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【事件名】ライブハウス生演奏事件 【年月日】平成28年3月25日 東京地裁 平成25年(ワ)第28704号 著作権侵害差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成28年2月10日) 判決 原告 一般社団法人日本音楽著作権協会 同訴訟代理人弁護士 田中豊 同 小川まゆみ 同 中野雅也 被告 A(以下「被告A」という。) 被告 B(以下「被告B」といい、被告Aと併せて「被告ら」という。) 上記両名訴訟代理人弁護士 鈴木仁志 同 神村大輔 同 海宝三敬 主文 1 被告らは、別紙1店舗目録記載(1)の店舗において、別紙2「楽曲リスト(2008年4月1日発行)」及び別紙3「楽曲リスト(追録)」記載の音楽著作物を、次の方法により営業のため使用してはならない。 (1) 楽器奏者にギター、ベース、ドラムセット、キーボード等の楽器を演奏させる方法 (2) 歌手に歌唱させる方法 2 被告らは、原告に対し、連帯して283万1270円及びうち243万0513円に対する平成27年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 後記請求の趣旨第3項に係る訴えのうち、平成28年2月11日以降に生ずべき損害賠償金又は不当利得金の支払を求める部分を却下する。 4 原告のその余の請求を棄却する。 5 訴訟費用はこれを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。 6 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 1 主文第1項同旨 2 被告らは、原告に対し、連帯して703万5519円及びうち616万3064円に対する平成27年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは、原告に対し、連帯して、平成27年11月1日から別紙1店舗目録記載(1)の店舗において別紙2「楽曲リスト(2008年4月1日発行)」及び別紙3「楽曲リスト(追録)」記載の音楽著作物の使用終了に至るまで、1か月6万3504円の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は被告らの負担とする。 5 仮執行宣言 第2 事案の概要 1 本件は、著作権等管理事業者である原告が、被告らに対し、別紙1店舗目録記載の店舗(以下「本件店舗」といい、同目録(1)の店舗を「本件店舗6階部分」といい、同目録(2)の店舗を「本件店舗5階部分」という。)を被告らが共同経営しているところ、被告らが原告との間で利用許諾契約を締結しないまま同店内でライブを開催し、原告が管理する著作物を演奏(歌唱を含む)させていることが、原告の有する著作権(演奏権)侵害に当たると主張して、@上記著作物の演奏・歌唱による使用の差止めを求め、A主位的に著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として、予備的に悪意の受益者に対する不当利得返還請求として、連帯して、使用料相当額、弁護士費用及び使用料相当額について平成27年10月31日までに生じた確定遅延損害金又は利息金合計703万5519円並びにうち616万3064円(使用料相当額及び弁護士費用)に対する同年11月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金又は利息金の支払を求めるとともに、B不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得に基づく返還請求として、平成27年11月1日から上記著作物の使用終了に至るまで、連帯して、使用料相当額月6万3504円の支払を求める事案である。 2 争いのない事実等(証拠等を掲げていない事実は当事者間に争いがない。) (1) 当事者等 ア 原告及び管理著作物 原告は、著作権等管理事業法に基づき、文化庁長官の登録を受けた音楽著作権管理事業者であり、著作権者から著作権ないしその支分権(演奏権、録音権、上演権等)について信託を受け、音楽利用者に対して音楽著作物の利用を許諾してその対価を徴収し、これを国内外の著作権者に分配することを主たる目的とする一般社団法人である。 原告は、別紙2「楽曲リスト(2008年4月1日発行)」及び別紙3「楽曲リスト(追録)」記載の音楽著作物(以下「原告管理著作物」という。)について、著作権者から著作権の信託を受け、著作権を管理している。 イ 被告A及び本件店舗 被告Aは、平成21年5月23日、本件店舗5階部分において、「Live Bar X.Y.Z.→A」という名称のライブハウスを開店し、平成22年2月には、本件店舗6階部分にも同店舗を広げた。 被告Aは、本件店舗5階部分及び本件店舗6階部分のそれぞれについて、食品衛生法に基づく営業許可を受けている。 ウ 被告B 被告Bは、芸名を「C」と称するミュージシャンである。被告Bは、ロックバンド「爆風スランプ」のドラマーとして人気を博し、現在は、ロックバンド「X.Y.Z.→A」のドラマーなどとして様々な音楽活動をしている。 被告Bは、本件店舗の固定電話の契約者である。(甲5の2、甲9) (2) 本件店舗の営業 ア 本件店舗5階部分は、平成21年5月23日に営業を開始し、平成27年10月31日をもって営業を終了した。 イ 本件店舗6階部分は、平成22年2月に営業を開始し、現在も営業している。 ウ 本件店舗6階部分及び本件店舗5階部分の見取図は、別紙4「本件店舗6階見取図」及び別紙5「本件店舗5階見取図」のとおりであり、それぞれ、演奏ステージ、カウンター席及びテーブル席が設置されている。 本件店舗は、客に対し、沖縄料理や焼酎などの飲食を提供している。 エ 本件店舗は、年末年始を除いて定休日なく営業しており、本件店舗6階部分の営業時間はおおむね午後6時30分から午前0時まで、本件店舗5階部分の営業時間はおおむね午後7時30分から午前0時までである。 (3) 本件店舗におけるライブの開催 ア 平成22年7月から平成25年9月までの間、本件店舗5階部分において月6回程度、本件店舗6階部分において月28回程度、ライブが開催された。 イ 本件店舗の客は、入店時に、ミュージックチャージ(ライブによって額が異なる。)及び飲食代金1000円を支払い、1000円分の本件店舗の食券を受領する。客は、本件店舗において、上記食券を利用して飲食物の提供を受けることができるが、飲食代が1000円を超える場合には超過分を現金で支払い、1000円に満たない場合は、おつりの額に応じた本件店舗の食券を受領する。 ウ 被告らは、本件店舗におけるライブの開催に関し、本件店舗の営業が開始された平成21年5月23日から少なくとも平成24年6月10までの間、原告との間で、原告管理著作物の利用許諾契約を締結していなかった。 (4) 本件調停 ア 原告は、平成24年2月7日、被告らを相手方として、本件店舗における原告管理著作物の利用について、使用料の支払を求めて、八王子簡易裁判所において民事調停(八王子簡易裁判所平成24年(ノ)第11号。以下「本件調停」という。)を申し立てた。(甲24の1) イ 本件調停は、平成25年4月15日、不成立で終了した。 (5) 消滅時効の援用 被告らは、平成26年2月24日の本件における第1回弁論準備手続期日において陳述した同月14日付け準備書面(1)により、原告に対し、本訴提起時(平成25年10月31日)までに3年が経過している平成22年10月30日以前の不法行為に基づく損害賠償請求について、消滅時効を援用する旨の意思表示をした。(顕著な事実) 3 争点 (1) 被告らの演奏主体性 (2) オリジナル曲の演奏による著作権侵害の成否 (3) 被告らの故意又は過失の有無 (4) 原告による許諾の有無 (5) 権利濫用等の抗弁の成否 (6) 差止請求の適法性及び差止めの必要性 (7) 将来請求の可否 (8) 損害ないし損失発生の有無及びその額 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)(被告らの演奏主体性)について 〔原告の主張〕 (1) 最高裁判所昭和63年3月15日第三小法廷判決・民集42巻3号199頁(以下「クラブ・キャッツアイ事件判決」という。)は、@著作物の利用に対する管理・支配の帰属、A著作物の利用による利益の帰属の二つの要素を総合的に評価して、著作権法の規律の観点から著作物の利用主体性を決するという考え方(規範的利用主体論)を採用している。 本件においては、後記アないしオ記載の事実を総合的に評価すると、被告らは、@本件店舗における原告管理著作物の演奏利用を管理・支配しており、また、A原告管理著作物の演奏利用による利益を得ているから、原告管理著作物の利用主体に当たるというべきである。 ア 被告らは、共同して本件店舗を経営している。被告Bは、本件店舗のブッキングマネージャーを自称し、自らの人脈を活用して出演者(演奏者)を選定し、著名な又は実力のあるアーティストを、本件店舗におけるライブに出演させている。 被告Bが、本件店舗の営業用固定電話の契約当事者であること、本件店舗の賃貸借契約(借主は被告A)の連帯保証人兼緊急連絡先になっていること、自らのブログで本店店舗の従業員を募集するなどしており、従業員の採用権限を有していること、本件訴訟に先立つ交渉及び本件調停において、本件店舗と原告との間の契約締結に係る決定権を有する旨明らかにしていたこと、本件訴訟係属後も、本件店舗を「私の店」であると紹介していたことなどから、被告Bは、本件店舗の共同経営者というべきである。 イ 被告らは、本件店舗に演奏ステージ、照明装置、マイク、スピーカー及びアンプなどの音響装置、ドラム等の楽器類を設置し、これを利用して出演者に生演奏を行わせている。 ウ 被告らは、本件店舗におけるライブ等の催物を告知するため、月間スケジュールを記載したチラシを作成し、本件店舗の来客に配布している。また、被告らは、「Live Bar X.Y.Z.→A 八王子 ライブバーX.Y.Z.→A」というホームページを開設し、本件店舗におけるライブ等の開催予定を告知している。 被告Bは、自らのブログ及びツィッター(アカウント名「livebarxyz(C)」)により、本件店舗におけるライブの出演者や日程を告知するなどして、本件店舗の宣伝活動を行っている。 エ 本件店舗の客のニーズに応え、客の増加を図るためには、世間に広く親しまれている原告管理著作物を演奏する必要がある。また、本件店舗に出演した演奏家の多くが、音楽著作物の著作者として、直接に又は音楽出版社を介して、原告との間で著作権信託契約を締結し、原告に対し、著作権を信託しているから、必然的に、本件店舗におけるライブにおいて、原告管理著作物が演奏されている。 オ 被告らは、本件店舗において、連日、ライブを開催し、出演者が原告管理著作物を演奏することによって、本件店舗の集客を図り、ミュージックチャージ及び飲食代金を受領して営業上の利益を増大させることを意図しており、被告らに、原告管理著作物の演奏利用による利益が帰属している。ミュージックチャージの全額を出演者が取得していたとしても、それは被告らと出演者との間の契約による内部関係にすぎず、被告らに原告管理著作物の演奏利用による営業上の利益が帰属することに変わりはない。 (2) 被告らの主張に対する反論 被告らは、原告の主張が、ライブの出演者と本件店舗の経営者のいずれもが演奏主体に当たると解するもので、二重取りを許すものであって相当ではないと主張する。 確かに、本件では、被告ら及び出演者という複数の著作権侵害の主体が生じるが、被告ら以外の出演者から、本件店舗におけるライブについて、原告に対する許諾申請がされたことは一度もないから、著作権使用料の二重取りのおそれはなく、被告らの批判は当たらない。 また、被告らは、場を提供しているだけである旨主張する。 しかし、本件店舗はライブハウスであって、コンサートホール(貸しホール)ではなく、本件店舗の出演者は本件店舗の施設使用料を支払っていないし、原告に対し、原告管理著作物の演奏利用について利用許諾契約を申し込んだこともない。また、被告B自身、本件店舗以外のライブハウスで音楽著作物を演奏するに当たって、原告に対し、許諾の申し込みをしたことはないから、被告らの上記主張は失当である。 〔被告らの主張〕 (1) 後記アないしキ記載の事実によれば、本件では、演奏主体が各演奏家であることは明らかであり、被告らは原告管理著作物の利用主体に当たらない。 ア 被告Bは、本件店舗を経営していないし、出演者の選定をしていない。被告Bは、本件店舗の開店当時はブッキングを担当していたが、平成21年夏頃からその頻度は減少し、現在は完全に関与していない。被告Bは、本件店舗の開店当初、ブログで、店舗オープンの告知を行っていたが、開店から二、三か月すると出演希望者が増加したことから、その後は告知をしていない。 イ 被告Aは、本件店舗を経営しているが、本件店舗は出演者に場を提供しているにすぎない。本件店舗は、出演者から施設使用料を一切受領しないという運営方針をとっており、ライブの開催について、出演者の自主性にゆだねている。そのため、本件店舗は、空きがある限り、ジャンルを問わず、出演希望者からの申込みを受け付けており、出演者が、ライブのタイトルや告知文、演奏内容・曲目、ライブ開始時間及びミュージックチャージの額を決めている。そして、出演者が、ミュージックチャージの全額を受領している。 ウ 本件店舗の従業員や被告Bが、本件店舗に空きの日が生じることを避けるために、過去の出演者や音楽仲間等にライブの開催を呼びかけることはあるが、これは、申込みの誘引・打診にすぎず、出演者を選定しているものではないし、ライブ企画等の管理・支配に当たらない。 エ 本件店舗5階部分及び本件店舗6階部分に、演奏ステージ、照明装置、マイク、スピーカー及びアンプなどの音響装置が設置されていること、本件店舗6階部分にドラム等の楽器類が設置されていることは認めるが、本件店舗5階部分にはドラムは設置されていない。また、被告らが、出演者に、生演奏を「行わせ」ているものでもない。 オ 被告Aがライブ等の催物の月間スケジュールを記載したチラシを配布したり、ホームページを開設していることは認めるが、被告Bについては否認する。 カ 本件店舗で演奏された原告管理著作物の数は、ライブごとにばらつきがあり、一曲も演奏されていない日もある。 キ 本件店舗の経営は、被告Bが、ミュージシャンが自由に活動できる場を作り、ポピュラー音楽界(特に日本のロック)を盛り上げたいと考え、これに共鳴した被告Aが出資・経営を引き受けて始まったものであり、関係者の善意の支援・協力と被告らの情熱によってかろうじて維持されているものである。したがって、被告らは、本件店舗のオープン以来、本件店舗の経営ないし運営について、報酬又は利益配当その他の金銭を収受したことはない。 (2) この点に関して原告は、クラブ・キャッツアイ事件判決が、@管理・支配及びA利益帰属の2要素から侵害主体を判断するという一般的な規範を示したかのような主張をしているが、同判決は、カラオケの歌唱者(クラブの客)が侵害主体たり得ず、当時は、店によるカラオケ録音物の再生も著作権侵害に当たらなかったという特殊事情のもとにおける事例判決にすぎないし、本件とは基礎的な事情が異なるから、本件は上記判決の射程の範囲外である。 仮にそうでないとしても、上記(1)アないしキ記載の事実によれば、被告らは、本件店舗における原告管理著作物の演奏利用を管理・支配していないし、また、原告管理著作物の演奏利用による利益は出演者が得ていることが明らかであるから、原告の主張は失当である。 また、原告の主張は、ライブの出演者と、本件店舗の経営者のいずれもが演奏主体に当たると解するもので、二重取りを許すものであって相当ではない。 2 争点(2)(オリジナル曲の演奏による著作権侵害の成否)について 〔原告の主張〕 原告と契約した委託者は、原告に対し、自らの有する著作権を著作権信託契約約款(甲2)に基づき信託譲渡している。同約款3条は、「委託者は、その有するすべての著作権及び将来取得するすべての著作権を、本契約の期間中、信託財産として受託者に移転し、受託者は、委託者のためにその著作権を管理し、その管理によって得た著作物使用料等を受益者に分配する。」と定め、同約款16条は、「受託者は、信託著作権に係る著作物が使用されるときは、次の各号に掲げる著作物使用料等を徴収し、又は受領する。 (1)使用料規程に基づく著作物使用料」と定めている。 そうすると、信託された著作権に係る著作物である原告管理著作物の著作権者は原告であるから、原告の許諾を得ずに原告管理著作物を演奏した場合には、たとえ原告管理著作物の作者であったとしても、著作権侵害に当たる。 そして、原告は、原告管理著作物の著作権が侵害された場合には、侵害者に対し、損害賠償を請求することができる。また、原告管理著作物が使用されるときは、原告は、使用料規程に基づく著作物使用料を徴収することになっており、これは、委託者(作者)が自ら制作したオリジナル曲を演奏する場合も同様である。 〔被告らの主張〕 出演者自身が制作したオリジナル曲の演奏は、不法行為を構成しない。作者自身が演奏する場合、真の権利者による許諾があるから、無許諾演奏に該当しない。 原告は、著作権等管理事業者として、真の権利者の経済的利益の保護のために原告管理著作物を利用する第三者から使用料を徴収し、それを真の権利者に正しく分配する責務を負う。原告は、委託者(兼受益者)の利益の実現のために、著作権者として権利行使できるが、権利の矛先を委託者本人に向けることは当該権利の性質に反し、信託の目的に適合しない。 また、原告は、著作権の行使についての経済的利益が帰属する主体ではないから、オリジナル曲の生演奏を行った委託者に対して著作権侵害を主張すべき固有の利益がない。それにもかかわらず、原告が、真の権利者の利益を犠牲にして、原告の運用上の便益の維持を図ることは許されない。 3 争点(3)(被告らの故意又は過失の有無)について 〔原告の主張〕 被告らは、本件店舗の開店当時から原告から許諾を得て著作権料を支払う必要があることを知っていた。被告Bが、平成21年9月12日付けブログ(乙21の1)に「店のシステムとしてもちゃんと著作権料を納められるようにあれこれ考えていたところである。」などと記載していたことからも、被告らが、原告から許諾を受けた上で、原告管理著作物の演奏利用に係る使用料相当額を支払うべき義務を負っていることを認識していたことが明らかである。 したがって、被告らには著作権侵害について故意があった。 〔被告らの主張〕 被告店舗では、ライブの直前に演奏曲目を決定する出演者も少なくないことから、被告ら及び本件店舗のスタッフは、原告管理著作物が演奏されるか否かを覚知していない。被告Aは日常的に海外で活動しているし、被告Bは中華人民共和国(以下「中国」という。)を本拠地として世界や全国を飛び回っているのであるから、本件店舗の出演者の演奏曲目や、演奏に当たって権利者に許諾を得たかどうかを知りえない。 したがって、本件店舗において無許諾で原告管理著作物が演奏されたとしても、被告らには、故意がない。 そして、原告は、被告らにいかなる義務違反があったかを主張していないし、原告は、出演者自らが許諾を申請することは受け付けていないというのであるから、被告らには、出演者に対して許諾を受けるように促す注意義務があるということもできないので、被告らには過失もない。 4 争点(4)(原告による許諾の有無)について 〔被告らの主張〕 被告らは、原告との間で、平成24年6月11日、本件調停の期日の席上において、本件店舗における原告管理著作物の演奏楽曲数に応じ、1曲当たり140円の使用料を支払う旨の合意をした。 そのため、被告Bは、同日中に、自らのブログ(乙8)に、出演者が演奏し楽曲報告書に記載した原告管理著作物について、「著作権料は1曲140円です。」「この著作権料は人の楽曲を演奏している出演者さまご自身でお支払いください。」「全部で10曲すべて人の曲(1曲5分以内)を演奏した場合は1400円をお支払いください。」「支払った著作権料はその書式で提出した著作権者に確実に分配されます。」と記載した。本件調停における原告代理人であった原告職員のD(以下「D」という。)が、同日中に、上記記載を確認したが、何ら異議を述べなかった。 被告Aは、以後、出演者から原告管理著作物の使用料を受領し、当該使用料を、原告に対し、供託の方法により支払っている。 原告は、本件調停が不成立であり許諾がなかったことが明らか等と主張しているが、原告が明示又は黙示の許諾の意思表示をしたか否かが争点なのであって、調停が成立していないことや契約書が作成されていないことなどの許諾の意思表示後の事情は争点ではない。 〔原告の主張〕 本件調停が不成立になったために本件訴訟が係属しているのであって、調停中、原告と被告らとの間で合意が成立したことはなく、原告は、被告らに対し、原告管理著作物の利用を許諾していない。原告は、原告管理著作物の利用を許諾するときには、必ず書面によって行っており、口頭で音楽著作物利用許諾契約を締結することはない。 被告Bは、平成24年6月11日、本件調停の第2回調停期日の席上で、今後の原告との間の契約について、積算算定月額による包括許諾契約(1曲1回の使用料を積算する方式により著作物の利用頻度を参酌し、月額使用料または年額使用料を定めるもの)を希望し、過去分については被告らによる演奏楽曲の報告に基づいて支払をしたいが、報告ができない期間については包括許諾契約により使用料相当額を算定することもやむを得ないと述べた。原告が、正確に記載された「社交場利用楽曲報告書」が提出されれば、積算算定月額方式の包括的利用許諾契約を締結することも可能であると述べたところ、被告Bは、次回調停期日までに、「社交場利用楽曲報告書」により、本件店舗における利用楽曲を報告し直す旨約束した。したがって、同日段階においては、「月額使用料」も定まっておらず、許諾契約は成立しようがない。 なお、被告らは、第3回調停期日において、「社交場利用楽曲報告書」を提出したが、不足や不備が多く、実態とかけ離れていたことから、これに基づいて使用料相当額を算出することはできなかった。その後、被告らは、第6回調停期日(平成25年3月4日)において、「社交場利用楽曲報告書」を追加提出する旨約束したが、これを提出せず、第7回調停期日(同年4月15日)において、突然、平成24年6月11日に合意が成立していたと主張するに至ったことから、調停は不成立となった。 5 争点(5)(権利濫用等の抗弁の成否)について 〔被告らの主張〕 本件において原告は、実際に利用された楽曲の信託者に正しく使用料を分配するとの著作権等管理事業法の趣旨を逸脱し、著作者の権利の実現のために法技術的に著作者から付与された形式的な権利に仮託し、著作者の経済的利益とは別個の原告固有の「包括的権利」があるかのごとく、現実に利用された個々の楽曲の著作者には分配されない金銭(しかも実態から乖離した過大なもの)の支払を要求し、著作権等管理事業法上の「利用させる義務」に反し、すでに成立した申合せを一方的に反故にして、原告の要求・指示に従って被告らが行った膨大な作業を無に帰せしめる背信的な再提案を行い、原告のシステムや規程に関して誤った説明や不相当な誘導を行った上、契約の締結を求めながらその契約の効果(著作者に分配される割合・金額等)についての説明を拒み、原告の「言い値」による過剰請求に応じない限り原告管理著作物を利用させないとの不当な心理強制を用いて背信的な交渉を行い、「包括契約」について私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)上の問題があるにもかかわらず、「利用者の便宜のため」と称して被告らの望まない「包括契約」の締結を事実上強要し、これに応じることができなかった被告らの行為を「不法」「不当」と主張して金銭の支払を求め、被告らが支払を行おうとしてもこれに応じず、被告Aが1曲140円の申合せに従って弁済供託を行ってもなお受領しないのであるから、原告の各請求は権利の濫用及び(又は)信義則違反(形式的権利の濫用、優越的地位の濫用、公序良俗違反、禁反言則違反、説明義務違反、誠実交渉義務違反等)に該当する。 最高裁判所は、平成27年4月28日第三小法廷判決・民集69巻3号518頁において、「ほとんど全ての放送事業者との間で本件包括徴収による利用許諾契約を締結しこれに基づく放送使用料の徴収をする行為」について、「放送事業者において、他の管理事業者の管理楽曲を有料で利用する場合には、本件包括徴収による利用許諾契約に基づき参加人に対して支払う放送使用料とは別に追加の放送使用料の負担が生ずることとなり、利用した楽曲全体につき支払うべき放送使用料の総額が増加することとなる」として、「他の管理事業者の本件市場への参入を著しく困難にする効果を有するものというべきである」とした上、「別異に解すべき特段の事情のない限り、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものと解するのが相当である」と判示した。原告はほとんど全てのライブハウスとの間でも「包括契約」を締結して使用料を包括徴収する運用をしており、上記判示は、ライブハウスにも当てはまる。そうすると、原告が、被告らに締結を求めていた「包括契約」は、独占禁止法に違反する違法なものであり、当該事実は、原告の交渉過程における不当性を基礎づけるといえる。なお、現在では、IT技術の進歩により、楽曲名を演奏の都度、報告させて使用料を徴収し、これを権利者に分配することは、技術的に不可能又は困難ではない。 〔原告の主張〕 被告らのほうこそ、本件店舗における利用実態を著しく過小に申告したり、前記4〔原告の主張〕のとおり、本件調停において唐突に主張の変更をしたり、約束した「社交場利用楽曲報告書」の追加提出をしない等の信義則違反の行動をしていたのであって、権利濫用等の抗弁が成り立つ余地はない。 最高裁判所平成27年4月28日判決は、包括契約という契約方式一般について、特段の事情がない限り独占禁止法に違反すると判示したものではなく、被告らの主張は失当である。 6 争点(6)(差止請求の適法性及び差止めの必要性)について 〔原告の主張〕 (1) 被告らは、本件店舗を開店した平成21年5月から現在に至るまで、原告との間で利用許諾契約を締結しないまま、原告管理著作物の演奏利用を継続しており、著作権侵害の主体性を争っている。そうすると、被告らが、今後も原告管理著作物を無許諾で利用するという著作権侵害行為を繰り返すことが明らかであるから、差止めの必要性がある。 (2) 被告らの主張に対する反論 被告らは、請求の趣旨第1項の「演奏させる方法」「歌唱させる方法」における「〜させる」という文言は過度に広汎かつあいまいな口語的概念であって、不特定であるから却下すべきであるなどと主張する。 しかし、本件の訴訟物は、請求の趣旨第1項(1)(2)並びに別紙2及び3により十分特定されており、差止請求は適法である。 また、被告らは、著作権等管理事業法16条を根拠として、原告が「正当な理由」があることを主張立証しなければならないと主張するが、同条は、著作権等管理事業者が、利用者の許諾の申し込みに対し、正当な理由がなければ拒否できないとしたものであって、著作権侵害者に対して著作権侵害行為の差止めを求める要件を定めたものではない。 〔被告らの主張〕 (1) 原告は、請求の趣旨第1項で、「演奏させる方法」「歌唱させる方法」による原告管理著作物の使用の差止めを求めているが、「〜させる」という文言は、@強要(無理やりやらせる)、A指示・命令(命じて従わせる)、B管理・支配(管理下で積極的に仕向ける)、C黙認・放置(消極的にやらせておく)、D不干渉・無関心(関知しない)等の様々な態様・程度の行為を含むものであり、過度に広汎かつあいまいな口語的概念であって、不特定であるから、却下すべきである。 (2) また、「使用する」という文言は、著作権法上の支分権該当行為(複製、演奏、上映、翻案等)を意味する「利用」とは別個の概念であるから、被告らが原告管理著作物を「利用」していることを請求原因として、「使用」の差止めを求めることはできない。そうすると、本件の差止請求は、請求原因が主張されていないから、理由を欠くものとして棄却されるべきである。 (3) さらに、被告らは、「侵害する者又は侵害するおそれがある者」(著作権法112条1項)に当たらない。被告らが、過去の未払分について原告との間で和解協議をした上、平成24年6月11日以降の利用分については、1曲140円の使用料を供託の方法によって支払っている事実を勘案すれば、差止めの必要性がないことは明らかである。そして、原告は、著作権等管理事業者であり、「正当な理由がなければ取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならない」(著作権等管理事業法16条)ところ、本件では許諾を拒む「正当な理由」はないから、利用許諾の拒否を前提とする差止請求には理由がない。 7 争点(7)(将来請求の可否)について 〔原告の主張〕 被告らは、平成21年5月23日以降現在に至るまで、本件店舗において、原告の著作権を侵害し続けている上、自らが原告管理著作物の利用主体ではないとして争っているから、今後も、同一態様の著作権侵害の不法行為が継続されることは確実である。 ところで、上記不法行為について、被告らに有利な影響を及ぼす将来における事情の変動事由としては、@被告らが原告管理著作物の利用をやめる、A被告らが原告から利用権原を取得する、といった明確に予測できるものに限られる。そして、これらの事情が生じた場合に、被告らに、請求異議の訴えを提起する負担を課したとしても、何ら問題がない。仮に、被告らが、本件店舗の営業を継続しながら原告管理著作物の利用を著しく縮小したような場合であっても、被告らに当該事実の主張・立証責任を負わせることは不公平ではない。 そうすると、本件の将来給付の訴えには、あらかじめその請求をする必要がある。 〔被告らの主張〕 争う。原告は、一般論を述べるにとどまり、各要件について具体的な事情を主張していない。 継続的不法行為に基づく将来の損害の賠償請求は、将来の損害賠償請求権の成否及びその額があらかじめ一義的に明確に認定できる必要がある。本件で、原告は、利用主体について諸事情を総合的に評価して規範的に判断すると被告らが演奏主体に当たると主張しているところ、このような規範的要件は、その成否や内容が一義的に定まるものではない。また、ライブごとに出演者と店舗との関係性に各個別の事情が認められるライブハウスの演奏について、過去の特定のライブについて主張された事実が将来についても存在すると推認することはできないのであって、本件において、将来の侵害の成否や損害額を一義的に明確に認定することはできない。 8 争点(8)(損害ないし損失発生の有無及びその額)について 〔原告の主張〕 (1) 著作権侵害行為の特定について 原告は下記(2)のとおり、平成21年5月23日から平成25年9月30日までの本件店舗における原告管理著作物の演奏回数を特定し、また、原告管理著作物については別紙2及び3により特定しており、被告らの著作権侵害行為は十分特定されている。 被告らは、被侵害楽曲を特定しなければならないと主張するが、本件のように著作権侵害者が継続的に著作権侵害行為を繰り返している場合に、実際に侵害された著作物の全てをひとつずつ特定して主張・立証することは事実上不可能である。判例(最高裁判所平成13年3月2日第二小法廷判決・民集55巻2号185頁「ビデオメイツ事件」等)も、一月当たりの使用料相当額に著作権の侵害月数を乗じて損害額を算出するなどしており、被告らの主張する見解を採用していないことは明らかである。 (2) 演奏楽曲数について 被告らは、平成22年7月から平成25年9月までの間、本件店舗5階部分において、一月当たり6回のライブを開催し、本件店舗6階部分において、一月当たり28回のライブを開催した。原告の調査担当者が、平成22年9月24日から平成25年9月20日までの間に、本件店舗6階部分において22回、同5階部分において3回の実態調査を実施した。調査担当者は、演奏を録音機器に収録しており、調査結果は正確である。上記調査の結果、本件店舗6階部分では平均19曲(小数点以下切捨て)、同5階部分では平均17曲(小数点以下切捨て)の原告管理著作物が演奏されていた。なお、使用料規程に基づき、5分を超えて演奏された楽曲については、使用料相当額の算定に当たって2曲と算定した。 被告らは、本件店舗6階部分を開設するまでは、本件店舗5階部分のみで営業をしていたが、営業方針に変化はないことから、平成21年5月から平成22年1月までの間、被告らは、本件店舗5階部分において、一月当たり28回のライブを開催し、1回当たり19曲の原告管理著作物を利用したと推認することが相当である。 そして、原告は、上記平均数の約8割が現実の演奏楽曲数であるものとして、損害額を算定した。 なお、被告らが依拠する出演者の作成に係る社交場利用楽曲報告書は、そもそも作成されていないライブがあったり、過小な記載がされたり、原告管理著作物を除外するために演奏された楽曲とは異なる楽曲名が記載されたり、楽曲名が全く記載されていないものがあるなどしており、演奏実態を反映したものとはいえない。 (3) 使用料規程に基づく算定 原告は、被告らの本件店舗における著作権侵害行為により、少なくとも原告管理著作物使用料相当額の損害を被っている(著作権法114条3項)。原告管理著作物の使用料は、文化庁長官に届け出た(著作権等管理事業法13条1項、2項)使用料規程(甲3)に定められているところ、本件店舗はライブハウスであり、本件店舗6階部分及び同5階部分には、それぞれ、座席が40席ある。ライブハウスなどの社交場における演奏の使用料は、標準単位料金3000円まで、座席数40席までの場合、1曲140円である。 (4) 平成27年10月までに生じた不法行為に基づく損害額 被告らは、本件店舗において、平成25年10月から平成27年10月までの間も、平成25年9月までと同様の原告管理著作物の利用を継続した。そうすると、平成21年5月から平成27年10月までの間の被告らの著作権侵害行為により生じた使用料相当損害金は、別紙6「損害金請求一覧表」記載のとおり、560万2787円である。 加えて、原告は、本訴提起のため弁護士に依頼せざるを得なかったから、被告らの不法行為により弁護士費用56万0277円の損害が生じた。 これらを合計すると、平成27年10月31日までに原告が被った損害額(使用料相当損害金に対して、原告管理著作物を利用した日の翌月1日から平成27年10月31日までに生じた遅延損害金を含む。)は、別紙6「損害金請求一覧表」記載のとおり、703万5519円である。 (5) 平成27年11月以降の不法行為に基づく損害額 被告らは、平成27年10月31日をもって本件店舗5階部分での営業を廃止したが、同年11月1日以降も、本件店舗6階部分における原告管理著作物の無断利用を継続しており、今後も、同一の態様で著作権侵害行為を継続することが確実に予測される。これによる原告の損害は、別紙6「損害金請求一覧表」の「平成27年11月1日以降の損害金月額合計(税込)」欄記載のとおり、一月当たり6万3504円である。 (6) 不当利得に基づく利得額(損失額) 被告らは、原告の許諾を受けず、使用料の支払をしないままに原告管理著作物を利用した悪意の受益者である。被告らの不当利得により、原告は、平成27年10月31日まで、別紙6「損害金請求一覧表」記載の額と同額の703万5519円の損失を被った(法定利息及び弁護士費用を含む。)。また、同年11月1日以後も、将来にわたって、一月当たり6万3504円の損失を被る。 なお、原告は、被告らが使用料を支払っていないから、同額の利得を得ていると主張しているのであって、来客から受け取った金員そのものが利得であると主張しているものではない。被告らは、演奏の対価を得ていないから利得がない旨主張するが、本件店舗は、ミュージックチャージと飲食代金をまとめて徴収しており、前提が異なる。 〔被告らの主張〕 (1) 不法行為に基づく損害賠償請求権の訴訟物は著作物(楽曲)ごとに異なるから、原告は、著作権侵害の対象となる被侵害楽曲をできる限り特定すべきである。そして、原告は、被侵害楽曲を特定することが可能であるにかかわらず、まったく特定をしようとしておらず、失当である。 (2) 原告のサンプリング調査(甲15)は、請求期間全体の1%程度のライブのみを対象としたものである上、原告管理著作物の演奏が多数演奏されるライブばかりに不自然に集中している。そもそも、オリジナル楽曲を披露することを原則とするライブハウスにおいて、毎日平均15曲もの原告管理著作物が演奏されるはずがない。さらに、調査結果をみると、記入漏れや誤りもあり、正確性が担保されていない。 (3) 本件店舗の出演者が作成した社交場利用楽曲報告書(乙18)によれば、平成24年6月11日から平成25年9月30日までの間、本件店舗で演奏された原告管理著作物の楽曲数は、1ライブ当たり平均5.32曲であった。 平成24年7月から平成25年2月までの間の本件店舗における演奏実績を集計し、1曲の使用料を140円として、一月当たりの平均使用料を算定すると2万3473円であるから、これと同等の利用をしていたとすると、平成21年5月から平成24年6月10日までの使用料相当額(遅延損害金を含まない。)は、別紙7のとおり、87万6307円であり、原告の請求は過大である。 (4) また、原告は、本件店舗5階部分及び本件店舗6階部分のいずれについても、設置座席数を根拠として、使用料が1曲当たり140円であると主張するが、本件店舗5階部分については、不相当である。本件店舗5階部分において、平成24年10月から平成25年9月までの間に開催されたライブで、30席以上の集客があったものはわずか2回であり、1ライブ当たりの平均客数は11.8人にすぎない。本件店舗5階部分に物理的に設置された椅子の数が38席であることをもって、1曲当たり140円であるとするのは、客観的に相当でない。またこの単価は、「1曲90円」であるという本件調停以前の原告の説明とも異なる。 さらに、原告は、ミュージックチャージに飲食代を加えた客単価3000円を標準単位料金として、1曲当たりの使用料が140円であると主張しているが、被告らは、ミュージックチャージを自ら決定していないし、1円も受け取っていないのであるから、ミュージックチャージを標準単位料金の判断に組み込むことは相当でない。 (5) 本件店舗での演奏楽曲には、出演者自身が著作者であるオリジナル曲が多数含まれているところ、オリジナル曲の演奏については、原告の損害は観念しえない。原告が、著作者兼出演者から使用料を徴収し、それを本人に返すことは、原告にとっておよそ無意味であるし、事務手数料名目でその一部を原告が取得する行為は、信託者である著作者の利益に反する。 (6) 原告は、5分を超えた演奏を2曲と換算する旨主張するが、相当でない。原告は、5分を超える曲を演奏したのか、それとも、原曲は5分以内であるが原曲に依拠した演奏が5分を超えて行われたのか等、原告管理著作物の創作性のある部分が5分を超えて演奏されたことの具体的な主張立証をしていない。ライブハウスの演奏においては、アドリブの部分が長くなったり、曲の途中でMCやメンバー紹介等をすることも頻繁にあり、このような場合に2曲と算定することは客観的に相当でない。 (7) 被告らは、真の権利者に正しく分配されることが担保されるよう、真の権利者に渡すべき金銭を原告に引き渡すことを留保する正当な権利があるから、遅延損害金は生じない。少なくとも、信義則上、違法性があると評価することはできない。また、平成24年6月11日以降の分については、申合せに基づく金員を弁済供託しているから、遅延損害金が発生しない。 (8) 原告は、被告らに不当利得がある旨の主張もしているが、本件店舗では、出演者が、演奏に対する対価であるミュージックチャージの全額を受領しているから、音楽著作物の演奏について被告らに利得がない。また、被告らは、前記(7)のとおり、正当な理由に基づいて支払を留保していたのであるから、悪意の受益者ではなく、少なくとも信義則上、悪意の受益者と評価することはできない。そして、被告らは、平成24年6月11日以降の分については、原告の受領拒否が明確になった本訴提起後に、全額の弁済(供託)を行っているから、被告らに利得は存在せず、まして、悪意の受益者には当たらない。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実 本件に係る事実経緯について、前記第2、2の争いのない事実等に加え後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。 (1) 本件店舗開店の経緯 ア 被告Bは、著名なミュージシャンであり、近年、中国を主な活動拠点とし、中国におけるロック音楽の普及と発展に尽力していたが、日本にはミュージシャンが自分の音楽を知ってもらったり、稼いだりできる場所が少ない、日本のロックを盛り上げるために、ミュージシャンが自由に金銭的負担なく音楽を披露できる場を提供したい、などと考えていた。(乙1ないし4、58、被告B) イ 被告Aは、中国を主な活動拠点とし、国内外で飲食店をチェーン展開する経営者であるが、アマチュアとして音楽活動をしていた経験を有しており、被告Bとは30年来の知り合いである。(乙5、59、被告A) ウ 被告Bは、平成20年末頃、飲食店経営のプロである被告Aに対し、ミュージシャンたちが自由に演奏できるライブバーを作りたいという話を持ちかけ、被告Aはこれに賛同した。(乙58、59、被告B、被告A) エ そこで、被告Aは、被告Bを連帯保証人として、本件店舗5階部分の不動産を賃借し、内装工事の手配、飲食物のメニューの決定、仕入れ先の選定など、本件店舗の開店に向けた準備をした。(甲20の5、乙58、59、被告B、被告A) オ 被告Bは、自らが所属するロックバンド「X.Y.Z.→A」の名称を本件店舗の名前に使用しようと考え、被告A及び上記バンドのメンバーから了承を得た。被告Bやそのミュージシャン仲間らが、本件店舗に、無償で、中古のアンプ、スピーカー、ドラムセットなどの音響設備等を提供(貸与)した。被告Bは、本件店舗の開店前、20組ほどのバンドやグループなどミュージシャン仲間に、ライブバーが開店することを伝えて、出演するよう声をかけた。また、被告Bは、知人であるE(以下「E」という。)を店長として本件店舗を任せようと考え、Eを被告Aに紹介した。Eは、東京都八王子市所在の被告B所有の住居を賃借して転居し、本件店舗の開店時から店長として勤務している。被告Bは、本件店舗に、自らを契約者とする固定電話を設置した。(甲5の2、甲61の1・5、乙57、58、証人E、被告B) カ 本件店舗の開店資金は、被告A及び被告Bが支出し、特に被告Bは、運転資金も含め、本件店舗のために少なくとも380万円を支出した。(被告B、被告A) (2) 本件店舗の運営 ア 本件店舗は、平成21年5月23日、本件店舗5階部分において営業を開始した。その後、本件店舗が入居するビルの4階部分で営業していたスナックからドラムセットの振動に対する苦情が来たことから、被告Aは、被告Bを連帯保証人として、同ビル6階も賃借することとし、平成22年2月、本件店舗6階部分においても営業を開始した。なお、本件店舗5階部分は、平成27年10月31日をもって営業を終了しており、現在は、本件店舗6階部分のみで営業をしている。(甲20の7、乙58、59、被告B、被告A) イ 本件店舗の営業に係る金銭的な管理は被告Aが行っており、運転資金は被告A名義の口座に入金されている。(被告B、被告A) ウ 本件店舗には、店長のEが常駐しており、そのほかにF(以下「F」という。)などのスタッフやアルバイトが稼働している。(証人E) エ 被告Bは、「@livebarxyz」というツイッターのアカウントを有しており、本件店舗で開かれるライブの宣伝をしたり、当日券の有無に関する問い合わせに応じたりしたことがある。また、被告Bは、「CBLOG〜Cとその仲間たちのひとりごと〜」と題するブログを開設しており、同ブログにおいて、「X.Y.Z→Aの店がオープンする!」などと本件店舗の宣伝をする記事や、本件店舗のアルバイト募集の記事、本件店舗におけるライブの様子を紹介する記事等を掲載したことがある。(甲18、19〔いずれも枝番を含む。〕) (3) ライブの開催等 ア 本件店舗では、スケジュールが空いている限り、出演を希望する者には、その内容を問わず出演を認めており、落語などの音楽演奏以外のライブが行われることもある。ミュージックチャージの額の決定、演奏曲目なども含めたライブの内容の決定、ライブの名称の決定、宣伝文の作成は出演者が行っており、被告ら及び本件店舗のスタッフが、その内容について指示をすることはない。本件店舗のスタッフは、出演者からライブの名称や宣伝文、写真等のデータを受領すると、それを本件店舗のホームページに掲載し、また、本件店舗のライブスケジュールが印刷されたチラシを本件店舗に置いたり、配布したりしている。本件店舗のチラシは、ロックバンド「X.Y.Z→A」が所属する事務所である株式会社ブラスティーが印刷している。(甲7〔枝番を含む〕、9、乙12ないし16、39ないし45、57、58、証人E、被告B) イ 被告Bは、本件店舗開店当初は、単独でブッキング(電子メール等で出演申し込みを受け付ける業務)を行っていた。平成21年夏ごろには、Fもブッキングを担当するようになった。平成24ないし25年頃からは、Eの夫であり、ベーシストであるGがブッキングを一人で担当している。(乙57、58、証人E、被告B) ウ 本件店舗では、開店当初は週末のみライブを開催していたが、ライブがない日には客が一人も来ないことがあったことから、被告らは、ライブの開催日を増やそうと考え、被告Bが、知り合いに声をかけたり、自らライブに出演するなどした。本件店舗では、他の一般的なライブハウスとは異なり、出演者に会場使用料の支払やチケット販売のノルマといった負担が課されることがなく、ミュージックチャージが全額出演者に渡されることもあって出演希望者が増え、開店数か月後には、連日、ライブが開催されるようになった。 本件店舗6階部分での営業を開始した平成22年2月以降は、本件店舗6階部分においては、ほぼ連日、ライブが開催されているが、本件店舗5階部分については、ドラムを使用しない出演者に限り、週末などにライブをすることがあるのみであり、本件店舗5階部分でのライブは月に数回程度であった。(乙39、41ないし46、58、証人E、被告B) エ 本件店舗でライブが開催されるときには、客は、入店時に、ミュージックチャージに加え、飲食チケット代として1000円を支払う。飲食チケットは、当日のみ使用することができ、飲食物を注文して飲食チケットを使い切る客が多い。ミュージックチャージの受領は、本件店舗のスタッフが行うこともあるが、出演者が自ら行うこともある。 なお、本件店舗は、開店当初は、入店時に飲食チケットを購入する制度を導入していなかったため、ライブの客は、ミュージックチャージのみを支払うことで入店することができたが、飲食の注文が少なく売上げが増えなかったことから、被告Aの発案により、平成22年後半頃、上記制度を導入した。(甲60、乙39、45、56、57、59、証人E、被告A) オ 本件店舗のスタッフは、現在、ライブ終了後、客から受領したミュージックチャージから、ライブで演奏された原告管理著作物1曲当たり140円を控除した残額のすべてを、出演者に交付している。本件店舗のスタッフは、ライブで演奏された原告管理著作物の楽曲数を、出演者自らが記入した「社交場利用楽曲報告書」の記載に基づいて計算している。(乙45、57、証人E) カ 本件店舗におけるライブの出演者は、本件店舗に設置されているアンプ、キーボード、ドラムなどの機材・設備を使用することができるが、本件店舗には音響や照明等に係るスタッフはおらず、出演者が音響設備等のセッティングを行っている。(乙39、43、44、46、56ないし59、証人E) (4) 原告と被告らとの間の交渉 ア 被告らは、本件店舗の開店当時、原告に対する著作権料の支払が必要であると認識していたものの、許諾を得るための手続を自発的に取ることはせずに、原告からの連絡を待っていた。被告Bは、自ら制作した楽曲について、原告との間で著作権信託契約を締結しており、原告から著作権料を受領したことはあったが、著作物を利用する者として著作権料を支払うための手続きをしたことはなかった。(甲69、70、乙22、58、被告B) イ 原告は、平成21年9月10日、本件店舗宛に、「著作権手続はお早めに」と題する文書(乙20)及び「音楽著作物利用許諾契約申込書」(甲25)を郵送した。「著作権手続はお早めに」と題する文書は、同封の「音楽著作物利用許諾契約申込書」を1週間以内に提出するよう依頼するものであったが、同申込書は、座席数、月間演奏時間、標準単位料金(客一人当たりが通常支払う料金)に基づいて、一定額の月額使用料を決定する方式の利用許諾契約の申込書であった。(甲25、58、59、乙20、21の1、被告B) ウ 被告Bは、被告Aよりも著作権に詳しいことから、本件店舗のブッキングマネージャーを称して原告との間の交渉を担当することとし、被告Aは、被告Bに交渉を任せることとした。被告Bは、被告Aと協議し、原告との話し合いがついた場合に著作権料の支払がすぐにできるよう、平成21年9月15日から、出演者に、演奏楽曲名を報告してもらうとともに、著作権料の引当金をプールしておくこととした。 被告Bは、上記イの各文書を見て、原告が、ライブハウスでどの楽曲が演奏されているかを把握することもなく著作権料を徴収していたことを知り、これでは、楽曲が演奏されても著作権者に分配がされないと認識して、原告のやり方に不信感を抱いた。(甲25、乙20、21の1、乙58、被告B) エ 被告Bは、実際の演奏実績に基づいて著作権者に著作権料が支払われているのではないことは問題であると考え、原告に対し、電話をかけるなどして、分配方法や分配する額に関する説明を求めたり、公開討論会を開くことを提案したり、サンプリング調査に基づいた分配の問題点を指摘するなどした。これに対し、原告の職員は、本件店舗に、原告の契約方式を説明する文書(甲11)を送付したり、被告らと面談をして、原告の使用料規程に基づく契約申込みを求めるなどしたものの、公開討論会の開催、分配額やサンプリングデータの開示についてはいずれも拒否したことから、被告Bと原告との間の議論はかみ合わなかった。 原告の職員は、その後、平成22年8月20日までの間、本件店舗に出向くなどして交渉をしたが、利用許諾契約の締結には至らなかった。(甲11ないし14、17、45、58、59、乙21の1ないし4、乙22、58、59、証人D、被告B) (5) 本件調停の経緯 ア 原告は、平成24年2月7日、八王子簡易裁判所において、被告らを相手方として、本件店舗における平成22年2月から平成24年1月までの原告管理著作物の生演奏の使用料相当額132万2470円及びこれに対する遅延損害金並びに同年2月1日から、本件店舗5階部分について月1万1020円、本件店舗6階部分について月3万2550円の使用料の支払を求めて、本件調停を申し立てた。(甲24の1・2、甲45) イ 被告らは、同年4月16日の第1回調停期日に出頭し、過去の使用料として200万円を持参したが、金銭の授受はされなかった。被告らは、本件店舗において過去に開催されたライブで演奏された楽曲リストを持参し、原告代理人として出頭していた原告の職員であるH(以下「H」という。)及びDに交付した。被告Bは、原告がライブハウスとの間で包括的な利用許諾契約をした際、サンプリング調査に基づいて著作権料が権利者に分配されているというが、そのような方式は適切ではないこと、現に、被告Bの所属するバンド「X.Y.Z→Z」が、過去10年にわたり全国のライブハウスで多数のライブを行い、同バンドのメンバーが制作した楽曲を演奏しているが、同楽曲の出版権を有する「有限会社C」に対して支払われた著作権料からすると、220公演中4公演分の著作権料のみが支払われたと推測されること等を記載した「調停委員さま」と題する文書(乙22)を持参し、提出した。被告Bは、原告に支払った使用料は、演奏した作品に分配してほしいと述べた。(甲45、乙22、23、証人D) ウ 上記イの期日後、原告の職員が、受領した楽曲リストを確認したところ、楽曲リストが存在しないライブがある、原告管理著作物が演奏されているのに「全曲オリジナル(編曲)」と記載されているものがある、作詞・作曲者名の記載がない、演奏時間、演奏回数の記載がないといった不備があった。 そこで、原告は、平成24年6月11日の第2回調停期日において、上記不備を指摘する準備書面(甲28)を提出し、被告らに対し、「社交場利用楽曲報告書(用紙)」を交付して、同報告書を用いて過去の利用楽曲を改めて報告することを求めた。原告は、上記準備書面において、利用許諾には、@包括的利用許諾契約を締結する方法と、A包括的利用許諾契約によらずに1曲1回の使用料を支払う方式があること、包括的利用許諾契約には、(ア)座席数、標準単位料金、演奏の方法、演奏時間等から使用料額を定める包括許諾契約と、(イ)利用頻度を参酌して、1曲1回の使用料を積算して月額使用料を定める積算算定額による包括許諾契約がある旨を説明した。 被告Bは、平成24年6月11日以降の使用料については、演奏した作品に分配される仕組みをとりたいと述べ、「社交場利用楽曲報告書」に記載をして演奏楽曲を報告すること及び「積算算定額による包括許諾契約」によって支払をする旨述べた。被告Bは、「社交場利用楽曲報告書」を用いて報告し、報告した楽曲数に応じた使用料を支払うことで、著作権者に確実に著作権料が分配されるものと理解した。 原告の職員は、被告Bに対し、本件店舗における1曲1回当たりの使用料は140円である旨述べた。 (甲45、58、59、乙7、8、証人D、被告B) エ 上記ウの後、被告Bは、原告のDに電話をかけ、過去の利用楽曲について、「社交場利用楽曲報告書」に記入し直す作業を原告に手伝ってもらえないかと聞いたが、Dは、それはできないと返答し、被告Bに対し、報告書の様式のエクセルファイルを電子メールで送付した。 被告Bは、平成24年6月11日の第2回調停期日の後、自らのブログ(乙8)に、原告から交付を受けた「社交場利用楽曲報告書」に自ら記入例を記載したものを掲載し、「出演者の皆様へ」と題して、原告との間の本件調停は継続しているが、本件店舗は、原告に対し、「積算算定額による包括許諾契約」によって使用料を支払うことを裁判所に対し宣言したこと、出演者には原告の報告書の様式に、毎回、演奏曲目を、原告管理著作物であるか否かを問わず、作詞者名、作曲者名とともに記入してもらうこと、原告管理著作物については出演者自身が制作した楽曲も含めて、1曲当たり140円(5分を越えると2曲分、10分を越えると3曲分)を出演者自身に支払ってもらうこと、過去の著作権料(使用料)は本件店舗が支払うこと、上記報告書様式に記入して本件店舗から支払った著作権料(使用料)は、著作権者に確実に分配されることなどを記載した。 Dは、上記被告Bのブログを確認し、被告Bに電話をかけ、記入例のうち、「Blue in Green」という楽曲の作曲者について「マイルス・デイビスかビル・エバンスかどちらか選べ」という記載は不正確であり、どちらのバージョンを演奏したかによって記入すべきであると指摘した。被告Bは、どちらも生前、自らが作曲者であると主張しており、どちらが作曲者かわからないので、出演者の思い入れによって記入してもらう意図で書いたと説明したが、議論は平行線となり、被告Bは上記楽曲を記入例から削除することとした。 その後、再び、Dが、被告Bのブログを確認し、被告Bに対し、訂正すべきところはない旨電話連絡した。また、原告は、数日後、被告Bに対し、「社交場利用楽曲報告書」の用紙1000枚を送付した。 本件店舗では、以後、出演者に「社交場利用楽曲報告書」に記入してもらうとともに、出演者から1曲当たり140円の使用料を受領している。 また、被告らは、本件店舗において過去に開催されたライブの演奏楽曲を、「社交場利用楽曲報告書」の用紙に記入する作業に着手し、過去のライブの出演者に連絡を取るなどした。 (甲45、乙7、8、18、23、24、58、証人D、被告B) オ 被告Bは、本件調停手続について、代理人として鈴木仁志弁護士(以下「鈴木弁護士」という。)を選任し、平成24年9月12日の第3回調停期日以後は、鈴木弁護士が出頭した。鈴木弁護士は、第3回調停期日において、本件店舗は演奏主体ではない、オリジナル曲を著作者自身が演奏する場合には不法行為が成立しないといった法的主張をし、また、過去分の和解金については原告管理著作物のうち出演者以外が著作者であるものの演奏楽曲数に単価を乗じて算出した額を上限とすること、将来分については、包括的な許諾をした上で、演奏後に実統計による曲別の事後清算をすることを骨子とする調停案を提出した。被告らは、上記イで楽曲リストを提出しなかった過去のライブに関する「社交場利用楽曲報告書」の一部と、平成24年6月11日から同年8月26日までに本件店舗で開催されたライブにおける演奏楽曲を記載した「社交場利用楽曲報告書」を提出した。また、被告らは、上記期日後、原告に対し、上記「社交場利用楽曲報告書」のデータを記録したCD−Rを送付した。(甲17、30、45、乙18、乙21の5、乙25、58、証人D) カ 平成24年11月19日、第4回調停期日が開かれ、原告のH及びDは、被告らが第1回調停期日で提出した楽曲リスト及び第3回調停期日で提出した「社交場利用楽曲報告書」について、不備を指摘する内容の「利用楽曲報告の不備について」と題する書面(乙26)及び包括的利用許諾契約を前提とした本件店舗の開店時(平成21年5月23日)から平成24年10月31日までの使用料相当額及び遅延損害金を記載した「無許諾利用期間使用料明細書」(乙27の1・2)を提出した。上記「無許諾利用期間使用料明細書」によれば、本件店舗5階部分について、使用料相当損害金が64万0500円、遅延損害金が6万6736円、本件店舗6階部分について、使用料相当損害金が107万4150円、遅延損害金が7万1803円であった。 被告Bは、原告が、本件店舗がライブの出演者に「社交場利用楽曲報告書」を作成させるようになった平成24年6月11日以降の報告書について検証をせずに、被告らが十分な情報を有しておらず、正確な記載をすることが困難な過去のライブの報告書についてのみ検証して不備を指摘したことについて、嫌がらせであると思い、また、原告が、被告らを包括的利用許諾契約の締結に誘導しようとしていると感じた。 (甲45、乙26、27の1・2、乙58、被告B) キ 平成25年1月21日、第5回調停期日が開かれ、鈴木弁護士は、準備書面(甲31)を提出し、原告が立証資料の収集をすべきにもかかわらず、被告らが演奏曲目リスト(社交場利用楽曲報告書)を任意に作成して自発的に協力していたところ、挙げ足を取るような不備の指摘をし、包括的利用許諾契約の締結を迫ったことは信義に反する旨主張した。鈴木弁護士は、同準備書面において、原告の書式(社交場利用楽曲報告書)を用いた本件店舗からの報告に基づいた清算・分配を行う旨の平成24年6月11日の事実上の申合せ(調停手続内における信義に基づく協議)に従って、本件店舗において、「社交場利用楽曲報告書」への記入が逐次行われていることを説明し、まずは同日以後の契約条件について詰めの作業を行い、同日より前の過去分については、可能な限り双方協力して利用楽曲の再調査・特定を行ったうえで、正しく分配を行い、グレー部分については別途解決方法を柔軟に考えることが相当である旨主張した。また、被告Bは、原告作成の「利用楽曲報告の不備について」と題する書面(乙26)において指摘された不備について、出演者らに確認をしてもらった結果、原告が記載の誤りであるとする根拠となったファンのブログの記載は正確ではないことや、即興的なオリジナル曲であるために曲目を記載することができない場合があること、演奏時間が5分を超えた場合に2曲と算定することは、間奏部分もそのまま演奏する昭和の歌謡曲のためのシステムであって、楽曲の中間部分で出演者が即興でメロディーを作曲して演奏するジャズや、出演者がソロ部分を即興で作曲して演奏することが多いロックが演奏される現代のライブハウスには合わないことなどを、書面(乙28)に記載して提出した。 原告は、上記期日において調停条項案(乙29)を提出したが、これは、原告と被告Aが、本件店舗5階部分につき月1万0500円(税抜)、本件店舗6階部分につき月3万1000円(税抜)で包括的利用許諾契約を締結することを内容とするものであった。 (甲31、45、乙28、29、58) ク 平成25年3月4日、第6回調停期日が開かれ、被告らは、調停条項案(乙30)を提出した。被告らの調停条項案は、@原告が、原告管理著作物の利用をあらかじめ許諾すること、A本件店舗において、出演者が原告管理著作物を演奏する都度、1曲(5分まで)当たり140円を被告Aが出演者から徴収し、原告に対し、原告の指定する書式(社交場利用楽曲報告書)に出演者が利用楽曲を記載したものを添付の上支払うこと及びB原告が、被告Aから提出された「社交場利用楽曲報告書」に基づいて著作権者に利用料を分配することを内容とする合意が、平成24年6月11日に成立したことを確認すること並びに同月10日までの原告管理著作物の利用について、被告Aが原告に対して、解決金を支払うことを内容とするものであった。 被告らは、平成24年6月10日までの原告管理著作物の利用に係る使用料について、87万6307円と試算していた。他方、原告は、同年12月までの原告管理著作物の利用に関する和解金の額として145万円を考えていた。 (甲45、乙30、31) ケ 平成25年4月15日、第7回調停期日が開かれ、鈴木弁護士は準備書面(乙6)を提出し、平成24年6月11日に原告と被告らとの間で「1曲140円にて被告らが出演者から使用料を徴収してその積算額を原告に支払い、原告がこれを正当な著作権者に正しく分配する」という合意が成立している旨主張し、本件調停において、上記合意を確認した上で、過去分については利用楽曲のさらなる特定に向けて双方努力すること、それができない場合は和解金額の算定について協議することを求めた。原告は、「調停条項について」と題する書面(甲32)を提出し、被告Bの提案による調停条項は、原告の使用料規程に定められていない独自の方法によるものであり、受諾できないことや、平成24年6月11日に原告と被告らとの間で契約方式について合意した事実はないことなどを述べ、原告が提出した調停条項案の検討を求めた。また、原告は、過去分の和解金は135万円まで譲歩可能であると述べた。 本件調停は、第7回調停期日をもって不成立で終了した。 (甲32、45、58、59、乙6、58、証人D) (6) 被告Aによる供託 被告Aは、別紙8のとおり、平成25年11月26日から平成28年1月19日までの間、供託の原因たる事実について、要旨「平成24年6月11日に、原告と被告Aとの間で、原告管理著作物1曲の利用につき140円の使用料を被告Aが本件店舗におけるライブの出演者(演奏者)から徴収してその積算額を原告に支払い、原告がこれを正当な著作権者に分配する旨の合意が成立したが、原告が使用料の受領を拒否している」などと供託書に記載し、同合意に基づく同日から平成27年10月31日までの使用料として、合計106万9220円を供託した。(乙9、17、60、68、82ないし84〔乙9、17、60、82、83は枝番を含む。〕) (7) 原告による原告管理著作物の管理等 ア 原告は、著作権等管理事業法2条3項に規定される著作権等管理事業者である。著作権等管理事業とは、@委託者が受託者に著作権又は著作隣接権を移転し、著作物等の利用の許諾その他の当該著作権等の管理を行わせることを目的とする信託契約、もしくはA委託者が受託者に著作物等の利用の許諾の取次ぎ又は代理をさせ、併せて当該取次ぎ又は代理に伴う著作権等の管理を行わせることを目的とする委託契約のうち、受託者による著作物等の利用の許諾に際して委託者が使用料の額を決定することとされているもの以外のものをいう(同法2条1項)。著作権等管理事業を行おうとする者は、文化庁長官の登録を受けなければならず(同法3条)、また、管理委託契約の種別、収受した著作物等の使用料の分配の方法、著作権等管理事業者の報酬等を記載した管理委託契約約款及び利用区分ごとの著作物等の使用料の額等を記載した使用料規程をあらかじめ定め、文化庁長官に届け出なければならない(同法11条1項、13条1項)。 イ 原告の「著作権信託契約約款」(平成21年6月19日一部変更・届出。甲2)には、次の各規定がある。 (第3条2項)「委託者は、その有するすべての著作権及び将来取得する すべての著作権を、本契約の期間中、信託財産として受託者に移転し、受託者は、委託者のためにその著作権を管理し、その管理によって得た著作物使用料等を受益者に分配する。この場合において、委託者が受益者に移転する著作権には、著作権法第28条に規定する権利を含むものとする。」 (第15条)「受託者は、信託著作権及びこれに属する著作物使用料等の管理に関し、告訴し、訴訟を提起することができる。」 (第16条1項)「受託者は、信託著作権に係る著作物が使用されるときは、次の各号に掲げる著作物使用料等を徴収し、又は受領する。 (1) 使用料規程に基づく著作物使用料」 ウ 原告の「使用料規程」(平成25年2月18日一部変更・届出。甲3)には、次の各規定がある。 (第2章第1節「演奏」8 社交場における演奏等) 「ライブハウス、キャバレー、ディスコ、バー、スナック、旅館その他設備を設け客に飲食又はダンスをさせる営業を行う施設(以下「社交場」という。)において、当該営業とともに演奏等する場合の使用料は、本節1、2、3及び9の規定にかかわらず(3の(9)及び(10)に該当するものは除く。)、次により算出した金額に、消費税相当額を加算した額とする。 (1) 使用料の種類 社交場における演奏等の使用料の種類は、次のとおりとする。 @ 包括的利用許諾契約を結ぶ場合 (ア)年間をとおして毎月音楽を利用する場合の月額利用料 (年間利用月額) (イ)1年に満たない一定期間音楽を利用する場合の月額使用料 (期間利用月額) (ウ)1日1回あたりの使用料 A @によらない場合 1曲1回の使用料 (2) 使用料の適用区分 社交場における演奏等の使用料は、原則として1演奏場所又は1上映場所を単位とし、次のとおりとする。 区分1 主として不特定の客を対象とする営業 @ライブハウスなど、主として客に音楽を聞かせることを目的として、音楽を利用する場合 ・・・別表1、別表7又は別表8」 O「(1曲1回あたりの使用料) 1曲1回あたりの使用料とは、著作物の全部又は一部を1回利用するごとの使用料をいう。 P 1曲1回の利用時間が5分を超える場合の使用料は、5分を超えるごとに、利用時間が5分までの場合の金額に、その同額を加算した額とする。」 「(使用料の計算の特例) R 区分1@、A及びCにおいて演奏が行われる場合で、年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合の使用料の額が別表に定める月額使用料により難い場合は、各別表に定める1曲1回の使用料を積算する方式により著作物の利用頻度を参酌し、月額使用料または年額使用料を定めることができる。」 ライブハウスにおける演奏に対応する使用料を示す表は、包括的利用許諾契約を結ぶ場合について別紙9「別表1(区分1@)」、それによらない場合で1曲1回の使用料について別紙10「別表8の1」のとおりである。 (甲3) エ 前記ウの使用料規程所定の「1曲1回の使用料」を支払う方式は、利用のたびに単発契約を締結するもので、原告管理著作物の利用者は、利用前にあるいは利用後5日以内に原告に報告し、1回の使用料に利用楽曲数を乗じて使用料を算定するというものである。(甲28) (8) 原告による実態調査 原告は、平成22年9月24日以降、職員を本件店舗のライブに客として派遣し、実態調査を行っている。原告の職員は、実態調査時、ICレコーダー等の録音機器を携帯し、演奏を収録して、演奏曲目や演奏時間を調査する。 本件店舗における実態調査の対象は、同一ライブ名で、同一出演者が継続して出演しているライブである。原告は、本件店舗5階部分について3回、本件店舗6階部分において22回の実態調査を行っており、その結果によれば、1ライブあたりの利用楽曲数(演奏時間が5分までの楽曲は1曲、5分を超え10分までの楽曲は2曲と算定)は、本件店舗5階部分について17.3曲、本件店舗6階部分について19.0曲であった。 原告は、本件店舗の月間スケジュールのチラシやホームページにおいて公表されている催物の回数から、「落語」や「食のイベント」、「Bar・Cafe営業」等の音楽著作物が利用されない催物を除き、音楽著作物が利用される音楽ライブの回数を調査したところ、平成22年7月から平成25年9月までの39か月間における音楽ライブの一月当たりの開催回数は、本件店舗5階部分について6.1回、本件店舗6階部分について28.1回であった。 (甲15、36、37の1、甲38の1、甲39の1、甲40の2、甲41の2、甲42の1、甲43の1、甲55、56の1、甲60、証人D) (9) 使用料規程に基づく使用料 ア 原告の使用料規程によると、本件店舗における1曲1回5分までの演奏の使用料は、140円(税抜)である。(甲3、弁論の全趣旨。なお、同額が相当であることは、後記9(3)のとおりである。) イ 本件店舗5階部分及び本件店舗6階部分には、それぞれ、演奏場所があり、また、30席を超えて40席までの座席数を有している。それぞれの場所について、原告の使用料規程所定の年間利用の包括的利用許諾契約を締結した場合、使用料は、月間10時間までの演奏時間であれば月1万0500円(税抜)、月間30時間までの演奏時間であれば月2万1000円(税抜)、月間30時間を超え60時間までの演奏時間であれば月3万1000円(税抜)である。(甲3、16、24の2、証人D) 2 争点(1)(被告らの演奏主体性)について (1) 本件店舗において、原告管理著作物を演奏(楽器を用いて行う演奏、歌唱)をしているのは、その多くの場合出演者であることから、このような場合誰が著作物の利用主体に当たるかを判断するにあたっては、利用される著作物の対象、方法、著作物の利用への関与の内容、程度等の諸要素を考慮し、仮に著作物を直接演奏する者でなくても、ライブハウスを経営するに際して、単に第三者の演奏を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず、その管理、支配下において、演奏の実現における枢要な行為をしているか否かによって判断するのが相当である(最高裁判所昭和63年3月15日第三小法廷判決・民集42巻3号199頁、最高裁判所平成23年1月20日第一小法廷判決・民集65巻1号399頁等参照)。 (2) 本件についてみると、前記1(1)ないし(3)のとおり、被告らが共同して、ミュージシャンが自由に演奏する機会を提供するために本件店舗を設置、開店したこと、本件店舗は、ライブの開催を伴わずにバーとして営業する場合もあるものの、ライブの開催を主な目的として開設されたライブハウスであり、ステージや演奏用機材等が設置されており、出演者が希望すればドラムセットやアンプなどの設置された機材等を使用することができること、本件店舗が、出演者から会場使用料を徴収しておらず、ライブを開催することで集客をはかり、ライブを聴くために来場した客から飲食代として最低1000円を徴収していること、本件店舗の出演者は、被告Bも含め、原告管理著作物を演奏することが相当程度あること、被告Aは、本件店舗の経営者であること、被告Bは、自らを本件店舗の経営者と認識しているものではないものの、本件店舗の開店・運営のための資金を提供し、本件店舗に自らを契約者とする固定電話を設置し、自らのバンド名を本件店舗の名称として使用することを決定し、本件店舗の開店前には20組ほどのバンドやグループなどのミュージシャン仲間にライブバーが開店することを伝えて出演するよう声をかけ、本件店舗開店当初は単独でブッキング(電子メール等で出演申し込みを受け付ける業務)を行っていたこともあり、さらに、自らのブログ等において本件店舗や本件店舗のライブの宣伝活動をし、本件店舗のアルバイト募集の記事、本件店舗におけるライブの様子を紹介する記事等を掲載するなどしており、本件店舗の経営に積極的に関与していること及び本件店舗が、出演者に自由に演奏させるという被告Bの意思に沿った運営をしていること、さらには、前記1(5)のとおり、本件調停において、被告Bは、平成24年6月11日以降の使用料については演奏した作品に分配される仕組みをとりたいと述べ、「社交場利用楽曲報告書」に記載をして演奏楽曲を報告すること及び「積算算定額による包括許諾契約」によって支払をする旨述べるなど、自ら本件店舗のライブを主催する者として振る舞ってしていたことなどを総合すると、被告らは、いずれも、本件店舗における原告管理著作物の演奏を管理・支配し、演奏の実現における枢要な行為を行い、それによって利益を得ていると認められるから、原告管理著作物の演奏主体(著作権侵害主体)に当たると認めるのが相当である。 (3) 被告らの主張に対する判断 被告らは、単にライブの場を提供しているのみであって、演奏曲目やミュージックチャージの額を決定していないから、演奏主体に当たらないと主張する。 しかし、前記1(1)ないし(3)のとおり、そもそも本件店舗が、原告管理著作物の演奏が想定されるライブハウスであり、本件店舗のスタッフは、出演者からライブの名称や宣伝文、写真等のデータを受領すると、それを本件店舗のホームページに掲載し、また、本件店舗のライブスケジュールが印刷されたチラシを本件店舗に置いたり、配布していること、本件店舗のチラシは、被告Bのロックバンド「X.Y.Z→A」が所属する事務所が印刷していること、本件店舗では、出演者から会場使用料を徴収しておらず、ライブを開催することで集客をはかり、ライブを聴くために来場した客から飲食代を徴収していることからすると、たとえ各ライブに出演する者や演奏曲目、ミュージックチャージの額などを、被告ら又は本件店舗のスタッフではなく出演者自らが決定していたとしても、そのような事実は上記(2)の認定を妨げるものとはいえない。 この点に関して被告らは、大阪高等裁判所平成20年9月17日判決(判例時報2031号132頁)を引用して、本件では同事件同様、本件店舗におけるライブの主催者は、本件店舗以外の第三者であるから、被告らは演奏主体に当たらないとも主張するが、上記裁判例の事案は、月1回程度ライブが行われているレストランカフェの店舗において、第三者が企画して店舗に開催の申込みをし、当該第三者がライブのチケットを作成して前売り販売を行うなどしており、店舗にはライブ開催による収益の増加があると認められなかったという場合に、店舗が演奏主体に当たらないと判断したものであって、客に対して原告管理著作物を含む楽曲の演奏及び飲食物を提供することを目的とするライブハウスである本件店舗とは事案を異にするものであるから、被告らの上記主張は採用することができない。 また、被告らは、被告らを演奏主体と認めると、出演者と被告らのいずれもが演奏主体に当たることになるから、二重取りを許すことになって相当でない旨の主張もしているところ、利用許諾を得ることなく出演者が本件店舗において楽器の演奏や歌唱をした場合、出演者と被告らは、原告に対し、共同不法行為者として不真正連帯債務を負うと考えられるから、原告管理著作物の使用料相当額の賠償金が二重に徴収されることにはならないので、被告らの上記主張も採用することができない。 3 争点(2)(オリジナル曲の演奏による著作権侵害の成否)について 被告らは、自ら制作したオリジナル曲を演奏することは、原告に著作権管理を信託している著作者自身が許諾しているのであるから、不法行為に当たらないと主張する。 しかし、前記1(7)イのとおり、原告と著作権信託契約を締結した委託者は、その契約期間中、全ての著作権及び将来取得する全ての著作権を、信託財産として原告に移転しているから、原告管理著作物の著作権者は、原告である。そうすると、利用者が誰であっても、原告の許諾を得ずに原告管理著作物を利用した場合には、当該利用行為は著作権侵害に当たるといわざるを得ない。 したがって、被告らの上記主張は採用することができない。 4 争点(3)(被告らの故意又は過失の有無)について 前記1(4)アのとおり、被告らは、本件店舗を開いた後は、原告に著作権料を支払わなければならないことを認識していたのであるから、著作権侵害行為の認識があったことは明らかであり、被告らには著作権侵害の故意があったというほかない。 この点に関して被告らは、本件店舗における演奏曲目や出演者が権利者から許諾を得たかどうかを知らないから故意がない旨の主張をしているが、著作権侵害の故意の有無の判断に当たっては、他人が権利を有する楽曲を利用していることの認識があれば足り、具体的な楽曲名や権利者の認識までは要しないと考えられること、本件店舗における多くのライブにおいて、具体的な数はともかく、原告管理著作物が演奏されていることについては当事者間に争いがないこと及びライブハウスの出演者自らが原告から許諾を得ることは一般的ではなく、前記1(4)アのとおり、被告Bも、本件店舗以外のライブハウスに出演したことがありながら、原告から許諾を得たことはなかったことに照らすと、本件店舗における演奏曲目や出演者が権利者から許諾を得たかどうかの認識は本件における被告らの主観的要件の判断を左右するものではない。 したがって、被告らの上記主張は採用することができない。 5 争点(4)(原告による許諾の有無)について (1) 被告らは、平成24年6月11日の本件調停の第2回調停期日において、原告と被告らとの間で、被告らないし被告Aが、原告に対し、1曲当たり140円の使用料を支払うという内容で合意が成立したとか、原告が被告らに対し、原告管理著作物の利用を許諾する旨の意思表示をしたなどと主張する。 しかし、前記1(5)のとおり、第2回調停期日において、被告Bが、将来分については、「社交場利用楽曲報告書」に記載をして演奏楽曲を報告すること及び「積算算定額による包括許諾契約」によって使用料を支払う旨述べたこと並びに原告の職員が、1曲当たりの使用料は140円である旨述べたことが認められるものの、その後の第3回調停期日において、被告B代理人の鈴木弁護士が、将来の原告管理著作物の利用については、包括的な許諾をした上で使用料については曲別の事後清算をするという方式の利用許諾契約を提案したこと、第5回調停期日において、原告が、包括的利用許諾契約の締結を内容とする調停案を提出し、鈴木弁護士が、第2回調停期日における事実上の申し合わせを踏まえて契約条件について詰めの作業を行う必要がある旨記載した準備書面を提出したこと、第6回調停期日において、鈴木弁護士が、「社交場利用楽曲報告書」に基づいて原告が使用料を分配する旨の合意が平成24年6月11日に成立したことを当事者双方が確認するという内容の調停条項案を提出したものの、原告はこれに同意しなかったこと、第7回調停期日において、本件調停が不成立に終わったことなどを総合すると、本件調停の過程のいずれの時点においても、原告と被告ら又は被告Aとの間で、原告管理著作物の利用に関し、利用条件等の契約の重要部分について意思が合致したとはいえず、また、原告及び被告らが、平成24年6月11日当時、契約が成立した旨認識していたと認めることもできないから、原告と被告ら又は被告Aとの間で、同日に原告管理著作物に係る利用許諾契約が成立したと認めることはできない。 (2) この点に関して被告らは、本件では、原告の単独行為である許諾の意思表示の有無が問題であるなどとも主張する。 しかし、原告による原告管理著作物の利用許諾は無条件ではなく、許諾を受けた者は少なくとも使用料を支払う義務を負う。そうすると、原告による利用許諾は、被告との間の双務契約によりされるものであって、その成立には双方の意思の合致を要するというべきであるから、被告らの上記主張は理由がない。 6 争点(5)(権利濫用等の抗弁の成否)について (1) 被告らは、原告が、独占禁止法に反する違法な包括的契約を強要し、背信的な交渉を行い、被告Aから使用料を受領しないこと等を理由として、原告の各請求は権利の濫用及び(又は)信義則違反(形式的権利の濫用、優越的地位の濫用、公序良俗違反、禁反言則違反、説明義務違反、誠実交渉義務違反等)に該当するなどとるる主張する。 (2) そこで検討するに、そもそも本件全証拠を精査しても、原告が被告らに対し包括的契約の締結を強要した事実を認めるに足りない。 確かに、前記1(4)及び(5)の経緯に照らすと、被告らが、使用料が権利者に正確に分配されるものではない包括的契約が不適切であると考えたり、原告が被告らに包括的契約の締結を強要していると感じたり、過去の演奏楽曲についておよそ困難な「社交場利用楽曲報告書」の作成を強いられた上に、揚げ足を取るような指摘をされたと感じて、原告に対し不信感を抱くことは理解できないわけではないものの、原告は、被告らに対し、本件調停前の交渉過程及び本件調停において、包括的契約以外の契約方法があることも説明しているし、包括的契約以外の方法で契約する場合に必要となる「社交場楽曲利用報告書」の書式を交付するなどしているのであるから、原告が、被告らに対し、包括的契約の締結を強要したとは到底認めることはできない。そして、原告は、著作権等管理事業法により、文化庁長官に届出をした使用料規程に基づいて使用料の徴収をするものとされているのであるから、原告管理著作物の利用者に対し、使用料規程に記載された方法での契約を促すことは決して不当なことではない。 (3) 次に、仮に、原告が被告らに対し締結を求めていた包括的契約が違法なものであると認められたとしても、これをもって被告らの無許諾での原告管理著作物の利用行為が適法な行為に転化するということはできず、無許諾での利用に対する使用料相当損害金の請求や差止請求を制限すべき理由に当たるということもできない。 この点に関して被告らは、最高裁判所平成27年4月28日第三小法廷判決を引用して、上記判示は、ライブハウスにも当てはまるものであり、原告が、被告らに締結を求めていた包括的契約は独占禁止法に違反する違法なものであるから、本件各請求は権利濫用に当たり許されないと主張する。 しかし、上記判決は、原告が、ほとんど全ての放送事業者との間で、音楽著作物について包括許諾による利用許諾契約を締結し、その金額の算定に放送利用割合が反映されない徴収方法により放送使用料を徴収する行為が、他の著作権等管理事業者の事業活動を排除するものであると認めたものであって、同判決は、ライブハウスに対する利用許諾がおよそ違法であると判断したものではないから、本件とはおよそ事案を異にし、上記判決の判旨が本件に影響するものでないことは明らかである。 したがって、被告らの上記主張は採用することができない。 (4) また、原告が、本件店舗における過去の演奏利用に対する使用料の受領を拒否したという事実が認められたとしても、原告と被告らとの間で、過去の使用料相当損害金の額について争いがある以上、原告が、被告Aによる弁済が本旨弁済に当たらないと考えて受領を拒否したとしても、原告の態度が極めて不誠実であり本件請求が信義則違反に当たるとまでいうことはできない。 (5) そして、原告が、委託者に対する分配額や分配率を回答しなかったことは、原告と委託者との間の著作権信託契約関係においては不相当といえる可能性が仮にあるとしても、これをもって、利用許諾契約を締結しようとする権利者である原告と利用者である被告らとの間の関係において、原告の態度が被告らに対する信義則違反に当たるということはできない。 (6) 以上のとおり、被告らの権利濫用等の抗弁に係る主張はいずれも理由がない。 7 争点(6)(差止請求の適法性及び差止めの必要性)について (1) 差止請求の適法性及び差止の必要性について 被告らは、請求の趣旨に「〜させる」とか「使用する」などの文言が使用されていることを理由として差止請求の対象が特定されていないと主張するが、原告が、請求の趣旨第1項により、本件店舗における現在の原告管理著作物の利用態様を前提として、被告らによる原告管理著作物の利用の差止めを求めていることは原告の請求原因事実の主張から明らかであるから、差止請求の対象が特定されていないということはできず、また、請求原因の主張が欠けているともいえない。被告らの主張は独自の見解に基づくものであって採用の限りではない。 そして、前記2及び5で判示したとおり、被告らは著作権侵害主体に当たり、かつ、原告と被告らとの間で、原告管理著作物に係る利用許諾契約が締結されていないにもかかわらず、前記1(2)及び(3)のとおり、被告らは、本件店舗6階部分において、現在も、原告管理著作物を利用している。 そうすると、被告らは、原告の著作権を侵害する行為を現にしているというほかないから、差止めの必要性があるといえる。 (2) その他の被告らの主張について 被告らは、原告による利用許諾の拒否を前提とする差止請求には理由がない旨の主張をしているが、本件の差止請求は、原告と被告らとの間で原告管理著作物に係る利用許諾契約が締結されていないことを前提としており(なお、原告による利用許諾が双務契約によりされるものであり、契約の成立には当事者双方の意思の合致を要することは、前記5に判示したとおりである。)、原告による利用許諾の拒否を前提としているものではない。 もっとも、著作権等管理事業法16条には「著作権等管理事業者は、正当な理由がなければ、取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならない」と規定されていることからすると、原告は、利用者からの利用許諾の申し入れを正当な理由なく拒否できないから、被告らが、使用料規程に定められた方法において許諾の申し込みをした場合には原告はこれを拒否することができないというべきであって、被告らは、原告との間で、容易に、原告管理著作物に係る利用許諾契約を締結することができ、契約締結後は、同契約に従って原告管理著作物を利用できるはずである。 ところで、被告らは、原告が、「原告管理著作物1曲の使用につき140円を被告Aが本件店舗におけるライブの出演者から徴収してその積算額を原告に支払い、原告がこれを正当な著作権者に分配する」という内容の許諾の申し入れに応じなかったことをもって、原告が利用許諾を拒否していると主張しているものと解されるが、上記方法は、使用料規程に定められていない方法であるところ、原告が、文化庁長官に届け出た使用料規程に定められた方法以外の方法による契約の締結に応じないことは、事務処理の煩雑性を回避して手数料を低廉に保つために必要な合理的な措置であると考えられるから、原告には、許諾の申し入れを拒否する正当な理由があるといえる。被告らは、使用料規程に「社交場における演奏等のうち、利用の態様に鑑み本規定により難い場合の使用料は、利用者と協議のうえ、本規定の額の範囲内で決定する。」(甲3・42頁)という記載があることから、原告は、使用料規程によらない方法での申し込みも受諾すべきである旨の主張もしているが、上記規定の文言に照らすと、同規定は、原告管理著作物の「利用の態様」が、通常の社交場等における利用の態様とは異なるために、使用料規程に定められた方法を適用することが相当ではない場合に対応するための例外的な規定であると考えられるから、同規定が存在することをもって、原告が利用者に対し、当該利用者が希望する使用料規程に規定される方法以外の方法において、利用許諾をすべき義務があるということはできない。 (3) そして、前記6のとおり、原告の差止請求は権利濫用に当たるとはいえず、また、そのほかに差止請求を制限すべき理由はないから、原告の差止請求には理由がある。 8 争点(7)(将来請求の可否)について (1) 原告は、本件口頭弁論終結以後も、被告らの不法行為が継続することが確実であると主張して、将来の不法行為に基づく損害賠償請求をしている。 将来の給付を求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り認められるところ(民事訴訟法135条)、継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権については、たとえ同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であっても、損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず、具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができ、かつ、その場合における権利の成立要件の具備については債権者においてこれを立証すべく、事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生としてとらえてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものは、将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和56年12月16日大法廷判決・民集第35巻10号1369頁、最高裁判所平成19年5月29日第三小法廷判決・裁判集民事224号391頁等参照)。 (2) 本件についてみると、本件店舗においては、ライブの出演者自らが演奏曲目を決定しており、被告らによる原告著作物の利用楽曲数は毎日変動するものであり、その損害賠償請求権の成否及びその額を一義的に明確に認定することはできず、具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができるものであるし、かつ、権利の成立要件の具備については権利者である原告が主張立証責任を負うべきものである。そうすると、本件の損害賠償請求権は、将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有さないから、請求の趣旨第3項に係る訴えのうち、口頭弁論終結日の翌日である平成28年2月11日以降に生ずべき損害賠償金の支払いを求める部分は不適法であるといわざるを得ない。そして、このことは、原告の請求が、将来の不当利得返還請求であると解した場合も同様である。 したがって、上記部分に関する訴えはいずれも却下を免れない。 9 争点(8)(損害ないし損失発生の有無及びその額)について (1) 原告は、被告らが、@平成21年5月23日から平成22年1月31日までは本件店舗5階部分において、一月当たり28日、一日当たり15曲の原告管理著作物を利用し、A平成22年2月1日から平成27年10月31日までは、本件店舗5階部分において、一月当たり6日、一日当たり13曲の原告管理著作物を利用し、本件店舗6階部分において、一月当たり28日、一日当たり15曲の原告管理著作物を利用し、B平成27年11月1日から平成28年2月10日(本件口頭弁論終結日)までは、本件店舗6階部分において、一月当たり28日、一日当たり15曲の原告管理著作物を利用したと主張し、使用料相当損害金の額については、別紙6のとおり、@の期間について、平成21年5月分が1万7924円、同年6月から平成22年1月までの分が月6万1740円で、合計51万1844円、Aの期間について、平成22年2月から平成26年3月までの分が月7万3206円(本件店舗6階部分につき月6万1740円、本件店舗5階部分につき月1万1466円)、同年4月から平成27年10月までの分が月7万5297円(本件店舗6階部分につき月6万3504円、本件店舗5階部分につき月1万1793円)で、合計509万0943円(本件店舗6階部分につき合計429万3576円、本件店舗5階部分につき合計79万7367円)、Bの期間について、月6万3504円と主張している。以下、上記各期間における損害額を検討する。 (2) @平成21年5月23日から平成22年1月31日までの期間 被告らは、別紙7のとおり、平成21年5月から平成22年1月までの使用料相当額を月2万3473円と推測している。 そして、原告は上記期間について、本件店舗における演奏曲目や利用された原告管理著作物の楽曲数についての調査を行っておらず、本件店舗において、原告の主張する数の原告管理著作物の演奏がされていた事実を認めるに足りる証拠がない。また、前記1(3)ウのとおり、本件店舗の開店当初は、週末のみライブを開催していたという事実に照らしても、一月当たり28日、一日当たり15曲の原告管理著作物が演奏されたことを前提とする原告の主張は、上記期間における本件店舗の原告管理著作物の利用状況と整合していないことがうかがわれるから、原告の上記期間の損害額に係る主張は採用できない。 そうすると、使用料相当損害額は被告らが推測する限度において認めるほかなく、平成21年5月23日から同月31日までの使用料相当額は原告の主張する1万7924円(別紙6の「遅延損害金計算書(施設番号1)」参照)であり、同年6月から平成22年1月までの使用料相当額は月2万3473円であると認めることが相当である。 (3) A平成22年2月1日から平成27年10月31日までの期間 ア 被告らは、別紙7のとおり、上記期間のうち平成22年2月1日から平成24年6月10日までの使用料相当額について、平成22年2月から平成24年5月までの分が月2万3473円、同年6月1日から10日までの分が7824円であると推測している。次に、被告らは、出演者が演奏曲目等を記入した「社交場利用楽曲報告書」に基づいて、平成24年6月11日から平成25年9月30日までの原告管理著作物の演奏楽曲数が、別紙12のとおり、合計2574曲であると主張している。また、前記1(6)のとおり、被告Aは、平成24年6月11日から平成27年10月31日までの原告管理著作物の利用について1曲当たり140円として計算した使用料であるものとして供託をしているから、別紙8の「供託金額」欄記載の供託金額を140円で除すことによって、被告らが認識している平成25年10月以降の原告管理著作物の利用楽曲数を推定すると、別紙8の「推定演奏楽曲数」欄記載のとおりである(140円で割り切れない場合には、四捨五入した。)。これによると、被告らは、平成25年10月1日から平成27年10月31日までの原告管理著作物の利用楽曲数が、合計5077曲であると認識していることが認められる。 イ 原告は、本件店舗において実態調査をしたライブにおける原告管理著作物の演奏楽曲数の平均から、一月当たりの本件店舗における原告管理著作物の演奏楽曲数を推測して損害額を主張しており、証拠(甲15)によれば、原告は、平成22年9月24日から同年12月14日までの間に10回、平成23年6月9日から同年8月11日までの間に8回、平成25年2月20日から同年9月20日までの間に7回の本件店舗の実態調査を実施していることが認められる。もっとも、別紙12記載のとおり、被告らの主張によると本件店舗においては平均月30回程度、原告管理著作物の利用を伴うライブが開催されているところ、原告の実態調査の回数は、上記のとおり約3か月に10回、約2か月に8回、約7か月に7回であり、実態調査が行われたのは、平成22年2月1日から平成27年10月31日までの5年10か月間において、25回にすぎないこと及び前記1(2)及び(3)のとおり、本件店舗では、出演者がライブの内容を自由に決めることができ、演奏時間やジャンルが一定ないし類似しているとはいえない上、原告による実態調査の結果をみても、算定曲数(演奏された原告管理著作物について、演奏時間が5分から10分までのものを2曲、10分を超えるものを3曲と算定したもの)が、11曲のものから32曲のものまであることからして、本件店舗のライブにおいて、一般的に、同程度の数の原告管理著作物が演奏されているとは言い難いこと、本件店舗においては、来客がなかったことからライブを行わなかったこともあったこと(弁論の全趣旨)などを総合すると、上記期間において、原告の主張する利用楽曲数が、本件店舗において演奏されたと認めるに足りる証拠がないといわざるを得ない。 ウ もっとも、平成25年7月29日に開催されたライブについては、被告らは、原告管理著作物の利用楽曲数が0曲であると主張している(被告準備書面(3)別紙2の3)ものの、証拠(甲36、甲40の1・2、被告B)によれば、原告管理著作物が10曲演奏されたと認められる。そのほかにも、証拠(甲36、66、被告B)によれば、平成24年7月7日のライブ(被告らは11曲と主張・被告準備書面(9)別紙1の2)において17曲、同年8月17日のライブ(被告らは10曲と主張・同別紙1の3)において16曲、同年9月1日のライブ(被告らは16曲と主張・同別紙1の4)において18曲、同年10月8日のライブ(被告らは4曲と主張・同別紙1の5)において11曲、平成25年3月2日のライブ(被告らは15曲と主張・被告準備書面(3)別紙2の2)において19曲、同年5月17日のライブ(被告らは0曲と主張・被告準備書面(9)別紙1の10)において10曲、同年6月14日のライブ(被告らは13曲と主張・被告準備書面(9)別紙1の11)において14曲、同年7月28日のライブ(演題等「アニソン」。被告らは8曲と主張・被告準備書面(3)別紙2の3)において16曲、同年8月24日のライブ(被告らは10曲と主張・被告準備書面(9)別紙1の12)において27曲、同月28日のライブ(被告らは6曲と主張・同別紙)において13曲、同年9月8日のライブ(被告らは0曲と+主張・被告準備書面(3)別紙2の4)において10曲の原告管理著作物が演奏されたと認められる。 さらに、証拠(甲68の1・2、乙18、被告B)によれば、平成24年7月17日のライブ(被告らは1曲と主張・被告準備書面(9)別紙1の2)において7曲、同年8月9日のライブ(被告らは0曲と主張・被告準備書面(9)別紙1の3)において7曲、同年10月30日のライブ(演題等「I」。被告らは3曲と主張・被告準備書面(9)別紙1の5)において9曲、平成25年3月11日のライブ(被告らは2曲と主張・被告準備書面(3)別紙2の2)において8曲、同年5月27日のライブ(被告らは2曲と主張・被告準備書面(9)別紙1の10)において8曲、同年7月24日のライブ(被告らは0曲と主張・被告準備書面(3)別紙2の3)において8曲の原告管理著作物が演奏されたと認められる。 これらを考慮すると、本件店舗における平成24年6月11日から平成25年9月30日までの原告管理著作物の演奏楽曲数は、別紙12の「認定演奏楽曲数」欄のとおりと認めることが相当である。 エ ところで、原告は、被告らが出演者に作成させた「社交場利用楽曲報告書」は、記載の不備や楽曲記載漏れが多く、信用できないと主張しているが、そもそも、損害額については原告が主張立証責任を負うものであるから、被告らの提出した書証に不備があるからといって原告の主張を直ちに採用できるものではない。 そして、被告らが本訴において主張している利用楽曲数(別紙12)は、出演者の記載した「社交場利用楽曲報告書」に基づいて被告らが算定した利用楽曲数よりも原告の実態調査の結果が多い場合には、原告の実態調査の結果を採用して計算しているものの、原告が、実態調査の結果、演奏時間が5分以上であったとして2曲以上と算定しているものについても、1曲と算定しているので、この点において原告の主張する利用楽曲数と合致していない場合があるが、ライブハウスにおける演奏においては、各楽器奏者が、もともとの楽曲には依拠せずにアドリブ演奏を挟むなどして、演奏時間が延長されることも想定されるところであるから、ある楽曲の演奏時間が5分以上であったからといって、直ちに原告管理著作物を5分以上利用したと認めることはできない。そうすると、実態調査時に演奏時間が5分以上であった楽曲を、使用料規程に従って2曲以上であると算定するには、これを裏付ける証拠がなお足りないというほかない。 オ そこで、上記ウで認定したもののほかは、被告らが認めている原告管理著作物の利用楽曲数に基づいて損害額を算定するよりほかなく、その数は別紙8の「推定演奏楽曲数」欄記載のとおりと認めるのが相当である。 そして、これらの利用楽曲数に1曲当たり140円を積算し、さらに消費税を加算して計算される各月の使用料相当損害金の額は、別紙11の「使用料相当損害金」欄記載のとおりである。 カ ところで、被告らは、1曲当たり140円(税抜)とする使用料額についても争っているが、この額が、原告の使用料規程に従って本件店舗の客観的な座席数及び平均的な標準単位料金をもとに算定された金額であること、ミュージックチャージ及び飲食代を加算した額を標準単位料金とすることは、被告らと出演者のいずれもが原告管理著作物の利用主体に当たる本件においては、実態を反映したものであって合理的といえることなどに照らし、1曲当たりの使用料を140円(税抜)と認めることが相当である。 (4) B平成27年11月1日から平成28年2月10日までの期間 原告の主張する利用楽曲数を採用することができないことは上記(3)と同様であるところ、上記(3)において認めた直近1年間(平成26年11月から平成27年10月までの1年間)の使用料相当損害金の平均額を算定すると、一月当たり2万8073円であるから、これをもって上記期間の使用料相当損害額と認めることが相当である。また、平成28年2月1日から同月10日までの使用料相当損害金は、上記一月当たりの額を日割り計算して、9680円である。 (5) ところで、前記第2、2(5)のとおり、被告らは、原告に対し、平成26年2月24日の本件弁論準備手続期日において、平成21年5月23日(本件店舗開店日)から平成22年10月30日までに生じた不法行為に基づく損害賠償請求権について、消滅時効を援用したので、上記請求権は時効により消滅したものと認められる。 もっとも、前記2及び4のとおり、被告らは、原告管理著作物の演奏主体として、原告に対し使用料を支払う義務を負っており、当該義務を認識していたにもかかわらず、その支払をしていないから、被告らには使用料相当額の不当利得があり、かつ、これについて悪意であるというべきである。そうすると、被告らは、原告に対し、平成21年5月23日から平成22年10月30日までの原告管理著作物の利用に関し、不法行為に基づく損害賠償債務と同額の不当利得返還債務を負い、不当利得返還金に対する原告管理著作物を利用した日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息金の支払義務を負うと認めるのが相当である。 なお、被告らは、ミュージックチャージを受領していないから利得がない旨の主張をしているが、被告らの利得は、上記のとおり原告管理著作物の利用に係る使用料の支払をしていないことにあるから、ミュージックチャージの全額を出演者が得ているという事実は、上記判断を左右しない。 (6) 供託について 被告Aは、前記1(6)のとおり、合計106万9220円を供託しているが、その原因は、原告と被告Aとの間での平成24年6月11日付け合意に基づく支払の受領を原告が拒否したこと、というのであるから、上記供託をもって本件の損害賠償債務の履行に当たるということはできず、上記供託の事実は、不法行為に基づく損害賠償金に対する遅延損害金の発生を妨げない。 さらに、被告らは、真の権利者に正しく分配されることが担保されるよう、真の権利者に渡すべき金銭を原告に引き渡すことを留保する正当な権利があるから遅延損害金が発生しない旨の主張もしているが、原告による委託者に対する分配方法が極めて不合理であるために権利行使が違法というほかないような場合であればともかく、本件において、原告は、文化庁長官に届け出た著作権信託契約約款及び使用料規程に基づいて原告管理著作物の利用者である被告らに対して権利行使をしようとしているにすぎず、その余の事情を考慮しても、被告らが原告に対する使用料の支払を留保する正当な理由があると認めることはできない。 (7) 合計 ア 使用料相当損害金又は不当利得金 以上を合計すると、平成21年5月23日から平成28年2月10日までの原告管理著作物の利用に係る使用料相当損害金又は不当利得金の合計額は212万4412円であり、そのうち、平成27年10月31日までに生じた使用料相当損害金又は不当利得金の合計額は203万0513円である。 イ 原告は、使用料相当損害金又は不当利得金について、原告管理著作物を利用した日の属する月の翌月1日から平成27年10月31日までに生じた遅延損害金又は利息金を請求しており、これを計算すると、別紙11の「遅延損害金又は利息金」欄記載のとおりであり、合計額は30万6858円である。 ウ 弁護士費用等 本件の著作権侵害による不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、本件の事実経緯等を考慮すると、これを40万円と認めることが相当である。 エ 合計額 上記を合計すると、損害額又は不当利得額は合計283万1270円である。そして、原告は、平成27年10月31日までに生じた使用料相当損害金又は不当利得金並びに弁護士費用に対する同年11月1日から支払済まで年5分の割合による遅延損害金又は利息金の支払を求めているから、これを認める。 10 結論 以上のとおり、原告の請求については、そのうち将来の給付を求める訴えの部分は不適法であるからこれを却下することとし、差止請求は理由があるからこれを認容し、不法行為又は不当利得に基づく請求は、被告らに対し、連帯して、283万1270円及びうち243万0513円に対する平成27年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこの限度で認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文第1項に係る仮執行宣言は相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 東海林保 裁判官 廣瀬孝 裁判官 勝又来未子 (別紙1)店舗目録 店舗名 「LIVE BAR X.Y.Z.→A」 (1) 所在地 (省略) (2) 所在地 (省略) (別紙2から別紙7、別紙9、別紙10は省略) (別紙8)供託金一覧表
使用料相当損害金の計算 H25.10〜H26.3 推定演奏楽曲数×140円×1.05(消費税) H26.4以降 推定演奏楽曲数×140円×1.08(消費税) H26.11〜H27.10の平均使用料相当損害金(一月当たり) 28,073 円 (別紙11)使用料相当損害金一覧
(上記のうち平成27年10月31日までに生じた使用料相当損害金) ( 2,030,513 円) 平成27年10月31日までに生じた遅延損害金又は利息金 306,858 円(1円未満四捨五入) 使用料相当損害金及び遅延損害金又は利息金の合計額 2,431,270 円 (別紙12)被告らの主張する管理著作物の演奏楽曲数
(*)平成24年6月11日から同月30日までの分。 |
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