判例全文 | ||
【事件名】ディズニーアニメの日本語版DVD事件B 【年月日】平成27年8月28日 東京地裁 平成26年(ワ)第4972号 著作権侵害差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成27年7月8日) 判決 原告 有限会社アートステーション(以下「原告アートステーション」という。) 原告 株式会社コスモ・コーディネート(以下「原告コスモ・コーディネート」という。) 被告 A(以下「被告A」という。) 被告 株式会社メディアジャパン(以下「被告会社」という。) 上記両名訴訟代理人弁護士 松谷栄士 主文 1 被告会社は、別紙被告商品目録記載のDVD商品を輸入し、複製し、頒布してはならない。 2 被告会社は、原告アートステーションに対し、8万1600円及びこれに対する平成26年5月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告会社は、原告コスモ・コーディネートに対し、8万1600円及びこれに対する平成26年5月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告らの被告Aに対する請求及び被告会社に対するその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は、原告らと被告Aとの間では原告らの負担とし、原告らと被告会社との間ではこれを3分し、その2を原告らの負担とし、その余は被告会社の負担とする。 6 この判決は、第2項及び第3項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは、別紙被告商品目録記載のDVD商品を輸入し、複製し、頒布してはならない。 2 被告らは、原告アートステーションに対し、連帯して405万円及びこれに対する被告Aにつき平成26年5月19日から、被告会社につき同月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは、原告コスモ・コーディネートに対し、連帯して405万円及びこれに対する被告Aにつき平成26年5月19日から、被告会社につき同月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は被告らの負担とする。 5 2、3につき仮執行宣言 第2 事案の概要 1 前提事実(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。) (1) 当事者 原告アートステーションは、映像ソフトの企画、製作、販売及び輸出入等を業とする有限会社であり、原告コスモ・コーディネートは、マルチメディアソフトの企画、製作及び投資管理等を業とする株式会社である。 被告会社は、ビデオテープ等の記録媒体の企画、製造、販売及び輸出入等を業とする株式会社であり、被告Aは、平成22年当時、被告会社の代表取締役を務めていた者である。 (2) 原告らの著作権 原告らは、著作権の保護期間を満了した外国の映画作品である「白雪姫」その他の合計10作品につき、日本語音声及び日本語字幕を収録し直して、別紙原告商品目録記載の各DVD(以下「原告商品」という。)を製作、販売している。 原告商品に収録されている日本語台詞原稿及び日本語字幕には創作性があり、その著作権は原告らが持分各2分の1の割合で共有している(甲4、6、弁論の全趣旨)。 (3) 被告会社によるDVDの複製、販売 被告会社は、別紙被告商品目録記載の各DVD商品(以下「被告商品」という。)を製造、販売している。 被告商品には、原告商品と同一の日本語音声及び日本語字幕が収録されている(甲7)。 2 本件は、原告らが、被告らは被告商品を輸入、複製及び頒布し、もって原告らの有する著作権(複製権及び譲渡権)を侵害していると主張して、被告らに対し、著作権法112条1項に基づき、被告商品の輸入、複製及び頒布の差止めを求めるとともに、民法709条又は703条に基づき、連帯して損害金又は不当利得金405万円及びこれに対する被告Aにつき平成26年5月19日(訴状送達の日の翌日)から、被告会社につき同月20日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 被告らは、原告アートステーションの代表者であるB(以下「B」という。)から複製及び販売の許諾を受けていたなどと主張して、これを争っている。 3 争点 (1) 複製及び販売の許諾の有無 (2) 被告Aに対する請求の可否 (3) 原告らの損害額 (4) 相殺の可否 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)(複製及び販売の許諾の有無)について 〔被告らの主張〕 Bは、平成22年、被告会社に対し、被告商品10作品の複製及び販売を1枚5円で許諾した。したがって、被告会社による被告商品の輸入、複製、頒布行為は、原告らの著作権の侵害行為に該当しない。 〔原告らの主張〕 Bが許諾したのは10作品のうち8作品のプレスだけであり、枚数も各1300枚(合計1万0400枚)に限定していた。ところが、被告らは、10作品全部について各1300枚を超えて製造し、しかもプレスのみではなくDVDジャケットまで原告商品のDVDジャケットをコピーして販売したものである。 2 争点(2)(被告Aに対する請求の可否)について 〔原告らの主張〕 本件の首謀者は被告Aであり、被告会社は会社としての資産もないから、被告A個人の責任を追及するのは当然である。 〔被告らの主張〕 被告Aと原告らの間には何らの法律関係も存在しないから、本件訴訟のうち被告Aに対する部分は不当な訴訟である。 3 争点(3)(原告らの損害額)について 〔原告らの主張〕 被告らは、被告商品を少なくとも各3000枚(計3万枚)は販売している。そして、被告商品の小売販売価格は1枚500円であるが、被告らによる卸価格はその65%に当たる325円となるほか、1枚当たりの製造・販売に要する経費額は55円を上回らないことからすると、被告商品1枚当たりの利益額は、270円を下回らない。 以上より、被告らの著作権侵害行為により原告らの被った損害の額は、それぞれ405万円(270円×3万枚×1/2)を下回らない(著作権法114条2項)。 〔被告らの主張〕 被告会社は、原価1枚80円の被告商品を1枚97円で計2万枚販売したにすぎない。 4 争点(4)(相殺の可否)について 〔被告らの主張〕 被告Aは、平成21年11月2日、Bに316万8800円を貸し付けた上、後に当該貸付けに係る貸金債権を被告会社に譲渡した。そこで、被告会社は、原告らに対し、Bに対する貸金債権をもって本訴請求債権と対当額で相殺する。 〔原告らの主張〕 上記金銭貸借はあくまでB個人との貸借関係であって、原告らとは関係がないし、そもそもBが被告らから借り入れをしているという事実もない。 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)(複製及び販売の許諾の有無)について (1) 被告らは、平成22年にBから被告商品10作品の複製及び販売の許諾を数量限定なく受けているため、被告会社による被告商品の輸入、複製、頒布行為は原告らの著作権の侵害行為に該当しないと主張する。 しかしながら、本件証拠上、被告らが数量限定のない許諾を受けていたことを直接裏付ける契約書、合意書その他B作成の書面は見当たらない。 (2) この点、被告らは、被告会社作成の「コンテンツ使用料のお支払について」と題する書面(乙6の3)を提出するとともに、この書面は平成24年5月18日に過去の販売実績及びロイヤリティをBに報告したものであって、上記許諾を受けていたことの証左である旨主張する。 しかし、上記書面の右肩部分には「22・5・18」、すなわち「平成22年」の5月18日という年月日が記載されているのであって、「平成24年」の5月18日に販売実績及びロイヤリティを報告したものという上記説明と整合しない。被告らはこの年月日の記載は誤記であるとも説明するが、これが誤記であることをうかがわせるような客観的資料は何一つ存在しない。 しかも、上記書面には「8タイトル×1300枚=10400枚についての日本語・原語版コンテンツ使用料として、@¥5、¥52000をお支払致します」と記載されているのであって、必ずしも過去の販売実績及びロイヤリティの報告としか解し得ないものではなく、むしろ、Bに対し、許諾を受けた製造、販売数量の上限を確認するとともに、その対価の支払を約したものと解することも十分可能である。そうすると、上記書面は、「8作品・各1300枚に限定して許諾していた」との原告らの主張と矛盾するものでもない。 したがって、上記書面によって直ちに被告らの主張する許諾が認められるということにはならない。 (3) これに対し、被告らは、数量限定のない許諾を受けていたことを前提に、@平成24年7月、原告コスモ・コーディネートから、被告商品の販売枚数の報告及びそれに基づくロイヤリティの支払の請求等を内容とする内容証明郵便(乙3)を受け取った、A同年12月、原告コスモ・コーディネートから、被告会社には販売枚数の報告義務及びそれに基づくロイヤリティの支払義務がある旨のファックス文書(乙6の1ないし4)を受け取ったなどと主張する。 しかし、上記@の内容証明郵便には、被告商品の製造・販売の即時中止を求める旨の記載はあるものの、被告らの主張するような許諾を前提とした「被告商品の販売枚数の報告及びそれに基づくロイヤリティの支払」を求める記載はない(「パブリックドメイン名作邦画」について販売枚数の報告等を求める記載はあるが、これは明らかに被告商品とは別の作品についてのものである(乙1参照)。)。上記Aのファックス文書についてもこのような記載はなく、むしろ、本訴における原告らの主張と同様に、原告らは8作品・各1300枚に限定して許諾していた旨の記載がある。 いずれにせよ、被告らの上記主張は、客観的資料と明らかに矛盾する。 (4) かえって、被告らの主張を前提としても、被告会社は原告らから平成22年に許諾を受けてから「平成24年」の5月18日まで1年半以上にわたって販売数量の報告及びこれに基づくロイヤリティの支払をしていなかったというのであるし、同日以後の販売数量についても一切報告していないのであって(当事者間に明らかな争いがない。)、このことからしても、被告らがその主張するような許諾を真に受けていたといえるのか、疑問を差し挟まざるを得ない。 そして、原告らは、原告商品の製作に当たってはオリジナルのフィルム映像の入手、ビデオへの変換、ヒアリングによる英語台詞起こし、翻訳による日本語台詞及び字幕の創作、スタジオでの声優による吹き替え作業等に多額の費用が掛かっているのであるから、数量を限定せずに1枚当たり5円という低額のロイヤリティで許諾するはずがない旨主張しているところ、この主張自体、不自然、不合理な点があるようにもうかがわれない。 (5) 以上からすると、Bが8作品・各1300枚のプレスについては許可していたものと認められるものの、これを超えて、何らの限定を設けずに被告商品10作品の複製及び販売の許諾をしていたとまでは、本件証拠上、認めるに足りない。 したがって、被告会社による被告商品の輸入、複製、頒布行為のうち8作品・各1300枚を超える部分については、原告らの著作権の侵害行為に該当するというべきである。 2 争点(2)(被告Aに対する請求の可否)について 原告らは、本件の首謀者は被告Aであり、被告会社は会社としての資産もないなどとして、被告Aに対しても差止め及び損害賠償の請求をしている。 しかし、本件証拠上、被告A自身が被告商品を輸入、複製、頒布した事実はこれを認めるに足りないし、被告会社の法人格を否認すべきほどの事情も見当たらない。 したがって、原告らの被告Aに対する請求は、いずれも理由がないものといわざるを得ない。 3 争点(3)(原告らの損害額)について 原告らは、被告商品1枚当たりの利益額を270円とし、被告会社による販売数量を合計3万枚と主張するが、これを裏付ける客観的資料を何ら提出しないし、本件証拠上も被告会社の具体的な利益額及び販売数量を認めるに足りる客観的証拠は見当たらない。 したがって、本件においては、被告会社の自認する利益額及び販売数量を採用せざるを得ないところ、これによると、被告商品1枚当たりの利益額は17円、販売数量は合計2万枚というのである。そして、このうち1万0400枚については許諾を得ていたというのであるから、著作権の侵害によって被告会社が得た利益額の総額は16万3200円となり(17円×(2万枚−1万0400枚))、著作権法114条2項によって原告らそれぞれが被告会社に請求することのできる損害賠償の額は、各持分2分の1に相当する8万1600円ずつとなる。 なお、原告らは不当利得の返還も請求するが、その損失額が上記損害額を上回ることについての主張立証はない。 4 争点(4)(相殺の可否)について 被告らは相殺を主張するが、その自働債権は、被告会社のBに対する貸金債権というのであって、原告らに対する債権ではない。 したがって、被告らの相殺の主張は、それ自体失当というほかない。 5 結論 よって、原告らの請求は、被告会社に対し、著作権法112条1項に基づいて被告商品の複製及び販売の差止めを求めるとともに、民法709条に基づき、各8万1600円及びこれに対する不法行為の後の日(被告会社に対する訴状送達の日の翌日)である平成26年5月20日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、被告会社に対するその余の請求及び被告Aに対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 東海林保 裁判官 瀬孝 裁判官 勝又来未子 (別紙)被告商品目録 1 白雪姫 ANC−001 2 ピノキオ ANC−002 3 ファンタジア ANC−003 4 ダンボ ANC−004 5 バンビ ANC−005 6 シンデレラ ANC−006 7 ふしぎの国のアリス ANC−007 8 ピーターパン ANC−008 9 ガリバー旅行記 ANC−009 10 三人の騎士 ANC−010 (別紙)原告商品目録 1 白雪姫 DVD@ ANC−001 2 ピノキオ DVDA ANC−002 3 ファンタジア DVDB ANC−003 4 ダンボ DVDC ANC−004 5 バンビ DVDD ANC−005 6 シンデレラ DVDE ANC−006 7 不思議の国のアリス DVDF ANC−007 8 ピーターパン DVDG ANC−008 9 ガリバー旅行記 DVDH ANC−009 10 三人の騎士 DVDI ANC−010 |
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