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【事件名】類似“加湿器”の不正競争事件
【年月日】平成28年1月14日
 東京地裁 平成27年(ワ)第7033号 不正競争差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成27年10月27日)

判決
原告 A
原告 B
上記両名訴訟代理人弁護士 山田威一郎
同 中村小裕
同 松本響子
上記両名補佐人弁理士 五味飛鳥
同 可兒佐和子
被告 株式会社セラヴィ
同訴訟代理人弁護士 渡邊敏
同補佐人弁理士 林直生樹
同 石川徹
被告 株式会社スタイリングライフ・ホールディングス
同訴訟代理人弁護士 辻居幸一
同 小和田敦子


主文
 原告らの請求をいずれも棄却する。
 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告株式会社セラヴィ(以下「被告セラヴィ」という。)は、別紙被告商品目録記載の商品(以下「被告商品」という。)を輸入し、販売し、又は販売の申出をしてはならない。
2 被告株式会社スタイリングライフ・ホールディングス(以下「被告スタイリングライフ」という。)は、被告商品を販売し、又は販売の申出をしてはならない。
3 被告らは、被告商品を廃棄せよ。
4 被告らは、原告らに対し、連帯して120万円及びこれに対する平成27年3月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告セラヴィは、原告らに対し、120万円及びこれに対する平成27年3月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、別紙原告加湿器目録記載1〜3の加湿器(以下、それぞれを同目録記載の番号により「原告加湿器1」などという。)の開発者である原告らが、被告らに対し、被告商品の形態は原告加湿器1及び2の形態に依拠し、これらを模倣したものであって、被告らによる被告商品の輸入及び販売は上記加湿器に係る原告らの著作権(譲渡権又は二次的著作物の譲渡権)を侵害するとともに、不正競争(不正競争防止法2条1項3号)に当たると主張して、@同法3条1項及び2項又は著作権法112条1項及び2項(選択的請求)に基づき、被告商品の輸入等の差止め及び廃棄、A民法709条、719条1項及び不正競争防止法5条3項2号又は著作権法114条3項(選択的請求)に基づき、被告らにつき損害賠償金120万円及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達の日の翌日)である平成27年3月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払、被告セラヴィにつき損害賠償金120万円及びこれに対する同日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、書証の枝番号は省略する。以下同じ。)
(1) 当事者
ア 原告らは、総合家電メーカーのプロダクトデザイナーであり、平成23年にデザインユニット「knobz design」を結成し、フリーのデザイナーとしても活動している(甲1の1)。
イ 被告セラヴィは、インテリア・デザイン家電、生活雑貨等の企画、生産及び輸入卸を業とする株式会社である。
ウ 被告スタイリングライフは、雑貨店の店舗経営等を業とする株式会社である。
(2) 原告らによる加湿器の開発等
ア 原告らは、原告加湿器1〜3の開発者である。これら加湿器の形態は別紙原告加湿器目録の各写真に示されたとおりであり、細部に相違はあるものの、いずれも試験管様のスティック形状の加湿器であり、コップ等に入れて使用するものである。
イ 原告らは、平成23年11月1日から6日までの期間に開催された展示会「TOKYO DESIGNER  WEE  2011」に原告加湿器1を、平成24年6月6日から8日までの期間に開催された展示会「インテリアライフスタイル東京2012」に原告加湿器2をそれぞれ出展した。また、原告らは、平成27年1月5日頃、そのウェブサイトにおいて原告加湿器3の販売を開始した。(甲1、3、5)
(3) 被告らの行為
ア 被告製品は、原告加湿器1及び2と同様にコップ等に入れて使用されるスティック形状の加湿器である。
イ 被告セラヴィは、平成25年秋頃、被告製品を輸入し、被告スタイリングライフを始めとする各取引先への販売を開始した。また、被告スタイリングライフは、同年10月頃から、その経営する雑貨店において被告商品を販売した。
2 争点
(1) 不正競争防止法2条1項3号に基づく請求について
ア 原告加湿器1及び2の「商品」該当性
イ 形態の模倣の有無
ウ 原告らの加湿器が「最初に販売された日」
エ 被告らの重過失の有無
(2) 著作権侵害に基づく請求について
ア 原告加湿器1及び2の著作物性
イ 複製又は翻案の成否
(3) 原告らの損害額
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(不正競争防止法2条1項3号に基づく請求)について
ア 原告加湿器1及び2の「商品」該当性
(原告らの主張)
 原告加湿器1と原告加湿器2は、その形態上の差異が微差にすぎないため、同一の商品として考えることができる。そして、原告加湿器1及び2は、展示会に出展された時点で、その外形形状が容易に模倣可能な状態に置かれたから、この時点から不正競争防止法2条1項3号の「商品」として同号の保護対象となる。
(被告セラヴィの主張)
 原告加湿器1及び2は、市場に流通しておらず、具体的構造も明らかでないから、これを模倣することは不可能であって、同号の保護の対象となる「商品」に当たらない。
(被告スタイリングライフの主張)
 不正競争防止法における「商品」は市場において販売されるものでなければならないところ、原告加湿器1及び2は展示会に出展された試作品であって、商品化のため具体的な開発については未着手の状態であったから、同号にいう「商品」に当たらない。
イ 形態の模倣の有無
(原告らの主張)
(ア) 原告加湿器1及び2と被告商品は共にコップ等に入れて使用する携帯用の加湿器であるところ、@試験管をイメージしたスティック形状からなり、下端が半球状に形成され、その上の中心部分が円筒状に形成され、上端にフランジ部が形成されている点、A最上部からやや下がった箇所に、リング状のパーツが組み込まれており、このリング状パーツより上の部分が取り外し可能になっている点、B本体の円筒状部の下端には内部に水を取り込むための吸水口が設けられ、キャップの上端には噴霧口が設けられており、吸水口から内部に取り込んだ水を蒸気にしてキャップ上端の濃霧口から噴出させるようになっている点で共通し、Cキャップ上端から本体下端までの長さと本体円筒部の直径の比率が概ね共通していることから、実質的に同一の形態であるといえる。
(イ) 原告加湿器1及び2が展示会に出展される以前には試験管状の形態からなる携帯用の加湿器は存在していなかったこと、被告商品の品名の英語表記(「STICK HUMIDIFIER」)が原告加湿器1及び2の品名の英語表記と同一であることからすれば、被告商品が原告加湿器1及び2の形態に依拠して作り出されたことは明らかである。 以上によれば、被告商品は原告加湿器1及び2の形態を模倣した商品といえるから、被告製品の輸入等は不正競争防止法2条1項3号の不正競争に当たる。
(被告セラヴィの主張)
 原告加湿器1及び2の形態と被告商品の形態は、類似する部分が一部あるものの、相違する部分が多く存在することから、実質的に同一でない。また、被告商品の品名の英語表記はスティック形状の加湿器であることを示す一般的な名称であるといえることから、依拠性も認められない。
(被告スタイリングライフの主張)
 被告商品はUSBケーブルで電気の供給を受ける方式となっており、気軽にパソコン周りで利用できる商品として開発されたものと考えられるところ、原告加湿器1及び2はこのような特徴を有していない。この点以外にも、原告加湿器1及び2の形態と被告商品の形態が相違する部分が存在する。これらのことからすれば、被告商品の形態は原告加湿器1及び2の形態と実質的に同一でない。また、上記(被告セラヴィの主張)のとおり、依拠性も認められない。
ウ 原告らの加湿器が「最初に販売された日」
(原告らの主張)
 被告商品の輸入及び販売は不正競争防止法2条1項3号の不正競争に当たるところ、模倣が可能な状態になった日を同法による保護期間の始期とすべきであるから、原告加湿器1が展示会に出展された平成23年11月1日以降の模倣行為は違法となる。また、同法19条1項5号イの「最初に販売された日」とは商品として市場に出された日をいうから、原告加湿器3の販売が開始された平成27年1月5日を保護期間の終期の起算点とすべきである。なお、このように解すると、保護期間が3年以上となるが、「最初に販売された日」は保護期間の始期を定めるものではないから、不合理とはいえない。
 したがって、原告らは、被告らに対して、同法3条1項及び2項に基づき被告商品の輸入等の差止め及び廃棄を求めることができる。
(被告らの主張)
 原告らは、原告加湿器1が展示会に出品された日である平成23年11月1日以降の模倣行為を違法と主張する一方で、不正競争防止法19条1項5号イの「最初に販売された日」を原告加湿器3の販売が開始された日である平成27年1月5日として同法による保護期間を同日から3年間と主張しているが、このように解釈すると、同法による保護が6年間以上となり、同法19条1項5号イが保護期間を3年間に制限している趣旨が損なわれる。したがって、原告らの主張は明らかに誤りである。
エ 被告らの重過失の有無
(原告らの主張)
 被告セラヴィは、商品の輸入等を行う場合には、その商品が模倣品であるなど他者の権利、利益を侵害する物でないかどうかにつき注意を払う立場にあった。また、原告加湿器1及び2は原告らのウェブサイトに掲載されており、容易に検索可能であった。それにもかかわらず、被告セラヴィは、漫然と中国の業者から被告商品を購入し、日本において販売をしたのであるから、重過失があることは明らかである。
 被告スタイリングライフは、製造業者等から雑貨を仕入れる場合には、それが模倣品であるなど他者の権利、利益を侵害する物でないかどうかにつき注意を払う立場にあった。それにもかかわらず、被告スタイリングライフは、一旦は従業員が原告加湿器1及び2に関して原告らと接触しておきながらその異動の際に後任者への適切な引継ぎを行わず、また、原告らとのメールのやり取りを確認することができないような記録の管理体制をとっていたというのである。そうすると、模倣品に注意を払うべき企業としてあまりにずさんであったというべきであるから、重過失があることは明らかである。
(被告セラヴィの主張)
 被告セラヴィは、原告らから平成26年2月4日付け通告書(乙イ1の1)の送付を受けて初めて原告加湿器1及び2の存在を知り、調査を開始したが、原告加湿器1及び2が流通していなかったこと、同通告書において原告加湿器1及び2の具体的な形態が開示されていなかったことなどから、被告商品との比較検討をすることができなかった。そうすると、被告セラヴィが原告加湿器1及び2の形態を具体的に知ることは極めて困難であったから、被告商品が他人の商品の形態を模倣した商品であるとしても、被告セラヴィが被告商品の輸入及び販売時にこれを知らなかったことにつき重過失はない(不正競争防止法19条1項5号ロ)。
(被告スタイリングライフの主張)
 被告スタイリングライフが被告商品を扱うことを決めた当時、原告加湿器1及び2は実際の商品として販売されていなかったから、これを事前に調査して不正競争防止法等に違反するかどうかを確認することはほぼ不可能である。なお、担当者の異動の際の引継ぎやメールの管理体制についても問題はない。したがって、被告商品が他人の商品の形態を模倣した商品であるとしても、被告スタイリングライフがこれを知らなかったことにつき重過失はない。
(2) 争点(2)(著作権侵害に』基づく請求)について
ア 原告加湿器1及び2の著作物性
(原告らの主張)
(ア) 実用品であっても、通常の著作物と同様に創作者の何らかの個性が発揮されている場合には、「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)に当たり、著作物性が肯定されるというべきである。
 前記(1)イ(原告らの主張)(ア)の@〜Bの構成を備えている原告加湿器1及び2は、一見した限りでは加湿器とは認識し難い、他から隔絶した独自のフォルムを備えた従来の加湿器にはない斬新な形態であって、加湿という実用性及び機能性から切り離された独自性の強いものであるから、原告らの個性が強く発揮されている。したがって、原告加湿器1及び2は美術の著作物に当たる。
(イ) また、実用品が著作物に当たるためには、実用的な機能を離れて見た場合に、それが美的鑑賞の対象となり得るような美的創作性を備えていることを要するとしても、原告加湿器1及び2は、@その使用時以外には、筆記用具立てに差したり、デスク上に逆向きに立てたりするなどして、室内のインテリアとして鑑賞することができること、Aその使用時には、机の上などに置いてそのスティック形状の造形物が蒸気を吹き出す姿を楽しむことが可能であり、このような姿はあたかも自室やオフィスを実験室の如くに変容させたかのような楽しみを鑑賞者に与え得るものであることなどからすれば、原告加湿器1及び2は加湿という実用性及び機能性から切り離されても、なお美的鑑賞の対象となり得る。したがって、原告加湿器1及び2は著作物に当たる。
(被告らの主張)
 原告加湿器1及び2が、携帯可能な小型の加湿器という機能を超えて、美を表現するものでないことは明らかである。すなわち、水を入れたコップに差して使うタイプの加湿器においては、下部に水を取り込むための吸水口を設け、それをコップに入れた水に浸しておく構造にする必要がある一方、上記の噴霧口は水に触れない上部に設ける構造にする必要があるから、原告加湿器1及び2のように細長いスティック形状になるのは機能的に必然である。
 したがって、原告加湿器1及び2はこのような必要な機能を形にしたものにすぎないから、美的鑑賞の対象となり得るような美的創作性は認められない。
イ 複製又は翻案の成否
(原告らの主張)
 前記(1)イ(原告らの主張)(ア)及び(イ)のとおり、被告商品の形態は、原告加湿器1及び2の形態に依拠して創作され、かつ、これらに類似しているから、被告商品は原告加湿器1及び2を複製又は翻案したものといえる。
 したがって、被告商品の販売は原告らの譲渡権又は二次的著作物の譲渡権侵害(著作権法26条の2、28条)に、被告商品の輸入はみなし侵害(同法113条1項1号)にそれぞれ当たる。
(被告らの主張)
 前記(1) イ(被告セラヴィの主張)及び(被告スタイリングライフの主張)のとおり、被告商品の形態は原告加湿器1及び2の形態に類似していないし、依拠してもいない。
(3) 争点(3)(原告らの損害額)について
(原告らの主張)
 平成25年秋頃から平成27年3月までの間の被告商品の販売による売上額は、少なくとも3800万円(2万個×1個当たり1900円)であるところ、原告加湿器1及び2の形態の使用又はこれらに係る著作権の行使に対して原告らが受けるべき金銭の額は売上額の5%を下らないから、原告らは190万円(3800万円×0.05)の損害を被った(不正競争防止法5条3項2号又は著作権法114条3項)。また、原告らは、弁護士費用相当額として、50万円の損害を被った。
 そして、被告商品の輸入及び販売につき被告セラヴィと被告スタイリングライフには共同不法行為(民法719条1項)が成立するところ、被告セラヴィは上記期間において被告商品を少なくとも2万個、被告スタイリングライフは上記期間において被告商品を少なくとも1万個販売したから、被告セラヴィは上記2万個に対応した240万円(190万円+50万円)の損害賠償義務(120万円の範囲で被告スタイリングライフとの連帯債務となる。)、被告スタイリングライフは上記1万個に対応した120万円(95万円+25万円)の損害賠償義務(被告セラヴィとの連帯債務となる。)を負う。
(被告らの主張)
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)ア(原告加湿器1及び2の「商品」該当性)について
(1) 原告らの不正競争防止法2条1項3号に基づく請求に対し、被告らは、原告加湿器1及び2は同号により形態が保護される「商品」に当たらない旨主張する。
(2) そこで判断するに、同号が他人の「商品」の形態の模倣に係る不正競争を規定した趣旨は、市場において商品化するために資金、労力等を投下した当該他人を保護することにあると解される。そして、事業者間の公正な競争を確保するという同法の目的(1条参照)に照らせば、上記「商品」に当たるというためには、市場における流通の対象となる物(現に流通し、又は少なくとも流通の準備段階にある物)をいうと解するのが相当である。
(3) これを本件についてみるに、前記前提事実(2)イに加え、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 原告加湿器1及び2は加湿器として開発されたものであり、使用するためには電源が必要になるところ、原告が平成23年11月及び平成24年6月に展示会に出品した際には、いずれも加湿器の本体を外部電源に銅線で接続することにより電気の供給を受ける構成となっていた。(甲3、5、20)
イ 原告らは、平成24年7月、被告スタイリングライフの担当従業員から原告加湿器2の製品化について問合せを受けたのに対し、原告らと考えの合致する製造業者が見つかっておらず、製品化の具体的な日程は決まっていない旨回答した。(甲7)
ウ 原告らは、平成27年1月5日頃、原告らのウェブサイトで原告加湿器3の販売を開始した。原告加湿器3は、加湿器本体とUSB端子がケーブルで接続され、これにより電気の供給を受ける構成となっている。(甲16、17)
(4) 上記事実関係によれば、原告加湿器1及び2は、上記各展示会の当時の構成では一般の家庭等において容易に使用し得ないものであって、開発途中の試作品というべきものであり、被告製品の輸入及び販売が開始された平成25年秋頃の時点でも、原告らにおいて原告加湿器1及び2のような形態の加湿器を製品化して販売する具体的な予定はなかったということができる。そうすると、原告加湿器1及び2は、市場における流通の対象となる物とは認められないから、不正競争防止法2条1項3号にいう「商品」に当たらないと解すべきである。
(5) これに対し、原告らは、原告加湿器1及び2は展示会に出品された時点で形態が模倣可能な状態に置かれたから「商品」に当たる旨主張するが、以上に説示したところに照らし、これを採用することはできない。
(6) したがって、不正競争防止法に基づく原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
2 争点(2)ア(原告加湿器1及び2の著作物性)について
(1) 原告加湿器1及び2は、加湿器として実用に供されるためにデザインされたものであるから、いわゆる応用美術の領域に属すると認められる。原告らは、これらが「著作物」として著作権法による保護を受けると主張するものである。
(2) そこで判断するに、同法2条1項1号は「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」旨、同条2項は「この法律にいう『美術の著作物』には、美術工芸品を含むものとする」旨規定している。これらの規定に加え、同法が文化の発展に寄与することを目的とするものであること(1条)、工業上利用することのできる意匠については所定の要件の下で意匠法による保護を受けることができることに照らせば、純粋な美術ではなくいわゆる応用美術の領域に属するもの、すなわち、実用に供され、産業上利用される製品のデザイン等は、実用的な機能を離れて見た場合に、それが美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えている場合を除き、著作権法上の著作物に含まれないものと解される。
(3) これを本件についてみるに、証拠(甲3、5、20)及び弁論の全趣旨によれば、原告加湿器1及び2は、試験管様のスティック形状の加湿器であって、本体の円筒状部の下端に内部に水を取り込むための吸水口が、本体の上部に取り付けられたキャップの上端に噴霧口がそれぞれ取り付けられており、この吸水口から内部に取り込んだ水を蒸気にして噴霧口から噴出される構造となっていることが認められる。そして、以上の点で原告加湿器1及び2が従来の加湿器にない外観上の特徴を有しているとしても、これらは加湿器としての機能を実現するための構造と解されるのであって、その実用的な機能を離れて見た場合には、原告加湿器1及び2は細長い試験管形状の構造物であるにとどまり、美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えていると認めることはできない。
 したがって、原告加湿器1及び2は著作物に当たらないと解すべきである。
(4) これに対し、原告らは、原告加湿器1及び2は従来の加湿器にない斬新な形態であって原告らの個性が強く発揮されており、加湿器としての実用性及び機能性から切り離しても鑑賞の対象となり得るなどと主張して、著作権法による保護を求めるが、その著作物性については以上に説示したとおりであり、原告らの主張は失当というほかない。
(5) したがって、著作権侵害に基づく原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
3 結論
 よって、原告らの請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 長谷川浩二
 裁判官 藤原典子
 裁判官 中嶋邦人


別紙 被告商品目録
品名:スティック加湿器(英文表記:STICK HUMIDIFIER)
品番:CLV−3504

別紙 原告加湿器目録
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