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【事件名】ファッションフォトの利用許諾事件
【年月日】平成27年11月20日
 東京地裁 平成25年(ワ)第25251号 著作権侵害損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成27年10月2日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 浜田治雄
被告 株式会社Dazzy(以下「被告Dazzy」という。)
同訴訟代理人弁護士 久保潤弥
被告 株式会社ロエンリヴェルスタジオ(以下「被告ロエン」という。)
同訴訟代理人弁護士 大室俊三
同 竹下博徳


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告Dazzyは、別紙被告Dazzy写真目録記載の写真を公衆送信してはならない。
2 被告Dazzyは、原告に対し、600万円及びこれに対する平成25年10月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告ロエンは、原告に対し、1060万円及びこれに対する平成25年10月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告らは、原告に対し、30万円及びこれに対する平成25年10月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、写真家である原告が、自ら撮影した別紙原告写真目録記載の各写真について、@被告Dazzyに対し、同目録記載6の写真をトリミング加工してオフィシャルサイトに掲載している行為が原告の有する著作権(複製権、公衆送信権)を侵害し、同トリミング加工及び同写真を宣伝文句等とともに一つのウェブページとしたことが原告の有する同一性保持権を、原告の氏名の不表示が原告の有する氏名表示権をそれぞれ侵害し、また、上記各写真のデータを被告ロエンに引渡すために複製したことが複製権侵害に当たると主張して、別紙被告Dazzy写真目録記載の写真の公衆送信の差止め並びに損害賠償金600万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年10月31日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、A被告ロエンに対し、原告の許諾を得ることなく、別紙原告写真目録記載の各写真をトリミング加工して、原告の氏名を表示せずに雑誌に掲載し、同雑誌を発行、販売した行為が原告の有する著作権(複製権、譲渡権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害すると主張して、損害賠償金1060万円及びこれに対する平成25年10月31日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、B被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償として弁護士費用相当額30万円(各15万円)及びこれに対する平成25年10月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(証拠等を掲げていない事実は関係する当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は、フリーランスのイタリア人写真家である。(原告と被告Dazzyとの間では争いがない。弁論の全趣旨)
イ 被告Dazzyは、レディスファッションを取り扱う衣料品の販売等を目的とする株式会社である。
ウ 被告ロエンは、ファッションを取り扱う株式会社ロエン(以下「訴外ロエン」という。)の関連会社である。
(2) 原告による写真撮影
 原告は、被告Dazzyから、モデルを用いたファッションの写真撮影及び写真の提供を依頼され、平成25年2月、別紙原告写真目録記載1ないし6の写真(以下、同目録の番号に従って「原告写真1」などといい、各写真を併せて「原告各写真」という。)を撮影した。
(3) 被告Dazzyによる原告各写真の利用
ア 被告Dazzyは、原告から、原告各写真の電子データを受け取り、同データを複製して、被告ロエンに引き渡した。
イ 被告Dazzyは、別紙被告Dazzy写真目録記載のとおり、そのオフィシャルサイト(以下「Dazzyサイト」という。)に、原告写真6をトリミングしたものを掲載した。(甲4)
ウ 被告Dazzyは、Dazzyサイトにおいてトリミングした原告写真6を掲載するに当たり、原告の氏名の表示をしなかった。(甲4)
(4) 被告ロエンによる原告各写真の利用
ア 被告ロエンは、訴外ロエンブランドの雑誌である「Roen OFFICIAL BOOK 〜2013Spring&Summer〜(saita mook)」(以下「ロエン誌」という。)における被告Dazzyの広告ページに掲載するために、被告Dazzyから提供を受けた原告各写真をトリミング加工し、ロエン誌の編集・発行元である訴外株式会社セブン&アイ出版(以下「セブン&アイ出版」という。)に、その電子データを送付した。(甲5、6)
イ セブン&アイ出版が、トリミング加工後の原告各写真が掲載されたロエン誌を、平成25年5月23日付けで発行したが、原告の氏名は表示されていなかった。(甲5、6)
3 争点
(1) 原告各写真の著作権譲渡の有無
(2) 原告各写真の利用許諾の有無及びその内容
(3) 被告Dazzyによる著作者人格権侵害の存否
(4) 被告ロエンによる著作者人格権侵害の存否
(5) 被告ロエンの故意過失の有無
(6) 原告の損害額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(原告各写真の著作権譲渡の有無)について
〔被告Dazzyの主張〕
(1) 原告と被告Dazzyは、@原告が、被告Dazzyと被告ロエンのコラボレーション商品を写真撮影し、その際、原告のFashionTV向けの動画を作成すること、A原告が、上記動画を自らのプロモーション活動のために自由に利用できること、B原告が、被告Dazzy及び被告ロエンの商品カタログや広告・宣伝用の写真撮影を行うこと並びにC原告が撮影した写真の著作権が、被告Dazzyに帰属することについて、合意をした。
(2) 原告は、上記合意に基づき、原告各写真及び上記動画を撮影した。
(3) したがって、原告各写真の著作権は、原告から被告Dazzyに譲渡された。なお、原告は、現在も、上記動画を、自らのプロモーションのために活用している。
〔被告ロエンの主張〕
 原告各写真の著作権は、被告Dazzyが主張するとおり、被告Dazzyに帰属している。
〔原告の主張〕
 原告は、被告Dazzyに対し、原告各写真のデータを譲渡したにすぎず、著作権の譲渡はしていない。
2 争点(2)(原告各写真の利用許諾の有無及びその内容)について
〔被告Dazzyの主張〕
(1) 仮に原告各写真の著作権が原告に帰属するとしても、原告は、被告Dazzyに対し、原告各写真を、Dazzyサイトに掲載すること及びロエン誌を含む商品カタログ等に使用することを許諾した。
(2) 原告の自白の撤回に関しては、被告ロエンの主張を援用する。
〔被告ロエンの主張〕
(1) 原告は、被告Dazzyに対し、原告各写真をロエン誌において広告等の目的で使用することを許諾していた。
(2) 原告は、本件訴訟において、被告Dazzyに対し、原告各写真を広告等の目的で利用することを許諾したが改変は許諾していないと主張し、利用許諾の事実を自白していた。原告は、その後、被告らに対し、原告各写真の利用を一切許諾していないと主張を変遷させ、自白を撤回しようとしているが、自白の撤回には同意しない。
〔原告の主張〕
(1) 原告は、被告らに対し、原告各写真について、一切の利用を許諾していない。
 被告Dazzyは、原告各写真のデータを受領した後、利用許諾契約を締結することなく、原告各写真を利用したものである。
(2) 原告が、当初、原告各写真の利用許諾をした旨の主張をしたのは、原告本人が日本語を解さないことから、言語的な問題を原因として原告訴訟代理人が原告本人の主張を誤解したためである。そして、原告が被告らに対し一切の利用許諾をしていないことは、証拠(乙6、7)により明らかである。
3 争点(3)(被告Dazzyによる著作者人格権侵害の存否)について
〔原告の主張〕
(1) 同一性保持権侵害
 被告Dazzyが、@原告写真6をトリミング加工したこと及びA加工した同写真を、他の日本人女性の写真を中央に配置し、様々な宣伝文を加えた雑多な内容のウェブページの一部として利用したことは、原告写真6の同一性を損なう改変に当たり、原告の同一性保持権を侵害する。
(2) 氏名表示権侵害
 被告Dazzyは、原告の氏名を表示することなく、Dazzyサイトに改変後の原告写真6を掲載しており、原告の氏名表示権を侵害した。
〔被告Dazzyの主張〕
(1) 同一性保持権侵害につき
ア 原告は、被告Dazzyに対し、トリミング等の編集がされることを前提として原告各写真を提供しており、改変を許諾していた。このことは、原告が、「どのように使うかは御社次第です。」などとメールに記載していたこと、被告Dazzyによる原告各写真の編集について、何ら異議を述べていなかったことからも明らかである。
イ 仮に、上記許諾がなかったとしても、被告Dazzyは、同一性を損なうような改変をしていない。被告Dazzyが原告写真6に対して行った改変は、著作権法20条2項4号所定の「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」に当たるから、同一性保持権を侵害しない。
(2) 氏名表示権侵害につき
 原告各写真は被告Dazzyの商品の宣伝やDazzyサイトに使用するために撮影されたものであることから、原告は、原告各写真の取り扱いについて、氏名表示の要否も含め、被告Dazzyの裁量に委ねており、原告と被告Dazzyとの間には、原告各写真をDazzyサイトに掲載するに当たり、氏名表示を行わない旨の黙示の合意があった。このことは、原告が、被告Dazzyに対し、氏名の記載のない原告各写真のデータを提供したこと、氏名を表示するよう要請しなかったこと及びメール(乙6、7)において、氏名表示に関し、何ら触れていないことからも明らかである。
4 争点(4)(被告ロエンによる著作者人格権侵害の存否)について
〔原告の主張〕
(1) 同一性保持権侵害
 被告ロエンは、@原告写真1の右上部分に骸骨マーク及び文字を加え(別紙被告ロエン写真目録1)、A原告写真3を掲載した紙面に商品の写真等を加えて一つの紙面に加工し(別紙被告ロエン写真目録4)、B原告写真4及び5の各写真を掲載した紙面に商品の写真等を加えて一つの紙面に加工し(別紙被告ロエン写真目録3)、C原告写真6の右下部分に文字を加えて一つの紙面にする(別紙被告ロエン写真目録5)などして、いずれも同一性を損なう改変をし、原告の同一性保持権を侵害した。
(2) 氏名表示権侵害
 被告ロエンは、別紙被告ロエン写真目録記載のとおり、原告の氏名を表示することなく、原告各写真をロエン誌に掲載しており、原告の氏名表示権を侵害した。
〔被告ロエンの主張〕
(1) 同一性保持権侵害につき
ア 前記3の被告Dazzyの主張のとおり、原告は、被告Dazzyに対し原告各写真の改変を許諾しており、被告ロエンは、被告Dazzyの指示を受けて、原告各写真を用いて編集作業を行った。
 また、被告ロエンは、同一性を損なう改変はしていない。
イ 原告各写真がカタログやショッピングサイトに使用するために作成されたものであることからすれば、被告ロエンがロエン誌に掲載するために原告各写真に対して行った編集作業は、著作権法20条2項4号所定の「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」に当たり、原告の同一性保持権を侵害しない。
(2) 氏名表示権侵害につき
 原告各写真には、当初から原告の氏名が表示されていなかったこと、原告が、被告Dazzyに対し、原告各写真の使用方法を一任していたこと及び原告が、Dazzyサイトに、原告写真6が氏名不表示のまま掲載されていることを知りながら、平成25年3月12日までは特段の異議を申し立てていなかったこと等からすると、原告は、ロエン誌に原告各写真を掲載するに際し、原告の氏名を表示しないことに同意していたといえる。
 また、ロエン誌は、商品の宣伝を目的としたものであり、かつ、原告各写真が、商品広告のために撮影されたものであることからすると、原告の氏名の表示を省略したとしても、「著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められる」(著作権法19条3項)から、被告ロエンが、ロエン誌において原告の氏名表示をしなかったことは、原告の氏名表示権を侵害しない。
5 争点(5)(被告ロエンの故意過失の有無)について
〔原告の主張〕
 被告ロエンは、著作権者に確認することもなく、原告各写真を加工し、また、原告の氏名表示をせずに、原告各写真をロエン誌に掲載したのであるから、重大な過失がある。
〔被告ロエンの主張〕
 被告ロエンは、被告Dazzyから、雑誌への掲載可能な写真である旨の説明を受けて原告各写真の提供を受けたから、被告ロエンに故意はない。そして、ロエン誌における被告Dazzyの広告ページの編集作業の主体は被告Dazzyであり、被告ロエンは、被告Dazzyの依頼に基づいて実際の編集作業に従事したにすぎないから、被告ロエンには、被告Dazzyから提供された写真の著作権者を調査、確認する義務はなく、過失がない。
6 争点(6)(原告の損害額)について
〔原告の主張〕
(1) 被告Dazzyについて
ア 同一性保持権侵害に対する慰謝料 500万円
イ 複製権侵害による損害 100万円
ウ 弁護士費用 15万円
(2) 被告ロエンについて
ア 同一性保持権侵害に対する慰謝料 500万円
イ 氏名表示権侵害に対する慰謝料 500万円
ウ ロエン誌での原告各写真の利用料相当額 60万円(10万円×6枚)
エ 弁護士費用 15万円
〔被告らの主張〕
 否認し、争う。
第4 当裁判所の判断
1 前記第2、2の前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
(1) 原告は、被告Dazzyから、モデルを用いたファッションの広告宣伝用の写真撮影及び写真の提供を依頼され、平成25年2月、原告各写真を撮影した。原告は、このときの写真撮影風景を撮影した動画を作成し、FashionTV(世界202ヶ国・地域で配信されているファッション専門チャンネル)での配信に供し、また、自らのホームページに掲載している。(乙1、乙3の1・2、乙8)
(2) 原告が代表者を務める株式会社エソレミオ(以下「エソレミオ」という。)は、平成25年2月1日、被告Dazzyに対し、上記(1)の写真撮影について、「Dazzyカタログ写真撮影12時間(メイクアップ、ヘアー、撮影設置助手、焦点設置助手含む。写真修正、リタッチング、DVDによる納品の代金を含む。)」の代金として、31万5000円(税込み)を請求した。(乙2、5)
(3) 原告は、平成25年2月21日、被告Dazzyの従業員であるBに対し、「私が撮影いたしました写真はWebストア用ではなく、アルマーニやバナナリパブリックやディーゼルのような、雑誌広告用やポスターや新作カタログにむいております。今回の写真は御社のWebサイトに掲載されております写真スタイルとは異なりますので、他のフォトグラファーの方が撮影されたお写真とは混合されないほうがよろしいかと思います。もちろん、写真は御社のものですので、どのようにご使用されてもよろしいのですが。」などと記載したメール(乙6)を送信した。原告は、同メールにおいて、原告が撮影した写真から24枚を選定してレタッチ(修正)して納品すること、上記小倉から合計70枚の写真のレタッチを3日後までにするよう要望されたものの、通常は20枚程度のレタッチの作業費が撮影費用に含まれており、70枚もの写真のレタッチの作業費は含まれないこと、レタッチを要する場合には別の者が一枚1500円で請け負うこと等を伝えた。(乙6)
(4) 原告は、平成25年3月12日、被告Dazzy代表者Cに対し、 「お金を払って撮影して、その写真を使わないクライアントさんは私のキャリアの中で初めてです。dazzy.co.jpのホームページにワンショットだけ使っていただいているのを拝見しましたが、カットや編集がとっても乏しく使用されておりました。」、「自分で編集しているものを3枚添付いたします。このようにしてDAZZYのパンフレット、ポスター、街のビルボード広告や雑誌のCMなどに使うととってもいいと思います。もちろん、どのように使うかは御社次第ですが、私の意見をお伝えさせていただきました。」などと記載したメール(乙7)を送信した。このメールには、原告の編集による宣伝用ページの案の画像データが添付されていたが、同画像には、原告が撮影した写真に加え、「Roen for Dazzy」のロゴ、「dazzy.co.jp」の文字及び髑髏の絵と「Roen」の文字を組み合わせたマークが配置されており、また、原告の氏名は表示されていなかった。(乙7)
(5) 被告ロエンは、被告Dazzyの依頼を受け、被告Dazzyから提供された原告各写真を用いて、平成25年5月23日発行のロエン誌に掲載する被告Dazzyの広告ページを製作し、その内容について被告Dazzyの確認を受けた上で、セブン&アイ出版に対し、上記広告ページの電子データを送付した。(甲5、6)
(6) 原告訴訟代理人は、平成25年6月28日付け通知書(乙4)により、被告Dazzyに対し、原告は、Dazzyサイト及び被告Dazzyが展開するオンラインのショッピングサイトに使用する目的で原告各写真を納品した旨述べ、ロエン誌における原告各写真の使用及びロエン誌に原告の氏名が表示されていないことが、著作権侵害、著作者人格権侵害、名誉侵害及び不法行為に当たるとして、損害賠償金合計1700万円の支払を請求した。(乙4)
(7) 原告は、平成26年8月14日の本件の第6回弁論準備手続期日において、被告Dazzyに対し、原告各写真をDazzyサイト、ショッピングサイト及び雑誌において広告等の目的で使用することについて許諾していたが、改変すること及び被告Dazzy以外の者が使用することは許諾していない旨陳述した。その後、原告は、同年12月16日の本件の第9回弁論準備手続期日において陳述された同月12日付け準備書面(9)により、上記使用許諾をしていた旨の陳述を撤回し、一切利用許諾していない旨主張した。(顕著な事実)
2 争点(1)(原告各写真の著作権譲渡の有無)について
(1) 被告らは、原告各写真の著作権が、被告Dazzyに譲渡されたと主張し、被告Dazzyはそれに沿う証拠として原告各写真の撮影に関与した訴外株式会社ANDOの代表取締役Dの陳述書(乙8)を提出した。しかしながら、原告と被告Dazzyが、原告各写真の扱いについて契約書等の書面を作成していないことについては当事者間に争いがないこと、被告らは、上記D又は被告Dazzyの代表者ないし従業員が、原告との間で、著作権の扱いに関し、どのような会話をしたのかについて具体的な主張立証を何らしていないこと、前記1(2)のエソレミオ作成の請求書(乙2)には、代金に著作権譲渡代金が含まれる旨の記載がないこと、前記1(4)のとおり、原告が、原告各写真のデータを被告Dazzyに納品した後も、自ら撮影した写真を加工して宣伝用のページの案を編集し、被告Dazzyに送付するなどしていたことから、著作権を譲渡したとまでは認識していなかったと推認されることの各事実を踏まえると、原告が、被告Dazzyとの間で、原告各写真の著作権を譲渡する旨の合意をしたと認めることはできない。
(2) この点に関して被告らは、原告が、被告Dazzyに宛てたメールにおいて、「写真は御社のものですので、どのようにご使用されてもよろしいのですが」(乙6)、「どのように使うかは御社次第」(乙7)などと記載していたことは、著作権譲渡を前提としたものであると主張するが、上記記載は、制限や条件を付さずに利用許諾をしたことを前提としたものと考えても矛盾しないから、上記各記載をもって、原告が被告Dazzyに原告各写真の著作権を譲渡したと認めるに足りない。
(3) そうすると、原告が、被告Dazzyに対し、原告各写真の著作権を譲渡したという被告らの主張は理由がない。
3 争点(2)(原告各写真の利用許諾の有無及びその内容)について
(1) 前記1(1)ないし(4)のとおり、原告が、被告Dazzyから、広告宣伝用の写真の撮影を依頼されて原告各写真を作成したこと、原告が、被告Dazzyに対し、エソレミオを通じ、「カタログ写真」の撮影代金として31万5000円を請求したこと、及び被告Dazzyに対し、「写真は御社のものですので、どのようにご使用されてもよろしい」、「どのように使うかは御社次第」などと述べていたことからすると、原告は、被告Dazzyが原告各写真を広告宣伝用として自由に利用することを前提として、写真撮影を請け負い、また、その成果物である原告各写真のデータを被告Dazzyに交付したということができる。
 そうすると、原告は、被告Dazzyに対し、少なくとも広告宣伝目的においては、改変することや掲載する媒体の選択等も含めて自由に利用できるものとして、原告各写真の利用を許諾したと認めるのが相当である。
(2) この点に関して原告は、被告Dazzyに広告等の目的で原告各写真の利用を許諾していた旨の当初の陳述を撤回すると主張し、利用許諾をしていないことは証拠(乙6、7)から明らかであると主張する。
 この点、自白の撤回が認められるためには、自白が真実に反しかつ錯誤に基づくものである必要があり、自白が真実に合致しないことの証明があるときはその自白は錯誤に基づくものと認めるのが相当であるが(大審院大正11年2月20日判決・大審院民事判例集1巻52頁、最高裁判所昭和25年7月11日第三小法廷判決・最高裁判所民事判例集4巻7号316頁参照)、前記(1)のとおり、本件では、原告が被告Dazzyに対し、「写真は御社のものですので、どのようにご使用されてもよろしい」、「どのように使うかは御社次第」などと記載したメールを送付していたことが認められ、上記各記載は、原告が被告Dazzyに利用許諾をしていることを前提としたものといえるから、自白が真実に合致しないことの証明があったとはいえず、自白の撤回は認められない。
 また、原告は、被告Dazzyに送付したメール(乙6)の内容について、契約締結に先立って利用態様を提案したものであるとか、原告各写真の利用契約を締結してほしい旨訴えたものであるなどと主張する。
 しかし、遅くとも撮影開始時までには原告と被告Dazzyとの間で写真撮影に係る契約が成立していたと推認されるところ、上記メールは、原告各写真の撮影後かつ代金の請求後に送付されたものであって、契約締結に先立って送付されたものではないし、上記メールを観察しても、その後に原告各写真の利用に関する契約を締結することを示唆する記載はないから、原告の上記主張は採用することができない。
(3) したがって、被告Dazzyが、原告写真6を改変してDazzyサイトに掲載したことや、ロエン誌用の広告製作を依頼した被告ロエンに送付するために、原告各写真のデータを複製したことは、上記利用許諾の範囲内の行為であるといえるから、これらの行為によって原告の著作権を侵害したと認めることはできない。
(4) そして、広告の素材である写真の加工等を含む広告の製作や広告宣伝行為を第三者に依頼することは通常行われることであるから、原告は、被告Dazzyが、第三者に指示をして原告各写真を改変させたり、原告各写真を用いた広告を頒布させることを想定した上で、被告Dazzyに原告各写真の利用を許諾していたと認めることが相当である。
 そうすると、被告ロエンが、被告Dazzyの指示を受けて、ロエン誌に掲載する被告Dazzyの広告ページの素材として、原告各写真を改変したこと及び改変した原告各写真を含む広告ページのデータを、ロエン誌の発行元であるセブン&アイ出版に送付した行為は、上記利用許諾の範囲内の行為というべきである。
 なお、原告は、被告ロエンがロエン誌を発行・販売した行為が原告の著作権(複製権、譲渡権)侵害に当たる旨の主張もしていたが、セブン&アイ出版がロエン誌を発行していることは当事者間に争いがないから、原告の上記主張は失当である。
(5) 以上のとおり、被告ロエンの行為は、原告の著作権を侵害しない。
4 争点(3)(被告Dazzyによる著作者人格権侵害の存否)について
 前記3に説示したとおり、原告は、被告Dazzyに対し、広告宣伝目的において、条件や制限を付することなく利用を許諾していた。そして、前記1(4)のとおり、原告は、平成25年2月に原告各写真を撮影した後、原告訴訟代理人を通じて同年6月28日付け通知書を被告Dazzyに送付するまでの間、被告Dazzyが、Dazzyサイトに原告写真6をトリミングして掲載していたことについて、カットや編集が乏しい旨の意見を述べたり、原告写真が一枚しか利用されていないことについて不満を述べたりしていたものの、被告Dazzyがトリミング加工をしたことや、原告の氏名が表示されていないことについては、何ら異議を述べていなかったし、原告が案として提示した画像にも、原告の氏名は表示されていなかったこと、また、原告は、被告Dazzyに対し、氏名表示の付されていない原告各写真のデータを交付したものの、氏名表示をすべき旨の指示をしなかったこと(弁論の全趣旨)、以上の事実が認められる。
 そうすると、原告は、被告Dazzyに対し、原告各写真を改変することや、原告の氏名表示をすることなく原告各写真を広告等に掲載することについて、黙示の同意をしていたと認めるのが相当である。
 以上のとおり、被告Dazzyが、Dazzyサイトに原告写真6を掲載するに当たり、トリミング加工したこと及び原告の氏名を表示しなかったことは、いずれも原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害するものではない。
 したがって、この点に関する原告の主張はいずれも理由がない。
5 争点(4)(被告ロエンによる著作者人格権侵害の存否)について
 前記3及び4のとおり、原告は、被告Dazzyに対し、広告宣伝目的においての原告各写真の利用を許諾し、また、原告各写真を改変すること及び氏名を表示することなく原告各写真を利用することに同意していた。そして、広告の製作を第三者に依頼することは通常行われることであるから、原告の上記同意の対象には、被告Dazzyが、第三者に広告の製作を依頼して原告各写真を含む広告を製作させる場合も含まれるというべきである。
 そうすると、被告ロエンが、被告Dazzyの指示に従って、原告各写真を改変した上で、改変した原告各写真を用いて原告の氏名表示のない広告ページを作成し、セブン&アイ出版に上記広告ページのデータを送付してロエン誌に掲載させたことは、いずれも原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害するものではない。
 したがって、この点に関する原告の主張はいずれも理由がない。
6 結論
 以上のとおり、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 東海林保
 裁判官 今井弘晃
 裁判官 勝又来未子


(別紙省略)
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