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【事件名】CADソフトの違法コピー販売事件
【年月日】平成27年2月12日
 東京地裁 平成26年(ワ)第33433号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論の終結の日 平成27年1月27日)

判決
原告 株式会社建築ピボット
同訴訟代理人弁護士 野村吉太郎
被告 A


主文
1 被告は、原告に対し、558万6000円及びこれに対する平成26年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、1117万2000円及びこれに対する平成26年12月28日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 当事者の主張及び当裁判所の判断
1 原告は、別紙「請求の原因」記載のとおり主張する。
 被告は、適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。したがって、被告において、原告の主張する請求原因事実を争うことを明らかにしないものと認め、これを自白したものとみなす。
2 よって、原告は、被告に対し、原告のプログラムの著作物であるDRA−CAD10(以下「本件ソフトウェア」という。)の複製権、送信可能化権、著作者人格権(同一性保持権)侵害に基づき、その被った損害の賠償を請求することができる。
3 原告は、著作権法114条3項に基づく損害のみを主張し、被告が本件ソフトウェアの違法複製版をダウンロードサイトに記録、蔵置し、インターネットオークションサイトを経由してダウンロード販売を行ったことにより、原告は、本件ソフトウェアを正規に販売する機会を56回分失ったなどとして、本件ソフトウェアに係る商品の標準小売価格である19万9500円の56回分である1117万2000円を原告が受けた損害の額であるとする。
 そこで検討するに、著作権法114条3項は、著作権の侵害行為があった場合に、著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額である使用料相当額については、権利者に、最低限の損害額として損害賠償請求を認める趣旨の規定である。そして、本件のように、被告が本件ソフトウェアの違法複製版をダウンロード販売したという事案においては、本件ソフトウェアを複製した商品を販売する者から原告が受けるべき使用料相当額を算定すべきであるところ、本件においては、著作権者の標準小売価格を前提としてこれに相当な実施料率を乗じて使用料相当額を算定するのが相当であると解される。
4 この点、原告は、自己の請求額が相当である理由として、原告が本件ソフトウェアの商品を販売する場合に購入者が通常支払う金額は1本当たり19万9500円であるから違法行為を行った被告にも同額を負担させることが正義にかなうこと、著作権法114条4項が同条3項に「規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない」としていること、標準小売価格をもって使用料相当額であると認めた裁判例があること等を主張する。
 しかしながら、少なくとも、被告の販売価格(インターネットオークションへの出品価格は4980円)ではなく著作権者の標準小売価格を前提として相当な実施料率を乗じて使用料相当額を算定することは、違法行為を助長し正義に反するということには何らならない。また、著作権法114条4項の規定は同条3項の規定する損害を超える損害の賠償を別途請求することを認める規定であり、原告の主張するような同条3項の解釈を支えるものではない。さらに、原告が挙げる裁判例は、被告が原告の著作物であるプログラムを末端ユーザーとして違法に使用したと認定された事案であって、本件ソフトウェアの違法複製版をダウンロード販売した本件とは事案が異なる。原告の主張は、いずれも採用することができない。
5 実施料率の認定については、本件において原告が第三者に本件ソフトウェアの使用許諾をしているか否かが明らかでないため、実施料率の一般的水準を一応の目安として算定すべきところ、顕著な事実である社団法人発明協会研究センター編集の「実施料率【第5版】」(社団法人発明協会発行)及び経済産業省知的財産政策室編「ロイヤルティ料率データハンドブック」(財団法人経済産業調査会発行)記載のソフトウェア等の技術分野における実施料率に関する統計データ(特に、上記「実施料率【第5版】」中のソフトウェアを含む「電子計算機・その他の電子応用装置」の技術分野における外国技術導入契約の実施料率に関する統計データによれば、平成4年度から平成10年度までのイニシャル・ペイメント条件がない契約における実施料率の平均は33.2パーセントとされていること)に加えて、被告による侵害行為の態様が本件ソフトウェアのアクティベーションを無効化して実質的に同一のプログラムを販売したという悪質なものであることなど本件に現れた一切の事情を考慮すれば、実施料率を50パーセントと認めるのが相当である。
6 以上によれば、原告の請求は、558万6000円(19万9500円×56×0.5)及びこれに対する平成26年12月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求には理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 沖中康人
 裁判官 藤田壮
 裁判官 宇野遥子


(別紙)請求の原因
第1 当事者等
1 原告は、建築設計関連のプログラム開発及びこれらに関連するインターネットの技術開発を業とする会社である。原告は、いわゆる建築CADソフトウェアであり、建築設計図面の作成、編集、印刷ならびに建築3次元モデル作成、レンダリングを行う機能を有するプログラムであるDRA-CADシリーズの著作権を有する。
2 被告は、訴外ヤフー株式会社(以下「訴外ヤフー」という。)が運営する「ヤフオク!」(以下「ヤフオク」という。)という名称でのインターネットサイトにおいて、原告製品であるDRA-CAD10(以下「本件ソフトウェア」という。)を販売すると宣伝し、一部改変した違法複製品である本件ソフトウェアの商品(以下「本件商品」という。)をいわゆるダウンロード販売して対価を得た個人である。
第2 原告が本件ソフトウェアの著作権及び著作者人格権を有すること
1 本件ソフトウェアは、いわゆる建築CADソフトウェアであり、建築設計図面の作成、編集、印刷ならびに建築3次元モデル作成、レンダリングを行う機能を有するプログラムによって構成されているから、著作権法第2条1項10号の2、同第10条1項9号のプログラムの著作物にあたる。
2 本件ソフトウェアは、原告がその製作を発意し、原告の従業員を使用して製作させたものである。なお、原告は、本件ソフトウェア起動時のバージョン情報及びCDレーベルに著作権表示を行っている。
3 よって、著作権法第15条2項に基づき、本件ソフトウェアの著作権及び著作者人格権は、原告に帰属する。
第3 被告の特定
1 原告は、平成26年2月24日、訴外ヤフーに対し、ヤフオクに原告商品である本件ソフトウェアの著作権を侵害された情報が掲載されていることを理由として、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(以下「法」という。)第4条1項に基づき、発信者情報開示請求書を送付し、任意の開示を要請した。しかし、訴外ヤフーは開示を拒否したため、原告は訴外ヤフーを被告として、発信者情報開示請求訴訟を提起した。その結果、平成26年10月15日、原告と訴外ヤフーは訴訟の和解をし、訴外ヤフーは、同日、被告を当該発信者として開示した。
2 原告は、被告に対し、平成26年10月31日付けの内容証明郵便により、被告が本件商品を違法に販売した本件ソフトウェアの標準小売価格を基準にした損害賠償請求を行い、当該書面は平成26年11月1日に被告に到達した。ところが、被告からは何の連絡もなく、損害金の支払いもない。
第4 本件商品は原告の著作権及び著作者人格権を侵害していること
1 複製権侵害
 原告の担当者は、2014(平成26)年1月14日、同13日に出品された本件商品が本件ソフトウェアの違法コピーかどうか確認するため、ヤフオクサイトにおいて、被告から本件商品を落札した。そして、同担当者は、発信者の作成したインストールマニュアルに従って、本件商品のファイルを被告の指示したサイトからダウンロードした。本件商品のプログラムと本件ソフトウェアのプログラムを対比した結果、後述の改変部分以外は、すべて同一であった。
 これらのことから、被告は、落札者に対し著作物を販売譲渡する目的で、本件ソフトウェアのファイルを、原告に無断で、上記ダウンロードサイトに記録・蔵置する行為を行ったことが確認できた。
 同サイト上に記録・蔵置された本件商品のプログラムは、本件ソフトウェアと実質的同一性が認められるから、被告の記録・蔵置行為は、本件ソフトウェアの複製にあたり、原告の複製権を侵害した。
2 送信可能化権侵害
 被告は、上記のとおり、インターネットを使用して、本件商品のプログラムファイルを同サイトにアップロードした。
 被告の上記行為は、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に著作物の情報を記録する行為であるから、著作物の送信可能化(著作権法第2条1項9号の5イ)にあたる。
 よって、被告の行為は送信可能化にあたり、原告の送信可能化権を侵害した。
3 著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)及び翻案権侵害
 本件ソフトウェアの正規製品には、いわゆるアクティベーションが設定されており、シリアルナンバーを入力しないと本件ソフトウェアが起動しない設定がなされている。
  しかし、本件商品の落札者が、被告の作成したインストールマニュアルに従って実行ファイル<以下略>.exeをコピー、貼り付けすると、本件ソフトウェアのファイルが上書きされ、アクティベーションが無効化されて、シリアルナンバーを入力しなくても本件ソフトウェアが起動するように変更が加えられる。
 本件ソフトウェア正規版と、本件商品のプログラム実行ファイル<以下略>.exeが上書きされた後のプログラムを対比すると下記のような違いがある。
  アドレス <以下略>.exe(Ver.10.0.1.8) <以下略>.exe
  (本件ソフトウェア正規版) (本件商品)
003A13C4:  E8 B8
003A13C5:  C7 01
003A13C6:  2C 00
003A13C7:  C6 00
003A13C8: FF 00
003A13CB: 0F 90
003A13CC: 85 E9
 上記ソフトウェアの<以下略>.exeファイルの改変はプログラム実行ファイルをコピー、貼り付けすることにより行われ、その操作は被告ではなく落札者が行う。しかし、落札者は、被告の作成したインストールマニュアルの指示に従って操作するのであるから、実質的には、被告が落札者を利用して改変行為を行ったといえる。
  よって、被告は本件ソフトウェアの改変行為を行い、原告の著作者人格権(同一性保持権)及び翻案権を侵害した。
第5 原告の損害
1 被告は、Yahoo! JAPAN ID「<以下略>」の名称で、2013(平成25)年12月17日から2014(平成26)年2月25日の間に56回にわたって、「建築設計・製図CAD DRA-CAD10」という商品名を掲載して本件サイトに本件商品を4、980円で出品し、その出品情報が本件サイトに掲載された。また、56回すべての出品について入札があり、本件商品が落札された。なお、この56回のうち、2014(平成26)年1月13日に出品された本件商品は、上述の通り、本件ソフトウェアと実質的に同一のプログラム(いわゆるデッドコピー)であったし、被告による販売形態は全く同一であったから、残り55回分についてもいわゆるデッドコピーであることは明らかである。したがって、原告は被告の不法行為により本件商品を正規に販売する機会を56回分(56本分)失ったというべきである。
2 本件商品の標準小売価格は19万9500円(消費税込み)であり、その56本分は合計1117万2000円である。
3 著作権法114条3項では、著作権者が「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる」とし、さらに同条4項では同条3項に「規定する金額を超える損害の賠償を妨げない」としている。
4 本件においては、原告が本件商品を販売する場合に購入者が通常支払う金額は1本あたり19万9500円(消費税込み)であるのだから、上記のような違法行為を行った被告に同額を負担させることが正義にかなうというべきである。なぜなら、被告が販売手数料などの中間利益を控除した残額を支払えば良いことになると、違法行為をした方がかえって得になり、違法行為を助長してしまうからである。また、著作権法114条4項の規定も原告の主張を支えるために新設されたものというべきである。
第6 まとめ
 よって、原告は、被告に対し、不法行為(著作権侵害)を理由として、金1117万2000円、及び本訴状送達日の翌日から支払い済みまで民事法定利率である年5分の割合による金員の支払を求めるものである。
以上
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