判例全文 line
line
【事件名】IKEA製品写真事件
【年月日】平成27年1月29日
 東京地裁 平成24年(ワ)第21067号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論の終結の日 平成26年12月18日)

判決
原告 インター・イケア・システムズ・ビー・ヴィ
同訴訟代理人弁護士 山口健司
同 薄葉健司
同 石神恒太郎
同 関口尚久
同訴訟代理人弁理士 外川奈美
同訴訟復代理人弁護士 伊藤隆大
被告 A


主文
1 被告は、別紙1製品写真目録1記載の製品写真データ及び別紙2文章写真目録1記載の文章写真データをウェブサイトに掲載してはならない。
2 被告は、別紙1製品写真目録1記載の製品写真データ及び別紙2文章写真目録1記載の文章写真データを自動公衆送信又は送信可能化してはならない。
3 被告は、その占有する別紙1製品写真目録1記載の製品写真データ及び別紙2文章写真目録1記載の文章写真データを廃棄せよ。
4 被告は、インターネット上のウェブサイトのトップページを表示するためのhtmlファイルに、別紙3標章目録1ないし3記載の標章をタイトルタグとして、並びに別紙3標章目録1、2及び4記載の標章をメタタグとして、それぞれ記載してはならない。
5 被告は、ウェブサイト(http://<以下略>)のhtmlファイルの<title>から、別紙3標章目録2及び3記載の標章を、並びに<meta name=”Description” content=”から、別紙3標章目録2及び4記載の標章を、それぞれ除去せよ。
6 被告は、原告に対し、24万円及びこれに対する平成26年11月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 原告のその余の請求を棄却する。
8 訴訟費用は、これを10分し、その1を原告の、その余を被告の各負担とする。
9 この判決は、第1ないし第6項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1ないし第5項同旨
2 被告は、原告に対し、1373万7000円及びこれに対する平成26年11月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、@被告が別表1「被告サイト」「製品写真」欄の製品写真(別紙6の対応する番号の製品写真。以下「被告各写真」といい、個別の製品写真をその番号に従い「被告写真A1」のようにいう。)及び別表2「被告サイト」欄の文章、写真(別紙6の対応する番号の文章、写真。以下「被告各文章等」といい、被告各写真と併せて「本件写真等」という。)をドメイン名「IKEA-STORE.JP」(以下「旧ドメイン名」という。)又は「STORE051.COM」(以下「新ドメイン名」という。)を使用したウェブサイト(以下「被告サイト」という。)に掲載したことは原告の著作権を侵害し、A被告が別紙3被告標章目録記載1ないし4の標章(以下「被告各標章」という。)を被告サイトのhtmlファイルのタイトルタグ、メタタグとして使用したことは、原告の商標権を侵害し、また、不正競争に当たると主張して、被告に対し、@著作権法112条1項、2項に基づき、別紙1製品写真目録1記載の製品写真データ(被告各写真の一部)及び別紙2文章写真目録1記載の文章、写真データ(被告各文章等)のウェブサイトへの掲載の差止め、これらの自動公衆送信及び送信可能化の差止め並びにこれらの廃棄、A商標法36条1項、2項、不正競争防止法3条1項、2項、2条1項1号、2号に基づき、被告サイトにおける被告各標章のタイトルタグ及びメタタグとしての使用の差止め並びに除去、B著作権侵害及び商標権侵害の不法行為又は不正競争による損害賠償金5572万6759円の一部である1373万7000円及びこれに対する平成26年11月22日(同月17日付け訴えの変更申立書送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがない(被告が原告の主張した事実を争うことを明らかにしない場合を含む。)か、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。)
(1) 原告は、別紙1製品写真目録2記載の製品写真(別紙7の対応する番号の製品写真。以下「原告各写真」という。)並びに別紙2文章写真目録2ないし3記載の文章、写真(別紙7ないし8の対応する番号の文章、写真。以下「原告各文章等」という。)の著作権者である(甲101)。原告各文章等は創作性の認められる著作物である。
 原告は、平成22年1月以降、「IKEA(R)」と題するウェブサイト(http://<以下略>)(以下「原告サイト」という。)や原告のフランチャイジーの店舗(以下「イケアストア」という。)において、イケアストアで販売されている製品(以下「原告製品」という。)等に係る原告各写真及び原告各文章等を展示している(甲1の1、1の2)。
 原告のフランチャイジーは、日本において、原告サイトを公式ウェブサイトとして運営しているが、通信販売はしていない。
(2) 原告は、以下の商標権(以下、併せて「本件各商標権」といい、これらに係る登録商標を「本件各商標」という。)を有している(甲2ないし5、133)。
ア 本件商標権1(以下これに係る登録商標を「本件商標1」という。)
 出願年月日 平成19年4月2日
 登録年月日 平成21年1月16日
 登録番号 第5197726号
 指定商品・役務 別紙5指定商品役務目録1記載の指定役務のとおり
 登録商標 別紙4原告商標目録1記載のとおり
イ 本件商標権2(以下これに係る登録商標を「本件商標2」という。)
 出願年月日 昭和55年4月3日
 登録年月日 昭和58年(1983年)11月25日
 登録番号 第1634247号
 指定商品・役務 別紙5指定商品役務目録2記載の指定商品のとおり
 登録商標 別紙4原告商標目録2記載のとおり
 本件各商標は、被告にとって他人の商品等表示に当たり、遅くとも平成22年1月には周知、著名であった。
(3) 被告は、少なくとも平成21年12月ころから平成22年11月8日まで、ウェブサイトを通じて消費者から原告製品の注文を募り、イケアストアで原告製品を購入して梱包、発送し、注文した消費者に転売する買物代行事業(以下「被告サイト事業」という。)を営んでいた。
ア 被告は、平成21年12月ころまでに、被告サイト(当時の名称は「IKEASTORE」であり、その後、「STORE」と改称された。当時のドメイン名は旧ドメインであった。)につき、少なくとも本件写真等の一部を含む電子ファイルを制作し、サーバーに蔵置してインターネットにより送信した(被告本人)。
 平成23年12月8日付け被告サイトは、旧ドメイン名から新ドメイン名に転送処理され、新ドメイン名で運営されていた(甲11の3、99、100)。平成24年5月15日ないし同月31日ころの被告サイトには、本件写真等の全てが掲載されていた(甲6)。
イ 被告は、平成22年7月29日、被告サイトを表示するためのhtmlファイルに、タイトルタグとして、「<title> 【IKEA STORE】イケア通販</title>」と記載し、メタタグとして、「<meta name=” Description” content= “【IKEA STORE】IKEA通販です。カタログにあるスウェーデン製輸入家具・雑貨イケアの通販サイトです。”/>」と記載していた(甲10、被告本人)。
 平成24年7月ころ及び平成25年3月ころの被告サイトを表示するためのhtmlファイルには、タイトルタグとして、「<title> IKEA【STORE】イケア通販</title>」と記載され、メタタグとして、「<meta name=” Description” content= “イケア通販【STORE】IKEA通販です。期間限定!!最大1万円割引クーポンを商品ご購入者様、全員にプレゼント!!カタログにあるスウェーデン製輸入家具・雑貨イケアの通販サイトです。IKEAではハイデザインと機能性を兼ねそなえた商品を幅広く揃えています。>」と記載されていた(甲13、80)。
 これらのタイトルタグやメタタグの記載の結果、検索エンジンで「IKEA」、「イケア」とキーワード検索すると、検索結果の一覧が表示されるページにおいて、被告サイトは、上記各タイトルタグ及びメタタグの内容のとおり表示されていた(甲14ないし19、126)。
(4) 被告各写真は、原告各写真と同一である(甲1の1、6)。
 被告各文章等は、原告各文章等と同一であるか、その表現上の本質的な特徴の同一性が維持されている(甲1の1、1の2、6)。
(5) 被告サイトは家具などの小売りを行うためのウェブサイトであり、本件各商標権の指定商品、役務に類似する。
2 争点
(1) 被告は平成22年11月9日以降の被告サイトの運営に関する責任を負うか(争点1)
(2) 被告が本件写真等を被告サイトに掲載したことは原告の著作権を侵害するか(争点2)
(3) 被告が被告各標章をタイトルタグ及びメタタグとして使用したことは原告の商標権を侵害し、又は不正競争に該当するか(争点3)
(4) 原告の損害額(争点4)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(被告は平成22年11月9日以降の被告サイトの運営に関する責任を負うか)について
(原告の主張)
 平成22年11月9日以降も被告サイトの運営状況に変化はなく、被告が被告サイトの運営主体である。被告は、平成22年11月9日にClassic Furnitures Inc.(以下「クラシック社」という。)に事業譲渡した(以下「本件事業譲渡契約」という。)と主張するが、本件事業譲渡契約のタイミングと譲渡の相手方、譲渡対価、譲渡後の事情に加えて、譲渡前後の事業主体の一体性などからすれば、本件事業譲渡契約は成立していないか、仮に成立したとしても通謀虚偽表示により無効である。また、クラシック社には営業実体がないこと、被告サイト事業の売上げは被告が実質的に管理していること、原告との間の旧ドメイン名に係る紛争において被告が当事者となっていたことなどからすれば、法人格の濫用であり、被告は、平成22年11月9日以降も、原告に対して被告サイト事業による侵害行為の責任を負う。
(被告の主張)
 平成22年11月9日以降の被告サイトの運営主体はクラシック社であって、被告は同日以降の被告サイトに関する責任を負わない。被告は、本件事業譲渡契約により被告サイトの運営権や旧ドメイン名をクラシック社に譲渡し、被告サイトの運営主体ではなくなったものである。また、旧ドメイン名に係るウェブサイトと新ドメイン名に係るウェブサイトは全く別のウェブサイトであり、新ドメイン名に係るウェブサイトについて責任を負うのはクラシック社であって被告ではない。原告は、クラシック社に対し訴訟を提起することができるのであるから、本件に法人格否認の法理は当てはまらない。
(2) 争点2(被告が本件写真等を被告サイトに掲載したことは原告の著作権を侵害するか)について
(原告の主張)
ア 原告各写真は、被写体の組合せ、配置、構図、カメラアングル、陰影、背景等に独自性があり、創作性が認められる。
イ 原告製品をインターネット上で販売する事業において、原告製品を独自に撮影した写真等を掲載することは可能であり、現に被告サイト事業と同種の事業を営む者のなかにはそのような方法を採っている事業者も複数存在するのであるから、本件写真等を使用する必要性はない。
ウ 差止請求等の対象については、現に被告サイトに掲載されていない本件写真等のうち、販売が終了した原告製品に係る被告各写真については、差止め、廃棄請求の対象から除外する。販売を継続している原告製品に係る被告各写真や被告各文章等のうち現に被告サイトに掲載されていないものについては、ウェブサイト上のデータ変更が容易であることなどからすれば、原告の著作権を侵害するおそれがあるから、差止め、廃棄請求の対象とする。
(被告の主張)
ア 原告各写真は、オリジナリティーや創造性に欠け、背景が白であれば誰でも同じ画像が撮影可能であって、著作物性に疑問がある。
イ 被告サイト事業は、原告製品をインターネット上で販売する事業なのであるから、本件写真等を掲載する必要がある。
(3) 争点3(被告が被告各標章をタイトルタグ及びメタタグとして使用したことは原告の商標権を侵害し、又は不正競争に該当するか)について
(原告の主張)
ア 被告各標章は、著名な本件各商標に「通販」、「STORE」、「【】」を付加してなる標章であるが、インターネット上の店舗において使用されているから、「STORE」や「通販」の部分は識別力がないし、また、「【】」の部分にも識別力がないから、「IKEA」ないし「イケア」の部分が要部であり、要部が本件各商標と同一であるから、全体として本件各商標に類似する。
イ 被告各標章をメタタグとして使用することにより、検索エンジンの検索結果に被告サイトのホームページ内容の説明文ないし概要として表示され、また、タイトルタグとして使用することにより、検索エンジンの検索結果に被告サイトのホームページタイトルとして表示されるから、このような使用態様は商標的使用又は商品等表示としての営業的使用に当たる。
ウ 被告は、周知、著名な他人の商品等表示である本件各商標に類似する被告各標章を被告の商品等表示として使用し、これにより、被告サイト事業と原告の営業との混同が生じ、原告の事業に対し信用の毀損を含む営業上の利益侵害が生じている。
エ 被告は、被告サイトのページ最下部の小さな文字による記載を根拠として、被告各標章の使用が違法ではないと主張するようであるが、インターネットユーザーが係る記載に気づく保証はないし、仮に気づいたとしても他の箇所で被告各標章を無断使用している限り、誤認混同を生じるおそれはなくならないから、被告の主張には理由がない。
オ 差止請求等の対象について、かつては使用されていたが現に被告サイトに掲載されていない被告標章1は、ウェブサイト上のデータ変更が容易であることなどから差止の対象とするが、除去請求の対象からは除外する。
(被告の主張)
ア 被告各標章の、「IKEA STORE」「イケア通販」及び「IKEA通販」は、原告各商標である「イケア」及び「IKEA」に類似しない。
イ 被告が被告各標章を被告サイトのメタタグないしタイトルタグとして使用したとしても、メタタグやタイトルタグは通常人の目に触れるものではないから、商標的使用にも営業的使用にも当たらない。
ウ 「イケア」及び「IKEA」という単語をメタタグとして使用しているウェブサイトは多数存在するところ、これが違法だとの認識は一般社会にはない。
エ 被告サイトでは、「「イケア」、「IKEA」など、【IKEA STORE】イケア通販に掲載しているブランド名、製品名などは一般にInter IKEA Systems B.V.の商標または登録商標です。【IKEA  STORE】イケア通販では説明の便宜のためにその商品名、団体名などを引用する場合がありますが、それらの商標権の侵害を行う意志、目的はありません。当店はイケア通販専門店になります。」という文章を記載しているのであり、被告各標章の使用は、正当な引用行為である。
(4) 争点4(原告の損害額)について
(原告の主張)
ア 著作権侵害について
 原告は、被告の複製権又は翻案権の侵害及び公衆送信権の侵害により、著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の損害を被った。
 被告サイト事業は、原告製品の買物代行事業であり、本件写真等が被告事業に貢献する度合いが大きいことに照らすと、少なくとも、一著作物当たり年間1000円が上記金銭に当たると解するのが相当であるところ、 被告は、別表1及び別表2の「損害算定の起算日(掲載開始日)」から「損害算定の終期」までの間、本件写真等を掲載していたから、各著作物使用料相当額の合計は、別表1及び別表2記載のとおり、合計35万4734円となる。
イ 商標権侵害又は不正競争について
 原告は、商標法38条2項、不正競争防止法5条2項に基づき、商標権侵害又は不正競争により被告が受けた利益の額に相当する額の損害を受けた。被告は、著名で顧客吸引力のある本件各商標又は原告の商品等表示を使用することにより、多くのインターネットユーザーを被告サイトに誘導して売上げを得ているから、本件各商標又は原告の商品等表示の被告サイト事業における売上げに対する寄与率は高い。
 被告サイトは、事業開始以降、サイトの名称変更及びドメイン名の変更を除き、基本的に変更が加えられてこなかったと考えられるから、被告は、被告サイト事業を開始した平成22年1月以降、被告各標章を被告サイトのhtmlファイルに表示させ、検索エンジンによる検索結果に反映させていたと考えるべきである。
 被告は、平成22年には874万8051円の営業等取得を得ていたところ、被告サイト事業による利益がこれを下回ることはないから、本件商標の寄与率である50%を乗じた437万4025円が本件各商標による利益となる。平成23年、平成24年、平成25年、平成26年1月から9月までの被告サイトの売上げは、それぞれ2800万円、4500万円、7200万円、5400万円であり、限界利益率を50%、寄与率を50%とするのが相当であるから、本件各商標による利益は、それぞれ700万円、1125万円、1800万円、1350万円となる。
ウ 弁護士費用
 被告による原告の権利侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は、124万8000円である。
(被告の主張)
ア 著作権侵害について
 被告サイト上に本件写真等が掲載されていた期間に関する原告の主張は不合理である。被告サイト上に本件写真等の掲載が開始された時期について、原告は、原告製品の販売開始時期と同じであると主張するが、原告サイトでは原告製品の販売期間や新製品の発売日を事前に告知することはないから、このようなことはありえない。また、原告の提出する証拠は信用できないものであり、被告の調査の結果、一部の被告各写真については掲載が確認できなかった。なお、被告は、原告製品の全てを被告サイトに掲載していた訳ではなく、ガラス製品や輸送中に破損の可能性が高い商品は取り扱っていなかった。
イ 商標権侵害又は不正競争について
 被告が被告各標章を使用していたとしても、使用の事実が認められるのは平成22年7月29日以降であり、それ以前に被告が被告各標章を使用していたことの証拠はない。
 被告の平成22年の営業等所得は874万8051円であるが、これには当時運営していた他の4つのウェブサイトの売上げが含まれているから、これらを控除すると、被告サイト事業による利益は約106万8051円であった。また、被告サイト事業の平成23年の概算売上げは2800万円であり、平成24年は4500万円であり、平成25年は7200万円であった。粗利については、商品の仕入れが約60%、送料が約10%、クレジット決済手数料が4.5%であるから、約25.5%である。なお、ディスカバリーワークスの報酬はその40%であり、さらに様々な経費がかかっているし、被告はディスカバリーワークスから役員報酬を支給されているに過ぎないから、原告の計算は誤っている。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(被告は平成22年11月9日以降の被告サイトの運営に関する責任を負うか)について
(1) 前提事実に加えて、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。
ア 原告は、平成22年2月23日付けで、被告サイトの運営統括責任者に対して、被告サイトの運営を中止することを求める通知を送付した(甲33)。
イ 被告は、被告サイトの代表者として、原告との間で被告サイトの是正交渉を行い、平成22年5月5日付け念書に署名押印し、ウェブサイト名等やドメイン名において「IKEA」と同一又は類似の文字等を含む名称、表示を用いないこと、原告が著作権を有する原告製品の画像等の使用を中止すること、今後も一切同種侵害行為を行わないこと等を約束した(甲34ないし43)。
ウ 被告は、平成22年11月9日付けで、クラシック社との間で、旧ドメイン名を含む被告サイト事業を譲渡することを内容とする事業譲渡契約書を作成した(甲8)。
エ 平成22年11月12日付けで、アメリカ合衆国デラウェア州においてクラシック社が設立された(甲73)。
 被告は、同日付けで、原告に対し、被告サイト事業をクラシック社に譲渡して被告は無関係になったので、今後は、クラシック社のCEOであるB(メールアドレスは<以下略>.jp)と交渉するよう通知した(甲44)。
オ 原告は、平成22年12月6日以降、上記メールアドレスを通じて被告サイトに係る交渉を続けていたが、Bなる人物と直接会ったことはない(甲47ないし51)。
カ 原告は、平成23年6月21日、登録者の氏名(名称)をクラシック社とし、住所をアメリカ合衆国デラウェア州<以下略>、電子メールアドレスを<以下略>.jpと記載して、JPドメイン名紛争処理方針に基づく申立書を日本知的財産仲裁センター(以下「知財仲裁センター」という。)に提出した(甲52)。被告は、平成23年8月30日、旧ドメイン名の登録者は被告である旨の上申書を提出した(甲53、54)。知財仲裁センターは、同月31日、登録者を「Classic Furnitures Inc.ことA」として移転を命ずる裁定をした(甲54)。
キ 被告は、平成23年9月7日、原告に対し、被告が旧ドメイン名を使用する権利を有することの確認を求める訴訟を当裁判所に提起した(平成23年(ワ)第29548号、以下「本件関連事件」という。)(甲55)。被告は、被告が旧ドメイン名を保有する旨述べ、被告サイト事業は平成22年11月9日付で本件事業譲渡契約によりクラシック社に譲渡したが、事業譲渡後も被告はこの事業に携わるため、当該ドメイン名の契約名義の変更までは行わなかったなどとしていたが、平成24年5月10日、請求を放棄した(甲56ないし58、64、71)。
ク クラシック社は、米国において、役員などの法人組織に関する情報、取引先の情報及び納税の形跡などが判明しない法人であり、税金不払などにより平成24年3月1日に活動不能と宣告されたが、平成24年2月29日に復権した(甲67ないし69、乙3)。
(2) 前記(1)の認定事実によれば、被告は、被告サイトについて原告と交渉する中で、商標権侵害及び著作権侵害等を中止して今後繰り返さない旨の念書を作成した後に、本件事業譲渡契約を締結したとして原告に対し以後クラシック社と交渉するよう通知したが、その後も知財仲裁センターの手続や本件関連事件においては被告サイトに係る対応を全て行ってきたというのである。
 被告は、本人尋問において、平成22年11月9日にBと東京で本件事業譲渡契約を締結し、対価として現金で100万円を受領し、被告サイトに関するプログラム等を一つのファイルにまとめて手渡したこと、平成23年1月19日にクラシック社と被告が代表取締役を務める株式会社ディスカバリーワークスとの間で業務委託契約(乙10)を締結し、同社が被告サイトで注文を受けた原告製品を仕入れて梱包し発送するようになったため、現在も被告サイト事業に関与していることなどを供述する。しかしながら、被告の供述内容を裏付ける証拠は、事業譲渡契約書(甲8)及び業務委託契約書(乙10)、クラシック社の設立関係書類(乙27)のほか、被告が代表取締役を務める株式会社PAUL INDUSTRIESから株式会社ディスカバリーワークスへの振込記録(甲83、乙18)とCを名乗る人物名義のメール(乙17、22、33)しか提出されていないところ、これらは、被告自らが作出することも可能なものであるから、クラシック社が被告とは別の法主体として活動していることを示すものとはいえない。かえって、クラシック社が被告サイト事業を実際に行っていることを示す客観的証拠が全くなく、かつ、被告が本件事業譲渡契約後も被告サイト事業に深く関わってきたことに鑑みれば、被告の供述はにわかに採用することができない。そうであれば、少なくとも、被告は、原告に対し、信義則上、クラシック社との間の本件事業譲渡契約があることを主張することができず、本件サイトに関する法的責任を免れることはできない。
(3) 被告は、旧ドメイン名に係るウェブサイトと新ドメイン名に係るウェブサイトが別のウェブサイトであるという趣旨の主張をするが、クラシック社が新ドメイン名の保有者である(甲11の2、乙4)としても、平成23年8月31日に知財仲裁センターの裁定により旧ドメイン名が被告から原告に移転されるまでの間、旧ドメイン名に係るウェブサイトから新ドメイン名に係るウェブサイトに対して転送処理がされるなど、旧ドメイン名に係るウェブサイトと新ドメイン名に係るウェブサイトとの連続性が認められるのであり、しかも、被告はクラシック社との間の本件事業譲渡契約があることを原告に対して主張することができないのであるから、被告は、原告に対し、新ドメイン名に係る被告サイトの責任を負うというべきである。
 また、被告は、原告はクラシック社に対し訴訟を提起することができるのであるから、本件に法人格否認の法理は当てはまらないと主張するが、原告のアメリカ合衆国における調査によれば、クラシック社の住所は登録代理人であるDelaware Intercorpの住所であり、公的記録からはクラシック社の代表者等役員に関する情報すら判明しなかったというのであるから(甲67)、被告の主張は、その前提を欠くものといわざるを得ない。
(4) そうであるから、被告は、平成22年11月9日以降の被告サイトの運営に関する責任を負う。
2 争点2(被告が本件写真等を被告サイトに掲載したことは原告の著作権を侵害するか)について
(1) 原告各写真の著作物性について
 原告各写真は、原告製品の広告写真であり、いずれも、被写体の影がなく、背景が白であるなどの特徴がある。また、被写体の配置や構図、カメラアングルは、製品に応じて異なるが、原告写真A1、A2等については、同種製品を色が虹を想起せしめるグラデーションとなるように整然と並べるなどの工夫が凝らされているし、原告写真A9、A10、H1ないしH7、Cu1、B1、B2、PB1については、マット等をほぼ真上から撮影したもので、生地の質感が看取できるよう撮影方法に工夫が凝らされている。これらの工夫により、原告各写真は、原色を多用した色彩豊かな製品を白い背景とのコントラストの中で鮮やかに浮かび上がらせる効果を生み、原告製品の広告写真としての統一感を出し、商品の特性を消費者に視覚的に伝えるものとなっている。これについては、被告自身も、「当店が撮影した画像を使用するよりは、IKEA様が撮影した画像を掲載し説明したほうが、商品の状態等がしっかりと伝わると考えております。ネットでの通信販売という性質上、お客様は画像で全てを判断いたします。当店が撮影した画像ではIKEA様ほど鮮明に綺麗に商品を撮影することができません。」(甲34、被告本人)と述べているところである。
 そうであるから、原告各写真については創作性を認めることができ、いずれも著作物であると認められる。
(2) 被告は、被告サイト事業においては本件写真等を使用することが必要であるなどと主張するが、原告製品をインターネット上で販売する事業において、原告製品を独自に撮影した写真を掲載することは可能であり、現にそのような方法を採っている業者も複数存在すると認められる(甲123、124)。また、被告各文章等を被告サイトに掲載することの正当性は全くない。被告の主張は、採用することができない。
(3) そして、被告各写真は原告各写真と同一であり、被告各文章等は原告各文章等と同一ないし類似するのであるから、本件写真等を被告サイトに掲載することは原告の複製権、翻案権及び公衆送信権を侵害することになり、著作権法112条1項、2項に従い、原告は、被告に対し、本件写真等の使用を差し止め、これに係るデータの廃棄を請求することができる。なお、その対象は、被告サイト事業が販売中の原告製品を転売するものであること及びウェブサイト上のデータの変更が容易であることに鑑みると、現在も販売が継続している原告製品に係る被告各写真及び被告各文章等の全てであると解するのが相当である。
3 争点3(被告が被告各標章をタイトルタグ及びメタタグとして使用したことは原告の商標権を侵害し、又は不正競争に該当するか)について
(1) 類否について
 被告各標章は、著名な本件各商標に「通販」、「STORE」、「【】」を付加してなる標章であるが、被告各標章のうち「通販」や「STORE」の部分は、インターネット上の店舗において使用されるものであって識別力が弱く、また「【】」の部分も符号であって識別力はないから、被告各標章の要部は、「IKEA」ないし「イケア」の部分であると認められる。これは、本件各商標と少なくとも外観及び称呼が同一ないし類似するから、被告各標章は、本件各商標に類似すると認められる。
(2) 商標的使用ないし商品等表示としての営業的使用について
 インターネットの検索エンジンの検索結果において表示されるウェブページの説明は、ウェブサイトの概要等を示す広告であるということができるから、これが表示されるようにhtmlファイルにメタタグないしタイトルタグを記載することは、役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為に当たる。そして、被告各標章は、htmlファイルにメタタグないしタイトルタグとして記載された結果、検索エンジンの検索結果において、被告サイトの内容の説明文ないし概要やホームページタイトルとして表示され(甲20、21)、これらが被告サイトにおける家具等の小売業務の出所等を表示し、インターネットユーザーの目に触れることにより、顧客が被告サイトにアクセスするよう誘引するのであるから、メタタグないしタイトルタグとしての使用は、商標的使用に当たるということができる。
 被告は、本件各商標をメタタグとして使用しているウェブサイトが多数存在するなどとして、被告各標章をメタタグに使用することが許されるかのような主張をするが、少なくとも本件における被告各標章の使用態様が違法性を欠くとは認めがたい。被告の主張は、採用することができない。
(3) 混同のおそれについて
 被告各標章は、原告の商品等表示である「IKEA」ないし「イケア」に類似し、また、両者とも家具等の小売を目的とするウェブサイトで使用され、現に、被告サイトを原告サイトと勘違いした旨の意見が複数原告のもとに寄せられていることが認められる(甲32、95)から、被告各標章を使用する行為は、原告の営業等と混同を生じさせるものである。
(4) 被告の引用に関する主張について
 被告サイトにおいて、「「イケア」、「IKEA」など、【IKEA STORE】イケア通販に掲載しているブランド名、製品名などは一般にInter IKEA Systems B.V.の商標または登録商標です。 【IKEA STORE】イケア通販では説明の便宜のためにその商品名、団体名などを引用する場合がありますが、それらの商標権の侵害を行う意志、目的はありません。当店はイケア通販専門店になります。」という文言が記載されているとしても、これは被告サイトのウェブページの最下部に記載されていることが認められ(甲6、11の3、59、60、65、70、77、78)、タイトルタグ又はメタタグと一体となって記載されているものではないから、かかる文言のみを根拠としてメタタグ又はタイトルタグに被告各標章を使用することが正当な行為であるということはできない。被告の主張は、採用することができない。
(5) そうすると、被告が被告各標章をタイトルタグ及びメタタグとして使用することは本件各商標権を侵害し、かつ、不正競争に該当するから、商標法36条1項、2項、不正競争防止法3条1項、2項に従い、原告は、被告に対し、被告各標章の使用を差し止め、データの除去を請求することができる。
4 争点4(原告の損害額)について
(1) 著作物使用料相当額について
ア 被告は、原告の複製権又は翻案権及び公衆送信権を侵害したところ、これについて、少なくとも過失があると認められるから、原告は、被告に対し、これによる損害の賠償を請求することができる。そして、原告は、著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の損害を被ったものと認められる。
イ 原告各写真の著作物使用料相当額については、原告各写真は被告サイト事業において極めて重要なものであるとは考えられるものの、広告写真としての原告各写真の創作性の程度が比較的低いことや原告の請求額に加え、ウェブサイトにおけるデータ変更の容易性等に鑑みれば、掲載期間に関わらず、一著作物当たり1000円と認めるのが相当である。
ウ 原告各文章等の著作物使用料相当額については、原告各文章等は、これにより被告サイトが原告の公式サイトであるかのような外観を作出することができるという点において極めて重要なものであると考えられること、原告各文章等の創作性の程度が比較的高いことや原告の請求額に加え、ウェブサイトにおけるデータ変更の容易性等に鑑みれば、証拠上認定できる掲載期間に関わらず、一著作物当たり3000円と認めるのが相当である。
エ そうすると、各著作物使用料相当額の合計は、14万円となる。
(2) 被告各標章、被告の商品等表示の使用による損害について
 原告は、商標法38条2項、不正競争防止法5条2項に基づき、商標権侵害又は不正競争により被告が受けた利益の額に相当する額の損害を受けたと主張する。
 商標法38条2項、不正競争防止法5条2項にいう損害の額が認められるためには、権利者に、侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情等損害の発生の基礎となる事情が存在する必要があると解される。ところが、原告は、原告製品のインターネット販売を行っていないのであって、被告による侵害行為がなければ、被告サイト経由で原告製品を購入した顧客が原告サイトで原告製品を購入したということにはならないし、また、被告サイト事業は、原告製品の注文を受けるとイケアストアで原告製品を仕入れてこれを梱包し発送するというものであり、被告サイトに誘引された顧客の購入した原告製品は、イケアストアで購入されることにより原告のフランチャイジーを通して原告の利益となっているのであるから、原告については、被告サイトによる侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情等損害の発生の基礎となる事情があると認めることはできない。
 そうであるから、商標法38条2項、不正競争防止法5条2項にいう損害の額は認められない。そして、原告は、損害について他に主張も立証もしないから、商標権侵害又は不正競争による損害は認められないものといわざるを得ない。
(3) 弁護士費用について
 被告の不法行為等と相当因果関係のある弁護士費用は、前記認定に係る原告の損害額その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、10万円が相当であると認める。
(4) そうすると、原告の損害額は、合計24万円となる。
5 以上のとおりであって、被告サイトによる原告の著作権侵害、商標権侵害及び不正競争が認められるから、原告の差止請求等は全て理由があるが、損害賠償請求については、著作権侵害による24万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判官 藤田壮
 裁判官 宇野遥子
 裁判長裁判官高野輝久は、転補につき署名押印することができない。
裁判官 藤田壮


(別紙1)製品写真目録
1 別紙6の下記番号の製品写真データ

A5からA8まで及びA11からA14まで
H3、H4及びH7
Cu1
B1及びB2
Ch1からCh4まで
D1からD15まで
T1、T2、T4及びT5
S1からS5まで
PF1及びPF2
ST1からST9まで
RC1
TB1及びTB2
P1からP3まで
PB1
以上60点

2 別紙7の下記番号の写真

A1からA14まで
H1からH7まで
Cu1
B1及びB2
Ch1からCh4まで
D1からD15まで
T1からT5まで
S1からS5まで
PF1及びPF2
ST1からST9まで
RC1
TB1及びTB2
P1からP3まで
PB1
以上71点

(別紙2)文章写真目録
1 別紙6の下記番号の文章写真データ

A-1及びA-2
B-1からB-6まで
C-1からC-8まで
D-1からD-6まで
E
以上23点

2 別紙7の下記番号の文章写真

B-1からB-6まで
C-1からC-8まで
D-1からD-6まで
以上20点

3 別紙8の下記番号の文章写真
A-1及びA-2
E
以上3点

(別紙3)被告標章目録
1 【IKEA STORE】
2 イケア通販
3 IKEA【STORE】
4 IKEA通販
以上

(別紙4)原告商標目録
1 IKEA
2 イケア(カタカナ文字の画像 省略)
以上

(別紙5)指定商品役務目録
1 指定役務
 35類
 織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、酒類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、食肉の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、食用水産物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、清涼飲料及び果実飲料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、コーヒーの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、加工食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、家具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、電気機械器具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、手動利器・手動工具及び金具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、台所用品・清掃用具及び洗濯用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、花及び木の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、印刷物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、紙類及び文房具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、おもちゃ・人形及び娯楽用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、時計の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
2 指定商品
 6類
 金属製靴ぬぐいマット、金属製立て看板、金属製の可般式家庭用温室
 16類
 紙製テーブルクロス
 19類
 灯ろう、可搬式家庭用温室(金属製のものを除く。)
 20類
 家具、屋内用ブラインド、すだれ、装飾用ビーズカーテン、つい立て、びょうぶ、ベンチ、アドバルーン、人工池
 21類
 花瓶及び水盤(基金属製のものを除く。)、風鈴、香炉
 22類
 天幕、日覆い
 24類
 織物製いすカバー、織物製壁掛け、カーテン、テーブル掛け、どん帳
 26類
 造花の花輪
 27類
 敷物
 31類
 生花の花輪

別紙6ないし8は添付省略

別表は省略
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/