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【事件名】AOLへの発信者情報開示請求事件
【年月日】平成27年5月15日
 東京地裁 平成27年(ワ)第1107号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 平成27年3月6日)

判決
原告 株式会社アクトコミュニケーション
同訴訟代理人弁護士 園部洋士
同 千賀守人
同 伊藤周作
同 関矢聡史
被告 AOLオンライン・ ジャパン株式会社
同訴訟代理人弁護士 森山義子
同 山郷琢也


主文
1 被告は、原告に対し、別紙記事目録記載の投稿記事に係る、別紙発信者情報目録記載1の情報及び同目録記載2の情報のうち「発信者の住所」を開示せよ。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、別紙記事目録記載の投稿記事に係る別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
第2 事案の概要等
1 本件は、別紙記事目録に記載のURLのウェブサイト上に掲載された記事(以下「本件記事」という。)に、原告のロゴマーク(以下「原告ロゴマーク」という。)及び原告の社内風景等を撮影した複数の写真(以下、複数の写真をまとめて「本件写真」といい、原告ロゴマークと本件写真を合わせて「本件写真等」という。)が掲載されたことにより、原告の著作権が侵害されたとして、本件記事の投稿者(以下「本件発信者」という。)に対する損害賠償請求権の行使のため、本件発信者に係る情報の開示を受ける正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下、単に「法」という。)4条1項に基づき、被告に対し、別紙発信者情報目録記載の発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提となる事実(争いのない事実以外は、証拠等を末尾に記載する。)
(1) 当事者
ア 原告は、インターネット上における商業デザイン・工業デザインの企画、制作、販売、インターネットのホームページデザインのシステム設計及び計画等を主な目的として営業する株式会社である。
イ 被告は、コンピューター・ソフトウェアの開発、製作、販売及び保守管理等のサービスの提供、電気通信事業法に基づく第二種電気通信事業並びに付加価値情報通信網及び有償提供、インターネット接続業等を主な目的として営業する株式会社であり、無償でインターネットメールを開設・運営するサービスを行っている。
(2) 本件発信者の情報等
ア 本件記事は、LINE株式会社(以下「LINE社」という。)が開設・運営するlivedoorブログに開設された「爆サイ中傷被害者の会(仮」との表題のウェブログ(以下「本件ブログ」という)に掲載された記事である(甲2)。
イ 原告は、LINE社に対し、LINE社が開設・管理するlivedoorブログ上に、本件発信者が本件ブログを開設した時の電子メールアドレスの開示を求めて東京地方裁判所に訴えを提起し(同裁判所平成26年(ワ)第13916号)、同裁判所は、平成26年7月23日、上記電子メールアドレスについて、原告のLINE社に対する開示請求を認める旨の判決をした。
 LINE社は、上記判決を受け、原告に対し、同月30日付け通知書により、本件発信者の電子メールアドレスが「<以下略>」(以下「本件メールアドレス」という。)であることを開示した(甲3(乙2の4と同じ)、4(乙2の5と同じ))。
ウ 原告は、本件メールアドレスのドメイン名登録情報から、被告が本件メールアドレスを管理していることを特定し、被告に対し、平成26年8月28日、発信者情報開示請求を行った(甲5の1及び2、乙2の1ないし5)。
エ 被告は、本件発信者に対し、平成26年10月15日付け「発信者情報開示に係る意見照会書」と題する書面にて、法4条2項に基づき、上記ウの原告から被告に対する開示請求に被告が応じることについての意見を照会したが、本件発信者からは何の回答もなかった(乙3、弁論の全趣旨)。
3 争点
(1) 被告が法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当するか(争点1)
(2) 権利侵害の明白性の有無(争点2)
(3) 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無(争点3)
第3 争点に対する当事者の主張
1 争点1(被告が法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当するか)について
(原告の主張)
(1) 「特定電気通信」該当性
 本件ブログは、インターネットを通じて不特定の誰もが閲覧できるものであるから、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」といえ、法2条1号の「特定電気通信」に該当する。
(2) 「特定電気通信設備」該当性
 本件発信者は、LINE社にブログを投稿する際の電子メールアドレスとして被告管理の電子メールアドレスを登録しており、本件発信者は被告を経由プロバイダとして本件ブログを投稿していると推認される。そして、本件ブログが経由したリモートホストや電気通信設備一式は「特定電気通信の用に供される電気通信設備」であるから、法2条2号の「特定電気通信設備」に該当する。
(3) 「特定電気通信役務提供者」該当性
 被告は、上記(2)の特定電気通信設備を用いて、本件ブログの投稿や閲覧を媒介し、又は、特定電気通信設備をこれら他人の通信の用に供する者であり、法2条3号の「特定電気通信役務提供者」に該当する。
(4) 「開示関係役務提供者」該当性
 以上(1)ないし(3)からすると、被告は、法4条1項の「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」(開示関係役務提供者)に該当する。
(被告の主張)
 電子メール等の1対1の通信は、「特定電気通信」には含まれないから、被告が、「開示関係役務提供者」に該当する余地はない。
2 争点2(権利侵害の明白性の有無)について
(原告の主張)
(1) 本件写真は、原告が株式会社求人おきなわ(以下「求人おきなわ」という。)を通じて求人募集を行う際に、原告代表者が原告従業員に指示して職務上作成させたものであり、原告ロゴマークも原告の指示により作成したもので、原告ロゴマークも原告の指示により作成したもので、本件写真等の著作権はいずれも原告に帰属している(著作権法15条1項)。また、本件写真等の著作権は、社外的にも原告に留保されており、求人おきなわの運営するウェブサイト上の求人広告(以下「本件求人広告」という。)においても、本件写真等を含む本件求人広告の転載は一切許可していない。
(2) 本件求人広告は、平成25年1月ころから、原告や求人おきなわに無断で、本件ブログ上に本件記事として投稿されていた。
(3) 以上より、本件発信者が本件ブログに本件記事を掲載する行為により、原告の著作権が侵害されていることは明白であって、法4条1項1号の権利侵害の「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」に該当する。
(被告の主張)
 争う。
3 争点3(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について
(原告の主張)
 原告は、本件発信者に対して著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)を行うため、被告に対し、本件発信者の氏名または名称、住所等の開示を求めるものであるから、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
(被告の主張)
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(被告が法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当するか)について
(1) 被告は、電子メール等の1対1の通信は、「特定電気通信」に含まれないから、法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たらない旨主張する。
 しかし、電子掲示板等に係る特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録するための当該特定電気通信設備を管理運営するコンテンツプロバイダと本件発信者との間の1対1の通信を媒介する、いわゆる経由プロバイダ(以下、単に「経由プロバイダ」という。)であっても、法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当するものと解される(最高裁平成21年(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁参照)。
(2) 本件についてみると、前記前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件発信者による本件ブログの開設や本件記事の投稿に係る経由プロバイダであると認められる。
 したがって、被告は、法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当する。
2 争点2(権利侵害の明白性の有無)について
(1) 証拠(甲6、7)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真は、原告が、平成25年1月ころ、新規従業員を募集するに当たり、求人おきなわの運営するウェブサイト上における求人広告を依頼した際、当該求人広告に原告の社内風景等の写真を掲載することになったため、原告従業員が社内風景等を撮影したものであり、原告の特徴や企業としてPRしたいところを表現しようとしたものであって、撮影者である原告従業員の個性が表出されていること、また、原告の発意に基づき、原告名義で公表するため製作されたものであることが認められる。したがって、本件写真は、いずれも原告の職務著作(著作権法15条1項)と認められる。
(2) 前記前提となる事実及び証拠(甲2、7)によれば、本件記事に掲載された写真は、本件写真をそのまま転載したものであることが認められる。
 したがって、本件記事上に本件写真を掲載されたことにより、少なくとも本件写真に係る原告の著作権(複製権、公衆送信権)が侵害されたことは明らかというべきである。
3 争点3(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について
 原告は、本件発信者に対し、著作権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権を行使する意向を示しているところ、上記損害賠償請求権の行使のためには、被告の保有する別紙「発信者情報目録」記載1の情報及び同目録記載2の情報のうち「発信者の住所」について、それぞれ開示を受けることが必要と認められるが、同目録記載2の情報のうち「発信者の郵便番号」については、被告の開示を受けることが必要とは認められない(原告は、「発信者の住所」の開示を受けることができれば、極めて容易に「発信者の郵便番号」を調査することができるはずである。)。
4 結論
 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は主文第1項掲記の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条ただし書を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 嶋末和秀
 裁判官 鈴木千帆
 裁判官 本井修平


(別紙)記事目録
 URL:<以下略>

(別紙)発信者情報目録<以下略>のメールアドレスを保有する発信者の次の情報
1 発信者の氏名又は名称
2 発信者の郵便番号及び住所
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