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【事件名】作詞家 vs 歌手 CD売買契約事件 【年月日】平成26年11月28日 東京地裁 平成25年(ワ)第14424号 売掛金請求事件 (口頭弁論終結の日 平成26年10月15日) 判決 原告 株式会社フェブライオ・エ・メッツォ 同訴訟代理人弁護士 田中紘三 同 田中みどり 同 田中みちよ 被告 A 同訴訟代理人弁護士 草野勝彦 同 平野好道 同 丹羽正明 同 河合伸彦 同 古賀照平 同 服部祥子 同訴訟復代理人弁護士 山口貴央 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1(1) (主位的請求) 被告は、原告に対し、144万円及びこれに対する平成23年11月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (2) (予備的請求) 被告は、原告に対し、144万円及びこれに対する平成26年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、別紙歌詞目録記載1の歌詞(以下「第1歌詞」という。)及び同目録記載2の歌詞(以下「第2歌詞」という。)の全部又は一部を歌唱して実演してはならない。 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、被告に対し、(1)@主位的に、原告は、被告に、原告代表者であるB(以下「B」という。)の作詞に係る第1歌詞及び第2歌詞(以下、これらを併せて「本件歌詞」という。)に旋律を付した音楽(以下、それぞれ「本件第1楽曲」及び「本件第2楽曲」といい、これらを併せて「本件楽曲」という。)を録音収録したコンパクトディスク(以下「本件CD」という。)を売り渡したと主張して、本件CDの売買契約(以下「本件売買契約」という。)に基づき、本件CDの代金144万円及びこれに対する平成23年11月21日(本件CDの引渡し後の日)から支払済みまでの商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め(以下「本件請求(1)@」という。)、A予備的に、本件CDの制作から本件訴訟に至る一連の被告の行為(本件訴訟において、被告が本件請求(1)@に関する抗弁として消滅時効の完成を主張し、同時効を援用したことを含む。)が原告に対する不法行為を構成すると主張して、損害賠償金144万円及びこれに対する平成26年3月10日(消滅時効援用の日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(以下「本件請求(1)A」という。)とともに、(2)原告は、Bから本件歌詞の著作権の譲渡を受けたところ、被告による本件歌詞の歌唱が本件歌詞について原告の有する演奏権を侵害すると主張して、著作権法112条1項に基づき本件歌詞の歌唱の差止めを求める(以下「本件請求(2)」という。)事案である。 2 なお、原告は、平成26年9月8日の第17回弁論準備手続期日において、上記1(1)の主位的請求及び予備的請求に係る元本の金額を144万円から134万4000円に減縮する旨申し立てたが、被告は、これに異議を述べた。以下に摘示する原告の主張に係る請求原因は、上記減縮を前提とするものである。 第3 当事者の主張 1 請求原因 (1) 本件請求(1)@の請求原因 ア 原告は、被告に対し、平成22年5月16日から同年11月20日までの間に、以下のとおり、本件CDを1枚1200円で合計1400枚売り、そのころ被告に引き渡した(本件売買契約)。
ウ よって、原告は、被告に対し、本件売買契約に基づき、本件CDの代金の一部である134万4000円(原告は、被告が主として被告出演の歌唱リサイタル会場で本件CDを転売し、その販売収益により原告に対する代金支払をする予定であったことから、2割引〔1枚960円〕を限度として値引きに応じることにしていた。)及びこれに対する平成23年11月21日から支払済みまでの商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (2) 本件請求(1)Aの請求原因 ア 原告と被告との間には、平成22年5月ころまでに、本件CDを制作するための業務を原告が行い、原告がその対価として本件CDの制作販売に関する全権利を取得し、被告が制作費用のうち一定額を負担するとともに、本件CDを原告から購入することで本件CDの販売協力をすることを内容とする契約が結ばれていた。 しかるに、被告は、当初から、本件CDの購入により、本件楽曲に関する著作料をB(作詞者)及びC(以下「C」という。)(作曲者)に得させるための協力をする意思を全く有しておらず、著作料を全く支払うことなく、騙しのおとりとして購入代金の支払意思もない本件CDの初回製造代金のうち下請作業実費を負担しただけで、本件歌詞及びそれに付された旋律という著作物を騙し取る目的しかなかった。そして、下記3(1)のとおり、被告は、平成26年3月10日の第12回弁論準備手続期日において、本件CDの代金支払を拒むために消滅時効の完成を主張し、同時効を援用するに至ったものである。 これらの一連の被告の行為は、原告に対する不法行為(本件CDの騙し取りという取引的不法行為)を構成する。 イ 原告は、被告の不払意思を知っていれば、被告に本件CDを送付することなく、他に買主を見つける機会を有していたのであり、被告に送付して騙し取られた本件CDの代金額の一部である134万4000円が損害額となる。 ウ よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償金134万4000円及び平成26年3月10日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (3) 本件請求(2)の請求原因 ア Bは、平成22年4月ころまでに、本件歌詞を作詞した。 イ 本件歌詞は、著作物に当たる。 ウ Bは、原告に対し、平成25年5月23日、本件歌詞の著作権を譲渡した。 エ 被告は、本件歌詞を歌唱するおそれがある。 オ よって、原告は、被告に対し、本件歌詞の演奏権に基づき、本件歌詞の歌唱の差止めを求める。 2 請求原因に対する認否 (1) 本件請求(1)@の請求原因について ア 請求原因(1)アのうち、原告と被告との間で本件売買契約が締結されたとする点は、否認する。被告は、本件CDの制作実費をすべて負担しており、できあがった本件CDは当然に被告の所有物であると考えていた。 請求原因(1)ア(ア)(イ)(オ)(カ)は、認める。 請求原因ア(ウ)については、一宮市に本件CDを郵送するよう依頼したことはあるが、枚数は覚えていない。 請求原因ア(エ)については、覚えていない。 イ 請求原因(1)イは、認める。 (2) 本件請求(1)Aの請求原因について 請求原因(2)ア及びイは、否認し又は争う。 そもそも、原告と被告との間に本件売買契約は成立しておらず、原告に代金請求権はないので、原告には被侵害利益がない。なお、被告は、Bに対する作詞対価は、作詞印税をもって支払われるものと認識しており、それゆえ、一般社団法人日本音楽著作権協会(以下「JASRAC」という。)に支払うべき著作権使用料は、被告自身が負担した(乙2、3の1・2)。そして、実際に、本件歌詞に関する著作権使用料等は、平成22年12月24日、作詞印税として、JASRACからBに支払われている(調査嘱託の結果)。 仮に、本件売買契約の成立が認められたとしても、被告は適法に時効援用権を行使したにすぎず、何ら違法な行為はしていない。 (3) 本件請求(2)の請求原因について 請求原因(3)ア及びイは、認める。 請求原因(3)ウは、否認する。 請求原因(3)エは、否認する。被告は、すでに2年以上前から、本件歌詞をいかなる場でも歌唱していないし、本件CDを販売もしていない。また、被告は、本件訴訟の帰趨いかんにかかわらず、本件歌詞を歌唱したいとは考えていない。 3 抗弁 (1) 消滅時効−請求原因(1)に対して ア 原告は、被告に対して本件CDを卸売りしていたものであり、本件CDの売買代金債務は生産者、卸売商人又は小売商人が売却した商品の代価に係る債権(民法173条1号)にあたり、消滅時効期間は、2年間である。 イ 平成24年5月16日ないし同年11月20日は、経過した。 ウ 被告は、平成26年3月10日の第12回弁論準備手続期日において、上記時効を援用した。 (2) 利用許諾−請求原因(3)に対して 被告とBとの間では、被告がBに作詞を依頼し、Bがこれを承諾した時点で、黙示的に、演奏権の無償での利用許諾合意がなされた。 4 抗弁に対する認否 (1) 抗弁(1)アについて、原告は争うことを明らかにしない。 (2) 抗弁(2)は、認める。ただし、許諾は、原告の主張する販売促進目的に限定されたものである。 5 再抗弁 (1) 代金支払時期の定め(抗弁(1)に対し) 原告は、被告に対し、本件CDの売買当初より、被告による代金の支払について、1年間の支払猶予期限を与えていた。原告は、この期限を被告の利益のために定めたものであるから、これを定めるにつき被告との合意は不要であり、その定めは、原告の一方的片面的意思により定めることができる。 そのため、代金支払時期は最初の売渡し分については、平成23年5月16日、最後の売渡し分については、平成23年11月20日となる。 (2) 権利濫用ないし信義則違反(抗弁(1)に対し) 被告の消滅時効の援用は、作詞料の原資となるべき原告の売上げ収入を喪失させるため、権利濫用ないし信義則に反する行為である。 (3) 解除(抗弁(2)に対し) ア Bは、被告が本件CDを原告から購入して購入代金の支払をすることにより利益を得るものであり、そのために、被告が原告から購入した本件CDを会場販売する際の販売促進という限定的目的で、本件歌詞をコンサート会場用歌唱に用いることを許諾していた。 しかるに、被告は、本件CDの購入代金を支払う意思がないことを明確にした。したがって、原告が、被告に対し、被告のコンサート会場において本件歌詞を歌唱することを許諾する必要は消滅し、その許容を継続する必要も皆無になったのであるから、解除に催告は不要である。 イ 原告は、被告に対し、平成25年5月10日、上記許諾契約を解除するとの意思表示をした。 6 再抗弁に対する認否 (1) 再抗弁(1)について 否認する。 また、主張自体失当である。 (2) 再抗弁(2)について 争う。 (3) 再抗弁(3)について 否認する。 利用許諾に際し、販売促進目的を達成するためという利用上の条件が付されていたことはなく、被告に利用条件違反はない。仮に上記利用条件があったとしても、被告が本件CDの販売活動を継続できない原因は、原告が合意もないのに売買代金を請求したり、バイオリニストの出演料負担やディナーショー収入の半分の分配を要求したりするなどしたことにある。 また、Bから原告への著作権譲渡の時期は平成25年5月23日であり、同月10日の解除の意思表示の後であるから、その時点で原告に解除権はなかった。 第4 当裁判所の判断 1 本件請求(1)@について (1) 当事者間に争いのない事実、証拠(甲1ないし15〔書証の枝番は省略することがある。以下、同じ。〕、乙1ないし11、調査嘱託の結果、とりわけ後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア Bは、いくつもの著名な楽曲の作詞を手がけた経験を有する作詞家であり、被告は、歌手を業としている。 イ Bと被告は、平成21年7月ころ知り合い、被告は、Bに対し、そのころ、オリジナルのCDを作成するための作詞を依頼した。 Bは、上記依頼に基づき、同年11月ころまでに第1歌詞(「愛は初恋のように」)を完成させ、平成22年4月ころまでに、第2歌詞(「花の名残」)を完成させた。 ウ Bは、平成21年11月ころ、Cに対し作曲を依頼し、その旨被告にも伝えた。 エ 被告は、平成21年11月28日ころ、本件第1楽曲のメロディ譜面を受け取った。 オ 被告は、平成21年12月21日、Bの指示により、本件第1楽曲の編曲料、演奏料、スタジオ使用料、エンジニア人件費等として、C名義の口座に70万円を支払った。 カ 被告は、平成22年1月ころ、同年4月8日ころ及び同月22日ころ、本件楽曲のレコーディングを行った。 キ 被告は、Bの指示により、C名義の口座に、平成22年4月12日に、編曲料、演奏料、スタジオ使用料、エンジニア人件費等として70万円を、同月22日に録音のやり直しによって生じた費用及びマスタリング費用として50万8000円を支払った。 ク 被告は、平成22年3月ころから同年4月ころにかけて、CDジャケットデザインの打ち合わせやジャケット写真の撮影などを行った。 ケ 被告は、平成22年5月27日、Dに対し、撮影代金7万円を支払った。また、被告は、同年8月4日、BONES GRAPHICSに対し、本件CDのシングルデザイン代、フライヤーデザイン代、ヘアメイク代、CD回り制作印刷代、フライヤー制版印刷代及びCDサンプルシール制版印刷代として、合計80万9550円を支払った。 コ 被告は、Cに対し、平成22年9月28日、Cが立替払していたJASRACに対する本件CD3000枚分の管理著作物使用料21万6090円、歌詞カード分著作使用料4725円及びJANCODE取得費用2万1000円を支払った。JASRACは、同年12月24日、Bに対し、録音使用料として第1歌詞について2万580円、第2歌詞について4万1160円、出版使用料として第1歌詞及び第2歌詞についてそれぞれ900円を支払った(乙11、調査嘱託の結果)。 サ 本件CDは、平成22年5月ころまでに原告に送られた。 本件CDのプラスチックケースには、裏面に「定価¥1、200(税抜価格¥1、143)」「発売元 NYJ/販売元 オーラソニック・レーベル/Phone 050−8885−4542」と記載されている。 シ 被告は、原告から、以下のとおり本件CDを受け取った。
しかし、前記認定事実に加え、証拠(甲15、乙11)及び弁論の全趣旨によれば、原告と被告との間では、原告主張契約について具体的に話し合われたことが一切ないこと、原告ないしBは、本件CDの引渡しの際、被告に代金を請求しておらず、代金の額や支払期限等についての説明もしていないことが認められる。 そして、原告主張契約では、被告が本件CDの制作代金のほとんど全てを出捐したにもかかわらず、本件CDの売上は原告に帰属することとなり、Bが被告に作曲家を紹介する等、本件CDの制作に作詞以外の面でも関与していること、Bが著名な作曲家であり被告にとってB作詞の楽曲を持ち歌とできることが被告の利益になることを考慮しても、被告にとって著しく不利な内容であることからすれば、被告が原告主張契約に応じるとは、到底考え難い。 したがって、原告主張契約は、明示的にも、黙示的にも成立していないというべきである。 これに対し、原告は、原告主張契約が成立した旨主張し、その根拠として、@本件CDのジャケットに、「販売元」として、原告のレーベルである「オーラソニック・レーベル」と記載されていること、ABは本件CDについてプロデュース業務を行ったこと、B原告がマスター音源(甲7)を所持しており、本件CDの全量を業者から受領していることをあげる。 しかし、上記@については、本件CDのジャケットには「発売元 NYJ」との記載があるが、「NYJ」は被告を意味するものであること(弁論の全趣旨)、上記Aについては、Bないし原告が行った作詞以外の業務としては、作曲家の紹介等にとどまること、上記Bについては、マスター音源や本件CDの送り先を便宜上原告とすることはあり得ることからすれば、いずれも原告主張契約の成立に直ちに結びつくものとはいえない。 イ 結局、本件では、原告ないしBと被告との間で明確な対価の合意がされないまま、本件CDの製作業務が行われたものとみるべきである(Bの陳述書〔甲15〕に客観的な事実として記載された内容を前提として検討しても、上記認定判断が左右されるものではない。)。 そして、被告が本件CDの制作費用を出捐していること、被告は、JASRACに対し、管理著作物使用料を支払っており、BはJASRACを通じて本件歌詞の作詞について印税を受領していること(調査嘱託の結果)、原告ないしBは本件CDの広告宣伝活動を行うこともなく、Bの行った業務は、作詞を除けば、作曲家(やカメラマン、プレス業者)の紹介等、Bの有する人脈の活用という面があるにせよ、業務の負担自体は軽微なものであることからすれば、当事者の合理的意思の解釈としては、原告ないしBは、本件歌詞の作詞等本件CDの制作に当たって提供した労務の対価としてはJASRACを通じた支払を受けられるにとどまるのであって、本件CDは被告の所有に属し、原告は、業者から送られてきた被告所有の本件CDを被告に転送したにすぎないものと認めるのが相当である。 (3) したがって、原告と被告との間に本件売買契約が成立したとは認められず、原告の本件請求(1)@は、理由がない。 2 本件請求(1)Aについて 原告と被告との間に、原告主張契約及び本件売買契約が成立したと認められないことは、前記1のとおりであるから、被告の行為によって原告の法律上保護されるべき利益が侵害されたということはできず、本件請求(1)Aは、その前提を欠くものであって、理由がない。 3 本件請求(2)について (1) 原告は、Bが、平成25年5月23日、原告に対し、本件歌詞の著作権を譲渡した旨主張し、Bの陳述書(甲15)には、これに沿う記載がある。 しかし、原告は、同主張ないし記載を裏付ける客観的証拠を何ら提出していないばかりか、Bと原告とは別人格であるにもかかわらず、Bから原告への本件歌詞の著作権の譲渡に伴う対価の支払の有無や税務会計上の処理について、何ら具体的な主張立証をしない。 かえって、証拠(乙11、調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば、Bは、平成22年12月24日、本件歌詞に関して、JASRACから印税を受領していることが認められる。これによれば、Bが、同日以前に、既に本件歌詞の著作権をJASRACに信託譲渡済みであったものと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる証拠はない(なお、証拠〔甲13〕によれば、Bは、平成25年10月16日、JASRACに対し、本件歌詞に関する作品届を提出したことが認められる。)。 そして、Bから原告への本件歌詞の著作権の譲渡は、BからJASRACへの本件歌詞の著作権の信託譲渡とは、原則として両立しない関係にあるにもかかわらず(楽曲に関する著作権がJASRACに信託譲渡されたときは、演奏権の侵害については、専らJASRACが差止請求や損害賠償請求の主体となると解される。)、Bの陳述書(甲15)は、この点について何ら合理的な説明をしていないことからすれば、原告に対する著作権の譲渡に関する限り、上記陳述書の記載は、Bの尋問を待つまでもなく、およそ信用に値しないものというべきであり、ほかに原告がBから本件歌詞の著作権の譲渡を受けたと認めるに足りる証拠はない。 (2) 上記(1)の点をひとまず措き、仮に、原告がBから本件歌詞の著作権の譲渡を受けていたものとしても、Bが、被告に対し、本件歌詞を歌唱することについて許諾を与えていたことそれ自体には争いがなく、Bが原告の代表者であることを考慮すると、同許諾は、原告との関係でも効力を有するものと認めるのが相当である(原告も、同許諾が原告との関係でも効力を有することは、積極的に争っていない。)。 この点、原告は、Bの被告に対する許諾は、被告が原告から買い受けた本件CDをコンサート会場で販売する際の販売促進という限定された目的の下で、本件歌詞をコンサート会場用歌唱に用いることに関するものにすぎないところ、被告が本件CDの代金を支払う意思がないことを明確にしたため、上記許諾に関する契約を解除した旨主張する。 しかし、原告と被告との間に、本件売買契約が成立したと認められないことは前記1のとおりである。そして、仮に利用許諾に際し、販売促進目的を達成するためという条件が付されていたとしても、被告が本件CDの販売活動を継続できない原因は、原告が成立していない本件売買契約に基づいて代金を請求したことにあるというべきであって、被告に債務不履行があったとは認められない。 したがって、原告による解除の意思表示は、効力を有しない。 (3) なお、上記(1)及び(2)の点を措くとしても、証拠(乙11)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、既に2年以上前から本件歌詞を歌唱しておらず、今後もこれを歌唱する積極的意思を有していないことが認められ、上記認定を覆すに足りる証拠はないから、本件において、差止めの必要性は、これを認めることができない。 (4) したがって、原告の本件請求(2)は、理由がない。 4 結論 以上によれば、原告の本件請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 嶋末和秀 裁判官 西村康夫 裁判官 石神有吾 |
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