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【事件名】住宅設備カタログの著作物性事件 【年月日】平成28年2月16日 東京地裁 平成26年(ワ)第22603号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 平成27年12月3日) 判決 原告 株式会社ジャパンコーラー 同訴訟代理人弁護士 神田知宏 同 角田政芳 同 田村有加吏 被告 日鉄住金物産マテックス株式会社 同訴訟代理人弁護士 長嶋憲一 同 広津佳子 同 杉本博哉 同 堀口雅則 主文 1 被告は、原告に対し、180万円及びこれに対する平成25年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを5分し、その1を原告の、その余を被告の各負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、1000万円及びこれに対する平成25年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、別紙カタログ目録記載1のカタログ(以下「原告カタログ」という。)の著作権者である原告が、同目録記載3のカタログ(以下「被告カタログ」という。)を被告が作成、配布した行為が原告の著作権(編集著作物である原告カタログ全体並びにこれに掲載された文章及び図表に係る複製権又は翻案権及び譲渡権)並びに著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)の侵害に当たると主張して、被告に対し、民法709条及び著作権法114条2項、3項に基づき、損害賠償金の一部である1000万円及びこれに対する不法行為の後である平成25年11月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、書証の枝番は省略する。以下同じ。) (1) 当事者 ア 原告は、アメリカ合衆国のKohler Co.(以下「米国コーラー社」という。)の日本正規代理店として、米国コーラー社製品の輸入販売を行う株式会社である。(甲3) イ 被告は、鉄鋼・非鉄その他金属の製造加工関連設備、機器及びそれらの関連資材の販売、仕入販売代行業及び輸出入業等を行う株式会社であり、米国コーラー社の販売代理店である。 (2) 原告カタログ ア(ア) 原告は、原告カタログの旧版である別紙カタログ目録記載2のカタログ(以下「旧原告カタログ」という。)を制作する際、@株式会社フェアグラウンドに対して製品説明の文章の作成を、AXに対してレタッチ及び写真撮影を、B株式会社MONDESIGN Japan(以下「モンデザイン」という。)に対して全体的なデザインをそれぞれ依頼し、上記@につき平成23年4月頃、Aにつき同年5月頃、Bにつき同年6月頃、各成果物を受領し、その際、各成果物に係る著作権の譲渡を受けた。(甲9、15、21) (イ) 原告代表者及び従業員は、職務上、原告カタログを企画して作成し、平成25年1月30日、原告名義を付して完成させた。その際、原告の従業員らは、上記のデザインを利用した上でレイアウト作業をモンデザインにさせるとともに、上記の写真の一部及び製品説明の文章を利用して原告カタログを作成した。モンデザインは、原告に対し、上記レイアウト作業に係る成果物の納品時に、この成果物の著作権を譲渡した。(甲3、15) イ 原告カタログは、顧客に対して無償で配布されるものである。 ウ 原告カタログには、別紙侵害部分対照表の番号1から18までの「原告表現」欄に記載された配列、製品、文章及び図表(以下、それぞれを同対照表の番号に従い「原告表現1」などという。)が掲載されている。原告表現1〜3はカタログに掲載する製品等の選択配列に係る編集物、原告表現4〜12は製品説明等の文章、原告表現13〜18は図表である。 エ 原告カタログは、米国コーラー社の「In the Bathroom」及び「In the Kitchen」と題するカタログ(以下「USカタログ」という。)等の記載から製品を選択して掲載したものである。USカタログ記載の製品及び原告カタログ記載の製品は、別紙USカタログ品番目録(バス)及び同(キッチン)記載のとおりである。 (3) 被告カタログ ア 被告は、被告カタログを作成し、平成25年10月頃、発行した。 イ 被告カタログは、顧客に対して無償で配布されるものである。 ウ 被告カタログには、別紙侵害部分対照表の番号1から18までの「被告表現」欄に記載された配列、製品、文章及び図表(以下、それぞれを同対照表の番号に従い「被告表現1」などという。)が掲載されている。一方で、被告カタログに原告の名称は記載されていない。 2 争点 (1) 原告表現1〜18の著作物性(なお、被告は、被告カタログの作成に当たり原告カタログを参考にしたことを認めており、原告の著作権・著作者人格権侵害の主張に対し著作物性以外の点は具体的に争っていない。) (2) 損害額 3 争点についての当事者の主張 (1) 争点(1)(原告表現1〜18の著作物性)について (原告の主張) ア 編集物(原告表現1〜3)について 原告カタログにおいては、米国コーラー社の製品の魅力を伝えつつ、製品を選びやすいカタログにするという独自の編集方針に従い、USカタログの各名称を大分類とし、別紙USカタログ品番目録(バス)及び同(キッチン)記載のとおり、USカタログのうち一部の中分類を選択配列し、日本の住宅事情、生活習慣、顧客の嗜好や米国コーラー社の製品らしさその他の事情を考慮して製品を選んで配列し、小分類を決定した。また、各製品の掲載に当たっては、ある品番の製品につき、その価格、重量、容量、サイズ、材質、カラー、洗浄水量、付属品及び当該品番の指定色と一致した製品写真の組合せを製品情報の一単位とし、これを1ページ当たり横方向に2個、縦方向に5個の10個配置するとともに、製品のイメージが伝わる写真を適宜配置した。このような素材の選択及び配列には著作物性がある。 イ 言語表現(原告表現4〜12)について 原告表現4〜12は、製品の基本情報を基にして株式会社フェアグラウンドが新たに個性を発揮して創作したものであるから、著作物性がある。 ウ 図表表現(原告表現13〜18)について 原告表現13(図表1)は、特に、左側の「マークのご案内」欄のうちサイズバリエーションのある製品及び新製品を示す各マークが独自に創作したもの、右側の部分が原告カタログの編集方針に従って選択された中分類の項目ごとに製品情報の表示例を示してその項目に説明を加えたものであって、その具体的な表現について、原告の個性が発揮されている。 原告表現14(図表2)は、比較的新しい製品であるアンダースコアシリーズについて、サイズ、重量及び容量、品番、価格、税込価格、材質及びカラーを具体的に表現したものであって、原告の個性が発揮されている。 原告表現15(図表3)は、原告カタログの編集方針に従って選択、配列されたトイレシートの品番順にその機能を一覧表にまとめ、機能の内容が分かるように写真及び説明を加えるなどしており、原告の個性が発揮されている。 原告表現16(図表4)は、原告カタログの編集方針に従って選択、配列されたバスの品番順に、原告カタログ中の掲載ページ、品番、部材の名称及び品番並びに価格を具体的に表現したものである。 原告表現17及び18(図表5及び6)は、色見本として色の分かる四角形の写真、色の名称及び色番号を表示したもので、原告の個性が発揮されている。 (被告の主張) ア 編集物(原告表現1〜3)について 原告が主張する日本の住宅事情その他の事情は、いずれも米国コーラー社の製品を扱う関係者の間では常識的なものであり、これに基づく分類や品番その他の選択、配置は、ごく一般的なものであるか、こうした関係者にとってありふれたものである。また、日本市場における売れ筋の製品を選択する必要があることや、製品の写真が米国コーラー社から提供されたものであることからすれば、製品写真やイメージ写真の組合せなどが類似することはやむを得ない。 したがって、原告が主張する素材の選択、配列に創作性はない。 イ 言語表現(原告表現4〜12)について 原告表現4〜12は、USカタログの英文による説明を参照して作成したものであるから、創作性がない。 個別に述べると、原告表現5は、一般的な説明が中心であるか、米国コーラー社のパンフレットにも同様の記載が見られるもの、米国コーラー社が用いる陶土の特徴や製品のカラーバリエーションに言及しているにすぎないもの、米国コーラー社の節水に関する受賞歴を表示したにすぎないものである。原告表現6〜8、11及び12は、米国コーラー社のパンフレット又はウェブサイトにも同様の記載が見られるものである。原告表現9及び10は、独自性を認めることができる一方、比較的短文であるから、直ちに創作性を認めることはできない。 ウ 図表表現(原告表現13〜18)について 原告表現13は、米国コーラー社製品の品番の構成や、同一製品におけるバリエーション、節水効果の高い製品や代表的な素材である鋳物ホーロー製品について特別なマークを用いて表示したものであるが、米国コーラー社製品に関する事柄を説明するには、原告表現13に記載されている項目に分類し、製品の分類ごとの表示を例示することが不可欠となるし、原告が考案したマークはありふれたものであるから、創作性がない。 原告表現14は、アンダースコアシリーズの重量その他の項目をサイズの小さい順に列記したものであり、製品カタログにおいて一般的に採用されるものであって、誰が作成しても同様の表になるから、創作性がない。 原告表現15は、製品の機能に着目し、印を用いて機能の有無を表示する方式の表は製品カタログにおいて一般的に採用されるものである上、機能を説明するための写真は米国コーラー社のウェブサイトで用いられている写真がそのまま使用されているにすぎないから、創作性がない。 原告表現16は、カタログのページごとに、品番、部材名称、部材品番及び価格をまとめたにすぎず、製品カタログにおいて一般的に採用されるものであるから、これらを一つの表にまとめると原告表現16のようになることは不可避であって、創作性がない。 原告表現17及び18は、USカタログなどにおいても色の写真、名称及び番号を表示する形式で掲載されていることから明らかなように、製品カタログにおいて一般的に採用されるものであるから、創作性がない。 (2) 争点(2)(損害額)について (原告の主張) ア 著作権侵害による損害 (ア) 著作権法114条2項に基づく損害 同項にいう「利益」には消極的利益も含まれると解すべきところ、原告が原告カタログを第三者に利用許諾することは想定されないから、被告は、原告と同じ労力及び費用をかけて原告カタログと同じ水準のものを制作するか、原告が納得するに十分な対価、すなわち原告カタログの制作費を超える対価を支払って原告から利用許諾を得る必要があった。 原告が原告カタログ及びこれの基となった旧原告カタログの制作のために要した費用は、他社に依頼した分が300万3000円、自社内の従業員の作業等に要した分が734万6304円の合計1034万9304円である。なお、当初から原告カタログを作成したとすれば、他社に依頼した分につき256万2000円、自社内の作業等につき461万7677円の合計717万9677円を要したと算定できる。 こうした事情を踏まえると、少なくとも原告カタログの作成費用717万9677円が「利益」に該当するから、うち700万円を損害として請求する。 (イ) 同条3項に基づく損害 仮に上記(ア)の主張が認められないとしても、原告カタログも被告カタログも無償で頒布されていることを踏まえると、原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、原告カタログの原版の複製又は翻案を許諾する対価である上記原告カタログの作成費用を下らないし、原告カタログのアイディアやノウハウに付加価値がついていることなどを踏まえると1500万円を下らないから、うち700万円を損害として請求する。 (ウ) 他の損害(同法114条の5に基づく主張) 仮に上記(ア)及び(イ)の主張が認められないとしても、原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(利用許諾料相当額)の損害とは別に、被告カタログを頒布した行為により原告の顧客が奪われたものであり、これによって損害が発生したというべきである。これによって生じた損害額を立証するために必要な事実を立証することは極めて困難であるものの、300万円を下らない。 イ 著作者人格権侵害による損害 被告は、原告カタログを複製又は翻案して被告カタログを作成する際、原告の名称を表示せず、かつ、原告カタログを一部修正したから、原告の氏名表示権及び同一性保持権を侵害する。これによって、原告に200万円の損害が生じた。 ウ 弁護士費用 原告は、本件訴訟を提起するに当たり、弁護士に依頼せざるを得なかったところ、これによって生じた費用のうち、被告の行為によって通常生ずべき損害に当たる部分は、100万円を下らない。 (被告の主張) 否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(原告表現1〜18の著作物性)について (1) 編集物(原告表現1〜3)について ア 別紙USカタログ品番目録、大・中・小分類対比目録及びレイアウト対比目録、証拠(甲21)並びに弁論の全趣旨によれば、原告カタログは、USカタログの各題号を大分類とした上、日本の住宅事情、生活習慣、原告担当者の経験に基づく米国コーラー社らしさに関する認識その他の事情を考慮してUSカタログにおける中分類の一部を選択した上でこれと異なる順に配列し、各中分類に含まれる製品及び小分類の一部を選択して配列したものであり、ページごとの構成は、製品を2列及び5行に配列する構成その他の基本的な構成を決めた上で、適宜写真を挿入するなどしてこれを変化させた構成を設けたものと認められる。 したがって、原告カタログに掲載する製品の分類、選択及び配列に作成者の個性が表現されているということができるから、これら選択及び配列は、思想又は感情を創作的に表現したものと認めるのが相当である。 イ 原告は、特定の製品につき価格、サイズ、材質等と製品写真を基本情報とした点にも創作性があると主張するが、製品のカタログにおいてはこうした情報を掲載するのが一般的であることを踏まえると、この点について作成者の個性が表現されているということはできない。 ウ 他方、被告は、上記アは米国コーラー社の製品を扱う関係者の間では常識的な事情に基づくごく一般的な分類や配置であり、創作性がないと主張する。しかし、具体的な分類の態様、製品の配列等が米国コーラー社製品を扱う者にとって常識であるとうかがわせる証拠はなく、被告の主張を採用することはできない。 エ 原告表現1〜3(上記イの部分を除く。)と被告表現1〜3を対比すると、被告表現1及び2は、小分類名、品番及び製品名の選択配列のうち一部(別紙大・中・小分類対比目録及び同品番・製品名対比目録において「原告カタログ」欄と「被告カタログ」欄を結ぶ直線のないもの)を除き、原告表現1及び2と同一であると認められる。また、被告表現3は、赤枠で囲まれた部分以外は写真や文字のフォント等に一部異なる点があるが、概ね原告表現3に一致している。そして、被告カタログの作成に当たり被告が原告カタログを参考にしたことを認めていることに照らすと、被告表現1〜3は、原告カタログに依拠して作成されたものであって、上記原告表現1〜3の複製に当たると判断するのが相当である。 (2) 文章(原告表現4〜12)について ア 原告表現4は米国コーラー社の歴史の概要とアメリカや日本における顧客、製品の種類等について述べるもの、原告表現5は原告カタログに掲載された製品の素材について説明するもの、原告表現6〜12は原告カタログに掲載された製品のうち特定のシリーズの特徴を紹介するものであって、別紙言語表現対比目録の原告カタログ欄記載のとおり、いずれもその言葉の選択及び表現方法に工夫がみられるから、これらの各表現は作成者の思想又は感情を創作的に表現したものと認められる。 イ これに対し、被告は、USカタログの英文を参照したものであること、一般的な説明が含まれていること、比較的短文であることを理由に、原告表現4〜12が著作物性を欠く旨主張するが、これらに記載された内容を文章化するに当たり個別の言葉や表現に選択の幅があるといえるから、被告の主張は失当である。 ウ 原告表現4〜12と被告表現4〜12を対比すると、被告表現4は原告表現4と大きく異なるが、被告表現5〜12は、わずかに別紙言語表現対比目録の下線部が異なるほかは、いずれも原告表現5〜12と同一である。したがって、被告表現5〜12は原告表現5〜12の複製に当たると判断するのが相当である。 (3) 図表(原告表現13〜18)について ア 原告表現13(図表1)は、1頁全体を縦方向に均等に2分割し、左側に上から「品番について」、「カタログの表示について」、「マークのご案内」、「製品について」の説明を順次記載し、右側に上記「カタログの表示について」の記載項目に対応する製品写真、製品名その他の記載の例として、上から「〈バスの場合〉」、「〈水栓、シャワー、トイレの場合〉」、「〈洗面器の場合〉」、「〈キッチンシンクの場合〉」を記載したものである。こうした表現は、製品カタログに記載される情報を分かりやすく1ページにまとめて表現する点において表現上の工夫があるから(なお、USカタログには原告表現13に対応する図表は見当たらない。甲11)、作成者の思想又は感情を創作的に表現したものと認めるのが相当である。 原告表現17(図表5)は「Bathroom」及び「Showering」の分類に属する製品の色又は表面加工について、原告表現18(図表6)は「Kitchen」の分類に属する製品の色及び表面加工について、それぞれを正方形の枠内に示して整列させたものであり、製品の色や表面加工の種類を分かりやすく一覧できるようにまとめてある点において表現上の工夫があるから(なお、USカタログに掲載された色見本は、色の分類及び配列順並びに枠の形状が原告表現17及び18と異なっている。甲11)、作成者の思想又は感情を創作的に表現したものと認められる。 イ 一方、原告表現14(図表2)は「アンダースコア バス」の製品につき、サイズ、重量及び容量、品番、価格、税込み価格、材質並びに色を、原告表現15(図表3)はトイレシートの機能の有無及びその解説を、原告表現16(図表4)は原告カタログ9〜21頁に掲載された製品の品番に対応する部材の名称、品番、価格及び税込み価格をそれぞれ表形式で整理したものであるところ、製品に関する情報を表形式で整理することが一般的であることに加え、その表現も文字又は写真を黒色の細罫線又は太罫線で区切ったありふれたものであるといわざるを得ないから、これらの点に作成者の個性が発揮されているということはできない。 ウ これに対し、原告は、原告表現14〜16につき、製品を紹介するためにあえてこのような図表形式を採用した点や、掲載する製品等の選択及び配列に創作性がある旨、被告は、原告表現13、17及び18につき、米国コーラー社製品について説明するにはそのような表現が不可欠であり、又は製品カタログにおいて一般的な表現である旨主張するが、以上に説示したところに照らし、いずれも採用することはできない。 エ 原告表現13、17及び18と被告表現13、17及び18を対比すると、別紙図表対比目録記載のとおり、被告表現13は文字のフォント又は色、写真、罫線の太さ又は色の一部のみが、被告表現17及び18は正方形枠の面積が異なるほかはいずれも同一であると認められる(甲3、5)。したがって、被告表現13、17及び18は原告表現13、17及び18の複製に当たると判断するのが相当である。 (4) 著作権及び著作者人格権の侵害の成否 以上によれば、被告表現1〜3、5〜13、17及び18を含む被告カタログを作成した行為は原告表現1〜3(前記(1)イの部分を除く。)、5〜13、17及び18に係る原告の複製権の侵害に、被告カタログを配布した行為は譲渡権の侵害に当たる。また、その一部を改変した点において原告の同一性保持権を、被告カタログに原告の名称を表示しなかった点において氏名表示権を侵害するというべきである。 2 争点(2)(損害額)について (1) 著作権侵害に基づく損害 ア 著作権法114条2項に基づく損害 原告は、著作権法114条2項にいう「利益」には消極的利益も含まれることを前提に、少なくとも原告カタログの作成費用が被告の「利益」に該当すると主張する。 そこで判断するに、同項は、著作権侵害行為による侵害者の利益額を権利者の損害額と推定することによって損害額の立証負担の軽減を図る趣旨の規定であるから、同項所定の「利益」は「損害」に対応するものであることが前提となると解される。ところが、原告は被告による著作権侵害行為の有無にかかわらず原告カタログの作成費用の負担を免れないのであるから、原告カタログの一部を複製して被告カタログを作成したことにより被告が当該部分に関する作成費用の支出を免れたとしても、そのために原告に原告カタログの作成費用に相当する額の損害が生じたということはできない。そうすると、上記の支出を免れたことによる被告の利益は、同項所定の「利益」となり得ないというべきである。 イ 同条3項に基づく損害 (ア) 原告は、原告カタログも被告カタログも無償で頒布されていることを踏まえると、原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の損害が発生しており、その額は原告が原告カタログの複製を許諾する対価、すなわち、原告カタログの作成費用に基づいて算定されるべきであると主張する。 (イ) そこで判断するに、前記前提事実(1)のとおり、原告と被告は共に米国コーラー社の我が国における販売代理店であって、競合関係にあるから、原告が原告カタログの全部又は一部の複製を被告に対して許諾することは通常考えられないところである。そうすると、被告による前記複製権及び譲渡権の侵害行為により原告に損害が発生したとみることができるから、原告は被告に対し著作権の行使につき受けるべき金銭の額の損害賠償を請求し得ると解するのが相当である。 (ウ) しかし、原告カタログ及び被告カタログはいずれも顧客に無償で配布されるものであり、そのような製品カタログの使用料等を算定する基準が明らかでないことに照らすと、上記損害額を立証するために必要な事実を立証することは、その性質上極めて困難であるというべきである。 そこで、著作権法114条の5に基づき相当な損害額を検討するに、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、@原告カタログは2年ごとに改訂されること(甲3、4、19)、A原告は原告カタログの作成のために500万円程度の費用を要したこと(甲9、21〜114、117、乙19。なお、原告は原告カタログの作成費用につき他社への依頼分256万2000円、従業員の作業等分461万7677円の合計717万9677円を要したと主張するところ、後者については、従業員等が多大な労力を費やしたことは認められるものの、これにより人件費が増加するなど現実の出費が生じたことを示す証拠はないので、約半分の限度で相当と認める。)、B被告は、平成25年10月31日に被告カタログ3000部の納品を受け、翌11月1日開催の記念パーティーで約200部配布するなどした後、原告から警告を受けたため被告カタログの回収及び廃棄に努めたが、約650部は配布先から回収されていないこと(甲8、乙12〜15)、C被告は平成26年3月31日に被告カタログと内容の異なる新たなカタログの納品を受けたこと(乙18)、D被告カタログの作成費用(他社への依頼分)は278万2500円であったこと(乙12)、以上の事実が認められる。 上記事実関係によれば、原告は無償配布する原告カタログの作成費用を2年間の営業活動により回収することを企図していたと解されるところ、被告カタログの配布期間中これを妨げられたとみることができる。これに加え、被告カタログの作成部数及び原価(1冊当たり約927円)、被告カタログには被告表現4など原告カタログと異なる部分が少なからず存在すること(甲3、5)を考慮すると、原告の損害額は120万円であると認めるのが相当である。 ウ 他の損害について 原告は、原告の顧客を奪われたことによって営業上の利益が得られなくなったことも損害に当たると主張する。しかし、被告が現に原告の顧客を奪って原告に営業上の損害を被らせたことをうかがわせる証拠がないことに照らすと、上記イの損害に加えて、そのような損害が生じたと認めることはできない。 (2) 著作者人格権侵害に基づく損害 前記(1)イ(ウ)に判示した被告カタログの作成及び配布の経過その他本件の諸事情を踏まえると、氏名表示権及び同一性保持権の侵害によって生じた損害の額はそれぞれ15万円(合計30万円)と認められる。 (3) 弁護士費用 本件訴訟の経過、上記(1)及び(2)の損害額その他本件の諸事情を踏まえると、原告に生じた弁護士費用のうち30万円を被告の負担とすべき損害と認めるのが相当である。 3 結論 以上によれば、原告の請求は180万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 長谷川浩二 裁判官 藤原典子 裁判官 萩原孝基 (別紙)カタログ目録 1 カタログ名 「THE BOLD LOOK OF KOHLER 2013−2014」 発行者 原告 2 カタログ名 「THE BOLD LOOK OF KOHLER 2011−2012」 発行者 原告 3 カタログ名 「KOHLER」 発行者 被告 (別紙)侵害部分対照表
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