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【事件名】「神獄のヴァルハラゲート」事件
【年月日】平成28年2月25日
 東京地裁 平成25年(ワ)第21900号 収益金配分請求事件
 (口頭弁論終結日 平成27年12月10日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 古田茂
同 志賀厚介
同 坂田真吾
被告 株式会社グラニ
同訴訟代理人弁護士 大村健
同 深町周輔
同 美和薫


主文
1 原告の主位的請求を棄却する。
2 被告は、原告に対し、420万円及びこれに対する平成25年9月20日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の予備的請求を棄却する。
4 訴訟費用は、これを25分し、その24を原告の、その余を被告の、各負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主位的請求
 被告は、原告に対し、1億1294万1261円及びこれに対する平成25年9月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 予備的請求
 被告は、原告に対し、1億1294万1261円及びこれに対する平成25年9月20日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、「神獄のヴァルハラゲート」との名称のソーシャルアプリケーションゲーム(以下「本件ゲーム」という。)の開発に関与した原告が、本件ゲームをインターネット上で配信する被告に対し、@主位的に、原告は本件ゲームの共同著作者の1人であって、同ゲームの著作権を共有するから、同ゲームから発生した収益の少なくとも6割に相当する金員の支払を受ける権利がある旨、A予備的に、仮に原告が本件ゲームの共同著作者の1人でないとしても、原被告間において報酬に関する合意があり、仮に同合意がないとしても、原告には商法512条に基づき報酬を受ける権利がある旨主張して、著作権に基づく収益金配分請求権(主位的請求)ないし報酬合意等による報酬請求権(予備的請求)に基づき、本件ゲームの配信開始から平成25年7月末日までに被告が本件ゲームにより得た利益の6割相当額とされる1億1294万1261円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成25年9月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合(主位的請求)又は商事法定利率年6分の割合(予備的請求)による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(証拠を掲記したほかは、当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は、本件ゲームの開発に関与した者であり、平成25年1月1日から同年3月4日までの間、被告の取締役であった(甲1)。
イ 被告は、ソーシャルアプリケーションの企画、開発、販売等を業として、平成24年9月19日に設立された株式会社である。
(2) 本件ゲームの概要
 本件ゲームは、神と悪魔と人間が共存する世界「ヴァルヘルム」においてステージを進みながら、出現した敵(レイドボス)と戦ったり、プレイヤーにより構成されたチーム(ギルド)同士が戦って(聖戦)、勝つことによって何らかの報酬を獲得していくゲームであり、1人でも、インターネット上の他のプレイヤーと共同しても、戦うことができるソーシャルアプリケーションゲームである。
 なお、ソーシャルアプリケーションゲームとは、携帯電話向けソーシャルゲームであり、ゲーム参加者は、携帯電話に搭載されたインターネットブラウザからサーバ上に置かれたアプリケーションにアクセスすることにより、ゲーム機を購入したり、ソフトウェアをユーザーの端末にインストールすることなくゲームで遊ぶことができる。
(3) 本件ゲーム開発の経緯
ア 原告は、平成24年7月までは、ソーシャルアプリケーション事業を業とする株式会社GLOOPS(以下「GLOOPS社」という。)に勤務しており、同じく同社に勤務していたB(現被告代表者であり、以下「B」という。)をリーダーとするグループに所属し、携帯電話向けソーシャルアプリケーションゲームの開発を行っていた。
イ 原告は、当時、GLOOPS社での待遇に不満を感じていたところ、Bも、近い将来、自身が同社を退職する可能性があることを原告に伝えた。
ウ 原告は、同年7月末頃、GLOOPS社を退職した。その後、Bを含むGLOOPS社の従業員複数名が同社を退職し、原告とともに、本件ゲームの開発に関与するようになった。
エ Bは、同年9月19日付けで被告を設立した。
 原告は、被告の設立に当たって8万円を出資したほか、被告に対し、500万円を貸し付けた。原告は、当初、被告に雇用されないまま、本件ゲームの開発に関与していた。
オ 本件ゲームは、同年12月中旬頃以降にほぼ完成し、ブラッシュアップ作業などを経て、平成25年1月25日、グリー株式会社がインターネット上で運営するソーシャルネットワーキングシステムにおいて、同社の会員向けに、被告名義で配信された。
(4) 被告から原告に支払われた金員
 原告は、前記のとおり、当初、被告には雇用されないまま、本件ゲーム開発に関与し続け、同ゲームが完成した後である平成25年1月1日に、被告の取締役に就任し、その後、同月から同年3月4日頃まで被告の取締役として稼働し、その間、役員報酬として合計63万円を受領した(乙58)。
2 争点
 本件の争点は、以下のとおりである。なお、被告は、争点(2)及び(3)の各抗弁を選択的に主張する。また、原告は、争点(5)の主張が認められない場合に備えて争点(6)の主張をする。
《主位的請求について》
(1) 本件ゲームは原告と被告の共同著作物であるか。
(2) 本件ゲームは被告における職務著作であるか。
(3) 本件ゲームは「映画の著作物」に当たり、その著作権は被告に帰属するか。
(4) 原告が本件ゲーム開発に関して被告から収益金として受領すべき金額
《予備的請求について》
(5) 原被告間で、本件ゲーム製作に関する報酬合意がされたか。
(6) 原告は被告に対し、商法512条に基づく報酬請求権を有するか。
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(本件ゲームは原告と被告の共同著作物であるか)について
ア 原告の主張
(ア) 原告は、Bから、設立予定の新会社(被告)には雇用せず、開発したゲームが収益を上げたらこれに報いるとの説明を受けて、本件ゲームの開発に参画した。現に、原告は、本件ゲームがほぼ完成するまで、被告の取締役になることも、被告に雇用されることもなく、被告と原告との間には指揮監督関係はなく、原告は、被告とは独立の立場にあった。
 なお、原告が後に被告取締役に就任した事実は、原告が本件ゲームの共同著作者である事実と矛盾するものではなく、また、本件ゲームの著作権持分を被告に譲渡したことを意味するものでもない。
(イ) 原告は、ディレクターとして、本件ゲーム開発全般に関与したものであり、本件ゲームのうち創作的に困難でかつ重要な要素のほとんどは原告が担当したものである。
 具体的には、原告は、著作物たる本件ゲームの表現の創作に必要不可欠な作業である企画の立案、仕様書の作成、マスタデータの作成を行い、かつ、プログラミングやイラストレーション、フラッシュ動画、デザインの作成を指揮監督していた。
 最終的に配信された本件ゲームには、原告の企画書(乙3)の内容が色濃く反映されており、原告が本件ゲームの起草者であることを裏付ける。
(ウ) 以上のとおり、原告は、Bらと共同して、本件ゲーム開発に参画し、創作的関与を行い本件ゲームを完成させたため、本件ゲームの共同著作者であり、本件ゲームの著作権を共有する。
 そして、原告の本件ゲームに対する寄与の程度からすれば、原告の共有持分権の持分割合は10分の6を下回らない。
イ 被告の主張
(ア) 原告は、平成24年12月末までは、特に対価を受け取らずに本件ゲームの開発に従事し、平成25年1月1日に取締役に就任したが、被告代表者であるBの指揮監督を受けながら業務を遂行しており、むしろ被告に従属した立場であった。
(イ) 原告の発案、アイデアは、本件ゲームにほとんど採用されていない。確かに、原告は、最初の各仕様書ファイルを作成したが、その内容は仕様書とは呼べない途中段階のものであり、B及びC(以下「C」という。)によって大幅な修正や加筆がされた。
 また、マスタデータ自体は、データベース化された論理式や数字データの集合体にすぎず、むしろマスタデータを作成する上でベースとなるゲームのコンセプトやバランスの方がはるかに重要である。いずれにしろ、各マスタデータについては、Cが設計及び入力を行い、又はCの設計に従って原告が入力したにすぎない。
(ウ) このように、原告が担当した業務は限定的であり、かつ、Bの指揮監督下で遂行されていたことからすれば、本件ゲームについて原告の創作的寄与は認められない。
 したがって、本件ゲームは、原告と被告との共同著作物とはなり得ない。
(2) 争点(2)(本件ゲームは被告における職務著作であるか)について
ア 被告の主張
(ア) 本件ゲームの企画等は平成24年9月以降に開始されたものである上、遅くとも同年8月13日には被告の設立は確実であり、原告自身も、被告の発意を暗に認めていることからすれば、本件ゲームの開発が被告の発意に基づくことは明らかである。
(イ) 原告が被告の取締役への就任にこだわっていたため、被告は原告と雇用契約を締結しなかったが、原告は、担当業務を進めるに当たり、日常的にBの指揮監督を受けて業務を遂行していた。また、原告は、被告においてタイムカードにより勤怠を管理され、被告のオフィスにおいて、被告の備品を用いていた。
 このように、原告は、被告の指揮監督下において労務を提供していたというべきである。
 また、被告は、平成24年10月頃、原告を含む開発メンバー全員に対し、本件ゲーム開発作業に従事した対価として、本件ゲームが順調に売上げを伸ばした場合には賞与合計300万円を支払う旨説明した。原告に対して上記300万円の支払がされていないのは、原被告間で係争状態となったためであり、業務対価性とは何ら関係がない。
 そして、被告が原告に対して支払った(及び支払う約束をしていた)金銭は、その労務提供の対価であるから、原告が「法人等の業務に従事する者」であることは明らかである。
(ウ) 本件ゲームは、被告の著作名義で公表されている。
(エ) 被告は、原告との間で、本件ゲームの著作権に関して何ら合意していない。
(オ) 以上からすれば、本件ゲームは、著作権法15条1項所定の職務著作物であり、原告が本件ゲームの著作権者となる余地はない。
イ 原告の主張
(ア) 本件ゲーム開発は、平成24年8月頃から、原告を中心として開始されている(甲24、58参照)ところ、同月初めには、まだ法人(被告)等も存在しておらず、原告一人で本件ゲームの開発作業を開始したものであるから、本件ゲーム開発が法人(被告)の発意に基づくものでないことは明らかである。
(イ) 原告は被告の業務従事者ではなく、原被告間には、本件ゲーム開発当時、指揮命令・監督関係はなく、労務の対価の支払もなく、その開発の主要な部分の業務を行っていたことから、原告が被告の業務に従事する者でないことは明らかである。
 原告は、被告から福利厚生を受けたこともなく、自身の開発に必要な資料購入費用等も全て支払っており、被告から支払を受けたこともない。
 なお、原告が受領した取締役報酬は、取締役就任期間の取締役としての活動に対する報酬であり、本件ゲーム開発に対する対価ではない。
(3) 争点(3)(本件ゲームは「映画の著作物」に当たり、その著作権は被告に帰属するか)について
ア 被告の主張
(ア) 「映画の著作物」該当性について
 以下のとおり、本件ゲームは「映画の著作物」に該当する。
a 本件ゲームの主な場面・機能のうち、中核となる「聖戦」と「ガチャ」や、基本的な機能である「クエスト」と「レイド」のいずれについても、多数の静止画像を連続して順次投影して、動きのある影像として見せるという視覚的効果をもって表現されている。とりわけ、本件ゲームの最大の楽しみであり、定性的・定量的にみてユーザに対して最大の強い印象と影像による視覚的効果を与えている「聖戦」において、動きのある影像が顕著であることは重視されるべきである。
 その他の場面・機能についても同様に、多数の静止画像を連続して順次投影して、動きのある影像として見せるという視覚的効果をもって表現されていると評価できる部分が随所に見受けられる。
 確かに、本件ゲームにおいては、静止画が複数用いられているが、一部静止画があることをもって、全体としての映画類似の視覚的効果が否定されるものではない。
 たとえ一つ一つの動きが単調であっても、ユーザの操作によりそれらが連続して表示され、各影像が一連として動きをもって見えるのであれば、本件ゲーム全体として映画類似の視覚的効果を有すると評価すべきである。また、アニメーションが単調か否かは、映画類似の視覚的効果を否定する理由とはならず、視覚的効果が高度であることは要件ではない。
 以上からすれば、本件ゲームについては、全体として「映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法で表現されている」といえる。
 なお、原告は、被告が提出した「聖戦」等の影像(乙46)の多くは、本件ゲーム完成後に追加されたものであると主張する。しかし、原告の指摘する各影像は本件ゲーム全体における影像のごく一部であり、乙46の影像の大半は本件ゲーム配信当初から存在していた上、乙46の影像以外にも、同等の視覚的効果を備えた影像が本件ゲーム配信当初から多数存在した。したがって、原告の上記主張を踏まえても、本件ゲーム全体として映画類似の視覚的効果を有するとの評価は変わらない。
b 本件ゲームを構成するプログラム及びデータ等は、全てネットワークに接続されたサーバ内のハードディスク等の記憶媒体内に再現可能な形で記録されており、ユーザの操作に応じて、当該記憶媒体からプログラムに基づいて抽出された影像等のデータがユーザの利用機器のディスプレイ上に都度表示されるから、「物に固定されている」との要件を充たす。
c 本件ゲームが著作物性を有することは、当事者間に争いがない。
(イ) 映画製作者について
 本件ゲームは、専ら被告の費用と責任において製作され、運営されているから、その製作に発意と責任を有する者は被告である。したがって、本件ゲームの著作権は「映画製作者」である被告に帰属するものであり、原告の本件ゲームへの創作的関与のいかんにかかわらず、そもそも原告に著作権が認められる余地はない。
(ウ) 参加約束について
 本件ゲームの開発は、主として被告の貸借したオフィス、設備等の環境を利用して行われていたものであり、開発メンバーも、主として被告と契約関係にある従業員又は業務委託者であった。そして、原告も、被告から備品提供を受け、予防接種代を被告に負担させていた。したがって、本件ゲームは被告の名義と計算において開発されていたものであり、原告もそれを了解した上で参画していた。
 また、本件ゲームの企画等が開始された平成24年9月時点において、被告は既に設立済みであり、遅くとも同年8月13日には被告の設立は確実であり、原告も同事実を承知していた。
 以上からすれば、仮に原告が映画の著作物の著作者であるとしても、原告が被告による本件ゲームの製作を承認(少なくとも追認)した上で、これに参画したことが明らかである。
イ 原告の主張
(ア) 「映画の著作物」該当性について
 本件ゲームは、そのほとんどが静止画で構成され、わずかに戦いやガチャなどのシーンにおいて動画が用いられているものの、専ら同じ内容の動画が装飾的に使用されるにとどまっており、その本質は、アバターの成長・強化をどのように行い、それをどのように発揮するかというユーザの思考の積重ねに主眼を置いたものである。本件ゲームは、全体としてみた場合、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されているとはいえないから、映画の著作物には当たらない。
 確かに、本件ゲームでは、オープニングムービー、クエスト、レイド、聖戦等の画面の一部において、影像の連続性が存在する部分はあるが、それは本件ゲーム全体からすればごくわずかであり、恒常的に影像に連続性があるものではない。また、当該影像の連続性がある場面も、短い間、キャラクターが揺れる、キャラクターの色が変わる、キャラクターが移動する、バナーの一部が光る、文字が出現し移動する等といった単純なアニメーションにすぎず、多数の静止画像を急速に連続して順次投影したものなどとはいえない。
 なお、被告が強調する「聖戦」は、本件ゲームの一部にすぎず、そこで表示される動きのある影像も、あくまで、ごくわずかな時間に、複数の静止画像を連続して順次投影しているにすぎず、恒常的に「急速に連続」して「目の残像現象を利用」して映画に類似した動きのある影像が投影されているものではない。
 そもそも、本件ゲームのユーザは、自身が思考を積み重ねて強化したアバターの力試しをするために「聖戦」に参加するものであり、「聖戦」の視覚的効果に期待して参加するものではないから、本件ゲームの「映画の著作物」性を判断するに当たり、「聖戦」における視覚的効果を重視すべきものではない。
 このほか、被告が本件ゲームのプレイ中の画面とする画面の多くは、本件ゲーム配信時には存在しなかったところ、本件ゲームが映画の著作物に該当するか否かの判断は、本件ゲームが完成した時点、又は遅くとも本件ゲームの配信時の内容を基に判断しなければならない。
(イ) 参加約束について
 仮に本件ゲームが「映画の著作物」に当たるとしても、本件ゲーム開発に当たり、被告が主張する映画製作者は設立されておらず、原告は、設立する法人名義でリリースすることを約束したのであって、被告が製作することを前提に参加したものではないから、原告が著作権者であることに変わりはない。
(ウ) 映画製作者について
 仮に、本件ゲームが「映画の著作物」に該当し、その著作権が映画製作者に帰属するとしても、映画製作者の判定に当たっては、ゲームの開発において経済的リスクを負担するのは誰かという観点から判断すべきであり、経済的リスクを負担する者が2名以上ある場合には、それぞれについてその著作権の帰属(共有)を認めるべきである。
 原告は、本件ゲーム開発費用の多くを負担し、何ら対価の支払を受けることなく、自らリスクを負ってその能力及び時間をつぎ込み、本件ゲームの開発に従事し、その結果、極めて大きな価値を有する本件ゲームの開発を成功させたのであるから、原告は、被告とともに著作権法上の「映画製作者」に当たり、被告とともに本件ゲームの著作権を共有する。
(4) 争点(4)(原告が本件ゲーム開発に関して被告から収益金として受領すべき金額)について
ア 原告の主張
 本件ゲームの開発全体に占める原告の寄与割合は6割を下らず、原告は、本件ゲームの著作権のうち少なくとも10分の6の持分を有する。
 そして、本件ゲームの配信開始から平成25年7月末日までに被告が得た収益は1億8823万5435円(売上高合計4億4430万3691円−売上原価及び販売費・一般管理費合計2億5606万8256円)であるから、原告は被告に対し、その6割に相当する1億1294万1261円及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ 被告の主張
 いずれも争う。本件ゲームの売上原価等についての原告の主張は誤りであり、控除すべき金額も誤っている。
 また、原告は、被告設立時に引き受けた被告株式8株の値上がりという恩恵にあずかっており、出資額との差額8256万2101円もの多額のキャピタルゲインを得ている。このように、原告は、本件ゲームのヒットについて報われている。
(5) 争点(5)(原被告間で、本件ゲーム製作に関する報酬合意がされたか)について
ア 原告の主張
(ア) 原告は、Bから、開発したゲームが収益を上げたらこれに報いるとの説明を受けて、本件ゲームの開発に参画した。「収益を上げたらこれに報いる」とは、開発したゲームが収益を上げた場合には、本件ゲームの開発作業を行った報酬として、原告の寄与に応じて収益を配分するとの意味である。
 したがって、原被告間で、明示ないし黙示に、原告が本件ゲーム開発に参画し開発作業を行うこと、本件ゲームが収益を上げるまでは原告は自らの負担において無償で開発に参画するが、本件ゲームが収益を上げた場合には、被告が原告の寄与に応じた収益を報酬として支払う旨の合意が成立した。
 なお、エンターテイメント業界においては、実際の収益に応じて後払い的に報酬が支払われることはよくあり、原告も、収益に応じて後払いで報酬を受けるという合意の下、本件ゲーム開発に資金及び労務を提供したものである。
 よって、原告は、前記(4)の主位的請求と同額の支払を求める(ただし、遅延損害金の利率は、商事法定利率年6分の割合による。)。
(イ) 仮に、被告が主張するような月額30万円及び賞与300万円が報酬内容であるとすれば、報酬金額はGLOOPS社の給与とさほど変わらない。原告が同社にいれば、インセンティブを含めて約2000万円の報酬を見込めたことからすれば、同社をやめて、無償で、かつ500万円の自己資金及び自己の開発作業に関する必要経費を負担し、本件ゲーム開発に参加する合理的な理由はない。
 なお、賞与については、平成25年1月に取締役就任を打診された際に併せて話があったもので、原告はそれまで説明を受けたことはない。
イ 被告の主張
 否認ないし争う。
 Bは、原告が被告の取締役又は従業員になった際には、その労務提供の対価として給与や賞与を支払うことを考え、そのとおり原告に伝えていた。したがって、原被告間において、原告が主張する内容の報酬合意が明示的にも黙示的にも成立したことはない。
 Bは、平成24年10月頃、原告に対し、本件ゲームの売上げが上がれば、賞与(合計300万円)という形で還元するつもりであると話したことはあるが、これは、原告に限らず、本件ゲーム開発に関与した者全員にしていた話であって、「原告が被告とは独立の立場で本件ゲームの開発に関与し、これによる収益を分配する」旨の合意など存在しない。
 そして、原告に支払われた役員報酬(月額30万円)は、原告が取締役就任までに本件ゲームの開発に従事した対価を含んでいる。
 なお、原告が被告に500万円を貸し付けたのは、あくまで「貸金」であり、最終的には被告の負担において原告に返済される金員であるから、原告の負担とはいえない。
(6) 争点(6)(原告は被告に対し、商法512条に基づく報酬請求権を有するか)について
ア 原告の主張
 仮に本件ゲームが共同著作物に該当しない場合、原告は、被告のために、業として本件ゲームの開発を受託したことになる。そして、他人のためにするゲームの開発は、「他人のためにする製造又は加工に関する行為」(商法502条2号)に当たるとともに、「作業又は労務の請負」(同条5号)に当たる。
 したがって、原告が被告から委託を受けて本件ゲームを開発した行為は、営業的商行為(同法502条)に当たる。
 そして、商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求できる(同法512条)ところ、ここでいう相当な報酬とは、原告の寄与によって得られた本件ゲームの収益の額というべきである。
 よって、仮に原告・被告間の報酬合意が認められない場合、原告は、商法512条に基づき、前記(4)の主位的請求と同額の支払を求める(ただし、遅延損害金の利率は、商事法定利率年6分の割合による。)。
イ 被告の主張
 商法502条が定める営業的商行為は、制限的列挙と解するのが通説であるところ、他人のためにするゲーム開発は、商法502条2号、5号のいずれにも該当せず、ゲームの開発は営業的商行為には該当しない。
 したがって、原告は商法512条の報酬請求権を有しない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 前記前提事実(第2、1)並びに証拠(甲2、5、14、19ないし23(枝番の記載を省略する。以下同様)、26ないし52、57、66、72、73、乙3、5、7ないし10、22、23、25、27ないし42、46、48、57、59、原告本人、被告代表者(ただし、甲72、73、乙59、原告本人及び被告代表者については、後記認定に反する部分を除く。))及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。
(1) Bは、平成24年頃、ソーシャルゲームの開発・運営等を行うGLOOPS社に勤務し、プロジェクトマネージャーとして稼働していた。原告は、同年3月頃、同社に就職し、それ以降、Bがリーダーを務めるグループにおいて「三国志バトル」等のプランナーをしていた。
 なお、原告は、同社において、基本給350万円(年額)、賞与(金額不明)を支給されており、このほか、インセンティブ報酬を2回支給された(10万円ないし20万円が1回、30万円ないし40万円が1回)。
(2) Bは、次第にGLOOPS社の方針に不満を感じ、退社を検討するようになった。
 Bは、同年7月頃、原告に対し、これ以上同社にいても正当に評価されないため、独立し、新会社を設立するなどしてゲーム開発を行うことを考えている旨述べ、原告も同ゲーム開発に参加するよう勧誘した。被告は、その際、同ゲームが収益を上げた場合には、原告の開発活動に報いるなどと述べた。原告は、すぐにこれに応じることにし、自らの給与のうち基本給部分が一定額(450万円ないし500万円)に達しないことを理由として、同月末頃、GLOOPS社を退社した。
 Bも、同年8月上旬頃、同社を退社する旨を上司に伝え、その後同社を退社したが、同月13日には被告の定款(乙22)を作成し、被告の設立準備にとりかかった。
 被告の定款において、会社の目的は「ソーシャルアプリケーションの企画、開発、販売」等とされ、原告及びBを含む5名の者が発起人とされていた。
 Bは、同月末頃には、被告名義でオフィスの賃貸借契約を締結し、備品等も順次購入した。
 そして、同年9月19日、被告が設立された。
(3) Bが新会社(被告)のリーダーになることは、会社設立の前提であり、誰からも異論はなかった。
 原告は、被告設立に際し、その株式取得を希望し、設立時発行株式100株のうち8株を原告が8万円で引き受けた(乙23)。
 原告は、当初から、被告の従業員ではなく取締役になることを希望していたが、Bは、原告に取締役としての適性があるか見極めたいと考えるとともに、被告設立当初は何ら売上げもなく、役員報酬を支払える目途も立たなかったため、とりあえず原告及びD(Bと前後してGLOOPS社を退社したプログラマーであり、以下「D」という。)については、将来的に被告の取締役に就任させることとし、当初はB1人が被告の取締役に就任する形で被告を設立した。
 このほか、原告は、同年10月5日、被告に対して500万円を貸し付けたが、その弁済期は「平成25年9月から平成35年9月までの期間内」とされており、保証人等はいなかった(甲5)。
(4) 原告は、平成24年8月頃から本件ゲームの企画を検討し、自主的に提案書(乙3、甲14)を作成するなどしたが、これは原告が独自に行っていたものであり、被告が設立された同年9月に入ってから、本件ゲームの企画が本格的に開始された。
 被告においては、本件ゲーム開発の統括責任者はBであり、その下に、企画班、開発班、デザイン班、フラッシュ班、イラスト班との5つの班があった(乙5)。原告は、企画班に所属し、プランナー(企画職)の地位にあったが、被告のディレクターとしての肩書をも有していた(甲26)。
 もっとも、本件ゲームの開発メンバーは、合計14名程度にすぎなかったため、各自の本来の担当業務を超えても行えることは行うという方法で仕事を行っていた。
(5) 原告は、本件ゲーム開発に際し、「初期仕様書」(甲19ないし23)、「仕様書」(甲27ないし44、46、47)、登場キャラクターリスト(甲45)、マスタ(本件ゲームにおける敵の強さ、カードの強さ、合成、ガチャ等の様々な表現は、あらかじめ設定した論理式やデータ等の変数で決定されるところ、これらの論理式やデータ等をエクセル形式で一まとめにしたもの)(甲48ないし52)を、独自に、又はBらと共同して、多数作成した。
 ただし、原告が作成した内容が本件ゲームにそのまま用いられたわけではなく、Bや被告の従業員であるCによって相当程度修正された部分もある(乙27ないし42)。
 このほか、原告は、外注イラストレーターの発掘、交渉、契約締結、管理を担当していた。
(6) 原告は、平成24年10月から平成25年2月にかけて、被告においてタイムカード(乙8)で勤怠を管理されており、被告のオフィス内で、被告の備品を用いて本件ゲーム開発に従事し、その際、基本的にはBの指示を仰いだ上で行動していた(乙7)。
 本件ゲーム開発過程では、オフィスや開発メンバーによる水道光熱費、通信費、備品代、消耗品代等、様々な費用がかかり、被告がこれらを経費として負担してきた。
 また、原告が本件ゲーム制作に関して個人的に負担した費用については、請求があれば被告が精算した(乙9)ほか、被告は、原告のインフルエンザの予防接種代を支払ったり、仕事上必要な携帯電話(フィーチャーフォン)を購入して原告に無償でこれを貸与するなどした(乙10、25)。
(7) 原告及びDは、被告の設立当時、しばらくは無給でもよいと述べ、平成24年12月末までの間、無給の状態で本件ゲームの開発に従事していた。
 また、Bが、原告やDに対し、本件ゲーム開発への貢献度に応じて本件ゲームの収益を配分するなどと述べたことはなく、原告とBとの間で、原告の報酬の具体的な内容についての話合いはなかった。
 Bは、同年10月頃、本件ゲームの開発従事者全員に対し、本件ゲームの売上げが伸びた場合には、平成25年6月に100万円、同年8月に200万円、合計300万円を賞与という名目で支払う旨告げた。
(8) 原告及びDは、平成25年1月1日付けで被告の取締役に就任し、役員報酬については、2名とも月額30万円とされた。
(9) 本件ゲームは、同月25日頃、被告名義で配信され(甲2)、その後、被告名義で運営されており、被告が運営経費を支払ってきた。
(10) 本件ゲームにおいては、1日に約7回、各30分程度、ユーザのログイン数が急増する時間帯があるが、これらの時間帯は1日7回の「聖戦」の開催時間帯とほぼ一致している(甲2、乙48、弁論の全趣旨)。
 また、本件ゲームには音声はないものの、多数の静止画を連続的に映し出すことにより動きのある画像として見せる手法が多く用いられており、ユーザに人気の高い「聖戦」や、その他の戦いの場面(クエスト、レイド)のほか、「ガチャ」、「チュートリアル」の場面では、動画が多数用いられている(乙46、57)。
 具体的には、本件ゲームの「聖戦」(ギルド対ギルドの戦闘を楽しむ機能)における戦闘画面では、各アバターが互いに向かい合って表示され、呼吸するように上下にわずかに揺れるような動きをしている。「聖戦」において、各ユーザが制限時間内にコマンドを入力すると、各アバターは様々な動きをしたり、エフェクト等の演出がされたり、アニメーションが流れる。また、「ガチャ」(本件ゲーム内で取得したコイン等を用いて、キャラクター(カード)を取得することができる機能)の場面では、ひげを生やした藤色ないし金色のキャラクターが、椅子から降りて歩き出し、扉に念力をかけるような動きをすると、扉が開く。このほか、「クエスト」における戦闘画面では、敵のキャラクターは、いずれも上下左右に漂うように揺れており、これを攻撃すると、攻撃エフェクト(残像のようなもの、光等)が表示され、同キャラクターの画像も衝撃を受けたように揺れ動く。また、「レイド」(「レイドボス」と戦う機能)では、「レイドボス」の画像が画面中央奥から急スピードで表れ、ボスを攻撃すると、攻撃のエフェクト(赤い光のようなもの等)が表示され、ボスの画像も衝撃を受けたように揺れ動くなどする。
 このほか、「オープニング」や「TOPページ(チュートリアル)」などにおいても、動きのある影像が用いられている。
 なお、本件ゲーム配信時である平成25年1月末頃は、同ゲームの内容は現在の本件ゲームの内容と若干異なるものであったが、少なくとも動画的な画面が多数存在したとの点に変わりはなかった(甲66)。
2 主位的請求について
(1) 争点(2)(本件ゲームは被告における職務著作であるか)について
ア まず、本件ゲームが「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)として著作物に当たることについては、当事者間に争いがない。
 その上で、同法15条1項によれば、職務著作の成立要件は、@法人等の発意に基づくこと、A法人等の業務に従事する者が職務上作成したこと、B法人等が自己の著作名義の下に公表すること、C作成時における契約、勤務規則その他に別段の定めがないこととされている。
イ そこで、前記1の認定事実を踏まえて検討するに、まず、上記@の要件については、Bは、原告がGLOOPS社に在籍中から、本件ゲームを新会社等において製作予定であることを告げて、原告に対して本件ゲーム開発への参加を勧誘したこと、原告もBの勧誘があったためにGLOOPS社を退社して本件ゲーム開発に関与したことを認めていること、その後も被告において本件ゲーム開発が行われ、被告名義で本件ゲームが配信されたこと等からすれば、本件において、実質的には、Bが代表取締役を務める被告の発意に基づいて本件ゲーム開発が行われたものと認められる。
 なお、被告の設立日は平成24年9月19日であって、原告が本件ゲーム開発作業を始めた時期より後であるが、既に同年8月13日付けで被告の定款(乙22)が作成されており、原告も、当初から、後に被告が設立され、被告において本件ゲーム開発が行われることを当然に認識していたものといえるから、被告の形式的な設立時期にかかわらず、実質的には、被告の発意に基づいて本件ゲーム開発が行われたといえるものであって、被告の形式的な設立時期は上記結論に影響を及ぼすものではない。
ウ 次に、A「法人等の業務に従事する者が職務上作成したこと」との要件については、法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して判断すべきである(最高裁平成15年4月11日第二小法廷判決・裁判集民事209号469頁参照)。
 そこで検討するに、原告は、本件ゲーム開発期間中は被告に雇用されておらず、被告の取締役の地位にもなかったが、被告においてタイムカードで勤怠管理をされ、被告のオフィス内で被告の備品を用い、Bの指示に基本的に従って本件ゲーム開発を行い、労務を提供するという実態にあったものである。
 ところで、原告は、平成25年1月1日に被告の取締役に就任した上で、同年3月上旬までの間、被告から取締役としての報酬を合計63万円受領したが、これは、本件ゲームがほぼ完成した後のことであって、原告が本件ゲーム開発作業に従事していた時点(平成24年8月ないし9月頃から同年12月までの間)においては、被告から報酬を受領していなかったものである。
 しかし、後記3(1)のとおり、原被告間において、本件ゲーム開発に関しては当然に報酬の合意があったとみるべきであることに加え、本件ゲーム開発の当初から、原告が被告の取締役等に就任することが予定されており、その取締役としての報酬も本件ゲーム開発に係る報酬の後払い的な性質を含む(もっとも、後記3(1)のとおり、取締役としての報酬分は後記報酬合意の対象ではない。)と認められることをも併せ考慮すれば、原告は被告の指揮監督下において労務を提供したという実態にあり、被告が原告に対して既に支払った金銭及び今後支払うべき金銭が労務提供の対価であると評価できるので、上記Aの要件を充たすものといえる。
エ さらに、本件ゲームは、被告名義で、インターネット上で配信されたものであるから、上記Bの要件も充たす。
オ このほか、原被告間で、本件ゲームの著作権の帰属に関して特段の合意があったとは認められないから、上記Cの要件も充たす。
カ 以上からすれば、本件においては著作権法15条1項の適用があり、本件ゲームの著作権は被告に帰属するというべきであり、原告が本件ゲームの著作権者であることを前提とする原告の主位的請求は理由がない。
(2) 争点(3)(本件ゲームは「映画の著作物」に当たり、その著作権は被告に帰属するか)について
 以上のとおり、既に原告の主位的請求は理由がないが、念のため、仮に職務著作の点を措いて、本件ゲームの「映画の著作物」該当性等についても検討することとする。
ア 「映画の著作物」該当性について
(ア) 著作権法2条3項によれば、「映画の著作物」には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとされている。
(イ) そして、上記の視覚的効果とは、目の残像現象を利用して動きのある画像として見せる効果をいうと解すべきである。
 前記1(10)のとおり、本件ゲームにおいて音声はないものの、「聖戦」「ガチャ」「クエスト」「レイド」等の場面における画像は、静止画像を連続して投影することにより、目の残像現象を利用して動きのある画像として見せるという映画の効果に類似する効果があるといえ、このほか、「オープニング」や「TOPページ(チュートリアル)」の場面における画像も、上記同様、目の残像現象を利用して動きのある画像として見せる効果があるといえるから、本件ゲームは、全体としてみれば、映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法で表現されているということができる。
 なお、原告は、本件ゲームにおいて、そのほとんどが静止画で構成され、わずかに戦いやガチャなどのシーンで動画が用いられているにすぎないと主張する。
 しかし、前記1(10)のとおり、本件ゲームにおいては、動きのある画像が相当程度存在しており、そのほとんどが静止画であるとはいえない上、少なくとも本件ゲームにおいてユーザから人気が高い「聖戦」や、その他の戦闘のシーン等で動画が多数用いられていること、これらの戦闘シーンの本件ゲーム全体に占める重要性は大きいといえることからすれば、本件ゲームは、やはり映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法で表現されているといえ、原告の上記主張は採用できない。
 また、原告は、本件ゲームにおいて、影像の連続性がある部分はわずかであり、上記連続性がある場面も、短い間キャラクターが揺れる等の単純なアニメーションにすぎず、恒常的に「急速に連続して目の残像現象を利用」してもおらず、本件ゲームは「映画の著作物」に該当しない旨主張する。
 しかし、前記のとおり、本件ゲームにおいて動きのある画像は相当程度存在する上、アニメーションが単純であることによって「映画の著作物」性が否定されるものではなく、また、著作権法2条3項所定の「映画の著作物」につき、恒常的に「急速に連続して目の残像現象を利用する」ことが要件とされているわけではなく、原告の上記主張は採用できない。
 さらに、原告は、ユーザは、自身が思考を積み重ねて強化したアバターの力試しをするために「聖戦」に参加するものであり、「聖戦」の視覚的効果に期待して参加するものではないとして、「聖戦」における視覚的効果を重視すべきではないとも主張する。
 しかし、その動機がどのようなものであれ、多くのユーザが「聖戦」に参加していること自体に争いはないのであるから、「聖戦」における視覚的効果がユーザに与える影響は大きいといわざるを得ず、この視覚的効果も重視すべきであるから、原告の上記主張は採用できない。
 このほか、原告は、被告が本件ゲームのプレイ中の画面として提出したもの(乙46)の多くは、本件ゲーム配信時には存在しなかったとも主張し、証拠(甲66)上、配信時に存在しなかったとする画面に×印を付けている(被告は、原告の上記主張の一部を認め、一部を否認している。)。しかし、証拠(乙57)によれば、少なくとも「聖戦」における攻撃画面や、「ガチャ」に関しては、本件ゲーム配信当初から、乙46の画像とは別の動画が存在していたことが認められる。また、仮に原告の上記主張を前提としても、証拠(甲66)によれば、上記×印の付されたものを全て除いても、本件ゲーム配信時には動きのある画像が多数存在していたものであり、「映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる」ものといえる。したがって、原告の上記主張は理由がない。
 なお、原告自身も、当初は、「本件ゲームにおいては、オープニングムービーや、レイド、ガチャなどさまざまなページで動画が使用されている」と主張していたものである(原告準備書面(1)12頁参照)。
(ウ) このほか、本件ゲームの著作物性については当事者間に争いがなく、「物に固定されている」点についても、「本件ゲームを構成するプログラム及びデータ等が、全てネットワークに接続されたサーバ内のハードディスク等の記憶媒体内に再現可能な形で記録されており、ユーザの操作に応じて、当該記憶媒体からプログラムに基づいて抽出された影像等のデータがユーザの利用機器のディスプレイ上に都度表示される」との点に当事者間に特段の争いはない。
 なお、ユーザの操作により、プレイごとに影像が変化するとしても、無限の変化が生じるわけではなく、あらかじめ設定された範囲内においてユーザが影像等を選択しているにすぎず、著作者によって創作されていない影像が画面上に表示されることはないから、これをもって「固定」の要件を充たさないとはいえない。
(エ) 以上からすれば、本件ゲームは「映画の著作物」に該当する。
イ 映画製作者について
 著作権法2条1項10号によれば、映画製作者とは、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」をいうとされるところ、前記(1)イ同様、Bが、原告がGLOOPS社に在籍中から、本件ゲームを新会社等において製作予定であると告げて、原告に対して本件ゲーム開発への参加を勧誘し、原告もBの勧誘があったためにGLOOPS社を退社して本件ゲーム開発に関与したことを認めていることに加え、Bが、自らGLOOPS社を退社した上で、新会社(被告)を設立し、他の従業員らや原告とともに被告において本件ゲーム製作を行ったという経緯のほか、本件ゲームが現に被告名義で配信され、原告が被告を退社した後も被告名義で運営されていること等からすれば、Bが代表取締役を務める被告が、本件ゲームの製作に発意と責任を有する者であるというべきである。この点に関し、原告自らも、「Bから、原告を含む数名で訴外GLOOPSを退職し、新たなソーシャルゲームを開発し、新しい会社で販売しようという提案を受けた」(訴状4頁)と主張していることからすれば、被告が「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」であることを原告もほぼ認めているに等しい。
 なお、被告の設立日は平成24年9月19日であって、原告が本件ゲーム開発作業を始めた時期より後であるが、前記(1)イ同様、被告の形式的な設立時期にかかわらず、実質的にみれば、本件ゲームの製作に発意と責任を有するのは被告であるといえる。
 これに対し、原告は、仮に本件ゲームが「映画の著作物」に該当するとしても、原告は、被告に金を貸したり、開発費用を負担するなど、経済的リスクを負って本件ゲーム開発に従事したものであるから、原告は被告とともに「映画製作者」に該当すると主張する。
 しかし、原告が被告に金を貸しても、原告は被告に対して同貸金債権を有しており、被告の資産状態が悪化しない限り返済を受けられるものであって、上記事実が本件ゲームの著作権の所在に直ちに影響を及ぼすものとは解されない。また、原告が本件ゲームの開発費用を負担したとの事実を認めるに足りる証拠はない上、原告が本件ゲームに関連する書籍等(甲25)を独自に購入したものの、被告に対してその精算を請求しなかったにすぎず、現に、被告は、原告から請求があれば精算に応じていたものであり(乙9参照)、この点も、上記結論に影響を及ぼすものではない。
 いずれにしろ、本件ゲームの製作に関しては、Bを中心として、原告のほか多数の者が関与しており、原告だけが特別扱いされるべき正当な根拠は認められず、原告が被告と並んで本件ゲームの製作者になるとは認められない。
ウ 参加約束について
 著作権法29条1項所定の「著作者が…映画の著作物の製作に参加することを約束し」たとは、「著作者が、映画製作に参加することとなった段階で、映画製作者に対し、映画製作への参加意思を表示し、映画製作者がこれを承認したこと」を意味すると解すべきである。
 ところで、「映画の著作物の著作者は、…制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。」(同法16条本文)とされるところ、そもそも原告がそのような者に当たるか問題となるが、仮に原告が映画の著作物の著作者であるとしても、本件において、原告は、BからGLOOPS社を辞めて新会社等におけるゲーム開発に参加するよう勧誘され、これを了承した上で、本件ゲーム開発に協力してきたものである。
 以上からすれば、原告は、本件ゲームという「映画の著作物」の製作者である被告に対し、本件ゲームの製作に参加することを約束したといえる。
 これに対し、原告は、本件ゲームの配信を新会社(被告)名義で行うことを約束したにすぎず、被告が製作することを前提に参加してはいないとも主張するが、前記1認定のとおり、本件ゲーム開発は基本的に被告の従業員らによって行われていた上、当初は被告の従業員ではなかった原告やDについても、事後的に被告の取締役への就任が予定されていたものであり、新会社(被告)において本件ゲーム製作を行うことは当事者の共通認識であったというべきであって、原告の上記主張は採用できない。
エ 以上のとおり、本件ゲームは「映画の著作物」に該当し、被告が同映画の製作者であって、原告は映画製作者たる被告に対し、本件ゲームの製作に参加することを約束したものであるから、仮に原告が映画の著作物である本件ゲームの著作者であるとしても、著作権法29条1項によりその著作権は被告に帰属するものである。
(3) 小括
 以上のとおり、本件ゲームは、職務著作あるいは「映画の著作物」に該当するため、いずれにしても原告は本件ゲームの著作権を有していないこととなるから、原告の主位的請求は理由がない。
 なお、以上からすれば、本件ゲームの開発における原告の創作的関与の程度等に関係なく、原告は本件ゲームの著作権者とは認められないから、当裁判所は、原告による文書提出命令の申立て(被告が本件ゲーム開発時に使用したサービス「チャットワーク」のチャットログ(チャットのやりとり)の開示を求めるもの)につき、必要性がないとして却下したものである。
3 予備的請求について
(1) 争点(5)(原被告間で、本件ゲーム製作に関する報酬合意がされたか)について
ア 原告は、Bが代表取締役を務める被告の発意に基づき、被告における本件ゲームの開発に参加することを表明し、最終的に本件ゲームに採用されたか否かは別として、多大な労力を費やし、多数の仕様書(甲27ないし44、46、47)やマスタ(甲48ないし52)を、基本的にはBの指示に従いながら、自ら又はBらと共同して作成し、本件ゲームの開発に貢献したものと認められる。そして、原告は、平成25年1月に被告の取締役に就任する以前は、被告から、本件ゲーム開発に関する労務提供の対価を一切受領しないまま稼働していたものであるが、原告の上記のような作業量及び作業期間(平成24年8月頃から同年12月末頃まで)からすれば、社会通念上、原告による上記労務提供が無償で行われたなどとは到底認められず、原被告間において、原告が本件ゲーム開発に従事することの対価に関する黙示の合意があったものと認めるのが合理的である。
イ ところで、原告は、Bの原告に対する「本件ゲームが収益を上げた場合には、原告の開発活動に報いる」旨の発言を根拠として、本件ゲームの収益の6割(原告が自ら主張する本件ゲーム開発への貢献度)相当額を原告の報酬とする旨の合意があったと主張する。
 この点、Bが原告に対し、平成24年7月頃、上記の趣旨の発言をしたことは認められるが、原告の上記発言は極めて抽象的なものにすぎず、同発言を根拠に、原告が主張する合意内容を認定することはできず、このほか、上記合意の成立を認めるに足りる証拠はない。そもそも、原告とBとの間において、本件ゲームの収益を原告の貢献度に応じて分配するなどの具体的な話がされた事実は認められず、原告本人もこのことを認める供述をしている。また、前記1認定事実からすれば、本件ゲームの開発には、被告の従業員等の多数の者(14名程度)が関与しているところ、ゲーム開発者の1人である原告が、本件ゲームの収益の6割相当額を受領することの合理性も全く認められない。
ウ 他方で、被告は、原告が被告の取締役に就任した後に、本件ゲーム開発の対価を支払う旨の合意があったとし、具体的には、本件ゲームの売上が上がれば賞与合計300万円として還元するつもりであった旨や原告に支払われた役員報酬月額30万円は本件ゲーム開発の対価を含む旨主張する。
 確かに、前記1(7)(8)のとおり、Bが、平成24年10月頃、原告を含む本件ゲーム開発従事者全員に対して、ボーナス合計300万円を与えると述べ、また、それまで対価の支払を受けることなく本件ゲームの開発に従事してきた原告が平成25年1月に取締役に就任するに際し、原告に対し、取締役報酬月額30万円を与える旨述べた事実は認められる。そして、Bの上記各発言以外に、原告・B間で原告の報酬についての具体的な話合いがあったとは認められないところ、上記主張の趣旨も考慮すれば、本件ゲームの開発について、ボーナス300万円及び開発が行われた期間につき月額30万円の報酬を支払う旨の黙示の合意が成立したものと認めるのが相当である。
エ この点に関し、原告は、取締役としての報酬は、本件ゲーム開発の対価とは別である旨主張するが、既に検討したとおり、原告・B間で、原告の本件ゲーム開発に係る報酬に関して上記ウの各発言以外に何ら具体的な話合いはないから、原被告間の合意の内容として認定可能であるのは、上記ウの内容にとどまるといわざるを得ない。
 また、原告は、GLOOPS社で引き続き勤務していれば、年収2000万円程度を確実に受領できたはずであることからしても、原告が「報酬月額30万円、ボーナス合計300万円」などという内容に応じるはずがないとも主張する。
 しかし、GLOOPS社をやめる前の原告の年収は、2000万円には全く達しておらず、原告が同社で年収2000万円を受領することが確実であったとの事実を認めるに足りる証拠はない。原告の上記主張は、インセンティブ報酬として同社から受領する金員の振分けを決定できる立場(プロジェクトマネージャー等)にあることを前提とするものであるところ、原告は、実際にはそのような立場にはなかったのであるから、原告の上記主張は前提を欠くものである。
 このほか、原告は、エンターテイメント業界においては、実際の収益に応じて後払い的に報酬が支払われることはよくあるとも主張するが、同事実を認めるに足りる証拠はなく、原告の上記主張は採用できない。
オ 上記ウで認定した合意に基づいて検討するに、ボーナス分300万円の他、取締役としての月額報酬については、本件ゲーム開発が本格的に行われていた期間が平成24年9月から同年12月であることを考慮して4か月分とし、合計120万円を認めるのが相当である。そして、ボーナス300万円と月額報酬120万円を合計すると、420万円となる。
 なお、被告は、原告に対し、平成25年1月から3月4日までの間、合計63万円を取締役報酬として支払っているが、この間も、原告は、被告において本件ゲーム等に関する一定の労務を提供していたものと解されることに加え、本件ゲーム開発が本格的に開始される以前から、原告が独自に同ゲーム開発に係る準備作業をしていたことも考慮すれば、上記63万円は報酬合意の対象外のものと認められ、これを請求認容額から控除することはしない。
(2) 小括
 以上のとおり、原告の予備的請求のうち、原被告間の報酬合意に基づく報酬支払請求が認められるため、これが認められない場合に備えた原告の被告に対する商法512条に基づく請求の当否(争点(6))については判断するまでもない。
 また、上記報酬支払債務は会社の商行為によって生じたものであるから、原告の被告に対する商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払請求は認められる。
4 結論
 以上によれば、原告の請求のうち主位的請求は理由がないからこれを棄却し、予備的請求のうち420万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成25年9月20日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 沖中康人
 裁判官 矢口俊哉
 裁判官 宇野遥子
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