知するものである旨主張する。しかし、一般の需要者の普通の注意と読み方を基準として見れば、本件告知2の記載を、係争事案につき訴訟を提起したという事実を超えて、控訴人ニックや控訴人あすみ技研に著作権侵害や不正競争防止法違反の相当程度の疑いがあることを告知するものであると理解するということはできない。
(3) 本件告知文書Aに係る告知について
ア 被控訴人が、平成23年12月頃以降に、控訴人ニックの取引先に宛てて、「当社は潟jック社に対して下記のごとく東京地方裁判所に提訴いたしました。(当社のHPをあわせてご参照ください)当社は、平成23年11月15日、株式会社ニック(平成21年4月17日に当社元社員が設立した会社)が製造販売した接触角計(ぬれ性評価装置)に関し、東京地方裁判所に著作権法違反および不正競争防止法違反で提訴いたしました。」と記載した文書(本件告知文書A)を送付したことは、前記前提事実記載のとおりである。
イ 上記告知文書における記述は、被控訴人が、控訴人ニックが製造販売した接触角計(ぬれ性評価装置)に関して、東京地方裁判所に著作権法違反及び不正競争防止法違反を理由として訴訟を提起したことを内容とするものであるところ、被控訴人は、実際に平成23年11月15日に原審A事件を提起しているから、告知内容は真実であって、虚偽の事実とはいえない。
ウ なお、控訴人ニックは、本件告知文書Aは、提訴の対象を区別していないため、被告新バージョンについても提訴したことを告知するものである旨主張する。この点、本件告知文書Aには「控訴人ニックが製造販売した接触角計(ぬれ性評価装置)に関し」との記述があるのみで、バージョンの別について言及するものではないが、取引者の普通の注意と読み方を基準として見れば、本件告知文書Aの記載を、控訴人ニックが製造販売した接触角計に対する提訴の事実を超えて、被告新バージョンについての提訴の事実を告知するものであると理解するということはできない。
(4) 本件告知文書Bに係る告知について
ア 被控訴人が、平成23年11月頃、販売代理店に宛てて、被控訴人が同月15日に控訴人ニックが製造、販売した接触角計に関して東京地方裁判所に著作権法違反及び不正競争防止法で提訴した旨に加え、「お忙しいにも関わらず恐縮ですが、この様ないくつか事実関係を確認していただき、改めて貴社の今後の方針などをお聞かせいただければ幸いです。当社は今までの様に健全なお付き合いができることを望んでおります。」などと記載した文書(本件告知文書B)を送付したことは、前記前提事実記載のとおりである。
イ 上記告知文書における記述は、被控訴人が、控訴人ニックが製造販売した接触角計(ぬれ性評価装置)に関して、東京地方裁判所に著作権法違反及び不正競争防止法違反を理由として訴訟を提起したことを伝えた上で、事実関係を確認し、販売代理店としての事後の方針を問うことを内容とするものであるところ、被控訴人は、実際に平成23年11月15日に原審A事件を提起しているから、方針を問う前提は真実であって、虚偽の事実とはいえない。そして、販売代理店に対して事後の方針を問う部分の記述は、上記訴訟提起の事実を前提に事後の方針を問うにとどまるものであって、控訴人ニックや控訴人あすみ技研について、著作権法違反や不正競争防止法違反があることやその相当程度の疑いがあることを告知するものであると理解するということはできない。
ウ なお、控訴人ニックは、本件告知文書Bは、被告新バージョンが著作権法違反又は不正競争防止法違反に係るものであるか、そのおそれがあるものであることを知し、販売代理店に対し、その取扱いの中止を求めるものである旨主張する。しかし、取引者の普通の注意と読み方を基準として見れば、本件告知文書Bの記述を、同控訴人主張のように理解するということはできない。
(5) 小括
 以上によれば、控訴人ニック及び控訴人あすみ技研の不正競争防止法に基づく損害賠償請求は、いずれも理由がない。
9 結論
 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、(1)原審A事件請求は、被控訴人が控訴人ニック及び控訴人Xに対し、連帯して304万9890円及びこれに対する平成23年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、その余はいずれも理由がなく、(2)原審B事件請求は被控訴人が控訴人Xに対し、44万3131円及びこれに対する平成24年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、その余はいずれも理由がなく、(3)原審C事件請求は、いずれも理由がない。
 したがって、控訴人らの本件控訴は理由がないから、これをいずれも棄却し、被控訴人の本件附帯控訴は一部(原審A事件請求に係る部分及び原審B事件請求のうち控訴人Xに対する不当利得返還請求部分)について理由があるから、原判決を変更して、被控訴人の請求を上記(1)及び(2)の限度で認容し、その余の控訴人ニック及び控訴人Xに対する請求並びに控訴人あすみ技研に対する請求をいずれも棄却し、控訴人ニック及び控訴人あすみ技研の被控訴人に対する請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法67条、61条、64条及び65条を適用して、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 部眞規子
 裁判官 柵木澄子
 裁判官 鈴木わかな
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