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【事件名】ジャズCDの委託契約事件 【年月日】平成28年2月16日 東京地裁 平成25年(ワ)第33167号 損害賠償等請求事件 (口頭弁論の終結の日 平成27年12月8日) 判決 原告 株式会社ノアコーポレーション(以下「原告ノア」という。) 原告 A(以下「原告A」という。) 被告 タッズ・インターナショナル株式会社(以下「被告タッズ」という。) 被告 B(以下「被告B」という。) 上記2名訴訟代理人弁護士 佐藤公輝 同訴訟復代理人弁護士 川瀬 渡 被告 株式会社スペースシャワーネットワーク(以下「被告スペース」という。) 被告 C(以下「被告C」という。) 上記2名訴訟代理人弁護士 野村晋右 同訴訟復代理人弁護士 久保田征良 同 加茂翔太郎 主文 1 被告タッズは、原告ノアに対し、50万0100円及びうち35万5071円に対する平成23年8月24日から、うち14万5029円に対する平成26年1月5日から、それぞれ支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 2 被告タッズ、被告B及び被告スペースは、原告ノアに対し、連帯して7077円及びうち2000円に対する平成23年4月5日から、うち5077円に対する平成25年3月31日から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は、原告ノア及び被告タッズに生じた費用の各20分の1を被告タッズの負担とし、原告ノア及び被告タッズに生じたその余の費用並びに原告A、被告B、被告スペース及び被告Cに生じた費用を原告らの負担とする。 5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告タッズは、原告ノアに対し、179万9370円及びこれに対する平成23年4月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 2 被告らは、原告ノアに対し、連帯して1674万7886円及びこれに対する平成23年4月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは、原告Aに対し、連帯して630万円及びこれに対する平成23年4月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告スペースは、原告Aに対し、別紙CD目録記載のCD(以下「本件CD」という。)につき、ポスコードと商品番号を変えて、被告スペースを通して全国で販売せよ。 5 被告タッズ及び被告スペースは、原告Aに対し、本判決確定後1か月以内に、別紙謝罪広告目録記載1の各誌に、別紙謝罪広告目録記載2の謝罪広告を、別紙謝罪広告目録記載3の掲載条件で1回掲載せよ。 6 被告タッズ及び被告スペースは、原告Aに対し、本判決確定後1週間以内に、被告スペースの管理するホームページ上に、別紙謝罪広告目録記載2の謝罪広告を、別紙謝罪広告目録記載4の掲載条件で6か月間掲載せよ。 第2 事案の概要 1 本件は、本件CDについてのレコード製作者である原告ノア及び本件CDに収録された別紙CD目録4記載の各楽曲(以下「本件楽曲」という。)の実演家である原告Aが、被告らに対し、以下の各請求をする事案と解される。 (1) 原告ノアの被告タッズに対する、印税の支払請求及び債務不履行に基づく損害賠償請求 原告ノアは、被告タッズに対し、@被告タッズとの本件CDの製造販売委託契約の履行請求として、被告タッズが販売した本件CD213枚の売上金のうち原告ノアが取得すべき部分(以下、本件楽曲又は本件CDの各売上金のうち原告ノアが取得すべき部分を「原告ノア印税」という。)に相当する35万5071円、A同契約上の債務不履行による損害賠償として、同契約に要した費用と弁護士相談料(予備的に、本来取得するはずだった原告ノア印税相当額と弁護士相談料)を合計した144万4299円並びに上記@及びAに対する商事法定利率年6分の割合による各遅延損害金の支払を求める(上記第1の1)。 (2) 原告ノアの被告らに対する、不法行為に基づく損害賠償請求 原告ノアは、被告らに対し、被告らが、@原告ノアの許諾がないのに、本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信を繰り返し、原告ノアが有する本件CDについてのレコード製作者の著作隣接権(複製権、貸与権、譲渡権及び送信可能化権。著作権法(以下、単に「法」という。)89条2項)及び原告Aから譲り受けた本件楽曲についての実演家の著作隣接権(送信可能化権。法89条1項)を侵害し、また、A本件CDを廃盤にして、原告ノアの本件原盤、ジャケットを含む本件CD及びポスター等の所有権を侵害したため、これらの不法行為により、上記@について合計722万3480円、上記Aについて合計839万1174円、上記@Aを通じた弁護士相談料として113万3232円の損害を被ったと主張して、不法行為に基づく損害賠償金1674万7886円(上記の合計額)及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(上記第1の2)。 (3) 原告Aの被告らに対する、不法行為に基づく損害賠償請求 原告Aは、被告らに対し、被告らが、@音楽配信事業者のウェブサイトを通じて本件楽曲を配信するに際し、ファイル圧縮によって本件楽曲の音質を劣化させるなどして、本件楽曲の実演家である原告Aの実演家人格権(同一性保持権。法89条1項)を侵害し、A本件CDの廃盤と廃盤理由に関する虚偽の説明により原告Aの名誉権及び人格権を侵害し、B無断で原告Aのアーティスト名や写真を使用して原告Aのプライバシー権等を侵害したため、これらの不法行為により、上記@について100万円、上記Aについて400万円、上記Bについて100万円、上記@〜Bを通じた弁護士相談料として30万円の損害を被ったと主張して、不法行為に基づく損害賠償金630万円(上記の合計額)及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(上記第1の3)。 (4) 原告Aの被告タッズ及び同スペースに対する名誉回復措置請求 原告Aは、被告スペースに対し、被告スペースが本件CDの廃盤によって原告Aの名誉を棄損したと主張し、名誉を回復するために適当な処分(民法723条)として、本件CDを全国で販売するよう求める(上記第1の4)。 また、原告Aは、被告タッズ及び同スペースに対し、同被告らが本件CDの廃盤によって原告Aの名誉を棄損したと主張し、名誉を回復するために適当な処分(民法723条)として、ジャズ雑誌3誌に謝罪広告を掲載すること、及び被告スペースの管理するホームページ上に謝罪広告を掲載することを求める(上記第1の5、6)。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実) (1) 当事者 ア 原告ら 原告Aは、Eをアーティスト名とするジャズ歌手であり、原告ノアは、原告Aが歌唱した楽曲等に係る音楽・映像作品の企画、録音、編集、制作及び販売等を業とする株式会社(平成21年8月設立、資本金100万円)である。原告ノアの旧代表者であるD(以下「D」という。)は、平成26年8月31日に辞任し、同日以降、原告Aが原告ノアの代表者を務めている。 イ 被告ら 被告タッズは、音楽コンテンツの音源の企画、制作及び販売等を目的とする株式会社(平成19年11月設立、資本金400万円)であり、被告Bは、平成26年12月31日に辞任するまで被告タッズの代表取締役の地位にあった者である(以下、被告タッズと被告Bを併せて「被告タッズら」という。)。 被告スペースは、通信衛星又は地上回線を用いた映像コンテンツソフトの配給及び販売等を目的とする株式会社(平成6年10月設立、資本金17億8905万9052円)であり、東京証券取引所JASDAQ市場に上場する国内最大手の衛星一般放送事業者である。被告スペースは、平成23年10月1日、子会社であるバウンディ株式会社の全事業の営業譲渡を受けて同社の事業を承継し、同社はこれに伴い解散した(以下、営業譲渡前のバウンディ株式会社も含めて「被告スペース」と表記する。)。 被告Cは、被告スペースの従業員であり、上記営業譲渡後は被告スペースの音楽プロデューサーの職務に従事している(以下、被告スペースと被告Cを併せて「被告スペースら」という。)。 (甲10、11) (2) 原告Aは、平成19年9月以前に、米国内において、本件楽曲の歌唱を行い、伴奏等を担当する実演家らと共に本件楽曲のレコーディングを実施した(以下「本件実演」という。)。 原告Aは、平成20年3月23日、本件実演を録音した録音物であるDVD原盤に係る一切の権利(本件楽曲の録音権を含む実演家の著作隣接権等を含む。)を取得した。 (甲19の1・2) (3) 原告Aは、平成21年8月27日、原告ノアに対し、本件楽曲を収録した上記(2)のDVD原盤に係る全ての権利(同DVD原盤の所有権のほか、本件楽曲に係る実演家の著作隣接権及びレコード及びビデオ用原盤の制作者となる地位等を含む。)を譲渡する旨の契約を締結した。原告ノアは、本件楽曲のミキシング(音声トラックのバランス、音色及び定位の創作等)やマスタリング(音量、音質及び音圧の調整等)などの作業を経て、平成22年9月、本件楽曲を録音した音楽原盤(以下「本件原盤」という。)を完成させ、本件原盤についてレコード製作者としての著作隣接権を取得した。(甲20、甲21の1の1ないし甲21の3の2、甲22) (4) 原告ノアは、平成22年10月25日、被告タッズとの間で、本件原盤を音源とする音楽CD(本件CD)の製造販売業務の委託契約(以下「本件契約」といい、本件契約に係る契約書を「本件契約書」という。)を締結し、本件契約に基づき、本件CDの量産及び販売チラシ等の製作のための実費及び報酬を支払った。 本件契約書には、以下の内容の条項がおかれている。 ア 2条 本業務の内容は、以下の各号に定めるとおりとする。 (ア) (1)号 被告タッズは、原告ノアが被告タッズに供給する音源、資材及び資料を利用し、本件CDの商品化に関わる全ての業務を行う。 (イ) (4)号 被告タッズは、本件CDの発売元としてCDレーベル名「24 Jazz Japan」名義で製造し、販売元は被告タッズが取引する被告スペースとする。 イ 4条1項 本件契約の期間は、平成22年10月25日から平成23年10月24日までとする。ただし、本件契約に基づく業務の遂行のために、原告ノア又は被告タッズのいずれかが書面によって更新を申し入れ、これに原告ノア及び被告タッズの双方が合意した場合は、さらに必要な期間について本件契約を更新することができるものとする。 ウ 8条 (ア) 1項 被告タッズは、被告スペースを通じて一般小売店に流通する本件CDの売上収益金から、被告タッズと販売元(被告スペース)との契約に基づく小売店手数料、販売元手数料(後記(ウ)を参照)を差し引いた金額を、本件CD発売日から起算して6か月ごとに原告ノアに支払う。 (イ) 2項 原告ノアは、前項に基づく収益金の10%に相当する金額(円未満の端数は四捨五入)を発売元手数料として被告タッズに支払う。 (ウ) 本件契約により製造販売する本件CD1枚当たりの手数料等は、以下のとおりである。 @ 小売価格(税込) 3000円 A 小売価格(税抜) 2858円(@/1.05) B 小売店手数料 572円(A×20%) C 販売元(被告スペース)手数料 434円((A−B)×19%) D 発売元(被告タッズ)手数料 185円((A−B−C)×10%) E 原告ノアの収益 1667円(A−B−C−D) エ 9条 本件契約によって制作された音源の原盤権は原告ノアに帰属し、音楽著作権は被告タッズが適正に処理するものとする。 オ 11条2項 本件契約の終了をもって一般流通による本件CDの販売は終了することとし、被告タッズは、その時点で直ちに本件CDの廃盤処理を行うとともに、必要な経費精算を行う。 カ 15条 原告ノア又は被告タッズは、相手方に次の各号の一に該当する事由が生じた場合には、何らの通知又は催告なしに本件契約を解除することができる。 (5)号 その他、本件契約の履行が困難となり、又はそのおそれがあると認められる事由が生じたとき (甲22、23、24の1・2、59) (5) 被告タッズは、平成22年8月1日に被告スペースとの間で締結した業務委託基本契約に基づき、同年11月ころ、被告スペースとの間で、本件CDの販売(レンタル事業者に対して販売し、流通に供することも含む。)及び本件楽曲の配信等を委託する旨の契約(以下「本件再委託契約」という。)を締結した。なお、本件再委託契約についての被告スペースの担当者は、被告Cであった。(乙1、丙1、4) (6) 被告タッズは、本件契約に基づき、本件CD1000枚を製造した。 被告スペースは、本件再委託契約に基づき、本件CDを全国の小売店やレンタル事業者に販売し、また、インターネット配信事業者を通じて本件楽曲の公衆送信を行った。本件CDは、平成23年2月23日に発売され、同年4月までに合計213枚が販売された。 (乙1、2、6、丙1) (7) 被告スペースは、本件CDを廃盤とすることを決定し(以下「本件廃盤処置」という。)、被告Cは、平成23年4月5日付けの文書で、本件廃盤処置について被告Bに通知した。被告Bは、同通知を受けて、同日、原告Aに対して本件CDが廃盤となったことをEメールで通知した(以下「本件廃盤通知」という。)。 被告スペースは、同年6月1日、小売店(特約店)に対し、本件廃盤処置を実施することを通知するとともに、同年9月10日までに本件CDを被告スペースに返品するよう依頼する旨の文書を発出した。 (甲31、32、乙3) (8) 被告タッズは、平成25年11月7日付け現金書留で、原告ノアに対し、1万9329円を送付した。 3 争点 (1) 原告ノアの被告タッズに対する、原告ノア印税の支払請求及び債務不履行に基づく損害賠償請求について ア 本件契約に基づく原告ノア印税の支払請求権の存否及び額(争点1) イ 本件契約についての債務不履行の成否(争点2) ウ 損害額(争点3) (2) 原告ノアの被告らに対する、不法行為に基づく損害賠償請求について ア 著作隣接権侵害の不法行為の成否(争点4) イ 本件原盤等に対する所有権侵害の不法行為の成否(争点5) ウ 損害額(争点6) (3) 原告Aの被告らに対する、不法行為に基づく損害賠償請求について ア 同一性保持権侵害の不法行為の成否(争点7) イ 名誉権侵害又は人格権侵害の不法行為の成否(争点8) ウ プライバシー権等侵害の不法行為の成否(争点9) エ 損害額(争点10) (4) 原告Aの被告タッズ及び同スペースに対する名誉回復措置請求について 名誉回復措置の要否及び内容(争点11) 4 争点に関する当事者の主張 (1) 争点1(本件契約に基づく原告ノア印税の支払請求権の存否及び額)について [原告ノアの主張] 被告タッズは、本件契約に基づき、本件CDを213枚販売した。したがって、被告タッズは、本件契約8条に基づき、原告ノア印税である35万5071円(213枚×1667円)を原告ノアに支払う義務がある。 [被告タッズの主張] 否認する。 (2) 争点2(本件契約についての債務不履行の成否)について [原告ノアの主張] 原告ノアは被告タッズとの間で、本件契約を締結して、本件CDの製造、発売及び被告スペースへの販売を委託したが、本件契約の期間は平成22年10月25日から同23年10月24日までと定められ、本件CD650枚について、被告スペースを通して、被告スペースが契約する小売店等に納品することが予定されていた。 本件CDは、平成23年2月23日に発売されたが、音楽CDは、発売後の売上げがもっとも多く、その後は特段の事情がない限りほとんど売れないことが通常であるから、被告スペースに対する販売委託業務は、契約で定めた同年10月24日まで継続的に行わなければその目的を達することができない。にもかかわらず、被告タッズは、発売からおよそ1か月後の同年4月5日に本件廃盤処置が執られた後、被告スペースに対する販売委託業務を一切行わなくなった。これにより本件CDは、全国流通を通して販売できない状態に陥り、実質上、本件契約は履行不能となった。 [被告タッズの主張] 原告ノアの当時の代表者であるDが、本件契約の相手方である被告タッズに全く相談しないまま、突如、レンタル事業者であるディーエムエム株式会社(以下「DMM」という。)に対して本件CDのレンタルを停止するよう求めたため、被告スペースはDMMから強い抗議を受けた。そのため、被告スペースは本件廃盤処置を決め、これを受けて、被告タッズが、原告ノアに対し、本件廃盤通知を行った。被告タッズの本件廃盤通知は、「契約の履行が困難となり、またはそのおそれがあると認められる事由が生じた」(本件契約15条(5))ことを理由とする本件契約の解除に伴う事実行為である。被告タッズとしては、上記事由が存在するとして、本件廃盤通知を行うことによって本件契約を正当に解除したのであるから、本件契約の債務不履行はない。 (3) 争点3(損害額)について [原告ノアの主張] ア 被告タッズの債務不履行により、実質上、本件契約が履行不能となったために、原告ノアは、本件契約にかかった費用(135万8615円)及び弁護士相談料(8万5684円)の合計144万4299円の損害を被った。 イ 仮に本件契約にかかった費用全額の返金請求が認められないとしても、本件CDのうち本来売れるはずであった687枚(製作した本件CD1000枚から、実際に売れた213枚及びサンプル100枚を除いたもの)に係る原告ノア印税(114万5229円。計算式は687枚×1667円)及び弁護士相談料(7万5015円)の合計122万0244円の損害が発生した。 [被告タッズの主張] いずれも争う。 製作された本件CDからサンプル100枚を除いた900枚のうち、一般流通分は300枚のみであり、600枚は原告ノアの手売り用として原告らに送っている。 (4) 争点4(著作隣接権侵害の不法行為の成否)について [原告ノアの主張] ア 原告ノアは、被告タッズに対して、本件CDの製作及び販売についてのみを委託したのであり、本件CDの貸与と本件楽曲の配信について、被告タッズに対して何ら許諾を与えていない。このことは、本件契約書に本件CDの貸与及び本件楽曲の配信の許諾や対価等について何ら定めがない上、「製造販売に関する業務の委受託について」と記載されていること(本件契約前文)、「甲(原告ノア)の収益」が「製造販売」にのみ掛かっていること(同8条)、原盤権の帰属を確認していること(同9条)から明らかである。そもそも、本件CD製造販売契約の範囲が「製造販売」に限られ、本件契約8条に本件CDのレンタルや本件楽曲の配信について何らの定めもないこと、「乙が適正に処理」できるのは、当然ながら、適法に許諾を得た範囲に過ぎないことからすれば、被告タッズが原告ノアから許諾を得たのは、レコード製作者としての販売目的に限った複製権(法96条)及び譲渡権(法97条の2)のみであって、被告タッズ及び同スペースには、原告ノアのレコード製作者としての貸与権(法97条の3)、販売目的を逸脱した複製権(法96条)、譲渡権(法97条の2)、送信可能化権(法96条の2)及び実演家としての送信可能化権(法92条の2)に関する許諾は一切与えられていない。 さらに、原告ノアは、重大な決定などについては、証拠を残すため必ず書面で回答するようにしており、口頭の承諾などは一度も行っていない。 イ 上記アのとおり、被告タッズは、本件CDのレンタル又は配信について原告ノアから委託も許諾も受けておらず、被告タッズを介して、被告スペースに本件CDの販売を委託する本件契約において、原告ノアが、被告タッズに対して本件CDのレンタル又は配信について委託していないにもかかわらず、被告スペースに再実施許諾権を与えることは考えられない。 ウ それにもかかわらず、被告タッズは、本件CDについて、被告スペースにレンタル事業者への販売を委託することにより、原告ノアのレコード製作者としての複製権、貸与権及び譲渡権を侵害し、被告スペースに本件楽曲の配信会社への配信委託をすることによって、原告ノアのレコード製作者としての送信可能化権及び実演家としての送信可能化権を侵害した。 また、被告スペースは、本件CDについて、レンタル事業者への販売及びレンタルの委託をすることにより、原告ノアのレコード製作者としての貸与権及び譲渡権を侵害し、同様に、本件楽曲について、配信会社に配信を委託することによって、原告ノアのレコード製作者としての送信可能化権及び実演家としての送信可能化権を侵害した。 さらに、被告Bは、被告タッズの代表取締役として被告タッズの業務全般を統括執行するとともに、被告スペースと意を通じて本件CDの販売及び本件楽曲の配信等を行い、被告Cは、被告スペースの担当者として本件CDの販売及び本件楽曲の配信等を行っていたから、被告B及び同Cについても、被告タッズ及び同スペースとの共同不法行為が成立する。 なお、被告スペースらは、本件再委託契約及び同種取引における通常の適正なプロセスに従って業務を行ったことを根拠に、故意も過失もなかったと主張する。しかしながら、被告スペースらは、定型フォームを用いて本件再委託契約を締結したのみで、被告タッズらに対し何ら具体的な確認を行っていないのであって、故意又は過失が認められることは明らかである。 [被告タッズらの主張] 本件契約書には本件CDのレンタル事業者への販売や本件楽曲の配信について明確には記載されていないが、本件CDの「商品化に関わるすべての業務」(本件契約第2条(1)号)には、レンタル事業者への販売や配信も含まれるし、同第9条が被告タッズにおいて適正に処理することと定める「音楽著作権」には貸与権や送信可能化権も含まれる。仮に本件CDのレンタル事業者への販売や本件楽曲の配信が本件契約の内容に含まれていないとしても、被告タッズは、D、原告A及び原告Aの母(以下、併せて「原告A一家」という。)に対し、被告スペースが本件CDをレンタル事業者に販売すること及び本件楽曲のインターネット配信を行うことについて、口頭で何度も説明して同意を得ているから、本件契約と一体となる許諾契約が成立している。 具体的には、被告タッズは、原告A一家に対し、平成22年7月12日に、レンタルと配信について説明した上、これを前提に話を進め、同年10月12日ころ、本件CDのレンタルと本件楽曲の配信を行うことに合意した。なお、本件CDの発売に至るまでの間、原告ノアの代表者はDであったが、原告Aは原告ノアの代理人であったと解されるし、そもそも原告ノアは原告Aの音楽活動に関する事業を目的として設立された原告A一家の家族会社であり、原告A一家が一体となって運営しているから、原告A一家に対する説明及び原告A一家の一人がした合意の効力は原告ノアに帰属する。 被告タッズは原告らに対し、本件CDの販売についてはあらゆる販売ルートを使うと説明し、レンタル事業者への販売や本件楽曲の配信も行うということも説明している。これに対して原告らからは、本件CDのレンタル事業者への提供や本件楽曲の配信を拒否するという意思表示は一切なかった。 また、被告タッズが本件契約書作成に先立って被告スペースとの間で締結した業務委託基本契約書(丙1)には、配信業務の委託や貸与についての規定もあるが、仮に原告らが本件CDのレンタルや本件楽曲の配信を拒否したのであれば、そのような規定を入れるはずがない。さらに、被告スペースは、CD等の販売を行うときは、セル・レンタルの差別的取扱い禁止に関する業界ルールに従う必要があるから、レンタル事業者への販売を行わない訳にはいかず、仮に原告らがレンタル事業者への販売を拒否したなら被告タッズが本件CDの販売を被告スペースに委託することはあり得ない。そもそも、CDや楽曲をレンタル及び配信に供することは、重要なプロモーション手段であって、原告らが当初からこれを拒否していたなら、被告タッズは本件CDの製造販売の業務自体を受けなかったはずである。被告タッズは、本件以外にも多数のCDの製造販売を受託し、その全てについてレンタルと配信を行っているが、これらもすべて口頭での合意であり、契約書にはレンタルや配信について明記していない。 なお、原告A、D、被告B及び同Cの会話の録音反訳(甲33の2)の内容からも、原告らが本件CDのレンタルに合意をしていたことは明らかである。 [被告スペースらの主張] 被告スペースは、被告タッズとの間の本件再委託契約に基づいて、本件CDの販売及び本件楽曲の配信業務を行ったもので、本件再委託契約においては、被告タッズが著作権及び著作隣接権について、権利者からの許諾を得る等の必要な措置をとっていることが当然の前提とされている。被告スペースには、被告タッズがレコード製作者である原盤権者からの許諾等を得ずにレンタル事業者への販売及び音楽配信業務を委託しているなどという認識は一切なかったし、契約書のひな形に基づき、通常どおりの業務プロセスに従って、本件CDの販売及びレンタル並びに本件楽曲の配信業務を行ったのであって、特に被告タッズの権限に疑義等を抱かしめるような事情もなかったから、被告スペースらには一切過失がない。 (5) 争点5(本件原盤等に対する所有権侵害の不法行為の成否)について [原告ノアの主張] 本件廃盤処置により、本件CDは、問題のあるいわくつきの音楽CDとして見られることになる上、本件CDには、被告タッズが発売元、被告スペースが販売元であることが明記されているため、廃盤以後は、他の第三者に販売委託等をすることができない。したがって、廃盤とされたことによって本件原盤、本件CD及びポスター等の販促物は無価値となるのであって、被告タッズ及び同スペースが原告ノアの承諾を得ることなく、突然、本件廃盤処置を行ったことは、原告ノアの本件原盤、本件CD及びポスター等の販促物に対する所有権を侵害する不法行為に当たる。また、被告Bは被告タッズの代表取締役兼担当者として、被告Cは被告スペースにおける担当者として、それぞれ本件CDの廃盤を決定又は承諾しているから、被告B及び同Cも共同不法行為者としての責任を負う。 なお、被告らには、本件廃盤処置が原告ノアの本件原盤等に対する所有権侵害に当たることについて故意がある。 [被告タッズらの主張] 本件CDが廃盤になっても、当該レコード商品番号(「DDCZ−1737」)で流通に供することができなくなるだけで、本件CDを原告らがライブ会場で知人等に手売りすることは可能であり、商品番号をシール処理して被告スペースとは別のルートで流通を図ること等は何ら妨げられることはない。したがって、本件原盤はもちろんのこと、本件CD及びポスター等の販促物が無価値となることはなく、また、本件廃盤処置は、原告ノアの本件CDに対する所有権を侵害するものでもないので、不法行為は成立しない。また、本件原盤は原告ノアが所有しており、今後も使用できるし、チラシ、ポスター及びジャケットの版下についても、被告タッズが保管しており、返還方法を指示されればいつでも原告ノアに返還する用意がある。 [被告スペースらの主張] 被告スペースは、原告ノアの代表者であったDが、レンタル事業者に本件CDのレンタルへの提供を停止するよう求めたことから、被告タッズらに対し、以後本件CDがレンタル流通に供されることを阻止するために本件CDを廃盤にすることを打診し、被告タッズの承認を得て本件廃盤処置を行ったものである。被告スペースらとしては、これ以上のクレーム拡大を回避するための自衛手段として本件CDを廃盤にせざるを得なかったのであって、本件廃盤処置を執ったことに何ら問題はない。 また、本件CDが廃盤になったとしても、当該レコード商品番号にて流通に供することが認められなくなるに過ぎず、本件CDを原告らがライブ会場等で手売りすることが可能なことはもちろん、商品番号をシール処理などで変更して被告スペースと別のルートで流通を図ること等は何ら妨げられないのであるから、本件原盤、本件CD及びポスター等の販促物が無価値となることはない。 (6) 争点6(損害額)について [原告ノアの主張] 原告ノアは、被告らの不法行為により、以下のア〜ウのとおり、合計1674万7886円の損害を被った。 ア 著作隣接権侵害に係る損害 722万3480円 (ア) 無断レンタルに係る損害 2万5000円 被告タッズ及び被告スペースは、レコード協会を通して、本件CDをレンタル事業者に販売し、1枚当たり250円の収益を得た。貸与のために複製・譲渡した本件CDの枚数は、本件CDの初回生産枚数が1000枚であることから10%の100枚程度と考えられる。したがって、法114条2項により、原告ノアの損害額は、2万5000円(250円×100枚)であると推定される。 なお、被告タッズらから原告ノアに対し、平成25年11月7日付け現金書留で1万9329円が送付されたが、被告タッズらがいかなる趣旨で原告ノアに対して金銭を送付したか不明である。 (イ) 無断配信に係る損害 718万8480円 被告タッズ及び被告スペースの配信委託により、アマゾンやレコチョクをはじめとする全世界の少なくとも78社のインターネット配信事業者から本件楽曲全12曲が配信された。レコチョクでは、本件楽曲1曲あたりのダウンロード代金は200円と設定されており、全配信事業者共通の可能性が高い。本件楽曲の配信が少なくとも2年間継続され、月2回ダウンロードされていたとした場合、配信事業者1社につき1曲あたり48回(2回×12か月×2年)ずつ公衆送信されたこととなる。 そして、課金やユーザーサポート等、配信事業者に支払う委託料は、通常20%であるため、配信委託により被告タッズ及び同スペースが得られる利益は、販売代金の80%である。したがって、ダウンロード代金を200円と考えた場合の原告ノアの損害額は、法114条2項により、718万8480円(200円×48回×12曲×78社×80%)であると推定される。 (ウ) 二次使用料相当額 1万円 原告らは、原告Aの知人に頼んで本件楽曲をラジオ放送等で何回か放送してもらったので、当該放送等で使用された本件楽曲の使用料相当額である1万円の損害を被った。 イ 所有権侵害に係る損害 839万1174円 本件廃盤処置により、原告ノアは本件原盤の作成に要した費用703万2559円及び本件CD・ポスター等の製作費135万8615円を合計した839万1174円の損害を負った。 ウ 弁護士相談料 113万3232円 原告ノアは、弁護士相談料として、上記ア及びイの合計額(1561万4654円)の5%である78万0732円及び訴え提起時の訴訟代理人弁護士ら以外の弁護士に対する弁護士費用35万2500円を合計した113万3232円の損害を負った。 [被告タッズらの主張] 争う。なお、本件CDのレンタル事業者への販売数は8枚であるが、全て返品されており、レンタルについての売上等はない。また、本件楽曲の配信による被告スペースの売上は約2年間で2万4046円(税別)のみであるところ、被告タッズは被告スペースから受領した本件楽曲の配信による売上げに係る原告ノア印税を全て原告ノアに返しているのであって、何ら利益を取得していない。 [被告スペースらの主張] 争う。なお、原告ノアは、少なくとも78社の配信事業者から本件楽曲が配信されたと主張するが、78社というのは被告スペースが本件楽曲の配信を依頼した配信事業者の数であり、このうち実際に配信(ダウンロード)があったのは9社のみである。 (7) 争点7(同一性保持権侵害の不法行為の成否)について [原告Aの主張] 原告Aは、本件CDの製作にあたり、ジャズの本場であるニューヨークの雰囲気やサウンドを表現することを重視し、ニューヨークのプロデューサーにプロデュースを依頼して本件楽曲のレコーディングを行い、さらに、平成22年9月までの3年ほどの時間をかけて、ミキシング作業やマスタリング作業を行うなど、本件楽曲の歌唱に当たっては、音に非常にこだわった。それにもかかわらず、被告らは、MP3やAAC、WMA等の圧縮フォーマットを利用して音声を圧縮して本件楽曲を配信したもので、このように圧縮した音声データは復元した際に音質が劣化するため、本件楽曲における音を忠実に再現することはできない。 また、原告Aは、本件CDにおける楽曲の選曲や配列において、聴き手が原告Aのライブにいるかのような感覚を味わうことができる構成にこだわっていたにもかかわらず、被告らが配信事業者を通じて本件楽曲12曲をインターネット配信し、曲毎に購入できるようにしたことは、原告Aの当該構成をも無にする。 したがって、被告らが本件楽曲を配信するために行ったこれらの行為は、「自己の名誉又は声望を害する」「実演の変更」、「その他の改変」に該当し、原告Aの有する実演家人格権(同一性保持権)を侵害する。 なお、上記同一性保持権の侵害について被告らの故意または過失が認められることは明らかである。 [被告タッズらの主張] 争う。音質の変化は許容範囲内であり、原告Aの実演家人格権(同一性保持権)を侵害するものではないから、慰謝料請求の理由となるものではない。 [被告スペースらの主張] 争う。楽曲配信にあたり音声の圧縮等による一定の音質劣化は避けられないが、そのこと自体は「名誉又は声望を害する」改変には該当しないから、原告Aの実演家人格権(同一性保持権)を侵害するものではない。 (8) 争点8(名誉権侵害又は人格権侵害の不法行為の成否)について [原告Aの主張] 被告らは、原告らの承諾を得ることなく、本件CDを発売後わずか1か月余りで廃盤とする本件廃盤処置を行い、全国の小売店等にその旨通知した。音楽CDが廃盤となるのは、著作権侵害やコンプライアンス上の重要な問題が判明した等の重大な問題が生じた場合のみであるから、廃盤となった音楽CD及びその実演家等は、何らかの重大な問題を抱えている者であると認識されることとなる上、被告Bらは、本件廃盤処置の理由について、原告らが「業界を逸脱した」とか「異常行動」、「契約違反行為」をしたからであるなどと音楽業界関係者らに説明した。 したがって、被告らの本件廃盤処置及びその理由についての虚偽説明は、原告Aの名誉権及び人格権を侵害する不法行為に当たる。 なお、被告らは、本件廃盤処置等によって原告Aの名誉権及び人格権を侵害することを明確に認識しており、故意又は過失も認められる。 [被告タッズらの主張] 本件廃盤処置は、原告ノアの行為に起因するやむを得ないものであったから、原告Aの名誉権及び人格権を侵害する不法行為が成立する余地はない。 [被告スペースらの主張] 上記(5)[被告スペースらの主張]のとおり、被告スペースは、原告ノアの代表者であったDがレンタル事業者に対して本件CDがレンタルに供されることを停止するよう求めたことを受け、被告タッズらに対し、本件CDがレンタル流通に供されることを阻止するためには廃盤にするしかない旨打診し、被告タッズの承認を得て本件廃盤処置を行った。被告スペースらとしては、これ以上のクレーム拡大を回避するための自衛手段として本件廃盤処置を行わざるを得なかったのであり、本件廃盤処置は原告ノアの行為に起因するやむを得ないものであるから、原告Aに対する不法行為は成立しない。 (9) 争点9(プライバシー権等侵害の不法行為の成否)について [原告Aの主張] 被告らは、原告AのEというアーティスト名や本件CDのジャケット写真等を、インターネット配信事業者を通じて配信に供した。原告Aは、アーティスト名やジャケット写真を本件CDの販売宣伝のために製作したのであり、これを無断で配信に供する行為は、原告Aの氏名表示権、肖像権及びプライバシー権を侵害する。 [被告タッズらの主張] 争う。なお、本件楽曲の配信は原告ノアが許諾(依頼)したものであり、ジャケットデザインの写真も原告Aが提供したものである。 [被告スペースらの主張] 争う。原告Aは、配信事業者が、本件楽曲の配信に当たり、原告Aのアーティスト名(E)及び本件CDのジャケット写真を使用したことが、原告Aのプライバシー権侵害に当たると主張するが、被告スペースは、本件再委託契約に基づき「供給音源等」の配信を行うことを委託されているのであって、この「供給音源等」には、「写真」「所謂ジャケットアートワーク」及び「アーティスト名」が含まれている。したがって、本件楽曲の配信に当たり原告らのアーティスト名及び本件CDのジャケット写真を使用したことが原告Aのプライバシー権等を侵害することはあり得ない。 (10) 争点10(損害額)について [原告Aの主張] 原告Aは、被告らの不法行為により、以下のア〜ウのとおり、合計630万円の損害を被った。 ア 同一性保持権侵害に係る損害 105万円 被告らが本件楽曲の音質や構成を変更したことにより、原告Aは、歌唱において最もこだわったニューヨークの音とも言えるものが再現されなくなり、また本件CDにおけるライブ感とも言えるような構成を崩され、本件CDを画期的音質の衝撃的デビュー作とする戦略を妨害されたのであって、これにより原告Aが被った精神的損害は100万円に相当する。 また、法律の素人である原告Aは、著作権法違反を理由とする本件訴訟追行を弁護士に依頼することを余儀なくされ、弁護士費用5万円(同精神的損害の5%)の支出を余儀なくされた。 イ 名誉権及び人格権の侵害に係る損害 420万円 被告らが本件廃盤処置を行ったことにより原告Aが被った精神的損害は、400万円を下らない。 また、原告Aは、これにより弁護士費用20万円(同精神的損害の5%)の支出を余儀なくされた。 ウ プライバシー権等の侵害に係る損害 105万円 本件楽曲の配信に際して、原告Aのアーティスト名や本件CDのジャケット写真がインターネット上に流布された。これによって、原告Aが被った精神的損害は、100万円を下らない。また、原告Aは、これにより弁護士費用5万円(同精神的損害の5%)の支出を余儀なくされた。 [被告らの主張] 争う。 (11) 争点11(名誉回復措置の要否及び内容)について [原告Aの主張] 原告Aは、被告らが本件廃盤処置を行ったこと及び本件廃盤処置に関する虚偽の説明をしたことにより、名誉権や人格権を侵害され、多大な精神的損害を負った。したがって、民法723条に定める名誉を回復するのに適当な処分として、@被告スペースに対し、本件CDを全国で販売させること、A被告タッズ及び同スペースに対し、別紙謝罪広告目録記載1の各誌において、別紙謝罪広告目録記載2の謝罪広告を別紙謝罪広告目録記載3の掲載条件で掲載させること、B被告タッズ及び同スペースに対し、被告スペースが運営するウェブサイトにおいて、別紙謝罪広告目録記載2の謝罪広告を別紙謝罪広告目録記載4の掲載条件で掲載させることがそれぞれ必要である。 [被告タッズらの主張] 上記(8)[被告タッズらの主張]のとおり、本件廃盤処置について、原告Aの名誉権及び人格権を侵害する不法行為が成立する余地はないから、謝罪広告等の名誉回復措置は不要である。 [被告スペースらの主張] 本件廃盤処置が執られた事情及び廃盤の意味合いは、上記(8)[被告スペースらの主張]のとおりであるから、本件廃盤処置により原告Aの名誉権及び人格権を侵害する不法行為が成立する余地はない。したがって、原告Aが求める名誉回復措置を行う必要はない。 第3 当裁判所の判断 1 本件廃盤処置に至る経緯等 争いのない事実に証拠(甲24、29〜40、乙3、丙2、3。枝番のあるものは枝番を含む。)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件廃盤処置に至る経緯等として、次の各事実が認められる。 (1) 被告タッズは、本件契約に基づき、本件CD1000枚を製造し、このうち100枚をサンプル用とし、600枚を原告ノアにおいて販売するために原告ノアに提供し、一般流通用とした残りの300枚について、本件再委託契約に基づき、被告スペースにその販売を委託した。 (2) 原告ノアの当時の代表取締役であったDは、平成23年3月10日、DMMがウェブサイト上で本件CDのレンタルを行っていることを知った。Dは、同月11日、東京都渋谷区内にあるDMMの本社を訪問し、同社営業部の従業員に対し、「本件CDの原盤権者は原告ノアである。原告ノアは、本件CDをレンタルするとは聞かされていない。本件CDのレンタルを延期してほしい。」旨を告げた。 (3) DがDMMに対して行った上記(2)の告知は、DMMにおいて、原盤権者からのクレームとして処理され、その結果、DMMの仕入元である大手レンタル卸代行業者が被告スペースに抗議する事態となった。 (4) 被告スペースは、レンタル卸代行業者からの上記(3)の抗議を受け、本件CDを廃盤にして店頭から回収することとし、発売元である被告タッズの承諾を得て、本件廃盤処置を行った。被告スペースは、平成23年4月5日に本件CDの出荷停止措置を執った上、同年6月1日付けで、特約店等に対し、本件廃盤処置を執った旨の通知を行った。 (5) 被告タッズは、原告ノアに本件廃盤通知をした平成23年4月5日以降、本件CDの販売業務を行っていない。 2 前記第2、2の前提事実及び上記1の認定事実を前提に、以下、各請求について検討することとする。 3 原告ノアの被告タッズに対する、原告ノア印税の支払請求及び債務不履行に基づく損害賠償請求について (1) 争点1(本件契約に基づく原告ノア印税の支払請求権の存否及び額)について 被告タッズが、本件契約8条に基づき原告ノアに支払うべき原告ノア印税の額は本件CD1枚当たり1667円であるところ(前記第2の2(4)ウ(ウ)参照)、前記第2の2(6)のとおり、本件契約に基づき、本件CD213枚が販売されているのであるから、原告ノアは、被告タッズに対し、原告ノア印税として35万5071円(1667円×213枚)の支払請求権を有するものと認められる。 (2) 争点2(本件契約についての債務不履行の成否)について 被告タッズは、本件契約の契約期間である平成23年10月24日までの間、本件契約に基づき、本件CDを販売する義務を負っていたところ、本件廃盤通知をした同年4月5日以降、本件CDの販売業務を行っていないのであるから、この点は、被告タッズによる本件契約の債務不履行に当たる。 なお、被告タッズは、原告ノアの当時の代表者(D)がレンタル事業者に対して本件CDのレンタルを停止するよう求めたことが本件契約の定める解除事由に当たるため、本件契約を解除し、これに伴う事実行為として本件廃盤通知を行ったなどと主張する。しかしながら、本件廃盤通知は、被告スペースからの本件廃盤処置の通知を受けて「Eさん バウンディからの文書です。 B」と記載したメールを送信しただけのもので(甲32)、これをもって本件契約の解除通知があったと認めることは到底できない(なお、被告タッズは、平成25年11月8日付け「回答書」(甲39)において、本件廃盤通知が本件契約の解除通知であるとの主張を初めてするに至ったことがうかがわれ、これより前に本件契約を解除した旨の明確な主張をしたと認めるに足る証拠はない。)。この点を措くとしても、後記4(1)アのとおり、原告ノアが被告タッズに対して本件CDのレンタルを許諾した事実は認められないから、原告ノアの当時の代表者であったDが、本件CDのレンタルを行っているレンタル事業者に対し、本件CDのレンタルを停止するよう求めたことは著作隣接権者としての正当な権利行使であり、本件契約15条(5)号の解除事由に当たるものではない。したがって、被告タッズの上記主張を採用することはできない。 (3) 争点3(損害の有無及び額)について ア 本件CDの発売日(平成23年2月23日)から本件廃盤処置までの2か月足らずの間における販売枚数が213枚に上ること(第2の2(6))、本件契約の契約期間が本件廃盤処置から半年以上先の平成23年10月24日までであること(第2の2(4)イ)を勘案すると、被告タッズの債務不履行がなければ、本件CDの一般流通分300枚のうち未販売の87枚について本件契約期間満了までに完売できた蓋然性が高いと認められる(なお、原告ノアは一般流通分が900枚であることを前提に損害額を算定しているが、上記1(1)のとおり、一般流通分は300枚である。)。 したがって、原告ノアがその販売に係る収益を得ることができなかったことによる損害は、被告タッズの債務不履行と相当因果関係があるから、本件契約8条に基づき、本件CD87枚分の税抜販売価格から小売店手数料、販売元手数料及び発売元手数料を控除した金額である14万5029円(計算式は1667円×87枚)を原告ノアの損害と認めることが相当である。 イ なお、原告ノアは、本件契約に要した費用である135万8615円を被告タッズの債務不履行によって被った損害と主張するが、仮に本件契約のために原告ノアが一定の費用を支出したとしても、これと被告タッズの債務不履行との間に因果関係を認めることはできないから、採用することはできない。また、原告ノアは、弁護士への相談に要した費用を損害として主張するが、原告ノアが弁護士に相談したことがあったとしても、その相談料と被告タッズの債務不履行との間には直ちに因果関係を認めることは困難であり、採用することはできない。 4 原告ノアの被告らに対する、不法行為に基づく損害賠償請求について (1) 争点4(著作隣接権侵害の不法行為の成否)について ア 被告タッズらについて (ア) 本件契約書には、本件CDのレンタルや本件楽曲の配信についての許諾を明記した条項は一切見当たらない。 この点、被告タッズらは、本件契約2条(1)号の本件CDの「商品化に関わるすべての業務」に、本件CDのレンタル事業者への販売や本件楽曲の配信も含まれる、本件契約9条の「音楽著作権」には貸与権や送信可能化権等の著作隣接権も含まれるなどと主張するが、@本件契約には、第2の2(4)ウ(ウ)のとおり、本件CDの売上に係る収益の分配について詳細な規定がおかれている一方、本件楽曲の配信に係る収益の分配についての規定が一切ないこと、A被告タッズと被告スペースとの間で締結された本件再委託契約の前提となる基本契約(乙1、丙1)においては楽曲の配信がCDの販売とは別立てで明示的かつ詳細に規定されていること(1条2項、3条2項、別紙V及びW)に加え、B被告Bが、本件契約に先立つ原告ノアからの本件契約の内容に関する問合せに対し、「配信、CM、映画音楽等を含む総括的宣伝活動」については「別途となります」と回答していること(甲74)などに照らすと、被告タッズらの主張を採用することはできない。 (イ) また、被告タッズらは、本件CDのレンタル事業者への販売や本件楽曲の配信について、原告らに口頭で説明して同意を得たと主張し、被告Bの陳述書には、要旨「原告らに本件CDをレンタルすること及び本件楽曲を配信することを説明して了承を得た。本件楽曲の配信先については、原告らから可能な限り全てお願いしたいという要望があった。」旨の上記主張に沿う記載がある。しかしながら、同主張を裏付ける客観的証拠は見当たらず、原告らも一貫して口頭による許諾を否認している上、本件契約について契約書面(本件契約書)を取り交わしながら、その重要な内容であるレンタルや配信の許諾についてのみ口頭だけで合意して本件契約書に一切残さなかったというのは不自然かつ不合理というほかない。かえって、本件契約書にレンタルや配信に関する明示的な規定が一切ないこと(上記(ア))、Dが本件CDのレンタルを許諾していないことを前提にDMMにレンタルの延期を求めていること(前記1(2))などからすると、本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信については許諾されていなかったと認めるのが相当であり、これに反する被告タッズらの主張を採用することはできない。 (ウ) なお、証拠(甲16の1、丙4の各枝番)によれば、被告タッズ作成に係る被告スペースの本件CDの注文書原稿には「レンタル」欄が設けられ、同欄に「L禁」との記載があること、同記載は、「レンタル商組合との禁止ルールで定められた禁止期間(発売日から約2ないし3週間程度)がすぎればレンタルが可能である国内盤」を意味する記載であること、被告タッズが同注文書原稿の文字データを原告Aに送信した際、原告Aがこれに異を唱えなかったことが認められるが、当時の原告ノアの代表取締役はDであり、上記事実をもって直ちに原告ノアと被告タッズの間に本件CDのレンタルについて黙示の合意が成立したと認めることはできない。 (エ) 以上によれば、本件CDのレンタル又は本件楽曲の配信について原告ノアの許諾があったと認めることはできない。したがって、被告Bが、被告タッズの代表者として、被告スペースに対し、レンタル事業者へのレンタル用CDの販売やインターネット配信会社への本件楽曲の配信まで含めて委託する内容の本件再委託契約を締結し、その結果、本件CDのレンタルや本件楽曲の配信が行われたことは、原告ノアのレコード製作者としての複製権、貸与権及び譲渡権を侵害するものと認められる。また、上記経緯に照らせば、被告タッズらに少なくとも過失があったことも明らかである。したがって、被告タッズらには、原告ノアの著作隣接権(貸与権及び送信可能化権等)を侵害する共同不法行為が成立する。 イ 被告スペースについて 第三者が著作権や著作隣接権を有する著作物の利用について契約を締結する場合、当該契約の相手方が当該著作物の利用を許諾する権限を有していなければ、当該契約を締結しても当該著作物を利用することはできない。したがって、当該契約の当事者としては、相手方の利用許諾権限の有無を確認する注意義務があるというべきであり、これを怠って当該著作物を利用した場合、当該第三者に対する不法行為責任を免れないと解される。 これを本件についてみるに、被告スペースは、本件再委託契約の締結時において、被告タッズがレコード製作者及び実演家の各著作隣接権を有しないことを認識していたと認められるところ(乙2、弁論の全趣旨)、被告スペースらは、被告タッズの利用許諾権限に疑義等を抱かしめるような事情はなかったと主張するのみで、被告スペースにおいて、著作隣接権者に問い合わせ、又は本件契約書を確認するなどの方法によって、本件CD及び本件楽曲についての被告タッズの利用許諾権限を確認した等の主張はないし、証拠上もこうした事実を認めることはできない。 そうすると、被告スペースは、本件CDの無断レンタルや本件楽曲の無断配信について少なくとも過失があると認められるから、原告ノアに対し、被告タッズらとの共同不法行為が成立する。 ウ 被告Cについて 原告ノアは、被告Cについても原告ノアに対する共同不法行為が成立すると主張する。しかしながら、被告スペースの一従業員にすぎない被告Cについて、原告ノアの著作隣接権侵害を行うことについての故意・過失があったと認めるに足る証拠はないから、被告Cに対する請求を認めることはできない。 (2) 争点5(本件原盤等に対する所有権侵害の不法行為の成否)について 原告ノアは、本件廃盤処置によって本件原盤、本件CD及びポスター等の販促物が無価値となったとして、これが、被告らによる原告ノアの本件原盤等に対する所有権を侵害する旨主張する。 しかしながら、本件廃盤処置がされたからといって、原告ノアにおいて本件原盤等を使用し、又は収益することが禁じられるわけではない上、これらを原告らにおいて販売するなどの方法によって適宜処分することも可能なのであるから、本件廃盤処置が原告ノアの本件原盤等に対する所有権を侵害するものということはできず、原告ノアの上記主張を採用することはできない。 (3) 争点6(損害額)について ア 無断レンタル及び無断配信に係る損害 (ア) 無断レンタルに係る損害 証拠(乙4)によれば、被告スペースは、被告タッズとの本件再委託契約に基づき、本件CD8枚をレンタル事業者に販売し、これらがレンタル事業者において一般消費者へのレンタルに供されたことが認められる。そして、本件CDを貸与により公衆に提供する権利は、レコード製作者である原告ノアが専有するところ(法97条の3第1項)、証拠(甲16の2)によれば、アルバムCD1枚当たりのレンタル・レコード使用料は少なくとも250円と認められるから、本件CDの無断レンタルによって共同不法行為者である被告スペース及び被告タッズらが得た利益は2000円(250円×8枚)と認めるのが相当であり、よって、同額が原告ノアの損害額と推定される(法114条2項)。 これに対し、原告ノアは、貸与のために複製・譲渡された本件CDの枚数は、本件CDの初回生産枚数が1000枚であることから10%の100枚程度と考えられる旨主張するが、同主張を裏付ける客観的証拠はなく、採用することはできない。 (イ) 無断配信に係る損害 証拠(乙5、7)によれば、被告スペースが、合計78社の配信事業者に本件楽曲の配信を依頼し、うち9社が同依頼に応じて実際に本件楽曲の配信を行ったこと、これら9社の配信事業者のユーザーによる本件楽曲のダウンロード回数が合計207回であり、これによって被告スペースが合計2万4406円の売上をあげたこと(なお、同売上のうち8割は被告タッズに支払うこととされている。乙1(丙1)の別紙Wの(2)@参照)がそれぞれ認められるところ、被告タッズは、原告ノアに対し、平成25年11月7日付け現金書留により、本件楽曲の配信によって得た金銭のうち1万9329円を送付している(前記第2、2(8))。 したがって、本件楽曲の無断配信によって共同不法行為者である被告スペース及び被告タッズらが得た利益は5077円(計算式は2万4406円−1万9329円)と認められ(なお、被告Bの陳述書(丙3)には、本件楽曲の配信によって被告タッズが得た1万9524円(2万4406円×0.8)から送料195円を差し引いて送金した旨の記載があるが、金銭債務は持参債務となるから、送料を差し引くことはできない。)、よって、上記5077円が原告ノアの損害額と推定される(法114条2項)。 これに対し、原告ノアは、78社の配信事業者において無断配信が少なくとも2年間継続され、この間、各社から月2回のダウンロードがあったなどと主張するが、同主張を裏付ける客観的証拠は全くない。かえって、証拠(乙5、7)によれば、上記のとおり、被告スペースが78社の配信事業者に配信依頼をしたものの、実際にはこのうち9社のみから実際のダウンロードがあったものと認められるのであって、原告ノアの上記主張を採用することはできない。 (ウ) なお、原告らは、本件CDのレンタル事業者への販売実績及び本件楽曲の配信実績に関し、乙4、5が信用できないなどとして、被告スペースの多数の取引先に対する調査嘱託を申し立てるとともに、その必要性についてるる主張する。そこで、念のため、当裁判所が原告らの調査嘱託の申立てをいずれも却下した理由についても補足して説明する。 まず、原告らは、本件CDのレンタル事業者への販売実績に係る調査嘱託の必要性を基礎付ける事情として、平成24年8月に本件CDがレンタル事業者のウェブサイトでレンタルに供されていたことを挙げる。しかしながら、同事情は、本件CDのレンタル事業者への販売実績に関する被告スペース提出の証拠(乙4)の信用性を直ちに左右するものではないから、調査嘱託の必要性を基礎付けるものとはいえない。 また、原告らは、本件楽曲の配信実績に係る調査嘱託の必要性として、被告スペースが提出した本件楽曲の配信実績についての証拠(乙5)に疑義があることを挙げ、その理由として、@乙5には売上の記載がない月があること、A乙5に挙げられていない配信事業者(OTOTOY)からの配信があることが発覚したこと(甲54)、B乙5に挙げられた配信事業者のうちの一社(iTunes)の売上は、同社のウェブサイト上に掲載された本件楽曲の「人気」度を示す棒グラフ(甲109)とかみ合っていないこと、C乙5には国外の売上は1社の配信事業者(IODA)に係るものしか記載されていないことを挙げる。しかしながら、上記@及びCについての原告らの疑義は、乙5に記載されていない月や記載されていない配信事業者において配信(ダウンロード)の実績があったことが前提となるが、これをうかがわせる証拠は見当たらない。また、上記Aについて、原告らが指摘する甲54は本件楽曲が実際に配信(ダウンロード)された事実を示すものとはいえないし、上記Bについても、iTunesの棒グラフがどのような場合にどの程度増減するのかが証拠上明らかでなく、何ら乙5の売上と矛盾するものとは認められない。そうすると、乙5の信用性について原告らの指摘する疑義は、いずれも失当というほかない。 したがって、原告らの調査嘱託の申立てについては、いずれもその必要性を認めることができない。 (エ) 以上によれば、本件CDの無断レンタル及び本件楽曲の無断配信に係る原告ノアの損害は、合計7077円であると認められる。 イ その他の損害 原告ノアは、原告Aが知人に頼んで本件CDをラジオ放送等で何回か放送してもらったから、本件楽曲の使用料相当額が原告ノアの損害となる旨主張するが、主張自体失当というほかない。また、原告らは、弁護士に対する相談料についても損害として主張するが、原告らは当初、弁護士に委任して本件訴訟を提起したものの、本件訴訟の早期に同弁護士を解任し、自ら訴訟を追行していることなどに鑑みれば、弁護士相談料について、本件不法行為と相当因果関係を有する損害であると認めることはできない。 したがって、原告ノアの主張するこれらの損害はいずれも認めることができない。 5 原告Aの被告らに対する、不法行為に基づく損害賠償請求について (1) 争点7(同一性保持権侵害の不法行為の成否)について 原告Aは、被告らが、@MP3、AAC又はWMA等の圧縮フォーマットを利用して本件楽曲の音声を圧縮して配信したこと及びA本件楽曲12曲を曲毎に配信したことが、いずれも本件楽曲についての同一性保持権を侵害する旨主張する。 そこで検討するに、音声の圧縮によって本件楽曲の音質が一定程度変化することについては被告らも認めるところであるが、配信時のデータの圧縮に伴う技術的な制約によるものであって「やむを得ないと認められる改変」(法90条の3第2項)に当たるというべきである上、原告Aが本件契約後の平成22年12月27日に被告Bに送信したEメール中に「圧縮をやって頂きたいと思っておりました。」「引き続き圧縮をお願いできますでしょうか?」などの記載があることからすれば(丙5の2)、原告Aも、本件楽曲の圧縮を了承していたことが推認される。こうした事情に照らせば、上記@の行為について、原告Aの同一性保持権を侵害するものということはできない。なお、本件楽曲はいずれも独立の楽曲であり、原告Aが本件CDにおける本件楽曲の配列を工夫したとしても、この点は実演家の同一性保持権の保護範囲に含まれるものではないから、上記Aについても原告Aの同一性保持権を侵害するものとは認められない。 (2) 争点8(名誉権侵害又は人格権侵害の不法行為の成否)について 上記1(4)のとおり、被告スペースは、原告ノアの当時の代表者(D)がレンタル事業者(DMM)に対し、本件CDのレンタルを許諾していない旨の申出をしたことを契機に、同レンタル事業者の仕入元である大手レンタル卸代行業者から抗議を受ける事態となったため、本件CDを廃盤にすることとし、発売元である被告タッズの承諾を得て、本件廃盤処置を行ったものと認められる。 この点、原告Aは、廃盤となった音楽CD及びその実演家等は、何らかの重大な問題を抱えている者であると認識されるなどと主張するが、これを認めるに足る証拠はないし(なお、原告Aを紹介する新聞記事が本件廃盤処置後に削除されている(甲63)としても、同記事の削除事由は明らかでなく、直ちに原告Aの上記主張を裏付けるものとはいえない。)、かえって、証拠(甲49〜53)によっても、CDの廃盤には様々な場合があることがうかがわれるのであって、本件廃盤処置が直ちに原告Aの名誉権又はその他の人格権を侵害するとは到底認めることができない。 また、原告Aは、被告らが、本件廃盤処置の理由について、音楽業界関係者らに虚偽の説明をしたと主張するが、被告スペースが小売店に送付した本件廃盤処置についての通知(乙3)には、本件CDを含む多数のCDを廃盤とした事実のみが記載され、本件廃盤処置の理由について特段の記載は見当たらないし、他に原告Aの主張を認めるに足る証拠もないから、同主張を採用することはできない。 (3) 争点9(プライバシー権等侵害の不法行為の成否)について 原告Aは、被告らが原告Aのアーティスト名や本件CDのジャケット写真等を配信したことが原告Aの実演家人格権(氏名表示権)のほか、肖像権及びプライバシー権等の人格権を侵害すると主張する。 しかしながら、原告Aのアーティスト名は原告Aが音楽活動のために使用し、本件CDにも本件楽曲の実演家名として表示されているものであるから、これを本件楽曲の配信に当たって使用することが、原告Aの氏名表示権ないし人格権を侵害するものでないことは明らかである。また、本件CDのジャケット写真等については、本件CDの販売宣伝のために原告Aの承認の下で作成されたものである上、原告Aの音楽活動と無関係な原告Aの私的な情報が掲載されているわけではないこと、原告A自身が本件CDのジャケット上に上記写真等を表示・掲載して公開していることなどに鑑みれば、本件楽曲の配信に当たって同ジャケット写真等を使用することについても原告Aの肖像権やプライバシー権等の人格権を侵害するものとは到底認めることができない。 6 原告Aの被告タッズ及び同スペースに対する名誉回復措置請求(争点11)について 争点8について判断したとおり(前記5(2))、本件CDの廃盤により原告Aの名誉が毀損されたとは認められないから、原告Aの被告タッズ及び同スペースに対する名誉回復措置請求は、いずれもその前提を欠くものとして理由がない。 7 審理経過について なお付言するに、当裁判所は、原告らの平成27年11月18日付け口頭弁論期日変更申請を認めず、同年12月8日午後2時30分の第2回口頭弁論期日を実施し、同期日において、人証採用決定を取り消して弁論を終結したが、その理由は次のとおりである。 (1) 弁論準備手続の終結から弁論の終結に至るまでの事実経過 ア 当裁判所は、平成27年7月15日の第13回弁論準備手続期日において弁論準備手続を終結し、同日、第2回口頭弁論期日を同年9月17日午後1時30分と指定するとともに、人証として原告ノア代表者兼原告A本人及び被告B本人を採用する旨の決定をした。 イ 原告らは、平成27年9月2日、口頭弁論期日変更申請書を提出して上記アの口頭弁論期日の変更を申し立て、その理由として、書面の送達に疑義があること、原告らの調査嘱託申立てが採用されていないことなどを主張した。 ウ 原告らは、平成27年9月14日、本件訴訟を担当する当裁判所の裁判官3名及び裁判所書記官について忌避申立てをし(東京地方裁判所平成27年(モ)第2813号、第2814号)、当裁判所は同月17日の口頭弁論期日を実施することができなかった。東京地方裁判所は、同月16日、原告らの忌避申立てをいずれも却下する旨の決定をし、原告らは、同月18日、同決定を不服として東京高等裁判所に即時抗告をしたが、同裁判所は、同年10月14日、これを棄却する旨の決定をし、同決定は、同月16日に確定した。 エ 当裁判所は、平成27年11月11日、第2回口頭弁論期日を同年12月8日と指定し、原告ら及び被告らに対してFAXで告知した。 オ 原告らは、平成27年11月18日、当裁判所に対し、口頭弁論期日変更申請書を提出して上記エの口頭弁論期日の変更を申し立て、その理由として、上記エの口頭弁論期日は原告Aが同年9月末から予定を入れていた病院の診察及び治療の日であること、争点及び証拠の整理が不十分であること、被告スペースらの提出に係る書証が虚偽であること、原告らの調査嘱託申立てが採用されていないことなどを挙げた。 カ 当裁判所は、平成27年11月20日、原告らの上記オの期日変更申立てを受けて、原告ら及び被告らに対し、同年12月8日の口頭弁論期日を変更することも視野に入れて、平成28年1月21日から同年2月25日までの6期日を候補として示した上、差支えの期日に係るチェックボックスに「×」印を付けて平成27年11月30日までに当裁判所にFAXで返信するよう求める文書をFAXで送信した。これに対し、原告らは、同日、上記の6期日に係るチェックボックスの全てに「×」印を付した上、平成28年3月8日以降でなければ出頭できない旨を記載した「上申書」と題する書面及び人証調べの前に原告ら申請に係る調査嘱託を採用するよう求める「第9準備書面」と題する書面と共に当裁判所にFAXで送信した(他方、被告らはいずれの期日に係るチェックボックスにも「×」印を付すことなく当裁判所にFAXで返信している。)。 キ 当裁判所は、平成27年12月7日、原告ら及び被告らに対し、同月8日の第2回口頭弁論期日を変更しない旨を通知した。 (2) 当裁判所は、上記(1)の事実経過、とりわけ、原告らが上記(1)アで指定された口頭弁論期日について期日変更を申し立て、同期日の三日前になって、担当する裁判官及び書記官の忌避申立てを行って同期日の実施ができない状態を作り出したこと、同忌避申立てが退けられた後、再度、口頭弁論期日が指定されるや、同期日についても期日変更を申し立て、裁判所から提示された6期日もの候補の全てを差支えであると回答し、その理由として平成28年3月8日以降でなければ出頭できないなどと主張したこと等に鑑みると、原告らの訴訟遅延目的は明らかであると判断し、平成27年12月8日の第2回口頭弁論期日を実施することとしたものである。また、当裁判所は、原告ノア代表者兼原告A本人及び被告B本人の各陳述書を改めて精査した結果、その記載内容を前提としても、各争点について上記2の各判断が揺るがないと判断したことから、第2回口頭弁論期日において、採用済みの人証をいずれも取り消して弁論終結したものである。 なお、原告らは、上記(1)オの口頭弁論期日の変更を申し立てるに当たり、原告Aについて病院の診察及び治療の予約が入っていると主張し、原告Aが適応障害で6か月間の加療が必要であるなどとした「診断書」を提出するが、同「診断書」を作成した医師は、その作成日時点において、実際には原告Aを診察したことがないのであって(原告ら提出に係る上記(1)オの期日変更申立書及びこれと併せて提出された原告Aの11月15日付け「陳述書」参照)、そのような「診断書」の記載が、上記判断を左右するものではない。 8 結論 以上によれば、その余の争点について検討するまでもなく、原告ノアの請求は主文第1項及び第2項の限度で理由があるからこれらを認容し(なお、遅延 損害金の始期は、@本件契約に基づく原告ノア印税の支払請求については、本件CDの発売日である平成23年2月23日から6か月後の同年8月23日が確定期限となるから(前記第2の2(4)ウ(ア)参照)、その翌日である同月24日と、A債務不履行に基づく損害賠償請求については、期限の定めのない債務に係るものであるから、訴状送達日(平成25年12月28日)から相当期間が経過した平成26年1月5日と、B不法行為に基づく損害賠償請求のうち、無断レンタルに係る損害賠償請求については、不法行為の後の日である平成23年4月5日と、また、無断配信に係る損害賠償請求については、一連の無断配信行為(不法行為)以後である平成25年3月31日(乙5)と、それぞれ認めるのが相当である。)、原告ノアのその余の請求及び原告Aの請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 沖中康人 裁判官 矢口俊哉 裁判官 廣瀬達人 (別紙)CD目録 1 タイトル名 ザ・グッド・ライフ ジャズ・スタンダーズ・フロム・ニューヨーク 2 実演家 E 3 商品番号 DDCZ−1737 4 楽曲一覧
(別紙)謝罪広告目録 1 掲載誌 (1) 株式会社ジャズジャパン発行 JaZZJAPAN (2) 有限会社ジャズライフ発行 JAZZ LIFE (3) 株式会社松坂発行 ジャズ批評 2 謝罪広告 謝罪広告 当社らが発売又は販売をした下記音楽アルバムについて、当社らはレコード製作者株式会社ノアコーポレーション及び実演家E氏の許諾を得ることなく、無断で貸与のための販売をし、音楽配信に供しました。また、レコード製作者との契約が継続しているにもかかわらず、無断で下記音楽アルバムを廃盤とし、さらに、各方面に対し、廃盤の原因が株式会社ノアコーポレーション等にある旨の真実に合致しない説明を致しました。 これにより、株式会社ノアコーポレーションの著作隣接権及び実演家E氏の実演家人格権を侵害し、両人に多大のご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。また、廃盤との扱いは取り消しましたことをご報告申し上げます。 平成 年 月 日 タッズ・インターナショナル株式会社 代表取締役 株式会社スペースシャワーネットワーク 代表取締役 記 タイトル The Good Life Jazz Standards from New York 曲数 全12曲 実演家 E 発売日 平成23年2月23日 レーベル 24JazzJapan 商品番号 DDCZ-1737 3 掲載条件 (1)1掲載誌(1)(2)の各誌について ア 120ミリ×190ミリの枠において掲載する。 イ 日付は掲載日を記載する。 ウ 被告タッズ・インターナショナル株式会社及び被告株式会社スペースシャワーネットワークの代表者取締役の氏名は、掲載日当日に代表取締役である者(複数である場合はそのうちの1名)の氏名を掲載する。 エ 広告内容の活字の大きさ (ア) 「謝罪広告」という見出し 14ポイント (イ) 本文その他 9ポイント、行送り15ポイント (2) 1掲載誌(3)の掲載誌について ア 120ミリ×90ミリの枠において掲載する。 イ 日付は掲載日を記載する。 ウ 被告タッズ・インターナショナル株式会社及び被告株式会社スペースシャワーネットワークの代表者取締役の氏名は、掲載日当日に代表取締役である者(複数である場合はそのうちの1名)の氏名を掲載する。 エ 広告内容の活字の大きさ (ア) 「謝罪広告」という見出し 10.5ポイント (イ) 本文その他 8ポイント、行送り10ポイント 4 ホームページ掲載条件 (1) 被告株式会社スペースシャワーネットワークの公式ホームページトップページに掲載する。 (2) 被告株式会社スペースシャワーネットワークの公式ホームページトップページとは、訴訟提起時においてはhttp://(以下省略) を意味するが、その後、被告の公式ホームページが移動したと原告らが認めた場合には、別途原告らから被告株式会社スペースシャワーネットワークに対し被告株式会社スペースシャワーネットワークの公式ホームページを通知し、被告はこれに従う。 (3) 1文字12ポイント以上のフォントで掲載する。 以上 |
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