判例全文 line
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【事件名】マスコットキャラクター“フラねこ”事件
【年月日】平成27年9月10日
 大阪地裁 平成26年(ワ)第5080号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成27年7月13日)

判決
原告 P1
同訴訟代理人弁護士 三山峻司
同 清原直己
被告 P2
被告 P3
上記両名訴訟代理人弁護士 渡辺淑彦
同訴訟復代理人弁護士 三村茂太


主文
1 被告P2は、原告に対し、90万円(ただし、75万円の限度で被告P3と連帯して)及びこれに対する平成26年6月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告P3は、原告に対し、90万円(ただし、75万円の限度で被告P2と連帯して)及びこれに対する平成26年6月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用はこれを7分し、その6を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。
5 この判決の第1項及び第2項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告P2は、別紙被告イラスト目録記載の各イラストを複製、翻案又は公衆送信してはならない。
2 被告P3は、別紙被告イラスト目録記載の各イラストを複製、翻案又は公衆送信してはならない。
3 被告P3は、別紙被告イラスト目録2ないし17記載の各イラストの複製物を譲渡してはならない。
4 被告P2は、別紙被告イラスト目録記載の各イラストを使用した別紙被告物品目録記載の物品を廃棄するとともに、被告各イラストに関する画像データを記録した記録媒体から、当該データを削除せよ。
5 被告P3は、別紙被告イラスト目録記載の各イラストを使用した別紙被告物品目録記載の物品を廃棄するとともに、被告各イラストに関する画像データを記録した記録媒体から、当該データを削除せよ。
6 被告P2は、原告に対し、380万円(ただし、360万円の限度で、被告P3と連帯して)及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告被告P3は、原告に対し、被告P2と連帯して、360万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8 被告P2は、別紙謝罪広告目録1記載の内容の謝罪文を別紙謝罪広告掲載要領目録1記載の要領で掲載せよ。
9 被告被告P3は、別紙謝罪広告目録2記載の内容の謝罪文を別紙謝罪広告掲載要領目録2記載の要領で掲載せよ。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、@被告P2に対して、原告が作成した別紙原告イラスト目録記載のイラスト(以下「原告イラスト」という。)を無断で改変して別紙被告イラスト目録1記載のイラスト(以下「被告イラスト1」という。)を作成し、被告イラスト1をインターネット上にアップロードして原告の著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害したと主張し、不法行為に基づく損害賠償請求として合計20万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求め、A被告P2及び被告P3(以下「被告ら」という。)に対して、被告イラスト1を基に別紙被告イラスト目録2ないし17記載のイラスト(以下、それぞれのイラストを「被告イラスト2」、「被告イラスト3」などといい、被告イラスト1ないし17を総称して「被告各イラスト」という。)を作成し、被告イラスト2ないし17をガイドブック等として印刷して譲渡し、若しくはウェブページ上にアップロードするなどして、原告の著作権(被告らにつき複製権又は翻案権、被告P3につき譲渡権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害したと主張し、連帯して、不法行為に基づく損害賠償請求として合計310万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求め、B被告らに対し、被告らの各行為により本件訴訟提起を余儀なくされ弁護士費用を支出したと主張し、連帯して、不法行為に基づく損害賠償請求として50万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めるとともに、C被告らに対し、上記の著作権侵害による差止めとして、著作権法112条1項及び2項に基づき、被告らに対して、被告各イラストの複製、翻案及び公衆送信の差止め並びに被告各イラストを用いた物品の廃棄及び被告各イラストに関する画像データの削除を求め、加えて被告P3に対して、被告各イラスト複製物の譲渡の差止めを求め、D被告らに対し、著作者人格権侵害による名誉回復措置として、著作権法115条に基づき、謝罪広告の掲載を求めた事案である。
 なお、本件訴状の被告P2への送達日は平成26年6月12日であり、被告P3への送達日は同月8日である。
1 前提事実(証拠の記載がないものは争いのない事実又は弁論の全趣旨により容易に認定できる事実である。)
(1) 当事者
 原告は、猫のイラストレーターとして活動する者で(甲59、乙3)、原告イラストの作者である。
 被告P2は、被告イラスト1の作者である。
 被告P3は、福島県いわき市の地域の活性化を図るために、「いわきフラオンパク」という名称のイベントを企画・開催しているいわきフラオンパク実行委員会(以下「実行委員会」という。)の委員長である。
(2) 原告イラスト及び被告各イラストの作成
 原告は、原告イラストを作成した後、同イラストを自己のホームページ上にアップロードした。
 被告P2は、インターネット上で発見した黒猫のイラストをダウンロードし、同イラストの頭部を切り取り、同頭部にフラダンスの衣装等を組み合わせて、被告イラスト1を作成した。
 被告P2が作成した被告イラスト1を基に、被告イラスト2ないし17が作成され、実行委員会において、それらのイラストを使用したいわきフラオンパクのガイドブック等を作成、配布した(ただし、実行委員会が使用した被告各イラストの範囲には争いがある。)。
 なお、いわきフラオンパクが開催された日程は、以下のとおりである(乙16の資料3)
 第1回 平成20年1月6日から同年3月2日
 第2回 平成20年12月6日から平成21年3月1日
 第3回 平成22年1月11日から同年3月14日
 第4回 平成23年2月26日から同年3月27日
 第5回 平成24年3月11日から同月25日
 第6回 平成25年6月23日から同年7月15日
2 争点
(1) 被告P3に被告適格があるか。
(2) 被告らの具体的行為
(3) 被告P2に著作権侵害及び著作者人格権侵害に関して故意又は過失が認められるか。
(4) 被告P2の行為につき私的使用目的が認められるか。
(5) 被告P3に著作権侵害及び著作者人格権侵害に関して故意又は過失が認められるか。
(6) 原告の損害額
(7) 被告らが今後侵害行為を行うおそれがあるか。
(8) 謝罪広告の適否
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被告P3に被告適格があるか)について
(被告P3の主張)
 原告は、訴状の当事者目録において、被告を「いわきフラオンパク実行委員会ことP3」と表示している。しかし、実行委員会は、過去において、福島県いわき市などから補助金を受けて、町おこしのために活動してきた権利能力なき社団であり、被告P3は、実行委員会とは別人格である。
 したがって、本件で被告とされるべきは実行委員会であり、被告P3に被告適格はない。
(原告の主張)
 実行委員会が権利能力なき社団であることについて、原告は不知であるが、実行委員会が権利能力なき社団に該当するか否かにかかわらず、被告P3は損害賠償責任を負う。なぜなら、被告P3自身が、被告イラスト2ないし17を作成し、いわきフラオンパクのガイドブック等を製作しており、このように自ら著作権侵害行為を行っていることから、被告P3に対する不法行為責任は当然に発生するからである(権利能力なき社団の構成員が不法行為を行った場合には、構成員も当然に不法行為責任を負う。権利能力なき社団と共同不法行為を構成するだけである。)。したがって、被告P3は被告適格を有する。
2 争点(2)(被告らの具体的行為)について
(原告の主張)
 被告らは、被告各イラストを、下記のとおり複製等して使用した。
(1) 被告P2は、被告P2及び被告P2の娘が、被告イラスト1が記載された用紙を持っている姿の写真を、自身のブログにアップした。
(2) 被告イラスト2は、第3回いわきフラオンパクのガイドブックに使用され、同ガイドブックは1万1000部印刷された。
(3) 被告イラスト3は、第4回いわきフラオンパクのガイドブックに使用され、同ガイドブックは1万部印刷された。
(4) 被告イラスト4は、第5回いわきフラオンパクのガイドブックに使用され、同ガイドブックは3000部印刷された。
(5) 被告イラスト5は、@第6回いわきフラオンパクのガイドブックに使用され、同ガイドブックは1500部印刷された、A第6回いわきフラオンパクのポスターにも使用され、同ポスターは20部印刷された、Bチラシに使用された。
(6) 被告イラスト6は、三つ折りプログラムに使用され、同プログラムは6万部印刷された。
(7) 被告イラスト7は、チラシに使用され、同チラシは6万部印刷された。
(8) 被告イラスト8は、ジャンボメニューマップに使用され、同マップは1万1000部印刷された。
(9) 被告イラスト9は、ステッカーに使用され、同ステッカーは1000部印刷された。
(10) 被告イラスト10は、リーフレットに使用され、同リーフレットは5万部印刷された。
(11) 被告イラスト11は、チラシに使用された。
(12) 被告イラスト12は、大判ポスターに使用され、同ポスターは少なくとも20部印刷された。
(13) 被告イラスト13は、チラシに使用された。
(14) 被告イラスト14は、チラシに使用され、同チラシは8万650部印刷された。
(15) 被告イラスト15は、スタッフ名刺に使用され、同名刺は300部印刷された。
(16) 被告イラスト16は、チラシに使用された。
(17) 被告イラスト17は、チラシに使用され、同チラシは2万3700部印刷された。
(被告らの主張)
(1) 被告イラスト1については認めるが、被告P2は、自分の娘の写った写真をブログにアップロードしたにすぎない。
(2) 被告イラスト2ないし4については、認める。
(3) 被告イラスト5については、@及びAは認め、Bは否認する。
(4) 被告イラスト6については、それを用いて三つ折りプログラムを作成したことはなかったはずであるが、実行委員会自体が既に活動をしておらず、またその建物が東日本大震災により倒壊したことなどもあり、使用状況につき確認ができない。
(5) 被告イラスト7については、被告P2が同イラストを提供したことは認めるが、スマイルキッズオンパクは実行委員会とは別組織である。詳細は、上記と同様に確認できない。
(6) 被告イラスト8については、地図は、実行委員会とは別組織のいわき市好間町の商工会において作成したものであると思われるが、詳細は、上記と同様に確認できない。
(7) 被告イラスト9については、ステッカーは、実行委員会ではなくP6において独自に作成したものであると思われるが、詳細は、上記と同様に確認できない。
(8) 被告イラスト10については、リーフレットは、実行委員会において作成したものでないが、詳細は、上記と同様に確認できない。
(9) 被告イラスト11については、実行委員会とは別組織の湯本温泉旅館協同組合において作成したものであると思われるが、詳細は、上記と同様に確認できない。
(10) 被告イラスト12については、ポスターは、いわき観光まちづくりビューローにおいて作成したものであり、実行委員会として作成したものではない。
(11) 被告イラスト13については、被告イラスト2の第3回いわきフラオンパクのガイドブックの裏表紙に使用したものである。
(12) 被告イラスト14及び15については、上記と同様に確認できない。
(13) 被告イラスト16については、カフェ・ウルルにおいて作成したものであり、実行委員会として作成したものではない。
(14) 被告イラスト17については、被告P2が過去にブログに掲載したことがある構図であり、印刷等はしていない。
3 争点(3)(被告P2に著作権侵害及び著作者人格権侵害に関して故意又は過失が認められるか)について
(原告の主張)
 被告P2が原告イラストに類似する被告イラスト1を作成し、同イラストが写った写真を自己のブログにアップロードした行為は、原告の著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害する行為であるところ、同被告は、原告イラストの創作的表現部分である頭部のデッドコピーを行っているから、被告P2には原告の著作権及び著作者人格権を侵害することについて、故意又は過失がある。
 すなわち、被告イラスト1は、原告イラストの頭部を複製したものであって、被告P2は、原告イラストに依拠して被告イラスト1を作成する際に、当然に原告イラストの存在・内容につき認識した上で複製行為を為しているので、他人の著作物を使用したとの認識があり、故意がある。
 また、被告P2は、実行委員会の立ち上げメンバーの一人であり、いわきフラオンパクの第1回から第6回までの期間を通して、実行委員会の主要なメンバーの一人であって、ガイドブック編集などの作業に携わっていた。
 被告P2は、実行委員会に被告イラスト1を提供し、被告P3らその構成員と共同して(少なくとも幇助して)、被告イラスト2ないし17(少なくとも同2ないし7、12及び17)を作成し、それら使用したいわきフラオンパクのガイドブック等を製作し、又はその製作を容認している。この行為は、原告の著作権(複製権又は翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害する行為であるところ、被告P2は、被告イラスト1に修正が加えられ、被告イラスト2ないし17として大量の印刷物に掲載されて発行されたことについて、その経緯を含めて認識しており、故意又は重大な過失が認められ、被告P2は、被告P3と共同不法行為責任を負う。
(被告P2の主張)
 原告は、自らの著作権を厳格に管理していたわけではなく、特に著作権の表示をせずに、自由に使用することも認めていたのであるから、被告P2がウェブ検索の結果探した画像をコピーして使用したとしても、その行為には過失は認められない。
 また、被告P2は、あくまで仲間内の私的使用の範囲にとどまると考えて、仲間内のメーリングリストに被告イラスト1を投稿しただけにすぎない。約1年半後、同イラストが、第3回のいわきフラオンパクからガイドブックに記載されるなどの使い方がされることについて、当時、被告P2が予見できるはずもなかった。
4 争点(4)(被告P2の行為につき私的使用目的が認められるか)について
(被告P2の主張)
 被告P2は、実行委員会のメンバーであるP4から、寺に奉納する招き猫の縫いぐるみの下絵を書くように依頼されたため、パソコン上の画像検索で「黒猫」を探し、黒猫の顔をコピーし、パソコン上でフラダンスの衣装を付して下絵を作成し、個人的に提供したにすぎない。
(原告の主張)
 実行委員会は、地域の町おこしを目的にいわき市内の有志が集まり、観光や飲食などに従事する地元店舗と協力して活動を行う集まりであり、実行委員会の企画として、被告イラスト1が作成されている。また、被告P2は、自身のホームページ上に被告イラスト1を公開している。したがって、被告P2の行為は、「私的使用」とも言えないし、「私的使用の目的」を有していたともいえない。
5 争点(5)(被告P3に著作権侵害及び著作者人格権侵害に関して故意又は過失が認められるか)について
(原告の主張)
 被告P3が被告P2ら実行委員会の構成員と共同して(少なくとも幇助して、原告イラストと類似する被告イラスト2ないし7を作成し、これを用いていわきフラオンパクのガイドブック等を製作し、被告イラスト2及び12をブログにアップした行為は、原告の著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害、同ガイドブック等を譲渡した行為は原告の著作権(譲渡権)を侵害する行為であるところ、同被告は、実行委員会の委員長という立場を名乗る以上、いわきフラオンパクの宣伝広告物の採択につき決定権限があることから、いわきフラオンパクの宣伝広告物の作成に当たっては、被告P2からイラスト作成の経緯を確かめ、第三者の著作権侵害がないか否かに注意する義務があったにもかかわらず、これを怠っているばかりか、自身もいわきフラオンパクの宣伝広告物に使用する被告イラスト2ないし17の作成に携わっているので、被告P3には、原告の著作権及び著作者人格権を侵害することについて、故意又は過失がある。
 被告P3は、町おこしを目的とした実行委員会の代表者として、この活動の宣伝広告のために大量の複製物ないし翻案物の譲渡等を企画し実行していたのであるから、被告イラスト2ないし17のイラストを作成、使用する際には、被告イラスト1に著作権侵害がないか否かを調査する義務があった。しかも、被告P2は、実行委員会のメンバーで、被告P3とは緊密に連絡ができる関係にあり、被告P3は、被告イラスト1が、町おこしの企画として被告P2によって作成されたことを知っていた。また、被告P3は、被告P2がイラストに関して素人であることから、他人のイラストを盗用している危険性は十分に認識していた。それにもかかわらず、被告P2の被告イラスト1の作成経緯を聞くことなく、漫然と、被告イラスト2ないし17のイラストを作成の上、複製ないし翻案、譲渡及び公衆送信行為を行っており、被告P3には、著作権侵害行為に対して、故意又は重大な過失、少なくとも過失が認められる。
(被告P3の主張)
 被告イラスト2ないし17が、原告イラストに類似すること、実行委員会が同被告イラストを使用していわきフラオンパクのガイドブックを製作したことは認める。
 被告P3ら実行委員会のメンバーは、メーリングリストに流れた被告イラスト1について、被告P2が描いたキャラクターであると信じており、同キャラクターをガイドブックに掲載することについて問題はないと考え、印刷業者に印刷を依頼した。実行委員会は、町おこしのための任意団体であり、不定期に集まる商工業者の集まりにすぎない。著作権について厳しい調査が期待されるような前提もなく、また、販売目的ではなく、無償配布する予定のガイドブックにアクセントをつけるために、ガイドブックのごく一部に当該キャラクターを使用したにすぎないことも相まって、実行委員会の仲間であり、イラストなども描ける被告P2が、メーリングリストに流した被告イラスト1をガイドブックに掲載する際、その著作権の所在、著作権違反がないか否かについて、厳格に確認する注意義務があったとは言い難く、被告P3に過失は認められない。
6 争点(6)(原告の損害額)について
(原告の主張)
 被告P2が被告イラスト1を複製等して使用したことにより、原告に生じた著作権侵害による財産的損害(使用料相当損害金)の額及び著作者人格権侵害による精神的損害の額はそれぞれ10万円を下らない。
 また、被告らが、被告イラスト2ないし17を複製等して使用したことにより、原告に生じた著作権侵害による財産的損害(使用料相当損害金)の額は210万円を下ることはなく、著作者人格権侵害による精神的損害の額は100万円を下らない。
 さらに、原告には、弁護士費用相当額として50万円の損害が生じている。
(被告らの主張)
 損害額については争う。
 @被告各イラストは、第3回から第6回いわきフラオンパクを開催するに当たってガイドブックに使用され、イベントに参加してもらおうと旅館や飲食店を訪れた顧客等に対して配布されたものであり、その配布は無償であったこと、Aガイドブックの1枚当たりの単価(費用)は販売額を超えていたこと、B原告イラストは、何ら注意事項等の予防措置を取ることなくインターネット上に掲載されたままであり、原告のホームページ以外にも存在していたこと、C被告各イラストが使用されたいわきフラオンパクは、いわき湯本温泉郷の町おこしのために開催された非営利事業であり、公共性が高かったこと、Dいわき市の公益性の高い事業で使用されたにとどまり、愛媛県に住む原告との関係において、市場において競合する関係に立たないこと、E原告は、原告が本件各イラストの制作に関する報酬額として出版社等から受け取っていた金額は、キャットフード代の足しになる程度のもので、とても生活費と呼べるほどのものではなかった旨供述していること、F第2回フラオンパクまでは、別イラストが使用されており、イベントを開催するに当たって被告各イラストが不可欠な要素をなしていなかったこと、G被告の本件ガイドブックの使用期間が平成20年夏頃から平成25年7月頃までの約5年分であり、平成25年7月8日までは、何ら原告からの苦情もなくイベントが遂行されていたこと、H平成23年3月以降は、東日本大震災及び福島第一原発事故によりいわき湯本温泉郷が大きな打撃を受け、被告らは、イベントを開催するに当たり被告各イラストの権利関係を調査する余裕なく使用したものであり、当時の被告らの状況からして、被告らが被告各イラストを使用したことにつき軽過失であったこと、I争いのない事実を除いて、被告らが配布した本件ガイドブック等の具体的な配布数量の立証がないこと、等の事情を総合考慮すると、被告各イラストの使用料相当額は、相当程度低い。
 また、本件においては、被告各イラスト使用による財産的損害に加えて別途精神的損害を認めるに足りる特別な事情はなく、財産的損害が賠償されることをもって、原告の精神的損害は慰謝されている。
7 争点(7)(被告らが今後侵害行為を行うおそれがあるか)について
(原告の主張)
 実行委員会は、その名義の下で、毎年いわきフラオンパクという名前のイベントを主催して行っており、当該イベントの広告宣伝物に、同イベントのマスコットキャラクターとしての「フラねこ」として、被告イラスト2ないし17を含む各種イラストを使用している。現に、第2回から第6回フラオンパクのイベントの広告宣伝物として、被告イラスト2ないし17の各イラストが被告物品に使用されてきた。今後もフラオンパクの開催に当たり、「フラねこ」として被告各イラストが使用されるおそれが高い。
 また、従前「フラねこ」のマスコットキャラクターとして使用された被告各イラストが、現在も第三者のネット上でアップロードされた状態で放置されている。
 したがって、第7回フラオンパクの宣伝広告物に被告各イラストの使用による原告の著作権侵害が生じる可能性が高いので、差止めの必要性があり、その必要な措置として、データを廃棄する必要性がある。
(被告らの主張)
 被告らは、既に原告イラストを基にしたキャラクターを使用しておらず、今後も使用する予定はないのであって、差止めの必要性はない。
8 争点(8)(謝罪広告の適否)について
(原告の主張)
 原告イラストの違法複製翻案物が、被告P2のイラストであるかのように拡散してしまっていること、いまだこれらの違法複製翻案物が第三者のネット上でアップロードされた状態で放置されていること、長期間原告著作権の侵害状態が継続していたことから、損害の賠償と共に、原告の名誉を回復するために、謝罪広告文として原告が著作者であることを明らかにする必要がある。
(被告らの主張)
 「フラねこ」が伝播したのは、いわき市湯本地域を中心とするごく一部の地域にすぎず、しかも、既に相当長期間経過しており、名誉回復措置のために謝罪広告を掲載する必要性に欠ける。
第4 争点に対する判断
1 争点(1)(被告P3に被告適格があるか)について
 原告の被告P3に対する本件訴えは、給付の訴えであるところ、給付の訴えにおいては、原則として、原告が給付請求権を有すると主張する相手方に被告適格が認められる。そして、原告は、本件において、被告P3自身が行った著作権及び著作者人格権侵害の(共同)不法行為に基づき、被告P3に対して損害賠償請求権を有する旨及び差止請求権等を有する旨を主張しているのであり、実行委員会に対して有する損害賠償請求権や差止請求権等を被告P3に対して行使すると主張しているわけではない。したがって、実行委員会が権利能力なき社団であるか否かを判断するまでもなく、被告P3には被告適格が認められる。なお、原告は、訴状の当事者目録において、被告P3について、「いわきフラオンパク実行委員会ことP3」と表示しているが、証拠(甲58、乙22ないし24)によれば、実行委員会が被告P3の個人事業とは認められないから、本判決の当事者の記載では、単に被告P3として特定することとする。
2 争点(2)(被告らの具体的行為)、争点(3)(被告P2に著作権侵害及び著作者人格権侵害に関して故意又は過失が認められるか)、争点(4)(被告P2の行為につき私的使用目的が認められるか)及び争点(5)(被告P3に著作権侵害及び著作者人格権侵害に関して故意又は過失が認められるか)について
(1) 被告イラスト1について
ア 前記前提事実に、後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
(ア) 原告によるイラストの掲載
 原告は、平成15年頃、ホームページを開設して猫のイラストを掲載し、平成17年頃からは、「P7」の作家名を用いて、Tシャツや年賀状等のデザイン制作を受注するなどの活動をしていたが、原告イラストを作成し、同ホームページ上で公開した(甲59)。
 平成25年11月8日時点の同ホームページでは、「P7の「1000匹猫イラスト」は著作権フリーではありませんが、下記ルールで多くの猫好きの皆様にご利用頂くのは大歓迎です。」とし、個人が非営利目的でブログの背景に使用するもの等について、包括的な使用許諾をする旨、その場合でも、原寸より拡大したり修正を加えること等を禁止する旨が記載されている(乙3)。
(イ) 被告イラスト1が作成された経緯
 いわき市湯本温泉郷では、各種イベントを通じて温泉街の活性化を図る目的で、いわき湯本温泉旅館協同組合、いわき湯本温泉観光協会、湯本町人等による実行委員会が中心となって、平成20年から「いわきフラオンパク」というイベントを開催していたが、実行委員会のメンバーであるP4は、同年8月頃、第2回いわきフラオンパクに向けたイベントの一つとして、京都の寺に招き猫を奉納するというイベントを企画した。
 そこで、P4は、近所のコンビニエンスストアにおいて、被告P2に対し、黒猫の縫いぐるみの下絵を描いてほしいと依頼した。
 被告P2は、前提事実(2)のとおり、インターネット上で発見した黒猫のイラストをダウンロードし、同イラストの頭部を切り取り、同頭部にフラダンスの衣装等を組み合わせ、被告イラスト1を作成した上で、同イラストを実行委員会のメーリングリストに投稿した。
 P4は、被告イラスト1を基に縫いぐるみを作成し、寺に奉納した(以上、甲12の1、乙2、26、27)。
(ウ) 被告P2がブログに写真をアップロードした経緯
 平成20年12月2日、被告P2は、P4から呼び出されて、上記奉納イベントの記者会見に参加し、その際、被告P2及び被告P2の娘が、被告イラスト1が記載された用紙を持っている姿が、写真に撮影された(甲12の1、乙6)。
 被告P2は、上記写真を自身のブログにアップした上、「第2回いわきフラオンパク−温泉博覧会の応援キャラクターとして、黒猫の「「フラねこ(仮称)」が誕生した。」、「事業委員会メンバーのP2さん(43)がデザインを考案。」、「愛称の選定やグッズ化など夢は広がる。事業委員会は「将来的にはいわき全体を応援するキャラに育てたい」としている。」などと記載された新聞記事とともにそのときの写真をアップし、さらに、「そんでもって、これが私の絵が形になった『フラねこ』ちゃん。」との文言とともに、被告イラスト1を基にした縫いぐるみと思われるものの写真をアップした(甲27、乙4)。
イ 被告イラスト1は、首より下の部分は原告イラストと異なるが、頭部の描画が原告イラストとほぼ同一であるから、原告イラストの本質的特徴を感得し得るものである。そして、このような類似性に加え、前記認定のような被告P2が被告イラスト1を作成した経緯からすると、被告P2は、原告のホームページにアクセスし、原告イラストに依拠して被告イラスト1を作成したと推認される。したがって、被告イラスト1は、原告イラストを翻案したものであり、被告P2は、原告の翻案権、氏名表示権及び同一性保持権を侵害したということができる。
 また、被告P2が、被告イラスト1が写った写真をブログにアップロードした行為は、原告の公衆送信権を侵害したものであるということができる。なお、この写真における被告イラスト1の複製・利用は同イラストの宣伝を目的とするものであるから、被告P2のこの行為は、著作権法30条の2第2項により許容されるものではない。
ウ 被告P2は、原告は、自らの著作権を厳格に管理していたわけではなく、特に著作権の表示をせずに、自由に使用することも認めていたのであるから、被告P2がウェブ検索の結果探した画像をコピーして使用したとしても、その行為には過失は認められないと主張している(争点(3))。
 しかしながら、著作物に著作権者の表示がなされていなくとも、当該著作物は著作権法上保護の対象となるのであり、現に、著作権表示のない著作物は多数存在している。そして、原告イラストは、美術の著作物として著作権の対象となることは明らかなものである。そうすると、仮に原告のホームページにおいて、原告イラストについて(C)マークによる著作権表示がなかったとしても、著作権放棄である旨の表示がない限り、原告イラストは著作権放棄ではないと考えるのが自然であり、乙3の記載からすると、被告イラスト1の作成当時も、原告のホームページに著作権放棄の表示があったとは認められない。したがって、被告P2は、実行委員会に提供するための改変行為が原告の著作権及び著作者人格権に牴触するものであることを、容易に認識し得たというべきである。
 以上より、被告イラスト1を作成し、それが写った写真をブログにアップした行為が原告の著作権及び著作者人格権を侵害することについて、被告P2には過失があったと認められる。
エ 被告P2は、被告P2の上記行為につき私的使用目的を主張している(争点(4))。
 しかし、被告P2は、記者会見まで行った第2回いわきフラオンパクのイベントに供するために被告イラスト1を作成したのであるから、その行為が「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲において使用すること」(著作権法30条1項柱書き)を目的とするものであるとは認められない。また、被告イラスト1を、実行委員会のメンバーでなくとも誰でもアクセスできるブログにアップする行為についても、上記の私的使用を目的とするものであるとは認められない。
(2) 被告イラスト2について
ア 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
 第2回いわきフラオンパクが開かれた後、第3回いわきフラオンパクの準備段階において、ガイドブック(プログラム冊子)に関して実行委員会内部で協議していた際、P4が、被告P3に対し、被告P2が作成した被告イラスト1をワンポイントのキャラクターとして利用してはどうかと提案した(乙27、28)。
 そこで、被告P3は、被告イラスト1の作成経緯等について特に被告P2に確認することなく、同イラストを掲載することに問題はないと考え、被告イラスト1に基づいた被告イラスト2を表紙に用いたガイドブックの印刷を印刷業者に依頼した(乙5、16及び28)。
 他方、被告P2は、第2回いわきフラオンパクの後、第3回いわきフラオンパクが開催されるまでに、少なくとも、平成21年7月8日(甲34)、同年8月26日(甲36)、同年9月2日(甲37)、同年10月27日(甲38)に、それぞれいわきフラオンパクに係る企画等の会議に出席し、同年11月2日には、第3回いわきフラオンパクのガイドブックの第1稿が被告P2のもとに届けられた(甲39)。また、その後もガイドブックの校正は続けられ(甲40及び41)、完成したガイドブックは、実行委員会から1万1000部発行された(乙16の資料3)。
イ 被告イラスト2が原告イラストに類似することは当事者間に争いがなく、前提事実(2)のとおり、被告イラスト2は被告イラスト1に依拠して作成されたものであるから、被告イラスト2は、原告イラストを翻案したものということができる。そして、被告イラスト2の作成者は判然としないものの、前記認定事実からすると、被告P3は、実行委員会の代表者として第3回いわきフラオンパクのガイドブックに被告イラスト2を使用することを決め、被告P2は、少なくとも第1稿の段階でそのことを知りつつ、受容したと認められる。
ウ 被告P3は、被告P2が作成した被告イラスト1に基づいて作成された被告イラスト2を第3回いわきフラオンパクのガイドブックに掲載する際、その著作権の所在、著作権違反がないか否かについて、厳格に確認する注意義務はなかったと主張している(争点(5))。
 確かに実行委員会は、いわき市常磐湯本町の有志が地域活性化のために集まった集団にすぎず、その仲間の一人である被告P2が作成したとする被告イラスト1について、特に著作権侵害を疑うべき事情があったとは認められない。
 しかしながら、実行委員会は、後記3のとおり、約21万部という少なくない部数のガイドブックやチラシを発行することで、広く集客し、地域の事業者が経済的に利益を上げることを企図して、約3か月もの間、第3回いわきフラオンパクを開催したのであり、被告イラスト2は、「フラねこ」という愛称を付した応援キャラクターとして使用されたのである。このように、被告イラスト2が、集客目的の長期イベントのキャラクターデザインとして使用されたことを考えると、実行委員会の代表者である被告P3には、そのデザインが他人の著作権を侵害するものでないか否かに意を払い、特に疑うべき事情がなくともそのデザインの作成に至る経緯を確認すべき注意義務があったと認めるのが相当であり、町おこし目的のボランティアベースの活動だからといって、何らの調査義務も課されないということはできない。
 本件についてみると、前記アのとおり、被告P3は、第3回いわきフラオンパクの準備段階において、被告P2と会議において同席しており、被告イラスト1をキャラクターとして利用するに際し、被告P2に対して被告イラスト1の作成経緯を確認し、他人のイラストに依拠していないかどうかを確認することは容易であったといえる。しかしながら、被告P3は、被告P2に対する確認を怠っており、過失があったと認められる。
エ 被告P2は、被告イラスト2が第3回いわきフラオンパクのガイドブック等に使用されることを予見できなかったと主張する(争点(4))。
 しかし、被告P2は、被告イラスト1が写った写真をブログにアップした際に、同時に新聞記事をアップしており、同記事には目を通していると考えられるところ、同記事においては、同イラストのキャラクターにつき自身がデザインを考案したとされた上で、愛称の選定やグッズ化、いわき全体を応援するキャラへ育てることなどの記載があり、被告イラスト1が縫いぐるみの下絵だけでなく、より広くキャラクター化される可能性があることを被告P2は知り得たといえる。その上で被告P2は、被告イラスト1をブログに掲載した後も、前記アのとおり、実行委員会の会議に出席し、ガイドブックの校正などにも関わっていたのであり、被告イラスト1を基にしたキャラクターがガイドブックに使用されることを認識し、受容していたといえる。被告P2としては、過失に基づくとはいえ著作権侵害により被告イラスト1を作成し、そのデザインを実行委員会に提供し、自らも実行委員会の運営に深く関わっているのであるから、実行委員会が同キャラクターをいわきフラオンパクのガイドブックに使用することを認識した時点において、他人のイラストに依拠して被告イラスト1を作成したことを被告P3らに伝え、使用を中止するよう取り計らう注意義務があったといえ、かかる義務に反した被告P2には過失が認められる。
オ 以上によれば、被告イラスト2を第3回いわきフラオンパクのガイドブックに使用した行為は、原告の原告イラストに関する翻案権を侵害するとともに、氏名表示権及び同一性保持権を侵害する行為であり、被告らには共同不法行為が成立すると認められる。他方、原告が指摘する甲4では、イラスト2が使用されているか否かが一見して判読できず、原告イラストの表現の本質的特徴を感得し得るとは認められないから、これについて公衆送信権の侵害は認められない。
(3) 被告イラスト3について
ア 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 被告イラスト3は、実行委員会が発行する第4回いわきフラオンパクのガイドブックに使用された(乙16の資料3)。ガイドブックは、1万部印刷され、1部100円で販売され、15万5900円の売上げ(乙24の1及び2)があった。
(イ) 被告P2は、第3回いわきフラオンパクの後、第4回いわきフラオンパクが開催されるまで間、少なくとも、平成22年10月13日に被告P3と打合せをし(甲4)、同月27日に被告P3らと実行委員会のミーティングに参加し(甲47)、同年12月14日に被告P3らと打ち合わせてガイドブックの表紙を決定し(甲48)、同月29日及び平成23年1月5日に被告P3らと共にガイドブックの作成作業をした(甲49)ことが認められる。
イ 被告イラスト3が原告イラストに類似することは当事者間に争いがなく、被告イラスト3は被告イラスト1に依拠して作成されたと認められるから、被告イラスト3は、原告イラストを翻案したものであると認められる。そして、前記認定事実によれば、被告らは、被告イラスト3を第4回いわきフラオンパクのガイドブックに使用することにつき積極的に関与したと認められ、被告らに過失が認められることは先に述べたのと同様であるから、この行為は、原告の原告イラストに関する翻案権を侵害するとともに、氏名表示権及び同一性保持権を侵害する行為であり、被告らには共同不法行為が成立すると認められる。
(4) 被告イラスト4について
ア 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 被告イラスト4は、実行委員会が発行する第5回いわきフラオンパクのプログラムに使用された(乙16の資料3)。ガイドブックは、3000部印刷された。
(イ) 被告P2は、第4回いわきフラオンパクの後、第5回いわきフラオンパクが開催されるまで間、少なくとも、平成23年12月30日に被告P3らと第4回いわきフラオンパクに向けたミーティングを行ったことが認められる(甲57)。
イ 被告イラスト4は、被告イラスト3と同様に、原告イラストを翻案したものであると認められる。そして、前記認定事実からすると、被告P3は実行委員会の代表者として被告イラスト4を第5回いわきフラオンパクのガイドブックに使用することにつき積極的に関与したと推認され、被告P2もミーティングに参加していたことから、そのことを認識していたと推認される。そして、被告らに過失が認められることは先に述べたのと同様であるから、被告イラスト4を第5回いわきフラオンパクのガイドブックに使用する行為は、原告の原告イラストに関する翻案権を侵害するとともに、氏名表示権及び同一性保持権を侵害する行為であり、被告らには共同不法行為が成立すると認められる。
(5) 被告イラスト5について
ア 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告イラスト5は、実行委員会が発行する第6回いわきフラオンパクのプログラム(乙16の資料3)とポスター(甲8の添付資料4)に使用され、プログラムは1500部、ポスターは20部印刷されたことが認められる。
イ 被告イラスト5は、被告イラスト3と同様に、原告イラストを翻案したものであると認められる。そして、前記認定事実からすると、被告P3は実行委員会の代表者として被告イラスト5を第6回フラオンパクのプログラムに使用することにつき積極的に関与したと推認され、過失が認められることは先に述べたのと同様であるから、被告イラスト5を第6回フラオンパクのプログラムに使用する行為は、原告の原告イラストに関する翻案権を侵害するとともに、氏名表示権及び同一性保持権を侵害する行為である。他方、被告P2については、第6回いわきフラオンパク自体への積極的関与を示す証拠がないことから、この件につき共同不法行為責任を負うと認めることはできない。
 なお、原告は、かかるプログラム及びポスター以外にチラシにも被告イラスト4が使用されたと主張するが、その使用に被告らが関わったと認めるに足りる証拠はない。
(6) 被告イラスト6について
ア 甲12の1のP4が管理するブログの平成20年12月3日の記事には、「「フラねこ(仮称)」。私が立案、P2さんによるデザイン、観光協会会長のP5さんによる、フラオンパク三つ折プログラムへのキャラ採用」との記載とともに、被告イラスト6を使用したチラシが掲載されている。また、乙22の2によると、第2回フラオンパクに関し、三つ折りチラシなる品名の物が6万枚印刷されたことが認められる。これらからすると、被告イラスト6は、第2回フラオンパクの三つ折りチラシに使用されたと認められる。
 この点について、被告らは、第2回いわきフラオンパクで「フラねこ」をキャラクターに使用したことはないと主張するが、上記のブログの記事は明らかに第2回いわきフラオンパクの時期であり、後記のとおり、被告イラスト17が同じく第2回いわきフラオンパク関係のブログに掲載されていること(甲29の1)からすると、被告らの主張は採用できない。
 そして、三つ折りチラシは、実行委員会の収支に計上されていることから、代表者の被告P3が関与して製作したと推認され、また、上記のブログの記載からすると、被告イラスト6のデザインは被告P2が行ったと認められる。
イ 被告イラスト6は、被告イラスト3と同様に、原告イラストを翻案したものであると認められる。そして、これについて前記のとおりの被告らの関与が認められ、被告らに過失が認められることは先に述べたのと同様であるから、被告イラスト6を第2回フラオンパクの三つ折りチラシに使用する行為は、原告の原告イラストに関する翻案権を侵害するとともに、氏名表示権及び同一性保持権を侵害する行為であり、被告らには共同不法行為が成立すると認められる。
(7) 被告イラスト7について
ア 甲53によれば、被告P2は、自己が管理するブログの平成23年4月14日の記事において、スマイルキッズオンパクの紹介をした上で、被告イラスト7を用いた画像を掲載していることが認められる。
 他方、原告は、被告らが、被告イラスト7を使用したチラシを6万部印刷したと主張し、平成26年12月25日付け原告第2準備書面(16頁)において、それを使用したチラシを挙示している。そして、乙16及び乙23の1によれば、平成21年7月13日を受注日として、実行委員会が、「キッズオンパクチラシ」という品名のチラシ6万部を印刷したことが認められる。しかしながら、被告らが印刷したと原告が主張するチラシには、「地震で被災」との文言が見られ、平成23年3月11日に発生した東日本大震災の後に作成されたものであると認められる上、上記被告P2のブログも同年4月のものであることからすると、原告主張の同チラシと、平成21年7月13日を受注日として6万部印刷された「キッズオンパクチラシ」が同一の物であるとは認められず、他に6万部印刷された上記「キッズオンパクチラシ」に、被告イラスト7が使用されたことを認めるに足りる証拠はない。
イ 被告イラスト7は、被告イラスト3と同様に、原告イラストを翻案したものであると推認される。そして、その作成は前記のとおりの被告P2が行ったと認められ、同被告に過失が認められることは先に述べたのと同様であるから、被告P2が被告イラスト7を作成した行為は、原告の原告イラストに関する翻案権を侵害するとともに、氏名表示権及び同一性保持権を侵害する行為であると認められる。
 他方、甲56によれば、キッズオンパクは被告P2個人が主体となって行った事業で、実行委員会が行ったとは認められず、被告イラスト7の作成やブログでの使用について、被告P3が関与したことを認めるに足りる証拠はない。確かに実行委員会は「キッズオンパクチラシ」を作成しており、甲54によれば、平成23年6月23日に被告P3が被告P2とキッズオンパクの件で打ち合わせたことが認められるが、そのことをもって被告イラスト7の作成使用に被告P3が関与したと認めることはできない。
(8) 被告イラスト8について
ア 証拠(甲35及び40、乙1、16[資料4]及び23の1)及び平成26年12月25日付け原告第2準備書面(18頁)によれば、被告イラスト8は、第3回フラオンパクのときに作成された「ジャンボメニューマップ」に使用され、1万1000部が印刷されたこと、作成主体は「よしまジャンボメニューでまちおこし実行委員会」であって、本件での実行委員会ではないが、被告P3は、平成21年8月20日に好間町商工会と同マップを持って打合せをしており、実行委員会のホームページに、「好間商工会の「ジャンボメニューでまちおこし」と連携し、フラオンパクでプログラムを提供して頂きました。」との記載があり、その印刷費用は第3回いわきフラオンパクの実行委員会の収支に計上されていることが認められる。
イ 被告イラスト8は、被告イラスト3と同様に、原告イラストを翻案したものであると認められる。そして、上記マップが実行委員会の支出として計上されていることからすると、その作成は実行委員会の事業としても行われたもので、被告P3はその作成に積極的に関与したと認められ、同被告に過失が認められることは先に述べたのと同様であるから、被告P3が被告イラスト8を上記マップに使用した行為は、原告の原告イラストに関する翻案権を侵害するとともに、氏名表示権及び同一性保持権を侵害する行為であると認められる。
 他方、この件について、被告P2が関与したことを認めるに足りる証拠はないから、同被告に不法行為の成立を認めることはできない。
(9) 被告イラスト9について
ア 原告は、被告イラスト9が、「がんばっぺ!いわき」と書かれたステッカーに使用されたと主張する(平成26年12月25日付け原告第2準備書面20頁)。
 乙16の資料4によれば、平成23年4月25日を受注日として、「オリジナルステッカー」という品名の物が1000部印刷されたことが認められるところ、被告イラスト9が使用されたと原告が主張するステッカーは、被告P3らがオリジナルキャラであると考えていた被告イラスト1を基にしたステッカーであり、その内容は「オリジナルステッカー」という品名と一致する。乙16の「オリジナルステッカー」に対応する備考欄に「スリット入り」との文言が記載されており、かつ、原告主張のステッカーがスリットの入った台紙に差し込まれていることも併せて考えると、被告イラスト9を使用するステッカーが実行委員会からの発注により1000部印刷されたと認められる。
 この点について、被告らは、ステッカーはP6において独自に作成したものであると主張し、確かに被告P3が管理するブログの同年7月23日の記事では、同日のいわきニュータウン夕市で、「P6さんのがんばっぺグッズ販売」と記載されていることが認められる(甲55)。しかし、乙16は、P6の受注記録と考えられるところ、そこでは、「オリジナルステッカー」と並んで「がんばぺ のぼり」も「いわきフラオンパク」から受注したとされているから、上記ステッカーも実行委員会がP6に発注して作成したと認めるのが相当であり、被告らの主張は採用できない。
イ 被告イラスト9は、被告イラスト3と同様に、原告イラストを翻案したものであると認められる。そして、上記ステッカーが実行委員会の発注によって作成されたことからすると、被告P3はその作成に積極的に関与したと認められ、同被告に過失が認められることは先に述べたのと同様であるから、被告P3が被告イラスト9を上記ステッカーに使用した行為は、原告の原告イラストに関する翻案権を侵害するとともに、氏名表示権及び同一性保持権を侵害する行為であると認められる。
 他方、この件について、被告P2が関与したことを認めるに足りる証拠はないから、同被告に不法行為の成立を認めることはできない。
(10) 被告イラスト10について
ア 原告は、被告イラスト10が、第3回いわきフラオンパクのリーフレットに使用されたと主張する(平成26年12月25日付け原告第2準備書面21頁)。
 被告らは、このリーフレットを実行委員会が作成したことを否認するが、原告が上記準備書面で掲げるチラシ様の文書には、問合せ先が実行委員会の電話番号(乙5)とされており、被告P3が管理するブログの平成21年11月6日の「オンパクガイドブック校正まだまだ続く」との記事の写真中で、校正作業の傍らにこの文書が置かれていること(甲40)からすると、実行委員会が作成したものと認めるのが相当である。そして、乙16によれば、平成21年9月2日を受注日として、「告知リーフレット10/2折込」という品名の物が5万部印刷されたことが認められる一方、被告イラスト10が使用されたと原告が主張するリーフレットは、第3回いわきフラオンパクが開催されることを告知する旨のリーフレットであり、その内容は「告知リーフレット10/2折込」という品名と一致するから、原告主張のリーフレットと、乙16記載の「告知リーフレット10/2折込」とは同一の物であって、被告イラスト10を使用するリーフレットが5万部印刷されたと認められる。
イ 被告イラスト10は、被告イラスト3と同様に、原告イラストを翻案したものであると認められる。そして、実行委員会が上記リーフレットを作成したことからすると、被告P3はその作成に積極的に関与したと認められ、同被告に過失が認められることは先に述べたのと同様であるから、被告P3が被告イラスト10を上記リーフレットに使用した行為は、原告の原告イラストに関する翻案権を侵害するとともに、氏名表示権及び同一性保持権を侵害する行為であると認められる。
 他方、この件について、被告P2が関与したことを認めるに足りる証拠はないから、同被告に不法行為の成立を認めることはできない。
(11) 被告イラスト11について
 原告は、被告イラスト11が、第3回いわきフラオンパクの「ワンコインマップ」に使用されたと主張する(平成26年12月25日付け原告第2準備書面23頁)。
 しかし、上記マップの作成主体は不明であり、被告らが原告の主張するチラシの作成に関与したと認めるに足りる証拠はない。
(12) 被告イラスト12について
 原告は、被告イラスト12が、第3回いわきフラオンパクのポスター(甲43)に使用されたと主張する(平成26年12月25日付け原告第2準備書面24頁)。そして、乙23の3によると、第3回いわきフラオンパクに関し、実行委員会から「酉小屋ポスター代」の名目で7万円が支出されたことが認められる。
 しかしながら、酉小屋とは、藁や竹などで小屋を建て、深夜あるいは早朝に正月飾りとともに燃やすといういわき地方に伝わる小正月行事であるところ(乙19)、被告イラスト12が使用されたと原告が主張するポスターに、酉小屋との関連性をうかがわせるものは記載されていない。同ポスターには、いわきフラオンパクに関するホームページアドレスは記載されているものの、実行委員会の名称は記載されておらず、発行名義はいわき市といわき観光まちづくりビューローとされていることも併せて考慮すると、実行委員会が、被告イラスト12を使用してポスターを印刷したと認めることはできない。
 もっとも、被告P3は、このポスターを用いて東京で記者会見を行い(甲42)、被告P2は、平成21年12月14日頃、夫が経営する社会保険労務士事務所の窓ガラスに、このポスターを貼る(甲45)など、このポスターを使った宣伝活動を行っているが、被告らがこのポスターの作成にどのように関与したのかは明らかでないから、実行委員会が作成したものでないポスターでの被告イラスト12の使用について、被告らに直ちに共同不法行為責任を負わせることは相当でないというべきである。
 ただし、被告P3は、甲42のとおり、本ポスターを持った写真を自己のブログにアップロードしており、この行為は、原告の公衆送信権を侵害するとともに、氏名表示権を侵害する行為であると認められる。なお、この行為についても著作権法30条の2により許容されるものではない。
(13) 被告イラスト13について
 原告は、被告イラスト13が、チラシに使用されたと主張する(平成26年12月25日付け原告第2準備書面26頁)。
 しかし、その作成主体は明らかでなく、被告らがその作成に関与したと認めるに足りる証拠もない(なお、被告らは、原告がチラシと指摘するものは第3回いわきフラオンパクのガイドブックの裏表紙に使用されたと主張するが、乙5に照らして採用できない。)。
(14) 被告イラスト14について
ア 原告は、被告イラスト14が、第3回いわきフラオンパクにおけるフラ・オン・メイト入会申込書付きのチラシに使用されたと主張する(平成26年12月25日付け原告第2準備書面28頁)。
 被告イラスト14が使用されたと原告が主張しているチラシは、第3回いわきフラオンパクが始動したことを告知するとともに、いわきフラオンパクオフィシャルファンクラブの入会申込書が下部に記載されており、同ファンクラブに入会を希望する者は、同申込書を実行委員会の事務局まで郵送又はFAXするものとされている。このような体裁からすると、このチラシは、実行委員会が作成したものと認めるのが相当であるが、部数についてはこれを認めるに足りる証拠はない。
イ 被告イラスト14は、被告イラスト3と同様に、原告イラストを翻案したものであると認められる。そして、実行委員会が上記チラシを作成したことからすると、被告P3はその作成に積極的に関与したと認められ、同被告に過失が認められることは先に述べたのと同様であるから、被告P3が被告イラスト14を上記チラシに使用した行為は、原告の原告イラストに関する翻案権を侵害するとともに、氏名表示権及び同一性保持権を侵害する行為であると認められる。
 他方、この件について、被告P2が関与したことを認めるに足りる証拠はないから、同被告に不法行為の成立を認めることはできない。
(15) 被告イラスト15について
ア 原告は、被告らが被告イラスト15を使用し、スタッフの名刺として300枚印刷したと主張し(平成26年12月25日付け原告第2準備書面30頁)、乙16には、平成21年2月に2名のために「いわきフラオンパク名刺」合計300枚が印刷されたことが認められる。
 原告がスタッフの名刺であると主張する物は、いわきフラオンパクのスタッフであることを識別するためのカードであるから、実行委員会が作成したと推認することができる。しかし、このカードは、上記2名用の名刺とは異なるものであり、上記乙16記載の名刺と同一の物とは考え難いから、実行委員会が、被告イラスト15を使用してスタッフの名刺300枚を印刷したと認めることはできず、作成部数は不明というほかない。
イ 被告イラスト15は、被告イラスト3と同様に、原告イラストを翻案したものであると認められる。そして、実行委員会が上記カードを作成したことからすると、被告P3はその作成に積極的に関与したと認められ、同被告に過失が認められることは先に述べたのと同様であるから、被告P3が被告イラスト15を上記カードに使用した行為は、原告の原告イラストに関する翻案権を侵害するとともに、氏名表示権及び同一性保持権を侵害する行為であると認められる。
 他方、この件について、被告P2が関与したことを認めるに足りる証拠はないから、同被告に不法行為の成立を認めることはできない。
(16) 被告イラスト16について
 原告は、被告らが被告イラスト16を使用してチラシを作成したと主張する(平成26年12月25日付け原告第2準備書面31頁)。
 しかし、原告が主張するチラシは、「cafe Uluru」名義で作成されており、実行委員会や被告らが被告イラスト16を使用して、原告の主張するチラシを作成したと認めるに足りる証拠はないから、この件について被告らに共同不法行為が成立するとは認められない。
(17) 被告イラスト17について
ア 原告は、被告らにより、被告イラスト17がチラシに使用されたと主張している(平成26年12月25日付け原告第2準備書面32頁)。
 甲29によれば、被告イラスト17は、いわき湯本温泉の女将会のブログの平成20年12月11日の第2回フラオンパクに関する記事中で、イラストとして掲示されたものであると認められ、被告は、同イラストを被告P2が作成したと認めている。しかし、被告イラスト17が実行委員会が作成したチラシに使用されたことを認めるに足りる証拠はない。
イ 被告イラスト17は、被告イラスト3と同様に、原告イラストを翻案したものであると認められる。そして、同イラストは被告P2が作成したものであり、同被告に過失が認められることは先に述べたのと同様であるから、被告P2が被告イラスト17を作成した行為は、原告の原告イラストに関する翻案権を侵害するとともに、氏名表示権及び同一性保持権を侵害する行為であると認められる。
 他方、この件について、被告P3が関与したことを認めるに足りる証拠はないから、同被告に不法行為の成立を認めることはできない。
3 争点(6)(原告の損害額)について
(1) 著作権侵害に関する損害額について
ア 以上検討したとおり、被告らが責任を負う被告各イラストの使用状況は、下記のとおりとなる。
(ア) 第2回いわきフラオンパク関連
・奉納行事のための被告イラスト1の作成(被告P2)
・被告イラスト17の女将会のブログへの掲載(被告P2)
・被告イラスト6を使用した三つ折りチラシを6万部作成(被告ら)
(イ) 第3回いわきフラオンパク関連
・被告イラスト2を使用したガイドブックを1万1000部作成(被告ら)
・被告イラスト8を使用したジャンボメニューマップを1万1000部作成(被告P3)
・被告イラスト10を使用したリーフレットを5万部作成(被告P3)
・被告イラスト12を使用したポスターをブログにアップロード(被告P3)
・被告イラスト14を使用したチラシを作成(被告P3)
(ウ) 第4回いわきフラオンパク関連
・被告イラスト3を使用したガイドブックを1万部作成(被告ら)
・被告イラスト9を使用したステッカーを1000部作成(被告P3)
(エ) 第5回いわきフラオンパク関連
・被告イラスト4を使用したパンフレットを3000部作成(被告ら)
(オ) 第6回いわきフラオンパク関連
・被告イラスト5を使用したパンフレットを1500部作成(被告P3)
・被告イラスト5を使用したポスターを20部作成(被告P3)
(カ) その他
・被告イラスト7をキッズフラオンパク関係のブログに掲載(被告P2)
・被告イラスト15を使用したカードを作成(被告P3)
イ ところで、甲61によれば、原告が平成27年に自己のネコのイラストやデザインを商用使用に許諾した際には、印鑑については1個当たり130円、年賀状については、デザイン代が3000円で1枚当たりが2.5円、カレンダーについては、販促用は1部当たり20円、販売用は1部当たり70円の使用許諾料としたことが認められる。
 しかし、本件では、いわきフラオンパクという一つの包括的なイベントのための各種広報媒体に被告各イラストが使用されており、上記の許諾例ように個々の商品に被告のイラストが使用されて有償で取引された場合とは異なり、個々の取引価格の中にイラストの価値が含まれているというものではない。また、被告イラスト12を使用したポスターにも示されるとおり、いわきフラオンパクは、いわき市も関わった地域活性化のための取組であるという公共的な性格も有しており、各種広報媒体も、第3回いわきフラオンパクのガイドブックを1部100円で販売したこと以外は無償で配布されている(上記ガイドブックの販売額も15万5900円にとどまる。)ことから、被告各イラストの使用を通常の商用使用と同様に捉えることはできない。これらの点からすると、本件で著作権法114条3項の損害額を算定するに当たり、上記の許諾例と同様に考えることは相当でないというべきであり、同様に、原告が挙示する他社の許諾料の例(甲60)によることも相当でないというべきである。
 そこで、先に認定した広報媒体への被告各イラストの使用態様、それらの広報媒体の印刷部数、上記のようないわきフラオンパクの趣旨と性質に加え、いわきフラオンパクは、第3回のガイドブックの売上げが15万5900円にとどまったことからして、地域外からの来場者数はさほど多くなく、比較的小規模なものであったと推認されること、第5回以降は印刷部数も少なく、規模も大きく縮小されたこと、さらに、原告や原告イラストが社会的に周知であるとは認められないこと等の本件に表れた事情を総合考慮すると、本件で相当な損害額としては、被告らの共同不法行為分につき50万円、被告P2独自の不法行為分につき5万円、被告P3独自の不法行為分につき10万円と認めるのが相当である。
(2) 著作者人格権侵害に関する損害額について
 前記の被告各イラストの印刷枚数、原告イラストを猫がフラダンスをするものに改変するという態様、被告各イラストの公表の態様、殊に被告イラスト1に関して、「これが私の絵が形になった『フラねこ』」と、被告P2が、自己のオリジナルキャラクターであるかのように記載していること(乙4)、原告がイラストレーターで自己のホームページにおいて拡大や修正等を禁じる旨を明記していること(乙3)等に照らすと、発端となった被告P2の被告イラスト1の作成等に関して原告に生じた精神的損害の額は5万円と、それに続く被告らの被告イラスト2ないし17(ただし11、13及び16を除く。)の翻案使用に関して原告に生じた精神的損害の額は、被告らの共同不法行為分につき15万円、被告P2及び被告P3独自の不法行為分につき各5万円とそれぞれ認めるのが相当である。
(3) 弁護士費用について
 被告らの各行為により、被告らが負担すべき弁護士費用相当額としては本件における紛争の内容、経過等に鑑みると、10万円と認めるのが相当である。
4 争点(7)(被告らが今後侵害行為を行うおそれがあるか)について
(1) 原告は、被告らが、いわきフラオンパクにおいて、引き続き被告イラストを使用するおそれが高く、差止めの必要性及びデータを廃棄する必要性があると主張している。
 しかしながら、いわきフラオンパクは、平成25年6月23日から同年7月15日まで開催された第6回いわきフラオンパクを最後に以後開催されていないことが認められ(乙26ないし28)、今後も開催される見込みは低く、被告イラストが、今後、いわきフラオンパクにおいて使用される可能性は低いといえる。
(2) また、原告は、被告P3は甲4及び甲43のとおり、自身が管理するブログに被告イラストを掲載しており、差止めの必要性は失われていないとも主張している。
 しかし、甲4に関しては、被告イラスト2が使用されているかどうかは、一見しただけでは容易には判明せず、原告イラストの表現の本質的特徴を感得することもできない。また、甲43に関しては、被告P3が管理しているサイトであることをうかがわせる記載は見当たらない。原告の主張する事実をもって、差止めの必要性が失われていないとはいえない。
(3) 以上に加え、被告らは、故意又は過失は争っているものの、被告各イラストが原告イラストに依拠していることを認め、自身の管理するブログから被告各イラストを削除するとともに、関係機関に問合せを行い、被告各イラストの削除を依頼している(乙26、28)ことも併せて考慮すると、被告らが今後侵害行為を行うおそれがあるとは認められず、原告の差止請求及びデータ廃棄請求は認められない。
5 争点(8)(謝罪広告の適否)について
 原告が求める謝罪広告は、著作権法115条の「著作者…の名誉若しくは声望を回復するために必要な措置」として請求されているものであるところ、同措置の請求が認められるためには、著作者の名誉感情が毀損されたことでは足りず、著作者の社会的声望名誉が低下したことを要すると解される(最高裁判所昭和61年5月30日判決・民集40巻4号725頁参照)。
 しかし、本件では、被告各イラストの内容及び使用態様が原告の社会的声望名誉を毀損するものとは認められない上、他にそのような事情が存するとも認めるに足りないから、原告の謝罪広告請求は理由がない。
6 結論
 以上によれば、原告の請求は、被告P2に対し、90万円(ただし、75万円の限度で被告P3と連帯支払)及びこれに対する平成26年6月13日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を、被告P3に対し、90万円(ただし、75万円の限度で被告P2と連帯支払)及びこれに対する同月9日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で、それぞれ理由があるから認容することとし、その余は理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部
 裁判長裁判官 松宏之
 裁判官 田原美奈子
 裁判官 中山知


別紙 原告イラスト目録(画像省略)
別紙 被告イラスト目録1〜17(画像省略)

別紙 被告物品目録
1 名刺
2 チラシ
3 ポスター
4 三つ折りプログラム
5 キッズオンパクチラシ
6 封筒角2
7 封筒長3
8 告知リーフレット
9 ポスター訂正用シール
10 ジャンボメニューマップ
11 いわきフラオンパンフレット
12 クーポン券
13 オリジナルステッカー
14 ガンバぺ のぼり

別紙 謝罪広告目録
1 被告P2の謝罪文
謝罪広告
 私は、P7ことP1氏の著作物を無断で改変し、いわきフラオンパクのマスコットキャラクターである「フラねこ」を作成し、「フラねこ」を自己の著作物であるかのようにブログに掲載し、また、多数の広告宣伝物に記載いたしました。著作権者に多大なご迷惑をおかけしたことを反省し、ここに、謝罪いたします。今後は、著作権侵害が生じないように十分に注意いたします。
P2
2 被告P3の謝罪文
謝罪広告
私は、P7ことP1氏の著作物を無断で改変し、いわきフラオンパクのマスコットキャラクターである「フラねこ」を作成し、「フラねこ」のイラストを記載するにつき、P7の氏名を表示することなく多数の広告宣伝物に記載いたしました。著作権者に多大なご迷惑をおかけしたことを反省し、ここに謝罪いたします。今後は、著作権侵害が生じないように十分に注意いたします。
P3

別紙 謝罪広告掲載要領目録
1 掲載要領(被告P2)
 被告P2は、別紙謝罪広告目録1記載の謝罪文を、第一段「謝罪広告」を20ポイント活字で、その他の部分は14ポイント活字で、P8名義で開設するブログ(P9)のウェブページに30日間及び福島民報社発行の新聞社会面の2段×13センチメートルのスペースに活字は前記大きさで、1回掲載せよ。
2 掲載要領(被告P3)
 被告P3は、別紙謝罪広告目録2記載の謝罪文を、第一段「謝罪広告」を20ポイント活字で、その他の部分は14ポイント活字で、P3名義で開設するブログ(P10)のウェブページに30日間及び福島民報社発行の新聞社会面の2段×13センチメートルのスペースに活字は前記大きさで、1回掲載せよ。
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