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【事件名】“展覧会の写真”無断掲載事件
【年月日】平成27年12月7日
 東京地裁 平成27年(ワ)第4090号 著作権侵害に基づく損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成27年11月9日)

判決
原告 A@
同訴訟代理人弁護士 高取由弥子
被告 株式会社東京フォト委員会
被告 AA


主文
1 被告らは、原告に対し、連帯して、25万円及びこれに対する被告AAについては平成27年3月1日から、被告株式会社東京フォト委員会については同月11日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを9分し、その1を被告らの連帯負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告らは、原告に対し、連帯して、231万円及びこれに対する被告AAについては平成27年3月1日、被告株式会社東京フォト委員会については同月11日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 本件は、写真家である原告が、被告株式会社東京フォト委員会(以下「被告会社」という。)ないしその代表取締役である被告AA(以下「被告AA」という。)が原告の撮影した別紙写真目録記載の各写真(以下「本件各写真」という。)を被告会社のウェブサイト等に無断で掲載し、原告の同写真著作物に係る複製権及び公衆送信権並びに著作者人格権(公表権及び氏名表示権)を侵害したとして、被告会社に対しては民法709条又は会社法350条若しくは民法715条に基づき、被告AAに対しては会社法429条1項又は民法709条に基づき、損害賠償金231万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告AAについては平成27年3月1日、被告会社については同月11日)から各支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに各項末尾の括弧内に掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、特に断らない限り、書証の枝番の記載は省略する。)
(1) 当事者
ア 原告は、フリーランスの写真家である。 (甲25、弁論の全趣旨)
イ 被告会社は、写真展イベント、文化シンポジウム及び各種イベントの企画・立案・制作、実施運営、管理、コーディネイト及びそれらに関するコンサルタント業務等を目的とする株式会社である。 (甲1)
ウ 被告AAは、平成24年9月14日の被告会社設立以来、被告会社の代表取締役である。 (甲1、2、弁論の全趣旨)
(2) 本件各写真の撮影、掲載等の経緯
ア 被告会社は、平成25年9月27日から同月30日にかけて写真展「TOKYO PHOTO 013」(以下「本件写真展」という。)を主催することとなり、デザイン事務所を経営するAB(以下「AB」という。)に対し、本件写真展の会場設営を依頼した。同月20日、ABは、原告に対し、本件写真展会場の写真撮影を依頼し、これに対して原告は、「@会場撮影料(ABのみ使用)として13万6500円(税込)、A主催者(被告会社)と撮影料折半時に追加料金として7万3500円(税込)」(税込合計21万円)とする見積書を提示し、ABにその検討を求める旨回答した。 (甲5ないし7、弁論の全趣旨)
イ 原告は、平成25年9月29日、本件写真展会場を被写体として、種々の構図で合計22枚の写真を撮影した。 (甲8、25)
ウ 原告は、平成25年10月6日、ABに対し、上記イの各写真の右下にそれぞれ「SAMPLE」との表示を施し、「TokyoPhoto_2013_001_sample. jpeg」ないし「TokyoPhoto_2013_022_sample. jpeg」とのファイル名を付けた画像データファイル(本件各写真2個を含む22個の写真の画像データファイル)を送信した。(甲10、11)
エ ABは、平成25年10月7日、被告AAに対し、「先日、写真家のA@さんに撮影してもらいました写真が上がってきました。サンプルを頂きましたので、購入のご検討を御願致します。価格としては、全購入で10万円(税別) 3枚までで5万円(税別)との事です。」「また、今回お送りしているのはサンプル版で写真の下に『SAMPLE』と入れていますが、ご購入にならない場合、このサンプルを使用することもお控え下さい。」と記載したメールを送信した。これに対し、被告AAは、同日、「10枚はいらないのですが、3枚5万円は高いです。1枚1万円で交渉お願い出来ないでしょうか? 5枚か6枚になりそうです。」と記載したメールを返信した。その後も、被告会社は、ABを通じて、原告に対して減額交渉を試みたが、原告は、「5枚であれば10万円(消費税別)でなければ売ることには応じられない」として、写真1枚1万円とする減額には応じなかった。結局、原告と被告会社との間では、代金額の折り合いが付かなかったために、本件写真展会場の写真の売買契約は成立しなかった。 (甲12、13、25、弁論の全趣旨)
オ 原告は、上記のとおり契約交渉が不調に終わったことから、平成25年12月4日、ABに対し、「すでにお渡ししてあるサンプルデータに関してですが、大変お手数ですが、誤っての使用を避ける為、破棄をお願いします。」「無断使用が発覚した場合は使用料等ご請求させていただくことになりますのでご注意下さい」と記載したメールを送信し、ABは、同日、被告AAに対し、「被告会社による画像の使用は不可。また、無断使用が発覚した場合は使用料等が請求される。」旨伝え、原告に対しては、被告会社に原告のコメントを伝えた旨返答した。(甲14、15、25、弁論の全趣旨)
カ ところが、被告AAは、平成26年、写真展「TOKYO PHOTO 2014」に関する被告会社のウェブサイトのデザイン外注先に対し、前記ウの原告の写真画像を含む画像データを送信し、その結果、別紙写真目録記載1の写真(甲11の7)に「SAMPLE」表示を消去するなど若干の修正を施した画像が、被告会社のウェブサイト(URLは省略)に掲載された。被告AAは、原告が撮影した画像が掲載されたことに気付いたものの、そのまま放置した。また、被告AAは、同年、被告会社のフェイスブック(URLは省略)のデザインを委託した被告会社関係者に対し、別紙写真目録記載2の写真(甲11の11)の画像データを交付し、その結果、同写真に「SAMPLE」表示を消去するなど若干の修正を施した画像が、上記フェイスブックのカバー写真として掲載された。これらの画像掲載に当たっては、写真撮影者として原告の氏名は一切表示されていなかった。
 原告は、平成26年8月21日ないし同年9月27日頃、本件各写真の上記各掲載の事実を発見し、同年10月10日、被告らに対し、著作権侵害について指摘するメールを送信した。(甲11の7、11の11、16ないし18、25、弁論の全趣旨)
キ 被告らは、平成27年1月末、原告の求めに応じて上記ウェブサイト及びフェイスブックから本件各写真を削除した。 (弁論の全趣旨)
3 当事者の主張
(1) 原告の主張
ア 被告会社は、故意又は過失によって本件各写真を無断使用し、この写真著作物に係る原告の複製権及び公衆送信権並びに著作者人格権(公表権及び氏名表示権)を侵害したものであるから、原告に対し、民法709条に基づく損害賠償責任を負う。あるいは、被告会社の代表者である被告AA又は被告会社の従業員が上記侵害行為をしたことから、被告会社は、会社法350条又は民法715条に基づく損害賠償責任を負う。
 また、被告AAは、被告会社の代表取締役として、上記侵害行為を知りつつ、これをあえて行ったものであるから、原告に対して、会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負う。あるいは、被告AAは、自身の侵害行為について民法709条に基づく損害賠償責任を負う。
イ 原告がABを通じて被告会社に対し写真代金を10万円(税別)と提示していたことからすると、原告が複製権及び公衆送信権を侵害されたことにより受けた損害は、著作権法114条3項により、少なくとも10万円である。
 また、原告が著作者人格権(公表権及び氏名表示権)を侵害されたことにより受けた損害(慰謝料)は、200万円である。
 さらに、原告が本件訴訟の提起について弁護士に依頼した弁護士費用相当額の損害は、21万円である。
 以上によると、被告らの行為による原告の損害は、合計231万円に上る。
(2) 被告らの主張
 原告の主張は争う。本件各写真の掲載については、被告らによる確認の不備や管理の不行き届きがあったものの、被告AAは、特に問題のないものと認識していた。原告の損害賠償請求額は高額に過ぎる。
第3 当裁判所の判断
1 前記前提事実に証拠(甲8の7、8の11、11の7、11の11)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件各写真は、その構図や光量その他のカメラワークに撮影者の個性が顕れていることから創作性が認められ、写真の著作物に当たること、並びに、その著作者及び著作権者が原告であることが認められる。そして、被告AAは、外注先ないし被告会社関係者をして、被告会社のウェブサイト及びフェイスブックに、本件各写真に若干の修正を施した画像を掲載するに至らせたものであり、その修正部分に創作性は見いだせないから、本件各写真につき原告の有する著作権である複製権(著作権法21条)及び公衆送信権(送信可能可権を含む。同法23条1項。)を侵害したものというべきである。また、被告AAは、原告から本件各写真を使用しないことを求められていたにもかかわらず、未公表であった本件各写真を公衆に提示するに至らせ、その際、その著作者名(原告の氏名)を表示しなかったものであるから、本件各写真につき原告の有する公表権(同法18条1項)及び氏名表示権(同法19条1項)を侵害したものというべきである。
 そして、被告AAは、本件各写真についてデータの破棄を求められていたにもかかわらず外注先ないし被告会社関係者にこれを送信ないし交付したものであるから、上記各侵害行為について故意又は過失が認められ、民法709条に基づく損害賠償責任を負うというべきである。また、被告会社は、その代表取締役である被告AAが職務を行うについて上記各侵害行為をしたものであるから、これについて会社法350条に基づく損害賠償責任を負うというべきである。
2 そこで次に、上記各侵害行為によって原告が受けた損害について検討するに、前記前提事実によると、原告は、被告会社に対し、ABを通じた交渉過程において、「22枚の写真全購入で10万円(税別)、3枚までで5万円(税別)」という代金額を提示し、「5枚であれば10万円(消費税別)でなければ売ることには応じられない」としていたところ、本件で原告の著作権が侵害された写真は、2枚である。これらの事情に鑑みると、原告が本件各写真に係る複製権及び公衆送信権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)は、5万円と認められる。
 また、原告が著作者人格権(公表権及び氏名表示権)の侵害によって被った精神的苦痛を慰謝するための金額については、侵害の対象となった写真の枚数、侵害の態様、侵害に至る経緯など本件の記録に顕れた一切の事情を総合的に考慮すると、10万円とするのが相当である。
 さらに、弁論の全趣旨によると、原告は、本件訴訟を提起するために弁護士に訴訟代理を委任することを余儀なくされたものと認められるところ、上記侵害行為と相当因果関係を有する弁護士費用相当額の損害としては、10万円を認めることが相当である。
3 以上によれば、被告AAは民法709条に基づく損害賠償として、被告会社は会社法350条に基づく損害賠償として、それぞれ原告に対し、合計25万円及びこれに対する不法行為後である訴状送達日の翌日から各支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負うというべきである(なお、原告の選択的請求原因について検討したとしても、各被告が支払うべき金員の額が上記を上回るものとは認められない。)。
第4 結論
 よって、原告の請求は、25万円及びこれに対する被告AAについては平成27年3月1日から、被告会社については同月11日から、各支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 嶋末和秀
 裁判官 鈴木千帆
 裁判官 笹本哲朗


(別紙)写真目録
1 TokyoPhoto_2013_007_sample.jpeg(別紙1)
2 TokyoPhoto_2013_011_sample.jpeg(別紙2)
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