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【事件名】販促物「美術額絵シリーズ」事件
【年月日】平成27年2月26日
 東京地裁 平成25年(ワ)第32114号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論の終結の日 平成27年1月20日)

判決
原告 甲
同訴訟代理人弁護士 緒方延泰
同 飯野毅一
同 矢野雅裕
被告 乙
被告 株式会社ケイ・アソシエイツ
被告ら訴訟代理人弁護士 鈴木醇一


主文
1 被告らは、原告に対し、連帯して1008万円及びうち84万円に対する平成15年1月31日から、うち84万円に対する同年2月28日から、うち84万円に対する同年3月31日から、うち84万円に対する同年4月30日から、うち84万円に対する同年5月31日から、うち84万円に対する同年6月30日から、うち84万円に対する同年7月31日から、うち84万円に対する同年8月31日から、うち84万円に対する同年9月30日から、うち84万円に対する同年10月31日から、うち84万円に対する同年11月30日から、うち84万円に対する同年12月31日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを5分し、その1を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告らは、原告に対し、連帯して1260万円及びこれに対する平成14年8月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、別紙記載の亡A(以下「亡A」という。)の作品24点(以下、一括して「本件作品」という。)に係る著作権(以下「本件著作権」という。)の共有者である原告が、被告らにおいて原告に無断で本件作品の複製を他人に許諾したことにより、原告は本件著作権の2分の1の共有持分権を侵害されて損害を被ったと主張して、被告らに対し、民法719条1項に基づく損害賠償金1260万円及びこれに対する不法行為の日である平成14年8月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
1 前提事実(証拠等を掲記しない事実は、当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告は、亡Aとその妻亡B夫婦の長男亡Cの妻である。
イ 被告乙(以下「被告乙」という。)は、亡Aと亡B夫婦の次男である。
ウ 被告株式会社ケイ・アソシエイツ(以下「被告会社」という。)は、広告制作、企画、デザイン等を営む株式会社である。被告乙は、平成15年3月6日まで被告会社の取締役を務めていた。
(甲14)
エ 財団法人D(以下「D」という。)は、昭和48年12月24日、亡Aの芸業作品を保存し、美術文化の発展に寄与することを目的として設立された。被告乙は、設立時からDの理事であり、平成14年頃以降は理事長を務めていた。
(甲2、3、乙1、2、5、11の2、12)
(2) 本件著作権の相続等
ア 亡Aは、昭和50年9月13日に死亡した。
 亡Bは、亡Aの著作物である全作品(本件作品を含む。)の著作権(以下「全作品の著作権」という。)を、遺産分割により単独で取得した。
イ 亡Bは、平成7年11月28日に死亡した。
 亡Bの相続人間において、平成8年7月9日、亡Cと被告乙が全作品の著作権の各2分の1の共有持分権を取得する旨の遺産分割協議が成立した。
ウ 亡Cは、平成10年5月13日に死亡した。
 亡Cの相続人間において、平成11年1月29日、原告が全作品の著作権の2分の1の共有持分権を単独で取得する旨の遺産分割協議が成立した。
(甲12)
エ 原告、その長男E(以下「E」という。)及び被告乙は、平成22年8月31日、全作品の著作権等の管理について合意書(以下「本件管理合意書」という。)を作成して、上記管理についての合意(以下「本件管理合意」という。)をした。
(乙14の2)
(3) 本件作品の複製等
ア 被告会社は、平成14年8月7日、凸版印刷株式会社(以下「凸版印刷」という。)との間で、株式会社読売新聞社(以下「読売新聞社」という。)が発行し凸版印刷が製作する販促物「美術額絵シリーズ」(以下「本件製作物」という。)に亡Aの著作物である本件作品を使用するに当たり、覚書(甲1。以下「本件覚書」という。)を作成しの内容を含む契約(以下「本件許諾契約」という。)を締結した。
(ア) 被告会社は、凸版印刷に対し、本件製作物及びその宣伝物(以下「本件製作物等」という。)に本件作品を使用することを許諾する(1条1項。以下、同項による利用許諾を「本件許諾」という。)。
(イ) 被告会社は、本件作品の写真原稿(以下「本件原稿」という。)を準備し、凸版印刷に交付する(2条1項)。
(ウ) 凸版印刷は、被告会社に対し、本件作品の使用の対価(以下「本件対価」という。)を支払う。ただし、本件対価には本件作品の解説及び本件製作物等の監修も含むものとし、その詳細は別途定める(3条)。
イ 被告会社は、平成14年頃、本件作品について本件原稿を作成して凸版印刷に交付し、凸版印刷は、その後、本件許諾に基づき、本件原稿を用いて本件製作物を製作した。
 本件製作物は、B4版用紙の表全面に本件作品のうちの1点が掲載され、裏面に作品の題名と、被告会社の取締役であったFによる当該作品の数百字程度の解説が掲載されたもの全24枚からなる。
(甲8、9、10、14、15、弁論の全趣旨)
ウ 凸版印刷は、被告会社に対し、本件対価として、平成14年12月30日までに合計2520万円を支払い、被告会社は、同日、Dに630万円を支払った。
エ 読売新聞社は、平成15年1月から12月までの間、本件製作物を読売新聞額絵シリーズ「Aの宇宙(せかい)」として発行し、これを読者等に毎月2点ずつ封筒(以下「配布用封筒」という。)に入れて無料で全国に多数配布した。
(甲8、9、10、15、弁論の全趣旨)
2 争点
(1) 原告が有する本件著作権の共有持分割合(争点1)
(2) 被告らによる不法行為の成否(争点2)
(3) 原告の損害額(争点3)
(4) 消滅時効完成の有無(争点4)
(5) 本件管理合意による原告の損害賠償請求権の消滅の有無(争点5)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(原告が有する本件著作権の共有持分割合)について
(原告の主張)
 本件著作権を含む全作品の著作権については、亡Bがその全てを相続により取得し、亡Cがその2分の1を相続により取得し、原告が亡Cの取得分の全てを相続により取得したから、原告は、本件著作権の2分の1の共有持分権を有する。
(被告らの主張)
 亡Bは、亡Aの死後、全作品の著作権を取得したが、亡BとDが株式会社講談社(以下「講談社」という。)との間でそれぞれ締結した昭和52年11月30日付け出版契約書(乙8の1及び2)においては、講談社が著作権使用料を亡Bに対して10分の3、Dに対して10分の7の割合で支払うものとされているから、亡Bは、上記契約書作成までの間にDに全作品の著作権の10分の7の共有持分権を譲渡していた。したがって、亡Cと被告乙が亡Bの遺産分割により取得した全作品の著作権の共有持分割合は、10分の1.5ずつである。
(2) 争点2(被告らによる不法行為の成否)について
(原告の主張)
 被告会社は、原告が本件著作権の共有者であることを容易に知り得たのに、その調査、確認を怠り、凸版印刷との間で本件許諾契約を締結して同社に本件作品の複製物である本件製作物を製作させ(以下、凸版印刷による上記複製行為を「本件複製行為」という。)、原告の本件著作権の共有持分権を侵害した。被告乙は、Dが本件著作権を有せず、本件著作権は原告と被告乙との共有であることを知りながら、あえて被告会社が本件許諾契約を締結することを承諾し、凸版印刷に本件複製行為を行わせた。被告らによるこれらの行為は、共同不法行為を構成する。
(被告らの主張)
 被告乙及びDは、本件覚書の作成に関わっておらず、本件許諾契約とは無関係であり、原告の共有持分権を侵害する行為に一切関与していない。
 凸版印刷は、平成14年初め頃、Dに対し、亡A作品を使用したい旨の申入れをしたが、Dの館長を務めていた被告乙は、当時、日本国内や米国内で開催が予定されていた「A生誕百年記念展」(以下「百年記念展」という。)の準備による多忙等を理由に難色を示した。そこで、被告会社は、亡Aの著作物について利用の許諾をし得る者として凸版印刷との間の一切を取り仕切り、Dは関与させないが、百年記念展のための費用に充てるためにDに著作権料相当額を支払うこととして、本件覚書を締結したのである。
(3) 争点3(原告の損害額)について
(原告の主張)
 被告会社は本件許諾の対価として凸版印刷から2520万円の支払を受けたところ、原告は本件著作権の2分の1の共有持分権を有するから、被告らが侵害の行為により得た利益の額(著作権法114条2項)及び著作権の行使につき受けるべき金銭の額(同条3項)は、いずれも2520万円の半額である1260万円を下らない。
 なお、上記2520万円に監修料等が含まれるとしても、監修等の対価は、本件著作権利用の対価の15%である328万円が相当であり、高くとも2520万円の18%である453万円を超えることはない。
(被告らの主張)
 本件作品の利用許諾料は630万円である。
 被告会社は、@本件作品24点の選定、A選定した24点の各月への割り振り、配列、B色調の調整、C本件作品の解説の作成、D本件作品のレイアウト、デザイン、E配布用封筒のデザイン、F本件原稿のデータ作成、G配布用封筒の印刷用データ作成を行った(以下、これらを一括して「本件作業」という。)。被告会社は、凸版印刷との間で、本件作業の対価を作品1点につき100万円(消費税抜き)とすることに合意し、同社から合計2400万円(消費税込みで2520万円)の支払を受けた。そして、著作権の利用許諾料は、通常は作業対価の5%ないし10%であるが、Dが百年記念展等のために要した多額の費用を補うため、その25%に当たる600万円(消費税込みで630万円)を支払ったのである。
(4) 争点4(消滅時効完成の有無)について
(被告らの主張)
 本件製作物は、亡Aの生誕百年記念として平成15年1月から同年12月までの間に配布されたものであるが、原告は、平成14年7月から平成15年3月までフィラデルフィア美術館及びロサンゼルス郡美術館での百年記念展に赴いていたことからして、本件製作物が配布されたことを当然知っていたから、直ちに調査に着手すれば著作権侵害者とその損害のあらましを知り得たはずである。したがって、遅くとも本件製作物の配布が終了した同年12月末日から起算して3年の経過により、原告の損害賠償請求権の消滅時効は完成した。
 また、原告訴訟代理人は、平成21年11月25日には、本件著作権に係る原告の共有持分権を侵害した加害者が被告会社、凸版印刷及び読売新聞社などであることを知り、少し調査をすれば損害の詳細も知り得たから、同日から起算して3年の経過により、原告の損害賠償請求権の消滅時効は完成した。
被告らは、上記消滅時効を援用する。
(原告の主張)
 原告は、平成23年1月24日に凸版印刷から情報開示を受けて初めて、被告会社が凸版印刷に本件許諾をしたことなどを知り、その頃、本件作品が具体的に何であったかを知ったのであるから、被告らに対する損害賠償請求権の消滅時効は完成していない。
(5) 争点5(本件管理合意による原告の損害賠償請求権の消滅の有無)について
(被告乙の主張)
 原告は、被告乙との間で作成した本件管理合意書により、従前からの両者間における本件著作権に関する紛議を全て棚上げし、Eを著作権管理者とし、同人を通じてしか本件著作権を利用することができない旨の本件管理合意をしたから、たとえ原告の被告乙に対する損害賠償請求権が存在したとしても、これは本件管理合意の成立により消滅した。
(原告の主張)
 本件管理合意書は、原告の被告乙に対する損害賠償請求権の帰趨について何ら定めていない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告が有する本件著作権の共有持分割合)について
 前記前提事実によれば、全作品の著作権は、亡Bが亡Aから相続によりその全てを取得し、亡Cと被告乙が亡Bから相続により各2分の1ずつの共有持分権を取得し、原告が亡Cの取得分の全てを相続により取得したというのであるから、原告は、本件作品を含む全作品の著作権の2分の1の共有持分権を有することが認められる。
 被告らは、亡BがDに全作品の著作権の10分の7を譲渡したから、原告が有する全作品の著作権の共有持分割合は10分の1.5に過ぎない旨主張する。証拠(乙8の1及び2)によれば、「A全集全12巻」を出版するに当たり、D及び亡Bと講談社との間でそれぞれ昭和52年11月30日に作成された出版契約書においては、D及び亡Bがそれぞれ著作権者と記載され、講談社が著作権使用料としてDに対し定価の5.5%に10分の7を乗じた金額を支払い、亡Bに対し定価の5.5%に10分の3を乗じた金額を支払うものとされていることが認められるが、亡BがDに対し全作品の著作権の10分の7の共有持分権を譲渡したことを証する契約書等の存在は証拠上窺われず、かえって、証拠(乙9の1及び2、10)によれば、Dが上記各出版契約書の作成後にも亡B(ないしその相続人である亡C及び被告乙)のみが全作品の著作権者であり自らは全作品の著作権者ではないことを前提として行動していたことが認められることからすれば、上記各出版契約書の記載をもって亡BからDへの上記持分権譲渡の事実を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがって、被告らの上記主張は採用することができない。
2 争点2(被告らによる不法行為の成否)について
 前記前提事実によれば、被告会社は、平成14年8月7日に凸版印刷との間で本件許諾契約を締結して、同社に対して本件製作物等に本件作品を使用することを許諾する本件許諾をし、同社は本件許諾に基づいて本件複製行為をしたことが認められる。前記1認定の事実によれば、本件作品の著作権について、原告と被告乙がそれぞれ2分の1の共有持分権を有しているのであるから、その行使は原告と被告乙の合意によることを要するところ(著作権法65条2項)、本件許諾に関してかかる合意がされたことを認めるに足りる証拠はないから、被告会社が本件許諾を行う権原を有していたとはいえず、これに基づく本件複製行為により原告の本件著作権の共有持分権が侵害されたと認められる。そして、他人が著作権を有する著作物について利用許諾をする場合、誰が著作権者であるかを十分に調査すべきであるところ、証拠(甲2、3、14)によれば、本件作品の著作権が原告と被告乙との共有であることは、被告乙が当時被告会社の取締役を務めていたことからしても、これを容易に知り得たといえるのに、被告会社はDがこの件を掌握しているなどと軽信して本件許諾をしたと認められるから、被告会社には、凸版印刷に本件複製行為をさせたことについて過失がある。
 また、前記前提事実に加え、証拠(乙12)及び弁論の全趣旨によれば、Dの理事長を務めていた被告乙は、本件作品の著作権が原告と被告乙との共有であることを認識しながら、原告に同意を得ることなく、被告会社が凸版印刷との間で本件許諾契約締結を締結することを承諾し、Dは、平成14年12月30日に被告会社から「作品使用料及び監修料」として630万円の支払を受けたことが認められるから、被告乙にも、本件複製行為をさせたことについて少なくとも過失がある。被告らは、被告乙は本件許諾契約とは無関係であるなどと主張するが、被告乙が本件許諾契約を締結した被告会社の取締役であったことや、同人が本件許諾契約の締結を承諾しこれに基づく金員を受領したDの理事長を当時務めていたことからして、被告らの上記主張は採用することができない。
 したがって、被告らには、原告に対する共同不法行為が成立する。
3 争点3(原告の損害額)について
(1) 前記前提事実によれば、被告会社は本件許諾の対価として凸版印刷から本件対価として2520万円の支払を受け、これには本件作品の解説及び本件製作物等の監修の代金(以下「解説・監修料」という。)も含まれることが認められるが、凸版印刷が解説・監修料として被告会社にいくら支払ったのかについては、本件全証拠によっても必ずしも判然としない。
 しかしながら、前記前提事実、証拠(甲13)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件製作物の表全面には本件作品の1点が掲載され、裏面には解説が掲載されていたこと、亡Aは著名な芸術家であり、その作品には高い価値があると考えられるが、上記解説は、本件作品1点につき数百字程度のものであったこと、本件製作物は読売新聞社の販促物として多数製作されて全国に配布されたものであること、原被告間で、従前、亡A作品の著作権利用料等として一括払いされた330万円について、270万円(約82%)を著作権利用料とし、60万円(約18%)を監修料とすることに合意した例があったことが認められるから、これらの事情に照らすと、本件対価のうち、本件作品の利用の対価(すなわち、本件作品の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額)が占める割合は、80%と認めるのが相当である。
 そうすると、原告の共有持分に応じた本件複製行為に係る損害額は、1008万円(=2520万円×0.8×0.5)と認められる。
 なお、被告らが本件複製行為により受けた利益の額が上記金額を超えると認めるに足りる証拠はない。
(2) 被告らは、被告会社が本件許諾契約において凸版印刷との間で本件作業の対価を本件作品1点当たり100万円と合意し、その25%である合計600万円(消費税込みで630万円)を利用許諾料としてDに支払ったから、本件作品の利用の対価は630万円である旨主張するところ、Dが被告会社から「作品使用料及び監修料」として630万円の支払を受けたと認められることは前記2認定のとおりである。しかしながら、本件対価は本件許諾契約上「本件作品の使用の対価」とされていること、本件作業に要した費用の額を認め得る的確な証拠がないこと、被告会社からDへの630万円の支払は共同不法行為者間での金員のやり取りに過ぎないことからすると、被告らが主張する上記の点を考慮しても前記認定は覆らず、他にこれを覆すに足りる証拠はないから、被告らの上記主張は採用することができない。
(3) なお、不法行為に基づく損害賠償債務は、なんらの催告を要することなく、損害の発生と同時に遅滞に陥るものと解すべきところ(最高裁昭和37年9月4日第三小法廷判決・民集23巻2号441頁参照)、本件における原告主張の損害の発生時期は、原告が主張する平成14年8月7日(本件許諾契約の締結日)ではなく、凸版印刷による本件複製行為がされた時というべきである。そして、本件複製行為がされた時期は必ずしも判然としないが、本件複製物が平成15年1月から12月までの間、毎月2点ずつ配布されたことからすると、遅くとも上記期間の各月末日までには本件作品のうち2点ずつの複製がされていたと解されるから、前記損害額を12分した金額(各月84万円)につき、各月末日から遅延損害金が発生すると認めるのが相当である。
4 争点4(消滅時効完成の有無)について
(1) 被告らは、本件製作物が平成15年に配布された当時から原告は配布の事実を知っていたと主張するが、このことを認めるに足りる証拠はないから、これを前提とする被告らの消滅時効完成の主張は理由がない。
(2) 被告らは、原告訴訟代理人が平成21年11月25日に本件複製行為の加害者を知り、少し調査すれば損害の詳細も知り得たと主張する。
 証拠(甲6、乙12)及び弁論の全趣旨によれば、原告訴訟代理人が、読売新聞社が亡Aの作品の複製物の配布をしたとの情報を得て行った問合せに対し、被告ら訴訟代理人が平成21年11月24日付けの書面により、どのような複製品であったかは分からないが、これに関し被告会社がDに630万円と40万円を支払ったという内容の回答をした事実は認められるが、上記回答によっても、誰がどの作品を複製したのかという本件複製行為に係る具体的な事実は明らかとならないから、これにより原告訴訟代理人が本件複製行為の加害者を知ったとは認められず、他に原告訴訟代理人や原告がその当時に上記事実を知ったことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、この点に係る被告らの消滅時効完成の主張も理由がない。
5 争点5(本件管理合意による原告の損害賠償請求権の消滅の有無)について
 被告乙は、原告の被告乙に対する損害賠償請求権は本件管理合意の成立により消滅したと主張するが、証拠(乙14の2)によれば、本件管理合意は、被告乙と原告が、これを作成した平成22年8月31日以後における全作品の著作権の共有持分の管理等の一切をEに委託するもの(2条1項)に過ぎないと認められ、それ以前に生じた損害賠償請求権の帰趨について何らかの取決めをしたものとは認められないから、被告乙の上記主張は理由がない。
6 結論
 以上の次第であるから、原告の請求は、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償金1008万円及びうち84万円に対する平成15年1月31日から、うち84万円に対する同年2月28日から、うち84万円に対する同年3月31日から、うち84万円に対する同年4月30日から、うち84万円に対する同年5月31日から、うち84万円に対する同年6月30日から、うち84万円に対する同年7月31日から、うち84万円に対する同年8月31日から、うち84万円に対する同年9月30日から、うち84万円に対する同年10月31日から、うち84万円に対する同年11月30日から、うち84万円に対する同年12月31日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。
 よって、上記の限度で原告の請求を認容し、その余は失当であるからいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 沖中康人
 裁判官 三井大有
 裁判官 宇野遥子


<別紙の添付は省略する。>
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