判例全文 line
line
【事件名】ソーシャルゲーム「プロ野球ドリームナイン」侵害事件(2)
【年月日】平成27年6月24日
 知財高裁 平成26年(ネ)第10004号 損害賠償等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成23年(ワ)第29184号)
 (口頭弁論終結日 平成27年4月27日)

判決
控訴人 株式会社コナミデジタルエンタテインメント
訴訟代理人弁護士 今井和男
同 正田賢司
同 柴田征範
同 有賀隆之
同 板垣幾久雄
同 望月崇
同 松浦賢
被控訴人 株式会社g l o o p s
訴訟代理人弁護士 高橋元弘
同 佐藤久文
同 末吉亙


主文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人は、控訴人に対し、32万3322円及びうち12万3322円に対する平成23年9月21日から、うち20万円に対する平成24年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人のその余の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、第1、2審を通じ、これを100分し、その1を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 (主位的請求)
(1) 被控訴人は、控訴人に対し、5595万1875円及びこれに対する平成23年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人は、控訴人に対し、260万円及びこれに対する平成24年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 (予備的請求)
 被控訴人は、控訴人に対し、1716万4696円及びこれに対する平成24年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、「プロ野球ドリームナイン」というタイトルのゲーム(以下「控訴人ゲーム」という。)をソーシャルネットワーキングサービス(SNS)上で提供・配信している控訴人が、「大熱狂!!プロ野球カード」というタイトルの原判決別紙ゲーム目録記載のゲーム(以下「被控訴人ゲーム」という。)を提供・配信している被控訴人に対し、主位的には、@被控訴人が控訴人ゲームを複製又は翻案して、被控訴人ゲームを自動公衆送信することによって、控訴人の有する著作権(複製権、翻案権、公衆送信権)を侵害していることを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求、又は、A被控訴人ゲームの影像や構成等は控訴人ゲームの影像や構成と同一又は類似しているから、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号又は3号の不正競争に該当することを理由とする不競法4条に基づく損害賠償請求として、被控訴人に対し、5595万1875円及びこれに対する平成23年9月21日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに弁護士費用相当額として260万円及びこれに対する平成24年2月21日(同月14日付け訴え変更申立書の送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、また、B著作権112条1項又は不競法3条の規定に基づき被控訴人ゲームの配信(公衆送信、送信可能化)の差止めを求めるとともに、予備的に、C被控訴人ゲームの提供・配信は、控訴人ゲームを提供・配信することによって生じる控訴人の営業活動上の利益を不法に侵害する一般不法行為に該当すると主張して、民法709条に基づく損害賠償請求として1716万4696円及びこれに対する平成24年2月21日(同月14日付け訴え変更申立書の送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原判決は、控訴人の請求をいずれも棄却したところ、原審における上記@及びCの各請求を棄却した部分を不服として、控訴人が本件控訴をした。控訴人は、上記A及びBの各請求を棄却した部分については不服を申し立てておらず、したがってこれらの請求については、当審の審理の対象となっていない。
2 前提事実
 前提事実については、次のとおり原判決を補正するほかは、原判決「事実及び理由」の第2の1記載のとおりであるから、これを引用する(以下、原判決を引用する場合は、「原告」を「控訴人」と、「被告」を「被控訴人」と、「別紙」を「原判決別紙」と、それぞれ読み替える。)。
(原判決の補正)
 原判決17頁12行目末尾に行を改めて、次のとおり加える。
 「(6) 被控訴人は、被控訴人ゲームの提供・配信を開始した9日後の平成23年8月26日に、選手カードのうちスターカード及びスーパースターカードの表現を変更し(甲14)、また、遅くとも同年9月1日までに選手ガチャの表現を変更した(弁論の全趣旨)。」
3 当審における争点
(1) 被控訴人ゲームの制作・配信行為は控訴人の著作権を侵害するか
(2) 被控訴人ゲームの配信行為は不法行為に該当するか(予備的請求)
(3) 損害額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被控訴人ゲームの制作・配信行為は控訴人の著作権を侵害するか)について
 争点(1)についての当事者の主張は、次のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由」の第3の1記載のとおりであるから、これを引用する。
(当審における追加又は補充主張)
(1) 選手ガチャにおける著作権侵害の成否について
(控訴人の主張)
ア 控訴人が選手ガチャについて主張する著作権侵害は、パッケージが現れてから選手カードが出現するまでの一連の動画についてであり、創作性判断においては、一連の動画における表現を全体的に考察する必要がある。そして、著作権侵害を判断する上では、まず著作物の本質的な特徴を確定する必要がある。
イ 控訴人ゲームの選手ガチャの本質的な特徴は以下のとおりである。
 控訴人ゲームにおける選手ガチャは、選手カードを入手する手段であるところ、利用者に期待感及び緊張感を与えることで選手ガチャを繰り返し楽しんでもらい、長くゲームをプレイしてもらうことを狙いとして、実際のパッケージの開封を模するという具体的表現を採用したこと、さらに、単に横方向に破られて開封されるだけではなく、パッケージの上部に左から右へと白色の光線が高速で走り、かかる高速の光線により切れ味鋭く当該部分が左から右へと瞬時に切り取られると、パッケージに在中するカードの一部のみを表示し、かかるカードをパッケージから取り出される際にカードを白く光らせることで選手が判別できないようにし、利用者に緊張感と期待感を持たせた上で、一瞬画面全体を白く光らせた後に、最終的にカードを表示し、そのカードに放射線状の後光が差す演出を採用しており、動画として、この一連の表現に本質的な特徴がある。
ウ そして、被控訴人ゲームにおいても、かかる表現上の本質的特徴はすべて維持されている。
 控訴人ゲームと被控訴人ゲームの選手ガチャにおいて、パッケージのデザインが異なることは本質的特徴ではないし、黒色の空間の白を基調としたパッケージという表現が施されている点で利用者に異なる印象を与えるものではない。その他のパッケージが浮遊しているか、切り取られた部分の移動の仕方、選手カードのせり上がりの程度、画面上部への移動の仕方、画面全体が白くなるタイミング、後光のサイズ等の違いは、いずれも、控訴人ゲームの選手ガチャの表現の本質的特徴を構成する部分ではなく、些細な違いにすぎない。
エ したがって、被控訴人ゲームの選手ガチャは、控訴人ゲームの選手ガチャの表現の本質的特徴を感得させるものであって、その製作、配信は、控訴人の複製権ないし翻案権ないし公衆送信化権を侵害する。
(被控訴人の主張)
 争う。控訴人の主張する共通点は、ブラウザゲーム等によって既に存在するありふれたアイデアないし表現であって、創作性はなく、仮に共通点に何らかの創作性が認められるとしても、具体的な表現において相違するものであり、被控訴人ゲームの選手ガチャに接する者が、その全体から受ける印象を異にし、控訴人ゲームの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。
(2) 選手カードにおける著作権侵害の成否について
(控訴人の主張)
ア 4選手の選手カードについて
(ア) 控訴人ゲームにおける中島選手、ダルビッシュ選手、坂本選手及び今江選手の各選手カード(以下「4選手カード」という。)は、美術の著作物であり、その表現のうち、少なくとも@ファイアーモチーフ、A選手画像の二重表示及びB選手のポーズや構図には創作性が認められる。
 すなわち、控訴人ゲーム制作時に、@及びAと同じ具体的な表現がされていた他のカードはなく、ありふれているとはいえない。また、Bのポーズについても多くの選択肢が存在し、さらにカードで表現したい演出の観点から、どのポーズの写真を選び、カードのどの位置に、どのサイズで表現するかという観点も併せればその選択肢は無限といえ、当然に個性が表れるものといえる。
(イ) 仮に個々の構成要素がありふれたものであっても、その組合せにこれまでに類を見ない個性が表れていれば、その組合せによる表現については当然に創作性が認められるべきである。
 控訴人ゲームの4選手カードは、上記(ア)の各構成要素を組み合わせて作成されたものであり(坂本選手については二重表示を除く。)、全体的に観察すればその創作性が肯定されることは明らかである。
(ウ) 著作権侵害を判断する上では、まず選手カードの表現上の本質的な特徴を確定する必要がある。
 そして、控訴人ゲームは、利用者が選手カードを収集することをゲームの目的の一つとしているところ、選手カードの表現上の本質的特徴は、どの選手のカードであるかという点及び当該選手のカードを利用者が手に入れたいと思わせるように工夫を凝らして臨場感のある演出をしている点に着目して認定すべきである。
a 中島選手のカードについは、人気の高い中島選手について、中島選手の打撃・守備・走塁のシーンで多種多様なポーズがある中から、左足を前に出し、体がきれいに回転した状態でバットを振り抜いた様子のポーズを選出することで、中島選手の特徴の一つである長打力や勝負強さを表現し、これに加えて、ファイアーモチーフや写真の濃淡・サイズに工夫を凝らした二重表示といった臨場感や希少性のある演出を施した点に、表現上の本質的な特徴がある。
b ダルビッシュ選手のカードでは、人気の高いダルビッシュ選手について、投球前、投球中、投球後のシーンで多種多様なポーズがある中から、同選手が投球動作に入り、左足を大きく前に出し、握ったボールを投げようと右手を後ろから振り上げようとするポーズを選出することで、ダルビッシュ選手の特徴の一つである球威や力強さを表現し、これに加えて、ファイアーモチーフや写真の濃淡やサイズに工夫を凝らした二重表示といった臨場感や希少性のある演出を施した点に、表現上の本質的な特徴がある。
c 坂本選手のカードでは、坂本選手の打撃、守備、走塁のシーンで多種多様なポーズがある中から、同選手が上体を左にひねってバットを振り抜いたポーズを選出することで、坂本選手の特徴の一つである長打力やバットスイングの力強さを表現し、その背景にファイアーモチーフを採用することで、臨場感や希少性のある演出を施した点に、表現上の本質的な特徴がある。
d 今江選手のカードでは、今江選手の打撃、守備、走塁のシーンで多種多様なポーズがある中から、同選手が両手でバットを持ち、投手のいる方向を向いて構えるポーズを選出することで、今江選手の打席での集中力や闘争心を表現し、これに加えて、ファイアーモチーフや写真の濃淡やサイズに工夫を凝らした二重表示といった臨場感や希少性のある演出を施した点に、表現上の本質的な特徴がある。
(エ) そして、被控訴人ゲームの4選手カードにおいては、それぞれ、上記(ウ)の表現上の本質的特徴がすべて維持されている。
 なお、控訴人ゲームと被控訴人ゲームの4選手カードでは、@所属球団を表す色が配されているかどうか、A選手名、背番号の配置等が異なるか、Bファイアーモチーフの配色が赤色と金色で異なる。しかし、上記@、Aの点は表現上の本質的な特徴ではないし、@ないしBの違いは些細な違いにすぎず、利用者に異なる印象を与えるものではない。また、坂本選手については、二重表示の有無が異なるが、控訴人ゲームにおける坂本選手の画像と被控訴人ゲームにおける坂本選手の二重表示の背景画像は、その配置やサイズにおいて酷似しているから、二重表示の有無によって、被控訴人ゲームの坂本選手の選手カードに接する利用者が、控訴人ゲームの選手カードと異なる印象を受けるものではない。
(オ) したがって、被控訴人が4選手カードを制作し、これを配信した行為は、控訴人の複製権ないし翻案権及び公衆送信権を侵害する。
イ その他の選手カードについて
 控訴人は、被控訴人が本訴提起前の平成23年8月26日に選手カードの表現を大きく変えてしまったため、4選手カード以外の選手カードを入手することができないという事情により、4選手カード以外については特定できていない。しかし、控訴人ゲームと被控訴人ゲームにおける4選手カードが酷似している事実、被控訴人が、4選手カード以外にも控訴人ゲームのT−岡田選手の選手カードを保有している事実(乙69)から、その他の選手のカードについても酷似していると推定することができる。
 したがって、被控訴人が、4選手カード以外の選手カードを制作し、これを配信
した行為も、控訴人の複製権ないし翻案権及び公衆送信権を侵害する。
(被控訴人の主張)
ア 4選手の選手カードについて
(ア) 控訴人は、控訴人ゲームと被控訴人ゲームの選手カードの共通点のうち、ファイアーモチーフ、選手画像の二重表示、選手のポーズ・構図に創作性があると主張する。しかし、これらの3点につき、両ゲームの選手カードでは、以下のとおり、具体的表現において違いがあり、抽象的なアイデアの範囲で共通性を有するにすぎない。
a 控訴人ゲームの選手カードは背景に赤色を基調とするファイアーモチーフが施され、他方で、被控訴人ゲームの選手カードは背景に金色を基調とするファイアーモチーフが施されている。加えて、控訴人ゲームの選手カードの背景は、選手カードの下部に選手カードの所属球団をあらわす色が配色されている以外は、全て赤色の炎で覆われているが、被控訴人ゲームの選手カードは、金色の炎が達していない部分を黒色の背景で描いている。また、後光が差すという点についても、控訴人ゲームの選手カード(坂本選手及びダルビッシュ選手は除く。)は、カード中心より放射線状に単純に伸びる後光であるのに対して、被控訴人ゲームは、カード左上及び右上の楕円形状の白色に近い光の玉からそれぞれ左上及び右上に向かって光の線が伸びている。
 したがって、控訴人ゲームと被控訴人ゲームの選手カードの具体的な背景の描き方及び配色は異なっており、共通点は、炎を描いていることと、外部に向かって線が伸びるような後光が差すようになっていることという抽象的なアイデアの範囲にすぎない。
b 二重表示についても、前面の選手画像と比較した場合の背面の選手画像の拡大率が、控訴人ゲームの選手カードが4倍であるのに対して、被控訴人ゲームの選手カードは従来のトレーディングカードと同様の2.25倍(乙48)である。また、被控訴人ゲームの選手カードの背面の選手画像は、背景の金色を基調とするファイアーモチーフと同化する金色の色味を施しており、控訴人が控訴人ゲームの選手カードについて主張するような、多少色を薄くしているが、背面の選手画像がしっかりと配色をしている、という特徴はない。
 したがって、控訴人ゲームと被控訴人ゲームは、単に前面の選手画像と比較して背面の選手画像を大きく二重表示すること、及び、背面の選手画像が一色ではないという抽象的なアイデアの範囲で共通性を有するにすぎない。
(イ) そして、上記3点の共通点は、いずれも極めてありふれた表現又はアイデアであって、以下のとおり、それぞれ創作性が認められない。
a ファイアーモチーフについて
 ファイアーモチーフという共通点は、従来のトレーディングカード等において採用されているような極めてありふれたアイデアないし表現にすぎない。すなわち、@ベースボールマガジン社のプロ野球カードのうち、平成11年、12年、14年ないし16年、20年、21年の各シリーズ(乙63の1ないし3、乙70)では、著名な野球選手のカードの背景に、希少価値の高さ及び選手の強さを示すためにファイアーモチーフが用いられているし、トレーディングカードにおいて背景にファイアーモチーフを用いる例は多数存在している(乙64、65)。また、A後光が差すような表現についても、カルビープロ野球チップスのカード(乙3の7、乙70)において採用されている。そして、B米国においてトレーディングカード市場をほぼ独占してきたトップス社の発売しているプロレスラーを素材としたトレーディングカードゲーム「SLAM ATTAX」では、背景に後光が差したようなファイアーモチーフが施されている(乙8、9)。さらに、Cトレーディングカードを用いたソーシャルゲームにおいて、背景をファイアーモチーフとするものや、同時に後光が差すようにしている例は、極めて多数に上る(乙41)。
b 選手画像の二重表示について
 選手画像の二重表示も、従来のトレーディングカード等において採用されている極めてありふれたアイデアないし表現にすぎない。選手カードの背景に二重に大きく当該選手の画像を配する表現は、カルビープロ野球チップスカードで遅くとも平成18年頃から採用されていた(乙3の1ないし9)。そのほか、平成13年ないし平成20年の間に発行されたベースボールマガジン社のプロ野球カード(乙70)、平成22年12月発売のプロ野球オーナーズリーグ第4弾(乙36)のトレーディングカードなど、著名なトレーディングカードを用いたソーシャルゲームにおいても、カードに表示されている人物等を二重に表示し、背面の画像が前面の画像より拡大されるとともに、背面の画像には配色が施されている例が多数存在している(乙41)。
c 選手のポーズ、構図について
 プロ野球の選手である以上、各選手ごとの投球フォームやバッティングフォームは基本的には同じである上、選手カードに用いる写真は、球団から提供された限られた素材の中から選択するものであり(特に中島選手と今江選手については球団から控訴人も被控訴人も2枚ないし4枚の写真の提供を受け、選択をしており、極めて限られている。)、選手の顔が見えるもの、投手・野手等が区別できること、できる限り躍動感の写真であることなどを考慮すると、似たような構図となる。限定された選手の構図の中から、控訴人ゲームの選手カードと同様の構図を選択したからといって、これらに創作性が認められることはあり得ない。現に、控訴人ゲームの選手カードと同様の構図を採用している選手カードは、「プロ野球オーナーズリーグ」以外にもトレーディングカードで多数存在しているし(乙71)、被控訴人ゲームで配信した選手カードと、同配信後に控訴人ゲームで配信された選手カードの中にも選手カードのポーズや構図が類似しているものがあること(乙41)からも明らかである。
(ウ) また、上記(イ)のとおり、控訴人ゲームと被控訴人ゲームの共通点は単なるアイデア又はありふれた表現であるから、これらを組み合わせたとしても創作性が認められることにはならない。
 上記共通点のような抽象的な範囲での表現方法は、従前のトレーディングカードでも、一般的な画像合成においても用いられてきたものであり、控訴人はこれらの表現手法を参考にして控訴人ゲームの選手カードを製作しているにもかかわらず、これらを組み合わせたトレーディングカードがないという理由だけで創作性を認め、これらを組み合わせた表現手法を控訴人に独占させることは相当ではない。
(エ) さらに、控訴人ゲームと被控訴人ゲームの選手カードの共通点に何らかの創作性があるとしても、両者は具体的な表現において相違する。
 すなわち、控訴人ゲームの選手カードでは、カード下部にチームカラーを施し、選手の氏名を白抜きで表すとともに、選手画像は前面及び背面ともに写真で撮影したままの配色を施し、背景は赤色のファイアーモチーフとなっており、選手の闘志が燃え上がっている印象、赤く活発なイメージを与えるとともに爆発するようなイメージを与える。他方、被控訴人ゲームの選手カードでは、背景、選手の氏名、星、さらには背景の選手の画像についても金色で配色しており、さらに背面の選手画像も金色で配色することで、全体に金色に光り輝くカードとすることによって、選手のスター性及びカードの希少性を強調する印象を与えており、控訴人ゲームの選手カードとは表現全体から受ける印象を全く異にする。
 したがって、被控訴人ゲームの選手カードから控訴人ゲームの選手カードの表現上の本質的特徴を直接感得することはできない。
イ その他の選手カードについて
 4選手カード以外の選手カードに関する証拠は一切ないから、複製権ないし翻案権侵害又は公衆送信権侵害が認められることはあり得ない。
(3) 依拠性について
(控訴人の主張)
 控訴人ゲームの4選手カードは、前記(2)のとおり極めて高い創作性が認められるところ、被控訴人ゲームの4選手カードはこれに酷似している。そして、少なくとも控訴人ゲームの4選手カードのうちダルビッシュ選手を除く3選手の選手カードは、被控訴人ゲームの作成時期に控訴人のウエブサイトでアクセス可能であったこと、ダルビッシュ選手の選手カードに関しても、控訴人ゲーム中で確認可能であったことからすれば、被控訴人が控訴人ゲームに依拠した上で、被控訴人ゲームの選手カードを作成したことは明白である。
(被控訴人の主張)
 控訴人ゲームにおいて、被控訴人ゲームの配信が開始される以前にリリースされたスターカード及びスーパースターカードは全部で少なくとも240種類あり、控訴人が類似を指摘しているのはそのうち4枚しかない。被控訴人においては、選手カードの作成の方針及び共通する素材を制作した後、選手画像を選択して各選手カードを作成している(乙75)。多数の選手カードを制作するに当たって、被控訴人が、敢えて、控訴人ゲームの4選手カードだけに依拠して、選手カードを制作するというのは非現実的であり、不自然である。
 控訴人は、控訴人のウエブページ掲載の選手カードのうち3枚(全12枚中の4分の1)の選手カードが模倣されていると主張するが、逆に4分の3の選手カードが類似していないことは控訴人も認めるところであり、あえて3枚の選手カードのみ依拠して被控訴人ゲームの選手カードを作成したという理由が全く説明できていない。
 これらのことからすれば、被控訴人ゲームの4選手カードは、控訴人ゲームの4選手カードに依拠していない。
2 争点(2)(被控訴人ゲームの配信行為は不法行為に該当するか)について
 争点(2)についての当事者の主張は、次のとおり付加するほかは、原判決「事実及び理由」の第3の4記載のとおりであるから、これを引用する。
(当審における補充主張)
(控訴人の主張)
(1) 最高裁平成23年12月8日判決(以下「最高裁平成23年判決」という。)は、対象に著作物性があることを前提とした事例についての判決であり、対象に著作物性が認められない事例には妥当するものではない。本件において控訴人が一般不法行為の保護対象として主張しているのは、著作物ではない情報(ゲームシステム)であって、このようなそもそも著作物ではない情報の利用が、一定の要件の下で不法行為を構成することは異論をみない。
(2) 最高裁平成23年判決の適用如何にかかわらず、本件において控訴人が保護を求めているのは、「ゲームシステム」の開発者として享受し、又はし得た利益であって、著作物の利用による利益とは異なる。控訴人は、40年以上にわたって創意工夫と努力を重ねて様々なゲーム開発を行ってきており、それを通じて蓄積された経験やノウハウ、知見等を結集し、かつ、カードを収集し成長させていくという独特の要素を取り入れる等して、新たなSNSゲームシステムを開発した。かかるゲームシステム開発者としての利益は法的保護に値する。
 すなわち、控訴人は、長年にわたってゲーム業界において培ってきた経験やノウハウ、知見等を結集し、カードをコレクションするという独自の要素を取り入れるなどして構築したゲームシステム(以下「控訴人ゲームシステム」という。)を、平成22年9月14日に配信を開始した「ドラゴンコレクション」において初めて用いた。控訴人ゲームシステムにおいては、カードを題材として用い、@「ガチャ」という仕組みでカード収集自体がランダムに行われるものとし、A「クエスト」を実行することで経験値や強化の際に必要なポイント(ジェニー)と併せてカードを入手することなどを可能とし、B収集したカードを用いて利用者の攻撃力の上限内に収まるように「デッキ」を組み、Cこれをもって他の利用者と「バトル」を行い、D利用者の有するカード同士を「合成」することによりカードのレベルを上げるものとしている。そして、これらの五つの要素は、それらを実行するために必要なポイントやそれらを実行することにより得られるメリットを、利用者の興味・嗜好を満たすように、膨大な時間と労力をかけて検討を尽くして編み出した絶妙なゲームバランスをもって相互に関連づけて有機的に組み合わされており、そのようにして成り立っているのが控訴人ゲームシステムである。五つの要素を関連付けることにより、例えば、「クエスト」を行った利用者は、有料アイテムを用いずに体力の回復を図るため時間の経過を待っている間、「クエスト」によって取得したジェニーとカードを用いて「合成」をしたり、「クエスト」によって取得したカードで新たに「デッキ」の内容を設定し直し、そこで「バトル」を行うことができるというように、利用者に単なる待ち時間を使わせずに、常にゲームを楽しみ続けてもらうことができる。
 その後、控訴人は、控訴人ゲームシステムを、本件の控訴人ゲームのほか、「戦国コレクション」、「秘書コレクション」においても同様に用いており、いずれのゲームもヒットをしている。
(3) 控訴人は、プロ野球を題材としたゲームに控訴人ゲームシステムを用いるに際して、それまでに様々なタイプの野球ゲームを開発・販売してきた経験・ノウハウに基づいてアレンジを行い、多くの利用者に継続的にゲームを利用、楽しんでもらえるよう意を用いた。例えば、上記@ないしDの各要素のうち、控訴人ゲームの「強化」は「合成」に、「スカウト」は「クエスト」に相当している。
 また、カードを収集したいという利用者にとっては、極力当該選手に関する情報を細分化して付与することが望ましいが、他方、試合や強化などを数多く行うことによって独自の強いチームを作りたいという利用者にとっては、情報量が多くなればなるほど、考慮要素が多くなってしまい、スピーディなゲーム運びが実現できず、むしろ弊害となってしまう。そこで控訴人は、野手、投手共に能力に関する情報を三つに絞り(野手は打撃、走力、守備。投手は球威、制球、変化)、野手は各ポジションの中から一つに、投手も先発・中継ぎ・抑えのうち一つに、それぞれ絞って情報を付与することとした。
(4) しかるに、被控訴人は、控訴人ゲームシステムをそのまま流用し、控訴人ゲームを完全に模倣して、被控訴人ゲームを配信した。控訴人ゲームシステムを無断で利用し、控訴人ゲームを模倣したゲームを、控訴人ゲームと同一の需要者が多数存在する市場(Mobage)に向けて配信する被控訴人の行為が、自由競争として許される範囲を逸脱する違法、不当なものであることは明らかである。
(被控訴人の主張)
(1) 最高裁平成23年判決の射程如何にかかわらず、著作権法が規律の対象とする著作物や周知商品等表示の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではなく、本件ではかかる特段の事情はない。
(2) 控訴人の主張する「ガチャ」、「クエスト」、「デッキ」、「バトル」、「合成」の五つの要素とゲームバランスにおいて、控訴人のいかなる経験・ノウハウが活かされたのか全く明らかでないばかりか、これらの要素やゲームバランスは、従来のゲームをそのまま踏襲したものであって、何ら控訴人の経験やノウハウ等によるものではない。
 控訴人の主張する五つの要素は、これを含むゲームが多数存在しており(乙40)、控訴人ゲームシステムが最初に用いられたと主張する「ドラゴンコレクション」についても従前のゲームの要素を盛り込んだものにすぎず(乙17)、控訴人独自の工夫やノウハウ等があるものではない。
3 争点(3) (損害額)について
(1) 主位的請求について
(控訴人の主張〕
ア 被控訴人ゲーム全体の配信による著作権侵害についての著作権法114条2項に基づく損害
(ア) 被控訴人は、DeNAが運営する携帯電話等のプラットフォームであるMobageにおいて、被控訴人ゲームを配信しているところ、Mobageの平成23年度6月末の有効会員数は2971万人であり、2011年度第1四半期の「モバコイン」(1コイン=1円)の消費量は、1日当たり3億7152万2222円であるから、会員一人当たりの1日の消費量は12.5円となる。
(イ) 被控訴人の売上に対する利益率は60.9%であると推測され、被控訴人の被控訴人ゲームの配信行為等による会員一人当たりの1日の利益は、7.6125円(12.5円×60.9%)である。
(ウ) 被控訴人は、平成23年8月18日から被控訴人ゲームの配信を開始しているところ、同月26日時点で既に会員数が50万人を突破して(甲45)、同年9月5日には会員数が70万人を突破している。
 さらに、被控訴人ゲームの会員数は開始96時間(4日間)で30万人を突破していることも考え併せると、少なくとも被控訴人ゲームの会員数は、平成23年8月18日から同月26日まで直線的に増加して50万人に達し、さらに翌27日から同年9月5日まで直線的に増加して70万人に達したといえる。
 したがって、平成23年8月18日から同年9月5日までの19日間における被控訴人ゲームの総利用者数は、825万人(=(50万人×9日間×1/2)+(50万人×10日間+20万人×10日間×1/2))となる。
(エ) よって、被控訴人が平成23年8月18日から同年9月5日までに被控訴人ゲームの配信により受けた利益の額は、6280万3125円を下らない。控訴人はかかる損害金6280万3125円のうち、5595万1875円を請求する。
イ 被控訴人ゲームの4選手カードによる著作権侵害についての著作権法114条2項に基づく損害(予備的主張)
(ア) 被控訴人が被控訴人ゲームにより得た全利益
a 被控訴人の被控訴人ゲームの配信行為等による会員一人当たりの1日の利益は、前記ア(ア)及び(イ)のとおり、7.6125円(12.5円×60.9%)である。
b 前記ア(ウ)のとおり、被控訴人は、平成23年8月18日から被控訴人ゲームの配信を開始し、同月26日時点で既に会員数が50万人を突破している。そして、被控訴人ゲームの会員数は開始29時間で10万人を突破している(甲79)ことも考え併せると、少なくとも被控訴人ゲームの会員数は、平成23年8月18日から同月26日までは直線的に増加して50万人に達しているといえる。
 したがって、平成23年8月18日から同月26日までの9日間における被控訴人ゲームの総利用者数(累計)は、225万人(50万人×9日間×1/2)となる。
c よって、被控訴人が平成23年8月18日から同月26日までに被控訴人ゲームの配信により受けた利益の額は、1712万8125円(225万人×7.6125円)を下らない。
(イ) 被控訴人がレアパックの販売により得た利益
 被控訴人ゲームにおける課金ポイントは、「レアパック」と「スタミナ丼」である。レアパックとスタミナ丼の値段の差や、スターカード及びスーパースターカードを入手するためには事実上レアパックの購入によらなければならず、利用者のレアパックの利用率も高いことからすれば、被控訴人ゲームにおける売上のほとんどはレアパックへの課金によるものといえ、レアパックの売上は全体の売上の9割を下らない。
 したがって、レアパックの販売により被控訴人が受けた利益は1541万5312円(1712万8125円×0.9)を下らない。
(ウ) 4選手カードの寄与率
a 被控訴人ゲームの公式ホームページにおいては、各球団を代表する選手カード12枚(1枚×12球団)を掲示しており、平成23年8月の配信開始当時に掲示されていた12枚のうち4枚が、4選手カードであった。
 被控訴人による著作権侵害行為は、被控訴人ゲーム配信開始から最初の9日間に行われたものであるが、配信開始直後はスターカード及びスーパースターカードの表現に関する情報はなく、利用者としてはこのような公式掲示された選手カードしか把握することができない。そうだとすれば、当時の利用者としては上記12枚の選手カードを入手するためにレアパックによる課金を行っていたといえ、そのうち4枚が控訴人ゲームにおける著作権を侵害していたカードであるから、4選手カードの寄与率は高い。
 さらに、被控訴人ゲームは、登録し、ゲームを開始すると、ゲームのプレイ方法を説明するチュートリアルにおいてまずダルビッシュ選手の選手カードを取得させ、チュートリアルが終了すると同カードが利用者の保有カードから削除され、入手したい利用者は自らレアパックで取得しなければならない演出となっており(乙99)、ダルビッシュ選手の選手カードを広告塔として利用し、レアパックに誘導し、利益を得ている。したがって、ダルビッシュ選手の寄与率は極めて高い。
b また、一度被控訴人ゲームに登録し課金した利用者は、改めて控訴人ゲームに登録し直すことなく、そのまま被控訴人ゲームにおいて課金し続ける。被控訴人は、控訴人ゲームを侵害する4選手カードを公式ホームページに掲載することでこれを広告塔として用い、開始9日間で50万人の利用者を囲い込み、その後もかかる利用者により継続して利益を受け続けているのであり、被控訴人ゲームによる利益に対する4選手カードの寄与率は極めて高い。
c 以上によれば、被控訴人ゲームによる利益に対する4選手カードの寄与率は、33%(4/12)を下らない。
d 被控訴人が平成23年8月18日から同月26日までの間に配信されたと主張する被控訴人ゲームの選手カードの希少性に応じた枚数は否認する。被控訴人ゲームの配信当時にレジェンド、レジェンド+が存在したことは確認できないし、配信開始時に公表しておらず、当時の利用者のほとんどが認識していないのであるから、利用者がこれを期待してレアパックを購入することはない。
 また、被控訴人が寄与として主張する事情については、@同じプロ野球というコンテンツを題材とするゲームであっても控訴人ゲームや被控訴人ゲームのような会員数にはなっていないこと、A単に強いカードを入手したいというだけでは特段カードデザインも検討する必要もないことになるが、被控訴人も、選手カードの希少性に応じて顧客吸引力を高めるための表現を実施して(乙75)、選手カードのデザインをシーズン毎に更新しており、デザインの重要性を認識していること、B被控訴人の運営ノウハウについては、具体的な内容が明らかではなく、配信開始日からわずか29時間で10万人(甲79)、9日間で50万人(甲45)もの被控訴人ゲームの会員数の増加は、配信開始前における広報活動によるものであることから、理由がない。
(エ) よって、控訴人は、被控訴人に対し、4選手カードの著作権侵害による損害金として、513万8437円(1541万5312円×33%)を請求する。
ウ 弁護士費用
 訴訟提起及び追行に要した弁護士費用のうち相当因果関係のある損害額は、上記アの請求については260万円、上記イの請求については100万円を下らない。
(被控訴人の主張)
ア 被控訴人ゲーム全体の配信による著作権侵害についての著作権法114条2項に基づく損害について
 否認ないし争う。
イ 被控訴人ゲームの4選手カードによる著作権侵害についての著作権法114条2項に基づく損害について
(ア) 被控訴人がレアパックの販売により得た利益について
 被控訴人は、平成23年8月18日から同月26日までの被控訴人ゲームによるレアパックによる被控訴人が受けた利益が1541万5312円であることを認める。ただし、その具体的な計算方法については認めるものではない。控訴人の主張する利益率60.9%は、DeNAがプラットフォーム手数料を差し引いた後の被控訴人ゲームの売上であり、被控訴人のその他の費用が考慮されていない。製造原価などの費用は、寄与率で考慮されるべきである。
(イ) 4選手カード1枚当たりの利益額について
 平成23年8月18日から同月26日までの間に被控訴人ゲームにおいて配信していた選手カードのうち、有料のレアパックによって入手できる選手カードはキラ、グレート、スター、スーパースター、レジェンド、レジェンド+であり、キラ以上の枚数は996枚であるから、1枚当たりの利益は1万5477円(1541万5312円/996枚)である。
 仮にグレート以上の選手カードを入手するためにレアパックを用いるとすれば、グレート以上の枚数は626枚であるから、1枚当たりの利益は2万4625円、スター以上の選手カードを入手するためにレアパックを用いるとしても、スター以上の枚数は314枚あるから、1枚当たりの利益は4万9093円にすぎない。
(ウ) 寄与率について
 レアパックの売上は、選手カードの表現によるものではない。すなわち、@被控訴人ゲームも控訴人ゲームも「プロ野球」という顧客吸引力の強いコンテンツを採用したために多数の会員を集めることができ、売上をあげているのであって、プロ野球というコンテンツそのものの寄与が大きい。Aまた、利用者が課金して選手カードを入手するのはより強い選手カードを入手したいからであり、特定の表現を施した選手カードが欲しいからではない。また、被控訴人ゲームの選手カード自体は有体物として入手できるものではなく、携帯電話という小さい画面で確認できるものにとどまり、通常のトレーディングカードのようなコレクション要素は低い。B被控訴人ゲームの選手カードは、ソーシャルゲームに使用するカードであり、被控訴人において多額の費用を投じてそのような被控訴人ゲームの開発をしたからこそ、レアパックを通じて選手カードの販売をすることができるものであり、レアパックの売上は選手カードの一部の表現によるものではない。C被控訴人は、被控訴人ゲーム配信以前からのソーシャルゲームにおける利用者のデータとこれを用いた運営ノウハウがあるからこそ、多額の売上を挙げることができている(乙95、102)。Dそもそも、控訴人ゲームのカード表現の創作性はきわめて低いものであることからすれば、利用者には一般的に存在しているありふれたトレーディングカードであるという程度の印象しか与えないのであるから、被控訴人ゲームの選手カードから直接感得できる控訴人ゲームの選手カードの表現上の本質的特徴部分が、レアパックの売上に寄与したとはいえない。
ウ 弁護士費用について
 否認ないし争う。
(2) 予備的請求(民法709条に基づく請求)について
 予備的請求についての当事者の主張は、原判決「事実及び理由」の第3の5の〔控訴人の主張〕(2)及び〔被控訴人の主張〕(2)記載のとおりであるから、これを引用する。
第4 当裁判所の判断
 当裁判所は、被控訴人ゲームの選手カードのうち、中島選手及びダルビッシュ選手の選手カードについては、控訴人ゲームの選手カードの著作権(翻案権、公衆送信権)侵害に基づく損害賠償請求が認められるが、その余の点については、控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおりである。
1 争点(1)(被控訴人ゲームの製作、配信行為が控訴人の著作権を侵害するか)について
(1) 著作物性、複製及び翻案について
 ある創作物が著作権法による保護の対象となるためには、それが「著作物」であること、すなわち、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)であることを要する。
 また、複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいうところ(著作権法2条1項15号参照)、著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、これと同一のものを作成し、又は、具体的表現に修正、増減、変更等を加えても、新たに思想又は感情を創作的に表現することなく、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうと解するのが相当である。
 さらに、著作物の翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいい、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
 このように、複製又は翻案に該当するためには、既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との共通性を有する部分が、著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である。そして、「創作的」に表現されたというためには、厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく、作者の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが、他方、表現が平凡かつありふれたものである場合には、作者の個性が表現されたものとはいえないから、創作的な表現であるということはできない。
 以上を前提にして、以下、先に個別表現ごとに著作権侵害の成否を検討し、次いでゲーム全体について著作権侵害の成否を検討する。
(2) 選手ガチャにおける著作権侵害の成否について
ア 選手ガチャにおける表現の内容
 証拠(甲3の1及び2、9の1及び2、15の1及び2、34、91)によれば、控訴人ゲームと被控訴人ゲームにおける「選手ガチャ」は、別紙「選手ガチャ」のとおりであり、その動画の一連の表現は、原判決の「事実及び理由」の第4の1(2)ア(ア)のとおりであるから、これを引用する。なお、各動画の長さ(クリックしてから終わりまで)は、控訴人ゲームが約2.7秒、被控訴人ゲームが約3.2秒である(乙66)。
イ 控訴人ゲームと被控訴人ゲームの選手ガチャの対比
(ア) 別紙「選手ガチャ」及び前記アの認定によれば、控訴人ゲームと被控訴人ゲームとは、@黒色の画面上に白を基調としたパッケージが現れ、クリックすると当該パッケージの上部に左から右へと高速で白色の光線が走り、当該部分が左から右へ水平方向に切り取られて開封され、すると、パッケージ内に在中して既にカード上端が露出している選手カードがせり上がり、当該パッケージの開封部から当該選手カードの上部背景が露出し、続けて、当該パッケージが下方向に移動して画面下部に消えるとともに、当該選手カードは当該パッケージから上方向に移動するという一連の流れの点、A最終的に選手カードが出現する直前に画面全体が一瞬白く光る点、Bその後、当該選手カードが上部に「NEW」という表記を伴って画面上に現れ、その背景には金色の後光が差している、という点において、共通している。
(イ) 他方、別紙「選手ガチャ」、前記アの認定及び乙66によれば、控訴人ゲームと被控訴人ゲームの選手ガチャは、まず、@パッケージのデザインは大きく異なる。また、上記共通点@に当たる一連の流れの中でも、個々の具体的な動きについては、次の点で相違する。すなわち、両ゲームは、Aパッケージの登場の仕方(控訴人ゲームにおいては、パッケージがふわふわと浮遊し、クリックされると前方にせり出して大きくなり、固定されるのに対し、被控訴人ゲームにおいては、パッケージは終始固定され、クリックされてもサイズや位置の変更はされない。)、Bパッケージの切り取られた部分の破り捨てられ方(控訴人ゲームにおいては、切り取られた部分が右向きに90度回転してから右上方向に移動するようにして破り捨てられるのに対し、被控訴人ゲームにおいては、切り取られた部分はそのまま水平方向に移動するようにして破り捨てられる。)、Cカードのせり上がりの程度(控訴人ゲームにおいては、選手カードがその背景上部が若干見える程度にせり上がるのに対し、被控訴人ゲームにおいては、球団のロゴマークや稀少度を示す背景が判別できる程度に上部を露出させるまでせり上がる。)、D選手カードの消え方及び現れ方(控訴人ゲームにおいては、選手カードはパッケージ内から白色となって現れ、そのまま光りつつ回転しながら上昇し、画面全体が白く光った後に突然画面中央に表れ、ふわふわと浮遊するのに対し、被控訴人ゲームにおいては、パッケージが下方向に移動して画面下部に消えるとともに選手カード全体が徐々に白くなり、白色になると急激に選手カードが上昇して画面上部へと消え、その後に当該選手カードが画面上部から下りてくる。)の点で相違する。
ウ 複製及び翻案の成否
(ア) 控訴人ゲームと被控訴人ゲームの選手ガチャは、上記イ(ア)の@ないしBの点で共通する。
a しかし、上記共通点@の点のうち、パッケージの上部が横方向に切り取られて開封され、内部から選手カードが出てくるという表現自体は、実際に販売若しくは頒布されているトレーディングカードにおいてパッケージに封入されたカードを取り出す方法をそのままアニメーションとして表現しているにすぎないから(乙2、4)、単なる事実の表現にすぎないし、黒色系の画面上に白色系のパッケージを配置すること、パッケージ上部を左から右へ開封し、切り取ると在中する選手カードが上方向に移動して、当該パッケージの開封部から当該選手カードの上部が露出するという演出や、パッケージが下方向に移動して画面下部に消えるとともに、選手カードはパッケージ上方向に移動するという表現は、控訴人ゲーム以前の既存のゲーム(「プロ野球カードスタジアム キミ★スタ」、「Dramatic巨人軍」、「プロ野球チームをつくろう!ONLINE2」)にも採用されているから(乙25、27、33、53、55)、ありふれた表現にすぎない。また、選手カード全体が上方向に移動する前に一度せり上がってカード表面の上部の一部のみが分かるように露出するという演出は、控訴人ゲーム以前の既存のゲームでこれを採用したものがなかったとしても、中身が分からないものを徐々に見せて期待感を持たせる行為として、一般的に行われる行為であるというべきであり、どのカードが入っているのかは開封するまでわからないというトレーディングカードの特徴に照らせば、ありふれた表現というべきである。また、露出の程度については、上記相違点Cのとおりの相違がある。
 一方、上記共通点@のうち、クリックするとパッケージの上部が左から右へと高速で白色の光線が走る点や、開封時にパッケージ内に在中するカードの上部が既に一部露出しているという点は、既存のゲームに存在していたとは認められず、ありふれたものであるとまではいえない。しかし、これらの動作は、選手ガチャの一連の動画(表現)の中のごく一部にすぎない上(白色の光線が走る時間は、各0.1秒ないし0.2秒であるし〔乙66〕、控訴人ゲームの選手カードは開封後すぐにせり上がり、白く光り始めるため、カードの上部が既に一部露出している点は動画ではほとんど目を惹かない。)、前記相違点B及びCのとおり、その前後の選手カードの個々の具体的な動き(表現)は、異なっている。
b また、上記共通点A(選手カードの出現の直前に画面全体が一瞬白く光る。)の表現は、当たった選手カードの内容がすぐに分からないようにするためのものであるが、選手カードに対する利用者の期待感を高めるものとして表現上特別の工夫があるとはいえないばかりか、このような演出は、上記「プロ野球カードスタジアム キミ★スタ」や、控訴人ゲームが配信される以前に配信されたSNSゲームの「カードファイト!!ヴァンガード」でも採用されていることが認められるから(乙25、33)、ありふれた表現にすぎないというべきである。その上、上記相違点Dのとおり、控訴人ゲームと被控訴人ゲームとでは、画面全体が白く光る直前の選手カードの出現の仕方自体が大きく異なっている。
 なお、控訴人は、「キミ★スタ」では在中するカードが上部に移動する時点でどのカードが当たったか判明しており、画面全体が白く光る表現に期待感及び緊張感を与えるような効果や工夫はないし、「カードファイト!!ヴァンガード」においては、最終的にカードが現れた時点においてもパッケージと同じ図柄のカード裏面が表示されるのであり、「プロ野球チームをつくろう!ONLINE2」でも取り出されたカード面は真っ黒なのであって、控訴人ゲームのような工夫とはいえないから、一瞬白く光る点は表現上の特別な工夫といえると主張する。しかし、その表現に異なる目的があるとしても、その表現自体の同一性が否定されるものではないし、カードの内容を分からないようにして期待感を高めるものとして表現上特別の工夫があるとはいえないことは上記判示のとおりであるから、控訴人の主張は上記認定を左右するものではない。
c 上記共通点Bのうち、選手カードが画面上に現れる際にその背景に後光が差しているという表現は、上記「プロ野球カードスタジアム キミ★スタ」や上記「Dramatic 巨人軍」でも採用されていることが認められるから(乙25、33)、ありふれた表現にすぎないというべきであり、新たな選手カードの登場に迫力を持たせ、利用者に抱かせた期待感に応えるためのものとして表現上の特別の工夫があるとはいえない。また、上記共通点Bのうち、選手カードが上部に「NEW」という表記を伴って画面上に現れるという表現も、新しく入手した選手カードを表現する際の表現上の特別の工夫とはいえず、単なるアイデア若しくはありふれた表現にすぎない。
d 以上によれば、控訴人ゲームと被控訴人ゲームの選手ガチャは、共通する点があるとはいえ、その共通する部分のほとんどは、そもそも事実の表現又はありふれた表現であり、したがって、創作性がないか、又は表現上、特徴的とはいえない表現にすぎない。そして、両ゲームの選手ガチャは、上記イ(イ)のとおり、一連の流れの中の個々の具体的な表現内容において大きく相違し、その相違点は創作性がある共通点の部分から受ける印象を大きく上回るものというべきであるから、両ゲームの選手ガチャに接する者が、その一連の動画全体から受ける印象は異なり、被控訴人ゲームの選手ガチャから控訴人ゲームの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないというべきである。
(イ) したがって、被控訴人ゲームの「選手ガチャ」は、控訴人ゲームの複製又は翻案に当たらないと認めるのが相当である。
エ 控訴人の主張について
(ア) 控訴人は、控訴人ゲームの選手ガチャの本質的特徴は、前記第3の1(1)控訴人の主張イのとおりの一連の表現であり、これらの点において被控訴人ゲームは共通するから、控訴人ゲームの著作権を侵害すると主張する。
 しかし、控訴人の主張する具体的表現のうち、「実際のパッケージの開封を模する」ということ自体は、アイデアであり、この点が共通していることをもって著作権侵害であるとはいえない。また、開封後にパッケージに在中するカードの一部のみを表示し、カードがパッケージから取り出される際にはカードを白く光らせて選手が判別できないようにし、最終的にカードを表示する直前には一瞬画面全体を白く光らせる、という手順により、カードの内容を利用者にはっきりと見せないということ自体も、前記のとおり、個々の表現としては、利用者の期待感を高めるための表現としては、ありふれた表現というべきであるし、このような一連の手順も、すぐにカードの内容を見せないというアイデアに従ってカードの取り出し方を表現しようとすれば基本的に同様の表現とならざるを得ず、その他の控訴人の主張する具体的表現部分を含めた一連の流れとしてみても、具体的な画面上に表示されるパッケージの図柄や一連の流れの中の個々の具体的な動き(表現)については前記のとおりの相違点があることからすれば、両ゲームの選手ガチャに接する者が、その一連の動画全体から受ける印象は異なるというべきである。
 したがって、控訴人の主張は、前記判断を左右するものとはいえない。
(イ) 控訴人は、前記相違点@ないしDは、いずれも些細な違いにすぎないと主張する。
 しかし、相違点@のパッケージデザインは、画面において大きな割合を占めており、視覚的に大きな影響を与えるといえるし、相違点A、B、Dの個々の動きは、携帯電話の画面上において利用者の注意を引く大きな動きであり、特にDのカードが回転して上昇する控訴人ゲームの動きは、動画全体の中でも最も長い演出の一つであって(乙66)、些細な違いということはできない。また、Cのせり上がりの程度の違いは、確かに、画面に占める割合としての差は小さいものではあるが、その差により、被控訴人ゲームにおいては所属チームのロゴや背景が判別できるのに対し、控訴人ゲームにおいてはほとんど確認できないのであり、利用者はこれにより異なる印象を受けるといえる。
 したがって、控訴人の主張は採用することができない。
(3) 選手カードにおける著作権侵害の成否について
ア 選手カードにおける表現の内容
 証拠(甲7の1ないし3、13の1ないし3、18の1ないし3、24、25、43、64、乙48)によれば、控訴人ゲームと被控訴人ゲームにおける4選手カードの表現は、それぞれ別紙「選手カード」のとおりであると認められる。
 なお、両ゲームの中島選手、ダルビッシュ選手、今江選手の選手カードはいずれもスーパースターカードであり、坂本選手の選手カードは、控訴人ゲームではスターカード、被控訴人ゲームではスーパースターカードである。また、控訴人ゲームと被控訴人ゲームは、いずれも社団法人日本野球機構から承認を受けて選手カードの実名や写真を使用しており、両ゲームの選手カードの写真は、同社団法人からそれぞれが提供を受けた複数の写真の中から選択したものを使用している(甲47、乙75)。
イ 控訴人ゲームと被控訴人ゲームの4選手カードの対比
a 中島選手について
 別紙「選手カード」によれば、両ゲームの中島選手の選手カードは、@中島選手の本体写真について、その具体的なポーズ、大きさ及びそのカード上の配置の点でその具体的表現が一致する。すなわち、いずれの本体写真も、右打者である中島選手がスイングをし終わって、左足を真っ直ぐ前に出し、右足をひざの部分でやや折り、右手を伸ばしてバットは返した状態で左肩の上部で顔の斜め前あたりに構え、打った球の球道を見つめているポーズを、選手の右前方から撮った全身写真であり、この本体写真が、カードの中央よりやや左寄りに配置され、頭はカードの上部から略3分の1の位置にあり、足はカードの辺に沿って描かれた枠よりも外側にあり、両足の足首近くの部分から下はカード外となって見えない。また、A本体写真の上半身を大きく拡大し、本体写真よりも多少色を薄くした背景写真が、多色刷りで残像のように二重表示されていること及びそのカードにおける配置、B本体写真の下部に、本体写真と背景写真の間に入るように炎が描かれるとともに、全体の背景としても炎が描かれ、カード中央から外方向へ放射線状の閃光を表すような黄色又は白の直線的な線(後光)が四方へ向けて描かれているという点、さらに、Cカード左上には所属するチームのロゴマークが記載されている点で具体的な表現が一致する。
 他方、別紙「選手カード」によれば、両ゲームの中島選手の選手カードは、@背番号の数字及び選手の氏名の記載部分の表現や金星の数、A下の背景部分の選手カードの所属球団を表す色が控訴人ゲームの選手カードには存在するのに、被控訴人ゲームの選手カードには存在しない、B二重表示の写真の具体的な大きさ(控訴人ゲームの選手カードでは縦横各約1.9倍程度に対し、被控訴人ゲームの選手カードでは縦横約1.6倍である。)や具体的な色味(控訴人ゲームの選手カードでは本体写真と同様の色調で多少薄くなっているのに対し、被控訴人ゲームの選手カードでは、全体的に背景の黄色味を帯びた色調となっている。)、C炎の具体的な色味(控訴人ゲームの選手カードでは赤色を基調とするのに対し、被控訴人ゲームでは金色を基調とし、炎が達していない上部部分は黒色の背景となっている。)及び閃光を強調する楕円形状の光の玉が被控訴人ゲームの選手カードには存在するのに、控訴人ゲームの選手カードには存在しないという点が相違する。
b ダルビッシュ選手について
 別紙「選手カード」によれば、両ゲームのダルビッシュ選手の選手カードは、@本体写真について、その具体的なポーズ、大きさ及びそのカード上の配置の点で、その具体的な表現が一致する。すなわち、いずれの本体写真も、投球動作に入った右投手であるダルビッシュ選手が、左脚を前に、右脚を後ろにして、脚を前後に大きく開いて重心を下げ、左腕を前に振り出し、右手はボールを握って右腕を後方に引き、打者方向を鋭くにらんでいる投球直前のポーズの全身写真であり、この本体写真が、カードの中央よりやや左に配置され、頭はカードの上部から略3分の1の位置にあり、足はカードの辺に沿って描かれた枠よりも外側にあり、両足の足首近くの部分から下はカード外となって見えない。また、A本体写真の上半身を大きく拡大し、本体写真よりも多少色を薄くした背景写真が、多色刷りで残像のように二重表示されていること及びそのカードにおける配置、及びB本体写真の下部に、本体写真と背景写真の間に入るように炎が描かれるとともに、全体の背景としても炎が描かれ、中央から外方向へ放射線状の閃光を表すような黄色又は白の直線的な線が四方へ向けて描かれているという点、さらに、Cカード左上には所属するチームのロゴマークが記載されている点で具体的な表現が一致する。
 他方、両ゲームのダルビッシュ選手の選手カードは、中島選手の上記相違点@ないしCと同様の点で相違する。
c 坂本選手について
 別紙「選手カード」によれば、両ゲームの坂本選手の選手カードは、@坂本選手の本体写真のポーズ、すなわち右打者である坂本選手がスイングをし終わって、右手を伸ばしてバットは返した状態で左肩の上部から後方へ向けて構え、打った球の球道を見つめている状態のポーズを、選手の左側から撮った全身写真である点で具体的表現が一致し、A背景として炎が描かれていること、Bカード左上の所属チームのロゴマークの記載という点でも一致する。
 他方、別紙「選手カード」によれば、両ゲームの坂本選手の選手カードは、中島選手の相違点@及びAと同様の相違点のほか、B本体写真の大きさ及びカードにおける配置、すなわち、控訴人ゲームの同選手カードは、本体写真が、カードの中央に大きく配置され、頭はカードの上部の枠にほぼ接する位置にあり、足は太ももの中央当たりがカードの辺に沿って描かれた枠よりも外側にあって、太ももの中央近くの部分から下はカード外となって見えないのに対し、被控訴人ゲームの同選手カードは、本体写真が、カードの中央よりやや左寄りにより縮小された大きさで配置され、頭はカードの上部から略3分の1の位置にあり、足は足首近くまで表示されている点で異なり、また、C背景写真の二重表示の点でも、控訴人ゲームの同選手カードでは、二重表示がないのに対し、被控訴人ゲームの同選手カードでは、本体写真の上半身を大きく拡大し、本体写真よりも多少色を薄くした背景写真が多色刷りで残像のように二重表示されている点で異なり、さらに、D炎の具体的な描き方が異なり、背景の放射線状の閃光が、控訴人ゲームの同選手カードでは存在しないのに対し、被控訴人ゲームの同選手カードでは存在するという点で異なる。
d 今江選手について
 別紙「選手カード」によれば、両ゲームの今江選手の選手カードは、@本体写真のポーズが、控訴人ゲームの同選手カードでは、右打者である今江選手が、上半身及び下半身はホームベースに正対し、顔を投手方向へ向け、両腕を肩付近まで上げ、バットはほぼ垂直に立てて、打つ前の状態で構えており、相手の投手と対峙している一瞬の静的状態をとらえたものであるのに対し、被控訴人ゲームの同選手カードでは、今江選手が、左足をわずかに曲げて前に出し、右足をほぼ直線状に伸ばし、上半身をやや後ろに引いて腰を回転させ、両腕はほぼ肩の辺りまで上げ、バットはほぼ45度の角度で先端を投手の方へ向けて頭上に構えており、相手の投手がまさにボールを投げ、これに合わせて同選手がスイングを開始する直前の動的瞬間をとらえたものである点で異なる。なお、中島選手の相違点@ないしCと同様の点でも相違する。
 他方、@本体写真が、打席でスイング前の状態を今江選手の右側から撮った全身写真であるという点、その大きさ及びカードにおけるおおよその配置が共通するほか、中島選手の共通点AないしCと同様の点で具体的な表現が一致する。
ウ 複製及び翻案の成否
(ア) 選手カードにおける表現上の本質的特徴について
 証拠(甲3の1、4、5の1・2、6の1・2、9の1、26の1・2)によれば、選手カードは、選手ガチャ、スカウト(被控訴人ゲームではミッション)、オーダー、強化及び試合の各要素において使用されるものであり、いずれの要素においても、基本的には対象となる選手を特定する機能を有するものである。そして、控訴人ゲーム及び被控訴人ゲームの目的のうち、選手力の強化によるチームの強化によって対戦相手との戦いに勝利するという点からすれば、選手カードの表現は、写真により選手が特定されれば十分であるということになる。しかし、他方で、控訴人ゲーム及び被控訴人ゲームは、選手カードを収集すること自体をも楽しむものでもあり、また、育成的、戦闘的ゲームであることを考慮すると、選手の特色(希少性)及び戦闘性が、どのような態様でカードに表現されているかも、利用者にとって重要な要素となるものといえる。このことは、一般にトレーディングカードにおいては、対象となる人物以外の背景として、多種多様な背景が描かれていることからも明らかである。
 そのような控訴人ゲーム及び被控訴人ゲームにおける選手カードの位置付けに照らすと、選手の力強いプレーの様子を表す選手のポーズと構図は重要な要素であり、また、戦闘性、希少性を表す背景の描き方、配色も、選手カードに接する者の印象を判断する上で重要な要素を占めるものということができる。具体的には、選手のポーズ及び構図においては、選手がプレーの中でとっているどのポーズを採用するか及びカードにおける配置が重要であり、背景としては、選手の動きを表現し、選手の表情を強調するための選手の二重表示の有無及び配置、さらに、選手の強さや戦闘性を強調する構成、配色が重要な要素であり、これらの点を組み合わせた具体的な表現が、選手カードの表現上の本質的特徴を構成するものとみるのが相当である。
 他方、利用者はプロ野球について一定以上の知識を有しているのであるから、写真により選手を特定できればその所属チーム、氏名や背番号などは知っているのが一般的であって、これらの情報がどのようにカードに表示されているかは選手カードの表現上、これに接する者の目を惹く要素とはいえず、表現上の本質的な特徴とはいえないというべきである。
(イ) 4選手カードの複製及び翻案の成否について
a 中島選手のカードについて
 前記イaのとおり、両ゲームの中島選手の選手カードをみると、本体写真のポーズ及び配置、多色刷りで本体写真を拡大した二重表示部分の存在、部位や位置関係、背景の炎及び放射線状の閃光の描き方という具体的な表現が同一であり、これによって中島選手の力強いスイングによる躍動感や迫力が伝わってくるものであって、両選手カードは、表現上の本質的特徴を同一にしているものと認められ、また、その表現上の本質的特徴を同一にしている部分において思想又は感情の創作的表現があるものと認められる。
 これに対し、中島選手の前記相違点のうち、@及びAは前記のとおり表現上の本質的な特徴とはいえないし(Aのチームカラーは氏名の表記下部のごく一部にすぎず、目も惹かない。)、B二重表示の写真の大きさの程度の違いは、いずれもカードのほぼ中央部分に、本体写真よりも大きく拡大された頭部が選手カードの縁まではみ出すように配置され、本体写真の頭部の上方にあり、腰よりも上の上半身のみが本体写真の右上部に配置されるという点では共通していることや、選手カードが表示されるのは主に携帯電話の画面上であることも考慮すると、全体の印象を左右するような大きな違いとはいえない。また、Cの二重写真の色味やD炎の色味の違い及び閃光を強調する楕円形状の有無の違いはあるものの、控訴人ゲームの選手カードの炎も中央部は黄色であり、閃光も一部黄色であり、閃光という表現自体輝く印象を与えるものといえるから、金色を基調とした被控訴人ゲームの選手カードと大きく相違する印象を与えるものとはいえず、また、楕円形状の有無も閃光の明るさの程度の違いを認識させるものにすぎないから、これらの相違点が上記共通点から受ける印象を凌駕するものとはいえない。なお、被控訴人は、閃光(後光)の具体的な本数や密度も違うと主張するが、これらも閃光の明るさの程度の違いを認識させるものにすぎず、視覚的には差異を生じさせるものとはいえない。
 したがって、被控訴人ゲームの中島選手の選手カードは、控訴人ゲームの同選手カードと同一のものとはいえず、別の写真を使用し、全体として金色を基調とした色味に変更することで、新たな表現を加えたものといえるから、複製に当たるものとは認められないものの、控訴人ゲームの同選手カードを翻案したものと認められる。
b ダルビッシュ選手の選手カードについて
 両ゲームのダルビッシュ選手の選手カードについても、前記イbのとおり、本体写真のポーズ及び配置、多色刷りで本体写真を拡大した二重表示部分の存在、部位や位置関係、背景の炎及び放射線状の閃光の描き方という具体的な表現が共通であり、これによってダルビッシュ選手の力強い投球動作による躍動感や迫力が伝わってくるものであって、両選手カードは、表現上の本質的特徴を同一にしているものと認められ、また、その表現上の本質的特徴を同一にしている部分において思想又は感情の創作的表現があるものと認められる。
 これに対し、ダルビッシュ選手についての各相違点が上記共通点から受ける印象を凌駕するものとはいえないことは、中島選手と同様である。
 したがって、被控訴人ゲームのダルビッシュ選手の選手カードは、中島選手についてと同様に、控訴人ゲームのダルビッシュ選手のカードを翻案したものと認められる。
c 坂本選手の選手カードについて
 両ゲームの坂本選手の選手カードについては、前記イcのとおり、本体写真のポーズ及び背景のファイアーモチーフの存在が共通である。しかし、控訴人ゲームの坂本選手の選手カードにおいては、選手の二重表示がないため、躍動感や迫力に乏しく、放射線状の閃光もないこととあいまって、他のカードと比較すると全体的に落ち着いている印象を与える。これに対し、被控訴人ゲームの坂本選手の選手カードにおいては、二重表示及び背景の閃光により、選手写真全体に動きと力強さが与えられており、両者は、その表現上の本質的特徴を異にすると認めるのが相当である。
 したがって、被控訴人ゲームの坂本選手の選手カードは、控訴人ゲームの同選手のカードを複製又は翻案したものとはいえない。
d 今江選手の選手カードについて
 両ゲームの今江選手の選手カードについては、前記イdのとおり、いずれも打席でスイング前の状態を右横から撮ったポーズである点で共通し、多色刷りで大きい二重表示部分の存在や位置関係、背景の炎及び放射線状の閃光の描き方という点で具体的な表現が同一であるものの、控訴人ゲームの同選手のカードでは、同選手がバットを立てて構えており、相手の投手と対峙している一瞬の静的状態をとらえたものであるのに対し、被控訴人ゲームの同選手のカードでは、同選手が既にバットを後ろに引き、相手の投手の投げるボールに合わせてスイングを開始する直前の動的瞬間をとらえたものであるため、両者は、その表現上の本質的特徴を異にすると認めるのが相当である。
 したがって、被控訴人ゲームの今江選手の選手カードは、控訴人ゲームの同選手のカードを複製又は翻案したものとはいえない。
(ウ) 被控訴人の主張について
 これに対し、被控訴人は、@選手ごとのフォームは基本的には同じである上、写真は球団から提供された限られた数の写真から選択するものであり、選手の写真は似たような構図であるから、その選択には創作性が認められないし、両ゲームの選手カードと同様のポーズや構図の選手カードは他に多数存在する、A選手の二重表示は、従来のトレーディングカード等に採用されているありふれたアイデアないし表現にすぎない、Bファイアーモチーフも、従来のトレーディングカード等に採用されているありふれたアイデアないし表現にすぎない、そして、これらの表現を組み合わせたとしても創作性が認められることにはならないと主張する。
a 確かに、控訴人ゲームの選手カードに使用された選手の写真は、球団から提供された複数の写真(ダルビッシュ選手については数百枚であるが、中島選手については3枚。甲47)から選択されたものであるが、その中からどのポーズの写真を選択して、カードのどの部分に配置するかについては表現の選択の余地があるから、一概にありふれた表現であるということはできない。
b また、選手の二重表示については、遅くとも平成15年以降に発行されたカルビーのプロ野球チップスの選手カードなどにおいては、選手の二重表示が用いられており、その配置も控訴人ゲームの選手カードと同様の配置がされているものもあるが(乙3の1ないし9、90)、これらの二重表示は、白黒であったり、控訴人ゲームの選手カードの表示と比較するとかなり色あせた表現となっている。また、ベースボールマガジン社の平成13年ないし平成20年に発行された5種類のプロ野球カード(乙70)においては、カードに表示されている人物等を二重に表示し、背面の画像が前面の画像より拡大され、多色刷りとなっているが、控訴人ゲームの選手カードとは配置が異なる。いずれについても背景にファイアーモチーフは使用されていない。
c さらに、選手の背後のファイアーモチーフ及び閃光については、平成20年ないし平成21年頃の米国のプロレスラーを素材としたトレーディングカードゲーム「SLAM ATTAX」には、プロレス選手の背後に赤色で炎のように見える表現が使用され、かつ、後光が差したような放射線状の閃光が描かれており(乙9、96)、我が国においても、平成12年に発売されたベースボールマガジン社のプロ野球選手カードの「2000年ダイヤモンドヒーローズシリーズ」(乙63の1ないし3、70)、同社の平成15年発行の日本ハムファイターズの選手カードにも(乙70)、その背後にファイアーモチーフを使用したものがある。また、これらの選手カードとは別に、選手を囲むように放射線状の黄色又は白の直線的な線が表現されているカードも存在する(乙70、90)。さらに、一般の画像編集ソフトにおいて、人物と合成する素材として炎や後光のように見える放射線状の背景を製作することは一般的であり、爆発のように見える画像素材も流通していることが認められる(乙78ないし85)。もっとも、ファイアーモチーフといっても、爆発するような表現のもの、メラメラと火炎を上げるもの、背景の全部又は一部に用いるものなど、その具体的な表現や人物画像との組合せ方は様々であり、また、当事者双方から多数のトレーディングカードの例が書証として提出されているが、控訴人ゲームの配信開始前に、炎のように見える表現及びこれに組み合わせて後光のように放射線状の閃光が描かれているトレーディングカードは、上記「SLAM ATTAX」以外にない。なお、控訴人ゲームの選手カードの発売後においても、カードの背後にファイアーモチーフ又は放射線状の閃光を用いたものが存在するが(乙41)、このことをもって、直ちに控訴人ゲームの選手カードの表現がありふれたものであるということはできない。
d 以上によれば、確かに個々の表現自体を分離してみれば、同様の表現を採用したカードが存在し、特に個性的な表現とまではいうことはできないものの、控訴人ゲームの選手カードにおいては、中島選手及びダルビッシュ選手の特定のポーズの本体写真を、カードの中央よりやや左に配置し、頭がカードの上部から略3分の1の位置にあり、足はカードの辺に沿って描かれた枠よりも外側にあり、両足の足首近くの部分から下はカード外となって見えないという位置に配置し、二重表示の背景写真(本体写真以外の部分)として、本体写真の上半身部分を大きく拡大した多色刷りの写真を、カードのほぼ中央部分に、本体写真の背景として、選手カードの縁まではみ出すように配置し、これらの写真の間に横切るように及び全体の背景として、黄色ないし赤色の炎と、放射線状の閃光と組み合わせることにより、選手の躍動感や迫力を表現しており、そこに、控訴人ゲームの選手カードの本質的特徴が認められるのであって、それらを総合した組合せがありふれた表現としてその創作性が否定されるものとはいえない。
 したがって、被控訴人の主張は採用することができない。
エ 依拠性について
(ア) 前提事実によれば、控訴人ゲームは、そのオープンベータ版が平成23年3月30日に公表され、同年4月18日に正式版が発売されたものであり、被控訴人ゲームはその4か月後である同年8月18日に提供・配信が開始されたものである。被控訴人はゲーム製作者であって、他社のゲーム内容については、迅速にその内容を把握するものと推認されること、特に、控訴人ゲームは同年6月には、100万人以上の登録者を得て(甲19)、人気を博し、雑誌での特集も組まれる(甲54、129)などしていたことからすれば、同様の野球を題材としたカードゲームを製作する被控訴人ゲームの製作担当者は、当然控訴人ゲームを利用するなどしてその内容を調査したものと推認される。そして、SNSゲームの制作期間は一般的に長くても3ヶ月程度とされていること(甲60、61)、控訴人ゲームの選手カードのうちダルビッシュ選手のカードを除く3枚(2011年オープニングのカード)は控訴人の特設ウエブサイト上に掲示されていたこと(甲67)、ダルビッシュ選手のカード(2011年シーズン2のカード)についても、ゲームを実際に利用してドリームパックを購入することや、対戦相手のリーダーカードに表示されていることにより接する機会があったこと(弁論の全趣旨)に加え、前記認定したとおりの各選手カードの類似性の程度に照らせば、被控訴人ゲームの中島選手及びダルビッシュ選手の各選手カードは、控訴人ゲームの各選手カードに依拠して制作されたものと認めるのが相当である。
(イ) 被控訴人は、控訴人が著作権侵害を主張しているのは4枚の選手カードだけであり、多数の選手カードを作成する上で4枚だけを依拠して模倣する理由がないと主張する。しかし、被控訴人ゲームの配信当時の選手カードのほとんどについてはどのようなものであったかについて証拠が提出されていないのであるから、他のカードが著作権侵害をしていなかったかどうかは不明であるし、上記のとおり被控訴人の選手カードの製作担当者は控訴人の選手カードを参考にしたと認められる以上、他の選手カードが著作権侵害をしていなかったとしても依拠性が認められない理由とはならない。したがって、被控訴人の主張は理由がない。
オ 過失
 被控訴人ゲームの選手カードは、被控訴人の制作担当者が作成したものであり(乙75)、被控訴人は、控訴人の著作物の著作権を侵害しないように配慮して被控訴人ゲームの選手カードを制作すべき注意義務を負うところ、上記エ(ア)によれば、その注意義務を怠ったものであって、過失が認められる。
カ 4選手カード以外の選手カードについて
 なお、控訴人は、被控訴人ゲームの4選手カード以外の選手カードについても、控訴人ゲームと酷似していると推定されると主張する。しかし、選手カードの類似の有無は、前記判示のとおり、選手のポーズや、具体的に写真の背景がどのようなものとなっているかによって左右されるものであるから、控訴人の主張する事実によって4選手カード以外の選手カードが類似していると推定することはできず、その他これを認めるに足りる証拠はない。したがって、同主張は、採用することができない。
ク まとめ
 以上によれば、被控訴人ゲームの中島選手及びダルビッシュ選手の各選手カード(以下「本件2選手カード」という。)は、控訴人の選手カードの翻案権を侵害したものである。また、被控訴人は、これらの選手カードのデータをインターネットを経由して、利用者の携帯電話に送信し、これに表示させたものであるから、公衆送信権を侵害したものである。
(4) 選手ガチャ及び選手カード以外の被控訴人ゲームの個別表現における著作権侵害及び被控訴人ゲーム全体についての著作権侵害について
ア 選手ガチャ及び選手カード以外の被控訴人ゲームの個別表現における著作権侵害及び被控訴人ゲーム全体についての著作権侵害が認められないことについては、原判決を次のとおり補正するほか、原判決の第4の1(2)イ及びウ、(3)イ及びウ並びに(4)記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
(ア) 原判決82頁7行目の「後記cのとおり」から8行目末尾までを、「後記bのとおり、これらの共通する個々の部分は、アイデアにすぎないか、ありふれた表現にすぎないというべきであるし、共通点を全体のまとまりとしてみても、ありふれた表現の域をでないから、これらの共通点自体が控訴人ゲームの「強化」における具体的表現における表現上の本質的な特徴とはいえないし、仮にアイデア以外の表現部分の組合せに創作性が認められるとしても、後記cのとおり、それ以外の具体的な表現は大きく相違する。」に改める。
(イ) 原判決88頁13行目冒頭から14行目末尾までを、「後記bのとおり、これらの共通する個々の部分は、アイデアにすぎないか、ありふれた表現にすぎないというべきであるし、共通点を全体のまとまりとしてみても、ありふれた表現の域をでないから、これらの共通点自体が控訴人ゲームの「試合」における具体的表現における表現上の本質的な特徴とはいえないし、仮にアイデア以外の表現部分の組合せに創作性が認められるとしても、後記cのとおり、それ以外の具体的な表現は大きく相違する。」に改める。
イ 個別表現についての上記判断に対し、控訴人は、@同判断が具体的表現の本質的な特徴の認定を一切していないことは判決理由の脱漏に当たる、A被控訴人ゲームからなぜ控訴人ゲームにおける表現上の本質的な特徴を直接感得できないかについての特段の理由が論じられていないと主張する。
 しかし、前記アのとおり、控訴人ゲームと被控訴人ゲームの個別表現である「強化」、「試合(リーグ)」については、双方のゲームが共通すると認められる部分は、そもそもアイデア又はありふれた表現として創作性が認められない部分であり、その余の具体的表現においては大きく相違するのであるから、控訴人ゲームの具体的表現における表現上の本質的な特徴部分がどの点にあるかについて確定するまでもなく(控訴人ゲームの個別表現に著作物性があるとしても、アイデアに当たる部分は、具体的表現における表現上の本質的な特徴には当たらないことが明らかであるし、ありふれた部分の創作性の程度は低く、この部分だけが控訴人ゲームの本質的特徴部分を構成するとはいえないことは明らかである。)、被控訴人ゲームから控訴人ゲームの表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえないし、被控訴人ゲームは著作権(複製権又は翻案権)侵害に当たらないということができる。したがって、控訴人の主張は採用することができない。
2 争点(2)(被控訴人ゲームの配信行為は不法行為に該当するか)について(1) 当審も、被控訴人ゲームの配信行為が不法行為に該当するとは認められないと判断する。その理由については、原判決第4の4記載のとおりであるから、これを引用する。
(2) 控訴人は、「ガチャ」、「クエスト」、「デッキ」、「バトル」、「合成」の五つの要素を絶妙なゲームバランスをもって相互に関連づけて組み合わせている点や、野手、投手ともに能力に関連する情報を三つに絞り、情報を付与することとした点に、ゲームシステムとしての特色があり、そのような控訴人ゲームシステムは、法的保護に値すると主張する。
 しかし、控訴人が主張するような各ゲームにアレンジして適用することが可能な「控訴人ゲームシステム」とは、ゲームのルールというアイデアというべきところ、各種知的財産権関係の法律で保護の対象とされていないそのような無形のアイデアが、不法行為上保護すべき法益と認められるためには、単に、そのようなゲームシステムと全く同一のものは従前存在せず、それが控訴人に営業上の利益を生み出しているというのみでは足りず、そのような一般に公開されているゲームシステムのルールないしアイデアを他の同業者が採用して独自にゲームを製作することが禁じられるという規範が、法的規範として肯定できるほどに成熟し、明確となっていることが必要であると解される。しかし、控訴人の主張からは、「膨大な時間と労力をかけて検討を尽くして」という具体的な内容は不明であり、その立証もないし、仮にそのようなものが存在するとしても、控訴人が主張するゲームシステムが、それによって控訴人が利益を得ているということを超えて社会における法的に保護されるべき利益とされるべきような事情は認められず(なお、控訴人ゲームシステム自体、先行する他のゲームシステムにも存する五つの要素について〔乙40〕、各要素の相互の関連付けを新たに構築することによって開発されたというものであるし、控訴人ゲームについて選手の能力の情報を三つに絞ったのは、先行する「プロ野球オーナーズリーグ」も同様である〔乙21〕)、そのような検討により編み出されたゲームとしての工夫が、著作権法や不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律による保護を超えて、不法行為法上の保護法益として認められるだけの特段の事情があるとは認められない。したがって、控訴人の主張自体によっても、控訴人の主張するゲームシステムをもって、一般不法行為法上保護すべき法益と認めることはできない。また、被控訴人に自由競争の範囲を逸脱するような行為があったことを認めるだけの事情も見当たらない。したがって、控訴人の主張は採用することができない。
3 争点(3)(損害額)について
(1) 著作権法114条2項に基づく損害
ア 著作権法114条2項により推定される利益
 被控訴人ゲームの配信開始から選手カードの表現が変更される平成23年8月18日から同月26日までの9日間に、被控訴人ゲームにおけるレアパックの販売により被控訴人が得た利益が1541万5312円であることは争いがない。
 ところで、著作権法114条2項は、著作権を侵害した者が「その侵害の行為により」利益を受けているときは、その利益の額を著作権者が受けた損害の額と推定するものである。レアパックは、開けてみるまでどのカードが入っているか分からないものであり、したがってレアパックの販売とは、本件2選手カード以外のカードの販売にも当たるものであるが、本件では、本件2選手カードの著作権侵害のみが認められるから、上記レアパックの販売利益のうち、本件2選手カードによって得られた利益に相当する額のみが当該著作権侵害の行為により被控訴人が受けている利益に当たるというべきであり、その点の立証責任は控訴人にあるものとして、判断する。
 この点、乙93、99及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人ゲームの配信開始当時、レアパックにより入手できる選手カードは、希少性に応じて、キラ、グレート、スター、スーパースター、レジェンド、レジェンド+に分類される合計996枚であったことが認められる。しかし、@レジェンド及びレジェンド+の存在については、被控訴人のホームページ等では公開されておらず、被控訴人ゲーム上の利用者のサークルトピックス(利用者同士の質問板)の一部の記載でのみ確認できる状態であったから(乙99、弁論の全趣旨)、利用者の大多数が知っていたとは認められず、またこれらのカードが当たる確率も相当低いものと認識されていたと考えられるから、利用者がレジェンド及びレジェンド+を期待してレアパックを購入した可能性は低いというべきこと、Aレアパックを購入する利用者は、グレードのより高いカード(すなわち、スター、スーパースター)の入手を期待しているのが通常であること、Bスターカードは143枚、スーパースターカードは61枚の合計204枚が存在したものであるが(乙93)、これに該当する選手として被控訴人ホームページやプレスリリースにおいて配信時に公開されていたのは各球団1名、合計12名のみで、そのうち2名が中島選手及びダルビッシュ選手であり(甲131、弁論の全趣旨)、ゲームの利用を開始する者は、他の利用者の口コミや、Mobageの新着表示やゲームランキングなどで被控訴人ゲーム名が表示されるのを見て開始することが多いとしても(乙101)、上記のとおりの広報がされていることからすれば、これを見て被控訴人ゲームの内容を確認した利用者も相当程度いると推認されること、C上記2選手は人気の高い選手であり、特にダルビッシュ選手の選手カードについては、利用者が被控訴人ゲームを初めて利用する際のチュートリアル(ゲームの練習)において必ず一度付与され、チュートリアル終了後に保有カードから削除されるものであり(乙99)、利用者がレアパックを購入してスーパースターの選手カードを入手したいという気持ちを誘発するために利用されていること、D前記レアパックの販売利益は、配信開始のごく初期の9日間の売上のみについてのものであること、からすれば、前記レアパックの販売利益のうち少なくとも8%が、本件2選手カードの販売により被控訴人が受けた利益と認めるのが相当である。
 したがって、著作権法114条2項により控訴人が受けた損害の額と推定される額は、123万3225円(1541万5312円×0.08)である。
イ 著作権法114条2項の推定覆滅事由
 本件2選手カードの販売により被控訴人が受けている利益のうち、選手カードの表現(著作権の侵害)以外の事情が寄与したという被控訴人の主張については、上記アにより控訴人の損害と推定される額のうち、被控訴人の著作権侵害がなかったとしても控訴人が控訴人ゲームのレアパック(選手カード)の販売により得たとは認められない額の有無、すなわち、著作権法114条2項の推定を一部又は全部覆滅する事由の有無として、その立証責任は被控訴人にあるものとして判断するのが相当である。
 この点、そもそも被控訴人ゲームの選手カード(レアパック)は、被控訴人ゲームにおいて利用するためにのみ被控訴人ゲームの利用者が購入するものであることからすると、当該ゲームの利用者に対しては、被控訴人の著作権侵害がなかったとしても、控訴人が控訴人ゲームのレアパックを販売することができたとは認められないことになる(なお、被控訴人ゲーム全体の配信行為自体は、著作権侵害又は不法行為には当たらないことは前記判示のとおりである。)。もっとも、被控訴人ゲームと控訴人ゲームはそれぞれ異なるプラットフォームにおいて提供されているものの、いずれも基本料金が無料であって、平成21年の調査によれば、被控訴人ゲームが配信されているプラットフォームである「Mobage」利用者のうち控訴人ゲームが配信されているプラットフォームである「GREE」との重複利用者は平均約47%いた(甲31)ことからすれば、被控訴人ゲームと控訴人ゲームとの選択は比較的自由にされるものである。そして、その選択の際に重視される事情としては、両ゲームのゲームとしての面白さ、評価、プラットフォームである「Mobage」や「GREE」への登録の有無及び評価、各ゲームの配信の順序(ゲームにおいては先行利用者が後行利用者より有利となる。)などが考えられるところ、ゲームの面白さ、評価としては、プロ野球のトレーディングカードゲームとしてルールが同じ場合は、選手カードの種類の豊富さやそのデザイン等が影響を与えるところである。すなわち、被控訴人ゲームの選手カードの背景がシーズン毎に異なるものに更新されていること(甲130)や、一般に収集を目的とするトレーディングカードゲームにおいては、カードの希少性毎にカードの構成や背景に工夫が凝らされていることからすれば、選手カードの表現(デザイン)は、利用者に選手の迫力や戦闘力を伝え、ゲームの魅力を増し、利用者にゲームの利用を選択させる上で一定の寄与があると認められることが考慮されるべきである。他方、上記のとおり両ゲームはそもそも提供されるプラットフォームが異なり、「GREE」を重複利用していない「Mobage」利用者が、選手カードの表現のみを理由として被控訴人ゲームに代えて同ゲームと同様のプロ野球を題材とするトレーディングカードゲームである控訴人ゲームを選択する可能性は低い上、被控訴人が選手カードの表現を変更した平成23年8月26日(同日時点での登録会員数は50万人)以降も、被控訴人ゲームの登録会員数は増加し続けており、配信開始後31日で100万人、平成24年6月14日で340万人に達していること(甲22、44、45)、被控訴人ゲームは、実在のプロ野球という人気の高いコンテンツの選手の実名や写真を使用し、利用者が自分の理想とするメンバーを集めて強いチームを作り上げていくというものであるから、利用者が入手を欲する選手カードは、現実に人気があるプロ野球選手や好きな球団の選手、又はゲーム上の能力が高く設定されている選手として決まっていることがほとんどであり(甲56)、また、現実に有体物としてのカードが入手できるものでもないから、当該選手が選手カード上においてどのように表現されているかという点が利用者のゲームの選択の有無に影響する程度は低い。これらを総合すると、被控訴人ゲームと控訴人ゲームとの選択に際し、選手カードの表現以外の要素が寄与している割合、すなわち、被控訴人の著作権侵害がなかったとしても、控訴人が控訴人ゲームのレアパックを販売することができたとは認められない割合は、少なくとも90%であると認めるのが相当である。
 なお、被控訴人は、被控訴人ゲームの選手カードによる売上への寄与を否定する事情として、被控訴人ゲームの開発に多額の費用を投じたこと、被控訴人の運営ノウハウ等があること、そもそも控訴人ゲームのカード表現の創作性が極めて低いことを挙げる。しかし、野球のトレーディングカードの構図及び背景は様々であり、過去に販売された多数のトレーディングカードの中でも控訴人ゲームの選手カードの構図及び背景の組合せと同じものはなく、控訴人ゲームのカード表現の創作性が極めて低いとはいえない。また、被控訴人ゲームの開発に要した費用(製造原価)については被控訴人は具体的な金額を主張立証していないし、証拠(乙95、102)によっても被控訴人のデータや運営ノウハウが具体的に配信開始当初の9日間の売上にどのように寄与したかは不明であるから、これらについては考慮しない。
 したがって、上記のとおり、少なくとも90%の限度で著作権法114条2項の推定は覆滅されるというべきであるから、本件2選手カードの著作権侵害により控訴人が被った損害は、12万3322円(123万3225円×10%)となる。
(2) 弁護士費用相当額
 控訴人は、著作権を侵害する不法行為により本件訴訟を提起することを余儀なくされたものと認められ、本件事案の内容、審理の経過、認容額その他本件における諸般の事情を総合勘案すると、上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は20万円と認めるのが相当である。
(3) 損害額の合計
 以上によれば、控訴人の損害は合計32万3322円と認められ、被控訴人は同金額及びこれに対する遅延損害金として、うち12万3322円については平成23年9月21日から、うち20万円については平成24年2月21日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払うべき義務を負う。
第5 結論
 以上によれば、原判決のうち、被控訴人ゲームにおける中島選手及びダルビッシュ選手の各選手カードが控訴人ゲームにおけるそれらの選手カードの翻案権及び公衆送信権を侵害したことを理由とする損害賠償請求を棄却した部分は相当でなく、その余の請求を棄却した部分は相当であるから、原判決を上記限度で変更することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 設楽驤
 裁判官 大寄麻代
 裁判官 岡田慎吾


(別紙)
選手ガチャ
 (控訴人ゲーム) (被控訴人ゲーム)1〜8<画像省略>
選手カード
1 中島裕之選手   (控訴人ゲーム) (被控訴人ゲーム)<画像省略>
2 ダルビッシュ有選手(控訴人ゲーム) (被控訴人ゲーム)<画像省略>
3 坂本勇人選手   (控訴人ゲーム) (被控訴人ゲーム)<画像省略>
4 今江敏晃選手   (控訴人ゲーム) (被控訴人ゲーム)<画像省略>
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/