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【事件名】ディズニーアニメの日本語版DVD事件
【年月日】平成27年8月28日
 東京地裁 平成25年(ワ)第32465号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成27年7月8日)

判決
原告 有限会社アートステーション(以下「原告アートステーション」という。)
原告 株式会社コスモ・コーディネート(以下「原告コスモ・コーディネート」という。)
原告ら補助参加人 株式会社ピーエスジー(以下「補助参加人」という。)
同訴訟代理人弁護士 伊藤真
同 平井佑希
被告 株式会社コスミック出版
同訴訟代理人弁護士 雪丸真吾
同 北村行夫
同 大井法子
同 杉浦尚子
同 芹澤繁
同 亀井弘泰
同 名畑淳
同 井上乾介
同 山本夕子
同 吉田朋
同 杉田禎浩
同 近藤美智子


主文
1 被告は、別紙被告商品目録記載の各DVD商品を販売してはならない。
2 被告は、原告アートステーションに対し、224万5829円及びこれに対する平成26年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告コスモ・コーディネートに対し、224万5829円及びこれに対する平成26年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用も含め、これを2分し、その1を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。
6 この判決は、第2項及び第3項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙被告商品目録記載の各DVD商品を輸入し、複製し、頒布してはならない。
2 被告は、原告アートステーションに対し、675万円及びこれに対する平成26年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告コスモ・コーディネートに対し、675万円及びこれに対する平成26年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 2、3につき仮執行宣言
第2 事案の概要
1 前提事実(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
 原告アートステーションは、映像ソフトの企画、製作、販売及び輸出入等を業とする有限会社であり、原告コスモ・コーディネートは、マルチメディアソフトの企画、製作及び投資管理等を業とする株式会社である。
 被告は、ビデオ、映画等の製作、配給、販売、賃貸及び輸出入業務等を業とする株式会社である。
(2) 原告らの著作権
 原告らは、著作権の保護期間を満了した外国の映画作品である「白雪姫」その他の合計10作品につき、日本語音声及び日本語字幕を収録し直して、別紙原告商品目録記載の各DVD(以下「原告商品」という。)を製作、販売している。
 原告商品に収録されている日本語台詞原稿及び日本語字幕のうち、少なくとも別紙著作物目録部分(以下「本件著作物」という。)には創作性があり、その著作権は原告らが持分各2分の1の割合で共有している(甲4、7、弁論の全趣旨)。
(3) 被告によるDVDの販売
 被告は、別紙被告商品目録記載の各DVD商品(以下「被告商品」という。)を販売している。
 被告商品は原告商品と全く同一のDVD商品であり、同一の日本語音声及び日本語字幕が収録されている(甲6)。
(4) 他のDVD商品
 被告は、「白雪姫」その他の合計10作品がそれぞれ収録されたDVD商品として、被告商品のほか、有限会社アプロック(以下「アプロック」という。)から購入したDVD商品(以下「アプロック版」という。)及び株式会社メディアジャパン(以下「メディアジャパン」という。)から購入したDVD商品(以下「メディアジャパン版」という。)を販売している(以下、被告商品、アプロック版及びメディアジャパン版を併せて「ディズニーDVD」という。)。なお、ディズニーDVDのうち、英語字幕と日本語字幕の切替ができるのは被告商品のみである(弁論の全趣旨)。
2 本件は、原告らが、被告は被告商品を製造、輸入、販売し、もって原告らの著作権(複製権及び譲渡権)を侵害していると主張して、被告に対し、著作権法112条1項に基づき、被告商品の輸入、複製及び頒布の差止めを求めるとともに、民法709条又は703条に基づき、それぞれ損害金又は不当利得金675万円及びこれに対する平成26年1月24日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
3 争点
(1) 著作権(複製権及び譲渡権)侵害の有無
(2) 差止めの許否
(3) 原告らの損害額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(著作権(複製権及び譲渡権)侵害の有無)について
〔原告らの主張〕
 被告は、被告商品を補助参加人から適法に仕入れるだけでなく、原告らに無断で本件著作物をDVDに収録(複製)して被告商品とした上で、これを平成23年の発売開始後、別紙被告商品目録記載の各DVD商品としてそれぞれ5000枚(合計5万枚)販売しているのであって、この行為は原告らの著作権(複製権及び譲渡権)を侵害するものである。
 また、被告商品には「Made in Korea」と記載されているところ、仮に被告が韓国から被告商品を輸入しているのであれば、この輸入行為も原告らの著作権を侵害する行為とみなされる。
〔被告の主張〕
 被告の扱う被告商品は全て補助参加人から仕入れたものであり、原告らは補助参加人に対して被告商品の販売許諾を与えていたから、原告が本件商品に対して有する譲渡権は既に消尽しており、被告による被告商品の販売は著作権(譲渡権)侵害とはならない。また、被告は自身での複製は行っていないし、被告が韓国から輸入しているとの事実も否認する。
2 争点(2)(差止めの許否)について
〔原告らの主張〕
 被告の上記1の各行為は、原告らの保有する本件著作物の著作権を侵害する行為であり、原告らはその侵害の停止又は予防を請求することができる。
〔被告の主張〕
 争う。
3 争点(3)(原告らの損害額)について
〔原告らの主張〕
 前記1〔原告らの主張〕のとおり、被告は、平成23年以降、補助参加人から適法に仕入れた8万7300枚以外に、少なくとも5万枚の被告商品を販売している。
 そして、被告商品の小売販売価格は1枚500円であるが、被告による卸価格はその65%に当たる325円となるほか、1枚当たりの製造・販売に要する経費額は55円を上回らないことからすると、被告における被告商品1枚当たりの利益額は270円を下回らない。
 なお、寄与度に関する被告の主張は争う。
 以上より、被告の著作権侵害行為により原告らの被った損害の額は、それぞれ675万円(270円×5万枚×1/2)を下回らない(著作権法114条2項)。
〔被告の主張〕
 被告においては、小売販売価格に対して、卸先ごとに55〜64%の異なる卸価格率を適用している。また、被告商品の1枚当たりの経費額は少なくとも70.9円である。そして、被告商品はディズニーアニメ作品であり、映像部分の寄与が大きいから、言語部分の寄与度は20%程度とみるべきである。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(著作権(複製権及び譲渡権)侵害の有無)について
(1) 証拠(甲26、27、31)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成23年以降、原告商品を複製した被告商品を少なくとも5万枚、原告らに無断で何らの権限もなく販売していたことが認められる。
(2) この点に関して被告は、被告商品は全て補助参加人から適法に仕入れたものであるとし、その根拠として、おおむね次のとおり主張する(平成27年1月19日付け被告準備書面(3))。
ア 被告におけるディズニーDVDの総売上数量(返品前の出荷総数)は、「白雪姫」が3万0351枚、「ピノキオ」が2万8267枚、「ファンタジア」が2万8832枚などというものであり、これらを合計した総売上数量は27万3172枚、純売上数量(出荷後に返品された数を控除した実際の売上数)は16万0685枚となる(乙2。平成19年7月から平成26年9月までの累計)。なお、被告では、被告商品、アプロック版及びメディアジャパン版それぞれの総売上数量までは把握していない。
イ 他方、被告におけるディズニーDVDの仕入数量は、補助参加人から仕入れた被告商品が少なくとも8万7300枚であり、メディアジャパンから仕入れたメディアジャパン版が少なくとも28万2200枚であって、合計すると36万9500枚である。
ウ したがって、総売上数量(27万3172枚)だけでも仕入数量(36万9500枚)を下回っているのであって、被告が独自に被告商品を製造、販売しているとの原告らの主張には理由がない。
(3) しかしながら、被告は、上記(2)ア以外にも、個別販売の売れ残りを10作品を1つのセット(DVD10枚組BOX)として廉価で販売している旨示唆しているところ、その純売上数量は、被告自身が提出した書証(乙4)によれば3万5422セットもあり、DVD枚数にして35万4220枚に及ぶことが認められる。そうすると、被告におけるディズニーDVDの販売数量は、返品された数を控除した純売上数量だけをみても、合計で51万4905枚となるのであって(16万0685枚+35万4220枚)、被告の主張する仕入数量36万9500枚を優に上回る。被告の上記(2)の主張は、その前提を欠くものといわざるを得ない。
(4) この点、被告は、原告ら及び補助参加人から上記(3)と同旨の指摘を受けて、@純売上数量が仕入数量を上回る部分の一部はアプロック版と考えられる、Aメディアジャパンからの仕入数量は28万2200枚を大幅に上回る可能性も十分にある、などと説明するに至っている(平成27年5月12日付け被告準備書面(6))。
 しかし、被告の上記説明は、いずれも単なる推測ないし可能性をいうものにすぎず、何らかの客観的資料に基づくものではないし、具体的な数量を上げて説明するものでもない。
 したがって、被告の上記説明は、上記(3)の判断を左右しない。
(5) 以上によれば、被告が販売したとするディズニーDVD51万4905枚のうち36万9500枚を超える部分、すなわち14万5405枚分については、その仕入先について被告から合理的な説明がされているとはいえないのであって、この中に原告らの許諾を得て複製されたアプロック版が一定程度含まれ得るとしても、相当部分は著作権者である原告らの許諾を得ないまま複製された商品であるものと推認せざるを得ない。
 そして、この14万5405枚のディズニーDVDの中に、原告らが本件で差止等を求めている被告商品が何枚程度含まれているのかについては、これを直接的に指し示す証拠は見当たらないものの、被告が販売数量の具体的な内訳を開示しないことや、そもそも仕入先等についての合理的な説明がされていない販売数量が14万枚余りにも上ることなどに照らすと、原告らの許諾を得ないまま複製され、被告において販売された被告商品は、原告らの主張するとおり、少なくとも5万枚を下回ることはないものと認めるのが相当である。
 したがって、被告は、少なくとも5万枚もの被告商品の販売につき、原告らの著作権(譲渡権)を侵害したものというべきである。
2 争点(2)(差止めの許否)について
 上記のとおり、被告による被告商品の販売のうち少なくとも5万枚の部分は、原告らの有する本件著作物の著作権(譲渡権)を侵害する行為であるから、原告らは、著作権法112条1項に基づき、被告商品の販売の差止めを求めることができる。
 他方、原告らの差止請求のうち、被告による輸入、複製の差止めを求める部分については、被告が自ら被告商品を輸入、複製していることを認めるに足りる証拠がなく(原告ら自身、「被告が自ら製造しているかどうかやどこから仕入れているかなどは、原告らにとって関係のないことであり、立証する必要はない」旨主張している。)、他に被告が輸入、複製をするおそれがあることを基礎付ける事情も認めるに足りないから、差止めの必要性は認められない。原告らの差止請求のうち、販売以外の態様による頒布の差止めを求める部分についても同様である。
3 争点(3)(原告らの損害額)について
(1) 1枚当たりの販売価格
 原告らは、被告商品の小売販売価格を「1枚500円」とした上、「被告は被告商品を小売販売価格の65%に相当する1枚325円で卸販売している」旨主張する。
 このうち小売販売価格については、確かに、DVDを1枚ずつ販売する際の価格は1枚500円であることが認められるものの(甲13の1ないし10)、前述のとおり、被告は個別販売の売れ残りを10作品で一つのセット(DVD10枚組BOX)として廉価でも販売しているというのであって、その小売販売価格は1セット1980円(DVD1枚198円)であることが認められる(乙5)。
 また、卸価格率(卸販売価格の小売販売価格に対する率)については、原告らはこれが「65%」であることの具体的根拠を何ら示すものではなく、上記数値は原告らによる推測の域を出るものではない。そして、被告は卸価格率を「卸先ごとに55〜64%としている」旨主張しているのであって、他にこの点に関する客観的証拠も見当たらないことからすると、被告商品の卸価格率は、少なくとも55%を下回るものではないものと認めるのが相当である。
 以上によれば、被告における被告商品の卸販売価格は、1枚ずつ販売する場合には1枚275円(500円×55%)、10枚組BOXでセット販売する場合には1枚108.9円(198円×55%)ということになる。
(2) 1枚当たりの経費額
 被告は、被告商品の販売に要する経費額を1枚当たり70.9円と主張し、これに沿う書証(乙5)を提出するところ、この点について特に不合理な点は見あたらず、被告が上記書証についての一応の説明も試みていることなどからすると、上記金額をもって経費額とするのが相当である。
 この点に関して原告らは、経費額を1枚55円と主張する。
 しかし、原告らはその具体的根拠を説明するものではないし、これを裏付ける客観的証拠を提出するものでもないから、原告らの上記主張を採用することはできない。
(3) 被告の利益額
 以上によると、被告商品の販売による被告の利益額は、1枚ずつ販売する場合には1枚204.1円(275円−70.9円)、10枚組BOXでセット販売する場合には1枚38円(108.9円−70.9円)となる。
 そして、前述のとおり、被告は少なくとも5万枚もの被告商品の販売について原告らの著作権(譲渡権)を侵害したものというべきであるところ、このうち何枚が1枚ずつ販売されたものであり、何枚が10枚組BOXでセット販売されたものであるのかを直接記載した資料等は見当たらない。そこで、被告におけるディズニーDVD全体の販売数量でみれば、1枚ずつ販売されたものが16万0685枚、10枚組BOXでセット販売されたものが35万4220枚というのであるから、上記5万枚をこの割合で按分することとすると、このうち1枚ずつ販売されたものは1万5603枚(5万枚×16万0685枚/51万4905枚。小数点以下四捨五入)、10枚組BOXでセット販売されたものは3万4397枚(5万枚×35万4220枚/51万4905枚。同上)ということになる。
 そして、以上の販売数量を前提に、被告の利益額の総額を算定すると、その額は449万1658円となる(204.1円×1万5603枚+38円×3万4397枚。小数点以下四捨五入)。
(4) 寄与度
 被告は、被告商品はディズニーアニメ作品であり、映像部分の寄与が大きいから、言語部分の寄与度は20%程度とみるべきである旨主張する。
 しかし、前記第2の1(3)記載のとおり、被告商品は原告商品と全く同一のDVD商品であり、原告商品のいわゆるデッドコピーというべきものであって、このようなデッドコピーを販売した者に利得の一部を保有させるのは相当ではないものといわざるを得ない。
 したがって、この点に関する上記被告の主張は採用することはできない。
(5) 小括
 以上によれば、被告商品の販売により被告が得た利益額は449万1658円であるから、著作権法114条2項により、原告らそれぞれが被告に請求することのできる損害賠償の額は、各持分2分の1に相当する224万5829円ずつとなる。
 なお、原告らは不当利得の返還も請求するが、その損失額が上記損害額を上回ることについての主張立証はない。
4 結論
 よって、原告らの請求は、被告に対して著作権法112条1項に基づいて被告商品の販売の差止めを求めるとともに、民法709条に基づき、各224万5829円及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達の日の翌日)である平成26年1月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 東海林保
 裁判官 瀬孝
 裁判官 勝又来未子


(別紙)被告商品目録
1 白雪姫 CCP−703
2 ピノキオ CCP−704
3 ファンタジア CCP−709
4 ダンボ CCP−708
5 バンビ CCP−710
6 シンデレラ CCP−701
7 ふしぎの国のアリス CCP−702
8 ピーターパン CCP−707
9 ガリバー旅行記 CCP−705
10 三人の騎士 CCP−711

ただし、いずれも英語字幕と日本語字幕の切替が可能なもの。

(別紙)原告商品目録
1 白雪姫 PSDA−005
2 ピノキオ PSDA−006
3 ファンタジア PSDA−001
4 ダンボ PSDA−003
5 バンビ PSDA−002
6 シンデレラ PSDA−004
7 不思議の国のアリス PSDA−008
8 ピーターパン PSDA−007
9 ガリバー旅行記 PSDA−009
10 三人の騎士 PSDA−010

(別紙)著作物目録
平成26年5月20日付け原告ら準備書面3の別紙のうち、以下の部分
1 白雪姫 :1〜19、911〜921、943、944のナレーション
2 ピノキオ :1〜16の歌詞
3 ファンタジア :登場人物をカットしてナレーション処理をした部分
4 ダンボ :178〜208のナレーション
5 バンビ :12〜29、500〜502のナレーション
6 シンデレラ :1〜11の歌詞、12〜49のナレーション
7 ふしぎの国のアリス:18〜21の翻訳
8 ピーターパン :1〜16の歌詞
9 ガリバー旅行記 :冒頭のガリバー自身のモノローグ
10 三人の騎士 :396〜458の歌詞(日本語音声)
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