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【事件名】カタログ誌「マダムトモコ」事件
【年月日】平成28年2月29日
 東京地裁 平成26年(ワ)第25479号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成27年12月9日)

判決
 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、270万7635円及びこれに対する平成26年10月17日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 本件は、原告が、株式会社である被告に対し、季刊誌『マダムトモコ』(以下「本件雑誌」という。)の編集、デザイン、レイアウト等に関する請負契約ないし継続的取引契約(以下「本件契約」という。)を平成26年2月21日に一方的に解除された旨主張して、民法641条などに基づく損害賠償請求として、270万7635円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である同年10月17日から支払済みまでの商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、書証番号は、特記しない限り枝番の記載を省略する。また、原告本人尋問の結果及び被告代表者尋問の結果については、本人調書別紙速記録中、当該供述が記載された該当頁を付記する。)
(1) 当事者及び本件雑誌
ア 原告は、「A@デザイン事務所」という屋号で、雑誌やポスターのデザイン等の業務を営んでいた者である(甲24、弁論の全趣旨)。
イ 被告は、婦人服の企画、製造、販売等を業とする株式会社であり、本件雑誌を発刊している。
ウ 本件雑誌は、『マダムトモコ』という題号で、シニアミセス(年配の婦人層)を対象とした婦人服及び雑貨の通信販売のカタログの性格を有する雑誌であり、原則として年に春・夏・秋・冬の4回発行され、例外的に母の日などに臨時増刊号が発行されることがある季刊誌である(甲30ないし34、乙1、11、30、被告代表者〔速記録13頁〕)。
(2) 原被告間における本件雑誌の編集等業務委託取引の経過等
ア 被告は、平成20年7月、原告に対し、本件雑誌2008年秋号の編集・企画、デザイン・レイアウト等の業務を有償で委託し、原告は、同業務を実施した(甲31)。
イ 原告と被告は、それ以降、平成26年1月頃まで、本件雑誌の2011年母の日号を除く各号について、上記アと同様の編集、デザイン等の業務委託に関する取引をした。
ウ 被告は、平成25年11月、原告に対し、本件雑誌の制作等に関する2014年の年間計画を記載した書面(甲1。以下「本件年間計画書」という。)を交付した。
エ 原告は、平成26年1月頃、被告からの委託に基づき、本件雑誌2014年春号の編集、デザイン等の業務を実施した(甲11、32、乙11)。
オ 被告代表者AA(以下「AA」という。)は、平成26年2月21日の打合せ(以下「本件打合せ」という。)において、原告に対し、本件雑誌の編集業務については今後原告ではなく他社に委託する旨を告げた。
カ 被告は、平成26年夏、原告に全く業務を委託せずに本件雑誌2014年夏号を制作した(甲33)。
キ 原告は、平成26年9月29日、当庁に本件訴訟を提起した。
3 主な争点
(1) 本件契約の成否(争点1)
 原告と被告は、平成25年11月頃までに、本件契約を締結したか。
(2) 本件契約の一部解約の成否(争点2)
 仮に争点1に関し本件契約の成立が認められた場合、本件契約のうち編集業務に係る部分について、被告が本件打合せにおいて解約の意思表示をしたことにより終了したか。
(3) 損害額(争点3)
 原告は、被告による本件契約の一方的な解除の結果、幾らの損害を被ったか。
4 上記争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(本件契約の成否)について
【原告の主張】
 原告と被告は、平成20年7月に、原告が以後の本件雑誌の編集・企画、デザイン・レイアウト等の業務を有償(1頁当たり9000円の報酬。ただし報酬額についてはその後変動がある。)で行うことを内容とする包括的な請負契約ないし継続的取引契約(請負契約を基本とし準委任契約の要素をも含んだ契約)として本件契約を締結し、平成25年11月の本件年間計画書の交付により、本件契約の契約期間は少なくとも本件雑誌2014年冬号の制作まで延長された。
 また、原告が既に何年にもわたり本件雑誌の編集等業務を継続的に実施してきた上で、被告が、平成25年11月、原告に対し本件年間計画書を交付して平成26年(2014年)の本件雑誌の制作に係る進行の日程を告げたことにより、当該期間に原告が完成すべき仕事内容についての合意も成立したとみられるから、原告と被告は、平成25年11月に、原告が本件雑誌の2014年各号の編集等の業務を有償で行うことを内容とする包括的な請負契約ないし継続的取引契約として本件契約を締結したということもできる。
 そして、本件契約は請負契約であるから、これを注文者として一方的に解除した被告は、原告に対し、民法641条に基づく損害賠償義務を負う。あるいは、本件契約は継続的取引契約であるから、その契約の性質に照らし、被告は、原告に対し、自らの解除によって原告が被った損害を賠償すべき義務を負う。なお、仮に本件契約が準委任契約を基本とすると評価されたとしても、被告が損害を賠償しなければならないことに変わりはない(民法656条、651条2項)。
【被告の主張】
 原告と被告は、本件雑誌の2014年春号まで各号ごとにその編集等業務を委託する個別の契約をその都度締結していたものであって、原告の主張するような包括的な契約(本件契約)を締結したことはない。本件雑誌については、その季節によって被告の商品及びカタログのイメージが大きく異なるため、各号ごとに、事前に原被告間で、掲載する商品や当該商品の説明文言、カタログの構成・イメージ等について綿密な打合せを要するものであった。そのため、そのような個別の打合せ(被告代表者は、原告との間の反省会を兼ねたミーティングにおいて、本件雑誌の今後の方針や改善点について協議し、これを踏まえて次号の編集等業務を原告に依頼していた。)を経ない限り、業務委託契約の成立は認められないところ、2014年春号より後の本件雑誌については、そのような個別の打合せがされなかった。本件年間計画書は、被告が、関係する取引先に対して翌年の大まかなスケジュールの見通しを立てさせるために交付していたものにすぎず、契約の締結又は延長という趣旨で交付したものではない。
 したがって、本件契約は締結されておらず、原告の被告に対する損害賠償請求は、その前提を欠くものである。
 なお、原告と被告が締結していた契約は、編集等の仕事の完成を目的としたものではなく、被告の広報戦略やブランド戦略を総合的に企画・提案するといういわばコンサルティング契約としての側面も有していた。したがって、上記契約は準委任契約であって請負契約ではないから、被告が原告に対し民法641条に基づく損害賠償義務を負うことはない。
(2) 争点2(本件契約の一部解約の成否)について
【被告の主張】
 仮に、本件契約が包括的な契約として成立していたとしても、本件契約は、期間の定めのない契約であり、平成26年2月21日の時点で、原被告間の信頼関係は破壊されていたから、被告が本件打合せにおいて解約の意思表示をしたことにより、本件契約のうち編集業務に係る部分は終了した。
【原告の主張】
 被告の主張は争う。原告と被告との間で信頼関係の破壊など生じていない。
(3) 争点3(損害額)について
【原告の主張】
 原告は、被告からの本件契約の一方的な解除により、少なくとも本件年間計画書に記載された本件雑誌2014年母の日号から同年冬号までの業務に対する報酬相当額の損害を被った。この損害額は、前年に制作された本件雑誌2013年母の日号から同年冬号までの原告の業務報酬額合計270万7635円と同額である。
【被告の主張】
 原告の主張は争う。そもそも本件において被告が賠償すべき損害は存在しないが、この点を措くとしても、原告への報酬額は本件雑誌の各号の頁数などに応じて個別に決定されていたのであるから、前年分と同額をもって損害額とすることは認められないし、原告において負担を免れた諸経費についても控除されなければならない。
第3 当裁判所の判断
1 事実経過
 前記前提事実に掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
(1) 本件雑誌2008年秋号の業務委託に至る経緯等
ア 被告は、平成20年6月頃、本件雑誌の名称「マダムトモコ」のロゴのデザインをインターネット上で公募にかけ、これに応募した原告の提案を採用した。これを契機に、被告は、同年7月、原告に対し、本件雑誌2008年秋号の編集ないしデザインを依頼した。原告は、被告からの委託を受けて、1頁当たり9000円の報酬で編集、デザイン等の業務を実施した(甲24、31、35、乙6ないし8、30、原告本人〔速記録1〜5、29頁〕、弁論の全趣旨)。
イ 原告と被告は、上記アの業務実施の前後において、本件雑誌の編集その他の制作業務に関する契約書を取り交わすことはなく、また、本件雑誌の2008年冬号以降の編集等業務を原告に委託することについて話すこともなかった(甲35、原告本人〔速記録4〜6、13〜14頁〕、弁論の全趣旨)。
(2) 本件雑誌2008年冬号から2014年春号までの業務委託等
ア 原告と被告は、前記(1)アの本件雑誌2008年秋号の発行後、平成26年1月頃の2014年春号制作に至るまで、本件雑誌の2011年母の日号を除く各号について、前記(1)アと同様の編集・企画、デザイン・レイアウト等の業務委託に係る取引をした。ただし、その業務の具体的な内容(「編集企画・コピー制作」ないし「編集・キャッチコピーライティング」、「テキスト制作」、「モデル・商品写真切り抜き」、「画像加工・DTP制作」ないし「画像処理・加工・修正」、「表紙統一フォーマットデザイン」、「表紙及びメイン写真レタッチ」などの各項目が含まれるか否か)及びこれに対する報酬額については、各号ごとに決定され、変動があった(甲6ないし11、24、乙23、30、原告本人〔速記録29〜30頁〕、弁論の全趣旨)。
イ 本件雑誌2011年母の日号については、被告が、平成23年4月、原告に全く業務を委託せずに制作し、東日本大震災後に特定の寄付をしたことに関する手紙を付して顧客に送付した。そうしたところ、原告は、AAに対し、上記手紙の内容について、被告のコーポレートアイデンティティに関わるものとして不適切な内容であると抗議したが、他方で、「自分が編集を担当することになっていたのではないか。」とか「自分に委託せずに制作したことが契約違反ではないか。」といった趣旨の異議を述べることはなかった(乙1、被告代表者〔速記録5〜7、25〜27頁〕)。
ウ 被告は、平成24年11月頃、原告に対し、本件雑誌の制作等に関する2013年(平成25年)の年間計画を記載した書面を交付したが、それ以前には原告にこのような書面を交付したことはなかった。上記書面は、被告が、原告を含む関係する取引先に対し、翌年の大まかなスケジュールの見通しを立てさせるために交付したものであった(乙30、原告本人〔速記録15〜16頁〕、弁論の全趣旨)。
エ 原告とAAとは、平成25年中、2月6日、6月11日、9月頃及び11月頃に、それぞれ本件雑誌の制作に関するミーティングを開き、印刷が完了した号の反省点等について話し合った(乙24、25、28、30、被告代表者〔速記録2〜3頁〕、弁論の全趣旨)。
オ 被告は、平成25年11月、原告に対し、@商品(婦人服・雑貨)の生産、A本件雑誌(カタログ)の制作及びB店舗での販売に関する2014年(平成26年)の年間計画を記載した本件年間計画書(甲1)を交付した。被告としては、本件年間計画書についても、原告を含む関係取引先に対して翌年の大まかなスケジュールの見通しを立てさせるために交付したものであった。
 本件年間計画書には、「年間計画」という表題の下に、2014年の1月から12月までの各月について、1〜10日、11〜20日、21日〜月末の3つの時期に分けて、それぞれ、@「生産」(商品の生産)、A「カタログ」(本件雑誌の制作)及びB「店舗」(店舗での販売)に関する予定が記載されていた。「カタログ」欄には、「撮影」、「データ到着」、「校了」、「一斉発送」、「母の日DM作成(予定)」といったごく大雑把な項目が、場合によって日にちとともに記載されていたにとどまり、本件雑誌の編集等業務として具体的にどのような内容を原告に委託するかやその委託の対価に関する記載は一切なかった。
 なお、本件年間計画書の「カタログ」欄の記載では、撮影日が年4回と予定されていたが、その後、実際には年2回に変更された。
 おって、原告に交付された本件年間計画書には、上記のとおり、商品の生産に関する内容の記載(上記@の「生産」欄の記載)及び店舗での販売に関する内容の記載(上記Bの「店舗」欄の記載)もされていたが、原告が商品の生産や店舗での販売に直接関与することはなかった(以上につき、甲1、乙30.原告本人〔速記録15頁〕、弁論の全趣旨)。
カ 原告は、平成26年1月頃、被告からの委託に基づき、本件雑誌2014春号の編集・企画、デザイン・レイアウト等の業務を報酬77万7000円(消費税込)で実施した(甲11、32、乙11、原告本人〔速記録21〜22頁〕)。
キ なお、原告は、平成21年から平成26年までの間、幾度かにわたり、被告から、本件雑誌の制作に関する業務以外に、ダイレクトメールやポスターの作成に関する業務などを個別的に引き受けたことがあった(甲35、原告本人〔速記録13頁〕)。
(3) 本件雑誌の2014号夏号以降の制作等
ア AAは、平成26年2月頃、広告代理店から本件雑誌の制作や販売に関し営業上の提案を受けたところ、それまでの原告との取引において原告に対する不信感を抱くようになっていたことに加え、上記提案内容のビジネス上の利点を考慮して、上記提案に応じて以後本件雑誌の編集業務を同広告代理店の勧める会社に依頼しようと決意した。そこで、AAは、原告に対し、同月21日、本件打合せにおいて、本件雑誌の編集業務については今後原告ではなく他社に委託する旨を告げ、他方で、今後もダイレクトメールやポスターに関する仕事については引き続き原告に担当してもらいたいとの提案をし、更に翌22日、「季刊のカタログは業者に回したいのですが A@さんのお気持ち次第ですが 今後もお付き合いさせていただきたいと思っています。」と記載したメールを送信した。これに対し、原告は、反発し、結局、AAからの上記提案も受諾しなかった(甲24〔別紙2、別紙3−1、別紙3−2〕、乙29、30、原告本人〔速記録27〜28頁〕、被告代表者〔速記録7〜12、23〜25頁〕)。
イ 被告は、平成26年夏、原告に全く業務を委託せずに本件雑誌2014年夏号を制作し、以後も、本件雑誌の制作に関する業務を原告に委託することはなかった(甲33、34、乙19ないし21、弁論の全趣旨)。
2 争点1(本件契約の成否)について
(1) 原告は、(A) 平成20年7月に、以後の本件雑誌の編集等に関する包括的な請負契約ないし継続的取引契約として本件契約が成立し、平成25年11月の本件年間計画書の交付によって本件契約が2014年冬号まで延長された、あるいは、(B) 平成25年11月に、2014年の本件雑誌の編集等に関する包括的な請負契約ないし継続的取引契約として本件契約が成立した旨主張する。
 しかしながら、本件においては、原被告間で本件雑誌の編集等業務の委託に関し契約書等による明示の意思表示がされなかったことは争いがなく、本件契約が成立したといえるためには、これと同等の効果意思を内容とする黙示の意思表示の合致があったと認められることが必要となる。
 そこで検討するに、前記1で認定した事実経過、とりわけ、@原被告間においては、平成20年7月の本件雑誌2008年秋号の業務委託の前後で、本件雑誌の2008年冬号以降の編集等業務を原告に委託することについて話が交わされることすらなかったこと、A本件年間計画書は、あくまでも単なる予定を記載したものであって、被告としては、原告を含む関係取引先に対して翌年の大まかなスケジュールの見通しを立てさせるために交付していたものにすぎなかった上、そもそも本件年間計画書には、ごく大雑把な項目の記載がされていたにとどまり、本件雑誌の編集等業務として具体的にどのような内容を原告に委託するかやその委託の対価に関する記載は一切なかったこと、B本件雑誌については、平成20年7月以降も、2011年母の日号のように、現に原告に全く業務を委託せずに制作されたものが存在し、その際、原告は、自己に業務委託されなかったことについて異議を述べなかったこと、C原告に委託される業務の具体的な内容及びこれに対する報酬額については、各号ごとに決定され、変動があったことに照らせば、平成20年7月の取引開始の段階はもとより平成25年11月の本件年間計画書交付の段階においても、原被告間で、契約の要素である委託業務の具体的な内容やこれに応じた対価の金額は決まっていなかったというほかはない。そうすると、平成25年11月時点において、原告が、それまで5年以上にわたり被告との間で本件雑誌の編集等業務委託取引を継続してきた上で、本件年間計画書の交付を受けて平成26年の本件雑誌の制作に関するスケジュールの見通し(ただし上記Aのとおり大まかなもの)を告げられたからといって、原告自身が当該取引の継続を事実上期待するようになっていたとはいえても、契約に必要な要素(具体的な業務内容等)に関する効果意思を内容とする黙示の意思表示の合致があったとは認めることができない。そして、他にこれを認めるに足りる証拠もないから、原被告間で平成25年11月までに原告の主張するような継続的ないし包括的な契約としての本件契約が成立したと認めることはできない。
(2) なお、原告は、@本件雑誌2008年秋号が完成した際、その後もずっと仕事が委託されるかは曖昧であったが、同号の出来栄えをAAが見て、出来が良くないということでなければ、被告からの依頼が続くであろうと思った、Aそこで今後の業務委託について話がされなくても、雑誌の編集方針やデザインコンセプトが一貫することが重要だと思うので、原告への委託が続くことについて不安はなかった、B2008年冬号以降の報酬額は、仮に個別契約であるとした場合に想定される金額より実際には低かったから、個別契約ではなかったはずである、C2014年春号まで各号の業務委託ごとに毎回申込みや承諾があったわけでもないから、個別契約ではなく包括的契約であったはずである、D原告は、本件雑誌の編集等業務を引き受けていたために他社からの仕事を引き受けられなくなったものであり、この点も考慮されるべきである旨主張ないし供述(原告本人〔速記録4、6〜8、14頁〕)する。
 しかしながら、上記@は、あくまで原告の主観的な予想にすぎない(原告も本人尋問〔速記録14頁〕においてその旨自認している。)。上記Aも、原告の主観にすぎない上、原告以外の者に依頼しても雑誌の編集方針の一貫性を相当程度保つ余地はあることなどに照らし、原告への包括的な委託がされたという根拠にはならない。
 また、上記Bの点については、業務委託の報酬額は当事者間の交渉や諸般の事情により決定されるものであることに照らすと、継続的契約があったことを直ちに基礎付け得るものではない。上記Cの点については、本件雑誌の各号について被告が承知した上で原告が編集等業務を実施する段階に入った場合には、遅くともその時点までに個別の契約について黙示の意思表示の合致があったといえるのであって、個別契約についての明示の申込みや承諾がなかったことは、包括的な契約が成立していたことを帰結するものではない。
 上記Dの点については、原告が被告との間で正式に専属の契約などをしていなかった以上、被告がある時期から他社に業務委託をする可能性については原告が自らリスク管理しておくべき事柄であったといわざるを得ないし、いずれにせよ本件契約が成立していたことを根拠付けるものではない。
 したがって、原告が上記主張ないし供述するところによって、前記(1)の判断は左右されない。
(3) 以上によれば、原被告間において本件契約が成立したということはできない。
第4 結論
 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官 笹本哲朗
裁判官 天野研司


(別紙)当事者目録
原告 A@
同訴訟代理人弁護士 北村行夫
同 杉田禎浩
同 大井法子
同 杉浦尚子
同 吉田朋
同 雪丸真吾
同 芹澤繁
同 亀井弘泰
同 名畑淳
同 近藤美智子
同 山本夕子
被告 株式会社マダムトモコ
同訴訟代理人弁護士 成本治男
同 柴野相雄
同 山郷琢也
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