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【事件名】創価学会名誉会長の写真無断投稿事件
【年月日】平成28年3月4日
 東京地裁 平成27年(ワ)第37302号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成28年2月19日)

判決
原告 創価学会
同訴訟代理人弁護士 中條秀和
同 甲斐伸明
被告 A


主文
1 被告は、原告に対し、180万円及びこれに対する平成28年1月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを2分し、その1を原告の、その余を被告の各負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、350万円及びこれに対する平成28年1月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、別紙写真目録記載の写真(以下「本件写真」という。)の著作者であると主張する原告が、別紙投稿記事目録記載1ないし29の各記事(以下、同目録の番号に従って「被告記事1」などといい、各記事を併せて「被告各記事」という。)をインターネット上の電子掲示板に投稿した被告に対し、本件各記事に掲載された写真は、原告が本件写真について有する著作権(複製権、翻案権、公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものであるとして、不法行為に基づく損害賠償として350万円及びこれに対する平成28年1月22日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。
2 請求原因事実
(1) 原告の著作物
ア 原告は、昭和27年9月8日、宗教法人法に基づいて設立された宗教法人である。
イ 原告の職員であるB(以下「B」という)は、平成19年12月25日、原告の指示を受け、原告の業務として、原告の信仰上の指導者であるC名誉会長(以下「C名誉会長」という。)が、アフリカ諸国の駐日大使と会談した際、C名誉会長を被写体として本件写真を撮影した。Bは、本件写真を撮影するに当たり、背景、アングル、絞り、シャッタースピード等に創意工夫をしており、本件写真には創作性がある。そして、原告の出版・販売業を行う部門(聖教新聞社)は、その機関誌であるグラフSGI2013年1月号に、本件写真を掲載し、原告名義で公表した。なお、原告は、就業規則において、職員が職務上著作した著作物の著作権が原告に帰属する旨規定している。
ウ したがって、本件写真は、原告の発意により、原告の業務に従事する者であるBが職務上作成したもので、原告の著作の名義の下に公表するものであるから、著作権法15条1項により、本件写真の著作者は原告である。
(2) 被告の行為
ア 被告は、別紙投稿記事目録記載1ないし29の投稿日時記載の日時に、株式会社ヤフーが開設、運営する電子掲示板「Yahoo!知恵袋」に、原告の許諾を得ることなく、被告各記事を投稿した。
イ 被告は、被告記事1ないし14において、本件写真の被写体の額に目を1個ないし3個書き入れたものを掲載し、被告記事19、22、23及び27において、本件写真の被写体の目の周囲を茶色に塗り、頬の皺を赤く塗ったものを掲載し、被告記事21、25及び28において、本件写真の被写体の顔の周囲を切り取ったものを掲載した。
ウ 被告は、被告記事15ないし18、20、24、26及び29において、本件写真の複製を掲載した。
(3) 被告による権利侵害並びに原告の損害の発生及びその額
ア 著作権侵害による損害
(ア) 被告は、前記(2)のとおり、インターネット上の電子掲示板に被告各記事を投稿したことによって、原告の著作権(複製権、翻案権、公衆送信権)を侵害した。
(イ) 原告は、その業務上、一般に写真を貸し出すことを予定していないことから、写真貸出(著作権使用)料金の基準を定めておらず、個別に対応している。そこで、一般的な写真の使用料金を参考にすると、ネイチャー・プロダクションが公開している写真国内使用標準料金表によれば、インターネット(中ページ、3か月)で3万円である。
 そして、本件各記事の掲載期間は概ね1ないし3か月であるから、一般的な本件写真の使用料金としては、87万円(=3万円×29)である。
(ウ) もっとも、被告は、C名誉会長を揶揄する目的で、本件写真を著作者である原告の制作意図に著しく反する態様で掲載しているところ、本件のように、著しく著作者の意思に反し、絶対に許諾を与えることがないような態様で著作権を侵害している場合にまで、通常の使用料金から推計した損害額を基準とすべきではない。
 したがって、現行著作権法114条3項が、「侵害し得」を避けるために、旧法にあった「通常」の文言を削除した趣旨と、被告の行為の悪質性に鑑みれば、被告による著作権侵害行為について原告が受けるべき損害額は、通常の許諾の場合の約2倍に相当する額と考えるべきであるから、少なくとも200万円を下ることはない。
イ 著作者人格権侵害による損害
 被告は、前記(2)のとおり、本件写真をトリミングしたり、C名誉会長の額に目を書き込んだり、目の周囲を塗りつぶすなどして、本件写真から受けるイメージを台無しにする改変を加え、原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害した。
 被告の上記行為により踏みにじられた原告の著作者人格権侵害による非財産的損害は100万円を下らない。
ウ 弁護士費用
 本件の被告による不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、50万円を下らない。
(4) よって、原告は被告に対し、不法行為に基づき、350万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成28年1月22日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで、民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 被告は、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。
第3 当裁判所の判断
1 前記のとおり、被告は、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しないから、原告の主張する請求原因事実について、これを自白したものとみなす。
 そうすると、被告は、被告各記事を作成して投稿したことにより、原告の本件写真に係る著作権(複製権、翻案権、公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害したと認めるのが相当である。
2 損害額について
(1) 本件写真の著作権の行使により原告が受けるべき金銭の額について検討するに、一般的な写真使用料金が87万円であること、被告が、あらかじめ許諾を得ることなく、C名誉会長を揶揄する目的で、本件写真を著作者である原告の制作意図に著しく反する態様で掲載したこと、被告各記事の数及び掲載期間等本件に表れた一切の事情(いずれも争いがない事実)を考慮すると、原告が、本件写真の著作権の行使につき受けるべき金銭の額は100万円と認めることが相当である。
 この点に関して原告は、被告の行為について原告が受けるべき損害額は、通常の許諾の場合の約2倍に相当する額と考えるべきである旨主張するが、著作権法114条3項による賠償額があくまで填補賠償であることを考慮すると、裏付けとなる事実が何ら提出されていない本件において、損害額を通常の許諾の場合の2倍に相当する額と認定すべき根拠はないというべきであるから、原告の上記主張は理由がない。
(2) 被告が、被告記事1ないし14において、本件写真のC名誉会長の額に目を1個ないし3個書き入れたこと、被告記事19、22、23及び27において、本件写真のC名誉会長の目の周囲を茶色に塗り、頬の皺を赤く塗ったこと、被告記事21、25及び28において、本件写真のC名誉会長の顔の周囲を切り取ったことの各事実に鑑みれば、被告が、これらの改変を施すことで、原告の宗教上の指導者を揶揄する態様で本件写真の内容を変更し、本件写真から受ける印象を大きく変えて原告の同一性保持権を侵害したというべきところ、改変された写真が掲載された被告記事の個数が21にのぼること及び改変の態様が悪質であること等本件に表れた事情に照らすと、被告の著作者人格権侵害による原告の非財産的損害は、50万円と認めるのが相当である。
(3) 本件の事実経過等に照らすと、被告による不法行為と相当因果関係がある弁護士費用として30万円を認めるのが相当である。
3 以上によれば、原告の請求は、被告に対し、180万円及びこれに対する平成28年1月22日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこの限度で認容し、その余の請求には理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 東海林保
 裁判官 廣瀬孝
 裁判官 勝又来未子


別紙
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