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【事件名】販促物「美術額絵シリーズ」事件(2)
【年月日】平成27年10月14日
 知財高裁 平成27年(ネ)第10041号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成25年(ワ)第32114号)
 (口頭弁論終結日 平成27年9月7日)

判決
控訴人 X
控訴人 株式会社ケイ・アソシエイツ
上記両名訴訟代理人弁護士 鈴木醇一
被控訴人 Y
訴訟代理人弁護士 緒方延泰
同 飯野毅一


主文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 控訴人X
(1) 原判決中、控訴人Xの敗訴部分を取り消す。
(2) 前項に係る部分につき、被控訴人の控訴人Xに対する請求を棄却する。
2 控訴人株式会社ケイ・アソシエイツ
(1) 原判決中、控訴人株式会社ケイ・アソシエイツの敗訴部分を取り消す。
(2) 前項に係る部分につき、被控訴人の控訴人株式会社ケイ・アソシエイツに対する請求を棄却する。
第2 事案の概要
 本件は、「板画家」の亡A(以下「亡A」という。)が制作した著作物である原判決別紙記載の作品24点(原判決の別紙に記載されたもののうち「一月」ないし「十二月」の部分を除いたもの。以下、これらを併せて「本件作品」という。)についての著作権(以下「本件著作権」という。)の共有著作権者である被控訴人が、控訴人X(以下「控訴人X」という。)及び控訴人株式会社ケイ・アソシエイツ(以下「控訴人会社」という。)が被控訴人に無断で本件作品の複製を他人に許諾し、その複製をさせた行為が被控訴人の共有著作権(複製権)の侵害に当たるなどと主張して、控訴人らに対し、民法719条1項、著作権法117条に基づき、損害賠償として1260万円及びこれに対する不法行為の日である平成14年8月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
 原判決は、控訴人会社においては凸版印刷株式会社(以下「凸版印刷」という。)に対し本件作品の複製を許諾し、その複製をさせ、本件著作権の共有著作権者の一人である控訴人Xにおいては、控訴人の同意を得ることなく、上記許諾を承諾したことが、被控訴人に対する共同不法行為を構成するとして、控訴人らに対し、損害賠償として1008万円及び内金84万円に対する平成15年1月31日から、内金84万円に対する同年2月28日から、内金84万円に対する同年3月31日から、内金84万円に対する同年4月30日から、内金84万円に対する同年5月31日から、内金84万円に対する同年6月30日から、内金84万円に対する同年7月31日から、内金84万円に対する同年8月31日から、内金84万円に対する同年9月30日から、内金84万円に対する同年10月31日から、内金84万円に対する同年11月30日から、内金84万円に対する同年12月31日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を命ずる限度で被控訴人の請求を一部認容した。
 控訴人らは、原判決を不服として本件控訴を提起した。
1 前提事実
 前提事実は、次のとおり訂正するほか、原判決「事実及び理由」の第2の1記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決2頁20行目から末行までを次のとおり改める。
 「ア 被控訴人は、亡Aとその妻亡B(以下「亡B」という。)夫婦の長男である亡C(以下「亡C」という。)の妻である。
イ 控訴人Xは、亡Aと亡B夫婦の二男である。控訴人Xは、少なくとも平成9年3月31日以前から平成15年3月6日まで控訴人会社の取締役を務めていた(甲14)。
ウ 控訴人会社は、広告制作、企画、編集、デザイン等を目的とする株式会社である。」
(2) 原判決3頁7行目の「亡Aは、」の後に「本件作品を制作した後、」を加える。
(3) 原判決3頁12行目の「全作品の著作権の」を「亡Bの遺産である亡Aの全作品の著作権について」と、同頁15行目から16行目にかけての「全作品の著作権の2分の1の共有持分権を」を「亡Cの遺産である亡Aの全作品の著作権の共有持分権2分の1を」と、同頁20行目の「全作品の著作権等」を「亡Aの全作品の著作権等」とそれぞれ改める。
(4) 原判決3頁25行目から26行目にかけての「凸版印刷株式会社(以下「凸版印刷」という。)を「凸版印刷」と改める。
2 争点
(1) 被控訴人が有する本件著作権の共有持分割合(争点1)
(2) 控訴人らによる不法行為の成否(争点2)
(3) 被控訴人の損害額(争点3)
(4) 消滅時効の成否(争点4)
(5) 本件管理合意による被控訴人の損害賠償請求権の消滅の有無(争点5)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(被控訴人が有する本件著作権の共有持分割合)について
(被控訴人の主張)
 亡Aの全作品の著作権については、亡Bがその全てを亡Aの死亡に伴う遺産分割により取得し、亡Cがその2分の1を亡Bの死亡に伴う遺産分割により取得し、被控訴人が亡Cの取得分の全てを亡Cの死亡に伴う遺産分割により取得したから、被控訴人は、本件著作権の2分の1の共有持分権を有する。
 亡Bが、株式会社講談社(以下「講談社」という。)との間で作成した「A全集 全12巻」の昭和52年11月30日付け出版契約書(乙8の2)の作成前に、Dに対し、亡Aの全作品の著作権の10分の7の共有持分権を譲渡した旨の控訴人らの主張は否認する。
(控訴人らの主張)
 亡Bは、亡Aの死亡に伴う遺産分割により、亡Aの全作品の著作権を単独で取得したが、亡BとDが講談社との間でそれぞれ作成した「A全集 全12巻」の昭和52年11月30日付け出版契約書(乙8の1及び2)には、亡B及びDがそれぞれ著作権者と記載され、講談社が著作権使用料を亡Bに対して10分の3の割合で、Dに対して10分の7の割合で支払う旨の記載があることからすると、亡Bは、その生前、上記出版契約書作成までの間にDに全作品の著作権の10分の7の共有持分権を譲渡していた。講談社は、書籍の出版を業とする日本有数の出版社であり、著作権者でない者と出版契約を締結することなどは考えられないから、上記出版契約書が作成された昭和52年11月30日の時点では、Dと亡Bが共に亡Aの全作品の著作権の共同著作権者であったものである。もっとも、本件においては、亡BがDに対し亡Aの全作品の著作権の共有持分権10分の7を譲渡したことを証する直接の証拠はないが、亡Aと亡B夫婦にはDに対する並々ならぬ思い入れがあり、その財政的基礎を強化しようと考え、著作権料を全てDに寄付していること、上記出版契約書の作成に当時のD館長理事で、弁護士のEが関与していることなどからすれば、上記出版契約書が作成された時点までに、亡Aの全作品の著作権の共有持分権10分の7が亡BからDに対して譲渡されていたものと認めるべきである。
 したがって、亡Aの全作品の著作権の共有持分権10分の3が亡Bの遺産であったから、亡Cと控訴人Xが亡Bの遺産の遺産分割により取得した亡Aの全作品の著作権の共有持分割合は、その2分の1の10分の1.5ずつである。
(2) 争点2(控訴人らによる不法行為の成否)について
 当事者の主張は、次のとおり訂正するほか、原判決「事実及び理由」の第2の3(2)記載のとおりであるから、これを引用する。
 原判決6頁9行目から11行目までを次のとおり改める。
 「控訴人X及びDは、本件覚書の作成に関わっておらず、本件許諾契約とは無関係であり、控訴人会社による被控訴人の亡Cの遺産である亡Aの全作品の著作権の共有持分権を侵害する行為とは直接の関係はない。」
(3) 争点3(被控訴人の損害額)について
 当事者の主張は、次のとおり訂正するほか、原判決「事実及び理由」の第2の3(3)記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決6頁22行目から末行までを次のとおり改める。
 「控訴人会社は本件許諾の対価として凸版印刷から2520万円の支払を受けたところ、被控訴人は、本件著作権の2分の1の共有持分権を有するから、控訴人らが被控訴人の上記共有持分権の侵害行為により受けた利益の額(著作権法114条2項)又は上記共有持分権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(同条3項)は、いずれも2520万円の半額である1260万円を下らない(選択的主張)。」
イ 原判決7頁12行目の「そして」から15行目末尾までを次のとおり改める。
 「本件覚書3条においては、上記2520万円は「本件作品の使用の対価」である旨の記載があるが、「本件作品の使用の対価」は、「本件作品の写真原稿使用の対価」の趣旨であり、本件覚書4条、5条の「本件作品」とは、「本件作品の写真原稿」(本件原稿)を意味する。すなわち、本件覚書に係る本件許諾契約の主眼は、読売新聞が発行し凸版印刷が製作する販促物「美術額絵シリーズ」(本件製作物)のために、控訴人会社において本件作品24点の写真原稿を作成準備し、凸版印刷がその準備された写真原稿の使用につき対価を支払うという点にあり、「本件作品の使用の対価」は、「本件作品の使用」、「解説・監修」を含む「本件作品の写真原稿の受交付使用の対価」にほかならない。
 そして、著作権の利用許諾料は、通常は作業対価の5%ないし10%である。また、通常の商品売買において売買価格のおよそ2割も利益が上がれば上々であるといわれているから、これに倣えば、控訴人会社が本件著作権侵害により得た利益は、2520万円の2割の504万円となる。
 この点に関し、原判決は、控訴人Xと被控訴人との間で、従前、亡Aの著作物である作品の著作権利用料として一括払がされた330万円について、270万円(約82%)を著作権利用料とし、60万円(約18%)を監修料とすることに合意した例があったことを根拠に、凸版印刷から支払を受けた本件対価2520万円のうち、本件作品の利用の対価(本件作品の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額)の占める割合を80%と認定している。
 原判決が挙げる上記事例は、株式会社新学社(以下「新学社」という。)及び全日本家庭教育研究会(以下、これらを併せて「新学社ら」という。)との契約に関するものであるところ、新学社らは、亡Aの著作物である作品を使用したカレンダー等を製作出版することにつき、著作権使用料として毎年270万円を支払うことを約しているが(乙16の1)、控訴人Xは、これとは別に、新学社との間で亡Aの著作物である作品の使用方法の指導・助言・提案に関するコンサルティング契約を締結し(乙16の2)、毎年12月末日までに60万円の支払を受けることとなっていた。しかし、現実には、常にコンサルタント業務があるわけではなく、控訴人Xは、上記コンサルティング契約に従った金額の支払を受けていない。
 したがって、原判決の指摘する上記事例は、本件作品の利用の対価の算定の根拠となるものではない。」
(4) 争点4(消滅時効の成否)について
(控訴人らの主張)
ア 読売新聞は、我が国で最も発行部数の多い、最大多数の読者を擁する新聞であり、読売新聞社による本件製作物の配布による亡Aの著作物使用の事実は、公知の事実というべきである。加えて、本件製作物は、亡Aの生誕百年記念として平成15年1月から同年12月までの間に配布されたものであるが、被控訴人は、平成14年7月から平成15年3月までフィラデルフィア美術館及びロサンゼルス郡美術館での百年記念展に赴いていたことからすると、上記百年記念展のために本件製作物が配布されたことを当然知っていたから、直ちに調査に着手すれば、本件複製行為による著作権侵害者とその損害のあらましを知り得たはずである。
 したがって、遅くとも本件製作物の配布が終了した平成15年12月末日から起算して3年の経過により、被控訴人の損害賠償請求権の消滅時効が完成した。
イ また、Dの理事であった控訴人らの代理人弁護士(鈴木醇一)は、平成21年11月24日、被控訴人の代理人弁護士(緒方延泰)に対し、被控訴人が有する亡Cの遺産である亡Aの全作品の著作権の共有持分権の侵害の有無に関する調査結果を書簡(甲6)で報告したが、これにはDの平成14年12月30日付け入金伝票(入金先欄に「(株)ケイ・アソシエイツ」、摘要欄に「読売新聞企画作品使用料及び監修料」、金額欄に「6300000」と記載されたもの)及びD普通預金通帳4頁(「14−12−30 振込1 カ)ケイ.アソシエイツ ★6,300,000」と記載された欄を含む部分)の各コピーが添付されていた。これらの事実に照らすと、被控訴人は、本件複製行為による被控訴人が有する本件著作権の共有持分権の侵害者が、読売新聞社のほか、控訴人会社及びD(代表者控訴人X)であること及びその損害額が630万円であることを知り得たものというべきである。
 したがって、被控訴人の代理人弁護士が上記書簡を受領した日の翌日(平成21年11月25日)から起算して3年の経過により、被控訴人の損害賠償請求権の消滅時効が完成した。
ウ 控訴人らは、本訴において、上記消滅時効を援用する。
(被控訴人の主張)
 被控訴人の主張は、原判決8頁7行目から10行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(5) 争点5(本件管理合意による被控訴人の損害賠償請求権の消滅の有無)について
 当事者の主張は、原判決「事実及び理由」の第2の3(5)記載のとおりであるから、これを引用する。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(被控訴人が有する本件著作権の共有持分割合)について
(1) 前記前提事実によれば、亡Bは、亡Aの死亡(昭和50年9月13日死亡)に伴う遺産分割によりその全作品の著作権(本件著作権を含む。)を単独で取得し、亡C及び控訴人Xは、亡Bの死亡(平成7年11月28日死亡)に伴う遺産分割によりその遺産である亡Aの全作品の著作権の共有持分権を各2分の1の割合で取得し、さらに、被控訴人は、亡Cの死亡(平成10年5月13日死亡)に伴う遺産分割によりその遺産である亡Aの全作品の著作権の共有持分権を単独で取得したことが認められるから、被控訴人は、本件著作権の2分の1の共有持分権を有することが認められる。
(2) これに対し控訴人らは、亡BとDが講談社との間でそれぞれ締結した「A全集 全12巻」の昭和52年11月30日付け出版契約書(乙8の1及び2)には、亡B及びDがそれぞれ著作権者と記載され、講談社が著作権使用料を亡Bに対して10分の3の割合で、Dに対して10分の7の割合で支払う旨の記載があることからすると、亡Bは、その生前、上記出版契約書作成までの間にDに対し亡Aの全作品の著作権の10分の7の共有持分権を譲渡していたから、亡Bの遺産としての亡Aの全作品の著作権の共有持分権は10分の3であり、被控訴人が有する亡Aの全作品の著作権の共有持分割合はその2分の1の10分の1.5にすぎない旨主張する。
 しかしながら、控訴人らの主張は、以下のとおり理由がない。
ア Dと講談社間の昭和52年11月30日付け出版契約書(乙8の1)には、著作者名を「A」、書名を「A全集 全12巻」、「物語の柵。神々の柵(1)(2)。花鳥の柵。詩歌の柵(1)(2)。想いの柵(1)(2)。海道の柵。雑華の柵。女人の柵(1)(2)」とし、上記著作物を書籍として出版することについて、「著作権者 財団法人D(全集編集者)」を「甲」とし、「出版者 株式会社講談社 F」を「乙」とし、両者の間に次のとおり契約する旨の記載があり、上記出版契約書3条本文には、乙が甲に対し、著作権使用料として発行部数1部ごとに「定価の5.5%×7/10に相当する金額」の印税を支払う旨の記載がある。
 他方で、亡Bと講談社間の昭和52年11月30日付け出版契約書(乙8の2)には、著作者名を「A」、書名を「A全集 全12巻」、「物語の柵。神々の柵(1)(2)。花鳥の柵。詩歌の柵(1)(2)。想いの柵(1)(2)。海道の柵。雑華の柵」とし、上記著作物を書籍として出版することについて、「著作権者 B」を「甲」とし、「出版者 株式会社講談社 F」を「乙」とし、両者の間に次のとおり契約する旨の記載があり、上記出版契約書3条本文には、乙が甲に対し、著作権使用料として発行部数1部ごとに「定価の5.5%×3/10に相当する金額」の印税を支払う旨の記載がある。
 上記各記載によれば、乙8の1及び2は、いずれも亡Aの著作物である各作品を素材とした編集著作物である「A全集 全12巻」を講談社が書籍として出版する旨の出版契約書であることが認められる。
 しかるところ、乙8の1には、「著作権者 財団法人D(全集編集者)」と記載され、「著作権者 財団法人D」の名下に「(全集編集者)」と付記されているのに対し、乙8の2には、「著作権者 B」と記載され、「(全集編集者)」の付記がないことに照らすと、乙8の1の上記記載は、Dが編集著作物である「A全集 全12巻」の編集著作権者であることを示したものであり、乙8の2の上記記載は、亡Bが編集著作物である「A全集 全12巻」の素材である亡Aの各作品の著作権者であることを示したものと認めるのが相当である。
 そして、素材である著作物と編集著作物全体とは独立して保護されるから(著作権法12条2項)、乙8の1に「著作権者 財団法人D(全集編集者)」との記載があるからといって乙8の1の作成時にDが「A全集 全12巻」の素材である亡Aの各作品の著作権者として取り扱われていたことの根拠となるものではない。ましてや乙8の1から亡Bが乙8の1及び2が作成されるまでの間にDに対し亡Aの全作品の著作権の10分の7の共有持分権を譲渡していた事実を認めることはできない。他に上記事実を認めるに足りる証拠はない。
イ かえって、@亡B及びDと講談社との間の昭和52年11月30日付け出版契約書(乙8の1及び2)が作成された後の平成7年6月1日付けで作成された、作品名を「観自在菩薩御図」(原画1971年作)とする亡Aの作品の複製版画の制作及び出版を許可する旨の株式会社東急百貨店日本橋店及び株式会社大月あての許可書(乙9の2)には、「著作権所有者」欄に亡Bの署名押印があり、「監修者」にDの記名押印があること、A亡Bの相続人である亡C及び控訴人X、D及び株式会社安川電機(以下「安川電機」という。)が作成した、亡Aの作品を使用したカレンダーの製作出版を安川電機に対し許諾する旨の平成10年3月21日付け著作権利用許諾約定書(乙10)には、亡C及び控訴人Xのみが著作権者として表示され、安川電機は、亡C及び控訴人Xに対しては著作権使用料を、Dに対しては監修・校正等の報酬を支払う旨の条項(5条)があることからすると、Dは、亡B及びDと講談社との間の上記出版契約書の作成後、亡Bの死亡の前後を通じて、亡B又はその相続人である亡C及び控訴人Xのみが亡Aの全作品の著作権者であり、自らは亡Aの全作品の著作権者ではないことを前提とした行動をとっていたことがうかがわれる。
ウ 以上のとおり、亡Bが乙8の1及び2が作成されるまでの間にDに対し亡Aの全作品の著作権の10分の7の共有持分権を譲渡していた事実を認めることはできないから、控訴人らの上記主張は、その前提を欠くものであり、理由がない。
2 争点2(控訴人らによる不法行為の成否)について
 争点2についての判断は、次のとおり訂正するほか、原判決「事実及び理由」の第3の2記載のとおりであるから、これを引用する。
 原判決10頁13行目の「本件許諾契約締結を締結」を「本件許諾契約を締結」と改める。
3 争点3(被控訴人の損害額)について
 争点3についての判断は、次のとおり訂正するほか、原判決「事実及び理由」の第3の3記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決10頁23行目から12頁2行目までを次のとおり改める。
 「(1) 著作権法114条3項に基づく損害額について
 著作権法114条3項によれば、被控訴人は、本件著作権(複製権)の共有持分権を侵害した控訴人らに対し、「その著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(使用料相当額)を自己が受けた損害額として、その賠償を請求することができる。そこで、本件著作権の使用料相当額について判断する。
ア(ア) 前記前提事実と証拠(甲1、4、8、15、乙6、12)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
a 控訴人会社は、平成14年8月7日、凸版印刷との間で、読売新聞社が発行し、凸版印刷が製作する本件製作物及びその宣伝物(本件製作物等)に亡Aの著作物である本件作品を使用することに関し、本件覚書(甲1)を作成して、本件許諾契約を締結した。
 本件覚書には、@控訴人会社は、凸版印刷に対し、本件製作物等に「本件作品を使用すること」を許諾すること(1条1項)、A凸版印刷は、控訴人会社に対し、「本件作品の使用の対価」を支払うものとし(3条本文)、「但し、当該対価には、本件作品の解説及び本件製作物等についての監修も含むものとし、その詳細は、別途定める」ものとすること(同条ただし書)、B控訴人会社は、「本件作品の写真原稿」(本件原稿)を準備し、凸版印刷はそれを受領し(2条1項)、凸版印刷は、許諾期間終了後、本件原稿を遅滞なく返却すること(同条2項)などの記載がある。
b その後、控訴人会社は、亡Aがその生前Dに寄贈し、Dに所蔵されていた本件作品(24点)の原作品から「本件作品の写真原稿」(本件原稿)を作成して、凸版印刷に交付し、凸版印刷は、本件原稿を用いて本件製作物を製作した。
 本件製作物は、B4版用紙の表全面に複製された本件作品のうちの1点が、裏面に作品の題名と当該作品の数百字程度の解説がそれぞれ掲載されたもの全24枚から構成されている。
 読売新聞社は、平成15年1月から12月までの間、本件製作物を読売新聞額絵シリーズ「Aの宇宙(せかい)」として発行し、これを毎月2点ずつ配布用封筒に入れて無料で全国の読者等に多数配布した。
c 控訴人会社は、平成14年8月31日付けで、凸版印刷に対し、「2003年度版額絵版権代」として2520万円(消費税込み)(甲4)を請求した。
 これを受けた凸版印刷は、控訴人会社に対し、本件覚書に基づく「本件作品の使用の対価」として、平成14年9月30日に1259万9475円、同年12月30日に1259万9475円の合計2519万8950円(甲8。上記2520万円から2回分の振込手数料(各回525円ずつ)を控除した金額。)を振込送金した。
 控訴人会社は、平成14年12月30日、Dに対し、「読売新聞企画作品使用料及び監修料」の名目で、630万円を振込送金した。
 なお、凸版印刷は、上記2520万円以外には、「本件作品の使用の対価」その他名目の如何を問わず、本件覚書に基づく本件作品の使用等に関し、控訴人会社に金員の支払をしていない(甲8)。
(イ) 前記(ア)の認定事実によれば、控訴人会社は、凸版印刷から、本件覚書に基づく「本件作品の使用の対価」として2520万円の支払を受けたものであるが、控訴人会社は、凸版印刷に対し、本件覚書に基づいて亡Aの著作物である本件作品を本件製作物等に使用することを許諾するとともに、「本件作品の写真原稿」(本件原稿)を準備し、本件製作物等に使用させ、本件作品の解説及び本件製作物等についての監修を行う債務を負っていたものと認められるから、上記2520万円には、亡Aの著作物である本件作品の利用許諾料、本件原稿の使用料、本件作品の解説及び本件製作物等についての監修料を含む凸版印刷が本件覚書に基づいて本件作品の使用等に関して支払うべき一切の対価ないし報酬が含まれており、これらが一括して支払われたものと認められる。なお、「本件作品の使用の対価」に関し、本件覚書3条ただし書は、「当該対価には、本件作品の解説及び本件製作物等についての監修も含むものとし、その詳細は、別途定める」旨規定しているが、控訴人会社と凸版印刷との間で、「本件作品の解説及び本件製作物等についての監修」について別途「詳細」な定めをしたことや「本件作品の解説及び本件製作物等についての監修」に対する具体的な対価の額を定めたことを認めるに足りる証拠はない。
 一方で、控訴人会社が本件原稿の作成、本件作品の解説の作成及び本件製作物等の監修を行うためには相応の費用が必要であるとはいえるが、控訴人会社が本件原稿の作成、本件作品の解説の作成又は本件製作物等の監修のために支出した具体的な費用の額を認めるに足りる証拠はない。もっとも、控訴人会社は、Dに所蔵されていた本件作品の原作品から本件原稿を作成して凸版印刷に交付し(前記(ア)b)、Dに対し、凸版印刷から支払を受けた上記2520万円のうち、630万円を、「読売新聞企画作品使用料及び監修料」の名目で支払ったこと(前記(ア)c)によれば、控訴人会社は、本件作品の原作品の所有権を有するDに対し、本件作品の原作品の使用料等として630万円の支払をしたものと認められる。しかし、本件作品の原作品を用いて本件原稿を作成することは、著作物である本件作品の複製に該当し、本件著作権の共有持分権者である被控訴人との関係では、その許諾がない以上、共有持分権の侵害行為に当たるものと認められるから、本件作品の原作品の使用料は、本件原稿の作成のために必要な費用であるということはできない。また、Dが本件製作物等の監修のために行った具体的な行為についての主張立証はないから、上記630万円は、本件作品の解説の作成又は本件製作物等の監修のために必要な費用であるということはできない。
 以上を総合すると、控訴人会社は、凸版印刷から本件覚書に基づく「本件作品の使用の対価」として2520万円の支払を受け、この2520万円には、亡Aの著作物である本件作品の利用許諾料、本件原稿の使用料、本件作品の解説及び本件製作物等についての監修料を含む凸版印刷が本件覚書に基づいて本件作品の使用等に関して支払うべき一切の対価ないし報酬が含まれていることが認められるが、その内訳について控訴人会社と凸版印刷との間で合意をしたものとは認められないから、上記2520万円のうち、本件作品の利用許諾料に相当する部分がいくらとして支払われたのか証拠上明らかとはいえない。
 一方で、控訴人会社が本件原稿の作成、本件作品の解説の作成又は本件製作物等の監修のために必要とした費用の具体的な額を認めるに足りる証拠はない。
(ウ) この点に関し、控訴人らは、控訴人会社が凸版印刷から支払を受けた2520万円のうち、著作物である本件作品の利用許諾料は、630万円である旨主張する。
 しかしながら、前記(イ)認定のとおり、控訴人会社が凸版印刷から支払を受けた上記2520万円について控訴人会社と凸版印刷との間で合意をしたものとは認められず、上記2520万円のうち、本件作品の利用許諾料に相当する部分がいくらとして支払われたのか証拠上明らかとはいえないから、控訴人らの上記主張は、採用することができない。
イ 次に、前記前提事実と証拠(甲13、乙14の2、16の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、@被控訴人、その長男G及び控訴人Xは、平成22年8月31日に亡Aの全作品の著作権の管理等について本件管理合意をした後、平成23年4月1日、亡A作品の「著作権承継者」を被控訴人及び控訴人X、「著作権管理者」をGとして、新学社らとの間で、新学社らが亡Aの作品を使用したカレンダー、備忘録、暑中見舞い状、年賀状の製作出版することについて、被控訴人、G及び控訴人Xが新学社らに対して亡Aの作品を使用して上記製作出版をすることを許諾し、新学社らはGに対し、毎年、著作権使用料及び写真借用料として合計270万円(消費税・源泉所得税を含む。)を支払う旨の覚書(乙16の1)を締結したこと、A上記覚書には、契約期間は2011年(平成23年)4月1日から2021年(平成33年)12月31日までとし(5条)、カレンダーに使用する作品は毎年7点以内、備忘録、暑中見舞い状及び年賀状に使用する作品は各1点とし(2条1項)、カレンダーの出版部数は毎年度新学社らが必要とする部数とすること(3条)などの記載があること、B控訴人Xと新学社は、上記覚書が締結された平成23年4月1日、新学社の出版業務に関し、契約期間を2011年(平成23年)4月1日から2021年(平成33年)12月31日までとし、新学社が控訴人Xに対し、亡Aの作品の使用方法に関する最適な指導・助言・提案、亡Aの作品を新学社が取り扱う製作物への有効活用に関する指導・助言・提案の業務を委任し、その業務の対価として、毎年60万円(消費税・源泉所得税を含む。)を支払う旨のコンサルティング業務委任契約書(乙16の2)を作成し、その旨の契約を締結したことが認められる。
 上記認定事実によれば、新学社らが亡Aの作品を使用してカレンダー、備忘録、暑中見舞い状、年賀状の製作出版を行うことに関し、亡Aの作品の著作権使用料及び写真借用料として合計270万円、上記出版物における亡Aの作品の使用方法に関する指導・助言・提案等の業務の対価として60万円の合計330万円を毎年支払うことを承諾したものと認められる。
 そして、上記出版物における亡Aの作品の使用方法に関する指導・助言・提案等の業務は、監修に当たるものといえるから、上記330万円のうち、約82%に相当する270万円が著作権使用料及び写真借用料、約18%に相当する60万円が監修料に相当するものと認められる。
 以上を総合すると、被控訴人、G及び控訴人Xが本件管理合意をした後に、新学社らが亡Aの作品を使用してカレンダー、備忘録、暑中見舞い状、年賀状の製作出版を行うことを許諾した際に、新学社らの毎年の支払総額330万円のうち、270万円(約82%)を著作権使用料及び写真借用料、60万円(約18%)を監修料とした例があったものといえる。
ウ 以上を前提に検討するに、@控訴人会社は、凸版印刷から本件覚書に基づく「本件作品の使用の対価」として2520万円の支払を受け、上記2520万円には、亡Aの著作物である本件作品の利用許諾料、本件原稿の使用料、本件作品の解説及び本件製作物等についての監修料を含む凸版印刷が本件覚書に基づいて本件作品の使用等に関して支払うべき一切の対価ないし報酬が含まれているが、上記2520万円のうち、本件作品の利用許諾料に相当する部分がいくらとして支払われたのかは証拠上明らかとはいえないこと(前記ア(イ))、A一方で、控訴人会社が本件原稿の作成、本件作品の解説の作成又は本件製作物等の監修のために必要とした費用の具体的な額を認めるに足りる証拠はないこと(前記ア(イ))、B亡Aは、世界的に著名な芸術家であり、その作品には高い価値があると評価されていたこと(乙1、弁論の全趣旨)、C本件作品の利用態様は、B4版用紙の表全面に複製された本件作品のうちの1点が、裏面に作品の題名と当該作品の数百字程度の解説がそれぞれ掲載されたもの全24枚から構成される本件製作物について毎月2点ずつ配布用封筒に入れて1年間にわたり全国の読売新聞の読者等に配布されたものであり、その配布部数は多数に及び、その配布地域は全国的規模であること(前記ア(ア)b)、D亡Aの著作物を利用し、その利用許諾料を定めた例としては、本件作品の利用態様とは異なるが、被控訴人、G及び控訴人Xが本件管理合意をした後に、新学社らが亡Aの作品を使用してカレンダー、備忘録、暑中見舞い状、年賀状の製作出版を行うことを許諾した際に、新学社らの毎年の支払総額330万円のうち、270万円(約82%)を著作権使用料及び写真借用料、60万円(約18%)を監修料とした例があったこと(前記イ)、その他本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると、本件において、被控訴人が、控訴人らによる本件著作権の共有持分権の侵害行為について、「その著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(使用料相当額)は、控訴人会社が凸版印刷から支払を受けた2520万円の80%相当額に被控訴人の本件著作権の共有持分割合2分の1を乗じた1008万円と認めるのが相当である。
エ これに対し控訴人らは、著作権の利用許諾料は、通常は作業対価の5%ないし10%であること、新学社らが亡Aの作品を使用してカレンダー、備忘録、暑中見舞い状、年賀状の製作出版を行うことを許諾した事例(前記イ)は本件作品の利用の対価の算定の根拠となるものではないなどと主張する。
 しかしながら、亡Aの著作権の利用許諾料が、通常は作業対価の5%ないし10%であることを認めるに足りる証拠はない。
 また、前記イの事例における亡Aの作品の利用態様は、本件作品の利用態様とは異なるから、上記事例のみをもって、控訴人らによる被控訴人の本件著作権の共有持分権の侵害行為に対する使用料相当額を算定するに当たっての直接の基準とすることは適切とはいえないが、他に亡Aの著作物を利用し、その利用許諾料を定めた例の具体的な主張立証のない本件においては、上記事例を上記算定の考慮事情の一つとして斟酌することは差し支えないというべきである。
 したがって、控訴人らの上記主張は採用することができない。
オ 以上によれば、被控訴人の著作権法114条3項に基づく損害額は、1008万円と認められる。
(2) 著作権法114条2項に基づく損害額について
 控訴人らが本件複製行為により受けた利益の額が前記(1)オ認定の1008万円を上回ることを認めるに足りる証拠はないから、被控訴人の著作権法114条2項に基づく損害額は、上記金額を上回ることはない。」
(2) 原判決12頁3行目の「(3) なお、」を「(3) 遅延損害金の起算日について」と改めた上、同行を改行する。
4 争点4(消滅時効の成否)について
 争点4についての判断は、次のとおり訂正するほか、原判決「事実及び理由」の第3の4記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決12頁16行目の「このことを」を「読売新聞社が本件製作物を全国に多数配布したことをもって直ちに被控訴人がその事実を知っていたと認めることはできないし、また、被控訴人が平成14年7月から平成15年3月までフィラデルフィア美術館及びロサンゼルス郡美術館での百年記念展に赴いていたからといって本件製作物が配布された事実を当然知っていたということもできない。他にこれを」と改める。
(2) 原判決12頁18行目から13頁3行目までを次のとおり改める。
 「(2)ア 控訴人らは、控訴人らの代理人弁護士が、被控訴人の代理人弁護士に対し、平成21年11月24日に被控訴人が有する亡Cの遺産である亡Aの全作品の著作権の共有持分権の侵害の有無に関する調査結果を書簡(甲6)で報告したことにより、被控訴人は、本件複製行為による被控訴人が有する本件著作権の共有持分権の侵害者が、読売新聞社のほか、控訴人会社及びD(代表者控訴人X)であることを知り得たから、上記書簡の受領の日の翌日(同月25日)から起算して3年の経過により、被控訴人の損害賠償請求権の消滅時効が完成した旨主張する。
イ 前記前提事実と証拠(甲5ないし8、13、乙12、14の2)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 控訴人らの代理人弁護士は、被控訴人に対し、「B著作権者代理人」の名義で作成した平成20年11月19日付けの報告書(甲5)において、被控訴人が被控訴人の代理人弁護士を通じて書面を送付したのを機会に調査した結果として、同日現在で、亡Aの作品の利用許諾をしているのは、@「新学社によるカレンダー製作出版」、A「安川電機によるカレンダー製作出版」、B「椛蛹獅ノよる複製版画の製作出版」の3件であり、このうち、@及びAについては、従前から著作権料の2分の1を被控訴人に支払っているが、Bについては、今後著作権料の2分の1を被控訴人に支払う旨の報告をした。
(イ) 控訴人らの代理人弁護士は、被控訴人の代理人弁護士からの問合せに対し、平成21年11月24日付けの「D 鈴木醇一」名義の書簡(甲6)を送付した。上記書簡には、「1 読売新聞の件」として、「読売が何時、どのような著作権侵害をしたか分からずに、Xさんに問い合わせをいたしました。その結果は同封のとおりです。…読売の分は、Hさんに聞いてもどんなものかよく分りません。…ともあれ、著作権を侵害するもの(複製?)ではあったように思われます。それは、椛蛹歯。製のように本物に近いものではなく、同封の日経日曜版“美の美”掲載作品に近いようなものであったのではないかと考えられます。」、「しかし、侵害には違いありませんので、著作権者であるYさんの御意見によって、どうすべきか処置をきめるしかありません。現在判明しているのは、総額630万円+40万円がDに入金されているということです。読売からKアソシエイツにいくら払われているかは分りませんが、Kアソシエイツがいくらか抜いていることはまちがいないと思います。」などの記載がある。また、上記書簡には、平成14年12月30日付けの入金伝票(入金先欄に「(株)ケイ・アソシエイツ」、摘要欄に「読売新聞企画作品使用料及び監修料」、金額欄に「6300000」と記載されたもの)及び右上に「普通預金4」と記載のある預金通帳の一部の写し(「14−12−30 振込1 カ)ケイ.アソシエイツ ★6,300,000」と記載された欄を含むもの)の各写しが同封されていた。
(ウ) 控訴人、被控訴人及びGは、平成22年8月31日、本件管理合意をした。
(エ) 被控訴人の代理人弁護士は、平成23年1月24日、凸版印刷の代理人弁護士との間で、「平成15年に「額絵シリーズ」として読売新聞購読者向けにA作品の複製品(本件複製品)が複製され、配布された件(本件)」に関し、被控訴人と凸版印刷が相互に保有する情報を開示する旨の同日付け合意書(甲7)を作成した。
 凸版印刷の代理人弁護士は、同日、被控訴人の代理人弁護士に対し、上記合意書に基づいて、凸版印刷と控訴人Xとの間には、直接の本件複製品に係る著作権利用許諾はないが、凸版印刷と控訴人会社との間には、平成14年8月7日付け本件覚書に基づく著作権利用許諾があること、凸版印刷は、控訴人会社に対し、上記利用許諾に基づき、許諾の対価として2520万円(消費税120万円を含む。)を振込送金したことなどの記載のある書面(甲8)及び添付書類として本件覚書の写し、控訴人会社作成の凸版印刷あての請求書の写し等を交付して、上記情報を開示した。
(オ) 被控訴人は、平成25年12月5日、本件訴訟を提起した。
ウ 前記イの認定事実によれば、被控訴人が、控訴人会社が凸版印刷との間で本件覚書に基づいて凸版印刷に対して本件作品の複製を許諾し、凸版印刷からその許諾料等として2520万円の支払を受けたことを知ったのは、平成23年1月24日、被控訴人の代理人弁護士が、被控訴人と凸版印刷間の同日付け合意書に基づいて、凸版印刷から、その旨の情報の開示を受けたことによるものと認められるから、被控訴人が本件複製行為による本件著作権の共有持分権侵害に係る「損害及び加害者を知った時」(民法724条)は、同日であるものと認められる。
 これに対し控訴人らは、控訴人らの代理人弁護士が、控訴人らの代理人弁護士に対し、平成21年11月24日に被控訴人が有する亡Cの遺産である亡Aの全作品の著作権の共有持分権の侵害の有無に関する調査結果を同日付け書簡(甲6)で報告したことにより、被控訴人は、本件複製行為による被控訴人が有する本件著作権の共有持分権の侵害者が、読売新聞社のほか、控訴人会社及びD(代表者控訴人X)であることを知り得たから、被控訴人は、上記「損害及び加害者を知った時」は、被控訴人の代理人弁護士が上記書簡を受領した日である旨主張する。
 しかしながら、前記イ(イ)認定の上記書簡の記載内容及び同封された文書の各写しからは、控訴人会社と凸版印刷とが本件覚書を作成した事実及びその記載内容、控訴人会社が凸版印刷から本件作品の複製の許諾料等として2520万円の支払を受けたことを把握することはできないから、控訴人らの上記主張は、採用することができない。
(3) したがって、控訴人らの消滅時効の主張は、いずれも理由がない。」
5 争点5(本件管理合意による被控訴人の損害賠償請求権の消滅の有無)について
 争点5についての判断は、原判決「事実及び理由」の第3の5記載のとおりであるから、これを引用する。
6 まとめ
 以上によれば、被控訴人は、控訴人らに対し、本件作品の共有著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として1008万円(著作権法114条3項に基づく損害額)及び内金84万円に対する平成15年1月31日から、内金84万円に対する同年2月28日から、内金84万円に対する同年3月31日から、内金84万円に対する同年4月30日から、内金84万円に対する同年5月31日から、内金84万円に対する同年6月30日から、内金84万円に対する同年7月31日から、内金84万円に対する同年8月31日から、内金84万円に対する同年9月30日から、内金84万円に対する同年10月31日から、内金84万円に対する同年11月30日から、内金84万円に対する同年12月31日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めることができる。
第4 結論
 以上の次第であるから、被控訴人の請求について前記第3の6記載の金員の連帯支払を求める限度で一部認容した原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 大鷹一郎
 裁判官 大西勝滋
 裁判官 神谷厚毅
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