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【事件名】経営支援ソフトテンプレートの著作物性事件(2) 【年月日】平成27年10月28日 知財高裁 平成26年(ネ)第10116号 著作権に基づく差止等請求控訴事件 (原審・東京地裁平成24年(ワ)第24628号) (口頭弁論終結日 平成27年9月16日) 判決 控訴人 X 訴訟代理人弁護士 深道祐子 同 丸茂浩 被控訴人 アイ・ティ・エル株式会社 訴訟代理人弁護士 山田義雄 同 秋山一弘 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、別紙目録記載の製品の販売、頒布、広告及び展示をしてはならない。 3 被控訴人は、控訴人に対し、1000万円及びこれに対する平成24年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 5 仮執行宣言 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人による別紙目録記載の製品(以下「被控訴人製品」という場合がある。)の販売が、控訴人が被控訴人との間で平成18年4月1日に締結した業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)に基づいて作成した著作物である「標準テンプレートおよび文書化モデルサンプル」と題する書面(以下「本件書面」という。)及び本件書面を基に制作された著作物である「テンプレート」(以下「本件テンプレート」という。)の著作権侵害行為に当たるなどとして、著作権法112条1項に基づいて、被控訴人製品の販売等の差止めを求めるとともに、@主位的に、上記著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償4500万円(平成18年から平成24年までの損害額)、予備的に、本件業務委託契約に基づく未払ロイヤリティ3645万2578円(平成20年4月から平成24年1月までの分)、A控訴人が被控訴人との間で平成18年7月1日に締結した販売インセンティブ基本契約(以下「本件インセンティブ契約」という。)に基づく未払インセンティブ2641万0399円(平成19年3月分48万1000円、同年4月から平成20年3月までの分448万4241円及び平成20年4月から平成24年1月までの分2144万5158円の合計額)、B不当利得返還請求に係る上記@及びAと同額の利得の一部請求として1000万円(ただし、上記Bに係る請求は、上記@及びAに係る請求の予備的請求)及びこれに対する平成24年3月1日(催告の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原判決は、控訴人主張の被控訴人による本件書面及び本件テンプレートに係る著作権侵害の事実は認められず、また、控訴人主張の未払ロイヤリティ及び未払インセンティブに係る発生原因事実も認められないとして、控訴人の請求をいずれも棄却した。 控訴人は、原判決を不服として本件控訴を提起した。 2 前提事実(証拠の摘示のない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。) (1)ア 控訴人は、公認会計士である。 イ 被控訴人は、企業における生産、物流、会計などの各業務機能を最適化するためのソフトウェアに関する企画、開発、販売等を目的とする株式会社である。 (2) 被控訴人は、フィンランドのQPR社(QPR Software Plc.)から、同社が開発した業務プロセス可視化ツールソフト「QPR ProcessGuide」(以下「QPRプロセスガイド」という場合がある。)、「QPR ScoreCard」(以下「QPRスコアカード」という場合がある。)などの製品の販売権、日本語版の制作販売権等を取得し、日本語版の上記製品等を販売している(甲6、7、9)。 QPRプロセスガイドは、会社組織などの業務の流れをフローチャートの形式(業務フロー図)で表現することができ、業務フロー図をインターネットを経由して閲覧できる機能、業務フロー図を印刷できる機能などを備えたソフトであり、業務フロー図で使用できる図形は、属性と関連付けられて登録されており、また、ユーザーが各図形ごとに独自の属性を新たに追加設定したり、属性を変更する作業(以下「マスター設定」という。)を行う機能も備えている(甲9)。 (3) 控訴人と被控訴人は、平成18年4月1日、同日付け業務委託契約書(甲3)を作成して、次の各条項を含む本件業務委託契約を締結した。 ア 1条(業務委託) (ア) 被控訴人は、被控訴人の商品である「QPR ProcessGuide」販売促進のための「日本版SOX法対応テンプレート」モデルを作成することを目的として、控訴人に対し、「プロセスガイドの販売促進用テンプレート制作」に関するコンサルティング業務(以下「本件業務」という。)を委託し、控訴人はこれを受託する(1項、2項)。 (イ) 本件業務は、次の各号の業務から構成されるものとする(3項)。 「(1) テンプレートモデル作成のための企業モデルの概念を提供する。 (2) テンプレートモデル作成のための資料を提供する。 @販売(受注〜回収) A購買(発注〜支払) B在庫(受入・払出、実地棚卸、仕掛品計上) C会計(現金出納、決算) (3) テンプレートモデル作成のためのRCMサンプル資料を提供する。 @定時支払手続き (4) テンプレートモデル完成のための内容確認、検査を支援する。 (5) テンプレートモデルを利用した内部統制整備の手順書作成のための資料を提供する。」 イ 2条(報酬及び費用) (ア) 1条に定める本件業務の対価は、231万円(消費税を含む。)とし、控訴人は当該金額の請求書を被控訴人に交付する(1項)。 (イ) 被控訴人は、1条2項に定める「日本版SOX法対応テンプレート」を直接販売した場合は実売価格の50%を、販売パートナーを通じ間接的に販売した場合は同パートナーへの卸価格の50%をロイヤリティとして控訴人に支払う(2項)。 (ウ) 被控訴人は、「日本版SOX法対応テンプレート」の販売実績を毎月末締めで控訴人に報告し、控訴人は、被控訴人の報告に基づき被控訴人に請求書を交付する(3項)。 (エ) 被控訴人は、1項及び3項に定める控訴人の請求に基づき、控訴人から請求書の交付を受けた翌月末日までに、控訴人の指定する銀行口座に振り込んで支払をする(4項)。 ウ 5条(実施期間) 本件業務の実施期間は2006年4月1日から2006年4月30日までとする。 エ 7条(著作権) 本件業務を遂行するに当たり、控訴人又は被控訴人が、単独で新規に報告書、プログラムその他の資料(以下「新規著作物」という。)を作成した場合、その著作権及び著作者人格権は、それぞれ単独に帰属するものとし、共同で作成した場合は、共同又は共有の著作物として、控訴人及び被控訴人双方に帰属するものとする(1項)。 オ 12条(契約の解除) 控訴人及び被控訴人は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じたときは、相手方に対して何らの催告を要さず、契約の全部又は一部を解除することができる(1項)。 「(6) 甲乙間の信頼関係が破壊されるに至ったとき」 (4) 控訴人と被控訴人は、平成18年7月1日、同日付け販売インセンティブ基本契約書(甲4)を作成して、次の各条項を含む本件インセンティブ契約を締結した。 ア 1条(定義) (ア) 本件インセンティブ契約の対象となる製品は、本件業務委託契約1条2項に定める「日本版SOX法対応テンプレート」モデル(以下「日本版SOXテンプレート」という。)を同梱した被控訴人の下記製品(以下「QPR製品」という。)とする(1項)。 「@ QPR ProcessGuide A QPR ScoreCard」 (イ) 本件インセンティブ契約で規定するインセンティブは、「日本版SOXテンプレート」のロイヤリティに加算的に支払われる性質のものである(2項)。 イ インセンティブ(2条) (ア) 被控訴人は、本件インセンティブ契約の対象となる製品について、被控訴人の顧客及び被控訴人の販売パートナーから得た売上げ(在庫としてパートナーから受注した売上げを含む。)のうち、「QPR製品本体」の実売価格の5%に相当する金額をインセンティブとして控訴人に支払う(1項)。 (イ) パッケージ化され複数の製品が一体となって供給される製品に係る売上げについては、当該パッケージを構成する各製品の定価を積算し、実販売額との割合に応じて按分計算を行い、インセンティブの対象となる被控訴人の売上げを算出する(2項)。 (ウ) 製品の出荷後、1年間を経過した後に被控訴人が被控訴人の顧客及び被控訴人の販売パートナーを通じたエンドユーザーから得た追加ライセンスに係る売上げは、インセンティブの対象範囲から除外する(3項)。 (エ) 3項において、被控訴人がその顧客に対してレンタル契約により製品を提供した場合は、その顧客との間において初回に締結したレンタル契約期間をインセンティブ計算の対象期間とする(4項)。 (オ) 前項各号の定めに関わらず、控訴人及び被控訴人別途協議の上、特定の顧客に関するインセンティブの取扱いにつき、個別に設定することができる(5項)。 ウ インセンティブの計算及び支払(3条) (ア) 被控訴人は、被控訴人の事業年度の四半期単位(6月、9月、12月及び3月各締切り)で当該四半期に被控訴人が獲得した「QPR製品」の売上げに基づき、控訴人に支払うインセンティブを計算し、控訴人に通知する。控訴人は、被控訴人の通知に基づき、被控訴人に対し、翌月15日までに請求書を発行する(1項)。 (イ) 被控訴人は、各締切りの翌月末日までに、控訴人の指定する銀行口座にインセンティブを振り込んで支払う(2項)。 エ 有効期間(5条) 本件インセンティブ契約の有効期間は、契約締結日から1年間とする。ただし、期間満了の1か月前までに控訴人又は被控訴人のいずれからも別段の意思表示のないときは、同一の条件をもって更に1年間継続するものとし、その後も同様とする(1項)。 (5) 控訴人は、本件業務委託契約に基づいて、2006年3月13日付けの本件書面(甲1)を作成し、被控訴人に交付した。 (6) 被控訴人は、平成18年9月ころから、「日本版SOX法対応ソリューション QPR J−SOX」という名称のソフトウェア製品(以下、単に「QPR J−SOX」という。)に、本件書面を基に作成したQPR J−SOXで使用できる「日本版SOX法対応テンプレート」という名称の入力参照事例としてのテンプレートをインポートして同梱した製品の販売を開始した(甲7、乙5の1)。 QPR J−SOXは、平成18年法律第65号(証券取引法等の一部を改正する法律。同年6月14日公布)による改正後の金融商品取引法24条の4の4第1項所定の「内部統制報告書」の作成及び提出等を上場会社等に義務づけた「内部統制報告制度」(いわゆる「日本版SOX法」)に対応できるように、日本語版のQPRプロセスガイドを最適化したソフトウェア製品であり、QPRプロセスガイドにはなかった機能である、内部統制報告書に必要とされる業務記述書、RCM(リスクコントロールマトリクス)等の文書をエクセルシートに出力できる機能を有する「ToolBox」という名称の外付けプログラム(以下「本件ツールボックス」という。)を備えている(甲9)。 (7) 被控訴人は、控訴人に対し、本件業務の対価として231万円を支払ったほかに、平成18年10月31日から平成20年5月15日までの間、19回にわたり、本件業務委託契約に基づくロイヤリティ及び本件インセンティブ契約に基づくインセンティブとして、合計1989万6494円を支払った(乙3、5ないし21(枝番のあるものは枝番を含む。))。 (8)ア 控訴人は、平成24年2月28日到達の内容証明郵便で、被控訴人に対し、「日本版SOX法対応テンプレート」に関し、被控訴人が平成18年9月販売分から平成20年1月販売分までの販売実績の一部しか報告せず、同年2月分以降の販売実績を一切報告していないとして、平成24年2月28日時点での本件業務委託契約に基づく未払ロイヤリティの一部として3953万9293円及び本件インセンティブ契約に基づく未払インセンティブの一部として2796万0365円の合計6749万9658円の支払を求める催告をした(甲5の1、2)。 イ 被控訴人は、平成24年3月16日付け内容証明郵便で、控訴人に対し、本件業務委託契約に基づいて発生したロイヤリティ及び本件インセンティブ契約に基づいて発生したインセンティブは全て控訴人に支払済みであり、平成20年2月以降「日本版SOX法対応テンプレート」の販売は一切行っておらず、同年4月以降インセンティブの発生原因となる販売も一切行っていないとして、控訴人に対するロイヤリティ及びインセンティブの未払はない旨を回答するとともに、控訴人が根拠のない請求をしたこと、被控訴人が控訴人に対して提起した別件の訴訟の件を含む控訴人の一連の行為は、控訴人及び被控訴人間の信頼関係を破壊する行為に当たるとして、本件業務委託契約12条1項6号に基づき本件業務委託契約を解除し、本件インセンティブ契約も解除する旨の意思表示をした(乙22)。 ウ 控訴人は、平成24年8月28日、本件訴訟を提起した。 3 争点 (1) 著作権侵害に基づく請求 ア 本件テンプレートの著作権者(争点1−1) イ 被控訴人による本件書面及び本件テンプレートの著作権侵害の有無等(争点1−2) ウ 控訴人の損害額(争点1−3) (2) 本件業務委託契約に基づくロイヤリティ請求 平成20年4月から平成24年1月までの間の被控訴人による本件テンプレートの販売に係る本件業務委託契約に基づくロイヤリティの支払義務の存否等(争点2) (3) 本件インセンティブ契約に基づくインセンティブ請求 ア 被控訴人の株式会社TKC(以下「TKC社」という。)に対する「日本版SOX法対応テンプレート」の販売に係る本件インセンティブ契約に基づくインセンティブの支払義務の存否等(争点3−1) イ 平成19年4月から平成20年3月までの間の被控訴人によるQPRJ−SOXの販売に係る本件インセンティブ契約に基づくインセンティブの未払額等(争点3−2) ウ 平成20年4月から平成24年1月までの間の被控訴人によるQPRJ−SOXの販売に係る本件インセンティブ契約に基づくインセンティブの支払義務の存否等(争点3−3) (4) 不当利得返還請求 ロイヤリティ及びインセンティブ相当額についての不当利得の成否(争点4) 第3 争点に関する当事者の主張 1 著作権侵害に基づく請求 (1) 控訴人の主張 ア 本件テンプレートの著作権者(争点1−1) (ア) 本件書面は、控訴人が、自らの内部統制報告制度に関する知識に基づいて、標準仕様のQPRプロセスガイドを日本版SOX法に対応させるプログラムを作成するための設計作業における実例サンプルとして作成したものであるが、既に存在するコンピューターソフトに具体的な使用例としての情報を入力しただけのいわゆる「ひな形」(入力参照事例)としてのみ作成したものではなく、日本版SOX法に対応していなかったQPRプロセスガイドを日本版SOX法に対応させるためのマスター設定や本件ツールボックス等に関する要件定義資料ないし業務設計資料として作成したものである。本件書面には、業務フローとRCM等の関係性をQPRプロセスガイドのデータベースに投影するためのデータの投入あるいは抽出を可能とすることや、利用者の便宜を考慮してエクセル形式でデータの外部出力を可能とする本件ツールボックスに関する提案が記載されている。 そして、本件書面は、言語及び図形の著作物であり、その著作者は控訴人である。 (イ) 本件テンプレートは、書式例、使用サンプル等の入力参照事例としてのテンプレートと本件ツールボックス等の外付けのプログラムないしアドオンツールを含む著作物である。 本件テンプレートを構成する入力参照事例としてのテンプレートと本件ツールボックス等は、いずれも、控訴人が作成した本件書面を基にして制作されたものであって、控訴人を著作者とする著作物であり、少なくとも控訴人を共同著作者とする著作物であるから、控訴人は、本件テンプレートについて単独の著作権又は少なくとも共同著作権を有する。 すなわち、被控訴人は、控訴人から本件書面によって提供された業務要件(要件定義資料ないし業務設計資料)に基づいて、機械的な単純作業として、本件テンプレートのプログラム開発を行ったにすぎない。本件書面がQPR J−SOXにおけるマスター設定や本件テンプレートを構成する本件ツールボックス等に関する要件定義資料ないし業務設計資料であることは、「内部統制有効性基本評価に関する基本要件とQPR J−SOXの対応状況一覧」(甲21)に示すとおりである。また、被控訴人作成の「QPR J−SOX説明資料(2)」(甲9)に、「上記のように、X氏の資料(文書のみ)をもとに、QPR製品のフローの登録を行うとともに、リスクやコントロールを定義できるようにマスター設定を追加したり、業務記述書やRCMが出力できるように外付けのプログラム製品(ToolBox)を開発し、QPR J−SOXという製品化作業を行った」との記載があることからも明らかなとおり、本件ツールボックスは、控訴人が作成した本件書面を基に制作されたものである。 そして、控訴人は、標準仕様のQPRプロセスガイドを日本版SOX法に対応させるための基本構想と要件定義作業及び完成テスト作業において、主要かつ中心的な役割を担っていたから(甲8、9、22、27、28等(枝番のあるものは枝番を含む。))、本件テンプレートの著作者又は少なくとも共同著作者であり、その著作権又は少なくとも共同著作権を有する。 イ 被控訴人による本件書面及び本件テンプレートの著作権侵害の有無等(争点1−2) (ア) 本件テンプレートは、前記ア(イ)のとおり、入力参照事例としてのテンプレートと本件ツールボックス等とから構成されている。 QPR J−SOXの稼動画面(被控訴人作成の甲6及び7に示されたもの)には、原判決別紙対照表(以下「本件対照表」という。)の「同一箇所」欄の左欄に記載された本件書面の該当箇所と同一の内容が、同表の「内容」欄に記載のとおり表示されているように、上記稼動画面の多数の画面において、控訴人が作成した本件書面と同じ表現が使用されていることからすると、QPR J−SOXには、本件書面を基にして制作された入力参照事例としてのテンプレートが使用されており、本件書面は、QPR J−SOXに組み込まれている。 また、QPR J−SOXには、本件ツールボックス等が必ず搭載され、組み込まれている。本件ツールボックス等がなければ、QPR J−SOXを内部統制報告制度に用いることはできない。 そうすると、本件書面及び本件テンプレートは、QPR J−SOXに組み込まれているといえるから、被控訴人によるQPR J−SOXの製造は、本件書面及び本件テンプレートの複製ないし翻案に当たる。 (イ)a 控訴人が被控訴人から報告を受けたQPR J−SOXの販売先は、40社にすぎないにもかかわらず、被控訴人作成の甲7には、2008年(平成20年)11月現在におけるQPR J−SOXの国内導入実績が60社以上であるとの記載があり、また、甲6には、2009年(平成21年)9月時点におけるQPR J−SOX導入企業の実績が100社以上であるとの記載があり、その中には控訴人が販売先として報告を受けていない日本ユピカ株式会社(以下「日本ユピカ」という。)が挙げられている。なお、日本ユピカと同様に三菱ガス化学株式会社(以下「三菱ガス化学」という。)のグループ会社である株式会社JSPについては、三菱ガス化学とは別にQPR J−SOXの販売先として報告を受けており、このことは、日本ユピカについての報告漏れの事実を示すものである。 加えて、被控訴人が平成19年から平成22年まで内部統制に係るセミナーを継続的に開催していたこと、エス・エス・ジェイ株式会社(以下「SSJ」という。)やキヤノンITソリューションズ株式会社(以下「キヤノン」という。)のウェブサイトでQPR J−SOXが販売されていることなどからすると、被控訴人が平成20年以降控訴人の許諾を得ずにQPR J−SOXを製造、販売したことは明らかである。 被控訴人によるQPR J−SOXの上記製造、販売は、控訴人が有する本件書面及び本件テンプレートの著作権(複製権ないし翻案権)の侵害行為に該当する。 b これに対し被控訴人は、入力参照事例としてのテンプレート(「日本版SOX法対応テンプレート」)は、QPR J−SOXにおいて必要不可欠なものではなく、上記テンプレートがなくても、マスター設定などを行うことにより、QPR J−SOXを使用することができるものであり、甲6及び7に記載された販売実績は、「日本版SOX法対応テンプレート」(入力参照事例としてのテンプレート)を同梱していないQPR J−SOXの販売実績を含めたものである旨主張する。 しかしながら、上記テンプレートがなくても、マスター設定などを行うことにより、QPR J−SOXを使用することができることは一般論として誤りでないかもしれないが、現実に標準仕様のQPRJ−SOXを内部統制報告制度に使用できるようにするための設定をユーザーサイドで行うことは事実上不可能であって、QPR J−SOXに上記テンプレートが必要不可欠であるといえるから、被控訴人の上記主張は、この点において失当である。 また、QPR J−SOXには、本件テンプレートを構成する本件ツールボックス等が組み込まれ、本件ツールボックス等を同梱していないQPR J−SOXは存在しないから、被控訴人の上記主張は、そもそも、被控訴人によるQPR J−SOXの製造、販売が、控訴人が有する本件テンプレートの著作権の侵害行為に該当することを否定する理由とはならない。 (ウ) 被控訴人は、平成20年以降現在に至るまで、控訴人の許諾を得ずにQPR J−SOXを販売し、控訴人が有する本件書面及び本件テンプレートの著作権の侵害行為を継続しているから、被控訴人によるQPR J−SOX(被控訴人製品)の販売等を差し止める必要がある。 ウ 控訴人の損害額(争点1−3) (ア) QPR J−SOXの販売価格は一製品当たり500万円であり、控訴人は、被控訴人による本件書面及び本件テンプレートの著作権の侵害行為により、QPR J−SOX一製品当たり少なくともその1割に当たる50万円の損害を被った。 そして、前記イ(イ)aのとおり、QPR J−SOXは、平成18年の販売開始から平成21年までの3年間に100社以上の販売実績があるにもかかわらず(甲6、7)、被控訴人が控訴人に販売の事実を報告したのは40社分にすぎず、さらに、以後、平成24年までに少なくとも30社以上の販売実績が加わっていると考えられるから、被控訴人による上記著作権の侵害行為により、控訴人が平成18年から平成24年までの間に被った損害額は、次のとおり、4500万円を下らない。 販売数量90本(100−40+30)×50万円=4500万円 (イ) したがって、被控訴人は、控訴人に対し、本件書面及び本件テンプレートの著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として4500万円の支払義務がある。 (2) 被控訴人の主張 ア 本件テンプレートの著作権者(争点1−1)の主張に対し (ア) 本件書面が言語及び図形の著作物であり、その著作者が控訴人であることは認めるが、本件書面が、QPRプロセスガイドを日本版SOX法に対応させるためのマスター設定や本件ツールボックス等に関する要件定義資料ないし業務設計資料であるとの点は争う。 甲21は、内部統制有効性基本評価に関する基本要件とQPR J−SOXの対応状況を確認のためにまとめたものであり、QPR J−SOXに本件書面の記載事項と共通する部分があったとしても、その共通する部分は、内部統制報告に係る書籍等で使われているありふれた表現であるから、創作性は認められない。 (イ) 控訴人は、入力参照事例としてのテンプレートと本件ツールボックス等の外付けのプログラムないしアドオンツールから構成される本件テンプレートは、控訴人が作成した本件書面を基にして制作されたものであって、控訴人を著作者とする著作物であり、少なくとも控訴人を共同著作者とする著作物であるから、控訴人は、本件テンプレートについて単独の著作権又は少なくとも共同著作権を有する旨主張する。 控訴人主張の本件テンプレートのうち、入力参照事例としてのテンプレート(「日本版SOX法対応テンプレート」)が、控訴人が作成した本件書面を基にして制作されたものであって、控訴人と被控訴人が共同で制作した著作物であることは認めるが、本件ツールボックスが控訴人の著作物あるいは控訴人及び被控訴人の共同著作物であるとの点は争う。被控訴人が本件業務委託契約に基づき控訴人に作成を依頼した「日本版SOX法対応テンプレート」モデルは、QPR J−SOXの利用方法の一つのひな形(モデル)であり、本件ツールボックスは、これに含まれていない。 本件ツールボックスは、内部統制報告制度に必要な書類(業務記述書、RCM等)の出力等のために、外付け製品として被控訴人が独自に開発したプログラムであり、控訴人はその開発に関与していないから、控訴人は、本件ツールボックスの著作者でも、共同著作者でもない。控訴人が本件ツールボックス等の外付けプログラムの開発に関与したことの根拠として挙げるノートパソコンの画像(甲26ないし28(いずれも枝番を含む。))にも、本件ツールボックス等の外付けプログラムは入っておらず、控訴人が上記開発に関与した事実はない。 したがって、控訴人が本件テンプレートについて単独の著作権又は少なくとも共同著作権を有するとの控訴人の上記主張は、失当である。 イ 被控訴人による本件書面及び本件テンプレートの著作権侵害の有無等(争点1−2)の主張に対し (ア) QPR J−SOXを紹介する資料(甲6、7)中のコンピュータ画面の表示において、本件対照表が示すように、本件書面と同一の記載部分があることは認めるが、QPR J−SOXの多数の稼動画面に本件書面と同じ表現が使用され、入力参照事例としてのテンプレート(「日本版SOX法対応テンプレート」)が使用されているとの点は争う。 入力参照事例としてのテンプレート(「日本版SOX法対応テンプレート」)は、QPR J−SOXにおいて必要不可欠なものではなく、上記テンプレートがなくても、マスター設定などを行うことにより、QPR J−SOXを使用することができるものであり、上記テンプレートは、QPR J−SOXの付属品にすぎない。被控訴人は、入力参照事例としてのテンプレート(「日本版SOX法対応テンプレート」)を同梱していないQPR J−SOXも販売している。 また、QPR J−SOXには、本件ツールボックス等が組み込まれているが、前記ア(イ)のとおり、控訴人は、本件ツールボックスの著作者ではなく、共同著作者でもない。本件ツールボックスに記載されている単語等に本件書面と共通する部分があったとしても、その共通する部分は、内部統制報告に係る書籍等で使われているありふれた表現であるから、創作性は認められない。 したがって、被控訴人が入力参照事例としてのテンプレート(「日本版SOX法対応テンプレート」)を同梱していないQPR J−SOXを製造、販売する行為は、控訴人主張の著作権の侵害行為に該当しない。 (イ)a 被控訴人は、被控訴人が販売した入力参照事例としてのテンプレート(「日本版SOX法対応テンプレート」)を同梱したQPR J−SOXの販売について全て控訴人に報告しており、被控訴人にはそれ以外の販売実績はないし、被控訴人は、平成20年4月以降上記テンプレートを同梱したQPR J−SOXを販売していない。なお、被控訴人において、入力参照事例としてのテンプレート(「日本版SOX法対応テンプレート」)を同梱していないQPR J−SOXの販売についての報告義務がないことは、本件業務委託契約及び本件インセンティブ契約の文言上明らかである。 控訴人が指摘する甲6及び7に記載された販売実績は、入力参照事例としてのテンプレート(「日本版SOX法対応テンプレート」)を同梱していないQPR J−SOXの販売実績を含めた数値である。日本ユピカは、三菱ガス化学のグループ会社として、同社がグループ会社で使用する分も含めて購入したライセンスを用いてQPR J−SOXを使用しているため、被控訴人は、日本ユピカを被控訴人製品の導入企業に挙げたものであり、同社を導入企業に挙げたからといって、同社に上記テンプレートを同梱したQPR J−SOXを販売したことが裏付けられるものではない。 b 入力参照事例としてのテンプレート(「日本版SOX法対応テンプレート」)を同梱したQPR J−SOXの販売実績が上がらなくなった最大の要因は、内部統制報告制度そのもののコンサルティングサービスの需要が大幅に減少したことによる(乙24、25)。平成18年6月に成立・公布された金融商品取引法により内部統制報告制度が導入され、上場企業等に内部統制報告書の作成及び提出が義務づけられ、併せて監査法人又は公認会計士による内部統制報告書の監査が求められるようになった。3月決算の会社の場合、平成21年3月期決算(平成20年4月〜平成21年3月の会計年度)から内部統制報告制度が適用されるため、上場企業等は、金融商品取引法が施行される前から、制度に対応したソフト、コンテンツの導入などの準備を行い、コンサルタント等に協力、支援を依頼する状況となった。各社における内部統制報告制度に対応するための準備等は、平成20年ころ一段落し、その後の上記ソフト、コンテンツの利用は、新規上場希望会社などに限られ、需要が激減した。また、金融庁は、当初の基準を大幅に緩和したため、内部統制報告制度そのものが、“高度なソフトウェアを導入しなければ対応出来ない”というものではなくなった。ユーザーにおいては、100万円のテンプレート(付属品である入力参照事例としてのテンプレート(「日本版SOX法対応テンプレート」))がなくてもQPR J−SOXを使用することができることから、上記テンプレートの同梱を不要と判断し、その結果、平成20年4月以降、上記テンプレートを同梱したQPR J−SOXの販売実績がなくなった。 なお、被控訴人は、QPR J−SOXの販売活動自体は継続しているが、上記テンプレートを同梱していないQPR J−SOXの販売実績も平成21年12月までしかなく、平成22年1月以降、その販売実績はない。 c 以上のとおり、控訴人の主張する著作権侵害の事実は存在せず、控訴人の主張する被控訴人によるQPR J−SOX(被控訴人製品)の販売等の差止めを認めるべき理由はない。 ウ 控訴人の損害額(争点1−3)の主張に対し 入力参照事例としてのテンプレート(「日本版SOX法対応テンプレート」)を同梱したQPR J−SOXの販売価格が一製品当たり500万円であったことは認めるが、その余の控訴人の主張は争う。 2 本件業務委託契約に基づくロイヤリティ請求(平成20年4月から平成24年1月までの間の被控訴人による本件テンプレートの販売に係る本件業務委託契約に基づくロイヤリティの支払義務の存否等(争点2)) (1) 控訴人の主張 ア 被控訴人は、平成20年4月以降、QPR J−SOXを販売しているにもかかわらず、その販売実績を控訴人に報告していない。 イ 被控訴人の報告によると、平成18年9月から平成20年3月までの19か月分の「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOXの売上げに対する本件業務委託契約2条2項に基づくロイヤリティは1505万6500円であるから、同年4月から平成24年1月までの46か月分のQPR J−SOXの販売に係る本件テンプレートの販売についての同項に基づくロイヤリティの額は、3645万2578円(1505万6500円÷19か月×46か月)を下らない。 したがって、被控訴人は、控訴人に対し、本件業務委託契約に基づき、上記ロイヤリティ3645万2578円の支払義務がある。 (2) 被控訴人の主張 被控訴人は、平成20年4月以降、入力参照事例としてのテンプレート(「日本版SOX法対応テンプレート」)を同梱したQPR J−SOXを販売しておらず、本件業務委託契約1条2項に定める「日本版SOX法対応テンプレート」を販売していないから、控訴人主張のロイヤリティは発生していない。 3 本件インセンティブ契約に基づくインセンティブ請求 (1) 控訴人の主張 ア 被控訴人のTKC社に対する「日本版SOX法対応テンプレート」の販売に係る本件インセンティブ契約に基づくインセンティブの支払義務の存否等(争点3−1) (ア) 本件インセンティブ契約に基づくインセンティブは、QPR J−SOXを購入した企業が取得するライセンス数に応じて発生する著作権料としての性質を有するものであるから、被控訴人は、「QPRプロセスガイド」ないしQPR J−SOXと「日本版SOX法対応テンプレート」の販売の順序を問わず、「日本版SOX法対応テンプレート」の使用を可能とするライセンスの売上げに応じたインセンティブを控訴人に支払う義務を負うというべきである。このような場合にインセンティブが発生しないとすると、被控訴人は、まず、「QPRプロセスガイド」ないしQPR J−SOXを販売し、その直後に「日本版SOX法対応テンプレート」の販売を行えば、インセンティブの支払を容易に潜脱することができることとなり、不合理である。 被控訴人は、平成19年3月にTKC社に対して「日本版SOX法対応テンプレート」を販売したにもかかわらず、そのライセンスに係る本件インセンティブ契約に基づくインセンティブを控訴人に支払っていない。 (イ) TKC社の企業規模からすれば、TKC社が取得したライセンスの数に応じたインセンティブの額は、被控訴人が平成19年12月にQPR J−SOXを販売した日本マタイ株式会社への販売実績を基に計算して算出される48万1000円を下らず、被控訴人は、本件インセンティブ契約に基づき、控訴人に対して同額の支払義務を負う。 なお、本件インセンティブ契約2条3項は、「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱した製品の出荷から1年以上経過した後に追加ライセンスを販売した場合の規定であり、追加ライセンスではなく、「日本版SOX法対応テンプレート」をQPRプロセスガイドとは別に単独で販売したTKC社の事例に、同条項は適用されない。 イ 平成19年4月から平成20年3月までの間の被控訴人によるQPRJ−SOXの販売に係る本件インセンティブ契約に基づくインセンティブの未払額等(争点3−2) (ア) 平成19年4月から平成20年3月までの間の被控訴人による「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOXの販売(追加ライセンスの販売を含む。)に係る本件インセンティブ契約に基づくインセンティブの未払額は、448万4241円(甲11)である。 したがって、被控訴人は、控訴人に対し、本件インセンティブ契約に基づき、同額の支払義務がある。 (イ) これに対し被控訴人は、平成19年7月ころ、控訴人との間で、本件インセンティブ契約に関し、同年4月分以降の「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOX(「QPR J−SOX基本パッケージ」)の販売分のインセンティブの支払は行わないこととし、上記QPR J−SOX基本パッケージ及び追加ライセンスを販売した場合に、その追加ライセンスの販売分に対するインセンティブのみを従来どおり支払う旨の合意(以下「本件減額合意」という。)をしたから、インセンティブの未払はない旨主張する。 しかしながら、平成19年4月販売分以降のインセンティブの減額は、控訴人と被控訴人との間で当時計画されていた「内部統制サンプリングツール」(以下、単に「サンプリングツール」という。)の事業化による収益でインセンティブの減額分が填補されるという条件付きで了承されたにすぎず、本件減額合意に係る合意書面は作成されておらず、最終的な合意に至っていないから、控訴人と被控訴人との間で本件減額合意は成立していない。また、その後、上記事業は頓挫し、上記条件が成就することもなかった。 したがって、被控訴人の上記主張は理由がない。 ウ 平成20年4月から平成24年1月までの間の被控訴人によるQPRJ−SOXの販売に係る本件インセンティブ契約に基づくインセンティブの支払義務の存否等(争点3−3) 平成20年4月から平成24年1月までの間の被控訴人による「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOXの販売に係る本件インセンティブ契約に基づくインセンティブの額は、2144万5158円(885万7783円÷19か月×46か月)を下らない。 したがって、被控訴人は、控訴人に対し、本件インセンティブ契約に基づき、同額の支払義務がある。 エ 小括 以上によれば、被控訴人は、控訴人に対し、本件インセンティブ契約に基づき、インセンティブ合計2641万0399円(前記ア(イ)、イ(ア)及びウの合計額)の支払義務がある。 (2) 被控訴人の主張 ア 被控訴人のTKC社に対する「日本版SOX法対応テンプレート」の販売に係る本件インセンティブ契約に基づくインセンティブの支払義務の存否等(争点3−1)の主張に対し 被控訴人が本件インセンティブ契約に基づき支払義務を負うインセンティブは、本件業務委託契約1条2項に定める「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱した「QPRプロセスガイド」又は「QPRスコアカード」の売上げを対象とするものである(本件インセンティブ契約1条1項、2条2項)。 しかるに、被控訴人は、TKC社に対し、平成16年に既に「QPRプロセスガイド」を販売し、平成19年3月に「日本版SOX法対応テンプレート」のみを追加で販売したにすぎず、この時点で「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱した「QPRプロセスガイド」又は「QPRスコアカード」を販売したものではないから、TKC社に対する「日本版SOX法対応テンプレート」の販売について、本件インセンティブ契約に基づくインセンティブは発生していない。 イ 平成19年4月から平成20年3月までの間の被控訴人による「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOXの販売に係るインセンティブの未払額等(争点3−2)の主張に対し QPR J−SOXの標準製品(「QPR J−SOX基本パッケージ」)に入っているライセンス数は、QPRプロセスガイドが3、QPRスコアカードが1、WEB(パソコンに製品をインストールしなくてもウェブブラウザから使用できるライセンス)が5である。被控訴人は、顧客が上記ライセンス数を超える追加ライセンスを必要とする場合、追加ライセンスを加えて販売しており、その場合の販売価格は、標準製品よりもが高くなるが、控訴人から、ライセンスが多く売れても控訴人の取り分がロイヤリティだけであるのはフェアではないという趣旨の話が出たため、控訴人と被控訴人は、平成18年7月1日に本件インセンティブ契約を締結するに至ったものである。 その後、被控訴人は、本件インセンティブ契約の変更に関する協議を控訴人と行い、平成19年7月ころ、控訴人と被控訴人との間で、同年4月分以降の「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOX(「QPR J−SOX基本パッケージ」)の販売分のインセンティブの支払は行わないこととし、上記QPR J−SOX基本パッケージ及び追加ライセンスを販売した場合に、その追加ライセンスの販売分に対するインセンティブのみを従来どおり支払う旨の合意(本件減額合意)が成立した。 控訴人と被控訴人との間で本件減額合意が成立したことは、控訴人作成の被控訴人の担当者あてのメール(乙4)の記載内容や、被控訴人は、平成19年4月以降の販売分について「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOX基本パッケージの販売分に対するインセンティブの支払をせず、上記QPR J−SOX基本パッケージ及び追加ライセンスを販売した場合に、その追加ライセンスの販売分に対するインセンティブのみを従来どおり控訴人に支払ってきたが、控訴人は、これに対し異議等を述べることがなかったことから、明らかである。 以上のとおり、本件減額合意の結果、平成19年4月以降の「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOX基本パッケージの販売分に対するインセンティブは発生していないから、控訴人主張のインセンティブの未払はない。 ウ 平成20年4月から平成24年1月までの間の被控訴人によるQPRJ−SOXの販売に係る本件インセンティブ契約に基づくインセンティブの支払義務の存否等(争点3−3)の主張に対し 被控訴人は、平成20年4月以降、「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOXの販売を行っていないから、控訴人主張のインセンティブは発生していない。 4 不当利得返還請求(ロイヤリティ及びインセンティブ相当額についての不当利得の成否(争点4)) (1) 控訴人の主張 被控訴人は、控訴人に対してロイヤリティ3645万2578円(前記2(1)イ)及びインセンティブ2641万0399円(前記3(1)エ)の合計6286万2977円の支払義務があるにもかかわらず、その支払をせず、同額と相当額の利得をし、その結果、控訴人に同額の損失が生じた。 したがって、控訴人は、被控訴人に対し、同額の不当利得返還請求権を有する。 (2) 被控訴人の主張 控訴人の主張は争う。 第4 当裁判所の判断 1 著作権侵害に基づく請求について (1) 認定事実 前記第2の2の前提事実と証拠(甲1ないし4、6ないし9、22、26ないし29、乙1ないし3、5ないし21、26(枝番のあるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。 ア(ア) 被控訴人は、平成14年ころから、フィンランドのQPR社から、同社が開発した業務プロセス可視化ツールソフト「QPR ProcessGuide」(「QPRプロセスガイド」)、「QPR ScoreCard」(「QPRスコアカード」)などの製品の販売権、日本語版の制作販売権等を取得し、日本語版の上記製品等を販売していた。 (イ) 平成18年3月に、証券取引法等の一部を改正する法律案が国会に提出され、同年6月7日に成立し、同月14日、「平成18年法律第65号」(以下「平成18年改正法」という。)として公布された。平成18年改正法による改正後の金融商品取引法(同改正法により「証券取引法」から法律の題名が変更された。)は、上場会社等は、事業年度ごとに、「当該会社の属する企業集団及び当該会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要なものとして内閣府令で定める体制について、内閣府令で定めるところにより評価した報告書」である「内部統制報告書」を作成して、有価証券報告書と併せて内閣総理大臣に提出しなければならないこと(24条の4の4)、当該内部統制報告書には、特別の利害関係のない公認会計士又は監査法人の監査証明を受けなければならないこと(193条の2第2項)などを規定し、内部統制報告制度(いわゆる「日本版SOX法」)を導入した。内部統制報告制度に係る金融商品取引法の改正規定は、平成20年4月1日以後に開始する事業年度から適用され(平成18年改正法附則15条)、3月決算の会社の場合、平成21年3月期決算から内部統制報告制度が実際に適用されることとなった。 (ウ) 被控訴人は、平成18年3月ころ、上場企業等が内部統制報告制度導入に対応するための準備作業を行う状況にあったことから、日本語版のQPRプロセスガイドを内部統制報告制度に利用できるように最適化したソフトウェア製品を開発し、販売することを企画した。 被控訴人は、そのころ、上記ソフトウェア製品の利用を容易にし、その販売を促進するため、同製品の利用方法のひな形(モデル)としてのテンプレート(入力参照事例としてのテンプレート)を制作し、同製品に同梱することを考え、企業の内部統制の構築や監査を中心に会計コンサルティング業務を行っていた公認会計士の控訴人に対し、上記テンプレートの制作に関するコンサルティング業務を委託することとした。 (エ) 控訴人と被控訴人は、平成18年4月1日、同日付け業務委託契約書(甲3)を作成して、被控訴人が「QPR ProcessGuide」販売促進のための「日本版SOX法対応テンプレート」モデルを作成することを目的として、控訴人に対し、「プロセスガイドの販売促進用テンプレート制作」に関するコンサルティング業務(本件業務)を委託し、控訴人がこれを受託する旨の本件業務委託契約を締結した。 本件業務委託契約は、@本件業務は、テンプレートモデル作成のための「企業モデルの概念」の提供、「テンプレート資料」(販売、購買、在庫、会計)の提供及び「RCMサンプル資料」の提供、テンプレートモデル完成のための「内容確認、検査」の支援、テンプレートモデルを利用した内部統制整備の手順書作成のための「資料」の提供の業務から構成されること(1条3項)、A本件業務の対価は、231万円(消費税を含む。)とすること(2条1項)、B被控訴人は、1条2項に定める「日本版SOX法対応テンプレート」を直接販売した場合は実売価格の50%を、販売パートナーを通じ間接的に販売した場合は同パートナーへの卸価格の50%をロイヤリティとして控訴人に支払うこと(2条2項)、C被控訴人は、「日本版SOX法対応テンプレート」の販売実績を毎月末締めで控訴人に報告し、控訴人は、被控訴人の報告に基づき被控訴人に請求書を交付し、被控訴人は、控訴人から請求書の交付を受けた翌月末日までに上記ロイヤリティを支払うこと(同条3項、4項)などを内容としている。 イ 控訴人は、本件業務委託契約に基づいて、2006年3月13日付けの「標準テンプレートおよび文書化モデルサンプル」と題する書面(本件書面)を作成し、被控訴人に交付した。本件書面(甲1)は、「資料解説」と「資料」から構成され、その内容は、以下のとおりである。 (ア) 本件書面の「資料解説」には、次のような記載がある。 「作成目的 この作業は、業務処理統制の文書化作業に関しての標準テンプレートおよびテンプレートを利用したRCMを含む文書化モデルを提示することを目的として作成された。」 「作成資料 作成された資料は次の七つである。 T.標準機能テンプレート・モデル 仕入購買の処理プロセス一覧【資料@】 U.文書化モデル 1.請求照合〜支払サブプロセス @ 業務フロー(請求照合〜支払)【資料A】 A プロセス記述書(請求照合〜支払)【資料B】 B リスク・コントロール・マトリクス(請求照合〜支払)【資料C】 2.請求照合タスク @ 業務フロー(請求照合)【資料D】 A プロセス記述(請求照合)【資料E】 3.購買関連業務に関する内部統制整備状況質問書【資料F】」 「文書化モデルの概観 文書化モデルは、事業の提示に次の5階層を想定し、上記の作成資料は、第4階層−請求照合〜支払サブプロセス、第5階層−請求照合タスクの2階層において作成している。 Layer−1(第1階層)−事業レベル Layer−2(第2階層)−主要プロセス Layer−3(第3階層)−プロセス Layer−4(第4階層)−サブプロセス Layer−5(第5階層)−タスク 作成された二つの業務フローは、請求照合処理業務において階層構造を持っている。上位階層では請求照合から支払までを、下位階層では請求照合の詳細作業を示している。 プロセス記述書は、各業務フローに沿って実働のコントロールを表示しながら記述されている。 RCM(リスク・コントロール・マトリクス)は、これら2階層を総括し第4階層レベルで記載されている。これは、本モデルでは一部しか第5階層まで提示していないことのほか、リスク評価は処理の詳細を捉えつつも処理の概要を捉えながらリスク評価することが望ましいことによる。 テスト資料は、内部統制整備状況に関する質問書とした。運用状況に関する質問書を省略した理由は特になし。」 「標準テンプレート・モデル 標準テンプレート・モデルは、販売購買などの各処理サイクルにおける標準的な業務処理プロセス(サブプロセスレベル)とそれらの業務処理に対応する典型的なリスクとアサーションを提示している。 利用者は、この標準テンプレートと比較しながら自社の業務プロセスを定義し、現実に実施されているコントロールがどのリスクを軽減する効果があるか検証しながら文書化を実施する。 ただし、あくまでも標準的なリスクを示すものであり、業種の特殊性、業務の複雑性によっては例示されないリスクが潜在する可能性があり、その場合を想定したものではない。」 (イ) 本件書面には、次のような「資料」が添付されている。 a 「文書化モデルの概観」 Layer−1ないしLayer−5の各階層の関係及びこれと作業フロー、プロセス記述、RCMなどとの関連付けを図示したものである。 b 「テンプレート・モデルで想定する構築作業手順」 構築作業手順をフロー図で示したものである。 c 「ツール機能イメージ」 構築に当たり必要となる各種定義作業とこれに関わる各資料との関係を図示したものである。 d 「基本機能の概要」 「基本機能の概要」を、次のとおり箇条書きで示したものである。 「1.アクセス権限の設定 2.作業履歴の保持 特定作業者の一定期間における作業内容 3.マスタ変更履歴の保持 一定期間におけるマスタ項目の登録・変更・削除の履歴 4.マスタ登録状況の一覧表示 特定時点における登録状況の一覧表示 5.マスタの一括登録・変換 外部データ等を利用したマスタおよびテスト結果等の登録項目の一括登録・変更 6.外部データからのフローチャートの自動作成 プロセス登録項目を外部データから取込みフォローチャートを部分的ないし完全に自動生成させる 7.データの外部出力 Excel形式等で登録内容を外部出力することが出来る」 e 「請求照合〜支払サブプロセスに係る業務フロー」 上記サブプロセスに係る業務フロー図のひな形である。 f 「請求照合処理タスクに係る業務フロー」 上記タスクに係る業務フロー図のひな形である。 g 「仕入購買標準テンプレート」 仕入購買の主要プロセスにつき、これに属するプロセス、サブプロセス及びタスクを列挙し、それぞれに想定されるリスク例及びそのアサーションを一覧表としたひな形である。 h 「プロセス記述書」 請求照合〜支払サブプロセスと、請求照合タスクのそれぞれについて、これに属する各プロセス名称を列挙し、その処理内容、コントロール内容及びコントロール属性を一覧表とした「プロセス記述書」(業務記述書)のひな形である。 i 「RCM」 請求照合〜支払サブプロセスにおいて想定されるリスクを列挙し、これに対するコントロールやその属性等を一覧表とした「RCM」のひな形である。 j 「購買関連手続きに関する内部統制整備状況質問書」 質問書のひな形である。 ウ(ア) 被控訴人は、QPRプロセスガイドには、業務フロー図の印刷機能はあったが、各図形の属性に登録された内容を一覧形式で印刷する機能はなく、内部統制報告書に必要とされる業務記述書、RCM等の文書の出力に対応できなかったため、QPRプロセスガイドの業務フロー図上に「リスク」、「コントロール」の図形を追加するマスター設定を行い、業務フロー図上に入力された情報(「プロセスステップ」の説明欄に入力された業務記述、リスク、コントロールの登録内容等)から業務記述書、RCM等の文書を自動的に作成し、エクセルシートに出力できる機能を有する外付けのプログラム(本件ツールボックス)を制作し(甲7.9)、このプログラムをQPRプロセスガイドに組み込んだソフトウェア製品「QPR J−SOX」を開発した。 また、被控訴人は、本件書面を基にして、QPR J−SOXで利用できる業務フロー図、「プロセス記述書」(業務記述書)、RCM等のひな形のテンプレート(入力参照事例としてのテンプレート)である「日本版SOX法対応テンプレート」を制作した。ユーザーは、QPR J−SOXにインポートされた「日本版SOX法対応テンプレート」(QPR J−SOXの稼動画面に「QPR J−SOXサンプルモデル」のファイル名で表示される。)の業務フロー図のひな形を利用することにより、独自に業務フロー図を描く手間を省くことができ、また、内部統制報告制度における一般的なリスクの属性情報が入力できるように事前にマスター設定されているので、リスクやコントロールの業務フロー図への入力を簡単に行うことができる。もっとも、実際には、ユーザーごとに業務フローやリスク等の属性が異なるため、それに併せてマスター設定された内容を変更したり、追加設定を行うことになる。 (イ) 控訴人は、入力参照事例としてのテンプレートである「日本版SOX法対応テンプレート」の開発過程において、被控訴人の担当者とメール等で打合せをしたり、本件書面を基に、QPRプロセスガイドにテンプレートの一部を入力した試作モデルを分析し、検証を行うなどした。 エ 控訴人と被控訴人は、平成18年7月1日、同日付け販売インセンティブ基本契約書(甲4)を作成して、本件インセンティブ契約を締結した。 本件インセンティブ契約は、@本件業務委託契約1条2項に定める「日本版SOX法対応テンプレート」モデルを同梱したQPRプロセスガイド又はQPRスコアカード(「QPR製品」)の売上げがあった場合には、被控訴人が控訴人に対して、「日本版SOX法対応テンプレート」のロイヤリティに加算して、「QPR製品本体」の実売価格の5%に相当する金額をインセンティブとして控訴人に支払うこと(1条、2条1項)、A被控訴人は、被控訴人の事業年度の四半期単位(6月、9月、12月及び3月各締切り)で当該四半期に被控訴人が獲得した「QPR製品」の売上げに基づき、控訴人に支払うインセンティブを計算し、控訴人に通知し、控訴人は、被控訴人の通知に基づき請求書を発行し、被控訴人は、各締切りの翌月末日までに上記インセンティブを支払うこと(3条)などを内容としている。 本件インセンティブ契約の趣旨は、QPR J−SOXの標準製品に入っているライセンス数は、QPRプロセスガイドが3、QPRスコアカードが1、WEB(パソコンに製品をインストールしなくてもウェブブラウザから使用できるライセンス)が5であるが、顧客が上記ライセンス数を超える追加ライセンスを必要とする場合、被控訴人は、追加ライセンスを加えて販売し、その場合の販売価格は、標準製品よりも高くなる関係にあるため、「日本版SOX法対応テンプレート」モデルを同梱した上記QPR製品を販売したときは、ロイヤリティのほかに、ライセンス数に応じたテンプレートの使用料をインセンティブとして追加的に支払うというものである。 オ(ア) 被控訴人は、平成18年9月ころ、「QPR J−SOX」及び入力参照事例としてのテンプレートである「日本版SOX法対応テンプレート」をインポートして同梱した「QPR J−SOX」の販売を開始した。 被控訴人は、控訴人に対し、本件業務の対価として231万円を支払ったほか、平成18年9月から平成20年3月までに販売した「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOX(QPR J−SOX基本パッケージ)及び追加ライセンスに対する本件業務委託契約に基づくロイヤリティ及び本件インセンティブ契約に基づくインセンティブとして、平成18年10月31日から平成20年5月15日までの間、19回にわたり、合計1989万6494円を支払った。これらの支払については、被控訴人が、「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOX(QPR J−SOX基本パッケージ)及び追加ライセンスの販売実績、その販売実績に対するロイヤリティ及びインセンティブの額(ロイヤリティについては毎月末日締め、インセンティブについては6月、9月、12月及び3月の各末日締め)を記載した計算書を控訴人に送付し、控訴人は、上記計算書記載の額に消費税額を加えた請求金額を記載した請求書を作成して、被控訴人に送付し、被控訴人がその請求金額を控訴人の預金口座に振込送金することによって行われた。この間、被控訴人は、平成20年3月に平成18年度支払分及び平成19年度支払分に計算間違いがあったことを発見したとして再計算を行い、再計算後の差額を記載した計算書(乙21の1)を控訴人に送付し、控訴人は、上記計算書記載の額に消費税額を加えた請求金額を記載した請求書(乙21の2)を作成して、被控訴人に送付し、被控訴人は、平成20年5月15日、その請求金額を控訴人の預金口座に振込送金した。 (イ) 被控訴人は、前記(ア)の各計算書において、「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOX(QPR J−SOX基本パッケージ)の定価を500万円、このうち、QPR J−SOX基本パッケージ本体の定価を400万円、「日本版SOX法対応テンプレート」の定価を100万円とすることを前提に、ロイヤリティについては、「日本版SOX法対応テンプレート」の販売価格(上記定価から値引き後のもの)の50%相当額をロイヤリティの額として記載し、インセンティブについては、@平成19年3月までの販売分については、「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOX基本パッケージのみを販売した場合又は追加ライセンスのみを販売した場合は、QPR J−SOX基本パッケージ本体の販売価格(上記定価から値引き後のもの)又は追加ライセンスの販売価格それぞれの5%相当額をインセンティブの額として記載し、上記QPR J−SOX基本パッケージ及び追加ライセンスを同時に販売した場合は、上記基本パッケージ本体の販売価格及び追加ライセンスの販売価格それぞれの5%相当額の合計額をインセンティブの額として記載し、A同年4月以降の販売分については、上記QPR J−SOX基本パッケージ及び追加ライセンスを同時に販売した場合又は追加ライセンスのみを販売した場合は、追加ライセンスの販売価格の5%相当額をインセンティブの額として記載し、上記QPR J−SOX基本パッケージのみを販売した場合は、インセンティブの額を「0」(乙11の1、14の1、18の1、20の1)と記載した。 控訴人は、前記(ア)のとおり、被控訴人から送付を受けた計算書記載のロイヤリティ及びインセンティブの額に消費税額を加えた請求金額を記載した請求書を被控訴人に送付して、被控訴人から、その請求金額の支払を受け、上記計算書記載のロイヤリティ及びインセンティブの額について、異議等を述べることはなかった。 (2) 本件テンプレートの著作権者(争点1−1)について 控訴人は、@本件テンプレートは、入力参照事例としてのテンプレートと本件ツールボックス等の外付けのプログラムないしアドオンツールから構成される著作物である、A上記@の入力参照事例としてのテンプレートと本件ツールボックス等は、いずれも、控訴人が作成した本件書面を基にして制作されたものであり、控訴人を著作者とする著作物であり、少なくとも控訴人を共同著作者とする著作物であるから、控訴人は、本件テンプレートについて単独の著作権又は少なくとも共同著作権を有する旨主張する。これに対し被控訴人は、控訴人主張の本件テンプレートのうち、入力参照事例としてのテンプレート(「日本版SOX法対応テンプレート」)が、控訴人が作成した本件書面を基にして制作されたものであって、控訴人と被控訴人が共同で制作した著作物であることは認めているのに対し、本件ツールボックスが控訴人の著作物あるいは控訴人及び被控訴人の共同著作物であることは否認し、争っている。 そこで、以下において、本件ツールボックスが控訴人の著作物又は共同著作物に該当するかどうかについて判断する。 ア 前記(1)の認定事実によれば、本件ツールボックスは、ソフトウェア製品であるQPRプロセスガイドを内部統制報告書に必要とされる業務記述書、RCM等の文書の出力に対応できるようにするため、QPRプロセスガイドの業務フロー図上に入力された情報(「プロセスステップ」の説明欄に入力された業務記述、リスク、コントロールの登録内容等)から業務記述書、RCM等の文書を自動的に作成し、エクセルシートに出力できる機能を有する外付けのプログラムであるから、本件ツールボックスは、「電子計算機」(コンピュータ)を「機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(著作権法2条1項10号の2)として「プログラムの著作物」(同法10条1項9号)に該当することが認められる。 しかるところ、著作権法が保護の対象とする「著作物」は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)をいい、アイデアなど表現それ自体でないもの又はありふれた表現など表現上の創作性がないものは、著作権法による保護は及ばないものと解される。そして、「プログラムの著作物」における表現は、プログラム言語によって記述されるプログラムの具体的記述に表れるものといえる。 これを本件についてみるに、本件ツールボックスは、業務記述書、RCM等の文書を自動的に作成し、エクセルシートに出力できる機能を有するものであるから、エクセルのVBA(Visual Basic for Applications)等を利用してプログラミングされたものと推認されるところ、前記(1)の認定事実によれば、本件ツールボックスのプログラムの具体的な記述は、被控訴人の担当者が職務上行ったものと認められるから、「プログラムの著作物」としての本件ツールボックスは、職務著作(著作権法15条2項)に該当し、その著作者は、被控訴人であるというべきである。 イ これに対し控訴人は、本件ツールボックスは、控訴人が作成した本件書面を基に制作されたものであり、被控訴人は、控訴人から本件書面によって提供された業務要件(要件定義資料ないし業務設計資料)に基づいて、機械的な単純作業として、プログラム開発を行ったにすぎず、また、QPRプロセスガイドを日本版SOX法に対応させるための基本構想と要件定義作業及び完成テスト作業において、控訴人が主要かつ中心的な役割を担っていたから、控訴人は、本件ツールボックスの著作者又は少なくとも共同著作者である旨主張する。 しかしながら、本件書面に添付された「資料」の「基本機能の概要」中には、「7.データの外部出力」として、「Excel形式等で登録内容を外部出力することが出来る」(前記(1)イ(イ)d)との記載があり、上記記載は、本件ツールボックスの機能と一致するとはいえるものの、それ自体は、QPRプロセスガイドに上記機能を備えさせるというアイデアを示したものにすぎず、プログラム言語によって記述されるプログラムを具体的に記述した表現であるということはできない。このほか、本件書面の記載事項全体(前記(1)イ)をみても、上記機能を備えたプログラムの具体的な記述に関する記載や示唆はない。 また、被控訴人作成の「QPR J−SOX説明資料 (2)」(甲9)には、「上記のように、X氏の資料(文書のみ)をもとに、QPR製品のフローの登録を行うとともに、リスクやコントロールを定義できるようにマスター設定を追加したり、業務記述書やRCMが出力できるように外付けのプログラム製品(ToolBox)を開発し、」との記載部分があるが、その記載部分に続き、「QPR J−SOXという製品化作業を行ったのは、ITLでありX氏ではない。よって、このQPR関連部分はITLの著作物である。」との記載があることに照らすと、上記記載部分は、被控訴人において控訴人が本件ツールボックスの著作者又は共同著作者であることを認めたことや、控訴人が本件ツールボックスのプログラムの具体的な記述に関与したことの根拠となるものではない。 さらに、前記(1)ウ(イ)のとおり、控訴人は、入力参照事例としてのテンプレートである「日本版SOX法対応テンプレート」の開発過程において、被控訴人の担当者とメール等で打合せをしたり、本件書面を基に、QPRプロセスガイドにテンプレートの一部を入力した試作モデルを分析し、検証を行うなどした事実が認められるが、上記試作モデルには、本件ツールボックスが組み込まれていた形跡はないこと(甲26ないし28(枝番を含む。))に照らすと、上記事実から、控訴人が本件ツールボックスのプログラムの具体的な記述に関与したことを認めることはできない。 他に控訴人が本件ツールボックスのプログラムの具体的な記述に関与したことを認めるに足りる証拠はない。 したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。 ウ 以上のとおり、本件ツールボックスのプログラムは、被控訴人を単独の著作者とする著作物であって、控訴人の著作物又は控訴人及び被控訴人の共同著作物であるものと認めることはできないから、本件テンプレートのうち、本件ツールボックスについて控訴人が単独の著作権又は少なくとも共同著作権を有するとの控訴人の主張は、理由がない。 (3) 被控訴人による本件書面及び本件テンプレートの著作権侵害の有無等(争点1−2) ア 控訴人は、QPR J−SOXの稼動画面の多数の画面には、本件対照表に示すとおり、控訴人が作成した本件書面と同じ表現が使用され、QPR J−SOXには、本件書面を基にして制作された入力参照事例としてのテンプレートが使用され、本件書面がQPR J−SOXに組み込まれていること、QPR J−SOXには、本件ツールボックス等が組み込まれていることからすると、被控訴人によるQPR J−SOXの製造は、控訴人が著作権又は共同著作権を有する本件書面及び本件テンプレートの複製ないし翻案に当たる旨主張するので、以下において判断する。 (ア) 本件書面が控訴人を著作者とする著作物であり、控訴人がその著作権を有すること、控訴人主張の本件テンプレートのうち、入力参照事例としてのテンプレートが、控訴人及び被控訴人の共同著作物であり、控訴人が共同著作権を有することは争いがない。 そして、前記(1)の認定事実によれば、入力参照事例としてのテンプレートである「日本版SOX法対応テンプレート」は、本件書面を基にして制作されたものであり、本件書面に添付された「資料」を構成する業務フロー図、「プロセス記述書」(業務記述書)、RCM等のひな形の記載内容が上記テンプレートがインポートされて、同梱されたQPRJ−SOXの稼動画面上に表示されるものと認められるから、上記テンプレートは、本件書面とは表現形式は異なるものの、本件書面に依拠して、その記載内容を有形的に再製したものといえる。 そうすると、被控訴人による上記テンプレートの製造は、控訴人が著作権を有する本件書面及び控訴人が共同著作権を有する同テンプレートの複製ないし翻案に当たるものと認められる。 (イ) 控訴人は、QPR J−SOXの稼動画面の多数の画面には、本件対照表に示すとおり、控訴人が作成した本件書面と同じ表現が使用され、QPR J−SOXには、本件書面を基にして制作された入力参照事例としてのテンプレートが使用され、本件書面がQPR J−SOXに組み込まれているから、被控訴人によるQPR J−SOXの製造は、控訴人が著作権を有する本件書面及び控訴人が共同著作権を有する上記テンプレートの複製ないし翻案に当たる旨主張する。 そこで検討するに、控訴人が挙げる本件対照表は、本件書面(甲1)の記載内容と被控訴人作成の甲6及び甲7に掲載されたQPR J−SOXの稼動画面の表示内容を対比し、内容が共通する部分を指摘したものであるが、上記共通する部分は、本件書面における創作性のある表現であるものとは認められない。その理由は、原判決12頁11行目から14頁3行目までに記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決の上記記載中の「本件パンフレット1」を「甲6」と、「本件パンフレット2」を「甲7」とそれぞれ改める。)。このほか、入力参照事例としてのテンプレートである「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱していないQPR J−SOXの稼動画面において、本件書面における創作性のある表現が表示されていることを認めるに足りる証拠はない。 また、上記テンプレートを同梱していないQPR J−SOXの稼動画面において、上記テンプレートにおける創作性のある表現が表示されていることを認めるに足りる証拠もない。 したがって、被控訴人によるQPR J−SOXの製造が控訴人が著作権を有する本件書面及び控訴人が共同著作権を有する上記テンプレートの複製ないし翻案に当たるとの控訴人の主張は、採用することができない。 (ウ) 次に、控訴人主張の本件テンプレートのうち、本件ツールボックスについて控訴人が著作権又は共同著作権を有するものとは認められないことは、前記(2)ウ認定のとおりであるから、被控訴人によるQPR J−SOXの製造は、控訴人が著作権又は共同著作権を有する本件ツールボックスの複製ないし翻案に当たるものと認めることはできない。 (エ) 以上によれば、被控訴人によるQPR J−SOXの製造が控訴人が著作権又は共同著作権を有する本件書面及び本件テンプレートの複製ないし翻案に当たるとの控訴人の主張は、理由がない。 イ 前記ア(エ)によれば、被控訴人によるQPR J−SOXの製造、販売が控訴人主張の本件書面及び本件テンプレートの著作権(複製権ないし翻案権)の侵害行為に該当するものということはできない。 したがって、控訴人主張の被控訴人によるQPR J−SOXの販売等の差止めを認めるべき理由はない。 (4) 控訴人の損害額(争点1−3) 前記(3)ア(ア)認定のとおり、被控訴人による入力参照事例としてのテンプレートである「日本版SOX法対応テンプレート」の製造は、控訴人が著作権を有する本件書面及び控訴人が共同著作権を有する上記テンプレートの複製ないし翻案に当たるものと認められるから、被控訴人が控訴人の許諾又は同意を得ずに上記テンプレートを同梱したQPR J−SOXを製造する行為は、控訴人の上記著作権及び共同著作権の侵害行為を構成するものといえる。 控訴人は、QPR J−SOXは、平成18年の販売開始から平成21年までの3年間に100社以上の販売実績があるにもかかわらず(甲6、7)、被控訴人が控訴人に販売の事実を報告したのは40社分にすぎず、さらに、以後、平成24年までに少なくとも30社以上の販売実績が加わっていると考えられるから、被控訴人による上記著作権の侵害行為により、控訴人が平成18年から平成24年までの間に被った損害額は、4500万円(販売数量90本×50万円)を下らない旨主張するので、以下において判断する。 ア(ア) 甲7(「日本版SOX法対応ソリューション QPR J−SOX」と題するチラシ)には、次のような記載がある。 「☆国内導入実績 QPR J−SOXは2006年5月から販売を開始し、これまで企業規模・市場・業種を問わず、幅広くご利用頂いております。 2008年11月現在 60社以上」(表面) (イ) 甲6(「内部統制支援ソリューション QPR J−SOX&TAMICのご紹介」と題するスライド資料)のスライド6には、「QPRJ−SOX導入企業(敬称略・順不同) 2009年9月時点」、「実績100社以上」との記載があり、「〈関東地区〉」の導入企業として、「株式会社横浜銀行」等26社の企業名が、「〈関西地区〉」の導入企業として、「田淵電機株式会社」等4社の企業名が記載されている。 (ウ) 被控訴人が控訴人に対して本件業務委託契約及び本件インセンティブ契約に基づいて「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOX(QPR J−SOX基本パッケージ)の販売実績(追加ライセンスのみの販売分及びテンプレートのみの販売分を含む。)を報告した計算書(乙1、5ないし20の各1)及び控訴人作成の計算表(甲11)によれば、上記計算書記載の取引数は、平成18年9月から平成20年3月までの間に合計95回、納入先(テンプレートのみの販売分を含む。)の企業数は合計43である。 イ(ア) 前記ア(ア)及び(イ)のとおり、甲7には、2008年(平成20年)11月現在の「QPR J−SOX」の「国内導入実績」が60社以上である旨の記載があり、甲6には、2009年(平成21年)9月時点の「QPR J−SOX導入企業」が「実績100社以上」である旨の記載がある。 他方で、甲6及び甲7には、導入された「QPR J−SOX」が、入力参照事例としてのテンプレートである「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したものであることを明示した記載はない。 加えて、@「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOXにおいては、上記テンプレートの業務フロー図のひな形を利用することにより、独自に業務フロー図を描く手間を省くことができ、また、内部統制報告制度における一般的なリスクの属性情報が入力できるように事前にマスター設定されているので、リスクやコントロールの業務フロー図への入力を簡単に行うことができるが、上記テンプレートを同梱していない場合であっても、マスター設定を行うことにより、リスクやコントロールの業務フロー図への入力を行い、内部統制報告制度に必要とされる業務記述書、RCM等の文書の作成は可能であること、ATKC社は、平成19年3月に上記テンプレートのみを購入していること(乙7の1ないし3)に照らすと、上記テンプレートは、QPR J−SOXの付属品として位置づけられるものであり、QPR J−SOXにおいて必要不可欠なものとはいえない。 さらに、被控訴人の前代表者のA(以下「A」という。)作成の陳述書(乙26)中には、平成20年以降、内部統制の運用に対する企業の理解が深まり、内部統制そのもののコンサルティングサービスの需要が大幅に減少するとともに、企業毎にその実情に合致した業務フローを作成しなければならないことが認識されるなどした結果、実際に営業で訪問して説明を行う際に、顧客から、「日本版SOX法対応テンプレート」は不要なのでその分値引きして欲しい旨の要求を受けることが多くなり、顧客において上記テンプレートを必要としなくなった結果、同年4月以降、上記テンプレートを同梱したQPR J−SOXの販売実績がなくなったこと、その後、平成22年1月以降は、上記テンプレートを同梱していないQPR J−SOXについても販売実績がなくなった旨の記載部分がある。この点、平成18年改正法が同年6月14日に公布され、内部統制報告制度に係る金融商品取引法の改正規定は、平成20年4月1日以後に開始する事業年度から適用され、3月決算の会社の場合、平成21年3月期決算から内部統制報告制度が実際に適用されることとなり、その適用前から、上場企業等において内部統制報告制度導入に対応するための準備作業が行われていたが、内部統制報告制度によって新たに内部統制報告書の作成及び提出が義務づけられ、当該内部統制報告書には、特別の利害関係のない公認会計士又は監査法人の監査証明を受けなければならなくなった状況下において(前記1(1)ア(イ)及び(ウ))、内部統制報告書の作成に必要とされる業務記述書、RCM等の文書のひな形である入力参照事例としての「日本版SOX法対応テンプレート」を利用することで、独自に業務フロー図を描く手間を省くことができ、内部統制報告書の作成に必要とされる業務記述書、RCM等の文書を簡単に作成することができることから、上記テンプレートに対する需要は高かったものと考えられる。しかし、内部統制報告制度が適用される上記事業年度が開始する前には、内部統制報告書の作成及び提出が義務づけられた上場企業等の多くは、上記準備作業を終え、その後、内部統制報告制度の運用が開始された以降は、各企業における制度に対する理解が深まり、ひな形があっても、結局は当該企業の実情に即した業務フロー図等を独自に構築しなければならないことが認識されるに至ったとしても不自然ではないこと、上記運用開始後の平成20年9月当時には、既に内部統制報告コンサルティングサービスに対する需要そのものが前年に比べ大幅に減少する傾向が現れていたこと(乙24)、被控訴人は、「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOX(QPR J−SOX基本パッケージ)の定価を500万円、このうち、QPR J−SOX基本パッケージ本体の定価を400万円、「日本版SOX法対応テンプレート」の定価を100万円に設定して販売し、「日本版SOX法対応テンプレート」分の定価の割合は基本パッケージ全体の定価の20%を占めていたこと(前記1(1)オ(イ))に照らすと、同年4月までの間に、「日本版SOX法対応テンプレート」に対する需要が急速に失われ、同月以降は、被控訴人において、その販売実績がなくなったとしても不自然とはいえない。このような事情を踏まえると、Aの陳述書の上記記載部分に特段不合理な点があるということはできない。 以上を総合すると、甲7記載の2008年(平成20年)11月現在の「QPR J−SOX」の「国内導入実績」(60社以上)及び甲6記載の2009年(平成21年)9月時点の「QPR J−SOX導入企業」の「実績」(100社以上)は、「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOXのみの導入実績を示したものと認めることはできず、むしろ、上記「国内導入実績」及び「実績」には、上記テンプレートを同梱していないQPR J−SOXの導入実績も含むものとうかがわれる。 そうすると、甲6及び7から直ちに被控訴人による「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOXの販売実績が平成20年11月現在で60社以上又は平成21年9月時点で100社以上であったことを認めることはできない。 (イ) 次に、証拠(甲13ないし15(枝番のあるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、平成18年から平成22年までにかけて、内部統制報告制度やQPR J−SOXの紹介を目的とするセミナーを継続的に開催し、ウェブサイト上のニュースでQPR J−SOXについて紹介されたこともあったこと、SSJが、平成19年6月に、QPR J−SOXのために用いられるテンプレートとして「Super Streamテンプレート」の販売を開始した旨の発表を行ったこと、キヤノンが、平成25年12月当時、「Super Stream専用テンプレート」を同梱したQPR J−SOXの販売を行っていたことが認められる。 しかしながら、被控訴人が上記のようなセミナーを開催したり、QPR J−SOXについてニュースで紹介されたことがあったことは、被控訴人がQPR J−SOXの販売活動を継続的に行っていたことを裏付けるものといえるとしても、被控訴人において平成20年4月以降に「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOXの販売実績が実際にあったことを直ちに裏付けるものではない。このことは、SSJやキヤノンによる販売活動の事実についても同様であるほか、SSJが販売していた「Super Streamテンプレート」は、「会計士グループが作成した内部統制に関する標準的な業務フローと想定されるリスクがあらかじめ定義された標準テンプレート」であり、その販売価格は1モジュール当たり30万円からとされていること(甲14)、キヤノンが販売していたQPR J−SOXに同梱された「Super Stream専用テンプレート」についても、スーパーストリーム株式会社によって作成されたものであること(甲15)に照らせば、これらのテンプレートと「日本版SOX法対応テンプレート」とが同一であるか否かについても、定かではないといわざるを得ない。 他に被控訴人による「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOXの販売実績が平成20年11月現在で60社以上又は平成21年9月時点で100社以上であったことを認めるに足りる証拠はない。 (ウ) これに対し控訴人は、平成20年4月以降も、被控訴人による「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOXの販売実績があったことの根拠として、被控訴人作成の甲7には、被控訴人による「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOXの販売実績が平成20年11月現在で60社以上であると記載されていること、甲6には、平成21年9月時点におけるQPR J−SOX導入企業の実績が100社以上であると記載され、その中には控訴人が販売先として報告を受けていない日本ユピカが挙げられていること、被控訴人が平成19年から平成22年まで内部統制に係るセミナーを継続的に開催していたこと、SSJやキヤノンのウェブサイトでQPR J−SOXが販売されていること、標準仕様のQPR J−SOXを内部統制報告制度に使用できるようにするための設定をユーザーサイドで行うことは事実上不可能であって、QPR J−SOXに上記テンプレートが必要不可欠であることなどの諸点を挙げる。 しかしながら、前記(ア)及び(イ)で説示したように、上記テンプレートは、QPR J−SOXの付属品として位置づけられるものであり、QPR J−SOXにおいて必要不可欠なものとはいえないし、甲7や甲6記載の「QPR J−SOX」の「国内導入実績」や「実績」には、上記テンプレートを同梱していないQPR J−SOXの導入実績も含むものとうかがわれるものであり、甲6に日本ユピカが導入企業の例として記載されているからといって直ちに同社に上記テンプレートを同梱したQPR J−SOXが販売されたことを認めることはできず(なお、被控訴人は、日本ユピカについては、三菱ガス化学のグループ会社として、同社の購入したQPR J−SOXを使用していると主張している。)、控訴人の挙げる他の点も、前記計算書記載の販売実績以外に、被控訴人において平成18年から平成24年までの間に上記テンプレートを同梱したQPR J−SOXの販売実績があったことを裏付けるものとはいえない。 ウ 以上によれば、被控訴人が控訴人に対して本件業務委託契約及び本件インセンティブ契約に基づいて「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOX(QPR J−SOX基本パッケージ)の販売実績(追加ライセンスのみの販売分及びテンプレートのみの販売分を含む。)を報告した計算書記載の販売実績(前記ア(ウ))以外に、被控訴人において平成18年から平成24年までの間に上記テンプレートを同梱したQPR J−SOXの販売実績があったことを認めるに足りる証拠はないから、控訴人の上記主張は、その前提において理由がない。 2 本件業務委託契約に基づくロイヤリティ請求(平成20年4月から平成24年1月までの間の被控訴人による本件テンプレートの販売に係る本件業務委託契約に基づくロイヤリティの支払義務の存否等(争点2))について 控訴人は、被控訴人には平成20年4月から平成24年1月までの間の被控訴人による本件テンプレートの販売に係る本件業務委託契約に基づくロイヤリティ3645万2578円の支払義務がある旨主張する。 しかしながら、前記1(4)ウと同様の理由により、被控訴人が平成20年4月から平成24年1月までの間に「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOXを販売したものと認めることはできず、本件業務委託契約1条2項に基づくロイヤリティの発生原因である「日本版SOX法対応テンプレート」を販売した事実があったものとは認められないから、控訴人の上記主張は理由がない。 3 本件インセンティブ契約に基づくインセンティブ請求について (1) 被控訴人のTKC社に対する「日本版SOX法対応テンプレート」の販売に係る本件インセンティブ契約に基づくインセンティブの支払義務の存否等(争点3−1)について 控訴人は、被控訴人は、平成19年3月にTKC社に対して「日本版SOX法対応テンプレート」を販売したから、本件インセンティブ契約に基づき、控訴人に対し、上記販売に係るインセンティブ48万1000円の支払義務を負う旨主張する。 ア そこで検討するに、本件インセンティブ契約2条1項は、被控訴人は、「本件インセンティブ契約の対象となる製品」について、被控訴人の顧客及び被控訴人の販売パートナーから得た売上げ(在庫としてパートナーから受注した売上げを含む。)のうち、「QPR製品本体」の実売価格の5%に相当する金額をインセンティブとして控訴人に支払う旨規定し、1条1項は、「本件インセンティブ契約の対象となる製品」は、本件業務委託契約1条2項に定める「日本版SOX法対応テンプレート」モデル(「日本版SOXテンプレート」)を同梱した「QPR製品」(「QPR ProcessGuide」及び「QPR ScoreCard」)である旨規定する。これらの規定によれば、「本件インセンティブ契約の対象となる製品」は、「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱した「QPR製品」(「QPR ProcessGuide」及び「QPR ScoreCard」)であって、「日本版SOX法対応テンプレート」単体は「本件インセンティブ契約の対象となる製品」に該当しないものと解されるから、本件インセンティブ契約2条1項所定のインセンティブは、被控訴人が「日本版SOX法対応テンプレート」のみを販売した場合には発生しないものと解される。 しかるところ、被控訴人は平成19年3月にTKC社に対して「日本版SOX法対応テンプレート」を販売したが(乙7の1ないし3)、上記「日本版SOX法対応テンプレート」は、「QPR製品」(「QPR ProcessGuide」及び「QPR ScoreCard」)に同梱した製品として販売されたものではなく、「本件インセンティブ契約の対象となる製品」に該当するものと認めることができない。 イ これに対し控訴人は、本件インセンティブ契約に基づくインセンティブは、QPR J−SOXを購入した企業が取得するライセンス数に応じて発生する著作権料としての性質を有するものであるところ、「QPRプロセスガイド」ないしQPR J−SOXを販売し、その直後に「日本版SOX法対応テンプレート」の販売を行えば、インセンティブの支払を容易に潜脱することができることとなり、不合理であるから、「QPRプロセスガイド」ないしQPR J−SOXと「日本版SOX法対応テンプレート」の販売の順序を問わず、「日本版SOXテンプレート」の販売があれば、被控訴人は、インセンティブを控訴人に支払う義務を負う旨主張する。 しかしながら、前記ア認定のとおり、本件業務委託契約1条1項、2条1項の規定によれば、「本件インセンティブ契約の対象となる製品」は、「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱した「QPR製品」(「QPR ProcessGuide」及び「QPR ScoreCard」)であって、「日本版SOX法対応テンプレート」単体は「本件インセンティブ契約の対象となる製品」に該当しないものと解される。 また、平成19年3月の被控訴人によるTKC社に対する「日本版SOX法対応テンプレート」の販売が、被控訴人がTKC社に対して「QPRプロセスガイド」ないしQPR J−SOXを販売した直後であることを認めるに足りる証拠はなく、控訴人が指摘するような不合理な事態が生じているものとは認められない。かえって、被控訴人は、被控訴人によるTKC社に対する「QPRプロセスガイド」の販売は平成16年である旨主張しており、被控訴人の主張を前提とすれば、被控訴人によるTKC社に対する「日本版SOX法対応テンプレート」の販売は、「QPRプロセスガイド」の販売の直後であるといえないことは明らかである。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 ウ 以上によれば、被控訴人が平成19年3月にTKC社に対して「日本版SOX法対応テンプレート」を販売したことによって本件インセンティブ契約2条1項所定のインセンティブが発生したものと認めることはできないから、被控訴人が上記販売に係るインセンティブの支払義務を負うとの控訴人の主張は、理由がない。 (2) 平成19年4月から平成20年3月までの間の被控訴人によるQPRJ−SOXの販売に係る本件インセンティブ契約に基づくインセンティブの未払額等(争点3−2)について 控訴人は、平成19年4月から平成20年3月までの間の被控訴人による「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOXの販売(追加ライセンスの販売を含む。)に係る本件インセンティブ契約に基づくインセンティブの未払額は448万4241円である旨主張する。これに対し被控訴人は、平成19年7月ころ、控訴人と被控訴人との間で、同年4月分以降の「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOX(「QPR J−SOX基本パッケージ」)の販売分のインセンティブの支払は行わないこととし、上記QPR J−SOX基本パッケージ及び追加ライセンスを販売した場合に、その追加ライセンスの販売分に対するインセンティブのみを従来どおり支払う旨の本件減額合意が成立し、本件減額合意により同月以降の上記QPR J−SOX基本パッケージの販売分に対するインセンティブは発生していないから、控訴人主張のインセンティブの未払はない旨主張する。 そこで、被控訴人主張の本件減額合意が成立したかどうかについて、以下において判断する。 ア 前記1(1)の認定事実と証拠(甲29、乙4ないし21、26(枝番のあるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば、次のような事実が認められる。 (ア) 控訴人と被控訴人は、平成18年7月1日、本件インセンティブ契約を締結した。 その後、平成19年4月ころ、被控訴人がQPR社から仕入れる同社の製品の仕入価格が値上げされるなど、被控訴人とQPR社間の取引条件が変更された。 これに伴い、被控訴人は、そのころ、控訴人に対し、本件インセンティブ契約に基づくインセンティブの支払条件等に関する協議をすることを申し入れ、控訴人と被控訴人との間で、メール等を通じて上記協議が行われた。 (イ) 控訴人と被控訴人の担当者B(以下「B」という。)との間で送受信された2007年(平成19年)7月12日付けメール(同メールに引用されたメールを含む。乙4)には、次のような記載がある。 a B作成の控訴人あてメール 「本件につきましてお詫びとご確認させていただきたいことがございます。ここまで弊社サイドでは以前先生よりいただいた下記のメールの趣旨として、インセンティブについては白紙とし、現在検討中のQPR以外の部分の付加価値にとって変わる形になったと勝手に解釈してしまっておりました。今回先生とのメールのやりとりにて私共との理解にずれがあるということに気がつきました。…つきましては先生が理解されております現在のインセンティブ体系は4月3日付にて私より打診させていただいた内容、算定対象から基本パッケージ部分を除くものとなりますでしょうか?…」 b 控訴人作成のBあてメール(上記aに対する返信) 「インセンティブ契約に関しては、QPR社と御社の契約内容の変更に伴い採算の見直しを受けて、基本パッケージ部分へのインセンティブに関してはお申し出通り本年4月以降は考慮しないことに合意したと承知しております。本件については口頭で合意し、特に何らかの文書の取り交わしは行われておりません。本件を受けて私から打合せをお願い申し上げました。打合せは、外部環境の変化を受けて、御社とのビジネスが一方的に縮小均衡に向かうのは取り望ましいことではないので、関連するサービス内容を機能強化して収益面で相互に拡大均衡を目指すための取り組みについての話し合いを呼びかけをさせて頂きました。結果開発費の件を除けば、当座経営者評価向けのサンプリング機能の追加に関して前向きのを検討行う方向となりました。というような理解で、インセンティブについて全面的に放棄するようなお話をした記憶はなく、御社の意向を受けて局面を打開しようと考えております。…」 c B作成の控訴人あてメール(上記bに対する返信) 「下記了解いたしました。私共にて勝手に勘違いをしておりました。誠に申し訳ありませんでした。早速、インセンティブを計算の上、ご案内させていただく所存です。…」 d 控訴人作成のBあてメール(上記cに対する返信) 「私の言動に誤解を招く要素があったとしたら大変申し訳ありませんでした。…何卒よろしくお願い申し上げます。」 (ウ) 被控訴人が平成19年7月以降に控訴人に送付した同年4月から平成20年3月まで各四半期ごとの販売分に係る各計算書(乙11の1、14の1、18の1、20の1)においては、インセンティブについて、「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOX基本パッケージ及び追加ライセンスを同時に販売した場合又は追加ライセンスのみを販売した場合は、追加ライセンスの販売価格の5%相当額をインセンティブの額として記載し、上記QPR J−SOX基本パッケージのみを販売した場合は、インセンティブの額を「0」と記載した。 控訴人は、被控訴人から送付を受けた上記計算書記載のインセンティブの額に消費税額を加えた請求金額を記載した請求書(乙11の2、14の2、18の2、20の2)を被控訴人に送付して、被控訴人から、その請求金額の支払を受け、上記計算書記載のインセンティブの額について、異議等を述べることはなかった。 イ 前記アの認定事実を前提に検討するに、@控訴人と被控訴人との間の本件インセンティブ契約に基づくインセンティブの支払条件等に関する協議の過程において、控訴人が被控訴人の担当者にあてたメール(乙4)中に、「インセンティブ契約に関しては、QPR社と御社の契約内容の変更に伴い採算の見直しを受けて、基本パッケージ部分へのインセンティブに関してはお申し出通り本年4月以降は考慮しないことに合意したと承知しております。」との記載があること(前記ア(イ)b)、A上記メールが送信された後の平成19年7月以降に、被控訴人が控訴人に送付した同年4月から平成20年3月まで各四半期ごとの販売分に係る各計算書には、インセンティブについて、「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOX基本パッケージ及び追加ライセンスを同時に販売した場合又は追加ライセンスのみを販売した場合は、追加ライセンスの販売価格の5%相当額をインセンティブの額として記載し、上記QPR J−SOX基本パッケージのみを販売した場合は、インセンティブの額を「0」と記載し、上記各計算書の送付を受けた控訴人は、上記計算書記載のインセンティブの額に消費税額を加えた請求金額を記載した請求書を被控訴人に送付し、被控訴人からその請求金額の支払を受け、上記計算書記載のインセンティブの額について、異議等を述べることはなかったこと(前記ア(ウ))を総合すると、控訴人は、平成19年7月ころ、本件インセンティブ契約に基づくインセンティブに関し、同年4月分以降の「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOX(「QPR J−SOX基本パッケージ」)の販売分のインセンティブの支払は行わないこととし、上記QPR J−SOX基本パッケージ及び追加ライセンスを同時に販売した場合又は追加ライセンスのみを販売した場合に、その追加ライセンスの販売分に対するインセンティブのみを支払う旨の被控訴人からの申入れを了承したものと認められるから、同年7月ころ、控訴人と被控訴人との間で本件減額合意が成立したものと認めるのが相当である。 ウ これに対し控訴人は、平成19年4月販売分以降のインセンティブの減額は、控訴人と被控訴人との間で当時計画されていた「内部統制サンプリングツール」(サンプリングツール)の事業化による収益でインセンティブの減額分が填補されるという条件付きで了承されたにすぎず、本件減額合意に係る合意書面は作成されておらず、最終的な合意に至っていないから、控訴人と被控訴人との間で本件減額合意は成立していない旨主張し、これに沿う控訴人作成の陳述書(甲29)の記載部分がある。 そこで検討するに、証拠(甲23ないし25、29、乙26(枝番のあるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば、@控訴人は、平成19年9月に、被控訴人に開発概要要件を交付してサンプリングツールの概要を示すなどし、控訴人と被控訴人との間で、サンプリングツールの開発に関する打合せが行われたこと、A控訴人は、そのころ、自らが経営する会計士事務所の名義で、被控訴人に対し、サンプリングツールの開発を依頼し、被控訴人は、同年10月15日ころ、サンプリングツールの開発に着手したが、当初予定していた開発スケジュールは大幅に遅れ、最終的に、平成20年5月にソフトウェアを完成させ、控訴人に納品したこと、Bその後、控訴人と被控訴人との間で、サンプリングツールに係るソフトウェアについての著作権の帰属やその販売主体等を巡って紛議が生じ、被控訴人は、同年12月、控訴人の関係会社(株式会社ERC)を相手方として、サンプリングツールの開発費用として780万円を請求する旨の別件訴訟(東京地方裁判所平成20年(ワ)第37084号)を提起し、控訴人の関係会社は、反訴を提起したこと、C最終的には、控訴人の関係会社が、サンプリングツールの開発費用として被控訴人に150万円を支払う一方、サンプリングツールに係る著作権を取得することを主な条件に、和解が成立したことが認められる。 上記認定事実によれば、控訴人と被控訴人との間でサンプリングツールの開発に関する協議が具体化したのは、平成19年9月以降であり、同年7月の時点において、サンプリングツールの内容やその開発スケジュール、販売主体や収益の配分方法等は、未だ具体的に定まっていなかったといえるから、同月の時点で、控訴人と被控訴人との間で、インセンティブの減額がサンプリングツールの事業化による収益でその減額分が填補されることを前提としていたものと認めることはできない。 したがって、控訴人の上記主張に沿う控訴人の陳述書の上記記載部分は措信することはできない。他に控訴人と被控訴人との間で本件減額合意が成立したことを覆すに足りる証拠はない。 エ 以上のとおり、控訴人と被控訴人との間において本件減額合意が成立したことが認められ、本件減額合意により、平成19年4月分以降の「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOX基本パッケージの販売分に対するインセンティブは発生していないというべきである。 したがって、被控訴人が上記販売に係るインセンティブの支払義務を負うとの控訴人の主張は、理由がない。 (3) 平成20年4月から平成24年1月までの間の被控訴人によるQPRJ−SOXの販売に係る本件インセンティブ契約に基づくインセンティブの支払義務の存否等(争点3−3)について 控訴人は、被控訴人には平成20年4月から平成24年1月までの間の被控訴人による「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOXの販売に係る本件インセンティブ契約に基づくインセンティブ2641万0399円の支払義務がある旨主張する。 しかしながら、前記1(4)ウと同様の理由により、被控訴人が平成20年4月から平成24年1月までの間に「日本版SOX法対応テンプレート」を同梱したQPR J−SOXを販売したものと認めることはできないから、控訴人の上記主張は理由がない。 4 不当利得返還請求(ロイヤリティ及びインセンティブ相当額についての不当利得の成否(争点4))について 控訴人は、被控訴人は、控訴人に対してロイヤリティ3645万2578円(前記2)及びインセンティブ2641万0399円(前記3(3))の合計6286万2977円の支払義務があるにもかかわらず、その支払をせず、同額と相当額の利得をし、その結果、控訴人に同額の損失が生じたから、控訴人は、被控訴人に対し、同額の不当利得返還請求権を有する旨主張する。 しかしながら、前記2及び3(3)認定のとおり、被控訴人において上記ロイヤリティ及びインセンティブの支払義務があるものとはいえないから、控訴人の上記主張は、その前提を欠くものであり、理由がない。 5 結論 以上の次第であるから、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 大鷹一郎 裁判官 田中正哉 裁判官 神谷厚毅 (別紙) 目録 製品名「日本版SOX法対応ソリューション」又は「QPR J−SOX」の製品 |
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