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【事件名】美容室予約管理システム「デジサロ」事件
【年月日】平成26年11月13日
 大阪地裁 平成25年(ワ)第8321号 貸金等請求事件(甲事件)、平成25年(ワ)第8365号 弁済金等請求事件(乙事件)
 (口頭弁論終結日 平成26年9月30日)

判決
甲事件原告 P1(以下「原告P1」という。)
乙事件原告 株式会社ラジカルオプティ(以下「原告会社」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 浦川典之
甲事件・乙事件被告 株式会社コバシステム(以下「被告会社」という。)
甲事件・乙事件被告 P2(以下「被告P2」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 冨宅惠
同 西村啓


主文
1 被告会社及び被告P2は、原告P1に対し、連帯して、金210万6301円及びうち金200万円に対する平成25年8月13日から支払済みまで 年1割の割合による金員を支払え。
2 被告会社及び被告P2は、原告会社に対し、連帯して、金238万7000円及びこれに対する平成25年7月1日から支払済みまで年1割5分の割合による金員を支払え。
3 原告会社のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、甲事件については被告会社及び被告P2の負担とし、乙事件についてはこれを10分し、その3を原告会社の負担とし、その余を被告会社及び被告P2の負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 甲事件
 主文第1項同旨
2 乙事件
 被告会社及び被告P2(以下「被告ら」という。)は、原告会社に対し、連帯して、金344万3525円及びうち金338万1000円に対する平成25年8月15日から支払済みまで年1割5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
 本件は、原告P1が、被告会社に対し、消費貸借契約に基づく貸金の返還を、被告P2に対し、保証契約に基づく保証債務の履行(甲事件)を求め、原告会社が、被告会社に対し、請負代金債権を原債権とする債務弁済契約(準消費貸借契約)に基づく弁済金の支払を、被告P2に対し、保証契約に基づく保証債務の履行(乙事件)をそれぞれ求めている事案である。被告らは、@甲事件、乙事件双方の請求に対し、被告会社のプログラム著作権の侵害による損害賠償請求を、A乙事件の請求に対し、被告会社の業務委託契約に基づく委託金請求権を、それぞれ自働債権とする相殺の抗弁を主張している。
2 前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告会社は、コンピューターシステム及びソフトウェアの設計、開発等を目的とする株式会社であり、原告P1はその代表者である。
イ 被告会社は、コンピューターソフトウェアの企画、開発等を目的とする株式会社であり、被告P2はその代表者である。
(2) 消費貸借契約等(甲事件)
ア 消費貸借契約の締結
 原告P1は、平成25年1月31日、被告会社に対し、金200万円を次の約定で貸し付けた。
(ア) 弁済期 同年3月31日までに100万円
同年5月31日までに100万円
(イ) 利息 年10パーセント
イ 連帯保証契約
 被告P2は、同年1月31日、原告P1に対し、前記アの債務につき、書面をもって連帯保証をした。
(3) 債務弁済契約(準消費貸借契約)等(乙事件)
ア 原債権
 被告会社は、原告会社に対し、平成24年1月ころ締結した「デジサロ」なるインターネット予約システムプログラム開発に関する契約に基づき、338万1000円の支払義務を負った(契約の法的性質については争いがある。)。原告会社は、同年5月末までに、被告会社に対し、上記契約に基づく成果物を引き渡した。
イ 債務弁済契約
 原告会社は、平成25年3月1日、被告会社との間で、前記アの被告会社の原告会社に対する338万1000円の支払債務につき、弁済期を同年6月30日、遅延損害金年15%とする債務弁済契約を締結した。
ウ 連帯保証契約
 被告P2は、同年3月1日、原告に対し、前記イの債務につき書面をもって連帯保証した。
(4) 相殺の意思表示(当裁判所に顕著)
ア 被告会社は、平成25年10月28日に原告会社に対し、同年11月6日に原告P1に対し、被告会社の著作物の複製権、自動公衆送信権等侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権(少なくとも原告P1及び原告会社(以下単に「原告ら」という、)の請求額を超える額)を自働債権として、原告P1の被告会社に対する貸金請求権及び原告会社の被告会社に対する弁済金等請求権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。
イ 被告会社は、平成26年6月2日、原告会社に対し、業務委託未払金198万8000円の支払請求権を自働債権として、原告会社が被告会社に対して有する弁済金等請求権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。
第3 争点及び争点に対する当事者の主張
1 争点
(1) 被告会社の原告らに対する複製権侵害等の不法行為に基づく損害賠償請求権の有無及びその額
(2) 被告会社と原告会社との間の業務委託契約に基づく未払委託料請求権の有無及びその額
2 争点についての当事者の主張
(1) 争点(1)(不法行為に基づく損害賠償請求権の有無及びその額)について
【被告の主張】
ア 被告会社の著作物
 被告会社は、平成24年3月5日、株式会社楽天(以下「楽天」という。)から、楽天が運営する美容院予約・店舗管理システムである「楽天サロン」の制作の発注を受けた。楽天は、当初、予約システムのみを予定していたが、被告会社が、多くの美容院において店舗管理のデジタル化が行われていないことを指摘し、店舗管理システム「デジサロ」(以下「本件システム」という。)を加えるべきと提案したことから、前記発注となった。被告会社及び株式会社ナディアが美容院予約システムの制作を分担し、本件システムについては、被告会社が、画面デザイン、HTML及びシステムの全てを制作することになり、同年5月に本件システムを完成した。被告会社は、本件システムを制作するにあたり純粋な制作費として少なくとも2466万8326円を支払い、さらに顕在化していない開発費用、テレフォンセンター等の開設費等を加えると5000万円を超える費用を支払った。
 このように、被告会社は、本件システムを主体的に制作し、制作費を負担したもので、本件システムの著作物は、原始的に被告会社に帰属するものである。
 原告会社が、乙事件において請求するのは、システム制作に関係したP3の派遣費用であって、P3は、そもそも被告会社の指揮監督のもと、定められた作業を行っていただけであり、創作には一切関与しておらず、本件システムが被告会社に帰属することに何ら影響はない。
イ 侵害行為
 本件システムを前提とする楽天サロンの運営は、一旦開始されたものの短期間で頓挫してしまい、被告会社は、同運営に多額の資金を注ぎ込んでいたため資金繰りが厳しい状態となった。そこで、原告会社が、被告会社に対し、本件システムを使用した美容院店舗管理システムの事業化を提案したことから、原告会社と被告会社は、平成24年10月、「KOBAさんを救え!!プロジェクト」と銘打って、本件システムの事業化に着手した。原告会社と被告会社は、本件システムの名称を「view+point」(以下「ビューティーポイント」という。)とし、レイアウト等の変更を行い、原告会社が求める機能を実現するために改良を行うなどしたが、結局、被告会社が金銭的に継続困難となり、事業化計画を終了する旨を原告会社に伝えて終了した。これら改良を加えたシステムは、そもそも二次的著作物と評価されるようなものではなく、本件システムを複製あるいは翻案したものである。
 それにもかかわらず、原告会社は、被告会社が制作した本件システムを使用して顧客を集め、収益を得ており、かかる行為は、被告会社が有する本件システムの複製権、公衆送信権(公衆送信可能化権を含む)を侵害する不法行為であり、原告らの共同不法行為である。
 原告会社は、本件システムの複製を保有する権限がないにもかかわらず、平成26年1月31日までビューティーポイントを送信可能な状態に置いていただけでなく、現在においてもビューティーポイントを廃棄しておらず、これによる被告会社の損害が発生している。その損害は、著作権法114条3項に基づいて算定されるべきである。
 仮に、本件システムが著作物に該当しない場合、本件システム及びこれを改良したシステムは、被告会社が多額の費用を負担し時間を費やして完成させたシステムであり、他人に無断使用されないという法律上保護される利益を有するところ、原告らは、これを侵害している。
ウ 損害額
 イの不法行為により、被告会社が被った損害は、甲事件で原告P1が支払を求める200万円及びこれに対する年10%の割合の利息金、並びに乙事件で原告会社が支払を求める338万1000円及びこれに対する年15%の遅延損害金の額を遙かに上回る。
【原告の主張】
ア 被告会社の著作物
 原告会社は、平成24年1月ころ、被告会社から、「デジサロ」なるインターネット予約システムプログラム開発の発注を受け、納期を同年5月末日、代金を338万1000円(消費税込み)として、これを請け負った。原告会社の従業員であるP3が職務上開発し、原告が被告会社に納品した本件システムは、原告会社の創作によるものであり、その著作権は原告会社に帰属する。
 被告会社は、人材派遣を依頼しただけである旨主張するが、原告会社と被告会社とは、見積書、秘密保持契約書を作成するなどして請負契約を締結したものである。同契約に基づき、P3が自宅で本件システムを開発し、被告会社でテストや打合せ等を行うなどしていた。被告会社にP3専用の机はなく、勤怠管理も行われていなかった。
イ 侵害行為
 ビューティーポイントが、本件システムに改良を加えたものであるとの主張は否認する。
 原告会社は、被告会社と「KOBAさんを救え!!プロジェクト」と名付けた共同事業を立ち上げ、ビューティーポイントというクラウドコンピューティングで実現する美容室予約・店舗管理システムの開発を行った。ビューティーポイントとは、@クラウドコンピューティングによる美容室予約・店舗管理システムの提供、及びA同システムから収集した膨大な顧客データを利用した広告・マーケティング事業である。ビューティーポイントは、原告P1が平成24年6月に在籍中のベンチャービジネスのクラスで共同発表し高い評価を得た「IINA」なる事業計画を基礎とした事業であり、その内容は、IINAとほぼ同様であり、原告P1のアイデアである。
 ビューティーポイントの特徴は、多数ある予約サイトからの予約を店舗側で一括管理できるところにあるが、本件システムは、楽天専用の予約管理システムであり、このような特徴は備えていない。ただ、原告P1は、本件システムの楽天依存部分を改良すれば、ビューティーポイントに転用できる部分があると考え、被告会社から本件システムの提供を受け、共同事業としてビューティーポイントを開発しようと計画した。原告P1は、ビューティーポイント開発資金として1500万円を用意し、原告P1主導で開発を進め、被告会社に発注した部分については報酬として397万6000円を支払った。
 以上のとおり、ビューティーポイントは、デジサロの一部コードが残っているものの、デジサロとはシステムの構成が異なる全く別のシステムであり、デジサロの複製物や二次的著作物ではなく、原告会社と被告会社が共同で開発した共同著作物である(著作権法2条1項12号)。
 したがって、仮に原告らにおいてビューティーポイントを使用等したとしても、被告会社の著作物の複製権侵害等は成立しない。
ウ 損害について
 ビューティーポイントについては、契約実績はゼロであり、収益はゼロである。原告会社は、平成25年11月1日をもって、ビューティーポイントにつき開発及び営業その他一切の事業を中止した。
 したがって、被告会社に損害は発生しておらず、被告らが主張する不法行為に基づく損害賠償請求権は、存在しない。
(2) 争点(2)(業務委託契約に基づく委託料請求権の有無)について
【被告の主張】
ア 業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)
 原告会社は、平成25年1月、被告会社に対し、ビューティーポイントの端末において視認可能な画面デザインを変更するなどの業務を、業務量とは関係なく、月額99万4000円(15日締め、当月末日払い。内訳:P2 36万円、P4 24万円、P5 14万4000円、 P6 28万円。ただし、合計額と月額とは異なる。)の委託料にて、期間の定めなく委託し、被告会社はこれを受けた。
イ 未払委託料
 被告会社は、平成25年1月12日から同年7月10日まで、原告会社が求める作業を行った。
 原告会社は、平成25年2月から同年5月までの委託料を支払ったが、被告会社が同年5月15日から同年7月10日まで作業を行っているにもかかわらず、被告会社に対して同年6月及び7月末日に支払うべき業務委託費の支払いをしない。
 したがって、被告会社は、原告会社に対し、2か月分の未払委託料198万8000円の支払請求権を有する。
【原告の主張】
ア 本件業務委託契約について
 原告会社が、被告会社にビューティーポイントの開発を依頼した部分については報酬を支払うことになったことは、認める。ただし、報酬金額は、被告P2を含めた被告会社の従業員が1日8時間毎月15日間作業するという条件で月99万4000円(内訳:@被告P2 25万円(固定)、AP4 2000円×8時間×15日間=24万円、BP6 3000円×8時間×15日間=36万円、CP5  1200円×8時間×15日間=14万4000円)と定めた。
イ 未払委託料について
 原告P1は、平成25年5月、被告P2に対し、被告会社が原告P1の指示通りの開発ができないこと等から、開発依頼を中止し、今後は報酬を支払わない旨通知した。被告P2は、そうであればこの事業に参加する意味がないとして、被告会社は、同月、共同事業から脱退した。原告会社と被告会社との間で、報酬支払が、同月分までであることについての合意が成立している。被告会社は、乙事件で相殺を主張するまで、原告らに対し報酬を請求したことは一度もない。
 被告会社は、ソースコード反映ログにより作業を行った旨主張するが、平成25年6月は5日しか作業を行っておらず、既に原告からの開発指示が止まっていたことを推認させる。
 原告会社は、被告会社に対し、平成25年2月から同年5月まで月99万4000円、合計397万6000円の報酬を支払っており、未払委託料は存在しない。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる(以下、証拠は、特に記載の限り、併合前の甲事件及び併合後に提出された証拠番号を示す。)。
(1) 被告会社の楽天との契約等
 被告会社は、原告会社に対し、平成23年12月30日付の秘密保持契約書を締結し、平成24年1月ころ、美容室の予約管理システムである「デジサロ」の「予約表」及び「顧客管理機能」部分のシステム開発を依頼し、原告会社は、同年2月9日、被告会社に対し、予約管理システムの構築等を103万円と84万円で受ける旨の見積書を交付し、被告会社の都合で費用が増大した場合は別途請求する旨の文書を付した。その後、原告会社の従業員であるP3がこれに従事し、原告会社は、同年5月末までに、被告会社に対し、成果物を引き渡した(甲7、14ないし17、21)。
 被告会社は、平成24年3月5日、楽天との間で、「楽天サロン」(楽天が運営する美容室予約・店舗管理システム)に関する業務を、楽天が被告会社に継続して委託することについての、委託基本契約を締結した(乙1)。
 原告会社は、被告会社に対し、同年5月31日付けで、同年2月から5月分の「デジサロ」構築作業の第1回請求分として136万5000円、同年7月31日付けで、同作業第2回分として136万5000円、同年6月分の「デジサロ」改修作業として63万円、同年7月分の「デジサロ」改修作業として2万1000円の請求書(いずれも消費税込み、翌々月末日払の請求)を発行した(甲1の1ないし4)。
 被告会社は、楽天サロンの運営のため、コールセンター等を設置したものの、楽天が、数か月で楽天サロンの運営を中止したため、被告会社は、資金難に陥り、原告会社が請求した上記代金が支払えなかった(乙4、17)。
(2) 原告会社と被告会社との共同事業等
ア 原告P1は、被告P2から資金難についての相談を受け、被告会社の資金難を克服させることにより、上記代金を回収することを期待して、平成24年10月ころ、「KOBAさんを救え!!プロジェクト」と題する原告会社と被告会社との共同事業を計画し、「デジサロ」を利用して、ビューティーポイントというクラウド型サロン管理システムを共同して制作することとした(甲13、21、乙5、6)。
 ビューティーポイントの制作にあたり、原告会社と被告会社は、システムを導入した美容室が、複数のサイトからの予約を店舗側で一括管理できるという特徴を持つビューティーポイントのビジネスモデルについての機密保持につき合意した(甲7、21)。
イ 原告P1は、被告会社から本件システムの提供を受け、これに機能を追加することで、ビューティーポイントのサービスを平成25年内に開始しようと考え、このころ、被告会社に対し、ビューティーポイントの追加機能の開発を依頼し、毎月の16日から当月の15日まで行った作業につき、原告会社は、毎月月末に99万4000円を支払う旨の本件業務委託契約を締結した(甲21、乙17)。
 原告P1は、被告P2の依頼により、前記第2の2(2)記載のとおり、平成25年1月31日、被告会社に金200万円を貸し付け、被告P2は、被告会社のために連帯保証した。
 被告会社は、平成25年1月12日以降、ビューティーポイント開発のための作業を行い、原告P1は、その費用として1500万円を調達して、同年2月28日、ビューティーポイント事業のために新たに開設した原告会社名義の銀行口座に入金し、原告会社は、同日、前記口座より、被告会社に99万4000円を支払った(甲8、21、乙9)。
 被告会社は、平成25年3月1日、前記第2の2(3)記載のとおり、原告会社との間で、前記(1)記載の請求額合計338万1000円についての債務弁済契約を締結し、被告P2は、被告会社のために連帯保証した。
 原告会社は、本件業務委託契約に基づく報酬として、被告会社に対し、平成25年3月29日、4月30日及び5月31日に各99万4000円(同年2月28日からの合計397万6000円)を支払った(甲8)。
ウ 原告P1は、ビューティーポイントの開発や営業が順調でない等の理由で、平成25年5月ころ、被告P2に対し、今後、本件業務委託契約に基づく報酬は支払わない旨を述べた。被告会社は、ビューティーポイントについてレイアウトの変更や連携の調整等の作業を行い、これをソースコードに反映させていたが、同年6月7日以降一旦作業を中断し、その後同年7月1日に1度更新するまで作業はなく、同月4日に2回、及び10日に3回、ファイルを削除するなどの作業を行うにとどまった(甲8、13、乙9、17)。
エ 被告P2は、同年6月26日、自身の顧問弁護士に対し、被告会社との共同事業から抜けることとし、原告P1から、ビューティーポイントのビジネスモデルを真似しないように求められ、それに同意したこと、また、同趣旨の同意書案を送付されたので、その内容を確認して欲しいことを内容とするメールを送信し、原告P1にも同文を送信した(甲9、18)。
オ 原告会社は、ビューティーポイントについて、平成25年11月1日ころ、開発及び営業その他の一切の事業を中止した(甲19ないし21)。
2 判断
(1) 争点(1)(被告会社の原告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権の有無及びその額)について
 被告会社は、本件システムが被告会社の著作物であることを前提に、本件システムを複製あるいは翻案したビューティーポイントを、原告らが被告会社の同意なく使用しているとして不法行為が成立する旨主張する。
 前記認定事実に加え、被告会社が、本件システムの開発のために、原告会社以外にも880万円以上の支払を行った事実が認められること(甲22、乙18)を考慮すると、本件システムの開発の主体は被告会社であり、特段の事情のない限り、その権利は被告会社に帰属すると考えられる反面、前記第2の2(3)アの原債権は、請負報酬であると考えられる。
 他方、本件システムとビューティーポイントとの関係は、本件証拠上明らかではないが、前記認定事実によれば、ビューティーポイントの開発主体は原告会社と認められるものの、その開発が、本件システムに機能を追加する形で行われたこと、原告らが、ビューティーポイントは被告会社と原告会社との共同著作物である旨を陳述していることからすると、ビューティーポイントに関しては、被告会社の同意なしに、原告会社がこれを単独で行使することはできないと解する余地がある(著作権法65条2項)。
 前記認定事実によれば、原告会社との共同事業としてのビューティーポイントの事業から被告会社が脱退を表明した平成25年6月以降も、原告会社はその営業活動を継続していたようであるが、原告会社が、美容院等にビューティーポイントの使用を許諾して、何らかの利益を得たと認めるに足る証拠はないことから、ビューティーポイントの著作権の帰属にかかわりなく、原告らの共同不法行為により、被告会社が何らかの損害を被ったと認めることはできない。
 そうすると、被告会社が、原告らに対し、複製権侵害等の共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有するとは認められず、これを理由とする相殺の主張は失当であり、原告P1の甲事件における請求は理由があることになる。
(2) 争点(2)(被告会社と原告会社との間の本件業務委託契約に基づく未払委託料の有無及びその額)について
 前記認定事実によれば、被告会社と原告会社との間において、ビューティーポイントに関する作業のために、本件業務委託契約が締結され、前月の16日から当月の15日までの作業につき、毎月末日に99万4000円の定額の報酬を支払うという合意が成立したと認められる。原告らは、毎日8時間1月15日間の作業に対する作業者ごとの時給等から算出された報酬額が合意された旨主張するが、被告の従業員等に対する支払額と異なる部分があること(甲22、23)、実際の作業日が15日に達せずとも報酬が支払われている期間もあること(乙9)等からすれば、採用できない。
 前記認定事実によれば、被告P2が顧問弁護士に連絡した平成25年6月26日ころには、既に被告会社が共同事業から抜けることは確定していたと解され、被告会社も、同月7日の作業の後、同年7月1日に更新されるまで何の作業も行っていなかったことからすれば、本件業務委託契約は、同年6月7日の作業以降には終了していたものと推認される。同年7月にソースコードに多少の変更が加えられているが、同年6月に被告P2が共同事業からの脱退を決めた後であること、またその回数がわずかであることから、同年6月7日以降の作業については、本件業務委託契約による報酬を発生させるには足りない。
 原告らは、被告会社が本件訴訟に至るまで委託料の請求をしておらず、同年6月ころに作成し提出した資金計画表によれば、従前作成した計画表に入っていた原告会社からの業務委託料の収入予定がなくなっている旨を指摘するが(甲22、23)、同月7日までの前記作業が行われる以前に、本件業務委託契約が終了していたと認めるに足りる証拠はない。
 結局のところ、同年5月31日の99万4000円の前記支払は、同月15日までの被告会社の作業に対するものである以上、被告会社が同年5月20日から同年6月7日に行った作業については(乙9)、本件業務委託契約に基づき、1か月分の委託料請求権が発生するものというべきであり、原告会社と被告会社において、その支払が不要である旨の合意が成立したと認めるべき証拠は存在しない。
 そうすると、被告会社は、原告会社に対し、6月末を支払期とする99万4000円の委託料請求権を有するというべきである。
(3) 乙事件の請求について
 被告会社の原告会社に対する未払委託料99万4000円の請求権は平成25年6月30日を支払日とするもので、同じく同日を支払日とする原告会社の被告会社に対する債務弁済契約に基づく338万1000円の支払請求権につき同日の経過により相殺適状となる。したがって、被告会社の原告会社に対する相殺の意思表示により、原告会社の被告会社に対する支払請求権元本は、未払委託料99万4000円を差し引いた238万7000円となる。
第5 結論
 以上の次第で、被告らに対し、連帯して、210万6301円及びうち200万円に対する平成25年8月13日から支払済みまで年1割の割合による金員の支払を求める甲事件における原告P1の請求は理由があり、また、乙事件における原告会社の請求は、被告らに対し、連帯して、238万7000円及びこれに対する平成25年7月1日から支払済みまで年1割5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条本文及び65条1項本文を、仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 谷有恒
 裁判官 田原美奈子
 裁判官 松阿彌隆
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日本ユニ著作権センター
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