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【事件名】英会話教材キャッチフレーズの著作物性事件
【年月日】平成27年3月20日
 東京地裁 平成26年(ワ)第21237号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成27年1月19日)

判決
原告 株式会社エスプリライン
同訴訟代理人弁護士 神田知宏
被告 エス株式会社
同訴訟代理人弁護士 齋藤有志


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙被告キャッチフレーズ目録記載の各キャッチフレーズの複製、公衆送信、複製物の頒布をしてはならない。
2 被告は、原告に対し、60万円及びこれに対する平成26年9月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、被告による別紙被告キャッチフレーズ目録記載1ないし4の各キャッチフレーズ(以下、番号に従って「被告キャッチフレーズ1」ないし「被告キャッチフレーズ4」といい、併せて「被告キャッチフレーズ」という。)の複製、公衆送信、複製物の頒布は、別紙原告キャッチフレーズ目録記載1ないし3の各キャッチフレーズ(以下、番号に従って「原告キャッチフレーズ1」ないし「原告キャッチフレーズ3」といい、併せて「原告キャッチフレーズ」という。)の著作権侵害(なお、原告は、侵害に係る支分権を明らかにしていない。)又は不正競争を構成すると主張して、被告に対し、被告キャッチフレーズの複製、公衆送信、複製物の頒布の差止めを求めるとともに、不法行為(著作権侵害行為、不正競争行為又は一般不法行為)に基づく損害賠償金60万円及びこれに対する平成26年9月2日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 争点
(1) 著作権侵害の成否(争点1)
(2) 不正競争の成否(争点2)
(3) 一般不法行為の成否(争点3)
(4) 差止請求の可否(争点4)
(5) 損害の有無及びその額(争点5)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(著作権侵害の成否)について
(原告の主張)
(1) 原告広告
 原告は、平成16年9月から平成26年2月にかけて、日本経済新聞、朝日新聞等において、英会話教材「スピードラーニング」(以下「原告商品」という。)の全面広告を掲載した(甲1の1ないし3)。
 また、原告は自社ウェブサイト(甲1の4)においても、原告商品の広告を掲載している(以下、上記の新聞広告及びウェブサイト広告を併せて「原告広告」という。)
 原告の新聞広告には原告キャッチフレーズ1及び2が記載され、自社ウェブサイトには原告キャッチフレーズ3が掲載されている。
(2) 被告広告
 被告は、平成26年3月から4月にかけて、同じく日本経済新聞、朝日新聞において、英会話教材「エブリデイイングリッシュ」(以下「被告商品」という。)の全面広告を掲載した。
 また、被告は同社ウェブサイト(甲2の5)や楽天市場のウェブサイト(甲2の6)、ウェブサイトの広告枠(甲2の7)においても、被告商品の広告を掲載している(以下、上記の新聞広告及びウェブサイト広告を併せて「被告広告」という。)
 被告の新聞広告には、被告キャッチフレーズ1ないし3が記載され、ウェブサイトには被告キャッチフレーズ4が掲載されている。
(3) 著作物性
 原告キャッチフレーズは、原告商品の使用感、英語の学習法に関し、原告の思想又は感情を創作的に表現したものであって、著作物である。
(4) 職務著作
 原告キャッチフレーズは、原告の発意に基づき、原告の役員、従業員が職務上創作したものであり、原告名義で公表されたものであるところ、役員、従業員との契約や就業規則において著作権の取扱いに別段の規定はない。
 したがって、各キャッチフレーズの著作権は原告に帰属する。
(5) 原告キャッチフレーズと被告キャッチフレーズの同一性
ア 被告キャッチフレーズ1は、原告キャッチフレーズ1に対し、「聞き流すだけ」と「流して聞くだけ」が異なるだけで、同一の文章である。
イ 被告キャッチフレーズ2は、「聞くだけ」が「聞くことで上達」となっているほかは、被告キャッチフレーズ1と同じ文章であり、原告キャッチフレーズ1に対し、「聞き流すだけ」と「流して聞くだけ」が異なるだけで、ほぼ同一の文章である。
ウ 被告キャッチフレーズ3は、原告キャッチフレーズ2と完全に同一の文章である。
エ 被告キャッチフレーズ4は、原告キャッチフレーズ2に対し、@「英語が」と「口から」の順番、A「出した」「出す」の語尾、B読点1か所、が異なるだけで、同一の文章である。
(6) 依拠性
 原告商品、被告商品とも英会話教材であり、また、広告媒体が日経新聞、朝日新聞、ウェブサイトという点で共通し、原告の広告のほうが先に掲載されていることから、被告が原告キャッチフレーズに接する機会は十分にあり、しかもアクセスは容易であって、被告キャッチフレーズはいずれも、原告キャッチフレーズに依拠していると考えるのが自然である。
 なお、原告キャッチフレーズ1の「聞き流すだけ」が被告キャッチフレーズ1では「流して聞くだけ」に変わっているのは、「聞き流すだけ」が原告の登録商標(第4936831号、甲3の2)のため、商標権侵害の可能性を考慮したものと考えられ、依拠性の証左となる。
(7) 著作権侵害
 被告は、原告キャッチフレーズの内容及び形式を覚知させるに足るものを再製しており、被告による被告キャッチフレーズの複製、公衆送信、複製物の頒布は、原告の著作権を侵害する。
(被告の主張)
(1) 原告広告
 第1、第2段落は不知。
 第3段落につき、甲1の1ないし4に原告主張のキャッチフレーズが掲載されている事実は認める。
(2) 被告広告
 認める。
(3) 著作物性
ア 原告キャッチフレーズ1は、原告商品の使い方を事実として説明するものであり、音楽を聞くように英語を聞き流すだけで、英語がどんどん好きになるという原告商品を使用した場合の効能を事実として表現したものである。また、原告キャッチフレーズ2、3も、原告英会話教材を使用していたところある日突然、口から英語が飛び出したという事実を表現したものである。
 つまり、原告キャッチフレーズはいずれも、単に事実を報告したものにすぎず、作成者の精神活動は全く表現されていない。
 このように、原告キャッチフレーズは、単に事実を報告したものであって、思想感情を表現したものではないから、この点において「著作物」たり得ない。
イ 原告キャッチフレーズは、原告が使用する以前から英会話教材の広告文や英語教育書のタイトルに使用されていたものと極めて類似しており(乙1ないし3)、これらの先行する広告、文献等の模倣であり、新たな表現が付け加えられておらず、この点においても創作性を欠いている。
ウ 原告キャッチフレーズと被告キャッチフレーズは、12〜17文字とごく短い。また、原告キャッチフレーズと被告キャッチフレーズは、新聞広告において新聞見出しを模する形式が採られるか、ウェブサイトの見出しの形式が採られているところ、新聞見出し的な表現である点や、ウェブサイトで目立つ表現でなければならず、表現形式に制約がある。
 原告商品と、被告商品とは英語を聞くことを主体とする英会話教材であり、これらの特徴を、制約の中で表現するとなると、必然的に原告・被告各キャッチフレーズのような表現にならざるを得ない。したがって、原告キャッチフレーズは、この点においても創作性に欠ける。
エ 原告が創作性を主張するキャッチフレーズは、類似、同一の表現が一般に広く使用されているのであって(乙4ないし18)、平凡かつありふれた表現である。
オ 学説上、キャッチフレーズには創作性がないという見解が通説を占めており(乙22、23)、原告キャッチフレーズもキャッチフレーズであることに変わりはないのだから、著作物ではない。
カ 原告キャッチフレーズが、学術、美術、音楽の表現でないことは明瞭である。また、俳句でも語呂合わせでも標語でもなく、文芸の範疇に含まれないことも明らかである。したがって、原告キャッチフレーズが著作物でないことは、この点においても明らかである。
(4) 職務著作
 原告の主張は否認ないし争う。
 なお、原告の広告には著作者の表示は一切ないから、少なくとも、「その法人等が自己の著作の名義の下に公表」したとの要件を充足しない。
(5) 同一性
ア 原告キャッチフレーズ1
 原告キャッチフレーズ1と被告キャッチフレーズ1、2では、日本語としての意味内容が全く異なっており、同一、類似の表現ではない。
 原告キャッチフレーズ1中「音楽を聞くように英語を聞き流すだけ」では、行為の主体が「英語」に対して「聞き流す」という行為を行うことが表現されている。
 他方、被告キャッチフレーズ1、2の「音楽を聞くように英語を流して聞く」は、「音楽を聞くように英語を流す」という、環境に対する働きかけと、流した英語を「聞く」という行動が二段階に分離されて表現されている。
 このように、原告キャッチフレーズ1と被告キャッチフレーズ1、2とでは、使用された単語こそ似ているが、両者の表現は全く表現内容を異にしている。
 従って、原告キャッチフレーズ1と被告キャッチフレーズ1、2とは同一でも類似でもない。
 なお、原告キャッチフレーズ1中「音楽を聞くように英語を聞き流すだけ」と「英語がどんどん好きになる」は各々独立したキャッチフレーズであり、本来は別のキャッチフレーズとして扱うべきである。
イ 原告キャッチフレーズ2、3
 原告キャッチフレーズ2、3の「ある日突然、英語が口から飛び出した(!)」は、過去の事実を表現したものである。他方、被告キャッチフレーズ4の「ある日、突然、口から英語が飛び出す!」は、将来の事実か被告英語教材を使用した際の一般的な効能を示す表現であり、過去か、将来・一般かで表現しようとする内容を全く異にしている。
 したがって、原告キャッチフレーズ2、3と、被告キャッチフレーズ4は同一でも類似でもない。
(6) 依拠性
 被告キャッチフレーズは、被告の広告担当者が独自に作成したものであり、原告キャッチフレーズに依拠していない。
2 争点2(不正競争の成否)について
(原告の主張)
(1) 原告キャッチフレーズは、長年、原告商品であるスピードラーニングの「営業を表示するもの」として使用されており、英会話教材の需要者の間に広く認識されている。
(2) 被告キャッチフレーズは、これと同一若しくは類似のキャッチフレーズであって、その使用により、原告の営業と混同を生じさせており、不正競争防止法2条1項1号の不正競争である。
(被告の主張)
 否認ないし争う。
 不正競争防止法2条1項1号の商品等表示、営業等表示は、商号や商標、商品の包装等、商品や営業の識別能力を有する表示でなければならないところ、原告キャッチフレーズはいずれも単なる宣伝文句であって商品、営業の識別能力を有しないから「営業を表示するもの」ではない。そもそも、キャッチフレーズは商品や営業の説明であって商品や営業の表示ではないから、「営業を表示するもの」に該当すると考えるのは語義として無理である。
 したがって、本件には不正競争防止法2条1項1号の適用はなく、原告の請求には理由がない。
3 争点3(一般不法行為の成否)について
(原告の主張)
(1) 原告キャッチフレーズは、原告が長年にわたり人件費、広告費など、「多大の労力、費用をかけ」、スピードラーニングの営業を表すものとして、その地位を確立してきたものであるほか、何度かの表現の変更、検討を経て、「相応の苦労・工夫により作成されたものであって、簡潔な表現により」、スピードラーニングの魅力を伝えるために作成されたキャッチフレーズである(知財高裁平成17年10月6日判決[ヨミウリオンライン事件]の基準による。)。
 したがって、原告キャッチフレーズは、法的に保護されるべき利益を有する。
(2) 被告は、このキャッチフレーズを「特段の労力を要することもなくこれらをデッドコピーないし実質的にデッドコピーして」いるのだから、「社会的に許容される限度を越えたもの」であって、不法行為を構成する。
(被告の主張)
(1) 原告キャッチフレーズは、単に先行する表現を組み合わせたものにすぎず、多大な労力、費用をかけた活動が結実したものではなく、ヨミウリオンラインの見出し作成に類する程度の相応の苦労・工夫はうかがわれない。
(2) 原告キャッチフレーズは、既に一般的に使用されているものであり、あえて対価を支払って使用する価値のある表現ではない。
 実質的に考えても、このようなありふれた表現を原告の法的保護に値する利益であるとしてしまうと、英会話に関連する営業を行う者が自由に宣伝活動を行うことが出来なくなり、自由競争を高度に阻害する結果となる。
 ヨミウリオンライン事件判決においては、実際にヨミウリオンラインの見出しを対価を支払って取得していた者が存在していたが、本件では、逆に対価を支払わずに多数の業者が類似表現を使用しているのが実情である。
 したがって、原告キャッチフレーズは独立した価値を有しない。
(3) 原告キャッチフレーズと被告キャッチフレーズは表現が異なっており、実質的なデッドコピーと評価することはできない。
(4) 被告は被告が作成し、ストックしていたキャッチフレーズを原告キャッチフレーズとは無関係に使用しているにすぎず、被告には被告キャッチフレーズを使用するに当たり、故意も過失もない。
4 争点4(差止請求の可否)について
(原告の主張)
 被告は、ウェブサイトでは現在も被告キャッチフレーズ4を使用しており(甲2の5ないし7)、侵害は継続中である。
 また、新聞広告では、被告は4回(延べ8回)、被告キャッチフレーズ1ないし3を使用し全面広告を頒布していることから、今後も同様の広告を頒布するおそれがある。
 よって、原告は、被告に対し、著作権法112条1項又は不正競争防止法3条1項に基づく差止請求として、被告キャッチフレーズの複製、公衆送信、複製物の頒布の禁止を求める。
(被告の主張)
 争う。
5 争点5(損害の有無及びその額)について
(1) 原告著作物は、1回当たりの著作権使用料として5万円が相当である。
(2) 被告は、少なくとも、延べ11回(甲2の1ないし7)は被告キャッチフレーズを使用していることから、被告の不法行為により、原告には少なくとも55万円の損害が生じている。
(3) 原告は本件訴訟を弁護士に依頼していることから、弁護士費用として、少なくとも5万円の損害が生じている。
(4) よって、原告は、被告に対し、著作権侵害、不正競争又は一般不法行為に基づく損害賠償請求として60万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成26年9月2日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)
 争う。
 原告キャッチフレーズの類似表現は、独立した取引の対象とはなっておらず、英会話教材宣伝市場において既に自由に使用されている(乙4ないし18)。そうすると、原告キャッチフレーズには独立した取引の客体としての市場価値は無いと考えざるを得ず、原告と契約を締結することは考えにくい。本件では「契約締結したならば合意したであろう」との基準を援用する前提を欠いている。
 したがって、本件では損害が発生していないと考えざるを得ない。
 万一損害が発生しているとしても、多大な労力を掛けて作成され、独立の取引の対象となっているヨミウリオンラインの見出しですら「1か月につき1万円」なのだから、簡易に作成され、現に取引の客体となっていない原告キャッチフレーズが1か月5万円であるとの原告の主張は高額に失する。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(著作権侵害の成否)について
(1) 著作物性
ア 著作物といえるためには、「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることが必要である(著作権法2条1項柱書き)。「創作的に表現したもの」というためには、当該作品が、厳密な意味で、独創性の発揮されたものであることまでは求められないが、作成者の何らかの個性が表現されたものであることが必要である。文章表現による作品において、ごく短かく、又は表現に制約があって、他の表現が想定できない場合や、表現が平凡でありふれたものである場合には、作成者の個性が現れていないものとして、創作的に表現したものということはできない。
イ 原告キャッチフレーズ1は、「音楽を聞くように英語を聞き流すだけ/英語がどんどん好きになる」というものであり、17文字の第1文と12文字の第2文からなるものであるが、いずれもありふれた言葉の組合せであり、それぞれの文章を単独で見ても、2文の組合せとしてみても、平凡かつありふれた表現というほかなく、作成者の思想・感情を創作的に表現したものとは認められない。
ウ 原告キャッチフレーズ2は、「ある日突然、英語が口から飛び出した!」というもの、原告キャッチフレーズ3は、「ある日突然、英語が口から飛び出した」というものであるが、17文字(原告キャッチフレーズ3)あるいはそれに感嘆符を加えた18文字(原告キャッチフレーズ2)のごく短い文章であり、表現としても平凡かつありふれた表現というべきであって、作成者の思想・感情を創作的に表現したものとは認められない。
(2) 以上によれば、原告キャッチフレーズには著作物性が認められないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の著作権に基づく請求は認められない。
2 争点2(不正競争の成否)について
(1) 「商品等表示」とは、氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいい(不正競争防止法2条1項1号)、自他識別機能又は出所表示機能を有するものでなければならないと解される。
 キャッチフレーズは、通常、商品や役務の宣伝文句であって、これに接する需要者もそのようなものとして受け取り、自他識別機能ないし出所表示機能を有するものとして受け取られることはないといえ、キャッチフレーズが商品等表示としての営業表示に該当するためには、長期間にわたる使用や広告、宣伝等によって、当該文言が特定人の営業を表示するものとして需要者の間に広く認識され、自他識別機能ないし出所表示機能を獲得するに至っていることが必要であるというべきである。
(2) 原告と被告がいずれも英会話教材の通信販売等を業とする株式会社であり(弁論の全趣旨)、原告キャッチフレーズが、平成16年9月から平成26年2月にかけて原告広告で使用されており(争いがない。)、原告商品の売上が、平成24年4月期に約106億円、平成20年4月期に約21億円に上っていたことは被告も認めている(平成26年10月29日付け被告準備書面7頁)としても、原告キャッチフレーズが平凡かつありふれた表現であることに加え、原告キャッチフレーズは原告広告の見出しの中で、キャッチフレーズの一つとして使用されているにすぎないこと、原告広告において、原告商品を指すものとして「スピードラーニング」という商品名が記載されており(甲1の1ないし4)、需要者はこれをもって原告商品を他の同種商品と識別できることなどからすれば、原告キャッチフレーズが、単なるキャッチフレーズを超えて、原告の営業を表示するものとして需要者の間に広く認識され、自他識別機能ないし出所表示機能を獲得するに至っているとは認められない。
(3) 以上によれば、原告キャッチフレーズが「商品等表示」に当たるとは認められないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の不正競争防止法に基づく請求は認められない。
3 争点3(一般不法行為の成否)について
(1) 著作権法は、著作物の利用について、一定の範囲の者に対し、一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに、その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で、著作権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、独占的な権利の及ぶ範囲、限界を明らかにしている。また、不正競争防止法も、事業者間の公正な競争等を確保するため不正競争の発生原因、内容、範囲等を定め、周知商品等表示について混同を惹起する行為の限界を明らかにしている。ある行為が著作権侵害や不正競争に該当しないものである場合、当該作品を独占的に利用する権利は、原則として法的保護の対象とはならないものと解される。したがって、著作権法や不正競争防止法が規律の対象とする著作物や周知商品等表示の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である(最高裁平成23年12月8日判決・民集65巻9号3275頁[北朝鮮映画事件]、知財高裁平成24年8月8日判決・判時2165号42頁[釣りゲーム事件])。
(2) この点、原告は、原告キャッチフレーズは多大の労力、費用をかけ、相応の苦労・工夫により作成されたものであって、法的に保護されるべき利益を有すると主張する。
 しかし、原告の主張によっても、被告による被告キャッチフレーズの使用に、著作権法や不正競争防止法が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護される利益を侵害するなどの特段の事情があると認めることはできない。
(3) したがって、原告の一般不法行為に基づく請求は認められない。
4 結論
 以上によれば、本件請求はいずれも理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 嶋末和秀
 裁判官 鈴木千帆
 裁判官 西村康夫


(別紙)被告キャッチフレーズ目録
1 音楽を聞くように英語を流して聞くだけ
  英語がどんどん好きになる
2 音楽を聞くように英語を流して聞くことで上達
  英語がどんどん好きになる
3 ある日突然、英語が口から飛び出した!
4 ある日、突然、口から英語が飛び出す!
以上

(別紙)原告キャッチフレーズ目録
1 音楽を聞くように英語を聞き流すだけ
  英語がどんどん好きになる
2 ある日突然、英語が口から飛び出した!
3 ある日突然、英語が口から飛び出した
以上
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