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【事件名】データベースソフトの著作権確認事件C(2)
【年月日】平成28年2月24日
 知財高裁 平成26年(ネ)第10117号 著作物使用差止等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成25年(ワ)第9989号)
 (口頭弁論終結日 平成27年10月22日)

判決
控訴人 X
被控訴人 中国塗料株式会社
同訴訟代理人弁護士 小山雅男


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 本訴状送達の日の翌日から、被控訴人が管理占有する「船舶情報管理システム」に対し、業務使用を目的とするデータの記入及び読み出し(システムメンテナンスを目的とする場合を除く。)を禁止する。
3 本訴状送達の日の翌日から、被控訴人が管理占有する「船舶情報管理システム」の稼動状況について、原判決添付訴状(写し)の別紙報告事項に記載する事項について、毎月末日までに控訴人に対して書面にて報告せよ。
4 本訴状送達の日の翌日から、被控訴人が管理占有する「船舶情報管理システム」の稼動状況について、当該システムに特別な変更を行った場合には、控訴人に対して書面にて遅滞なく報告せよ。
5 本訴状送達の日の翌日から、被控訴人が「船舶情報管理システム」を管理占有する場所について、控訴人又は控訴人の指定する第三者に当該システムの稼動状況を調査するために立ち入り検証させよ。
6 本訴状送達の日の翌日から、控訴人は被控訴人に対し「船舶情報管理システム」の識別又は同一性保持のために、必要な措置を命じることができる。
7 第2項ないし第6項の請求に付帯して、被控訴人は、控訴人に対し、「船舶情報管理システム」の著作権使用料相当額として、平成5年2月1日から平成25年2月末日までの元利合計金額である6億2494万0533円、並びに平成25年3月1日より控訴人の死後50年が満了する月に至るまで、各月末日までに、月額150万円及び本訴状送達の日の翌日から(期限の未到来のものについては期限到来の翌日から)これらの金額の支払済みに至るまで年5分の利率による利息を、損害賠償金又は不当利得金として支払え。
8 被控訴人は、控訴人の指定する日刊紙、週刊誌及び月刊誌に原判決添付訴状(写し)の別紙記載の謝罪広告を掲載せよ。
9 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、控訴人が「船舶情報管理システム」(以下「本件システム」という。)の著作権を有する旨主張して、控訴の趣旨第2項ないし第8項記載の請求をする事案である。
 原判決は、控訴人と被控訴人との間において、平成22年12月22日時点で、控訴人が本件システムの著作権を有しないことは既判力をもって確定しているところ、上記基準時後の事情の変更も認められないとして、控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人が、これを不服として控訴したものである。
2 前提事実
(1) 当事者等
ア 被控訴人は、塗料の製造販売等を業とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
イ 中国塗料技研株式会社(以下「中国塗料技研」という。)は、船舶の塗装情報管理システムの開発及び運用の請負等を業とする株式会社であり、被控訴人が全額出資する完全子会社である(乙1)。
ウ 信友株式会社(以下「信友」という。)は、被控訴人が全額出資する完全子会社であったが、平成12年10月2日、大竹明新化学株式会社(以下「大竹明新化学」という。)に吸収合併された(乙1)。
エ 控訴人は、昭和37年4月、被控訴人に入社し、昭和60年、信友に出向し、昭和61年6月から平成4年5月21日まで同社の取締役であった。控訴人は、その後、中国塗料技研に出向し、平成4年5月21日から平成5年1月30日まで同社の代表取締役であった。控訴人は、平成5年1月、中国塗料技研を退職した(甲2、6、7、甲14の1・2、乙1)。
(2) 1次訴訟
ア 第1審判決
 控訴人は、大阪地方裁判所に対し、被控訴人を被告として、本件システムの著作権確認及び本件システムに対する控訴人の開発寄与分の確認を求める訴え(以下「1次訴訟」という。)を提起した(大阪地方裁判所平成19年(ワ)第11502号)。
 上記訴訟において、控訴人は、本件システムは、控訴人が一人で開発作成したものであり、本件システムの作成について、被控訴人、信友及び中国塗料技研の「発意」は存在せず、職務著作(著作権法15条2項)に係る著作物に当たらないから、控訴人が著作権者となる旨主張した。これに対し、被控訴人は、被控訴人が現在使用中の「船舶情報管理システム」なる著作物は控訴人が開発したものではなく、控訴人の開発したものは被控訴人には存在しない、仮に控訴人主張の本件システムが控訴人が開発したものとして存在するとしても、控訴人は信友在籍中に本件システムの開発を命じられてその業務に従事し、控訴人が中国塗料技研に転社後も同業務が継続され、さらに仮に開発を命じたのが被控訴人であるとすれば、本件システムは、著作権法15条2項の職務著作に係る著作物であり、その著作者は信友、中国塗料技研又は被控訴人であり、控訴人が著作権を有するものではない旨主張した。
 大阪地方裁判所は、平成20年7月22日、控訴人の本件システムの著作権の確認を求める請求について、本件システムは、信友及び中国塗料技研の発意に基づき、両社の業務に従事する控訴人が職務上作成したものであるから、著作権法15条2項の職務著作に当たり、その著作者は信友ないし中国塗料技研であるということができ、控訴人は本件システムの著作者にはなり得ないものであるから、その著作権を有するとはいえないとして、被控訴人の職務著作の主張を認めて、控訴人の請求を棄却した。また、本件システムに対する控訴人の開発寄与分がどれほどの割合であるかの確認を求める訴えは不適法であるとして、これを却下した(甲2)。
イ 第2審判決
 控訴人は、第1審判決を不服として控訴し、控訴審において、控訴人が被控訴人又は信友及び中国塗料技研との共同著作権を有することの確認を求める予備的請求を追加した(知的財産高等裁判所平成20年(ネ)第10064号)。
 知的財産高等裁判所は、平成22年12月22日口頭弁論を終結し、平成23年3月15日、本件システムは、信友及び中国塗料技研の発意に基づき、両社において開発業務に従事する控訴人が職務上作成したものであり、著作権法15条2項の職務著作として、その著作者は、信友又は中国塗料技研あるいはその双方であって、控訴人が共同著作権も含め著作権を有するものではないから、その著作権の確認を求める請求は、主位的請求及び予備的請求のいずれについても理由がないとして、控訴人の控訴を棄却し、予備的請求を棄却する判決をした(甲3)。
ウ 上告審決定
 控訴人は上告するとともに上告受理を申し立てたが、最高裁判所は、平成24年2月28日、控訴人の上告を棄却し、本件を上告審として受理しない旨の決定をした(最高裁判所平成23年(オ)第1066号、同年(受)第1203号。甲1)。これにより、控訴人が本件システムの著作権を有しないことが被控訴人との間で既判力をもって確定した。
(3) 控訴人による催告及びこれに対する中国塗料技研の回答
 控訴人は、平成24年10月17日付け催告書をもって、中国塗料技研に対し、1次訴訟の確定判決により職務著作として中国塗料技研に本件システムの著作権が帰属したことが判示されたが、中国塗料技研が控訴人に対して発意をした当時、控訴人は中国塗料技研の代表取締役であったから、代表取締役である控訴人が中国塗料技研を代表して控訴人個人に対して「発意」を行うことは、旧商法265条1項の自己取引に該当し、取締役会の承認を得なければ無権代理として無効であるとして、民法114条に基づき、上記自己取引を承認するか否かについて3週間以内に諾否を回答するよう催告した。また、控訴人は、大竹明新化学に対しても、同日付け催告書をもって、上記と同旨の催告をした(甲4)。
 これに対して、中国塗料技研及び大竹明新化学は、いずれも同月19日付け回答書をもって、控訴人に対し、控訴人の上記主張自体が理解困難であるから、控訴人の催告について諾否の回答をすることはできない旨回答した(甲5の1・2)。
(4) 控訴人は、平成25年4月17日、本訴を提起した。
第3 当事者の主張
 当事者双方の主張は、後記のとおり、当審における控訴人の主張を付加するほかは、原判決添付訴状(写し)及び同答弁書(写し)のとおりであるから、これを引用する。
〔当審における控訴人の主張〕
1 信友又は中国塗料技研の「発意」は、控訴人が信友の取締役又は中国塗料技研の代表取締役として行ったもので、その内容は、本件システムの著作権を控訴人が有し、これを活用する最適の設備を信友から被控訴人にリースさせ、受注、塗装仕様発行、成績管理という被控訴人の業務活動に使用させ、かつ、それに伴い適正な使用料を控訴人が受領するというものであるから、控訴人と信友又は中国塗料技研との間の自己取引に当たり、旧商法265条1項が適用されるから、当該取引について取締役会の承認がなければ無権代理行為として無効となる。
 そこで、1次訴訟の事実審の口頭弁論終結後に控訴人から信友及び中国塗料技研に対して民法114条の催告をしたにもかかわらず、信友及び中国塗料技研は自己取引の承認を拒絶したから、「発意」は無効であることが確定し、本件システムの著作権は信友又は中国塗料技研に移転せず、原著作者である控訴人個人の下に留まる。
 以上のとおり、本件システムの著作権は控訴人の下に留まるものであるから、控訴人は、本件システムの著作権に基づき、本件システムを控訴人に無断で使用し続ける被控訴人に対し、その使用の差止め、本件システムの使用料相当額の支払、謝罪広告の掲載を求めるものである。
2 1次訴訟において、控訴人が本件システムに係る著作権は控訴人に帰属する旨主張したのに対し、被控訴人は、控訴人の上記主張を単に否認するだけであり、本件システムが著作権法15条2項の職務著作に当たる旨の主張は一切していなかった。
 本件システムが職務著作に該当する旨の被控訴人の主張もないのに、控訴人が職務著作の抗弁に対する再抗弁事項である前記1の自己取引に係る主張を1次訴訟において提出することは不可能であった。
 したがって、上記自己取引に係る主張は、1次訴訟の事実審の口頭弁論終結時である平成22年12月22日時点より後に新たに生じた事情の主張に該当する。
第4 当裁判所の判断
 当裁判所も、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおりである。
1 本訴請求について
 控訴人は、本件システムの著作権は控訴人個人が有する旨主張して、本件システムの著作権に基づき、被控訴人に対し、本件システムの使用の差止め、本件システムの使用料相当額の支払及び謝罪広告の掲載等を求めている。
 そうすると、控訴人の本訴請求は、いずれも控訴人が本件システムの著作権を有することを先決問題とする請求であるということになる。
 しかるに、前記第2の2の前提事実のとおり、控訴人と被控訴人との間において、1次訴訟の事実審の口頭弁論終結時である平成22年12月22日の時点で、控訴人が本件システムの著作権を有しないことが、既判力をもって確定している。
 したがって、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、1次訴訟の確定判決の既判力に抵触することから、理由がない。
2 控訴人の主張について
 控訴人は、信友又は中国塗料技研の「発意」は、控訴人が信友の取締役又は中国塗料技研の代表取締役として行ったものであり、控訴人と信友又は中国塗料技研との間の自己取引に当たるところ、1次訴訟の事実審の口頭弁論終結後に控訴人から信友及び中国塗料技研に対して民法114条の催告をしたにもかかわらず、信友及び中国塗料技研は自己取引の承認を拒絶したから、「発意」は無効であることが確定した旨主張する。
 しかし、著作権法15条2項にいう法人等の「発意」とは、著作物の作成が直接又は間接に法人等の意図に由来するものであることであって、そもそも法律行為ではないから、旧商法265条1項の自己取引の問題が生じるものでないことは明らかであり、これに関する控訴人の主張は失当というほかない。
 また、この点をおいても、控訴人の主張によれば、信友又は中国塗料技研による「発意」があった時点において、当該「発意」が、信友の取締役又は中国塗料技研の代表取締役である控訴人と、会社である信友及び中国塗料技研との間の自己取引に該当していたというのであるから、「発意」が自己取引であるとの控訴人主張に係る事実は、1次訴訟の事実審の口頭弁論終結前から存在しており、信友又は中国塗料技研の職務著作の成否という同社らの著作権の発生原因に内在する瑕疵であることになる。
 そうすると、前記第2の2(3)のとおり、控訴人の民法114条の催告並びに信友及び中国塗料技研の回答が1次訴訟の事実審の口頭弁論終結後にされたものであるとしても、なお控訴人の上記「自己取引」に係る主張は、1次訴訟の事実審の口頭弁論終結前に主張することができたものであるといえる。
 したがって、本訴において、控訴人が上記主張をすることは、1次訴訟の確定判決の既判力に抵触し許されないというべきである。
3 結論
 以上の次第で、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 部眞規子
 裁判官 柵木澄子
 裁判官 鈴木わかな
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