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【事件名】司法書士試験対策本の著作物性事件B 【年月日】平成27年1月30日 東京地裁 平成25年(ワ)第22400号 著作権侵害停止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成26年11月21日) 判決 原告 株式会社東京リーガルマインド 同訴訟代理人弁護士 晝間光雄 同 鈴木孝太郎 同 菊地暁 同 庄野功章 被告 A 同訴訟代理人弁護士 三山峻司 同 松田誠司 同訴訟復代理人弁護士 清原直己 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1請求 1 被告は、別紙2「被告書籍目録」記載の書籍を被告の管理に係るインターネット上のウェブサイトにおいて複製、自動公衆送信又は送信可能化してはならない。 2 被告は、別紙2「被告書籍目録」記載の書籍を販売又は頒布してはならない。 3 被告は、別紙2「被告書籍目録」記載の書籍を廃棄せよ。 4 被告は、原告に対し、210万円及びこれに対する平成25年9月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 本件は、別紙1「原告書籍目録」記載の書籍(以下「原告書籍」という。)の著作権を有するとする原告が、別紙2「被告書籍目録」記載の書籍(以下「被告書籍」という。)を販売するなどしている被告に対し、被告が被告書籍を販売・頒布する行為は、原告の複製権(著作権法21条)及び譲渡権(同法26条の2)を侵害し(なお、「頒布」には、複製物を公衆に貸与することが含まれるが〔同法2条1項19号〕、原告は貸与権〔同法26条の3〕の侵害には言及していない。)、また、被告がその管理するインターネットサイト上で被告書籍を表示・配信する行為は、原告の複製権(同法21条)、自動公衆送信権及び送信可能化権(同法23条)を侵害すると主張して、著作権法112条1項に基づき、被告書籍の販売・頒布、並びに上記サイト上における被告書籍の複製、自動公衆送信及び送信可能化の差止めを求めるとともに、侵害の停止又は予防に必要な措置(同条2項)として、被告書籍の廃棄を求め、さらに、不法行為(著作権侵害に基づく請求と一般不法行為に基づく請求の選択的併合)に基づく損害賠償金210万円(被告書籍の販売に対する使用料相当の損害10万円と弁護士費用200万円の合計)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成25年9月7日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 前提事実(争いのない事実以外は、証拠等を末尾に記載する。) (1) 当事者等 ア 原告は、各種国家資格・公務員試験受験指導、社会人向けキャリアアップ支援事業、人材派遣紹介事業等を主たる業務とする株式会社である。 イ 被告は、平成6年8月から、原告の従業員(準社員と称されるアルバイト)として稼働するようになった。被告は、平成7年1月以降、原告と期間を1年間とする「業務委託規約」と題する契約(以下、単に「業務委託規約」ということがある。)を順次締結し、平成23年3月15日までの間、これらの契約に基づく委託業務として、原告の開講する司法書士試験受験対策講座における講師業務等に従事した(甲3ないし16)。 (2) 原告書籍 原告書籍(甲17)は、「2011年A一発合格塾 本論編 不動産登記法@」と題される書籍であり、平成22年から平成23年にかけて原告の開講した「A一発合格塾」と題する講座(被告が講師を務めた司法書士初級講座の一つ。)において使用する不動産登記法のレジュメないしテキストとして作成されたものである。 (3) 平成21年10月1日から平成22年9月30日までの間の業務計画書に基づく業務委託規約(甲16)の内容 原告と被告において締結された上記期間の業務委託規約には、次の条項(以下、同業務委託規約〔契約〕のうち同条項に関する部分を「本件著作権譲渡条項」という。)がある。 「第5条【著作権等】 1 乙(判決注:被告)は、委託業務の遂行に伴い、乙が行った講義を収録した収録物(WEB・デジタルデータを含みます。以下、「講義収録物」といいます。)並びに乙が講義に関係するか否かを問わず制作した原稿(宣伝物原稿等を含みます。)及びこれを使用した書籍・テキスト・レジュメその他の制作物(以下、「本制作物」といい、他人の制作物と合わせて一つの制作物(教材)とする場合を含みます。以下同じです。)の著作権(著作権法第21条〜第28条に定める全ての権利。以下、同じです。)を、発生と同時に甲(判決注:原告)に譲渡するものとします。(以下略)」 (4) 被告の行為 ア 被告は、平成23年3月16日、インターネット上に、「A司法書士予備校」と題するウェブサイト(http://shihoshoshi-school.net/)(以下「被告サイト」という。)を開設し、被告サイト上において、司法書士試験科目の受験対策講座として、被告自ら講義する「WEB講座」(以下「被告WEB講座」という。)を無償で配信し、同講座で使用する書籍・DVDの販売等を内容とする事業(以下「被告事業」という。)を開始した(甲18)。 被告WEB講座では、被告サイトの左側に被告の講義映像を配置し、被告サイトの右側に講義テキストの映像を配置し、被告の講義を動画で視聴すると同時に講義テキストが見られるように表示している。被告は、平成25年8月20日時点までに、被告サイトの「初級 INPUT 講座」において、不動産登記法講義部分として24回まで公開、配信した(甲20)。 イ 被告書籍(甲19)は、司法書士試験合格を目指す初学者向けに、不動産登記法の基本的概念を簡潔に説明するものであり、被告WEB講座における講義テキストを製本化したものである。 被告は、WEB講座テキスト全24冊セットを定価4万8000円で販売し、被告書籍はこの中の1冊として販売されている(甲21、22)。 3 争点 (1) 本件訴えの適法性(争点1) (2) 著作権侵害の成否(争点2) (3) 一般不法行為の成否(争点3) (4) 本件著作権譲渡条項の有効性(争点4) (5) 差止め及び廃棄請求の可否(争点5) (6) 損害額(争点6) 第3 争点に対する当事者の主張 1 争点1(本件訴えの適法性)について (被告の主張) 本件訴えは、実質的にみて、東京地裁平成23年(ワ)第14347号著作権侵害停止等請求事件(以下「前訴」という。なお、前訴は、本訴と同一の当事者間で争われたものであり、前訴の原告であった本件原告の請求が全部棄却され、前訴の被告であった本件被告が全面勝訴した判決が確定している。)の蒸し返しであって、不適法である(最高裁平成10年6月12日第二小法廷判決・民集52巻4号1147頁(以下「平成10年最判」という。)参照)。すなわち、原告が本訴において主張する事実関係は、前訴において主張した事実関係とほぼ同一であること、原告は、前訴において著作物性及び複製の成否に関する主張立証を十分にしていたことに加え、原告は、本訴の対象である被告書籍についても前訴の対象として、紛争を一回的に解決することが可能であったにもかかわらず、あえて前訴とは別個に本訴を提起したことからすれば、本訴における原告の請求及び主張は、実質的には、原告の敗訴に終わった前訴における請求及び主張の蒸し返しに当たる。 のみならず、本訴は、被告への嫌がらせという不当な目的で提起されたものであって、信義則に反し、許されない。 したがって、本件訴えは、却下されるべきである。 (原告の主張) 原告は、相応の理由があって本訴に及んだものであり、前訴の判決の理由中で既に判断が示された争点を蒸し返して、再度判断のやり直しを求めるものではないし、被告への嫌がらせを目的とするものでもない。 前訴と本訴とは、単なる数量的な一部と残部という関係にはなく、平成10年最判の事例とは、内容を異にする。すなわち、原告が前訴で取り上げたのは民法のテキストであり、著作物性についての主張をテキスト中の特定の部分に限定していたのに対し、本訴で取り上げているのは不動産登記法のテキストである上、著作物性についての主張もテキスト中の特定の部分のみでなく、原告書籍全体をも問題としているのであって、著作物性の判断も異なり得る。 したがって、本件訴えは、何ら不適法ではない。 2 争点2(著作権侵害の成否)について (原告の主張) (1)ア 原告書籍は、司法書士試験の合格に必要な不動産登記法の知識を分かりやすく解説したものであり、言語の著作物に該当するものである。法律の解説という作業には不可避的に創作性の幅に限界があることから、原告書籍中の個々の記載について著作物性が低いと判断されるおそれがあるとしても、被告書籍は一定以上のまとまりをもって原告書籍と具体的表現を共通にし、また、記述の順序も原告書籍と同一であるから、複製権侵害が成立する。 イ 原告書籍の総ページ数は271頁、被告書籍の総ページ数は294頁あり、総ページ数に23頁の差があるが、被告書籍に新たに追加されたのは17頁分で、その他の頁数の増加分は、単に改頁する箇所を変えて余白を増やしたことによるものである。被告書籍における追加部分は、原告書籍の元の記載をはっきり識別できるようまとまりをもって挿入されているため、追加部分を除いた部分は、1頁ごとに対照できるほど原告書籍と同一である。被告書籍294頁のうち、271頁分の記載は原告書籍に依拠しており、その分量は全体の9割を超える。 以下、原告書籍と被告書籍の同一性の立証のためには300頁弱に及ぶ両書籍のほぼ全ページを対照する必要があるが、その数は膨大であるため、例として示したものが別紙3「対比表」、別紙5「対比表」及び別紙5「対比表つづき」(以下、特にことわりのない限り、別紙5「対比表」及び別紙5「対比表つづき」を併せたものを「別紙5『対比表』」という。)であり、別紙6は、原告書籍と被告書籍の対応頁を一覧表にしたものであり(数字は頁、括弧内の分数は当該頁に占める割合を示す。)、黄色で網掛けした部分が、被告書籍において追加された部分である。 原告書籍と被告書籍が同一であることは、次の(2)「別紙3の対比について」及び(3)「別紙5の対比について」においてその詳細を述べるが、被告書籍は、これらの対比で掲げた抜粋部分以外の部分も、抜粋部分と同程度に全部にわたって原告書籍と一致するものである。 ウ 原告書籍は被告が作成したものであること、被告書籍は原告書籍とほとんど同一であり、同一の原稿データを用いて、記号やイラストを差し替え、若干の加筆をしただけであることは一目瞭然であり、被告書籍は、原告書籍に依拠して作成されたものといえる。 (2) 別紙3の対比について 別紙3「対比表」1ないし16右側の「原告書籍」欄が原告書籍、同表左側の「被告書籍」欄が被告書籍の記載である。 別紙3「対比表」1ないし16の原告書籍の各部分に著作物性があり、それぞれ被告書籍に複製されていることから、当該部分に対する著作権侵害が成立するだけでなく、著作物性がある部分は、同様に原告書籍全体に及び、すべてが被告書籍に複製されているから、原告書籍の全体に著作権侵害が推認される。別紙3の対比にかかる「原告書籍の著作物性」及び「原告書籍と被告書籍の同一性」についての原告の主張は、別紙7「別紙3対比表についての原告の主張」に記載のとおりである。 別紙3「対比表」1ないし16の各部分について、原告書籍における創作性の幅が狭いとしても、被告書籍は全面的に原告書籍に依拠しており、順序、内容ともに若干の加筆部分を除くほか原告書籍と共通しており、キャラクターや記号等、容易に変更可能な形式的部分を差し替えただけの実質的なデッドコピーに当たり、全体として複製権侵害が成立するというべきである。 仮に、全体として著作権侵害が認められないとしても、少なくとも、別紙3「対比表」記載の各部分に限定した形で、著作権侵害は認められるべきである。 (3) 別紙5についての対比 ア 別紙3「対比表」記載の原告書籍の各部分に著作物性が認められないとしても、原告書籍を一定以上のまとまりで見た場合にはなお著作物性があり、別紙5「対比表」に掲げたまとまりについて、被告書籍に複製されていることから、一定のまとまり部分に対する著作権侵害が成立し、当該著作物性は原告書籍の全体に及び、そのすべてが被告書籍に複製されているから、著作権侵害が成立する。なお、一定以上のまとまりとして原告が主張するのは、下記@ないしEのまとまり(以下、下記@ないしEのまとまりを併せて「各まとまり」ということもある。)である。 @ 原告書籍1ないし17頁(第1編・第1章の一部)と被告書籍1ないし17頁(第1編・第1章の一部)のまとまり(以下「まとまり@」という。) A 原告書籍35ないし40頁(第2章の一部)と被告書籍38ないし43頁(第2章の一部)のまとまり(以下「まとまりA」という。) B 原告書籍219ないし222頁(第3章)と被告書籍240ないし243頁(第3章)のまとまり(以下「まとまりB」という。) C 原告書籍223ないし227頁(第4章の一部)と被告書籍244ないし248頁(第4章の一部)のまとまり(以下「まとまりC」という。) D 原告書籍248ないし253頁(第5章の一部)と被告書籍269ないし274頁(第5章の一部)のまとまり(以下「まとまりD」という。) E 原告書籍257ないし263頁(第6章の一部)と被告書籍278ないし284頁(第6章の一部)のまとまり(以下「まとまりE」という。) イ 別紙5「対比表」についての原告の主張の詳細は、別紙8「別紙5対比表についての原告の主張」に記載のとおりである。 別紙5「対比表」の各まとまりは、体言止め、箇条書き、四角で囲む、矢印等の図式的な表現、樹形図、図表、売買契約書や登記申請書の見本、イラストを用いて、長文による解説を避け、読み手の視覚に強く訴える視覚的表現がなされており、この表現方法は原告書籍独自のものである。 原告書籍は、個別の表現を連ねたひとまとまりの記載に創作性があるのであって、別紙8において指摘したとおり、被告書籍は、その全部にわたり、原告書籍と見出し、項目立て、記載順序の全てが同一であり、具体的文章表現も、瑣末な部分を除き原告書籍と同一であり、レイアウトも酷似している。被告書籍は、他に異なる表現があり得るにもかかわらず、原告書籍と同一性を有する表現が全部にわたって続いており、原告書籍の複製に当たる。 ウ また、少なくとも、各まとまりは、見出し、項目立て、記載順序の全てが同一であり、具体的文章表現も、瑣末な部分を除き原告書籍と同一であり、レイアウトも酷似しているから、各まとまりは、原告書籍を複製したものといえる。不動産登記法のテキストに創作性の限界があるとしても、以上のような甚だしい一致は複製でなければ到底起こりえないものである。これを複製権侵害と言わなければ、およそ法律学の受験用テキストに著作物性はなく、いくらでもコピー可能であるというに等しく、そうした結論が不合理であることはいうまでもない。 (4) 原告書籍全体としての著作物性について ア 原告書籍は、受験生の学習意欲を喚起し、学習にかける労力を軽減し、試験に必要なポイントをすばやく把握でき、試験直前期のまとめとしても役立つ教材こそが、司法書士試験対策の教材として最上であるという受験生目線の思想のもと、学習効率を最大化するために工夫を凝らした教材である。この思想に基づき、原告書籍は、文章による詳細な解説をあえて記載せずに、箇条書き的な表現や体言止めを用いてポイントとなるべき事項を端的に紙面に表現し、表、図、イラスト、登記申請書や契約書の見本の記載を用いて視覚的に、創作的に表現している。 また、原告書籍は司法書士試験対策に必要な知識を解説したものであるから学術の範囲に属するものであり、著作物に該当する。 イ 上記アで述べた、受験生目線の思想を創作的に表現したものであることは具体的に次のとおりである。 (ア) 原告書籍の特徴は、文章による解説を極力排除し、箇条書き、体言止め、項目を樹形図的に表現したもの及び図表を主に用いて、司法書士試験合格に必要な知識だけを端的に表現した点にある。 学習意欲を喚起するという思想からは、文章はできる限り短く、端的であることが望ましい。原告書籍には、長い文章による解説は全くなく、キーワードに加えて2、3行程度の文章を記載するにとどめている。図表や箇条書き的な表現を用いて、ポイントを分かりやすくすることで、受験生の学習に対する抵抗感を払拭し、学習意欲を高める教材となっている。原告書籍は、受験生がマーカーを施すべき部分があらかじめピックアップされているため、受験生は自身で知識の重要度を峻別する手間をかけることなく、ポイントを把握することができる。 さらに、原告書籍は、図表を多数掲載して、箇条書きなど端的な表現で試験に必要な知識を記載しており、視覚的にわかりやすいものとなっているため、試験直前期において見返しても、瞬時に記憶を喚起することができる。原告書籍は、必要な情報だけがまとまった形で記載されており長い文章を読む必要がないから、初学者の精神的な負荷を取り払うことができ、要点が頭に入りやすく、読みこなす・ポイントを峻別する・まとめを作るといった実際的な労力も軽減させることができる。勉強の進んだ者には、試験頻出事項の確認用ノートとして、試験直前まで活用できる教材に仕上がっており、まさに受験生目線で使いやすい形を追求したものである。さらに、原告書籍はイラストを多用し、事例に即した属性や表情をした人物や、イラストにセリフを加えて漫画調の表現にしているが、これは、受講生から「テキストを漫画にしてほしい」との要望があったことを踏まえて、できる限り軽いタッチで取り組みやすいテキストにしようとした工夫の産物である。情報の一覧性を高めて、受験生にとって使いやすいテキストを形成する要素となっている。 (イ) 原告書籍の構成も受験生目線のものとなっている。例えば、所有権移転登記について、まず特定承継について解説し、次に包括承継について解説している。他の書籍においては、包括承継から解説するのが通常である(甲26、27、甲28の2)。包括承継が、相続・合併・会社分割の三つであるのに対し、特定承継は包括承継以外の全部であるから、包括承継から説明する方が説明はしやすいが、受験生の立場からすれば、日常生活に最も身近な所有権の移転原因は売買であるから、売買による所有権移転登記についてまず学習することで、所有権転登記に対する理解の効率は格段に高くなる。このように、原告書籍は、説明の便宜ではなく、受験生の立場からどうすれば学習しやすいかを最優先にした構成となっており、この点においても受験生目線の思想が現れている。 (ウ) 原告書籍の各記載における創作性の表れ 原告書籍は、全編を通して受験生目線という思想で作成されており、受験生に分かりやすく、復習の際に役立つノートとなるように、受験生が必要とするポイントを予め抽出し、視覚的に示している。司法書士試験対策の他の書籍においては、解説を文章で丁寧に書き下すことで分かりやすさを追求するものもあるが、原告書籍は、解説の中で覚えなければならないポイントの部分を最低限の文言で記載した構成となっており、その創作性は非常に高いものであるから、原告書籍全体の著作物性に疑いはない。 原告書籍全体が、上記のような受験生目線の思想、コンセプトで作成されており、原告書籍の各所に表れている。例えば、別紙5「対比表」原告書籍3頁における「登記記録」から「物理的記憶媒体」までの記載は、長々とした説明をせずに、単語を樹形図的に配置して、重要単語だけが際立つように記載している。他の書籍においては、表を掲載していても必ず文章による説明を主としており(甲26、27、甲28の1)、原告書籍のようにポイントに絞るということはしていない。また、別紙5「対比表」原告書籍同頁に記載された「申請適格者」「根拠条項」「特有の添付情報」を横軸にとった表は、申請適格者ごとに条文と添付情報を一目で確認できる一覧性の高いものであるが、このような表も他の書籍には見当たらない。さらに、別紙5「対比表」原告書籍4頁においても、「表題部」の表、「登記申請書」の記載に対し何らの説明文を記載せず、別紙5「対比表」原告書籍5ないし17頁の記載も、「(1) 登記原因及びその日付」といった項目ごとに、必要な情報だけを「記載不要」といったごく簡素な文言で記載し、文章で逐一説明するということを一切していない。説明が必要な部分については、接続語などの余計な記載によって視覚的な分かりやすさを失わせぬよう、「↓」等で語句をつないで、最低限の言葉で解説しているが、他の書籍では、適宜登記申請書の見本を掲載しているものの、文章による解説をメインにしている(甲26、27、甲28の2)ことなどが挙げられる。 (被告の主張) (1) 原告書籍は、司法書士試験合格を目指す初学者向けのいわゆる受験対策本であり、同試験のために必要な範囲で不動産登記法の基本的概念を説明するものであるから、不動産登記法の該当条文の内容や趣旨、同条文の判例及び先例又は学説によって当然に導かれる一般的解釈等を簡潔に整理して記述することが、その性質上不可避であるというべきであり、その記載内容、表現ぶり、記述の順序等の点において、不動産登記法の該当条文の内容等を簡潔に整理した記述という範囲にとどまらない、作成者の独自の個性の表れとみることができるような特徴的な点がない限り、創作性がないものとして著作物性が否定されるものと解される。また、法律学上の一般的知識を平易に理解させるという受験対策本の性質上、表現内容の独創性や創作性はかえって必要ではなく、法文の文言を平易に置き換える、矢印や下線を付す、箇条書きや太字にする等、講師による講義と併用する際の見易さなどの表現上のアイディアに特徴があるものである。 以下のとおり、原告書籍における各表現の創作性は、別紙3「対比表」、別紙5「対比表」における抜粋部分において認められず、また、原告書籍全体としての著作物性も認められない。 仮に、原告書籍において著作物性が認められるところがあるとしても、原告書籍と被告書籍の各表現は類似しないため、複製にあたらない。 (2) 別紙3「対比表」について ア 別紙3「対比表」1 区分所有法及び不動産登記法に規定する内容を取捨選択して配列したこと、法令の文言を平易な言葉に置き換えたこと、箇条書き及び下線を引く等の記載は、いずれもアイディアないし平凡かつありふれた表現にすぎず、創作性は認められない。 イ 別紙3「対比表」2 不動産登記法及び同規則に規定する内容を収集して整理・配列したこと、「○」「×」「※」「(注)」等の記載は、いずれもアイディアないし平凡かつありふれた表現にすぎない。また、「単に提出書類を並べるだけでなく不要な行為をあえて記載すること」も、司法書士受験対策の書籍としてはありふれたものであり、創作性は認められない。 ウ 別紙3「対比表」3 不動産登記法及び同規則に規定する内容を収集して整理・配列したこと、「○」「×」「※」「(注)」等の記載は、いずれもアイデアないし平凡かつありふれた表現にすぎない。また、「単に提出書類を並べるだけでなく不要な行為をあえて記載すること」も、司法書士受験対策の書籍としてはありふれたものであり、創作性は認められない。 エ 別紙3「対比表」4 複数の人物が登場する模式図において、各人物の関係を示す趣旨で線で結ぶことは、日常、よく行われている記載であり、アイデアないし平凡かつありふれた表現にすぎず、各人物の間に文言又は記号等を記載して、必要書類等の趣旨とすることも同様であり、創作性は認められない。 オ 別紙3「対比表」5 委任状や印鑑証明書に限らず、何らかの文書を図式的に表すこと自体は単なるアイデアないし平凡かつありふれた表現にすぎず、当該図式的記載の上部に文言等を記載して、特定の場合に特定の文書が必要である趣旨とすることも同様であり、創作性は認められない。また、登場人物を実線で結ぶ記載にも創作性はない。 カ 別紙3「対比表」6ないし9、11 「登場人物の関係を実線で結び配置」及び「その関係性の証明に必要な添付書類を間に配置」した各記載は、アイデアないし平凡かつありふれた表現にすぎず、いずれも創作性は認められない。 キ 別紙3「対比表」10 条文上自明でない必要書類を記載したこと、「代理権限」という文言を用いて分類したこと、及び、遺言執行者の選任方法に関し「○」「×」を用いた記載については、仮に、不動産登記法の文言上、具体的な必要書類が明記されていないとしても、法律に基づく規則、先例及び実務慣行等から、自ずから必要書類は確定されるから、この点に創作性を発揮する余地はない。また、「代理権限」との文言及びその意味内容は、独自のものではなく、法学一般に当然に用いられる用語であり、「代理権限」との観点に基づく分類であっても、法令の規定上、一般的なことがらを記載したにすぎず、独自性はない。さらに、「○」「×」を用いた記載については、アイディアに属するといわざるを得ず、いずれの記載にも創作性は認められない。 ク 別紙3「対比表」12 特別受益証明書の記載内容は、特定の理由により、特定の相続につき、特定人について相続分がないことを証明するというものにすぎず、法令によって定められた事項を過不足なく記載するだけであるから、独自性を発揮する余地はなく、創作性は認められない。 ケ 別紙3「対比表」13及び14 「所有権保存登記の更正(まとめ)」と題する記載は、不動産登記法の規定内容を簡潔に整理したにすぎず、独自性を発揮する余地はない。また、「→」「○」「※」等の記号の使用は、アイデアないし平凡かつありふれた表現にすぎない。※1ないし3として記載された内容も、ごくありふれた具体例の記載にすぎず、創作性は認められない。 コ 別紙3「対比表」15 登記申請書は、法令の規定にしたがって記載するものであり、これを模式的に記載する場合に独自性を発揮する余地はない。また、解説部分についても、「日付」として契約成立日を記載することや、条文の趣旨、提供すべき情報を記載しもので、法令の規定内容等から導かれる事項を簡潔に記載したにすぎず、創作性は認められない。 サ 別紙3「対比表」16 受験知識に必要な事例や理由、先例の記載は、いずれも通常の不動産登記法の解説書に記載されているような基礎知識や、重要判例の要約であり、受験対策書として当然に記載すべき内容であるから、何ら独自性を発揮する余地はない。また、イラストや吹き出しを使うことはアイデアに属するもので、創作性は認められない。 (3) 別紙5「対比表」について 複製権侵害が成立するためには、単に特定された原告表現と被告表現とが同一性を有するだけでは足りず、具体的原告表現のうち創作性を有する部分と被告表現とを対比しなければならない。別紙5「対比表」の原告書籍1ないし17頁(まとまり@)については、別紙9「別紙5対比表についての被告の主張」に記載のとおり、まとまり@における原告書籍1ないし17頁の各記載は、思想又はアイデアにとどまるか、平凡かつありふれた表現にすぎないため、表現上の創作性を有しない。 また、別紙5「対比表つづき」(まとまりAないしE)についても、同様であり、各記載に表現上の創作性は認められない。 (4) 著作物全体について 原告書籍全体において著作物性を有するとする原告の主張は、いずれもアイデアないしありふれた表現を指摘するものにすぎない。 ア 「体現止め、箇条書き、四角で囲む、矢印等の図式的な表現、樹形図、図表、売買契約書や登記申請書の見本、イラスト」を用いた視覚的表現について 上記記述態様は、少なくとも、司法書士試験を含む法律学を教授する講座の板書又はレジュメにおいては、極めてありふれており、むしろこれらを使用せずにレジュメを作成するのが困難な一般的な記述方法である。 したがって、原告の主張する、上記「視覚的表現」は、アイデアないしありふれた表現にすぎないため、創作性を有しない。 イ 「解説の流れ、構成」に創作性がないこと @ 共通する要素を取り出す総論を置いて、その後に各類型を説明したり、すべてまとめて解説したり、様々な手法があり、どの手法をとるかということはアイデアであって、著作権法による保護の対象となるものではないから、所有権保存登記の5類型をまとめて説明していることについて、創作性はない。 A 「その解説方法として冒頭に意義を長々と述べることを避け、表題部の表示と、登記申請書を一覧的に掲載・表現」していることは、アイデアないしありふれた表現にすぎない。 B 「一つの目的に沿って、登記申請手続の一連の流れを追っていくことができる表現構成になっている」ことは、原告書籍の抽象的特徴を挙げているにすぎず、かえって、このような特徴は、資格試験対策講座のテキスト又はレジュメにおいて通常備えるべき性質というべきであり、創作性はない。 3 争点3(一般不法行為の成否)について (原告の主張) (1) 本件において、原告書籍の原稿を作成したのは被告本人であるから、原告書籍を経済的に利用する権利は、一旦は被告に帰属している。しかし、被告は原告に対し、原告書籍の著作権を譲渡しており、その趣旨は、原告書籍を発行、販売、頒布する経済的利益を原告に帰属させることであることは自明である。 したがって、原告書籍を経済的に利用する権利は原告に帰属し、同利益は法的保護に値するものである。 (2) 他方、被告は、被告書籍を、被告サイトにおいて、原告の業務と競合する「A司法書士予備校」と称する「WEB講座」にて配信するとともに、同サイトにて販売しているため、「営利の目的」があることは明らかである。また、被告書籍は原告書籍とほとんど同一であって、同一の原稿データを用いて、記号やイラストを差し替え、若干の加筆をしただけである。つまり、被告は、原告書籍と同一の読者層に向けて、最小限の費用と労力をもって、被告書籍を発行・頒布することができたというべきで、「原告の成果物を不正に利用して利益を得た」ものと評価されるものである。 (3) したがって、被告が原告書籍に依拠して被告書籍を作成・発行した行為は、著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる、原告の営業上の利益という法的に保護された利益を侵害しているという特段の事情が存するのであり、しかも、原告の成果物を不正に利用して利益を得たものであるから、公正な自由競争として社会的に許容される限度を超えるものとして一般不法行為を構成する。 (被告の主張) 原告は、原告書籍の実質的なデッドコピーである被告書籍を原告の業務と競合する被告事業において販売等する行為は、原告の営業を妨害するものであると主張するが、被告書籍は原告書籍のデッドコピーではなく、被告事業が自由競争の範囲を逸脱した違法な行為ということはできない。そもそも、原告書籍を用いて営業する利益は著作権法による保護の対象とされるべきものであり、著作権侵害が認められない以上、上記利益侵害を理由に不法行為が成立する余地はない。 4 争点4(本件著作権譲渡条項の有効性)について (被告の主張) (1) 本件著作権譲渡条項は、著作権の譲渡対価が不相当であること、原告書籍はもともと被告が自助努力により作成したノート(以下「A講義ノー ト」という。)をもとに制作したもので、原告は被告の作成したA講義ノート制作に何ら寄与していないこと、人気講師の退職を防止、競業を禁止するという不当な目的に基づくものであることから、公序良俗に反し、無効である(民法90条)。 (2) また、「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」(乙15)によれば、「約款」とは、「多数の相手方との契約の締結を予定してあらかじめ準備される契約条項の総体であって、それらの契約の内容を画一的に定めることを目的として使用するものをいうものとする。」とされており、原告と原告における各講師との業務委託規約は約款に当たる。そして、仮に、約款が契約に組み入れられるとしても、各条項は当然に有効とならず、内容の不当性を根拠として無効となり得る。本件著作権譲渡条項は、「当該条項が存在しない場合に比し、約款使用者の相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重するもの」、又は、「その制限又は加重の内容、契約内容の全体、契約締結時の状況その他一切の事情を考慮して相手方に過大な不利益を与える場合」に該当し、不当条項に当たるから、約款法理の観点から無効である。 (原告の主張) 争う。 そもそも、本件著作権譲渡条項の無効について主張することは、前訴の判決に照らし、紛争の蒸し返しである。 5 争点5(差止め及び廃棄請求の可否)について (原告の主張) 被告は、現在もWEB講座の公開、被告書籍の販売を継続している。 したがって、原告は、被告に対し、被告書籍の販売等の差止めを求めるとともに、その実効を期するため、被告書籍の廃棄を求める。 (被告の主張) 争う。 6 争点6(損害額)について (原告の主張) (1) 著作権侵害による損害 ア 被告は、本件被告書籍を含む講義テキスト24冊セットを4万8000円(甲22)で少なくとも500セット販売した。被告書籍は24冊セットのうちの1冊である。 被告による本件被告書籍における使用につき、原告が通常受けるべき使用料の額は、被告による同書籍の販売額に10パーセントを乗じた金額で計算されるから、本件被告書籍の販売による著作権侵害行為により原告が被った損害は、次のとおり10万円である。なお、テキスト1冊あたりの価格は、4万8000円を24冊で割った2000円として計算する。 2000円(一冊当たり)×500冊×0.1=10万円 イ 原告は、被告に対し、本訴を提起せざるを得なかったが、本訴は、事案の概要、権利関係が複雑かつ専門的であるため、弁護士に依頼せざるを得ず、原告は原告訴訟代理人らに対し、本訴の追行を依頼し、弁護士費用として少なくとも200万円を支払うことを約した。 ウ 前記1のとおり、被告の行為は、原告に対する著作権侵害の不法行為を構成するから、原告は、被告に対し、著作権侵害の不法行為による損害賠償として、210万円(上記ア及びイの合計)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成25年9月7日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (2) 一般不法行為による損害 上記(1)ア及びイで主張したところは、一般行為による損害についても妥当するから、原告は、被告に対し、一般不法行為による損害賠償として、上記(1)ウと同額の支払を求める。 (被告の主張) 争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(本件訴えの適法性)について 被告は、実質的にみて本訴が前訴の蒸し返しである旨主張する。 しかし、証拠(甲25)及び当裁判所に顕著な事実によれば、原告が本訴において著作権侵害を主張する対象(不動産登記法のテキスト)と前訴において著作権侵害を主張した対象(民法のテキスト)とは、形式的にも実質的にも異なるものであって、著作物性の有無や複製の成否など裁判所の審理判断すべき事項も当然に異なるから、前訴の判決の確定は、被告が本訴に係る請求についてまで紛争が解決されたとの期待を抱くべき事情となり得ないことが明らかであり、原告の本訴における請求及び主張について、前訴における請求及び主張の蒸し返しに当たると認める余地はない(前訴と本訴の審理判断の対象が重複するのは、本件著作権譲渡条項が無効である旨の被告主張〔抗弁〕のみであり、この点について、前訴の判決の理由中では、本件著作権譲渡条項がその目的及び内容において不当又は不合理なものであるとは認められず、強行法規に反するものであるとも認められないと判断されている。)。なお、平成10年最判は、金銭債権の一部について前訴で争われた後に、残部について提訴した事件についての判断であり、本件とは事案を異にすることが明らかであって、被告は、同判決を曲解しているというほかはない。 被告は、本訴が被告への嫌がらせという不当な目的で提起されたものであって、信義則に反する旨の主張もするが、原告が、前訴において又は前訴の係属中に、本訴に係る請求及び主張をすべき義務を被告に対して負っていたと認めるべき根拠はなく、原告の本訴における請求及び主張が信義則に反し、許されないとすることはできない(なお、付言するに、被告が原告との間の紛争を一挙に解決したかったのであれば、被告において、原告の本訴に係る請求等を念頭に置いて、前訴の係属中に、債務不存在確認請求訴訟を提起し、裁判所の審理判断を求めることもできたはずである。)。 2 争点2(著作権侵害の成否)について (1)ア 著作物の複製(著作権法21条、2条1項15号)とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう(最高裁昭和53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照)。すなわち、複製とは、既存の著作物と同一性のあるものを作成することをいうと解されるところ、この同一性の程度については、完全に同一である場合のみではなく、多少の修正増減があっても著作物の同一性を損なうことのない、実質的に同一である場合も含むと解される。 また、著作物の翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうと解される。しかるところ、著作権法は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」を著作物として保護するものであるから(同法2条1項1号)、既存の著作物に依拠して作成された対象物件が思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体ではない部分又は表現上創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、当該対象物件の作成は、複製にも翻案にも当たらないものと解するのが相当である(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。 このように、複製又は翻案に該当するためには、既存の著作物とこれに依拠して作成された対象物件の同一性を有する部分が著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である(同法2条1項1号)。 イ 前記のとおり、原告書籍は、司法書士試験合格を目指す初学者向けのいわゆる受験対策本であり、同試験のために必要な範囲で不動産登記法の基本的概念や手続を説明するものであるから、不動産登記法の該当条文の内容や趣旨、同条文の判例又は学説によって当然に導かれる一般的解釈や実務の運用等に触れ、簡潔に整理して記述することが、その性質上不可避である。 ところで、既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が法令や判決や決定等である場合には、これらが著作権の目的となることができないとされている以上(著作権法13条1ないし3号参照)、複製にも翻案にも当たらないと解すべきであるし、同一性を有する部分が法令の内容や判例、法令、通達等によって当然に導かれる事項である場合にも、表現それ自体でない部分において同一性を有するにすぎず、思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから、複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。また、一つの手続について、法令の規定や実務の手続に従って記述することはアイデアであり、一定の工夫が必要ではあるが、これを独自の観点から分類し整理要約したなどの個性的表現がされている場合は格別、法令等の内容や手続の流れに従って整理したにすぎない場合は、誰が作成しても同じような表現にならざるを得ないから、手続について、実務の手続の流れに沿って説明するにすぎないものである場合も、思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえず、複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。このように解さなければ、ある者が実務の流れに沿って当該手続を説明した後は、他の者が同じ手続の流れ等を実際の実務に従って説明すること自体を禁じることになりかねないからである。さらに、同一性を有する部分が、法律問題に関する筆者の見解又は一般的な見解であったり、当該手続における一般的な留意事項である場合も、一般の解説書等に記載されていない独自の観点から、それを説明する上で普通に用いられる表現にとらわれずに論じているときは格別、そうでない限り、思想ないしアイデアにおいて同一性を有するにすぎず、思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから、複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。けだし、ある法律問題についての見解や手続における留意事項自体は著作権法上保護されるべき表現とはいえず、これと同じ見解を表明することや手続における留意点を表記することが著作権法上禁止されるいわれはないからである。 そうすると、法律に従った手続等についての受験対策用の解説書であれば、関連する法令の内容や法律用語の意味を解説し、一般的な法律解釈や実務の運用に触れる際には、確立した法律用語をあらかじめ定義された用法で使用し、判例、法令、通達等によって当然に導かれる一般的な手続を説明しなければならないという表現上の制約があるため、これらの事項について、独自の観点から分類し普通に用いることのない表現を用いて整理要約したなど表現上の格別の工夫がある場合はともかく、手続の流れを手続の目的に沿って、実務で行われる手順に従い、簡潔に要約し、それを説明する上で普通に用いられる法律用語や手続に関する言葉の定義を用いて説明する場合には、誰が作成しても同じような表現にならざるを得ず、このようなものは、結局、筆者の個性が表れているとはいえないから、著作権法によって保護される著作物としての創作性を認めることはできないというべきである。 この点、原告は、原告書籍を全体として、又は一定以上のまとまりのある部分についてみた場合に、作成者の個性が表現されており、創作性がある旨主張するが、以下に述べるとおり、原告の主張する点においては、いずれも上記個性を感得することはできず、表現上の創作性を認めることはできない。 (2) 別紙3「対比表」に関する主張について 以下のとおり、別紙3「対比表」に掲げられた1ないし16の各部分については、いずれも表現上の創作性を認めることはできず、これらが同一であったとしても、被告書籍が原告書籍と表現上の創作性ある部分において同一性を有するとはいえず、原告の著作権を侵害するものとはいえない。 ア 別紙3「対比表」1 「第2章 所有権移転 二 §74U保存」と題し、冒頭に土地と1棟の建物の図、敷地利用権の種類を掲げ、不動産登記法の規定する分離処分禁止の原則の説明を関連する法律を交えながら箇条書きで説明した記載である。 しかし、原告が主張する当該原則を説明する際に、関連する情報を選択のうえ箇条書きにして説明すること、必要事項のみを平易な言葉に置き換えること、「→」などを駆使して流れを表現し、重要な箇所には下線で強調すること、余白を使用することなどは、司法書士試験受験対策のための原告書籍の性質上、いずれもありふれたものというべきであるし、その他の点においても創作性は認められない。 イ 別紙3「対比表」2 原告書籍の不動産登記法の規定する所有権移転のうち特定承継の「1 売買」について説明した一部であり、「添付情報」として必要な情報を箇条書きに掲げ、「登録免許税」、「まとめ」として、申請方法、登記済証・登記識別情報等について要・不要を「○」「×」で表して、一つの表にした記載がある。 しかし、原告が主張する登記に必要な書類、手続に必要な費用を箇条書きで掲げること、要・不要なものを表にして「○」「×」で表記すること等は、司法書士試験受験対策のための原告書籍の性質上、いずれもありふれたものというべきであるし、その他の点においても創作性は認められない。 ウ 別紙3「対比表」3 原告書籍の不動産登記法の規定する所有権移転のうち特定承継の「3 農地の売買」について説明した一部であり、農地法の許可が必要な行為と不要な行為について説明した箇所であり、意思に基づく移転か否かで大きく分けられること、許可が不要なものと必要なものを相続、包括遺贈、遺産分割などに分けて表にした記載がある。 しかし、原告が主張する条文に規定のない行為についての記載や、条文の順序に関わりなく、類似知識を一体的に並べることで受験生にわかりやすく配列し、比較対照しやすい知識を左右に横並びに表示して一覧性を高めること、平易な言葉で分かりやすく表現する、箇条書き的に短い平易な文章で説明すること等は、司法書士試験受験対策のための原告書籍の性質上、いずれもありふれたものというべきであるし、その他の点においても創作性は認められない。 エ 別紙3「対比表」4 不動産登記法の規定する所有権移転における特定承継のうち「7未成年者(意思能力なし)及び成年被後見人関与の場合」の説明の一部であり、未成年者の場合の「申請人」、「添付情報」について箇条書きで説明した後、成年被後見人の場合の手続を説明し、申請人との関係を実線で結び、その間に必要な書類を記載した図がある。 しかし、原告が主張する、申請人、添付情報、登場人物の関係を実線で結び配置し、その関係性の証明に必要な添付書面を間に配置した点等については、アイデアないしありふれた表現にすぎないというべきであるし、その他の点においても創作性は認められない。 オ 別紙3「対比表」5 不動産登記法の規定する所有権移転における特定承継のうち、「8 利益相反」の項目のうち、親権者と未成年の子の間の利益相反について説明する一部分であり、「申請人」、「添付情報」について箇条書きで説明し、印鑑証明の図を挿絵として入れ、申請人と代理人等の関係を実線で示し、その間に必要な書類を記載した図があり、「その他」において、親権者を債務者とする抵当権設定登記がされている親権者所有の不動産を未成年の子に対して贈与する場合について、図式を挿絵として説明した記載がある。 しかし、原告が主張する、申請人、添付情報、登場人物の関係を実線で結び配置し、その関係性の証明に必要な添付書面を間に配置した点等については、アイデアないしありふれた表現にすぎず、事例を図式化して説明することは、法律の理解のために使用されるありふれた表現というべきであるし、その他の点においても創作性は認められない。 カ 別紙3「対比表」6 不動産登記法の規定する所有権移転における特定承継のうち、「10 会社関与」の説明の一部分であり、「添付情報」として必要な書類を箇条書きに記載したほか、人物の関係を実線で結び、その間に必要な書類を記載した図があり、代表者事項証明書を実際の書類の形式で表示した記載がある。 しかし、原告が主張する、登場人物の関係を実線で結び配置し、その関係性の証明に必要な添付書面を間に配置する点は、アイデアないしありふれた表現にすぎず、その他、手続の理解を促すために実際の書類の形式のまま表示することもありふれたものであって、いずれも創作性は認められない。 キ 別紙3「対比表」7 上記「対比表」6に続く頁であり、不動産登記法の規定する所有権移転における特定承継のうち、「10 会社関与」の説明の一部分であり、必要書類と参考情報や必要とされる理由等を四角枠で囲んで説明し、「支配人からの申請」についても、箇条書きで説明した記載がある。 しかし、上記カのとおり、原告が主張する登場人物の関係を実線で結び配置し、その関係性の証明に必要な添付書面を間に配置する点は、アイデアないしありふれた表現にすぎないというべきであるし、その他の点においても創作性は認められない。 ク 別紙3「対比表」8 不動産登記法の規定する所有権移転における特定承継のうち、「19 遺贈」の説明の一部分であり、「添付情報」として、箇条書きで必要な情報を説明した記載がある。そのうち、代理権限を証する情報として、a 遺言執行者から申請があった場合の説明に、遺言者と遺言執行者等の関係を実線で結び、その間に必要な書類を記載した図がある。 しかし、原告が主張する、登場人物の関係を実線で結び配置し、その関係性の証明に必要な添付書面を間に配置する点は、アイデアないしありふれた表現にすぎず、その他の点においても創作性は認められない。 ケ 別紙3「対比表」9 上記「対比表」8に続く頁であり、不動産登記法の規定する所有権移転における特定承継のうち、「19 遺贈」の説明の一部分で、「添付情報」として、箇条書きで必要な情報を説明した記載のうち、代理権限を証する情報として「a 遺言執行者から申請があった場合」と、「b 相続人から申請する場合」を説明した箇所である。それぞれの場合において、さらに細かく場合分けをして箇条書きで説明し、必要な書類や参考事項について四角枠で囲んだり、必要なものとそうでないものを○×で表形式でまとめた記載、遺言者と遺言執行者等を実線で結び、その間に必要な書類を記載した図がある。 しかし、原告が主張する、登場人物の関係を実線で結び配置し、その関係性の証明に必要な添付書面を間に配置する点は、アイデアないしありふれた表現にすぎず、表形式にまとめることもありふれた表現であるというべきであるし、その他の点においても創作性は認められない。 コ 別紙3「対比表」10 原告書籍においては上記「対比表」9に続く頁(被告書籍においては「対比表」9と同じ頁)であり、不動産登記法の規定する所有権移転における特定承継のうち、「19 遺贈」の説明の一部分で、「添付情報」として、申請人が遺言執行者か相続人かで分けて、必要な書類を○×方式で表にまとめた記載と、事例を掲げて、その場合に必要な添付情報について説明した記載と、登録免許税についての記載がある。 しかし、手続に必要な書類を対象者ごとに分けて表形式にまとめること、事例を掲げて必要な書類を記載すること、手続に必要な費用を掲げることは、いずれもありふれた表現であるから、いずれの点においても創作性は認められない。 サ 別紙3「対比表」11 不動産登記法の規定する所有権移転における包括承継のうち、「2 相続を証する情報について」の説明の一部分であり、被相続人と相続人を実線で結び、その間に必要な書類を記載した図を掲げた後、「相続放棄」についての説明とともに必要な手続について矢印を用いて説明した記載、相続放棄申述受理証明書を実際の書類の形式で表示した記載がある。 しかし、法律の効果や手続について条文とともに箇条書きで説明することは、原告書籍の性質上ありふれた表現であり、理解を助けるために、実際の書式を掲載することもありふれたものであるから、いずれの点においても創作性は認められない。 シ 別紙3「対比表」12 上記「対比表」11に続く頁であり、不動産登記法の規定する所有権移転における包括承継のうち、「2 相続を証する情報について」の説明の一部分で、特別受益について、箇条書きで条文とともに説明した記載がある。また、特別受益証明書を実際の書類の形式で表示したり、特別受益証明書に押印した印鑑について印鑑証明が必要であることについて、特別受益証明書と印鑑証明書の模式図の記載がある。 しかし、法律の効果や手続について説明することや、理解を助けるために、実際の書式を掲載することはありふれた表現であり、いずれの点においても創作性は認められない。 ス 別紙3「対比表」13 不動産登記法の規定する所有権更正における所有権保存登記の更正のうち、「2 単独名義を共有名義に更正」を説明した一部分であり、「所有権保存登記の更正(まとめ)」と題し、登記と実体が異なる場合の登記権利者、登記義務者、利害関係について、持分のみの更正か、単有から共有に、共有から単有に更正かについて、表形式でまとめ、所有権保存登記や抵当権設定登記等の実際の具体的な表記を模式図で表した記載がある。 しかし、上記記載は、不動産登記法の規定内容を表形式で整理したにすぎず、ありふれた表現であって、具体例を実際に示す記載もありふれており、創作性は認められない。 セ 別紙3「対比表」14 不動産登記法の規定する所有権更正における所有権保存登記の更正のうち、「6 「売買」を「贈与」に更正」を説明した一部分であり、「所有権保存登記の更正(まとめ)」と題し、上記スと同様、登記と実体が異なる場合について表形式でまとめた上、所有権保存登記や抵当権設定登記等の実際の具体的な表記を模式図で表した記載がある。 しかし、上記記載も、上記スと同様、不動産登記法の規定内容を表形式で整理したにすぎず、また、具体例を実際に示す記載もありふれた表現であって、創作性は認められない。 ソ 別紙3「対比表」15 不動産登記法の規定する所有権移転における特定承継のうち、「1 売買」についての説明の一部分であり、登記申請書を実際の書類の形式で掲げ、登記原因及びその日付、添付情報、登録免許税について説明した上、まとめとして、申請方法等について○×を用いて整理した表の記載があり、注意すべき点について、枠で囲んだ記載がある。 しかし、登記申請書は、法令の規定に従って記載するものであり、これを実際の形式に沿って記載することはありふれたものであって、登記原因の日付としていつの日付を記載すべきか、添付書類として必要なもの等は法令の規定等から決められた内容、解釈を説明するにすぎないのであって、創作性は認められない。 タ 別紙3「対比表」16 上記シの「対比表」12に続く頁であり、不動産登記法の規定する所有権移転における包括承継のうち、「2 相続を証する情報について」の説明の一部分で、特別受益について、箇条書きで条文とともに事例や先例を掲げて説明した記載がある。説明部分に合わせ、未成年者のイラストを掲げて、原告書籍においては「印鑑証明書が付けられるんだったら、自分で作れるよ」(被告書籍においては「印鑑登録したから自分で作れるよ」)と吹き出し風に記載し、印鑑証明書を取得できる場合を説明したり、親権者のイラストを掲げ、「利益相反にはならないよー」と吹き出し風に記載し、先例の説明に付している。また、特別受益者たる相続の関係を相続関係図を使って説明し、点線の枠囲みをしている記載がある。 しかし、上記のとおり、受験知識に必要な事例や理由、先例の記載は、いずれも通常の不動産登記法の解説書に記載されているような基礎知識や先例の要約であり、原告書籍の性質上、ありふれたものであり、また、イラストや吹き出しを使うことはアイデアに属するもので、創作性は認められない。 (3) 別紙5「対比表」について ア 前述のとおり、複製権侵害が成立するためには、被告書籍の表現が原告書籍の表現と同一性を有するだけでは足りず、思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有することが必要である。原告書籍及び被告書籍はいずれも不動産登記法という法令を解説するものである以上、その記載内容、表現ぶり、記述の順序等の点において、不動産登記法の該当条文の内容等を簡潔に整理した記述という範囲にとどまらない、作成者の独自の個性の表れとみることができるような特徴的な点がない限り、表現上の創作性は認められないと解される。以下、原告が主張する各まとまりの表現上の創作性について検討する。 イ 各まとまりについて (ア) 別紙5「対比表」の各まとまりについては、別紙10「別紙5対比表についての裁判所の判断」の「同一部分の表現上の創作性について」に記載のとおり、各まとまりにおける各記載は、登記手続に必要な知識や情報について、箇条書きで掲げ、簡潔に説明したり、語句をならべて簡潔にまとめたり、図や表形式、登記申請書等の実際の書類をその形式にしたがって具体例を挙げて説明しただけのありふれた表現にすぎないため、表現上の創作性を有しない。 この点、原告は、表現上の制約がある中で、一定以上のまとまりを持って、記述の順序を含め具体的表現において同一である場合には、複製権侵害に当たる場合があると主張する。そして、原告は、原告書籍は一定のまとまりで見た場合、その解説の流れや構成に創作性が看取できると主張し、例えば、原告書籍4頁以下では、所有権保存登記の5類型(「表題部所有者からの保存登記」、「表題部所有者の相続人その他の一般承継人からの保存登記」、「所有権を有することが確定判決によって確認された者からの保存登記」、「収用によって所有権を取得した者からの保存登記」、「区分建物にあって表題部所有者から直接所有権を取得した者からの保存登記」)についてまとめて解説せず、「表題部所有者からの保存登記」という1類型に限定して項目を立て、その登記申請手続から登記の実行までを解説し、解説方法として、冒頭に意義を長々と述べることを避け、表題部の表示と登記申請書を一覧的に掲載・表現することにより、具体的なイメージを受験生に持ってもらい、そのイメージを保持したまま、「表題部所有者からの保存登記」という一つの目的に沿って、登記申請手続の一連の流れを追っていくことができる表現構成になっていることや、原告書籍は、登記申請手続の流れを意識した記載表現・構成となっており、「登記原因及びその日付」、「申請人」、「添付情報」、「登録免許税」、「登記の実行」といった項目立てを用いて、その内容を箇条書き的に示すことで、受験生が最終的に目指す職業である司法書士の実際の業務に沿った形で、具体的な作業をイメージしながら学習できるよう創意工夫が凝らされている点などを掲げて、一定のまとまりとしての創作性を主張する。 確かに、創作性の幅が狭い場合であっても、他に異なる表現があり得るにもかかわらず、同一性を有する表現が一定以上のまとまりをもって当該表現物のほとんどの表現を占めるといえる場合には、そのほとんどの表現を選択していることをもって複製権侵害に当たる場合もあるとも考えられるが、その場合であっても、一定以上のまとまりをもった具体的な表現に筆者の個性が現れていると言えなければ、著作権法によって保護される表現上の創作性を認めることはできないというべきである。 しかし、原告が挙げる上記の点は、司法書士試験受験対策のための原告書籍の性質上、いずれもありふれた表現というべきで、一定のまとまりをもった部分についてみても、それぞれ創作性は認められない。 なお、原告が一定のまとまりとして主張する箇所については、長いもので17頁に及んでいる(まとまり@)が、司法書士試験受験対策のために不動産登記法を解説するという原告書籍や被告書籍の性質を考慮すれば、上記判断を左右するものとはいえない。 (イ) なお、原告は、各まとまりにおいて、被告書籍は「瑣末な部分を除き原告書籍と同一である」旨主張する。 確かに、各まとまりをみると、図表の体裁や挿入箇所、全体のレイアウト、記載順序、説明表現について同一であるところも多いが、別紙10「別紙5対比表についての裁判所の判断」の「相違点について」に記載のとおり、各まとまりにおいては、相当程度の相違点があり、司法書士試験受験対策本という性質上、表現上の制約があることにかんがみれば、上記各相違点は必ずしも「瑣末な部分」であるとはいえず、この点においても、原告の主張は採用できない。 (4) 原告書籍全体について 原告は、原告書籍の全部を著作物として主張し、その例として、別紙3「対比表」及び別紙5「対比表」を掲げた上、創作性を主張するが、原告の主張する点にはいずれも表現上の創作性が認められないことは上記のとおりである。 さらに、原告は、原告書籍全体において筆者の個性が現れた創作性がある表現として、原告書籍が、司法書士試験を受験する受験生にとって分かりやすいことを目的とするものであり、したがって、分かりやすい表現として、体現止め、箇条書き、四角で囲む、矢印等の図式的な表現、樹形図、図表、売買契約書や登記申請書の見本、イラストを用いた視覚的表現を用いていることを主張する。 しかし、原告の主張する上記の点は、受験対策用のテキストであれば普通に用いられる表現又はアイデアであって、表現上の創作性は認められない。 また、解説の流れや構成に創作性があるとし、共通する要素を取り出す総論を置いた後に各論を説明したり、まとめて説明すること、解説として冒頭に意義を長々と述べることを避け、表題部の表示と、登記申請書を一覧できるように掲載したこと、登記の目的に沿って、登記申請手続の一連の流れを追っていくことができる表現構成になっていること等を挙げるが、これらはいずれも、司法書士試験受験対策の講義用のテキストとして、分かりやすくするためのありふれた表現ないしアイデアというべきものであり、表現上の創作性を認めることはできない。 (5) 小括 以上のとおり、原告が主張する点において、被告書籍が原告書籍と表現上の創作性のある部分において同一性を有するとは認められないから、その余の点について検討するまでもなく、被告による著作権侵害は成立せず、著作権侵害を理由とする原告の請求(差止請求、廃棄請求及び損害賠償請求)は、いずれも理由がない。 3 争点3(一般不法行為の成否)について 原告は、被告が原告書籍に依拠して被告書籍を作成・発行した行為は、著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる、原告の営業上の利益という法的に保護された利益を侵害し、しかも、原告の成果物を不正に利用して利益を得たものであるから、公正な自由競争として社会的に許容される限度を超えるものとして一般不法行為を構成する旨主張する。 しかし、「著作権法6条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は、同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当」(最高裁平成23年12月8日第一小法廷判決・民集65巻9号3275頁)であり、原告が主張する、原告書籍(及びそれに依拠したほとんど同一の書籍)を経済的に利用されない営業上の利益というのは、まさに著作権法が規律の対象とする、原告書籍の著作物の利用による利益というべきものであって、著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益とは認められず、本件各証拠によっても、被告の営む事業が、自由競争の範囲を逸脱し原告に対する営業妨害等の不法行為を構成するとみられる事情も認められない。 したがって、一般不法行為を理由とする原告の請求(損害賠償請求)は、理由がない。 第5 結論 よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 嶋末和秀 裁判官 鈴木千帆 裁判官 西村康夫 (別紙1)原告書籍目録 タイトル 2011小泉一発合格塾 本論編 不動産登記法@ 著作者名 株式会社東京リーガルマインド 出版年 平成22年 (甲第17号証) (別紙2)被告書籍目録 タイトル 極 kiwami text INPUT編 不動産登記法 T 著作者名 小泉司法書士予備校 出版年 平成25年 (甲第19号証) 別紙10 別紙5対比表についての裁判所の判断
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