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【事件名】CADソフトの利用許諾事件
【年月日】平成28年3月24日
 大阪地裁 平成27年(ワ)第7614号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成28年2月23日)

判決
原告 トリンブル・ソリューションズ社
同訴訟代理人弁護士 村本武志
同訴訟復代理人弁護士 櫛田博之
被告 P1
同訴訟代理人弁護士 冨宅恵
同 西村啓


主文
1 被告は、原告に対し、836万円及びこれに対する平成24年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、別紙プログラム目録記載のプログラム(以下「本件プログラム」という。)の著作権者である原告が、同プログラムの不正コピー品を購入しコンピュータにインストールして利用した被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として836万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成24年11月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1) 当事者
ア 原告は、ソフトウェアの開発及び販売、並びにそれらに付帯する事業を行っているフィンランド法人である。
イ 被告は、鋼構造物の製作及び取付け等を目的とする会社である。
(2) 本件プログラム
ア 原告は、本件プログラムの著作権者である(甲3、4)。
イ 原告は、日本国内において、100%の子会社であるテクラ株式会社を通じて本件プログラムのライセンス契約をしている(甲5)。
(3) 被告による著作権侵害行為
ア 被告は、平成24年10月頃、インターネットを通じ、建築・建設業界向け構造詳細設計用3DCADソフトウェアである本件プログラムの不正コピー品であるインストール用DVDを購入した(甲2)。
イ 被告は、上記DVDを用いて被告事務所の2台のコンピュータに本件プログラムを順次インストールし、同月頃から平成26年6月頃までの間、本件プログラムを利用して、業務として図面作成を行い、使用する鉄骨量の見積り等を行っていた(甲6)。
2 争点
(1) 本件プログラムについての著作権侵害について被告に故意又は過失があるか。
(原告の主張)
 被告は、本件プログラムと古いバージョンのものについて原告からライセンスを受けたことがあるのに、今回、本件プログラムについてライセンスを受けることなく複製権を侵害する行為をなしたのであるから、複製権の侵害につき、故意又は少なくとも過失があることは明らかである。
(被告の主張)
 被告がかつて本件プログラムの古いバーションについて原告からライセンスを受けた事実は認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。
(2) 被告の複製権侵害により原告の受けた損害の額
(原告の主張)
ア 本件プログラムを利用するためには、ライセンス契約を締結し1台当たり380万円のライセンス料を支払う必要がある。なお、上記ライセンス料には、保守料などの他のサービス料は含まれていない。また原告は、テクラ株式会社を通じて本件プログラムのライセンス契約をしているが、同社は100パーセント子会社であるから、原告が受けるべきライセンス料に変わりはない。
イ そして、被告は本件プラグラムを2台のコンピュータにインストールして利用したから、原告が被告の複製権侵害により受けるべき金銭の額は上記ライセンス料2台分である760万円(380万円×2)であり、同額が原告の損害額となる(著作権法114条3項)。
ウ また、原告は原告訴訟代理人に対し、本件訴訟の追行を委任したのであるから、被告の著作権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は、少なくとも76万円を下らない。
エ 以上により、被告による本件プログラムの複製権侵害行為により原告の受けた損害の額は836万円を下らない。
(被告の主張)
ア 本件プログラムの通常のライセンス料の額については否認する。プログラムのライセンス料には保守料その他付随するサービス料が含まれている場合があり得るので、その点が考慮されるべきである。また、原告は、テクラ株式会社を通じてライセンス契約をしているから、その点も考慮されるべきである。
イ(ア) 被告が本件プログラムを2台のコンピュータにインストールした事実は認めるが、2台目のコンピュータにインストールした理由は、1台目のコンピュータがウィルス感染したからである。本件プログラムを実際に利用していた者は被告代表者だけでったから、2台のコンピュータにインストールされた本件プログラムを並行して利用したことはない。そして、本件プログラムのライセンスを正式に付与された場合、買い替えその他の理由により、インストールするコンピュータを変更する必要があるときには、ライセンス認証の解除等、所定の手続きを経ることにより、新たなライセンス料を支払うことなく、これを行うことが可能であるから、これらの事情を踏まえれば、本件において、「著作権の行使につきうけるべき金銭の額に相当する額」は、2台分のライセンスではなく、1台分のライセンスを基準として算定すべきである。
(イ) 被告は、原告から不正コピーの指摘を受けた平成26年6月頃には本件プログラムをコンピュータから削除したから、その利用期間は1年8か月程度である。したがって、損害額は、原告が主張する永久ライセンスの場合のライセンス料を基準とするのではなく、インストールから削除までの1年8か月に限定したライセンス料を基準とすべきであるから、プログラムが耐用年数を5年として減価償却されることからすると、損害額は通常のライセンス料の3分の1が相当である。
ウ 弁護士費用の損害については争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
 被告による本件プログラムのコンピュータへのインストール行為は、著作権者である原告からライセンスを受けずに、すなわち利用許諾を受けずになされたものであるから、複製権を侵害する違法な行為である。
 そして、被告は、かつて本件プログラムの古いバーションについては原告からライセンスを受けた事実を認めているのであるから、今回の本件プログラムのコンピュータへのインストールについて原告のライセンス(利用許諾)が必要であったことは認識していたと認められ、そうであれば、本件プログラムの複製権侵害行為について、被告に少なくとも過失があることは明らかである。
2争点(2)について
(1) 証拠(甲5、7、8)及び弁論の全趣旨によれば、日本国内において本件プログラムを適法に利用するためには、テクラ株式会社を通じて原告とライセンス契約を締結して利用許諾を受ける必要があり、その場合、コンピュータへのインストール台数1台当たり380万円を支払う必要があることが認められる。そして、上記金額は、その後の保守料その他の付随するサービス料を含むものではないと認められるが(甲4、弁論の全趣旨)、被告は、本件プログラムを2台のコンピュータにインストールした事実を認めているのであるから、著作権法114条3項にいう、原告が「受けるべき金銭の額に相当する額」は、複製権侵害行為が2回行われたことを前提に760万円を下らないものと算定するのが相当である。
(2) 被告の主張について
ア 被告は、損害額を算定するに当たり、ライセンス契約がテクラ株式会社を通じてされることを考慮すべきように主張する。
 確かに通常のライセンス契約の場合、ライセンス料には、テクラ株式会社を介在させる経費を含んでいるはずであるから、著作権者である原告が実際に受ける契約1件当たりのライセンスの額は380万円を下回っているものと認められる。
 しかし、著作権法114条3項にいう「著作権・・・の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」とは、利用許諾契約(ライセンス契約)を締結した場合の利用許諾料(ライセンス料)を参酌するとしても、権利者は当該侵害者との関係で必ず利用許諾契約の締結に応じなければならないわけではなく、むしろその契約締結に応じるか否かの自由を有していることも踏まえて算定されるべきであり、そうすると、本件における原告の損害は、上記認定のとおり、原告の主張する通常のライセンス料相当額をそのまま用いて認定するのが相当というべきである(被告の主張によれば、違法行為をした被告が、もし望めばテクラ株式会社を介在させずに原告と直接ライセンス契約を締結できたと同然になり、その結果、適法な契約者より安価な経済的負担で済むことになってしまい不合理であることは明らかである。)。
イ 被告は、本件プログラムを2台のコンピュータにインストールした事実を認めながら、その目的や利用実態を述べて1台に準じた損害の額として算定すべきように主張する。
 しかし、適法にライセンス契約を締結したとしても、追加ライセンス料の支払なしに2台目のインストールを適法になすためには所定の手続を要することも被告は自認しているのであるから、もとよりそのような手続を経ようはずもない被告との関係において、それらの事情を斟酌して損害の算定額を減ずべきようにいう被告の主張は失当であって採用できない。
ウ 被告は、また本件プログラムの利用期間を斟酌して損害額を算定すべきように主張する。
 しかし、被告の複製権侵害行為は、コンピュータへのインストールの機会になされ、損害発生は個々の機会をとらえて観念するのであるから、利用期間に応じた損害という主張はそれ自体失当である。また、そもそも本件プログラムを利用するためには、それが1回限りであろうとも所定のライセンス料全額を支払ってライセンスを受けるほかないのであるから、ライセンスを受けることなく利用を開始した被告が、その違法事実を発見されるや、それまでの期間に比例したライセンス料を算定して、その額の支払だけで責任を免れ得るようにいう主張が失当であることも明らかである。
(3) 以上のとおり、被告の著作権侵害により原告の受けた損害の額は760万円と認められるところ、この損害額に本件訴訟に現れた諸般の事情を考慮すると、弁護士費用相当の損害額は76万円を下らないものと認められるから、原告の受けた損害額は836万円を下らない。
3 以上によれば、原告の被告に対する請求はすべて理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を、仮執行宣言につき同法259条 1 項を適用して主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 森崎英二
 裁判官 田原美子
 裁判官 大川潤子


(別紙)プログラム目録
Tekla Structures
バージョン 18.0 SR0
エディション Full Detailing
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日本ユニ著作権センター
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