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【事件名】ヘアスタイルの写真無断転載事件 【年月日】平成27年12月9日 東京地裁 平成27年(ワ)第14747号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 平成27年11月6日) 判決 原告 株式会社オールビユーテイ社 同訴訟代理人弁護士 山本隆司 同 植田貴之 同 佐竹希 被告 株式会社コワフュール・ド・パリ・ジャポン 同訴訟代理人弁護士 大熊裕司 同 島川知子 主文 1 被告は、原告に対し、21万6000円及びこれに対する平成26年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 1 主文第1項、第2項同旨 2 仮執行宣言 第2 事案の概要 本件は、別紙原告写真目録記載1ないし12の各写真(以下、それぞれ「原告写真1」ないし「原告写真12」といい、併せて「原告各写真」という。)につき、これらを撮影したカメラマンから譲渡を受けて著作権を有するとする原告が、被告の出版する雑誌「SNIP STYLE No.348」(以下「被告雑誌」という。甲7)にこれを複製して掲載した行為は著作権(複製権)侵害に当たると主張し、写真掲載許諾料相当額18万円(1万5000円×12枚)及び弁護士費用3万6000円の合計21万6000円が原告の損害であるとして、著作権法114条3項、民法709条に基づき、同額及びこれに対する平成26年10月1日(被告雑誌の出版の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提となる事実(証拠等の摘記のない事実は、当事者間に争いがない。) (1) 当事者 原告と被告は、いずれも美容専門雑誌の出版を主な事業とする会社であり、美容専門誌の業界団体であるJapan Hairdressing Awards Association(以下「JHA」という。)に共催会社として参加している。 (2) 原告各写真の撮影 平成25年8月5日、訴外A(以下「A」という。)は、原告写真1の撮影をした。〔甲1〕 訴外B(以下「B」という。)は、平成25年12月26日ないし平成26年1月7日に、原告写真2ないし8の撮影をした。〔甲2〕 訴外C(「C」という。)は、平成26年4月30日までに、原告写真9ないし12の撮影をした。〔甲3〕 (3) 原告各写真を掲載した雑誌の出版 原告は、平成25年9月30日に、原告写真1を掲載した「TOKYO FASHION EDGE NO.75」(以下「原告雑誌1」という。)を、平成26年1月31日に、原告写真2ないし8を掲載した「TOKYO FASHION EDGE NO.01」(以下「原告雑誌2」という。)を、平成26年5月31日に、原告写真9ないし12を掲載した「TOKYO FASHION EDGE NO.03」(以下「原告雑誌3」といい、原告雑誌1、2と併せ、以下「原告各雑誌」という。)を、それぞれ出版した。〔甲4ないし6〕 (4) 被告雑誌の出版 平成26年10月1日に、被告は、別紙被告写真目録記載の被告写真(以下、それぞれ「被告写真1」ないし「被告写真12」といい、併せて「被告各写真」という。)を、被告雑誌の45ないし55頁にわたり掲載された記事「Japan Hairdressing Awards 速報!最終ノミネート作品全掲載」に掲載し、同雑誌を出版した。 なお、同雑誌に掲載された原告各写真には、いずれも写真の下に「(C)TOKYO FASHION EDGE」と表示されている。〔甲7〕 (5) 被告による原告各写真の複製 原告各写真と被告各写真とを対比すると、別紙対比表のとおりである。 被告各写真は、原告各写真を有形的に再製したものである。 (6) 被告雑誌出版後の経緯 平成26年10月16日付けで、原告は、代理人であるI弁護士を通じ、被告雑誌に原告各写真が無断で掲載され、クレジットに「(C)TOKYO FASHION EDGE」と挿入されていて原告が被告雑誌への掲載を了解している印象を与えること等から、その販売の差止め等を求める通知書を差し出した。〔甲10〕 これに対し、被告は、被告代理人弁護士を通じ、同年11月14日、被告雑誌は、同年10月22日をもって発送停止としたこと等を書面で通知した。〔甲11〕 また、被告は、同年12月2日付けで、被告代理人弁護士を通じ、原告の代理人であったI弁護士に対し、被告雑誌の「Japan Hairdressing Awards 速報!最終ノミネート作品全掲載」において、原告各写真を原告の事前の了解なく掲載し、原告及び作品制作に関わった関係者に迷惑を掛けたことを詫びる旨、及び、被告の発行する「SNIP STYLE」の2015年1月号において「弊誌11月号にJHAノミネート全作品を掲載致しました。本来JHA共催出版社全社に対して掲載許可をお願いするべきところ、その確認がなされないまま無断掲載する事態に至りました。ここにJHA共催出版社各位と作品制作に関わった皆様、ならびに読者の皆様に深くお詫び申し上げます。今後このようなことのないよう、尚一層の注意を払い編集業務を行なってまいります。」とするお詫びを掲載した旨を、それぞれ伝える回答書をファックスした。〔甲8〕 2 争点 (1) 原告は原告各写真の著作権者か (2) 被告の故意ないし過失の有無 (3) 原告の損害額 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)(原告は原告各写真の著作権者か)につき 〔原告の主張〕 (1) Aは、平成25年8月5日、原告写真1を撮影して創作し、同日、原告に全ての著作権を譲渡した(甲1)。 Bは、平成25年12月26日ないし平成26年1月7日にかけて、原告写真2ないし8を撮影して創作し、平成26年1月7日、原告に全ての著作権を譲渡した(甲2)。 Cは、平成26年4月頃、原告写真9ないし12を撮影して創作し、平成26年4月30日、原告に全ての著作権を譲渡した(甲3)。 原告は、原告各写真を創作したカメラマンであり著作者であるA、B及びCから、それぞれ原告各写真の著作権の譲渡を受けたものであり、原告各写真の著作権を有する。 (2) 被告の主張に対し ア 被告は、原告各写真の著作者は各ヘアドレッサー(美容師)である旨主張する。 しかし、原告各写真は、所定のヘアスタイル、化粧、衣装を施して所定のポーズを取っているモデルの影像を含むものであり、ヘアスタイルは被写体の一部にすぎず、所定のヘアスタイル、化粧、衣装を施して所定のポーズを取っているモデルという被写体を写真の中に選択・組合せ・配置することを行ったのはカメラマンである。 したがって、原告各写真の著作者はカメラマンであって、ヘアドレッサーではない。 イ なお、被告は、カメラマンが創作行為を行なっていたとしても、各ヘアドレッサーも同様に創作的表現を行なっているのであり、原告各写真は、ヘアドレッサーとカメラマンとの共同著作物となる旨主張する。 しかし、共同著作物が成立するためには、共同創作の事実と共同創作の意思が必要であり、共同創作の事実としては原告各写真の表現行為に対する寄与が必要であるところ、ヘアドレッサーは被写体を写真の中に選択・組合せ・配置することに関与しておらず、原告各写真の表現行為を構成する要素のいずれも行っていない。また、原告各写真は、全て原告のイニシアティブで作成されており、ヘアドレッサーとカメラマンとの間には意思疎通さえ存在しない。 したがって、原告各写真について、ヘアドレッサーとカメラマンとが共同著作者となることはない。 ウ 被告は、作品の撮影経費は1回当たり平均50万円を超えている(乙5)とし、こうした経費のほとんどはヘアドレッサーが負担しているから、主要な創作行為を行なったのはヘアドレッサーであり、著作権はヘアドレッサーに帰属する旨主張する。 1作品の撮影に経費が平均50万円前後かかるのは事実であるが、原告各写真については、原告が、カメラマンの他、スタジオ、モデル、スタイリスト、メイクその他を自ら手配し、それらにかかる経費も全て自ら支払っている(甲12ないし14)ものであり、被告の主張は前提を欠くものである。 なお、被告は、原告は後日ヘアドレッサーに対して撮影代を請求(乙17ないし19)しているのであるから、結局カメラマンの撮影経費は各ヘアドレッサーが負担しているものにほかならず、この点の経費負担も考慮すれば、原告各写真の著作者はヘアドレッサーであるとも主張する。 なるほど、原告は、撮影経費の支払い後、各ヘアドレッサーに対して、以下のとおり、その一部の負担を求めている。 原告雑誌1のうち、原告写真1を含む5点の写真撮影に、原告は、カメラマン代3万6000円(甲12の1)、モデル代10万3950円(甲12の2)、メイクアップ代2万1000円(甲12の3)、スタイリスト代3万6000円(甲12の4)、その他雑費8436円の計20万5386円を支出しているが、原告がこの写真5点分についてヘアドレッサーであるDに請求した金額は、その約6割に当たる13万円にすぎない(甲16の1)。同様に、原告雑誌2、3についてもヘアドレッサーに対して請求を行っている。しかし、原告がヘアドレッサーに対して請求した金額は、原告が負担した撮影経費全額ではなく、原告雑誌1とほぼ同様に、その約5割ないし8割の金額にとどまり(甲13の1ないし9、甲14の1ないし4、甲16の2ないし9)、被告の主張は前提を欠く。 加えて、前記アのとおり、そもそも原告各写真について創作活動を行なったのはカメラマンであって、著作者はカメラマン以外にはあり得ないところ、ヘアドレッサー(E)自身も、自らが著作権者ではなく、原告が著作権者であることを認めた上で、写真の二次利用のための許諾を求めている事実もある(甲15)。 したがって、いずれにしろ被告の上記主張には理由がないというべきである。 エ ヘアドレッサーの原告各雑誌における氏名表示の態様は、原告各写真の著作者が誰であるかとは関連しない。 したがって、被告の上記主張には理由がない。 〔被告の主張〕 (1) 原告各写真についての原告による著作権譲受けの事実については不知。 (2) 原告写真の著作者は、ヘアドレッサーである。仮にヘアドレッサーが単独の著作者となりえないとしても、少なくとも共同著作者の一人である。 原告各写真のヘアドレッサーは、D、F、G、H、Eであり、同人らがスタイリングを行った(甲7)。原告各写真のヘアスタイル(髪型)は、各ヘアドレッサーが、美容専門誌に発表するため、自らスタイリングしたものであり、各ヘアドレッサーの個性が創作的に表現されている。ヘアドレッサーがスタイリングした髪型は時間が経過するごとに崩れてしまうため、ヘアドレッサーが自分の作品として記録に残すために、スタイリングと同時にカメラ等で撮影しておく必要がある。したがって、カメラマンは、ヘアドレッサーの創作した作品を記録するという補助的な業務を行っているにすぎない。 以上のことから、原告各写真について、事実行為としての著作物を創作したのは、各ヘアドレッサーである。 (3) ヘアドレッサーが自分の作品を美容専門誌に発表するためには、カメラマン、スタイリスト、メイク、モデル、フラワーアーティスト、スタジオ代等の多額の経費がかかり、1回あたり平均50万円を超えている(乙5)。こうした経費のほとんどはヘアドレッサーが負担しているが、ヘアドレッサーがこれだけ多額の経費を負担してまで美容専門誌に自分の作品を発表しようとするのは自己のブランディングのためであり、美容専門誌に掲載されることで、スタッフのモチベーションが上がり、採用の際に有利に働くことがあるからである。 仮に原告各写真の製作にあたり、カメラマンも創作的表現に関与していたとしても、原告各写真の中で創作的表現がもっとも顕著に現れているのはモデルのヘアスタイルであり、それを実際に創作的に表現したのは各ヘアドレッサーである。よって、カメラマンが創作行為を行っていたとしても、各ヘアドレッサーも同様に創作的表現を行っているのであり、その場合、原告各写真は、ヘアドレッサーとカメラマンとの共同著作物となるにすぎず、カメラマンが単独で著作権を有するわけではない。 (4) 原告は、後日ヘアドレッサーに対して撮影代を請求(乙17ないし19)しているのであるから、結局カメラマンの撮影経費は各ヘアドレッサーが負担しているものにほかならず、この点の経費負担も考慮すれば原告各写真の著作者はヘアドレッサーである。 (5) また、原告各雑誌におけるヘアドレッサーの氏名表示の態様(複数の者の氏名が表示される場合は、冒頭の目立つ場所に表示されていること、目次にはヘアドレッサーの氏名のみが表示されていること、ヘアドレッサーが投稿者として写真付きで紹介されていること等)とカメラマンの氏名表示の態様(ヘアドレッサーの氏名の下に氏名が表示されているにすぎない。)、原告各雑誌からは、原告各写真の著作権がカメラマンに帰属していると伺われるような表示は何ら認められないこと等を考え併せると、原告各写真の著作権は各ヘアドレッサーに帰属していると考えるのが相当である。 2 争点(2)(被告の故意ないし過失の有無)につき 〔原告の主張〕 被告は、写真利用にあたり原告に事前了解を得なければならないとの認識を有しており(甲8)、原告が著作権を有していたことについても当然認識していた。 したがって、被告には、著作権侵害について故意ないし過失がある。 〔被告の主張〕 被告代表者は、JHAの事務局を通して掲載許諾が得られたと思い、被告雑誌にノミネート作品である被告各写真を掲載したものであり、複製権侵害についての故意ないし過失はなかった。 3 争点(3)(原告の損害額)につき 〔原告の主張〕 (1) 著作権法114条3項に基づく損害 原告には、著作権法114条3項に基づき18万円の損害が発生する。 すなわち、原告写真1ないし12のような髪型や服装に特徴のあるモデルを撮影した写真を、被告雑誌に被告各写真を掲載したのと全く同じ条件・状況(雑誌中面において縦4cm×横3cm程度の大きさで使用)で許諾する場合、許諾料の相場は写真1枚あたり1万5000円である(甲9)。 よって、被告が12枚の原告各写真を複製するために、原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は18万円(=1万5000円×12)である。 (2) 弁護士費用 原告は、本訴を提起するにあたり弁護士に依頼せざるを得なかった。弁護士費用のうち、被告の行為と相当因果関係のある費用は、(1)の損害金の20%相当額である3万6000円である。 (3) 合計 (1)、(2)の損害額の合計は21万6000円である。 〔被告の主張〕 否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)(原告は原告各写真の著作権者か)について (1) 被告は、原告各写真の著作者はヘアドレッサーである旨主張するので、以下検討する。 「写真の著作物」は、著作権法10条1項8号に列挙された著作物であるところ、同法は、写真の著作物につき特別の定義規定を置いていないが、「写真の著作物」には写真の製作方法に類似した方法を用いて表現される著作物を含むものとし(同法2条4項)、その著作者は発行されていない写真の著作物を原作品により公に展示する権利を専有することとし(同法25条)、公表や展示の同意に関する特別の規定(同法4条4項、18条2項2号、45条1項)を設けるなど、写真の著作物に特有の、特に美術の著作物に類する規定を置いている。その一方で、写真の著作物の創作性を表現する方法である「写真」については、有形的再生である複製の方法として規定している(同法2条1項15号)ことからも明らかなとおり、写真それ自体が被写体に何らの創作性を加えない場合もあり得ることを同法は予定しているものである。 写真は、被写体の選択・組合せ・配置、構図・カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉、被写体と光線との関係(順光、逆光、斜光等)、陰影の付け方、色彩の配合、部分の強調・省略、背景等の諸要素を総合してなる一つの表現である。こうした写真の表現方法のうち、レンズの選択、露光の調節、シャッタースピードや被写界深度の設定、照明等の撮影技法を駆使した成果として得られることもあれば、オートフォーカスカメラやデジタルカメラの機械的作用を利用した結果として得られることもある。また、このうちの構図やシャッターチャンスのように人為的操作により決定されることの多い要素についても、偶然にシャッターチャンスを捉えた場合のように、撮影者の意図を離れて偶然の結果に左右されることもある。その写真について、どのような撮影技法を用いて得られたものであるのかを写真自体から知ることは困難な場合もあり、写真から知り得るのは結果として得られた表現の内容ではあるものの、静物や風景を撮影した写真であっても、その構図、光線、背景等、上記諸要素の設定や取捨選択等に何らかの個性が表れることが多く、結果として得られた写真の表現にこうした独自性が表れているのであれば、そこに写真の著作物の創作性を肯定することができるというべきである。 これを本件についてみると、原告各写真はいずれも別紙原告写真目録記載のとおりであるところ、子細には、女性モデルの顔が画面中心からやや右寄りに配され、やや開いた口元の両手の指先を少し広げ、女性モデルが首を傾けて正面を見ているもの(原告写真1)、縄で吊した木と、これにもたれてポーズをとる女性モデルがモノトーンの背景の左寄りに写し出され、それらの影が床の右方向に投影し、女性モデルは向かって左を向いて、腰掛けているように見えるもの(原告写真2)、一部を縄で吊した木と、これにもたれてポーズをとる女性モデルがモノトーンの背景に写し出され、左から照明をあてた影が床に投影し、女性モデルは正面を向き、片足を曲げているもの(原告写真3)、髪の一部を原色に染めた女性モデルの口に花が配され、原告写真4には原告写真6のモデルの、原告写真6には原告写真4のモデルの、それぞれのシルエットが、実際のモデルと対称の位置に配され、背景は赤になっているもの(原告写真4、6)、女性モデルが灰色の背景の中央に配され、複数の花と緑色の茎を配し、女性の体の一部にも緑の帯が写し出されているもの(原告写真5)、女性モデルの横顔に葉の繊維様のものを配してアップで撮影し、女性モデルは向かって左に薄目を開けて向き、口をかすかに開いているもの(原告写真7)、斜め後ろから振り返って斜めを向いた女性モデルの肩から上がモノトーンの画面に写し出され、女性モデルは片眼を髪で隠して正面を見て、かすかに口を開いているもの(原告写真8)、女性モデルが手を後ろで組み、膝を折り曲げて足をがに股に開き、無表情に正面を向いて、女性モデルはそれぞれ顔の一部を白ないし赤に着色しているもの(原告写真9ないし12)、である。 以上によれば、原告各写真は、被写体の組み合わせや配置、構図やカメラアングル、光線・印影、背景の設定や選択等に独自性が表れているということができ、これらは原告各写真を撮影したカメラマンにより創作されたものであると認められるから、これらの著作者はカメラマンであるA、B及びCというべきである。 そうすると、原告は、上記各カメラマンから原告各写真の著作権の譲渡を受けていることが認められるから、原告各写真の著作権者は原告であると認められる。 (2)ア 被告は、原告各写真の著作者は各ヘアドレッサーである旨主張する。 なるほど原告各写真においては、独特のヘアスタイル、化粧、衣装等を施して所定のポーズを取っているモデルの写真も含まれている。 しかし、原告各写真については、前記(1)で検討したとおり、被写体の組み合わせや配置、構図やカメラアングル、光線・印影、背景等に創作性があるというべきであり、原告各写真の被写体のうちの、独特のヘアスタイルや化粧等を施されたモデルに関連して、別途何らかの著作物として成立する余地があるものとしても、前記(1)のとおりの原告各写真の内容によれば、原告各写真は、被写体を機械的に撮影し複製したものではなく、カメラマンにより創作されたものというべきである。 そうすると、原告各写真の著作者はカメラマンであって、ヘアドレッサーではないというべきである。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。 イ 被告は、カメラマンが創作行為を行なっていたとしても、各ヘアドレッサーも同様に創作的表現を行なっているのであり、その場合、原告各写真は、ヘアドレッサーとカメラマンとの共同著作物となる旨主張し、それに沿う証拠として平成27年10月27日付け被告代表者の陳述書(乙20)を提出する。 平成27年10月27日付け被告代表者の陳述書(乙20)には、「美容業界誌紙は一般美容師が学ぶための作品(髪の形、髪の色、髪の流れ、髪の質感・・・等が相まって新しいスタイルは出来上がります。)を一段レベルの高い美容師に依頼して創作してもらい、それを撮影して誌面に掲載します。この美容師に著作権が有るのは当然であります。場合によっては、カメラマンにも応分の著作権があるかもしれません。しかし、主な著作権は創作した美容師が持っていると言わざるを得ません。もし著作権が美容師側にないとなると、我々の仕事は成り立ちません。」とあるところ、被告は、原告各写真の具体的な創作過程に基づいてヘアドレッサーとカメラマンとの共同制作意思等について主張立証をするわけではないが、原告各写真の創作性は、前記(1)で検討したとおり、被写体の組み合わせや配置、構図やカメラアングル、光線・印影、背景等に創作性があるところ、こうした点について、ヘアドレッサーとカメラマンとの間には原告各写真について共同著作物となるための要件である共同創作の意思が存するものとは認められないというべきである。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。 ウ また、被告は、作品撮影は経費1回あたり平均50万円を超えているとし、こうした経費のほとんどはヘアドレッサーが負担しているから、主要な創作行為を行なったのはヘアドレッサーであり、著作権がヘアドレッサーに帰属する旨主張する。 原告各雑誌に掲載されたノミネート作品一つにつき、撮影のための経費が平均50万円前後かかることについては当事者間に争いがない。 しかし、原告各写真の創作性については前記(1)のとおりであるところ、これについての経費の負担がその創作性に関連するものとは認められないし、また経費の負担に伴い著作権に関する取り決めがされたとの証拠もないから、ヘアドレッサーが撮影に要する経費を負担していたとしても、その事実をもって、ヘアドレッサーが本件各写真の著作者となるということはできない。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。 エ さらに、被告は、原告各雑誌においてヘアドレッサーの氏名が冒頭の目立つ場所に表示されている一方で、原告各写真のカメラマンについてはその下に表示されていることから、原告各写真の著作者はヘアドレッサーである旨を主張し、それに沿う証拠として原告各雑誌及びその目次を提出する(乙10ないし15)。 なるほど原告各雑誌の目次にはヘアドレッサーの氏名のみを表示したものがあるが、これはそのヘアドレッサーの作品を紹介する趣旨であり、その作品の写真に関してはヘアドレッサーのほかカメラマンの名前も表示されていることからしても、原告各雑誌の表示は、原告各写真の著作者がヘアドレッサーであることを示すものとは認められない。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。 2 争点(2)(被告の故意ないし過失の有無)について 被告は、原告が著作権を有する原告各写真につき、原告の許諾を得る必要があることを認識しながら、許諾を得ることなく被告雑誌にこれを複製して掲載しているのであるから、原告の著作権(複製権)侵害につき、少なくとも過失があるというべきである。 被告は、被告代表者においてJHAの事務局を通して掲載許諾が得られたと思い、被告雑誌にノミネート作品を掲載したものであって、故意ないし過失はない旨主張する。 被告の上記主張は必ずしも判然とはしないが、その主張によっても原告各写真を掲載するに当たり適切な許諾を得る必要性の認識があったことは明らかであり、結果としてその許諾が得られていないのであるから、被告には過失が存するというべきである。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。 3 争点(3)(原告の損害額)について 証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば、被告各写真を掲載した被告雑誌における使用サイズと対応する条件で、原告各写真を使用するための許諾料は1枚当たり1万5000円であるものと認められる。 そうすると、原告各写真を複製するため著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、合計18万円(1枚当たり1万5000円の12枚分)である。 原告は、本件訴訟の遂行を訴訟代理人弁護士に委任しているところ、原告の著作権侵害の不法行為と相当因果関係にある弁護士費用については、本件の事実経過等に照らせば、3万6000円と認めるのが相当である。 以上の合計は21万6000円である。遅延損害金の始期については、不法行為の日である被告雑誌の出版の日(平成26年10月1日)とすべきである。 4 結語 以上によれば、原告の請求は理由があるので認容すべきである。 よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 東海林保 裁判官 今井弘晃 裁判官 廣瀬孝 別紙原告写真目録、被告写真目録省略 |
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