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【事件名】“隠れ家的バー”口コミサイト掲載事件
【年月日】平成27年2月23日
 大阪地裁 平成25年(ワ)第13183号 損害賠償請求事件

判決


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、330万円及びこれに対する平成25年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告に対し、Aと題するウェブサイト(http://xxx.com/)からB (住所:大阪市西区a町b丁目c−d)に関する掲載情報の全て(http://xxx.com/osaka/以下省略する。)を削除せよ。
第2 事案の概要
1 本件は、Bという名称の飲食店(以下「本件店舗」という。)を経営する原告が、本件店舗に関する店舗情報・写真・口コミ等(以下「店舗情報等」という。)を掲載したウェブサイトAを運営する被告に対し、同店舗情報等の抹消を求めたのに、被告がこれに応じないことから、営業権及び情報コントロール権を違法に侵害されたとして、原告が、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償330万円及びこれに対する不法行為の日である平成25年10月1日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、人格権(営業権及び情報コントロール権)に基づく侵害行為の差止めとして、店舗情報等の削除を求めた事案である。
2 争いのない事実等(証拠により認定した事実は末尾に証拠を示す。)
(1)ア 原告は、大阪市西区において本件店舗ほか数店舗の飲食店を経営する有限会社である。
イ 被告は、広告宣伝の情報媒体の販売等を業とし、口コミグルメサイトAを開設し、これを管理運営する株式会社である。
(2) Aに会員登録した一般ユーザー(以下「ユーザー会員」という。)は、平成24年11月1日、Aに本件店舗を新規登録し、本件店舗の名称、住所、電話番号等の基本情報を掲載した(乙51)。ユーザー会員は、同月2日、本件店舗の口コミ及び写真を投稿した(甲7)。
(3) 原告は、被告に対し、平成25年9月30日、本件店舗に関する店舗情報等を削除するよう要求した。ところが、被告は、これに応じなかった。
3 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 被告は、原告から店舗情報等の削除を求める旨の申出があった場合に、これに応じるべき義務があるといえるか。被告が応じないことが違法であるといえるか。
(原告の主張)
 原告は、本件店舗について、立地、外観、店名、内装、入店方法等により、また、本件店舗の情報をいかなる範囲、いかなる方法で公開するかについて慎重な検討と経営判断に基づき公開することにより、秘密性を保持することで価値を創出してきた。ところが、Aは月間5000万のユーザーアクセス数を誇る国内最大の飲食店検索サイトであるから、これに掲載されると、いつでもどこでも誰でも即時かつ容易に本件店舗の情報、外観、内装等の情報をインターネット上で確認できることになり、原告の経営戦略に基づく本件店舗の価値が阻害される。
 被告は、原告の事前承諾を得ることなく無断で本件店舗の店舗情報をAに掲載する情報環境を提供し、これによって収益を上げているのであるから、原告から、Aへの掲載が本件店舗の営業戦略を阻害するとして店舗情報等の削除を求められた場合には、削除権限を有するAの管理運営者として、原告の営業権若しくは業務遂行権又は情報コントロール権を侵害しないよう、直ちに削除に応じる条理上の作為義務を負っている。
 ところが、被告は、原告からの削除要請に対し、応じなかったのであるから、作為義務違反であり、違法であるから、損害賠償義務を負うし、本件店舗の店舗情報等を削除すべき義務を負う。
(被告の主張)
 否認ないし争う。
ア 一般消費者を対象として営業する飲食店は、不特定多数の顧客に対して飲食物を提供するという性質上、その飲食店の名称、所在地、電話番号、営業時間などの情報に加え、その外観及び内装の情報についても一般的に自ら公開しており、これらの情報を第三者に利用されない利益が法的に保護される利益に該当しないから、営業権侵害又は自己情報コントロール権の侵害とはならない。
イ 原告は、自ら運営するウェブサイト(乙1の1ないし5)、ブログ(乙2)及びFacebook(乙3の1及び2。以下「フェイスブック」という。)において、本件店舗の写真、内装の見取り図、メニュー、所在地・電話番号・営業時間を開示し、積極的に本件店舗の写真を公開するなど、店舗情報を公開しているのであるから、Aで本件店舗の店舗情報等を掲載することが業務遂行の権利侵害にならない。
ウ 自己情報コントロール権は、本件店舗の店舗情報、外観、内装等の情報をインターネット上に掲載されない権利をいうものと解されるが、自己情報コントロール権は、未だこれが認められる範囲、権利の内容等について不確定な要素が多く、これを直ちに憲法13条に基づく権利として認めることは困難である。一般に秘匿性の高い個人情報に関する自己情報コントロール権でさえ裁判例でこれを認めることについては消極的であるのに、店舗情報という一般的に公開されている情報についてこれをコントロールする権利が認められることはない。
エ 差止め請求権の根拠となるのは、物権又はこれに準ずる権利、人格権等の絶対権、不正競争防止法、独占禁止法といった特別規定に基づく請求権、利用差止めを権利の本質とする知的財産権の他は、一定の不作為を目的とした契約に基づく請求権であり、営業権や業務遂行権に基づく差止めは認められないか、認められるとしても、業務遂行を阻害する行為であることが明らかであり、その態様が著しく相当性を欠いているような場合に限定される。ところが、本件では、これに該当しないことは明らかであるから、差止めは認められない。
(2) 原告における損害の発生及びその金額
(原告の主張)
 法人である原告にも名誉その他人格的諸利益があるから、法人が第三者の不法行為によって損害を被った場合には、金銭的評価可能なものである以上、その損害賠償が認められるべきであるところ、原告は、被告が本件店舗の店舗情報等を削除しないため、無形の損害を被ったものであり、その性質上財産上の評価が困難であるが、民事訴訟法248条を適用すべきである。
 被告の行為は、原告における本件店舗の根幹的営業戦略を無用のものとならしめる重大なものであり、Aのユーザーアクセス数が月間5000万を超え、削除義務に違反して放置された期間が長期にわたること等を踏まえると、被告の不法行為によって原告が被った損害は300万円を下回ることはない。
 また、原告は、同損害回復に要する弁護士費用として同損害の1割に当たる弁護士費用30万円の損害も被った。
 よって、被告は原告に対し、330万円の損害賠償債務を負う。
(被告の主張)
 否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 前記争いのない事実等に加え、証拠(各掲記のほか、甲26、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実を認めることができる。
(1) 本件店舗について
ア 原告は、平成22年6月、大阪市西区の繁華街ではない場所に本件店舗を開店した。本件店舗は、店先に一切看板を設置せず、入口には鉄扉がある。来店者は、インターホンを鳴らし、解錠を求めて、店員が開錠し、建物内に入ることができる。鉄扉の中に入っても、そこに本件店舗はなく、狭い階段があるのみで、その階段を上がった2階の扉には「DO NOT DISTURB」(邪魔するな、あるいは開けるなの意味である。)の札が多数掲げられている。
 2階の扉を開けると、30坪ほどの店舗であり、広くきれいなバーラウンジがあり、バーカウンターの他、座敷やソファ席等が広く設けられ、カラオケができる個室もある。このように、本件店舗は、秘密性のある隠れ家としての演出がされている。
 本件店舗には、「当店は会員制のプライベートラウンジにつき、A等、口コミサイトへのご投稿はご遠慮くださいますようお願い申し上げます」と記載したプレートを掲示し、本件店舗の店舗情報をA等の口コミサイト等に投稿することを禁止する旨の告示を行っている(甲4の1ないし11)。
イ 原告は、本件店舗を開店する数年前から、大阪市西区内にCという店舗を経営しており、この店舗については、開店以来、数多くのテレビ、雑誌等から取材を受け、宣伝も行っていたが、同店舗の常連客がゆっくりできる場所を提供する趣旨もあり本件店舗を開店することにした。原告は、本件店舗の改装費用として1000万円程度支出した。
 本件店舗の客は、Cの常連客やその紹介をされた者、本件店舗に来店した者に紹介された者がほとんどである。本件店舗のホームページや、店内の表示には、会員制との記載があるものの、会員制ではなく、顧客名簿もない。
ウ 原告は、本件店舗のホームページを作成し、インターネット上で公開している。同ホームページには、本件店舗の内部の写真、パーティープラン、ご予約・お問い合わせ先として電話番号が記載されている他、店内の見取り図、飲食のメニュー、本件店舗の住所、地図等が記載されている(乙1の1ないし5)。
 本件店舗については、ブログもあり、そこには、店内の写真が掲載されており、「隠れ家的空間のBARで特別なひとときを。店長の親しい友人のみ入店出来ます。Cのa町3号店。最大80名様までのパーティー承ります。」との記載がある(乙2)。
 本件店舗については、本件店舗のフェイスブックと店長のフェイスブックがあり、誰でも閲覧可能な設定となっている(乙3の1及び2、乙11)。本件店舗では、ツイッター(乙15)やミクシィ(乙16)も利用している。Cのホームページから、本件店舗のホームページに入ることができるようになっている(乙10)。
(2) Aについて
ア Aは、「ランキングと口コミで探せるグルメサイト」をキャッチフレーズとし、店舗で実際に食事をしたユーザーによる主観的な感想や評価(コメント)を写真等とともにインターネット上に公開することで、店舗選びの参考となる信頼できるレストランガイドとして活用されることを目的とするもので、日本全国の飲食店を無料でデータベース化し、店舗側からの情報だけでなく、店舗を利用した顧客の意見や感想を集め、共有していくものである。
 Aの特長としては、@今までのグルメサイトに載っていなかった「インターネット上で広告宣伝をしない美味しいお店」も検索できるように、日本全国の店舗を無料掲載によってデータベース化しており、平成25年11月現在全国約69万件のレストラン情報を掲載していること、AAに掲載されているお店には、全て、ユーザー会員から寄せられたお店の個人評価をもとに、そのユーザー会員の信頼度を加味した独自のロジックで算出された「5点満点の点数(格付け)」が付いていること、BAに投稿された口コミ数は350万件と日本最大であり、ポジティブな内容だけでなく、ネガティブな内容も掲載しているなど実際に食事をした人のリアルな口コミが掲載されていることが挙げられる(これについては「人の味覚や嗜好は千差万別。賛否両論があって当然なので、きちんと両方掲載していくことが口コミサイトとしての信頼性において重要なポイントであると考えています。」との記載もある。甲3の2)。
 顧客は、被告所定の手続により、ゲスト会員、レビュアー会員の登録手続をすることができ、口コミ投稿は、レビュアー会員登録をした者が行うことができる。口コミについては、ガイドラインを遵守しなければならず、レビュアー会員がAに口コミの投稿を行った時点で当該口コミの国内外における複製、公衆送信等著作権法上の権利をレビュアー会員が被告に対して無償で利用することを許諾したものとなるとされている(甲8)。
 被告は、Aの利用について、利用規約を定めているが(甲8)、同規約上、Aは、ユーザー会員からの自己責任に基づく口コミの投稿によって成り立っているが、ガイドラインに反するもの、公序良俗に反するもの、その他、Aの管理運営を妨げる等被告が不適切と判断したものについては、予告無く、当該口コミをAから削除する場合があり、削除対象に該当するか否かは、全て被告が判断するとされている。
イ 運営ポリシーとして、「Aは『お店選びで失敗したくない人のためのグルメサイト』をコンセプトとしております。Aに掲載しているランキングと口コミは一般ユーザー様の口コミ・評価で成り立っております。中立・公正な運営を厳守しておりますので、運営側で特定の飲食店の利益になるような操作等を行うことは一切ございません。」としている(甲3の2)。
 被告は、レストラン情報編集のガイドラインも作成しており、これによれば、レストラン情報もユーザー会員が編集するが、管理者側でメンテナンスをする項目もあり、特定のレストランについては編集不可能とする場合があるとされている(乙8)。
ウ Aの利用者情報としては、平成25年11月現在の月間総ページレビュー11億8312万PV、月間利用者数はパソコンが2548万人、スマートフォンが2448万人、フィーチャーフォンが168万人である(甲3の3)。
エ Aには店舗会員があり、登録、店舗ページの基本情報、写真、メニュー、最新情報の掲載、クーポンの提示等は無料で行うことができる(甲3の4)。店舗会員数は、平成26年2月現在9万9278店舗である。
オ 被告は、健全なコミュニティサイト運営のためのルールとして、口コミを投稿する際の遵守事項としてガイドラインを規定した。
 その内容は、@実際に食事をした内容を具体的に記述すること、A店舗に悪影響を及ぼす、かつ、内容の確認が困難な事象についての投稿は避けること(事実関係の確認が困難でかつ他のユーザーや店舗から「その内容は事実と異なる」という連絡があった口コミについては、A側で連絡を受けた内容をもとに確認し、本項に該当すると判断した場合には、当該口コミを削除する場合がある)、B衛生管理面のクレームは投稿を避けること、C店舗の法律違反、契約違反に関する内容はしかるべき当局又は関係者に連絡すること、D個人への誹謗中傷、店舗への断定的批判及び不適当な表現は禁止(口コミとして不適切な表現はA側から修正をお願いすることがある)、E店舗への個人的なクレームやトラブルに関する内容は避けること、Fトラブルがあった店舗への口コミは避けること(該当の口コミを削除することがある)、G法令に反する行為や犯罪行為等に結びつく口コミは禁止、Hプライバシーの侵害に配慮すること、I著作権等の知的財産権に配慮すること、J対価を目的とした口コミ投稿の禁止、K通常利用できない場合は「通常利用外口コミ」にチェックを入れること、L店舗関係者が関係店舗に口コミ投稿することは禁止(該当の口コミを発見した場合には削除するし、A側が店舗関係者からの口コミと判断した場合にも削除することがある)、M節度ある表現での投稿をすること(A側で不適切と判断した場合には、該当の口コミを削除する場合がある)、N原本保持のお願い(「口コミがガイドラインに違反する場合、投稿したユーザーへの予告なく削除する場合があります」)というものである。
カ 店舗掲載に関する方針について、「Aでは『店舗情報を一般公開しているお店を全て掲載』する方針で運営しております。ホームページ・ショップカード・雑誌・書籍・電話帳などで店舗情報を一般公開しているお店については、店舗様のご意向に関わらず、口コミが投稿される仕組みとなっておりますので、ご了承ください。万が一、店舗情報を完全非公開で営業されていて、かつ店舗情報非掲載をご依頼の場合は、ご連絡ください」としている(乙21)。
キ 被告は、ユーザー会員からの会員料、飲食店からの広告料及び他の企業からの広告料によって収益を上げている。
(3) Aへの本件店舗の店舗情報の掲載
 Aのユーザー会員は、平成24年11月1日、Aに本件店舗を新規登録し、本件店舗の名称、住所、電話番号、交通手段、営業時間、定休日等の基本情報を掲載した(乙51)。ユーザー会員は、同月2日、本件店舗の口コミ及び写真を投稿した。この口コミは「プライベートラウンジ」という題名で「本日、2軒目は、こちらのお店、プライベートラウンジで隠れ家過ぎましたので悩みましたがホームページがありましたので、レビューさせていただきました」から始まるものであった。店内の写真や料理、飲み物等の写真とこれに対するコメントもあった(甲7)。
 本件店舗がAに載ってから、紹介者がない顧客が本件店舗に入ってきて大騒ぎをしたり、くつろいでいる年配客に絡んで暴力事件に発展したケースもあった。
(4) 原告の被告に対する削除要求
 原告は、被告に対し、平成25年9月30日到達の同月27日付け通知書により、本件店舗は秘密基地、隠れ家として来店者の遊び心をくすぐることを企図し、他の飲食店との差別化を図ったサービスを展開しているのに、Aに掲載されることにより、この営業戦略及び本件店舗の価値・サービスが大きく損なわれるので、本件店舗情報等を削除するよう要求した(甲5の1ないし3)。
 ところが、被告は、原告に対し、同年10月7日、飲食店に係る情報の掲載に関し、一般的に公開されている情報を利用することや飲食店に関する感想を述べることは表現の自由の範囲内で適法であること、本件店舗に関する情報は、インターネット上だけでもホームページのほか、複数発信・公開されていることが確認できたので、本件店舗の店舗情報をA上に掲載する行為は適法であることとして、本件店舗の店舗情報をAから削除することには応じないと回答した(甲6)。
2 争点(1)(被告は、原告から店舗情報等の削除を求める旨の申出があった場合に、これに応じるべき義務があるといえるか。被告が応じないことが違法であるといえるか。)について
(1) 原告は、不法行為に基づく損害賠償及び人格権(営業権若しくは業務遂行権又は情報コントロール権)に基づく差止めを請求しているが、これらが認められるためには、被告において、原告から店舗情報等の削除を求める旨の申出があった場合に被告がこれに応じないことが違法と評価されることが必要となる。
 そして、違法と評価されるかどうかは、被侵害利益の種類と侵害行為の態様との相関関係で決せられるべきものである。本件で問題となる被侵害利益としては、原告の情報コントロール権又は営業権若しくは業務遂行権である。
(2)ア まず、情報コントロール権であるが、本件では、原告が本件店舗に関する店舗情報等を自由に取捨選択し、公開するものと公開しないものとを自らの意思で決定し、被告その他の者が決定することができないという権利又は利益を指すものと解される。
 このような権利又は利益は、自らの情報に関しては自らが支配するというものであるので、人格権に基づくものと解されるが、これが憲法13条で保障されるものであるかは検討の余地がある。
 そして、情報コントロール権といってもその権利又は利益の内容及び外延が明らかではないこと、個人の情報に関しては、私生活をみだりに公開されないといういわゆるプライバシーの権利が憲法13条に基づき保護されるものと認めることができるが、これも、私生活上の情報であればすべて公開されることが許されないものではなく、その情報内容に応じ、また、その侵害行為の態様により、保護の範囲は異なってくるものであることからして、情報コントロール権というものを、不法行為や差止めを認めるために保護されるべき権利又は利益として認めることは相当ではないと解する。
イ 次に、営業権又は業務遂行権であるが、営業の自由、職業活動の自由は、憲法22条1項の職業選択の自由に包摂されるものとして、保障されているものと解される。この権利の享有主体は、個人のみならず、法人においても認めることができる。したがって、原告は、自らの業務遂行のため、自己の情報に関し、公開するかどうかについて、選択する権利又は利益を有するものと考えられる。
(3) そこで、被告が、原告による店舗情報等の削除要求に応じないという行為の態様について検討する。
ア 前記1(4)認定のとおり、原告が、被告に対し、本件店舗の店舗情報等がAに掲載されることにより、隠れ家として情報管理をしていた原告の営業戦略及び本件店舗の価値・サービスが大きく損なわれるので、本件店舗情報等を削除するよう要求したのに対し、被告は、原告に対し、飲食店に係る情報のように一般的に公開されている情報を利用することや飲食店に関する感想を述べることは表現の自由の範囲内で適法であること、本件店舗に関する情報は、インターネット上だけでもホームページのほか、複数発信・公開されていることが確認できたとして本件店舗の店舗情報をAから削除することには応じないと回答したことを認めることができる。
イ 前記1(2)認定のように、Aは、被告ではなく、飲食店で実際に飲食をしたユーザー会員が、当該店舗に関する情報を、口コミとして、被告が設置するウェブ上に提供し、これを被告が管理し、多くの利用者が閲覧することにより、飲食店情報を提供するインターネットサイトであり、被告としては多くの閲覧がされることによる広告収入等を得ることができるというものであると認められる。口コミ等により情報を提供するのはユーザー会員であって被告ではないが、著作権を無料で被告が使用することが許されており、被告には、ガイドラインにより、自己の判断で口コミ等を削除する権限も有している。ただし、原告は、このような口コミやAのシステム自体について違法と主張するものではない。
 なお、前記1(2)カ認定のとおり、被告は、ホームページ・雑誌・書籍・電話帳などで店舗情報を一般公開している店舗全てを掲載する方針で運営しているが、店舗情報を完全非公開で営業し、かつ店舗情報非掲載を依頼された店舗については応じる方針であると解される。
ウ 前記1(1)認定のように、原告は、Cと異なり、本件店舗については、看板を設けず、顧客をCの常連客やその紹介者、本件店舗に訪れたことがある顧客やその紹介者に限定したり、マスコミ等の宣伝を行わず、秘密性のある隠れ家としての演出を行うなどの営業戦略を用いたことを認めることができる。そして、前記1(3)で認定したように、Aに本件店舗が掲載された後、原告が想定しないような客が本件店舗を訪問したこと自体は認めることができる。
エ 前記1(1)ウ認定のように、本件店舗の店名、住所、電話番号、地図、店内見取り図等は、原告自身がホームページで公開しているし、その他、ブログやツイッター等により、本件店舗の情報が公開されているものは多数認められる。
 以上によれば、被告の侵害行為の態様は、原告からの申入れに対し、店舗情報等が公開されているので応じなかったというものであり、被告は、その権限で削除をすることは可能であるものの、Aでは、当該店舗に批判的な評価も含め、管理者である被告の作為による情報操作をせず、ユーザーの情報をそのまま提供するサイトを設けるという方針で行っており、一般的に公開されている情報であれば掲載するという方針で原告の申し入れに応じなかったに過ぎないものであるから、被告が、原告からの申し入れに応じないことが違法と評価される程度に侵害行為の態様が悪質ということはできない。
 そうであれば、被告が口コミにより収入を得ていること、原告の承諾なく情報を掲載していることが認められるとしても、被告の行為が名誉毀損に該当したり、プライバシー侵害に該当したりしないような本件について、前記先行行為に基づく条理上の作為義務が発生すると認めることはできない。
(4) 以上によれば、被告が、原告の要求に応じなかったことが作為義務違反になることはなく、それが違法と評価することはできない。
3 よって、その余(争点(2))を検討するまでもなく、原告の請求は理由がない。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないので棄却することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第18民事部
 裁判長裁判官 佐藤哲治
 裁判官 諸岡慎介
 裁判官 中井裕美
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