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【事件名】KDDIへの発信者情報開示請求事件F
【年月日】平成28年1月18日
 東京地裁 平成27年(ワ)第21642号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 平成27年12月16日)

判決
原告 創価学会
同訴訟代理人弁護士 中條秀和
同 甲斐伸明
被告 KDDI株式会社
同訴訟代理人弁護士 今井和男
同 正田賢司
同 小倉慎一
同 山本一生
同 山根航太
同 横室直樹


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文第1項と同旨
第2 事案の概要
1 本件は、別紙写真目録記載の写真(以下「本件写真」という。)の著作権を有すると主張する原告が、氏名不詳者(以下「本件投稿者」という。)により、被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェブサイト「NAVERまとめ」(以下「本件サイト」という。)に投稿された別紙投稿記事目録記載の記事(以下「本件記事」という。)と共に掲載された別紙掲載写真目録記載の写真(以下「本件掲載写真」という。)は、本件写真を複製したものであって、本件投稿者が本件掲載写真を本件サイトに掲載した行為により原告の有する著作権が侵害されたことは明らかであるとして、本件投稿者に対する損害賠償請求権の行使のために本件記事に係る別紙発信者情報目録記載の情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を受ける必要があると主張し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下、単に「法」という。)4条1項に基づき、経由プロバイダである被告に対し、本件発信者情報の開示を求める事案である。被告は、本件投稿者の上記行為により、原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかとはいえないなどとして争っている。
2 前提事実(証拠等を付記しない事実は、当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は、宗教法人法に基づいて設立された宗教法人である(弁論の全趣旨)。
イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社であり、法4条1項の「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」(以下「開示関係役務提供者」という。)に該当する。
(2)ア 本件記事が掲載された本件サイトは、LINE株式会社が開設、運営するウェブサイトであり、ユーザーが特定のテーマを定め、インターネット上の情報を収集し、集めた情報を分類、つなぎ合わせて一つのページに掲載するサービスを提供するものである。本件記事は、「創価学会教祖Aレイプ事件」とのタイトルが付された記事であり、本件掲載写真は、同タイトルの左側に掲載されており、本件掲載写真の出典や本件掲載写真についての付記などは一切明示されていない(甲1)。
イ 本件投稿者が本件記事を本件サイトに投稿した際のIPアドレスは、別紙投稿記事目録の「投稿時IPアドレス」欄に記載のとおりであり、同IPアドレスの割当先は、被告である(甲3、4)。
(3) 被告は、本件記事に係る本件発信者情報を保有している。
3 争点
(1) 本件記事により原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるか(法4条1項1号該当性。争点1)
(2) 本件発信者情報が原告の損害賠償請求権の行使のために必要であるか(法4条1項2号該当性。争点2)
4 争点に対する当事者の主張
(1) 争点1(本件記事により原告の著作権〔公衆送信権〕が侵害されたことが明らかであるか)について
【原告の主張】
ア 本件写真が創作性を有する著作物であること
 本件写真は、原告の事業部門である聖教新聞社に所属するB(以下「B」という。)が、平成19年12月25日、原告の業務として、原告施設において、原告の名誉会長であるA(以下「A名誉会長」という。)を撮影したものである。本件写真は、Bがカメラマンとしての経験を活かし、A名誉会長の品格や柔和な表情を引き立たせるべく、構図、アングル、タイミング等に工夫をこらして撮影されたもので、Bの思想、感情が創作的に表現された創作性を有する著作物である。
イ 原告が本件写真の著作権を有すること
 前記アのとおり、本件写真は、原告の職員であるBが、原告の業務として、A名誉会長を撮影したものであるが、本件写真は、原告の一部門である聖教新聞社が発行する機関誌に掲載され、原告の名義で公表されたものであるから、原告の発意に基づき原告の業務に従事する者が職務上作成する著作物であり、原告が自己の著作の名義の下に公表するものであって、原告が著作者としてその著作権を有する(著作権法15条1項)。
 また、原告の就業規則75条1項には、職員が職務上作成した著作物の著作権は原告に帰属すると規定されているところ、同規定によっても、原告が本件写真の著作権者であるといえる。
ウ 本件掲載写真は、本件写真を複製したものであること
 本件掲載写真は、本件写真と比較すると、A名誉会長の左胸のバッジより上の部分でトリミングされているだけであり、明らかに本件写真との同一性が認められるから、本件掲載写真は、本件写真を複製したものである。
エ 引用(著作権法32条1項)が成立しないこと
 本件記事は、「創価学会教祖Aレイプ事件」なるタイトルのもとで、インターネット上の情報を収集した記事であるが、本件写真とは無関係であって、本件写真を引用する必要性・必然性は認められない。本件写真は、A名誉会長の肖像を紹介するため本件写真を鑑賞させることに目的があるから、記事が「主」で本件写真が「従」の関係にあるとも、本件写真の引用が引用の目的上必要最小限度の範囲内とも認められない。さらに、記事には本件写真の出所も明示されていない。
 したがって、本件記事において、本件写真が「公正な慣行に合致する」方法により、「引用の目的上正当な範囲内で」引用されているということはできない(著作権法32条1項)。
オ 小括
 以上のとおり、本件掲載写真は本件写真を複製したものであり、本件記事において本件掲載写真を掲載することは著作権法32条1項の引用に当たらないから、本件掲載写真が本件サイト上の本件記事に掲載されることにより、原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである。
【被告の主張】
ア 本件写真が創作性を有する著作物であることについては争う。
イ 原告が本件写真の著作権を有することについては争う。
ウ 本件掲載写真が本件写真を複製したものであることについては争う。
 本件投稿者は、ネイバー画像検索サイト(以下「本件写真検索サイト」という。)から、「(URLは省略)」上にあった写真(以下「画像検索サイト上の写真」という。)を引用して掲載したにすぎず、原告の著作物であるという本件写真に接する機会はなかった。本件写真検索サイトは、自由に画像を選択して追記できる体裁となっていたのであるから、本件写真検索サイトに掲載された写真が著作権者の許諾なしに掲載されたものであることが明らかといえない。
エ 仮に、本件写真検索サイトに掲載された写真が著作権者の許諾なしに掲載されたものであっても、本件投稿者に故意又は過失はない。
オ 引用(著作権法32条1項)が成立しないことが明らかではないこと
 本件掲載写真の掲載が「公正な慣行に合致」し、「引用の目的上正当な範囲内で行われる」引用に当たらないことが明らかとはいえない。
(2) 争点2(本件発信者情報が原告の損害賠償請求権の行使のために必要であるか)について
【原告の主張】
 原告が本件投稿者に対する損害賠償請求権を行使するには、本件発信者情報の開示を受ける必要がある。
【被告の主張】
 争う。損害賠償請求権を行使するには、発信者の氏名又は名称並びに住所が開示されれば十分であり、これに加えて電子メールアドレスの開示を受ける必要はない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件記事により原告の著作権〔公衆送信権〕が侵害されたことが明らかであるか)について
(1) 本件写真の創作性及び著作権者について
 証拠(甲5ないし7)及び弁論の全趣旨によれば、聖教新聞社は、原告の機関誌その他の出版及び販売業を行う収益事業部門の呼称であり、原告の一部門であること、本件写真は、平成19年12月25日、聖教新聞社の職員であったBが、原告の業務としてA名誉会長を撮影したものであり、聖教新聞社が発行する機関誌「グラフSGI」2013年1月号に掲載されて公表された事実が認められる。
 本件写真(甲5)は、A名誉会長を被写体としてその上半身を写真中央に配置し、顔の表情がはっきりと分かるように撮影し、背景の花などはぼかすなどして、撮影者であるBの思想・感情が創作的に表現されたものであるから、写真の著作物として著作物性が認められる。
 また、上記事実によれば、本件写真は、原告の職員であるBが、原告の業務上撮影したものであり、その後、原告の著作名義の下に公表されたものであるから、著作権法15条1項により、原告がその著作者となる。
(2) 本件掲載写真が本件写真を複製したものであるかについて
ア 証拠(甲1、5)及び弁論の全趣旨によれば、本件掲載写真は、本件写真のうち、A名誉会長の胸部を削除し、肩までの上半身の写真にしている点を除き、被写体の表情、姿勢、服装、背景、被写体の顔に映る陰影等において本件写真と同一であり、本件写真をそのままデータ化してインターネット上に掲載されたものと認められ、本件写真で特徴的に表現されているA名誉会長の表情及び姿勢を明確に覚知することができる。
 また、証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば、本件掲載写真は、本件投稿者が、本件記事に付すために本件写真検索サイトから選択した画像検索サイト上の写真であったことが認められる。画像検索サイト上の写真には原告の著作物であることを明示した表示はないものの、画像検索サイト上の写真は、被写体の表情、姿勢、服装、背景、被写体の顔に映る陰影等において本件写真と同一であり、本件写真を複製したものと認められる。
 以上によれば、本件掲載写真は、本件投稿者が、本件写真と同一性を有する画像検索サイト上の写真に依拠して再製したものといえ、本件掲載写真は、本件写真を複製したものと認められる。
イ 被告は、原告の著作物であるという本件写真に接する機会はなかった旨主張し、依拠性の点を否認するようであるが、画像検索サイト上の写真が原告の著作物であるか否かという認識の有無は、後述の対象著作物の権利者の許諾を受けたか否かについての故意・過失の問題であって、上記依拠性の判断には影響しない。
(3) 故意・過失について
 前記第2の2の前提事実(2)ア及び上記第3の1(2)アのとおり、本件掲載写真は、画像検索サイト上の写真からそのまま本件記事に掲載されたものであり、本件掲載写真にも画像検索サイト上の写真にも原告の著作物に係る旨の表示は一切存在しない。
 しかし、およそ自らが創作(著作)したものでない著作物を利用する場合には、対象著作物の権利者の許諾を得るべき注意義務があるというべきであって、これを無許諾で利用した場合には、そのことを正当とすべき特段の事情がない限り、少なくとも過失があるというべきである。この点は、インターネット上に溢れている様々な著作物の利用に関しても異なるものではなく、識別情報や権利関係が明らかでない著作物については、著作権等を侵害する可能性が否定できない以上、当該著作物の利用を控えるなど、著作者の権利を侵害しないように配慮すべき注意義務があるというべきである。
 これを本件についてみるに、証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿者が本件写真検索サイトから本件掲載写真を入手した旨主張していることは認められるものの、本件投稿者が本件写真検索サイト上の写真や画像の権利関係について確認した上、権利者又はその正当な代理人であることが合理的に推認される者から現に許諾を得たなどの事実関係はなく、本件投稿者は、要するに、本件掲載写真の権利関係が不明であったにもかかわらず、安易に本件サイト上に本件記事と共に掲載したものというほかはなく、上記注意義務を尽くしたものとは認められない。
 したがって、少なくとも本件投稿者について、本件写真の著作権(公衆送信権)の侵害について過失があると認められる。
 なお、本件掲載写真の引用元となった画像検索サイト上の写真を掲載した者について、別途、本件写真につき原告が有する著作権の侵害が成立したとしても、これによって、本件投稿者の過失に関する上記判断が覆るものではない。
(4) 引用(著作権法32条1項)の成否について
 前記前提事実によれば、本件記事のうち本件掲載写真を説明する記述はなく、本件記事において本件掲載写真を掲載する必要性は明らかではない上、本件記事は、本件掲載写真を掲載するにあたってその出典を明示していないものと認められるから、本件掲載写真の掲載が著作権法32条1項にいう引用に当たる余地があるとはいえない。
 被告は、本件記事と本件掲載写真の明瞭区別性、引用される本件掲載写真と本件記事との間には主従の関係があること、引用の目的も必要最小限度であることから、引用の目的上正当な範囲内である旨主張する。
 しかし、証拠(甲1)によれば、本件記事は、A名誉会長のレイプ事件などのタイトルを付した記事で、A名誉会長の言動等を批判することなどを目的としたものであり、本件掲載写真もそのような意図のもとに掲載されたものと認められるのであって、本件投稿者において、本件写真の著作者の制作意図が必ずしも明らかでなかったにせよ、その制作意図に沿うものでないことには容易に思い至るはずであって、正当な目的の引用として許容できるものでないことは明らかである。
 したがって、上記被告の主張は採用できない。
(5) 小括
 以上によれば、本件掲載写真は、本件写真を複製したものと認められるところ、本件記事に本件掲載写真を掲載することについて著作権法32条1項にいう引用に当たる余地があるとはいえないから、本件投稿者が本件掲載写真を含む本件記事を本件サイトに投稿したことにより、原告が有する本件写真の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかといえる。
2 争点2(本件発信者情報が原告の損害賠償請求権の行使のために必要であるか)について
 本件訴訟において、原告は、本件投稿者に対して本件写真の著作権(公衆送信権)侵害の不法行為による損害賠償請求権を行使するため、本件発信者情報の開示を求めているところ、上記損害賠償請求権を行使するためには、本件投稿者を特定する必要があるから、原告には、同特定のために別紙発信者情報目録記載の情報のすべてについて、開示を受ける必要があるといえる。
 この点、被告は、損害賠償請求権を行使するには、発信者の氏名又は名称及び住所の開示を受ければ十分であり、これ以上に電子メールアドレスの開示を受ける必要はないと主張する。
 しかし、不法行為に基づく損害賠償請求権を行使するためには、最終的には民事訴訟の提起が必要であるとしても、これに先立って、裁判外で任意の履行請求することは、ごく通常のことであって、電子メールアドレスの開示がこれに資することは、明らかである。
 また、法4条の「当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報」は、「氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるもの」とされ、ここにいう「発信者の特定に資する情報」とは、発信者を特定(識別)するために参考となる情報一般を意味し、開示請求をする者の損害賠償請求等を可能とするという観点から、その相手方を特定し、何らかの連絡を行うのに合理的に有用と認められる情報と解するのが相当である。そして、平成14年総務省令第57号によれば、上記の発信者情報として、「発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称」及び「発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所」のほかに、「発信者の電子メールアドレス(電子メールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう。)」も掲げられているのであって、電子メールを利用しての損害賠償請求等の方法が合理的にあり得ることは、当然の前提とされているのであって、氏名又は名称及び住所で特定できないような限定的な場面のみに限定して電子メールアドレスの開示を許容したものとは、解されない。
 さらに、現実の権利行使の場面では、氏名又は名称及び住所だけでは発信者の特定が不十分なこともあり得る(例えば、回線契約者として登録されている者が法人であると、メールアドレスが不明な場合には具体的な発信者が特定できないことなども生じ、氏名又は名称及び住所の開示を受けただけでは発信者の特定に至らないことも想定される。)から、この点からも、原告は、電子メールアドレスの開示を受ける必要があるといえる。
 以上のとおり、原告が本件投稿者に対して損害賠償請求権を行使するためには、氏名又は名称及び住所のほかに電子メールアドレスの情報も必要であると認めるのが相当であり、電子メールアドレスの情報開示が必要ないとする被告の主張は採用できない。
3 結論
 以上によれば、原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 嶋末和秀
 裁判官 鈴木千帆
 裁判官 笹本哲朗


別紙  発信者情報目録

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1 発信者その他上記記事の送信に係る者の氏名又は名称
2 発信者その他上記記事の送信に係る者の住所
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 記
 「(URLは省略)」
 投稿日時 2015年06月02日 午前4時12分6秒
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