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【事件名】ソフトバンクへの発信者情報開示請求事件
【年月日】平成27年11月30日
 東京地裁 平成27年(ワ)第18859号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 平成27年10月14日)

判決
原告 創価学会
同訴訟代理人弁護士 中條秀和
同 甲斐伸明
被告 ソフトバンク株式会社
同訴訟代理人弁護士 五十嵐敦
同 梶原 圭
同 田中真人


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文第1項と同旨
第2 事案の概要
1 本件は、別紙写真目録記載の写真(以下「本件写真」という。)の著作権を有すると主張する原告が、氏名不詳者(以下「本件投稿者」という。)が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上の電子掲示板「Yahoo!知恵袋」(以下「本件掲示板」という。)に投稿した別紙投稿記事目録記載の記事(以下「本件記事」という。)中に掲載されている別紙掲載写真目録記載の写真(以下「本件掲載写真」という。)は、本件写真を複製又は翻案したものであるから、本件記事を投稿した行為により原告が有する本件写真の著作権(本件写真の二次的著作物の利用に関する権利を含む。以下、同じ。)が侵害されたことは明らかであり、本件投稿者に対する損害賠償請求権の行使のために本件記事に係る別紙発信者情報目録記載の情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を受ける必要があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下、単に「法」という。)4条1項に基づき、経由プロバイダである被告に対し、本件発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(証拠等を付記しない事実は、当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は、宗教法人法に基づいて設立された宗教法人である。
イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社であり、法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当する。
(2) 本件記事の投稿
ア 本件投稿者は、平成27年2月11日午後3時10分59秒頃、ヤフー株式会社が開設・運営する本件掲示板に、本件記事を投稿した。本件記事には、「ボスが金融ユダヤでアメリカを支配していたディビッドロックフェラーで、朝鮮カルトの支配者同志で、地獄に召された文鮮明君とA君は、存命中に、会ったことはあるでしょうか。/裏で密会したことはあるでしょうか。//同じ金融ユダヤでアメリカを支配していたディビッドロックフェラーの忠実な下僕で朝鮮カルトを支配していた者同志でも、仲が悪かったので密会など一回もした事がないのでしょうか。//金融ユダヤとしては、文君の方が暗いが上だったと思いますがね。」(判決注:「/」は改行を示し、「//」は改行の後に空白の行が1行あることを示す。)との記述(以下「本件記述部分」という。)に引き続いて、本件掲載写真が掲載されている(甲1の2)。
イ 本件投稿者が本件記事を投稿した際のIPアドレスは、別紙投稿記事目録の「投稿時IPアドレス」欄に記載のとおりであり、同IPアドレスの割当先は、被告である(甲2の2、3の2、4の2)。
(3) 被告は、本件発信者情報を保有している。
3 争点
(1) 本件記事により原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるか(法4条1項1号該当性。争点1)
(2) 本件発信者情報が原告の損害賠償請求権の行使のために必要であるか(法4条1項2号該当性。争点2)
4 争点に対する当事者の主張
(1) 争点1(本件記事により原告の著作権〔公衆送信権〕が侵害されたことが明らかであるか)について
【原告の主張】
ア 本件写真が創作性を有する著作物であること
 本件写真は、原告の職員であるB(以下「B」という。)が、平成11年11月5日、原告の業務として、原告施設において会談中の原告の名誉会長であるA(以下「A名誉会長」という。)を撮影したものであるところ、Bが、カメラマンとしての経験を活かし、被写体の構図、アングル、タイミング、照明やフラッシュの光、背景をぼかす絞り等に工夫を凝らし、A名誉会長の品格や柔和な表情が引き立つように撮影したものであるから、Bの思想、感情が創作的に表現された創作性を有する著作物である。
イ 原告が本件写真の著作権を有すること
 前記アのとおり、本件写真は、原告の職員であるBが、原告の業務として、A名誉会長を撮影したものであるが、本件写真は、一定の編集がされた上、原告の一部門である聖教新聞社が発行する月刊誌に掲載され、原告の名義で公表されたものであるから(甲7の1・2)、原告の発意に基づき原告の業務に従事する者が職務上作成する著作物であり、原告が自己の著作の名義の下に公表するものであって、原告が著作者としてその著作権を有する(著作権法15条1項)。
 また、原告の就業規則には、職員が職務上作成した著作物の著作権は原告に帰属すると規定されているところ(甲8)、同規定によっても、原告が本件写真の著作権者であるといえる。
ウ 本件投稿写真は、本件写真を複製又は翻案したものであること
 A名誉会長を写真の中心に位置づけ周囲をぼかす構図、背景にある花とA名誉会長との位置関係、花をぼかした絞りの加減、A名誉会長のポーズ・表情、撮影アングル及び陰影などにおいて同一である。本件写真がカラーであるのに対して本件掲載写真はモノクロであり、写真の周囲の部分が一部削除されているが、本件写真の表現上の本質的な特徴が失われてはいない。
 したがって、本件掲載写真は、本件写真に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しているから、本件写真を複製又は翻案したものである。
エ 引用(著作権法32条1項)が成立しないこと
 本件記述部分には、本件掲載写真に関する説明はなく、本件記事において本件掲載写真を引用する必要性はない。また、本件記事は、本件掲載写真を掲載するについて、その出所を明示していない。
 したがって、本件記事において、本件写真が「公正な慣行に合致する」方法により、「引用の目的上正当な範囲内で」引用されているということはできない(著作権法32条1項)。
オ 小括
 以上のとおり、本件掲載写真は本件写真を複製又は翻案しており、本件記事が本件掲載写真を掲載することにつき著作権法32条1項の引用は成立しないから、本件記事が本件掲示板に投稿されることにより、原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかである。
【被告の主張】
ア 本件写真が創作性を有するか明らかではないこと
 本件写真は、特定の人物の顔及び上半身をありふれた構図で大きく写した写真であり、創作性を有するか明らかではない。
イ 本件掲載写真が本件写真を複製したものか明らかではないこと
 本件掲載写真は、独特な絵の中に5名の人物の肖像写真を配置したものであるが、このうち左上に配置された人物の肖像写真部分は、モノクロであるほか、首から上の部分が写っているにとどまり、本件写真とは大きさも異なるから、本件写真に依拠しているか明らかではない。
 仮に、本件掲載写真が本件写真に依拠しているとしても、本件掲載写真は、被写体の表情がはっきりせず、背景とのバランスや光の当たり具合など、本件写真の表現形式が再現されていないから、本件写真の表現形式上の本質的な特徴を直接感得できる程度に再現しているとはいえない。
 したがって、本件掲載写真が本件写真を複製したものかは明らかではない。
ウ 引用(著作権法32条1項)が成立しないことが明らかではないこと
 本件掲載写真は、独特な絵の中に5名の人物の肖像写真を配置したものであるが、このような利用方法も含め、本件掲載写真の掲載が「公正な利用に合致」し、「引用の目的上正当な範囲内で行われる」引用に当たらないことが明らかとはいえない。
(2) 争点2(本件発信者情報が原告の損害賠償請求権の行使のために必要であるか)について
【原告の主張】
 原告が本件投稿者に対する損害賠償請求権を行使するには、本件発信者情報の開示を受ける必要がある。
【被告の主張】
 争う。損害賠償請求権を行使するには、発信者の氏名又は名称並びに住所が開示されれば十分であり、これに加えて電子メールアドレスの開示を受ける必要はない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件記事により原告の著作権〔公衆送信権〕が侵害されたことが明らかであるか)について
(1) 本件写真の創作性及び著作権者について
 証拠(甲6、7の1・2、9)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真は、平成11年11月5日、当時原告の一部門である聖教新聞社の職員であったBが、原告の業務として、会談中のA名誉会長を撮影したものであり、本件写真は、A名誉会長の左胸の前に写るマイクを削除する編集が行われた上で、聖教新聞社が発行する月刊誌「大白蓮華」595号に掲載されて公表された事実が認められる。
 本件写真(甲6)は、A名誉会長を被写体としてはっきりと撮影する一方で、背景の壁及び花並びに手前にあるマイクはぼかすなど、撮影者であるBの思想・感情が創作的に表現されているから、写真の著作物として著作物性が認められる。
 また、上記事実によれば、本件写真は、原告の職員であるBが、原告の業務上撮影したものであり、その後原告の著作名義の下に公表されたものであるから、著作権法15条1項により、原告がその著作者となる(なお、平成11年11月5日当時の原告の就業規則〔甲8〕は、職員が職務上の行為として著作した著作物の著作権が原告に帰属する旨規定しており、著作権法15条1項にいう別段の定めがあるものとも認められない。)。
(2) 本件掲載写真が本件写真を複製又は翻案したものであるかについて
 証拠(甲1の2、9)によれば、本件掲載写真は、背景画像中に5名の人物の肖像写真を配置してなるものであるが、そのうち左上に配置された肖像写真部分(以下「本件肖像写真部分」という。)は、モノクロ写真ではあるものの、その被写体の表情、姿勢、服装、背景、被写体の顔に映る陰影等において、本件写真と一致しており、このことからすれば、本件肖像写真部分は、本件写真をモノクロ加工し、周辺部分をトリミングして作成されたものと認められる。
 そして、本件掲載写真は、上記のとおり背景画像中に5名の人物の肖像写真を配置してなるものであり、その一部を構成する本件肖像写真部分は、モノクロ加工され、周辺部分がトリミングされている点において本件写真と異なる点があるが、本件掲載写真からは、なお本件写真で特徴的に表現されているA名誉会長の表情及び姿勢を明確に覚知することができる。
 したがって、本件掲載写真は、本件写真に依拠し、少なくともこれを翻案したものと認められる。
(3) 引用(著作権法32条1項)の成否について
 前記前提事実によれば、本件記事のうち本件記述部分は、本件掲載写真を説明する記述はなく、本件記事において本件掲載写真を掲載する必要性は明らかではない上、本件記事は、本件掲載写真を掲載するにあたってその出典を明示していないものと認められるから、本件掲載写真の掲載が著作権法32条1項にいう引用に当たる余地があるとはいえない。
(4) 小括
 以上によれば、本件掲載写真は、少なくとも本件写真を翻案したものと認められるところ、本件記事が本件掲載写真を掲載することについて著作権法32条1項にいう引用に当たる余地があるとはいえないから、本件投稿者が本件掲載写真を含む本件記事を本件掲示板に投稿したことにより、原告が有する本件写真の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかといえる。
2 争点2(本件発信者情報が原告の損害賠償請求権の行使のために必要であるか)について
 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件投稿者に対して本件写真の著作権(公衆送信権)侵害の不法行為による損害賠償請求権を行使するため、本件発信者情報の開示を求めているものと認められるところ、損害賠償請求権を行使するためには、本件投稿者を特定する必要があるから、原告には、同特定のために本件発信者情報の開示を受ける必要があるといえる。
 被告は、損害賠償請求権を行使するには、発信者の氏名又は名称並びに住所の開示を受ければ十分であり、これ以上に電子メールアドレスの開示を受ける必要はないと主張するが、氏名又は名称並びに住所の開示を受けるのみでは、必ずしも本件投稿者の最終的な特定に至らないこともあり得るのであるから、電子メールアドレスについても、開示を受ける必要性があるといえる。
3 結論
 以上によれば、原告の請求には理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 嶋末和秀
 裁判官 笹本哲朗
 裁判官 天野研司


(別紙)
発信者情報目録(訴状添付のもの)
投稿記事目録(原告訴えの変更〔一部取下げ〕申立書添付のもの)
写真目録(訴状添付のもの)
掲載写真目録(訴状添付のもの)

別紙 発信者情報目録
別紙投稿記事目録記載の記事(以下「侵害情報」という)に関する以下の情報
1 発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称
2 発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所
3 発信者の電子メールアドレス(電子メールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号)

別紙 投稿記事目録
 閲覧用URL http://<以下略>
 投稿日時 2015/2/11 15:10:59
 投稿時IPアドレス 126.91.4.187

写真目録 <画像省略>
掲載写真目録 <画像省略>
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