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【事件名】著作権法論文の同一表現事件
【年月日】平成27年3月27日
 東京地裁 平成26年(ワ)第7527号 著作権確認等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成27年3月6日)

判決
 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり


主文
1 被告A及び被告Bは、原告に対し、連帯して22万円及びうち11万円に対する平成24年3月31日から、うち11万円に対する同年5月31日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告学会は、別紙ウェブサイト目録記載2のウェブサイトから別紙論文目録記載3の論文を削除せよ。
3 原告の被告A、被告B及び被告学会に対するその余の請求並びに被告学園に対する請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、原告に生じた費用の40分の1と被告A及び被告Bに生じた費用の15分の1を同被告らの連帯負担とし、原告に生じた費用の7分の1と被告学会に生じた費用の8分の3を同被告の負担とし、その余を全部原告の負担とする。
5 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告A、被告B及び被告学園は、原告に対し、連帯して330万円及びうち220万円に対する平成24年3月31日から、うち110万円に対する同年5月31日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告A及び被告学園は、原告に対し、連帯して220万円及びうち110万円に対する平成23年3月31日から、うち55万円に対する平成24年3月31日から、うち55万円に対する同年5月31日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告A及び被告Bは、別紙謝罪広告目録〈略〉記載第2の要領をもって、同目録記載第1の謝罪広告を各1回掲載せよ。
4 被告学会は、別紙ウェブサイト目録〈略〉記載の各ウェブサイトから別紙論文目録記載3の論文及びその著作者名の表示を削除せよ。
5 被告学会と原告との間で、原告が別紙論文目録記載1の論文の著作権を有することを確認する。
第2 事案の概要
1 本件は、別紙論文目録記載1の論文(以下「原告論文」という。)の著作者である原告が、被告Bが単独又は被告Aと共同で執筆した別紙論文目録記載2ないし4の各論文及び訴外Cが執筆した論文(以下「C論文」という。)の中にそれぞれ原告論文の記述とほぼ同一の記述があることを前提に、これらが原告論文に係る原告の著作権(複製権又は翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害する不法行為であり、また、学術論文を他人に盗用・剽窃されない利益を侵害する一般不法行為(民法709条)を構成し、被告Aが勤める大学院を運営する被告学園は被告Aの各不法行為について使用者責任(同法715条1項)を負うと主張して、被告B及び被告Aに対しては、別紙論文目録記載2ないし4の各論文による著作権侵害及び著作者人格権侵害の共同不法行為に基づき、被告学園に対しては、その使用者責任に基づき、慰謝料及び弁護士費用として330万円及びこれに対する各不法行為の日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め〔請求の趣旨1項〕、また、被告Aに対しては、別紙論文目録記載2及び3の各論文による学術論文を盗用・剽窃されない利益の侵害に係る一般不法行為並びにC論文による著作権侵害及び著作者人格権侵害に係るCとの共同不法行為に基づき、被告学園に対しては、その使用者責任に基づき、慰謝料及び弁護士費用として220万円及び各不法行為の日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め〔請求の趣旨2項〕、さらに、被告B及び被告Aに対して、著作者人格権侵害に基づく名誉回復措置請求(著作権法115条)として謝罪広告の掲載を求め〔請求の趣旨3項〕、このほか、被告学会に対しては、同被告の運営するウェブサイト上での別紙論文目録記載3の論文及びその著作者名の掲載が原告論文に係る公衆送信権及び氏名表示権を侵害すると主張して、著作権法112条1項に基づき同ウェブサイト上からの論文及び著作者名表示の削除を求める〔請求の趣旨4項〕とともに、原告論文の著作権についての被告学会への譲渡契約を同被告の債務不履行に基づき解除したと主張して、これを争う被告学会との間で、原告が原告論文の著作権を有することの確認を求める〔請求の趣旨5項〕事案である。
2 前提事実(証拠等〈略〉を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は、**大学**学科において教授の職にある者であり、専門分野は知的財産法(特に著作権法)の研究である。
イ 被告A(以下、被告Aと被告Bを併せて「被告Aら」ということがある。)は、**大学大学院(以下「本件大学院」という。)**研究科において教授の職にある者であり、現在の研究分野は、情報技術(IT)分野における技術標準化と知的財産の関係に関する研究である。
 被告Aは、同研究科において、C及び被告Bの指導教授であった。
ウ 被告Bは、本件大学院**研究科の専門職学位課程を平成24年3月に修了して、専門職学位を取得した者である。同研究科在学中、被告Bは、被告Aを指導教授として研究を行っていた。
エ 被告学園は、専門職大学院である本件大学院を設置・運営する学校法人である。
オ 被告学会は、情報処理関連技術の研究・調査及び研究・調査に関する成果発表などの事業を行う一般社団法人である。
(2) 原告論文
ア 原告論文は、平成19年9月に被告学会の研究報告として初めて公表され(当時の表題は「IPマルチキャスト放送をめぐる著作権法上の問題」。)、その後、公益社団法人電気通信普及財団発行の研究調査報告書第22号(同年12月発行)に掲載されたほか、同財団のウェブサイト上でも公開されている(表題は「通信と放送の融合に伴う著作権問題の研究」)。
 原告論文の中には、別紙著作物対照表の「原告論文」欄記載の二つの記述(以下、「表現1」欄の記述を「原告表現1」、「表現2」欄の記述を「原告表現2」といい、これらを併せて「原告各表現」という。)がある。
イ 原告は、原告論文を被告学会の研究報告として公表するに先立ち、平成19年8月22日付け著作権譲渡契約書を作成し、被告学会の著作権規程(以下「本件著作権規程」という。)第2条1項に基づいて、原告論文の著作権を被告学会に譲渡した(以下「本件著作権譲渡契約」という。)。
 なお、本件著作権規程第2条1項は、「本学会に投稿される論文等に関する国内外の一切の著作権(日本国著作権法第21条から第28条までに規定するすべての権利を含む。以下同じ。)は本学会に最終原稿が投稿された時点から原則として本学会に帰属する。」と定めている。
ウ 原告は、被告Aらの論文等により原告論文の著作権が侵害されていると考え、被告学会に対し、平成24年4月24付け書面で、本件著作権規程の前文及び第7条1項に基づく被告学会の義務の履行を催告し、その後平成25年8月6日付け文書により、被告学会の同義務に係る債務不履行を理由として本件著作権譲渡契約を解除する旨の意思表示をした。
 本件訴訟において、原告は、上記解除を前提に、原告論文の著作権が原告に帰属すると主張し、一方、被告学会は、債務不履行が存在しないとして同解除の有効性を争い、同著作権が被告学会に帰属すると主張している。
(3) C論文
 Cは、平成23年3月、本件大学院**研究科の専門職学位課程を修了し、専門職学位を取得した。Cは、遅くとも同月までに、同課程において、必修科目の単位認定のために、「通信と放送の融合に向けた知的財産および関係法整備の研究」と題する特別研究論文(C論文)を執筆した。C論文は、被告Aが主査となって審査された。
(4) 被告B及び被告Aの論文
ア 被告Bは、遅くとも平成24年3月までに、本件大学院**研究科の専門職学位課程の必修科目の単位認定のために、別紙論文目録記載4の特別研究論文(以下「被告B論文」という。)を執筆した。被告B論文は、被告Aが主査となって審査された。
 被告B論文には、別紙著作物対照表の「被告ら共著論文」・「表現2」欄の記述(以下「被告表現2」という。)と同じ記述が含まれている。
 なお、被告B論文は、本件大学院に提出されたものであるが、その後、公表はされていない。
イ 被告A及び被告Bは、別紙論文目録記載2の研究報告(以下「被告ら共著論文1」という。)を共著として執筆し、平成24年3月発行の「信学技報」(一般社団法人電子情報通信学会発行)に掲載する方法で公表した。
 被告ら共著論文1には、別紙著作物対照表のとおり、被告表現2に当たる記述が含まれている。
ウ 被告A及び被告Bは、別紙論文目録記載3の研究報告(以下「被告ら共著論文2」という。また、被告ら共著論文1及び2を併せて「被告ら各共著論文」ということがあり、被告B論文及び被告ら各共著論文を併せて「被告ら論文」ということがある。)を共著として執筆した。被告ら共著論文2は、平成24年5月発行の「信学技報」に掲載されて公表された。
 被告ら共著論文2には、別紙著作物対照表の「被告ら共著論文」・「表現1」欄の記述(以下、同記述を「被告表現1」といい、被告表現1及び2を併せて「被告各表現」という。)が含まれている。
 また、被告学会が運営する「電子図書館」のウェブサイト上では、別紙ウェブサイト目録記載1のウェブサイトに、被告ら共著論文2の「著作者」として、被告A及び被告Bの氏名(英字表記を含む。)が表示されており、同目録記載2のウェブサイトに、被告ら共著論文2の本文が掲載されている。
3 争点
(1) 本件著作権譲渡契約の解除の可否
(2) 被告ら論文につき
ア 複製権又は翻案権の侵害の成否
イ 同一性保持権侵害の成否
ウ 氏名表示権侵害の成否
エ 被告Bの損害賠償義務の有無及びその額
オ 被告Aの損害賠償義務の有無及びその額
カ 被告ら共著論文2に係る削除請求の可否
キ 謝罪広告の要否
(3) C論文による著作権及び著作者人格権の侵害に基づく被告Aの損害賠償義務の有無及びその額
(4) 学術論文を盗用・剽窃されない利益の侵害に係る一般不法行為の成否
(5) 被告学園の使用者責任の有無
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(本件著作権譲渡契約の解除の可否)について
〔原告の主張〕
(1) 原告論文の著作権は、本件著作権譲渡契約により原告から被告学会に移転したが、被告学会の以下の債務不履行により本件著作権譲渡契約を解除したため、原告がその著作権を有している。
 被告学会は、本件著作権規程の前文及び第7条1項に基づき、原告論文の著作権について第三者による侵害があった場合には、著作者である原告と協議の上、原告が損害を被らないよう対処する義務、具体的には、当該第三者と協議を行う義務及び同協議により侵害状態が解消されない場合には当該第三者に対して訴訟を提起するなどして法的に侵害状態を解消する義務を負っていた。
 それにもかかわらず、被告学会は、被告Aに対し、適切な対処をしなかった。すなわち、被告学会は、平成24年7月において、被告ら各共著論文が原告の著作権を侵害するものであると認めたにもかかわらず、被告ら共著論文2の掲載部分に「Retracted」(撤回)との透かしを入れる対応を検討するというのみで、被告学会や被告Aによる撤回理由及び謝罪文の掲載については一貫して消極的な姿勢を示していた。そこで、原告は、このような被告学会の対応では著作権侵害に対する是正措置として不適切・不十分であると判断し、本件著作権譲渡契約を解除して、原告自ら被告Aらに対して権利侵害の是正を求めていくことにしたものである。
 被告学会は、平成25年8月6日までの時点で、被告Aらの行為について特に問題として取り上げるつもりがない旨回答したから、被告学会が上記義務を履行していなかったのは明らかである。
(2) なお、本件著作権規程第2条1項は、被告学会に投稿された論文の著作者から著作権を強制的に奪う内容となっているから、かかる規程が有効であるとされるためには、被告学会が上記義務を負っていると解さなければ、論文の著作者が十分保護されない結果となり、著しく不合理である。また、被告学会が被告Aらに対して何ら法的手段をとらない姿勢を示している以上、本件著作権譲渡契約を解除して、原告が自ら権利行使することを認める必要がある。
〔被告らの主張〕
(1) 原告が債務不履行を理由に本件著作権譲渡契約を解除する旨の意思表示をしたことは認めるが、被告学会には何ら債務不履行がないから、原告による解除は無効である。
 よって、原告論文の著作権は、被告学会に帰属する。
(2) そもそも被告学会は、原告に対して、著作権侵害があった場合に原告が損害を被らないよう対処するとの法的義務を負っていない。被告学会は、本件著作権規程前文にあるように、投稿者、他の会員及び社会全体の期待に応えるために本件著作権規程を設け、著作物の管理を行う立場にある。もちろん著作者に対してもできる限り不便がないように「配慮する」ものとはされているが、被告学会は上記の公的な利益を担う立場にあることから、一方的に投稿者(著作者)の損害防止に関して法的な責任を負担し、行動すべき立場にはない。
 本件著作権譲渡契約においては、被告学会が法的手段をとらない場合に譲渡契約を解除できるなどとの規定は存在しないし、被告学会は、著作権を保有して自らの事業を行い、その判断で著作権の管理を行っているのであるから、被告学会が原告の意向に従って訴訟提起しなければならない理由はない。なお、交渉段階でも指摘したとおり、原告は、著作権の再譲渡を受けなくても、著作者として著作者人格権に基づく権利行使が可能である。
(3) 原告論文の著作権侵害問題の発覚後、被告学会は、直ちに事態の確認を行い、平成24年7月頃には、侵害者とされた被告Aから、必要な是正措置(具体的には、被告学会誌への謝罪広告の掲載、被告学会が運営する電子図書館掲載の論文の取下げ、原告論文が掲載された配布済みCD−ROMの再製作・回収)を同被告において履行することにつき全面的な了解を得た上で、本件著作権規程第7条に基づき、原告と協議すべく、上記是正措置の履行を打診した。このように平成24年7月には、原告、被告Aら及び被告学会の間で、必要な是正措置を行う方向で話が進んでいたにもかかわらず、平成25年2月頃、原告が被告B論文の開示を強く求めたことから原告と被告Aらとの間の交渉が決裂し、その後原告が被告学会に対して原告論文の著作権の再譲渡を要請するようになったが、被告学会は、再譲渡を行わないとの結論を伝えた。この交渉過程で、原告から被告B論文の開示についても対応するよう求められた際、被告学会は、同論文が公開を予定したものでないことなどから特段の対応をしないと回答したことはあるものの、被告Aらの行為全般について問題として取り上げるつもりがないと回答した事実はない。
 以上のとおり、被告学会は、平成24年7月頃までには必要な対応を終えており、早期に是正を実行したいという立場にあったが、原告と被告Aらとの間で合意が成立せず、その後原告からも是正の実行についての留保を求められたために、現在まで是正措置を履行することができなかったにすぎない。
 よって、被告学会の対応が不十分であったとはいえない。
2 争点(2)ア(複製権又は翻案権の侵害の成否)について
〔原告の主張〕
(1) 原告論文は、原告が独自に調査、考察した結果を踏まえて、通信と放送の融合の進展に伴って新たに生まれた放送形態であるIPマルチキャスト放送に焦点を合わせ、著作権法上の扱いをめぐる問題や平成18年著作権法改正後の課題について検討した研究論文であるところ、同論文は、思想を創作的に表現したものであって、学術の範囲に属するものであるから、「言語の著作物」に該当する。
 原告論文の中の原告各表現は、原告論文の重要な部分であり、原告自らの調査・研究成果そのものを表現した箇所であるから、いずれも創作性を有する。
 そして、別紙著作物対照表のとおり、被告各表現が原告各表現とほぼ同一であることは一見して明白であり、誤字まで同一であることからして、被告Aらが原告論文に依拠したことも明らかである。
 よって、被告各表現は、原告各表現の表現上の本質的な特徴を直接感得させるものといえる。
 なお、被告B論文の内容は不明であるが、その表題が被告ら共著論文1と同一であり、執筆時期もそれと同時期であることから、被告B論文でも、被告ら共著論文1と同一の表現が用いられていることが強く疑われる。
 以上によれば、被告Bが被告B論文を執筆し、被告A及び被告Bが被告ら各共著論文を執筆したことは、原告論文に係る複製権又は翻案権を侵害する。
(2) 被告らの主張に対する反論
ア 創作性につき
 被告らは、原告表現1が、平成18年8月に情報通信審議会が総務省に答申した「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割 補完措置に係る同意条件に関する基本的な考え方(素案)」(以下「丁1文献」という。)と同じ内容のものであるから創作性がないと主張する。
 しかし、原告表現1は、9頁にわたる丁1文献の内容から、原告なりに取捨選択をし、重要箇所をまとめて、重要な部分が浮かび上がるように創意工夫を施して、要約したものである。原告は、丁1文献のエッセンスを抽出し、これを「再送信同意の基本原則」、「具体的な技術要件」、「再送信同意の手続き」の3部に分けて簡潔に要約したのであり、そこには表現の選択、順序、運びにおいて原告の個性が発揮されているのであるから、創作性がないとするのは誤りである。
 また、原告表現2は、2003年改正後の英国著作権法6条の内容を前提に、各種調査・検討の結果、我が国のコンテンツ伝送経路の多様化に対応した包括的規定の導入を検討する際に、英国著作権法における「放送」に関する規定が参考になると判断し、原告独自の表現で記述したものである。この点、原告表現2の中の「有線番組サービス」といった用語は、英国著作権法6条には一切登場しないものであるから、原告表現2が同条から当然に導かれる内容であるなどといえないことは明らかである。このように、原告表現2は、単に英国著作権法の条文を紹介したものではなく、英国の現地調査を行った原告が、自己の問題意識に沿う形で、英国著作権法における解釈を分かりやすく分析したものであり、原告の個性が発揮された表現である。
 なお、原告表現1及び2は、「事実」、すなわち著作権法が保護の対象としない、人間の思想、感情といった主観的要素を含まない客観的な存在として社会的に取り扱われるものには該当しない。
イ 引用につき
 被告らは、被告ら共著論文1の中の被告表現2についてのみ引用の抗弁を主張しているところ、被告表現2のうち104頁の記述については、引用箇所を特定する注釈すらなく、105頁の記述についても、本文中に注釈「5」を表すかのような記載があるものの、同頁の脚注には「55」しかないから、これをもって出所を明示したものとはいうことができない。また、論文の末尾に引用した文献を掲載するのみでは、被引用文献との結びつきが明らかでなく、明瞭区別性の要件を満たさないから、「引用」が成立する余地はない。
〔被告らの主張〕
(1) 被告ら論文の記述について
 被告ら各共著論文に、別紙著作物対照表の被告表現1及び2の各記述があることは認める。また、被告B論文に、別紙著作物対照表の被告表現2と同じ記述があることは認める。
(2) 原告各表現の創作性につき
 原告表現1は、既存の著作物である丁1文献に同一表現があり、その丁1文献の各部分の冒頭ないしその関連部分を数行にわたって書き抜く方法により要約されたものであるが、このような要約は誰がしても同じ要約になることが一般的であるため、そこに原告の個性は発揮されていない。よって、原告表現1は、原告が思想又は感情を創作的に表現したものとは到底いえず、創作性がない。
 また、原告表現2は、法令ないし法令によって当然に導かれる事項を内容とするものであって、被告表現2が原告表現2と同一性を有する部分は、2003年に改正された英国著作権法6条の内容を紹介し、あるいは同条から当然に導かれる事項を説明しているにすぎない。しかも、原告表現2は、「有線番組サービス」の用語以外に原告独自の表現であると特定できる部分は存在せず、このようなワンフレーズのみによって著作物となり得る創作性が認められることはあり得ない。よって、原告表現2も原告の思想又は感情を創作的に表現したものとはいえず、創作性が認められない。
 なお、原告各表現はいずれも客観的な事実を素材とするものであり、何ら著作者の思想又は感情が表現されていないから、この点でも、創作性が認められない。
(3) 引用の抗弁(被告表現2につき)
 被告ら共著論文1においては、脚注を用いて筆者名及び題号を記載した上で、さらに末尾では筆者名、発表年、題号及び引用した文章の所在を示すURLを記載しており、公正な慣行に合致する引用を行っている。なお、被告ら共著論文1の105頁の脚注「55」が「5」の誤記であることは誰の目にも明らかである。
 また、本件は、原告論文の全体(本文が11380文字)の複製ではなく、原告表現1(422文字)及び原告表現2(271文字)の部分的な複製が問題となっているにすぎず、原告表現1及び2を合わせても、原告論文全体のわずか6%を占めるにすぎない。さらに、被告ら共著論文1の105頁では、原告論文の引用部分にカギ括弧を用いて、明瞭に区別して認識できるようにしている。
 よって、被告表現2は適法な引用であり、著作権侵害は成立しない。
3 争点(2)イ(同一性保持権侵害の成否)について
〔原告の主張〕
(1) 被告ら各共著論文は、以下のとおり原告論文の内容を改変するものであり、被告B論文も同様であるから、これによって原告論文に係る同一性保持権が侵害された。
(2) 被告ら論文は、原告表現1又は2のデッドコピー(複製)を含むものであるところ、被告ら論文における原告表現1又は2以外の部分では、被告Aらの執筆により、原告の意に反して原告論文の内容が「変更」されている。そうすると、全体としてみれば、原告の意に反する改変行為に当たるということができるから、被告ら論文は、原告論文についての同一性保持権を侵害する。
(3) また、被告ら共著論文2においては、原告表現1における「総務省の情報通信審議会は、IPマルチキャスト放送事業者が放送事業者に対して地上デジタル放送の再送信同意を求めた場合の、同意条件に関する基本的な考え方を示している」との重要な一文を安易に切除してしまったことにより、地上デジタル放送における再送信同意の条件という限定された文脈ではなく、単に放送事業者の再送信許諾条件としての記述になってしまっている。
 したがって、被告ら共著論文2において、原告表現1の上記重要部分を「切除」した上で、残りの部分をデッドコピーしたことにより、全く誤った文脈で原告表現1が引用される結果となっており、明らかに原告の同一性保持権を侵害する。
〔被告らの主張〕
(1) 被告ら論文は、原告論文とは別の表現を用いて構成されているから完全に別個独立の表現物であって、同一性保持権侵害が問題となる余地がない。
 原告は、原告表現1及び2以外の部分が改変されたと主張するが、被告ら論文と原告論文は、大多数で全く異なる表現が用いられており、一致する箇所はごく僅かであって、原告表現1及び2以外の部分については、一致するどころかその痕跡すら全くないのであるから、同一性保持権が対象とする「改変」の範疇を完全に逸脱している。
(2) また、被告ら共著論文2において原告表現1の重要部分が切除されたと主張する点についても、「切除」したとされる1文は、表現において共通する部分とは別個の箇所の記述であるから、被告表現1に当該1文に該当する記述がないからといって、被告Aらが原告表現1の一部を「切除」したとは評価できない。
 よって、「切除」したとされる1文は原告の主張とは無関係であり、その「切除」に基づく原告表現1の同一性保持権侵害も成立し得ない。
4 争点(2)ウ(氏名表示権侵害の成否)について
〔原告の主張〕
 被告Aらが執筆・公表した被告ら各共著論文には、別紙著作物対照表のとおり、原告論文における表現の一部が含まれているにもかかわらず、原告の氏名が表示されておらず、被告B論文においても、同様に、原告の氏名が表示されていないことが強く疑われる。
 被告ら論文は、いずれも被告Aらのみをその著作者名として表示しており、原告を「著作者名として表示」していないのであるから、原告の氏名表示権を侵害するものであることが明らかである。
 なお、原告各表現に創作性が認められることは、前記2〔原告の主張〕のとおりである。
〔被告らの主張〕
 原告各表現には創作性がせず、被告ら論文の中には原告の氏名表示権の対象となるべき表現が存在しないから、氏名表示権侵害に関する原告の主張は失当である。
 また、被告ら共著論文1においては、脚注を用いて、又は文末に、原告の氏名を表示しているから、氏名表示権の侵害はない。
 被告ら論文の著作者は、原告ではなく、被告Aらであるから、そこに原告を著作者名として表示するなどとすれば、事実に反することになってしまう。氏名表示権は、厳格な形式で著作者として表記されることまで要求しておらず、脚注又は文末における表示で十分である。
5 争点(2)エ(被告Bの損害賠償義務の有無及びその額)について
〔原告の主張〕
(1) 被告Bは、被告B論文及び被告ら各共著論文における著作権侵害及び著作者人格権侵害の不法行為に基づいて、損害賠償義務を負う。
(2) 慰謝料
 原告論文の一部が無断で被告ら論文として掲載されたことにより、原告は、多大な精神的苦痛を被った。
 本件は、知的財産法(著作権法)を専門とする大学教授及び同法を専門に研究する大学院生が3回にわたって共同で他人の学術論文を盗用して著作権・著作者人格権を侵害した悪質で違法性の高い事案である。また、被告B論文は、公表されていないものの、本件大学院の特別研究論文として執筆され、弁理士試験の一部免除が認められるという特別な役割を有しており、一般の修士論文と比較してより公的な役割が認められているのであるから、特別研究論文で他人の著作権・著作者人格権を侵害する点で、違法性が極めて高い。
 このような違法性の高さに鑑みて、原告の精神的損害を金銭に換算すると、被告ら共著論文1の執筆・公表につき100万円(うち著作権侵害による損害が50万円、著作者人格権侵害による損害が50万円。)、被告ら共著論文2の執筆・公表につき100万円(内訳は同上。)、被告B論文の執筆につき100万円(内訳は同上。)となり、その合計は300万円を下らない。
(3) 弁護士費用
 原告は、原告訴訟代理人に対し本件訴訟の遂行を委任したところ、上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、少なくとも30万円を下らない。
(4) 遅延損害金の起算点
 被告B論文及び被告ら共著論文1は遅くとも平成24年3月31日に、被告ら共著論文2は遅くとも同年5月31日にそれぞれ執筆・公表されたから、前二者に係る慰謝料及び弁護士費用220万円については、同年3月31日を、後者に係る慰謝料及び弁護士費用110万円については同年5月31日を、それぞれ遅延損害金の起算点とする。
〔被告Aら及び被告学園の主張〕
 原告の主張は、否認ないし争う。
 なお、本件大学院においては、特別研究論文を外部に開示することは基本的に予定していない。弁理士試験の一部免除を希望する者は、特許庁内の工業所有権審議会に申請して免除資格認定を受ける必要があるが、その際、専門職大学院は、論文そのものを提出することはなく、論文の内容を1000字程度にまとめた学位論文概要証明書を作成するだけである。
6 争点(2)オ(被告Aの損害賠償義務の有無及びその額)について
〔原告の主張〕
 被告ら論文に関し、被告Aは、被告Bが被告B論文を執筆するのを指導し、また、被告Bと共同で被告ら各共著論文を執筆・公表したのであるから、被告Bとの共同不法行為(民法719条1項)に基づいて、被告Bと同じ損害賠償義務を負う。
 なお、被告Bが執筆した特別研究論文は、本件大学院の専門職学位課程の必修科目であり、その単位の履修が修了要件となる「特別研究」の単位認定のために執筆が求められているものであるから、被告Aは、本件大学院の教員として、「特別研究」の科目において、被告Bに対し、論文の執筆を通して指導を行う職務を担っていたといえる。
〔被告A及び被告学園の主張〕
 被告B論文は、専門職大学院の修了要件である単位の修得のための授業科目である「特別研究」において課された特別研究論文であり、これは、学生が取り組む特定の課題研究に対して、教員が成績評価をするための手段の一つとして論文を作成させているものであって、いわゆる「修士論文」とは異なるものである。
 このような特別研究論文である被告B論文の執筆に当たっては、教官である被告Aが、必要な範囲で助言をすることは予定されているが、あくまで論文は、単位認定のための評価の対象となるものであって、その内容の全てを教官が指導して作成されたと評価し得るものではない。
 特に被告Aは技術等の標準化に関する研究者であるから、被告Bが被告Aから指導を受けたのも、技術等の標準化に関するものであった。
7 争点(2)カ(被告ら共著論文2に係る削除請求の可否)について
〔原告の主張〕
 被告学会が運営するウェブサイト上の「電子図書館」には、現在も、原告の著作権及び著作者人格権を侵害する被告ら共著論文2が、被告A及び被告Bの名義で掲載されたままである。かかる被告学会の行為は、原告の公衆送信権及び氏名表示権を侵害する。
 よって、原告は、被告学会に対し、著作権法112条1項に基づき、別紙ウェブサイト目録記載1のウェブサイトから被告ら共著論文2の著作者名の表示(「著者名」及び「著者名(英)」の各記載)を、同目録記載2のウェブサイトから被告ら共著論文2の本文を、それぞれ削除することを求める。
〔被告学会の主張〕
 被告学会が運営するウェブサイト上の「電子図書館」に被告ら共著論文2が現在も掲載されていることは認めるが、その余は否認ないし争う。
8 争点(2)キ(謝罪広告の要否)について
〔原告の主張〕
 著作者人格権を侵害された著作者は、著作者であることを確保するため、又は、著作者の名誉若しくは声望を回復するために、適当な措置を求めることができる(著作権法115条)。原告は、被告A及び被告Bの行為により同一性保持権及び氏名表示権を侵害されたから、両被告に対し、別紙謝罪広告目録記載第2の要領で、同目録記載第1の謝罪広告を各1回掲載することを求める。
〔被告Aらの主張〕
 否認ないし争う。
9 争点(3)(C論文による著作権及び著作者人格権の侵害に基づく被告Aの損害賠償義務の有無及びその額)について
〔原告の主張〕
(1) Cは、被告B論文が執筆・提出された前年である平成22年度において、被告Aの研究室に所属する修士課程の学生であったが、特別研究論文であるC論文を執筆し、これによって、平成23年3月に本件大学院の専門職学位課程を修了した。
 C論文と被告B論文は、通信の融合及びそれに関する法の在り方をテーマにしているという点、及び、いずれも被告Aの指導の下で執筆されたという点で共通しているから、C論文においても、原告各表現が用いられており、それが原告の著作権(複製権又は翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害していることが強く推認される。
(2) 本件大学院の教員は、特別研究の科目において、学生に対し、論文の執筆を通して指導を行う職務を担っているところ、C論文は、被告Aの指導の下で、特別研究論文として執筆されたものであるから、C論文による著作権侵害及び著作者人格権侵害について、被告Aは、Cとともに共同不法行為責任を負う(民法719条)。
(3) C論文の執筆によって原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は、100万円(著作権侵害による損害が50万円、著作者人格権侵害による損害が50万円。)を下らない。また、これについての弁護士費用は、少なくとも10万円を下らない。
〔被告A及び被告学園の主張〕
(1) Cが特別研究論文としてC論文を執筆し、専門職学位課程を修了したことは認める。
 しかし、C論文と被告B論文は内容において大きく異なっており、C論文は、被告各表現と同じ記述を含んでいない。
 なお、そもそも原告論文に係る著作権・著作者人格権の侵害についての原告の主張に理由がないことは、前記2ないし4の〔被告らの主張〕と同様である。
(2) 被告Aが職務としてC論文を評価、採点したことは認める。
 しかし、C論文の執筆者ではなく指導教授にすぎない被告Aにおいて、C論文の全ての表現について、既存のあらゆる著作物における創作的表現を複製していないことまで確認することは、およそ不可能である。ましてや原告論文自体が広く知られているわけでもなく、原告各表現はその原告論文のごく一部にすぎないから、被告AがC論文を指導する際に原告各表現が複製されているか否かを確認するなど、あまりに非現実的にすぎる。
 したがって、C論文の内容のいかんにかかわらず、被告Aに過失を観念することは不可能であり、被告Aは、この意味においても、Cの行為について共同して責任を負うことはない。
10 争点(4)(学術論文を盗用・剽窃されない利益の侵害に係る一般不法行為の成否)について
〔原告の主張〕
(1) 研究者が研究を行い、その成果を学術論文としてまとめ、広く第三者に公表することは、憲法23条が保障する学問の自由の根幹をなす権利である。そして、学術論文は、それを執筆した研究者の能力や専門性を客観的に示すものであることから、研究者は、自身が執筆した学術論文の内容をもって、第三者によりその能力、専門性ないし業績を評価されるという関係にある。さらに、学術論文を執筆するためには多大な時間と労力を費やす必要があるほか、必要な調査・研究を進めるに当たっては、出張費や取材費の支出が不可欠である。
 このような学術研究における実態に鑑みれば、研究者自身が多大な時間、労力及び費用をかけて調査・研究の成果をまとめ、第三者による業績等の評価対象となる学術論文を完成させた場合、その内容の全部又は一部を他人に盗用・剽窃されないことは、法的に保護された利益であるといわなければならず、かかる利益は、著作権法によっては必ずしも保護されないことから、一般不法行為による保護を与えるのが相当である。
 本件においては、別紙著作物対照表から明らかなように、被告各表現は、いわゆるデッドコピーといえる程度にまで、原告各表現に酷似している。
 被告Aは、被告ら各共著論文において、自らは何らの調査・研究を行うことなく、原告各表現を盗用・剽窃し、原告の業績等にいわばフリーライドしたものである。これにより、被告Aは、「通信と放送の融合」に係る著作権問題の原告の研究を妨害するとともに、同分野における専門家の一人としての地位を不当に得ようとしたのである。
 よって、被告Aの行為は、原告の上記法的に保護された利益を侵害するものにほかならない。
 また、原告各表現と被告各表現が酷似していることからすれば、原告各表現の盗用・剽窃につき、被告Aにおいて故意又は過失が認められることは明らかである。
 よって、被告Aによる被告ら各共著論文の執筆・公表は、法的に保護された原告の利益を侵害するものとして、民法709条の一般不法行為に該当する。
(2) 原告論文の一部が無断で被告ら各共著論文として掲載されたことにより、原告は、多大な精神的苦痛を被った。特に、被告Aは知的財産権の研究者であるにもかかわらず、極めて安直に原告各表現のデッドコピーというべき被告各表現を学術論文に用いて、原告の業績等にフリーライドした点で、その違法性は極めて高い。これに鑑みると、原告が被った精神的損害は、金銭に換算して、被告ら共著論文1につき50万円、被告ら共著論文2につき50万円、合計100万円を下らない。
 また、この不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、少なくとも10万円を下らない。
〔被告A及び被告学園の主張〕
 原告の主張は、否認ないし争う。
 本件は、原告論文の全体的な複製ではなく、原告論文(本文が11380文字。)のうちの原告表現1(422文字)及び原告表現2(271文字)というわずかな部分の複製が問題となっている事案である。そして、原告各表現の内容は過去の丁1文献や制度を踏襲するものにとどまっており、原告が請求の基礎として主張する調査・研究活動内容に基づくものではない。このため、原告表現は、量的にも質的にも法的保護に値する程度の利益を有するものではなく、かかる僅かな部分について共通するにとどまる被告ら各共著論文(なお、原告表現2については適切な引用もされている。)を発行したからといって、原告の研究が妨害されることはないし、被告Aにおいてある分野における専門家としての地位を不当に得ることにもならない。
11 争点(5)(被告学園の使用者責任の有無)について
〔原告の主張〕
(1) 大学の主な事業は、@学術研究、A学生への教授・指導の2点であり、被告Aは、被告学園に雇用されている専任教授として、@Aの業務をその職務として行っている。
 そして、被告Aは、被告Bが本件大学院在学中に、被告B論文の執筆を指導するとともに、被告Bと共同で被告ら共著論文1を執筆・公表し、被告Bの本件大学院修了後に、被告Bと共同で被告ら共著論文2を執筆・公表したのであるから、上記Aとして被告B論文の執筆を指導し、上記@Aとして、被告ら共著論文1を執筆・公表し、上記@として、被告ら共著論文2を執筆・公表したということができる。
 なお、 本件大学院の特別研究論文は、「特別研究」という必修科目の単位認定のために執筆が求められているものであり、本件大学院の教員は、特別研究の科目において、学生に対し、論文の執筆を通して指導を行う職務を担っている。被告Aは、かかる必修科目の履践として、C及び被告Bに対する論文の執筆指導を行ったのであるから、かかる執筆指導が被告学園の事業の執行として行われたものであることは明らかである。
 よって、被告Aのこれらの行為は、被告学園の事業の執行について行われたものであるから、被告学園は、被告Aの不法行為について使用者責任(民法715条1項本文)を負う。
(2) また、被告Aが被告ら各共著論文を執筆・公表して、原告の学術論文を盗用・剽窃されない利益を侵害したことは一般不法行為に当たるところ、これも被告学園の事業の執行について行われたものであるから、被告学園は、被告Aの上記一般不法行為について、使用者責任を負う。
〔被告学園の主張〕
 大学の主な事業が学術研究と学生への教授・指導の2点であり、被告Aが被告学園に雇用されている専任教授として、これらの業務をその職務として行ったことは認めるが、その余の主張は否認ないし争う。
 被告B論文及びC論文は、専門職大学院の修了要件である単位の修得のための授業科目である「特別研究」において課された特別研究論文であり、これは、学生が取り組む特定の課題研究に対して、教員が成績評価をするための手段の一つとして論文を作成させているものである。この特別研究論文の執筆に当たっては、教官が必要な範囲で助言をすることが予定されているが、あくまで論文は、単位認定のための評価の対象となるものであるから、その内容の全てを教官が指導して作成されたと評価し得るものではない。
 また、被告ら各共著論文は、本件大学院の研究・教育課程で発表されたものではないのであるから、被告Aは、本件大学院の職務として被告ら各共著論文を執筆したものではない。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件著作権譲渡契約の解除の可否)について
(1) 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告が被告学会に対して、本件著作権譲渡契約の解除の意思表示をするに至った事情について、以下の事実が認められる。
 すなわち、原告は、平成24年6月、被告Aらに対し、被告ら各共著論文による原告論文についての著作権の侵害を主張して、電子情報通信学会誌上での謝罪文の掲載、論文採録取消しの手続及び慰謝料の支払を求め、被告Aらがこれらの要求を承諾したこと、被告学会では、原告からの申出に基づき、同年7月、被告ら各共著論文による著作権侵害を認定し、その後、被告Aと協議して、論文取下げや謝罪文の掲載についての意思を確認した上、是正措置を進める準備をしていたこと、その頃、原告は、被告学園との間で被告B論文の開示を求める交渉をし、同年8月には被告Aに対して、被告B論文の開示とそれについての本件大学院での処分を求める意向を示し、また、同年12月には被告Aに対して、C論文についても開示を求める意向を示したことから、原告と被告Aとの間の交渉が決裂したこと、平成25年2月から同年4月の間に、原告が被告学会に対して、被告Aとの交渉が決裂したため被告Aらに対する法的措置を講じるとして原告論文の著作権の再譲渡を求めたところ、被告学会が、このような場合に著作権を再譲渡すべき旨の規定が存在しないことや原告による著作者人格権に基づく法的措置が可能であることから著作権の再譲渡を認める必要がないとの見解を示し、これに対して、原告が、再譲渡がされない場合は本件著作権譲渡契約を解除する意向があることを伝えたこと、同年5月以降、双方の代理人間で協議が行われ、その際、被告学会は、被告Aに対して謝罪文の掲載及び論文取下げ等の是正の意思があることを改めて確認した上、この是正措置を進めることの可否を原告に問い合わせるとともに、被告B論文については被告学会として独自の対応を行わない旨を原告に伝えたこと、これに対して、原告は、同年8月6日付けで、被告学会に対し、是正措置を進めないことを求めるとともに、被告B論文について問題として取り上げないとの被告学会の対応が本件著作権規程の前文及び第7条に違反するとして、債務不履行に基づき本件著作権譲渡契約を解除するとの意思表示をしたことが、それぞれ認められる。
(2) 本件著作権譲渡契約の解除の理由について、原告は、被告学会が本件著作権規程の前文及び第7条1項に基づき、原告論文の著作権に対する第三者による侵害があった場合には、原告と協議の上、原告が損害を被らないように対処する義務を負っているにもかかわらず、この義務の履行を怠ったことが被告学会の債務不履行であると主張する。
 この点、本件著作権規程は、その前文で「この規程ではかかる著作物の著作権を情報処理学会に譲渡してもらうことを原則とするものの、それによって著者ができるだけ不便を被らないよう配慮する。」、第7条1項で「本学会が著作権を有する論文等に対して第三者による著作権侵害(あるいは侵害の疑い)があった場合、本学会と著作者が対応について協議し、解決を図るものとする。」とそれぞれ規定している。これらの規定によれば、被告学会は、譲渡を受けた著作権が第三者により侵害された場合又はその疑いがある場合に、著作者と協議し、その解決を図るべきことが定められていると認められるが、その協議の内容や解決の方法は何ら具体的に定められていないことからすれば、これらの規定に基づいて、被告学会が著作者に対して、当該第三者に対して訴訟を提起するなどして侵害状態を解消すべき義務や、著作者自身による訴訟提起を可能にするために著作権を再譲渡すべき義務を負っているとまでは認めることができない。
 そして、前記(1)のとおり、被告学会は、被告ら各共著論文による原告論文に係る著作権侵害を認定した後、被告Aに対して是正の意思を確認し、原告との間でも対応を協議し、原告と被告Aとの合意に基づいて是正措置を進める準備をしていたと認められるから、被告学会としては、著作者である原告に配慮し、原告と協議して、問題の解決に向けた相応の努力をしていたものと認められる。
 そうすると、被告学会が、本件著作権規程に基づく上記義務を果たしていなかったとはいえず、また、本件全証拠を精査しても、被告学会が本件著作権規程に基づく原告に対する義務を履行しなかったと認めるべき事情を認めるに足りる証拠はない。
(3) この点に関して原告は、被告学会が本件著作権規程に基づいて、第三者との協議により侵害状態が解消されない場合には、当該第三者に対して訴訟を提起するなどして法的に侵害状態を解消する義務を負っていたと主張する。
 しかし、被告学会が、本件著作権規程に基づいて、著作者のために被疑侵害者に対して訴訟を提起するまでの義務を負っていたと認められないことは、上記のとおりである。また、被告学会が原告に回答したとおり、原告は、原告論文の著作者として著作者人格権を有し、その権利の侵害に対する救済を求めることができるのであるから、これとは別に、被告学会が原告に代わって、原告論文に係る著作権を行使すべき義務を負うものとは解されない。なお、原告は、被告学会との交渉の中で、被告Aらの行為について、著作者人格権侵害のほかに、著作権(著作財産権)侵害を問題とすることで、原告が被った損害の填補を受ける必要があると主張しており、本件訴訟においても、被告学会が法的手段をとらないために原告が自ら権利行使する必要があると主張しているが、原告論文の著作権が本件著作権譲渡契約に基づいて原告から被告学会に移転している以上、仮に被告ら論文による著作権侵害が成立したとしても、その損害は、原告ではなく、被告学会に生じているというべきであり、したがって、原告の権利が侵害され、原告がその損害の填補を受ける必要があるとの原告の上記主張は、その前提において失当といわざるを得ない(本件著作権規程においては、被告学会が第三者に対して著作物の利用許諾をすることができ、その対価も被告学会が収受できるとされており(第4条)、著作者は、あくまで本件著作権規程に定められた範囲で自ら著作物を利用することができるにすぎない(第5条)とされていることから、被告学会に投稿された著作物に係る著作財産権は、その著作者が自ら当該著作物を利用することを除いては、実質的にも被告学会に帰属しているといえる。)。
 また、原告は、被告学会が予定していた論文撤回措置の内容が不十分であり、被告学会が撤回理由及び謝罪文の掲載に消極的な姿勢であったと主張する。
 しかし、本件著作権規程は、被疑侵害論文についてどのような撤回措置を取るべきかを何ら具体的に規定していないから、被告学会が原告の望む内容の措置をとらなかったとしても、それが直ちに債務不履行に当たるということはできない。また、被告学会が、被告Aと協議し、論文取下げや謝罪文の掲載の意思を確認した上、その是正措置の準備を進め、原告に対しても是正の可否を問い合わせていたことは、前記(1)のとおりであるから、被告学会が是正措置に消極的であったとは認めることができないし、撤回理由や謝罪文言を定めるのは論文を撤回し謝罪する被告Aらであるから、その謝罪文言や撤回理由が原告の意に沿わないものであったとしても、そのことをもって、被告学会が本件著作権規程で定められた義務に違反したということもできない。
 さらに、原告は、被告学会が被告Aらの行為について問題として取り上げるつもりがないと回答したことが義務の不履行であると主張するが、被告学会が是正措置の準備を進めていたことは、前記(1)のとおりであるから、被告学会が被告Aらの行為を問題として取り上げなかったものとは認められない。加えて、原告は、本件著作権規程第2条1項が著作者から著作権を強制的に奪うものとなっているとも主張するが、原告は著作権譲渡契約書を作成して、自らの意思で原告論文の著作権を被告学会に譲渡したのであるから、原告がその著作権を強制的に奪われたとの原告の主張は採用することができない。
(4) 以上のとおり、被告学会が本件著作権規程に基づく義務を履行しなかったとは認められないから、被告学会の債務不履行を理由とする原告の本件著作権譲渡契約の解除の意思表示は、その効力を認めることはできない。
 よって、同解除が有効であり、それによって原告論文に係る著作権が原告に復帰したことを前提として、原告が同著作権を有することの確認を求める原告の請求は理由がない。
2 争点(2)ア(被告ら論文−複製権又は翻案権の侵害の成否)について
 原告論文の著作権(複製権及び翻案権を含む。)は、本件著作権譲渡契約によって被告学会に移転しており、前記1のとおり、その解除に係る原告の主張は採用することができないから、仮に被告ら論文が原告論文を複製し、又は翻案したものであるとしても、それが原告の複製権又は翻案権を侵害したものといえないことは明らかである。
 よって、その余の点について検討するまでもなく、複製権又は翻案権の侵害を根拠とする原告の請求はいずれも理由がない。
3 争点(2)イ(被告ら論文−同一性保持権侵害の成否)について
(1) 原告は、被告ら論文について、原告各表現のデッドコピーを含むが、その原告各表現以外の部分では原告論文の内容が「変更」されているから、全体としてみれば、原告の意に反する原告論文の改変行為に当たり、同一性保持権を侵害すると主張する。
ア 被告ら共著論文2につき
 別紙著作物対照表記載のとおり、被告ら共著論文2の被告表現1のうち「の基本原則として」以下の記述は、原告論文の原告表現1のうち「の基本原則として」以下の記述と共通しており、ほぼ同一の表現ということができる。一方、その余の部分では、被告ら共著論文2の記述は、原告論文の記述と共通しておらず、原告もその共通性を何ら主張していないのであるから、被告ら共著論文2の上記共通部分以外の記述が、原告論文の記述を基にして、それを「変更」したものであるということはできない。
 しかも、原告論文は表題、本文、図・表、注などを含めて9頁の論文であり、その本文がおよそ1万1380文字から成っているが、このうち原告表現1の部分は1頁の3分の1足らずの分量であり、被告表現1と共通する「の基本原則として」以下の文字数は420文字程度にすぎない。他方、被告ら共著論文2は表題、本文、図・表、文献の表示などを含めて6頁の論文であるところ、このうち原告論文と共通する被告表現1の部分は1頁の4分の1にも満たない分量である。このことからすれば、被告ら共著論文2と原告論文を全体として観察した場合でも、被告ら共著論文2は、原告論文とは別個の著作物というべきであり、それが原告論文の表現に対して「改変」を加えたものであるということはできない。
 したがって、被告ら共著論文2によって、原告論文についての同一性保持権が侵害されたものとは認められない。
イ 被告ら共著論文1及び被告B論文につき
 原告論文は、別紙著作物対照表記載の原告表現2を含み、被告ら共著論文1は、同対照表記載の被告表現2を含むものと認められるところ、被告表現2の2箇所(104頁及び105頁)の各記述は、いずれも原告表現2に含まれる記述とほぼ共通しており、実質的に同一の表現ということができる。一方、その余の部分では、被告ら共著論文1の記述は、原告論文の記述とは共通しておらず、原告もその共通性を何ら主張していないのであるから、被告ら共著論文1の上記共通部分以外の記述が、原告論文の記述を基にして、それを「変更」したものであるということはできない。
 しかも、原告論文は表題、本文、図・表、注などを含めて9頁の論文であり、その本文がおよそ1万1380文字から成っているが、このうち原告表現2の部分は、1頁の6分の1程度の分量であり、被告表現2の2箇所の各記述と共通する部分の文字数は250文字程度にすぎない。他方、被告ら共著論文1は表題、本文、図、文献の表示などを含めて6頁の文献であるところ、このうち原告論文と共通する2か所の記述を合計しても1頁の6分の1程度の分量にすぎない。このことからすれば、被告ら共著論文1と原告論文を全体として観察した場合でも、被告ら共著論文1は、原告論文とは別個の著作物というべきであり、それが原告論文の表現に対して「改変」を加えたものであるということはできない。
 また、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、被告表現2を含む被告B論文は、被告ら共著論文1とほぼ同様の記述であるか、あるいは、被告ら共著論文1が被告B論文を要約したものであると認められるところ、被告B論文についても、被告ら共著論文1と同様に、原告論文と共通しない部分をもって、原告論文の表現が「変更」されているということはできないし、全体として観察したとしても、被告B論文が原告論文の表現に対して「改変」を加えたものであるということはできない。
 したがって、被告ら共著論文1及び被告B論文によって、原告論文についての同一性保持権が侵害されたものとは認められない。
(2) このほか、原告は、被告ら共著論文2においては、原告表現1の中の重要な一文が切除されたことにより、原告表現1が誤った文脈で引用されており、その結果、原告論文の同一性保持権が侵害されたとも主張する。
 この点、原告論文には、別紙著作物対照表の原告表現1で「(中略)」とされた部分に、「総務省の情報通信審議会は、IPマルチキャスト放送事業者が放送事業者に対して地上デジタル放送の再送信同意を求めた場合の、同意条件に関する基本的な考え方を示している。」との1文が記されており、他方、被告ら共著論文2(被告表現1)には、この1文が存在しない。
 しかし、上記1文は、原告表現1のうち、被告表現1と共通する部分(「の基本原則として」以下の部分)に含まれる文ではなく、共通する部分の前に置かれた1文であるから、被告表現1は、原告表現1の記述を抜き出して利用する際に、その抜き出した記述から上記1文を切除したというのではなく、単に上記1文を含まない部分を抜き出したにすぎない。そして、前記(1)アのとおり、被告ら共著論文2は、原告論文の一部を利用したものであるが、原告論文とは別個の著作物であるから、その中に原告論文の上記1文が存在しないとしても、それは単に、被告ら共著論文2が上記1文を利用しなかったというにすぎず、このことが原告論文の表現に対して「切除」という改変を加えたものであるといえないことは明らかである。しかも、被告ら共著論文2においては、原告論文との共通部分がその他の部分と何ら区別されることなく記述されているから、客観的には、当該共通部分の記述は、その前後の記述を含めて、あくまで被告Aらが執筆した論文の一部として認識されるものと認められるのであり、それゆえ、そこに原告論文の1文が含まれていないとしても、それによって原告論文の表現が一部「切除」され、改変されていると認められることはないというべきである。
 したがって、そのような被告ら共著論文2の記述によって、原告論文の文脈や趣旨が誤解されるということにはならないし、また、原告の人格的利益が害されるということもできない。
 よって、この点に関する原告の上記主張も理由がない。
4 争点(2)ウ(氏名表示権侵害の成否)について
(1) 被告表現1につき
ア 別紙著作物対照表のとおり、被告表現1と原告表現1のうちそれぞれ「の基本原則として」以下の部分の記述は、接続詞の「次に」が「さらに」となっている点で異なる以外は、誤字(「地域姓」)を含めて、全く同一の文章といえるものであるから、被告表現1が原告表現1に依拠して、その記述を複製したものであることは明らかである。
 この点に関して被告らは、原告表現1は丁1文献を要約して引用したものにすぎず、創作性がないと主張する。しかし、著作権法2条1項1号所定の「創作的」に表現されたというためには、厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく、作者の何らかの個性が表れたものであれば足りるというべきであるところ、証拠(略)によれば、原告表現1は、9頁にわたる丁1文献を、「再送信同意の基本原則」、「具体的な技術要件」、「再送信同意の手続き」の3部に分けて簡潔に要約したものであり、各部において丁1文献の該当項の冒頭部分を中心に抜き出してはいるものの、必ずしも冒頭部分をそのまま抜き出したものでないことが認められるから、そこには選択の範囲、記述の順序、文章の運び及び具体的な文章表現等の点において原告なりの工夫がされていると認めることができ、その限度で作者の個性が表れていると認められるのであり、表現上の創作性がないということはできない。そして、被告表現1は、原告表現1との共通部分において、単に素材となる事実が同一であるというだけでなく、具体的表現を含めた記述のデッドコピーというべきものであるから、原告表現1の複製に当たると認めるのが相当である。
イ このように、被告ら共著論文2の被告表現1の記述は、原告論文の一部の記述を複製したものであるところ、そこには原告論文の著作者である原告の氏名が表示されていないから、このことは、原告の氏名表示権(著作権法19条1項)を侵害するものといわざるを得ない。
(2) 被告表現2につき
ア 被告ら共著論文1・105頁の記述
 別紙著作物対照表記載のとおり、被告ら共著論文1の105頁には、原告表現2の一部をほぼそのまま引用して利用した箇所があるが、証拠(略)によれば、当該引用部分には「5」との脚注番号が付されており、同頁の下部には、脚注「55」として、原告の氏名及び被引用文献(原告論文)の題名が記載されていることが認められる。
 そうすると、ここでは、原告論文の一部が公衆に提示されるに際して、その著作者である原告の氏名が表示されているということができるから、氏名表示権の侵害があるものと認めることはできない。
 この点に関して原告は、同頁の本文中に付された脚注番号「5」と下部の脚注部分の番号「55」とが異なると主張する。
 しかし、同頁の本文中には脚注番号として「4」及び「5」のみが使用されており、その下部の脚注部分には「4」及び「55」のみが記載されているのであるから、脚注部分の「55」が「5」の誤記であることは、これらの記載に接した者にとって一目瞭然であって、かかる番号の誤記を理由に、上記引用部分について原告の氏名が表示されていないということはできない。
 また、原告は、被告ら共著論文1には被告Aらの氏名のみがその著作者名として表示されており、原告を「著作者名として表示」していないから、原告の氏名表示権を侵害すると主張する。
 しかし、被告ら共著論文1は、その一部において、原告論文の記述を利用したものであるが、前記3(1)イのとおり、全体としては原告論文とは別個の著作物であり、原告は被告ら共著論文1の著作者ではないのであるから、原告の氏名を被告ら共著論文1の著作者名として表示しなければならないというべき理由はない。著作権法19条1項は、著作物の公衆への提示に際し、当該著作物の著作者名を表示すべきことを規定していると解されるところ、上記引用部分においては原告論文の題名とその著作者である原告の氏名が明記されているのであるから、原告の氏名が原告の著作物(原告論文)の著作者名として表示されているといえることは明らかである。
 よって、被告ら共著論文1のうち105頁の記述に関する氏名表示権侵害の主張は理由がない。
イ 被告ら共著論文1・104頁の記述
 別紙著作物対照表のとおり、被告ら共著論文1の104頁における被告表現2と原告表現2のうち、それぞれ「2003年の改正」から「『放送』に該当し、」までの部分は、「含めることとした。つまり、」と「含めることとし、」の違い、「ため」と「為」の違い及び「規定されて」と「規定して」の違いを除いて、全く同一の文章といってよいものであるから、被告表現2の同記述は、原告表現2の記述に依拠して、これを複製したものであると認められる。
 それにもかかわらず、当該複製部分には、原告の氏名が原告論文の著作者名として表示されていないのであるから、それによって原告の氏名表示権が侵害されているというべきである。
 この点に関して被告らは、原告表現2には創作性がないから、原告の氏名表示権の対象となるべき表現が存在しないと主張する。しかし、証拠(略)によれば、原告表現2のうち上記共通部分は、2003年改正後の英国著作権法6条の規定について説明するものではあるものの、単に同条の規定をそのまま引用したものではなく、「有線番組サービス」等の独自の訳語を用いながら、記述の順序、文章の運び及び具体的な文章表現等の点において原告なりの工夫をしながら、同条の改正内容を分かりやすく解説した文章であると認めることができ、その限度で作者の個性が表れていると認められるから、全体としては表現上の創作性がないということはできない。そして、被告表現2は、原告表現2との上記共通部分において、単に素材となる事実が同一であるというだけでなく、具体的表現を含めた記述のデッドコピーというべきものであるから、創作性のある原告表現2を複製したものということができる。
 また、被告らは、被告ら共著論文1のうち105頁の引用部分ではその脚注に原告の氏名を表示し、さらに被告ら共著論文1の末尾では原告論文の筆者名、発表年、題号及び引用した文章の所在を示すURLを記載していると主張する。
 確かに、前記アのとおり、被告ら共著論文1の105頁の引用部分には、原告論文の著作者名として原告の氏名が表示されており、当該部分については、原告の氏名表示権が侵害されているとはいえないが、104頁においては、原告の氏名は全く表示されておらず、104頁の記述と105頁の記述は、その一部ではほぼ同一であるものの、全体としては異なる文章であるから、105頁の記述に原告の氏名が表示されているからといって、104頁の記述において原告の氏名を表示しなくてよいということはできない。また、被告ら共著論文1の末尾には、「文献」との標題の下に、原告論文を含む13の文献の著作者名や題名等が表示されているが、その体裁からすれば、これらの表示は単に被告ら共著論文1における参考文献を列挙したものであると認められ、そこでは個々の文献と本文中における引用又は参考とした箇所との繋がりは何ら明示されていないのであるから、このような表示をもって、被告ら共著論文1の104頁の記述について、原告の氏名が表示されているということはできない。
ウ 被告B論文
 被告B論文は、被告ら共著論文1と同様に、原告論文の原告表現2を複製した記述を含むものと認められる。
 しかし、被告B論文は、そもそも公表されておらず(前記第2、2(4)ア)、公衆に提供ないし提示されたものではないから、そこに原告論文の著作者名が表示されていないとしても、それによって原告の氏名表示権が侵害されたということはできない。
5 争点(2)エ(被告Bの損害賠償義務の有無及びその額)について
(1) 被告Bは、被告Aと共同で被告ら各共著論文を執筆した者であるところ、前記4のとおり、被告ら共著論文1の被告表現2のうち104頁の記述及び被告ら共著論文2の被告表現1の記述において、それぞれ原告論文の著作者名として原告の氏名を表示しなかったことが、原告の氏名表示権の侵害に当たると認められるから、この点について、被告Bは、被告Aとの共同不法行為に基づく損害賠償義務を負うものと認められる。
 なお、被告B論文については、前記2ないし4のとおり、原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものとは認められないから、これについて、被告Bが不法行為に基づく損害賠償義務を負うことはない。
(2) そして、原告論文の性質、被告ら各共著論文において複製された原告論文の分量、複製された部分の創作性の程度、被告ら各共著論文の性質とその公衆への提示の態様、被告ら共著論文1についてはその末尾に参考文献として原告論文の題名及び原告の氏名が表示されていること、その他前記1(1)の認定事実を含む不法行為後の諸事情などを総合考慮すると、上記2件の氏名表示権侵害の不法行為による原告の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の額は、被告ら共著論文1及び2につきそれぞれ10万円、合計20万円と認めるのが相当である。
 また、原告は、本件訴訟の提起・追行を原告訴訟代理人弁護士に委任し、その弁護士費用を支出していると認められるところ、上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は、被告ら共著論文1及び2につきそれぞれ1万円、合計2万円と認めるのが相当である。
 よって、被告Bは、被告Aと連帯して、共同不法行為に基づく損害賠償として22万円及びうち11万円に対する被告ら共著論文1が遅くとも執筆・公表された平成24年3月31日(不法行為日)から、うち11万円に対する被告ら共著論文2が遅くとも執筆・公表された同年5月31日(不法行為日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負うというべきである。
6 争点(2)オ(被告Aの損害賠償義務の有無及びその額)について
(1) 被告Aは、被告Bと共同で被告ら各共著論文を執筆した者であるから、そこでの氏名表示権侵害について、前記5の被告Bの損害賠償義務と同じ義務を連帯して負担するものと認められる(民法719条1項)。
 なお、被告B論文については、前記2ないし4のとおり、原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものとは認められないから、被告Aが被告Bに対して同論文の執筆の指導をしたことを理由として、被告Aが被告Bと共同不法行為責任を負うとの原告の主張は、その前提を欠き、理由がない。
(2) よって、被告Aは、被告ら各共著論文に係る被告Bとの共同不法行為に基づき、被告Bと連帯して、前記5(2)と同様に、22万円及びうち11万円に対する平成24年3月31日から、うち11万円に対する同年5月31日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負うというべきである。
7 争点(2)カ(被告ら共著論文2に係る削除請求の可否)について
 前記4(1)のとおり、被告ら共著論文2については、被告表現1の部分に原告の氏名が表示されていないため、同論文をそのまま公衆に提示した場合は、原告の氏名表示権を侵害することになる。
 そして、前記第2、2(4)ウのとおり、被告学会は、その運営する「電子図書館」の別紙ウェブサイト目録記載2のウェブサイト上に、被告ら共著論文2の本文を掲載しているから、原告は、著作権法112条1項に基づき、氏名表示権侵害行為の差止めとして、同ウェブサイトからの被告ら共著論文2の本文の削除を求めることができる。
 他方、被告学会は、「電子図書館」の別紙ウェブサイト目録記載1のウェブサイト上に、被告ら共著論文2の「著作者」として、被告A及び被告Bの氏名(英字表記を含む。)を表示しているが、被告ら共著論文2の著作者は、あくまで被告A及び被告Bであって、原告ではないから、かかる著作者名の表示自体が原告の氏名表示権を侵害するものであるとはいえない。また、その点を措くとしても、同ウェブサイトから単に被告Aらの氏名を削除しただけでは、それによって原告の氏名が表示されて、氏名表示権の侵害状態が解消されることにはならないのであるから、被告Aらの氏名の削除を求める請求は、侵害の停止とは無関係な行為を求めるものであって、著作権法112条1項に基づく請求に当たらないというべきである。
 よって、別紙ウェブサイト目録記載1のウェブサイトからの被告A及び被告Bの氏名の削除を求める原告の請求は、いずれにせよ理由がない。
8 争点(2)キ(謝罪広告の要否)について
 原告は、被告Aらによる同一性保持権及び氏名表示権の侵害に関して、著作権法115条に基づく名誉回復措置として、謝罪広告の掲載を求めているところ、前記3及び4のとおり、被告ら共著論文1(被告表現2のうち104頁の部分)及び被告ら共著論文2(被告表現1の部分)による氏名表示権の侵害は認めることができるが、その余の侵害は認めることができない。
 そして、この氏名表示権侵害を構成する被告ら共著論文1及び2における原告論文の複製部分は、9頁から成る原告論文、それぞれ6頁から成る被告ら各共著論文の中で、いずれも500文字にも満たない記述にすぎないことに加え、原告論文の性質、上記複製された部分における原告論文の創作性の程度、被告ら各共著論文の性質とその公衆への提示の態様、被告ら共著論文1についてはその末尾に参考文献として原告論文の題名及び原告の氏名が表示されていること、その他前記1(1)の認定事実を含む不法行為後の諸事情などに照らすと、被告ら各共著論文による氏名表示権侵害が、原告に対する悪質な権利侵害であるとまではいえず、また、それによって、原告の社会的評価としての名誉及び声望が大きく損なわれたものとも認めることができない。
 そうすると、本件において、上記氏名表示権侵害の不法行為について、被告Aらに対して、前記5及び6のとおりの損害賠償を命ずるほかに、原告の名誉又は声望を回復するために謝罪広告の掲載を命ずるまでの必要性があるものとはいえない。
 よって、謝罪広告についての原告の請求は理由がない。
9 争点(3)(C論文による著作権及び著作者人格権の侵害に基づく被告Aの損害賠償義務の有無及びその額)について
(1) 原告は、C論文と被告B論文がいずれも通信の融合及びそれに関する法の在り方をテーマにしており、被告Aの指導の下で執筆されたという点で共通しているから、C論文も、原告各表現を用いて、原告の著作権(複製権又は翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害していることが強く推認されるとして、C論文による著作権及び著作者人格権の侵害が認められることを前提としつつ、被告Aに対して、C論文が被告Aの指導の下で特別研究論文として執筆されたのであるから、被告AがCとともに共同不法行為責任を負うと主張する。
(2)ア しかし、まず、C論文と被告B論文がいずれも通信の融合及びそれに関する法の在り方をテーマにしており、被告Aの指導の下で執筆されたという点で共通しているからC論文においても原告各表現が用いられているとの原告の主張は、単なる憶測にすぎないというべきである。
イ また、仮にC論文において原告各表現が用いられているとしても、前記2ないし4記載の説示と同様の理由により、原告はそもそも原告論文の著作権を有しないから著作権侵害の主張は失当であり、C論文が公表されているとは認められないから氏名表示権侵害に当たるともいえず、同一性保持権侵害の主張も前記3のとおり理由がない。
ウ さらに、被告Aの責任に関して検討すると、前記第2、2(1)イ及び(3)の認定事実、証拠(略)並びに弁論の全趣旨によれば、本件大学院**研究科の専門職学位課程では、合否決定の審査に付される論文の作成(特別研究)が必修科目とされており、同科目の6単位のほか、必修科目14単位及びその他の授業科目32単位を含む合計52単位を修得することで、その課程を修了し、専門職学位を取得することができること(本件大学院学則・25条3項、26条5項、31条6項、32条3項)、本件大学院においては、専門職学位課程の教育は、修士課程や博士課程と異なり、学位論文の作成に対する指導は含まれておらず、必要な授業科目の授業によって行うこととされており(同・21条1項、2項)、特別研究で課される論文(特別研究論文)は、当該科目において、学生が取り組む特定の課題研究に対する成績評価をするための手段の一つとされていること、Cは、平成23年3月までに、本件大学院**研究科の専門職学位課程において特別研究論文としてC論文を執筆し、Cの指導教授であった被告Aは、主査としてC論文を審査し、評価・採点したこと、Cは、これにより特別研究を含む必要な単位を取得し、同月、同課程を修了して専門職学位を得たことが、それぞれ認められる。
 上記のとおり、C論文は、本件大学院知的財産研究科の専門職学位課程における必修科目の課題としてCが執筆したものであり、被告Aは、そもそもC論文を執筆した者ではなく、単にCから提出されたC論文を主査として審査し、評価・採点したにすぎないのであるから、仮にC論文に第三者の著作権又は著作者人格権を侵害する記述が含まれていたとしても、それが被告Aによる侵害行為であるということはできない。
 また、被告Aは、本件大学院を設置・運営する被告学園との関係及び本件大学院の学生であったCとの関係では、Cの指導教授として、その課題研究について適切な教授・指導を行い、また、必修科目の課題として提出されたC論文を適切に審査し、評価する義務を負っていたとはいい得るものの、第三者との関係では、上記事実関係及び本件全証拠を斟酌しても、被告Aが、C論文によって第三者の著作権又は著作者人格権が侵害されることを阻止して、第三者の権利を保護すべき積極的な作為義務を負っていたと解すべき根拠を見出すことはできない。実際にも、本件大学院**研究科の毎年の定員は30名である上、特別研究論文は、学生が年明け頃から執筆し始めるにもかかわらず、その年の3月中には審査及び評価を完了させて、単位取得及びそれに基づく課程の修了に至るべきものであること(前記(1))に照らしても、指導教授らが、学生が執筆して提出する全ての特別研究論文に含まれる個々の表現について、それらが第三者の著作権等を侵害するものでないか否かを逐一確認し、仮にそこに侵害に当たる可能性のある表現があった場合にそれを指摘して是正させるということは、およそ容易になし得るものとは思われないから、指導教授らに、第三者に対する関係でそのような過重な義務を負わせることは相当でない。
 この点に関して原告は、本件大学院の教員は、特別研究の科目において、学生に対し論文の執筆を通して指導を行う職務を担っていると主張するが、そのような職務は、上記のとおり、本件大学院の教員としての学生及び被告学園に対する義務であるとはいい得るものの、そこから直ちに、教員が、第三者との関係で、学生による当該第三者の著作権等への侵害行為を防止すべき作為義務を負うものと解することはできない。
(3) 以上のとおり、いずれにしても、C論文に関して、被告Aが著作権等侵害に係る共同不法行為責任を負うものと認めることはできない。
10 争点(4)(学術論文を盗用・剽窃されない利益の侵害に係る一般不法行為の成否)について
(1) 原告は、被告Aによる被告ら各共著論文の執筆・公表が、著作権等の侵害に係る不法行為とは別に、一般不法行為(民法709条)に該当すると主張する。
 しかし、著作権法は、著作物の利用について、一定の範囲の者に対し、一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに、その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で、著作権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、独占的な権利の及ぶ範囲、限界を明らかにしているのであるから、同法により保護される権利の範囲に含まれないものについては、法的保護の対象とはならないものと解される。したがって、著作物を利用する行為について、著作権法に規律された著作物を独占的に利用する権利を侵害するか否かが問われるのとは別に、著作者の権利を侵害し一般不法行為が成立すると認められるのは、当該利用行為によって、著作権法の規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がある場合に限られるというべきである。
(2) この点に関して原告は、研究者が研究成果を学術論文としてまとめ、広く第三者に公表することが憲法23条の学問の自由の根幹をなす権利であること、研究者は、執筆した学術論文の内容により第三者からその能力、専門性ないし業績を評価されること、学術論文を執筆するためには多大な時間と労力を費やす必要があり、金銭的な支出も不可欠であることを挙げて、学術論文の内容を他人に盗用・剽窃されないことが、著作権法とは別に、法的に保護された利益であって、被告Aが自ら調査・研究を行うことなく原告各表現を盗用・剽窃し、原告の業績等にいわばフリーライドしたことにより、原告の研究を妨害するとともに専門家の一人としての地位を不当に得ようとしたことが、原告の上記利益を侵害する一般不法行為であると主張する。
 しかし、研究者の執筆・公表した学術論文を第三者が複製等によって利用したからといって、それにより研究者の学問の自由が侵されるものとは認められないし、当該研究者の能力、専門性ないし業績に対する評価が低下するものとも解されない。
 本件においては、それぞれ6頁から成る被告ら各共著論文において複製された原告論文の2箇所の記述は、いずれも9頁に及ぶ原告論文の中のわずか数行の文章にすぎず、しかも、その内容も丁1文献を要約したものであるか、英国著作権法の規定を解説したものであって、その表現の選択の幅は極めて狭く、その限度でかろうじて作者の個性が表れているにすぎないものであるから、被告Aが、これらの記述を利用することによって、原告の費やした時間、労力及び金銭、あるいはそれらにより得られた原告の業績等にフリーライドしたとか、専門家の一人としての地位を不当に得ようとしたなどと評価することはできないというべきである。
 また、被告Aが原告論文の一部を被告ら各共著論文において複製したことによって、原告の研究活動が妨害されたものとも認められない。
(3) 以上によれば、被告ら各共著論文の執筆・公表が著作権等とは別の原告の法的利益を侵害し、それが一般不法行為に該当するとの原告の上記主張は採用することができない。
11 争点(5)(被告学園の使用者責任の有無)について
 前記6、9及び10のとおり、被告Aは、被告ら各共著論文による氏名表示権侵害についてのみ、被告Bと連帯して損害賠償義務を負うものと認められるところ、原告は、被告Aによる被告ら各共著論文の執筆・公表が被告学園の事業の執行について行われたものであるとして、被告学園がその使用者責任(民法715条1項本文)を負うと主張する。
 しかし、被告ら各共著論文は、いずれも被告A及び被告Bが共同で執筆して発表したものであるが、それらはいずれも一般社団法人電子情報通信学会発行の「信学技報」に、両被告の個人名で掲載されて公表されたものであって(前記第2、2(4)イ、ウ)、本件大学院の研究・教育課程において発表されたものではなく、本件大学院ないし被告学園の名義で公表されたものでもないのであるから、被告Aが本件大学院の教員の職務として被告ら各共著論文を執筆し、公表したものと認めることはできない。
 このほか、本件全証拠によっても、被告Aによる被告ら各共著論文の執筆・公表が被告学園の事業の執行に当たり、それについて被告学園が使用者責任を負うと解すべき事情を認めるに足りる証拠はない。
 よって、被告学園の使用者責任に関する原告の上記主張は採用することができず、原告の被告学園に対する損害賠償請求は理由がない。
12 結論
 以上のとおり、原告の請求は、被告A及び被告Bに対し、被告ら各共著論文に係る氏名表示権侵害の不法行為に基づいて、22万円の損害賠償金及びこれに対する年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め、被告学会に対し、被告ら共著論文2に係る氏名表示権侵害について、著作権法112条1項に基づき、別紙ウェブサイト目録記載2のウェブサイトからの被告ら共著論文2の本文の削除を求める限度で理由があるが、その余はいずれも理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 東海林保
 裁判官 今井弘晃
 裁判官 足立拓人


別紙 当事者目録
原告 X
同訴訟代理人弁護士 弘中惇一郎
同 弘中絵里
同 大木勇
同 品川潤
同 山縣敦彦
被告 A
被告 B
両名訴訟代理人弁護士 辻本希世士
同 辻本良知
同 松田さとみ
被告 学校法人常翔学園(以下「被告学園」という。)
同訴訟代理人弁護士 俵正市
同 小川洋一
被告 一般社団法人情報処理学会(以下「被告学会」という。)
同訴訟代理人弁護士 山本純一
同 村松宏樹

別紙 論文目録
1 表題 通信と放送の融合に伴う著作権問題の研究
 執筆者 X
 発表年月日 平成19年12月
 掲載媒体 公益社団法人電気通信普及財団発行の研究調査報告書第22号
2 表題 通信・放送融合における著著作権問題−裁判例と各国の比較から導く日本著作権法のあり方−
 執筆者 B、A
 発表年月日 平成24年3月
 掲載媒体 一般社団法人電子情報通信学会発行の「信学技報」
3 表題 IPTVサービスにおける著作権問題−デジタル映像コンテンツの流通促進に向けて−
 執筆者 B、A
 発表年月日 平成24年5月
 掲載媒体 @ 一般社団法人電子情報通信学会発行の「信学技報」
        A 一般社団法人情報処理学会発行のCD−ROM
        B 同学会が運営するウェブサイト「電子図書館」
4 表題 通信・放送融合の著作権問題について−裁判例と各国の比較から導く日本の著作権法の有り方−
 執筆者 B
 発表年月日 平成24年3月頃

別紙 著作物対照表
  原告論文 被告ら共著論文
表現1 【甲3の1・75頁】
IPマルチキャスト放送事業者が放送の同時再送信を行う場合には、まず放送事業者の再送信同意を得る必要がある(電気通信役務利用放送法第12条)。
(中略)
まず、再送信同意の基本原則として、@編成面及び技術面における「同一性保持」が維持されていること、A放送事業者の放送の意図としての地域姓の担保が可能であることが挙げられている。次に、具体的な技術要件として、@地域限定性の確保(再送信サービスのエリアが、当該地域で地上デジタル放送を行っている地上放送事業者の放送対象地域に限定することが可能であること等)、A著作権の保護(地上デジタル放送と同等のコンテンツ保護機能を有すること等)、B同一性の確保(サービス・編成の同一性が保たれること、地上デジタル放送と同等の品質が保たれること、データ放送の機能が地上デジタル放送と同等に確保されること等)といった項目が挙げられている。さらに、再送信同意の手続きについて、放送の再送信を希望する役務利用放送事業者は、同意主体である地上放送事業者から構成される審議機関に対し、所定の資料を提出し、審議機関は、当該資料をもとに再送信同意に関する判断を行うとされている。
【被告ら共著論文2、甲7・4〜5頁】
まず、電気通信役務利用放送法第12条に基づき、IPマルチキャスト放送事業者は放送事業者の許諾を得る必要がある.
また、この場合の許諾の基本原則として、@編成面及び技術面における「同一性保持」が維持されていること、A放送事業者の放送の意図としての地域姓の担保が可能であることが挙げられている.さらに、具体的な技術要件として、@地域限定性の確保(再送信サービスのエリアが、当該地域で地上デジタル放送を行っている地上放送事業者の放送対象地域に限定することが可能であること等)、A著作権の保護(地上デジタル放送と同等のコンテンツ保護機能を有すること等)、B同一性の確保(サービス・編成の同一性が保たれること、地上デジタル放送と同等の品質が保たれること、データ放送の機能が地上デジタル放送と同等に確保されること等)といった項目が挙げられているさらに、再送信同意の手続きについて、放送の再送信を希望する役務利用放送事業者は、同意主体である地上放送事業者から構成される審議機関に対し、所定の資料を提出し、審議機関は、当該資料をもとに再送信同意に関する判断を行うとされている
表現2 【甲3の1・77頁】
伝送路の多様化に対応した包括的規定を検討する際には、英国著作権法が参考になるものと思われる。英国著作権法は、2003年の改正により、放送の定義に関する規定(第6条)を改め「有線番組サービス(cable programme service)」を「放送」の概念の中に含めることとした。つまり、放送と有線放送の区別を廃し、両者を「放送」という概念に統合している。また、第6条の中にインターネット送信に関する項目である(1A)が盛り込まれたため、インターネット送信のうち第6条(1A)に規定されている(a)、(b)、(c)に当てはまるものだけが「放送」に該当し、それ以外のインターネット送信は「放送」ではないとされている(下記条文参照)。
【被告ら共著論文1、甲6】
【105頁】
伝送路の多様化に対応した包括的規定を検討する際には、英国著作権法が参考になるものと思われる。英国著作権法は、2003年の改正により、放送の定義に関する規定(第6条)を改め「有線番組サービス(cable programmed service)を「放送」の概念に含める。」こととした。つまり、放送と有線放送の区別を廃し、両者を「放送」という概念に統合するとなっている。
【104頁】
イギリス著作権法での「放送」の扱いは、2003年の改正により、放送の定義に関する規定(第6条)を改め「有線番組サービス(cable program service)」を「放送」の概念の中に含めることとし放送と有線放送の区別を廃し、両者を「放送」という概念に統合している。また、第6条中にインターネット送信に関する項目の(1A)が盛り込まれた、インターネット送信のうち第6条(1A)に規定ている(a)、(b)、(c)に当てはまるものだけが「放送」に該当し、有線放送やIPマルチキャスト放送であっても「放送」と位置付けされている。
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/