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【事件名】モデル事務所の宣材写真事件
【年月日】平成27年2月6日
 東京地裁 平成25年(ワ)第10797号 損害賠償等請求事件

平成27年2月6日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成25年(ワ)第10797号 損害賠償等請求事件

 (口頭弁論終結日 平成26年12月19日)

判決
原告 株式会社商業美術
同訴訟代理人弁護士 有賀隆之
同 箭内隆道
同 水野太樹
同 細田大貴
同 山岸純
被告 株式会社ニュートラルマネジメント(以下「被告会社」という。)
被告 Y1(以下「被告Y1」という。)
被告 Y2(以下「被告Y2」という。)
被告 Y3(以下「被告Y3」という。)
上記4名訴訟代理人弁護士 大井倫太郎


主文
1 被告Y1、被告Y2及び被告Y3は、原告に対し、連帯して157万2304円及びこれに対する平成25年5月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告Y1、被告Y2及び被告Y3に対するその余の請求並びに被告会社に対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、原告と被告Y1、被告Y2及び被告Y3との間においては、原告に生じた費用の5分の1を同被告らの連帯負担とし、その余は原告の負担とし、原告と被告会社との間においては、全部原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告Y1、被告Y2及び被告Y3は、原告に対し、連帯して881万1868円及びこれに対する平成25年5月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告会社は、別紙写真目録記載の各写真をインターネット上のウェブサイトにおいて自動公衆送信又は自動公衆送信可能化してはならない。
3 被告会社は、別紙写真目録記載の各写真に係るデータを廃棄せよ。
4 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 前提事実(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。以下、証拠番号の枝番の記載を省略することがある。)
(1) 当事者
ア 原告は、ファッションモデル(以下「モデル」という。)の事業部門 である「SUPERBALL事業部」(以下「原告モデル事業部」という。)のほか、レストラン業等を営む株式会社である。
 原告モデル事業部は、一般のモデル事務所と同様に、主に女性をモデルとして所属させて、依頼主が企画・制作する雑誌等の撮影やCM出演等の芸能業務に出演させ、その対価に依頼主から業務受託料を受領していた。そして、その業務受託料からその一定割合をモデルの報酬としていた。〔弁論の全趣旨〕
 なお、原告は、株式会社スタンダードワークス(以下「SW社」という。)及び株式会社商業藝術(以下「SG社」という。)が共同出資して設立した株式会社である。SW社は、A(以下「A」という。)が代表取締役を、B(以下「B」という。)が取締役を務めており、イベントの企画・運営・管理及びコンサルタント等を主たる事業として営んでいる。SG社は、C(以下「C」という。)が代表取締役を、原告代表者代表取締役であるD(以下「D」という。)が取締役を務めており、カフェ等の飲食店経営等を主たる事業として営んでいる。そして、原告は、原告モデル事業部と、SW社が運営に関与しているカフェunice(以下「unice」という。)とSG社が運営に関与しているカフェ代官山Chano-ma(以下「Chano-ma」という。)の各経営を主要事業としている。〔乙31、32〕
イ 原告モデル事業部には、平成25年1月頃まで、事業部長の被告Y1と、被告Y2及び被告Y3(以下被告Y1及び被告Y2と併せて「被告Y1ら」という。)の3名が原告の従業員から配属されていた。
 被告Y1は、原告モデル事業部営を担当し、被告Y2及び被告Y3は、モデルらのマネージャーを務めていた。原告モデル事業部では、創業以来、被告Y1ら以外に他の従業員が配属されたことはない。
 平成25年2月時点において、13名のモデルが原告と業務委託契約(以下「本件契約」という。)を締結して原告モデル事業部に所属しており、専属モデルとして芸能業務に従事していた。
ウ 被告会社は、平成25年2月18日に設立され、主に、芸能タレント、モデル、文化人等の育成及びマネジメントの事業を営んでいる。〔乙1〕
(2) 被告Y1らの退職と被告会社の設立及び原告モデル事業部に所属するモデルらの移籍等
ア 被告Y1らは、平成25年1月24日から同月26日まで、当時所属していたモデル13名のうち12名に対し、一人一人と個別面談をした(以下「本件面談」という。)。〔乙104ないし106、108、〕
イ 被告Y1らは、平成25年1月31日、原告を退職した。
ウ 平成25年2月15日、モデル事務所「neutral」(以下「被告モデル事務所」という。)が原告から独立して開業した旨公表され、同月18日、同事務所を運営する被告会社が設立された。設立時点では、被告Y2が代表取締役に就任したが、平成26年1月1日、同被告が退任して被告Y1が代表取締役に就任した。〔甲10、乙2、104〕
エ モデル13名のうち11名が、平成25年2月15日に被告モデル事務所に移籍した。併せて、同モデルらは、同月17日、代理人に選任したM弁護士を通じて、原告に対し、同月14日をもって本件契約を解除した、遅くとも本通知をもって本件契約を解除すると通知した。
 その後、上記11名のうち2名のモデルが被告モデル事務所から退所した。〔乙3、104〕
オ 原告は、別紙写真目録に記載された上記エで移籍したモデルらの写真(以下「本件各写真」という。)を原告モデル事業部のウェブサイト(http://super-ball.jp/。甲11。以下「原告サイト」という。)上に掲載していたが、被告会社は、本件各写真を自社のウェブサイト(http://neutral-tokyo.com。以下「被告サイト」という。)上に掲載した。〔甲12〕
2 本件は、原告が、(1)原告の従業員であって原告モデル事業部に配属されていた被告Y1らが、原告を退職し新たにモデル事務所を運営する被告会社を設立して、原告モデル事業部に所属するモデルらを違法な方法で引き抜いたと主張して、被告Y1らに対し、民法709条に基づき損害賠償金881万1868円及びこれに対する訴状送達の日の翌日ないし不法行為をした日の後の日である平成25年5月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、(2)被告会社が本件各写真を被告サイト上に掲載した行為は、原告が有する本件各写真に係る著作権を侵害するものであると主張して、被告会社に対し、著作権法112条1項、2項に基づき、本件各写真の被告サイト上での自動公衆送信又は自動公衆送信化の差止めと、本件各写真に係るデータの廃棄を求めた事案である。
3 本件の争点
(1) 被告Y1らに対する請求について
ア モデルの移籍について不法行為の成否
イ 損害発生の有無及びその額
(2) 被告会社に対する請求について
 原告の著作権侵害の成否
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)ア(モデルの移籍について不法行為の成否)について
〔原告の主張〕
(1) 一般に、モデル事務所は、主に容姿端麗な女性との間で「専属モデル契約」を締結してその女性をモデルとして所属させ、第三者が企画・制作する雑誌やイベントなどの芸能業務に当該モデルを出演させ、その対価として出演料を取得し、利益を得ている。そのため、モデルが突然、契約を解除すれば、利益を得る手段を失ってしまうことになる。したがって、モデル事務所にとって、モデルは商品であり、その入退所は死活問題であるから、モデル事務所は、契約において解除に一定の制限を設けたり、解除の効力が発生する時期を定めたりしている。
 そこで、原告は、契約期間を1年とし、期間満了前に契約を解除する場合には通知後3か月が経過して効力が発生する旨特約を設けた「専属モデル契約」をモデルらと締結していた。
(2) 原告モデル事業部は、被告Y1らのみで運営され、とりわけ被告Y1は、同事業部開設時から4年にわたって、事業部長としてモデル事業を一手に担い、モデルらからは「社長」と呼ばれ、女性モデルへの影響力は絶大であった。
(3) 被告Y1らによるモデルの引き抜き行為等
ア 被告Y1らは、平成24年12月頃から、原告モデル事業部に所属するモデルの大多数を引き抜いて新たにモデル事務所を経営することを画策した。
イ 被告Y1らは、原告を退職する前である平成25年1月頃から、被告サイトの作成を開始し、賃貸借契約を締結して被告モデル事務所の開設の準備を行った。
ウ 被告Y1らは、平成25年1月24日から同月27日頃までの期間において、原告モデル事業部に所属するモデル13名のうち12名に対して、本件面談を行った。その内容は次のとおりである。すなわち、被告Y1らは、原告モデル事務所にモデルを一人ずつ呼び出し、@「原告モデル事業部にお金を出している会社が言い合いになり、原告モデル事業部を続けることができなくなった」、A「そこで、3人(被告Y1ら)で独立してモデル事務所を作ろうと思っている。」、B「こっちの話だから申し訳ないんだけど、どうしたい?」、C「別に、原告モデル事務所に残りたいんだったら残ってもいいんだけど、でも、モデル事務所を運営できる人は誰もいない状況だよ。原告モデル事務所に残っても何も出来ないよ。」、D「もう○人くらいは移るって言っているよ。」、E「この件は誰にも言わないように。モデル同士でも話さないように。」旨申し向け、本件契約を解除して被告モデル事務所に移籍するよう唆した。
 原告代表者は、本件面談について被告Y1らから予めて知らされておらず、知らされていれば当然のことながら、被告Y1らに許可するはずがなかった。
エ また、被告Y1らは、原告モデル事業部に所属するモデルに対し、本件面談に際してあらかじめ、原告と締結する「専属モデル契約」に係る「専属契約書」を持参するように申し向け、持参された「専属契約書」を原告モデル事務所に設置されたシュレッダーで裁断した。さらに、被告Y1らは、原告モデル事業部において保管する「専属契約書」もシュレッダーで裁断した。
オ そして、被告Y1らは、本件面談をしたモデル12名のうち11名について、平成25年2月14日付けで、原告と締結する「専属モデル契約」を解除する旨意思表示をさせ、同日、被告モデル事務所と専属モデル契約を締結させた。
カ さらに、本件面談をしたその余のモデル1名も、後日、原告に対し、原告との間の「専属モデル契約」を解除する旨意思表示をし、加えて、本件面談をしていないモデルも、後日、原告との間の「専属モデル契約」を解除する旨意思表示をし、その結果、原告モデル事業部は、所属するモデルの全員を失った。
キ また、被告Y1らは、原告に予め相談や報告もなく、平成25年1月31日に原告を退職した。
 原告モデル事業部は、被告Y1らのみが配置されて運営されていたもので、 原告モデル事業部に従事する者がいなくなった。原告は、被告Y1らに対して出社して原告モデル事業部の業務引継を綿密にするよう命じたが、被告Y1らは理由もなく拒絶し、被告訴訟代理人を通じて原告代表者宛てに電子メールで、「業務引継報告書」なるA4サイズ1枚程度の書面を送付しただけであった。
ク 原告は、原告モデル事業部について平成25年3月以降の売上の一切を失った。
(4) 以上のように、被告Y1らは、原告所属モデルに対して絶大な影響力を有する被告Y1を中心に、原告勤務中から、新たなモデル事務所の設立の準備を敢行し、原告モデル事業部に所属するモデルらに対して、原告モデル事業部ではモデル業を続けることできない旨申し向け、新たに設立するモデル事務所に移籍するよう唆し、原告モデル事業部に所属する13名のうち11名のモデルを移籍させたものである。被告Y1らの言動は、モデルらに虚偽を含む事実を告げて不安を抱かせ、移籍しなければ現在の仕事を継続できないかのような印象を与えるものであって、不適切な方法によるものであったといわざるを得ない。そうすると、被告Y1らの行為は、原告に対して著しく誠実さを欠く背信的な行為であるといわざるを得ないから、社会的相当性を欠く違法な引き抜きとして、不法行為を構成するというべきである。
(5) 被告Y1らの主張に対する反論
 被告Y1らは、その退職の原因に、原告における、SW社とSG社の対立や取締役間の確執や紛争の激化があったと主張する。しかし、被告Y1らの上記主張は、被告Y1らが行ったモデルの引き抜きとは関連がなく、いかにも後知恵であり、被告Y1らが原告モデル事業部の運営が難しくなったかのような印象を与えて、原告モデル事業部に所属するモデルを被告モデル事務所に引き抜いたことを正当化しようとする方便にすぎない。
 念のためにSW社とSG社の関係について以下に述べるが、被告Y1らが主張するように原告モデル事業部が正常に事業を運営することが不可能な事態にあったことはない。
ア 原告は、平成21年にSW社とSG社のそれぞれが得意とする事業分野を結合し、新たなビジネスを創出することを目的として、500万円ずつ出資して、いわゆるジョイント・ベンチャー企業として設立された会社である。両社は、@モデルエージェンシー事業、A飲食事業、Bイベント企画事業をコア・ビジネスとし、SW社が経営する飲食店「unice」と、SG社が経営する飲食店ブランド「Chano-ma」を上記A飲食事業として経営するものとした。
イ 原告は、設立当初、SW社のBが代表取締役を務めたが、上記A飲食事業に累積債務超過が生じるなどしたことから、SW社とSG社で協議して、平成23年10月にSG社のDが代表取締役に就任し、SG社が飲食店経営ノウハウを活用して、上記飲食店及び飲食店ブランドは利益を計上するに至り、上記飲食店に至っては第4期目に約880万円の純利益を計上することができた。
 しかし、Bはそのことを快く思わず、次第に、ジョイント・ベンチャー企業としての原告を解散することを企図するに至った。
ウ SG社のCとDは原告の継続を強く希望したが、SW社のBとAは解消にこだわり、そのために貸金返還請求訴訟を提起するなど強硬な手段に出た。
エ かかる状況下で、被告Y1らがモデルの引き抜きをしたため、原告は、コア・ビジネスである上記@モデルエージェンシー事業を失った。
 その後も、BとAは原告の解散を図るべく、原告がSW社から賃借して営業する上記飲食店の店舗を違法占拠するなどしている。
オ(ア) 確かに、原告の経営陣において紛争が激化しているが、その原因はSW社のBとAにあり、原告は、CとDにおいて事業運営の継続に努めているところである。
(イ) また、原告がSW社から貸金返還請求訴訟を提起されたことは事実であるが、被告Y1らは事実誤認をしている。原告は、訴訟の経過を踏まえて任意に支払う判断をし、約定利息も含めて全額を一括でSW社に支払っており、その時点において原告が潤沢なキャッシュフローを有していたのは明らかである。この点、原告が原告モデル事業部に所属するモデルに報酬支払を遅滞したことはない。また、原告は、CとDにおいて、被告Y1らに事情を説明するなどして安心して原告モデル事業部に専念できるように努めてきた。
(ウ) さらに、被告Y1らは、Cによる被告Y1に対する違法な引き抜き行為があったと主張するが、Cが呼び出した被告Y1に対し、被告Y1らが主張するようなことは述べていない。Cは、被告Y1に対し、SG社は原告を継続させる方針であり、被告Y1にSG社とモデルエージェンシー事業を続けるべきであるなどと伝えていた。
〔被告Y1らの主張〕
(1) 〔原告の主張〕(1)のうち、本件契約に契約解除の効力発生時期についての定めがあることは否認する。原告モデル事業部では、創業から平成25年2月14日に至るまで、延べ25名のモデルが移籍ないし引退したが、いずれも契約の解除に制限を受けたことはなかった。
 本件契約は、原告とモデルとの口頭限りで締結された契約であった。確かに、原告は、所属年数が長く経験豊富な一部の女性モデルに限り「専属契約書」を交わしたが、それは飽くまで契約内容を確認するための念書としての意味合いのものにすぎなかった。また、上記「専属契約書」には解除の効力発生時期に関する条項は一切含まれていなかった。
(2) 〔原告の主張〕(2)につき、原告モデル事業部が被告Y1らのみで運営されていたこと、被告Y1が同事業部開設時から退職まで、事業部長としてモデル事業を一手に担っていたことは認め、その余は否認する。被告Y1は、モデルらから「社長」ではなく、「Y1さん」と呼ばれていた。
(3)  〔原告の主張〕(3)について
ア 〔原告の主張〕(3)アは否認する。被告Y1らが原告所属モデルの大多数を引き抜いたとか、モデル引き抜きにより新しいモデル事務所を経営することを画策したなどという事実は一切ない。
 被告Y1らが退職して、被告モデル事務所の開設に至ったのは、原告の内部紛争が背景にあり、被告Y1らには、原告に対して損害を与える意図や自らの利益を図ろうとする意図は全くなかった。詳細は、後記(5)に述べるが、原告においては、原告の出資者間及び役員間の確執が激化して収拾がつかないまでに至り、原告モデル事業部はもはや正常な経営が立ちゆかない状況に陥った。そのため、被告Y1らは、原告を退職することを決意し、原告モデル事業部に所属するモデルや依頼主に迷惑をかけないために、受け皿として被告モデル事務所を立ち上げることにしたのである。
イ 前同イは否認する。被告Y1が被告サイトの作成を開始したのは平成25年2月上旬以降であり、被告Y1が賃貸借契約を締結したのは同月22日であり、いずれも被告Y1が原告を退職した後のことである。
ウ 前同ウのうち、被告Y1らが本件面談をしたことは認め、その余は否認する。被告Y1らは、モデルらに対して被告モデル事務所に移籍するように唆したことはない。なお、被告Y1らが本件面談をしたのは、平成25年1月24日から同月26日までの期間である。
 被告Y1らは、女性モデルらに対して次のように説明した。
 「この会社は、A社とB社が出資して設立した会社です。A社は株式会社スタンダードワークス、B社は株式会社商業藝術です。A社はB社との合弁契約を解消して原告事業を辞めたいと思っています。他方、B社は続けたいと思っています。今、両者の対立が激化し、A社が会社に対して貸金返還請求訴訟を提起するなど資金回収に走っており、今回はギリギリのタイミングでB社が弁済したので間に合いましたが、今後さらに資金回収が行われた場合には、口座が凍結し、皆さんにギャラを支払えなくなるおそれがあります。B社も「SUPERBALL」という名称を無断で商標登録してしまうなどこの事業を会社から奪おうとしています。私とY2、Y3は、これ以上、株主間、役員間の紛争に巻き込まれたままでは正常な経営はできないと考え、退職することにしました。」、「あなたは、このままSUPERBALLに残ってもいいし、別の事務所に移籍してもいい。我々が新しく作る予定の事務所に来てもいい。どれを選ぶかはあなたの自由です。違う事務所に移籍する場合はしっかり引継業務もします。商業藝術はSUPERBALLの商標登録出願をするくらいだから、事業を続ける意向だと思う。その場合、新しいスタッフを雇って事務所を継続することになると思うが、次の引継担当者が決まるまで少しの間迷惑を掛けることになるかも知れない。この話は、人それぞれ考え方や捉え方が違うから、モデル同士で相談せずに自分の意思で選択して欲しい。」、以上のとおり説明したところ、女性モデル12名のうち11名が被告モデル事務所に移籍する希望を表明し、その余の1名は、他のモデル事務所に移籍した。
 このように、被告Y1らは、モデルには、原告モデル事業部に残るも自由、契約を解除して他の事務所に移籍するのも自由であることを伝え、その上で、希望があれば被告Y1らが立ち上げるモデル事務所で引き受けても構わないと伝えたのであり、飽くまで、被告Y1らは、女性モデルらに対して選択肢を示したにすぎず、女性モデルの自由意思に委ねていた。本件面談をしたモデルのうち1名が被告モデル事務所に移籍しなかったことは、モデルが任意で選択したことの証左というべきである。
 なお、被告Y1らがモデルらと個別に面談したのは、モデルらの個々の考え方や対応・判断が尊重されるべきであると考えたことによるものである。
エ 前同エは認める。しかし、被告Y1らは、モデルの意に反して「専属契約書」をシュレッダーで裁断したことはない。被告Y1において、モデルから本件契約の解除の意向を確認した上で、被告Y1の責任で破棄することについて了解を得てから行った。
オ 前同オは否認する。モデルは任意で本件契約を解除して被告モデル事務所に移籍したのであり、被告Y1らがモデルを唆したことはない。
カ 前同カは認める。
キ 前同キのうち、被告Y1らのみで原告モデル事業部が運営されていたこと、被告Y1らが平成25年1月31日に原告を退職したことは認め、その余は否認する。
 被告Y1らは、被告Y1において、平成24年12月4日、C及びDと面談した際に、「役員間の対立関係が激化している中で正常な事業継続は難しいです。正直退職も考えています。」と伝え、平成25年1月中旬にも、Dに、「もう限界です。」、「辞めたいです。」などと伝えていたから、原告に対して予め退職の意向は伝えていた。
 また、被告Y1らは、原告を退職後も、相当期間にわたり、誠実に必要かつ十分な引継業務を履行した。被告Y1らは、平成25年1月30日に退職届を提出してから同年2月14日まで、3名で共同して、原告モデル事業部のクライアントからの新規受注業務及び既存案件に関するモデルとの連絡調整及び現場対応等、必要な引継業務を行い、各事業時間終了後、被告訴訟代理人を通じて、電子メールにて、原告代表者宛てに引継業務報告を行い、併せて、同報告の中で繰り返し、早急に引継担当者を指定するよう要請していた。
 原告は平成25年2月14日付けで被告Y2及び被告Y3を懲戒解雇処分とする旨被告訴訟代理人に通告したが、その後も、被告Y1において、翌15日以降、同月28日まで、引き続き引継業務を継続することとして、同月14日付で原告モデル事業部との契約を解除したモデル11名に対しても、上記引継業務期間中の新規受注案件については、原告モデル事業部の案件として雑誌等の撮影やCM収録への出演を行うよう依頼し、必要な出演業務を実施させ、被告訴訟代理人を通じて原告代表者宛てに引継業務報告を行い、併せて、引継担当者の指定を繰り返し求めていた。
 加えて、被告Y1は、原告の要請に従い、平成25年2月25日には、モデル11名のモデル名及び本名と住所、連絡先一覧を報告し、引継業務の最終日である同月28日には、原告から要請がなかったにもかかわらず、自発的に原告モデル事業部の事業内容と取引先一覧データを報告するなどした。
 この点、被告Y1らが平成25年1月30日以降に原告モデル事業部に出社しなかったのは、被告Y2が、その前日である同月29日にC、D及びKに取り囲まれ、Cから怒号・罵倒されるなどして、正常な精神状態で出社できなくなったからである。
 そもそも、平成24年11月時点において既に、D自身、BやAと顔を合わせないように出社するという確執が深刻な状況に陥っており、仮に出社したとしても正常な業務を行うことはできなかったのであるから、原告に論難されるいわれはない。
ク 前同クは否認する。
 原告は、CがモデルのSに説明しているとおり、Cら経営陣においてモデル事務所を運営するノウハウを持っていた。また、被告Y1らが引継業務報告において後任担当者を指定するよう要請したのであるから、速やかに後任担当者を決定して、被告Y1らに通知し、引継業務を指示すれば良かったし、容易かつ可能であった。しかるに、原告は、被告Y1らの要請の一切を無視し、後任担当者の指定を行わず、被告Y1らやモデルを慰留することもなかった。
(4) 〔原告の主張〕(4)は否認ないし争う。
(5) 以下に詳述するとおり、原告では、株主間及び取締役間の確執と紛争が激化して、原告モデル事業部が運営を続けていくことが不可能な状況にあり、被告Y1らはやむなく原告を退職して、モデルや依頼主に迷惑がかからないよう、新たに被告モデル事務所を開設して、受け皿としたのであり、被告Y1らには、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なモデルの引き抜き行為をした事実はないのであり、被告Y1らの行為が不法行為に当たらないことは明白である。
ア 原告設立前のディスコイベント「UP!ウルトラポジション」の失敗
 BとCは、原告設立前の平成20年5月以降、イベント、アパレル、モデル事業(人材派遣)をコラボレートしたビジネスを企画し、同年9月から同年11月にかけ、ディスコイベント「UP!ウルトラポジション」を開催した。しかし、同イベントは失敗に終わり、約5000万円もの経費をSW社が立替払いしたにもかかわらず、SG社が費用負担を渋り、その頃から、BとCの間の確執が潜在的に始まった。
イ 原告設立後のカフェChano-ma事業の債務超過
 原告設立後の平成21年7月にはSW社が運営するカフェunice(ユナイス)が開店し、同年12月には、SG社が運営するカフェ代官山Chano-maがオープンしたが、Chano-maは開店以来、毎月連続赤字を計上し続けた。同事業の赤字の原因につき、Cは「B氏のスタンドプレーにスタッフがついて行けないのが原因である。」としてBに責任を擦り付け、Bは「飲食のプロであるJellyfishのオペレーションが悪いせいだ。」とSG社側を非難して、両社の間の確執、対立が顕在化するようになった。
 平成22年9月29日には、SG社が「UP!ウルトラポジション」の費用負担を一部行い、SW社とSG社間において、合弁契約が締結されたが、Chano-maの赤字をuniceや原告モデル事業部の利益で補填するという経営状態が続き、原告の経営方針を巡って両社の確執はさらに激化した。
ウ 合弁契約解消ないし存続に関する対立
 平成23年10月以降、SW社からSG社に対し、原告の債務超過状態や資金ショート、unice、Chano-ma及び原告モデル事業部のシナジー効果への疑問から、合弁契約の解消が提案されたが、SG社がこれを拒否し、原告事業の継続性に関する意見が平行線を辿るようになり、平成23年12月には「取締役間の関係正常化」が取締役会の議題として取り上げられるほど、役員間の関係は悪化していた。
 平成24年1月には、SW社から正式に合弁契約解消の申し入れが行われたが、取締役会が開催されないという異常事態となった。
エ SW社による原告に対する貸金返還請求訴訟提起と口座凍結のおそれ
 SW社は原告に対し、平成24年5月18日、2206万5413円の貸金返還請求訴訟を当庁に提起し、原告は敗訴判決を受けることが確実で、仮に任意に弁済しなかった場合には、原告名義の銀行預金等が差押えを受けることになり、口座が凍結して、原告モデル事業部のモデルに対するギャラの支払い等が困難になるおそれが現実化した。その後、原告がSW社に上記借入金全額を支払ったことから、口座凍結は免れたものの、なお残債務を負っており、SW社がさらに資金回収を実施した場合には各モデルに対するギャラの支払等に著しい支障が生じるおそれがあった。
オ Cによる被告Y1に対する違法な引き抜き行為
 平成24年12月4日、被告Y1は、Cが結婚の祝儀を渡したいとの用件で、Dから電話で代官山の喫茶店に呼び出された。その際、被告Y1はCとDに対し、「正直役員間の関係が悪化している中で事業を続けていくのに限界を感じています。その気持ちは他のスタッフも同じです。退職も選択肢の一つと考えています。」と伝えたところ、Cは被告Y1に対し、「それは無責任だ!」、「Y2やY3が辞めたいと思っているのは上司である君の責任だ!」、「この業界ではやっていけなくなるぞ!」などと高圧的に叱責し、「彼ら(B、A)と離れたとしても我々と事業を続けるべきだ!」、「3年後くらいにSUPERBALLをバイアウトしても良い。」などと告げ、今後はSW社やBらとはたもとを分かち、SG社側に付くよう執拗に勧誘した。
 これは、SG社による原告モデル事業部乗っ取りのための被告Y1に対する違法な引き抜き行為であることは明白であった。
 また、同日、被告Y1はCから、「Chano-maの元社員から残業代の未払で訴訟をおこされたが、何とか示談に持ち込めた。」、「Tのように退職した人間が残業代を請求してきては困るから早めに示談に持ち込んだ。ただし、当時の社員たちは時間が経っているから、もう請求はできない。」などと聞かされ、原告が従業員の残業代すら適正に支払わずに踏み倒してきたことを知り、Cのもとで一緒に会社経営など行うことはおよそ不可能だと考えるに至った。
カ SW社とSG社、BとCら役員間の対立の激化・関係悪化
 平成24年11月時点では、Dら自身、原告事務所内にBやAが不在であることを被告Y1に電話をかけたり、メールを送って確認したりしてから、顔を合わせないように出社するという極めて異常な事態となり、さらに、取締役会すら正常に開催されないなど、修復困難なほどに株主間及び役員間の確執及び対立が悪化していた。
キ SG社による原告預金通帳及び銀行印の無断持ち出し事件
 平成25年1月17日午前12時頃、D及び原告監査役Gが原告の経理担当者を訪ね、「スタンダードワークスと商業美術の裁判に関連して弁護士への委任状に代表印を押したいので、金庫の鍵を貸してくれ」と虚偽の説明をし、原告の金庫を開けさせ、上記経理担当者の制止を振り払って、金庫在中の原告名義の預金通帳及び銀行印を持ち去ってしまった。上記Dらの行為は、SG社がその合意を無視し、原告帰属の財産を支配しようとしたものである。
 被告Y1らは、同じフロアで起きた上記出来事を目の前で見ていたことから、もはや原告モデル事業部の経営は立ち行かないと判断するに至った。
ク SG社による「SUPERBALL」商標権の無断登録出願の発覚
 平成25年1月21日、SG社が商標「SUPERBALL」につき、平成24年12月17日付けにて商標登録出願を行っていたことが発覚した。
 そのことは、被告Y1らは当然ながら、SW社にも知らされていなかった事実であり、SG社がSW社や被告Y1らに無断で申請したものであった。
 被告Y1らは、上記出願の事実を知り、原告モデル事業部の存続がいよいよ不可能であると確信するに至り、原告を退職して新たにモデル事務所を立ち上げることを決意した。
2 争点(1)イ(損害発生の有無及びその額)について
〔原告の主張〕
 原告は、被告Y1らの不法行為により、以下のとおり損害を被っており、その額は合計881万1868円を下らない。
(1) 逸失利益
 原告がモデルと締結する「専属モデル契約」では、契約の解除を希望する場合には、3か月前に通知しなければならないとされており、被告Y1らの違法な引き抜き行為がなければ、原告は、少なくとも、モデルが原告モデル事業部に所属して活動することによって得られた3か月分の利益を取得することができた。
 そして、その額は、726万0789円を下らない。
(2) 原告代表者が時間を割かなければならなかったことにより生じた損失
 原告は、被告Y1らが退職届を提出してから約2か月半にわたり、被告Y1らの違法な引き抜き行為への対応に原告代表者を充てざるを得ず、そのために原告代表者が本来行うべき営業活動に支障を来した。
 そして、その損害額は、75万円を下らない。
(3) 弁護士費用
 上記(1)及び(2)の合計額の約1割に当たる80万1079円を下らない。
〔被告Y1らの主張〕
(1) 〔原告の主張〕(1)は、否認ないし争う。
 原告は逸失利益が発生したと主張するが、それは原告が損害の発生を回避する努力を怠ったために被ったもので、いわば自招行為による損害であるから、被告Y1らの行為との間に相当因果関係はない。
(2) また、原告モデル事業部の収益は、被告Y1らの個人的資質・能力・人脈に依存したものであり、被告Y1らの退職に伴って原告に損害が発生したとしても、被告Y1らが責任を問われるべき理由はない。
(3) さらに、原告が主張する利益の額は、外注費及び租税公課は控除されているものの、事務所の賃借料、電気・水道光熱費、通信費、事務所スタッフの人件費、モデルの出演に係る出張旅費、法定福利費、消耗品費、減価償却費、システム関連費等は控除されていないが、それらの費用も販管費として控除されるべきである。なお、原告においては、原告モデル事業部に係る販管費のほか、本部販管費のうち3分の1が、原告モデル事業部に関する販管費とされている。そして、それらの具体的な額は、後記第4、2(1)の表に記載のとおりである。
3 争点(2)(原告の著作権侵害の成否)について
〔原告の主張〕
 本件各写真の著作権はいずれも原告に帰属する。原告モデル事業部のウェブサイトにおいて、本件各写真の全てに「@SUPERBALL」と標記し、同ウェブサイトの下部に「Copyright(C)2009-2012 SUPERBALL All rights reserved」と標記して本件各写真の無断転載等を禁止していた。また、同ウェブサイトの上記標記はいずれも、同ウェブサイトを管理・運営する被告Y1らが行ったものである。
 しかるに、被告会社は、そのウェブサイトに本件各写真を掲載しており、原告の本件各写真についての著作権を侵害している。
 よって、原告は、被告会社に対し、著作権法112条1項、2項に基づき、本件各写真の送信可能化の停止と、本件各写真にかかるデータの廃棄を求める。
〔被告会社の主張〕
 否認ないし争う。
 そもそも、本件各写真の著作権はいずれもそれを撮影したカメラマンに帰属する。本件各写真の撮影場所や構図、光量、立ち位置、アングル、ポーズやレンズ・カメラの選択、フィルムの選択、現像・焼き付け等の創作活動は、全て各モデルからの依頼に基づいて、各モデルとの協働作業において各カメラマンが主体的に行ったものである。そして、原告モデル事業部のウェブサイトに本件各写真が掲載されたことについては、各モデルがカメラマンから、プロフィール紹介用等の目的で使用することについて個人的に許諾を得ていたことによるものである。
 したがって、原告の上記主張は、前提を欠き失当である。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)ア(モデルの移籍について不法行為の成否)について
(1) 前記第2、1の前提事実並びに証拠(甲2、6、10、13、27ないし33、乙1ないし3、5ないし29、52ないし55、104ないし106、108ないし110、原告代表者、被告Y1、被告Y2、被告Y3)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、同認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
ア 原告モデル事業部の体制等
 被告Y1は、大手モデル事務所に所属するモデル兼俳優であったが平成20年5月頃に引退し、BとCから事業への関与を誘われて、同年12月頃から、自身のマネージャーであった被告Y2とモデル事務所を立ち上げ、知人の紹介やスカウト活動で4人のモデルを集め、自宅で事務所を兼用して経費を自己負担して、モデル事務所の経営を行っていたが、平成21年3月4日に原告が設立されてからは、同モデル事務所は原告モデル事業部として運営されていた。
 原告モデル事業部において、被告Y1は、事業部長として、モデルのスカウト及び選定、モデルへの演技・ポージング・ウォーキングといったレッスン指導、取引先への営業、ウェブや宣材資料等のインフラ制作等、同事業部の運営全般を担当し、被告Y2と平成23年7月に原告に入社した被告Y3は、依頼主からの受注、モデルのスケジュール管理・調整等、マネージャー業務及びデスクワークを担当していた。原告では、被告Y1らのほかに、原告モデル事業部に配置された経験やモデル事業に携わった経験のある者はいなかった。
 原告モデル事業部の運営は、モデルとの契約締結、契約解除も含めて全てが被告Y1の一存とされており、所属するモデルらは被告Y1が原告モデル事業部の代表者であると認識していた。
 原告モデル事業部に所属したモデルは、その大半が、被告Y1の友人であるとか被告Y1がモデル業をしていた時の知人であるとかいった縁で入所したモデルや、被告Y1が依頼主から紹介されて入所したモデルであった。
 また、原告モデル事業部の取引先は、そのほとんどが、被告Y1がモデル業をしていた時の知人や、依頼主による紹介で獲得した取引先であった。
〔甲29ないし33、乙55、104ないし106、108ないし110〕
イ 本件契約における契約期間等
 原告モデル事業部では、モデルが所属するに際してガイダンスで業務内容を「SUPERBALL MODEL GUIDANCE 2011」という資料(甲2)を用いて、モデルとして注意すべき点や心構えを説明していたところ、当該資料には、「契約/仮契約および退所/休業について」との項に、「やむを得ない事情で退所/休業する場合は、その3か月前までに必ず申告して下さい。」との記載があり(6頁)、被告Y1が当該記載内容につき、当該記載部分を参照しつつ、モデルに説明していた。なお、同資料は、被告Y1が自分自身のモデルや俳優の経験から、モデルの芸能業務の円滑な実施に求められる留意点等をまとめて、入所時にモデルに説明・交付する資料として作成したものであり、上記の3か月の期間については、依頼主から3か月先の仕事のオファーを受注することがあることを踏まえて、モデルが急に退所する場合に依頼主への説明や仕事の調整等の必要があるため、できる限り急な退所を避けることが望ましいことを念頭に置いたものであった。
 また、原告モデル事業部では、所属年数が長く経験豊富な一部のモデルとは、「専属契約書」(乙1)を交わしており、平成25年2月時点において、所属モデル13名のうち6名のモデルが「専属契約書」を交わしていた。その「専属契約書」の「第2条(契約期間)」には、「A甲または、乙が前項の期間満了の3ヶ月までに契約を更新しない旨の書面による通知をしない限り、本契約は自動的に期間満了の翌日から1年間更新され、その後の取り扱いについても同様とする。」との定めがあった。
 原告モデル事業部には、開業した平成20年12月からモデルが被告モデル事務所に移籍した平成25年2月14日までの期間において、延べ26名のモデルが所属しており、その半数のモデルが他のモデル事務所への移籍ないし廃業を理由に退所したが、在籍期間はおおむね1か月から2年半ほどで、いずれのモデルも3か月前に予告することなく本件契約を解除して退所した。なお、平成24年10月から平成25年1月までの期間では、3名のモデルが在籍期間1週間ないし2週間ほどで原告モデル事業部を退所した。
 ところで、モデルが出演する雑誌の写真撮影やCMの撮影等は、原告モデル事業部が依頼主から直接受注するものもあれば、当該モデルがオーディションで選出されて受注するものもあり、案件ごとに依頼主が当該芸能業務に求める容姿や振る舞い等は異なり、その希望に適うモデルが当該芸能業務に従事していて、原告モデル事業部の中でもモデルによって出演する雑誌の写真撮影やCMの内容、出演数は様々であった。
〔甲2、7、13、16、29ないし31、乙1、4、6、9ないし27、104ないし106、108〕
ウ 原告の経営状況等
 原告は、SW社とSG社とが共同で出資して平成21年3月に設立した株式会社であるが、SW社とSG社とで平成20年に共同で企画、実施したディスコイベント「UP!ウルトラポジション」で多額の赤字を出したことから、数千万円に及ぶ費用の負担を巡って、いったんは全額を負担して回収を求めるSW社と支払に応じないSG社との間で見解が対立していた。また、原告の主要事業の一部門である飲食店事業において、SG社が運営するChano-maが開店以降赤字を計上しており、その赤字をSW社が運営するuniceや原告モデル事業部があげた収益で補填しても原告全体において赤字を計上する事態に陥っていたことから、SW社のSG社への不満や、Chano-maの経営方針を巡る両社間の意見対立等から、SW社とSG社の間に確執が生じていた。原告は、平成23年10月頃には、月々の対外的な支払が滞りかねない状況となり、その頃、SW社から原告の資金繰りを解消するためにSG社と両社で原告に資金注入をする提案がされたが、資金注入に乗り気でないSG社から対案として、Chano-maの固定資産を買い取り、原告から同店の使用許諾を得ることとしたいとする提案がされ、これに対してSW社が一方的な資産の引き上げであり容認できないとして上記SG社の提案を拒否するといったやりとりが交わされるなど、原告の経営方針を巡って両社が折り合うことがなかった。
 そして、平成23年10月にBが原告の代表取締役を退任して、新たにDが代表取締役に就任したが、カフェChano-maの経営が依然として芳しくなく原告が赤字を計上し続ける状況が続いたため、SW社とSG社との間で原告への資金注入について検討され、SW社が資金注入したものの、SG社はSW社が提案する負担額に難色を示すなどして資金注入に応じなかった。SW社は、SG社に対して、上記カフェの経営改善の具体策を示してそれを実行するように要求し、さらには、原告の解散も視野に入れて今後の方針を検討する必要があると提案し、ついには、平成24年初め頃に弁護士を交渉窓口に選任して、SW社がuniceと原告モデル事業部を吸収してSG社がChano-maを吸収するとして、原告を清算すると提案した。これに対してSG社は原告の事業継続を主張し、原告の存続の是非を巡って両社が折り合う余地がない状況に陥った。また、原告の取締役会は、同年12月以降、議題に「取締役間の関係正常化」が挙げられたほか、招集手続がとられてもBとAが出席しないため開催されなかった。
 SW社は、平成22年9月頃に前記ディスコイベントに係る経費負担に関してSG社と互いに費用負担相当分を原告への貸付とし、原告からの支払をもって回収するとの処理をしたが、SW社は、平成24年5月18日、原告に対し、2206万5413円の支払を求めて当庁に貸金返還請求事件の訴えを提起し(当庁平成24年(ワ)第14098号)、SG社はこれを争ったが、判決言渡しが迫った平成25年1月17日に任意の支払に応じることとし、金利も含めて全額を一括で支払った。
 原告では、同日、DとSG社出身である原告の監査役が、SW社出身の原告の経理担当の制止を振り切って、原告の金庫から原告名義の預金通帳と銀行印を持ち出した。これは被告Y1らの目の前で行われた。その預金通帳と銀行印は現在もSG社側が管理している。
 また、同月21日には、SG社が商標「SUPERBALL」をSW社に知らせることなく平成24年12月17日付けで商標登録出願していたことが発覚したが、この出願は被告Y1らにも知らされていなかった。
 ところで、Cは、平成24年12月4日、被告Y1を代官山の喫茶店に呼び出し、同人に対し、SW社が原告を解散したいとの意向だが、SG社は会社を継続させる方針であり、原告モデル事業部はSG社が引き取って事業を続けるなどとCの意向を伝えた。被告Y1は、Cに、役員間で対立する状況で原告モデル事業部の事業を続けていくことに限界を感じており、被告Y1らが原告を退職することも考えている旨伝えたが、Cは、被告Y1に原告に留まって原告モデル事業部を運営するように説得した。さらに、被告Y1は、平成25年1月中旬頃にも、Dに「もう限界です。」、「辞めたいです。」などと口頭で伝えていた。
〔甲2、13、28ないし31、乙5、7、29、57ないし76、81、104ないし106、108〕
エ 本件面談の内容等
 被告Y1らは、遅くとも平成25年1月21日頃には、原告を退職することを決意するに至り、被告モデル事務所を新たに開設することを計画した。
 そして、被告Y1らは、同月24日から同月26日までの間に、原告モデル事業部に所属するモデル13名のうち、Cの娘であるモデル1名を除く12名を、一人ずつ事務所に呼び出し、本件面談を行った。
 本件面談では、被告Y1らは、被告Y1においてモデルに対し、原告に出資しているSW社とSG社との間で対立が生じていて、裁判により原告の口座が凍結されてモデルへのギャラを支払えなくなる可能性があるほか、「SUPERBALL」がSG社に商標登録されてしまい、原告モデル事業部の存続が危ぶまれており、被告Y1らは原告を退職して新たにモデル事務所を設立するつもりでいること、今後の選択肢として、原告モデル事業部に引き続き所属するか、他のモデル事務所に移籍するか、被告Y1らが設立するモデル事務所に移籍するかなどがあり、それぞれのモデルが任意に選択できること、原告モデル事業部は被告Y1らが辞めるとそれまでモデル事業に携わっていた者がいなくなること、さらに、本件面談の内容は他のモデルには言わないでほしいことなどを口頭で説明した。
 また、被告Y1らは、「専属契約書」を交わしたモデルには、あらかじめ同契約書を持参するように指示しており、面談の際に、モデルから移籍の意思を確認した段階で、同契約書をシュレッダーで裁断したほか、原告モデル事業部に保管していた同契約書もシュレッダーで裁断した。 なお、被告Y1らは、その後にDに、本件契約は全て被告Y1がモデルらと口頭で締結したものであると説明したところ、Dから契約書の存在を問われ、被告ら訴訟代理人を通じて、専属契約書は存在しないと説明した。
 被告モデル事務所に移籍したモデルは、同事務所への移籍を選択した理由として、原告モデル事業部での仕事が順調にいっており、被告Y1らに引き続きマネジメントをしてもらいたいと考えたとか、モデルの芸能業務を被告Y1らに教育してもらい、引き続き被告Y1らの下でモデルを続けたいと考えたなどと述べている。
〔甲5、9、29ないし31、乙23、104ないし106、108ないし110〕
オ 本件面談後の経過等
(ア) CとDらは、被告Y1らが本件面談をしたことを知り、平成25年1月29日、原告モデル事業部の事務所に行き、在所した被告Y2に対し、同事務所の鍵の引渡しを求めたり、被告Y1らが原告モデル事業部から所属するモデルを引き抜いたと主張してその経緯を追及したり、自分自身の見解を主張したりした。
 被告Y1らは、被告ら訴訟代理人に原告からの退職手続等を委任し、同弁護士を通じて、平成25年1月30日、退職届をそれぞれ原告に提出するとともに、以後の原告との連絡は同弁護士が担当する旨通知した。
 同年2月15日、被告モデル事務所の開業が公表され、同月18日、同事務所を運営する被告会社が設立された。被告会社では、その設立に当たって、被告Y2が代表取締役に就任したが、その後の平成26年1月1日、同人が退任して、被告Y1が新たに就任した。なお、被告Y1らは、原告モデル事業部から、所属するモデルらに関する情報や、依頼主等の取引に関する情報を持ち出していた。
 また、本件面談をしたモデルのうち11名が、平成25年2月15日付けで被告モデル事務所に移籍した。併せて、同モデルらは、同月17日、M弁護士を代理人として原告に通知し、同月14日をもって本件契約を解除する、又は遅くとも本通知をもって本件契約を解除するとの意思表示をした。
 本件面談が行われた後、本件面談をしたモデルのうち1名が、原告モデル事業部から他のモデル事務所に移籍し、その余の本件面談をしていなかったモデル1名も、原告モデル事業部を退所したため、結局、原告モデル事業部に所属するモデルは一人もいなくなった。
〔甲6、10、27、28、乙2、3、6、8、28、89、101ないし106、108ないし110〕
(イ) ところで、モデルへの報酬支払が原告の資金繰りを理由に滞ったことはなく、被告Y1らへの給与の支払いが滞ったこともない。また、原告の資金繰りが原告モデル事業部の運営に支障を来したことを窺わせる具体的事情も見当たらない。
(ウ) 被告Y1らは、原告に退職届を提出してから平成25年2月14日まで、毎日、業務引継報告書を作成して、被告ら訴訟代理人を通じて原告にメール送信した。同報告書には、その日に依頼主から発注のあった就労案件や、その日に行われた就労案件等について、案件ごとに個別に、発注業者とその連絡先、依頼主名、媒体、依頼主から原告に支払われる報酬の金額、担当のモデルを、さらに発注案件についてはオーディションや本番の日も記載していた。
 また、被告Y1らは、原告に対し、原告モデル事業部の引継担当者を指定し、被告ら訴訟代理人に連絡され次第、引継業務を行う旨申し入れていた。
 これに対して原告は、引継担当者を連絡するなどの措置をとることはなかった。
〔乙4、6、9ないし17〕
(エ) さらに、平成25年2月15日から同月28日まで、被告Y1が、業務引継報告書を作成して、被告ら訴訟代理人を通じて原告にメール送信した。
 被告Y1は、同月19日、Dから、被告ら訴訟代理人を通じて、原告モデル事業部に所属するモデルの氏名や住所、連絡先といった情報の開示を要求され、それらの情報を被告ら訴訟代理人を通じて同月22日にDに開示した。
 また、被告Y1は、原告モデル事業部の業務フロー及び業務概要としてA4判1枚に業務を項目立てして列挙したものと、依頼主等について、その社名や担当者、住所、連絡先等をまとめた一覧表を作成して、同月28日に原告に対して送付した。
 ほかに被告Y1らから原告モデル事業部に関して原告に提供したものはない。
〔乙18ないし27〕
(オ) 原告では、原告モデル事業部を引き継ぐ者がなく、新たに所属したモデルもおらず、原告モデル事業部の売上は平成25年4月以降分から皆無となった。
(カ) 原告は、平成25年3月27日、原告訴訟代理人において、被告モデル事務所に移籍したモデル全員に対し、当該移籍は本件契約に違反する行為であり、原告が損害賠償請求する予定であること、請求額は高額になることが見込まれることなどを通知するとともに、本件面談の内容について回答を求めるアンケートを送付し、さらに、同年5月13日、上記モデル全員に対して損害賠償金の支払を求めて損害賠償等請求事件の訴えを当庁に提起した。
 なお、原告において、被告ら訴訟代理人から上記モデルらの住所や連絡先といった情報の開示を受けても、引き止め等のために連絡をとることはなかった。
〔乙52ないし54、弁論の全趣旨〕
(キ) 被告モデル事務所に移籍したモデルのうち、1名が平成25年4月1日付けで、1名が同年8月1日付けでそれぞれ他のモデル事務所に移籍した。
〔乙104〕
(2) 検討
ア 上記(1)で認定した事実によれば、被告Y1らが、原告に在職中、原告の役員らに対して秘密裏に、原告モデル事業部に所属する13名のモデルのうち11名という大半のモデルに本件契約を解除させ、被告Y1ら自身も、他にモデル事業のノウハウをもつ者が原告にいないことを知りつつ原告を退職して、被告モデル事務所を開設し、上記モデルらを新たに開設した被告モデル事務所に移籍させ、その結果、原告モデル事業部は事業の継続が不可能な事態に陥ったことが認められるから、被告Y1らの上記行為は、社会通念上、自由競争の範囲を逸脱した違法なモデルの引き抜き行為であるというべきであり、原告に対する不法行為を構成すると認めるのが相当である。
イ この点に関して被告Y1らは、被告モデル事務所への移籍は飽くまでモデルらの自由意思によるものであるとして、被告Y1らの行為が違法な引き抜き行為ではないと主張する。
 しかし、前記(1)エで認定した本件面談の状況によれば、被告Y1らは、密かにモデルらを一人ずつ呼び出し、モデルが原告モデル事業部の代表者として認識している被告Y1において、あえて自らも、原告を退職する意向をモデルに伝えて、それまでモデル事業に携わってきた者が原告からいなくなることをモデルに認識させた上、モデルらがあずかり知らない原告の経営状況、すなわち、出資者間で原告の事業継続を巡って争われていること、一方の出資者が原告に訴訟を提起した際に、原告の資産が差し押さえられてモデルらの報酬が未払となるおそれが生じたこと、他方の出資者が原告モデル事務所の名称を独断で商標登録出願をし、原告モデル事業部が従来のように事務所名を使用できないおそれがあることなど、これを聞いたモデルらをして原告モデル事業部の存続について不安を抱かせる事情をモデルらに伝えたこと、加えて、前記(1)アで説示した被告Y1による依頼主や芸能業務の案件の獲得の経緯のように、モデルの芸能業務の案件はモデル業界のノウハウや縁故を通じてモデル事務所が獲得するものであるから、モデルらにとっては、それまで問題なくマネジメントしてもらってモデル業を続けていたのであれば、引き続き関係を継続することを望むものと推察されるところ、被告Y1らは自ら新たに開設する被告モデル事務所を紹介しており、その行為は、モデルにとって移籍の動機付けとなる働きかけになると認められる。
 そうすると、被告Y1らが原告モデル事業部への残留を含めた他の選択肢をモデルに提示したとはいえ、実質的には、原告モデル事業部を退職して被告モデル事務所に移籍することを強く勧めたものというべきであるから、その行為の違法性を否定することはできず、ほかに被告Y1らの行為について違法性を肯定する認定判断を左右するような事実を認めるべき的確な証拠はない。
 また、被告Y1らは、出資者間の確執が激化して、原告モデル事業部が運営を続けていくことが不可能な状況にあったと主張する。
 この点、確かに、前記認定のとおり出資者間に回復困難な確執が生じており、原告の事業方針が定まらない状況にあったことが認められるものの、前記(1)オ(イ)のとおり、モデルへの報酬支払が原告の資金繰りを理由に滞ったことはなく、被告Y1らへの給与の支払が滞ったこともなく、他に原告モデル事業部の事業に支障を来したことを窺わせる具体的事情も認められず、かえって、被告Y1らは、「専属契約書」を交わしたモデルらにはそれを本件面談に持参させて、移籍の意向を確認すると直ちに当該書類を廃棄し、併せて原告モデル事業部で保管する「専属契約書」も廃棄した上、原告には、専属契約書は存在しないと説明していることからすれば、上記行為は、本件契約に関する証拠の隠滅行為といわざるを得ず、それらの点を考慮すると、被告Y1らの行為には計画性すら認められるというべきである。
 さらに、被告Y1らは、原告を退職後に原告モデル事業部の引継業務を尽くした旨主張する。
 しかし、前記(1)オの経過によれば、被告Y1らは自身が退職すれば原告にはモデル業務に通じた者が皆無となることを認識していながら、被告Y1らが引継業務として原告に通知した内容は、せいぜい案件ごとの依頼主からの入金処理との関係で必要な情報を提供する程度のものにすぎず、ほかに業務内容をごく簡潔に示すものや依頼主に関する情報を提供した程度であって、原告において原告モデル事業部の体制を立て直すに十分なものであったとはいえないから、原告において引継担当者を設けなかったことを考慮しても、被告Y1らの行為の違法性を否定することはできない。
 したがって、被告Y1らの上記主張はいずれも理由がない。
ウ よって、被告Y1らは、違法なモデルの引き抜き行為によって原告が被った損害を賠償する責任があるというべきである。
2 争点(1)イ(損害発生の有無及びその額)について
(1) 逸失利益について
ア 証拠(甲7、乙104、108)及び弁論の全趣旨によれば、原告においては、平成24年10月ないし平成25年1月までの期間中の、原告モデル事業部から被告モデル事務所に移籍した11名のモデルが担当した出演案件に係る各月ごとの売上額の合計は、下記表のa欄記載のとおりであるが、モデルごとに売上額が異なり、個々のモデルにおいても月単位で売上額に変動があること、原告モデル事業部の各月ごとの販管費(モデルの報酬や租税公課のほか、事務所の賃料、水道・光熱費、通信費、事務所スタッフに係る人件費、モデルの出演に係る出張旅費、法定福利費、消耗品費、減価償却費、システム関連費等の費用も含む。)の合計は、下記表のc欄記載のとおりであり、原告本部の各月ごとの販管費の合計は、下記表のe欄記載のとおりであること、原告モデル事業部は同事業部の販管費のほかに原告本部の販管費の3分の1を負担していたこと、上記期間中における原告モデル事業部に在籍したモデルの人数が平成24年10月末日当時で16名、同年11月末日当時から同年12月末日当時まで14名、平成25年1月末日当時で13名であったこと、上記モデル11名のうち1名が平成25年4月1日付けで、ほかに1名が同年8月1日付けで被告モデル事務所から他の事務所に移籍したこと、以上の事実が認められる。
 上記認定事実をもとに原告が本件により被った損害の額を検討するに、上記期間における原告の各月の純利益の額(ただし、被告モデル事務所に移籍した11名のモデル分)は、上記売上額から消費税相当分を控除した残額(下記表のb欄記載の額)から、原告モデル事業部の販管費及び原告本部の販管費のうち3分の1の額をそれぞれ当時原告モデル事業部に所属したモデルの総数のうちに被告モデル事務所に移籍したモデルの数(11名)が占める割合に換算した額(下記表のd欄及びg欄記載の額)を控除した残額(下記表の小計欄記載の額)と認めるのが相当であり、その月平均額は、79万0169円である。
(単位:円・税別) H24.10 H24.11 H24.12 H25.1
a 移籍したモデル11名各月売上小計 1,903,612 2,289,064 2,612,888 2,719,722
b a÷1.05 1,812,963 2,180,060 2,488,464 2,590,211
c SPB販管費 1,704,166 1,709,679 1,974,331 1,604,954
d c×11÷各月在籍モデル数 1,171,614 1,343,319 1,551,260 1,358,038
e 本部販管費 514,010 373,050 477,530 518,447
f e×1/3 171,336 124,350 159,176 172,815
g f×11÷各月在籍モデル数 117,793 97,703 125,066 146,228
小計(b-d-g) 523,556 739,038 812,138 1,085,945
イ 上記アを前提に具体的な損害額を検討するに、原告は、被告Y1らの違法な引き抜き行為と相当因果関係のある損害は、まず、逸失利益として、少なくともモデルが原告モデル事業部に所属して活動することによって得られた3か月分の利益相当額であり、さらに、被告Y1らが退職届を提出してから約2か月半にわたり、被告Y1らの違法な引き抜き行為への対応に原告代表者を充てざるを得なかったために原告代表者が本来行うべき営業活動に支障を来したことによる損失の合計額である旨主張するので、この点について以下検討する。
 前記1(1)イのとおり、まず、原告モデル事業部では、所属年数が長く、経験が豊富な複数のモデルと「専属契約書」を交わしており、そこには、「第2条(契約期間)」に「A甲または、乙が前項の期間満了の3ヶ月までに契約を更新しない旨の書面による通知をしない限り、本契約は自動的に期間満了の翌日から1年間更新され、その後の取り扱いについても同様とする。」と規定されていた。
 また、前記1(1)イのとおり、原告モデル事業部の資料「SUPERBALL MODEL GUIDANCE 2011」(甲2)の「契約/仮契約および退所/休業について」の項には、「やむを得ない事情で退所/休業する場合は、その3か月前までに必ず申告して下さい。」との記載があり(6頁)、被告Y1が同記載を参照しながら、モデルが原告モデル事業部に所属する際にガイダンスでモデルに説明していた。そして、被告Y1は、自分自身のモデルや俳優の経験から、同記載をモデルの芸能業務の円滑な実施のために必要な留意点として、上記資料に明記するとともに口頭でも説明していた。
 ところで、前記1(1)イのとおり、モデルが出演する雑誌の写真撮影やCMの撮影等は、原告モデル事業部が依頼主から直接受注するものもあれば、当該モデルがオーディションで選出されて受注するものもあり、案件ごとに依頼主が当該芸能業務に求める容姿や振る舞い等は異なり、その希望に適うモデルが当該芸能業務に従事していて、原告モデル事業部の中でもモデルによって出演する雑誌の写真撮影やCMの内容、出演数は様々であった。
 このように、モデルが従事する芸能業務は、雑誌に掲載する記事の内容や放映するCMの内容にふさわしい容姿や振る舞い等が求められ、個々の案件ごとに依頼先の要望に応じたモデルが選出されて当該案件に従事するものであり、芸能業務はその性質上、モデルの代替が容易でないということができる。そこで、モデル事務所は、多様なモデルを、かつ可能な限り長く所属させることが望ましく、そのために特に依頼案件が多いとか経験が豊富といったモデルを中心に、長期間確保する体制をとっているということができる。
 以上の見地から上記「専属契約書」及び上記資料をみると、上記「専属契約書」には自動更新条項を設け、上記資料には3か月前に予め解除の意思表示をするようにモデルに求める旨の記載があり、これらは被告Y1が自分自身のモデルや俳優の経験から、原告モデル事業部の円滑な運営に必要と認めて取り入れたものであるから、原告モデル事業部においても、モデルを長期間確保する体制をとっていたと認めることができるのであって、原告にとってモデルが原告モデル事業部に相応の期間継続して所属し、活動することによって得られる利益が法的保護に値する経済的利益として認められるべきであると考えるのが相当である。
 そして、モデルが移籍した場合には、モデル事務所としては、モデルの補充に努めることになろうが、元の状態に業績が回復するまでに相応の期間がかかることになるところ、原告モデル事業部が上記資料において3か月前に予め解除の意思表示をするようにモデルに求めていたこと、契約を更新しない場合には満了日の3か月前には予めその旨を伝えることをモデルに求めていたこと、加えて、被告モデル事務所に移籍したモデルらの在籍期間が1名を除き3か月を超えていることに照らすと、在籍するモデルが予告なく、一斉に退社した場合に原告が被る逸失利益の額は、少なくとも純利益の月平均額の3か月分に相当する額を基準に算定すべきようにも思われる。
ウ しかし、本件においては、前記1(1)イ、オ(ア)、(キ)のとおり、被告モデル事務所に移籍したモデル11名のうち原告モデル事業部と「専属契約書」を交わしていたのは6名にすぎず、しかもうち1名は在籍1か月半ほどで被告モデル事務所から移籍したこと、平成24年10月から平成25年1月の期間において3名のモデルが1週間ないし2週間の在籍期間で原告モデル事業部を退所している事実に照らせば、原告モデル事業部の在籍期間が一様でなくごく短い場合もあり、モデル事業が人材の流動性のある業態であると認められること、加えて、前記1(1)アのとおり、原告モデル事業部のモデルや依頼主の獲得、芸能業務の実績といった収益に直結する主要な要素は、被告Y1がその実績・経験から培ったノウハウや縁故関係といった個人的資質に大きく依存しており、そこに被告Y2及び被告Y3のマネージャー業務による貢献が大きく作用しており、他方で、原告は被告Y1らなしには原告モデル事業部を運営する能力を有していなかったものと認められるから、被告Y1らによるモデルの引き抜き行為がなくとも、被告Y1らの退職そのものによって、モデルらが自らの意思で自然に次々と退職していく可能性があることは否定できないこと、以上の事実が認められ、被告Y1らがした引き抜き行為によって原告が被った逸失利益として相当因果関係のある損害を算定するに当たり、それらの事情を斟酌することが相当である。
 以上の諸事情を総合考慮すると、本件において被告Y1らの引き抜き行為によって原告が被った逸失利益として相当因果関係にある損害といえるのは、純利益の月平均額の3か月分から4割を控除した残余の部分と認めるのが相当である。そうすると、その額は、1か月当たりの純利益の平均額の3か月分(237万0507円=79万0169円×3月)から4割を控除した142万2304円(端数切り捨て)と認められる。
エ この点に関して被告らは、上記逸失利益は原告が損害の発生を回避する努力を怠った結果によるものであり、被告Y1らの行為との間に相当因果関係がないと主張する。
 しかし、先に説示したとおり、被告Y1らは、原告にはモデル業務に通じた者が皆無となることを認識しつつあえて原告を退職して、原告モデル事業部に所属するモデルの大半を被告モデル事務所に引き抜き、被告Y1らが業務引継報告書により原告に提供した内容は、せいぜい案件ごとの依頼主からの入金処理との関係で必要な情報を提供する程度のものにすぎず、ほかに業務内容をごく簡潔に示すものや依頼主に関する情報を提供した程度であって、原告において原告モデル事業部の体制を立て直すに十分な引継をしたとはいえないのであり、その結果、原告モデル事業部はモデル業務の継続が不可能な状況に陥ったものであるから、原告がモデルの慰留に努めなかったとしても、被告Y1らの行為と原告が被った上記損害との間に相当因果関係があると認めるのが相当である。
 したがって、被告Y1らの上記主張は採用することができない。
オ ほかに、原告は、原告代表者が時間を割かなければならなかったことにより生じた損失があると主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠がないから、この点に関する原告の主張は理由がない。
(2) 弁護士費用について
 本件事案の内容や認容額等諸般の事情を総合考慮すると、被告Y1らによる不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金は15万円と認めるのが相当である。
3 争点(2)(原告の著作権侵害の成否)について
 原告は本件各写真の著作権を有すると主張する。
 しかし、証拠(乙34、35、37ないし50、被告Y1)によれば、本件各写真は、モデルが個人的にカメラマンに撮影を依頼し、カメラマンがモデルの意見も取り入れて、撮影場所や構図、光量、立ち位置、アングル、ポーズ等を選択して撮影したものであること、カメラマンとモデルとの間で、カメラマンが著作権を保有し、モデルにはプロフィール紹介の用途に限り使用を許諾するとして合意が成立していたこと、原告モデル事業部においては、モデルが上記許諾に基づき持ち込んだ写真を原告サイトに掲載していたが、写真撮影に係る費用を負担することはなかったこと、以上の事実が認められ、同認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
 上記認定事実に照らすと、原告が本件各写真の著作権を取得したと認めることはできない。
 したがって、その余の点について検討するまでもなく原告の著作権侵害の主張は理由がない。
4 結論
 以上の次第であるから、原告の被告Y1らに対する請求は157万2304円及びこれに対する平成25年5月12日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないから棄却することとし、また、原告の被告会社に対する請求は全部理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 東海林保
 裁判官 実本滋
 裁判官 足立拓人
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