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【事件名】ビッグローブへの発信者情報開示請求事件 【年月日】平成26年11月26日 東京地裁 平成26年(ワ)第7280号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 平成26年9月12日) 判決 原告 A 同訴訟代理人弁護士 深町周輔 同 春山修平 被告 ビッグローブ株式会社 同訴訟代理人弁護士 平出晋一 同 橋利昌 同 山口雅弘 同 太田絢子 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文第1項と同旨 第2 事案の概要 本件は、原告が、別紙ウェブページ目録記載1のURLにより表示されるウェブページ(以下「本件サイト」という。)において氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)がアップロードした同目録記載2のファイルに含まれるプログラムとされる制作物(以下「発信者プログラム」という。)は、原告の創作に係るプログラムとされる制作物(以下「本件パッチ」という。)の複製物ないし翻案物であり、本件発信者の行為は原告の複製権又は翻案権及び公衆送信権を侵害するものであることが明らかであるから、本件発信者に対し損害賠償請求権を行使するために本件発信者に係る発信者情報の開示を受ける正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、被告に対し、別紙発信者情報目録記載の発信者情報の開示を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実以外は、証拠等を末尾に記載する。) (1) 当事者等 原告は、本件パッチを制作した者である。 被告は、インターネット等のネットワークを利用した情報通信サービス、情報提供サービスその他情報サービスの提供等を業とする株式会社であり、「特定電気通信役務提供者」(プロバイダ責任制限法2条3号)に該当する(弁論の全趣旨)。 (2)ア 本件サイトは、インターネットに接続してアクセスすれば誰でも閲覧することが可能であり、また、誰もが同サイト上にアップロードされているファイルやプログラムをダウンロードすることが可能である。 イ 発信者プログラムは、平成25年12月30日午前3時29分25秒に、IPアドレス122.131.252.61を使用して、被告の提供するインターネット接続サービスを経由して、本件サイトにアップロードされた。 (3) 被告は、本件発信者に係る別紙発信者情報目録記載の発信者情報(以下「本件発信者情報」という。)を保有している。 2 争点 (1) 権利侵害の明白性の有無 ア 本件パッチがプログラムの著作物に該当するか。 イ 発信者プログラムが本件パッチの複製物ないし翻案物にあたるか。 (2) 本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無 第3 争点に対する当事者の主張 1 争点(1)ア(権利侵害の明白性の有無−本件パッチがプログラムの著作物に該当するか) (原告の主張) (1) 本件パッチは、平成7年に株式会社バンダイから発売された家庭用ゲーム機「スーパーファミコン」用ゲーム『SDガンダム GNEXT』(以下「本件ゲーム」といい、そのプログラムを「バンダイプログラム」という。甲2)に関して、原告がそのバグ等を改善するために作成したパッチプログラム(ソフトウェアの不具合の修正や小規模な更新をするために用いられる、差分情報のみのプログラム)である。 原告は、「吸い出し機」によって吸い出した本件ゲームのオブジェクトコードを「snes9x Debugger」というエミュレーター(甲26)により逆コンパイル(甲27)し、人間に理解容易なアセンブリ言語(ニーモニックコード)に変換して、プログラムの改造・制作を行っている。 (2) 原告の改造は多岐にわたるが、以下ではモビルスーツ対モビルスーツの戦闘画面(甲29)における「角システム」に関する「色の切り替えにかかるプログラム」(ファイル名:「cs MSbattle cs palette」。甲30の2。以下同ファイルのうち、甲30の2の1頁目27行目ないし3頁目下から4行目の部分〔別紙原告主張(1)ないし(20)に記載のコード〕を「本件色切替パッチ」という。)に焦点を当て、その条件設定や動作設定を説明することでその創作性を述べることとする。なお、角システムとは、ユニット(モビルスーツなどのキャラクター)のレベルが上がったときに、ユニットの名前や、色、グラフィックが変化するというシステムである。 別紙原告主張のとおり、本件色切替パッチでは、いくとおりもの条件設定が行われ、条件充足の有無を処理して、その結果に従って一定の動作要求を行う旨プログラムが組まれている。また、原告独自の動作要求(各テーブルやスタック間でのデータの移動等)を適宜織り込んでいる。特に、別紙原告主張(4)及び(5)のとおり本件色切替パッチではCPU内の各テーブルを[$00:30B6][$00:30B8]という空きメモリ容量にて処理する形に変更する形でコーディングすることにより、以降のコーディングをシンプルな記述とすることを可能とし、またそれにより負荷を小さくしたり、別紙原告主張(5)のとおり本格処理に先行して一部処理を行う形でのコーディングをすることで後の本格処理の際の負荷を抑えることができた。これらの創意工夫によるコーディングの結果、本件色切替パッチ適用時の処理の高速化と動作の安定性の確保を実現することができたものである。 原告は、様々な条件設定や構成、条件と条件との関連や動作要求との紐づけの方法がある中で、試行錯誤の結果、多大な労力と時間を費やし、上記のとおり、本件色切替パッチ適用時の処理の高速化と動作の安定性を確保することが可能な条件設定・動作要求の組み合せ、ないしコーディングを完成させたものである。 一連の組み合わせないしコーディングについては表現の幅は相当広いものであることは明らかであるから、本件色切替パッチに創作性が認められることは明らかである。 (3) したがって、本件パッチのうち、少なくとも本件色切替パッチが「プログラムの著作物」にあたることは明らかである。 (被告の主張) (1) 原告の主張は争う。 (2) 本件パッチは、それ自体がコンピュータ上で機能するいわゆる「プログラム」ではない。バンダイプログラムに対し本件パッチを当てることで(すなわち、本件パッチによりバンダイプログラムのオブジェクトコードの一部を上書きし、コードを付加するなどして書き換え)所期の機能を発揮するようであるが、本件パッチを当てることでバンダイプログラムの同一性が失われる訳ではなく、あくまでプログラムとして動作するのはバンダイプログラムである。したがって、バンダイプログラムとは別個に、本件パッチ自体を表現するなら、バンダイプログラムを改変するためのデータ列というほかない。 加えて、原告が創意工夫をしたとする箇所の多くは、別の著作物であるバンダイプログラムを前提として、そのソースコード等を入手することなくそのオブジェクトコードを改変する(すなわち、バンダイプログラムのアルゴリズムの流れや色・形等の設定を変更する)という通常であれば無理な作業を行うことから生じているものであるように思われる。したがって、原告の困難かつ多大な努力と、それらの創意工夫は、原告の個性による創作・創造というよりは、専らバンダイプログラム自体の原状に規定・拘束された、ある種の必然的な制作作業というべきものであって、著作物における、制作者の個性の表現ともいわれる創作性とはおよそ異なるものであるように思われる。 2 争点(1)イ(権利侵害の明白性の有無−発信者プログラムが本件パッチの複製物ないし翻案物にあたるか。) (原告の主張) (1) アセンブリ言語によるニーモニックコードとそれをコンパイルした機械語によるオブジェクトコードとは1対1の関係にあるところ、スターリングソフト(甲19)を使用して、本件パッチと発信者プログラムをオブジェクトコードレベルで対比すると、前記1で述べた本件色切替パッチの部分については、両プログラムのオブジェクトコードは完全に一致する。 また、本件パッチと発信者プログラムは、結果として得られるゲーム画面も類似している(甲29)。色の変化が生じる条件(特定の軍に「所属」すること、「レベル」が上がること)も同一である。 そのため、本件発信者は、発信者プログラムにおいて、本件パッチ(の複製物であるオブジェクトコード)をそのままコピーして使用していることが強く推認でき、発信者プログラムは本件パッチを複製ないし翻案したものであることは明らかである。 (2) 本件パッチへの依拠については、本件発信者自身、当時から自認しているところであるし、原告による発信者情報開示請求後においても「『請求人プログラムの無断改変等・・・過去ホームページ上で改変の上での配付についての許諾条件を記載しており発信者も過去二度に渡って個人的に許諾を得ております」(乙1・2頁目「・根拠3〜」で始まる段落内)と、発信者プログラムが本件パッチに依拠して創作したものであることを自認している。 (3) したがって、発信者プログラムは本件パッチと実質的に同一か、少なくともその本質的特徴を直接感得し得る程度の改変しか加えていないものであるから、本件パッチを複製又は翻案したものであるというほかない。 (被告の主張) 不知 3 争点(2)(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無) (原告の主張) 原告は、本件発信者に対し、本件パッチの権利侵害を理由として、不法行為に基づく損害賠償請求等の準備をしており、そのためには、本件発信者情報が必要であって、開示を求める正当理由がある。 (被告の主張) 不知 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)ア(権利侵害の明白性の有無−本件パッチがプログラムの著作物に該当するか) (1) 本件パッチが「プログラム」(著作権法2条1項10号の2)に該当するか。 「プログラム」とは、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう。」(著作権法2条1項10号の2)とされている。 証拠(甲30の2、36ないし38(以上枝番のあるものは枝番を含む。以下同じ。))及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 本件パッチは、バンダイプログラムに関し、原告がそのバグ等を改善するために作成したパッチ(ソフトウェアの不具合の修正や小規模な更新をするために用いられる、差分情報のみのもの)であり、本件色切替パッチは、本件ゲームのモビルスーツ対モビルスーツの戦闘画面(甲29)における「角システム」(ユニット(モビルスーツなどのキャラクター)のレベルが上がったときに、ユニットの名前や、色、グラフィックが変化するというシステム)に関する「色の切り替えにかかるプログラム」(ファイル名:「cs MSbattle cs palette」のファイルのうち、甲30の2の1頁目27行目ないし3頁目下から4行目の部分)である。 本件色切替パッチは、アセンブリ言語により記述されたもので約100行のコードからなり、一定の条件の下で当該モビルスーツの色彩が変更されるようにするために、バンダイプログラムから登場機体番号、登場機体の所属、登場機体のレベルに関する情報を読み出し、一定の加工を行った上で、用意しておいたデータベース(甲36)の情報と対照し、「条件a」、「条件o1」、「条件o2」の成否を判定して、所定の場合には色の切替動作を行うようにしたものである。 以上のとおり、本件パッチのうち、少なくとも本件色切替パッチは、複数の指令を組み合わせて電子計算機を機能させ、所定の場合には色の切替動作を行い、所定の場合にはこれを行わないという1つのまとまった仕事ができるように構成されているものと認められるから、「プログラム」に該当する。 (2) 著作物性の有無 ア プログラムの著作物性の判断基準 ある表現物が、著作権法の保護の対象となる著作物に当たるというためには、思想、感情を創作的に表現したものであることが必要であり(著作権法2条1項1号)、創作的に表現したものというためには、作成者の何らかの個性が発揮されたものであることが必要である。この点は、プログラムであっても異なるところはないが、プログラムは、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(著作権法2条1項10号の2)であり、所定のプログラム言語、規約及び解法に制約されつつ、コンピュータに対する指令をどのように表現するか、その指令の表現をどのように組み合わせ、どのような表現順序とするかなどについて、著作権法により保護されるべき作成者の個性が表れることになる。 したがって、プログラムに著作物性があるというためには、指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性、すなわち、表現上の創作性が表れていることを要する。 そして、「創作的」に表現されたというためには、厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく、作成者の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが、他方、プログラムの具体的記述自体がごく短く又は表現上制約があるため他の表現が想定できない場合や、表現が平凡かつありふれたものである場合には、作成者の個性が表現されたものとはいえないから、創作的な表現であるということはできない。 以上を前提に検討する。 イ 前記(1)のとおり、本件色切替パッチは、情報の読み出し、加工、データベースとの照合などの処理を行うものであり、そのために種々のコマンドを組み合わせて表現している。しかるところ、本件色切替パッチと同じ目的を達成するためのコマンドやその組み合わせ、その順序には、例えば以下のとおり、ほかにも多様な選択肢がある。 (ア) 本件色切替パッチでは、別紙原告主張(3)の部分Bのコード(以下「部分B」という。以下他のコードも同様。)の3行目ないし4行目において、ANDコマンドを用いて「A」テーブルに保存されたデータの値と数値「00FF」との論理積を求め、BNEコマンドによりデータの値が「00」でない場合には指定された場所までジャンプするようにしている。 ここで、ANDコマンドは、二進数で考え、各桁において、二つの値の両方とも1の時のみその桁は1に、一方でも0なら0となるとともに、ゼロフラグを変更しうるコマンドであり(甲38の15)、BNEコマンドはゼロフラグがゼロの時、指定された場所までジャンプするコマンドであるが(甲38の12)、これらに代えて「A」テーブルの値と指定された値の引き算を行い、両者が等しい場合にゼロフラグを「1」に変更するCMPコマンド(甲38の10)を用いて、「A」テーブルに保存されたデータの値と、値「00」の比較を行った上で、BNEコマンドと組み合わせても、本件色切替パッチ同様の処理結果となると考えられる。 (イ) 本件色切替パッチでは、部分Sの2行目において、BNEコマンドを使用し、3行目以下において「角システム」不採用の場合の処理について記述し、6行目以下において「角システム」採用の場合の処理について記述している。 ここで、BNEコマンドの代わりに、ゼロフラグが1の時、指定された場所までジャンプするコマンドであるBNQコマンド(甲38の12)を用いた上で、「角システム」採用の場合の処理を先に、「角システム」不採用の場合の処理を後に記述しても、本件色切替パッチと同様の処理結果となると考えられる。 (ウ) 本件色切替パッチでは、部分Dにおいて、(i)「Y」テーブルへ[$00:30B8]の値を代入し(以下「処理(i)」という。)、(ii)[$00:30B8]に「X」テーブルからの情報をコピーし(以下「処理(ii)」という。)、(iii)「A」テーブルへ[$00:30B6]の値を代入する(以下「処理(iii)」という。)という順序としている。 ここで、[$00:30B8]に保存された情報の上書きを防ぐため、処理 (i)の後に処理 (ii)を行うことは必要であるが、処理 (iii)は処理(i)及び処理(ii)とは無関係な処理であるから、処理 (iii)を行ってから 処理(i)、処理 (ii)を行うという順序でも、処理 (i)の次に処理 (iii)を行い、最後に処理 (ii)という順序でも、本件色切替パッチと同様の処理結果となると考えられる。 (エ) 本件色切替パッチでは、部分Rにおいて、DATA1ないし3のいずれに割り振られた場合でも、「A」テーブルに情報を読み出し、一定の処理をした上で、フラグに関係なく指定された場所までジャンプするBRAコマンド(甲38の12)により、部分Rの末行のTAXコマンドにジャンプするようにし、さらに部分Sの処理に移るようにされている(すなわち、DATA1ないし3のいずれに割り振られた場合であっても、同一のTAXコマンドが適用される。)。 ここで、DATA1ないし3の各部分の末行のコマンドの代わりにTAXコマンドを用い、さらにBRAコマンドで部分Sにジャンプするように記述することでも、同様の処理結果となると考えられる。 (オ) 本件色切替パッチでは、部分Dにおいて[$00:30B6]に保存しておいたバンダイプログラムの登場機体の機体番号に対応した原告が作成した角システムデータベースのシート1(甲36の1)の登場機体番号(シート1のA列)のデータ(以下「シート1Aデータ」という。)を「A」テーブルにコピーし、部分EにおいてASLコマンドを3回用いて8倍とし、PHAコマンドでそれをスタック領域に保存し、部分Fにおいて再度[$00:30B6]からシート1Aデータを「A」テーブルにコピーし、シート1AデータをASLコマンドで2倍にしたものにADCコマンドを用いてシート1Aデータを加え(すなわちシート1Aデータを3倍とし)、それにASLコマンドを2回用いて、最終的にシート1Aデータを12倍としている。 すなわち、本件色切替パッチでは、部分DないしFにおいて、シート1Aデータを8倍した値及びシート1Aデータを12倍した値を作成し、順次スタック領域に保存しているものである。 ここで、例えば、部分EのASLコマンドを2回使った時に(すなわち、シート1Aデータが4倍された時に)、当該値を[$00:30B6]に保存しておき、部分Fでは[$00:30B6]に保存しておいたシート1Aデータが4倍された値を「A」テーブルに読み出し、これを2倍にした上で、[$00:30B6]に保存してあるシート1Aデータが4倍された値を加算することでも、シート1Aデータを12倍した値を作成することは可能と考えられる。 ウ 以上のとおり、数値の突合及びそれに伴う条件分岐にいかなるコマンドをどのように組み合わせるか、条件が成立する場合としない場合の処理をどのような順序で記載するか、どのタイミングでテーブルないしメモリ領域間で情報を移動させるか、共通する処理があるときに共通する部分をまとめて記述するかそれとも個別に記述するかなどについて、本件色切替パッチと異なる表現を採用しても、本件色切替パッチにおいて実現される処理と同様の処理を行うことが可能である。そして、使用可能なコマンドは多数存在すること(甲38)、本件色切替パッチのコード数は約100行あることからすれば、全体としてみれば、本件色切替パッチにおいて実現される処理を行うために用いうるコマンド、その組み合わせ及び表現順序の選択の余地は大きいものというべきである。 原告は、それだけの選択の余地がある中で、工夫を凝らして本件色切替パッチを作成したものであるから(甲14)、本件色切替パッチは、ありふれた表現ではなく、何らかの作成者の個性、すなわち、表現上の創作性が表れていると認められる。 (3) したがって、本件パッチのうち、少なくとも本件色切替パッチは、プログラムの著作物であると認められる。 2 争点(1)イ(権利侵害の明白性の有無−発信者プログラムが本件パッチの複製物ないし翻案物にあたるか。) (1) 本件色切替パッチと発信者プログラムの当該部分をオブジェクトコードレベルで対比すると、両プログラムのコードは完全に一致すると認められる(甲34の1)。 アセンブリ言語によるニーモニックコードとそれをコンパイルした機械語によるオブジェクトコードとは1対1の関係にあるので(弁論の全趣旨)、発信者プログラムの当該部分は本件色切替パッチの複製物であるといえる。 なお、本件色切替パッチのコードの分量に照らせば、本件発信者が、本件色切替パッチに依拠して発信者プログラムの当該部分を再製したものであることは明らかである。 したがって、発信者プログラムのうち、少なくとも本件色切り替えパッチに対応する部分は、本件パッチの一部である本件色切替パッチの複製物に該当する。 3 争点(2)(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由) (1) 上記1及び2によれば、本件発信者の行為は原告の複製権及び公衆送信権を侵害するものであることが明らかである。 原告は、本件発信者に対し、著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を行使する意向を示しているところ、上記損害賠償請求権の行使のためには、被告の保有する本件発信者情報の開示を受けることが必要である。 (2) したがって、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる。 第5 結論 以上によれば、その余の点について検討するまでもなく、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 嶋末和秀 裁判官 西村康夫 裁判官 石神有吾 |
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