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【事件名】建築士講座テキストの著作物性事件 【年月日】平成27年7月16日 東京地裁 平成26年(ワ)第26770号 損害賠償等請求事件 (口頭弁論終結日 平成27年6月2日) 判決 原告 株式会社建築資料研究社 同訴訟代理人弁護士 井澤光朗 同 船江莉佳 同 仲村渠桃 被告 TAC株式会社 同訴訟代理人弁護士 原口健 同 町田弘香 主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、別紙被告書籍目録記載の書籍(以下「被告各書籍」と総称する。)のうち別紙侵害部分対照表にて特定された部分を全て削除しない限り、被告各書籍を発行し、販売し、又は頒布してはならない。 2 被告は、原告に対し、7623万円及びこれに対する平成26年11月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、原告が、別紙原告書籍目録記載の書籍(以下、それぞれを同別紙の番号により「原告書籍1」などといい、これらを「原告各書籍」と総称する。)の著作権及び著作者人格権を有するところ、被告による被告各書籍の発行が原告各書籍に係る原告の著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害すると主張して、被告に対し、@ 著作権法112条1項に基づく被告各書籍の発行等の差止め、A 民法709条に基づく損害賠償金7623万円及びこれに対する不法行為の日の後(訴状送達の日の翌日)である平成26年11月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 当事者 ア 原告は、資格試験予備校の経営、書籍雑誌の販売、ソフトウェア開発事業等を営む株式会社である。 イ 被告は、個人教育事業、法人研修事業、出版事業、人材事業等を営む株式会社である。 ウ 原告と被告は、その経営する予備校において、それぞれ一級建築士資格取得講座を開講している。 (2) 原告各書籍(甲1〜7) ア 原告は、職務著作である原告各書籍の著作者であり、原告各書籍に係る著作権及び著作者人格権を有している。 イ 原告各書籍は、別紙原告書籍目録記載の日にそれぞれ発行され、原告の経営する予備校の一級建築士資格取得講座において使用されている。 ウ 原告各書籍には、別紙侵害部分対照表の「原告作成テキスト」欄記載の文章及び図表が掲載されている(以下、それぞれを同別紙の番号により「原告表現1」などといい、これらを「原告各表現」と総称する。)。 (3) 被告の行為等 ア 被告は、別紙被告書籍目録記載の日に被告各書籍をそれぞれ発行した。 被告は、その経営する予備校の一級建築士資格取得講座において被告各書籍を使用しているが、被告各書籍単体での販売は行っていない。 イ 被告各書籍には、別紙侵害部分対照表の「被告作成テキスト」欄記載の文章及び図表が掲載されている(以下、それぞれを同別紙の番号により「被告表現1」などといい、これらを「被告各表現」と総称する。)。 2 争点 (1) 複製権及び翻案権侵害の成否(原告各表現の著作物性、原告各表現と被告各表現の同一性ないし類似性及び依拠性) (2) 同一性保持権侵害の成否 (3) 損害の有無及びその額 3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)(複製権及び翻案権侵害の成否)について (原告の主張) 被告各表現は、原告各表現をそのまま転載したもの又は原告各表現の特徴を抜き出して利用したものであるから、被告は原告の複製権及び翻案権を侵害している。 原告各表現の著作物性、原告各表現と被告各表現の同一性及び被告各表現の依拠性についての原告の具体的な主張は、別表「複製権及び翻案権侵害に関する当事者の主張」の「原告の主張」欄記載のとおりである。 (被告の主張) 争う。 原告各表現は、単純な事実、建築上の知識若しくは技術的説明、データをそのまま叙述したもの又は過去の一級建築士本試験問題から引用したものにすぎないから、思想又は感情を表現したものではない。また、原告各表現はごく短い記述による客観的な説明又は簡易な図表であり、その表現は平凡かつありふれたものにすぎず、表現者の個性が表れているとはいえないから、原告各表現には創作性もない。 したがって、原告各表現は著作物性を有しないので、複製権侵害も翻案権侵害も成立しない。 原告各表現の著作物性、原告各表現と被告各表現の同一性及び被告各表現の依拠性についての被告の具体的な主張は、別表「複製権及び翻案権侵害に関する当事者の主張」の「被告の主張」欄記載のとおりである。 (2) 争点(2)(同一性保持権侵害の成否)について (原告の主張) 被告各表現は、原告各表現を複製又は翻案し、その外面的な表現形式に改変を加えたものであるから、被告は原告の同一性保持権を侵害している。 (被告の主張) 争う。 原告各表現は著作物性がないので、著作物としての保護が与えられることはないから、原告の同一性保持権を侵害することはない。 (3) 争点(3)(損害の有無及びその額)について (原告の主張) 原告は、被告による著作権侵害の不法行為により、以下のとおり、7623万円の損害を被った(著作権法114条1項)。 ア 被告による譲渡等数量 被告各書籍は被告の経営する予備校の一級建築士資格取得講座において使用されているところ、資格取得講座においていかなる教材が用いられるかという点は講座選択の重要な要素となるから、同予備校の平成25年度一級建築士資格取得講座(「一級建築士総合学科本科生」、「一級建築士学科本科生」及び「一級建築士設計製図本科生」の3講座)の受講者数を譲渡等数量とする。各講座における受講者数は以下のとおりである。 (ア) 一級建築士総合学科本科生 50名 (イ) 一級建築士学科本科生 50名 (ウ) 一級建築士設計製図本科生 30名 イ 原告の単位数量当たりの利益の額 原告の経営する予備校の一級建築士資格取得講座の受講費用を単位数量当たりの利益の額とする。各講座における受講費用(税別)は以下のとおりである。 (ア) 学科スーパー本科コース(上記ア(ア)の講座に対応するもの) 67万円 (イ) 学科本科コース(上記ア(イ)の講座に対応するもの) 50万円 (ウ) 設計製図攻略パック(上記ア(ウ)の講座に対応するもの)47万円 ウ 合計 7623万円({(50名×67万円)+(50名×50万円)+(30名×47万円)}×1.05。ただし、消費税を5%として計算した。) (被告の主張) 争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(複製権及び翻案権侵害の成否)について (1) 原告各表現はいずれも原告各書籍の一部(文章又は図表)を抜き出したものであるが、原告は被告各表現が原告各表現と同一であるなどとして複製権又は翻案権の侵害が成立すると主張する。ところで、著作権法は思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(著作権法2条1項1号参照)、被告各表現が原告各表現に依拠して作成されたものであるとしても、思想、感情若しくはアイデア、事実、学術的知見など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告各表現と共通するにすぎない場合には、複製にも翻案にも当たらないと解するのが相当である。 (2) 上記の観点から複製権等の侵害の成否について検討すると、以下のとおり、いずれについても侵害を認めることはできないというべきである。 ア 原告表現1について 原告表現1は、原告書籍1に掲載された平成8年一級建築士本試験の製図問題(設計課題「景勝地に建つ研修所」)中の図面であり、原告書籍1には次の@ないしBの点を除いて上記問題がそのまま掲載されている(甲1、18の3、乙1)。 原告は、原告表現1と上記問題の図面とは、@湖を表す部分、A等高線の描き方、B方角表示が異なっており、これらの点については原告が独自の表現をしたものであるから、原告表現1には創作性が認められると主張する。 そこで判断するに、@の湖を表す部分が、上記問題の図面ではまだら状の模様であったのを、一部を切り欠いた横線とし、切り欠き部分が斜め方向に連なるような模様としている点、Aの等高線の描き方が、線の曲がり方が同図面より緩やかになっている点、Bの方角表示が同図面より細い矢印を用いている点で原告表現1は同図面と異なっているが(別紙侵害部分対照表1参照)、これらのうち水面を横線で表示することはありふれた表現方法であると解される。また、等高線の曲がり方の相違は僅かなものであるし(同上)、方角表示を矢印で表現することは、矢印の太さにかかわらずありふれたことであり、その表現に作成者の個性が表れているとみることは困難である。これに加え、原告書籍1は過去の本試験問題を掲載したものであり、事柄の性質上、図面を含めて問題を忠実に再現することが求められることを考慮すると、上記の各相違点を総合しても、原告表現1につき著作権法上保護すべき創作性を認めることはできない。したがって、被告表現1が原告表現1を機械的に複写したものであるとしても、原告の著作権を侵害することはないと解すべきである。 イ 原告表現2について 原告表現2は、原告書籍2に掲載された平成22年一級建築士試験「設計製図の試験」の答案例(2階平面図等)の一部である(甲2、乙1)。 原告は、被告表現2を原告表現2と対比すると、@構造要素及び照明器具の記号(全般照明(LEDダウンライト)を示す「○」、スポットライトを示す「▽」、ウォールウォッシャーを示す左右両端を斜めに黒く塗りつぶした横長の長方形の各記号)、A2階平面図のうち常設展示室に図示されたライトの配置及び数が原告表現2と同一であるから(別紙侵害部分対照表2参照)、著作権侵害となる旨主張する。 そこで判断するに、@について、照明器具等を図示するに当たり記号を用いること自体はアイデアであり、原告が用いた上記各記号の形状は単純なものであって、これが他の設計図面に見られない特異なものであることをうかがわせる証拠はない。また、Aについて、ライトの配置及び数が同一であることもアイデアが共通であるにとどまり、図面上の表現自体はありふれたものと解される。したがって、上記@及びAのいずれについても表現上の創作性を認めることはできない。 ウ 原告表現3について 原告表現3は、原告書籍3のうち小梁について説明した文章の一部であり(甲3、乙1)、これと被告表現3が共通するのは、小梁の要否に関し、床スラブ短辺スパン又は床版の短辺が「4mを超え」るか否かが基準になるとの点であるが、この点はアイデアの共通性にとどまり、具体的な表現は相違している(別紙侵害部分対照表3参照)。したがって、被告表現3につき著作権侵害を認めることはできない。 エ 原告表現4及び5について 原告表現4及び5は、それぞれ原告書籍3のうちキャンティレバー及び基礎について説明した図面であり(甲3、乙1)、@原告表現4と被告表現4は、キャンティレバー(庇・バルコニー)の形状を側方から見た図とした上、寸法を記載し、図面中の部位を説明している点で、A原告表現5と被告表現5は、ベタ基礎を側方から見た図、独立基礎を上方及び側方から見た図とした上、ベタ基礎の耐圧版の厚さを500mmと記載し、図面中の部位を説明している点で共通する(別紙侵害部分対照表4及び5参照)。しかし、これらは実際の建築設備の形状ないし構造を視覚的に容易に認識できる形で図示したものであり、図示に当たって特別な手法が用いられていることはうかがわれない。したがって、原告表現4及び5が被告表現4及び5と共通する上記いずれの部分についても、表現上の創作性を認めることはできない。 オ 原告表現6について 原告表現6は、原告書籍3のうち地下室について説明した図面及び文章の一部である(甲3、乙1)。これと被告表現6を対比すると、まず、図面については、地下室の壁面の形状ないし構造を側方から見た図とした上、寸法を記載し、図面中の部位を説明している点で一部共通する(別紙侵害部分対照表6参照)が、上記エと同様の理由により、表現上の創作性を認めることはできない。また、文章部分は、二重壁構造を採用し、防水コンクリートブロックと外壁の間に10cm程度の間隔を設けるとする点は共通するが、この点は地下室の構造に係る事実ないしアイデアにおいて共通性を有するにとどまり、具体的な文言は異なっている(同上)。したがって、図面及び文章のいずれについても著作権侵害を認めることはできない。 カ 原告表現7及び8について 原告表現7及び8は、それぞれ原告書籍3のうち給水方式及びエレベーターについて説明した表であり(甲3、乙1)、@原告表現7と被告表現7は、水道直結直圧方式とポンプ直送方式の特徴(給水圧力の変化、水質汚染の可能性等)を表の形式にして記載した点で、A原告表現8と被告表現8は、エレベーターの定員、積載重量、寸法等を表の形式にして記載した点で共通し、各表に記載された内容にも同一の部分がある(別紙侵害部分対照表7及び8参照)。しかし、方式又は物の特徴等を項目に分類して表の形式にまとめること自体ありふれた表現方法である上、各表の記載内容は給水方式又はエレベーターの定員等に関する一般的な知見であって、これを簡潔な文言(短い単語又は数値)を用いて表の形式で記載する場合には、表現の幅に制約があるから、誰が表現しても同様の表現にならざるを得ないものである。したがって、原告表現7及び8について表現上の創作性を認めることはできない。 キ 原告表現9について 原告表現9は、原告書籍3のうち環境負荷低減対策について説明した文章であり(甲3、乙1)、被告表現9と対比すると、環境負荷低減のための方法を建築的手法と設備的手法(機械的手法)に分けて説明した点及び項目の名称の一部(窓ガラス等)は共通するものの、記載された具体的な文言は異なっている(別紙侵害部分対照表9参照)。そうすると、両者は、表現それ自体ではなく、上記方法をどのように分類するかというアイデア及び記載された事実が共通するにとどまるから、被告表現9について著作権侵害を認めることはできない。 ク 原告表現10及び11について 原告表現10及び11は、それぞれ原告書籍3に記載された階段及びエスカレーターの側面図であり(甲3、乙1)、これらを被告表現10及び11と対比すると、階段又はエスカレーターの形状ないし構造を側方から見た図とし、寸法を記載した点で共通するということができる(別紙侵害部分対照表10及び11参照)。しかし、この点は実際の建築設備の形状ないし構造を視覚的に容易に認識できる形で図示したものであり、図示に当たって特別な手法が用いられていることはうかがわれない。したがって、原告表現10及び11に表現上の創作性があるとは認められない。 ケ 原告表現12について 証拠(甲4、18の4、乙1)及び弁論の全趣旨によれば、原告表現12は原告書籍4に掲載された平成18年一級建築士学科本試験問題の一部であること、同問題中の選択肢の一つが出題後の日本建築学会建築工事標準仕様書(以下「JASS」という。)の改定により不適切となったことから、原告は平成11年の本試験問題の選択肢に基づいて原告表現12を作成したこと、作成に当たり原告は同選択肢中の「既製コンクリート杭のセメントミルク工法に使用するアースオーガーヘッド」との文言を「セメントミルク工法による既製コンクリート杭工事に使用するアースオーガーヘッド」と改めたことが認められる。 原告は新たな選択肢の作成につき著作権を主張するものであるが、別の問題の選択肢を転用することはアイデアにとどまり、著作権法の保護がこれに及ぶとは解し難い。また、原告表現12と上記平成11年の問題の選択肢との表現の相違は僅かであって、この点につき原告による表現上の創作性を認めることはできない。 コ 原告表現13及び14について 原告表現13及び14は、原告書籍4に掲載された平成19年及び平成17年の各一級建築士学科本試験問題の一部であり、いずれも問題中の選択肢の一つが出題後のJASSの改定により不適切となったことから、原告が、改定後のJASSにおけるコンクリートの強度に関する「品質基準強度は、設計基準強度もしくは耐久設計基準強度のうち、大きい方の値とする」との記載に基づいて、新たに作成したものである(甲4、18の5及び6、乙1)。 JASS中の上記記載を利用して選択肢を作成することはアイデアにとどまるものであり、また、原告表現13及び14と上記記載との表現の相違は僅かなものであるから(別紙侵害部分対照表13及び14参照)、これらの点につき原告による表現上の創作性は認められない。 サ 原告表現15及び16について 原告表現15及び16は、原告書籍4に掲載された平成16年及び平成20年の各一級建築士学科本試験問題の一部であり、選択肢の一つが出題後のJASSの改定により不適切になったことから、原告表現15については元の選択肢の後半部分の「目地底から最小かぶり厚さを確保する」との記載を「目地底から所定のかぶり厚さを確保する」へと、原告表現16については圧縮強度の数値を元の選択肢の「8N/mm2(2は肩付き)」から「5N/mm2(2は肩付き)」へと、それぞれ改定後のJASSに整合するように改めたものであるが、上記各問題のその余の部分は原告書籍4にそのまま掲載されている(甲4、18の7及び8、乙1)。そして、JASSの改定に伴い問題の一部を変更することはアイデアの域を出ないものであり、原告による変更後の表現自体はいずれもありふれたものであるから、これらについて著作権侵害を認めることはできない。 シ 原告表現17について 原告表現17は、原告書籍4に掲載された平成16年一級建築士学科本試験問題の解説の一部であり、伸縮目地の施工例を示す二つの図面を左右に並べたものである(甲4、乙1)。原告は、原告表現17はJASSに記載された伸縮目地の施工例の図面に依拠して作成したものであるが、JASSにおいて上下に配置されていた図面を左右に配置した点、左右二つの図面に共通する部材の名称を中間部に記載した点がJASSと異なっており、被告表現17はこれらの点が原告表現17と同一であるから、著作権侵害となる旨主張する。しかし、二つの図面をどのような位置関係で配置するかという点については表現の幅が限られており、上記名称の記載方法もありふれたものと解されるから、原告表現17に表現上の創作性があるとは認められない。 ス 原告表現18について 原告表現18は、原告書籍4に掲載された平成20年一級建築士学科本 試験問題の解説の一部であり、仮ボルトの種類、配置等を表にしたものであるが、その内容はJASSに記載された鉄骨工事に関する一般的知見である(甲9、乙1)。そして、そのような知見を簡潔な文言を用いて表形式にして記載すること自体はありふれた表現方法であるから、原告表現18につき創作性を認めることはできない。 セ 原告表現19について 原告表現19は、原告書籍5に掲載された平成17年一級建築士学科本試験問題の一部であり、選択肢の一つが出題後のJISの改定により不適切になったことから、元の選択肢中の「・・・の表示事項は、「指示」及び「用心」である」との記載を、改定後のJISに整合するよう、「・・・の意味は、「指示」及び「誘導」である」と改めたものである(甲5、乙1)。このような原告表現19については、原告表現13〜16について判示したのと同様の理由により、創作性を認めることができない。 ソ 原告表現20について 原告表現20は原告書籍6に掲載された自然排煙方式を説明する図面であり、被告表現20はほぼ同一の図面であるが、証拠(甲6、乙1)及び弁論の全趣旨によれば、同様の図面は日本建築学会編「建築設計資料集成」にも掲載されていること、これら各図面の右側部分の鴨居状の部材の下端と煙を示す曲線の位置関係をみると、原告表現20(煙が上)と被告表現20及び上記資料集成(煙が下)が異なっていることが認められる。そうすると、原告表現20が原告により創作されたとも、被告表現20がこれに依拠して作成されたとも認めるに足りないと解すべきである。 タ 原告表現21〜23について 原告表現21〜23は、それぞれ原告書籍7に掲載された平成16年〜平成18年の各一級建築士学科本試験問題のうち図面部分であり、@原告表現21につき、敷地の上部が準住居地域、下部が近隣商業地域であり、容積率がそれぞれ10分の20、10分の40である旨の説明文の記載位置が、試験問題の図面では敷地外の右側にあるのに対し、原告表現21では敷地内にある点、A原告表現22につき、試験問題では3段に記載された説明文及び5本記載された河川を示す波線が、それぞれ4段及び4本となっている点、B原告表現23につき、敷地と北側隣地の間に配された三角形状の記号が、試験問題では5個であるのが4個となっている点で、それぞれ対応する上記各問題の記載と異なるが、各問題のその余の部分は原告書籍7にそのまま掲載されている(甲7、18の10及び11、乙1)。 原告は、上記@〜Bの各相違点は原告が独自の表現をしたものであるから著作物性が認められると主張するが、図面中の説明文の配置、波線の数等は紙面のレイアウト等に応じて適宜定まるものであり、表現の幅が限られることに照らすと、上記の程度の相違をもって原告表現21〜23に表現上の創作性があると認めることはできない。 2 争点(2)(同一性保持権侵害の成否)について 上記1で説示したとおり、被告各表現は原告各表現の複製又は翻案のいずれにも当たらないから、複製権又は翻案権の侵害を前提とする同一性保持権侵害の主張も失当というべきである。 3 結論 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 長谷川浩二 裁判官 清野正彦 裁判官 中嶋邦人 (別紙)被告書籍目録 1 題名 「建築士講座 2013年目標 1級建築士 新体系テキスト 設計製図」 発行年月日 平成25年8月6日 2 題名 「建築士講座 2013年目標 1級建築士学科 新体系問題集 施工」 発行年月日 平成25年2月6日 3 題名 「建築士講座 2013年目標 1級建築士学科 新体系問題集 環境・設備」 発行年月日 平成24年12月17日 4 題名 「建築士講座 2013年目標 1級建築士学科 新体系テキスト 環境・設備」 発行年月日 平成24年12月17日 5 題名 「建築士講座 2013年目標 1級建築士学科 新体系問題集 法規」 発行年月日 平成25年3月11日 (別紙)原告書籍目録 1 題名 「平成25年度 1級建築士設計製図受験テキスト」 発行年月日 平成25年8月2日 2 題名 「平成23年度 1級建築士設計製図受験テキスト」 発行年月日 平成23年8月1日 3 題名 「1級建築士設計製図試験 基礎テキスト」 発行年月日 平成23年2月4日 4 題名 「1級建築士 問題解説集 施工」 発行年月日 平成23年1月10日 5 題名 「1級建築士 問題解説集 環境・設備」 発行年月日 平成23年1月10日 6 題名 「1級建築士受験テキスト 学科U 環境・設備」 発行年月日 平成23年1月10日 7 題名 「1級建築士 問題解説集 法規」 発行年月日 平成23年1月20日 (別紙)侵害部分対照表は省略 (別表)複製権及び翻案権侵害に関する当事者の主張
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