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【事件名】JASRAC「包括利用許諾契約」事件(3)
【年月日】平成27年4月28日
 最高裁(三小) 平成26年(行ヒ)第75号 審決取消等請求事件
 (一審・公正取引委員会平成21年(判)第17号、二審・東京高裁平成24年(行ケ)第8号)

判決


主文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。

理由
 上告参加代理人田中豊ほかの上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について
1 本件は、音楽著作物の著作権(以下「音楽著作権」という。)を有する者から委託を受けて音楽著作物の利用許諾等の音楽著作権の管理を行う事業者(以下、その管理を内容とする事業を「音楽著作権管理事業」といい、これを行う事業者を「管理事業者」という。)である上告参加人(以下「参加人」という。)が音楽著作物の放送への利用の許諾につきその使用料の徴収方法を定めて利用者らとの契約を締結しこれに基づくその徴収をする行為について、当該行為が上記の利用許諾に係る他の管理事業者の事業活動を排除するものとして私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成25年法律第100号による改正前のもの。以下「独占禁止法」という。)2条5項所定のいわゆる排除型私的独占に該当し同法3条に違反することを理由として平成21年2月27日付けで排除措置命令がされたところ、これを不服とする審判の請求を経て、上告人により参加人の当該行為は同項所定の排除型私的独占に該当しないとして同24年6月12日付けで上記命令を取り消す旨の審決がされたため、他の管理事業者である被上告人が、上告人を相手に、上記審決の取消し等を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
(1) 参加人は、昭和14年に設立されて著作権に関する仲介業務に関する法律(平成12年法律第131号による廃止前のもの)2条に基づく内務大臣の許可を受け、我が国における唯一の管理事業者として音楽著作権管理事業を営んできたところ、平成13年10月に著作権等管理事業法が施行されて以降は、同法3条に基づく文化庁長官の登録を受けたものとみなされ(同法附則3条1項)、管理委託契約約款及び使用料規程を文化庁長官に届け出て音楽著作権管理事業を継続している。
 音楽著作権管理事業は、管理事業者が、著作者や音楽著作権を有する音楽出版社等(以下「著作者等」という。)との間で管理委託契約(著作権等管理事業法2条1項)を締結して音楽著作権の管理の委託を受けるとともに、その管理に係る音楽著作物(以下「管理楽曲」という。)につきその利用を希望する者との間で利用許諾契約を締結してその利用を許諾し、その契約に定められた使用料を徴収して著作者等に分配することを内容として行われるものである(同条2項参照)。そして、音楽著作権管理事業に係る市場は管理委託に関するものと利用許諾に関するものとに大別されるところ、後者の市場における上記のような管理楽曲の利用には、放送事業者(平成22年法律第65号による改正前の放送法2条3号の2に規定する放送事業者及び平成22年法律第65号による廃止前の電気通信役務利用放送法2条3項に規定する電気通信役務利用放送事業者のうち平成23年総務省令第62号による廃止前の電気通信役務利用放送法施行規則2条1号に規定する衛星役務利用放送を行う者をいう。以下同じ。)による管理楽曲の放送(放送のための複製等を含む。)への利用(以下「放送利用」という。)が含まれる(以下、後者の市場のうち、放送事業者による管理楽曲の放送利用に係る利用許諾に関するものを「本件市場」という。)。
(2) 放送事業者によるテレビやラジオの放送では膨大な数の楽曲が日常的に利用されることから、放送事業者と参加人との間では、参加人の管理楽曲の全てについてその利用を包括的に許諾する利用許諾契約が締結されているところ、このような包括的な許諾(以下「包括許諾」という。)による利用許諾契約において定められる放送利用に係る使用料(以下「放送使用料」という。)の徴収方法としては、一般に、1曲1回ごとの料金として定められる金額(以下「単位使用料」という。)に管理楽曲の利用数を乗じて得られる金額による放送使用料の徴収(以下「個別徴収」という。)と、単位使用料の定めによることなく包括的に定められる金額(例えば年間の定額又は定率による金額など)による放送使用料の徴収(以下「包括徴収」という。)がある。
 参加人の使用料規程(平成19年7月6日届出のもの)においては、放送使用料の徴収方法につき、年間の包括許諾による利用許諾契約が締結される場合とそれ以外の場合とに分けて定められ、前者の場合には包括徴収によることとされ(なお、放送大学学園については別途協議するものとされている。)、後者の場合には個別徴収によることとされている。そして、上記の使用料規程において定められている包括徴収の具体的内容は、@B及び地上波放送を行う一般の放送事業者については、当該年度の前年度における放送事業収入に所定の率を乗じて得られる金額を当該年度の放送使用料とし、A衛星放送を行う一般の放送事業者については、当該年度の前年度における衛星放送の当該チャンネルの放送事業収入(その算定ができない場合は、その全てのチャンネルの放送事業収入)に所定の率を乗じて得られる金額(これが所定の金額を下回るときは、その所定の金額)を当該年度の放送使用料とするというものである(以下、上記@及びAのような年度ごとの放送事業収入に所定の率を乗じて得られる金額又は所定の金額による放送使用料の徴収を「本件包括徴収」という。)。これに対し、上記の使用料規程において定められている個別徴収の具体的内容は、1曲1回ごとの単位使用料を6万4000円(全国放送における利用時間5分ごとの金額)とするというものであり、放送事業者における年間の管理楽曲の利用数を上記の単位使用料に乗ずるとその年間の放送使用料の総額が本件包括徴収による場合に比して著しく多額になるため、ほとんど全ての放送事業者は、参加人との間で年間の包括許諾及び本件包括徴収による利用許諾契約を締結している(以下、参加人がほとんど全ての放送事業者との間で本件包括徴収による利用許諾契約を締結しこれに基づく放送使用料の徴収をする行為を「本件行為」という。)。
(3) 平成13年10月の著作権等管理事業法の施行による音楽著作権管理事業の許可制から登録制への移行に伴い、被上告人を含む4社が同法3条に基づく文化庁長官の登録を受け、インタラクティブ配信(インターネット等を用いた楽曲の公衆送信をいい、そのための複製を含む。以下同じ。)やコンパクトディスク、ビデオグラム等の録音への利用につき音楽著作権管理事業を開始したが、上記の許可制から登録制への移行後も、参加人が大部分の音楽著作権について管理の委託を受けている状況は継続している。また、本件市場において放送使用料の収入を得て事業を行っていた管理事業者は、被上告人が後記(4)のとおり平成18年10月に本件市場に参入するまでは、参加人のみであった。
(4) 被上告人は、平成14年4月からインタラクティブ配信等への利用につき音楽著作権管理事業を営んでいたところ、BやCとの間で、被上告人の管理楽曲の放送利用についてその許諾方法を包括許諾とし放送使用料の徴収方法を個別徴収とする旨をそれぞれ合意し、同18年10月1日から放送利用に係る利用許諾の業務を開始した。その開始に先立ち、被上告人は、同年9月末頃、音楽コンテンツの制作等に伴い音楽著作権を保有しているD及びその子会社(以下「Dグループ」という。)との間で音楽著作権の管理委託契約を締結した。
 しかし、上記管理委託契約により被上告人が管理の委託を受けた60曲の楽曲の中には放送利用の需要が見込まれる著名な歌手の楽曲も含まれていたにもかかわらず、首都圏のFMラジオ局を含む相当数の放送事業者が被上告人の管理楽曲の利用を回避し又は回避しようとするなど、上記の委託に係る楽曲の放送利用の利用実績が上がらなかったため、Dグループは、平成18年12月、被上告人との上記管理委託契約を解約した。
 その後、被上告人の管理楽曲の数は、平成19年3月末時点の184曲から同20年3月末時点の1566曲へと増加しているものの、被上告人がその管理楽曲の放送利用をした放送事業者から徴収した放送使用料の額は、同18年において6万6567円、同19年において7万5640円にとどまっている。
(5) 上告人は、平成21年2月27日、参加人の本件行為につき、本件市場における他の管理事業者の事業活動を排除するものとして独占禁止法2条5項所定の排除型私的独占に該当し同法3条に違反するとして、参加人に対し、同法7条1項に基づき、放送事業者から徴収する放送使用料の算定において当該放送事業者が放送番組に利用した音楽著作物の総数に占める参加人の管理楽曲の割合(以下「放送利用割合」という。)が当該放送使用料に反映されない方法を採用することにより当該放送事業者が他の管理事業者にも放送使用料を支払う場合にはその負担に係る放送使用料の総額がその分だけ増加することとなるようにしている行為を取りやめるべきことなどを命ずる旨の排除措置命令(以下「本件排除措置命令」という。)をした。
 本件排除措置命令を不服として参加人が独占禁止法49条6項に基づき審判を請求したところ、上告人は、平成24年6月12日、参加人の本件行為につき、本件市場における他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有するものではなく、同法2条5項所定の排除型私的独占に該当するとはいえないとして、同法66条3項に基づき、本件排除措置命令を取り消す旨の審決(以下「本件審決」という。)をした。
3(1) 本件行為が独占禁止法2条5項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当するか否かは、本件行為につき、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり、他の管理事業者の本件市場への参入を著しく困難にするなどの効果を有するものといえるか否かによって決すべきものである(最高裁平成21年(行ヒ)第348号同22年12月17日第二小法廷判決・民集64巻8号2067頁参照)。そして、本件行為が上記の効果を有するものといえるか否かについては、本件市場を含む音楽著作権管理事業に係る市場の状況、参加人及び他の管理事業者の上記市場における地位及び競争条件の差異、放送利用における音楽著作物の特性、本件行為の態様や継続期間等の諸要素を総合的に考慮して判断されるべきものと解される。
(2)ア 前記の事実関係等によれば、参加人は、著作権等管理事業法の施行による音楽著作権管理事業の許可制から登録制への移行の時点で既にその管理委託及び利用許諾の各市場において事実上の独占状態にあったものである。そして、音楽著作権の管理においては、一般に管理楽曲に係る利用許諾や不正利用の監視、使用料の徴収や分配等を行うために多額の費用を要することなどから、他の管理事業者による上記各市場への参入は相応の困難を伴うものであり、上記の許可制から登録制への移行後も、参加人が大部分の音楽著作権につき管理の委託を受けている状況は継続していたものである。このことに加え、放送利用においては膨大な数の楽曲が日常的に利用されるものであることから、本件市場では、放送事業者にとって、上記のように大部分の音楽著作権につき管理の委託を受けている参加人との間で包括許諾による利用許諾契約を締結することなく他の管理事業者との間でのみ利用許諾契約を締結することはおよそ想定し難い状況にあったものといえる。
 また、本件市場に新規に参入する他の管理事業者は自らの管理楽曲の個性を活かして供給の差別化を図るなどの方法によって既存の管理事業者と競争することとなるところ、放送事業者による放送番組に利用する楽曲の選択においては、当該放送番組の目的や内容等の諸条件との関係で特定の楽曲の利用が必要とされる例外的な場合を除き、上記の諸条件を勘案して当該放送番組に適する複数の楽曲の中から選択されるのが通常であるということができ、このような意味において、楽曲は放送利用において基本的に代替的な性格を有するものといえる。
イ 前記2(2)のとおり、本件行為は、参加人がほとんど全ての放送事業者との間で年度ごとの放送事業収入に所定の率を乗じて得られる金額又は所定の金額を放送使用料とする本件包括徴収による利用許諾契約を締結しこれに基づく放送使用料の徴収をするというものであるところ、このような内容の利用許諾契約が締結されることにより、放送使用料の金額の算定に管理楽曲の放送利用割合が反映される余地はなくなるため、放送事業者において、他の管理事業者の管理楽曲を有料で利用する場合には、本件包括徴収による利用許諾契約に基づき参加人に対して支払う放送使用料とは別に追加の放送使用料の負担が生ずることとなり、利用した楽曲全体につき支払うべき放送使用料の総額が増加することとなる。
 そうすると、上記アのとおり、放送事業者にとって参加人との間で包括許諾による利用許諾契約を締結しないことがおよそ想定し難いことに加え、楽曲が放送利用において基本的に代替的な性格を有するものであることにも照らせば、放送事業者としては、当該放送番組に適する複数の楽曲の中に参加人の管理楽曲が含まれていれば、経済合理性の観点から上記のような放送使用料の追加負担が生じない参加人の管理楽曲を選択することとなるものということができ、これにより放送事業者による他の管理事業者の管理楽曲の利用は抑制されるものということができる。そして、参加人は、上記のとおりほとんど全ての放送事業者との間で本件包括徴収による利用許諾契約を締結しているのであるから、本件行為により他の管理事業者の管理楽曲の利用が抑制される範囲はほとんど全ての放送事業者に及ぶこととなり、その継続期間も、著作権等管理事業法の施行から本件排除措置命令がされるまで7年余に及んでいる。このように本件行為が他の管理事業者の管理楽曲の利用を抑制するものであることは、前記2(4)のとおり、相当数の放送事業者において被上告人の管理楽曲の利用を回避し又は回避しようとする行動が見られ、被上告人が放送事業者から徴収した放送使用料の金額も僅少なものにとどまっていることなどからもうかがわれるものということができる。
(3) 以上によれば、参加人の本件行為は、本件市場において、音楽著作権管理事業の許可制から登録制への移行後も大部分の音楽著作権につき管理の委託を受けている参加人との間で包括許諾による利用許諾契約を締結しないことが放送事業者にとっておよそ想定し難い状況の下で、参加人の管理楽曲の利用許諾に係る放送使用料についてその金額の算定に放送利用割合が反映されない徴収方法を採ることにより、放送事業者が他の管理事業者に放送使用料を支払うとその負担すべき放送使用料の総額が増加するため、楽曲の放送利用における基本的に代替的な性格もあいまって、放送事業者による他の管理事業者の管理楽曲の利用を抑制するものであり、その抑制の範囲がほとんど全ての放送事業者に及び、その継続期間も相当の長期間にわたるものであることなどに照らせば、他の管理事業者の本件市場への参入を著しく困難にする効果を有するものというべきである。
4 したがって、本件行為が上記の効果を有するものであるとした原審の判断は、以上と同旨をいうものとして是認することができる。論旨は採用することができない。
 なお、前記2の事実関係等や前記3(2)の諸事情などに鑑みると、大部分の音楽著作権につき管理の委託を受けている参加人との間で包括許諾による利用許諾契約を締結しないことが放送事業者にとっておよそ想定し難い状況の下で、参加人は、前記2(2)のとおり、その使用料規程において、放送事業者の参加人との利用許諾契約の締結において個別徴収が選択される場合にはその年間の放送使用料の総額が包括徴収による場合に比して著しく多額となるような高額の単位使用料を定め、これによりほとんど全ての放送事業者が包括徴収による利用許諾契約の締結を余儀なくされて徴収方法の選択を事実上制限される状況を生じさせるとともに、その包括徴収の内容につき、放送使用料の金額の算定に管理楽曲の放送利用割合が反映されない本件包括徴収とするものと定めることによって、前記3(2)イのとおり、放送使用料の追加負担によって放送事業者による他の管理事業者の管理楽曲の利用を相当の長期間にわたり継続的に抑制したものといえる。このような放送使用料及びその徴収方法の定めの内容並びにこれらによって上記の選択の制限や利用の抑制が惹起される仕組みの在り方等に照らせば、参加人の本件行為は、別異に解すべき特段の事情のない限り、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものと解するのが相当である。したがって、本件審決の取消し後の審判においては、独占禁止法2条5項にいう「他の事業者の事業活動を排除」することという要件の該当性につき上記特段の事情の有無を検討の上、上記要件の該当性が認められる場合には、本件行為が同項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものに該当するか否かなど、同項の他の要件の該当性が審理の対象になるものと解される。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第三小法廷
 裁判長裁判官 岡部喜代子
 裁判官 大谷剛彦
 裁判官 大橋正春
 裁判官 木内道祥
 裁判官 山崎敏充
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