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【事件名】「週刊実話」の女性タレント合成写真事件
【年月日】平成27年1月29日
 東京地裁 平成26年(ワ)第7213号 パブリシティ権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成26年10月9日)

判決
原告 A
原告 B
原告 C
原告 D
原告 E
原告 F
原告 G
原告 H
上記8名訴訟代理人弁護士 横山経通
同 上村哲史
同 桑原秀明
同 錦織淳
同 新阜直茂
被告 株式会社日本ジャーナル出版
被告 I
被告 J
被告 K
上記4名訴訟代理人弁護士 山上俊夫


主文
1 被告株式会社日本ジャーナル出版、同J及び同Kは、連帯して、原告らそれぞれに対し80万円及びこれに対する平成25年11月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告らの同被告らに対するその余の請求及び被告Iに対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、原告らと被告株式会社日本ジャーナル出版、同J及び同Kの間ではこれを15分し、その14を原告らの、その余を同被告らの各負担とし、原告と被告Iの間ではすべて原告らの負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告株式会社日本ジャーナル出版(以下「被告会社」という。)は、別紙雑誌目録記載の雑誌(以下「本件雑誌」という。)を印刷し、販売してはならない。
2 被告株式会社日本ジャーナル出版は、本件雑誌を廃棄せよ。
3 被告らは、連帯して、原告らそれぞれに対し1100万円及びこれに対する平成25年11月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、被告会社が、原告らの肖像写真に裸の胸部(乳房)のイラストを合成した画像を用いた記事(以下「本件記事」という。)を掲載した本件雑誌を出版し、販売したことについて、原告らが、原告らのパブリシティ権並びに人格権及び人格的利益が侵害されたと主張して、(1) 被告会社に対し、本件雑誌の印刷及び販売の差止め並びに廃棄を、(2) 被告会社、その代表取締役であった被告I(以下「被告代表者」という。)、発行人である被告J(以下「被告発行人」という。)及び編集人である被告K(以下「被告編集人」という。)に対し、被告発行人及び被告編集人につき民法709条、被告代表者につき民法709条又は会社法429条1項、被告会社につき民法709条、715条又は会社法350条に基づく損害賠償金並びにこれに対する不法行為の後の日である平成25年11月8日(本件雑誌の販売開始日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。ただし、書証の枝番の記載は省略する。以下同じ。)
(1) 当事者
ア 原告らは、いずれもテレビ番組、映画等に出演する、写真集を出すなどして幅広く芸能活動をしている芸能人である。(甲3)
イ 被告会社は書籍、雑誌及び新聞の出版及び販売等を業とする出版社、被告代表者は本件雑誌の発売当時被告会社の代表取締役であった者、被告発行人は本件雑誌の発行人、被告編集人は本件雑誌の編集人である。
(2) 本件雑誌の出版等(甲18)
ア 被告会社は、別紙雑誌目録記載の本件雑誌を出版し、平成25年11月7日以降、定価380円で販売した。
イ 本件雑誌は、表紙を含めて全体で248頁(うち広告が46頁)のB5判(縦約25.7cm、横約18.2cm)の週刊誌である。本件雑誌の巻頭、巻末及び中間の数か所にはカラー印刷のグラビア、記事、広告等が掲載されており、その余の部分にはモノクロ印刷のグラビア、記事、広告等が掲載されている。本件雑誌には、芸能界やスポーツ界の話題を取り上げる記事のほか、女性芸能人等の水着写真やヌード写真のグラビア、男女間の性を取り上げた記事等が複数掲載されており、表紙にはそのようなグラビア、記事等の見出しが複数掲載されている。ただし、表紙に本件記事に関する記載はなく、目次においても本件記事の見出しは特段目立つように記載されていない。
(3) 本件記事の内容(甲18)
 本件雑誌巻末のカラーグラビア(裏表紙を除いて28頁に及ぶ。)の前にはモノクロ印刷のグラビア部分が4頁あり、その冒頭の3頁にわたり、見出しを「勝手に品評!!」「芸能界妄想オッパイグランプリ」とする本件記事が掲載されている。
 本件記事は、上記見出しに続き、「手の届かない美女だからこそ、エッチな妄想は膨らむばかり。そこで、本誌が勝手に検証した結果をもとに、彼女たちのオッパイを大公開します。禁断のヌードを股間に焼き付けろ!」との文章と、原告らを含む女性芸能人(1頁目が6名、2頁目が10名、3頁目が9名。合計25名)の肖像写真(そのほとんどは上半身のみの写真であり、大きさは縦6cm、横4cmのものから縦12.2cm、横10.7cmのものまである。)に裸の胸部(乳房)のイラスト(原告らは写真であると主張するが、証拠上明らかにイラストであると認められる。甲18、乙1、2)を合成し、各芸能人の氏名と、記事執筆者による短いコメント、胸の推定サイズ並びに評価項目を「感度」、「母性本能」、「パイズリ具合」、「成長度」及び「張り」とする5角形のレーダーチャートを付したものを並べて掲載したものである。
 本件記事のうち、原告らの上記肖像等が掲載された位置、大きさ及び内容は、別紙原告らの記事目録に記載のとおりである(なお、原告らのうち芸名を用いる者については、以下、芸名で表記する。)。
2 争点
(1) パブリシティ権侵害の成否
(2) 人格権及び人格的利益の侵害の成否
(3) 被告らの責任
(4) 損害の額
(5) 差止め及び廃棄の必要性
3 争点に関する当事者の主張
(1) パブリシティ権侵害の成否
(原告らの主張)
 芸能人には、その固有の名声、社会的評価、著名性、それらがもたらす顧客吸引力等の商業的・経済的価値(パブリシティ価値)があり、当該芸能人に無断でその顧客吸引力を表す肖像等を利用する行為は、パブリシティ権の侵害として当該芸能人に対する不法行為を構成する。
 原告らは、本件雑誌が出版、販売された当時から、いずれも写真集等に登場し、テレビ番組に出演するなど固有の名声、社会的評価を有する芸能人であって、パブリシティ権の主体となり得る著名性を有していた。
 本件記事における原告らの氏名や肖像の使用態様は、専ら原告らの肖像を裸の胸とともに鑑賞させることを目的としていることは疑いようがなく、肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用するものであり、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とする場合に相当する。
 したがって、本件雑誌を出版、販売する行為は、原告らのパブリシティ権を侵害する。
(被告らの主張)
 本件記事において、肖像等それ自体が「独立して鑑賞の対象となる商品」になっていないことは明らかである。
 本件記事における原告らの肖像の胸部は、画像編集・加工ソフトにより作画したイラストをパーツとしてはめ込んだものであり、服を着た状態で胸だけが露出するという不自然なものとなっていることや胸部の輪郭線が太く実線であることからして全く稚拙なものであり、「妄想」等の添え書きがあることからしても、このようなものを読者は本物の乳房とは思わない。このような「合成されていることがわかりやすいもの」は鑑賞の用に耐えるものでもない。個々の写真の大きさを見ても、B5判の1頁に9名又は10名の写真が組み込まれているが、週刊誌のグラビア写真として用いられる場合、1頁に何枚も写真を掲載することはまれであり、本件記事が「ミニ写真集」というような性格を有することもない。
 顧客が本件記事を目当てに本件雑誌を購入することはかなりの程度限定されるし、被告らに顧客吸引力を利用する目的がなかったことは明らかであるから、本件雑誌の出版、販売は原告らのパブリシティ権を侵害しない。
(2) 人格権及び人格的利益の侵害の成否
(原告らの主張)
 本件記事は、読者の性的な好奇心や関心を呼び起こさせる侮辱的で卑猥な内容の記述とともに、各原告の肖像写真に、裸の胸の写真あるいは精巧に作成されたイラストを合成した写真を無断で掲載するものであり、女性であれば当然に羞恥心を覚え、自尊心を傷つけられるとともに強く不快に思い、名誉感情を著しく害するものである。
 このような態様での氏名及び肖像の無断掲載は、原告らが芸能人であるからといって受忍しなければならないものではなく、原告らの人格権としての氏名権、肖像権及び名誉権や、人格的利益としての名誉感情を侵害するものとして不法行為法上違法となる。
(被告らの主張)
 前記(1)(被告らの主張)のとおり、原告らの肖像に合成された胸部のイラストを読者が本物の乳房等と誤解するおそれは皆無である。
 また、原告らは芸能人としてメディアに露出しており、ヌード写真を公にしていないとしても、水着や露出度の高い服装で女性的なプロポーションをある意味「売り」にし、写真集を出したり、テレビ番組、映画等に出演したりして自らのファンを獲得しており、一般女性の羞恥心ないし社会生活上の受忍限度と尺度を同じにして判断することはできない。芸能人は、メディアに取り上げられて著名性を増幅させる過程で、「社会生活上」ではなく「芸能活動をする上」での受忍限度を負っているというべきである。
 原告らは、その芸能活動において、ファンの性的な好奇心や関心を呼び起こさせることはもとより、妄想をかき立てることも承知の上で、上記のような写真集やビデオを販売している。また、少なくとも、本件記事において原告らの写真に添えられた「コメント」や「見出し」は原告らの従前の芸能活動と関連するものであり、まさに芸能活動をする上での受忍限度の範囲内というべきである。さらに、胸の推定サイズについては、従前スリーサイズは公開されており、芸能記事でもよく書かれているところである。レーダーチャートも、細かな記載すぎて気が付かない読者がほとんどであると考えられるし、妄想自体を違法といわない限り、これをランク付けすることが違法となるものではない。
 そうすると、本件記事における氏名及び肖像の無断掲載は違法でなく、仮に違法と評価し得る部分があるとしても、タレントとして芸能活動をする上での受忍限度の範囲内にあり、原告らの人格権及び人格的利益の侵害はないというべきである。
(3) 被告らの責任
(原告らの主張)
ア 被告代表者、被告発行人及び被告編集人について
(ア) 被告代表者には被告会社の雑誌の編集方針を決定する権限があり、被告発行人及び被告編集人には雑誌の編集、発行の方針を現場で決裁する権限があるから、掲載される芸能人らのパブリシティ権、人格権及び人格的利益を侵害しないように編集方針を決定すべき義務を負っている。
 上記被告らは本件記事がパブリシティ権、人格権等を侵害することを容易に認識できたはずであり、原告ら芸能人の所属する芸能プロダクション等を構成員とする団体と被告会社等の雑誌社を構成員とする団体が作成した肖像権、パブリシティ権等の権利処理に関するガイドラインがあることからしても、上記被告らには故意又は過失がある。
(イ) さらに、被告代表者については、被告会社の業務全般の執行責任者として、被告会社における出版物の発行に当たって権利侵害を防止するための実効性のある体制を整備すべき義務があるにもかかわらず、何ら実効的な防止策を講じていないから、上記不法行為に加え会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負う。
イ 被告会社について
 被告会社は、原告らのパブリシティ権、人格権及び人格的利益を侵害する本件記事の掲載された本件雑誌を法人として出版、販売したものであり、法人としての不法行為責任を負う。
 また、被告代表者、被告発行人及び被告編集人による上記不法行為につき、民法715条による使用者責任又は会社法350条による代表者の行為についての責任を負う。
(被告らの主張)
 本件記事による不法行為の成否は一義的に明らかなものではなく、被告代表者、被告発行人及び被告編集人に故意又は過失は認められない。また、原告らが援用するガイドラインは紙媒体の雑誌には適用がないし、これに従うかどうかは各出版社、各編集部の任意である。
 したがって、本件記事の掲載につき被告らに責任原因はない。
(4) 損害の額
(原告らの主張)
ア パブリシティ権の侵害に係る損害額は、民事訴訟法248条を適用して認定すべきであり、以下のとおり、原告ごとに合計500万円となる。
(ア) 被告らは、本件記事の内容が原告らのキャラクターイメージに反するものであり、本件雑誌の出版がパブリシティ権侵害になることを十分に認識しつつ確信犯的に本件雑誌を出版したものである。かかるパブリシティ権の毀損による損害額は、原告ごとに少なくとも400万円である。
(イ) 原告らにおいて本件記事のような内容の記事の掲載を許諾することはあり得ないが、本件雑誌が23万部も発行されており、被害が甚大であること等に鑑みれば、本件記事に関する原告らのパブリシティ権の使用料相当額は、原告ごとに少なくとも100万円である。
イ 本件記事の掲載により原告らの人格権及び人格的利益が侵害されたことによる慰謝料の額は、本件記事の内容に加え、本件雑誌の発行部数や、近時人格権の重要性がますます増していることに鑑みれば、原告ごとに少なくとも500万円となる。
ウ 本件訴訟の弁護士費用は原告ごとに少なくとも100万円である。
(被告らの主張)
 争う。なお、パブリシティ権の使用料相当額に関して、被告会社は、本件雑誌の本件記事が掲載された部分にグラビアを掲載した場合、巻末で白黒であることから数万円程度の掲載料しか支払わない。本件では原告ら8名で実質1頁しか紙面をカバーしていないから、原告らに支払う額は数万円が限度である。
(5) 差止め及び廃棄の必要性
(原告らの主張)
 被告会社は、本件雑誌をバックナンバーとしていまだに販売しているから、本件雑誌の印刷販売の差止め及び廃棄の必要性がある。
(被告らの主張)
 本件雑誌は週刊誌であり、発売から1週間後、次の号が店頭に並ぶと同時に取次会社により回収され、被告会社に戻ることなく破棄されている。被告会社に在庫があるものは直近の数号分でごくわずかであり、本件雑誌の在庫は既になく、バックナンバーとして販売していない。したがって、差止め及び廃棄の請求は認められない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(パブリシティ権侵害の成否)について
(1) 個人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)を無断で使用する行為は、@ 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する、A 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付する、B 肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とすると認められる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解される(最高裁平成24年2月2日第一小法廷判決・民集66巻2号89頁参照)。
 原告らは、本件記事は肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用するもの(上記@)であり、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするから、パブリシティ権の侵害となる旨主張する。
(2) そこで判断するに、本件記事は、幅広く芸能活動を行って広く知られた原告らの肖像等を用いたものであるが、前記前提事実(2)及び(3)のとおり、裸の胸部のイラストを合成し、性的な表現を含むコメント等を付したものであり、肖像等そのものを鑑賞させることではなく、原告らを含む女性芸能人の乳房ないしヌードを読者に想像させる(妄想させる)ことを目的とするとみることができる。しかも、本件記事は、全248頁の本件雑誌中の巻末に近いモノクログラビア部分に掲載されたもので、表紙には取り上げられていない上、各原告の肖像等は1頁当たり9名又は10名のうち1名として掲載されるにとどまっている。これらの事情によれば、原告らのファン等が本件記事中の肖像写真を入手するために本件雑誌を購入することがあるとはおよそ考え難い。そうすると、本件記事に原告らの肖像等を無断で使用する行為は、上記@の肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用するものとはいえず、また、上記@以外の理由により専ら原告らの肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするものと認めることもできない。
 以上によれば、原告らの肖像等を用いた本件記事を本件雑誌に掲載する行為が原告らのパブリシティ権を侵害するとは認められない。
(3) したがって、パブリシティ権侵害に基づく原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
2 争点(2)(人格権及び人格的利益の侵害の成否)について
(1) 原告らは、本件記事の氏名及び肖像の無断掲載は、原告らの人格権としての氏名権、肖像権及び名誉権並びに人格的利益としての名誉感情を侵害するものである旨主張する。
(2) そこで判断するに、本件記事の内容は前記前提事実(3)及び別紙原告らの記事目録に記載のとおりである。これに加え、証拠(甲3、18、乙1、2、4〜10)及び弁論の全趣旨によれば、本件記事の大部分は原告らを含む女性芸能人の顔を中心とした肖像と裸の胸部のイラストで占められていること、その肖像に合成された乳房のイラストは、その輪郭こそ実線で描かれているものの、複数の陰影を付けた画像を重ね合わせることにより写真であるかイラストであるかが容易に判別できない程度にまで精巧に作られたものであること、元になった肖像写真は服を着た状態の上半身を撮影したものであるが、上記裸の胸部のイラストは、服や地肌の陰影、体の曲線等に自然に適合するように合成されていること、本件記事中の原告らの肖像に付されたコメントは、各人の芸能活動における特徴的な言動等をパロディ化して女性の胸に関する性的な表現に改変したものであること、以上の事実が認められる。
 これら事実関係によれば、本件記事は、一見しただけで原告ら女性芸能人の肖像に裸の胸部のイラストを合成したものであると判別できるようなものではなく、少なくとも第一印象として原告ら女性芸能人が自らの乳房を露出しているかのような誤解や印象を読者に生じさせる可能性があるものである。このような表現行為が、肖像を無断で利用された女性に強い羞恥心や不快感を抱かせ、その自尊心を傷付けるものであることは明らかである。
 しかも、本件記事は、上記のような加工がされた肖像に、原告ら女性芸能人の芸能活動に関係する性的な表現を含むコメントや、露骨な性的関心事を評価項目とするレーダーチャートが付されたものを複数羅列したものであり、読者の性的な関心をかき立てて原告らの羞恥心等を生じさせるだけでなく、原告ら及びその芸能活動を揶揄することをも目的とするものということができる。
 以上からすれば、本件記事は、社会通念上受忍すべき限度を超えた侮辱行為により原告らの名誉感情を不当に侵害するものであり、かつ、受忍限度を超えた氏名及び肖像の使用に当たるというべきである。
(3) これに対し、被告らは、原告らは芸能人であるから、「社会生活上」ではなく「芸能活動をする上での」受忍限度を超えるかどうかが問題とされるべきであり、原告ら自身が芸能活動においてファンの性的な好奇心や関心、妄想を呼び起こすような言動をしていることなどからすれば、本件記事の内容は受忍限度の範囲内である旨主張する。
 そこで判断するに、原告らは芸能人であり、その芸能活動に関し、自らの意図と異なる態様でテレビ、雑誌等に取り上げられることも一定程度は許容していると解されるから、芸能人の人格権及び人格的利益の侵害については、一般人とは異なる基準で判断すべきものと解する余地はある。しかし、証拠(乙4〜10)及び弁論の全趣旨によれば、原告らの中には胸の大きさ等を強調するなどの芸能活動をしたことがある者がいるものの、胸の大きさ等を映画やドラマの役柄やストーリー、プロモーションビデオ等で間接的に表現するものにとどまることが認められる。これに対し、本件記事は、第三者である被告会社が、読者に原告らの乳房又はヌードを妄想させることを目的として、原告らの肖像等を無断で利用して露骨な性的表現を意図的に作出したものであり、原告らが上記胸の大きさ等を強調するような芸能活動を行っていたことをもって、原告らにおいて本件記事のような内容の記事の掲載を受忍すべきと解する理由はないというべきである。
 したがって、被告らの上記主張は採用することができない。
(4) 以上によれば、本件記事を本件雑誌に掲載する行為は、原告らの人格権としての氏名権及び肖像権並びに人格的利益としての名誉感情を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である。
3 争点(3)(被告らの責任)について
(1) 被告発行人及び被告編集人は、それぞれ本件雑誌の発行及び編集を行った者であり、その職務の性質上当然に本件記事が本件雑誌に掲載されること及びその内容を認識していたものと認められる。そして、前記2(2)で判示した本件記事の態様に照らせば、これが原告らの人格権及び人格的利益の侵害になることにつき上記被告らに過失があったとみるべきものである。したがって、これに反する同被告らの主張は採用することができず、同被告らは原告らに対し不法行為責任を負うと判断するのが相当である。
(2) 原告らは、これに加え、被告代表者が、本件雑誌の発行当時、被告会社の代表取締役として雑誌の編集方針を決定する権限があったことなどを理由に、民法709条又は会社法429条1項による責任を負う旨主張する。しかし、代表取締役が抽象的には編集方針を決定し得るとしても、本件記事の作成及び掲載に関し、被告代表者がいかなる関与をしたのか、あるいはいかなる任務懈怠があったのかについては何ら具体的な主張立証はない。そうすると、原告らの被告代表者に対する請求は理由がないというほかない。
(3) 上記(1)の被告発行人及び被告編集人の行為は被告会社の職務としてされたものであるから、被告会社は、民法715条1項に基づく不法行為責任を負う。
4 争点(4)(損害の額)について
 以上によれば、被告会社、被告発行人及び被告編集人は、原告らに対し、人格権及び人格的利益を侵害したことにつき連帯して不法行為責任を負うと認められる。
 そこで原告らの損害の額について検討するに、本件記事による原告らの人格権及び人格的利益の侵害態様は前記2(2)のとおりであり、これにより原告らは芸能人であることを考慮しても女性として羞恥心を著しく害されるなどの精神的被害を受けたとみることができる。これに加え、本件雑誌の発行部数が23万部に及ぶこと(甲13)からすれば、本件記事を本件雑誌に掲載したことによる原告らの人格的利益の侵害の程度は看過し難いものがあるといえるところ、他方において、前記前提事実(2)及び(3)のとおり、原告らの肖像等が掲載されている部分は全248頁の本件雑誌の一部に限定され、本件雑誌の中で特に目立つ位置にあるものでないことといった事情をも考慮すると、原告らの損害の額としては、各原告の肖像の掲載位置、大きさ、コメントの内容等には若干の相違があるものの、いずれも75万円を相当と認める。
 また、本件の事案の内容、審理の経過等に鑑みれば、上記被告らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は、原告らそれぞれにつき5万円が相当である。
5 争点(5)(差止め及び廃棄の必要性)について
(1) 前記前提事実(2)のとおり、本件雑誌は週刊誌であるから、その性質上、店頭販売されるのは発売日である平成25年11月7日からの1週間に限られるのが原則であり、それ以降に被告会社が本件雑誌を店頭販売のために印刷し、販売することはないものと解される。
(2) これに対し、原告らは、被告会社がなお本件雑誌の在庫をバックナンバーとして販売しているとして、本件雑誌の印刷、販売の差止め及び廃棄の必要性がある旨主張する。
 そこで判断するに、証拠(甲19)及び弁論の全趣旨によれば、被告会社のホームページ上に、本件雑誌を含む過去に発行された「週刊実話」の表紙がバックナンバーとして掲載されていること、本件雑誌の購入を希望する場合には「お問い合わせフォーム」により被告会社に連絡するよう求める旨及びバックナンバーについては在庫完売等の事情により購入できない場合がある旨の記載があることが認められる。なお、原告らは、上記ホームページ(平成26年8月20日にプリントアウトしたもの)を証拠として提出するのみであり、原告らが上記ホームページを通じて本件雑誌を購入することができたかを明らかにしていない。これらのことからすると、被告会社が本件雑誌の在庫を販売のため保有していると認めるに足りる証拠はないというほかない。
(3) したがって、本件口頭弁論終結時点において被告会社が本件雑誌を販売し、又は販売するおそれがあると認めることはできないから、上記差止め及び廃棄の必要性は認められず、原告らの差止め等の請求は理由がないと解すべきである。
第4 結論
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 長谷川浩二
 裁判官 橋彩
 裁判官 植田裕紀久


(別紙)雑誌目録
 雑誌名:週刊実話11月21日号
 発行日:平成25年11月21日
 以上

(別紙)原告らの記事目録
1 原告A
(1) 掲載位置 3頁目中央付近
(2) 大きさ 縦6cm、横4cm
(3) 内容
ア コメント 「ぱっふんだ〜」
イ 推定サイズ 「推定Hカップ」
ウ レーダーチャート 5、4、5、3、5(感度、母性本能、パイズリ具合、成長度及び張りの順に各5段階評価。以下同じ。)
2 原告B
(1) 掲載位置 3頁目右上部
(2) 大きさ 縦7cm、横5cm
(3) 内容
ア コメント 「特技は乳圧プレイ」
イ 推定サイズ 「推定Eカップ」
ウ レーダーチャート 5、2、5、3、4
3 原告C
(1) 掲載位置 3頁目左上部
(2) 大きさ 縦11.2cm、横7cm
(3) 内容
ア コメント 「未開の乳」
イ 推定サイズ 「推定Fカップ」
ウ レーダーチャート 1、1、5、5、5
4 原告D
(1) 掲載位置 3頁目上部中央
(2) 大きさ 縦7cm、横5.4cm
(3) 内容
ア コメント 「泥酔すると感度アップ!?」
イ 推定サイズ 「推定Dカップ」
ウ レーダーチャート 4、1、2、2、4
5 原告E
(1) 掲載位置 3頁目中央右寄り
(2) 大きさ 縦12.2cm、横10.7cm
(3) 内容
ア コメント 「四十路のマシュマロ巨乳」
イ 推定サイズ 「推定Gカップ」
ウ レーダーチャート 5、3、4、1、2
6 原告F
(1) 掲載位置 3頁目右下部
(2) 大きさ 縦6cm、横4.8cm
(3) 内容
ア コメント 「哀愁のバツ2乳房」
イ 推定サイズ 「推定Cカップ」
ウ レーダーチャート 5、4、4、1、2
7 原告G
(1) 掲載位置 3頁目下部中央
(2) 大きさ 縦6cm、横4cm
(3) 内容
ア コメント 「魅惑のオヤジ殺し」
イ 推定サイズ 「推定Cカップ」
ウ レーダーチャート 2、5、2、2、2
8 原告H
(1) 掲載位置 2頁目左上部
(2) 大きさ 縦6.6cm、横約4.6cm
(3) 内容
ア コメント 「フラ淫グゲット」
イ 推定サイズ 「推定Fカップ」
ウ レーダーチャート 3、1、2、5、5
以上
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