判例全文 line
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【事件名】アニメ映画「三人の騎士」日本語版事件
【年月日】平成27年3月16日
 東京地裁 平成26年(ワ)第4962号 著作権及び商標権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成27年1月16日)

判決
原告 有限会社アートステーション(以下「原告アートステーション」という。)
原告 株式会社コスモ・コーディネート(以下「原告コスモ・コーディネート」という。)
被告 株式会社コスミック出版
同訴訟代理人弁護士 石新智規
同 雪丸真吾
被告補助参加人 株式会社メディアジャパン
同訴訟代理人弁護士 村下憲司
同 福田純一
同 山岸久晃
同 木嶋望


主文
1 被告は、別紙2被告商品目録記載のDVD商品を販売してはならない。
2 被告は、原告アートステーションに対し、79万0160円及びこれに対する平成26年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告コスモ・コーディネートに対し、79万0160円及びこれに対する平成26年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用のうち、参加によって生じた費用は被告補助参加人の負担とし、その余はこれを3分し、その2を原告らの負担とし、その1を被告の負担とする。
6 この判決は、第2、3項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 被告は、別紙2被告商品目録記載のDVD商品(以下「被告DVD」という。)を輸入し、複製し、頒布してはならない。
2 被告は、原告アートステーションに対し、400万円及びこれに対する平成26年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告コスモ・コーディネートに対し、400万円及びこれに対する平成26年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 第2、3項につき仮執行宣言
第2 事案の概要
1 請求原因
(1) 著作権(持分)に基づく請求(原告ら)
ア 原告らの著作権
(ア) 原告らは、著作権の保護期間を満了しパブリックドメインとなったディズニーの名作長編アニメーション映画「三人の騎士」(以下「原作映画」という。)につき、日本語吹替え音声及び日本語字幕を付け直した、別紙1原告ら商品目録記載のDVD(以下「原告らDVD」という。)を製作している。
(イ) 原告らDVDの日本語台詞の原稿(以下「本件台詞原稿」という。)及び日本語字幕(以下「本件字幕」という。)は、原告アートステーションが著作権を取得した。
 すなわち、原告アートステーションは、平成18年3月、著作権を原告アートステーションに帰属させる前提のもとで、甲@及び甲A(当時、両名は2人で組んで仕事をしており、クエストというみなし法人として甲@が税務処理を行っていた。)に原作映画の台詞翻訳及び字幕作成を依頼し、英語ネイティブが原作映画から聞き取った英語台詞に甲Aが直訳による翻訳を行い、それを基に甲@が日本語台詞を創作し、原告アートステーションの代表者である甲Bが監修して、本件台詞原稿及び本件字幕を完成させた。
 したがって、本件台詞原稿及び本件字幕の著作者は、甲@、甲A、甲Bの3名であり、原告アートステーションが著作権者となった。
(ウ) 原告らが著作権侵害を主張する部分は、別紙6「アニメ『三人の騎士』英日台詞比較表」の「原告らの日本語台詞」欄のうち318番ないし372番の部分(以下、同部分に対応する本件台詞原稿及び本件字幕を併せて「本件著作物」という。)である。
 同比較表の「原告らの日本語台詞」欄のうち、赤字の部分は日本語吹替え音声を付けずに日本語字幕のみを付しているが、その余は日本語字幕と日本語吹替え音声の内容は同一であり、当該日本語吹替え音声は、本件台詞原稿をそのまま実演したものであり、本件台詞原稿の複製物である(原告らは「二次的著作物」であるとも主張しているが、本件台詞原稿を日本語吹替え音声にする段階で新たに創作性が付加されたとの主張はないから、法的には複製物との主張をしているものと解される。)。
(エ) 原告コスモ・コーディネートは、本件著作物を含む本件台詞原稿及び本件字幕の著作権の共有持分2分の1を、原告アートステーションから譲り受けた(甲4)。
イ 被告の著作権侵害行為
(ア) 被告は、被告DVDを複製し、販売(頒布)している。
(イ) 被告DVDの日本語吹替え音声は、原告らDVDの日本語吹替え音声と同一であり、被告DVDは本件台詞原稿の複製物である。また、被告DVDの日本語字幕は、原告らDVDの日本語字幕と同一であり、被告DVDは本件字幕の複製物である。
 したがって、被告DVDを複製する行為は、原告らの著作権(複製権)を侵害する行為であり、被告DVDを頒布する行為は、原告らの著作権(譲渡権)を侵害する行為である。
(ウ) 被告DVDには「Made in TAIWAN」と表示されていることから、被告は被告DVDを台湾で製造し、輸入している可能性もある。仮に、台湾において製造され、日本に輸入されているとすれば、被告DVDは国内において頒布する目的をもって輸入されたものであり、かつ、輸入の時において、日本国内で作成したとしたならば複製権侵害となるべき行為によって作成されたものであるから、その輸入行為は、原告らの著作権を侵害する行為とみなされる(著作権法113条1項)。
ウ 損害
(ア) 被告は、被告DVDを、平成22年から平成26年6月までに2万8220枚販売した。
(イ) 被告DVDを含む10枚組BOXセット(以下「本件セット」という。)の小売価格は1980円、卸販売価格は1287円であり、本件セットを1セット追加製造・販売する際に要する経費額は多く見積もっても487円を上回らない。したがって、本件セットの1セット当たりの利益額は800円であり、被告DVD(10枚セットのうちの1枚)の利益額は1枚当たり80円を下回らない。
(ウ) 被告の著作権侵害により原告らの被った損害の額は、それぞれ400万円(10万枚×80円×1/2)を下回らない。
(2) 商標権に基づく請求(原告コスモ・コーディネート)
ア 原告コスモ・コーディネートは、別紙7原告ら商標権目録記載の商標権を有している(甲7、31ないし33。以下「本件商標権」といい、その商標を「原告商標」という。)。
イ 被告DVDの映像の右上部分には、原告商標と同一の標章(以下「被告標章」という。)が表示されている。
ウ 被告DVDは、本件商標権に係る指定商品である「録画済みビデオディスク」と同一である。
エ 原告は、海賊版摘発のために、原告らDVDの映像の右上部分に原告商標を表示させており、被告DVDはこれを複製したものである。
したがって、被告標章は自他商品の識別機能及び出所表示機能を果たす態様で商標的に使用されている。
(3) 小括
 以上より、
ア 原告らは、被告に対し、著作権法21条、26条の2、112条1項、113条1項に基づき、本件著作物の複製物である日本語吹替え音声及び日本語字幕を含む被告DVDの輸入、複製及び頒布の差止めを求めるとともに、
イ 原告らは、被告に対し、民法709条、著作権法114条2項に基づき、各400万円及びこれに対する不法行為の以後の日である平成26年6月30日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、
ウ 原告コスモ・コーディネートは、著作権持分侵害による差止請求との選択的請求として、商標法36条に基づき、被告DVDの輸入、複製及び頒布の差止めを求める。
2 請求原因に対する被告の認否(なお、被告補助参加人は被告と別個の主張をするものではないから、以下では被告の認否、抗弁のみを摘示する。)
(1) 著作権に基づく請求について
ア 原告らの著作権について
(ア) 原告らが原告らDVDを製作していることは明らかに争わない。
(イ) 本件台詞原稿及び本件字幕を原告アートステーションが創作したことは否認する。
(ウ) 本件著作物の創作性は争う。
(エ) 原告アートステーションの原告コスモ・コーディネートに対する著作権持分譲渡は不知。
(オ) 原告らは、本件著作物の著作権者ではない。
 甲16によれば、「三人の騎士」の「SHFT−0009」及び「APRO−0010」に収録されている「『日本語吹替え』の日本語セリフ脚本と字幕及び音声の著作権」は、有限会社アプロックあるいは甲Cに帰属している。上記「APRO−0010」収録の「『日本語吹替え』の日本語セリフ脚本と字幕」は、本件台詞原稿及び本件字幕と同一である。
 甲16、23では「三人の騎士」は他の9作品と共に有限会社アプロックが著作権を保有する作品として扱われているから、有限会社アプロックが本件台詞原稿及び本件字幕の創作を行ったものと推認すべきである。
 甲24、25によれば、甲16、23で著作権を有限会社アプロックから譲り受けた甲Cが代表取締役を務める株式会社ワールドピクチャーが、本件台詞原稿及び本件字幕と同一の日本語吹替え音声及び日本語字幕を収録した「三人の騎士」DVDを販売し、原告コスモ・コーディネートからの警告にもかかわらず販売を継続している事実が認められ、このことは、甲16、23により本件台詞原稿及び本件字幕の著作権が有限会社アプロックから甲Cに適切に譲渡されていることと合致する事実である。
イ 被告の著作権侵害行為について
(ア) 被告が被告DVDを販売していることは認め、その余は否認する。
 被告は被告DVDを自身では一切製造(複製)していない。全て被告補助参加人から購入している。
(イ) 原告らDVDと被告DVDの日本語吹替え音声及び日本語字幕が同一であることは認め、複製権侵害・譲渡権侵害の主張は争う。
(ウ) 被告DVDに「Made in TAIWAN」の表示があることは認め、その余は否認する。被告は被告DVDをすべて被告補助参加人から購入しており、台湾から輸入はしていない。
ウ 損害について
(ア) 被告が、被告DVDを、平成22年から平成26年6月までに2万8220枚販売したことは認める。
(イ) 本件セットの小売価格は1980円、卸先ごとにその55〜64%の異なる卸価格率が適用されている。本件セット1セット当たりの経費額は709円である。
(ウ) 損害額は争う。
(エ) 寄与度
 被告DVDはディズニーアニメ作品であり、映像部分の寄与が大きい。言語部分(日本語吹替え音声及び日本語字幕)の寄与度は20%程度とみるべきである。
(2) 商標権に基づく請求について
ア 原告コスモ・コーディネートが本件商標権を保有していることは明らかに争わない。
イ 被告DVDの映像の右上部分に原告商標と同一の被告標章が表示されていることは認める。
ウ 被告DVDが本件商標権の指定商品と同一であることは明らかに争わない。
エ 被告標章が商標的に使用されていることは否認する。
 一般に、商標法上の商標の(商標としての)「使用」に該当するというためには、当該商標が商品の取引において出所識別機能を果たしている必要がある。
 原告らDVDや被告DVDのようなパッケージ商品の取引において、取引者・需要者がパッケージ内のDVDを再生して当該映像中に映りこんだ標章を見ることによりDVD商品の出所識別をするとは考え難く、自他商品の識別機能及び出所表示機能は働かない。そのため、本件では被告が商標を(商標として)「使用」したとはいえない。
3 抗弁(譲渡権の消尽)(著作権(持分)に基づく請求に対して)
(1) 原告らは、被告補助参加人が本件台詞原稿に基づく日本語吹替え音声及び本件字幕を収録したDVDを製造し、被告に販売することを承諾していた。
(2) 被告補助参加人から被告に被告DVDが譲渡されたことにより、原告らの譲渡権は消尽している(著作権法26条の2第2項4号)。
4 抗弁に対する認否
(1) 原告らが被告補助参加人に被告DVDの製造・販売を承諾していたことは否認する。
 原告らは、被告補助参加人に被告DVDの製造・販売を承諾したことなどない。
 仮に、過去において原告らが被告補助参加人に被告DVDの製造・販売を許諾していたと解釈されたとしても、平成24年7月26日付け内容証明郵便(甲29)により、被告補助参加人が被告DVDを製造・販売することは禁止されている。
(2) 被告補助参加人から被告に被告DVDの譲渡があったことは明らかに争わないが、消尽の主張は争う。
第3 当裁判所の判断
1 被告の本案前の申立てについて
 被告は、原告らの著作権侵害に基づく本件訴えが当庁平成25年(ワ)第32465号事件(以下「別件訴訟」という。)と同一の訴えであるとして、民事訴訟法142条に基づき却下されるべきである旨の本案前の申立てをしている。
 しかし、原告らが平成26年7月18日の第3回弁論準備手続期日において同月7日付け訴状訂正申立書2を陳述し、被告が同書面による訴えの変更に同意したことにより、本件訴えの対象は、被告DVDに係る請求に限定され(当裁判所に顕著)、別件訴訟の対象となっていた請求(アニメ「三人の騎士」CCP−711に係る請求〔乙1、弁論の全趣旨〕)が除外されたことが認められるから、本件訴えの訴訟物が別件訴訟の訴訟物と重複しているとは認められず、被告の上記申立ては、採用することができない。
2 原告らの著作権について
(1) 甲14及び弁論の全趣旨によれば、本件著作物は、原作映画の英語音声を日本語に翻訳した日本語台詞原稿及び日本語字幕であり、その翻訳には翻訳者の個性が発揮され創作性があるものと認められる。
 なお、甲6、甲9の1・2及び弁論の全趣旨によれば、原作映画は1944年に公開されたものと認められるところ、その映像及び英語台詞が、著作権存続期間の満了によりパブリックドメインとなっていることは、被告も明らかに争わない。
(2) 甲4、5、34及び弁論の全趣旨によれば、本件台詞原稿及び本件字幕は、著作権を原告アートステーションに帰属させる合意の下、甲@、甲A及び甲Bが原作映画の英語台詞から翻訳したものと認められるから、原告アートステーションが著作権を取得したものと認められる。
(3) 甲4及び弁論の全趣旨によれば、原告アートステーションは、本件台詞原稿及び本件字幕の著作権の持分2分の1を原告コスモ・コーディネートに譲渡したことが認められる。
(4)ア 被告は、本件台詞原稿及び本件字幕の著作権は、原告らではなく有限会社アプロックに帰属しており、有限会社アプロックから甲Cに譲渡されたものであると主張する。
イ 甲16は、有限会社アプロックから甲Cに対する平成18年12月28日付けの著作権譲渡契約書であり、著作権譲渡の対象となっている末尾のアニメ20タイトルの中に「81 三人の騎士 APRO−0010」が掲げられ、これを含む「本契約書巻末付記リストに明記された映画DVDタイトルのために制作され、DVDタイトル内に付加された『日本語吹替え』の日本語セリフ脚本と字幕および音声の著作権」につき、甲(有限会社アプロック)が「現在瑕疵のない完全な著作権……を保有することを保証」した上で、当該著作権を乙(甲C)に譲渡している(甲16・1条)。
 また、甲23は、6条の対価支払時期と作成日以外は甲16と同一内容の著作権譲渡契約書であり、作成日は平成19年12月28日となっている。
 しかし、甲16、23の契約書は、原告らの関与しない有限会社アプロックと甲Cとの契約書であって(同一内容の契約書が作成日付を異にして2通あるのも不審である。)、有限会社アプロックが当該著作権を保有するに至った経緯も全く不明であるから、これらの契約書で品番「APRO−010」の「三人の騎士」の日本語セリフ脚本、日本語音声及び日本語字幕(これが本件台詞原稿及び本件字幕と同一内容であるか否かも証拠上は不明である。)の著作権が譲渡の対象となっていたからといって、直ちに有限会社アプロックが本件著作物の著作権者であったと認められるものではなく、上記(2)の認定を左右するものではない。
ウ 被告補助参加人は、丙1ないし3を提出し、その証拠説明書の立証趣旨の記載などからすると、@「三人の騎士」の日本語吹替え音声及び日本語字幕の著作権は、平成18年8月7日当時、有限会社アプロックが保有していた、A有限会社アプロックは、平成18年8月7日付け事業譲渡契約書(丙1)に基づく契約により、当該著作権を株式会社マックスターに譲渡した、B同契約は、平成20年4月8日までに、株式会社マックスターの代金不払により解除された、C被告補助参加人は、平成20年4月8日までに、有限会社アプロックから当該著作権の譲渡を受けた、との事実経過を立証しようとするようである。
 この事実経過は、上記イの被告の主張と矛盾する(平成18年8月7日に当該著作権が有限会社アプロックから株式会社マックスターに譲渡されていたのであれば、平成18年12月28日、平成19年12月28日のいずれの日付においても、有限会社アプロックは当該著作権を甲Cに譲渡することはできなかったはずである。)ことを措くとしても、甲Dの陳述書(丙3)によれば、有限会社アプロックは被告補助参加人の100%子会社であり、陳述書作成当時被告補助参加人の代表者であった甲Dは当初有限会社アプロックの代表者でもあったというのに、同陳述書には、有限会社アプロックが「三人の騎士」の日本語吹替え音声及び日本語字幕の著作権を保有するに至った経緯について何ら具体的な記載がない(なお、有限会社アプロックは、平成21年6月10日破産手続開始決定を受け、平成22年3月5日破産手続が終結しており[甲20]、株式会社マックスターは、平成21年9月16日破産手続開始決定を受け、平成21年12月17日費用不足による破産手続廃止決定を受けている[甲27]が、上記「三人の騎士」の著作権が各破産手続上どのように扱われたかは不明である。)。
 また、上記Aの事業譲渡契約書(丙1)が、有限会社アプロックから株式会社マックスターへの事業譲渡であるというのに、有限会社アプロックの記名押印のない、被告補助参加人と株式会社マックスターとの間の契約書となっているのも不審であるし、同契約書には「三人の騎士」の日本語吹替え音声及び日本語字幕の著作権が事業譲渡の対象となっている旨の記載はない。同契約書(丙1)の日付より前の日付で取り交わされている平成17年5月17日付け契約書(甲28)は、有限会社アプロックと株式会社マックスターとの間の契約書であるが、その譲渡の対象となっている「パブリックドメイン作品9タイトル」に「三人の騎士」は含まれていない。
 被告補助参加人から有限会社アプロック宛ての平成20年4月8日付け通告書(丙2)に「譲渡されましたコンテンツ10タイトル(別紙)については返還されましたことを通知いたします。」との記載があり、別紙に「APRO−010 三人の騎士」の記載があるが、この記載から、「APRO−010」の「三人の騎士」の日本語吹替え音声及び日本語字幕の著作権が平成18年8月7日付け事業譲渡(丙1)の対象となっていたことまで推認できるものではないし、また、同著作権が、事業譲渡の解除により有限会社アプロックに復帰し、さらに有限会社アプロックから被告補助参加人に譲渡されたことが認定できるものでもない。
 結局、丙1ないし3によっても、有限会社アプロックが本件著作物の著作権者であったとは到底認めるに足りず、前記(2)の認定を左右するものではない。
(5) 以上によれば、原告らは、本件著作物につき、著作権を持分2分の1ずつ共有しているものと認められる。
3 被告の行為について
 被告が被告DVDを販売していること、被告DVDの日本語吹替え音声及び日本語字幕が、本件著作物の複製物である原告らDVDの日本語吹替え音声及び日本語字幕と同一であることはいずれも争いがなく、そうすると、被告は、言語の著作物としての本件著作物の複製物である被告DVDを販売しているのであるから、原告らの譲渡権(著作権法26条の2)を侵害しているものと認められる(なお、「頒布」とは、「有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与すること」をいうところ(著作権法2条1項19号)、原告らは、被告DVDの「頒布」の態様として、専ら「販売」(有償譲渡)を問題にしており、無償譲渡や有償貸与、無償貸与は主張しておらず、貸与権(同法26条の3)の侵害の主張も、映画の著作物の頒布権(同法26条)の侵害の主張もしていない。原告らは、訴状6頁において「頒布」という用語をあたかも「販売」と同義であるかのごとく用いており、被告が準備書面(1)2頁で認めたのも、「販売」であって、無償譲渡や有償貸与、無償貸与について認めたものとは解されない。)。
 これに対して、被告が被告DVDを自ら輸入し又は複製していることを認めるに足りる証拠はない。
4 消尽について
(1) 被告は、原告らは被告補助参加人が本件台詞原稿及び本件字幕を収録したDVDを製造し、被告に販売することを承諾していたのであるから、被告補助参加人から被告に対する譲渡により、原告らの譲渡権は消尽している(著作権法26条の2第2項4号)と主張する。
(2) しかし、原告らが被告補助参加人による被告DVDの製造販売を承諾していたと認めるに足りる証拠はない。
 被告も被告補助参加人も、原告らの承諾を直接立証する証拠(原告らと被告補助参加人との間の契約書など)は提出できておらず、後記のとおり、他の証拠によっても、被告補助参加人による被告DVDの製造及び譲渡につき原告らの承諾があったとは認めるに足りない。
(3) 乙2について
 乙2は、原告コスモ・コーディネートから被告代理人宛ての平成25年1月12日付けFAXであるが、その中に「メディアジャパンは日本語吹替えのみのDVDをアプロック名で発売していますが、これは過去にアートステーションと当社で制作してあげたもので、当初はコスミック出版で販売していた商品です。これに関しては、当社は問題にしておりません。」との記載がある。
 しかし、原告コスモ・コーディネートがそこで「当社は問題にしておりません。」という、「メディアジャパン」が「アプロック名で発売」した「日本語吹替えのみのDVD」が何のDVDであるかは、乙2自体からは明確でなく、少なくともこれに「三人の騎士」のDVDが含まれていたと認めるに足りる証拠はない。
 仮に「三人の騎士」のDVDが含まれていたとしても、乙2には、上記引用箇所に続けて、「当社が著作権侵害を指摘しているコスミック出版発売のDVD商品は、このアプロック版とは、日本語吹替え音声も違っていますし、アプロック版にはなかった日本湖(ママ)字幕や英語字幕なども付いております。」との記載がある。
 なお、本訴で対象としている被告DVDには、日本語字幕が付いており、英語字幕は付いていない。そうすると、乙2で問題とされていた「日本語字幕や英語字幕なども付いている」被告発売のDVD商品、「日本語吹替えのみ」で日本語字幕の付いていない「アプロック版」のいずれも、少なくとも被告DVDを指しているものではない。
 したがって、仮に、原告らが被告補助参加人に対し「アプロック版」の何らかのDVDの製造販売を承諾していたことがあったとしても、本訴で対象としている被告DVDの製造販売を被告補助参加人に承諾していたことになるものではなく、被告補助参加人から被告に対する被告DVDの譲渡によって原告らの譲渡権が消尽することはない。
(4) 株式会社ユニアール関係について
 被告は、被告補助参加人は、少なくとも平成20年6月2日から平成21年2月2日までの間、20回にわたり、株式会社ユニアールから本件台詞原稿及び本件字幕を収録したDVDの購入申込みを受け、同社に対し販売した(乙4の1ないし20)ところ、株式会社ユニアールは原告アートステーションと極めて密接な関連のある会社であるから、原告らは、被告補助参加人が本件台詞原稿及び本件字幕を収録したDVDを製造し、株式会社ユニアールに販売することを承諾していたことは明らかである、と主張する。
 しかし、乙4の1ないし20で株式会社ユニアール(旧商号:株式会社コスモコンテンツ。乙3の2)が被告補助参加人から購入した「三人の騎士」のDVDは、品番「APRO−010」(乙4の19のみ「ANC−010」)のDVDであって、被告DVD(品番「BCP−018」の本件セットのうちの1枚)ではない。そして、品番「APRO−010」の「三人の騎士」の内容を認めるに足りる的確な証拠はなく、これが被告補助参加人の製造に係るものであること、その日本語吹替え音声及び日本語字幕が被告DVDのものと同一であることのいずれも認めるに足りる証拠はない(品番「ANC−010」については甲6・2頁に盤面があるが、被告補助参加人の製造に係るものと認めるに足りる証拠はなく、第三者の製造に係る[当該製造業者からの第一譲渡によって既に譲渡権の消尽した]ものを被告補助参加人を介して入手しただけであれば、被告補助参加人が製造販売の承諾を得ていたことにはならない。)。
 また、原告アートステーションの代表者である甲Bは、平成20年5月19日まで株式会社ユニアール(当時の商号:株式会社コスモコンテンツ)の代表取締役を務めており(乙3の1)、同社のウェブページには平成26年8月12日現在も甲Bが代表取締役と表示されていること(乙3の3)、甲Bの息子である甲@が同社の取締役を務めていること(乙3の2)、平成20年5月20日から平成25年11月1日まで、同社の代表取締役は本件台詞原稿及び本件字幕の創作に関与した甲Aが務めていたこと(乙3の2)、甲Bは現在も株式会社ユニアールの株主であること(弁論の全趣旨[原告準備書面5・6頁])がそれぞれ認められるが、これらの事実があったからといって、平成20年6月2日から平成21年2月2日までの間に被告補助参加人が株式会社ユニアールに販売したDVD商品について、原告らがその製造販売を承諾していたことになるものではない。
 したがって、仮に、株式会社ユニアールが被告補助参加人による品番「APRO−010」の販売を承諾していたとしても、原告らが被告DVDの製造販売を被告補助参加人に承諾していたことになるものではなく、被告補助参加人から被告に対する被告DVDの譲渡によって原告らの譲渡権が消尽することはない。
(5) かえって、原告コスモ・コーディネートは、平成24年7月26日付け通知書(甲29)において、被告補助参加人に対し、「当社と有限会社アートステーションの共同著作物である……『ディズニー名作アニメDVD(改訂版)』を大量に製造されている旨伺っていますが、これらの作品も当社の著作物であり、作品としては、日本においてパブリックドメインと認定されていても、新たに翻訳し直して、日本語字幕などを作成したもので、二次著作権が発生しています。従がって(ママ)、当社は貴社に対し、これらのコピー商品の製造・販売を即座に中止することを要求致します。」と記載し、平成24年10月30日付け警告書(甲10)においても、被告に対し、「株式会社メディアジャパンは本件作品[判決注:「当社が貴社の著作権侵害を指摘した名作アニメDVD商品」であるが、「三人の騎士」は含まれていなかったと認められる。]のアブ(ママ)ロック版(日本語吹替えのみ)の製造・販売の権利は有していますが、著作権は所有しておりません。前回は7作品のみ指摘しましたが、『ファンタジア』『ガリバー旅行記』『三人の騎士』の3タイトルも同様で、御社は計10タイトルの名作アニメ作品のDVDに関し、当社の著作権を侵害しております。また、この中の『三人の騎士』に関しては、株式会社メディアジャパンには製造・販売の権利もありません。」と記載しており、原告らが被告補助参加人に被告DVDの製造販売を承諾したことはなかったように推認されるところである。
(6) 以上によれば、消尽の主張は認められない。
5 差止めについて
(1) 以上によれば、被告による被告DVDの販売は原告らの有する本件著作物の著作権(譲渡権)持分を侵害する行為であるから、原告コスモ・コーディネートの商標権侵害に基づく差止請求権の存否につき判断するまでもなく、原告らは、著作権法112条1項に基づき、被告DVDの販売の差止めを求めることができる。
(2) 他方、原告らの著作権法112条1項に基づく差止請求及び原告コスモ・コーディネートの商標権侵害に基づく差止請求のうち、被告による輸入、複製の差止めを求める部分については、被告が自ら輸入、複製をしているとは認められず、他に被告が輸入、複製をするおそれがあることを基礎付ける事情も認められないから、差止めの必要性は認められない。頒布のうち、販売以外の態様の差止めを求める部分についても、同様である(なお、有償貸与及び無償貸与についての著作権法112条1項に基づく請求については、原告らは貸与権侵害や頒布権侵害を主張していないから、主張自体失当であることになるが、仮にその旨の主張があったとしても、差止めの必要性が認められないことになる。)。
6 損害について
(1) 被告が、被告DVDを、平成22年から平成26年6月までに2万8220枚販売したことは争いがない。
(2) 被告DVDを含む本件セット(10枚組)の小売価格は1980円(消費税5%込み。本体価格1886円)である(甲9の2)。
 被告は、本件セットを主に卸売価格で小売業者に売却しているものと認められるところ(弁論の全趣旨)、被告は、卸売価格は卸先ごとに小売価格の55〜64%(1089〜1267円)であると主張する(被告準備書面(3)3頁、準備書面(4)3〜4頁)が、その根拠資料を提出せず、その理由として、被告が被告補助参加人から仕入れた被告DVDを含む本件セットと、他社から仕入れた同種商品(本訴で対象となっている「被告DVD」ではないもの)を入れた10枚組BOXセットとを区別できないからと説明している。
 乙5は、被告DVDを含む本件セットと、被告DVD以外の「三人の騎士」のDVDを入れた10枚組セットの売上が混在した商品別売上実績表であるが、例えば、2010年5月度の総売上数量が5455セット、総売上額が682万6204円で1セット当たり1251円(端数四捨五入。以下同じ)となるが(乙5・2頁)、2014年6月度の総売上数量は930セット、総売上額は75万1528円で1セット当たり808円となってしまい(乙5・51頁)、ここから平均卸売価格を算定することはできない。
 さらに、甲15、18によれば、被告は、自社ウェブサイトにおいて、本件セットを小売価格2037円(消費税8%込み。本体価格1886円)での直接販売も行っていることが認められ、被告の累計販売枚数2万8220枚のうち、このような小売価格での直接販売の枚数を確定することもできない。
 これらの点に鑑み、被告DVDを含む本件セットの卸売価格は、6000セットを制作した際の卸売価格1267円(乙6。小売価格の64%)をもって1セット当たりの卸売価格と認めるのを相当とする。
(3) 本件セット6000セットを販売した際の経費が425万4543円であった(乙6)ことから、1セット当たりの経費は709円(425万4543円÷6000)と認める。
 著作権法114条2項にいう「利益」とは、侵害者の売上から、侵害品の製造販売に追加的に要した費用(変動経費)を控除したいわゆる限界利益をいうと解されるところ、原告らは、乙6に記載された経費の変動経費性を具体的に争うことを明らかにしないから、乙6に記載された経費425万4543円は全て変動経費と認める。
 そうすると、本件セット1セット当たりの被告の利益は558円(1267円−709円)と認められる。
 被告DVDは、本件セット10枚組のうちの1枚であるから、被告DVD1枚当たりの被告の利益は56円(558円÷10枚)と認める。
(4) 寄与度減額について
 被告は、被告DVDはディズニーアニメ作品であり、映像部分の寄与が大きく、言語部分の寄与度は20%程度であると主張する。
 争いのない事実、甲9の1・2及び弁論の全趣旨によれば、被告DVDは、原告らDVDと映像、日本語吹替え音声及び日本語字幕の全てにおいて同一であり、原告らDVDの海賊版と言って差し支えないものと認められるところ、そのような海賊版を販売した者に利得の一部を保有させるのは相当でないから、本件においてパブリックドメイン部分(原作映画の映像、及び原作映画の英語台詞に由来する部分)の寄与により原告らの損害額を減額するのは相当でないというべきである。
 したがって、本件においては、言語部分の寄与度を原告らの損害額を減額する要素としては考慮しない。
(5) そうすると、被告DVDの販売により被告が得た利益は、158万0320円(56円×2万8220枚)となる。
(6) 原告らの著作権共有持分はそれぞれ2分の1であるから、原告らがそれぞれ被告に請求できる損害賠償の額は、各79万0160円(158万0320円×1/2)となる。
(7) 被告の著作権侵害による不法行為は平成26年6月までには終了しているから、その不法行為の終了した以後の日である平成26年6月30日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金を付す。
(8) なお、原告らは、本件口頭弁論終結後に提出した平成27年1月23日付け上申書において、損害額の算定方法を著作権法114条2項に基づくものから同条1項に基づくものに変更したいとするようであるが、時機に後れており(そのことについて、原告らには重大な過失があるといわざるを得ない。)、訴訟の完結を遅延させるものであるから、弁論を再開してこの点の審理を行うことは、相当でない。
7 結論
 以上によれば、原告らの請求は主文第1項ないし第3項の限度で理由があるが、その余はいずれも理由がない。
 よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条ないし66条を、仮執行宣言につき同法259条をそれぞれ適用して(主文第1項の差止請求については、仮執行宣言の申立てはない。)、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 嶋末和秀
 裁判官 西村康夫
 裁判官 本井修平


別紙1 原告ら商品目録
下記アニメーション作品DVD
1 アニメ「三人の騎士」 DVD@  DFC−109
以上

別紙2 被告商品目録
1 「名作アニメ劇場」10枚組BOXセット  BCP−018
 10作品収録中の1作品「三人の騎士」
 ただし、別紙3のDVDジャケット及び別紙4又は5の盤面のもの
以上
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