判例全文 line
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【事件名】近未来宇宙船のイメージイラスト事件
【年月日】平成27年12月25日
 東京地裁 平成27年(ワ)第6058号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成27年11月20日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 松村譲
同 貞松宏輔
被告 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
同訴訟代理人弁護士 熊倉禎男
同 富岡英次
同 相良由里子
被告 株式会社小学館
同訴訟代理人弁護士 竹下正己
同 山本博毅
同 多賀亮介
同 瀬田英一
同 高橋賢生


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、別紙イラスト目録記載のイラストを複製又は翻案してはならない。
2 被告国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構は、別紙イラスト目録記載のイラストを記載した展示用パネル、別紙イラスト目録記載のイラストが描かれたポジフィルム、その他印刷用フィルム等及び別紙イラスト目録記載のイラストを電子データで記憶した、USBメモリ、CD−R、パソコン内ハードディスク、印刷用データ、印刷用フィルム等一切を廃棄せよ。
3 被告国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構は、別紙イラスト目録記載のイラストをウェブサイトにアップロードし、自動公衆送信又は送信可能化してはならない。
4 被告株式会社小学館は、別紙イラスト目録記載のイラストを掲載したまま、別紙書籍目録記載の書籍を複製、頒布してはならない。
5 被告株式会社小学館は、別紙イラスト目録記載のイラストを掲載した別紙書籍目録記載の書籍、別紙イラスト目録記載のイラストが描かれたポジフィルム、その他印刷用フィルム等及び別紙書籍目録記載の書籍を電子データで記憶した、USBメモリ、CD−R、パソコン内ハードディスク、印刷用データ、印刷用フィルム等一切を廃棄せよ。
6 被告らは、原告に対し、連帯して301万9460円及びうち271万9685円に対する平成13年12月1日から、うち29万9775円に対する平成17年7月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構は、原告に対し、159万9550円及びうち29万9775円に対する平成13年12月1日から、うち129万9775円に対する平成15年10月30日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8 被告らは、別紙広告の要領記載の要領をもって、別紙広告の内容記載の広告を1回掲載せよ。
第2 事案の概要
1 本件は、別紙イラスト目録記載のイラスト(以下「本件イラスト」という。
の著作権を有すると主張する原告が、@被告国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下「被告JAXA」という。)が本件イラストのサイズを変更して展示用パネルを制作し、展示した行為、A被告JAXAが本件イラストを被告JAXAのウェブサイトに掲載した行為、B被告JAXAが本件イラストを複写したポジフィルムを被告株式会社小学館(以下「被告小学館」という。)に交付し、被告小学館が、同ポジフィルムを用いて本件イラストの掲載された別紙書籍目録記載1の書籍(以下「本件書籍1」という。)及び同目録記載2の書籍(以下「被告書籍2」といい、被告書籍1と被告書籍2を併せて「被告各書籍」という。)を制作、出版及び頒布した行為が、それぞれ、原告の著作権(上記@及びBの各行為について複製権、譲渡権又は翻案権、上記Aの行為について公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を侵害すると主張して(なお、原告は、上記Bの行為は、被告らの共同不法行為に当たると主張している。)、(1) 著作権法112条1項に基づき、被告らに対して本件イラストの複製又は翻案の差止めを求め(上記第1の1)、被告JAXAに対して本件イラストのウェブサイトへのアップロードの差止めを求め(上記第1の3)、被告小学館に対して被告書籍1及び被告書籍2の複製及び頒布の各差止めを求め(上記第1の4)、(2) 同条2項に基づき、被告JAXAに対して上記展示用パネル、本件イラストが描かれたポジフィルムその他の印刷用フィルム及び本件イラストの電子データが格納された記憶媒体の廃棄を求め(上記第1の2)、被告小学館に対して被告書籍1、被告書籍2、本件イラストが描かれたポジフィルムその他の印刷用フィルム及び本件イラストの電子データが格納された記憶媒体の廃棄を求め(上記第1の5)、(3) 著作権侵害及び著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告らに対して連帯して損害賠償金301万9460円(著作権法114条3項による損害59万9550円、慰謝料200万円、弁護士費用41万9910円)及び遅延損害金(遅延損害金の起算日は、271万9685円について平成13年12月1日〔被告書籍1が発行された日〕、29万9775円について平成17年7月20日〔被告書籍2が発行された日〕である。)の支払を求め(上記第1の6)、被告JAXAに対して損害賠償金159万9550円(著作権法114条3項による損害59万9550円、慰謝料100万円)及び遅延損害金(遅延損害金の起算日は、29万9775円について平成13年12月1日〔原告の主張上、被告JAXAが本件イラストをウェブサイトに掲載した日〕、129万9775円について平成15年10月30日〔原告の主張上、被告JAXAが上記パネルを制作した日〕である。)の支払を求め(上記第1の7)、(4) 著作権法115条に基づき、被告らに対して名誉回復措置として別紙広告の内容記載の広告を掲載するよう求めた(上記第1の8)事案である。
2 前提事実(証拠等を掲げたもののほかは、当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
 原告は、イラストレーター及びグラフィックデザイナーとして従事する者である(甲16、弁論の全趣旨)。
 被告JAXAは、平成15年10月1日、文部科学省宇宙科学研究所、独立行政法人航空宇宙技術研究所(以下「NAL」という。)及び特殊法人宇宙開発事業団を統合して発足した、宇宙科学に関する学術研究、宇宙科学技術に関する基礎研究及び航空科学技術に関する基礎研究等を目的とする国立研究開発法人である。なお、平成27年4月1日、独立行政法人通則法の一部を改正する法律(平成26年法律第66号)の施行に伴って「独立行政法人宇宙航空研究開発機構」から「国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構」へと名称が変更された。
 NALは、平成13年4月1日に独立行政法人に移行する前は、文部科学省(旧科学技術庁)が所管する国の一機関であった。
 被告小学館は、雑誌、図書出版業を目的とする株式会社である。
(2) 本件イラスト
 本件イラストは、NALが研究開発を行っていた有人宇宙輸送システムのコンセプトである「スペースプレーン」のシステム構成を描いたイラストレーションであり、平成11年頃に制作された(甲1、乙4の1・2、6、7、弁論の全趣旨)。 
 原告は、自らが本件イラストの著作者であり、著作権者であると主張している。
 なお、スペースプレーンのシステム構成図としては、NALが平成2年頃までに当時の研究成果を反映させて制作した構成図(別紙NALシステム構成図参照。以下「NALシステム構成図」という。)が存在していた(乙8ないし11)。
(3) 被告らの行為
ア NALは、平成11年頃、本件イラストを掲載した広報用パンフレット(以下「本件パンフレット」という。)を制作して頒布した(乙16)。
イ NALは、本件イラストを縦21センチメートル、横29.5センチメートルの銘板(以下「本件パネル」という。)に印刷し、NAL並びにその権利及び義務を承継した被告JAXAは、平成13年4月頃から平成25年4月頃にかけて、本件パネルをNAL又は被告JAXAの調布航空宇宙センター事務棟2号館1階の展示室に展示していた(甲2、乙18)。
ウ 被告小学館は、平成13年12月1日、本件イラストを掲載した被告書籍1を出版し、平成17年7月20日、本件イラストを掲載した被告書籍2を出版した。
 被告小学館は、被告各書籍を出版するに際し、NAL又は被告JAXAから本件イラストの複製物の交付を受け、本件イラストを被告各書籍に掲載することにつき許諾を受けた。
3 争点
(1) 本件イラストは、創作性を有する著作物であるか(争点1)
(2) 原告は、本件イラストの著作権を原始的に取得したか(争点2)
(3) 原告とNALとの間で、本件イラストの著作権を譲渡し、著作者人格権を行使しない旨の合意がされたか(争点3)
(4) 著作権(複製権、譲渡権、翻案権、公衆送信権)侵害は成立するか(争点4)
(5) 著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)侵害は成立するか(争点5)
(6) 差止め、廃棄、名誉回復措置の必要性があるか(争点6)
(7) 被告らの過失及び原告の損害(争点7)
4 争点に対する当事者の主張
(1) 争点1(本件イラストは、創作性を有する著作物であるか)について
【原告の主張】
ア 本件イラストは、原告が、宇宙科学・航空科学を研究している大学教授から意見を聴きながら、その構成、作成に工夫を凝らし、多大な労力を費やして制作したものであるから、創作性が認められる著作物である。
イ この点、被告らは、本件イラストがNALシステム構成図をトレースして制作されたものであると主張するが、そのような事実はない。本件イラストの線画(甲8の1)とNALシステム構成図を対比すると(甲8の4)、両者は輪郭の大部分がずれているほか、消失点(イラストを立体的に描画する際に、イラストが画面から消える点)やアイライン(物体を描画する際にどこから見て描くかという視点)が異なっており、本件イラストがNALシステム構成図をトレースしたものでないことがわかる。
 また、原告は、本件イラスト制作の終盤になって初めてNALシステム構成図を渡されたものである。すなわち、原告が代表者を務めていた有限会社イルーシブ(以下「イルーシブ」という。)は、株式会社アエール(以下「アエール」という。)から、「宇宙もののイラスト」を制作するよう依頼を受けた。イルーシブの担当者は、原告の指示の下、工学博士である中冨信夫を訪れるなどして打ち合わせを重ね、全く資料がない中、原案(甲12の1)、修正案(甲12の2)を制作した。イルーシブの担当者は、この時点で、NALシステム構成図とおぼしきイラストを見せられたが、コピーは交付されなかったため、記憶を頼りに更なる修正案(甲12の3・4)を制作した。この時点で、NALシステム構成図が掲載されたパンフレットが送付されてきた。その後、イルーシブの担当者が入院したため、原告が作業を引き継ぎ、本件イラストの下図(甲12の5)を完成させたものである。なお、本件イラスト制作の過程において、原告が、NALの担当者と打ち合わせした事実はなく、当然、NALから具体的な指示を受けたこともない。
 以上のとおり、本件イラストは、NALシステム構成図と輪郭の大部分、消失点及びアイラインにおいて異なっているほか、本件イラストの完成に至る経緯からしても、NALシステム構成図に依拠し、これをトレースして制作されたものではない。イラストレーターとしての職業倫理上も、既存のイラストをトレースすることなどありえない。
ウ 仮に、本件イラストがNALシステム構成図に依拠しているとしても、次のとおり、本件イラストには、NALシステム構成図にはない特徴が認められる。 すなわち、本件イラストは、@コックピット部、船体中部において、照度が異なり、明るく、透明感を感じられるようになっている、Aコックピット背部の隔壁を透かし、コックピット全体が見えるようになっている、Bタイヤの向きを変えている、C船体中部の隔壁の支柱の本数が変更されている、D翼上の細かい設備を描画していない、E船体後方のタンク部の切り取り方が変更されている、F尾翼周辺の詳細を描画していない、G透かし技法を採用していない、Hタンクを押さえるためのボルトを描いた、I写り込み表現を使用した、などの特徴がある(甲13、21)。
 これらの特徴は、原告が、イラストレーターとして持つ裁量を活かして、イラストを明確に見せるように工夫したものなど、原告の個性が表現されたものというべきである。
エ そうすると、本件イラストは、NALシステム構成図とは別途独立した著作物であるし、仮に、NALシステム構成図に依拠したと認められたとしても、少なくとも、新たに創作性が付与された二次的著作物に当たるというべきである。
【被告らの主張】
ア NALは、平成2年頃、当時までのスペースプレーンの研究開発の成果を視覚的に具現化するために、NALシステム構成図を制作し、公表していたが、その後もスペースプレーンの研究開発を進め、新たなエンジンの発明や、これに伴う設計変更等を計画していた。
 NALは、平成11年頃、これらの研究成果や設計変更等を反映させた構成図及びこれを掲載したパンフレットを制作することとし、その制作作業を株式会社スタジオ・ジャンプ(以下「スタジオ・ジャンプ」という。)に依頼した。なお、スタジオ・ジャンプは、同構成図の制作をアエールに依頼し、アエールは更に、同制作をイルーシブに依頼したようである。
 新たな構成図(本件イラスト)は、NALシステム構成図をトレースしたものに基づき、その後の変更点が技術的に正確に反映されるよう、NALの研究者が、スタジオ・ジャンプの担当者と複数回打ち合わせを行い、具体的に指示した上で制作されたものである。
イ この点、原告は、原告がNALシステム構成図をトレースしたことはなく、また、NALシステム構成図を見せられたのは本件イラストの制作の終盤になってからであると主張するが、原告が初期段階で制作したと主張する原案(甲12の1)は、既にNALシステム構成図に相当程度類似しているほか、NALが部外者に公開したことのない空気吸い込み式/ロケット複合エンジンや、扁平な形状のタンクなどが記載されており、何らの指示や資料もなく上記原案を制作したとは考えられない。そもそもNALは、従前のパンフレットに掲載されたNALシステム構成図を修正して、新たなパンフレットを制作するために、本件イラストの制作を委託しているのであるから、終盤になってNALシステム構成図が掲載されたパンフレットを送付するということもありえない。
 そして、原告が制作したという下図(甲12の5)や本件イラストとNALシステム構成図とを重ね合わせてみると、機体の輪郭、「NIPPON」の表記、日の丸の位置、離着陸用のタイヤの輪郭、翼部分の骨組みの位置・本数、コックピットの座席の輪郭、先端部分の細かいパーツの輪郭など、ほぼ完全に一致しているのであるから(乙30、37、44)、本件イラストは、NALシステム構成図をトレースしたものが基礎となっていることが明らかである。
ウ 本件イラストとNALシステム構成図との相違点は次のとおりであるが、いずれもNALシステム構成図に原告が新たに創作的表現を付与したものではない。
(ア) まず、(@) NALシステム構成図で翼の下に描かれていたターボエンジンが削除されている点、(A) 胴体下に、空気吸い込み式/ロケット複合エンジンを追加している点、(B) 胴体中央に酸化剤を貯蔵するタンクを追加している点、(C) 胴体部分の円筒型のタンクの形状を、容積率の高い扁平な形状に変更している点の4点は、NALからの具体的指示に基づき修正されたものであり、原告が新たに創作性を付与したものではない。
 すなわち、(A)は、当時のNALの研究者の発明に係る変更点であり(乙13)、本件イラストの完成前には公表されていなかったものであるから(乙14、15)、NALからの具体的指示に基づいて修正されたことが明らかである。(@)及び(B)は、(A)に伴う修正点であるから、やはりNALによる指示があって修正されたものである。(C)についても、NALの技術者が検討していた内容であるが、外部に公表されたものではないから(乙36、38)、やはりNALによる指示に基づき修正されたものである。
(イ) 次に、原告が主張する@コックピット部、船体中部において、照度が異なり、明るく、透明感を感じられるようになっている、Aコックピット背部の隔壁を透かし、コックピット全体が見えるようになっている、Bタイヤの向きを変えている、C船体中部の隔壁の支柱の本数が変更されている、D翼上の細かい設備を描画していない、E船体後方のタンク部の切り取り方が変更されている、F尾翼周辺の詳細を描画していない、G透かし技法を採用していない、Hタンクを押さえるためのボルトを描いた、I写り込み表現を使用した、との特徴についても、次のとおり、原告が新たに創作性を付与したものではない。
 @及びAは、本件イラストの輝度が、NALシステム構成図のそれに比べて明るいという点に集約されるところ、そもそも本件イラストの原画が存在しないため、本件イラストの原画の輝度が明るいといえるかは不明であるが、イラストの明るさは印刷の仕方によっても異なりうるのであるし、色合いや光沢の表現の選択の幅が限られていることからすれば、新たな創作性が付与されたとはいえない。
 Bは、そのような変更があったとは認められない。
 Cの支柱の本数については、仮に原告の判断で行われたものであったとしても、本件イラストの印象に何ら差異をもたらすものではなく、新たな創作性が付与されたとはいえない。
 D及びFは、上記(@)ないし(C)の各変更に伴う修正であって、原告の判断で行われた表現ではない。
 Eの趣旨は判然としないが、タンクの形状の変更に伴い切り取り方が異なるという趣旨であれば、上記(B)に伴う修正点であり、少なくとも原告が新たな創作性を付与したものではない。
 Gの趣旨は判然としないが、透かし技法を採用しなかった結果描かれない部分があるという趣旨であれば、描かれなかった部分は、上記エンジンの変更により描く必要がなくなったことによるものであり、少なくとも原告が新たな創作性を付与したものではない。
 Hについて、原告がボルトと称する点状の部分はNALシステム構成図においても描かれているし、仮に相違があったとしても、全体の印象には全く影響を与えないから、新たな創作性が付与されたとはいえない。
 Iについて、金属の表面を描画する際に、光源等の反射を描くことはありふれた技法であって、新たに創作性が付与されたとはいえない。
エ 以上のとおり、本件イラストのうち、NALシステム構成図をトレースした部分に創作性が認められないことはもとより、NALシステム構成図との相違点についても、NALの研究者による具体的な指示に基づいて修正された箇所であることなどからして、イラストレーターによる個性が表れる余地は限られており、新たな創作性が付与されたということはできない。
 したがって、本件イラストは、NALシステム構成図の複製物にすぎず、NALシステム構成図と別途独立した著作物に当たらないばかりか、NALシステム構成図を原著作物とする二次的著作物にも当たらない。
(2) 争点2(原告は、本件イラストの著作権を原始的に取得した者であるか)について
【原告の主張】
 原告は、本件イラストを現実に制作した者であるから、本件イラストの著作者であり、本件イラストの著作権を原始的に取得した。
 この点、被告らは、本件イラストについて職務著作(著作権法15条1項)に該当する可能性が高いと主張するが、イルーシブには、イルーシブの名前で受けた仕事の成果物の著作権は、現実に同著作物を制作した者に帰属する旨の規定があった(甲14の1・2)。したがって、本件イラストの著作権は、イルーシブではなく、原告が原始的に取得している。
【被告らの主張】
 NALがスペースプレーンの構成図の制作を依頼したのはスタジオ・ジャンプであり、スタジオ・ジャンプはアエールに、アエールはイルーシブに、同構成図の制作を依頼したようであるが、原告が本件イラストの著作者であることは、いまだ立証されていない。
 仮に、原告が、本件イラストの作図に関与していたとしても、本件イラストの制作業務は、原告個人ではなくイルーシブが受託しており(甲1)、本件イラストは、イルーシブの発意に基づいてイルーシブの職務上制作されたと考えるのが自然であるから、職務著作(著作権法15条1項)に該当する可能性が高く、この意味においても、原告が本件イラストの著作権を取得したといえるか疑わしい。
(3) 争点3(原告とNALは、原告が本件イラストの著作権をNALに譲渡し、NALに対して著作者人格権を行使しない旨の合意をしたか)について
【被告らの主張】
ア 仮に、本件イラストに何らかの創作性が認められ、かつ、原告が本件イラストの著作権を原始的に取得したとしても、次の理由により、原告とNALとの間には、本件イラストの著作権をNALに譲渡し、著作者人格権を行使しない旨の合意があったというべきである。
イ 平成11年当時、国の委託により制作された成果物から派生する著作権は、委託者である国に帰属させるとの法的解釈又は慣習が存在していた。
 すなわち、国有財産法2条1項本文は、「国有財産とは、国の負担において国有となった財産・・・であって、次に掲げるものをいう」と規定し、同項5号に「特許権、著作権、商標権、実用新案権その他これに準ずる権利」と規定しているところ、同条項は、国の費用により第三者に制作を委託した著作物の著作権は、国に帰属するとの解釈の根拠となり得る。このことは、例えば、コンテンツの創造、保護及び活動の促進に関する法律(平成16年法律第81号)25条1項が、「国は、コンテンツの制作を他の者に委託し又は請け負わせるに際して・・・当該コンテンツに係る知的財産権について、・・・その知的財産権を受託者又は請負者・・・から譲り受けないことができる。」と規定していることからもうかがわれる。
 本件イラストが制作された平成11年当時、NALは国の機関であり、国の負担において本件イラストの制作を委託したものであるから、仮に、本件イラストにつき著作権が発生していたとしても、同著作権はNALに譲渡されたというべきである。
ウ 本件イラストの委託が行われた当時の当事者間の合理的意思からしても、本件イラストの著作権はNALに譲渡し、また、本件イラストに係る著作者人格権を行使しない旨の合意があったと認められるべきである。
 すなわち、本件イラストのような技術的図面の制作を委託する場合、その後の利用関係に支障がないよう、著作権を含む全ての権利が国に帰属するよう取り扱うことが、NAL及び受託業者等の関係者の共通認識であった。NALから本件イラストの制作を受託したスタジオ・ジャンプも、当然このことを認識していたのであるから、スタジオ・ジャンプは、再委託先との間でも、本件イラストの著作権は国に帰属し、また、著作者人格権を行使しない旨の合意をしていたと考えるのが自然である。
【原告の主張】
ア 国有財産法2条1項は、国有財産法が適用される国有財産の範囲を規定するにすぎず、同条項から直ちに、国の委託により制作された成果物から派生する著作権が国に帰属することになるとの解釈は導き得ない。
 また、国の委託により制作された成果物から派生する著作権が国に帰属するとの一般的慣習が存していたとは認め難い。少なくとも、原告が所属しているイラストレーターの業界では、制作し、納品したイラストについては、目的に応じた利用を許諾するにとどめるのが通常であって、当然に著作権を移転させ、著作者人格権を行使しない旨を約するなどの商慣習は存在しない。
イ 関係当事者間の合理的意思が、本件イラストの著作権をNALに譲渡し、また、本件イラストに係る著作者人格権を行使しない旨のものであったということはない。少なくとも原告は、国の委託に係る成果物の知的財産権を当然に国に譲渡するとの取扱いは知らなかったし、そのような取扱いがあると知っていたのであれば、本件イラストの制作を受けることはなかった。
(4) 争点4(著作権〔複製権、譲渡権、翻案権、公衆送信権〕侵害は成立するか)について
【原告の主張】
ア 原告は、NALに対し、本件イラストを本件パンフレットに利用することは許諾したが、本件パンフレット以外に利用することについては許諾していない(アエール宛ての請求書〔甲1〕には、「スペースプレーンイラストパンフレット用」と記載されているにとどまる。)。したがって、NAL又はその権利及び義務を承継した被告JAXAが、本件イラストを本件パンフレット以外に利用することは、原告の著作権を侵害するものである。
イ(ア) NALは、遅くとも平成15年10月30日までに、本件イラストをサイズ変更の上印刷して本件パネルを制作し、これにより原告の複製権又は翻案権(サイズを変更することは、翻案に当たる。)を侵害した。
(イ) NALは、遅くとも平成13年12月1日頃、本件イラストをウェブサイトに掲載し、これにより原告の公衆送信権を侵害した。
(ウ) NALが、被告小学館に本件イラストの複製物を交付し、被告小学館が、同複製物を用いて、平成13年12月1日、本件イラストを掲載した被告書籍1を出版し、また、平成17年7月20日、本件イラストを掲載した被告書籍2を出版したことにより、NAL及び被告小学館は、共同して原告の著作権(複製権、翻案権、譲渡権)を侵害した。
【被告らの主張】
 NALが、本件パネルを制作し、平成13年4月頃から平成25年4月頃にかけて、本件パネルを展示室に展示していたこと、被告小学館が被告各書籍を出版したことは認め、これらの行為が原告の著作権を侵害するとの点は争う。
 NALが本件イラストをウェブサイトに掲載した事実は否認する。
(5) 著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)侵害は成立するか(争点5)
【原告の主張】
ア NALは、遅くとも平成15年10月30日までに、本件イラストをサイズ変更の上印刷して本件パネルを制作し(サイズを変更することは、原告の意に沿わない改変である。)、原告の氏名を表示しないままこれを展示して、原告の著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害した。
イ NALが、原告の氏名を表示しないまま本件イラストをウェブサイトに掲載して無料貸出を行う旨記載し、貸出申し込みを行った被告小学館に対して本件イラストの複製物を交付し、被告小学館が同複製物を用いて、原告の氏名を表示しないまま本件イラストを掲載した被告書籍1を出版したことにより、NAL及び被告小学館は、共同して原告の著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害した。
【被告らの主張】
 原告の主張によっても、原告は、NALが本件イラストを本件パンフレットに掲載することは了承しているところ、本件パンフレットには原告の氏名は表示されていない。したがって、本件イラストを利用する者は、著作権法19条2項により、著作者名を付すことなく利用することができるから、氏名表示権の侵害は成立しない。
 また、NAL及び被告らは、本件イラストを利用するに際して、本件イラストを改変していないから、同一性保持権の侵害も成立しない。
(6) 差止め、廃棄、名誉回復措置の必要性があるか(争点6)
【原告の主張】
ア 被告JAXAは、ウェブサイトに本件イラストを掲載し、無料貸出を行う旨記載している上、本件イラストの著作権が原告に帰属していることを争っているから、被告JAXAによる本件イラストの利用を差し止めた上、本件パネル及び本件イラストが掲載又は記録された媒体を廃棄させる必要がある。
イ 被告小学館は、本件イラストを掲載した被告各書籍を出版しているところ、被告各書籍の廃棄には応じない意思を明確にしているから、被告小学館による本件イラストの利用を差し止めた上、被告各書籍及び本件イラストが掲載又は記録された媒体を廃棄させる必要がある。
ウ 原告が本件イラストの著作権者であることを確保し、原告の名誉若しくは声望を回復するためには、被告らにより謝罪広告が掲載される必要がある。
【被告らの主張】
 否認し、争う。
(7) 被告らの過失及び原告の損害(争点7)
【原告の主張】
ア 被告らの過失について
 NALは、本件イラストの制作を外部に依頼したのであるから、本件イラストを本件パンフレット以外の用途に利用するに際し、著作権の帰属について慎重に確認すべき注意義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り原告の著作権及び著作者人格権を侵害したものであって、過失が認められる。
 被告小学館は、出版社として、図書の制作に際して出版物が他者の著作権を侵害していないか確認すべき注意義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り原告の著作権及び著作者人格権を侵害したものであって、過失が認められる。
イ 原告の損害について
(ア) 著作権(複製権、翻案権、譲渡権、公衆送信権)侵害による損害
 原告が著作権(複製権、翻案権、譲渡権、公衆送信権)を侵害されたことにより受けた損害は、著作権法114条3項により、侵害行為1回につき29万9775円である(本件イラストを本件パンフレットに掲載する際の報酬額)。
 NALが、平成15年10月30日までに本件パネルを制作し、原告の著作権(複製権、翻案権)を侵害したことによる原告の損害は、29万9775円であり、NALの権利及び義務を承継した被告JAXAは、同日から遅滞の責めを負う。
 NALが、平成13年12月1日までに本件イラストをウェブサイトに掲載して原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことによる原告の損害は、29万9775円であり、NALの権利及び義務を承継した被告JAXAは、同日から遅滞の責めを負う。
 被告小学館が、平成13年12月1日に被告書籍1を出版し、NALと共同して原告の著作権(複製権、翻案権、譲渡権)を侵害したことによる原告の損害は、29万9775円であり、被告小学館及びNALの権利及び義務を承継した被告JAXAは、連帯して、同日から遅滞の責めを負う。
 被告小学館が、平成17年7月20日に被告書籍2を出版し、NALと共同して原告の著作権(複製権、翻案権、譲渡権)を侵害したことによる原告の損害は、29万9775円であり、被告小学館並びにNALの権利及び義務を承継した被告JAXAは、連帯して、同日から遅滞の責めを負う。
(イ) 著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)侵害による損害
 NALが、平成15年10月30日までに本件パネルを制作し、原告の著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害したことによる原告の損害(慰謝料)は100万円を下らず、NALの権利及び義務を承継した被告JAXAは、同日から遅滞の責めを負う。
 被告小学館が、平成13年12月1日に被告書籍1を出版し、NALと共同して原告の著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害したことによる原告の損害(慰謝料)は200万円を下らず、被告小学館並びにNALの権利及び義務を承継した被告JAXAは、連帯して、同日から遅滞の責めを負う。
(ウ) 弁護士費用
 被告らによる共同不法行為と相当因果関係が認められる弁護士費用としては41万9910円が相当であり、被告らは、連帯して、被告小学館が被告書籍1を出版した平成13年12月1日から遅滞の責めを負う。
【被告らの主張】
 被告らに過失があったとの点は否認し、争う。
 原告の損害についても否認し、争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件イラストは、創作性を有する著作物であるか)について
(1) 著作権法による保護の対象となる著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることを要する(著作権法2条1項1号)。ここで「創作的に表現した」というためには、当該成果物が、厳密な意味で独創性が発揮されていることは必要でなく、作成者の個性が表れたものであれば足りるというべきであるが、既存の著作物に依拠し、これと同一のものを作成し、又は、具体的表現に修正、増減、変更等を加えても、新たに思想又は感情を創作的に表現することなく、既存の著作物と実質的に同一のものを作成したにすぎないものは、既存の著作物の複製物であって、作成者の個性が発揮されたものとはいえないから、創作的な表現とは認められない。
(2) 本件イラストについて、原告は、NALシステム構成図とは別途独立した著作物であると主張するのに対し、被告らは、NALシステム構成図をトレースしたものに新たな創作性を付与しない程度の修正を施したものであり、NALシステム構成図の複製物にすぎないから、創作性のある著作物ではないと主張する。
 そこで検討するに、本件イラストとNALシステム構成とを対比すると、次のとおり、共通点と相違点がそれぞれ認められる。
ア 共通点
 本件イラストとNALシステム構成図を対比するため、本件イラストを線画にしたもの(甲8の1)と、NALシステム構成図とを、縮尺を揃えて重ね合わせると、甲8号証の4のとおりとなる(参照のため、甲8号証の4の写しを本判決の別紙として添付する。)。これによれば、本件イラストとNALシステム構成図とは、機体全体の輪郭(本体部分、両翼部分、尾翼の形状及び位置関係)及び骨格においてほぼ一致するほか、ドッキングポート、コックピット及び乗務員室(その内装部分を含む。)、燃料タンク、軌道制御エンジン、車輪並びに両翼及び尾翼に描かれた日の丸及び「NIPPON」との文字の各位置がほとんど一致している。
 また、スペースプレーンの基本的な配色として、両者とも機体部分は白を基調とし、尾翼の前部が赤く着色されているほか、機体側部に後方から前方に向かうにつれ徐々に細くなっていく赤色の線が配されている点、燃料用タンク及びコックピット部が青く着色されている点などにおいてほぼ一致している。さらに、機体本体及び右翼の一部が透かしとなっており、コックピット内部、燃料タンク、エンジンが見えるようになっているほか、燃料タンクの一部にさらに透かしが入り、その内部が見えるようになっている点においても共通している。
イ 相違点
 他方、相違点として、本件イラストでは、(@) NALシステム構成図で翼の下に描かれていたターボエンジンが削除されていること、(A) 胴体下に、空気吸い込み式/ロケット複合エンジンが追加されていること、(B) 胴体中央に酸化剤を貯蔵するタンクが追加されていること、(C) 胴体部分の円筒型のタンクの形状が扁平状に変更されていることにおいて、NALシステム構成図と異なっている(以下、番号に応じて「相違点@」などという。)。
 また、証拠(甲13、21、乙10、16)によれば、本件イラストでは、@全体に明るく描かれていること、Aコックピットの背面部分など外壁が薄く描かれていること、Bコックピット後部のタイヤの向きがわずかに異なっていること、Cドッキングポートの隔壁の支柱の本数が多いこと、D右翼周辺の設備が描されていないこと、E機体後部のスクラム/レース推進システムが描かれていないこと、Fタンク部に複数のボルトが描かれていること、G機体後部において写り込み表現が用いられていることにおいて、NALシステム構成図と異なっている(以下、番号に応じて「相違点@」などという。)。
(3) 以上に基づき、本件イラストが創作性を有する著作物であるか検討する。
 上記(2)アのとおり、本件イラストとNALシステム構成図とは、スペースプレーンの輪郭・骨格や主要な部分の位置関係、配色や見せ方などの諸点において同一又は酷似しているところ、原告も、本件イラスト制作の終盤でとの留保を付けながらも、NALシステム構成図が掲載されたパンフレットを受領したことを認めており、NALシステム構成図に依拠することなくかかる一致が生ずるとはおよそ考え難いことからすれば、本件イラストは、トレースの方法によったかについては措くとしても、NALシステム構成図に依拠して制作されたことが明らかというべきである。
 したがって、本件イラストのうち、NALシステム構成図と共通する上記部分に創作性は認められない。
(4) もっとも、既存の著作物に依拠した成果物であっても、新たに創作性のある表現が付与されたといえる場合には、二次的著作物として著作権法による保護を受ける可能性がある(著作権法2条1項11号、11条参照)。
 そこで、上記(2)イに認定した相違点をもって、新たに創作性のある表現が付与されたといえるかについて検討する。
ア 相違点@ないし同C及び相違点Dについて
 相違点Aは、スペースプレーン後部胴体下に、空気吸い込み式/ロケット複合エンジンを追加したものである。証拠(乙13ないし15、17)によれば、同エンジンは、NALの研究員が、平成10年頃発明し、平成11年頃、研究論文により公表したものと認められるところ、かかる技術的事項が、イラストレーターに何らの情報が提供されることなく構成図に反映されるとは考え難いから、エンジンの変更については、NALから具体的指示があったものと合理的に推認でき、これを覆すに足りる証拠はない。そして、証拠(乙13、36)によれば、空気吸い込み式/ロケット複合エンジンを採用することにより、従来離着陸用に別途設置されていたターボエンジン及び小型燃料タンクが不要になる一方、燃料タンクの10分の1程度の酸化剤貯蔵タンクを要することとなったというのであるから、システム構成図に空気吸い込み式/ロケット複合エンジンを追加するのに際し、従来設置されていたターボエンジン及び小型燃料タンクを削除すること(相違点@、同D)並びに酸化剤貯蔵タンクを追加すること(相違点B)は、空気吸い込み式/ロケット複合エンジンの追加に伴って当然に発生する変更であるから、この点もNALからの具体的指示に従った修正であったと認めるのが相当である。
 また、追加された酸化剤貯蔵タンクの形状を球状とすること(相違点B)及び円筒型のタンクの形状を扁平状にすること(相違点C)についても、タンクに貯蔵される燃料や酸化剤の容量や機体全体の構造とも関わる典型的な技術的事項と考えられるところ、これらの点についても、イラストレーターに何らの情報も提供されないまま構成図が変更・修正されるとは考え難く、やはりNALからの具体的指示に従って修正されたものと認めるのが相当である。
 したがって、相違点@ないし同C及び同Dについては、NALの具体的指示に従ってNALシステム構成図から修正が加えられたものと認められるところ、かかる指示に従って描画が行われる場合には、必然的に表現の選択の幅は狭くならざるを得ないから、これらの相違点は、イラストレーターとしての個性が発揮された創作的表現が付与されたものとは認め難い。
イ 相違点Eについて
 相違点Eは、NALシステム構成図には描かれていた機体後部のスクラム/レース推進システムが、本件イラストには描かれていないというものである。この点も、技術的事項であって、NALからの具体的指示により省略されるに至った可能性も否定できないが、この点を措くとしても、単に機体後部のシステムを一部描かなかったことにより、新たな創作的表現が付与されたものとは認め難い。
ウ 相違点A、同B、同C、同F及び同Gについて
 相違点A、同B、同C、同F及び同Gについては、NALシステム構成図と本件イラストとの相違点として認定することはできるものの、本件イラスト全体との関係からみてもごく僅かな修正・変更であって、これらの点をもって創作的表現が付与されたものとは認め難い。
エ 相違点@について
 相違点@は、特にコックピット付近や燃料タンクの色合いにおいて、NALシステム構成図がやや暗い青色を基調としているのに対し、本件イラストでは、やや明るい紫色を基調としており、全体としてもやや明るい印象があるというものであるが、前記イ(ア)において認定したとおり、スペースプレーンの基本的な配色としては、両者とも機体部分は白を基調とし、尾翼の前部が赤く着色されているほか、機体側部に後方から前方に連れて細くなっていく赤色の線が配されている点、燃料用タンク及びコックピット部が青く着色されている点などにおいて一致しており、本件イラストが、NALシステム構成図と比較して若干明るく見えるとしても、これらの基本的配色が異なるものではなく、NALシステム構成図と本件イラストとの実質的同一性が失われるまでの相違点とは認め難い。
オ 小括
 以上のとおり、本件イラストとNALシステム構成図との相違点は、いずれも、NALシステム構成図に新たな創作的な表現を付与するものとは認められない。
(5) 以上によれば、本件イラストは、既存の著作物であるNALシステム構成図に依拠し、その具体的表現に若干の修正、増減、変更等が加えられているものの、これにより新たに思想又は感情が創作的に表現されたものではなく、既存の著作物であるNALシステム構成図と実質的に同一のものというべきであるから、NALシステム構成図の複製物であると認められ、NALシステム構成図から別途独立した著作物であるとも、NALシステム構成図を原著作物とする二次的著作物であるとも認められない。
2 結論
 以上によれば、本件イラストが創作性を有する著作物であることを前提とする本件請求は、その余の争点につき判断するまでもなくいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 嶋末和秀
 裁判官 笹本哲朗
 裁判官 天野研司

(別紙)書籍目録
書籍名  21世紀こども百科宇宙館
  発行者  B
  発行所  株式会社小学館
  発行年月日  平成13年12月1日
書籍名  21世紀こども百科宇宙館 増補版
  発行者  B
  発行所  株式会社小学館
  発行年月日  平成17年7月20日
  以上  

(別紙)広告の要領
読売新聞全国版朝刊(読売新聞社発行)
(1) 掲載スペース:社会面 2段×5.3cm
(2) 使用活字:見出し及び末尾被告の名称は12ポイント(ゴシック)、その他は10ポイント
 以上

(別紙)広告の内容
 当機構らは、A氏が著作したイラストについて、平成13年から現在に至るまで継続して、当機構は原告に無断で複製・改変したうえイベント用展示パネルに掲載し、また当機構は原告に無断でウェブサイトに掲載したうえ、株式会社小学館に貸与し、株式会社小学館をして複製して教育図書(21世紀こども百科宇宙館)に掲載させ、もって、A氏が保有する複製権、翻案権、譲渡権、氏名表示権等を侵害し、A氏には多大なるご迷惑をお掛けしましたことを、ここに深く陳謝致します。
 平成 年 月 日
 当機構ら
 本店所在地
 機構名 独立行政法人宇宙航空研究開発機構
 本店所在地
 社名 株式会社小学館
 A殿
 以上

別紙 イラスト目録 <画像省略>
別紙 NALシステム構成図 <画像省略>
別紙 甲8号証の4 <画像省略>
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日本ユニ著作権センター
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