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【事件名】職務発明文書の著作権帰属事件(2)
【年月日】平成28年2月10日
 知財高裁 平成27年(ネ)第10086号 文書返還請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成26年(ワ)第33095号)
 (口頭弁論終結日 平成28年1月20日)

判決
控訴人 X
被控訴人 新日鉄住金ソリューションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 加茂善仁
同 緒方彰人
同 樋口治朗
同 三浦聖爾
同 青山雄一


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人の当審における訴えの交換的変更に係る請求をいずれも棄却する。
3 控訴費用は控訴人の負担とする。
4 なお、原判決のうち、原判決別紙文書目録記載の文書について著作権及び著作者人格権を有することの確認請求以外の請求に係る部分については、控訴人の訴えの交換的変更により、失効している。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 原判決別紙文書目録に記載する文書(以下「本件各文書」という。)の著作権及び著作者人格権が控訴人に帰属することを確認する。
3 控訴人は、被控訴人に対し、別紙の35項ないし42項記載の「ビジネスモデル」、「データ分析システム開発プロセス・フレームワーク」、「サーバの管理方法」、「ログ分析システムのバッチ処理方法」、「データ移行テスト方法とプログラム」、「サーバサイジングのためのデータ蓄積方法」、「性能評価のためのデータ集計のテンプレート」及び「システム開発標準(通称NSStandard)を整備する方法」に係る発明(以下「本件各発明」という。)について相当の対価の支払を受ける権利を有することを確認する(控訴人は、原審において、本件各文書に付帯する全ての知的財産の権利を有することの確認請求をしていたが、当審において、このように訴えを交換的に変更した。)。
4 被控訴人は、控訴人に対し、本件各文書を一部売り渡せ(控訴人は、原審において、本件各文書の返還請求をしていたが、当審において、このように訴えを交換的に変更した。)。
5 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
6 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は、被控訴人の従業員であった控訴人が、被控訴人に対し、@本件各文書に係る著作権、著作者人格権及び付帯する全ての知的財産法に定められた権利を有することの確認、A所有権に基づく本件各文書の返還を求めた事案である。
 原判決は、控訴人の請求をいずれも棄却した。そこで、控訴人は、原判決を不服として控訴するとともに、上記請求のうち、本件各文書について著作権及び著作者人格権を有することの確認請求以外の請求に係る部分を、本件各発明について相当の対価の支払を受ける権利を有することの確認の請求及び本件各文書の一部売渡しの請求に、交換的に変更したものである。
2 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 控訴人は、平成14年4月、被控訴人(当時の社名は、新日鉄ソリューションズ株式会社)に入社し、新人研修終了後、システム開発センターシステム基盤技術研究部に配属され、その後二度の休職(平成16年1月ないし平成17年10月頃、平成24年6月以後)を経て、平成26年7月31日、退職した(甲2、乙1、4)。
(2) 控訴人は、被控訴人に在職中、研究開発に関する文書ないしプログラム(ただし、これが原判決別紙文書目録のとおり特定されるものであるか否かについては争いがある。)をその職務上作成した。
3 争点
(1) 本件各文書に係る控訴人の著作権及び著作者人格権の有無
(2) 本件各発明について控訴人の特許法35条3項に基づく相当の対価の支払を受ける権利の有無
(3) 控訴人による本件各文書の売渡請求の可否
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(本件各文書に係る控訴人の著作権及び著作者人格権の有無)について
〔控訴人の主張〕
 本件各文書は控訴人の発明を記録したものであるから、控訴人は本件各文書に係る著作権及び著作者人格権を有する。
 そして、被控訴人は、過去に大規模プロジェクトの失敗とそれに付随する問題の責任を控訴人に押し付け、成果・業績だけ被控訴人の名義で公表したから、本件各文書の公表は控訴人名義でされるべきである。
 また、著作権及び著作者人格権は、相応の給与や一定程度順当な昇給や職位の昇級を前提に、法人その他使用者(以下「法人等」という。)に帰属すると解するのが妥当である。しかるに、被控訴人は、控訴人の給与や賞与を実際の成果や能力に見合った金額よりも、不当に安く支払うという別段の人事的処遇を定めていたものであって、本件各文書の著作権及び著作者人格権が法人等である被控訴人に帰属するとするための前提条件が成立していない。したがって、本件各文書の著作権及び著作者人格権は控訴人に帰属する。
〔被控訴人の主張〕
 本件各文書に著作物性が認められるか不明であるし、仮に著作物性が認められたとしても、本件各文書は控訴人が職務上作成したものであるから、著作権及び著作者人格権は被控訴人に帰属する。
 また、本件各文書の公表を控訴人名義で行うべきとの控訴人の主張は、主張の趣旨が不明である上、公表名義について定めた著作権法15条の解釈として採用できない。
 さらに、被控訴人が控訴人に対して不当に低い人事的処遇をしたから職務著作はその前提を欠き成立しない旨の控訴人の主張は、著作権法15条の解釈として採り得ない上、そもそも控訴人に対して不当に低い人事的処遇をした事実もないから、採用できない。
2 争点(2)(本件各発明について控訴人の特許法35条3項に基づく相当の対価の支払を受ける権利の有無)について
〔控訴人の主張〕
 控訴人は、被控訴人在職中に、「ビジネスモデル」、「データ分析システム開発プロセス・フレームワーク」、「サーバの管理方法」、「ログ分析システムのバッチ処理方法」、「データ移行テスト方法とプログラム」、「サーバサイジングのためのデータ蓄積方法」、「性能評価のためのデータ集計のテンプレート」及び「システム開発標準(通称NSStandard)を整備する方法」に係る発明(本件各発明)をし、本件各発明を被控訴人に承継させた。本件各発明の内容は、別紙の35項ないし42項記載のとおりである。
 なお、(1)「ビジネスモデル」は、被控訴人が開発環境として使用するSDCクラウドコンピューティングシステムの運用管理用システムとして実装されており、(2)「データ分析システム開発プロセス・フレームワーク」は、データ分析システムを反復的に開発する方法で、リレーショナルデータベースとビジネスインテリジェンスソフトウェアを使用して実現するものであり、(3)「サーバの管理方法」及び(4)「ログ分析システムのバッチ処理方法」は、コンピュータシステムとして実現したものであり、(5)「データ移行テスト方法とプログラム」は、Microsoft SQL ServerからOracleデータベースへのデータ移行をテストするものであり、(6)「サーバサイジングのためのデータ蓄積方法」は、コンピュータシステムに係るものであり、(7)「性能評価のためのデータ集計のテンプレート」は、被控訴人のベンチマーク&コンサルテーションセンターで実施されるサーバの性能評価の業務について、熟練によらなければ習得できない技能を第三者に伝達可能な集計方法としてテンプレート化したものであり、いずれも自然法則を利用する技術的思想であるから、特許法2条1項の「発明」に該当する。
 被控訴人は、本件各発明を一つ以上実施して、平成27年3月期に、平成14年の被控訴人発足当時の目標であった売上高2000億円、粗利20%を達成した。被控訴人は追加コストをかけることなく売上高が増加したのであるから、平成24年3月期を基準として増加した売上高が本件各発明の相当対価金額である。同期売上高(1616億円)から各年度の増加年売上高の累積金額として計算する方法又は同期売上高と被控訴人発足時の目標であった売上高2000億円との差額として計算する方法によって概算すると、本件各発明の相当対価は300億円ないし600億円である。
〔被控訴人の主張〕
(1) 「ビジネスモデル」について
 被控訴人において「ビッグデータソリューション」(ビジネスモデルを具体的に実現したものの一つ)と呼ばれる業務は存在するが、控訴人は、同業務に関する一つのシステムの実装を担当したにすぎず、その開発には関与していない。また、「NSStandard」とは、被控訴人におけるソフトウェア開発等における標準書(規則ないし雛型)であってビジネスモデルではないし、「NSSOLアカデミー」(被控訴人における人材育成に関する組織等のこと)についても、被控訴人が平成26年4月にかかる組織を設立したことは事実であるが、控訴人の関与はない。
 そして、控訴人主張の「ビジネスモデル」の具体的内容は必ずしも明らかではないが、単なるビジネス方法は、自然法則を利用したものとはいえず、特許法上の発明には該当しない。
(2) 「データ分析システム開発プロセス・フレームワーク」について
 被控訴人においてデータ分析を対象とする業務は存在するが、控訴人は、同業務に関する一部のシステムの実装を担当したにすぎない。そもそも同業務はデータ分析を行うものにすぎず、何らかの発明を行うような性質のものではない。さらに、控訴人の主張する「36.1 開発プロセス」等を見ても、要素技術の列挙や、一般的な考え方が述べられたものにすぎず、実現方式等に関する具体的な記述がないから、特許法上の発明に該当しない。
(3) 「サーバの管理方法」について
 「クラウドコンピューティングシステムを分析するシステム」を被控訴人が取り扱ったことはあるが、控訴人は、開発や設計を担当したものではなく、実装を担当したにすぎない。
 また、控訴人は、KDDIが導入したシステムについても言及するが、同プロジェクトに参加した従業員に関しては、控訴人所属の部署との連携はなく、控訴人が関与する立場にはなかった上、そもそも同プロジェクトはKDDIの指示に基づいて実装したものであり、被控訴人が技術や製品等を開発し提供したこともない。
(4) 「ログ分析システムのバッチ処理方法」について
 控訴人の主張する処理方式について、被控訴人がかかる処理方式に関する業務を取り扱ったことはあるが、控訴人は、同方式自体を開発したものではなく、同方式に基づいて具体的なシステムの実装を担当したことがあるにすぎない。
 また、同方式は、一般的に多く採用されている方式にすぎず、特許要件(特許法2条1項、29条等)を満たさない。
(5) 「データ移行テスト方法とプログラム」について
 控訴人の主張するテスト方法等は、被控訴人の扱った特定の顧客向けの案件のことをいうと思われるところ、上記案件に関して顧客と協議しテスト方式の決定及び設計を行ったのは別の従業員であって、控訴人は、これに関与しておらず、上記で決定された指示に基づく実装を担当したにすぎない。
 また、ここで決定されたテスト方法等の内容についても、一般的なものにすぎず、特許要件(特許法2条1項、29条等)を満たさない。
(6) 「サーバサイジングのためのデータ蓄積方法」について
 控訴人の主張するデータ蓄積方法について、控訴人が開発ないし設計したものではないし、控訴人が同方法等に関連したシステムを実装したこともない。
 また、控訴人が主張するデータ蓄積方法等は、公知かつ一般的な情報であり、特許要件(特許法2条1項、29条等)を満たさない。
(7) 「性能評価のためのデータ集計のテンプレート」について
 控訴人の主張するデータ集計のテンプレートについて、被控訴人において性能評価等のためのデータ集計に関する業務を取り扱ったことはあるが、同業務におけるデータ集計方法は別の従業員が議論の上で決定したものであり、控訴人は関与していない。同業務において控訴人が担当したのは、他部署で抽出したデータの加工等を行う作業にすぎない。
 なお、上記作業における加工(集計)方法についても指示されたとおりのものであったため、控訴人が何らかの特許法上の発明を行った事実はない。
(8) 「システム開発標準(通称NSStandard)を整備する方法」について
 控訴人は、被控訴人における開発環境の分析等に関するあるプロジェクトにおいて、控訴人が担当した作業(分析方法に関する設計書の作成等)の成果(本件各文書(1)記載の整備方法)が、NSStandardの整備にも有用な「発明」である旨主張するものと思われる。しかし、同プロジェクトにおける控訴人の作業は、一般的に行われるようなものにすぎず、その成果に関しても、特許要件(特許法2条1項、29条等)を満たさない。
 なお、本件各文書(1)に記載された(と思われる)プロジェクトが対象としたシステムは小規模ないし単純なものであるが、NSStandardは中規模ないし大規模案件における開発標準であるため、前者が後者の開発方法の容易化や整備に資するものではなく、控訴人の主張するような「テンプレート(見本)」となるものでもない。
3 争点(3)(控訴人による本件各文書の売渡請求の可否)について
〔控訴人の主張〕
 控訴人は、被控訴人に対し、本件各文書の印刷物と本件各文書を収録したCDROMを一部売り渡すことを求める。
〔被控訴人の主張〕
 争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件各文書に係る控訴人の著作権及び著作者人格権の有無)について
(1) 本件各文書は、これが原判決別紙文書目録記載のとおり特定されるものであるか否かについては争いがあるものの、控訴人が、被控訴人の従業員であった間に、職務上作成したものであることは、前記第2の2のとおりである。そして、原判決別紙文書目録に記載された本件各文書の内容に鑑みると、本件各文書は、被控訴人の発意に基づき作成され、これが公表されるとすれば、被控訴人名義の下に公表される性質のものであると解される。なお、控訴人は、契約、勤務規則その他に別段の定めがあることを主張立証しない。
 そうすると、本件各文書が原判決別紙文書目録のとおりに特定され、これが思想又は感情を創作的に表現したものであるとして著作物(著作権法2条1項1号)に当たるとしても、その著作者は被控訴人となるから(同法15条)、控訴人が著作権及び著作者人格権を有すると認めることはできない。
(2) 控訴人の主張について
ア 控訴人は、この点について、被控訴人は、過去に大規模プロジェクトの失敗とそれに付随する問題の責任を控訴人に押しつけ、成果・業績だけ被控訴人の名義で公表したから、本件各文書の公表は控訴人名義でされるべきである旨主張する。
 しかし、控訴人によれば、本件各文書は被控訴人の従業員であった間に職務上作成したものであるというのであって、その内容はいずれも被控訴人の業務に係るものであることは明らかであるから、これが公表されるとすれば、被控訴人名義の下に公表され、被控訴人において社会的責任を負うべき性質のものである。仮に控訴人主張に係る上記事情があったとしても、本件各文書を控訴人名義で公表すべき根拠となるものではない。
イ また、控訴人は、著作権及び著作者人格権は、相応の給与や一定程度順当な昇給や職位の昇級を前提に、法人等に帰属すると解すべきところ、被控訴人は、控訴人の給与や賞与を実際の成果や能力に見合った金額よりも、不当に安く支払うという別段の人事的処遇を定めていたものであって、本件各文書の著作権及び著作者人格権が被控訴人に帰属するための前提条件が成立していないから、本件各文書の著作権及び著作者人格権は控訴人に帰属する旨主張する。
 しかし、控訴人の上記主張は、著作権法15条所定の「契約、勤務規則その他に別段の定め」には当たらない。また、控訴人主張に係る事実を認めるに足りない。
ウ したがって、控訴人の上記主張は、いずれも採用することができない。
2 争点(2)(本件各発明について控訴人の特許法35条3項に基づく相当の対価の支払を受ける権利の有無)について
(1) 「ビジネスモデル」について
 控訴人の主張によれば、控訴人の発明に係る「ビジネスモデル」は、「ビッグデータソリューション」に関しては「ITプラットホーム・ナレッジディスカバリーバンドルモデル」、「システム開発標準・人材育成標準整備事業」に関しては「NSStandardモデル」であり、いずれも各ビジネスモデルを、KA(主要な活動)、VP(価値提案)、CR(顧客との関係)、CH(チャネル)、R$(収益の流れ)、C$(コスト構造)、KR(キーリソース)、KP(パートナー)及びCS(顧客セグメント)の9個の要素によって、これをどのように構成するかを「Business Model Canvas」(ビジネスを可視化するフレーム)に表したものであり、かつ、被控訴人が開発環境として使用するSDCクラウドコンピューティングシステムの運用管理用システムとして実装される、というものである。
 しかし、控訴人が上記「ビジネスモデル」を発明したことを認めるに足りる証拠はない。かえって、証拠(乙4)によれば、控訴人は、ビッグデータソリューションの業務に関与した当時、システム研究開発センターシステム基盤技術研究部ミドルウェアグループの所属であり、業務内容として、被控訴人の社内システムの稼働状況を視覚的に把握できるようにするためのシステム開発において、データロード処理及びデータマート作成処理の実装作業を担当したにすぎず、ビジネスモデルを具体的に実現したものとされるビッグデータソリューションの開発には関与しておらず、また、NSStandardモデルについても、控訴人がこれに関与したことはなかったことがうかがわれるところである。
 したがって、控訴人が、その主張に係る「ビジネスモデル」の発明をしたことを認めることはできず、同発明について、控訴人が特許法35条3項に基づく相当の対価の支払を受ける権利を有するということはできない。
(2) 「データ分析システム開発プロセス・フレームワーク」について
 控訴人の主張によれば、控訴人の発明に係る「データ分析システム開発プロセス・フレームワーク」は、ログ分析システムの性質として、データソースの追加、KPI(指標)の追加・変更、分析画面の追加・設計変更、分析目的の追加・変更は必ずあることから、これらの変更があることを予め想定してデータモデルを柔軟に拡張できるためのデータ分析システム開発プロセス・フレームワークであり、データ分析システムを反復的に開発する方法で、リレーショナルデータベースとビジネスインテリジェンスソフトウェアを使用して実現する、というものである。
 しかし、控訴人が上記「データ分析システム開発プロセス・フレームワーク」を発明したことを認めるに足りる証拠はない。かえって、証拠(乙4)によれば、控訴人は、データ分析を対象とする業務に関与した当時、システム研究開発センターシステム基盤技術研究部ミドルウェアグループの所属であり、業務内容として、開発や設計ではなく、同業務に関する一部のシステムデータ蓄積のためのデータロード処理及びデータのグラフ化などの画面表示等の実装を担当したにすぎず、データ分析システム開発プロセス・フレームワークの開発に関与したことはなかったことがうかがわれるところである。
 したがって、控訴人が、その主張に係る「データ分析システム開発プロセス・フレームワーク」の発明をしたことを認めることはできず、同発明について、控訴人が特許法35条3項に基づく相当の対価の支払を受ける権利を有するということはできない。
(3) 「サーバの管理方法」について
 控訴人によれば、控訴人の発明に係る「サーバの管理方法」は、クラウドコンピューティングシステムを構成する多数のサーバの管理を従来よりも簡便に行うことを可能にする、ビジネスインテリジェンスツールを使用してログを分析するシステム、というものであるが、控訴人の主張によっても、「サーバの管理方法」が具体的にどのような構成・内容の発明であるのかが何ら明らかではない。
 この点を措いても、控訴人が上記「サーバの管理方法」を発明したことを認めるに足りる証拠はない。かえって、証拠(乙4)によれば、控訴人は、システム研究開発センターシステム基盤技術研究部ミドルウェアグループに所属していた当時、業務内容として、被控訴人の社内システムの稼働状況を視覚的に把握できるようにするためのシステム開発において、開発や設計ではなく、システムデータ蓄積のためのデータロード処理及びデータのグラフ化などの画面表示等の実装を担当したにすぎず、サーバの管理方法の開発に関与したことはなかったことがうかがわれるところである。
 したがって、控訴人が、その主張に係る「サーバの管理方法」の発明をしたことを認めることはできず、同発明について、控訴人が特許法35条3項に基づく相当の対価の支払を受ける権利を有するということはできない。
(4) 「ログ分析システムのバッチ処理方法」について
 控訴人の主張によれば、控訴人の発明に係る「ログ分析システムのバッチ処理方法」は、ログ分析システム研究開発プロジェクトで設計したログ取込み処理において、サーバから取込みディレクトリへのログファイルの移動と、取込みディレクトリから分析システムへのログの取込みを非同期に実行することにより、バッチ処理の高速化と開発の分担(ログの収集処理と取込み処理の分担)を可能とする、というものである。
 しかし、控訴人が上記「ログ分析システムのバッチ処理方法」を発明したことを認めるに足りる証拠はない。かえって、証拠(乙4)によれば、控訴人は、システム研究開発センターシステム基盤技術研究部ミドルウェアグループに所属していた当時、業務内容として、被控訴人の社内システムの稼働状況を視覚的に把握できるようにするためのシステム開発において、開発や設計ではなく、システムデータ蓄積のためのデータロード処理及びデータのグラフ化などの画面表示等の実装を担当したにすぎず、ログ分析システムのバッチ処理方法の開発に関与したことはなかったことがうかがわれるところである。
 したがって、控訴人が、その主張に係る「ログ分析システムのバッチ処理方法」の発明をしたことを認めることはできず、同発明について、控訴人が特許法35条3項に基づく相当の対価の支払を受ける権利を有するということはできない。
(5) 「データ移行テスト方法とプログラム」について
 控訴人の主張によれば、控訴人の発明に係る「データ移行テスト方法とプログラム」は、SQL Server(Microsoft社製のデータベース)からOracle Database(Oracle社製のデータベース)へのデータベース間のデータ移行が、約1000テーブルで各テーブル約20カラムのデータが1対1対応で正しく行われているか否かをテストにより確認する方法及びそのプログラム、というものである。
 しかし、控訴人が上記「データ移行テスト方法とプログラム」を発明したことを認めるに足りる証拠はない。かえって、証拠(乙4)によれば、控訴人は、システム研究開発センターシステム基盤技術研究部ミドルウェアグループに所属していた当時、被控訴人が扱った特定の顧客向けの案件において、控訴人以外の別の従業員が当該顧客と協議してテスト方式の決定及び設計をしたところ、上記決定に基づく指示に従って、SQL Server(Microsoft社製のデータベース)からOracle Databaseにデータを移行するためのデータ抽出・変換・ロードのための一部処理の実装の業務を担当したにすぎず、データ移行テスト方法とプログラムの開発に関与したことはなかったことがうかがわれるところである。
 したがって、控訴人が、その主張に係る「データ移行テスト方法とプログラム」の発明をしたことを認めることはできず、同発明について、控訴人が特許法35条3項に基づく相当の対価の支払を受ける権利を有するということはできない。
(6) 「サーバサイジングのためのデータ蓄積方法」について
 控訴人の主張によれば、控訴人の発明に係る「サーバサイジングのためのデータ蓄積方法」は、サーバのサイジングのために、サーバの稼働状況や性能のモニターデータに、製品のスペック、バージョン及び搭載されている技術等の情報を、タグ付けして蓄積するという方法であり、データの蓄積にはリレーショナルデータベース又はHadoopを使用し、タグ付けする方法はリレーショナルデータベースよりもHadoopの方が実装しやすく、サイジングデータの検索はビジネスインテリジェンスツールを使用して行う、というものである。
 しかし、控訴人が上記「サーバサイジングのためのデータ蓄積方法」を発明したことを認めるに足りる証拠はない。かえって、証拠(乙4)によれば、被控訴人において、サーバサイジングのためのデータ蓄積方法の開発・研究を担当する部署は、システム研究開発センター基盤技術研究部アーキテクチャーグループであり、控訴人が所属していたシステム研究開発センターシステム基盤技術研究部ミドルウェアグループが担当するものではないこと、控訴人がサーバサイジングのためのデータ蓄積方法の開発・設計に関与したことはないこと、控訴人が同方法等に関連したシステムの実装を担当したこともなかったことがうかがわれるところである。
 したがって、控訴人が、その主張に係る「サーバサイジングのためのデータ蓄積方法」の発明をしたことを認めることはできず、同発明について、控訴人が特許法35条3項に基づく相当の対価の支払を受ける権利を有するということはできない。
(7) 「性能評価のためのデータ集計のテンプレート」について
 控訴人の主張によれば、控訴人の発明に係る「性能評価のためのデータ集計のテンプレート」は、サーバの稼働状況を計測し記録した文書であり、被控訴人のベンチマーク&コンサルテーションセンターで実施されるサーバの性能評価の業務について、熟練によらなければ習得できない技能を第三者に伝達可能な集計方法としてテンプレート化してまとめたもの、というものである。
 しかし、控訴人の上記主張からは、上記テンプレートが、自然法則を利用した技術的思想の創作とは認め難く、コンピュータソフトウェアを利用するものとして創作されたものか否かも何ら明らかではないことから、特許法2条1項の「発明」に当たるということはできない。
 したがって、控訴人が、その主張に係る「性能評価のためのデータ集計のテンプレート」の発明について、特許法35条3項に基づく相当の対価の支払を受ける権利を有するということはできない。
(8) 「システム開発標準(通称NSStandard)を整備する方法」について
 控訴人の主張によれば、控訴人の発明に係る「システム開発標準(通称NSStandard)を整備する方法」は、システム開発標準の整備には、ソリューション開発とノウハウの整備(既存ソリューションの整備)の側面があるところ、モデルとプロセスをセットにして整備することにより、これをテンプレートとして、整備すべき事項の指針とした、というものである。
 しかし、控訴人の上記主張からは、「システム開発標準(通称NSStandard)を整備する方法」が、自然法則を利用した技術的思想の創作とは認め難く、コンピュータソフトウェアを利用するものとして創作されたものか否かも何ら明らかではないことから、特許法2条1項の「発明」に当たるということはできない。
 したがって、控訴人が、その主張に係る「システム開発標準(通称NSStandard)を整備する方法」の発明について、特許法35条3項に基づく相当の対価の支払を受ける権利を有するということはできない。
(9) 小括
 以上のとおりであるから、控訴人が被控訴人に対し、本件各発明について特許法35条3項に基づく相当の対価の支払を受ける権利を有するということはできない。
3 争点(3)(控訴人による本件各文書の売渡請求の可否)について
 控訴人は、本件各文書の売渡請求権を基礎付ける請求原因事実を何ら主張しないから、控訴人の被控訴人に対する本件各文書の売渡請求は、主張自体失当というほかない。
4 結論
 以上によれば、控訴人の被控訴人に対する本件各文書の著作権及び著作者人格権が控訴人に帰属することの確認請求は理由がないから、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は、これを棄却すべきである。また、控訴人の当審における本件各発明について相当の対価の支払を受ける権利を有することの確認請求及び本件各文書の売渡しの請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとする。なお、原判決のうち、本件各文書について著作権及び著作者人格権を有することの確認請求以外の請求に係る部分については、控訴人の訴えの交換的変更により、当然にその効力を失っているから、その旨を明らかにすることとする。
 よって、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 部眞規子
 裁判官 田中芳樹
 裁判官 柵木澄子
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