判例全文 line
line
【事件名】KDDIへの発信者情報開示請求事件G
【年月日】平成28年4月27日
 東京地裁 平成28年(ワ)第2419号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 平成28年3月23日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 金井重彦
同 芝口祥史
被告 KDDI株式会社
同訴訟代理人弁護士 光石俊郎
同 光石春平


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文第1項と同旨
第2 事案の概要
1 本件は、別紙原告写真目録記載1及び2の各写真(以下、符号に対応して「本件写真1」、「本件写真2」といい、併せて「本件各写真」という。)の著作者であり、本件各写真の著作権を有すると主張する原告が、氏名不詳者(以下「本件投稿者」という。)が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェブサイト「NAVERまとめ」(以下「本件サイト」という。)に投稿した記事(以下「本件記事」という。)中に掲載されている別紙投稿写真目録記載1及び2の各写真(以下、符号に対応して「本件投稿写真1」、「本件投稿写真2」といい、併せて「本件各投稿写真」という。)は、それぞれ本件写真1及び同2を複製したものであるから、本件投稿者が本件記事を本件サイトに投稿した行為により原告の有する著作権及び著作者人格権が侵害されたことは明らかであり、本件投稿者に対する損害賠償請求権の行使のために本件記事に係る別紙発信者情報目録記載の情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を受ける必要があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下、単に「法」という。)4条1項に基づき、経由プロバイダである被告に対し、本件発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(証拠等を付記しない事実は、当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は、報道カメラマンとして稼働していた者である(甲1、9)。
イ 被告は、電気通信事業法に定める電気通信事業等を営む株式会社であり、法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当する。
(2) 本件記事の投稿
ア 本件投稿者は、平成25年8月19日までに、LINE株式会社が開設、運営する本件サイトに、本件記事を投稿した。本件記事は、「【閲覧注意】日航機墜落事故の衝撃画像集」と題して、いわゆる日本航空123便墜落事故に関連して、「▼現場の画像」「閲覧注意画像が多数ありますので、心臓の弱い方はご注意下さい。」との記載などとともに、本件各投稿写真を含む数十枚の写真が掲載されていた。本件記事には、原告の氏名は表示されていなかった(甲4の1)。
 なお、本件各投稿写真は、平成27年10月7日までに、本件記事から削除された(甲4の2)。
イ 本件投稿者が本件記事にアクセスした際のIPアドレスのうち、LINE株式会社が仮処分命令申立事件(東京地裁平成27年(ヨ)第22087号)に係る仮処分命令正本の送達を受けた時点で最も新しいものは、別紙IPアドレス目録記載のとおりであり、同IPアドレスの割当先は、被告である(甲5の1・2、6の1・2、7)。
(3) 被告は、本件発信者情報を保有している(甲8)。
3 争点
(1) 本件記事により原告の著作権(複製権、公衆送信権)又は著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたことが明らかであるか(法4条1項1号該当性。争点1)
(2) 本件発信者情報が原告の損害賠償請求権の行使のために必要であるか(法4条1項2号該当性。争点2)
4 争点に対する当事者の主張
(1) 争点1(本件記事により原告の著作権〔複製権、公衆送信権〕又は著作者人格権〔氏名表示権〕が侵害されたことが明らかであるか)について
【原告の主張】
ア 原告は、本件各写真の著作者であり、著作権者であること
 原告は、日本航空123便墜落事故が発生した翌日である昭和60年8月13日、事故現場に赴き、本件各写真を含む数十点の写真を撮影した。
 本件各写真は、いずれも株式会社新潮社が発行する「FOCUS」(以下「本件雑誌」という。)に掲載されたところ、本件雑誌には、本件写真1の右下脇に「PHOTO A」と、本件写真2の左下脇に「PHOTO B」と、それぞれ記載されている。このことから、本件写真1の撮影者が原告であることは明らかである。また、本件写真2の撮影者も、B(以下「B」という。)の確認書(甲3)や、原告がネガを所持している事実からして、原告であることが明らかである。
 本件各写真は、原告の思想及び感情が創作的に表現された著作物である。また、原告はフリーのカメラマンであったことから、本件各写真について職務著作(著作権法15条1項)は成立せず、撮影者である原告が著作者であり、本件各写真につき著作権を取得した。
イ 本件投稿写真1は本件写真1を、本件投稿写真2は本件写真2をそれぞれ複製したものであること
 上記アのとおり、本件各写真は、本件雑誌に掲載されて広く公表されたものであるところ、本件記事に掲載された本件投稿写真1及び本件投稿写真2が、本件雑誌に掲載された本件写真1及び本件写真2をそれぞれスキャンして作成されたことは明らかである。
 そうすると、本件投稿者は、本件記事に原告の氏名を表示しないまま、本件各写真の複製物である本件投稿写真を本件サイトに投稿したことにより、原告が有する本件各写真の著作権(複製権、公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したことが明らかである。
【被告の主張】
 本件雑誌に本件各写真が掲載されていること、本件雑誌において、本件写真1の右下脇に「PHOTO A」と、本件写真2の左下脇に「PHOTO B」と、それぞれ記載されていることは認めるが、原告が本件各写真の著作権者であることは不知。本件写真2については、本件雑誌に「PHOTO  B」と記載されていることから、原告が撮影者であるとの推定は働かない。
 本件各投稿写真が本件各写真を複製したものであるとの点は不知。本件各投稿写真は不鮮明であり、本件各写真との同一性が確認できない。少なくとも本件投稿者は、原告が保有しているとするネガにはアクセスできなかったものと考えられる。
(2) 争点2(本件発信者情報が原告の損害賠償請求権の行使のために必要であるか)について
【原告の主張】
 原告が本件投稿者に対する損害賠償請求権を行使するには、本件発信者情報の開示を受ける必要がある。
【被告の主張】
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件記事により原告の著作権〔複製権、公衆送信権〕又は著作者人格権〔氏名表示権〕が侵害されたことが明らかであるか)について
(1) 本件各写真の著作権者について
ア 本件各写真については、撮影者の思想及び感情が創作的に表現された写真の著作物(著作権法10条1項8号)に当たるものと認められる。
イ 本件雑誌に本件各写真が掲載されていること、本件雑誌において、本件写真1の右下脇に「PHOTO A」と、本件写真2の左下脇に「PHOTO B」と、それぞれ記載されていることは、当事者間に争いがない。
 本件写真1は、本件雑誌の刊行により公衆へ提供されたものと認められるところ、本件雑誌において、本件写真1の右下脇に「PHOTO A」と、原告の氏名が表示されているのであるから、本件写真1の著作者(撮影者)は原告と推定され(著作権法14条)、同推定を覆すに足りる証拠はない。
 次に、本件写真2については、本件雑誌において本件写真2の左下脇に「PHOTO B」と記載されていることからすれば、本件写真2の著作者はBと推定される(著作権法14条)。しかるところ、Bは、本件写真2を撮影したのは原告であること、原告が本件写真2のネガを保有していることを認める旨の確認書(甲3)を作成しており、また、原告は、本件写真2のネガを用いて本件写真目録を作成していることが認められ(弁論の全趣旨)、以上を総合すると、本件写真2の著作者(撮影者)も、原告であると認めるのが相当である。
ウ そして、証拠(甲9)によれば、原告は、本件各写真を撮影した当時、フリーカメラマンの立場にあったものと認められるから、本件各写真について職務著作(著作権法15条1項)が成立するものとは認められない。
 したがって、原告は、本件各写真の著作者かつ著作権者であると認められる。
(2) 本件投稿写真が本件各写真の複製物であるかについて
ア 本件写真1は、枝葉のほとんど見られない樹木の上部に、日本航空123便墜落事故の犠牲者と覚しき人物の手腕や衣類等が残存していると思われる場面を背景に、ヘルメットを着用した捜索隊員と思われる人物が捜索活動等に従事している際の表情を撮影したものと認められるところ、本件投稿写真1は、本件写真1に比して若干鮮明さに欠ける部分はあるが、前述した本件写真1の特徴を細部にわたってそのまま再現しており、本件写真1との同一性を有するものと認められる。
 また、本件写真2は、ヘルメットを着用した捜索隊員と思われる人物が、斜めに倒れた樹木に埋もれたがれき等を凝視する場面を撮影したものと認められるところ、本件投稿写真2は、本件写真2に比してやや周辺部分がトリミングされており、また、やや鮮明さを欠く部分があるが、前述の本件写真2の特徴を細部にわたってそのまま再現しており、本件写真2との同一性を有するものと認められる。
イ そして、本件各写真が本件雑誌に掲載されて公表されたことは当事者間に争いがないところ、本件各写真が日本航空123便墜落事故の事故現場で事故直後に撮影されたものであり、一般の人物において容易に同様の写真を撮影できるような性質の写真とは認め難いことなどからすれば、本件各投稿写真は、いずれも、本件雑誌に掲載された本件各写真に依拠して有形的に再製されたもの、すなわち、本件各写真の複製物であると認められる。
(3) 本件記事による著作権及び著作者人格権の侵害について
 上記(2)のとおり、本件記事に掲載された本件各投稿写真は、いずれも本件各写真の複製物と認められるところ、本件記事は、原告の氏名を表示しておらず、また、本件記事は、インターネット上のウェブサイトである本件サイトに投稿されることにより、本件各投稿写真は自動公衆送信し得るようになっていたものと認められる。
 したがって、本件投稿者が本件記事を本件サイトに投稿したことにより、原告の有する著作権(複製権、公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたことは、明らかであるといえる。
2 争点2(本件発信者情報が原告の損害賠償請求権の行使のために必要であるか)について
 弁論の全趣旨によれば、原告は、原告が有する本件各写真の著作権(複製権、公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたことを原因として、本件投稿者に対して不法行為による損害賠償請求権を行使するため、本件発信者情報の開示を求めているものと認められるところ、損害賠償請求権を行使するためには、本件投稿者を特定する必要があるから、原告には、同特定のために本件発信者情報の開示を受ける必要があるといえる。
3 結論
 以上によれば、原告の請求には理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 嶋末和秀
 裁判官 笹本哲朗
 裁判官 天野研司


別紙 <省略>
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/