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【事件名】ニフティへの発信者情報開示請求事件
【年月日】平成28年1月29日
 東京地裁 平成27年(ワ)第21233号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 平成27年12月9日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 山岡裕明
同 唐澤貴洋
被告 ニフティ株式会社
同訴訟代理人弁護士 荒木泉子
同 増原陽子


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 前提事実(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
 原告は、「風水」に関するコンサルタント及び執筆活動を行っている者である。(甲1)
 被告は、電気通信事業を営む株式会社である。
(2) 特定電気通信による情報の発信
ア 氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は、インターネット掲示板「2ちゃんねる」(以下「本件ウェブサイト」という。)内に設置された「風水甲」と題するスレッド(以下「本件スレッド」という。)において、別紙情報目録1ないし18記載の情報(以下、同目録記載の番号に従って「本件情報1」などといい、これらを併せて「本件各情報」という。)を発信した。(甲4)
イ 原告は、本件ウェブサイトの管理者に対し、本件発信者に係る発信者情報の開示請求をしたところ、同管理者から別紙情報目録記載のIPアドレス及び投稿日時の開示を受けた。(甲5)
 このIPアドレスは被告の保有に係るものであり、本件発信者は、被告の提供するインターネット接続サービスを経由して本件情報を本件ウェブサイトに発信していた。
ウ 本件各情報の発信は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(以下「法」という。)2条1号の「特定電気通信」に該当し、被告は本件各情報につき同条3号の「特定電気通信役務提供者」に該当する。
(3) 依拠性
 「A」の作成したブログには、別紙原告記事目録記載1及び2の記事(以下「本件記事1」及び「本件記事2」といい、これらを併せて「本件各記事」という。)がある。(甲1〜3、10)本件情報1ないし13の表現は本件記事1の表現と別紙対比表1のとおり共通し、本件情報14ないし17の表現は本件記事2の表現と別紙対比表2のとおり共通していることからすれば、本件情報1ないし17は、本件各記事に依拠して作成されたものと認められる。(弁論の全趣旨)
2 本件は、原告が、本件各情報によって著作権(複製権、翻案権、公衆送信権)、著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権、名誉・声望権)、名誉権ないし名誉感情を侵害されたことは明らかであると主張して、被告に対し、法4条1項に基づき、本件発信者の氏名又は名称(以下「氏名等」という。)及び住所の開示を求める事案である。
3 争点
(1) 著作権(複製権、翻案権、公衆送信権)侵害の成否
ア 本件各記事の著作権者
イ 著作権侵害の成否
ウ 「引用による利用」該当性
(2) 著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権、名誉・声望権)侵害の成否
ア 本件各記事の著作者
イ 著作者人格権侵害の成否
ウ 「やむを得ない改変」該当性
(3) 名誉権侵害の成否
(4) 名誉感情侵害の成否
(5) 正当理由の有無
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)ア(本件各記事の著作権者)について
〔原告の主張〕
 原告は、本件各記事の著作権者である。
〔被告の主張〕
 不知。なお、原告が本件各記事の著作権者であることにつき、原告の主張立証は不十分である。
2 争点(1)イ(著作権侵害の成否)について
〔原告の主張〕
 本件情報1ないし13は本件記事1と実質的に同一であり、仮にそうでないとしても本件記事1の表現上の本質的な特徴を維持しつつ改変を加えたものであって、本件記事1の複製又は翻案に該当する。
 また、本件情報14ないし17は、本件記事2の表現上の本質的な特徴を維持しつつ改変を加えたものであって、本件記事2の複製又は翻案に該当する。
 したがって、本件情報1ないし17の発信が原告の著作権(複製権、翻案権、公衆送信権)を侵害したものであることは、明らかである。
〔被告の主張〕
 本件情報1ないし17は、表現でない部分又は表現上の創作性がない部分において本件各記事と同一性を有するにすぎないか、本件各記事の表現上の本質的な特徴の同一性が維持されておらず、これを直接感得させるものではない。
 したがって、本件情報1ないし17の発信が原告の著作権(複製権、翻案権、公衆送信権)を侵害したものであることは、到底明らかであるとはいえない。
3 争点(1)ウ(「引用による利用」該当性)について
〔被告の主張〕
 本件情報1ないし17は、「風水」や「五術」について議論することを目的とするものであって、引用分量も少なく、しかも原告の経済的利益を不当に奪うものでもない。
 したがって、本件情報1ないし17は本件各記事を公正な慣行に合致した正当な範囲内で引用するものであり、引用による利用(著作権法32条1項)に該当する。
〔原告の主張〕
 本件情報1ないし17には、そもそも本件各記事を引用して利用する側の著作物自体が存在せず、仮に存在するとしても本件各記事と明瞭に区別して認識することができず、本件各記事との間に主従関係があるともいえない。
 したがって、引用による利用の抗弁は成立しない。
4 争点(2)ア(本件各記事の著作者)について
〔原告の主張〕
 原告は、本件各記事の著作者である。
〔被告の主張〕
 不知。なお、原告が本件各記事の著作者であることにつき、原告の主張立証は不十分である。
5 争点(2)イ(著作者人格権侵害の成否)について
〔原告の主張〕
 本件情報1ないし17は、本件各記事の表現上の本質的な特徴を維持しつつ改変を加えたものであって、原告の本件各記事に係る同一性保持権を侵害することが明らかである(著作権法20条1項)。
 また、本件情報1ないし13は本件記事1を複製ないし翻案したものであるところ、本件情報1では原告に無断で原告の氏名を記載しており、また本件情報2ないし13では原告の氏名を記載していないから、いずれも原告の本件記事1に係る氏名表示権を侵害することが明らかである(著作権法19条1項)。
 さらに、本件情報1ないし17は、著作者である原告の名誉又は声望を害する方法により原告の著作物を利用したものであって、原告の名誉・声望権を侵害することが明らかである(著作権法113条6項)。
〔被告の主張〕
 前記のとおり、本件情報1ないし17は、表現でない部分又は表現上の創作性がない部分において本件各記事と同一性を有するにすぎないか、本件各記事の表現上の本質的な特徴の同一性が維持されておらず、これを直接感得させるものではないから、原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害することが明らかであるとはいえない。
 また、本件情報1ないし17は、原告の社会的評価を低下させるものではなく、原告の名誉・声望権を侵害することが明らかであるとはいえない。
6 争点(2)ウ(「やむを得ない改変」該当性)について
〔被告の主張〕
 本件情報1ないし17は、「風水」や「五術」について議論することを目的とするものであって、引用分量も少なく、しかも本件発信者の見解を述べているだけで、原告への人格攻撃でもない。
 したがって、本件情報1ないし17は、本件各記事の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変が行われているにすぎず、同一性保持権の侵害が明らかであるとはいえない(著作権法20条2項4号)。
〔原告の主張〕
 前記のとおり、引用の抗弁が成立しない以上、同一性保持権侵害に対するやむを得ない改変の抗弁も成立しない。
7 争点(3)(名誉権侵害の成否)について
〔原告の主張〕
 本件情報1ないし13は、原告が「風水」の本質を「妖怪学」すなわち非合理かつ不可解なものと考えており、かつ、そのような非合理かつ不可解なものに携わってきたとの印象を与える。
 また、本件情報14ないし17は、原告が「五術」を詐欺的なものと考えており、かつ、長年詐欺的な発表に関わってきたとの印象を与える。
 さらに、本件情報18は、原告が痛風により健康を害しており、また「風水」を投機的な事業とみなして金儲けを企てている者であるとの印象を与える。
 したがって、本件各情報は、原告の社会的評価を低下させ、原告の名誉権を侵害することが明らかである。
〔被告の主張〕
 本件情報1には「A」との記述があるものの、原告の社会的評価に関わるような具体的事実の記述は一切なく、本件情報2ないし13の末尾にはいずれも原告の氏名とは異なる記述がされ、本件情報14ないし18には原告の氏名は一切出てこない。
 また、その内容についてみても、本件情報1ないし13について「妖怪学」を非合理かつ不可解なものと決めつける原告の見方は恣意的であるし、本件情報14ないし17についても原告自身が詐欺的な発表に関わってきたとは読み取れず、本件情報18についても痛風や投機的事業との記述で原告の社会的評価が低下するとは考えられない。
8 争点(4)(名誉感情侵害の成否)について
〔原告の主張〕
 本件各情報はいわゆる「なりすまし」であり、原告が非合理かつ不可解な「妖怪学」に携わってきた人物であると装い(本件情報1ないし13)、詐欺的な発表に関わってきた人物である原告が記載したかのように装い(本件情報14ないし17)、原告が痛風により健康を害しており、また「風水」を投機的な事業とみなして金儲けを企てている者であると告白しているかのように装うものである(本件情報18)。これらの記載により、原告の人格権に基づく名誉感情は大きく侵害されていることが明らかである。
〔被告の主張〕
 本件情報2ないし13には原告の氏名とは異なる氏名が記載されているから、原告の「なりすまし」とはいえない。また、本件情報1には「A」との記載があるものの、本件情報2ないし13と併せて読めば、本件情報1も「A」自らの発言であるとは受け取られず、「なりすまし」とはいえない。本件情報14ないし18には原告の氏名は一切出てこず、原告の「なりすまし」であるとは到底いえない上、社会通念上許される限度を超える侮辱行為でもない。
9 争点(5)(正当理由の有無)について
〔原告の主張〕
 原告は、本件各情報に係る不法行為に基づき、本件発信者に対して損害賠償を請求するため、被告に対し、本件発信者の氏名等及び住所の開示を求めるものであるから、正当理由の要件を充足している。
〔被告の主張〕
 本件各情報による原告の権利侵害の明白性が認められないから、その発信者情報を開示する必要性は認められず、原告には発信者情報の開示を受ける正当理由がない。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)ア(本件各記事の著作権者)について
 前記第2、1前提事実のとおり、本件各記事はいずれも「A」の作成したブログ上の記事であるところ、証拠(甲9)によれば、同ブログは原告が管理するものであって、本件各記事はいずれも原告が自らの知見に基づいて作成したものであることが認められ、同認定に反する証拠はない。
 したがって、本件各記事の著作権者は原告であると認めるのが相当である。
2 争点(1)イ(著作権侵害の成否)について
(1) 著作物の翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号)、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
 このように、翻案に該当するためには、既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物とを対比した場合に同一性を有する部分が、著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要であるところ、「創作的」に表現されたというためには、厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく、筆者の個性が何らかの形で表れていれば足りるというべきである。そして、個性の表れが認められるか否かについては、表現の選択の幅がある中で選択された表現であるか否かを前提として、当該著作物における用語の選択、全体の構成の工夫、特徴的な言い回しの有無等の当該著作物の表現形式、当該著作物が表現しようとする内容・目的に照らし、それに伴う表現上の制約の有無や程度、当該表現方法が、同様の内容・目的を記述するため一般的に又は日常的に用いられる表現であるか否か等の諸事情を総合して判断するのが相当である。
(2) これを本件についてみると、本件記事1は「風水」とは何かということを表現した文章であって、それを「自然科学」だとし、次に、自然科学の定義を記載する二つの文(文字数にして87文字)からなるものである。確かに、用語の選択、全体の構成等はごく簡潔なものではあるが、風水を「自然科学」であると説明する表現として、他に表現の選択の幅がないということはできず、本件記事1のひとかたまりの文章には個性が表れていると認められる。これに対し、本件情報1ないし13も「風水」とは何かということを表現した文章であって、本文はいずれも二つの文(文字数にして85文字)からなるものであり、具体的表現についてみても、本件情報1ないし13の本文の表現は本件記事1の表現とほぼ一致しており、その違いは、本件情報1ではわずか6文字、本件情報2ないし13ではわずか8文字でしかなく、文字の配列、文章全体の構成、表現形式においてはほぼ同一である(別紙対比表1参照)。そして、その相違部分の内容をみても、本件記事1の内容は「風水」を「自然科学」とするものであり、次の第2文において「自然科学」の定義を記載しているのに対し、本件情報1ないし13の内容は「風水」を「妖怪学」とするものであって、次の第2文において「妖怪学」の定義を記載しているにすぎない。
 したがって、本件情報1ないし13は、本件記事1に依拠したうえで、同記事の内容を批判するか揶揄することを意図して上記異なる表現を用いたものといえるのであって、仮に上記相違部分について作成者の何らかの個性が表れていて創作性が認められるとしても、他に異なる表現があり得るにもかかわらず、本件記事1と同一性を有する表現が一定以上の分量にわたるものであり、本件記事1の表現の本質的な特徴を直接感得することができるものであるから、翻案権侵害に当たることが明らかであるというべきである。
(3) また、本件記事2は、これまで台湾における「五術」に関わり、その際に不快な思いもしたものの、新たな試験ができたことで時代が変わり始めたなどと表現した文章であって、一つの文(文字数にして143文字)からなるものである。その表現においては、用語の選択、全体の構成の工夫、特徴的な言い回しなどにおいて、一見して作者の個性が表れていることは明らかである。これに対し、本件情報14ないし17は三つの文からなる文章であるが、このうち第1文は、やはり、台湾における「五術」に関わり、その際にあきれたこともあったものの、新たな制度ができたことで時代が変わったなどと表現した文章であって、文字数にして123文字からなるものであり、具体的表現についてみても、本件情報14ないし17の第1文の表現は本件記事2の表現と相当程度一致しており、その違いは、本件情報14及び15では31文字、本件情報16及び17では32文字でしかなく(別紙対比表2参照)、「台湾における五術」、「江湖派理論」、「宗教による術数を利用した」「金儲けを目撃する度に」など、用語の選択、全体の構成、文字の配列、特徴的な言い回しにおいて酷似している。そして、その相違部分の内容をみても、本件記事2のうち「五術」の「学術発表にかかわって」という点を、本件情報14ないし17においては「五術」の「詐欺発表にかかわって」に、「とても不愉快な文化の冒涜・歪曲」という点を「とても愉快な文化の笑い話・小話」に、「胸くそが悪かったのですが」という点を「呆れたのですが」に、「国家規模での認定試験」という点を「国家機関での検閲制度」に置き換えているにすぎない。
 したがって、本件情報14ないし17は、本件記事2に依拠したうえで、同記事の内容を批判するか揶揄することを意図して上記異なる表現を用いたものといえるのであって、仮に上記相違部分について作成者の何らかの個性が表れていて創作性が認められるとしても、他に異なる表現があり得るにもかかわらず、本件記事2と同一性を有する表現が一定以上の分量にわたるものであって、本件記事2の表現の本質的な特徴を直接感得することができるものであるから、翻案権侵害に当たることが明らかであるというべきである。
(4) 以上のとおり、本件情報1ないし17は原告の翻案権を侵害することが明らかである。
 また、そうである以上、本件情報1ないし17を本件ウェブサイトに発信する行為は、原告の公衆送信権を侵害するものであることも明らかというべきである。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件情報1ないし17は、原告の著作権(翻案権及び公衆送信権)を侵害することが明らかである。
3 争点(1)ウ(「引用による利用」該当性)について
(1) 著作権法には、公表された著作物は、公正な慣行に合致し、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で引用して利用することができると規定されているところ(著作権法32条1項)、他人の著作物を引用して利用することが許されるためには、引用して利用する方法や態様が公正な慣行に合致したものであり、かつ、引用の目的との関係で正当な範囲内、すなわち、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要であるから、「引用」に当たるか否かの判断においては、他人の著作物を利用する側の利用の目的のほか、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などを総合考慮すべきである。
(2) 被告は、本件情報1ないし17はいずれも「風水」や「五術」について議論することを目的としており、公正な慣行に合致した正当な範囲内での引用であるから、著作権法32条1項にいう「引用」に当たると主張する。
 しかし、本件情報1ないし17は、本件各記事に依拠したうえで、同記事の内容を批判するか揶揄することを意図して、本件記事1の「自然科学」を「妖怪学」に変更したり、本件記事2の「学術発表」を「詐欺発表」に変更したりしたものであり、引用元等を明示することもなく引用元の表現を直接改変した上、それをそのまま本件ウェブサイトに匿名で投稿したものであって、これが議論を目的としたものであるとはにわかにうかがわれないばかりか、公正な慣行に合致した正当な範囲内での引用であるともおよそうかがわれない。
 したがって、被告の上記主張は、採用することができない。
4 争点(2)ア(本件各記事の著作者)について
 前記1からすると、本件各記事の著作者は原告であると認められる(被告も、この点については不知などとするのみで、原告以外の第三者が著作者であることなどを積極的に主張するものではない。)。
5 争点(2)イ(著作者人格権侵害の成否)について
 本件情報1ないし17については、前記2(2)及び(3)のとおり翻案権侵害が認められるところ、これらの表現では原告の意に反する改変がされており、かつ、原告の氏名が表示され(本件情報1)又は表示されていない(本件情報2ないし17)。
 したがって、本件情報1ないし17については、原告の著作者人格権のうち、少なくとも同一性保持権及び氏名表示権を侵害することが明らかである。
6 争点(2)ウ(「やむを得ない改変」該当性)について
 前記3からすると、本件情報1ないし17について、本件各記事の性質並びにその利用の目的及び態様に照らし、やむを得ないと認められる改変が行われたものということはできない。
 したがって、この点についての被告の主張は、採用することができない。
7 争点(3)(名誉権侵害の成否)及び争点(4)(名誉感情侵害の成否)について
 事案に鑑み、本件情報18についてのみ検討する。
(1) 被告は、本件情報18には原告の氏名が一切出てこない旨を指摘する。
 しかし、本件情報18は本件スレッドに投稿されたものであるところ、本件スレッドの表題は「風水甲3」というものであって、原告の職業である「風水」及び氏である「甲」と符合すること、本件スレッドの投稿番号1番の投稿には原告のブログのURLが貼り付けられていること、本件スレッドへの投稿の中には原告の氏名やこれに酷似した氏名が繰り返し出てくることが認められる(甲4)。そうすると、一般読者の普通の注意と読み方を基準として判断した場合、本件スレッドは原告についての投稿を主たる目的とした掲示板であって、本件スレッドに投稿された情報は、第三者の氏名が明記されているなどの特段の事情のない限り、原告に関するものであるとの印象を与えるというべきである。
 そして、本件情報18は、「風水」業を廃業する旨の記載が一人称による陳述形式でされており、また、原告のブログ名である「風水甲」(甲3)に酷似した「風水山師」という記載まであるのであって、他方で第三者の氏名等の記載も何ら見当たらない。そうすると、一般読者の普通の注意と読み方を基準として判断した場合、本件情報18は、本件スレッドの主題たる人物であって、「風水」を業とし、「風水甲」というブログを開設している原告に関する情報であるとの印象を与えるものと認められる。
(2) そこで、本件情報18の内容についてみると、本件情報18には今年中に「風水」業を廃業するとの記載があるが、これは、現に「風水」に関するコンサルタント及び執筆活動を行っている原告にとって、社会的評価を低下させる記載であるといわざるを得ない。
 また、その廃業の理由として、本件情報18には「痛風の為」及び「断酒、療養に専念のため」との記載があるが、これも、原告の健康状態が良好でなく、不摂生な生活を送っている旨を印象付けるものであって、その社会的評価を低下させる記載であるというほかない。
 さらに、本件情報には「風水山師」との記載があるが、「山師」には「他人をあざむいて利得をはかる人」(広辞苑第6版2839頁)との意味もあることからすると、これも、原告が他人を欺く人物であるとの印象を与えるものであって、その社会的評価を低下させる記載であるというべきである。
 加えて、以上の諸事情に照らせば、これらの記載は、原告が廃業を予定し、痛風を抱え、「山師」であるなどと摘示することにより、原告に強い不快感を抱かせ、その自尊心を傷つけるものであるというべきであって、社会通念上受忍すべき限度を超えて原告の名誉感情を不当に侵害するものであるということができる。
 したがって、本件情報18は、原告の名誉権及び名誉感情を侵害することが明らかであるというべきである。
(3) この点につき被告は、本件情報18の前後の投稿には「B」との記載があるから、本件情報18は原告ではなく「B」なる人物に関する投稿と推測することになる旨主張する。しかし、本件情報18自体には前後の投稿と関連付けられるような特段の記載もないのであって、被告の主張はその前提を欠き、採用することができない。
 また、被告は、原告が痛風だと述べたところで原告の社会的評価が低下するとは到底考えられないとか、「山師」との記述により原告の社会的評価が低下するとは到底考えられないなどとも主張する。
 しかし、これも上記(2)で検討したところに照らし、いずれも採用することができない。
8 争点(5)(正当理由の有無)について
 前記1ないし7のとおり、少なくとも、本件情報1ないし17によって原告の著作権(翻案権及び公衆送信権)並びに著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)が侵害され、また本件情報18によって原告の名誉権及び名誉感情が侵害されたことは明らかである。
 したがって、原告が本件発信者に対して損害賠償等を請求するためには、その氏名等及び住所の開示が必要であることは、論を待たないというべきである。
9 結論
 よって、その余の点について判断するまでもなく、本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 東海林保
 裁判官 今井弘晃
 裁判官 廣瀬孝
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