判例全文 line
line
【事件名】「生命の實相」復刻出版事件C
【年月日】平成27年3月12日
 東京地裁 平成25年(ワ)第28342号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成27年1月20日)

判決
原告 公益財団法人生長の家社会事業団
原告 株式会社光明思想社
上記両名訴訟代理人弁護士 内田智
被告 株式会社日本教文社
同訴訟代理人弁護士 脇田輝次
被告 生長の家
同訴訟代理人弁護士 田中美登里
同 田中伸一郎
同 外村玲子


主文
1 被告株式会社日本教文社は、原告公益財団法人生長の家社会事業団に対し、別紙書籍目録記載1の書籍を複製し、頒布し、又はインターネットのホームページ等の媒体を用いて販売の申出をしてはならない。
2 被告株式会社日本教文社は、原告公益財団法人生長の家社会事業団に対し、自ら在庫として保管し又は一般財団法人世界聖典普及協会において保管する前項の書籍を廃棄せよ。
3 被告生長の家は、原告公益財団法人生長の家社会事業団に対し、別紙書籍目録記載2の書籍を複製し、又は頒布してはならない。
4 被告生長の家は、原告株式会社光明思想社に対し、前項の書籍を複製してはならない。
5 被告株式会社日本教文社は、原告公益財団法人生長の家社会事業団に対し、20万円及びこれに対する平成26年7月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被告生長の家は、原告らそれぞれに対し、20万円及びこれに対する平成25年11月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
8 訴訟費用は、原告公益財団法人生長の家社会事業団と被告株式会社日本教文社の間ではこれを3分し、その1を原告公益財団法人生長の家社会事業団の、その余を被告株式会社日本教文社の各負担とし、原告株式会社光明思想社と被告株式会社日本教文社の間ではすべて原告株式会社光明思想社の負担とし、原告らと被告生長の家の間ではこれを4分し、その1を原告らの、その余を被告生長の家の各負担とする。
9 この判決は、第5項及び第6項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文1〜4項同旨。
2 被告株式会社日本教文社(以下「被告教文社」という。)は、原告株式会社光明思想社(以下「原告光明思想社」という。)に対し、別紙書籍目録記載1の書籍(以下「被告書籍1」という。)を複製してはならない。
3 被告教文社は、原告らそれぞれに対し、50万円及び平成25年11月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告生長の家は、原告らそれぞれに対し、50万円及び同月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告らが、別紙著作物目録記載の言語の著作物(以下、それぞれを「本件著作物1」、「本件著作物2」といい、「本件各著作物」と総称する。)につき原告公益財団法人生長の家社会事業団(以下「原告事業団」という。)が著作権を、原告光明思想社が出版権を有し、被告教文社による被告書籍1の出版及び被告生長の家による同目録記載2の書籍(以下「被告書籍2」という。)の出版はそれぞれ本件各著作物に係る原告らの著作権(複製権、譲渡権)及び出版権を侵害すると主張して、被告らに対し、原告事業団は著作権に基づく複製、頒布の差止め等を、原告光明思想社は出版権に基づく複製の差止めを求めるとともに、原告らそれぞれに対する不法行為に基づく損害賠償金(弁護士費用相当額)及び不法行為の後の日である被告教文社につき平成25年11月23日から、被告生長の家につき同月25日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
(1) 当事者
ア 原告事業団は、A(昭和60年6月17日死亡。以下「亡A」という。)が創始した宗教団体「生長の家」の宗教的信念に基づき社会厚生事業等を行うために、昭和21年1月8日に成立した財団法人であり、平成24年4月1日に公益財団法人に移行した。
イ 原告光明思想社は、各種書籍及び雑誌の刊行等を目的とする株式会社である。
ウ 被告教文社は、「生長の家」の信徒等に向けて亡Aの著作物等を出版する出版社である。
エ 被告生長の家は、宗教法人法に基づいて設立された宗教法人であり、亡Aの主要著作である本件著作物1(生命の實相)を聖典と仰ぎ、本件著作物2(甘露の法雨)を聖経とし、教規上「人類光明化運動」に尽くすこととしている宗教団体である。
(2) 本件各著作物
ア 本件著作物1
 亡Aは、多数の論文を執筆して月刊誌に掲載し、昭和7年頃、これらの論文を分類してまとめ、「生命の實相」という題号を付した。これが本件著作物1であるが、本件著作物1には装丁等が異なる各種の版があり、昭和37年から昭和42年には文中の単語の意義の注を付記した「生命の實相〈頭注版〉」(全40巻)(以下「頭注版」という。)が出版された。
イ 本件著作物2
 本件著作物2は、昭和10年頃、亡Aが過去に創作して2回に分けて月刊誌に掲載した長編の自由詩をまとめて1個の著作物としたもので、昭和11年以降、被告教文社が出版していた。
ウ 原告事業団への著作権の移転
 亡Aは、昭和21年1月8日、本件各著作物の著作権を含む財産を出捐し、原告事業団を創設するとの内容の寄附行為(以下「本件寄附行為」という。)を行い、東京都長官の許可を受け、原告事業団を設立した。(甲1、2の1)
(3) 被告らの行為等
ア 被告教文社
(ア) 被告教文社は、昭和41年4月頃から、「生命の教育」との題号を付した書籍(被告書籍1)を出版している。被告書籍1は、頭注版第14巻、第25巻及び第30巻に収録された論文のうち一部の論文を抜き出して1冊にまとめたものである。(甲7、37〜39、乙イ7、24の1〜3)
(イ) 原告事業団と被告教文社は次のとおりの契約を締結した。
a 原告事業団と被告教文社は、昭和49年1月31日、原告事業団が版権を有する「生命の實相(各種各判)」等について、被告教文社が出版のためにこれを使用することを原告事業団が許諾する旨の著作権使用(出版)契約を締結した(以下、この契約を「昭和49年契約」という。)。
 原告事業団は、平成21年2月4日頃までに、昭和49年契約を解約する旨の意思表示をした。
(甲16、28の1、29の1)
b 亡Aの死後である昭和63年、原告事業団と被告教文社は、頭注版の各巻ごとに、期間の定めのある出版使用許諾契約を締結した(以下、このうち、頭注版の第14巻、第25巻及び第30巻についての出版使用許諾契約を「本件各使用許諾契約」と総称する。)。
 本件各使用許諾契約は繰り返し更新されたが、原告事業団は、被告教文社に対する平成19年6月19日付け通告書により、契約期間を更新しないことを通知した。
(甲17〜20、乙イ3の28、39及び44)
イ 被告生長の家
(ア) 原告事業団と被告生長の家は、昭和34年11月22日付けで、原告事業団が被告生長の家による本件著作物2の複製に同意する旨の「聖経「甘露の法雨」の複製承認に関する覚書」(以下「本件覚書」という。)を取り交わした。(甲9)
(イ) 被告生長の家は、昭和34年頃から、本件覚書に基づいて、被告書籍2を含む本件著作物2の複製物を肌守り用又は霊牌用(以下「肌守り用等」という。)として信徒に頒布している。
(ウ) 原告事業団は、被告生長の家に対し、平成24年1月4日到達の通告書により、同年3月31日限り本件覚書による本件著作物2の使用許諾を終了する旨通知した(以下「本件解約通知」という。)。(甲11、12)
(4) 別件訴訟
ア 原告事業団は被告教文社に対し未払印税の支払等を求める訴訟(東京地方裁判所平成21年(ワ)第6368号事件)を、被告生長の家は原告らに対し書籍の出版等の差止め等を求める訴訟(同第17073号事件)を、被告教文社は原告らに対し出版権の確認等を求める訴訟(同第41398号事件)を提起し、東京地方裁判所はこれらの事件を併合審理した(以下、この訴訟を「別件訴訟1」といい、第1審における3件の事件を順に「第1事件」などという。)。(甲30)
イ 被告教文社は、原告事業団に対し、著作物利用権確認を求める訴訟(東京地方裁判所平成25年(ワ)第4710号事件。以下「別件訴訟2」という。)を提起した。(甲44)
2 争点に関する当事者の主張
(1) 本件著作物1の構成素材である論文の著作権の帰属
(原告らの主張)
 原告事業団の設立時の寄附行為には、財団の財産として、「A著『生命の實相』の著作権」と記載されており、原告事業団は本件寄附行為及び主務官庁の許可により亡Aから本件著作物1の著作権を取得した。そして、本件著作物1が編集著作物であるとしても、本件寄附行為が編集著作権のみを移転するものと解することはできないから、本件著作物1の編集著作権と本件著作物1の構成素材である論文の著作権はすべて原告事業団に帰属する。
(被告教文社の主張)
 本件著作物1は、亡Aが、自己が著作権を有する著作物である論文を素材として選択し、配列した編集著作物である。本件寄附行為は、本件著作物1の編集著作権のみを移転するものであって、構成素材である論文の著作権は原告事業団に移転していない。
(2) 被告書籍1の出版に関する許諾の終了
(原告らの主張)
ア 被告書籍1は、本件著作物1の一部を複製したものであるから、その出版には原告事業団の許諾を要する。被告書籍1の出版に関する契約は、本件著作物1の出版を許諾した昭和49年契約と本件各使用許諾契約であり、いずれの契約も原告事業団による解除又は更新拒絶により終了した。
イ 仮に、被告教文社の主張する書面によらない許諾があるとしても、原告事業団は、本件訴訟において同許諾を解約する旨の意思表示をした。同許諾は期間の定めがなくいつでも解約できるし、解約に正当な理由が必要であるとしても、次のとおりの事情によれば正当な理由が認められ、また、解約が権利の濫用や信義則違反に当たるとはいえない。
(ア) 被告教文社は、原告事業団に対して支払うべき「初版革表紙 生命の實相 復刻版」及び「初版革表紙 生命の實相第2巻『久遠の實在』 復刻版」の印税2740万円を長期間支払わず、同印税の支払請求を受けた別件訴訟1において消滅時効の抗弁を主張したため、原告事業団は上記のうち50万円の支払しか受けられなかった。
(イ) 被告教文社は、被告生長の家と共に、別件訴訟1において執拗に不当な主張を行った。
(ウ) 被告教文社は、<C>マークの表示について、昭和49年契約に違反する不当な表示をしていた。
(被告教文社の主張)
ア 被告書籍1は、本件著作物1の構成素材である論文の著作権者である亡Aが、生命の教育の理念に基づいて論文を選択して配列した編集著作物であって、亡Aが月刊誌に発表した論文に依拠している。したがって、被告書籍1の出版につき原告事業団の許諾は不要である。
イ 被告書籍1の出版に原告事業団の許諾を要するとしても、原告事業団は、被告書籍1の初版の発行に先立って、被告書籍1の出版を書面によらず明示ないし黙示に許諾した。
(ア) @ 被告書籍1は「生長の家」の伝道のための重要な書籍であるところ、亡Aの遺産目録に記載される一方、原告事業団に著作権が帰属する書籍を確認した確認書には記載されていないこと、A 被告教文社は亡Aないしその相続人に対し被告書籍1の印税を支払っているが、原告事業団は被告教文社に対しその印税の支払を求めたことがないことからすれば、原告事業団は、被告教文社が被告書籍1を出版し、印税を亡Aないしその相続人に支払うことを半永久的に許諾したものといえるから、原告事業団が同許諾を解約することはできない。
(イ) 仮にそうでないとしても、上記許諾の解約には正当な理由が必要であり、本件において正当な理由はない。また、上記許諾は、被告教文社のみならず亡Aないしその相続人らに対してもされたものであるから、原告事業団と被告教文社との間の信頼関係の破壊のみに基づいて解約するのは、信義則に反するとともに、権利の濫用に当たる。
ウ 原告らが被告書籍1の出版の許諾であると主張する昭和49年契約及び本件各使用許諾契約は、被告書籍1に関するものではない。
(3) 被告書籍2に関する本件覚書に係る合意の終了
(原告らの主張)
ア 本件覚書に係る合意は、昭和34年当時の原告事業団と被告生長の家の友好関係に基づいて、恩恵的に、一定の利用条件の下で期間を定めず無償で本件著作物2の使用を許諾したものである。したがって、原告事業団はいつでも本件覚書に係る合意を将来に向けて解約することができるから、本件覚書に係る合意は本件解約通知により終了した。
イ 仮に、本件覚書に係る合意の解約に正当な理由が必要であるとしても、次のとおりの事情によれば、正当な理由が認められる。
(ア) 原告事業団の公益法人化に伴って、本件著作物2の著作権は公益目的事業財産となったことから、原告事業団は公益目的事業財産の収益に当たる印税を適正公平に収受することを要する。被告生長の家の国内布教を援助することは原告事業団の公益目的事業に含まれていないから、本件覚書による無償の利用許諾を継続することは、公益法人認定法上も許されない。
(イ) 本件覚書は、被告生長の家が、肌守り用等の非売品として複製頒布することに限って無償で許諾するものであるところ、被告生長の家は被告書籍2を奉納金と引換えに信徒に頒布しており、本件覚書に定める「非売品」とはいえない。
(ウ) 被告生長の家は、被告生長の家が頭注版及び「生命の實相〈愛蔵版〉」以外の本件著作物1の各版の著作権を亡Aの相続人から取得した旨、あるいは、原告事業団は「生命の實相」の著作権者ではなく印税収入を受け取る権利を有するにすぎない旨の悪質な虚偽の主張に基づいて別件訴訟1の第2事件の訴えを提起し、また、生長の家ブラジル伝道本部に対し、原告事業団が受領すべき亡Aの著作物の印税を被告生長の家に納めるよう申し入れた。
(エ) 被告生長の家は、被告教文社による原告事業団の著作権侵害行為について、明確かつ実質的に関与していた。
(被告生長の家の主張)
ア 次のとおりの事情によれば、本件覚書に係る合意は、肌守り用等として被告書籍2を頒布するという宗教上の意義を有する行為について、原告事業団が本件著作物2の著作権を行使しないことを期間を限ることなく約束するという永久的な権利不行使の合意であり、解約することは許されない。
(ア) 本件覚書には、被告書籍2の出版に同意することのみならず、著作権を主張しないことが確認されており、解約できる旨の条項もない。これは、原告事業団の上記同意が強固で取り消されるべきものでないことを示している。
(イ) 被告書籍2は、肌守り用等の用途であるため極めて微細なフォントの活字で印刷され、思想感情の創作的な表現を感得するものではなく、ISBN番号も付されていない。したがって、著作物としての使用ではなく、商業的行為でもないから、原告事業団による本件著作物2の使用を制限したりこれと競合することはない。そうすると、中途解約を認めて原告事業団の著作物の使用の機会を確保する必要性もない。
イ 本件解約通知には、次のとおり、正当な理由もない。
(ア) 被告生長の家は、50年間以上の長期にわたり本件覚書に基づいて被告書籍2を非売品の肌守り用等として信徒に頒布してきたものであり、一般的な商品供給契約のように市場の変化が及ぶ性質のものではなく、原告事業団の公益法人化は被告書籍2の複製頒布の中止を求める理由にはならない。また、本件における本件著作物2の使用許諾は、社会通念上十分に合理性を有するもので、公益法人認定法に反しない。
(イ) 奉納金は制作費等の実費に見合った金額の負担であり、被告生長の家は本件覚書作成の頃から奉納金と引き換えに本件著作物2の複製物を頒布している。被告書籍2は、祓い清めた肌守りで、「生長の家」の信徒だけが特別なルートで手に入れることができる非売品であり、本件覚書に反するものではない。
(ウ) 原告事業団と被告らの紛争の発端は、従前、原告事業団が亡Aの著作物を出版するに際しては亡Aないし被告生長の家が決定又は承認を行っていたのに、原告事業団が被告らへの報告もなく原告光明思想社に亡Aの著作物を出版させたことにある。別件訴訟1は、被告らが、亡Aの著作物の出版につき従前の方法によることを求めたにすぎない。また、ブラジル伝道本部への申入れの対象には原告事業団が著作権を有する著作物は含まれない。したがって、別件訴訟1や上記申入れは原告事業団と被告生長の家の信頼関係を破壊させるものではない。
(エ) 本件覚書に係る合意は、信徒に対し宗教法人である被告生長の家から本件著作物2の複製物を交付するという目的で締結されたものであるところ、当該目的は現在も存続しており、期限の定めのない使用貸借契約に関する民法597条2項の法理に照らしても、原告事業団の一方的意思表示により解約することはできない。
(4) 原告光明思想社の出版権の有無
(原告光明思想社の主張)
ア 原告事業団は、本件著作物1の著作権を有しているから、その一部である被告書籍1の著作権も有している。なお、被告書籍1が本件著作物1とは別個の編集著作物であるとの被告教文社の主張は争う。
イ 原告事業団は、平成25年8月8日、原告光明思想社に対し、被告書籍1と同一の内容の書籍「生命の教育−類篇「生命の實相」」に関する出版権設定契約及び被告書籍2と同一の内容の書籍「御守護 甘露の法雨」に関する出版権を設定した。
(被告教文社の主張)
ア 被告書籍1は本件著作物1とは別個の編集著作物であり、原告事業団は被告書籍1の編集著作権を取得していないから、原告事業団は、被告書籍1についての出版権を設定する権原がない。
イ 原告事業団と原告光明思想社の間の出版契約の対象となる書籍が被告書籍1と同一であるかどうか不明である。
(被告生長の家の主張)
 出版権の設定については不知である。
(5) 原告光明思想社による出版権行使についての権利の濫用等の成否
(被告らの主張)
ア 原告光明思想社の代表取締役B(以下「B」という。)は、昭和54年から平成20年までの間被告教文社に勤務して亡Aの著作物の編集業務を担当していた者である。
イ Bは、本件著作物1が被告生長の家の伝道の中核をなす著作物であり、長年にわたって被告教文社が被告生長の家の管理の下で被告書籍1の出版を引き受けてきた経過、被告生長の家が本件覚書に基づいて被告書籍2を出版していた趣旨、「生長の家」における被告書籍2の意義を熟知している。
 さらに、Bは、反「生長の家」の活動を展開するために原告光明思想社を設立し、原告事業団との間で出版契約を締結し、被告らによる被告書籍1及び被告書籍2の出版を妨害しようとしている。
ウ 以上によれば、原告光明思想社は背信的悪意者であり、原告光明思想社の各出版権は被告らに対抗できるものではないから、原告光明思想社が被告らに対して出版権を行使することは、権利の濫用に当たり、信義誠実の原則にも反し、許されない。
(原告光明思想社の主張)
 争う。Bは、被告教文社による被告書籍1の出版に関する許諾については知らないし、また、被告生長の家が本件覚書に基づいて被告書籍2を複製していたことは知らなかった。Bには、反「生長の家」の活動をする意思はない。
(6) 損害額
(原告らの主張)
 原告らは、被告らによる著作権ないし出版権侵害の不法行為により、本件訴訟を提起することを余儀なくされ、弁護士費用相当額の損害を被った。
 被告らの各不法行為と相当因果関係のある原告らの弁護士費用の額はそれぞれ50万円を下らない。
(被告らの主張)
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 本件著作物1の構成素材である論文の著作権の帰属(争点(1))について
(1) 原告らは、本件寄附行為は構成素材である論文を含め本件著作物1についての著作権を全て移転するものであると主張するのに対し、被告教文社は、本件著作物1の編集著作権のみを移転するものであると主張する。
 そこで判断するに、前記前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 亡Aは、昭和5年頃、宗教団体である「生長の家」を創始し、その頃から、「生命の法則に據る新しい天才教育法」、「教育に於ける解放と引出しの二方面」等の題号で多数の論文を執筆し、「生長の家」に関連する月刊誌に掲載して発表した。
 亡Aは、その後、上記論文の文章の一部を改め、小見出し等を付し、系統立てて編纂し、「生命の實相」の題号を付して本件著作物1を作成した。
(甲37〜40、乙イ1の1〜15、24の1〜3)
イ 本件著作物1は、「生長の家」における聖典と位置付けられ、昭和7年から昭和20年までの間に、「生命の實相〈革表紙版〉」、「久遠の實在」(副題「生命の實相第2巻」)、「生命の實相〈豪華大聖典〉」、「生命の實相〈縮刷中聖典〉」等の装丁が異なる各種の版が出版された。
ウ 亡Aは、昭和21年1月8日、「生長の家」の宗教的信念に基づいて社会厚生事業及び社会文化事業の発展強化を図る目的で原告事業団を設立する本件寄附行為を行った。原告事業団の当時の寄附行為には、財団の財産として、「A著『生命の實相』等の著作権」と記載されている。(甲1、2の1)
エ 原告事業団は、昭和49年、本件著作物1の著作権者として、被告教文社との間で、本件著作物1の各種の版の出版を許諾する契約(昭和49年契約)を締結したが、それ以前より被告教文社から印税を受領していた。(乙イ2、4)
オ 亡Aが昭和60年6月17日に死亡した頃、亡Aの孫であり被告生長の家の総裁であったCと原告事業団の間で、亡Aの著作物の著作権の帰属について疑義が生じた。そこで、原告事業団と亡Aの相続人であるD、E及びF(以下「相続人ら」ということがある。)の代表者Eは、昭和63年3月22日、原告事業団が本件寄附行為により頭注版を含む複数の亡Aの著作物の著作権を取得し保有していることを確認する旨の確認書(以下「本件確認書」という。)を作成した。さらに、相続人らは、同年4月27日、昭和21年1月8日に亡Aから原告事業団に対し本件著作物1に係る著作権の譲渡があった旨の著作権の譲渡の登録手続をした。
(甲3、乙イ5)
カ 平成19年頃、頭注版のリニューアルの企画をきっかけに被告ら及びFと原告らの間に紛争が生じ、平成21年以降は別件訴訟1等で「初版革表紙 生命の實相」の著作権の帰属等が争われたが、紛争を通じ、被告らや相続人らが、本件著作物1の構成素材である個々の論文の著作権が亡Aに留保されているとの主張をしたことはない。(甲21の2、22の2、23、24、25の2、26の1、27の2及び3、28の2、30、31、44、56)
(2) 上記認定事実を前提に本件著作物1の構成素材である論文の著作権の帰属について判断する。
 原告事業団の設立当時の寄附行為には、財団に帰属する財産として「『生命の實相』等の著作権」と記載され、本件著作物1の編集著作権に限定する記載はない。また、上記(1)認定のとおりの本件著作物1の成立の経緯、本件著作物1の「生長の家」における位置付け、原告事業団の設立の目的等に照らせば、亡Aが原告事業団を設立するに際し、本件著作物1の構成素材である論文の著作権を自己に留保して編集著作権のみを原告事業団に移転する意思であったとはうかがわれない。
 以上によれば、本件著作物1が編集著作物であるとしても、本件寄附行為による移転の対象である「生命の實相」の著作権には本件著作物1の構成素材である論文の著作権が含まれるものと解される。相続人らが関与した本件確認書及び著作権登録の内容や、原告事業団の設立後に原告事業団を著作権者として昭和49年契約等が締結されていること、亡A、相続人ら及び被告らが、亡Aに本件著作物1の構成素材である論文の著作権が留保されているとの主張をしてこなかったことも上記認定に沿うものである。
 したがって、原告事業団は、本件寄附行為により、構成素材である論文の著作権を含む本件著作物1の著作権を取得したものと解される。
2 被告書籍1の出版に関する許諾の終了(争点(2))について
(1) 前記1のとおり、原告事業団は本件著作物1の構成素材である論文の著作権を保有しているところ、前記前提事実(3)ア(ア)によれば、被告書籍1は頭注版の一部を抜き出したものであり、本件著作物1ないしその構成素材である論文に依拠し、これを有形的に再製したものであると認められるから、被告教文社が被告書籍1を出版するためには原告事業団の許諾を要する。そして、被告書籍1の出版に関する許諾の内容及び当該許諾が終了したかについて争いがあるから、この点について検討するに、前記前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 本件著作物1には20本以上の教育に関わりのある論文が含まれるところ(頭注版の第14巻、第25巻、第26巻、第30巻及び第40巻に収録)、被告書籍1は、このうち5本の論文(頭注版の第14巻、第25巻及び第30巻に収録されているもの)を選択し、具体的な教育課題をまず提示し、次にその教育方法を説明し、最後に総括的に「生長の家」の児童教育法を解説するという構成で、「芽生えを培ふ教育法」(頭注版第30巻第2章)、「人間の模倣性と教育」(同巻第3章)、「無軌道の教育法」(同第25巻第2章)、「解放と引き出しの教育」(同巻第3章)、「生命の教育法」(同第14巻教育篇)という順番に配列し、本件著作物1にない小見出しを15か所に設け、「編纂者識す」というはしがきを付したものである。被告書籍1の初版の奥付には、著者名A、<C>マークの横に「1966、A’」と記載されているが、編者の氏名の記載はない。
 被告書籍1の制作に際しては、「生長の家」の関連団体である新教育者連盟の幹部職員が発案及び編集作業に関与した。
(甲7、37〜39、52、乙イ7、24の1〜3)
イ 被告生長の家の総裁であり多数の著作物の著作者である亡Aと、原告事業団及び被告教文社は、本件著作物1を含む亡Aの多数の著作物を通じた「生長の家」の伝道や、宗教的理念に基づく活動について、相互に協力して活動していた。
 被告教文社は、昭和41年4月29日、被告書籍1を発行したが、その際、原告事業団と被告教文社の間で、出版の対象を「生命の教育」(被告書籍1)と明示した出版に関する契約書は作成されず、その後もそのような契約書は作成されなかった。
(甲2の1、7、9、乙イ2、7、14の1〜18)
ウ 被告書籍1は、「生長の家」の提唱する教育法に関する書籍として原告事業団が行う要保護児童の育成事業においても活用され、また、「生長の家」の伝道のための重要な書籍として版を重ね、平成25年には第85版を出版した。被告教文社は、被告書籍1の初版の発行後、亡Aないしその相続人らに対し、被告書籍1の印税を支払っていた。(乙イ8、13の1及び2、22)
エ 原告事業団と被告教文社の間には平成19年頃に紛争が生じ(前記1(1)カ)、平成21年には原告事業団が別件訴訟1の第1事件の訴えを提起し、これに対し被告らが第2事件及び第3事件を提訴するに至った。別件訴訟1において、被告らは、原告事業団が「生命の實相」について亡Aから取得したのは著作権収入を取得する権利であって著作権ではないなどと主張したが排斥され、原告事業団が「生命の實相」各版全ての著作権を有しており、被告教文社が原告事業団に支払うべき未払印税は2740万円であるが、うち2690万円については被告教文社の消滅時効の援用により消滅したとして、原告事業団の第1事件の請求を50万円の限度で認容し、被告らの請求を全て棄却する旨の判決がされ(第1審平成23年3月4日、控訴審平成24年1月31日)、平成25年5月27日に上告棄却兼不受理決定により確定した。(甲30〜32)
オ 被告教文社は、平成25年、被告教文社が頭注版等について出版使用許諾契約に基づく著作物利用権を有することの確認を求める別件訴訟2を提起したが、第1審、控訴審ともこれを棄却する旨の判決をした。(甲44、56)
カ 原告事業団は、平成26年7月24日の本件第5回弁論準備手続期日において、被告教文社に対し、被告書籍1に関する本件著作物1の使用について書面によらない許諾があったとしても、これを解約する旨の意思表示をした。(当裁判所に顕著な事実)
(2) 上記認定事実を前提に、被告書籍1の出版に関する許諾の内容及び当該許諾が終了したかについて判断する。
ア 被告書籍1は、本件著作物1に含まれる多数の教育に関係する論文のうちから5本を選択し、章名及び小見出しを付し、「生長の家」の理念に基づく教育法を理解し易い順番に配列したもので、その選択及び配列には創作性があるものと解されるから、編集著作物であると認められる。
 そして、上記(1)認定のとおり、@ 被告書籍1は「生長の家」の重要な書籍として被告教文社により40年以上にわたり版を重ね、その間、原告事業団は、「生長の家」の教義に基づく活動のために被告書籍1を利用していた一方、被告教文社による被告書籍1の出版に異議を述べていないこと、A  被告書籍1の初版を出版した当時、亡A、被告教文社及び原告事業団は、相互に協力して「生長の家」の伝道のために活動していたこと、B 原告事業団と被告教文社の間で被告書籍1を出版の対象とした契約書が作成されていないことからすれば、原告事業団は、本件著作物1に含まれる論文を利用して被告書籍1が作成され、出版されることを知りながら、これを容認していたとみることができる。そうすると、原告事業団は、被告書籍1の初版の出版の頃までに、被告教文社に対し、被告書籍1の出版につき本件著作物1に含まれる論文を使用することを少なくとも黙示的に許諾したものと推認される(以下、この許諾を「本件許諾」という。)。
 また、原告事業団は被告書籍1の出版について何らの対価を得ておらず、本件許諾に際して期間の定めを設けたことはうかがわれないから、本件許諾は無償かつ期間の定めのないものであったと認められる。
 これに対し、原告事業団は、被告書籍1の出版は、昭和49年契約ないし本件各使用許諾契約による許諾に基づくものであり、これらの各契約は終了したと主張するが、上記各契約は、契約書の記載上、「生命の實相」の出版に関するものであり、これとは別の編集著作物である「生命の教育」(被告書籍1)を出版の対象とするものでないことが明らかであるから(甲16〜19、乙イ3の28、39及び44)、原告事業団の主張は採用できない。
イ 上記アのとおり、本件許諾は期間の定めのない無償の許諾であるが、前記認定の被告書籍1の出版に至る経緯等に照らせば、原告事業団が本件許諾を解約するためには、両者間の信頼関係が破壊されたことなど正当な理由が必要であると解される。
 そこで、原告事業団による解約(前記(1)カ)に正当な理由があるかをみるに、@ 被告教文社は、別件訴訟1において、原告事業団は本件寄附行為により著作権収入を取得する権利を取得したにすぎないと主張し、原告事業団の著作権を争っていたこと、A 被告教文社が、長期間多額の印税を支払わず、別件訴訟1において消滅時効を援用した結果、原告事業団は多額の未払印税を取得できなかったこと、B 被告教文社は、別件訴訟1の後、本件著作物1の利用権をめぐって更に別件訴訟2を提起したことなどを含む原告事業団と被告教文社の間の紛争の内容や経過に照らせば、本件訴訟の提起までの間に原告事業団と被告教文社の間の信頼関係は破壊されたものというべきである。
 したがって、本件許諾は、原告事業団の解約により平成26年7月24日に終了したものと認められる。
ウ これに対し、被告教文社は、@ 本件許諾は半永久的なものであり解約はできないこと、A 原告事業団による解約には正当な理由がないこと、B 本件許諾は亡Aに対する許諾に基づくものであり、被告教文社と原告事業団の間の信頼関係の破壊があったことのみによる解約は権利の濫用ないし信義則違反であることを主張する。
 しかし、@について、本件許諾が半永久的なものであったことを認めるに足りる証拠はないし、被告教文社が指摘する各事情は本件許諾が解約できないものであることを推認させる事情とはいえない。
 Aについて、本件許諾の解約に正当な理由が認められるのは上記判断のとおりである。
 Bについて、本件許諾が原告事業団と被告教文社の間の許諾であることは上記ア認定のとおりであるし、前記(1)エ認定の原告事業団と被告教文社の間の紛争経過に照らせば、解約が権利の濫用に当たり信義則に反するとは認められない。
(3) 以上によれば、被告書籍1の出版は原告事業団の著作権(複製権、譲渡権)を侵害するものであるから、原告事業団の被告教文社に対する差止め及び廃棄請求は理由がある。
3 被告書籍2に関する本件覚書に係る合意の終了(争点(3))について
(1) 被告生長の家が本件覚書に係る合意に基づいて被告書籍2を出版していたことには争いがないところ、原告事業団は本件解約通知により本件覚書に係る合意が終了したと主張するので、この点について検討する。
 前記前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 昭和34年当時、原告事業団の許諾に基づき被告教文社が書籍「甘露の法雨」を出版していたが、本件著作物2は「生長の家」の聖経であることから、営利法人である被告教文社ではなく宗教法人である被告生長の家から交付を受けたいとの信徒の要望があった。そこで、原告事業団、被告教文社及び被告生長の家は、同年11月22日頃、本件覚書を取り交わし、亡Aがその内容を承認した。本件覚書には、次の趣旨の記載がある。(甲9)
 「生長の家のみ教えによって社会人心の光明化をはからんとする点に於いて、被告生長の家とその悲願を共にする原告事業団及び被告教文社は寧ろ進んで信徒の要望に賛同し、被告生長の家がこれに応えて聖経『甘露の法雨』を特に肌守り用または霊牌用に限り『非売品』として複製し、これを信徒に交付することに同意するものである。且つ原告事業団及び被告教文社はこれに対して自己の所有にかかる著作権又は出版権を主張せず、何らの異議の申立をもなさざるものとする。」
イ 被告生長の家は、本件覚書に係る合意に基づき、昭和34年頃から、奉納金(1部500円〜700円程度)を奉納した者に対し、肌守り用等として本件著作物2の複製物である被告書籍2を贈呈するという形で頒布していた。本件覚書には対価の定めはなく、被告生長の家は、原告事業団に対し、被告書籍2の複製の使用料等は支払っていなかった。(甲9、13の1から7、45、検乙ロ1〜4)
ウ 被告生長の家は、別件訴訟1の第1審判決後である平成23年7月頃、社団法人「生長の家ブラジル伝道本部」等に対し、4先生(判決注:亡A及び相続人ら)の著作物の著作権は被告生長の家に移転され、著作権者として被告生長の家が印税の取扱いに対する決定を行うことになったため、従前は印税基金として積み立てていた上記社団法人における4先生の著書の翻訳・出版に係る印税について、平成24年1月以降の分を被告生長の家に納めるよう申し入れた。この申入れには、対象となる著作物を「4先生の著書」と特定しており、原告事業団に著作権が帰属する著作物を除外することを示唆する記載はない。(甲47、48)
エ 原告事業団は、平成24年1月4日、被告生長の家に対し、@ 原告事業団が同年4月以降公益社団法人に移行するに当たり、本件覚書による無償使用許諾を継続するのは公益性に反すること、A 別件訴訟1の第2事件の提訴等により原告事業団と被告生長の家の間の信頼関係が破壊されたことなどを理由に、同年3月31日限り本件覚書による許諾を終了する旨通知した(本件解約通知)。(甲11、12)
(2) 前記2(1)及び上記(1)の認定事実を前提に、本件覚書に係る合意が本件解約通知により終了したかを判断する。
ア まず、本件覚書に係る合意の性質についてみるに、本件覚書には、著作権者である原告事業団が被告生長の家による本件著作物2の複製及び交付に同意する旨が記載され、期間及び対価の定めはないから、本件覚書に係る合意は、原告事業団が被告生長の家に対し、本件著作物2を一定の条件の下で複製し、頒布することを期間の定めなく無償で許諾したものであると解するのが相当である。
 これに対し、被告生長の家は、@ 本件覚書には原告事業団が著作権を主張しないとの記載があり、永久的な権利不行使の合意であること、A 肌守り用等である被告書籍2からは創作的表現を感得できず、その複製頒布は著作物としての使用ではないから、解約により原告事業団の著作物の使用の機会を確保する必要性がないことを理由に、本件覚書に係る合意は解約を許さない合意であると主張する。
 しかし、@について、著作権の使用を許諾する場合に著作権を主張しないのは当然であるから、その旨の記載があるからといって永久的な権利不行使の合意であるとは読み取れないし、Aについて、肌守り用等であっても文字の大きさからして記載内容を判読することは可能であるから(甲10、検乙ロ1〜4)、その複製頒布は本件著作物2の使用にほかならず、被告生長の家の主張は前提を欠く。したがって、被告生長の家の主張はいずれも採用できない。
イ 上記アのとおり、本件覚書に係る合意は期間の定めのない無償の許諾であるが、本件覚書は、財団法人である原告事業団と宗教法人である被告生長の家の間の「生長の家」の伝道のための宗教的な協力関係の下に、宗教法人である被告生長の家が肌守り用等として本件著作物2の複製物を信徒に頒布するため作成されたものであるから、本件覚書に係る合意を解約するには、当事者間の信頼関係が破壊されたことなど正当な理由が必要であると解される。
 そこで、原告事業団の解約に正当な理由があるかをみるに、前記認定事実によれば、@ 被告生長の家が、原告事業団に対し、頭注版及び「生命の實相〈愛蔵版〉」以外の本件著作物1の著作権を亡Aの相続人から取得したとの独自の見解を前提に別件訴訟1の第2事件の訴えを提起したこと、A 別件訴訟1の第1審判決において@の見解が退けられた後にも、同様の見解を前提として社団法人「生長の家ブラジル伝道本部」に対し亡Aの著作物に関する印税を支払うよう申入れをしたことなど、原告事業団と被告生長の家の間の紛争の内容や経過に照らせば、原告事業団と被告生長の家の間の信頼関係は破壊されたものというべきであり、原告事業団の解約には正当な理由があるものと認められる。
 これに対し、被告生長の家は前記第2の2(3)(被告生長の家の主張)イのとおり正当な理由がない旨主張するが、以上に説示したことに照らし、これを採用することはできない。
 以上によれば、本件覚書に係る合意は本件解約通知によって終了したと判断するのが相当である。
(3) したがって、被告書籍2の出版は原告事業団の著作権(複製権、譲渡権)を侵害するものであるから、原告事業団の被告生長の家に対する差止請求は理由がある。
4 原告光明思想社の出版権の有無(争点(4))について
(1) 被告教文社に対する請求に関し
ア 原告光明思想社は、原告事業団は本件著作物1の著作権を有しているから被告書籍1の著作権を有していると主張する。
 しかし、前記2(2)ア説示のとおり、被告書籍1は本件寄附行為の後に編纂された本件著作物1とは別の編集著作物であり、原告事業団が本件著作物1の著作権を有することから直ちに被告書籍1の編集著作権を取得したとは認められず、ほかに、原告事業団が被告書籍1の編集著作権を取得したことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、原告事業団には被告書籍1について出版権を設定する権原を欠くから、原告光明思想社が上記出版権を取得したとは認められない。
イ 以上によれば、原告光明思想社の被告教文社に対する各請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。
(2) 被告生長の家に対する請求に関し
ア 前記前提事実、証拠(甲6、10、60、61)及び弁論の全趣旨によれば、原告事業団は、本件著作物2に係る著作権を保有し、平成25年8月8日、原告光明思想社に対し、書籍「御守護 甘露の法雨」について3年間の期間を定めて出版権の設定をしたこと、この書籍の内容は被告書籍2とほぼ同一であることが認められる。
イ したがって、被告生長の家による被告書籍2の出版は、原告光明思想社の出版権を侵害するものと認められる。
5 原告光明思想社による出版権行使についての権利の濫用等の成否(争点(5))について
(1) 上記4(2)のとおり、被告生長の家は原告光明思想社の出版権を侵害しているから、原告光明思想社の被告生長の家に対する出版権行使が権利の濫用に当たるかが問題となる。
(2) そこで検討するに、前記前提事実、上記3(1)及び4(2)アに認定した事実並びに弁論の全趣旨によれば、被告生長の家は本件覚書に係る合意に基づいて被告書籍2を出版していたが、同合意は平成24年3月31日をもって終了したこと、原告光明思想社は平成25年8月8日に「御守護 甘露の法雨」の出版権を取得したことが認められる。そうすると、原告光明思想社は本件覚書に係る合意の解約後の第三者であり、Bの認識を問わず原告光明思想社が背信的悪意者には当たらないことは明らかである。
 この点をおくとしても、本件の関係証拠上、Bが原告光明思想社の代表者として被告生長の家に対する害意をもって出版権の設定を受けたことなど原告光明思想社の出版権の行使が権利の濫用や信義則違反に当たると解すべき事情は認められない。
(3) 以上によれば、原告光明思想社の被告生長の家に対する差止請求は理由がある。
6 損害額(争点(6))について
(1) 以上のとおり、被告教文社による被告書籍1の出版は原告事業団の著作権を侵害する不法行為に、被告生長の家による被告書籍2の出版は原告事業団の著作権及び原告光明思想社の出版権を侵害する不法行為に当たる。
 原告らは上記各不法行為により本件訴訟を提起することを余儀なくされたものと認められ、上記各不法行為の内容、本件訴訟の経過等に照らせば、上記各不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額はそれぞれ20万円が相当である。
 なお、被告教文社による被告書籍1の出版は、本件許諾が終了した平成26年7月24日以降違法となるものと解される。
(2) したがって、原告事業団の被告教文社に対する損害賠償請求は20万円及びこれに対する平成26年7月24日から支払済みまで、原告らの被告生長の家に対する損害賠償請求は各20万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年11月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
第4 結論
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 長谷川浩二
 裁判官 清野正彦
 裁判官 橋 彩


(別紙)書籍目録
1 発行所 株式会社日本教文社
  題号「生命の教育」
  著者 A
2 発行所 生長の家
  題号「聖経 甘露の法雨」
  著者 A
  折本型経本であり書籍本体の大きさは縦約7p×横約3p×厚さ約0.5p

(別紙)著作物目録
1 生命の實相
2 聖経 甘露の法雨
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/