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【事件名】商標“加護亜依”侵害事件(2)
【年月日】平成27年7月30日
 知財高裁 平成27年(行ケ)第10057号 審決取消請求事件
 (口頭弁論終結日 平成27年6月18日)

判決
原告 株式会社メインストリーム
訴訟代理人弁護士 伊関正孝
被告 株式会社威風飄々
訴訟代理人弁護士 北村行夫
同 大井法子
同 杉浦尚子
同 雪丸真吾
同 芹澤繁
同 亀井弘泰
同 名畑淳
同 井上乾介
同 山本夕子
同 都行志
同 吉田朋
同 杉田禎浩
同 近藤美智子


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 特許庁が取消2014−300394号事件について平成27年2月9日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は、原告の登録商標(登録5287159号。本件商標)に関し、本件商標の指定役務中、第41類「演芸の上演、演劇の演出又は上演、音楽の演奏、歌唱の上演、ダンスの演出又は上演、映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、映画の上映・制作又は配給、放送番組の制作」(本件指定役務)について、商標法50条1項に基づく商標登録取消審判請求を成立とした審決の取消訴訟である。
1 本件商標及び特許庁における手続の経緯等
 原告は、「加護亜依」の文字を標準文字で表してなる本件商標について、第41類「演芸の上演、演劇の演出又は上演、音楽の演奏、歌唱の上演、ダンスの演出又は上演、映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、映画の上映・制作又は配給、放送番組の制作、海外における教育実習・実務研修・語学研修・留学に関する情報の提供、インターナショナルスクール及びインターナショナルプリスクールにおける教育に関する情報の提供、英語教育に関する情報の提供、海外における教育実習・実務研修・語学研修・留学に関する企画及び運営、英会話の教授、インターナショナルスクール及びインターナショナルプリスクールにおける教育、高校卒業資格取得講座における知識の教授、通信教育による知識の教授」を指定役務として、平成21年2月17日に登録出願をし、本件商標は、同年12月11日に設定登録された。
 被告は、平成26年5月27日、本件商標のうち、本件指定役務について、商標法50条1項により、取消審判請求をし(取消2014−300394号)、同年6月16日、その旨の登録がされた。
 特許庁は、平成27年2月9日、「登録第5287159号商標の指定役務中、第41類「演芸の上演、演劇の演出又は上演、音楽の演奏、歌唱の上演、ダンスの演出又は上演、映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、映画の上映・制作又は配給、放送番組の制作」については、その登録は取り消す。」との審決をし、同審決謄本は、同月19日に原告に送達された。
2 審決の要旨
 審決は、原告は、本件指定役務に関し、本件商標を要証期間内に使用したとは認められず、その不使用に正当な理由が認められないから、本件商標の本件指定役務に関する部分を商標法50条1項に基づき取り消すと判断した。
 理由の要点は、以下のとおりである。
(1) 本件商標の使用
ア 原告の提出した書証
(ア) 平成26年6月18日にプリントアウトされた「navi☆Road USA」と題するウェブページには、上段に「アメリカ留学 ナビロード:naviRoadは加護ちゃん的留学お助け情報サイト」、「アメリカ留学 ナビロード:naviRoadは加護ちゃん的留学&アメリカ生活お助け情報サイト」、「加護ちゃん的留学&アメリカ生活お助け情報サイト」、「アメリカ有給・無給インターンシップ求人情報」との記載、左部の「naviRoadコンテンツ」の項に「加護ちゃん留学への想いを語る」、「加護ちゃんのギリギリ!?英会話」などの記載がある。また、中央上部には「加護ちゃん的\留学&アメリカ生活\応援サイト」との記載と共に、タレントの加護亜依の写真が掲載され、その下に「アメリカタウンガイド」の項の下、「レストラン・グルメ」、「ギフト・ショッピング」などの記載があるほか、「『アメリカ 生活便利帳』」の項の下、「食生活編」、「鑑賞編」などの記載がある。
(イ) 「合意書」と題する書面には、タレント加護亜依の平成24年4月8日放映のテレビ番組出演についての解決金の支払など合意内容の記載、作成日と認められる「平成24年6月22日」の記載、原告と株式会社C.A.L両社の住所、名称等の記載及び代理人の記名・押印がある。
イ 役務
(ア) 上記留学支援事業に関するウェブページは、その記載内容から、「海外における教育実習・実務研修・語学研修・留学に関する情報の提供」の役務であることが想定し得るが、本件指定役務に含まれるものとは認められない。
 なお、原告は、本件商標は「加護亜依」という人物そのものを現している一面があり、加護亜依という人物が留学支援事業に協力するということは、通常人の協力ではなく、海外における音楽・演芸につながっていることを示唆しているとも見られるので、取消請求役務と無関係と解するには疑問がある旨主張しているが、「アメリカタウンガイド」の項において「エンターテイメント」の記載があるとしても、該記載が「音楽」又は「演芸」に関するものであるかは明確ではなく、仮に、海外における音楽・演芸につながっていることの示唆と見られる場合があるとしても、商標法50条1項には「・・・日本国内において・・・登録商標の使用をしていないとき・・・」とあることから、海外における音楽等へのつながりは、本件商標の使用の判断に影響せず、かかる主張は採用できない。
(イ) 上記合意書のとおり、原告と株式会社C.A.Lとの間で、タレント「加護亜依」のテレビ出演について解決金の支払などの合意がなされたとしても、本件商標の使用に係る要証事項の証明がなされているものとは認められない。
ウ 使用商標
 上記留学支援事業に関するウェブページには、「加護ちゃん的留学&アメリカ生活お助け情報サイト」、「加護ちゃん的」などの表示があるが、これらの表示は、その構成等から、いずれも「加護亜依」の文字からなる本件商標と同一でなく、社会通念上同一と認められる商標ともいえない。また、タレント「加護亜依」の写真と「加護亜依」の文字からなる本件商標とが、社会通念上同一と認められる商標とはいえない。
エ 使用時期
 上記留学支援事業に関するウェブページのプリントアウト日は、平成26年6月18日であり、要証期間経過後である。
オ 使用者
 上記留学支援事業に関するウェブページの提供者は、確認できない。
カ 結語
 したがって、原告が、本件指定役務について、本件商標の使用をしているものと認めることができない。
(2) 本件商標の不使用の正当な理由
ア 原告は、本件商標の不使用の正当な理由として、タレント「加護亜依」が商標権使用に非協力であったこと、同人がスキャンダルで商標権の使用を不可能にさせたことを挙げる。
イ しかしながら、これらの理由は、正当理由に該当するような「地震、水害等の不可抗力によって生じた事由」及び「法令による禁止等の公権力の発動に係る事由」のいずれにも該当しない。
 また、原告の主張する不使用の理由は、いずれも私人間の事情である。私人間の契約など私人間の事情は、正当理由に該当する「放火、破壊等の第三者の故意又は過失によって生じた事由」及び「その他の商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の責めに帰すことができない事由」に該当しない。
ウ したがって、原告が、本件商標の使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにしたものとは、認められない。
(3) 結語
 したがって、本件商標は、その指定役務中、本件指定役務について、商標法50条により、その登録を取り消すべきものである。
第3 当裁判所の判断
1 本件は、商標法50条1項に基づく商標登録取消審判請求を成立とした審決の取消訴訟である。
 商標法50条2項本文が、審判請求登録前3年以内に、日本国内で、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をしていることについて、同項ただし書きが、要証期間内に登録商標の使用をしていないことに関する正当な理由について、それぞれ、被請求人に証明責任を負わせていることからすると、本件取消審判請求の被請求人である原告は、本件訴訟において、審決の違法性を基礎付ける事実として、本件商標の使用についての認定・判断、あるいは、本件商標の不使用に関する正当な理由についての認定・判断が誤っていることを、具体的に主張立証する必要があると解される。
 しかしながら、原告は、訴状、準備書面等において、審決の認否を明らかにせず、また、取消事由を主張せず、審決の違法性を基礎付ける事実に関する上記各事項につき、何ら主張(及び立証)をしない。
 したがって、本件請求は明らかに理由がない。
2 なお、一件記録によっても、審決に違法は認められない。
 すなわち、原告が、本件取消審判請求において提出した「navi☆Road USA」と題するウェブページ(乙1の1添付資料)の作成者と思われる「アメリカ留学 ナビロード」という団体又は会社が本件商標の商標権者、専用使用権者又は通常使用権者であるとは認められない上に、「加護ちゃん的・・・」という記載や加護亜依の写真の掲載しかなく、これらの記載等が、本件商標と同一又は社会通念上同一の商標の使用とは認められず、本件指定役務のいずれかに関する使用ともいえない。また、原告の了解を取得せずにテレビ番組に出演したことに関して交わされた、原告と株式会社C.A.Lとの間の合意書(乙1の1添付資料)における「加護亜依」という記載は、原告に所属するタレントの氏名を明らかにするために使用されただけであって、本件指定役務である「放送番組の制作」に関し、出所識別標識として表示されたものではなく、商標法2条3項各号に定める「使用」のいずれにも該当しない。
 さらに、原告は、本件取消審判請求において、商標不使用の正当事由として、加護亜依が商標権使用に協力的でなかったことや、加護亜依のスキャンダルのために使用ができなかったことを主張したが(乙1の2)、これらは、いずれも原告の所属タレント自身ないし同人と原告との関係に関する事情であって、いわば、原告の内部的な紛争にかかわる事情にすぎないから、本件商標の不使用がやむを得なかったといえる事情には該当せず、本件商標の不使用についての正当な理由とは認められない。
3 よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 清水節
 裁判官 片岡早苗
 裁判官 新谷貴昭
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