判例全文 line
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【事件名】小池一夫氏作品の独占的利用許諾契約事件
【年月日】平成27年3月25日
 東京地裁 平成24年(ワ)第19125号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成27年1月21日)

判決
原告 株式会社MANGA RAK
同訴訟代理人弁護士 四宮隆史
同 中村穂積
同 藤井康弘
同訴訟復代理人弁護士 秋山光
被告 株式會社A@(以下「被告A@」という。)
同訴訟代理人弁護士 山田史彦
同訴訟復代理人弁護士 堺里津子
同 四元佑
被告 AA(以下「被告AA」という。)
同訴訟代理人弁護士 本山信二郎
同訴訟復代理人弁護士 岩佐祐希
被告AA補助参加人 有限会社グループ・ゼロ(以下「被告補助参加人」という。)
同訴訟代理人弁護士 岡本敬一郎
被告 AB(以下「被告AB」という。)
被告 株式会社AC(以下「被告AC」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 草野多隆
同 外崎友隆
同 内田拓志
被告 AD(以下「被告AD」という。)
同訴訟代理人弁護士 平石孝行


主文
1 被告A@及び被告AAは、原告に対し、連帯して2777万5208円及びこれに対する平成22年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告A@及び被告ABは、原告に対し、連帯して80万9280円及びこれに対する、被告A@につき平成24年7月27日から、被告ABにつき同月28日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告AAは、原告に対し、5000万円及びこれに対する平成24年8月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告AAは、原告に対し、1億6440万1672円及び、うち1440万1672円に対する平成19年6月15日から、うち5000万円に対する同月21日から、うち5000万円に対する同年8月3日から、うち5000万円に対する同月21日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用のうち、補助参加によって生じた費用は被告補助参加人の、被告AC及び被告ADに生じた費用は原告の負担とし、その余の費用はこれを10分し、その3を被告AAの、その1を被告A@の、その1を被告ABの負担とし、その余を原告の負担とする。
7 この判決は、第1項から第4項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告A@及び被告AAは、原告に対し、連帯して3027万6988円及びこれに対する平成22年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告A@及び被告ABは、原告に対し、連帯して2134万3200円及びこれに対する、被告A@につき平成24年7月27日から、被告ABにつき同月28日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3(主位的請求)
 被告AA、被告AB、被告AC及び被告ADは、原告に対し、連帯して100万米ドル及びこれに対する、被告AAにつき平成24年8月8日から、被告ABにつき同年7月28日から、被告AC及び被告ADにつき同月27日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(予備的請求)
 被告ADは、原告に対し、100万米ドル及びこれに対する平成24年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告AA、被告AB及び被告ACは、原告に対し、連帯して170万円及びこれに対する、被告AAにつき平成24年8月8日から、被告ABにつき同年7月28日から、被告ACにつき同月27日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告AAは、原告に対し、8000万円及びこれに対する平成24年8月8日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
6(主位的請求)
 被告AAは、原告に対し、5000万円及びこれに対する平成24年8月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(予備的請求)
 被告AAは、原告に対し、5000万円及びうち3000万円に対する平成19年9月27日から、うち1500万円に対する同年10月18日から、うち500万円に対する同年11月29日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7(請求1〜5の予備的請求)
 被告AAは、原告に対し、2億円及びうち5000万円に対する平成19年6月15日から、うち5000万円に対する同月21日から、うち5000万円に対する同年8月3日から、うち5000万円に対する同月21日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、漫画原作者である被告AAから著作物独占的利用権の設定を受けたと主張する原告(旧商号:平成19年6月5日まで「ウクソンジャパン株式会社」、平成21年1月29日まで「被告AE株式会社」、同年3月30日まで「劇画村塾株式会社」。同日以降現商号。甲1、25)が、被告らに対し、不法行為(独占的利用権の侵害)に基づく損害賠償を求める(請求の趣旨第1項〜第5項)とともに、被告AAに対し、貸金の返還を求め(請求の趣旨第6項)、さらに、被告AAに対し、請求の趣旨第1項〜第5項の予備的請求として不当利得の返還を求める(請求の趣旨第7項)事案である。
 なお、被告AA及び被告ADは原告の取締役であった者であるが(甲1)、会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律53条により、原告の監査役の監査範囲は会計に関するものに限定する旨の定めがあるものとみなされるから、会社法2条9号により同法386条1項の適用はなく、同法349条1項により、代表取締役が原告を代表する。
1 請求原因
(1) 被告A@及び被告AAの共同不法行為に基づく請求(請求の趣旨第1項)
ア 本件独占的利用許諾契約
(ア) 原告と被告AAは、以下のa及びbを骨子とする平成20年1月25日付け著作物独占的利用許諾契約(以下「本件独占的利用許諾契約」といい、本件独占的利用許諾契約により原告が取得した独占的利用権を「本件独占的利用権」という。)を締結した(甲6、88)。
a 被告AAは、原告に対し、原告が本著作物(被告AAの著作に係る平成20年2月18日付け「著作物利用に関する契約公正証書」〔甲6、88。以下「本件公正証書」という。〕別紙著作物目録記載の各著作物並びにその原案、原作、脚本、構成を含む各著作物と今後制作される著作物の総称。以下「本著作物」という。)を利用し、日本あるいは海外において次の各事業(以下「本件各事業」という。)に独占的に利用することを許諾する(1条、2条)。
@ 原告が本著作物の全部又は一部を複製し、譲渡し、展示し、あるいは本著作物の全部又は一部を翻訳・翻案して著作物を作成して利用すること(著作権法21条、25条、26条の2、27条、28条に示す権利の許諾を含む。)。
A 本著作物の全部又は一部を、あるいは本著作物の全部又は一部を翻訳・翻案して作成された著作物を、インタラクティブ配信、コンテンツ配信等送信あるいは送信可能化事業を行うこと。
B 本著作物の全部又は一部を、あるいは本著作物の全部又は一部を翻訳・翻案して作成された著作物を、ゲーム、パチンコ、パチスロ及びこれらの周辺機器等、アミューズメント事業において利用すること(送信あるいは送信可能化事業も含む。)。
C 本著作物の全部又は一部を、あるいは本著作物の全部又は一部を翻訳・翻案して作成された著作物を、商品化、商業化するマーチャンダイジング事業を実施すること。
b 本件独占的利用許諾契約は、本著作物に係る全ての著作物の著作権の存続期間が満了するまでの間存続する(6条)。
(イ) 原告の代理人であるAF弁護士及び被告AAの代理人であるAG(以下「AG」という。)は、本件公正証書の作成を公証人に嘱託して、本件独占的利用許諾契約と同内容の平成20年1月25日付け著作物独占的利用許諾契約を締結した。
イ 被告AAのAGに対する代理権授与等
(ア) 代理権授与
 原告は、平成20年1月25日付けで、AF弁護士に対し、本件独占的利用許諾契約を締結する代理権を授与した(乙イ1の2、甲88)。
 被告AAは、平成20年1月25日付けで、AGに対し、本件独占的利用許諾契約を締結する代理権を授与した(乙イ1の1、甲88)。
(イ) 追認
 仮に被告AAがAGに対して代理権を授与していないとしても、被告AAは、以下の事実により、AGによる本件独占的利用許諾契約の締結を追認した。
@ 被告AAは、原告との間で、平成20年1月25日付け「解約覚書」(甲18、22)により、後述の旧公正証書契約を合意により解約し、これに代えて新たに規定する内容に係る公正証書を作成することに合意した。
A 被告AAは、代理人弁護士を通じて、原告に対し、本件独占的利用許諾契約を解除する旨を通知する平成20年11月26日付け「通知書」(甲54)を送付し、この中で、本件独占的利用許諾契約を締結した経緯について、「通知人は、貴社との間で、平成20年1月25日付け「著作物利用に関する契約」を締結し、同契約の公正証書を同年2月18日付けで作成しました。この契約は、通知人の著作物について、その商品化に関する事業を貴社に委託するという委任契約であると理解しております。これは、貴社が十分に事業を展開してくれるものと見込んで契約したものです。」と述べた。
B 被告AAは、原告との間で、平成22年1月26日付け「確認書」(甲64)により、本件独占的利用許諾契約が有効に存続していること、本件独占的利用許諾契約に定める本著作物について被告AAが原告に独占的利用権を許諾していることを確認した。
C 被告AAは、原告及び被告A@との間で、平成22年2月9日付け「AA著作物出版に関する基本合意書」(甲8、75)により、被告AAの著作物の出版に関する基本合意(以下「本件基本合意」といい、その合意書を「本件基本合意書」という。)を締結し、本件基本合意書には、「乙[被告AA]は、平成20年1月25日に乙[被告AA]が甲[原告]との間で合意し、平成20年2月18日に作成した「著作物利用に関する契約公正証書」……に基づいて」との記載がある。
D 被告AAは、原告との間で平成22年7月1日付け「原稿料及び印税に関する合意書」(甲66)により、被告AAの著作物出版時の原稿料及び印税に関する合意(以下「本件印税合意」といい、その合意書を「本件印税合意書」という。)を締結し、本件独占的利用許諾契約が有効に存続し、本件独占的利用許諾契約に定める本著作物について被告AAが原告に本件独占的利用権を許諾していることを確認した。
ウ 被告A@による本件書籍1の無断出版
 被告A@は、平成20年1月25日から平成22年6月30日までの間、原告の許諾なくして、別紙1「出版物一覧(平成20年1月25日から平成22年6月30日まで)」記載の書籍99点(以下「本件書籍1−1」〜「本件書籍1−99」といい、併せて「本件書籍1」という。)を出版した。
 本件書籍1は、いずれも原告が独占的利用権を有する本著作物に含まれる。
 原告は、被告A@の無断出版により、本件書籍1の出版事業を独占的に利用することができなくなり、本件独占的利用権を侵害された。
エ 被告A@の故意
 上記ウの平成20年1月25日から平成22年6月30日までの間、被告A@の代表取締役は、原告と本件独占的利用許諾契約を締結した被告AAであった(甲4)。
 したがって、被告A@は、原告に無断で本件書籍1を出版することが原告の本件独占的利用権を侵害することを明確に認識していたのであり、被告A@の原告に対する債権侵害は故意によってなされたものである。
オ 損害
 被告A@の本件独占的利用権を侵害する本件書籍1の無断出版により、原告は、被告A@から得べかりし印税相当額3027万6988円の損害を被った。
カ 被告AAの被告A@代表取締役としての不法行為責任
 被告AAは、上記ウの平成20年1月25日から平成22年6月30日までの間、被告A@の代表取締役を務めていたのであり(甲4)、上記ウの債権侵害は、被告A@の代表取締役である被告AAが、その職務を行うにつき不法行為をして原告に損害を加えたため、被告A@がその賠償責任を負うものであるから、代表取締役である被告AAも連帯して損害賠償責任を負う。
キ よって、原告は、被告A@及び被告AAに対し、原告の本件独占的利用権を侵害した共同不法行為に基づき、3027万6988円及びこれに対する最後の不法行為の後の日である平成22年7月1日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 被告A@及び被告ABの共同不法行為に基づく請求(請求の趣旨第2項)
ア 本件独占的利用許諾契約及び被告AAからAGに対する代理権授与等
 上記(1)ア、イと同じ。
イ 被告A@による本件書籍2の無断出版
 被告A@は、平成23年9月13日から平成24年9月10日までの間、原告の許諾なくして、別紙2「出版物一覧(平成23年9月13日から本訴状送達日前日まで)」記載の書籍104点(以下「本件書籍2−1」〜「本件書籍2−104」といい、合わせて「本件書籍2」という。)を出版した。
 本件書籍2は、いずれも原告が独占的利用権を有する本著作物に含まれる。
 原告は、被告A@の無断出版により、本件書籍2の出版事業を独占的に利用することができなくなり、本件独占的利用権を侵害された。
ウ 被告A@の故意
(以下の事実は、被告A@の故意を基礎付ける事実として主張するものであり、独立の不法行為を主張するものではない。)
(ア) 本件基本合意の締結
 原告、被告AA及び被告A@は、平成22年2月9日、本件基本合意を締結した(甲8、75)。その骨子は、@原告が被告A@に対して本件基本合意の有効期間中、原告が許諾した本著作物を利用し出版することを許諾すること(1条1項)、A被告AAは本件独占的利用許諾契約に基づき、作画家などの関係著作権者若しくは第三者からの権利主張、異議、苦情、損害賠償請求等が生じないよう、被告AAの責任において権利処理すること、B被告A@は原告と、出版物ごとに個別の出版契約書を取り交わすこと(3条1項)、C被告A@が上記出版契約書に基づいて被告AAの著者印税を原告に支払い、原告はその2割を被告AAに支払うこと(2条)、D本件基本合意の有効期間は2年間とし、原告、被告AA又は被告A@のいずれかが契約期間満了の3か月前までに文書により契約の終了を通知しない場合は、同一の条件をもって2年間ずつ延長されること(4条)、E原告、被告AA又は被告A@は、相手方が本件基本合意を継続しがたい重大な背信行為を行った場合、書面による通知をもって本件基本合意を解除できること(5条)などである。
(イ) 被告A@による「乾いて候」の無断出版
 被告A@は、平成23年9月12日、本件基本合意3条1項に違反して、原告と個別出版契約書を取り交わすことなく、本著作物に含まれる被告AAの著作物である「乾いて候」を出版した。
(ウ) 本件基本合意の解除
 原告は、被告A@に対し、平成23年9月12日、上記(イ)の行為が本件基本合意を継続しがたい重大な背信行為に当たるとして、本件基本合意を解除することを通知した(甲11)。
(エ) 被告A@は、被告AAと原告との間の本件独占的利用許諾契約の存在を知っており、原告から本件基本合意を解除する旨の通知も受けている。したがって、被告A@は、原告に無断で本件書籍2を出版することが、原告の本件独占的利用権を侵害することを明確に認識していたのであり、被告A@の原告に対する債権侵害は故意によってなされたものである。
エ 損害
 被告A@の本件独占的利用権を侵害する本件書籍2の無断出版により、原告は、被告A@から得べかりし印税相当額2134万3200円の損害を被った。
オ 被告ABの被告A@代表取締役としての不法行為責任
 被告ABは、上記イの平成23年9月13日から平成24年9月10日までの間、被告A@の代表取締役を務めていたのであり(甲2)、上記イの債権侵害は、被告A@の代表取締役である被告ABが、その職務を行うにつき不法行為をして原告に損害を加えたため、被告A@がその賠償責任を負うものであるから、代表取締役である被告ABも連帯して損害賠償責任を負う。
カ よって、原告は、被告A@及び被告ABに対し、原告の本件独占的利用権を侵害した共同不法行為に基づき、2134万3200円及びこれに対する訴状送達日である、被告A@につき平成24年7月27日から、被告ABにつき同月28日から、各支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(なお、原告は、訴状において、訴状送達日からの遅延損害金の請求をした後、本件書籍2の最後の発行日が平成24年9月10日である旨の主張をしたが、遅延損害金の起算日を繰り下げなかった。)。
(3) 被告AA、被告AB、被告AC及び被告ADの共同不法行為に基づく請求(請求の趣旨第3、4項)
ア 本件独占的利用許諾契約及び被告AAからAGに対する代理権授与等
 上記(1)ア、イと同じ。
イ 被告AAからKK TRIBEに対する著作権譲渡
 被告AAは、平成20年4月9日、株式会社KK TRIBE(以下「KK TRIBE」という。)に対し、本著作物に含まれる著作物である「子連れ狼」、「忘八武士道」、「首斬り朝」、「修羅雪姫」、「オークションハウス」、「御用牙」及び「盗撮影手パパラッチ」(以下「本件7作品」という。)についての著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)を譲渡し、同年8月12日、かかる譲渡について著作権法に基づく登録がなされた(甲12〔枝番のあるものは枝番を含む。以下同じ〕)。
 原告の本件独占的利用権は、KK TRIBEが著作権譲渡登録を経た後も、依然として被告AAに対する債権として効力が残存している。
 原告は、被告AA及びKK TRIBEによる上記著作権譲渡により、上記各著作物を独占的に利用することができなくなり、本件独占的利用権を侵害された。
ウ 被告AAのKK TRIBEに対する著作権譲渡の登録は、譲渡契約が平成23年4月27日に解除されたとして、同年11月4日抹消された(甲12)。
エ 被告AAから被告ACに対する著作権譲渡
 被告AAは、平成23年5月10日、被告ACに対し、本件7作品についての著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)を譲渡し、同年11月4日、かかる譲渡について著作権法に基づく登録がなされた(甲12、72)。
 原告の本件独占的利用権は、被告ACが著作権譲渡登録を経た後も、依然として被告AAに対する債権として効力が残存している。
 原告は、被告AA及び被告ACによる上記著作権譲渡により、上記各著作物を独占的に利用することができなくなり、本件独占的利用権を侵害された。
オ 被告AAの故意
 被告AAは、本件独占的利用許諾契約の当事者であるから、上記イ、エの著作権譲渡が原告の本件独占的利用権を侵害することを明確に認識していたのであり、被告AAの原告に対する債権侵害は故意によってなされたものである。
カ KK TRIBE及び被告ADの故意
 上記イの著作権譲渡の当時(平成20年4月9日)、KK TRIBEの代表取締役は被告ADであり(甲5)、被告ADは、平成19年6月5日から平成20年10月14日まで原告の取締役を務めていた(甲1)。そのため、被告ADは、被告AAと原告との間で本件独占的利用許諾契約が締結されていることを知っており、上記イの著作権譲渡が原告の本件独占的利用権を侵害することを明確に認識していた。したがって、KK TRIBEの原告に対する債権侵害は故意によってなされたものである。
 上記イの不法行為は、KK TRIBEの代表取締役である被告ADが、その職務を行うにつき不法行為をして原告に損害を加えたため、KK TRIBEがその賠償責任を負うものであるから、代表取締役である被告ADも損害賠償責任を負う(なお、KK TRIBEは、平成23年6月30日株主総会決議により解散している。)。
キ 被告AC及び被告ABの故意
 上記エの著作権譲渡の当時(平成23年5月10日)、被告ACの代表取締役は被告ABであり(甲3)、被告ABは被告A@の取締役も務めていた(甲2、4)。そのため、被告ABは、被告AAと原告との間で本件独占的利用許諾契約が締結されていることを知っており、上記エの著作権譲渡が原告の本件独占的利用権を侵害することを明確に認識していた。したがって、被告ACの原告に対する債権侵害は故意によってなされたものである。
 上記エの不法行為は、被告ACの代表取締役である被告ABが、その職務を行うにつき不法行為をして原告に損害を加えたため、被告ACがその賠償責任を負うものであるから、代表取締役である被告ABも連帯して損害賠償責任を負う。
ク 損害
(ア) 原告の「子連れ狼」映画化事業
 原告は、本件各事業の一つの事業として、本著作物に含まれる著作物である「子連れ狼」の映画化を企画し、平成20年10月29日、米国法人シーエスデヴコ・エルエルシー(CS Devco, LLC。以下「CSデヴコ」という。)との間で、「子連れ狼」に関する取引基本合意書(「子連れ狼」)」(甲13、21)により、以下の合意を締結した。その骨子は、@初回オプション報酬は12か月間の初回オプション期間における選択権の対価として2万5000米ドル以上7万5000米ドル以下の額とし、初回オプション期間は正式な契約の署名かCSデヴコによるチェーン・オブ・タイトル(正当な権利者から途切れることなく権利が譲渡され又は許諾されること)の承認のいずれか遅い時点に開始して、そのときに(CSデヴコから原告に)初回オプション報酬が支払われること、ACSデヴコは、さらに2万5000米ドル以上7万5000米ドル以下の額の第2オプション報酬を支払うことにより、初回オプション期間をさらに12か月間延長することができること、B原告はCSデヴコに対し、オプション期間において、「子連れ狼」の全ての権利等を「購入」(原告は、被告AAから許諾を受けた独占的利用権に基づきCSデヴコに権利を許諾することを予定していたものである。)する選択権を付与すること、C「子連れ狼」の全ての権利等の購入価格は100万米ドルとすること、D原告は映画の純利益の5%相当額を受領することなどである。
(イ) 「子連れ狼」の映画化の中断
 上記イ、エの著作権譲渡登録のため、原告は現在までCSデヴコによるチェーン・オブ・タイトルの承認を得ることができず、正式契約を締結することができずにいる。原告は、上記イ、エの著作権譲渡がなければ、CSデヴコによるチェーン・オブ・タイトルの承認を得られ、原告とCSデヴコとの間で正式契約が締結されて、CSデヴコが「子連れ狼」を映画化することにより、映画の純利益の5%相当額を含めないとしても、少なくとも100万米ドルの対価が得られたはずである。したがって、原告の得べかりし利益である100万米ドルが、上記イ、エの不法行為と因果関係のある損害である。
(ウ) 原告の「子連れ狼」のテレビドラマ化事業
 原告は、平成20年3月頃、株式会社アクトエンタープライズから、本著作物に含まれる著作物である「子連れ狼」のテレビドラマ化の提案を受けた。そこで、原告は、本件独占的利用権に基づき株式会社フジテレビジョン(以下「フジテレビ」という。)に権利を許諾することにより、「子連れ狼」をテレビドラマ化することに応じることとし、フジテレビは「子連れ狼」のテレビドラマ化を決定し、平成23年夏頃にはシナリオが完成し、主演をAHとするなどのキャスティングも決定して、同年11月からのクランクインのスケジュールも決定した。
(エ) 「子連れ狼」のテレビドラマ化の中止
 平成23年11月頃、上記エの著作権譲渡が判明し、平成23年11月28日、フジテレビからの申し入れにより「子連れ狼」のテレビドラマ化は中止となった。
 上記エの著作権譲渡がなければ、「子連れ狼」がテレビドラマ化され、原告がフジテレビから支払われるはずであった許諾料相当額は170万円を下らず、原告の被った損害は同額を下らない。
(オ) 被告ACからラッキー17に対する譲渡
 被告ACは、上記エにより被告AAから譲り受けた「子連れ狼」の著作権につき、平成24年1月16日、米国法人ラッキー17フィルムズ・エルエルシー(Lucky 17 films, LLC。以下「ラッキー17」という。)に対し、同日から平成26年4月19日までの間に譲渡担保契約による著作権(翻案権)のうち実写映画権及びこれから派生した実写テレビドラマシリーズ化権を譲渡した(甲12の1、甲74)。
 被告ACがラッキー17から受領した権利譲渡の対価は、イニシャル・フィーに限っても50万米ドルを下らない。
 被告AA及び被告ACによる上記エの不法行為がなければ、ラッキー17に対する実写映画化権及びドラマシリーズ化権の許諾は原告が行い、その対価は原告が得ていたはずである。したがって、被告ACがラッキー17に対して権利を譲渡したことにより受領した対価相当額が、上記エの不法行為と因果関係のある原告の損害となる。
 上記(イ)のCSデヴコを通じた「子連れ狼」の映画化と、ラッキー17に対する権利の許諾は両立するものではないから、上記(イ)の損害とこの損害のいずれか小さい方の損害は大きい方の損害に包含される関係にある。
ケ 被告ADに対する原告の取締役としての責任(予備的請求)
上記イの著作権譲渡の当時(平成20年4月9日)、被告ADは原告の取締役であった(甲1)。
 被告ADが、KK TRIBEの代表取締役として被告AAから本件7作品の著作権の譲渡を受けた行為は、原告の取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反し、取締役としての任務を怠る行為でもある。
 被告ADの取締役としての任務懈怠行為により、原告は上記クの損害を被った。
コ よって、原告は、主位的には、
(ア) 被告AA、被告AB、被告AC及び被告ADに対し、上記イ、エの原告の本件独占的利用権を侵害した共同不法行為に基づく損害賠償として、連帯して、100万米ドル(被告AA、被告AB及び被告ACについては、選択的に50万米ドル)及びこれに対する訴状送達日である、被告AAにつき平成24年8月8日から、被告ABにつき同年7月28日から、被告AC及び被告ADにつき同月27日から、各支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金、
(イ) 被告AA、被告AB及び被告ACに対し、上記エの原告の本件独占的利用権を侵害した共同不法行為に基づく損害賠償として、連帯して、170万円及びこれに対する訴状送達日である、被告AAにつき平成24年8月8日から、被告ABにつき同年7月28日から、被告ACにつき同月27日から、各支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金、
の支払を求めるとともに、予備的に、
(ウ) 被告ADに対し、原告の取締役としての任務懈怠責任(会社法423条1項)に基づく損害賠償として、100万米ドル及びこれに対する訴状送達日である平成24年7月27日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(4) 被告AAの債務不履行に基づく請求(請求の趣旨第5項)
ア 被告AAと大成商事有限会社との間の著作物利用許諾契約
 被告AAは、平成16年8月3日、大成商事有限会社との間で「著作物およびキャラクターの商品化権に関する原作契約書」(甲15)を締結して、被告AAの著作物の商品化権を許諾し、その有効期間は平成21年8月3日までであった。
イ 旧公正証書契約
(ア) 原告と被告AAは、以下の内容の平成19年6月11日付け著作物独占的利用許諾契約(以下「旧公正証書契約」という。)を締結した(甲14、87)。
@ 被告AAは、平成19年11月26日付け「著作物利用に関する契約公正証書(甲14、87。以下「旧公正証書」という。)別紙著作物目録記載の著作物と今後制作される著作物(本著作物)を原告が利用して日本あるいは海外において本件各事業に独占的に利用することを許諾する(1条、2条1項)。
A 前項の規定にもかかわらず、被告AAが旧公正証書契約前に商品化権ないし配信権を許諾している、大成商事有限会社(PTS)に対して許諾した被告AAの作品の商品化権(パチンコ、パチスロ及びこれらの周辺機器を含む。)については、被告AAにおいて使用許諾契約期間満了と同時に旧公正証書契約の対象となる事項に含むものとして取り扱うこととし、その具体的条件については個別に原告と被告AA間で協議して決定する(2条4項1号)。
(イ) 原告の代理人であるAF弁護士及び被告AAの代理人であるAI(以下「AI」という。)は、平成19年11月26日付け旧公正証書の作成を公証人に嘱託して、旧公正証書契約と同内容の平成19年6月11日付け著作物独占的利用許諾契約を締結した(甲14、87)。
(ウ) 原告は、平成19年11月2日付けで、AF弁護士に対し、旧公正証書契約を締結する代理権を授与した(甲87)。
 被告AAは、平成19年10月26日付けで、旧公正証書契約を締結する代理権をAIに授与した(甲37、87)。
(エ) 旧公正証書契約により、被告AAは、原告に無断で上記アの利用許諾期間を延長させない義務を負担した。
ウ 被告AAのPTSに対する利用許諾期間延長
 被告AAは、平成19年9月27日、大成商事有限会社の契約上の地位を承継した株式会社PTS(以下「PTS」という。)との間で、原告に無断で、平成21年8月3日までとされていた上記アの利用許諾期間を15年間延長し、平成36年8月3日までとすることを合意した(甲16)。
 これは、旧公正証書契約に基づき被告AAが負担した上記イ(エ)の義務の債務不履行に当たる。
エ 旧公正証書契約は、平成20年1月25日、本件独占的利用許諾契約締結のために合意により解約されているが(甲18、22)、同日に締結された本件独占的利用許諾契約にも上記イ(ア)Aと同様の定めがあり(甲6・2条4項)、合意解約前の債務不履行により生じた原告の損害賠償請求が否定されるものではない。
オ 損害
(ア) PTSは、平成19年2月14日、被告AAから利用許諾を受けた権利を株式会社平和(以下「平和」という。)に再許諾し(甲17)、平和は、PTSに対し、3年間の有効期間中、「子連れ狼」、「修羅雪姫」、「花平バズーカ」及び「弐十手物語」のタイトル、キャラクターの形状等を、日本及び大韓民国において遊技機に使用することを許諾された対価として、「子連れ狼」については半金で4000万円(消費税別)(別途の覚書により独占的利用許諾に変更された後に残りの半金4000万円)、「修羅雪姫」について6500万円(消費税別)、「花平バズーカ」につき3200万円(消費税別)、「弐十手物語」について4000万円(消費税別)の合計1億7700万円(「子連れ狼」についての残りの半金を含めず)を支払うとされており、さらに、遊技機の販売台数に応じて追加の利用料を支払うとされている。
(イ) 原告は、被告AAによる上記ウの債務不履行がなければ、平成21年8月4日から平成36年8月3日までの15年間、原告が被告AAの著作物の商品化権を第三者に許諾できていたはずである。
 4作品についての3年間の利用許諾の対価が少なくとも1億7700万円であるから、15年間にかかる4作品及びその他の被告AAの著作物の商品化権を第三者に許諾できていたときに得べかりし利益は1億7700万円を下らない。原告は、被告AAの上記ウの債務不履行により、同額の損害を被った。
(ウ) 原告は株式会社であり、旧公正証書契約に基づく債務は商行為によって生じた債務であるから、その債務不履行に基づく損害賠償債務も商行為によって生じた債務である。
カ よって、原告は、被告AAに対し、旧公正証書契約上の義務の債務不履行に基づく損害賠償の一部請求として、8000万円及びこれに対する訴状送達日である平成24年8月8日から支払済みまでの商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(5) 被告AAに対する金銭消費貸借契約に基づく請求(請求の趣旨第6項)
ア 平成19年9月26日付け貸付
 原告は、被告AAに対し、平成19年9月26日、弁済期の定めなく、3000万円を、三井住友銀行麹町支店の原告名義(被告AE株式会社名義)の預金口座から三菱東京UFJ銀行都立大学駅前支店の被告AA名義(AA名義)の預金口座に振込送金することにより貸し付け(甲19)、被告AAは返還することを約してこれを受領した。
イ 平成19年10月17日付け貸付
(ア) 原告は、被告AAに対し、平成19年10月17日、弁済期の定めなく、1500万円を、三井住友銀行麹町支店のB@名義の預金口座から三菱東京UFJ銀行都立大学駅前支店の被告AA名義(AA名義)の預金口座に振込送金することにより貸し付け(甲20)、被告AAは返還することを約してこれを受領した。
(イ) 上記の振込送金がB@名義でなされたのは、当時原告がB@に対して1500万円の立替金債権を有していたことから、B@が原告に同額を弁済することに代えて、原告の被告AAに対する貸付金として、同額を被告AAの預金口座に振込送金したものである。
ウ 平成19年11月28日付け貸付
 原告は、被告AAに対し、平成19年11月28日、弁済期の定めなく、500万円を、現金で交付することにより貸し付け、被告AAは返還することを約してこれを受領した。
エ 原告は、平成24年8月8日被告AAに送達された本件訴状により、上記ア〜ウの貸金の返還を催告した。
オ 不当利得返還請求(予備的請求)
 仮に、被告AAが、上記ア〜ウの金銭の受領につき返還約束をしていなかった場合、原告は、被告AAに対し、法律上の原因なくして上記ア〜ウの合計5000万円の金銭を受領したことになり、被告AAはこれにより同額の利益を受け、原告は同額の損失を被った。
 被告AAは、上記ア〜ウの時点で悪意の受益者である。
カ よって、原告は、被告AAに対し、主位的には、
(ア) 金銭消費貸借契約に基づき、貸金合計5000万円及びこれに対する訴状送達日である平成24年8月8日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、
予備的には、
(イ) 不当利得返還請求権(民法703条、704条)に基づき、5000万円及び、うち3000万円に対する受益の日の翌日である平成19年9月27日から、うち1500万円に対する受益の日の翌日である同年10月18日から、うち500万円に対する受益の日の翌日である同年11月29日から、各支払済みまでの年5分の割合による法定利息の支払を求める。
(6) 被告AAに対する不当利得返還請求(請求の趣旨第7項)
ア 原告は、平成19年6月14日、原告の取締役であったBA名義で、被告AAの口座に5000万円を送金した(甲7)。
イ 原告は、平成19年6月20日、原告の代表取締役であるBB名義で、被告AAの口座に5000万円を送金した(甲7)。
 上記ア、イの振込名義がBA及びBB名義となったのは、原告が新株発行により被告AAに支払う2億円の原資を調達する予定であったが、被告AAが2億円の支払を急ぐよう求め、資金調達が間に合わなかったことから、原告の代表者であるBB(以下「BB」という。)及び原告の取締役であるBAが立て替えて支払ったものである。BB及びBAが立て替えた各5000万円は、後に原告からBB及びBAに返還されている。
ウ 原告は、平成19年8月2日、被告AAの口座に5000万円を送金した(甲7)。
エ 原告は、平成19年8月20日、被告AAの口座に5000万円を送金した(甲7)。
オ 上記ア〜エの合計2億円は、本件独占的利用許諾契約による独占的利用権設定の対価である。
カ 仮に本件独占的利用許諾契約が無権代理ないし無効であれば、被告AAは、上記ア〜エの2億円を法律上の原因なくして利得し、原告は同額の損失を被っていることになる。
 被告AAは悪意の受益者である。
キ 仮に本件独占的利用許諾契約が解除された場合には、被告AAは、原告に対し、民法545条1項に基づき原状回復義務を負う。なお、継続的契約の債務不履行による解除は将来に向かった解除であるとしても、未だ独占的利用権が許諾されていない期間について受領した対価については原状回復義務を負う。
ク よって、原告は、上記(1)〜(4)の請求の予備的請求として、被告AAに対し、不当利得返還請求権(民法703条、704条)又は解除による原状回復請求権(民法545条)に基づき、2億円及び、うち5000万円に対する受益の日の翌日である平成19年6月15日から、うち5000万円に対する受益の日の翌日である同月21日から、うち5000万円に対する受益の日の翌日である同年8月3日から、うち5000万円に対する受益の日の翌日である同月21日から、各支払済みまでの年5分の割合による法定利息の支払を求める。
2 請求原因に対する被告AAの認否、抗弁
(1) 請求原因(1) 被告A@及び被告AAの共同不法行為に基づく請求(請求の趣旨第1項)について
ア 本件独占的利用許諾契約
 原告と被告AAが本件独占的利用許諾契約を締結したことは否認する。
 本件公正証書に添付されている「著作物利用に関する契約書」(甲88・30〜52頁)には被告AA名下の押印があるが、被告AAが押印したことは否認する。
 同契約書の作成日付は、解約覚書(甲18、22)の作成日付と同日の平成20年1月25日であり、文書の体裁も、自署ではなくあらかじめワープロ打ちされ、押印欄が同じ大きさの円定規を用いた丸で囲んであるとの共通点がある。   したがって、原告は、同契約書を作成した日(同年1月25日)において、被告AA名義の印章を使用、押印することができ、同契約書は被告AAの関与なしに作成されたものと推認される。
 したがって、同契約書は、被告AAの関与なしに作成されたものといえる。
イ 被告AAのAGに対する代理権授与等
(ア) 被告AAのAGに対する代理権授与は否認する。被告AAは、AGに対する委任状(甲88・29頁、乙イ1の1)に押印しておらず、同委任状の印影が被告AAの印章により顕出されたことも否認する。
 同委任状の作成日付も、解約覚書(甲18、22)の作成日付と同日の平成20年1月25日であり、文書の体裁も、自署ではなくあらかじめワープロ打ちされ、押印欄が同じ大きさの円定規を用いた丸で囲んであるとの共通点がある。したがって、原告は、同委任状を作成した日においても、自由に被告AA名義の押印ができた可能性が高く、同委任状は、被告AAの関与なしに作成されたものである。
(イ) 実質的自己契約
 また、本件公正証書は、原告が、自己の従業員(AG)に対し、契約相手(被告AA)の代理人となることを業務命令として指示し、作成したものである。それゆえ、相手方当事者から委任を受けた代理人(AG)による公正証書作成の代理行為は、当事者本人(被告AA)の利益を害するおそれがある場合に該当する。したがって、本件公正証書の作成は、実質的に民法108条本文が規定する自己契約に該当し、無効である。
(ウ) 追認の主張はいずれも否認する。
 原告が真正に成立すると主張する乙イ1の1及び2の委任状(ただし、被告AAらは、これらが真正に成立したことを争っている。)の記載内容によれば、各委任の内容は、各委任状別紙契約の趣旨の契約を締結する代理権ではなく、各委任状別紙契約の公正証書を作成する事実行為と考えるのが合理的である。
 また、本件公正証書(甲6、88)では、「本公証人は、当事者の嘱託により、次の法律行為に関する陳述の趣旨を録取し、この証書を作成する」と記載されており、AGとAF弁護士が、代理権授与に基づく本件独占的利用許諾契約を締結していないことは明らかである。
 したがって、無権代理人による法律行為が存在しないので、原告が追認を主張する各事実は民法113条1項の「追認」に該当せず、「契約の時にさかのぼって効力が生ずる」(同法116条本文)ことはない。
@ 被告AAが「解約覚書」(甲18、22)を取り交わした事実はないが、平成20年2月18日に作成された本件公正証書による本件独占的利用許諾契約の締結を、それより以前の平成20年1月25日に「追認」したとの主張は理解できない。
A 解除通知書(甲54)は、被告AAの代理人であったBC弁護士が作成したものであるが、この通知書は解除に主眼がある上、その時点では正確な事実関係を把握していなかったのではないかと想像される。
B 確認書(甲64)、本件基本合意書(甲8、75)、本件印税合意書(甲66)は、原告の執筆妨害行為により被告AAの収入がなくなり、原告の威迫の中、収入確保を主眼として作成した文書であり、本件公正証書による本件独占的利用許諾契約の有効性を追認する趣旨ではない。
ウ 被告A@による本件書籍1の無断出版
 被告A@が本件書籍1を出版したことは争わないが、被告AAは本件独占的利用許諾契約を締結した認識がなく、「原告に無断で」違法に出版したわけではない。
エ 被告A@の故意
 被告AAが平成20年1月25日から平成22年6月30日までの間被告A@の代表取締役であったことは認めるが、被告AAは本件独占的利用許諾契約を締結した認識がなく、被告A@に原告の債権を侵害する故意はなかった。
オ 損害
 争う。
カ 被告AAの被告A@代表取締役としての不法行為責任
 被告AAが平成20年1月25日から平成22年6月30日までの間被告A@の代表取締役であったことは認めるが、被告A@及び被告AAが損害賠償責任を負うとの主張は争う。
キ 本件独占的利用許諾契約の公序良俗違反
(ア) 契約の範囲が無限定であり、利用期間が極めて長いこと
 本件独占的利用許諾契約の内容は、対象となる著作物につき、「甲[被告AA]の著作に係る別紙著作物目録記載の各著作物並びにその原案、原作、脚本、構成を含む各著作物と今後制作される著作物」と定めている(甲6・1条)。これは、内容が包括的であるだけでなく、将来、被告AAが著述する現在未完成の著作物まで一切含む点で、著作物の特定が抽象的、かつ、無限定である。
 また、本件独占的利用許諾契約において、原告の利用期間は、「本著作物に係る全ての著作物の著作権の存続期間が満了するまで」(甲6・6条)、すなわち、著作者の死後50年(著作権法51条2項)と極めて長期間である。
 以上から、本件独占的利用許諾契約の内容は、被告AAにとって、過去のほぼすべての著作物と将来、著述するすべての著作物を、作成時から同人の死後50年まで、著作者自身が自由に利用できず、原告が独占的に利用することを許諾したという内容になっている。
 もともとの利用許諾期間である3年間(乙イ2・5条1項)から、著作者の死後50年の期間に、被告AAに不利益な方向に一方的に変更されており、不当に強力な拘束である。
(イ) 対価や許諾料の定めが一切ないこと
 本件利用許諾契約の内容には、原告の利用許諾に対する「対価」の記載条項がなく、また、原告が本著作物を利用した際の、被告AAに対する許諾料の支払いについて、何らの定めがない。
 この意味で、契約の主要な要素が欠落した契約書であるといえる。
(ウ) 契約解除事由や中途解約権が明記されておらず、不利益を受ける一方当事者を不当に長期間拘束する内容である。
 上記(ア)ないし(ウ)から、本件使用許諾契約は、まさに「人身拘束」的、「奴隷契約」的な内容であり、公序良俗に違反し(民法第90条)、無効な内容である。
ク 本件独占的利用許諾契約の解除
(ア) 原告による被告AAの本著作物利用妨害、連載執筆妨害
a 日本経済新聞連載妨害事件
 平成21年、被告AAは、親鸞聖人に関する作品を創作し、日刊新聞紙初の連載劇画として、同年5月、日本経済新聞において、「結い 親鸞」と題する劇画作品の連載を開始した(乙イ3、4)。
 原告は、同年5月末、日本経済新聞社に面会を申し入れ、本件公正証書を示して、自らが著作権者であるとの虚偽の主張、刑事告訴する旨を告知し、連載の中止を要求した(乙イ5)。
 このため、日本経済新聞は、被告AAの連載を休止(実質中止終了)した(乙イ6)。
b 「御用牙」舞台上演中止要求事件
 平成21年3月、星野事務所が、被告AAの了解を得て、被告AAの著作物である「御用牙」の舞台化上演(紀伊国屋サザンシアター)を行おうとしたところ、原告は、自らが著作権者であると主張し、上演中止要求を行った(上演は行われた)。
c 原告は、平成21年頃、自らが本著作物の著作権者であり、原告の許諾がなければ、本著作物は出版することも、ドラマ化・舞台化などの二次利用することもできないと、関係各所に主張した。
 このため、日本経済新聞社をはじめ、大手メディア・出版社等の取引先は、原告とのトラブルに巻き込まれることを回避し、本著作物の出版や二次利用をやめてしまった。
d 上記のとおり、原告は、被告AAによる本著作物の利用を妨害し、被告AAの連載執筆活動を妨害する行動に出続けたのである。原告の行為は、被告AAの意思に反し、同人に不利益を与える行為であり、信任関係を前提とする著作物利用許諾契約の信頼関係を破壊し、著作権者からの契約解除事由となることは明らかである。
(イ) 原告の報告義務違反
 本件独占的利用許諾契約によれば、原告は、被告AAから許諾された本著作物を利用し、本件各事業を実施する場合、被告AAにその内容を報告する義務を負っている(甲6・3条1項)。
 しかるに、原告は、本件公正証書作成以降、被告AAに対し、報告を行っていない。
 CSデヴコとの映画化の話、フジテレビとの「子連れ狼」テレビドラマ化の話などは、被告AAに一切の相談や報告なしに原告が進めたものである。
(ウ) 被告AAに対する印税不払及び報告のない出版許諾
 本件公正証書(甲6、88)作成後の平成20年3月分から、本件基本合意書(甲8、75)の作成後の平成22年8月分までの間、原告は、被告AAに対して、一切印税を支払っていなかった。
 また、原告は、平成25年8月29日付け準備書面(7)において主張するまで、被告AAに対する報告や印税の支払をすることなく、出版許諾を行っていた。
(エ) 原告による出版拒否
 原告は、平成23年9月12日、作画家(亡BD)の出版許諾を得ていないことを理由に、被告A@による「乾いて候」の出版許諾申出を拒否し、本件基本合意の解除を通知した(甲11)。しかし、被告A@は、『乾いて候』及び『子連れ狼』の作画家である故BD先生の遺族(著作権承継者)から、適正に出版許諾を得ている(乙イ11)。
 したがって、原告による被告A@への上記非難は言いがかりであり、原告は、本件基本合意の解除通知を行うことで、被告AA及び被告A@に対し、収入源の断絶を意図して、嫌がらせ行為を行ったものと考えられる。
(オ) 原告による刑事告訴
 原告は、被告AAに対し、2億円詐取の詐欺罪で刑事告訴したと述べたり、被告A@の従業員を使って、「従わなければ、すぐに逮捕されるぞ」「今、警察が会社の前にきています。小池先生はすぐに逃げてください」などと(虚偽の)脅かしを行い、被告AAを精神的に追い詰めていった。しかし、平成21年12月の刑事告訴以来、3年6か月が経過しても、被告AAに対し、警察署からの連絡は一切ない。
 著作物の利用許諾を受けている者が著作権者を刑事告訴すること自体、委任契約における信任関係を著しく破壊する加害行為である。
(カ) 原告による著作権譲渡の強要
 原告は、被告AAに対し、被告AAの著作物の著作権を譲渡した旨の文書にサインするよう強要し、被告AAは、これを断りつづける状態が続いた。周りを取り囲まれた上、腕を押さえられて、ペンを握らされ、署名するよう強く威迫されたこともあった。乙イ15の1〜3、乙イ16の1・2は、いずれも原告が作成し、被告AAに署名押印を強要した文書である。
(キ) 映画化事業を妨害
 原告は、被告ADの映画化事業を妨害する意図のもと、形だけCSデヴコとの契約書(甲13、21)を2通作成した。
 また、原告は、被告AA及び被告ACがラッキー17と進めているハリウッドの実写映画化事業に対しても、CSデヴコとの契約を理由に中止を要求した。
 このように、原告は、CSデヴコとの契約書(甲13、甲21)との契約書を理由に、被告ADによるハリウッド映画化事業、被告ACによる実写映画化事業を妨害する言動をとりつづけている。同言動は、著作権者である被告AAとの関係で、信頼関係を破壊するものである。
(ク) 本件独占的利用許諾契約の解除
 被告AAは、平成23年9月15日、原告に対し、本件独占的利用許諾契約の公序良俗違反による無効を通知し、念のため、不利益行為及び債務不履行(報告義務違反、印税支払義務違反)に基づき本件独占的利用許諾契約を解除する旨を通知した(乙イ7。以下「本件解除通知」という。)。
 本件独占的利用許諾契約は、著作権者である被告AAと原告との間の準委任契約(民法656条)であり、被告AAと原告との間の信頼関係を基礎として成り立っていることから、任意解除権(民法651条1項)が放棄されている場合でも、やむを得ない事由があるときは被告AAからの解除が可能であると解される。
 上記解除の意思表示は、民法651条1項に基づく任意解除及びやむを得ない事由に基づく解除の趣旨を含んでいる。
 本件独占的利用許諾契約は、著作権者である被告AAと原告との間の準委任契約(民法656条)であり、被告AAと原告との間の信頼関係を基礎として成立するものであるから、民法541条以下による債務不履行を理由とする解除とは異なり、催告は不要である。
 仮に催告が必要だとしても、相当期間の経過により、解除は有効である。
(2) 請求原因(3) 被告AA、被告AB、被告AC及び被告ADの共同不法行為に基づく請求(請求の趣旨第3、4項)について
ア 本件独占的利用許諾契約及び被告AAからAGに対する代理権授与等
 認否は上記(1)ア、イと同じ、抗弁は上記(1)キ、クと同じ。
イ 被告AAからKK TRIBEに対する著作権譲渡
 被告AAからKK TRIBEに対する著作権譲渡は認め、原告の本件独占的利用権が侵害されたとの主張は争う。
ウ 被告AAのKK TRIBEに対する著作権譲渡の登録が契約解除により抹消されたことは認める。
エ 被告AAから被告ACに対する著作権譲渡
 被告AAから被告ACに対する著作権譲渡は認め、原告の本件独占的利用権が侵害されたとの主張は争う。
オ 被告AAの故意
 被告AAの故意は否認する。
カ 「ク 損害」について
 原告の事業は不知、損害の主張は争う。被告AAは原告の事業につき報告を受けていない。
 なお、原告とCSデヴコとの間の取引基本合意書(甲13、22)には、原告が署名位置の異なる2通の契約文書を所持していること(甲13の1、甲22)、押印もなく署名も誰のものか判別できないこと、日付について、一般に米国人は「月/日/年」の順、すなわち「12/10/2008」と書くのに「2008/12/10」と記載されていることなどの疑問点がある。
(3) 請求原因(4) 被告AAの債務不履行に基づく請求(請求の趣旨第5項)について
ア 被告AAと大成商事有限会社との間の著作物利用許諾契約
 認める。
イ 旧公正証書契約
(ア) 原告と被告AAが旧公正証書契約を締結したことは否認する。
 被告AAは、原告との間で、平成19年6月11日付け「著作物利用に関する契約書」(乙イ2)を取り交わしたことはある。同契約書にも、原告主張の請求原因(4)イ(ア)Aと同様の定めはあった(乙イ2・1条4項1号)。
(イ) AF弁護士とAIが、原告及び被告AAの代理人として旧公正証書契約を締結したことは否認する。
 甲37、甲87・18頁の委任状の記載によれば、各委任の内容は、別紙契約の趣旨の契約を締結する代理権ではなく、別紙契約の公正証書を作成する事実行為と考えるのが合理的である。
 また、旧公正証書(甲14、87)では、「本公証人は、当事者の嘱託により、次の法律行為に関する陳述の趣旨を録取し、この証書を作成する」と記載されており、AI及びAF弁護士が代理権授与に基づき旧公正証書契約を締結していないことは明らかである。
(ウ) 旧公正証書(甲14、87)の作成の嘱託を委任する被告AAからAI宛ての委任状(甲37、甲87・18頁)があるが、被告AAは、AIに代理権を授与したことはない。
 被告AAは、明確な記憶はないが、委任状(甲37、甲87・18頁)が真正なものであれば、おそらく平成19年6月11日付け「著作物利用に関する契約書」(乙イ2)を公正証書にするという説明を受けて、自署押印したものと思われる。
 しかし、被告AAは、AIという人物を知らず、自署時に同委任状にAIの名前は記載されていなかったと思われる。
 また、甲87・19〜28頁の平成19年6月11日付け「著作物利用に関する契約書」は添付・契印されていなかったのではないかと思われる。
 平成19年6月11日付け「著作物に関する契約書」(乙イ2)をよく読むと、そこでの「本著作物」の内容は「甲の著作物に係る別紙著作物目録記載の各著作物」とされ(ただし、別紙は添付されていない。)、「今後制作される著作物」は含まれていない。
 これに対し、旧公正証書(甲14、87)の本著作物の内容は「甲の著作に係る別紙著作物目録記載の各著作物と今後制作される著作物」が一緒に含められている。
 すなわち、平成19年6月11日付け「著作物利用に関する契約書」と旧公正証書とでは、「本著作物」の対象が同一ではなく、異なっている。
 つまり、旧公正証書は、委任状に添付されている契約書(甲87・19〜28頁)の内容と相違し、権限を踰越して作成されたことになる。
 さらに、平成19年6月11日付け「著作物利用に関する契約書」第1条1項(1)には、「乙(原告)がデジタル著作物を作成すること」と明記され、(2)ないし(4)においても「デジタル著作物」が対象となっている。
 すなわち、原告が被告AAから独占的利用許諾を受けたのは、「デジタル著作物」に限定されたものであり、それ以外の通常の出版事業は、それまでどおり、被告A@において自由に行うことが当然の前提となっていた。
(エ) 被告AAが、原告に無断で大成商事有限会社ないしPTSの利用許諾期間を延長させない義務を負担したとの主張は争う。
ウ 被告AAのPTSに対する利用許諾期間延長
 被告AAとPTSとの合意は認め、それが原告に対する債務不履行であるとの主張は争う。
エ 旧公正証書契約が合意解約されたとの事実は否認する。被告AAは、解約覚書(甲18、22)に押印しておらず、同覚書の印影が被告AAの印章により顕出されたことも否認する。同覚書には、原告が押印位置の異なる2通の文書を所持していること(甲18、22)等の疑問がある。
オ 損害
 不知ないし争う。
(4) 請求原因(5) 被告AAに対する金銭消費貸借契約に基づく請求(請求の趣旨第6項)について
ア 平成19年9月26日付け貸付
 原告から3000万円の送金を受けたことは認め、これが貸金であること、返還約束は否認する。
イ 平成19年10月17日付け貸付
 B@から1500万円の送金を受けたことは認め、これが原告による貸金であること、返還約束は否認する。
ウ 平成19年11月28日付け貸付
 平成19年11月28日に原告から現金交付を受けたこと及び返還約束は不知(記憶にない。)。
エ 原告が本件訴状により催告をしたことは認めるが、その効果は争う。
オ 弁済の抗弁
 仮に上記アないしウにおける原告に対する貸金債務が存在したのであれば、原告が督促しないとは考えられず、被告AAは早期に返済しているはずである。
カ 不当利得の主張は争う。
(5) 請求原因(6) 被告AAに対する不当利得返還請求(請求の趣旨第7項)について
 被告AAが原告から合計2億円の資金提供を受けた事実は認め、これが本件独占的利用権設定の対価であることは否認し、不当利得であるとの主張は争う。
 当時の事実関係を前提にすると、上記2億円は、
@ 原告が、被告AAの名前を冠したマンガ家養成塾を開業するための 承諾料・名称使用料、
A 原告が、乙イ2の内容(同契約書別紙の著作物についての3年間の独占的利用許諾)で、被告AAの著作物の著作権の利用許諾を受け、二次使用等の権利許諾ビジネスを行うことの許諾料・契約金、
B 原告代表者の被告AA及び関係会社の窮状に対する個人的なパトロネージ(=芸術活動に対する精神的・経済的支援)という複合的な性格を有する資金提供であったものと考えられる。
 なお、被告AAは、原告から、役員報酬、劇画村塾の講師料を一切受領しておらず、Cこれら役務提供に対する包括的な前払金という意味合いもあったと思われる。
 したがって、上記2億円の受領には法律上の原因があり、被告AAが返還義務を負う理由はない。
 被告AAの悪意は否認する。被告AAは、善意の利得者として、提供資金を被告A@その他の関係会社の運転資金(賃料・人件費)等に使っており、現に存する利益はない(民法703条)。
 継続的契約の債務不履行による解除は、遡及効のない、将来に向かった解除と解されるから、被告AAは原状回復義務を負うものではない上、過去の資金提供は原状回復の内容ではない。
(6) 相殺の抗弁(請求原因(1)、(3)ないし(6)に対して)
 請求原因(1)、(3)ないし(6)で、原告の被告AAに対する何らかの金銭請求が認められる場合、被告AAは、原告に対する以下の金銭債権を自働債権として、対当額で相殺する。
ア 原告に対する損害賠償債権
(ア) 原告は、平成21年5月以降、被告AAの執筆活動を妨害してきた。特に、上記(1)ク(ア)の日本経済新聞連載妨害事件は、被告AAに多大な経済的な損失を与えるものであった。
(イ) 平成21年、被告AAは、親鸞聖人に関する作品を創作し、日刊新聞紙初の連載劇画として、同年5月、日本経済新聞において、『結い 親鸞』と題する劇画作品の連載を開始した(乙イ3、4)。
 被告AAは、原告に対しても、新作を創作活動中であることを話していたが、原告は、同年5月末、突然、日本経済新聞社に面会を申し入れ、本件公正証書の存在を示して、自らが著作権者であると主張して抗議し、連載の中止を要求した(乙イ5)。
 このため、日本経済新聞は、被告AAの連載を休止(実質中止終了)した(乙イ6)。
(ウ) 原告による上記行為は、被告AAの執筆活動に対する不当な妨害であり、民法上の不法行為(709条)を構成するものである。
(エ) 執筆妨害による被告AAの直接の損害金額は、連載が支障なく継続していた場合の原稿料収入及びその後の単行本出版時の印税収入である。
@ 連載期間最短1年(週1回連載=50回)
A 原稿料1頁3万円×1回4頁×50回=600万円
B 印税 新聞4頁=単行本16頁分×50回=単行本800頁分=単行本3巻分
 単行本定価650円×印税5%×10万部=325万円
 325万円×3巻=975万円
 ※親鸞聖人を題材にしたテーマであり、浄土真宗門徒数から考えると、1冊10万部以上と見込まれた。
C その他アニメ化・映画化等の二次使用料も発生し得た。
D AとBの合計1575万円
(オ) 原告による被告AAに対する執筆妨害は、その後も断続的に続き、被告AAは社会的信用を毀損された。
 このため、被告AAへの原稿依頼や過去の作品の出版及び二次使用依頼が激減する経済的損害を現在なお被り続けている。
 平成21年6月から平成26年5月までの丸5年の間、少なくとも上記日経新聞の損害額(上記A及びB)の倍額の年間3000万円を下らない経済的損害が生じていると換算すれば、合計1億5000万円となる。
(カ) 以上のとおり、被告AAは、原告に対し、(エ)及び(オ)の合計1億6575万円の損害賠償債権を有しており、これを自働債権とし、被告AAの原告に対する金銭債務が存在する場合は、以下の順位(各主たる請求と附帯請求の順位付けは、いずれも主たる請求を先順位とする。)で被告AAの原告に対する金銭債務を受働債権として対当額で相殺する。
@ 原告の被告AAに対する消費貸借契約に基づく貸金返還請求権(5000万円及びこれに対する平成24年8月8日から支払済までの年5分の割合による遅延損害金。請求の趣旨第6項の主位的請求)
A 原告の被告AAに対する著作物利用許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権(8000万円及びこれに対する平成24年8月8日から支払済までの年6分の割合による遅延損害金。請求の趣旨第5項、一部請求)
B 原告の被告AAに対する独占的利用許諾権侵害に基づく損害賠償請求権(170万円及びこれに対する平成24年8月8日から支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金。請求の趣旨第4項。)
C 原告の被告AAに対する独占的利用許諾権侵害に基づく損害賠償請求権(100万米ドル及びこれに対する平成24年8月8日から支払済までの年5分の割合による遅延損害金。請求の趣旨第3項。)
D 原告の被告AAに対する独占的利用許諾権侵害に基づく損害賠償請求権(4879万6038円及びこれに対する平成22年7月1日から支払済までの年5分の割合による遅延損害金。請求の趣旨第1項。)
E 原告の被告AAに対する不当利得に基づく利得返還請求権(2億円及びうち5000万円に対する平成19年6月15日から、うち5000万円に対する同月21日から、うち5000万円に対する8月3日から、うち5000万円に対する同月21日から、支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金。請求の趣旨第7項、請求の趣旨第1項ないし第5項の予備的請求)
F 原告の被告AAに対する不当利得に基づく利得返還請求権(5000万円及びうち3000万円に対する平成19年9月27日から、うち1500万円に対する同年10月18日から、うち500万円に対する同年11月29日から、支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金。請求の趣旨第6項の予備的請求)
イ 原告に対する印税相当損害賠償債権
(ア) 原告は、被告AAの承諾を得ず、何らの報告も行うことなく、被告AA著作物の無断使用を継続している。
 被告AAに判明したものだけでも、以下のものがある。
@プレジデント社『新 上がってなンぼ!!』ムック、既刊3巻
 小学館『実験人形ダミーオスカー』ムック、既刊7巻
 宝島社DVDムック『子連れ狼テレビドラマ版』3冊
 13冊分、1冊あたり50万円として合計650万円
Aタトルモリ、ダークホース等海外出版許諾料
 1000万円は下らない。
B平成20年3月から平成22年8月までの間の印税
 原告の主張によれば、1か月分の著者印税額は168万円とのことであるから、30か月分で合計5040万円となる。
(イ) 以上合計6690万円。
 @及びAは、被告AAの著作物を、原告が使用して利益を得ていることから、被告AAは、原告に対し、著作権法113条、114条2項又は3項に基づき、印税相当の損害賠償請求権を有する。
 Bについても、著作権法113条、114条3項に基づき、印税相当の損害賠償請求権を有する。
 被告AAは、平成26年9月25日の本件第16回弁論準備手続期日において陳述した同年7月25日付け被告AA準備書面(7)をもって、原告に対する上記印税債権(著作権侵害に基づく損害賠償請求権)6690万円を自働債権として、被告AAの原告に対する金銭債務が存在する場合は、以下の順位(各主たる請求と附帯請求の順位付けは、いずれも主たる請求を先順位とする。)で被告AAの原告に対する金銭債務を受働債権として対当額で相殺する旨の意思表示をした(自働債権の法的根拠及び受働債権の充当順序は、同年10月28日付け被告AA準備書面(9)で補充した。)。
@ 原告の被告AAに対する消費貸借契約に基づく貸金返還請求権(5000万円及びこれに対する平成24年8月8日から支払済までの年5分の割合による遅延損害金。請求の趣旨第6項の主位的請求)
A 原告の被告AAに対する著作物利用許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権(8000万円及びこれに対する平成24年8月8日から支払済までの年6分の割合による遅延損害金。請求の趣旨第5項、一部請求)
B 原告の被告AAに対する独占的利用許諾権侵害に基づく損害賠償請求権(170万円及びこれに対する平成24年8月8日から支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金。請求の趣旨第4項。)
C 原告の被告AAに対する独占的利用許諾権侵害に基づく損害賠償請求権(100万米ドル及びこれに対する平成24年8月8日から支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金。請求の趣旨第3項。)
D 原告の被告AAに対する独占的利用許諾権侵害に基づく損害賠償請求権(4879万6038円及びこれに対する平成22年7月1日から支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金。請求の趣旨第1項。)
E 原告の被告AAに対する不当利得に基づく利得返還請求権(2億円及びうち5000万円に対する平成19年6月5日から、うち5000万円に対する同月21日から、うち5000万円に対する8月3日から、うち5000万円に対する同月21日から、支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金。請求の趣旨第7項、請求の趣旨第1項ないし第5項の予備的請求)
F 原告の被告AAに対する不当利得に基づく利得返還請求権(5000万円及びうち3000万円に対する平成19年9月27日から、うち1500万円に対する同年10月18日から、うち500万円に対する同年11月29日から、支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金。請求の趣旨第6項の予備的請求)
ウ 民法509条との関係
 原告の被告AAに対する請求の中には、不法行為(積極的債権侵害)に基づく損害賠償請求があるが、本件では、以下の理由により、民法509条が適用されるべき場面ではないと考える。
 第1に、原告の積極的債権侵害の主張は、いわゆる取引型不法行為であり、実質的には、原告主張の独占的利用許諾契約違反という契約責任と同一である。
 第2に、民法509条の相殺禁止の趣旨は、回収困難な債権者が、債務者に対し、報復的な不法行為を行い、相殺を主張することを禁止し、不法行為の惹起を防止することにあるとされているところ、本件事案においては、不法行為とされる相殺主張者の行為は、取引内においてすでに完了しており、今後、不法行為が惹起される可能性がない。
 第3に、被告AAも、原告による連載及び執筆妨害の不法行為を主張しており、一連の社会的事実から発生した双方不法行為の主張であり、相殺を禁止すべき合理的理由がない。
3 請求原因に対する被告A@の認否、抗弁
(1) 請求原因(1) 被告A@及び被告AAの共同不法行為に基づく請求(請求の趣旨第1項)について
ア 本件独占的利用許諾契約
 原告と被告AAが本件独占的利用許諾契約を締結したことは不知。
イ 被告AAのAGに対する代理権授与等
 不知。
ウ 被告A@による本件書籍1の無断出版
 被告A@が本件書籍1を出版したことは認め、それが原告の本件独占的利用権を侵害するとの主張は争う。
 本件書籍1−55は、被告AAは原案者となっているにすぎないため、被告AAの著作物に当たらず、印税は発生していない。
 本件書籍1−89、1−90の印税は、平成22年7月5日に支払済みである(乙ア1)。
 本件書籍1−91〜1−99は、被告AAは責任編集(実際の編集業務には関わっていない。)に携わっただけであり、被告AAの著作物に当たらず、印税は発生していない。
エ 被告A@の故意
 平成20年1月25日から平成22年6月30日までの間、被告A@の代表取締役が被告AAであったことは認めるが、被告A@の故意は否認する。
 被告A@は、本件独占的利用許諾契約の存在を知らなかった。
 債権が重複して存在すること自体は、一般的に容認されており、被告A@は著作権者である被告AAの許諾を得て本件書籍1の出版を行ったのであり、被告A@が本件独占的利用許諾契約の存在を知っていたとしても、違法になるものではない。
 また、本件独占的利用許諾契約の存在を知っていたとしても、それが無効だと思っていた場合には、債権侵害の故意は欠ける。
オ 損害
 争う。
 なお、平成20年1月25日から平成22年6月30日までの間に被告A@が発行した本件書籍1の出版部数は、合計189万3800部であり、このうち96万4891部が返品されていることから、実際に販売された部数は92万8909部である(乙ア11)。被告AAに発生した印税額は、2854万9025円となる。
カ 本件独占的利用許諾契約の公序良俗違反、解除
 本件独占的利用許諾契約が公序良俗違反により無効であること、被告AAによる解除により無効となったことにつき、被告AAの2(1)キ、クの主張を援用する。
 被告A@が被告AAの解除権行使を援用することが権利濫用であるとの原告の主張は争う。
(2) 請求原因(2) 被告A@及び被告ABの共同不法行為に基づく請求(請求の趣旨第2項)について
ア 本件独占的利用許諾契約及び被告AAからAGに対する代理権授与等
 認否は上記(1)ア、イと同じ、抗弁は上記(1)カと同じ。
イ 被告A@による本件書籍2の無断出版
 本件書籍2−1〜2−3、2−11〜2−19については、平成23年9月13日より前に出版しており、既に印税を支払済みである(乙ア2〜4)。
 本件書籍2−4〜2−10、2−20については、重版として原告主張の時期に出版したが、平成23年9月13日以降に出版したものは本件書籍2−10、2−20のみであり、その余の6作品は平成23年9月13日より前に出版している。
 本件書籍2−57は平成23年1月25日ではなく平成24年1月に、本件書籍2−58は平成23年2月10日ではなく平成24年2月に、本件書籍2−59は平成23年2月28日ではなく平成24年2月に発行している。
 本件書籍2−95〜2−104は、被告A@の訴状送達日前日である平成24年7月26日以降の発行であるから、認否を行わない。訴状送達日以降の出版に基づく損害を、訴状において請求することはできない。
 その余の本件書籍2を出版したことは認めるが、それが原告の本件独占的利用権を侵害するとの主張は争う。
ウ 被告A@の故意
(ア) 本件基本合意の締結
 被告A@が原告と本件基本合意を締結したことは認める。
(イ) 被告A@による「乾いて候」の無断出版
 被告A@が「乾いて候」を出版したこと、原告に許諾依頼書(甲9の1)を送付したことは認める。被告A@は、平成23年6月28日、それまでの通例どおり、原告に許諾依頼書(甲9の1)を送付した後、「乾いて候」の作画家であるBDの相続人であるBEから許諾を得た(乙イ11)。その後、被告A@は、通常どおり、原告に対し出版許諾を求めたところ、原告は同出版について口頭で了承した。しかし、被告AAが著作権譲渡の強要を拒否したため、原告は、同年9月12日、本件基本合意解除の意思表示をするとともに、個別出版契約書の取り交わしを拒否したものである。
(ウ) 本件基本合意の解除
 原告が本件基本合意の解除の意思表示をしたことは認め、その効果は争う。
(エ) 被告A@の故意は否認する。
 被告AAは、平成23年9月15日、本件独占的利用許諾契約を解除した(乙イ7)ため、被告A@は、同日以降、原告が本著作物につきいかなる利用権も有していないものと認識していた。
エ 損害
 争う。
 なお、平成23年9月13日から被告A@に本件訴状が送達された前日である平成24年7月26日までの間に被告A@で発行した本件書籍2の出版部数は、合計121万6400部であり、このうち61万4263部が返品されていることから、実際に販売された部数は60万2137部である(乙ア12)。被告AAに発生した印税額は、1969万0303円となる。
4 請求原因に対する被告AC及び被告ABの認否、抗弁
(1) 請求原因(2) 被告A@及び被告ABの共同不法行為に基づく請求(請求の趣旨第2項)について
ア 本件独占的利用許諾契約及び被告AAからAGに対する代理権授与等
 原告と被告AAが本件独占的利用許諾契約を締結したことは不知。
イ 被告A@による本件書籍2の無断出版
 被告A@による本件書籍2の出版は認め、それが原告の本件独占的利用権を侵害するとの主張は争う。
ウ 被告A@の故意
(ア) 本件基本合意の締結
 被告A@が本件基本合意を締結したことは認める。
(イ) 被告A@による「乾いて候」の無断出版
 被告A@が「乾いて候」を出版したこと、原告に許諾依頼書(甲9の1)を送付したことは認める。被告A@は、平成23年6月28日、それまでの通例どおり、原告に許諾依頼書(甲9の1)を送付した後、「乾いて候」の作画家であるBDの相続人であるBEから許諾を得た(乙イ11)。その後、被告A@は、通常どおり、原告に対し出版許諾を求めたところ、原告は同出版について口頭で了承した。しかし、被告AAが著作権譲渡の強要を拒否したため、原告は、同年9月12日、本件基本合意解除の意思表示をするとともに、個別出版契約書の取り交わしを拒否したものである。
(ウ) 本件基本合意の解除
 原告が本件基本合意の解除の意思表示をしたことは認め、その効果は争う。
(エ) 被告A@の故意は否認する。
 被告AAは、平成23年9月15日、本件独占的利用許諾契約を解除した(乙イ7)ため、被告ABは、同日以降、原告が本著作物につきいかなる利用権も有していないものと認識していた。
エ 損害
 争う。
オ 被告ABの被告A@代表取締役としての不法行為責任
 被告ABが平成23年9月13日から平成24年9月10日までの間、被告A@の代表取締役を務めていたことは認めるが、被告ABが不法行為責任を負うとの主張は争う。
カ 本件独占的利用許諾契約の公序良俗違反、解除
 本件独占的利用許諾契約が公序良俗違反により無効であること、被告AAによる解除により無効となったことにつき、被告AAの2(1)キ、クの主張を援用する。
(2) 請求原因(3) 被告AA、被告AB、被告AC及び被告ADの共同不法行為に基づく請求(請求の趣旨第3、4項)について
ア 本件独占的利用許諾契約及び被告AAからAGに対する代理権授与等
 認否は上記(1)アと同じ、抗弁は上記(1)カと同じ。
イ 被告AAからKK TRIBEに対する著作権譲渡
 認める。
ウ 被告AAからKK TRIBEに対する著作権譲渡登録が抹消されたことは認める。
エ 被告AAから被告ACに対する著作権譲渡
 被告ACが被告AAから本件7作品の著作権譲渡を受けたことは認め、それにより原告の本件独占的利用権が侵害されたとの主張は争う。
 上記著作権譲渡登録は、平成23年9月15日の被告AAによる本件独占的利用許諾契約解除の後になされたものであるから、何らの違法性も有しない。
 また、被告ABは、本件基本合意(甲8、75)締結の時点では、本件公正証書(甲6、88)自体を見たことはなく、その存在は、伝え聞いて認識していたが、内容の詳細については認識していなかった。
 そして、被告ABは、本件基本合意書(甲8、75)の存在及び内容については認識していたものであるところ、被告ABは、被告AAから、本件公正証書(甲6、88)では、あくまで、被告AAが有する著作権に係る著作物に関しては、出版物に係る権利の使用権のみが原告に認められていて、被告AAの著作物を、映画化したり、パチンコ・パチスロに利用したりする形での権利の使用は原告には認められていない旨、聞かされていた。そして、被告ABが認識していた本件基本合意書(甲8、75)の存在及び内容、すなわち、本件基本合意書(甲8、75)においては、出版物に関する記載しか存在しなかったことから、被告ABは、前記被告AAの言をそのまま信じた。
オ 「キ 被告AC及び被告ABの故意」について
 平成23年5月10日当時、被告ABが被告ACの代表取締役を務め、被告A@の取締役を務めていたことは認め、被告AC及び被告ABの故意は否認する。
カ 「ク 損害」について
 原告の事業は不知。被告ACがラッキー17に権利を譲渡したことは認め、損害の主張は争う。
5 請求原因に対する被告ADの認否、抗弁
(1) 請求原因(3) 被告AA、被告AB、被告AC及び被告ADの共同不法行為に基づく請求(請求の趣旨第3、4項)について
ア 本件独占的利用許諾契約及び被告AAからAGに対する代理権授与等
 原告と被告AAが本件独占的利用許諾契約を締結したことは不知。
イ 被告AAからKK TRIBEに対する著作権譲渡
 KK TRIBEが被告AAから本件7作品の著作権譲渡を受けたことは認め、それにより原告の本件独占的利用権が侵害されたとの主張は争う。
ウ 被告AAからKK TRIBEに対する著作権譲渡登録が抹消されたことは認める。
エ 被告AAから被告ACに対する著作権譲渡
 不知。
オ 「KK TRIBE及び被告ADの故意」について
 被告AAからKK TRIBEに対する著作権譲渡(平成20年4月9日)の当時、被告ADがKK TRIBEの代表取締役であったこと、原告の取締役であったことは認め、KK TRIBE及び被告ADの故意は否認する。
 被告ADは、平成19年6月5日から平成20年10月14日までの間、原告の取締役として登記されているが、あくまでも名目的取締役であり、原告事務所には被告ADの席はなく、役員報酬の支給もなく、原告の経営には参画していない。被告ADは、原告の取締役在任中、原告の経営に関与することが期待されておらず、実際にも経営上の重要な情報の開示を受けたり、重要な決定に関する議論に加わったりしたこともなく、旧公正証書(甲14、87)及び本件公正証書(甲6、88)の存在及び内容については何も知らされていなかった。
カ 「ク 損害」について
 事実は不知、損害の主張は争う。
 本件7作品の著作権が被告AAからKK TRIBEに譲渡されかつ登録も完了したことにより、原告が本件7作品の利用権をKK TRIBEに対抗することができないこととなったことは著作権法上明白である。原告は、平成20年8月頃、被告AAからKK TRIBEに対する本件7作品の著作権譲渡の事実を知ったというのであり、その事実を知った上で、平成20年10月29日、CSデヴコとの間で取引基本合意を締結したことになる。よって、仮に当該譲渡行為が不法行為に該当するとしても、原告代表者が著作権譲渡及び登録の事実を知った後に、本件7作品の著作権がKK TRIBEに帰属している状況下において、単に本件7作品に含まれる著作権に係る一定の利用権を後日自ら取得した上でそれをCSデヴコに利用許諾して利益を得ることを期待したとしても、そのような期待利益は法的保護に値するものではなく、原告の損害とはならず、かつ仮に損害に該当するとしても被告ADの行為との間に因果関係はない。
キ 「ケ 被告ADに対する原告の取締役としての責任(予備的請求)」について
 被告AAからKK TRIBEに対する著作権譲渡の当時(平成20年4月9日)、被告ADが原告の取締役であったことは認め、被告ADが原告の取締役としての任務懈怠責任を負うとの主張は争う。
 被告ADは、上記譲渡の当時、本件独占的利用許諾契約の存在及び内容を知らなかった。
 また、被告ADは、原告の業務及び他の取締役の職務の執行等の監視を期待されていたものでもなく(単なる名目的取締役)、原告事務所に自由に出入りできる環境にもなかった以上、本件独占的利用許諾契約の内容について知り得るべき状況にはなかったものであり、善管注意義務及び忠実義務を尽くす前提としての事実の認識がなく、かつ知り得る状況にもなかったことから、当該義務を尽くせなかったとしても過失はない。
(2) 消滅時効
 原告は、被告ADが、KK TRIBEの代表取締役として、平成20年4月9日、被告AAから本件7作品の著作権の譲渡を受け、同年8月12日にその登録を受けた行為が不法行為に当たると主張する。
 原告は、平成20年8月頃、上記著作権譲渡及びその登録の事実を知り、損害及び加害者を知った。
 本訴の提起は平成24年7月4日であるから、原告の損害賠償請求権は、原告が損害及び加害者を知った時から3年間行使しなかったことにより、時効により消滅している。被告ADは消滅時効を援用する。
(3) 本件独占的利用許諾契約の公序良俗違反、解除
 本件独占的利用許諾契約が公序良俗違反により無効であること、被告AAによる解除により無効となったことにつき、被告AAの2(1)キ、クの主張を援用する。
6 抗弁に対する原告の認否、再抗弁
(1) 被告AAの主張2(1)キ 本件独占的利用許諾契約の公序良俗違反について
ア 著作権の独占的使用権を許諾する契約は、著作権者は単に存在する著作物を使用させるのみであるから、対象となる著作物の範囲にかかわらず、「人身拘束」あるいは「奴隷契約」という要素は全くない。
イ 著作権の存続期間の満了まで独占的利用権を許諾する契約は、著作権譲渡契約と比べても著作者に不利になるものではなく、公序良俗に違反する理由はない。
ウ 請求原因(6)ア〜ウのとおり、原告は、被告AAに対し、本件独占的利用権設定の対価として合計2億円を支払った。さらに、原告は、かかる対価を支払済みであったことから、被告AAに印税を配分する必要はなかったものの、被告AAが配分を求めたことから、平成22年7月1日に締結した本件印税合意(甲66)においては、既存の著作物については原告が受領する著者印税の2割を原告が被告AAに支払い、今後制作する著作物については原告が受領する原稿料の6割を原告が被告AAに支払うこととしている。かかる取引実態を見ても、被告AAは十分な経済的利益を受けており、被告AAにとって不当な取引とはいえない。
(2) 被告AAの主張2(1)ク 本件独占的利用許諾契約の解除について
ア 「(ア) 原告による被告AAの本著作物利用妨害、連載執筆妨害」について
(ア) 「a 日本経済新聞連載妨害事件」について
 被告AAが日本経済新聞において「結い 親鸞」の連載を開始したこと、原告が平成21年5月に日本経済新聞社に本件公正証書を示したこと、日本経済新聞が連載を中止したことは認め、原告が日本経済新聞社に面会を申し入れたこと、原告が著作権者であると主張して連載中止を要求したことは否認する。原告は、本件独占的利用許諾契約により、被告AAが今後制作する著作物についても本件独占的利用権を有していたところ、被告AAは日本経済新聞への連載について原告に何らの報告もしていなかったため、原告が日本経済新聞社に本件公正証書の存在及び内容を知らせたことはあるが、連載中止を要求してはおらず、日本経済新聞社が自ら連載を中止したものである。
(イ) 「b 「御用牙」舞台上演中止要求事件」について
 被告AAが、原告に本件独占的利用権を許諾した作品である「御用牙」について、原告に無断で舞台上演を進めようとしていたため、平成20年12月18日に開催された原告の取締役会において、原告が窓口となって進めることを承認可決した(甲55)。
(ウ) 「c」について
 否認する。原告が、自らが本著作物の著作権者であり、原告の許諾がなければ本著作物は出版することも二次利用することもできないと関係各所に主張したなどということはない。
(エ) 「d」について
 否認する。原告が、被告AAの著作物の利用や連載執筆活動を妨害したことはない。
イ 「(イ) 原告の報告義務違反」について
 本件独占的利用許諾契約上、原告が被告AAに報告義務を負っていることは認め、その不履行があるとの事実は否認し、主張は争う。
 原告は被告AAに対して、原告の業務の内容を随時報告している。例えば、平成20年1月25日に開催された取締役会においては、平成20年度の原告の運営について、報告事項として、ビジネスモデル企画、ジャパンエキスポ、おやじファイト、キャラクター造形大学、プロダクション事業について報告されていて、被告AAも出席している(甲39)。また、同年5月12日に開催された取締役会においては、報告事項として、キャラクターアートMANGAパリ展の実施、被告AE運営、キャラクター造形大学設立の推進、プロダクション事業の推進などについて報告されていて、被告AAも出席している(甲42)。同年12月18日に開催された取締役会においては、第4号議案において、被告AAの著作物の活用について審議され、具体的には@講談社インターナショナル出版による英文書籍「Japan Pop Culture Encyclopedia」での「子連れ狼」の作品紹介及びカラー画像掲載における資料提供、A被告AA作品の配信のeBOOKからの引継ぎ、C「御用牙」舞台の原告を窓口としての推進、C「子連れ狼」の映画化、Dパチンコメーカーへの被告AA作品の売却などについて審議されていて、被告AAも取締役会に出席している(甲55)。原告はこれらの取締役会に限らず被告AAに対して業務の報告を行っていた。したがって、原告は本件独占的利用許諾契約上の報告義務に違反していない。
ウ 「(ウ) 被告AAに対する印税不払及び報告のない出版許諾」について
 原告と被告AAは平成22年7月1日付け「原稿料及び印税に関する合意書」により印税の配分について合意したもので、それ以前に印税を配分する合意は存在しないから、それ以前に印税の不払いは存在せず、平成22年7月以降は印税の配分をしている。
 また、原告は被告AAに対して、上記イのとおり報告を行っている。
エ 「(エ) 原告による出版拒否」について
 被告A@が作画家遺族から出版許諾を得たことについては不知。
オ 「(オ) 原告による刑事告訴」について
 否認する。
カ 「(カ) 原告による著作権譲渡の強要」について
 否認する。
キ 「(キ) 映画化事業を妨害」について
 否認する。
ク 「(ク) 本件独占的利用許諾契約の解除」について
 被告AAが本件独占的利用許諾契約解除の意思表示をしたことは認め、その効力は争う。
(ア) 解除の意思表示について
 著作権の独占的利用権を許諾する契約は、必ずしも事実行為を委託する契約とはいえず、民法651条1項の適用が認められる根拠が明らかではない。仮に適用される場合であっても、民法651条1項は任意規定であるところ、本件公正証書には有効期間の定めがあるから、その途中で任意に解除することはできない。さらに、任意解除権が放棄されていても解除をできる「やむを得ない事由」とはいかなる事由を指すかが不明確であり、債務不履行以外の「やむを得ない事由」による解除が認められる根拠もその基準も明らかではない。
 本件解除通知(乙イ7)が、民法651条1項に基づく任意解除及びやむを得ない事由に基づく解除の趣旨を含んでいるとの主張は争う。そのように解し得る記載はない。
(イ) 原告に帰責事由がないこと
 原告は被告AAに対して、可能な限り事業内容の報告を行っており、仮に報告がなされないことがあったとしても、それは、被告AAが、度重なる重大な契約違反により報告の前提となる信頼関係を破壊し、原告の取締役を退任することにより報告を受ける機会を放棄し、原告との連絡を避けていたからであって、専ら被告AAに帰責事由があり、原告に帰責事由はない。
(ウ) 催告がなされていないこと
 債務不履行に基づく解除のためには、相当期間を定めてその履行を催告する必要があるところ、被告AAは、本件解除通知に先立って、原告に対して、本件独占的利用許諾契約に基づく報告義務の履行を催告したことはない。よって、本件解除通知による解除は認められない。
(エ) 同時履行の再抗弁
 被告AAによる本件独占的利用許諾契約の解除が認められるとしても、解除に基づく原状回復義務は同時履行の関係にあり(民法546条、533条)、被告AAが原状回復の履行を提供するまでは、原告は原状回復の履行を拒むことができるため、被告AAが受領済みの本件独占的利用許諾契約の対価の返還について履行の提供を行うまでは、原告は本件独占的利用権を失わない。
(オ) 権利の濫用
 本件解除通知による本件独占的利用許諾契約の無効及び解除の主張は、@被告AAが「子連れ狼」についてオプション契約を締結し、35万米ドルを受領したことを正当化する、A被告A@が本件基本合意書の解除後も出版を継続することを正当化する、という不当な目的のための手段である。
 被告AAは、本件独占的利用許諾契約につき重大な契約違反をして、これについて原告に虚偽の説明をしながら、原告に対して一方的に報告を求めており、原告がこれに応じないからといって、本件独占的利用許諾契約を解除し得るというのは、著しく不当である。また、被告A@も、本件独占的利用許諾契約を前提とする本件基本合意につき重大な契約違反をして、本件基本合意を解除されても出版を継続しながら、被告AAによる解除を理由にこれを正当化するのは、同様に著しく不当である。
 よって、被告AAによる報告義務違反を理由とする解除権の行使は権利の濫用であり、また被告A@がかかる解除権の行使を援用することも権利の濫用であって、許されない。
(3) 被告AAの主張2(4)オ 弁済について
 否認する。
(4) 被告AAの主張2(6) 相殺について
(ア) 原告に対する損害賠償請求権について
 被告AAが日本経済新聞において「結い 親鸞」の連載を開始したこと、原告が日本経済新聞社に本件公正証書を示したこと、日本経済新聞が連載を休止したことは認め、原告が日本経済新聞社に面会を申し入れたこと、原告が著作権者であると主張して連載中止を要求したことは否認する。
 原告は、本件独占的利用許諾契約により、被告AAが今後制作する著作物についても本件独占的利用権を有していたところ、被告AAは日本経済新聞への連載について原告に何らの報告もしていなかったため、原告が日本経済新聞社に本件公正証書の存在及び内容を知らせたことはあるが、連載中止を要求してはおらず、日本経済新聞社が自ら連載を中止したものである。
 原告が被告AAに対し、執筆活動の妨害又は社会的名誉の毀損をしたことはない。
(イ) 原告に対する印税相当損害賠償債権について
a 原告が被告AAに支払うべき配分額から実際に支払った配分額を控除した残額は276万2021円である。
b 被告AAは、旧公正証書契約及び本件独占的利用許諾契約により被告AAの著作物について原告に対して独占的利用権を許諾したにもかかわらず、原告の許諾なくして、本著作物の利用を第三者に許諾する事業を行い、株式会社イーブックイニシアティブジャパン(以下「イーブック」という。)から、平成19年に164万0568円、平成20年に127万4388円、平成21年に114万2712円、平成22年に93万3984円、合計499万1652円を受領し、株式会社松文館(以下「松文館」という。)から、平成21年12月22日に76万円、平成22年2月9日に99万円、同月25日に117万円、同年3月25日に120万円、同年4月14日に96万円、同年5月12日に48万円、同月17日に72万円、合計628万円を受領した。
c 被告AAは故意により旧公正証書契約及び本件独占的利用許諾契約に違反したものであり、被告AAが受領した金額は原告が得べかりし利益であるから、原告はかかる金額と同額の損害を被った。よって、原告は被告AAに対して、債務不履行に基づく損害賠償として1127万1652円及びこれに対する被告AAの各受領日から年5分の割合による遅延損害金の請求権を有する。
d 原告は、平成25年9月3日の本件第8回弁論準備手続において陳述した同年8月29日付け原告準備書面(7)をもって、被告AAに対する上記の請求権を自働債権とし、被告AAの原告に対する配分金残額についての請求権を受働債権として、対当額で相殺する旨の意思表示をした。
(5) 被告ADの主張6(2) 消滅時効について
 不法行為が継続して行われ、そのために損害も継続して発生する場合には、損害の継続発生する限り日々新しい不法行為に基づく損害として、各損害を知った時から別個に消滅時効が進行すると解される(大審院昭和15年12月14日判決・民集19巻2325頁)。KK TRIBEが本件7作品の著作権を保有し続けたことにより、原告はその期間において本件7作品を利用できなかったのであるから、被告AA及び被告ADによる共同不法行為は、KK TRIBEが本件7作品の著作権を保有していた平成20年4月9日から平成23年4月27日までの間、継続して行われたものである。そして、訴え提起の3年前の日(平成21年7月4日)から平成23年4月27日までの間にKK TRIBEが本件7作品の著作権を保有していたことにより、原告はCSデヴコとの間の契約に基づく対価を受領できなかったのであるから、これによる損害賠償請求権の時効は完成していない。
第3 当裁判所の判断
1 被告A@及び被告AAの共同不法行為に基づく請求(請求の趣旨第1項)について
(1) 本件独占的利用許諾契約の成立について
ア 本件著作物利用契約書の成立の真否について
 本件公正証書謄本(甲88)の30〜52頁、56〜78頁には、それぞれ、本件公正証書作成のための被告AA名義の委任状(甲88・29頁)、原告の委任状(甲88・55頁)に引き続く形で、2008年(平成20年)1月25日付け「著作物利用に関する契約書」の写しが綴られている。
 本件公正証書謄本に綴られた上記契約書の体裁に加え、原告代表者及び証人AFによれば、公証役場には、上記各委任状原本と一体となった形で、被告AA及び原告の押印のある契約書原本がそれぞれ綴られているものと認められる。
 そこで、まず、上記「著作物利用に関する契約書」(以下「本件著作物利用契約書」という。)が真正に成立したものか否かについて検討する。
 甲99及び原告代表者によれば、本件著作物利用契約書のうち原告作成部分は、原告の意思に基づいて真正に成立したことが認められる。
 次に、本件公正証書謄本に綴られた被告AAの印鑑登録証明書(甲88・53頁)の印影と対比すると、本件著作物利用契約書に押捺された被告AA名下の印影は、被告AAの実印により顕出されたものと認められる。
 したがって、当該印影は、被告AAの意思に基づいて顕出されたものと事実上推定されるから、本件著作物利用契約書は被告AAの意思に基づいて真正に成立したものと推定される(民事訴訟法228条4項、最高裁昭和39年5月12日第三小法廷判決・民集18巻4号597頁〔以下「昭和39年最判」という。〕)。
 そこで、上記各推定を覆すに足りる証拠があるか検討するに、被告AAは、本件著作物利用契約書は見たこともなく、押印も合意もしていない、被告AAの実印は原告の事務所内にあった被告AAの執務スペースの机の引き出しに鍵をかけずに保管していたので、被告AAの秘書や原告関係者が被告AAの執務スペースに入ることは可能であった、また被告AAの秘書であれば被告AAの印鑑登録証明書を取ることは可能であった、などと供述(陳述書の記載と尋問結果〔なお、参照の便宜のため調書の該当頁を付記することがある。〕を併せて「供述」ということがある。以下、同じ。)する(乙イ20・3頁、被告AA〔6〜9頁〕)。
 しかし、平成20年1月頃当時、被告AAは、原告の取締役であり(甲1、25)、被告A@の代表取締役(甲2、4)及び株式會社蒼英社(以下「蒼英社」という。)の代表取締役(甲33)を務め、実印の重要性を十分に理解していたはずであるから、被告AAの供述する実印の管理状況は不自然、不合理であり、原告が、被告AAに対し、「子連れ狼」の翻案の同意書等への押印ないし署名を求めていたが、結局、被告AAの押印のある書面は作成されなかったこと(乙イ15の1〜3、乙イ16の1・2、原告代表者〔67頁〕)とも整合しないものであって、被告AAの上記供述はにわかに信用することができず、上記各推定を覆すに足りる反証があったとは到底いえない。
 したがって、本件著作物利用契約書に被告AAが押印するのを目撃した旨のBB、BG及びAFの各供述(甲91、92、99、原告代表者、証人BG、証人AF)、被告AAの実印の管理状況に関するCCの供述(甲97、証人CC)の信用性について検討するまでもなく、本件著作物利用契約書のうち被告AA作成部分は、被告AAの意思に基づいて真正に成立したものと認められる。
イ 本件著作物利用契約書による契約の成立について
 真正に成立したことが認められる本件著作物利用契約書(甲88・30〜52頁)によれば、原告と被告AAは、平成20年1月25日頃、同契約書にそれぞれ押印して、以下のa及びbを骨子とする著作物利用契約を締結したことが認められる。
a 被告AAは、原告に対し、「本著作物」を利用させることを許諾し、日本あるいは海外において次の各事項を独占的に実施することを許諾する(2条)。
 @ 原告が「本著作物」の全部又は一部を複製し、譲渡し、展示し、あるいは「本著作物」の全部又は一部を翻訳・翻案して著作物を作成して利用すること(著作権法21条、25条、26条の2、27条、28条に示す権利の許諾を含む。)。
 A 「本著作物」の全部又は一部を、あるいは「本著作物」の全部又は一部を翻訳・翻案して作成された著作物を、インタラクティブ配信、コンテンツ配信等送信あるいは送信可能化事業を行うこと。
 B 「本著作物」の全部又は一部を、あるいは「本著作物」の全部又は一部を翻訳・翻案して作成された著作物を、ゲーム、パチンコ、パチスロ及びこれらの周辺機器等、アミューズメント事業において利用すること(送信あるいは送信可能化事業も含む。)。
 C 「本著作物」の全部又は一部を、あるいは「本著作物」の全部又は一部を翻訳・翻案して作成された著作物を、商品化、商業化するマーチャンダイジング事業を実施すること。
b 同契約は、「本著作物」に係る全ての著作物の著作権の存続期間が満了するまでの間存続する(6条)。
ウ 本件著作物利用契約書により成立した契約の内容について
 本件著作物利用契約書(甲88・30〜52頁)にいう「本著作物」は、その前文においては、「甲[判決注:被告AA]の著作に係る別紙著作物目録記載の各著作物(原注:以下『本著作物』という)」とあり、本件著作物利用契約書別紙の著作物(本件公正証書に添付されているもののと同一であり、1843点に及ぶ。)を総称し、被告AAが将来制作する著作物を含まないものとして定義されている。
 これに対し、本件著作物利用契約書の1条においては、「甲[判決注:被告AA]の著作に係る別紙著作物目録記載の各著作物並びにその原案、原作、脚本、構成を含む各著作物と今後制作される著作物(原注:以下総称して『本著作物』という)」とあり、原案、原作、脚本、構成を含むことが明記されているほか、被告AAが将来制作する著作物を含むものとして定義されている。
 すなわち、本件著作物利用契約書においては、前文と1条とで「著作物」の定義に矛盾があるといえる。
 しかし、通常の読み方をもって本件著作物利用契約書を読めば、著作物利用許諾を定めた2条は1条の後に規定されているのであるから、そこでいう「本著作物」は、後に出てくる定義、すなわち、被告AAが将来制作する著作物を含む1条の定義によるものであると合理的に理解することができるというべきである。
 本件著作物利用契約書2条にいう「本著作物」は、本件公正証書と同様、被告AAが将来制作する著作物を含むのであるから、原告と被告AAは、本件著作物利用契約書により、原告主張の本件独占的利用許諾契約(上記第2の1(1)ア(ア))を締結したことが認められる。
エ 本件公正証書の成立の真否について
 上記のとおり、本件著作物利用契約書から原告主張の本件独占的利用許諾契約の成立を認めることができるのであるから、本件公正証書(甲6、88)が真正に成立したか否かは結論に影響しないが、当事者の主張に鑑み、この点についても判断を示しておく。
 本件公正証書謄本に綴られた被告AAの印鑑登録証明書(甲88・53頁)の印影と対比すると、被告AA名義の委任状(甲88・29頁、乙イ1の1)に押捺された被告AA名下の印影は、被告AAの実印により顕出されたものと認められる。
 したがって、当該印影は、被告AAの意思に基づいて顕出されたものと事実上推定されるから、上記委任状は被告AAの意思に基づいて真正に成立したものと推定される(民事訴訟法228条4項、昭和39年最判)。
 上記印影が被告AAの意思に基づかずに顕出された可能性についての被告AAの供述はにわかに信用することができず、上記各推定を覆すに足りる反証があったとは到底いえない。
 被告AAが、@代理人であるBC弁護士を通じて原告に送付した平成20年11月26日付け「通知書」(甲54)において、「通知人は、貴社との間で、平成20年1月25日付け「著作物利用に関する契約」を締結し、同契約の公正証書を同年2月18日付けで作成しました。この契約は、通知人の著作物について、その商品化に関する事業を貴社に委託するという委任契約であると理解しております。これは、貴社が十分に事業を展開してくれるものと見込んで契約したものです。」と記載し、本件公正証書が無権代理により作成された旨の記載が全くないこと、A平成22年1月26日付け確認書(甲64)及び同年7月1日付け本件印税合意書(甲66)において、本件公正証書による本件独占的利用許諾契約が有効に存続していることを確認していること、B本件訴訟における被告AA代理人であるBF弁護士と相談して作成し、原告に送付した平成23年9月15日付け「契約解除等通知書」(乙イ7)においても、「また、本件利用契約の成立に際しては、「AG」なる者が私の代理人として公証役場に出頭したようですが、そこで使用された私名義の委任状は、不正な方法により作出されたものであることも指摘しておきます。」との記載はあるものの、無権代理により無効である旨を明確に主張するものではなかったことは、いずれも、被告AAがAGに対し本件独占的利用許諾契約締結の代理権を授与していたという上記認定を裏付けるものである。
 したがって、上記委任状は、被告AAの意思に基づいて真正に成立したものと認められ、被告AAは、当該委任状に添付された本件著作物利用契約書(甲88・30〜52頁)と同一性のある範囲で、公正証書の作成を公証人に委託することをAGに委任したものと認められる。
 原告は同旨をAF弁護士に委任したものと認められ(甲88・55〜78頁)、本件公正証書は、被告AAの代理人であるAGと、原告の代理人であるAF弁護士による有効な委任に基づいて作成されたものと認められる。
オ AGによる代理は実質的自己契約として無効となるかについて
 被告AAは、AGは原告の従業員であるから、AGが被告AAの代理人として本件独占的利用許諾契約を締結するのは実質的に民法108条本文が規定する自己契約として無効であると主張する。
 被告AAは、本件著作物利用契約書により本人として本件独占的利用許諾契約を締結したことが認められるから、AGを代理人とする本件公正証書による本件独占的利用許諾契約の有効性は結論に影響しない。
 また、AGが原告の従業員であったとしても、そのことから直ちに被告AAを代理して原告との間の契約の代理人となることが制限されるものではなく、本件公正証書による本件独占的利用許諾契約が民法108条本文又はその類推適用により無効となることはない。
カ 本件公正証書により成立した契約の内容について
 本件公正証書においては、本件著作物利用契約書において前文と1条との間で矛盾していた「本著作物」の定義は、被告AAが将来制作する著作物を含むものであることが明確にされ(1条)、本件著作物利用契約書1条において、どの文章にかかるのか不明であった「平成19年6月11日付けで甲乙間において締結され、」の文章が削られるなど、本件著作物利用契約書よりも法律的に整序された文言となっている。
 公証人は法律の専門家であることが要求され(公証人法12条、13条)、無効の法律行為については公正証書を作成できないとされ(同法26条)、法律行為につき公正証書を作成する場合に、その法律行為が有効であるかどうか、当事者が相当の考慮をしたかどうか又はその法律行為をする能力があるかどうかについて疑いがあるときは、関係人に注意をし、かつ、その者に必要な説明をさせなければならないとされている(公証人法施行規則13条1項)。
 このような公証人の職責に鑑みれば、委任状に添付された契約書に前後矛盾があるなどの疑義を発見したときは、これを当事者の合理的意思解釈の範囲内で法律的に整序して、法律的に疑義のない内容で公正証書を作成することは、公証人の職務の範囲内であると解されること、また、本件著作物利用契約書の各頁には原告及び被告AAの印影が顕出されており、これらは、その体裁に照らし、字句の微修正に備えたいわゆる捨印の趣旨と考えられることからすれば、本件公正証書(甲6、88)は、各委任状による委任の範囲内で有効に作成されたものというべきである。
(2) 本件独占的利用許諾契約の公序良俗違反性について
ア 対価の有無について
 平成19年6月14日には原告の取締役であった(甲1)BA名義で5000万円が、同月20日には原告の代表取締役であった(甲1)BB名義で5000万円が、同年8月2日には原告名義で5000万円が、同月20日には原告名義で5000万円が、それぞれ被告AAの銀行口座に送金されている(甲7)。
 平成19年度の原告の貸借対照表では、上記合計2億円につき、別口の合計5000万円と併せて「保証金」の名目で計上され(甲76)、平成20年度及び21年度の貸借対照表では、上記2億円のみが「保証金」の名目で計上され(甲77、78)、平成22年度の貸借対照表では、上記2億円は「無形固定資産」のうちの「著作窓口権等」の名目で計上され(甲79の1)、同年度の「投資等の内訳書」においては、上記2億円は被告AAに関する「著作物独占使用権」の科目で計上され、小計欄には「保証金計」と記載されている(甲79の2)。
 平成23年度の貸借対照表では、上記2億円は「無形固定資産」のうちの「著作権」の名目で計上されている(甲80)。
 証拠(甲76ないし80、90、99、原告代表者〔8〜12、80〜82頁〕、証人AF〔6、9、12〜13頁〕、証人B@〔2〜3、24〜25、29〜30頁〕)によれば、上記合計2億円は、本件独占的利用権の対価としての性質を有するものであったと認められる。
 上記各送金の時点(平成19年6月14日〜8月20日)においては、本件公正証書(平成20年2月15日付け。甲6、88)や本件著作物利用契約書(平成20年1月25日付け。甲88・30〜52頁)はもちろん、その前身である旧公正証書(平成19年11月26日。甲14、87)も作成されていなかったし、旧公正証書の委任状に添付されていた2007年(平成19年)6月11日付け「著作物利用に関する契約書」(甲87・19〜28頁、乙イ2)も、実際の作成は、平成19年9月10日に開催された劇画村塾(原告)の発足記念パーティー(甲32)の後であり(甲91・2頁、甲92・3頁、甲99・9頁、原告代表者〔35〜38頁〕、証人BG〔13〜16頁〕、証人AF〔7〜8頁〕)、上記各送金の時点ではいまだ作成されていなかったところである。
 BBと被告AAは、被告AAの作品を利用したコンテンツ・ビジネスを共同事業として行うことを合意して、平成19年6月5日、原告の商号を「被告AE株式会社」と変更し、被告AAや被告ADが株式を取得するとともに取締役に就任したという経緯が認められるところ(甲25〜32、99、乙イ20、原告代表者、被告AA)、原告が被告AAの著作物を利用して利益を上げるためには、原告において被告AAの著作物を独占的に利用できる地位を有することが大前提であり、被告AAにおいてその著作物を原告に独占的に利用させ、原告がその対価を支払うということは、原告における共同事業の前提となっていたものと認められる。
 被告AAが原告に独占的に利用させる著作物の範囲、期間、原告の取得する権利の態様が具体的にどうなるかについては、BBとしては著作権譲渡を希望していた形跡もあり(甲90、92、99、原告代表者)、旧公正証書添付の「著作物利用に関する契約書」及び旧公正証書(甲14、87、乙イ2)と、本件著作物利用契約書及び本件公正証書(甲6、88)との間でも変遷があって、上記各送金の時点で具体的に確定してはいなかったものと認められるが、後日正式に取り交わされる契約の詳細がどうなろうと、最終的にその対価に充てられるべきものという認識は、原告においても被告AAにおいても有していたものと認めるのが相当である。
 被告AAは、上記2億円は独占的利用権の対価ではなく、「看板料」、「劇画村塾の塾長としての私への謝礼」、「今後のコンテンツ・ビジネスに協力していくことなどに対するお金の支払い」ではないか、などと供述する(乙イ20・4頁、被告AA〔3〜5、45〜46頁〕)。
 しかし、前記のとおり、原告が被告AAの著作物を利用したコンテンツ・ビジネスで利益を上げるためには、原告が被告AAの著作物を独占的に利用できる地位を有することが大前提であり、被告AA自身、パチンコと映画以外のコンテンツについては被告AAが原告に権利を許諾しなければならない認識はあったというのであるから(被告AA〔18〜21頁〕)、その権利許諾の対価が原告から支払われるべきことは被告AAも認識していたはずであり、被告AAの上記供述はにわかに信用することができない。
イ 本件独占的利用許諾契約の対象となる著作物は、「甲[被告AA]の著作に係る別紙著作物目録記載の各著作物並びにその原案、原作、脚本、構成を含む各著作物と今後制作される著作物」とされ(本件著作物利用契約書〔甲88・30頁〕1条、本件公正証書〔甲6、88〕1条)、本件公正証書別紙の1843作品に加え、被告AAが将来制作する全ての著作物を含み、その対象著作物の範囲は極めて広範である。
 被告AAは、その「本著作物」の全部について、複製、翻案、公衆送信等、ほぼあらゆる形態の利用について原告に独占的利用権を許諾し、他社に利用させることができなくなるという制約を被る。
 独占的利用許諾の期間は、「本著作物に係る全ての著作物の著作権の存続期間が満了するまで」(6条)、すなわち、著作者である被告AAの死後50年にわたるもので(著作権法51条2項)、極めて長期間である。
 一般に、専属実演家契約などにおいては、当該専属契約期間中に制作される著作物の著作権を事前にかつ包括的に芸能事務所に帰属させることもしばしば行われており、将来制作される著作物について、事前にかつ包括的に独占的利用権を設定したとしても、そのことをもって直ちに対象著作物の特定性に欠けるとか、公序良俗に違反するとかいうことはできない。
 また、著作物の利用形態がほぼ全ての態様にわたっており、利用期間が極めて長期であるという点も、そのことは著作権譲渡契約においても同様であるから、直ちに公序良俗に違反するとはいえない。
 しかし、専属実演家契約において上記のような事前かつ包括的な著作権譲渡が許容されているのは、同契約が更新があるとしても有期の契約であり、同契約の終了とともに(将来に向かって)効力を失うこと、同契約継続中は、芸能事務所から実演家に実演家報酬が支払われていること等の事情によるものと解される(東京高裁平成5年6月30日判決・判時1467号48頁、東京地裁平成13年7月18日判決・判時1788号64頁、東京地裁平成15年3月28日判決・判時1836号89頁、東京地裁平成25年3月8日判決・労判1075号77頁等参照)。
 これに対して、本件独占的利用許諾契約は、被告AAの死後50年まで存続するもので、当事者からの解除は一定の事由が発生したときに限られており(本件著作物利用契約書〔甲88・32頁〕7条、本件公正証書〔甲6、88〕7条)、当事者が契約の拘束力から離脱する道は閉ざされている。
 また、原告は、本件独占的利用許諾契約を締結した後の平成22年2月9日に本件基本合意を(甲8、75)、同年7月1日には本件印税合意を(甲66)、それぞれ締結し、本件印税合意以降に原告が収受した印税の2割(被告AAが将来制作する著作物については6割)を被告AAに配分することを合意しているが、それ以前には、原告が印税を受領したとしても、被告AAに対する配分義務を有しない旨主張している(原告準備書面(7)14頁)。
 そうすると、本件著作物利用契約書により本件独占的利用許諾契約が締結された平成20年1月25日頃以降、平成22年6月30日までの約2年半の間は、被告AAは、いくら著作物を創作しても、それを他社に利用させて印税を得ることができず、自己の著作物から利益を得る可能性を閉ざされていたものである。
 前記のとおり、本件著作物利用契約書は、被告AAが将来制作する著作物についても原告に独占的利用権を設定するものであり、被告AAはかかる将来の著作物を含めて合意したものではあるが、被告AAの署名により真正に成立したものと認められる、旧公正証書添付の2007年(平成19年)6月11日付け契約書(甲87・19〜28頁。乙イ2はその別紙がないもの。以下「旧著作物利用契約書」という。)においては、原告に独占的利用権を設定する「本著作物」は「甲の著作に係る別紙著作物目録記載の各著作物(原注:以下「本著作物」という)」と、被告AAが将来制作する著作物を含まない定義になっていたのであり、旧著作物利用契約書の作成から、本件著作物利用契約書、本件公正証書の作成に至るまでの間に、「本著作物」の定義が拡大され、将来の著作物を包含することになった点や、旧著作物利用契約書や旧公正証書では3年間(更新拒絶がない限り、その後は1年ごとの自動更新)とされていた契約期間(旧公正証書〔甲14、87〕6条、旧著作物利用契約書〔甲87・21頁〕5条)が、被告AAの死後50年まで大幅に延長された点について、原告から被告AAに十分な説明がなされた形跡はない。
 これらの事情を総合考慮すると、本件独占的利用許諾契約のうち、「今後制作される著作物」を除いた部分については公序良俗に違反するとはいえないが、「今後制作される著作物」につき、原告が印税配分義務を負わずに独占的利用権を取得することを内容とする部分については、公序良俗に違反し無効であると認めるのが相当である。
 もっとも、本件独占的利用許諾契約締結後に創作された著作物であっても、原告と被告AAとの間の本件印税合意により、原告が受領した印税の6割が被告AAに支払われるものについては、上記のように被告AAが自己の著作物から利益を受ける可能性を閉ざされるものではないので、公序良俗に違反するとまではいえない。
 本件独占的利用許諾契約は、被告AAに労務の提供を強制するものではないから、当事者の任意解約権が排除されているとしても、これが人身拘束的であるとか、奴隷契約的な内容であるとかいうことはできない。
(3) 本件独占的利用許諾契約の解除について
ア 被告AAは、平成23年9月15日付けの本件解除通知(乙イ7)により、原告に対し、本件独占的利用許諾契約を解除する意思表示をしているから、その有効性について検討する。
イ 日本経済新聞の連載を原告が妨害したとの点について
(ア) 平成21年5月30日、日本経済新聞において、被告AAが原作を、BHが作画を担当した「結い 親鸞」と題する劇画作品の連載が開始された(乙イ3、5)。
(イ) BBは、平成21年5月30日、日本経済新聞社に面会を申し入れ、同年6月1日、日本経済新聞社の法務室長及び代理人弁護士と面会し、本件公正証書を示して、原告が著作権者であること、近く刑事告訴する予定であることなどを告知した(乙イ5)。
(ウ) 日本経済新聞社は、平成21年6月4日、上記「結い 親鸞」の連載を休止(実質中止終了)した(乙イ6)。
(エ) BBは、連載を中止するように申し入れたわけではなく、本件公正証書を示して日本経済新聞社の判断に委ねたものであり、連載中止は日本経済新聞社の判断によるものである、原告が著作権を有しているとか、刑事告訴する予定であるとかは言っていない、などと供述する(甲99・21頁、原告代表者〔20〜21、55〜56頁〕)。
 しかし、日本経済新聞社の代理人弁護士が積極的に虚偽の事実を記載する動機があるとは考えられないことと、以下に説示する事実経過を併せ考えれば、上記弁護士作成の報告書(乙イ5)の内容は、信用することができるというべきである。
 原告は、被告AAから著作権を譲り受けたとは認められないが、平成23年12月19日には、被告AAから本著作物の著作権を譲り受けたと主張して被告A@に対する仮処分を当庁に申し立て(当庁平成23年(ヨ)第22108号)、これを平成24年5月11日に取り下げるまでその主張を維持していたのであるから(乙イ8、9、13、14)、平成21年6月1日時点で、日本経済新聞社に対し、原告が著作権を有している旨発言していても不自然ではない。
 また、原告は、平成21年3月19日の取締役会で被告AAを刑事告訴する旨決議していたというのであるから(甲63・4頁、甲99・20頁)、平成21年6月1日時点で、日本経済新聞社に対しその旨を発言していても不自然ではない。
 BBの供述のうち、上記認定に反する部分は採用しない。
ウ 上記「結い 親鸞」は、本件著作物利用契約書締結以降に被告AAが創作した著作物を原作とする二次的著作物であり、かつ、本件印税合意(甲66)締結前のため、日本経済新聞社が原告の許諾を得て連載し、原告が日本経済新聞社から印税を受領しても、被告AAに印税が配分されない著作物であるから、上記(2)で検討したところによれば、公序良俗違反により本件独占的利用権が及ばない著作物である。
 そうすると、そのような著作物の利用に関し、BBが日本経済新聞社に本件公正証書を示し、自己が著作権を有しているなどと告知したことは、事後的、客観的にみれば、被告AAの正当な経済活動を妨害したものといわざるを得ない。
 このような原告の行為は、原告と被告AAとの間の信頼関係を破壊するに十分なものであり、本件独占的利用許諾契約にいう「本契約を継続しがたい重大な背信行為」(本件公正証書〔甲6、88〕7条1項1号、本件著作物利用契約書〔甲88・32頁〕7条1項1号)に当たるというべきであるから、本件解除通知(乙イ7)による本件解除は有効である。
エ 原告は、被告AAによる本件独占的利用許諾契約の解除が認められるとしても、解除に基づく原状回復義務は同時履行の関係にあり(民法546条、533条)、被告AAが原状回復の履行を提供するまでは、原告は原状回復の履行を拒むことができるため、被告AAが受領済みの本件独占的利用許諾契約の対価の返還について履行の提供を行うまでは、原告は本件独占的利用権を失わない、と主張する。
 しかし、本件独占的利用権は原告の被告AAに対する債権であって、解除に伴う原状回復義務につき特に履行を観念する余地はないから、本件独占的利用権の消滅が被告AAの対価の返還と同時履行関係にあるということはできない。
オ 原告は、被告AAによる解除権の行使は権利の濫用であると主張する。
 法的に本件独占的利用許諾権の及ばない「結い 親鸞」の連載開始の他に、本件独占的利用権の及ぶ著作物についても、被告AAによる本件独占的利用許諾契約違反の行為が多々存在していたことは、後に認定するとおりである。
 しかし、それらの事情を考慮したとしても、被告AAからの解除が権利濫用として許されなくなるほどの事情があるとまではいえない。
カ 本件解除通知(乙イ7)は、平成23年9月15日付けで作成され、同日内容証明郵便として差し出されているところ、遅くとも同月18日までには原告に到達したものと認められる(原告は、本件解除通知が到達したことを争っていない。なお、本件著作物利用契約書〔甲88・32頁〕7条2項、本件公正証書〔甲6、88〕7条2項には、解除通知が到達しなかった場合であっても、発送日から3日を経過した日に到達したものとみなされる旨の規定がある。)。
キ 以上によれば、本件解除通知による解除は有効であるから、平成23年9月18日をもって、原告の本件独占的利用権は消滅した。
(4) 被告A@による本件書籍1の出版について
ア 被告A@が、平成20年1月25日から平成22年6月30日までの間に出版した本件書籍1の定価、発行年月、発行部数、納品部数、返品部数は別紙1「出版物一覧(平成20年1月25日から平成22年6月30日まで)」のとおりである(乙ア11)。なお、「発行部数」よりも「納品部数」の方が大きいものがあるが、返品された書籍を再び納品したものがあるためである(被告AB〔21頁〕、弁論の全趣旨)。
 上記(3)のとおり、本件解除通知(乙イ7)による解除は有効であるが、かかる解除は、将来に向かってのみ効力を有し、解除前に本件独占的利用権を侵害していた行為が遡って適法となるものではないというべきである。
 そこで、本件著作物利用契約書による本件独占的利用許諾契約の締結(平成20年1月25日頃)から本件解除通知による解除(平成23年9月18日)の前である平成22年6月30日までの間の被告A@による本件書籍1の出版が本件独占的利用権を侵害するか、個別に検討する。
イ 本件書籍1−17、1−55、1−63、1−66について
 上記(2)のとおり、平成20年1月25日頃の本件著作物利用契約書締結以降に「今後制作される著作物」であって、原告が印税配分義務を負わない著作物については、本件独占的利用許諾契約は公序良俗に反し一部無効であって本件独占的利用権が及ばないと解されるところ、本件書籍1−17、1−55、1−63、1−66は、本件公正証書別紙の著作物の複製物でも二次的著作物でもなく、本件著作物利用契約書締結以降に制作された著作物であり(弁論の全趣旨〔平成27年1月21日第19回弁論準備手続調書における被告A@の陳述〕)、原告が出版を許諾し被告A@から印税を受領したとしても被告AAに対する印税配分義務を負わない著作物であるから、本件独占的利用権は及ばない。
 本件書籍1−17、1−66は「そして−子連れ狼 刺客の子」の3巻と4巻であるところ、「子連れ狼」自体は、本件公正証書別紙に記載があり(甲88・11頁1番など)、その二次的著作物には本件独占的利用権が及ぶところ、被告A@は、本件書籍1−17は平成20年5月に、本件書籍1−66は平成21年5月に、それぞれ、作画家も一新し、従来とは全く異なる新たな作品として創作されたもので、本件公正証書別紙の著作物に由来するものでないと主張しており(平成27年1月21日第19回弁論準備手続調書における被告A@の陳述)、両書籍が本件公正証書別紙の著作物の複製物又は二次的著作物であると認めるに足りる証拠もないから、両書籍が本件独占的利用権の対象となる著作物であるとは認められない。
 本件書籍1−55は、「マギー’s犬Jr.」と題する書籍であるところ、「マギー’s犬」自体は、本件公正証書別紙に記載があり(甲88・20頁985番など)、その二次的著作物には本件独占的利用権が及ぶところ、被告ABによれば、本件書籍1−55は、新しい原作者の下で新たに創作されたもので、被告AAの「マギー’s犬」の原作は使用されておらず、被告AAは原案者として表示され、被告AAに対する印税の支払も行っていない、というのであり(被告AB〔45頁〕)、本件書籍1−55が本件公正証書別紙の著作物の複製物又は二次的著作物であると認めるに足りる証拠もないから、同書籍が本件独占的利用権の対象となる著作物であるとは認められない。
ウ 本件書籍1−89、1−90について
 本件書籍1−89は「弐十手物語 猿火無情編」、本件書籍1−90は「弐十手物語 愛憎人形編」と題する書籍であるところ、乙ア1、5、6によれば、被告A@は、平成22年3月9日、両書籍について原告と個別出版契約書を取り交わし、同年7月5日印税を原告に支払済みであると認められるから、両書籍を被告A@が原告に無断で出版したとは認められない。
エ 本件書籍1−91〜1−99について
 本件書籍1−91〜1−99は、「大阪芸術大学大学漫画」の9巻〜15巻、「大阪芸術大学河南文藝」の5巻、6巻であるが、被告A@によれば、被告AAは責任編集として発行に携わっただけで、被告AAの著作物ではなく、印税も発生しないと主張しているところ、これらの書籍が被告AAの著作物であると認めるに足りる証拠はない。
 したがって、これらの書籍が本件独占的利用権の対象となる著作物であるとは認められない(原告は、これらの書籍からは得べかりし印税額を主張しておらず、損害の計算から除外している。)。
オ 本件7作品に由来する書籍について
 本件書籍1の中には、平成20年8月12日、KK TRIBEが著作権譲渡登録を受けた本件7作品(甲12)に由来するとみられる書籍が存在する(本件書籍1−25など)。
 しかし、原告と被告AAとの間の本件独占的利用許諾契約は債権契約として引き続き有効であるから、少なくとも被告AAや、本件独占的利用権の存在を知りつつ故意によりその債権を侵害する者との関係においては、原告は独占的利用権の侵害を主張することができると解される。
カ 上記ア〜エ(別紙1「出版物一覧(平成20年1月25日から平成22年6月30日まで)」の最右欄に侵害「×」を付したもの)を除く、本件書籍1−1〜1−16、1−18〜1−54、1−56〜1−62、1−64、1−65、1−67〜1−88は、いずれも本件公正証書別紙の著作物の複製物又は二次的著作物であると認められるから(弁論の全趣旨)、本件独占的利用権の対象となる著作物である。
 被告A@は、原告に無断でこれらの書籍を出版したのであるから、原告はこれにより本件独占的利用権を侵害されたものと認められる。
(5) 被告A@の故意
 本件書籍1(上記(4)ア〜エを除く。)が出版された平成20年1月25日から平成22年6月30日までの間、被告A@の代表取締役は被告AAであった(甲4)。
 上記(1)で認定したとおり、被告AAは、自らの意思に基づいて本件独占的利用許諾契約を締結し、その内容を認識していたものと認められるから、原告に無断で本件書籍1(上記(4)ア〜エを除く。)を出版することが原告の本件独占的利用権を侵害することを認識していたものと認められる。
 被告AA及び被告A@は、本件公正証書の存在を知らなかったとか、本件独占的利用許諾契約は無効と認識していたとか主張し、被告AAはこれに沿う供述をする(乙イ20、被告AA本人)。
 しかし、本件著作物利用契約書及び本件公正証書による本件独占的利用許諾契約が原告と被告AAとの間で有効に成立していること、被告AAに支払われた2億円が本件独占的利用権の対価であることは前記のとおりであり、そのことは被告AA(及び被告AAを代表者とする被告A@)も認識していたと認められるから、そのような認識を前提とすると、被告AA(及び被告AAを代表者とする被告A@)が本件独占的利用許諾契約を全部無効と認識したことに合理性は認められず、債権侵害の故意を阻却するものとはいえない。
 本件独占的利用権は債権であって、その侵害に対する損害賠償も本来は契約当事者である被告AAに対してしか請求できないところであるが、被告A@は、被告AAが代表者を務め、被告AAと密接な関係にある者であり、本件書籍1の出版が本件独占的利用権を侵害することを認識していた者であるから、原告は、契約当事者でない被告A@による本件独占的利用権の侵害に対しても損害賠償を請求することができる。
(6) 原告の得べかりし印税相当額について
 被告A@の本件独占的利用権を侵害する本件書籍1(上記(4)ア〜エを除く。)の無断出版により、原告は、被告A@から得べかりし印税相当額の損害を被ったということができる。
 被告A@が個別出版契約書で適法に原告から許諾を得て出版した場合の印税額は、@各巻の発行部数の50%に、定価(消費税込み)の5%に相当する金額を乗じた金額を前払保証金として支払い、A50%を超えて売れたときは、超えた部数に定価(消費税込み)の5%に相当する金額を乗じた金額を追加で支払う、B50%を超えなかったときは清算しない、C初版1刷に際し100部について印税を免除する、D原告は受領した印税の20%を被告AAに支払う、というものであった(乙ア5〜10)。
 上記Dの点については、本件書籍1の出版は本件印税合意の前であり、原告が受領した印税を被告AAに配分する義務は存在しないから、得べかりし印税から20%を控除することはしない。
 そうすると、乙ア11の「発行部数」から印税免除分100部を控除した部数の50%か、「納品部数」から「返品部数」及び印税免除分100部を控除した実売部数のどちらか大きい方を基準部数として、これに乙ア11の「定価」の5%を乗じた金額が、原告の得べかりし印税相当額ということになる(本件書籍1−89、1−90については乙ア1で印税が支払われているが、基準部数は乙ア11の「発行部数」から印税免除分100部を控除した部数に0.5を乗じた部数となっており、単価は乙ア11の定価がそのまま定価(消費税込み)となっている。)。
 本件書籍1(上記(4)ア〜エを除く。)について原告の得べかりし印税相当額を計算すると、別紙1のとおり、合計2777万5208円となる(1円未満四捨五入)。
(7) 被告AAの責任
 被告AAは、被告A@の代表取締役として、本件書籍1(上記(4)ア〜エを除く。)の出版を決定し、その職務を行うにつき不法行為をして原告に損害を加えたため、被告A@がその賠償責任を負うものであるから、代表取締役である被告AAは、被告A@と連帯して共同不法行為責任を負う(最高裁昭和49年2月28日判決・集民111号235頁)。
(8) 被告AAによる相殺について
 被告AAは相殺を主張しているが、請求の趣旨第1項で請求されているのは不法行為に基づく損害賠償債務であるから、相殺をもって対抗することはできない(民法509条)。
(9) 小括
 以上によれば、原告の請求の趣旨第1項に係る請求は、被告A@及び被告AAに対し、本件書籍1(上記(4)ア〜エを除く。)を原告に無断で出版して本件独占的利用権を侵害したことについて、民法709条、719条に基づき、連帯して2777万5208円及びこれに対する不法行為の後の日である平成22年7月1日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余はいずれも理由がない。
2 被告A@及び被告ABの共同不法行為に基づく請求(請求の趣旨第2項)について
(1) 本件著作物利用契約書及び本件公正証書による本件独占的利用許諾契約が原告と被告AAとの間で有効に成立していること、本件独占的利用許諾契約が一部無効であること、本件解除通知による解除が有効であることは、上記1で判断したとおりである。
(2) 被告A@による本件書籍2の出版について
ア 原告は、平成23年9月13日から平成24年9月10日までの間の本件書籍2の出版が本件独占的利用権を侵害すると主張する。
 しかし、本件解除通知による解除は(将来に向かって)有効であるから、本件解除通知が原告に到達した平成23年9月18日以降の本著作物の出版は、本件独占的利用権を侵害するものではない。
 原告の主張によれば、本件書籍2のうち、平成23年9月18日までに発行されたものは、本件書籍2−1〜2−9、2−11〜2−20、2−−57〜2−59、2−72であるから、これらについて本件独占的利用権侵害の成否を判断する。
イ 本件書籍2−57〜2−59、2−72について
 本件書籍2−57は「オークション・ハウス 7 チョウロンギ・ロード編」と題する書籍であり、原告は、平成23年1月25日に発行されたものと主張する(原告準備書面(11)8頁の57番)。
 しかし、被告A@の作成した乙ア12では、本件書籍2−57の発行年月は平成24年1月となっており(乙ア12の58番。31番の重複のため番号がずれている。)、原告主張の発行日を認めるに足りる証拠はない。
 本件書籍2−58は「子連れ狼 5 雲龍風虎編」と題する書籍であり、原告は、平成23年2月10日に発行されたものと主張する(原告準備書面(11)9頁の58番)。
 しかし、被告A@の作成した乙ア12では、本件書籍2−58の発行年月は平成24年2月となっており(乙ア12の59番)、原告主張の発行日を認めるに足りる証拠はない。
 本件書籍2−59は「オークション・ハウス 8 レンブラント企業体編」と題する書籍であり、原告は、平成23年2月28日に発行されたものと主張する(原告準備書面(11)9頁の59番)。
 しかし、被告A@の作成した乙ア12では、本件書籍2−59の発行年月は平成24年2月となっており(乙ア12の60番)、原告主張の発行日を認めるに足りる証拠はない。
 本件書籍2−72は、「AAのキャラクター新論〜ソーシャルメディアが動かすキャラクターの力」と題する書籍であり、原告は、平成23年5月25日に発行されたものと主張する(原告準備書面(11)9頁の72番)。
 しかし、被告A@の作成した乙ア12では、本件書籍2−72の発行年月は平成24年3月となっており(乙ア12の73番)、原告主張の発行日を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、これらの書籍について、本件解除通知到達前の発行であるとは認められないから、本件独占的利用権を侵害するものとは認められない。
ウ 本件書籍2−1〜2−3、2−11〜2−19について
 乙ア2〜4によれば、本件書籍2−1〜2−3、2−11〜2−19については被告A@から原告に印税が支払われていることが認められ、このことからすれば、これらの書籍については、被告A@は原告との間で個別出版契約書を取り交わして原告から出版を許諾されていたものと推認されるから、これらの書籍については、本件独占的利用権を侵害するものとは認められない。
エ 本件書籍2−4〜2−9、2−20について
 被告A@は、本件書籍2−4〜2−9、2−20は重版であると主張する(被告A@第4準備書面1〜2頁)。
 これが重版であり、原告の許諾に基づいて出版されたものと認めるためには、その初版分につき被告A@が原告との間で個別出版契約書を取り交わしていることを立証する必要があるところ、被告A@はそのような立証をしない(なお、仮に初版分について個別出版契約書を取り交わし、初版分の印税を支払っていたとしても、重版分について原告に追加印税を支払っていないときは、不法行為は成立しないものの、印税債務の不履行により同額の債務を負担していることになる。)。
 結局、これらの書籍の出版が原告の許諾を受けたものであることについて立証があったということはできず、これらの書籍は本件公正証書別紙の著作物の複製物又は二次的著作物であって本件独占的利用権が及ぶと認められるから(弁論の全趣旨)、これらの書籍の出版は、本件独占的利用権を侵害するものと認めるのが相当である。
オ 以上によれば、本件書籍2のうち、本件書籍2−4〜2−9、2−20の7点の出版は、原告の独占的利用権を侵害するものと認められる。
(3) 被告A@の故意
ア 上記(2)オの7点の出版は、乙ア12によれば平成23年7月から9月の間(原告の主張によれば、平成23年7月11日から同年9月13日までの間)である。
 この時期の被告A@の代表取締役は、平成23年5月30日に被告AAから代表取締役を交替した被告ABであった(甲2)。
イ 被告ABが本件独占的利用権の存在を認識していたことについて
 被告A@は、平成22年2月9日付けで原告、被告AA及び被告A@との間で締結された本件基本合意(甲8、75)及びこれに基づいて原告との間で個別に取り交わす出版契約書に基づいて被告AAの著作物の出版を行ってきたのであるから、原告と被告AAとの間に本件独占的利用許諾契約が締結されており、原告が本件独占的利用権を有していることは認識していたものと認められ、このような認識は、被告A@の代表取締役に就任した被告ABにも引き継がれたものと認められる。
ウ 原告による本件基本合意の解除について
 被告ABは、被告A@の代表者として、平成23年6月28日付け及び同年7月6日付け許諾依頼書(甲9、乙ウ7)により、「乾いて候」及び「子連れ狼」について、独占的利用権を有する原告に個別出版契約書による出版許諾を求めているが、このことは、被告ABが原告の独占的利用権を認識していたことを裏付けるものである。
 これら被告AAが原作を、亡BDが作画を担当して制作された著作物の出版について、原告は、作画家である亡BDの著作権管理者の許諾を得ていないと主張して、出版許諾をせず、平成23年9月12日付け催告書(甲11)により、本件基本合意を解除する意思表示をした。
 しかし、乙イ11によれば、被告A@は、平成23年8月29日、亡BDの相続人であるBEから、「乾いて候 第1巻」について出版許諾を受けていたことが認められるから、原告による本件基本合意の解除は、その前提となる重要な事実を誤認したものであった(もっとも、BEが「子連れ狼 第1巻」について被告A@に出版許諾を与えたのは平成23年11月21日になってのことであり〔乙イ12〕、許諾依頼書にあった他の著作物について出版許諾があった証拠はない。また、許諾依頼書送付時点では亡BD著作権管理者の許諾が得られていなかったことに変わりはない。)。
 被告A@は、原告による本件基本合意の解除があった後、原告による許諾がないまま被告AA著作物の出版を強行しているが、原告が本件独占的利用権を有している以上、原告の許諾のない本著作物の出版は本件独占的利用権を侵害するものといわざるを得ず、仮に亡BD著作権管理者や被告AAの許諾があったとしても、それが適法になるものではない。
 被告A@の代表取締役であった被告ABは、原告が本件独占的利用権を有していることを認識しながら、故意により本件独占的利用権を侵害したものであって、その故意を阻却するような事情は認められない。
エ 被告A@が、平成23年5月30日まで被告AAが代表取締役を務めていた会社であり、被告AAと密接な関係にある会社であること、被告A@が本件書籍2の出版が本件独占的利用権を侵害することを認識していたことなどからすれば、原告は、契約当事者でない被告A@に対しても、本件独占的利用権の侵害について、損害賠償を請求することができる。
(4) 原告の得べかりし印税相当額について
 被告A@の本件独占的利用権を侵害する本件書籍2−4〜2−9、2−20の無断出版により、原告は、被告A@から得べかりし印税相当額の損害を被ったということができる。
 上記1(6)と同様に計算すると、本件書籍2−4〜2−9、2−20についての印税相当額は、別紙2の「印税額」欄記載のとおり、合計101万1600円となる。
 本件書籍1については、本件印税合意前の出版であったため、被告AAに対する配分額を差し引くことはしなかったが、本件書籍2の出版は、いずれも本件印税合意の後であるから、被告A@が原告の許諾を得て本件書籍2を出版し、原告が印税を受領した場合には、その20%を被告AAに配分する義務があったものである。
 したがって、原告の得べかりし印税相当額は、被告AAに配分されるべき20%を控除し、別紙2の「×0.8」欄記載のとおり、合計80万9280円となる。
(5) 被告ABの責任
 被告ABは、被告A@の代表取締役として、本件書籍2−4〜2−9、2−20の出版を決定し、その職務を行うにつき不法行為をして原告に損害を加えたため、被告A@がその賠償責任を負うものであるから、代表取締役である被告ABは、被告A@と連帯して不法行為責任を負う。
(6) 小括
 以上によれば、原告の請求の趣旨第2項に係る請求は、被告A@及び被告ABに対し、本件書籍2−4〜2−9、2−20を原告に無断で出版して本件独占的利用権を侵害したことについて、民法709条、719条に基づき、連帯して80万9280円及びこれに対する、被告A@については、不法行為の後の日であり、被告A@に対する訴状送達の日である平成24年7月27日から(平成26年12月16日付け訴え変更の申立書により請求が拡張されているが、上記認定の不法行為に関する限り、訴状送達日が不法行為の後の日であることは明らかである。)、被告ABについては、不法行為の後の日であり、被告ABに対する訴状送達の日である平成24年7月28日から、各支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余はいずれも理由がない。
3 被告AA、被告AB、被告AC及び被告ADの共同不法行為に基づく請求(請求の趣旨第3、4項)について
(1) 後掲の証拠等によれば、以下の事実が認められる。
ア 平成18年4月12日頃、被告ADは、被告AAを100%株主とする米国法人KK TRIBE、Inc.を設立し、被告AA作品の米国における映画化交渉等を行っていた(甲49、被告AD〔16〜17、19頁〕)。
イ 被告ADは、平成18年12月6日、日本法人としてKK TRIBEを設立し、代表取締役に就任して、被告AA作品の米国における映画化交渉等を行っていた(甲1、乙エ4、被告AD)。この頃、米国法人KK TRIBE、Inc.は活動を行わなくなった(被告AD)。
ウ 平成19年6月5日、被告AA及び被告ADは原告の取締役に就任し、同月21日、被告AAは200株、被告ADは400株の割り当てを受けた(甲1、25〜30、乙イ17)。
エ 原告と被告AAは、平成20年1月25日頃、本件著作物利用契約書により本件独占的利用許諾契約を締結し、平成20年2月18日には本件公正証書が作成された(甲6、88)。
オ 被告AAは、平成20年4月9日、KK TRIBEに対し、本件公正証書別紙に記載された著作物である本件7作品(「子連れ狼」、「忘八武士道」、「首斬り朝」、「修羅雪姫」、「オークションハウス」、「御用牙」及び「盗撮影手パパラッチ」)についての著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)を譲渡し、平成20年8月12日、その旨の著作権譲渡登録がなされた(甲12)。
カ 被告AAは、平成20年5月15日、株式会社角川書店(現・株式会社KADOKAWA)に対し、「著作権譲渡に関する基本合意書」により、本件7作品を含む211作品について被告AAが当該契約を締結できる正当な権利者であり、同著作物について完全な著作権を有していること、同著作物が第三者の有する著作権その他の何らの権利及び利益を侵害しないことを(原告が本件独占的利用権を有しており、またKK TRIBEが本件7作品につき著作権譲渡を受けている事実を秘して)保証した上で、出版利用、電子化、電子化された著作物の複製・頒布に関する権利(複製権、公衆送信権及び送信可能化権、譲渡権、貸与権、翻訳権)を譲渡し、二次利用に関する窓口を独占的に許諾した(甲40、41)。
キ 原告は、平成20年9月29日付けで、KK TRIBEに対し、今後の対応について協議を求める催告書を送付した(甲50)。
ク 被告ADは、平成20年10月14日、原告の取締役を辞任し、平成21年2月19日、その旨登記された(甲1、51)。
ケ 原告は、平成20年11月12日、KK TRIBEに対し、同月28日の会議へのKK TRIBE代理人ら及び被告ADの出席を求めた(甲52)が、KK TRIBEは、同月25日、出席は見合わせる旨回答した(甲53)。
コ 原告とCSデヴコとの間の仲介者であったフィロソフィア株式会社は、平成20年11月21日、原告に対し、「子連れ狼」のハリウッドでの映画化に関する提案書を提出した(甲36、95、証人BI)。
サ 原告は、平成20年12月10日、CSデヴコとの間で、平成20年10月29日付け「取引基本合意書(「子連れ狼」)」により、以下の合意を締結した。その骨子は、@初回オプション報酬は12か月間の初回オプション期間における選択権の対価として2万5000米ドル以上7万5000米ドル以下の額とし、初回オプション期間は正式な契約の署名かCSデヴコによるチェーン・オブ・タイトル(正当な権利者から途切れることなく権利が譲渡され又は許諾されること)の承認のいずれか遅い時点に開始して、そのときに(CSデヴコから原告に)初回オプション報酬が支払われること、ACSデヴコは、さらに2万5000米ドル以上7万5000米ドル以下の額の第2オプション報酬を支払うことにより、初回オプション期間をさらに12か月間延長することができること、B原告はCSデヴコに対し、オプション期間において、「子連れ狼」の全ての権利等を「購入」する選択権を付与すること、C「子連れ狼」の全ての権利等の購入価格は100万米ドルとすること、D原告は映画の純利益の5%相当額を受領することなどである(甲13、21、95、99、原告代表者、証人BI。被告AAは甲13、21の成立を争うが、原告代表者及び証人BIによれば真正に成立したものと認められる。)。
シ 原告は、平成20年12月18日の取締役会において、「子連れ狼」米国映画化権については現在のまま進めていく旨を確認した(甲55)。
ス 原告は、平成21年2月6日、被告AAに対し、原告の「子連れ狼」米国映画化事業について、KK TRIBE及び被告ADが妨害しないよう申し入れ、本件7作品の著作権登録について被告AAに再譲渡する手続を速やかに実行するよう申し入れた(甲56)。これに対し、KK TRIBEは、同月18日、原告に対し、KK TRIBEは著作権登録を受け対抗要件を備えており、原告に優先する著作権者であるので、KK TRIBEが主導的に映画化を進めたい旨回答した(甲57)。
セ 被告AAは、平成21年4月2日、原告の取締役を辞任し、同月27日、その旨登記された(甲1、58)。
ソ 原告は、平成22年8月5日、被告AAに対し、著作権譲渡登録の抹消をする意思があるか回答を求めた(甲67)。被告AAは、同月12日、「@ADらによって権利譲渡の書類を作成されましたが、それはすでに撤回しました。A一部実行されている著作権譲渡登録は抹消請求をしたいと考えています。」等と回答した(甲68)。
タ 被告AAは、平成23年4月20日付けで、米国法人1212エンターテイメント・エルエルシー(以下「1212」という。)との間で、1212に「子連れ狼」の実写映画化権等を独占的に許諾するオプション権を与え、1212は、オプション契約締結日から3年間、35万米ドルの支払いにより上記実写映画化権等を購入するオプション権を有すること、上記実写映画化権等は100万米ドルで購入されることなどを定めたオプション契約(以下「本件オプション契約」という。)を締結した(甲70)。
チ ラッキー17は、平成23年4月23日、1212から本件オプション契約上の地位を譲り受け、同月25日頃までに、被告AAの代理人に対し、オプション権の対価35万米ドルを支払った(甲70、74、89、乙イ18・12頁、被告AA〔39〜40頁〕、被告AB〔36頁〕)。被告AAは、同月27日、KK TRIBEに対し、受領した35万米ドルの中から1000万円を支払った(甲70、71、乙エ2、3、被告AA〔39〜40頁〕)。
ツ KK TRIBEは、上記チの精算金の支払を受けて、被告AAとの間で、本件7作品の著作権譲渡契約を解除し、同年11月4日、著作権譲渡登録を抹消した(甲12、乙エ2)。
テ 平成23年5月10日、被告ACが設立された(甲3)。被告AAは、同日、被告ACに対し、本件7作品についての著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)を譲渡し、同年11月4日、その旨譲渡登録がなされた(甲12、72)。
ト KK TRIBEは、平成23年6月30日、株主総会の決議により解散し、同年8月15日、その旨の登記がなされた(甲5)。
ナ 被告AAは、平成23年9月15日付けで、原告に対し、本件独占的利用許諾契約を解除した(乙イ7)。
ニ ラッキー17は、平成24年1月16日、被告ACから「子連れ狼」の実写映画化権等の譲渡を受け、同年2月3日、その旨譲渡登録がなされた(甲12の1、甲74、89、乙イ18)。
ヌ ラッキー17は、平成24年頃、原告に対し、「子連れ狼」の実写映画化権等の確認を求めるとともに、原告による告知行為の差止めを求める訴えを当庁に提起し(当庁平成24年(ワ)第16442号)、当庁は、平成25年10月10日、ラッキー17の訴えを認容する判決をした(乙イ18)。
 原告は控訴を提起した(知財高裁平成25年(ネ)第10094号)が、知財高裁は、平成26年3月27日、原告の控訴を棄却する判決をした(甲89)。
(2) 被告AAからKK TRIBEに対する本件7作品の著作権譲渡(上記(1)オ)がなされた平成20年4月9日時点、及び、被告AAから被告ACに対する本件7作品の著作権譲渡(上記(1)テ)がなされた平成23年5月10日時点においては、原告は本件7作品に対し本件独占的利用権を有していたのであるから、上記各譲渡は、原告の本件独占的利用権を侵害するものというべきである。
(3) 被告AAの故意について
 被告AAは、本件独占的利用許諾契約を締結し、その認識を有していたものと認められるから、被告AAは、故意により原告の本件独占的利用権を侵害したものと認められる。
(4) 被告ADの故意について
 被告ADは、上記著作権譲渡の当時、本件公正証書の存在を知らず、原告の本件独占的利用権を認識していなかったと供述する(乙エ4、被告AD)。
 しかし、被告AAからKK TRIBEに対する本件7作品の著作権譲渡(上記(1)オ)がなされた平成20年4月9日当時、被告ADはKK TRIBEの代表取締役であり(甲5、乙エ4、被告AD本人)、原告の取締役であり(甲1)、被告A@の取締役であった(甲2、4)。また、被告ADは被告AAの甥であり、 被告AAの意思を受けて被告AAの著作物の米国での映画化交渉を行う立場にあった(乙エ4、被告AD本人)。
 被告AA及び被告A@が本件独占的利用権を認識していたことは前記1(5)のとおりであり、原告及び被告A@の取締役であり、被告AAとも密接な関係があった被告ADが本件独占的利用許諾契約の存在を知らなかったと考えるのは不自然、不合理であって、被告ADは、原告、被告AA又は被告A@から本件独占的利用許諾契約の存在を聞いていたものと推認するのが相当である。
 したがって、被告ADが代表者を務めるKK TRIBEは、故意により原告の独占的利用権を侵害したものと認められる。
 被告ADが前記のとおり被告AAと密接な関係にある者であり、本件7作品の著作権譲渡が本件独占的利用権を侵害することを認識していたことなどから、原告は、契約当事者でない被告ADに対しても、本件独占的利用権の侵害について損害賠償を請求し得る地位にあるということができる。
(5) 被告AC及び被告ABの故意について
 被告AAから被告ACに対する本件7作品の著作権譲渡(上記(1)テ)がなされた平成23年5月10日時点において、被告ACの代表取締役は被告ABであった(甲3)。
 被告ABが、平成23年5月30日被告AAから被告A@の代表取締役の交替を受けた時点で、本件独占的利用権を認識していたと認められることは上記2(3)イで認定したとおりである。被告ABは、代表取締役に就任する以前の平成21年8月11日から被告A@の執行役員を(乙ウ2)、平成22年3月1日から被告A@の取締役を、それぞれ務めていた(甲2)。被告A@は、被告AAの著作物の出版を主な業とする会社であり(乙ウ2)、平成22年2月9日には原告との間で本件基本合意を締結し(甲8、75)、原告との間の個別出版契約書に基づいて被告AAの著作物の発行を行っていたのであるから、そのような被告A@の役員であった被告ABは、平成23年5月10日時点で、原告が本件独占的利用権を有していることを認識していたものと認めるのが相当である。
 被告ABの供述のうち、上記認定に反する部分は採用しない。
 したがって、被告ABが代表取締役を務める被告ACは、故意により本件独占的利用権を侵害したものと認められる。
 被告ABが、被告AAと密接な関係にある被告A@の役員を務める、被告AAと密接な関係にある者であり、被告ACも、専ら本件7作品の著作権譲渡のために設立された、被告AAと密接な関係にある会社であること、被告AB及び被告ACは本件7作品の著作権譲渡が本件独占的利用権を侵害することを認識していたことなどから、原告は、契約当事者でない被告AB及び被告ACに対しても、本件独占的利用権の侵害について損害賠償を請求し得る地位にあるということができる。
(6) CSデヴコから得べかりし100万米ドルの損害について
 原告は、KK TRIBEや被告ACの著作権譲渡登録がなければ、原告はCSデヴコによるチェーン・オブ・タイトルの承認を得られ、原告とCSデヴコとの間で正式契約が締結されて、CSデヴコが「子連れ狼」を映画化することにより、少なくとも100万米ドルの対価が得られたはずである、と主張する。
 しかし、100万米ドルは「本権利の購入価格」すなわち実写映画化が確定した後に初めて支払われる対価であり、CSデヴコがチェーン・オブ・タイトルの承認をし、長文式契約が締結されて、初回オプション報酬(2万5000米ドル以上7万5000米ドル以下)が支払われた後、米国ハリウッド側で脚本家に脚本制作を依頼し、脚本完成後、制作予算や興業収支を予測して、事業計画の見通しが立ったときに初めて本権利の購入がなされるのであり、チェーン・オブ・タイトルの承認があったからといって、確実に支払われる保証があるものではない(甲13、21、95、被告AD、証人BI)。
 そうすると、被告AA、被告AD、被告AC及び被告ABの不法行為がなかったとしても、原告が100万米ドルの利益を得られた蓋然性があるとはいえず、100万米ドルの損害について不法行為と相当因果関係があるとはいえない。
(7) フジテレビから得べかりし170万円の損害について
 原告は、被告AAから被告ACに対する著作権譲渡がなければ、「子連れ狼」がテレビドラマ化され、フジテレビから170万円の許諾料を得られたはずである、と主張する。
 しかし、原告とフジテレビとの間の契約書や合意書は締結されるに至っておらず(原告代表者〔56頁〕)、フジテレビが許諾料の支払に至る条件の詳細は不明であって、BBの供述(甲99、原告代表者)と、株式会社アクトエンタープライズの代表取締役であるC@の供述(甲96、証人C@)のみをもっては、被告AA、被告AC及び被告ABの不法行為がなければ、原告がフジテレビから170万円の許諾料を得られた蓋然性があるとは認めるに足りない。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、170万円の損害賠償請求は理由がない。
(8) ラッキー17から得べかりし50万米ドルの損害について
 原告は、被告ACがラッキー17から受領した権利譲渡の対価は50万米ドルを下らず、被告AA及び被告ACによる不法行為がなければ、原告がラッキー17から50万米ドルの対価を得ていたはずである、と主張する。
 しかし、原告は、CSデヴコとの間で米国での「子連れ狼」実写映画化交渉を進めていたのであるから、被告AA及び被告ACによる不法行為がなかったとしても、実写映画化交渉はCSデヴコとの間で進められていたと考えられ、ラッキー17との間での実写映画化交渉を原告が行っていた蓋然性があるとはいえない。
 被告AAは、ラッキー17からオプション価格35万米ドルを受領しており(上記(1)チ)、これは被告AAが本件独占的利用許諾契約に違反して1212との合意をし(上記(1)タ)、本件独占的利用許諾契約に違反して被告ACに本件7作品の譲渡を行った(上記(1)テ)ために得た利益であるが、我が国の不法行為法は、被害者が請求し得る損害は不法行為がなければ得られたであろう蓋然性のある範囲に限っており(民法416条類推)、著作権法114条2項のような推定規定がない限り、不法行為者が不法行為によって得た利益を全て吐き出させるような規定は存在しないのであるから、損害との相当因果関係が認められない以上、被告AAが不法行為により得た利益を保有する結果となってもやむを得ないものというべきである。
(9) 以上によれば、原告主張の損害は、不法行為との間に相当因果関係が認められないから、被告AA、被告AB、被告AC及び被告ADの共同不法行為に基づく請求の趣旨第3、4項の請求はいずれも理由がなく、被告ADに対する任務懈怠責任に基づく請求の趣旨第3項の予備的請求も理由がない。
4 被告AAの債務不履行に基づく請求(請求の趣旨第5項)について
(1) 後掲の証拠等によれば、以下の事実が認められる。
ア 被告AAは、平成16年8月3日、大成商事有限会社との間で、「著作物およびキャラクターの商品化権に関する原作契約書」(甲15)により、被告AAの著作物について、パチンコ及びスロット遊技機等の範囲における商品化権を、大成商事有限会社に独占的に委任した。当該契約の有効期間は、平成16年8月3日から平成21年8月3日までの5年間とし、契約期間満了の日の3か月前までに当事者のいずれからも何ら申し出のない場合には、同一の契約条件により1年間延長され、その後も同様とする旨規定されていた(甲15・11条)。
 その後、PTSは、大成商事有限会社の契約上の地位を承継した(甲16、34、弁論の全趣旨)。被告AAは、PTSの発起人であり、取締役であり、株主であった(甲98)。
イ PTSは、平和に対し、平成19年2月14日及び同年6月18日、被告AAを原作者とする「修羅雪姫」「子連れ狼」「花平バズーカ」「弐十手物語」の漫画・劇画につき、契約締結日から3年間(「子連れ狼」については許諾内容が独占的排他的な許諾へと変更された日[平成19年9月1日]から3年間)、パチンコ遊技機への利用を許諾した(甲17、62)。
ウ 被告ADは、平成19年6月頃、原告に対し、「作品二次使用契約表」と題する文書(甲34)を交付した(甲99・6頁、乙エ4・2頁、原告代表者〔15、31、86〜88頁〕、被告AD〔21〜22頁〕)が、そこには、「大成商事有限会社(PTS)」が、被告AAの「全作品」について「商品化権(パチンコ及びスロット遊戯機、及び周辺機器)」につき、「日本国内」で「無期限」の権利を有している旨の記載がある。
エ 平成19年9月10日、劇画村塾(原告)の発足記念パーティーが開催され、PTSの代表取締役であったCAと専務取締役であったCBが出席した(甲16、32、98、原告代表者〔86〜87頁〕)。
オ 被告AAは、平成19年9月27日、PTSとの間で、PTSに対する利用許諾期間を15年間延長し、平成36年8月3日までとすることを合意した(甲16)。
カ 被告AAは、平成19年10月26日頃、原告との間で、旧著作物利用契約書(甲87・19〜28頁、乙イ2)により、被告AAの著作に係る旧公正証書別紙の著作物に関し、原告が同著作物の全部又は一部を複製し、あるいは翻訳・翻案してデジタル著作物を作成すること、作成されたデジタル著作物をゲーム、パチンコ、パチスロ及びこれらの周辺機器等において利用すること等を独占的に許諾した(甲87、甲92・3頁、甲99・9頁、乙イ2、原告代表者〔35〜40頁〕、被告AA〔13頁〕、証人BG〔13、16頁〕、証人AF〔7〜10頁〕)。
 同契約において、被告AAが同契約前に商品化権ないし配信権を許諾している、大成商事有限会社(PTS)に対して許諾した被告AAの作品の商品化権(パチンコ、パチスロ及びこれらの周辺機器を含む。)については、被告AAにおいて使用許諾契約期間満了と同時に同契約の対象となる事項に含むものとして取り扱うこととし、その具体的条件については個別に原告と被告AA間で協議して決定することとされた(旧著作物利用契約書〔甲87・19頁〕1条4項1号)。
 被告AAは、平成19年10月26日頃、AIに対する委任状(甲37、甲87・18頁)に署名押印し、同年11月26日、旧公正証書(甲14、87)が作成された。
キ 被告AAは、平成20年1月25日頃、原告との間で、旧公正証書契約を合意により解約し、これに代えて新たに規定する内容に係る契約公正証書を作成することを合意し(甲18、22。被告AAは真正な成立を争うが、被告AAの印鑑証明書(甲38)との対比により真正に成立したものと認められる。)、本件著作物利用契約書(甲88・30〜52頁)により、本件独占的利用許諾契約を締結した。
 本件独占的利用許諾契約においても、被告AAが同契約前に商品化権を許諾している、大成商事有限会社(PTS)に対して許諾した被告AAの作品の商品化権(パチンコ、パチスロ及びこれらの周辺機器を含む。)については、被告AAにおいて使用許諾契約期間満了と同時に同契約の対象となる事項に含むものとして取り扱うこととし、その具体的条件については個別に原告と被告AA間で協議して決定することとされた(本件著作物利用契約書〔甲88・30頁〕2条4項)。
 被告AAは、平成20年1月25日頃、AGに対する委任状(甲88・29頁)により公正証書の作成を委任し、同年2月18日、本件公正証書(甲6、88)が作成された。
ク 平成20年12月18日の原告の取締役会において、BBは、収益を上げるためにはパチンコメーカーへ原作者被告AA作品を売りたいとの発言をし、被告AAは協力すると発言した(甲55)。
ケ PTSは、平成21年4月10日、平和との間で、「修羅雪姫」「子連れ狼」の利用許諾期間を、「修羅雪姫」については平成23年2月13日まで、「子連れ狼」について平成24年2月末日まで延長する契約をした(甲62)。
コ 平和は、平成22年6月4日、PTSが作画家の利用許諾を得ていなかったことが判明したため、PTSとの間の利用許諾契約を解除した(甲60〜62)。
サ 原告は、平成22年8月5日、被告AAに文書で質問をし(甲67)、被告AAは、同月12日、原告に対し、「パチンコ化、映画化の権利の管理については、それぞれPTSとADに委託していたので、除外して下さい、と何度か申し上げたのですが、そのことがお耳に達していなかったとすれば、コミュニケーション不足でした。」、「平成19年9月に被告AE株式会社設立記念パーティ開催の際、PTSCA氏から、PTSがパチンコ事業から排除されるかも知れないとの危機感により、延長の申し出がありました。私はその当時、すでにパチンコ化の権利をPTSに委託していることについて貴殿の同意を得ているから延長も問題ないだろうと考えて、15年延長を合意しました。」等と回答した(甲68)。
シ 平和は、平成23年頃、PTSに対し、支払済みの許諾料1億6600万円の返還を求める訴えを当庁に提起し(当庁平成23年(ワ)第35541号)、当庁は、平成24年7月19日、平和の請求を認容する判決をした(甲62)。
(2) 原告は、旧公正証書契約により、被告AAは、原告に無断でPTSに対する利用許諾期間を延長させない義務を負担した、と主張する。
 しかし、旧公正証書及び旧著作物利用契約書においては、被告AAがPTSに許諾している権利は「使用許諾契約期間満了と同時に、甲乙間の本契約の対象となる事項に含むものとして取り扱うこととし、その具体的な条件については個別甲乙間で協議して決定する」としか記載されておらず(旧著作物利用契約書〔甲87・19頁〕1条4項、旧公正証書〔甲87〕2条4項)、被告AAが原告に対し、PTSに対する利用許諾期間を延長させない義務を負ったとは認め難い。
 実質的にも、パチンコは制作に2〜3年掛かるのが普通で、そこから販売を始めるのであるから、パチンコ化をするのであれば3年の利用許諾では短すぎ(原告代表者〔16頁〕)、現に、PTSは平和との間で、延長前の段階でも平成19年2月14日、同年6月18日及び同年9月1日から3年間、すなわち平成22年2月14日ないし9月1日までの利用許諾をしていたのであり、PTSと被告AAとの契約には自動更新条項もあったのであるから、15年間も延長するかどうかはともかくとしても、平成21年8月3日をもって被告AAとの利用許諾契約を終了させるようなことはPTSは全く予定していなかったものと認められる。PTSがそのような立場にある以上、被告AAがPTSとの利用許諾契約を平成21年8月3日をもって終了させるような義務を負担する合意をしたとは考え難い。被告AAの意思が反映されていると思われる「作品二次使用契約表」と題する文書(甲34)において、PTSの契約期間が「無期限」とされているのも、上記認定を裏付けるものである。
 そうすると、被告AAが原告に対し「パチンコ化の権利は原告との契約から除外してほしい」と告げていた旨の被告AAの供述(甲68、乙イ20、被告AA本人)の信用性について判断するまでもなく、被告AAが原告に対しPTSに対する利用許諾期間を延長しない義務を負担したとは認められないから、その余の点について判断するまでもなく、被告AAの債務不履行に基づく請求の趣旨第5項の請求は理由がない。
5 被告AAに対する金銭消費貸借契約に基づく請求(請求の趣旨第6項)
(1) 平成19年9月26日には原告名義で3000万円が(甲19)、同年10月17日には原告の取締役であった(甲1)B@名義で1500万円が(甲20)、それぞれ被告AAの銀行口座に送金されている。
 平成19年度の原告の貸借対照表では、上記合計4500万円に500万円を加えた5000万円につき、前記の本件独占的利用権の対価2億円と併せて「保証金」の名目で計上され(甲76)、平成20年度ないし22年度の貸借対照表では、上記5000万円は「長期貸付金」の名目で計上されている(甲77〜80)。
 証拠(甲19、20、76〜80、90、99、原告代表者〔14〜15、45、68〜69、84〜85頁〕、証人B@〔2〜3、30頁〕)によれば、上記合計4500万円の送金の趣旨は、被告AAに対する返済期限及び利息の定めのない貸付金であり、また、上記送金とは別に、原告は、平成19年11月28日頃、被告AAに対し、返済期限及び利息の定めなく、現金500万円を貸し付けたことが認められる。
(2) 原告は、平成24年8月8日被告AAに送達された本件訴状により、上記貸金5000万円の返還を催告した(当裁判所に顕著)。
 上記貸金は、いずれも期限の定めのない貸付であったと認められるから、被告AAの貸金返還債務は、催告後相当期間経過後に遅滞に陥るものと解される(なお、被告AAは、上記催告によって直ちに遅滞に陥ることを争っているものとみるのが相当である。)。
 被告AAは、本件訴状の送達を受けた平成24年8月8日の1週間後である同月15日には相当期間の経過により遅滞に陥ったものと認められるから、同日から遅延損害金が発生する。
(3) 被告AAによる弁済について
 被告AAは、仮に貸金債務が存在したのであれば、被告AAは早期に返済しているはずである、と主張する。
 しかし、被告AAが上記貸金を弁済した証拠は全くなく、かえって、平成22年の貸借対照表まで上記5000万円が長期貸付金として計上され続けていることからすれば、上記貸金が弁済されたことはなかったと認めるのが相当である。
(4) 被告AAによる相殺について
ア 原告に対する損害賠償債権について
(ア) 被告AAは、原告の日本経済新聞連載妨害により1575万円の損害を被り、その後も原告が被告AAに対する執筆妨害を続けたため、平成26年5月までに1億5000万円の損害を被っており、これら合計1億6575万円の損害賠償債権を自働債権とし、被告AAの原告に対する金銭債務を受働債権として、対当額で相殺する旨主張する。
(イ) 原告の代表者であるBB(原告の履歴事項全部証明書〔甲1〕によれば、BBは、平成20年3月31日に原告の代表取締役を退任したが、平成24年5月23日までその登記をせず、後任の代表取締役も選任されなかったため、会社法351条1項により引き続き代表取締役としての権利義務を有し、対外的にも対内的にも、原告の唯一の代表取締役として行動していた〔甲8、13、42、44、55、56、63、64、66、67、75、77〜80、86、99、原告代表者〕。)が、平成21年6月1日、日本経済新聞社の法務室長及び代理人弁護士と面会し、本件公正証書を示すなどした結果、被告AAの「結い 親鸞」の連載が実質的に中止となり、被告AAの経済活動が妨害されたことは、上記1(3)で認定したとおりである。
(ウ) 当裁判所は、本件独占的利用許諾契約のうち、「今後制作される著作物」につき、原告が印税配分義務を負わずに独占的利用権を取得することを内容とする部分については、公序良俗に違反し無効であると判断したものであるが、このような判断は上記1(2)で考慮した諸般の事情を総合的に考慮した結果であり、著作権の専門家ともいうべきAF弁護士及びBG弁理士と相談の上で本件著作物利用契約書を作成したBBとしては、上記部分が公序良俗違反により一部無効となるという認識はなく、「結い 親鸞」が本件独占的利用権が及ばない著作物であるという認識もなかったと認められ、認識しなかったことに過失があったとも認められない(甲91、92、99、原告代表者、証人BG、証人AF)。
(エ) BBが日本経済新聞社に対し、原告が著作権を有する旨告知したことは事実とは認められないが、BBにおいてはそのように信じていたと認められ、著作権の専門家ではないBBがそのように認識していたことに過失があったとも認められない(日本経済新聞社は、本件公正証書を見せられているのであるから、連載休止の判断に当たって、BBの口頭説明をそれほど重視したとも思われない。)。
(オ) BBが日本経済新聞社に対し、刑事告訴の予定である旨告知したことも、原告において刑事告訴の予定があったことは真実と認められ(甲63・4頁、甲99・20頁)、その告訴予定であった事実も少なくとも基礎となる事実関係については真実であるから(甲63)、BBに故意又は過失は認められない。
(カ) 以上によれば、行為者であるBBに故意又は過失が認められないから、被告AAの原告に対する日本経済新聞の連載妨害による損害賠償債権は発生しない。
(キ) 被告AAは、日本経済新聞連載妨害の後も、原告は被告AAに対する執筆妨害を続け、被告AAは合計1億5000万円の経済的損害を被ったと主張する。
 しかし、本著作物のうち、本件公正証書別紙の著作物の複製物又は二次的著作物については、本件解除通知による解除がなされるまでは原告が本件独占的利用権を有していたのであるから、原告に無断で被告AAが第三者に利用を許諾できないのは当然であり、原告が本件独占的利用権を主張するのは当然の権利行使であって、何ら違法性はない。
 本著作物のうち、本件著作物利用契約書以降に被告AAが制作し、かつ、被告AAに印税が配分されない著作物については、公序良俗違反により一部無効となるため本件独占的利用権は及ばないが、原告がそのことを認識せずに第三者に権利を主張したとしても、故意も過失も認められないことは、上記(ウ)で判断したのと同様である。
 さらに、本件解除通知による解除は有効であるから、本件解除通知以降は本著作物に本件独占的利用権は及ばないが、これは、「結い 親鸞」に本件独占的利用権が及ばないため、日本経済新聞の連載妨害が重大な背信行為と評価されるためであるが、原告においてそのような認識があったとは認められず、そのような認識をしなかったことに過失があるとも認められないから、本件解除通知の有効性を認識せずに本件独占的利用権の主張を続けたとしても、故意又は過失は認められない。
(ク) 以上によれば、原告の行為にはいずれも違法性又は故意若しくは過失が認められないから、被告AAの原告に対する損害賠償債権は発生しない。
イ 原告に対する印税相当損害賠償債権について
(ア) 被告AAは、原告が被告AA著作物の無断使用を継続しており、被告AAは、原告に対し、著作権法113条、114条2項又は3項に基づき、印税相当額6690万円の損害賠償請求権を有する、と主張する。
(イ) しかし、著作権法113条は、同条所定の行為を著作権侵害とみなす旨の規定であるが、被告AAは、原告が同条所定の行為を行っている旨の主張をしていないから、同条に基づく請求は主張自体失当である。
(ウ) 著作権法114条2項、3項は、著作権侵害による損害の賠償を請求する場合における損害額を推定した規定であるが、被告AAは、原告が被告AAの著作権を侵害する行為(複製、翻案、譲渡、貸与、公衆送信等)を行っている旨の主張をしていないから、同条項に基づく請求は主張自体失当である。
(エ) 被告AAの主張に鑑み、原告に被告AAに対する未払の印税債務があるか検討する。
 本件独占的利用許諾契約に印税の配分義務の定めはないから(甲88)、本件著作物利用契約書による本件独占的利用許諾契約の締結後、平成22年2月9日の本件基本合意(甲8、75)まで、原告が第三者に本著作物の利用許諾を行い、印税を受領したとしても、これを被告AAに配分する義務があったとは認められない。
(オ) 平成22年2月9日から同年6月30日まで
 平成22年2月9日の本件基本合意の対象となっているのは、被告A@が個別の出版契約書に基づいて出版した著作物に限られるから、原告が被告A@以外の第三者に本著作物の利用許諾を行い、印税を受領したとしても、これを被告AAに配分する義務があったとは認められない。
 被告A@については、平成22年3月9日付け出版契約書に基づき出版した著作物の最初の印税支払いが同年7月5日であり(乙ア1、5、6)、同年2月9日から同年6月30日までの間に、原告が被告A@から受領した印税はなかったと認められるから、被告AAに配分すべき印税は存在しない。
(カ) 平成22年7月1日から平成23年9月18日まで
 本件印税合意が締結された平成22年7月1日から、被告AAによる本件解除通知(乙イ7)が原告に到達した平成23年9月18日までの間に原告が第三者から受領した印税については、本件印税合意により、原告は被告AAに印税を配分する義務があった。以下、便宜上、上記期間に限らず、平成25年8月29日付け原告準備書面(7)の作成日までの間の印税について、まとめて判断する。
 平成22年7月5日から平成23年12月5日までの間に、原告が被告A@から受領した印税は合計3028万7211円であり、被告AAに配分すべき印税は605万7442円である(弁論の全趣旨〔原告準備書面(7)28頁〕)。
 平成22年8月31日から平成24年3月30日までの間に、原告が株式会社タトル・モリ エイジェンシー(以下「タトル・モリ」という。)から受領した印税は合計65万4445円であり、原告と被告AAとの間には、@送金手数料控除前の印税額の10%から送金手数料を控除した額を原告の手数料とする、A原告が受領した印税額から原告の手数料を控除した金額の50%を漫画家に対する印税として支払う(タトル・モリが支払済みの場合を除く。)、Bその残額を本件印税合意の印税とみなし、その20%を原告が被告AAに対して支払う、という配分方法の合意があったと認められ、これによれば、被告AAに配分すべき印税は7万6654円である(弁論の全趣旨〔原告準備書面(7)2、29頁〕)。
 平成22年7月15日から平成23年7月14日までの間に、原告がDark Horseから受領した印税は合計63万7450円であり、原告と被告AAとの間には、タトル・モリと同様の印税配分方法の合意があったと認められ、これによれば、被告AAに配分すべき印税は5万7640円である(弁論の全趣旨〔原告準備書面(7)3、30頁〕)。
 平成23年7月11日に原告が株式会社ALBAから受領した印税は52万5000円であり、被告AAに配分すべき印税は10万5000円である(弁論の全趣旨〔原告準備書面(7)31頁〕)。
 平成24年1月18日から同年6月18日までの間に、原告が株式会社小学館から受領した印税は合計89万7801円であり、被告AAに配分すべき印税は17万9560円である(弁論の全趣旨〔原告準備書面(7)32頁〕)。
 平成22年12月1日から平成24年5月31日までの間に、原告がイーブックから受領した印税は合計329万9734円であり、被告AAに配分すべき印税は65万9947円である(弁論の全趣旨〔原告準備書面(7)33頁〕)。
 平成22年7月5日から平成24年6月25日までの間に、原告が松文館及び被告補助参加人から受領した印税は合計1586万8982円であり、被告AAに配分すべき印税は921万9631円である。なお、平成24年2月15日以降の被告AAへの配分額は、被告補助参加人から被告AAに直接支払われているため、上記配分額に含んでいない(甲101、102、丙3〜5、弁論の全趣旨〔原告準備書面(7)34頁〕)。
 平成23年12月12日から平成24年5月25日までの間に、原告がユニオン映画株式会社から受領した印税は合計108万2104円であり、被告AAに配分すべき印税は21万6421円である(弁論の全趣旨〔原告準備書面(7)35頁〕)。
 以上の被告AAに配分すべき印税は、合計1657万2295円となる。
(キ) 既払額
 原告は、平成22年7月12日から平成24年1月18日までの間に、被告AAに対し、被告AAの指定した被告AAの口座、被告A@の口座、蒼英社の口座、CCの口座、被告AAの居住するマンションの賃貸人の口座に、合計1381万0274円を支払っている(甲69、86、弁論の全趣旨〔原告準備書面(7)5〜7、37〜42頁〕)。
 被告AAに配分すべき印税1657万2295円から既払額1381万0274円を控除すると、未払印税は276万2021円である。
ウ 被告AAの印税債権の、相殺による消滅について
(ア) 原告は、被告AAが平成26年9月25日の第16回弁論準備手続において陳述した被告AA準備書面(7)における被告AAによる相殺の意思表示に先立って、平成25年9月3日の本件第8回弁論準備手続において陳述した同年8月29日付け原告準備書面(7)をもって、被告AAに対する以下の債務不履行に基づく損害賠償請求権を自働債権とし、被告AAの原告に対する配分金残額についての請求権を受働債権として、対当額で相殺する旨の意思表示をしている。
 そこで、被告AAの印税債権(印税配分請求権)が、原告による相殺によって消滅しているか判断する。
(イ) 被告AAは、平成20年1月25日頃、本件著作物利用契約書(甲88・30〜52頁)により本件独占的利用許諾契約を締結したにもかかわらず、原告の許諾なくして、本著作物の利用を第三者に許諾する事業を行い、イーブックは、被告AAの許諾に基づき本著作物の電子化配信を行い、蒼英社に対し、平成19年に164万0568円、平成20年に127万4388円、平成21年に114万2712円、平成22年に93万3984円、合計499万1652円を支払っていることが認められる(甲100)。
 このうち、平成19年支払分については、被告AAと原告との間の旧著作物利用契約書(甲87・19〜28頁)が取り交わされたのは平成19年10月26日頃であり、かつ、同契約書においても、「株式会社イーブックイニシアティブジャパンに対して許諾した甲[被告AA]の全作品に関するWebおよび携帯端末による配信権」は原告の独占的利用権の対象から除外されていたのであるから(旧著作物利用契約書〔甲87・20頁〕1条4項3号)、原告の独占的利用権を侵害するものとはいえない。
 本件著作物利用契約書(甲88・30〜52頁)にはイーブックを除外する条項はなく、「本著作物の全部または一部を、あるいは本著作物の全部または一部を翻訳・翻案して作成された著作物をインタラクティブ配信、コンテンツ配信等送信あるいは送信可能化事業を行うこと」は本件独占的利用権の対象とされていたのであるから、平成20年1月25日から、本件独占的利用許諾契約が解除された平成23年9月18日までの間に、本件公正証書別紙の著作物及び本件印税合意後に被告AAが制作した著作物について、被告AAがイーブックに公衆送信を許諾した行為は、原告の本件独占的利用権を侵害するものであったと認められる。
 被告A@が平成20年1月25日から平成22年6月30日までの間に出版した99点の本件書籍1のうち、本件公正証書別紙の著作物に由来せず、本件独占的利用権が及ばないのは本件書籍1−17、1−55、1−63、1−66、1−91−1−99の13点(13.13%)であるから、少なくとも、イーブックの平成21年支払分114万2712円の86.87%である99万2674円、平成22年支払分93万3984円の86.87%である81万1352円の合計180万4026円は、原告の本件独占的利用権を侵害する著作物の利用許諾の対価であったと認められ、原告が利用許諾を行っていた場合、被告AAにその20%を配分したとしても、その80%である144万3221円は原告が得べかりし印税相当額であったということができる(平成20年支払分については、2月以降の支払分についても、本件独占的利用許諾契約成立前の利用許諾に基づく出版の対価が含まれている可能性があり、侵害部分を特定することができない。また、ここでは、最低限の損害額を認定する趣旨で、本件印税合意前のものについても20%を控除することとする。)。
 そうすると、原告は、被告AAの本件独占的利用許諾契約に違反するイーブックに対する利用許諾により、少なくとも144万3221円の損害を被ったといえる。
(ウ) 同様に、被告AAは、平成20年1月25日頃、本件著作物利用契約書(甲88・30〜52頁)により本件独占的利用許諾契約を締結したにもかかわらず、原告の許諾なくして、本著作物の利用を第三者に許諾する事業を行い、松文館は、被告AAの許諾に基づき本著作物を利用し、平成21年12月22日に76万円、平成22年2月9日に99万円、同月25日から同月26日にかけて117万円、同年3月25日に120万円、同年4月14日に96万円、同年5月12日に48万円、同月17日に72万円、合計628万円を被告AAに支払ったことが認められる(甲101、102、弁論の全趣旨)。
 少なくとも、松文館が支払った628万円の86.87%である545万5436円は、原告の本件独占的利用権を侵害する著作物の利用許諾の対価であったと認められ、原告が利用許諾を行っていた場合、被告AAにその20%を配分したとしても、その80%である436万4349円は原告が得べかりし印税相当額であったということができる。
 そうすると、原告は、被告AAの本件独占的利用許諾契約に違反する松文館に対する利用許諾により、少なくとも436万4349円の損害を被ったといえる。
(エ) そうすると、原告は、被告AAの本件独占的利用許諾契約の債務不履行により少なくとも580万7570円の損害を被ったといえ、被告AAの印税債権(印税配分請求権)を上回る自働債権が発生していたことが認められる。
(オ) 以上によれば、被告AAが原告に対し印税債権(印税配分請求権)を有していたとしても、被告AAが相殺の意思表示をする以前に、原告の相殺の意思表示により消滅しており、仮に被告AAが契約に基づく印税債権(印税配分請求権)を相殺の自働債権としたとしても、自働債権は既に消滅しており、被告AAによる相殺は成立しない。
(5) 小括
 以上によれば、原告の請求の趣旨第6項に係る請求は、被告AAに対し、金銭消費貸借契約に基づき、貸金合計5000万円及びこれに対する訴状送達から相当期間経過後である平成24年8月15日から支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。
 訴状送達日である平成24年8月8日から同月14日まで年5分の割合による金員の支払を求める部分については、上記5000万円は貸金であって不当利得ではないから、予備的請求である不当利得返還請求も成立しない。
6 被告AAに対する不当利得返還請求(請求の趣旨第7項)
(1) 原告が、被告AAに対し、本件独占的利用権の対価として合計2億円を支払ったこと、本件独占的利用許諾契約が、その一部は公序良俗違反により無効となるが、その大半については有効に成立したこと、本件独占的利用許諾契約が本件解除通知により解除されたこと、上記解除は将来に向かってのみ効力を有することは、上記1で認定したとおりである。
(2) 本件独占的利用許諾契約のうち、被告AAが将来制作する著作物について、かつ、原告が印税配分義務を負わない著作物に関する部分は公序良俗違反により一部無効であるが、上記2億円は、それ以外の本件独占的利用権の対価としても十分な金額であるから、上記一部無効部分があることによって、上記2億円の一部が不当利得となることはないと解される。
(3) 本件解除通知による解除により、本件独占的利用許諾契約は、平成23年9月18日をもって解除されたものと認められ、被告AAは、解除に伴う原状回復義務を負ったものと認められる。
 その原状回復義務の範囲については、2億円から、原告が既に本件独占的利用権によって得た利益を控除した額とするのが相当である。
 上記5(4)イ(カ)によれば、原告は、被告A@から3028万7211円、タトル・モリから65万4445円、Dark Horseから63万7450円、株式会社ALBAから52万5000円、株式会社小学館から89万7801円、イーブックから329万9734円、松文館及び被告補助参加人から1586万8982円の合計5217万0623円の印税(被告AAに対する配分前の額)を取得したことが認められ、そこから、被告AAに対する配分額(相殺に供した分を含む。)1657万2295円を控除した、3559万8328円を、原告が本件独占的利用権によって得た利益と認める。
 甲76〜80によれば、平成19年から平成23年までの原告の売上高の合計は1億2840万5074円に上っているが、その全部が本著作物の利用によるものかは明らかでない上、いずれの年度も最終的には赤字(純損失が発生)となっているのであるから、上記売上高をもって原告が本件独占的利用権によって得た利益とみることはできない。
 そうすると、被告AAは、解除に伴う原状回復義務として、2億円から既に原告が本件独占的利用権によって得た利益3559万8328円を控除した1億6440万1672円を原告に返還すべき義務があると認められる。
(4) 被告AAによる相殺が認められないことは、上記5(4)のとおりである。
(5) 小括
 解除に伴う原状回復義務の履行として金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない(民法545条2項)。
 したがって、原告の請求の趣旨第7項に係る請求は、被告AAに対し、原状回復請求権に基づき、被告AAが受領した2億円のうち1億6440万1672円及び、うち1440万1672円に対する受益の日の翌日である平成19年6月15日から、うち5000万円に対する受益の日の翌日である同月21日から、うち5000万円に対する受益の日の翌日である同年8月3日から、うち5000万円に対する受益の日の翌日である同月21日から、各支払済みまでの年5分の割合による法定利息の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。
7 結論
 以上によれば、原告の請求は、主文掲記の限度で理由があるが、その余はいずれも理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 嶋末和秀
 裁判官 鈴木千帆
 裁判官 西村康夫
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