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【事件名】アニメ映画「三人の騎士」日本語版事件B
【年月日】平成27年3月24日
 東京地裁 平成25年(ワ)第31738号 著作権及び商標権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成27年2月3日)

判決
原告 有限会社アートステーション
原告 株式会社コスモ・コーディネート
被告 株式会社メディアジャパン
同訴訟代理人弁護士 村下憲司
同 福田純一
同 木嶋望
同 山岸久晃


主文
1 被告は、別紙被告商品目録記載のDVD商品を輸入し、製造し、販売してはならない。
2 被告は、原告らそれぞれに対し、84万6600円及びこれに対する平成26年6月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用はこれを10分し、その7を原告らの、その余を被告の各負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項と同旨
2 被告は、原告らそれぞれに対し、675万円及びこれに対する平成25年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 ウォルト・ディズニーのアニメーション映画「三人の騎士」(以下「本件アニメ映画」という。)は既に著作権の保護期間が満了しているところ、被告は、これに日本語の音声及び字幕を付したDVD商品の販売等をしている。
 本件は、被告による別紙被告商品目録記載のDVD商品(以下、同目録記載1の商品を「被告商品1」、同2の商品を「被告商品2」といい、併せて「被告商品」と総称する。)の輸入、製造及び販売行為(ただし、被告商品1については争いがある。)につき、(1) 原告ら(以下、それぞれを「原告アートステーション」、「原告コスモ・コーディネート」という。)が、原告らの共有する別紙本件著作物目録記載1の日本語台詞原稿(以下「本件台詞原稿」という。)及び同2の日本語字幕(以下「本件字幕」といい、本件台詞原稿と併せて「本件台詞原稿等」という。)の著作権(複製権及び譲渡権。以下「本件著作権」という。ただし、著作物性及び著作権の帰属については争いがある。)を侵害すると主張して、被告に対し、@ 被告商品の輸入、製造及び販売の差止め(著作権法112条1項、113条1項1号)、A 主位的に著作権侵害の不法行為による損害賠償金として、予備的に不当利得返還請求権に基づき、各原告の持分に相当する675万円及び不法行為又は請求の後の日である平成25年12月28日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、(2) 原告コスモ・コーディネートが、同原告が有する別紙本件商標権目録記載の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を侵害すると主張して、被告に対し、上記(1)の本件著作権に基づく請求と選択的に、被告商品の輸入等の差止め及び金銭の支払を求めた事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者等
ア 原告アートステーションは、映像ソフトの企画、製作、販売及び輸出入等を業とする有限会社である。A(以下「A」という。)は、その代表者である。
イ 原告コスモ・コーディネートは、マルチメディアソフト(映画、テレビ番組、CD−ROM、DVD等)の企画、製作、販売及び輸出入等を業とする株式会社である。
ウ 被告は、ビデオテープ、コンパクトディスク、レーザーディスク等記録媒体の企画、製造及び販売並びに輸出入を業とする株式会社である。B(以下「B」という。)は、その代表者であったものである。
(2) 原告らのDVD商品(甲5、7、8の1)
 原告らは、本件アニメ映画に本件台詞原稿による日本語吹き替え音声及び本件字幕を収録したDVD商品(以下「原告ら商品」という。)を販売し、又は第三者にその販売を許諾している。
(3) 本件商標権(甲6、7)
ア 原告コスモ・コーディネートは、本件商標権の商標権者である。
イ 原告ら商品を再生すると、画面の右上部分に本件商標が表示される。
(4) 被告による被告商品の販売等(甲7、8の2、乙14)
ア 被告は、被告商品を製造し、販売した(被告商品2(APRO−010)につき争いがない。被告商品1(CCP−711)につき乙14)。
 また、被告商品の少なくとも一部を海外から輸入した。
イ 被告商品には、原告ら商品と同一の日本語吹き替え音声及び日本語字幕が収録されている。 また、これを再生すると、画面の右上部分に本件商標と同一形状の標章(以下「被告標章」という。)が表示される。
2 争点
(1) 本件台詞原稿等の著作物性
(2) 本件著作権の帰属
(3) 本件台詞原稿等の利用許諾の有無
(4) 本件商標権の侵害の成否
(5) 原告らの損害等
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(本件台詞原稿等の著作物性)について
(原告らの主張)
 本件台詞原稿等は本件アニメ映画の英語音声に基づくものであるが、映画の台詞等の翻訳は、単に直訳するだけでなく、物語に沿った登場人物の性格等も把握した上で創作しなければならない。特に台詞の吹き替えは比較的自由に行えるのであり、本件台詞原稿には、物語のクオリティを高め、内容を分かりやすくするため、本件アニメ映画にない台詞を多数加えている。また、本件台詞原稿等は、ディズニーのオリジナル日本語版と異なっている。
 したがって、本件台詞原稿等には創作性があり、著作物性が認められる。
(被告の主張)
 争う。
(2) 争点(2)(本件著作権の帰属)について
(原告らの主張)
ア 本件台詞原稿等は、原告アートステーションが、平成18年3月頃、原告コスモ・コーディネートと共同して制作し著作権を共有するとの合意の下、Aの子であるC(以下「C」という。)及びその友人のD(以下「D」という。)が運営するクエスト(ただし、法人格はない。)に対し、本件アニメ映画を含む200タイトルの翻訳及び日本語字幕作成業務を委託したことにより、クエストが作成したものである。
 C及びDは、原告らの委託によって本件台詞原稿等を作成したのであり、本件著作権を原告らに移転させることに合意していたから、本件著作権は原告らに帰属する。
イ 被告は後記のとおり主張するが、本件アニメ映画の日本語版の製作販売を企画したのはAであり、原告らがミックエンターテイメント株式会社(以下「ミック」という。)から吹き替え等の業務委託を受けたことはないし、本件著作権を譲渡したこともない。
(被告の主張)
ア 原告らの上記アの主張は争う。
イ 本件アニメ映画を含む著作権の保護期間が満了したディズニーのアニメーション映画の日本語版の製作販売を企画したのは、B及び株式会社マックスター(以下「マックスター」という。)の取締役のE(以下「E」という。)である。日本語吹き替え等の業務はミックに委託されたが、これについて著作権が発生する場合には、有限会社アプロック(被告の完全子会社。以下「アプロック」という。)とマックスターが共有するものとされた。なお、ミックがその作業を原告ら又はAに下請に出した可能性があるが、被告にはその詳細は不明である。
 その後、アプロックは、マックスターの同意の下、本件著作権の共有持分を被告に譲渡した。また、マックスターは破産手続により法人格が消滅しており、これにより被告が本件著作権を単独で有するに至った。
 したがって、本件著作権が原告らに帰属することはない。
(3) 争点(3)(本件台詞原稿等の利用許諾の有無)について
(被告の主張)
 仮に本件著作権が原告らに帰属しているとしても、以下の事情によれば、原告らが被告商品の製造販売を許諾していたことが明らかである。
ア 原告らは、被告に対しクレーム等を主張しようとすれば可能であったにもかかわらず、平成24年7月まで何ら権利行使していない。かえって、Aは、市場に流通している他のDVD商品のみを問題にし、型番SFHT−10の商品についてはEが自由にでき、その権利がEにある旨の発言をしている。また、被告がアプロックから著作権を譲り受けた直後、BはAに対しその旨の事実を告げたが、Aは著作権譲渡につき何らコメントすることなく、アプロックの破産によって生じた被告の損失の挽回に協力すると述べていたのである。
イ 原告らと密接な関係にある株式会社ユニアール(旧商号株式会社コスモコンテンツ。以下「ユニアール」という。)は、少なくとも平成20年6月2日から平成21年2月2日までの間に20回にわたり、被告に対し、型番APRO−10のDVD商品(被告商品2)の購入を申し込んでいる。この商品は、原告らが被告に商品化権を与えた型番APRO−1〜9のDVD商品と同じ価格で注文されており、その価格はDVDプレスの製造委託代金より高額である。
(原告らの主張)
ア 原告らは、本件訴え提起の1年半以上前から、被告に対し著作権侵害を指摘し、著作権料等の支払を求めている。また、Eに対しては限定した範囲での本件台詞原稿等の利用を認めているにとどまる。
イ 被告は従前から原告アートステーションの下請としてDVDのプレスをしていた。ユニアールは、被告に対し、ユニアールの取引先から受注したDVD商品を当該取引先に送付するよう指示しただけであり、被告に対し複製等を許諾したものではない。
(4) 争点(4)(本件商標権の侵害の成否)について
(原告コスモ・コーディネートの主張)
 被告商品を再生した映像に被告標章を表示させる行為は商標法2条3項1号の「使用」に該当する。原告らのように映像内に商標を表示させることにより違法コピーを防止する方法は、海賊版に対する対策やテレビ局がするロゴマークのテレビ画面上の表示と同様である。そして、被告標章は原告商標と同一であるから、被告商品の製造販売は原告商標権を侵害する。
(被告の主張)
 DVD商品の取引において、取引者や需要者がDVD商品を再生した後に画像に表示された標章を見ることにより出所の識別をすることは考え難く、そのように表示される標章に自他商品識別機能及び出所表示機能は働かない。したがって、再生した映像に被告標章を表示させる行為は商標法2条3項1号の「使用」に該当しない。
(5) 争点(5)(原告らの損害等)について
(原告らの主張)
ア 被告は、原告らに無断で本件アニメ映画に本件台詞原稿による吹き替え音声及び本件字幕を収録し、再生画面に被告標章を付した被告商品を販売しているから、原告らの著作権(複製権及び譲渡権)及び原告商標権を侵害しており、被告はこれらの侵害行為につき故意である。したがって、原告らは、被告に対し、主位的に損害賠償を、予備的に不当利得の返還を請求する。
イ 原告らの推定によれば、被告は、少なくとも平成21年6月から平成25年11月までの間に被告商品を5万枚販売した。また、原告らは、原告ら商品を1枚当たり325円で卸しており、その製造原価は1枚55円であるから、原告らの利益額は1枚当たり270円である。
以上によれば、原告らの損害額は、被告販売数量に1枚当たりの原告らの利益額を乗じた1350万円となる(著作権法114条1項)。そして、原告らは本件著作権を共有しているから、原告らは、被告に対し、それぞれ各自の持分に相当する675万円を請求する。
(被告の主張)
ア 原告ら主張の損害額は争う。なお、被告は、平成22年から平成26年6月11日までの間、被告商品を1枚40円で合計2万8220枚販売した。また、仕入れに係る原価は1枚25円である。したがって、被告が得た利益は42万3300円にすぎない。
イ 被告商品は、本件アニメ映画に日本語字幕等を付したものであり、ディズニーの映像部分の寄与が大きい。したがって、言語部分の寄与度は20%程度とみるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件台詞原稿等の著作物性)について
(1) 被告は本件台詞原稿等の著作物性を争うところ、言語の著作物として「創作的に表現した」(著作権法2条1項1号)というためには、表現上の高度な独創性は必要でなく、その表現に作成者の何らかの個性が表れていれば足りると解される。
(2) これを本件についてみるに、証拠(甲7、8の1及び2、17)及び弁論の全趣旨によれば、@ 本件台詞原稿等は、本件アニメ映画に収録された英語音声を日本語に翻訳したものであること、A 本件台詞原稿等には、本件アニメ映画に英語音声がない箇所に、日本語の台詞又は歌詞を付加した部分があること、B 本件台詞原稿等は、本件アニメ映画に係るディズニーのオリジナルの日本語版の吹き替え音声及び字幕と多くの部分において表現上の相違があることが認められる。
(3) 上記事実関係によれば、本件台詞原稿等は、本件アニメ映画の英語音声の翻訳として複数考えられる日本語の表現から一つを選択し、かつ、本件アニメ映画の内容に沿うように新たな表現を付加したものということができる。したがって、本件台詞原稿等は、言語の著作物として表現上の創作性があり、著作物性を有すると認められる。
2 争点(2)(本件著作権の帰属)について
(1) 証拠(甲4、13、14、16)及び弁論の全趣旨によれば、本件台詞原稿等の作成経過に関して、@ Aが、原告アートステーションの関連会社において、著作権の存続期間が満了した映画を複製し、販売する事業を行っていたこと、A Aが、平成18年3月頃、クエスト(上記事業に関与していたC及びDが運営していた法人格のない事業体)に対し、本件アニメ映画を含む外国映画の音声の翻訳及び日本語字幕の作成作業を委託し、外注加工費を支払ったこと、B AとC及びDの間で、上記作業により作成される日本語の台詞原稿及び字幕の著作権は原告アートステーションに帰属すると合意されたこと、C 原告らが、上記の頃、本件台詞原稿等の著作権を共有する旨合意したこと、D 原告らが本件アニメ映画の原版映像のDVCAMを保有していること、以上の事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。
(2) 上記認定の事実関係によれば、本件著作権は、本件台詞原稿等を作成したC及びDと原告アートステーションの間の合意により同原告に移転するものとされ、さらに、原告らの合意により原告らの共有となったとみることができる。なお、共有持分割合は、原告らの間で定められたとは認められないので、原告らそれぞれ2分の1と認められる。
(3) これに対し、被告は、本件台詞原稿等は、被告の代表者であったBとマックスターの取締役であったEの企画の下、ミックに委託して作成されたものであり、その著作権はアプロック(被告の子会社)及びマックスターに帰属するとされていたから、原告らに本件著作権が帰属することはない旨主張し、それを裏付ける証拠として、被告商品2(APRO−010)の原盤であるというDVD(乙1)と、被告ないしアプロックとマックスター等の間に交わされた契約書等(乙5〜7、13)を提出する。
 そこで判断するに、まず、上記DVDは被告商品2の製造に用いられるものであり、これを製造する被告が所持しているのは当然であって、被告の著作権を裏付けるものとはならない。また、上記契約書等は、被告ないしアプロックが本件著作権を有することを前提にこれを第三者に譲渡することなどを内容とするものであるが、この前提となるべき事実、すなわち、本件台詞原稿等を作成したとされるミックから被告ないしアプロックへの著作権の移転の事実を明らかにするものではない。これに加え、本件の証拠上、ミックへの委託及びミックによる本件台詞原稿等の作成といった事実は何らうかがわれず、かえって、Eは、Aに対しディズニーアニメの月ごとの販売枚数を報告しており(甲27の1及び2)、原告らに本件著作権が帰属することを認めていると解することができる。
 以上によれば、被告の上記主張は採用できないというべきである。
3 争点(3)(本件台詞原稿等の利用許諾の有無)について
(1) 被告は、本件著作権が原告らに帰属するとしても、原告らが被告による被告商品の製造販売につき異議を述べていないこと、原告らの関連会社であるユニアールが被告に被告商品の購入を申し込んだことなどに照らせば、原告らは被告に対し本件台詞原稿等を利用して被告商品を製造販売することを許諾していたと認められる旨主張する。
(2) そこで判断するに、まず、利用許諾に関する被告の主張は、許諾が成立した時期、使用料の定めその他許諾の内容等に関する具体的な主張を欠いており、それ自体採用し難いというほかない。
 この点をおくとしても、証拠(甲10、11)及び弁論の全趣旨によれば、原告コスモ・コーディネートは、平成24年7月以降、被告に対し、原告らに無断で被告商品を大量に製造販売する行為を中止するよう要求しており、被告がこれに応じないことから、原告らが本件訴えを提起するに至ったことが認められるのであって、原告らが被告の上記行為を知りながら容認していたことは本件の関係各証拠上うかがわれない。
 さらに、ユニアールから被告への購入申込みに関する被告の主張については、証拠(乙9の1〜20)及び弁論の全趣旨によれば、取引先から被告商品の注文を受けたユニアールが、被告に対して、被告から当該取引先宛てに被告商品を納品するよう依頼したこと、被告がこれに応じて単価を80円ととして被告商品を納品したことが認められる。しかし、上記事実からは、被告がユニアールないし原告らから指示を受けた範囲内で被告商品の複製及び譲渡を行うことを許容されていたとは解し得るものの、被告がユニアール等からの指示なくして大量に被告商品を製造販売することを許諾されていたと認めることはできない。なお、被告は、他の型番の作品や商品の価格等に照らせば許諾があったといえる旨主張するが、被告の主張を裏付ける的確な証拠はない。
 したがって、利用許諾をいう被告の主張は失当と解すべきである。
(3) 以上によれば、被告による被告商品の製造販売は本件台詞原稿等に係る原告らの著作権(複製権、譲渡権)を侵害するものであり、また、被告商品の輸入については、以上に説示したところに照らせば、著作権侵害とみなされる行為(著作権法113条1項1号)に当たると認められる。
 したがって、原告らは、本件著作権に基づき、被告に対し、被告商品の輸入、製造及び販売の差止めを求めることができる(なお、これと選択的に併合された原告コスモ・コーディネートの本件商標権に基づく差止請求については、判断を要しないことになる。)。
4 争点(5)(原告らの損害等)
(1) 以上のとおり、被告は原告らの本件著作権を侵害したものであり、被告には少なくとも過失があるということができる。したがって、被告は上記侵害行為につき原告らに対し損害賠償責任を負うところ、原告らは、その損害額につき、著作権法114条1項に基づき、被告による被告商品の販売数量5万枚に、原告ら商品1枚当たりの利益額270円を乗じた1350万円である旨主張する。
(2) そこで判断するに、まず、被告商品の販売枚数については、被告が平成22年から平成26年6月11日までの間に販売したことを自認する2万8220枚を超えると認めるに足りる証拠はない。なお、原告らは、被告から被告商品を仕入れた会社の購入枚数が単体で1万6373枚(甲29)、セットで3万5422枚(甲30)である旨主張するが、少なくとも後者については裏付けとされる証拠の作成者、作成経過等が不明であって、原告らの主張を採用することはできない。
 次に、原告ら商品の1枚当たりの利益額についてみるに、原告らはその主張を直接裏付ける証拠を提出していないが、被告商品と原告ら商品はいずれも本件アニメ映画の日本語版であるところ、被告は、被告商品の利益額につき、販売価格40円から仕入れに係る原価25円を差し引いた15円であると主張している(ただし、ユニアールの指示による納品の場合の単価は前記3(2)のとおり80円である。)。また、証拠(甲10)及び弁論の全趣旨によれば、被告は原告ら商品より廉価で被告商品を販売していることが認められるので、原告ら商品の利益額は被告商品より大きいと解することができる。以上の事情を総合すると、原告ら商品の1枚当たりの利益額は60円と推認することが相当である。
(3) 被告は、被告商品の販売における本件台詞原稿等の寄与度は20%程度である旨主張する。しかし、本件アニメ映画については既に著作権の存続期間が満了しており、これに日本語の吹き替え及び字幕を付すことにより日本国内で販売する商品としての価値が維持されると考えられるから、被告の上記主張を採用することはできない。
(4) そうすると、本件著作権の侵害による原告らの損害の額は169万3200円(60円×2万8220枚)と認められ、原告らはそれぞれの持分に相当する84万6600円及びこれに対する遅延損害金(ただし、その起算日は以上の説示及び本件訴訟の経過に鑑み被告による販売の終期である平成26年6月11日と認める。)を請求することができると認められる。
 なお、原告らは、予備的に不当利得の返還を請求するが、その損失額が上記損害額を上回ることについての主張立証はない。また、原告コスモ・コーディネートは選択的に本件商標権に基づく損害賠償を請求するが、商標権侵害による損害額が著作権侵害によるものを上回り、又は著作権侵害による損害とは別個に商標権侵害による損害が発生したとの主張立証はないから、本件商標権侵害の成否(争点(4))については判断を要しないこととなる。
第4 結論
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 長谷川浩二
 裁判官 橋彩
 裁判官 植田裕紀久


(別紙一部省略)

別紙 被告商品目録
1 アニメ「三人の騎士」 CCP−711
2 アニメ「三人の騎士」 APRO−010
以上

別紙 本件著作物目録
1 下記アニメーション作品DVDの日本語台詞原稿
2 下記アニメーション作品DVDの日本語字幕
 記
 アニメ「三人の騎士」 DFC−109
以上

別紙 本件商標権目録
登録番号 第5579504号
登録日 平成25年5月2日
出願日 平成24年12月5日
商標 略
商品及び役務の区分 第9類
指定商品等 録画済みビデオディスク及びビデオテープ
以上
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